説明

ラック及びその製造方法

【課題】ラック歯10の幅寸法、強度、剛性を、何れも十分に確保でき、しかも軽量な構造及びその製造方法を実現する。
【解決手段】断面円形のロッド部9の軸方向一部の径方向片側面にラック歯10を、塑性加工により形成する。又、このラック歯10を形成した部分から周方向に外れた部分の断面形状の曲率半径を、上記ロッド部9の軸方向残部の外周面の断面形状の曲率半径よりも大きくする。この為に、(A)→(B)に示す様に、素材13の軸方向の一部で且つ円周方向の一部を押し潰しつつ、この軸方向の一部で且つ円周方向の残部を、上記素材13の外周面よりも大きな曲率半径を有する部分円筒面部17を形成して中間素材20とする。そして、(C)→(D)に示す様に、この中間素材20のうちの上記軸方向一部で上記円周方向の一部に上記ラック歯10を形成する。最後に、(E)→(F)に示す様に、サイジングを施して、ラック8とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば自動車用操舵装置を構成するステアリングギヤに組み込み、軸方向の変位に伴ってタイロッドを押し引きするラックの構造及びその製造方法の改良に関する。具体的には、十分な剛性及び強度を有するラックを、低コストで得られる構造及びその製造方法を実現する事を目的としている。
【背景技術】
【0002】
例えば図30に示す様な自動車の操舵輪(フォークリフト等の特殊車両を除き、一般的には前輪)に舵角を付与する為の操舵装置では、ステアリングホイール1の操作に伴って回転するステアリングシャフト2の動きを、自在継手3、3及び中間シャフト4を介して、ステアリングギヤ5の入力軸6に伝達する。このステアリングギヤ5は、この入力軸6により回転駆動されるピニオンと、このピニオンと噛合したラックとを備える。上記入力軸6と共にこのピニオンが回転すると、このラックが軸方向に変位し、その両端部に結合した1対のタイロッド7、7を押し引きし、上記操舵輪に所望の舵角を付与する。
【0003】
上述の様なステアリングギヤ用のラックを、素材に削り加工を施してラック歯を形成する、切削加工により造ると、製造コストが嵩む割合に、このラック歯の強度及び剛性を確保しにくい。これに対して、素材を塑性変形させてラック歯を加工すれば、このラック歯の加工に要する時間を短縮して、製造コストを低減でき、しかも、得られるラック歯の金属組織が緻密になる為、このラック歯の強度及び剛性を確保し易い。この様に、ラック歯を塑性変形により加工したラック及びその製造方法に関する発明として従来から、特許文献1〜4に記載された発明が知られている。
【0004】
このうちの特許文献1、2には、円杆状の素材を、1対の金型同士の間で強く挟持し、この素材の一部外周面に、このうちの一方の金型に設けた凹凸形状を転写して、ラック歯とする、ラックの製造方法に関する発明が記載されている。ラック歯を形成する事に伴って生じた(ラック歯のうちの凹部となるべき部分から押し出された)余肉は、上記両金型同士の間で、ラックの本体部分から側方に、バリ状に突出させ、後から除去する。
【0005】
この様な特許文献1、2に記載された従来技術の場合、余肉をラックの本体部分から側方に突出させる為、このラックを押圧する1対の金型に生じる応力が高くなり、これら両金型の寿命確保が難しい。しかも、上記本体部分から側方にバリ状に突出した余肉を除去する工程が必要になり、製造コストが嵩む事が避けられない。更には、上述の様に上記両金型に大きな応力が加わる様な加工でありながら、上記一方の金型に設けた凹凸形状を上記素材に確実に転写する為に、この転写を含む塑性加工を、熱間鍛造又は温間鍛造により行なう必要がある。熱間鍛造にしろ、温間鍛造にしろ、加工時に金型が温度上昇に基づいて熱膨張するが、この熱膨張量を正確に規制する事は難しい為、得られるラック歯の精度を十分に確保する事が難しい。
【0006】
上述の様な不都合を解決する為に上記特許文献3には、円杆状の素材のうちで、ラック歯を形成すべき部分の背面側に凹部を形成しておき、ラック歯を形成する事に伴って生じた余肉をこの凹部に逃がす、ラックの製造方法に関する発明が記載されている。
この様な特許文献3に記載された従来技術の場合、上記特許文献1、2に記載された従来技術を実施する場合に生じる不都合がない代わりに、上記凹部の加工が必要になり、やはり製造作業が面倒で、製造コストが嵩む事が避けられない。特に、上記凹部は、スエージング加工、旋盤加工等で加工する為、凹部の加工から、次に行なうラックの加工作業に円滑に移行する事(連続でその後の加工をする事)が難しい。この事は、やはり製造コストを高くする原因となる。更には、ラック歯を形成した部分から軸方向に外れた、あまり強度を必要としない部分の外径が、強度を必要とする、このラック歯を形成する為に必要とされる素材の直径のままになる為、ラック全体としての重量が徒に嵩み易い。
【0007】
更に、特許文献4には、中空円管状の素材を幅方向に押し広げ、この押し広げた部分にラック歯を形成する、ラックの製造方法に関する発明が記載されている。
この様な特許文献4に記載された従来技術の場合には、ラック歯の幅寸法を大きくすべく、上記中空円管状の素材を幅方向に押し広げる分だけ、このラック歯の歯底部分の肉厚が小さく(薄く)なり易い。この為、ラックのうちで、このラック歯が形成された部分の強度を十分に確保する事が難しい。
【0008】
【特許文献1】特開平10−58081号公報
【特許文献2】特開2001−79639号公報
【特許文献3】特許第3442298号公報
【特許文献4】特開2006−103644号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上述の様な事情に鑑みて、ラック歯の幅寸法、強度、剛性を、何れも十分に確保でき、しかも軽量な構造及びその製造方法を、低コストで実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の対象となるラックは、金属材製で、少なくとも軸方向の一部が中実材である断面円形のロッド部と、このロッド部の軸方向一部で中実材である部分の径方向片側面に塑性加工により形成されたラック歯とを備える。
特に、本発明のうち、特許請求の範囲の請求項1に記載した発明に係るラックの場合には、上記軸方向一部で中実材である部分の外周面のうち、このラック歯を形成した部分から周方向に外れた部分の断面形状の曲率半径が、上記ロッド部の軸方向残部の外周面の断面形状の曲率半径よりも大きい。
【0011】
この様な請求項1に記載した発明を実施する場合に、上記ロッド部のうちで、少なくとも上記ラック歯を形成する部分は空洞のない中実材である事が必要であるが、この部分が一体構造であるか組み合わせ構造であるかは問わない。
例えば、特許請求の範囲の請求項2に記載した発明の様に、上記ロッド部を、全長に亙り、外周面から中心部迄同種金属材により一体に造られたものであっても良い。
或いは、特許請求の範囲の請求項3に記載した発明の様に、上記ロッド部を、第一種の金属材により管状に造られた外層体と、第二種の金属材により杆状に造られて、この外層体に密に内嵌固定された内層体とから成るものであっても良い。
更に、この様な請求項3に記載した発明を実施する場合に、特許請求の範囲の請求項4に記載した発明の様に、上記外層体内に上記内層体を、外周面にラック歯を形成すべき軸方向一部にのみ内嵌固定しても良い。
【0012】
又、特許請求の範囲の請求項5に記載したラックの製造方法では、前記請求項1に記載した発明に係るラックを造るのに、上記ロッド部となるべき円杆状の素材の軸方向の一部に、この軸方向の一部で且つ円周方向の一部を押し潰しつつ、この軸方向の一部で且つ円周方向の残部に、上記素材の外周面の曲率半径よりも大きな曲率半径を有する部分円筒面を形成する第一の塑性加工を施して、中間素材とする。そして、この中間素材のうちの上記軸方向一部で上記円周方向の一部に上記ラック歯を、第二の塑性加工により形成する。
【0013】
この様な請求項5に記載した発明を実施する場合に、例えば特許請求の範囲の請求項6に記載した発明の様に、上記第一の塑性加工を据え込み加工とする。そして、この据え込み加工では、上記素材の軸方向一部を径方向に押し潰す事により、この軸方向一部の外周面のうちでラック歯を形成すべき部分を平面部とする。又、この平面部から外れた残り部分を、断面形状の曲率半径が上記素材の外周面の断面形状の曲率半径よりも大きい、部分円筒面とする。
【0014】
この様な請求項6に記載した発明を実施する場合に、例えば特許請求の範囲の請求項7に記載した発明の様に、上記第二の塑性加工をプレス加工とする。そして、このプレス加工では、ダイスの保持孔により、中間素材の軸方向一部で平面部から外れた残り部分を支承しつつ、形成すべきラック歯に見合う凹凸形状を有する歯成形用パンチを上記平面部に押圧する事により、この平面部にラック歯を形成する。
【0015】
又、この様な請求項7に記載した発明を実施する場合に、例えば特許請求の範囲の請求項8に記載した発明の様に、上記ダイスの保持孔の内面同士の間隔を、平面部の幅方向に関する中間素材の外径よりも小さくする。そして、歯成形用パンチによりこの中間素材を上記保持孔に押し込み、この中間素材の幅方向両端部分の金属材料を上記平面部に移動させつつ、この平面部にラック歯を形成する。
【0016】
又、上述の様な請求項5〜8に記載した発明を実施する場合に、例えば特許請求の範囲の請求項9に記載した発明の様に、上記第二の塑性加工を複数段階に分けて行なう。そして、先ず、得るべきラック歯の圧力角よりも小さな圧力角に見合う形状の歯成形用パンチにより、素ラック歯を形成する。その後、得るべきラック歯の圧力角に見合う形状の歯仕上用パンチをこの素ラック歯に押し付ける。
【0017】
又、上述の様な請求項9に記載した発明を実施する場合に好ましくは、請求項10に記載した様に、上記素ラック歯を形成してから、少なくともこの素ラック歯の幅方向両端部の歯元部乃至歯先部の端縁部の断面形状の曲率半径を大きくする塑性加工を行なう。その後、上記歯仕上用パンチを上記素ラック歯に押し付けて、この素ラック歯を上記ラック歯に加工する。
この様な請求項10に記載した発明を実施する場合に好ましくは、請求項11に記載した様に、上記塑性加工により素ラック歯の幅方向両端部の歯元部乃至歯先部の端縁部の断面形状の曲率半径を、完成後のラック歯の幅方向両端部の歯元部乃至歯先部の端縁部の断面形状の曲率半径よりも大きくしておく。
【0018】
又、上述の様な請求項10〜11に記載した発明を実施する場合に好ましくは、請求項12に記載した様に、上記第二の塑性加工の前段階(この第二の塑性加工のうちの初期段階乃至前半部の意味。第二の塑性加工に先立って行なう加工の意味ではない。)で、上記素ラック歯を形成すると共に、この素ラック歯の両側部分に1対の逃げ平坦面部を形成する。その後、これら両逃げ平坦面部を1対の金型同士の間部分に位置させた状態で、上記素ラック歯の基部の断面形状の曲率半径を大きくする塑性加工を行なう。そして、この塑性加工に伴って移動する金属材料を上記両逃げ平坦面部に止めて、部分円筒面を延長した仮想円筒面よりも余肉が径方向外方に突出する事を防止する。
【0019】
又、上述の様な請求項5〜12に記載した発明を実施する場合に、例えば特許請求の範囲の請求項13に記載した発明の様に、上記第二の塑性加工の後、上記ラック歯の形状を整えるサイジングを施す。
更に、上述の様な請求項13に記載した発明を実施する場合に、例えば特許請求の範囲の請求項14に記載した発明の様に、上記第二の塑性加工によりラック歯を形成すると共にこのラック歯の両側部分に1対の逃げ平坦面部を形成する。その後、このラック歯の精度を向上させる為のサイジングを行ない、このサイジングに伴って移動する金属材料を上記両逃げ平坦面部に止めて、部分円筒面を延長した仮想円筒面よりも余肉が径方向外方に突出する事を防止する。上記両逃げ平坦面部は、例えば請求項15に記載した様に、互いに平行とする。
【0020】
又、以上に述べた請求項5〜15に記載した発明を実施する場合に、例えば特許請求の範囲の請求項16に記載した様に、前記第一の塑性加工前に、素材をダイスに通過させる事により、この素材の外径を軸方向一部を除いて縮める、扱き加工を施す。そして、軸方向一部の外径が軸方向残部の外径よりも大きな予備中間素材とし、この予備中間素材に上記第一の塑性加工を施す。
或いは、特許請求の範囲の請求項17に記載した様に、前記第一の塑性加工後、上記第二の塑性加工前に、中間素材をダイスに通過させる事により、この中間素材の外径を軸方向一部を除いて縮める、扱き加工を施す。そして、軸方向一部の外径が軸方向残部の外径よりも大きな第二の中間素材とし、この第二の中間素材に第二の塑性加工を施す。
【発明の効果】
【0021】
上述の様に構成する、本発明のラック及びその製造方法によれば、ラック歯の幅寸法、強度、剛性を、何れも十分に確保でき、しかもこのラック歯を形成した部分以外の外径が必要以上に大きくならずに軽量なラックを、低コストで得られる。
先ず、ラック歯の幅寸法を確保する事は、ロッド部の軸方向の一部でラック歯を形成すべき部分の幅を、このロッド部の軸方向残部の外径よりも大きくする事で図れる。又、強度及び剛性の確保は、このロッド部を中実材製とする事で図れる。即ち、上記ロッド部の軸方向の一部でラック歯を形成すべき部分は、素材を押し潰しつつ幅寸法を広げながら、このラック歯を形成すべき部分から周方向に外れた部分の断面形状の曲率半径を、上記素材の外周面の曲率半径よりも大きくする。この為、この素材の外径の割合に大きな幅寸法を有するラック歯を形成できる。このラック歯を形成した部分は、前述の特許文献4に記載された従来技術の様に、中空円管状の素材を幅方向に押し広げた部分に形成したラック歯とは異なり、十分に肉厚を確保できる。そして、幅寸法を大きくした分、更にはラック歯を形成した部分から周方向に外れた部分の断面形状の曲率半径を大きくした分、このラック歯部分の強度及び剛性を向上させる事ができる。
又、上記ラック歯を形成した部分以外の外径が必要以上に大きくならずに軽量なラックを得られる事は、このラック歯の幅寸法を確保する場合でも、上記ロッド部の軸方向残部の外径を小さく抑えられる事で図れる。
【0022】
更に、低コストで得られる(製造コストを抑えられる)事は、上記ラック歯を塑性加工により形成するに関し、簡単な前加工を行なうだけで、余肉がバリとなって径方向外方に突出する事を防止でき、加工荷重を抑えると共に、余肉除去の為の後処理を不要にする事で図れる。即ち、上記ラック歯を形成する、上記ロッド部の軸方向の一部で、このラック歯を形成する部分は、元々はこの軸方向残部と同じ断面積を有する断面円形の部分を押し潰し、上記ラック歯を形成すべき部分を平坦にする事で、幅寸法を、軸方向残部の外径よりも大きくしている。従って、上記ラック歯を形成する以前の状態で、上記ロッド部の軸方向の一部の断面積は、上記軸方向残部の断面積とほぼ等しい。従って、上記ラック歯を形成すべき、上記ロッド部の軸方向の一部に存在する素材の体積を適正に抑えられて、上記ラック歯の加工に伴って余肉が径方向に突出する事はない。上記ラック歯を形成する為の第二の塑性加工時に於ける金属材料の移動は、このラック歯の歯底部分から歯先部分への移動が主である。この為、このラック歯を形成する為の加工荷重を低く抑えられて、熱間加工や温間加工に比べて精度確保が容易な、冷間加工により、上記ラック歯を加工できる。
【0023】
又、請求項3に記載した発明の様に、ロッド部を外層体と内層体との二重構造にすれば、上記ラック歯の強度確保とラック全体の軽量化とを、より十分に図る事が可能になる。例えば、上記外層体を、炭素鋼、ステンレス鋼の如き鉄系合金の様な、強度及び耐摩耗性を確保し易い金属材料製とし、上記内層体を、アルミニウム合金等の、塑性変形し易く軽量な金属材料製とすれば、上記強度確保と軽量化とを両立させる事ができる。上記外層体の厚さは、上記ラック歯及びラック全体の強度及び耐摩耗性を確保できる限り小さく(薄く)できる。そして、上記外層体を薄くできる分、上記内層体の割合を増やして、ラック全体をより一層軽量化できる。特に、請求項4に記載した様に、上記外層体内に上記内層体を、外周面にラック歯を形成すべき軸方向一部にのみ内嵌固定すれば、上記軽量化を、更に図る事ができる。
【0024】
又、請求項5に記載した本発明の製造方法の場合には、総ての加工工程を、金型内部が金属材料により完全に充満されない状態で行なえる。言い換えれば、全工程を、所謂密封成形とせずに実施でき、各工程で被加工物から各金型に加わる反力、延ては、これら各金型に生じる応力を低く抑えられて、これら各金型の耐久性を向上させ、この面からのコスト低減も図れる。又、これら各金型の構造を単純にでき、汎用的なプレス設備で成形する事ができる。しかも、上記各金型に生じる応力を低く抑えられる為、冷間鍛造で成形する事が可能となり、これら各金型の寸法変化を抑えられる為、熱間鍛造や温間鍛造により加工する場合に比べて、得られるラックの精度を向上する事ができる。特に、請求項6〜8に記載した発明によれば、このラックを、十分に低コストで、しかも精度良く造れる。
【0025】
又、請求項9〜15に記載した発明の様に、サイジング或は複数段階成形によりラック歯の形状を整えれば、このラック歯をより高精度に加工できる。このうちの複数段成形を行なう場合に、請求項10に記載した発明の様に、素ラック歯をラック歯に加工する途中で、この素ラック歯の幅方向両端部の歯元部乃至歯先部の端縁部を塑性変形させれば、得られるラック歯の形状精度をより向上させられる他、各工程で必要になる加工荷重の低減を図れる。又、複数段成形或いはサイジングを行なう場合に、請求項12、14に記載した発明の様に、複数段成形或いはサイジングに伴って移動する金属材料を1対の逃げ平坦面部に止めれば、これら複数段成形或いはサイジングに関しても、密封成形とせずに実施できる。そして、これら複数段成形或いはサイジングに伴って金型に生じる応力を低く抑えられて、この金型の耐久性を向上させる事ができる。
【0026】
又、請求項16、17に記載した発明の様に、素材又は中間素材に扱き加工を施す事で、ラック歯を形成した部分から軸方向に外れた部分の直径をより小さくして、ラック全体をより軽量にできる。又、塑性加工の一種である上記扱き加工は、前述した特許文献3に記載された従来技術の場合に必要となる、スエージング加工、旋盤加工等の削り加工とは異なり、ラック歯を形成する為等に行なう、他の塑性加工との繋がりを段取り良く行なえる。従って、ラック全体としての製造工程を能率良く行なえる為、上記扱き加工を行なう事に伴う、ラックの製造コストの上昇を、僅少に抑えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
[実施の形態の第1例]
図1〜8は、請求項1、2、5〜7、9、13〜15に対応する、本発明の実施の形態の第1例を示している。先ず、本例のラック8の構造に就いて、図1〜4により説明する。尚、以下の説明で、各面の曲率半径に就いては、特に断らない限り、各面の断面形状の曲率半径の事を指す。
上記ラック8は、炭素鋼、ステンレス鋼等の金属材製で、中実材である断面円形のロッド部9と、このロッド部9の軸方向一部(図1〜3の左部)の径方向片側面に、塑性加工により形成されたラック歯10とを備える。本例の場合、上記ロッド部9は、全長に亙り、外周面から中心部迄同種金属材により一体に造られている。又、このロッド部9のうちの上記軸方向一部で、上記ラック歯10を形成した部分から周方向に外れた背面部分11の断面形状の曲率半径R11(図4参照)が、上記ロッド部9の軸方向残部である、円杆部12の外周面の曲率半径r12(図4参照)よりも大きく(R11>r12)なっている。このうち、上記円杆部12の外周面の曲率半径r12が、元々の素材の外周面の曲率半径に一致している。従って、上記背面部分11の曲率半径R11は、この素材の外周面の曲率半径よりも大きくなっている。そして、その分、上記ラック歯10の幅寸法W10を(単に上記素材の外周面にラック歯を形成する場合に比べて)大きくしている。
【0028】
次に、上述の様なラック8の製造方法に就いて、図5〜8により説明する。
先ず、図5の(A)に示す様に、炭素鋼、ステンレス鋼等の金属材製で円杆状の素材13を、受型14の上面に設けた、断面円弧形の凹溝部15内にセット(載置)する。この凹溝部15の内面の曲率半径R15は、上記背面部分11の曲率半径R11(図4参照)とほぼ(加工力解除に伴うスプリングバック分を除き)一致(R15≒R11)している。
【0029】
次いで、図5の(B)に示す様に、上記凹溝部15に沿って長い押圧パンチ16の先端面(下端面)により上記素材13をこの凹溝部15に向けて強く押圧する、据え込み加工を行なう。上記押圧パンチ16の先端面の形状は、一般的には平坦面とする。但し、上記凹溝部15の幅方向(図5の左右方向)に関して、曲率半径が大きな凹曲面としたり、幅方向両端部が上記受型14に向けて直線的若しくは曲線的に突出する、(据え込み加工後の形状の上端部を抱き込む様な)凹形状とする事もできる。何れにしても、上記図5の(B)に示した据え込み加工では、上記素材13の軸方向一部でラック歯10(図1〜4参照)を形成すべき部分を、上下方向に押し潰すと共に、水平方向の幅寸法を拡げて、中間素材20とする。この中間素材20は、上記部分の外周面に、上記背面部分11(図1、3、4参照)となるべき部分円筒面部17と、断面の径方向に関してこの部分円筒面部17と反対側に存在する平坦面部18と、これら両面部17、18同士を連続させる、曲率半径が比較的小さい、1対の曲面部19、19とを備える。
【0030】
次いで、この中間素材20を、上記受型14の凹溝部15から取り出して、図5の(C)に示す様に、ダイス21に設けた保持孔22の底部に挿入(セット)する。この保持孔22は、U字形の断面形状を有し、底部23の曲率半径は、前記受型14の凹溝部15の内面の曲率半径R15と、ほぼ一致している。又、両内側面24、24は、互いに平行な平面としている。更に、上端開口部には、上方に向かう程互いの間隔が拡がる方向に傾斜した、1対のガイド傾斜面部25、25を設けている。
【0031】
上記中間素材20を、上記ダイス21の保持孔22にセットしたならば、次いで、図5の(C)→(D)に示す様に、この保持孔22内に歯成形用パンチ26を挿入し、この歯成形用パンチ26により、上記中間素材20を上記保持孔22内に強く押し込む。この歯成形用パンチ26の下面には、得るべきラック歯に見合う形状の、成形用の波形凹凸を設けている。又、上記中間素材20は、上記保持孔22の内面により、上記ラック歯を形成すべき上記平坦面部18を除き、拘束されている。この為、上記歯成形用パンチ26により上記中間素材20を上記保持孔22内に強く押し込む事で、この中間素材20のうちの平坦面部18が、上記波形凹凸に倣って塑性変形し、図5の(D)及び図6の(A)に示す様なラック歯10を有する、素ラック27に加工される。但し、この状態での素ラック27は、完成状態のラック8(図1〜4参照)に比べて、形状精度及び寸法精度が不十分であり、上記ラック歯10の端縁も尖ったままである。又、このラック歯10の加工に伴って(歯底となるべき部分から)押し出された余肉は、上記保持孔22の両内側面24、24に強く押し付けられる為、上記素ラック27の左右両側面には、互いに平行な逃げ平坦面部28、28が形成される。
【0032】
そこで、上記歯成形用パンチ26を上昇させてから、上記素ラック27を上記保持孔22から取り出し、図5の(E)に示す様に、サイジング用ダイス29の上面に形成したサイジング用凹凸面部30に載置する。この際、上記素ラック27を上下反転させる。このサイジング用凹凸面部30は、歯の端縁の面取り部を含め、得るべきラック歯10の形状に見合う(完成後の形状に対して凹凸が反転した)形状を有する。そこで、押型31により、図5の(E)→(F)に示す様に、上記素ラック27のラック歯10を形成した部分を、上記サイジング用凹凸面部30に向け、強く押し付ける。
【0033】
上記押型31の下面には、造るべきラック8の背面部分11の曲率半径R11(図4参照)に一致する曲率半径を有する押し凹溝32を形成しており、上記素ラック27は、上記背面部分11となるベき部分をこの押し凹溝32に嵌合させた状態で、上記サイジング用凹凸面部30に向け強く押圧される。この為、上記図5の(F)に示した、上記サイジング用ダイス29と上記押型31とを十分に近づけた状態で、上記ラック歯10が、図6の(B)に示した完成後の状態(形状及び寸法が適正になり、各歯の端縁に面取りが設けられた状態)になると同時に、上記背面部分11に関しても、形状及び寸法が適正になる。尚、この様にして行なうサイジングに伴って押し出された余肉は、上記両逃げ平坦面28、28部分に集まる。従って、完成後のラック8には、これら両逃げ平坦面28、28は、殆ど残らない。但し、余肉が上記サイジング用凹凸面部30や上記押し凹溝32の内面を、極端に強く押圧する事はないので、上記サイジングの加工荷重を低く抑えられるだけでなく、上記サイジング用ダイス29及び上記押型31の耐久性を確保し易い。
【0034】
この様にして得られた、前述の図1〜4に示す様なラック8は、前述した様に、ラック歯10の幅寸法、強度、剛性を、何れも十分に確保でき、しかもこのラック歯10を形成した部分以外の外径が必要以上に大きくならずに軽量である。
尚、上述の実施の形態は、図5の(C)→(D)の過程で、ラック歯10の加工を一挙動で行なう場合に就いて説明したが、この加工を2段階に分けて行なう事もできる。即ち、先ず、得るべきラック歯の圧力角よりも小さな圧力角に見合う形状の歯成形用パンチにより、図7の(A)→(B)の加工を施し、この図7の(B)及び図8に鎖線で示した形状を得る。次いで、得るべきラック歯の圧力角に見合う形状の歯仕上用パンチをこのラック歯となるべき部分に押し付ける事により、図7の(C)及び図8に実線で示したラック歯10を形成する。図7の(B)→(C)の過程で、図8に斜格子で示した、各歯の側面に存在する金属材料を、これら各歯の先端に向けて移動させる。その後、前述したサイジングを施す。
上述の様にして、上記ラック歯10の加工を2段階に分けて行なえば、各工程で、ラック歯形成用の歯成形用パンチに加わる応力を小さく抑えて、この歯成形用パンチの耐久性を確保できる。又、得られるラック歯の精度を確保し易い。
【0035】
又、サイジングに関しても、図5の(E)→(F)に示す様に一挙動で行なわず、図9に示す様に、2段階で行なっても良い。この図9に示したサイジングでは、先ず、(A)に示す様に、素ラック27をサイジング用ダイス29aと押型31aとの間で強く挟持して、ラック歯10の形状を整える。その後、(B)に示す様に、上面にこのラック歯10と噛合する受凹凸部33を設けた受型34と押型35との間で、再び上記素ラック部27を強く挟持して、背面部分11の形状及び寸法を整え、ラック8とする。サイジングに伴って移動する余肉を両逃げ平坦面28、28部分に集める事は、一挙動に行なう場合と同様である。
【0036】
[実施の形態の第2例]
図10〜11は、請求項5〜8、13〜15に対応する、本発明の実施の形態の第2例を示している。本例の場合には、図10の(A)→(B)に示した据え込み加工での加工量を、上述した実施の形態の第1例の場合よりも多くし、この据え込み加工により得られる中間素材20aの幅寸法を、この第1例の場合よりも広くしている。又、部分円筒面部17aの曲率半径に関しても、この第1例の場合よりも大きくしている。
【0037】
本例の場合には、上述の様な中間素材20aを、図10の(C)→(D)に示す様に、幅方向両端部を塑性変形させつつ、ダイス21の保持孔22内に押し込む。このダイス21は、上記第1例に使用するものと同様のものである。但し、上記中間素材20aの幅寸法が大きい分、この中間素材20aを上記保持孔22内に押し込む際に、この中間素材20aの幅方向両端部が、この保持孔22の内側面24、24とガイド傾斜面部25、25との連続部で扱かれる。この結果、上記幅方向両端部に存在する、図11に斜格子で示した部分の金属材料を、同じく上部に斜格子で示した部分に向け、上方に移動させつつ、上記中間素材20aの断面が、図11の鎖線で表した形状から同じく実線で表した形状に変化する。そして、上記中間素材20aを上記保持孔22の奥端部にまで押し込んだ後、この中間素材20aにラック歯10を形成して、素ラック27aとする。
【0038】
前述の図5の(C)(D)と上記図10の(C)(D)との比較、或いは、上記図11の鎖線と実線との比較から明らかな通り、上記幅広の中間素材20aを、幅方向両端部を扱きつつ上記保持孔22内に押し込む事で、上記ラック歯10を形成すべき部分の幅寸法を大きくできる。この為、このラック歯10の幅寸法を確保できる。
その他の部分の構成及び作用は、前述した実施の形態の第1例と同様であるから、重複する図示並びに説明は省略する。
【0039】
[実施の形態の第3例]
図12は、請求項16に対応する、本発明の実施の形態の第3例を示している。本例の場合には、図12の(A)→(B)に示す様に、素材13をダイス36に通過させる扱き加工を施す事により、この素材13の外径を、軸方向一部を除いて縮める。そして、軸方向一部の外径が軸方向残部の外径よりも大きな予備中間素材37とし、この予備中間素材37のうちの軸方向一部に、前述した実施の形態の第1例、又は、上述した実施の形態の第2例と同様の塑性加工を施して、図12の(C)に示す様なラック8aとする。この様な本例の場合には、このラック8aのうちで、ラック歯10を形成した部分から軸方向に外れた部分の直径をより小さくして、上記ラック8a全体をより軽量にできる。
【0040】
[実施の形態の第4例]
図13は、請求項17に対応する、本発明の実施の形態の第4例を示している。本例の場合には、図13の(A)→(B)に示す様に、素材13に例えば前述の図5の(A)→(B)に示す様な据え込み加工を施して中間素材20とする。そして、この中間素材20に、図13の(C)に示す様に、ダイス36を通過させる扱き加工を施す事により、この中間素材20の外径を、軸方向一部を除いて縮める。そして、軸方向一部の外径が軸方向残部の外径よりも大きな第二の中間素材38とし、この第二の中間素材38に、前述した実施の形態の第1例、又は、上述した実施の形態の第2例と同様の塑性加工を施して、図13の(D)に示す様なラック8aとする。この様な本例の場合も、このラック8aのうちで、ラック歯10を形成した部分から軸方向に外れた部分の直径をより小さくして、上記ラック8a全体をより軽量にできる。
【0041】
[実施の形態の第5例]
図14〜18は、請求項1、3〜7、9、13〜15に対応する、本発明の実施の形態の第5例を示している。
本例のラック8bの場合には、ロッド部9aが、外層体39と内層体40とを組み合わせて成る。このうちの外層体39は、炭素鋼、ステンレス鋼等の、優れた強度及び耐摩耗性を有する、第一種の金属材により、円管状に造られている。又、上記内層体40は、アルミニウム合金、マグネシウム合金等の、軽量な第二種の金属材により円杆状に造られている。又、上記外層体39と内層体40とのうち、外層体39は、造るべきラック8b分の長さ寸法を有するのに対して、内層体40は、外周面にラック歯10を形成すべき軸方向一部の長さ分の(余裕を持たせて、ラック歯10を形成した部分よりも少しだけ長い)寸法に抑えられている。この様な内層体40と上記外層体39とは、この内層体40をこの外層体39の軸方向一端寄り(図14〜16の左寄り)部分に、焼嵌め、冷やし嵌め等により密に内嵌固定する事で組み合わされている。
【0042】
上述の様な外層体39と内層体40とを組み合わせた、上記ロッド部9aを構成する素材13aには、例えば図18の(A)→(B)→(C)→(D)→(E)→(F)に示す様に、前述の図10に示した実施の形態の第2例(或いは、前述の図5に示した実施の形態の第1例)と同様の塑性加工を施して、上述の様なラック8bとする。
この様な本例の構造及び製造方法によれば、前述した理由により、上記ラック歯10の強度確保とラック8b全体の軽量化とを、より十分に図る事が可能になる。
【0043】
[実施の形態の第6例]
図19〜24は、請求項1、2、5〜14に対応する、本発明の実施の形態の第6例を示している。尚、前述の図10〜11に示した実施の形態の第2例と異なる点は、ラック歯を形成する過程で素ラック歯43の幅方向両端部の端縁の断面形状の曲率半径を大きくする塑性加工を行なう点、完成後のラック歯10の両側面に互いに平行な1対のガイド平面部41、41を残すべく、これら両ガイド平面部41、41に隣接して、これら両ガイド平面部41、41から離れるに従って互いに近づく方向に傾斜した、1対の逃げ平坦面部42、42を設けた点にある。その他の部分の構成及び作用・効果に就いては、上記実施の形態の第2例と同様であるから、同等部分に関する説明は、省略若しくは簡略にし、以下、この第2例と異なる点を中心に説明する。
【0044】
本例の場合、図19の(C)→(D)の工程で中間素材20aを素ラック27bに加工する際に、互いに平行な1対のガイド平面部41、41と、これら両ガイド平面部41、41に隣接した、1対の逃げ平坦面部42、42とを形成する。これら両逃げ平坦面部42、42は、上記両ガイド平面部41、41を境として、上記中間素材20aの円周方向の一部に形成した素ラック歯43と反対側部分に設けられており、これら両ガイド平面部41、41から離れるに従って互いの間隔が狭くなる方向に傾斜している。
【0045】
この様な両逃げ平坦面部42、42を形成する為に、ダイス21aに形成した、成形用凹溝である保持孔22aの両内側面の一部で、互いに平行な1対の成形用平坦面44、44の底部23a側に隣接する部分に、これら両成形用平坦面44、44から離れるに従って互いの間隔が狭くなる方向に傾斜した、1対の第二成形用平坦面45、45を設けている。そして、図19の(C)→(D)の工程で、上記中間素材20aを上記素ラック27bに加工する際に、上記両第二成形用平坦面45、45に対応する部分に上記両逃げ平坦面部42、42を形成して、図23の(A)に示す様な、上記素ラック27bとする。即ち、得るべきラック歯の圧力角よりも小さな圧力角に見合う形状の歯成形用パンチ26aにより、上記素ラック歯43を形成した、上記素ラック27bを得る。
【0046】
その後、図20の(A)→(B)に示す様に、上記両逃げ平坦面部42、42を1対の金型である、押型46と受型47との間部分に位置させた状態で、上記素ラック歯43の幅方向両端部の歯元部乃至歯先部の断面形状の曲率半径を大きくする塑性加工を行なう。この塑性加工により、上記素ラック歯43の幅方向両端部の端縁部の、歯元部乃至歯先部の曲率半径を大きくし、この素ラック歯43の幅方向両端部の端縁部の歯元部乃至歯先部に、図23の(B)に示す様な曲面部48、48を形成する。この様な曲面部48、48は、完成後のラック歯10の幅方向両端部の端縁部が他の部材と干渉するのを防止する為と、この端縁部への応力集中を防止する為とに設ける。本例は、図23の(A)に示した素ラック歯43を同じく(C)に示したラック歯10に塑性加工する過程で、上記図23の(B)に示す様な曲面部48、48を形成する事により、このラック歯10を塑性加工する為の加工工程で使用する金型の負担を軽減すると共に、バリの発生を防止して得られるラック歯10の形状精度及び寸法精度を良好にできる様にしている。又、本例の場合には、上述の様な曲面部48、48の塑性加工に伴って移動する金属材料を、上記両逃げ平坦面部42、42に止めて、部分円筒面を延長した仮想円筒面よりも余肉が径方向外方に突出する事を防止する。
【0047】
尚、上記図20の(A)→(B)、及び、図23の(A)→(B)に示した工程で、上記素ラック歯43の幅方向両端部の端縁に形成する曲面部48、48の曲率半径は、完成後のラック歯10の幅方向両端部に残留する曲面部の曲率半径よりも大きめにしておく。この理由は、次述する図21又は図22の(A)→(B)、及び、図23の(B)→(C)に示した、上記素ラック歯43を上記ラック歯10に仕上げる工程で、上記幅方向両端部の端縁の歯元部乃至歯先部の曲面部48、48の曲率半径が小さくなる傾向になるので、完成後のラック歯10の幅方向両端部に残留する曲面部の曲率半径を確保する為である。
【0048】
上述の様な曲面部48、48を形成した第二中間素材49は、その後、前述した実施の形態の第1例と同様、図21又は図22の(A)→(B)に示す様に、歯成形用パンチ26によりダイス21bの保持孔22b内に押し込んで、上記ラック歯10を形成する。この際、この保持孔22bの内寸は、図21に示す様に、上記第二中間素材49の幅寸法と同じでも良いし、図22に示す様に、この幅寸法よりも僅かに小さくしても良い。図22に示す様に、保持孔22bの内寸を上記第二中間素材49の幅寸法よりも小さくした場合には、上記ラック歯10を形成する過程で、この第二中間素材49の幅方向両端部に存在する、前記両ガイド平面部41、41を扱く。何れにしても、この第二中間素材49を、上記歯成形用パンチ26によりダイス21bの保持孔22b内に押し込む事で、円周方向片側面に上記ラック歯10を形成すると共に、上記両ガイド平面部41、41の性状を適正にした、ラック8aを得られる。
【0049】
この様にして得られたラック8aは、そのまま使用する事もできるが、必要に応じて、上記ラック歯10の精度を向上させる為のサイジングを施す。このサイジングは、基本的には、前述した実施の形態の第1例と同様にして行なう。但し、上記両ガイド平面部41、41の精度を確保する必要がある場合には、図24の(A)に示す様に、これらガイド平面部41、41を1対の抑え面50、50により抑えつつ行なう。これに対して、これら両ガイド平面部41、41の精度を確保する必要がなければ、図24の(B)に示す様に、単にラック8aを受型34に押し付けるのみで良い。尚、上記両ガイド平面部41、41は、このラック8aをステアリングギヤに組み込んだ状態で、ガイドスリーブの直線部と係合し、このラック8aが回転方向に変位するのを防止する為に設けている。その他、基本的な構成及び作用・効果に就いては、前述した実施の形態の第1例の場合と同様である。
【0050】
[実施の形態の第7例]
図25〜29は、請求項1、3、5〜14に対応する、本発明の実施の形態の第7例を示している。本例は、前述の図14〜18に示した実施の形態の第5例の構造を、上述した実施の形態の第6例の製造方法により造る場合に就いて示している。本例を表す図25がこの実施の形態の第6例を表す図19に、同じく図26〜28が同じく図20〜22に、同じく図29が同じく図24に、それぞれ対応する。この様な本例の構造及び製造方法によれば、上記実施の形態の第5例の様に、ラック歯10の強度確保とラック8b全体の軽量化とをより十分に図れ、しかも金型の負担を軽減すると共に、得られるラック歯10の形状精度及び寸法精度を良好にできる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明のラックは、前述の図30に示した様な、ステアリングギヤ5を構成するラックとして適用して、このステアリングギヤ5のコスト低減や軽量化を図れる。但し、本発明は、この様なステアリングギヤ5に限らず、各種機械装置に組み込むラックに適用して、当該機械装置のコスト低減や軽量化に寄与できる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の実施の形態の第1例を示す、ラックの斜視図。
【図2】図1のイ矢視図。
【図3】同ロ矢視図。
【図4】図3の拡大ハ−ハ断面図。
【図5】第1例の構造の製造方法を工程順に示す、図4と同方向から見た断面図。
【図6】サイジング前後のラック歯の形状を示す部分斜視図。
【図7】ラック歯の加工を2段階に分けて行なう場合の形状変化を示す、図5の(D)のニ−ニ断面に相当する図。
【図8】図7の(B)と(C)との間での歯の形状変化の状態を示す拡大断面図。
【図9】サイジングを2段階に分けて行なう場合を示す断面図。
【図10】本発明の実施の形態の第2例を示す、図5と同様の図。
【図11】図10の(C)と(D)との間での中間素材の形状変化の状態を示す断面図。
【図12】本発明の実施の形態の第3例を工程順に示す部分切断側面図。
【図13】同第4例を工程順に示す部分切断側面図。
【図14】同第5例を示す、ラックの斜視図。
【図15】図14のホ矢視図。
【図16】同ヘ矢視図。
【図17】図16の拡大ト−ト断面図。
【図18】第5例の構造の製造方法の1例を工程順に示す、図17と同方向から見た断面図。
【図19】本発明の実施の形態の第6例に於ける、第一の塑性加工乃至は第二の塑性加工の前段階迄を工程順に示す、図4と同方向から見た断面図。
【図20】同じく、第二の塑性加工の前段階で行なう、素ラック歯の幅方向両端部の歯元部乃至歯先部の断面形状の曲率半径を大きくする塑性加工を工程順に示す、図4と同方向から見た断面図。
【図21】同じく、第二の塑性加工の後段階で行なう、素ラック歯の形状を整えてラック歯とする塑性加工の第1例を工程順に示す、図4と同方向から見た断面図。
【図22】同第2例を工程順に示す、図4と同方向から見た断面図。
【図23】加工の進行に伴う素ラック歯乃至ラック歯の形状を示す、(A)は第二の塑性加工の前段階終了時の素ラック歯を、(B)はこの素ラック歯の幅方向両端部の端縁の断面形状の曲率半径を大きくする塑性加工を行なった後の状態を、(C)はサイジング後のラック歯を、それぞれ示す部分斜視図。
【図24】サイジングの実施状況の2例を示す、図4と同方向から見た断面図。
【図25】本発明の実施の形態の第7例に於ける、第一の塑性加工乃至は第二の塑性加工の前段階迄を工程順に示す、図4と同方向から見た断面図。
【図26】同じく、第二の塑性加工の前段階で行なう、素ラック歯の幅方向両端部の端縁の断面形状の曲率半径を大きくする塑性加工を工程順に示す、図4と同方向から見た断面図。
【図27】同じく、第二の塑性加工の後段階で行なう、素ラック歯の形状を整えてラック歯とする塑性加工の第1例を工程順に示す、図4と同方向から見た断面図。
【図28】同第2例を工程順に示す、図4と同方向から見た断面図。
【図29】サイジングの実施状況の2例を示す、図4と同方向から見た断面図。
【図30】本発明の対象となるラックを組み込んだステアリングギヤを備えた自動車用操舵装置の1例を示す側面図。
【符号の説明】
【0053】
1 ステアリングホイール
2 ステアリングシャフト
3 自在継手
4 中間シャフト
5 ステアリングギヤ
6 入力軸
7 タイロッド
8、8a、8b ラック
9、9a ロッド部
10 ラック歯
11 背面部分
12 円杆部
13、13a 素材
14 受型
15 凹溝部
16 押圧パンチ
17、17a 部分円筒面部
18 平坦面部
19 曲面部
20、20a 中間素材
21、21a、21b ダイス
22、22a、22b 保持孔
23、23a 底部
24 内側面
25 ガイド傾斜面部
26、26a 歯成形用パンチ
27、27a、27b 素ラック
28 逃げ平坦面部
29、29a サイジング用ダイス
30 サイジング用凹凸面部
31、31a 押型
32 押し凹溝
33 受凹凸部
34 受型
35 押型
36 ダイス
37 予備中間素材
38 第二の中間素材
39 外層体
40 内層体
41 ガイド平坦面部
42 逃げ平坦面部
43 素ラック歯
44 成形用平坦面
45 第二成形用平坦面
46 押型
47 受型
48 曲面部
49 第二中間素材
50 抑え面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材製で、少なくとも軸方向の一部が中実材である断面円形のロッド部と、このロッド部の軸方向一部で中実材である部分の径方向片側面に塑性加工により形成されたラック歯とを備え、この軸方向一部で中実材である部分の外周面のうち、このラック歯を形成した部分から周方向に外れた部分の断面形状の曲率半径が、上記ロッド部の軸方向残部の外周面の断面形状の曲率半径よりも大きいラック。
【請求項2】
ロッド部が、全長に亙り、外周面から中心部迄同種金属材により一体に造られている、請求項1に記載したラック。
【請求項3】
ロッド部が、第一種の金属材により管状に造られた外層体と、第二種の金属材により杆状に造られて、この外層体に密に内嵌固定された内層体とから成る、請求項1に記載したラック。
【請求項4】
外層体内に内層体が、外周面にラック歯を形成すべき軸方向一部にのみ内嵌固定されている、請求項3に記載したラック。
【請求項5】
金属材製で、少なくとも軸方向の一部が中実材である断面円形のロッド部と、このロッド部の軸方向一部で中実材である部分の径方向片側面に塑性加工により形成されたラック歯とを備え、この軸方向一部で中実材である部分の外周面のうち、このラック歯を形成した部分から周方向に外れた部分の断面形状の曲率半径が、上記ロッド部の軸方向残部の外周面の断面形状の曲率半径よりも大きいラックの製造方法であって、上記ロッド部となるべき円杆状の素材の軸方向の一部に、この軸方向の一部で且つ円周方向の一部を押し潰しつつ、この軸方向の一部で且つ円周方向の残部に、上記素材の外周面の曲率半径よりも大きな曲率半径を有する部分円筒面を形成する第一の塑性加工を施して中間素材とし、この中間素材のうちの上記軸方向一部で上記円周方向の一部に上記ラック歯を、第二の塑性加工により形成するラックの製造方法。
【請求項6】
第一の塑性加工が、素材の軸方向一部を径方向に押し潰す事により、この軸方向一部の外周面のうちでラック歯を形成すべき部分を平面部とし、この平面部から外れた残り部分を、断面形状の曲率半径が上記素材の外周面の断面形状の曲率半径よりも大きい部分円筒面とする据え込み加工である、請求項5に記載したラックの製造方法。
【請求項7】
第二の塑性加工が、ダイスの保持孔により、中間素材の軸方向一部で平面部から外れた残り部分を支承しつつ、形成すべきラック歯に見合う凹凸形状を有する歯成形用パンチを上記平面部に押圧する事により、この平面部にラック歯を形成するプレス加工である、請求項6に記載したラックの製造方法。
【請求項8】
ダイスの保持孔の内面同士の間隔が、平面部の幅方向に関する中間素材の外径よりも小さく、歯成形用パンチによりこの中間素材を上記保持孔に押し込み、この中間素材の幅方向両端部分の金属材料を上記平面部に移動させつつこの平面部にラック歯を形成する、請求項7に記載したラックの製造方法。
【請求項9】
第二の塑性加工を複数段階に分けて行ない、得るべきラック歯の圧力角よりも小さな圧力角に見合う形状の歯成形用パンチにより素ラック歯を形成した後、得るべきラック歯の圧力角に見合う形状の歯仕上用パンチをこの素ラック歯に押し付ける、請求項5〜8のうちの何れか1項に記載したラックの製造方法。
【請求項10】
素ラック歯を形成してから、少なくともこの素ラック歯の幅方向両端部の歯元部乃至歯先部の端縁部の断面形状の曲率半径を大きくする塑性加工を行なった後、歯仕上用パンチを上記素ラック歯に押し付けてこの素ラック歯をラック歯に加工する、請求項9に記載したラックの製造方法。
【請求項11】
塑性加工により素ラック歯の幅方向両端部の歯元部乃至歯先部の端縁部の断面形状の曲率半径を、完成後のラック歯の幅方向両端部の歯元部乃至歯先部の端縁部の断面形状の曲率半径よりも大きくしておく、請求項10に記載したラックの製造方法。
【請求項12】
第二の塑性加工の前段階で、素ラック歯を形成すると共にこの素ラック歯の両側部分に1対の逃げ平坦面部を形成した後、これら両逃げ平坦面部を1対の金型同士の間部分に位置させた状態で、上記素ラック歯の基部の断面形状の曲率半径を大きくする塑性加工を行ない、この塑性加工に伴って移動する金属材料を上記両逃げ平坦面部に止めて、部分円筒面を延長した仮想円筒面よりも余肉が径方向外方に突出する事を防止する、請求項10〜11のうちの何れか1項に記載したラックの製造方法。
【請求項13】
第二の塑性加工の後、ラック歯の形状を整えるサイジングを施す、請求項5〜12のうちの何れか1項に記載したラックの製造方法。
【請求項14】
第二の塑性加工によりラック歯を形成すると共にこのラック歯の両側部分に1対の逃げ平坦面部を形成した後、このラック歯の精度を向上させる為のサイジングを行ない、このサイジングに伴って移動する金属材料を上記両逃げ平坦面部に止めて、部分円筒面を延長した仮想円筒面よりも余肉が径方向外方に突出する事を防止する、請求項13に記載したラックの製造方法。
【請求項15】
1対の逃げ平坦面部が互いに平行である、請求項14に記載したラックの製造方法。
【請求項16】
第一の塑性加工前に、素材をダイスに通過させる事により、この素材の外径を軸方向一部を除いて縮める、扱き加工を施す事により、軸方向一部の外径が軸方向残部の外径よりも大きな予備中間素材とし、この予備中間素材に上記第一の塑性加工を施す、請求項5〜15のうちの何れか1項に記載したラックの製造方法。
【請求項17】
第一の塑性加工後、第二の塑性加工前に、中間素材をダイスに通過させて、この中間素材の外径を軸方向一部を除いて縮める、扱き加工を施す事により、軸方向一部の外径が軸方向残部の外径よりも大きな第二の中間素材とし、この第二の中間素材に第二の塑性加工を施す、請求項5〜15のうちの何れか1項に記載したラックの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【公開番号】特開2008−138864(P2008−138864A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−132561(P2007−132561)
【出願日】平成19年5月18日(2007.5.18)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】