説明

リガンド固定化方法

【課題】本発明は、従来のリガンド固定化方法を、その少なくとも一方の表面がSiN,Ta25,Nb25,HfO2,ZrO2またはITOからなる基板に適用した場合であっても、リガンドが基板に高密度に結合した基板の製造方法,該製造方法によって得られるリガンド固定化基板,および,該基板を使用する分子間相互作用検出方法を提供することを課題とする。
【解決手段】SiN,Ta25,Nb25,HfO2,ZrO2およびITOからなる群から選択される少なくとも1種からなる基板の表面に、液相でリガンドを固定化させる工程を含むリガンド固定化基板の製造方法であって、該液相に含有される界面活性剤が、0質量%以上0.001質量%未満であることを特徴とする製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反射干渉分光法〔Reflectometric Interference Spectroscopy;RIfS〕用のセンサーチップとして好適な基板の製造方法,該製造方法によって得られる基板,および,該基板を使用する分子間相互作用検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生体分子や有機高分子間の結合(分子間相互作用)を、標識を用いることなく直接的に検出する手法の研究開発が進められている。例えば、光学薄膜の干渉色変化を利用したRIfSが提案され、実用化もされている。その他にも、表面プラズモン共鳴〔Surface Plasmon Resonance;SPR〕法や水晶発振子マイクロバランス〔Quartz Crystal Microbalance;QCM〕法などの手法が知られている。
【0003】
これらの分子間相互作用検出装置には、被測定物質(アナライト)に対応する捕捉物質(リガンド)が表層に固定化された、センサーチップなどと呼ばれる基板状の測定用部材が用いられる。そして、被測定物質と捕捉物質との間に働く分子間相互作用としては、これまで、抗原抗体反応,DNAハイブリダイゼーション,糖・レクチン相互作用などを利用することが一般的であった。例えば、ある抗原を被測定物質とするセンサーチップの表面には、それと特異的に結合しうる抗体が捕捉物質として固定化されている。
【0004】
このようにリガンドをセンサーチップに固定化する方法として数多く存在するが、例えば、SPR用の測定装置「Biacore」(GEヘルスケア社)のマイクロ流路系において、所定の試薬の存在下に、金基板を修飾しているカルボキシル基と、リガンドが有するアミノ基とを反応させるアミドカップリングなどが挙げられる。この方法は、界面活性剤としてSurfactant20(Tween20)を含む、HBS−EPと呼ばれる溶媒を用いることをメーカーが推奨している。
【0005】
しかしながら、この方法を、表面がSiN,Ta25,Nb25,HfO2,ZrO2またはITOからなる基板に適用した場合、リガンドが基板にまったく結合しなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、従来のリガンド固定化方法を、その少なくとも一方の表面がSiN,Ta25,Nb25,HfO2,ZrO2および/またはITOからなる基板の表面に適用した場合であっても、リガンドが基板に高密度に結合した基板の製造方法,該製造方法によって得られる基板,および,該基板を使用する分子間相互作用検出方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、従来のリガンド固定化方法を、SiN,Ta25,Nb25,HfO2,ZrO2および/またはITOからなる基板の表面に適用した場合に、界面活性剤を含むメーカー推奨の溶媒の代わりに界面活性剤を含有しない溶媒を用いたら、リガンドが基板に高密度に共有結合したことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は下記の事項を包含する。
[1]SiN〔窒化ケイ素〕,Ta25〔酸化タンタル〕,Nb25〔五酸化ニオブ〕,HfO2〔酸化ハフニウム〕,ZrO2〔二酸化ジルコニウム〕およびITO〔酸化インジウムスズ〕からなる群から選択される少なくとも1種からなる基板の表面に、液相でリガンドを固定化させる工程を含むリガンド固定化基板の製造方法であって、
該液相に含有される界面活性剤が、0質量%以上0.001質量%未満であることを特徴とする製造方法。
【0009】
[2]上記リガンドを固定化させる工程において、上記基板の表面が有する修飾基と、上記リガンドが有する反応基とを反応させて共有結合を形成させることにより、当該リガンドを固定化する[1]に記載の製造方法。
【0010】
[3]上記基板の表面が有する修飾基が、シランカップリング剤を用いて導入されたものである[1]または[2]に記載の製造方法。
[4]上記リガンドが、タンパク質,ポリペプチド,核酸および糖からなる群から選択される少なくとも1種である[1]〜[3]のいずれかに記載の製造方法。
【0011】
[5]上記基板が、反射干渉分光法〔Reflectometric Interference Spectroscopy;RIfS〕用,表面プラズモン共鳴法〔SPR〕用または水晶発振子マイクロバランス法〔QCM〕用のセンサーチップである[1]〜[4]のいずれかに記載の製造方法。
【0012】
[6][1]〜[5]のいずれかに記載の製造方法によって製造されることを特徴とするリガンド固定化基板。
[7][6]記載のリガンド固定化基板を使用することを特徴とする、分子間相互作用検出方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、従来のリガンド固定化方法を、SiN,Ta25,Nb25,HfO2,ZrO2および/またはITOからなる基板の表面に適用した場合に、界面活性剤を含有しない溶媒、または、界面活性剤を極少量含有する溶媒を用いることによって、リガンドを基板に高密度に共有結合することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、SiN基板(好ましくはセンサーチップ)表面にカルボキシル基を介してリガンドを固定化する反応を模式的に示した図を表す。
【図2】図2は、実施例1の結果(a),実施例2の結果(b)および比較例1の結果(c)を示す。
【図3】図3は、RIfSに用いる本発明の実施形態の一例の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明のリガンド固定化基板の製造方法、その製造方法により得られる該基板、ならびに該基板を使用する分子間相互作用検出方法の実施形態について詳述する。
なお、本件明細書において「分子間相互作用検出方法」とは、分析用部材(センサーチップ)の表面に設けられた分子と、分析対象となる分子との間に何らかの相互作用が働いたときに現れるシグナルを検出する方法である。このような分子間相互作用検出方法としては、代表的には、RIfS,SPR,QCMが挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、「分子間相互作用検出装置」とは、上記の分子間相互作用検出方法を実施するための装置である。
【0016】
<リガンド固定化基板の製造方法および該基板>
本発明に係るリガンド固定化基板の製造方法に用いる基板は、SiN〔窒化ケイ素〕,Ta25〔酸化タンタル〕,Nb25〔五酸化ニオブ〕,HfO2〔酸化ハフニウム〕,ZrO2〔二酸化ジルコニウム〕およびITO〔酸化インジウムスズ〕からなる群から選択される少なくとも1種からなる表面を有するものである。
【0017】
なお、基板の表面がSiNである場合、空気に触れた瞬間から酸化膜が形成される。この酸化膜は少なからずヒドロキシル基(水酸基)などの官能基を有し、そのため、後述するようにシランカップリング剤を利用して修飾基を導入することが可能である。
【0018】
本発明に係るリガンド固定化基板の製造方法は、上記の所定の基板の表面に、液相でリガンドを固定化させる工程を含むものであって、該液相に含有される界面活性剤が、0質量%以上0.001質量%未満、好ましくは0質量%以上0.0001質量%未満、最も好ましくは0質量%(つまり界面活性剤を全く含まない)であることを特徴とする。界面活性剤の濃度が低いほど、リガンドの固定化率は高くなる。
【0019】
界面活性剤には、アニオン(陰イオン)界面活性剤、カチオン(陽イオン)界面活性剤および両性界面活性剤を包含するイオン性界面活性剤と、ノニオン(非イオン)性界面活性剤が包含される。本発明においては、たとえば、ノニオン性界面活性剤が好適である。
【0020】
ノニオン性界面活性剤には、エステルエーテル型、エステル型、エーテル型などのものが包含されるが、中でもエステルエーテル型のものが好ましい。エステルエーテル型のノニオン性界面活性剤としては、たとえば、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウラート(東京化成工業株式会社、商品名「Tween20」)、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミタート(同「Tween40」)、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアラート(同「Tween60」)、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレアート(同「Tween80」)、ポリオキシエチレンソルビタントリオレアート(同「Tween85」)が挙げられる。
【0021】
上に例示したような界面活性剤は、いずれか1種を単独で用いても、本発明の作用効果を損なわない範囲において2種以上を混合して用いてもよい。
液相は、一般的には緩衝液(たとえば、酢酸および酢酸ナトリウムを含有する酢酸ナトリウム緩衝液や、リン酸、リン酸ナトリウムおよび食塩を含有するリン酸緩衝生理食塩水)または純水であり、そこに上記所定の範囲の濃度となる量の界面活性剤が添加される。
【0022】
本発明の製造方法のリガンドを固定化させる工程において、基板状の測定部材(センサーチップ等)の表面にリガンドを固定化するためには、各種の手法を採用することができる。代表的な方法の一つとして、基板の表面に修飾基を導入しておき、リガンドが有する反応基と反応させて共有結合を生成することによりリガンドを固定化する方法が挙げられる。このような方法を利用するために、本発明においては、予め、基板の表面にアミノ基,カルボキシル基,エポキシ基,アルデヒド基,チオール基,イソシアネート基およびイソチオシアネート基からなる群から選択される少なくとも1種の修飾基を導入することが好ましい。これらの修飾基は、リガンドが有する(リガンドが本来有するものでも、あらかじめ所定の操作により導入されたものでもよい)チオール基,アミノ基,カルボキシル基,ヒドロキシル基などと反応して共有結合を形成することができる。
【0023】
この修飾基を基板表面に導入する方法としては、例えば、上記修飾基を有するシランカップリング剤を用いる方法や上記修飾基を有するポリマーを、スピンコートを用いて塗布する方法などが挙げられるが、操作上の容易さや基板表面に共有結合により固定化することで修飾基の脱離を防ぐ効果から、シランカップリング剤を用いる方法が好ましい。
【0024】
一般的には、シランカップリング剤の水溶液に基板を所定の時間浸漬しておくことにより、SiNからなる表面に存在する空気中での酸化によって発生した水酸基と、シランカップリング剤由来のシラノール基等とが反応してシランカップリング剤が結合し、シランカップリング剤が有する修飾基で、SiNからなる表面を修飾することができる。
【0025】
上記反応基を有するリガンドとして、タンパク質,ポリペプチド,核酸および糖からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、特にタンパク質が好ましい。タンパク質およびポリペプチドは、それらを構成するアミノ酸の末端または側鎖に、チオール基,アミノ基,カルボキシル基,ヒドロキシル基などの修飾基を有する。
【0026】
一方、核酸や糖(単糖やオリゴ糖または多糖であってもよい。)は、分子構造中にアミノ基またはヒドロキシル基を有するが、通常はカルボキシル基またはチオール基は有さないので、修飾基との関係において所望ならば、これらの反応基を核酸や糖に導入しておいてもよい。たとえば、上記修飾基のうちエポキシ基はアミノ基やヒドロキシル基よりチオール基との反応性が高いことから、該リガンドとして核酸や糖を用いてエポキシ基と反応させる場合、その核酸や糖に予めチオール基を導入しておくことが好ましい。
【0027】
上記の修飾基および反応基の適切な組み合わせや、その組み合わせにより反応させる際の手法は、適切なものを選択することができる。たとえば、修飾基としてカルボキシル基、反応基としてアミノ基が選択される場合は、まず、前記カルボキシル基で修飾された基板表面に、NHS〔N−hydroxysuccinimide〕およびEDC(1−ethyl−3−(3−dimethylaminopropyl) carbodiimide hydrochloride。Water Soluble Carbodiimide: WSCと称されることもある。)の水溶液を接触させて当該カルボキシル基を活性エステル化した後、前記アミノ基を有するリガンドの水溶液を接触させることにより、上記活性エステル化したカルボキシル基とアミノ基との間に共有結合を形成させることができる。また、修飾基としてエポキシ基,アジド基,イソシアネート基またはイソチオシアネート基、反応基としてチオール基,アミノ基またはヒドロキシル基が選択される場合は、特に反応試薬を必要とすることなく、上記エポキシ基等で修飾された基板表面に、上記チオール基等を有するリガンドの水溶液を接触させる(たとえば一定時間、当該水溶液中に当該基板を浸漬する)ことにより、それらの修飾基および反応基の間に共有結合を形成させることができる。その際の反応条件(反応時間、反応温度、pH等)は、適切な範囲に調整すればよい。
【0028】
本発明の製造方法によって製造されるリガンド固定化基板は、反射干渉分光法〔RIfS〕用のセンサーチップに好適であり、表面プラズモン共鳴法〔SPR〕用または水晶発振子マイクロバランス法〔QCM〕用のセンサーチップに適用することもできる。しかしながら、リガンド固定化基板の用途は特に限定されるものではなく、RIfS以外の分子間相互作用検出方法に用いられる測定部材等であってもよいし、あるいは分子間相互作用検出方法以外の方法、例えば蛍光標識等のラベリングを利用する測定方法に用いられる測定部材等であってもよい。
【0029】
<分子間相互作用検出方法>
本実施形態の分子間相互作用検出方法は、上記リガンド固定化基板を使用することを特徴とする。
【0030】
(検出装置の構成)
本実施形態の分子間相互作用検出方法は、公知の一般的な構成を有するRIfS用の分子間相互作用測定装置を用いて実施することができる。このような分子間相互作用測定装置を含む測定システムの実施形態の一例の概要を図1に示す。
【0031】
本測定システム1は、主に、測定部材10,白色光源20,分光器30,および、光伝達部40等から構成される分子間相互作用測定装置100と,制御装置50などから構成されている。
【0032】
測定部材10は、少なくとも基板12aと、その上に形成された光学薄膜12bを含む、センサーチップ12を基本として構成され、通常はさらにフローセル14が当該センサーチップ12に積載される。
【0033】
基板12aは、一般的には矩形で、例えばSi〔シリコン〕製が好ましく、光学薄膜12bは例えばSiN製が好ましい。
フローセル14は、例えばシリコーンゴム(ポリジメチルシロキサン:PDMS)製の、透明な部材である。フローセル14はセンサーチップ12に対して貼り替え可能となっており、ディスポーザブル(使い捨て)使用が可能となっている。フローセル14には溝14aが形成されている。フローセル14をセンサーチップ12に密着させると、密閉流路14bが形成される。溝14aの両端部はフローセル14の表面から露出しており、一方の端部が送液部に接続されて試料溶液60等の各種の溶液が供給される流入口14cとして機能し、他方の端部は廃液部に接続されて試料溶液60等の各種の溶液の流出口14dとして機能するようになっている。
【0034】
光伝達部40は、白色光源20からの白色光を測定部200に導くための第一の光伝達経路としての第一の光ファイバ41と、第一の光ファイバ41からの白色光の照射による反射光を測定部200から分光器30に導くための第二の光伝達経路としての第二の光ファイバ42とを備えている。第一の光ファイバ41の白色光源20側の端部は、当該白色光源20の接続ポートに接続されている。接続ポートに接続された光ファイバ41は光入射端面がハロゲンランプ21に対向するように配置されている。第二の光ファイバ42の分光器30側の端部は、当該分光器30の受光を行う接続ポートに接続されている。
【0035】
上記各光ファイバ41,42は、いずれも微細ファイバを束ねた構造となっている。そして、第一の光ファイバ41と第二の光ファイバ42のフローセル14側の端部は、各々の微細ファイバが一つの束となるように複合的に寄り合わされている。即ち、第一の光ファイバ41を構成する微細ファイバは、フローセル14側の端面において中央に分布し、第二の光ファイバ42を構成する微細ファイバは第一の光ファイバ41の微細ファイバの束を取り囲むようにその周囲に分布している。
【0036】
白色光源20は、ハロゲンランプと、これを格納する筐体とから構成されている。筐体には、第一の光ファイバ41を接続するための接続ポートが設けられている。なお、本実施形態では白色光源を用いているが、これに限られるものではなく、後述する反射率極小波長の変化が検出でき得る波長域にわたって分布する光を発光する光源であればよい。
【0037】
白色光源20が点灯すると、その白色光が第一の光ファイバ41を介して測定部200に照射され、その反射光が光ファイバ42を介して分光器30に導かれる。この分光器30は、受光部で受光する光に含まれる一定の波長間隔ごとの光について光強度を検出し、分光強度として制御装置50に出力する。
【0038】
なお、本実施形態においては、測定部材10からの反射光を分光器30で受光するようにしているが、測定部材10として光透過性のものを用いて、白色光源20からの光を測定部材10に照射し、測定部材10を透過してきた光を受光するように分光器30を配置し、透過光の分光強度を検出するようにしても構わない。
【0039】
なお、本実施形態においては、測定部材10からの反射光を分光器30で受光するようにしているが、測定部材10として光透過性のものを用いて、白色光源20からの光を測定部材10に照射し、測定部材10を透過してきた光を受光するように分光器30を配置し、透過光の分光強度を検出するよう変形することも可能である。
【0040】
制御装置50は、例えばPC〔Personal Computer〕から構成され、オペレータから検出動作の実行の入力を受け付けて、分子間相互作用測定装置100への検出動作制御の実行指令を出力する。これにより、制御装置50は、制御部として機能する。
【0041】
また、制御装置50は演算部としても機能する。制御装置50は、分光器30から測定光の分光強度のデータを取得し、各波長帯域ごとに、測定光の分光強度を基準となる白色光の分光強度で除して反射率を算出する。基準光の分光強度データは、予め装置組み立て調整時に測定して保有していたものでもよいし、その他の手段により例えば測定の都度取得したものでもよい。算出された反射率に基づき反射スペクトルが作成され、反射率極小波長が決定される。
【0042】
反射スペクトルの波形は、通常、微小な凹凸が繰り返されるような不規則な形状を呈しており、反射率極小波長を算出・特定するのが困難な状態となっている場合があるが、例えば、公知の手法を用いて反射スペクトルを高次関数で近似することにより波形を滑らかにし、高次多項式からその解(最小値)を求めて、これを反射率極小波長の値として特定することができる。
【0043】
白色光源20や分光器30、および、後述する温度調節手段等を制御装置50で直接制御することも可能であるが、分子間相互作用検出装置100内に、制御装置50からの指示により、白色光源20、分光器30、温度調節手段等の各部の動作を制御するためのマイコンを含む制御部(図示せず)を別途設けることが好ましい。この場合、マイコンは、制御装置50の制御指令に応じて白色光源20の点灯と消灯を切り換える制御を行ったり、制御装置50の設定温度指令に応じて温度制御部の温度制御を行ったりする。
【0044】
温度調節手段(図示せず)は、例えば、ペルチェ素子のような加温と冷却を行う温度調節素子と温度検出素子とを備え、これらは測定部材10に併設される。そして、制御装置50が、直接またはマイコンを通じて、温度検出素子から測定部材10の温度情報を取得し、温度調節素子による加温又は冷却によって、設定温度となるように直接またはマイコンを通じて温度制御を実行する。
【0045】
検出を行う際には予め測定部材10の暖気が行われる。即ち、制御装置50は、予め定めた設定温度となるように温度制御部を制御するか、または、予め定めた設定温度となるようにマイコンに指令を送り、マイコンは温度制御部の温度制御を実行する。暖気により測定部材10の温度が安定してから、分析を始める。
【0046】
制御装置50は、測定を継続するか判定を行い、継続しない場合には処理を終了する。かかる判定は、例えば、予め測定時間が設定され、当該測定時間が経過したか否かを判定してもよいし、測定の終了の入力を受けるまで測定を継続する設定として、測定終了の入力の有無を判定してもよい。測定を継続する場合には、再び、分光強度の測定が実行される。測定を繰り返すことにより、制御装置50は、周期的に反射率の算出、反射スペクトルの作成および反射率極小波長の決定を行い、その時系列的な変化を記録する。
【0047】
(分析項目)
分子間相互作用検出方法によって取得することのできる各種の情報の利用方法、例えば取得した測定値に基づいてどのような項目を分析するかは特に限定されるものではない。
【0048】
例えば、RIfSに準じた分析においては、センサーチップに被測定物質が捕捉されて層が形成された場合、当該層の形成の前後の間での、分光反射率が極小となる波長(干渉波長)の変化量(Δλ)から、被測定物質からなる層の厚さ(d1)を求めることができる。すなわち、センサーチップ表面に光学的に薄膜と見なせる被測定物質からなる層が形成されて、反射光の干渉が起きる場合、被測定物質からなる層の厚さは次式により簡易に求めることができる。
【0049】
1=Δλ/2n
nはアナライトの屈折率であり、通常、1.4〜1.6程度の範囲になる。
また、予め参照用(検量線作成用)に、濃度が既知のアナライトを含む溶液を用いて干渉波長の変化量(Δλ’)を測定ないしアナライトからなる層の厚さ(d1’)を算出しておけば、アナライトの濃度が未知の試料を用いて干渉波長の変化量(Δλ)を測定ないしアナライトからなる層の厚さ(d1)を算出した後、それらを比較することにより、サンプル中のアナライトの濃度を定量化することができる。
【0050】
なお、RIfS用のセンサーチップの表面にアナライトが捕捉され、アナライトからなる層が形成された場合、その捕捉量または層の厚さは、RIfSにより測定される干渉波長の変化量(Δλ)という数値に反映される他、センサーチップを目視したときの色にも反映される(捕捉量または層の厚さによって見える色が変化する)。
【実施例】
【0051】
次に、本発明の具体的な実施例を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
(工程1:SiNセンサーチップ表面のカルボキシル基修飾)
無修飾のSiNセンサーチップ(コニカミノルタオプト(株)製)に対して、100μLのTriethoxysilylpropylmaleamic acid(Gelest,Inc.製)を10mLの1%酢酸水溶液中に徐々に滴下し、室温にて1時間撹拌した。そこに該SiNセンサーチップを浸漬し、さらに室温にて1時間撹拌した。
【0052】
このように処理したSiNセンサーチップを超純水で洗浄した後に、ブロアーにより水滴を除去した後、乾熱滅菌機(STA620DA;アドバンテック(株)製)により80℃にて1時間乾燥を行った。こうして、SiNセンサーチップ表面へのカルボキシル基修飾を行った。
【0053】
(工程2:RIfS測定の準備)
RIfSを測定原理に採用した分子間相互作用測定装置(MI−Affinity;コニカミノルタオプト(株)製)の電源を入れて光源が安定するまで約20分間待機した。また、工程1により作製したセンサーチップと、PDMS製の幅2.5mm×長さ16mm×深さ0.1mmの溝、この溝の両末端にそれぞれ直径1mmの貫通口を有するフローセル(コニカミノルタオプト(株)製)とをセットし、上記測定装置が備えているチップカバーを通してセンサーチップ上に液体を通過させる事が可能な状態にした。シリンジポンプ(Econoflo70−2205;Harvard Apparatus,Inc.製)により、測定装置外部からPBSバッファ(pH7.4)を20μl/minの流量で20分間送液し、測定基準となる分光反射率が最小となる波長(ベースライン)が約570nm付近で安定するのを確認した。
【0054】
(工程3:RIfS方式を利用した抗体固定化)
工程2により、測定準備を完了したセンサーチップに対して、測定を開始した。測定開始時点における分光反射率が最小となる波長をλ0とした。上記測定装置が備えているインジェクタを通して、50mMのNHS(ThermoFisherScientific K.K.製),200mMのWSC((株)同仁化学研究所製)となるように25mMのMESバッファ(pH5.0)を測定開始時から300秒後に導入して上記カルボキシル基修飾センサーチップの活性エステル化を行った。続いて、抗αフェトプロテイン〔AFP〕抗体(clone1D5;ミクリ免疫研究所(株)製)を、10mMの酢酸ナトリウムバッファ(pH6.0)を用いて10μg/mLに調製したサンプルを測定開始時から1500秒後、2700秒後に計2回導入して抗体の固定化を行った。最後に活性エステルのブロッキングとして1Mのエタノールアミン−HCl(pH8.5)を測定開始時から3900秒後に導入した。エタノールアミンを導入した後のボトムピーク波長をλ1とした。
抗体固定化によるΔλ(λ1−λ0)の値の測定結果を表1に、リアルタイムによる抗体固定化のRIfS測定結果を図2(a)に示す。
【0055】
[実施例2]
実施例1の工程2を下記工程2’に代えた以外は実施例1と同様にして抗体の固定化を行った。抗体固定化によるΔλ(λ1−λ0)の値の測定結果を表1に、リアルタイムによる抗体固定化のRIfS測定結果を図2(b)に示す。
【0056】
(工程2’:RIfS方式による抗原と二次抗体の抗原抗体反応)
RIfSを測定原理に採用した分子間相互作用測定装置(MI−Affinity;コニカミノルタオプト(株)製)の電源を入れて光源が安定するまで約20分間待機した。また、工程1により作製したセンサーチップと、PDMS製の幅2.5mm×長さ16mm×深さ0.1mmの溝、この溝の両末端にそれぞれ直径1mmの貫通口を有するフローセル(コニカミノルタオプト(株)製)とをセットし、上記測定装置が備えているチップカバーを通してセンサーチップ上に液体を通過させる事が可能な状態にした。シリンジポンプ(Econoflo70−2205;Harvard Apparatus,Inc.製)により、測定装置外部からPBSバッファ(pH7.4)にノニオン性界面活性剤Tween20を0.0005質量%添加した溶液を20μl/minの流量で20分間送液し、測定基準となる分光反射率が最小となる波長(ベースライン)が約570nm付近で安定するのを確認した。
すなわち、工程2’は、PBSバッファに界面活性剤を所定の濃度添加した点のみで工程2とは相違する。
【0057】
[比較例1]
実施例1の工程2を下記工程2’に代えた以外は実施例1と同様にして抗体の固定化を行った。抗体固定化によるΔλ(λ1−λ0)の値の測定結果を表1に、リアルタイムによる抗体固定化のRIfS測定結果を図2(c)に示す。
【0058】
(工程2’:RIfS方式による抗原と二次抗体の抗原抗体反応)
RIfSを測定原理に採用した分子間相互作用測定装置(MI−Affinity;コニカミノルタオプト(株)製)の電源を入れて光源が安定するまで約20分間待機した。また、工程1により作製したセンサーチップと、PDMS製の幅2.5mm×長さ16mm×深さ0.1mmの溝、この溝の両末端にそれぞれ直径1mmの貫通口を有するフローセル(コニカミノルタオプト(株)製)とをセットし、上記測定装置が備えているチップカバーを通してセンサーチップ上に液体を通過させる事が可能な状態にした。シリンジポンプ(Econoflo70−2205;Harvard Apparatus,Inc.製)により、測定装置外部からPBSバッファ(pH7.4)にノニオン性界面活性剤Tween20を0.001質量%添加した溶液を20μl/minの流量で20分間送液し、測定基準となる分光反射率が最小となる波長(ベースライン)が約570nm付近で安定するのを確認した。
【0059】
すなわち、工程2’は、PBSバッファに界面活性剤を所定の濃度添加した点のみで工程2とは相違する。
【0060】
【表1】

これらの結果から、SiN表面には界面活性剤を0.001質量%未満含有した溶液を利用した方がリガンドの固定化に適していることがわかった。
【符号の説明】
【0061】
1 測定システム
10 測定部材
12 センサーチップ
12a シリコン基板
12b SiN(窒化シリコン)膜
14 フローセル
14a 溝
14b 密閉流路
14c 流入口
14d 流出口
16 リガンド
20 白色光源
30 分光器
40 光伝達部
41 第一の光ファイバ
42 第二の光ファイバ
50 制御装置
60 試料溶液
62 アナライト
100 分子間相互作用測定装置
200 測定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiN〔窒化ケイ素〕,Ta25〔酸化タンタル〕,Nb25〔五酸化ニオブ〕,HfO2〔酸化ハフニウム〕,ZrO2〔二酸化ジルコニウム〕およびITO〔酸化インジウムスズ〕からなる群から選択される少なくとも1種からなる基板の表面に、液相でリガンドを固定化させる工程を含むリガンド固定化基板の製造方法であって、
該液相に含有される界面活性剤が、0質量%以上0.001質量%未満であることを特徴とする製造方法。
【請求項2】
上記リガンドを固定化させる工程において、上記基板の表面が有する修飾基と、上記リガンドが有する反応基とを反応させて共有結合を形成させることにより、当該リガンドを固定化する請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
上記基板の表面が有する修飾基が、シランカップリング剤を用いて導入されたものである請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
上記リガンドが、タンパク質,ポリペプチド,核酸および糖からなる群から選択される少なくとも1種である請求項1〜3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
上記基板が、反射干渉分光法〔Reflectometric Interference Spectroscopy;RIfS〕用,表面プラズモン共鳴法〔SPR〕用または水晶発振子マイクロバランス法〔QCM〕用のセンサーチップである請求項1〜4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法によって製造されることを特徴とするリガンド固定化基板。
【請求項7】
請求項6に記載のリガンド固定化基板を使用することを特徴とする、分子間相互作用検出方法。

【図3】
image rotate

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2013−11464(P2013−11464A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−143126(P2011−143126)
【出願日】平成23年6月28日(2011.6.28)
【出願人】(303000408)コニカミノルタアドバンストレイヤー株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】