説明

ラマン分光法

空隙を含む特別な構造の金属膜は、巨大に増強された表面増強ラマン分光(surface enhanced Raman spectroscopy,SERS)の効果を伝えることを発見した。空隙を特定のサイズと幾何学構造に選択することによって、所定の波長の入射放射に対するフォトンからプラズモンへの変換効率が増強された金属膜を提供することが可能となる。従って、制御可能な表面増強吸収及び放出特性が与えられる。これはSERSに有効であり、また他の光学分光法およびフィルタリングへの応用に有効である可能性を有する。このような大きなラマン信号により、本発明においては、高速かつ小型かつ安価なラマン分光器を提供することが可能となり、数多くの新規応用の可能性が開拓される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラマン分光法に係り、特に表面増強ラマン分光法(surface enhanced Raman spectroscopy,SERS)に関する。
【背景技術】
【0002】
ラマン分光法は様々な応用に用いられ、例えば分子振動やフォノン等の振動する量子を研究するために用いられるのが最も一般的であるが、量子化された他の存在を研究することもできる。ラマン分光法により、試料物質の物性に関する詳細な情報が得られる。また、例えば様々な分子の異性体等の化学的には同一の分子の多様な状態を区別するために用いることもできる。
【0003】
ラマン分光法には、数多くの産業分野における幅広い使い道がある。ラマン分光法の応用を例示すると、薬学、化学、生体分析、医学、物質科学、美術品の復元、高分子、半導体、宝石学、法医学、軍事、検出、環境監視分野における応用が挙げられる。
【0004】
ラマン分光法は非常に役立つ分析方法ではあるが、複数の欠点がある。ラマン分光法の主な欠点は、散乱断面積の小ささに起因するものである。典型的には、試料物質に入射するフォトンの10−7しかラマン散乱されない。従って、ラマン散乱されたフォトンを検出するために、ラマン分光器においては一般に、高出力レーザー源及び高感度検出器が採用されている。絶対的な意味において散乱断面積が小さいのみならず、散乱されたフォトンが入射フォトンと同じエネルギーを有するレイリー散乱に比較しても小さい。これはつまり、小さなラマン信号を大きなレイリー信号及び入射信号から分離することに関して問題がある場合が多いということであり、特に、ラマン信号のエネルギーが入射信号のエネルギーに近い場合に問題となる。
【0005】
高出力源はかさばり高価であるだけでなく、非常に高い出力においては、その光放射の強度により試料物質が破壊される可能性がある。従って、光放射源の強度には上限が課される。同様に、高感度検出器もかさばり高価であることが多く、例えば液体窒素により冷却される必要がある。それに加えて、許容可能な信号対雑音比(signal−to−noise ratio,SNR)を有するラマンスペクトル信号を得るために長い積分時間が必要とされるので、検出は時間がかかるプロセスであることが多い。
【0006】
1928年のC.V.ラマンによるラマン効果の発見以来ずっと、ラマン分光法についての問題点は知られていた。その時以来、多様な方法が、ラマン分光法の作用を改善するために適用されてきた。
【0007】
方法によっては、試料物質内により効率的にエネルギーを結合させるために、金属表面を用いて表面プラズモン共鳴(surface plasmon resonance,SPR)を誘導させる。この方法の改善の一つには、試料物質を粗い表面の上または近傍に配置することが含まれる。このような表面は金属/誘電体粒子を堆積させることによって形成可能であり、クラスターの場合もある(特許文献1、特許文献2、特許文献3)。粗い表面により、増強ラマン信号が増加することがわかっており、ラマンスペクトルを得るために粗い表面を用いる方法は、表面増強ラマン分光法(surface enhanced Raman spectroscopy,SERS)として知られている。
【0008】
SERS装置により、それ以前の従来のラマン分光器と比較すればSNRを改善することが可能ではあるが、依然としてその程度は劣るものであり、先程と同じ不利な点を有する。例えば、SERS装置は、検出器の相当長い積分時間無しでラマン信号を与えるのに十分なものではないし、かさばり高価な検出器を用いることがやはり必要とされる。現在のところ、五秒程度のラマンスペクトル獲得時間が非常によいものであるとされている。
【0009】
【特許文献1】米国特許第6242264号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2003/0157732号明細書
【特許文献3】米国特許第5376556号明細書
【特許文献4】国際公開第02/42836号パンフレット
【非特許文献1】S.Coyle、M.C.Netti、J.J.Baumberg、M.A.Ghanem、P.R.Birkin、P.N.Bartlett、D.M.Whittaker、「Confined Plasmons in Metallic Nanocavities」、Physical Review Letters、2001年、第87巻、第17号、p.176801
【非特許文献2】M.C.Netti、S.Coyle、J.J.Baumberg、M.A.Ghanem、P.R.Birkin、P.N.Bartlett、D.M.Whittaker、「Confined Plasmons in Gold Photonic Nanocavities」、Advanced Materials、2001年、第13巻、第18号、p.1368
【非特許文献3】S.Coyle、G.V.Prakash、J.J.Baumberg、M.Abdelsalem、P.N.Bartlett、「Spherical micromirrors from templated self−assembly: Polarization rotation on the micron scale」、Applied Physics Letters、2003年、第83巻、第4号、p.767
【非特許文献4】P.N.Bartlett、J.J.Baumberg、P.R.Birkin、M.A.Ghanem、M.C.Netti、「Highly Ordered Macroporous Gold and Platinum Films Formed by Electrochemical Deposition through Templates Assembled from Submicron Diameter Monodisperse Polystyrene Spheres」、Chemical Materials、2002年、第14巻、第5号、p.2199
【非特許文献5】Baumberg外、Applied Physics Letters、2000年、第76巻、p.991
【非特許文献6】P.N.Bartlett、J.J.Baumberg、S.Coyle、M.Abdelsalem、「Optical properties of nanostructured metal films」、Faraday Discussions、2004年、第125巻、p.117
【非特許文献7】M.Abdelsalem、P.N.Bartlett、J.J.Baumberg、S.Coyle、「Preparation of Arrays of Isolated Spherical Cavities by Self−Assembly of Polystyrene Spheres on Self−Assembled Pre−patterned Macroporous Films」、Advanced Materials、2004年、第16巻、第1号、p.90
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1側面によると、試料物質からのラマンスペクトルを得るための分光器が提供される。分光器は、光放射を発生させるための光源と、光放射を受光するための基板と、基板から生じるラマン散乱放射を分析するためのスペクトル分析器とを備える。基板は所定のサイズの複数の空隙を含む金属膜を備える。空隙は表面プラズモンを閉じ込めるのに適している。試料物質が基板近傍に配置されているときに、表面プラズモンは、入射光放射から試料物質へとエネルギーを結合させる。また、表面プラズモンは試料物質から放出された散乱エネルギーをラマン散乱放射に変換する役割もある。基板がラマン分光器内に組み込まれて、その性能を改善することもできる。
【0011】
基板は増強ラマン信号を提供する。従って、許容可能なSNRを得るのに、入射光放射を少なくしたり、感度の低い検出器を用いたりすることが可能となる。この両方を用いてもよい。様々な実施例においては、スペクトル分析器は、例えば光ダイオードのアレイのような冷却する必要の無い検出器を利用する。或る実施例においては、例えばレーザダイオードやレーザダイオードのアレイ等の高効率で小型の光源装置が利用される。このような検出器及びアレイを採用することによって、高効率かつ低出力かつ携帯可能かつ小型のラマン分光器を提供することが可能となる。更に、例えばレーザダイオードのアレイを採用する実施例によって、基板の広範囲を照射可能な光放射が提供される。このような様々な実施例においては、常に光放射を集光させる必要がないので、より小型になり、分光器のコストが削減される。
【0012】
更に、増強ラマン信号により、ラマン散乱放射を収集するためにスペクトル分析器と共に提供された入力チャネル光学系は、従来のラマン分光器において用いられる光学系とは異なる。特に、様々な実施例においては、ラマン散乱放射を収集するために開口数の高いレンズシステムを使う必要がない。これにより、収集用光学系を基板から離して間隔を空けることが可能となる。間隔を空けることによって、分析される試料物質を含む流体が収集用光学系により妨害されることなく基板上を自由に流れることが可能となるので特に有効である。流体は液体でも気体でもよい。入力チャネル光学系は、基板に向けて配置された光ファイバの入力チャネルを備えてもよい。様々な実施例においては放出するラマン信号の方向が予測可能であるので、光ファイバの入力チャネルを用いて、スペクトル分析器に到達する光源からのバックグラウンド信号を減少させることが可能となる。
【0013】
更に、信号は強力であるので、光学的な構成要素の配置と集光に対する許容範囲がより緩やかなものとなり、例えば、実験前の信号の最適化のための光学的な構成要素の調整の必要が全くいらなくなる場合もある。
【0014】
更に、ラマン信号は増強されているので、基板を含むラマン分光器は、積分時間を減少させて許容可能なSNRを有するラマンスペクトルを得ることができる。これにより、試料物質の処理が高速になるだけではなく、例えば化学反応や触媒プロセス等のプロセスを実時間でモニタリングするためにラマン分光法を用いることができるという素晴らしい可能性が生じる。
【0015】
本発明者は、空隙を含む金属膜の光学特性の研究を数年に亘って行ってきたが(非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3、特許文献4)、これらの膜が巨大なSERSの増強を伝える能力があることは以前には認識されていなかった。何故ならば、これらの物理的な構造が、以前に用いたどの表面の構造とも大きく異なっていたからである。
【0016】
しかしながら、試してみると、結果はラマン信号の巨大な増強を示した。こうした初期の実験により、ラマン信号は、非SERS装置と比較して数10から1014の間の比率で増大可能であることが示された。
【0017】
更に、入射光エネルギーの特定の波長に対して最適化されるように空隙を綿密に設計することによって従来のSERS装置と比較してラマン信号が少なくとも二倍に増大可能であることが、下記で詳述される実験的及び理論的研究により示された。
【0018】
これに加えて、空隙を綿密に設計することによって、ラマン信号を収束させ所定の角度の方向に放出させて、適切に配置された開口数の低い収集用光学系を用いて信号を収集することが可能であることが、理論的及び実験的研究により示された。
【0019】
増強ラマン信号の起源については完全に理解されていないが、空隙表面に形成される局在プラズモンの効果によるものであるとされている。局在プラズモンは金属膜表面の近傍に配置された試料物質と入射光放射との間の結合効率を増大させ、本発明者が確認したようなラマン信号強度の劇的な増強を上昇させるものであると考えられる。
【0020】
様々な実施例においては、空隙は切頭された球の形状を有する。球の直径と切頭する厚さを調節することによって、ラマン信号の特定の波長の放射方向を下記で詳述する周知の及び予測された方法で調節することができる。これに加えて、基板表面に平行に切頭された部分的に球形の空隙を与えることによって、基板を表面に垂直な軸周りに回転させても放出方向は予測可能で一定のままである。従って、分光器内部の基板の配置が容易になる。
【0021】
空隙のサイズを、特定の試料物質と共に用いられる光放射の波長に依存して決定してもよい。従って、基板の応答は、特定の試料物質に適合するように調節される。空隙のサイズは、略数ナノメートルから数10マイクロメートルの範囲であってもよい。例えば、深紫外線に対して機能するためには、空隙のサイズは略10nmから50nmの範囲であるが、分子の振動遷移に共鳴するように同調させた中赤外線に対して機能するためには、略数十マイクロメートルである。他の例として、空隙の形成のし易さから、略100nmから900nmの直径の空隙を提供してもよい。更なる例として、空隙のサイズは、可視光放射の波長に実質的に対応させてもよい。特定の試料物質に対して外的な分子振動を誘導しないように及び非電離性であるように選択された光放射と共に、空隙を用いてもよい。これにより、過度に試料物質に影響を与えることなく、光放射が単に試料物質を調査することが可能となる。
【0022】
実施例によっては、略平坦な形状であり、基板の平坦な表面の少なくとも一部分上に一様な間隔で空隙が配置されている基板が含まれる。従って、基板を効率的に利用し、基板表面の異なる部分からラマンスペクトルの一様な信号を得ることが可能となる。
【0023】
様々な実施例においては、金属膜を介して試料物質に光放射を結合させるための導波路構造を更に備えた基板が含まれる。このような導波路構造が提供される場合、スペクトル分析器もまた、導波路から放出するラマン散乱放射を収集するように設計されてもよい。
【0024】
本発明の第2側面によると、試料物質からのラマンスペクトルを得るための方法が提供される。本方法は、基板に近接する本発明の第1側面による分光器内に試料物質を投入する段階と、光源を稼動させる段階と、試料物質のラマンスペクトルを得るためにスペクトル分析器を操作する段階とを備える。
【0025】
本方法は、光放射によって照射される領域内の基板を横切るように試料物質を含む流体を流入させることによって試料物質を投入する段階を備える。これにより、基板を光収集用光学系から離して配置可能になることに加え、基板に滑らかな表面が提供されるため、基板は特に良いものとなる。
【0026】
様々な実施例において、本方法は、基板の金属膜の電気ポテンシャルを変化させる段階を備える。金属膜に電気ポテンシャルを印加することによって、空隙表面近傍の試料物質の動力学をモニタリングすることが可能となる。更に、これにより、実時間の表面反応のモニタリングが可能となり、化学反応を生じさせることが可能となり、様々な分子の崩壊をモニタリングすることが可能となり、電場の存在により如何にラマンスペクトルが変更されるかについての情報が得られる。
【0027】
本発明の第3側面によると、基板上に入射する光放射の所定の波長において光エネルギーを表面プラズモンに結合させる効率を増強させた基板の製造方法が提供される。本方法は、金属膜内に形成された際に所定の波長の光エネルギーを空隙内に形成される表面プラズモンに効率的に結合させるように空隙のサイズと形状を決定する段階と、決定されたサイズと形状の空隙を複数有する金属膜を備えた基板を形成する段階とを備える。
【0028】
空隙のサイズと形状は、或る所定のエネルギーの光放射が空隙表面に形成されるプラズモンに結合するかどうかを決定する。更に、本発明者は、空隙のサイズと形状、及び光放射の入射方向を変更することによって、光からプラズモンへのまたプラズモンから光へのエネルギー結合並びに金属膜から放出される光放射の位置を調節可能であることを明らかにした。
【0029】
基板表面上に一様な間隔で配置された空隙を金属膜に形成してもよい。導波路構造を基板に形成して、金属膜を介して基板からの光放射を結合してもよい。
【0030】
様々な実施例において、空隙は切頭された球形の空隙の形状である。この空隙のサイズは、光放射の所望の波長に依存して決定される。切頭された球形の空隙の直径は、光放射の所定の波長における大きさと同じオーダーであるように選択されてもよい。例えば、切頭された球形の空隙の直径は、光放射の波長に略等しいように選択されてもよい。様々な実施例において、切頭された球の直径は略50nmから略10000nm、または略100nmから略900nmである。切頭された球形の空隙の厚さは、空隙に形成されるゼロ次元プラズモンに、所定の波長の光エネルギー結合されるように選択されていてもよい。
【0031】
基板表面上に整列させた球形粒子の型板を堆積させ、型板を取り囲む金属イオンを含んだ溶液を介して所定の量の電荷を与えて基板表面上に金属膜を堆積させることによって、基板を作成してもよい。
【0032】
本発明の第3側面は、本発明者によって得られた実験的及び理論的情報を如何に応用して放出特性の調節された基板を設計及び製造するかに関する。本発明者の研究により、本発明者は、様々な応用において効率的に用いるためのまたは様々な試料物質に用いられる金属膜の製造方法を理解するに至った。このような基板については、数多くの応用が予見される。例えば、ラマン分光法等の分光法や光学フィルタリング等の応用が予見される。
【0033】
本発明の第4側面によると、本発明の第3側面の方法に従って作成された基板が提供される。このような基板は、金、プラチナ、銀、銅、パラジウム、コバルト、ニッケルの一つ以上を有する金属膜を含む。これらの元素を単独で用いるか、お互いに組み合わせるか、合金を形成する他の物質と組み合わせて金属膜を作成可能であることは理解されたい。基板の応用方法に応じて、触媒特性、不活性特性、光学的に有利な特性等を持つ物質が好ましいものとなる。例えば、銀を用いて、光学特性を劣化させる酸化物質に接触して配置されることが考えられない応用において、高いラマン増強信号が得られる。基板は封入されていてもよい。
【0034】
様々な実施例においては、金属膜の空隙に内に供給された分析用試料物質が、既に基板に与えられていてもよい。実施例によっては、試料物質は有機物質である。試料物質を備えた基板を用意することは、使用者にとって便利であり、特に、試料物質が、猛毒である等の望ましくない化学または生物特性を有する場合に便利である。
【0035】
本発明の第5側面によると、本発明の第4側面による基板を含む光学装置が提供される。本発明の第6側面は、本発明の第5側面による光学装置の使用に関する。例えば、このような光学装置は、フィルタリング装置、分析装置、またはラマン分光器以外の装置である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
本発明のより良い理解のためと本発明を如何に効果的に実施するかを示すために、添付図面について例示的に説明する。
【0037】
図1は従来のラマン分光器100を示す。例えば、分光器100は、英国グロスターシャー州ウォットンアンダーエッジのレニショー社から入手可能なinViaラマンマイクロスコープの多様な構成要素を備える。分光器100は、光源120と、スペクトル分析器180と、ラマン散乱放射142を収集しスペクトル分析器180に向けるための入力チャネル光学系160とを備える。光源120は、第1フィルタ124によってフィルタリングされる光放射122のビームを発生させる。フィルタリングされた光放射122はビームスプリッタ126によって、試料140上に向けられる。試料140によって生じたラマン散乱放射142は入力チャネル光学系160によって収集され、スペクトル分析器180で分析される。
【0038】
入力チャネル光学系160は、顕微鏡対物レンズ162と、第2フィルタ164と、レンズ166とを備える。顕微鏡対物レンズ162は高い開口数(典型的には0.4以上)を有し、試料140から可能な限り多くのラマン散乱放射142を集められるようになっている。第2フィルタ164は、ラマン散乱されていない反射された光放射122をブロックするように設計されている。レンズ166はラマン散乱放射162をスペクトル分析器180に集光させる。
【0039】
スペクトル分析器180は、スペクトル分離器182と、CCD検出器184とを備える。スペクトル分離器は、振動数の異なるラマン散乱放射142を空間的に分離する。回転する格子(図示せず)を用いて、CCD検出器184の前面に位置する開口部に亘って異なる波長のラマン散乱放射142を走査してもよい。CCD検出器184は、低レベルのラマン散乱放射142を検出可能にするために冷却される。他の平行または単一チャネル検出器を用いてもよい。
【0040】
可能な限り多くのラマン散乱放射142を収集するため、顕微鏡対物レンズ162を試料140近傍に配置する必要がある。顕微鏡対物レンズ162は略Δの直径を有する領域からラマン散乱放射142を収集する。典型的には、Δは10マイクロメートル未満である。これに加えて、顕微鏡対物レンズ162を、試料140近傍に配置する必要がある。顕微鏡対物レンズ162と試料140とは距離Lだけ離されており、距離Lは典型的には1mm未満である。
【0041】
図2は本発明の第1実施例によるラマン分光器200を示す。分光器200は、光源/検出器パッケージ290と、基板240とを備える。光源/検出器パッケージ290は、光源220と、光源220により発生した光放射222をフィルタリングするための第1フィルタ224とを備える。パッケージ290は、入力チャネル光学系260と、スペクトル分析器286とも含む。
【0042】
入力チャネル光学系260は、ラマン散乱放射242を集めるための第1レンズ262と、ラマン散乱されていない放射をはじくための第2フィルタ264とを備える。入力チャネル光学系はラマン散乱放射をスペクトル分析器286に向ける。
【0043】
光源/検出器パッケージ290は、基板240表面上に光放射222を向けるようにまた基板240表面近くに配置された試料によって発生したラマン散乱放射242を収集するように設計されている。基板240は、支持層244とその上の形成された金属膜246とを備える。金属膜246は、複数の空隙248を有する。空隙は、光放射222から試料物質(図示せず)へとエネルギーを結合させる表面プラズモンを発生させ閉じ込める。また、プラズモンは、試料物質から放出された散乱エネルギーをラマン散乱放射242に変換する。プラズモンは、ラマン散乱放射242の量を顕著に増加させる表面増強効果を上昇させる。これはつまり、十分なラマン信号を発生させるために、光放射222をきつく集光させる必要がないということである。これに加えて、開口数の高くないレンズ262を用いることも可能になる。
【0044】
光放射222の焦点のサイズΔは100マイクロメートル超である。これによりラマン散乱放射242が更に増強される。何故ならば、同時に多数の試料物質の分子が照射されるからである。更には、後述するように、空隙248のサイズと形とを綿密に設計することにより、ラマン散乱放射242が生じる方向を制御及び予測することが可能となり、適切に配置された小さな立体角の収集用光学系が、ラマン散乱信号を高い割合で収集することができるようになる。
【0045】
光源220は、数十ミリワットの出力を有する小さなレーザダイオードとすることができる。レーザダイオードのアレイを用いてもよい。入力チャネルレンズ262は基板240から距離Lだけ離れている。レンズ262は高い開口数を有する必要がないので、基板240から1cm以上離すことができる。レンズ262(または、例えば光ファイバ等の他の光放射を集める開口部)は0.4未満の開口数を有することが好ましい。開口数が0.1未満であることが更に好ましい。これにより、ラマン分光器200を用いて、基板240上を流れる流体(液体/気体)を分析することが可能となる。
【0046】
スペクトル分析器286は、ラマン散乱放射242の空間分離用の装置と、ラマン散乱放射242の測定用の検出器とを備える。本実施例においては、スペクトル分析器286は、固定された格子と、ラマン散乱放射242のスペクトル成分を検出するためのダイオードのアレイ(図示せず)とを備える。従来の走査型スペクトル分離器を用いてラマン散乱放射242を検出してもよいことは理解されたい。例えば、レニショー社のinViaラマンマイクロスコープの検出器と精密な格子ステージを用いてもよい。しかしながら、本実施例の利点は、分光器200を超小型かつ携帯可能に作成可能であるという点である。これに加えて、従来の分光器に対して信頼性と検出速度が改善されている。何故ならば、機械的に動作するスペクトル分離器を用いて、ラマン散乱放射の波長範囲に亘って走査する必要がないからである。
【0047】
図3は本発明の第2実施例によるラマン分光器300を示す。分光器300は光源320と、基板340と、検出パッケージ380とを備える。
【0048】
光源320はレーザダイオードを備える。レーザダイオードは光放射322のビームを発生させる。ビームは第1フィルタでフィルタリングされて、単色ビームが生じる。光放射322は基板340の光学的に透明な支持層344に結合される。支持層344から支持層上に形成された金属膜346内へと光放射322を結合するためのブレーズド格子が支持層344に形成されている。光放射322は、金属膜346内に形成された空隙348内にプラズモンを励起する。
【0049】
試料物質は空隙348内に配置され、光放射322により発生したプラズモンに応じて、ラマン散乱放射342を励起する。ラマン散乱放射342は、空隙348の形状とサイズに依存した方向へと金属膜346から放出される。ラマン散乱放射342は検出パッケージ380で捕捉され、ラマン散乱放射342のスペクトルを表すラマン信号へと変換される。ラマン散乱放射342は、基板340から距離Lだけ離れたレンズ362によって捕捉される。Lは1cmを超える距離とすることができる。レンズ362によって収集されたラマン散乱放射は、基板340から生じた散乱されていない光をはじくために用いられる第2フィルタ364によってフィルタリングされる。フィルタリングされたラマン散乱放射はスペクトル分析器386によって、ラマン信号へと変換される。
【0050】
スペクトル分析器386はスペクトル分離器を備える。この場合、スペクトル分離器は、ラマン散乱放射342を様々なスペクトル成分へと分離する固定された格子を含む。スペクトル成分は角度的に分離されて、スペクトル分析器386内に収納されたダイオードのアレイ上に当たる。ダイオードのアレイの各々のダイオードは、ラマン散乱放射342のスペクトル成分を測定するために用いられる。
【0051】
ダイオードのアレイに結合された電子回路は、ラマン散乱放射342に対するスペクトルを記録する。電子回路(図示せず)は、ラマンスペクトルのデータを記録し処理するためのコンピュータシステムに結合させることができる。測定されたラマンスペクトルに依存して基板の物質の種類を特定するためのソフトウェアが提供されてもよい。
【0052】
図4は本発明の第3実施例によるラマン分光器400を示す。ラマン分光400は、光放射422を発生させるための光源420を備える。光放射422は第1フィルタ424でフィルタリングされ、基板440内に形成された光学的に透明な支持層444に誘導される。光放射422は、支持層444上に形成された金属膜446に、距離Δに亘って結合する。距離Δは100マイクロメートル超とすることができる。
【0053】
光放射422は、金属膜446内に形成された空隙448内にプラズモンを励起する。プラズモンは、空隙448近傍に配置された試料物質へエネルギーを結合する。励起された試料物質により、プラズモンを介して光学的に透明な支持層444に戻って結合するラマン散乱エネルギーが上昇する。支持層444は、支持層444を介してラマン散乱放射442を誘導する導波路として機能する。
【0054】
支持層444から生じるラマン散乱放射442を検出するための検出パッケージ480が提供される。検出パッケージ480は、入力チャネル光学系460と、スペクトル分析器486とを備える。入力チャネル光学系460は、レンズ462と、光源420により発生し弾性散乱されたフォトンをはじくために用いられる第2フィルタ464とを備える。スペクトル分析器486は、固定された格子と、ダイオードのアレイとを備える。ダイオードのアレイの各々のダイオードは、ラマン散乱放射442のスペクトル成分を測定するために用いられる。
【0055】
電子回路(図示せず)は、ラマンスペクトルを再構築するために、ダイオードのアレイの各々のダイオードからデータを集める。ラマンスペクトルに関するデータを、更なる分析、識別または記憶用のコンピュータシステムに提供するように電子回路を設計することができる。例えば、このようなコンピュータシステムで動作するソフトウェアを用いて、測定されたラマンスペクトルに従って、試料物質を特定することができる。
【0056】
図5は、試料物質からラマンスペクトルを得るための方法500を例示する流れ図である。方法500は、図2から4に関連して説明したラマン分光器と組み合わせて用いることができる。
【0057】
ステップ502は、複数の空隙を含む基板の表面に試料物質を含む流体を流入させることを含む。
【0058】
ステップ504は、空隙に閉じ込められた表面プラズモンを発生させるために、光放射を発生させる光源を稼動させる段階である。表面プラズモンは、試料物質から、増強ラマン散乱放射信号を励起する。
【0059】
ステップ506は、光源の稼動に応じて試料物質によって発生したラマン散乱放射のラマンスペクトルを決定するために、スペクトル分析器を操作する段階である。スペクトル分析器の操作には、格子を回転させることと、信号光検出器からの信号を記録することとが伴ってもよい。代わりに、光ダイオードのアレイと、固定されたスペクトル分離器とを用いてもよい。
【0060】
ステップ508は検出段階である。検出段階は、更なるラマンスペクトルが必要であるか否かを決定することを伴う。この動作は、例えば、複数のラマンスペクトルを発生させることができまたラマン分光器を制御することができるコンピュータシステムに予めプログラムされていてもよい。このようなコンピュータシステムが更なるスペクトルを得ることを決定した場合には、本方法はステップ510に移行する。そうでなければ、本方法は終了する。
【0061】
ステップ510は金属膜の電気ポテンシャルを変更する段階である。金属膜に印加される電気ポテンシャルを変更することによって、試料物質の物性を変化させることが可能である。ポテンシャルが印加された特定のバイアスにおいては、基板表面に吸着種の化学反応を生じさせることができる。その後、吸着分子の変化は、高速検出を用いて実時間で得られるラマンスペクトルの時系列から追跡可能である。
【0062】
金属膜のポテンシャルが増加的に変更されると、方法は再びステップ506に移行し、変更された電気ポテンシャルに晒されている試料物質に対して、更なるラマンスペクトルを得ることができる。
【0063】
図6は、図2のラマン分光器を用いて得られた、ベンゼンチオールを含む試料物質のラマンスペクトル600を示す。図は、複数の空隙を含む金の金属膜を有する基板上に配置されたベンゼンチオールから得られた一組のラマンスペクトルを示す。空隙は、直径600nmの切頭された球の形状を有する。様々な厚さの膜を用いて、図に示された曲線AからHが得られた。ここで、Aは100nm、Bは160nm、Cは220nm、Dは280nm、Eは340nm、Fは460nm、Gは52nm、Hは400nmの厚さに対するものである。スペクトルは、空隙の性質を変更することによって、如何にラマン断面積の大きな増強を得ることができるかを示す。平坦な金表面に対しては、全く信号が観測されない。しかしながら、空隙の物性を変化させると、数10の最大強度の増強が観測された。更には、基板を標準的なラマン分光器に配置して結果を得てみると、各々のスペクトルを導出するための積分時間は、5秒という従来の標準的な積分時間と比較して、たった50ミリ秒であった。
【0064】
図7は、様々な電気ポテンシャルを金属膜に印加して得られた溶液中のピリジンの一組のラマンスペクトルを示す。ラマンスペクトルの曲線AからGは、明確にするためにお互いに垂直方向にずらして示されている。ラマンスペクトル620は、図2のラマン分光器を図5の方法に従って動作させて得られたものである。ラマンスペクトルは、基板構造の効果によって増強されている。この場合、数10という比率である。金属膜に印加される電気ポテンシャルを変更すると、明確な形状の増強されたピークを発達させるスペクトルが顕著なものとなる。金属膜に−1.0ボルトのポテンシャルを印加した場合の曲線における主要なピークは、溶液中の多数の分子によるものである(曲線G)。新しいピークが0.2ボルトから−0.2ボルトという臨界ポテンシャルにおいて生じることが観測されるが(曲線AからC)、これは基板上に吸着した数個の分子によるものであり、分子構造の変化として化学反応が生じたことを直接観測していることを示すものである。
【0065】
図8A及び8Bは、複数の空隙を有する金属膜を含む基板に対する、ラマン信号の増強の予測を示すモデル化されたデータを示す。増強の予測は下記の式を用いて計算される(非特許文献1)。
ε(ka)[kaJ(ka)]’
=ε(ka)[kaH(ka)]’ (1)
ここで、JとHは球ベッセルとハンケル関数であり、プライム符号は独立変数(ka)についての微分を示す。εとεは球の内側と外側の誘電率であり、対応する波数
【数1】

を有する。ε=1とし、外部の物質がε(ω)=1−ω/ωの“理想的な”金属であると仮定する。ここで、ωは三次元のプラズマ振動数である。振動数がωの単位で表される場合には、球に対する式(1)の解は、角運動量量子数lと、規格化された球の半径R=aω/cにのみ依存する。対称性により方位量子数mに関しては縮退する。
【0066】
様々な金属に対する周知の複素誘電率の一覧表は、確固たる文献によるものを用いた。式(1)は、プラズモン相互作用の割合の分母である。それぞれの波長におけるこの式のミスマッチの反転を取ることによって、増強が見積もられる。これはあくまで見積もりである。何故ならば、式(1)が実部と虚部の両方に対して厳密に満たされると、無限の増強が予測されてしまうからである。実際には、式(1)の虚部が厳密に満たされることはないので、最大増強は制限される。このように理論的に導出された見積もりを用いることは、科学分野においては比較的よく行われることである。
【0067】
図8Aは、プラズモンの角度と運動量がl=1のモードに閉じ込められている様々な金属に対する増強の予測を示す。
【0068】
図8Bは、空隙がプラズモンをl=2のモードに閉じ込める様々な金属に対するラマン増強の予測を示す。
【0069】
図8Aと8Bとは共に、空隙のサイズを綿密に選択して、空隙内に形成されるプラズモンのモードに適合させることにより、発明者の実験から既にわかっているものを超えるような増強された結合を得ることが可能であることを示す。略10から略1015に及ぶ増強が、理論的な研究により予測されている。
【0070】
図9は、光放射の所定の波長において、光エネルギーを表面プラズモンに結合させる効率を増強させた基板を作成する方法を例示する流れ図700である。本方法は、入射光放射の所望の波長に対して、金属膜に設けられた空隙が強力なプラズモンの発生を上昇させることを確実にすることによって特定の応用における基板の性能を最適化するための実験的及び理論的研究を用いることに基づいている。
【0071】
ステップ702は、特定の応用への波長及び金属の種類を選択することを伴う。基板をラマン分光法に用いる場合、このことは用いられる試料物質に依存する。例えば、試料物質は他のピークよりも一般的に強いラマンスペクトルの周知のピークを有することが多い。この場合、波長は、最も関心のある様々なラマンスペクトルのものを励起させるように選択される。更に、金属の種類は試料物質との反応性を最小にするように選択されてもよく、こうすることにより、スペクトル特性が、基板を形成するために用いられた金属と試料物質との組み合わせからではなく、試料物質単独からによるものであることが確実になる。
【0072】
ステップ704では、試料物質に対して選択された波長を、得られる空隙のサイズに適合させることが必要とされる。本発明による基板の製造方法においては、所定の範囲の物質が、空隙を形成するために利用可能である。例えば、所定の数と所定の範囲のサイズのラテックス球を利用して、空隙を設けることができる。マトリックスを形成するために、作成可能な空隙のサイズに対して空隙の特性を最も良く適合させる一つのサイズを選択する必要がある。例えば、直径700ナノメートルのラテックス球は容易に得ることが可能であり、空隙を形成するために用いることが可能である。
【0073】
ステップ706には、所望の光応答を生じさせるのに必要な膜の厚さを確定することが含まれる。最適化された厚さを確定することには、規格化された形で図14Bに示されているデータを用いて、或る直径の空隙に対してどの波長で局在プラズモン共鳴が生じるのかを決定することが含まれる。局在プラズモンに励起波長(及び/又はSERSの放出波長)を同調させることが望ましいために、膜の厚さはこの方法を用いて決定される。
【0074】
ステップ708には、特定の応用で用いられる基板を設計する際に、所望の光学特性を有する金属膜を提供するために必要とされる電荷を計算することが含まれる。本発明者は、特定の大きさの空隙を有する特定の厚さの膜を成長させるのに必要とされる単位面積当たりの電荷を検量した。しかしながら、この計算は第一原理から導くことも可能であり、それぞれの金属の堆積を特定の数の電子と関連付けて、空隙の幾何学構造から特定の厚さを占めるように堆積させるのに必要な金属原子の量が計算される。
【0075】
ステップ710には、ラテックス球を基板のベース上に堆積させて型板を形成することが含まれる。ラテックス球を堆積させて、基板上に金属膜を形成する方法については、本発明者の非特許文献4、非特許文献6、非特許文献7に記載されている。非特許文献4、非特許文献6、非特許文献7の全内容は本願で参照される。
【0076】
ステップ712には、型板を形成するラテックス球を取り囲む電解液を導入することが含まれる。電解液は、金属膜を形成する前に予め選択された種類の金属イオンを含む。電解液は型板に浸透する。
【0077】
ステップ714では、電解液が電気分解される。予め計算された所定の電荷が溶液を介することによって、金属イオンが溶液から析出して金属膜を形成する。電荷の量により、堆積される金属膜の厚さが決定する。
【0078】
ステップ716では、ラテックス球の型板を、有機溶媒を用いて溶解する。ラテックス球の型板を溶解することにより、ラテックス球が存在していた場所に形成された空隙を有する金属基板が残る。
【0079】
ステップ718では、基板が洗浄及び乾燥されて、有機溶媒の残存物が取り除かれて、クリーンで光活性な表面の金属膜が得られる。
【0080】
任意ではあるが、様々な基板の製造に引き続いて、様々な試料物質で基板をコーティングすることが可能である。これにより、特定の試料物質を分析するために用いることができる準備の整った基板が提供される。特定のターゲット分子に選択的に結合する様々な有機物質が基板に提供されてもよい。例えば、選択的な結合のために特定のDNAやRNA塩基配列をターゲットにする様々なオリゴヌクレオチド(DNAやRNAの断片)が、基板に沿って提供される。
【0081】
図10Aは、空隙748内に形成されたプラズモンのエネルギー状態752、754の概略図を示す。空隙748は、金属膜746内に形成された空隙表面750により画定される。空隙748は半球形の金属皿のような形状をしており、ラテックスの球形の形成体の周りに金属を電気化学的に成長させることによって形成することができる。電磁的なモードであるプラズモンは、球形の空隙内に主に局在的に存在する。プラズモンが励起されると、プラズモンは、光を放射することによって、または金属表面750内の個々の電子にエネルギーを伝達することによって減衰する。
【0082】
空隙表面750は、金属膜の物理的なパラメータに基づいて、特定の入射角でプラズモン共鳴が得られるように設計することが可能である。予測可能である特定の入射角においてのみ、特定の波長の光は局在プラズモンと結合する。この結合は、膜の厚さと、球形の空隙の直径と、金属の種類と、偏光とに依存する。
【0083】
図10Bは、切頭された球の形状を有する空隙748の概略図を示す。
【0084】
図10Cは、複数の空隙748を有する金属膜746の斜視図を示す。金属膜746は本発明の多様な実施例において用いられる基板と組み合わせることができる。
【0085】
図10Dは、図10Cに示される金属膜746の平面図を示す。走査型電子顕微鏡を用いて金属膜746を画像化ことによって、平面図が得られる。金属膜746を形成するための型板として用いられるラテックス球の直径は700ナノメートルである。
【0086】
図11は、或る動作モードにおける図2に示すラマン分光器200を概略的に示す。光放射722は第1レンズ762を介して金属膜746上に集光される。金属膜746は複数の空隙748を備える。試料物質を含む流体は、矢印756の方向に向かって金属膜746上を流れる。ラマン散乱放射742が試料物質により生じる。ラマン散乱放射742は第2レンズ766によって収集され、ラマンスペクトルを導出するために分析される。表面増強ラマン散乱光の放出角(θ)は光放射の入射角(θ)とは異なる。金属膜746は開口数の高いレンズを用いる必要のない分光器となるように開発することができる。開口数の高いレンズは試料からの動作距離が短く、試料から発する光を可能な限り多数の角度から捕捉できるようになっている。一方、本発明の実施例においては、基板の更に広い領域を同時に調べることができる。また、より多くのフォトンが集められるので、観測されるラマン信号が増大する。更に、基本表面の近傍に配置する必要のない光学系を用いて、ラマン信号を収集することが可能となる。
【0087】
また、基板表面の単層の試料物質の化学的性質の実時間の変化を直接観測可能であることもわかった。基板は、試料物質を含む溶液中に配置される。光放射は溶液を通過して、基板近傍の試料物質を励起する。基板表面上の電気ポテンシャルにより溶液にポテンシャルを印加することによって、試料物質の分子を表面上に、選択的で電気化学的に結合させることが可能である。表面近傍で発生したラマン散乱フォトンを、表面から離れた溶液中の分子によって発生したラマン散乱フォトンから分離することが難しかったために、こうすることは以前では実用的ではなかった。しかしながら、本発明においては、表面の分子により増強ラマン信号が得られるので、表面近傍の試料物質から生じるラマン信号が支配的であり、表面から離れた溶液体から生じるラマン信号を圧倒する。
【0088】
従って、本発明により、表面の化学反応の進行を実時間で追跡することが可能となった。この場合、レーザパルスを用いて表面の化学反応を開始させて、空隙内に発生したプラズモンを介して試料物質の分子を励起してもよい。増強ラマン信号により、単一の空隙内に含まれる少数の分子を研究することも可能となった。これに加えて、本発明者の理論研究により、増強ラマン信号は、プラチナベースの基板またはパラジウムベースの基板を用いても引き出せることが予測された。これにより、触媒の直接的な研究が可能となる。
【0089】
図12は、表面増強ラマン分光法のプロセスを概略的に示す。光放射822のフォトンは、基板840の金属表面上に入射する。フォトンは金属表面に入射して、表面プラズモン852の形で電磁的な乱れを増加させる。表面プラズモン852は、基板840表面から試料物質858内へとエネルギーを結合させる。プラズモンのエネルギーは、フォトンのエネルギーと結合し、更なる表面プラズモン854へと変換する。続いて、プラズモン854はエネルギーをラマン散乱フォトン842へと伝える。
【0090】
平坦な金属膜では、十分に入射光をプラズモンに変換せず、プラズモンを放出フォトンに変換しない。しかしながら、本発明の空隙においては、空隙のサイズと形状を綿密に選択することによって制御された方法が得られる。
【0091】
図13Aは、金属球上のプラズモン場の強度を概略的に示す。球面上の及びその周辺のプラズモンの強度は高くなく、ゆっくりとしか減衰しない。これはつまり、金属球の表面上に生じるプラズモンは、入射フォトンから球の近傍に配置された試料物質へとエネルギーを結合させて増強ラマン信号を得るのに最適ではないということである。このことは、現存するSERS装置で用いられる様々な粗い表面があまり効果的ではないことの理由の一つである。
【0092】
図13Bから13Gは完全な球形の空隙に対するプラズモン場の強度を概略的に示す。
図13Cから13Gは、励起されるプラズモンの角運動量(l,m)に依存した様々なモードとして如何にプラズモン場の強度が現れるのかを示す。それぞれの場合において、場の強度が強い“ホットスポット”が少なくとも一つ発達しており、空隙内部に示された明るい色合いの領域として示されている。強い場の強度により、入射光放射から、空隙内または近傍に配置された試料物質へと効率的にエネルギーを結合させることが可能となる。
【0093】
図14Aは、厚さがゼロ近く(薄い)から略700ナノメートル(厚い)へと増加した際の様々な厚さの空隙に対する反射スペクトルを示す。光放射は基板表面に対して直角に入射する。
【0094】
図14Bは、金の金属膜内の様々な厚さの切頭された球形の空隙に対するプラズモンのモードを示す。金属膜は、図14Aに示す結果を得るのに用いられたものと同じである。プラズモンのモードは、反射率のデータから導き出されており、そのエネルギーは、平坦な金属膜上のプラズモン、つまり二次元(2D)プラズモンのエネルギーと比較されている。また、このプラズモンのエネルギーは、異なる角運動量の値l=1、l=2に対して、完全な球形の空隙のプラズモン、つまりゼロ次元(0D)プラズモンのエネルギーとも比較されている。局在プラズモン(ミーモード、M1及びM2として知られている)は、非常に浅い空隙に対して、2Dプラズモンと同じエネルギーから出発する。空隙が厚くなるにつれてエネルギーは減少し、厚さが700ナノメートルに近づくにつれて、完全な球形の空隙のエネルギーに向かう。このことはデータから明らかであり、またデータは理論的な限界(2D及び0D)も示しており、実験データはこれらの限界の間を滑らかに動いている。この情報は有益なものであり、金属膜を調整して、特定の波長の光放射をプラズモン内に効率的に結合することが可能となる。
【0095】
追加として二つのモードもデータに示されている。これらは局在モード(L3)及びブラッグモード(B4)として知られている。局在モード(L3)は空隙間内の平坦な金表面に沿って移動する2Dプラズモンにより生じる。これらは、空隙間内の金上ではなくて、空隙上方のギャップ内に局在し得る。このモードもまた増強ラマン信号を上昇させるものと予測される。
【0096】
図15は、入射光放射の波長に従って、また入射偏光の様々な角度と金属膜の配置に対して、如何に厚さの異なる金属膜の反射率が異なるのかを示すデータである。
【0097】
基板は金から作られた金属膜を備える。金属膜は略5mmの長さである。金属膜内に形成された空隙は、ゼロmmの位置の深さがゼロ(つまり平坦)から、5mmの位置の深さが700ナノメートルまでで異なる。角度φは基板に垂直な試料の回転角を表す。切頭された球形の空隙が六方状に詰め込まれていて回転が0°から30°の間であるために、基板は六回対称である。角度θは、基板表面に対しての光放射の入射角である。垂直な入射は0°の時であり、測定は3°間隔で27°まで行われた。測定は横電場及び横磁場の両方に対して行われた。この結果を得るための光学的な設定の更なる詳細については、非特許文献5を参照されたい。
【0098】
データには、完全な球形の空隙においては角度依存性が無いが、切頭された球形の空隙においては、異なる角度に異なる波長で放出する局在プラズモンが増加することが示されている。実験結果との比較からまたは理論から導出される実験結果を修正したものから予測可能な方法で、それぞれのモードは角度と共に波長を変化させる。球形の空隙を切頭することによって、双極子、四重極子、六重極子等のプラズモンの結合が生じ、結合したプラズモンのモードを更に高いエネルギーへとシフトさせて、角度依存性を誘導する。金属境界上のこれらのモードのいくつか(例えば、(l,m)=(1,0),(2,0))に対する強力な光場の存在により、構造体上に当たる光が局在プラズモンに強力に結合することが可能となる。この過程はモデル化可能である(例えば、図8A及び8Bを参照)。更に、本発明者のデータを用いることにより、プラチナ及びニッケル内にプラズモンを閉じ込める空隙を備えた基板を製造することが可能となった。これらの材料はどちらも、その触媒としての性質により興味深いものである。
【0099】
図16Aは、基板内に形成された導波路からの光放射の結合によって空隙内に形成されたプラズモンの概略的な図を示す。基板940は、屈折率の低いガラスを用いて作られた支持層944を備える。屈折率の高いガラスの導波路層947が支持層944上に形成される。複数の空隙948と組み合わせられた金属膜946が導波路層947上に形成される。光放射922は導波路層947内に導かれる。
【0100】
空隙948が導波路層947に近接している場合、光放射922は空隙948の表面に結合することができる。この結合により、空隙948内にプラズモンが発生する。プラズモン952は、空隙948内の試料物質に結合することが可能であり、ラマン散乱放射942が発生する。ラマン散乱放射942の一部は導波路層947内に戻って結合し、空隙948から離れて検出可能である。
【0101】
空隙と光導波路を組み合わせることにより、入射光放射または出力表面の増強ラマン信号のいずれかまたはその両方が、導波路を介して注入または収集可能である。第1例においては、光放射は光導波路を介して供給され、エバネッセント結合を介して局在プラズモンに結合する。本発明者は、ガラス支持層上に導波路を形成する酸化インジウムスズ(indium tin oxide,ITO)層上に形成された金の金属膜を用いてこのような装置を作成した。
【0102】
図17Aから17Dは、空隙の幾何学構造を変形することによって、試料物質内への光放射の結合を改善する様々な方法を示す。図17Aにおいては、金属球1049が空隙1048内に配置されている。金属球は金、銀または銅の球であってもよく、固体のものであるかまたは誘電体のコアを有するもののどちらかである。理論的な予測により、このような球を用いることによって、更なる増強ラマン信号の上昇が得られることが示されている。
【0103】
図17Bは、マイクロキャビティを形成するために空隙1148上に配置されたミラー装置1149を示す。マイクロキャビティは、増幅のために特定の波長のバンドを選択することによってラマン信号を増強する。キャビティの長さを調節することによって、特定の組の波長が増幅可能である。ミラー装置1149は、誘電体のブラッグ反射板または、金属薄膜層であってもよい。これに加えて、この幾何学構造により、MEMS装置を基板と組み合わせて構築することが可能となる。
【0104】
図17C及び17Dは、如何に電気化学的に成長させた金属上部層を提供して空隙を変形させることが可能なのかを図示する。図17Cには、金層1246が張り出している銀層1249と共に与えられている。図17Dには、金層1346がオーバーエッチングされた銀層1349と共に与えられている。
【0105】
図18は、光放射1422をフィルタリングするための光学装置1400を示す。光学装置1400は、複数の空隙1448を含む金属膜1446を有する基板1440を備える。空隙1448は、特定の角度で特定の波長の放射を放出するように設計されている。光学装置1400は、或る所定の角度において基板1440から生じる放射をブロックするために光学開口部1470を含む。所定の波長を有する放射1442のみが光学装置1400から生じることができる。従って、光学装置1400は、光放射1422をフィルタリングするものとして機能する。
【0106】
図19は、図18に示される光学装置1400の使用方法を例示する流れ図1500である。
【0107】
ステップ1502においては、フィルタリングされる放射を発生させることが要求される。光放射は光学装置に供給される。
【0108】
ステップ1504には、フィルタリングされる放射を基板から反射させることが伴う。基板は、波長に従って放射を分散させる。或る所定の波長の放射が、或る特定の角度で基板表面から発する。
【0109】
ステップ1506は、或る所定の角度では基板から生じない入射放射の成分を取り除くために反射放射を視準することを備える。一実施例においては、ピンホールや同様のものが、分散した光放射を選択的にブロックするために用いられる。従って、基板から反射した放射の角度の分散および視準によって、入射光放射をフィルタリングすることが可能となる。
【0110】
本発明について様々な実施例に関して説明してきたが、当業者であれば多くの変形例を予見できるであろう。例えば、一つの可能性として、光ファイバのプローブを用い、その先端に半透明の基板を形成して、光が光ファイバから基板上へと結合可能となり、SERSフォトンが光ファイバに戻る方向に検出可能となる例が挙げられる。このようなプローブは、顕微鏡対物レンズや他のレンズを用いずに耐水性プローブとして製造可能である。更に、当業者であれば、本発明の更なる実施例を得るために必要に応じて異なる実施例の様々な特徴を組み合わせてもよいことを理解できるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0111】
【図1】従来のラマン分光器を示す。
【図2】本発明によるラマン分光器の第1実施例を示す。
【図3】本発明によるラマン分光器の第2実施例を示す。
【図4】本発明によるラマン分光器の第3実施例を示す。
【図5】本発明の実施例による試料物質からラマンスペクトルを得る方法を例示する流れ図である。
【図6】本発明によるラマン分光器の第1実施例を用いて得られたベンゼンチオールのラマンスペクトルを示す。
【図7】本発明によるラマン分光器の第1実施例の金属膜に対して溶液中で印加された様々な電気ポテンシャルによって得られたピリジンの一組のラマンスペクトルを示す。
【図8A】本発明による様々な金属を用いて作成した金属膜と組み合わせた基板に対するラマン信号の増強の予測を表すモデル化されたデータを示す。
【図8B】本発明による様々な金属を用いて作成した金属膜と組み合わせた基板に対するラマン信号の増強の予測を表すモデル化されたデータを示す。
【図9】本発明の実施例による光放射の所定の波長において光エネルギーを表面プラズモンに結合させる効率を増強させた基板を作成する方法を例示する流れ図である。
【図10A】本発明の多様な実施例による空隙内に形成されたプラズモンの概略図を示す。
【図10B】本発明の多様な実施例において用いられる切頭された球の形状を有する空隙の概略図を示す。
【図10C】本発明の実施例による基板の金属膜の斜視図を示す。
【図10D】走査型電子顕微鏡(scanning electron microscope,SEM)を用いて得られる図10Cの金属膜の平面図を示す。
【図11】或る動作モードにおける本発明によるラマン分光器の第1実施例を概略的に示す。
【図12】本発明の様々な実施例に対して用いられる表面増強ラマン分光法のプロセスを概略的に示す。
【図13A】金属球上のプラズモン場の強度を概略的に示す。
【図13B】様々な角運動量のプラズモンに対する完全な球形の空隙内のプラズモン場の強度を概略的に示す。
【図13C】様々な角運動量のプラズモンに対する完全な球形の空隙内のプラズモン場の強度を概略的に示す。
【図13D】様々な角運動量のプラズモンに対する完全な球形の空隙内のプラズモン場の強度を概略的に示す。
【図13E】様々な角運動量のプラズモンに対する完全な球形の空隙内のプラズモン場の強度を概略的に示す。
【図13F】様々な角運動量のプラズモンに対する完全な球形の空隙内のプラズモン場の強度を概略的に示す。
【図13G】様々な角運動量のプラズモンに対する完全な球形の空隙内のプラズモン場の強度を概略的に示す。
【図14A】本発明の様々な実施例において用いられる金の金属膜内の切頭された球形の空隙の異なる厚さに対する反射スペクトルを示す。
【図14B】本発明の様々な実施例において用いられる金の金属膜内の切頭された球形の空隙の異なる厚さに対するプラズモンのモードを示す。
【図15】入射光放射の波長に従って、また入射偏光の様々な角度と金属膜の配置に対して、如何に厚さの異なる金属膜の反射率が異なるのかを示すデータである。
【図16A】本発明の様々な実施例において用いられる基板内に形成された導波路からの光放射の結合によって空隙内に形成されたプラズモンの概略図を示す。
【図16B】図16Aに示される導波路内に光放射を発生させるために空隙内に形成されたプラズモンが減衰する様子の概略図を示す。
【図17A】本発明の様々な実施例におけるラマン信号を増強させるための空隙と金属球の組み合わせの概略図である。
【図17B】本発明の様々な実施例における選択的にラマン信号を増強させるための空隙と反射板により形成されたマイクロキャビティの概略図である。
【図17C】本発明の様々な実施例におけるラマン信号を増強させるための張り出している層によって境界が定められた空隙の概略図である。
【図17D】本発明の様々な実施例におけるラマン信号を増強させるためのオーバーエッチングされた層によって境界が定められた空隙の概略図である。
【図18】本発明の実施例による基板を含む光放射フィルタリングするための光学装置である。
【図19】図18の光学装置の使用方法を示す流れ図である。
【符号の説明】
【0112】
100、200、300、400 ラマン分光器
120、220、320、420 光源
122、222、322、422 光放射
124、224、324、424 第1フィルタ
126 ビームスプリッタ
140、240、340、440 試料
142、242、342、442 ラマン散乱放射
160、260、360、460 入力チャネル光学系
162 顕微鏡対物レンズ
164、264、364、464 第2フィルタ
166 レンズ
180 スペクトル分析器
182 スペクトル分離器
184 CCD検出器
244、344、444 支持層
246、346、446 金属膜
248、348、448 空隙
262、362、462 レンズ
286 スペクトル分析器
290 光源/検出器パッケージ
380、480 検出パッケージ
386、486 スペクトル分析器


【特許請求の範囲】
【請求項1】
光放射を発生させるための光源と、
前記光放射を受光するための基板であって、該基板近傍に配置された際に前記光放射から試料物質へとエネルギーを結合させるためのものでありまた前記試料物質から放出する散乱エネルギーをラマン散乱放射へと変換するためのものである表面プラズモンを閉じ込めるための所定のサイズの空隙を複数含む金属膜を備える基板と、
前記基板から生じる前記ラマン散乱放射を分析するためのスペクトル分析器とを備えた試料物質からのラマンスペクトルを得るための分光器。
【請求項2】
前記空隙は切頭された球の形状を有する請求項1に記載の分光器。
【請求項3】
前記空隙は略50nmから略10000nmの直径を有する請求項2に記載の分光器。
【請求項4】
前記基板は略平坦な形状であり、前記空隙は前記基板の平坦な表面の少なくとも一部分上に一様な間隔で配置されている請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の分光器。
【請求項5】
前記基板は前記金属膜を介して試料物質へと前記光放射を結合させるための導波路構造を更に備えた請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の分光器。
【請求項6】
前記スペクトル分析器は前記導波路から生じるラマン散乱放射を収集するように更に設計されている請求項5の記載の分光器。
【請求項7】
前記スペクトル分析器は前記基板から生じる前記ラマン散乱放射を収集するための入力チャネル光学系を備えた請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の分光器。
【請求項8】
前記入力チャネル光学系は0.4未満の開口数を有する請求項7に記載の分光器。
【請求項9】
前記入力チャネル光学系は前記基板に向けて配置された光ファイバの入力チャネルを備えた請求項7または請求項8のいずれかに記載の分光器。
【請求項10】
前記光源はレーザダイオードのアレイを備えた請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の分光器。
【請求項11】
前記基板に近接する請求項1から請求項10のいずれか一項に記載の分光器内に試料物質を投入する段階と、
前記光源を稼動させる段階と、
前記試料物質のラマンスペクトルを得るために前記スペクトル分析器を操作する段階とを備えた試料物質からラマンスペクトルを得る方法。
【請求項12】
前記試料物質を投入する段階は、前記光放射によって照射される領域内の基板を横切るように前記試料物質を含む流体を流入させる段階を備えた請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記基板の前記金属膜の電気ポテンシャルを変化させる段階を更に備えた請求項11また請求項12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
金属膜内に形成された際に所定の波長の光エネルギーを空隙内に形成される表面プラズモンに効率的に結合させるように前記空隙のサイズと形状を決定する段階と、
決定されたサイズと形状の前記空隙を複数有する前記金属膜を備えた基板を形成する段階とを備えた基板上に入射する光放射の所定の波長において光エネルギーを表面プラズモンに結合させる効率を増強させた基板の製造方法。
【請求項15】
前記基板表面上に一様な間隔で配置されている前記空隙を前記金属膜膜に形成する段階を備えた請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記基板からの光放射を前記金属膜を介して結合させるための導波路構造を前記基板内に形成する段階を更に備えた請求項14または請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記空隙のサイズと形状を決定する段階は切頭された球形の空隙のサイズと形状を決定する段階を有する請求項14から請求項16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記切頭された球形の空隙の直径は前記光放射の所定の波長における大きさと同じオーダーであるように選択されている請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記空隙は略50nmから略10000nmの直径を有する請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記空隙の厚さは、前記空隙内に形成されるゼロ次元プラズモンに前記所定の波長の光エネルギーを結合させるように選択されている請求項17から請求項19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記基板を形成する段階は、
基板表面上に整列させた球形粒子の型板を堆積させる段階と、
前記型板を取り囲む金属イオンを含んだ溶液を介して所定の量の電荷を与えて前記基板表面上に前記金属膜を堆積させる段階とを備えた請求項14から請求項20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
請求項14から請求項21のいずれか一項に記載の方法に従って作成された基板。
【請求項23】
前記金属膜は、金、プラチナ、銀、銅、パラジウム、コバルト、ニッケルの一つ以上を有する請求項22に記載の基板。
【請求項24】
前記金属膜の前記空隙内に供給された分析用試料物質を更に備えた請求項22または請求項23のいずれかに記載の基板。
【請求項25】
前記試料物質は特定のターゲット分子に選択的に結合する有機物質である請求項24に記載の基板。
【請求項26】
請求項22から請求項25のいずれか一項に記載の基板を有する光学装置。
【請求項27】
請求項26に記載の光学装置の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9】
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【図10A】
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【図10B】
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【図10C】
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【図10D】
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【図11】
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【図12】
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【図13A】
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【図13B】
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【図13C】
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【図13D】
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【図13E】
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【図13F】
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【図13G】
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【図14A】
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【図14B】
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【図15】
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【図16A】
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【図16B】
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【図17A】
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【図17B】
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【図17C】
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【図17D】
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【図18】
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【図19】
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【公表番号】特表2008−512668(P2008−512668A)
【公表日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−530761(P2007−530761)
【出願日】平成17年9月7日(2005.9.7)
【国際出願番号】PCT/GB2005/003454
【国際公開番号】WO2006/027581
【国際公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【出願人】(500125788)ユニバーシティ、オブ、サウサンプトン (12)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITY OF SOUTHAMPTON
【Fターム(参考)】