説明

リチウムイオン電池用容器、これを備えたリチウムイオン電池、およびリチウムイオン電池用容器の製造方法

【課題】
ヒートシール時の電池用容器内部でのポリ玉の形成を抑制することで耐衝撃性に優れ、電池用容器の破袋が防止できる段差のないヒートシール部を有し、水分透過の抑制およびシール強度の確保が可能な電池用容器を提供する。
【解決手段】
基材層5の一方の面に少なくとも、接着剤層10、アルミニウム箔層15、接着樹脂層25、シーラント層30を順次積層してなるフィルムを用い、前記シーラント層同士が接着するように2枚の前記積層フィルムの端縁部をヒートシールすることにより形成されるもので、ヒートシール部のうち前記接着樹脂層とシーラント層の総厚が前記電池用容器の内部側から外部側にかけて連続的に変化するリチウムイオン電池用容器とした。またこれを備えてリチウムイオン電池を構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池用容器、これを備えたリチウムイオン電池、およびリチウムイオン電池用容器の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、二次電池には鉛蓄電池やニッケル水素電池が多く使用されてきたが、携帯電話、ノート型パソコンをはじめとする携帯機器の小型化に伴い、高エネルギー密度で、軽量化が可能なリチウムイオン二次電池が多く採用されている。特に近年は、従来電池用包材として用いられてきた缶型とは異なり、形状自由度、薄型化、軽量化、放熱性で優位であるラミネート型リチウムイオン電池が注目され、大型機器用の二次電池として盛んに開発が行われている。
【0003】
ラミネート型のリチウムイオン電池容器の形態には、電池用外装材を一辺が開口するように製袋し、内部にリチウムイオン電池を収納する三方シール、四方シール、ピローパウチタイプおよび、電池用外装材をプレス成形して凹部を形成し、前記凹部にリチウムイオン電池を収納するエンボスタイプ等が存在する。いずれの容器においても、容器端縁部はシーラント層の熱接着により密封される。
【0004】
ところで、リチウムイオン電池の内容物には、電解質としてLiPF6、LiBF4などのリチウム塩が用いられるが、これらの塩は水分と反応することにより加水分解し、フッ酸を発生させる。そのため、リチウムイオン電池内に水が浸入すると電池内でフッ酸が発生し、外装材において金属面の腐食や、多層フィルムの各層間のラミネート強度の低下等の問題がある。
【0005】
そのため、ラミネート型のリチウムイオン電池用容器に用いる外装材は、例えば、基材層、接着剤層、アルミニウム箔層、接着樹脂層、シーラント層を順次積層した多層フィルムの一部にアルミニウム箔を用いることで、多層フィルムの表面からの水分浸入を遮断している。しかし、電池用容器端縁部のシール端面には接着樹脂層およびシーラント層の端面が存在するため、アルミニウム箔層を経ることなく接着樹脂層およびシーラント層の端面からこれらの層内を経由しての電池容器内部への水分の浸入を完全に遮断することは困難であった。
そこで、ヒートシール部の端面からの水分の浸入を抑制するための検討がなされている。
【0006】
特許文献1〜2には、ヒートシール部において、接着樹脂層およびシーラント層を薄膜化することにより、シール端面からの水分の浸入を抑制する電池用容器が開示されている。特許文献1には、前記ヒートシール部におけるシーラント層を薄膜化することにより、水分透過率を抑制した電池用容器について記載されている。しかし、ヒートシール部の圧縮による薄膜化は、シールエッジ外へのポリ玉(樹脂漏れ)の形成を促進させ、破袋の原因となる。また、シーラント層を薄膜化することによりシール強度を保持できない可能性もある。
【0007】
特許文献2には、シール幅の中心部でシーラント層の厚さを変化させることにより、外部からの水分の浸入と、容器の内圧に対するシール強度を確保するヒートシール方法および、それにより作製された電池用容器が記載されている。しかし、段差を設けることで、シール部の面にエッジ、すなわち角状に凹んだ変形部分が生じ、接着樹脂層およびシーラント層の膜厚を急激に変化させる。これによりエッジ部に大きな応力がかかり易くなり、外的負荷によるエッジ切れの原因となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−176466号公報
【特許文献2】特開2001−199413号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明は先行技術の問題点に鑑み、破袋を防止できる段差のないヒートシール部を有する、水分透過の抑制およびシール強度の確保が可能な電池用容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するための手段として、請求項1に記載の発明は、基材層の一方の面に少なくとも、接着剤層、アルミニウム箔層、接着樹脂層、シーラント層を順次積層したフィルムが用いられ、前記シーラント層同士が接着するように、前記積層フィルムの端縁部をヒートシールすることにより形成されるリチウムイオン電池用容器において、ヒートシール部のうち前記接着樹脂層とシーラント層の総厚が前記電池用容器の内部側から外部側にかけて連続的に変化することを特徴とするリチウムイオン電池用容器である。
【0011】
また、請求項2に記載の発明は、前記接着樹脂層とシーラント層のヒートシール部の総厚が連続的に変化する電池用容器であって、内部側のシールエッジ部よりも、外部側のシールエッジ部もしくは、シール端縁部の接着樹脂層とシーラント層の総厚が減少することを特徴とする請求項1記載のリチウムイオン電池用容器である。この発明でシールエッジ部とは、シールバーの端縁部により形成されるヒートシール部分とこれに隣接する積層フィルムとの間の変形した部分をいう。また、シール端縁部とは、内側のシールエッジ部と外側のシールエッジ部の間のヒートシール部をカットした際の切断部分をいう。
【0012】
また、請求項3に記載の発明は、前記シーラント層が熱可塑性を有する樹脂であることを特徴とする1〜2のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池用容器である。
また、請求項4に記載の発明は、前記シーラント層はポリプロピレンからなり、このポリプロピレン層をホモポリプロピレン、ランダムポリプロピレン、ブロックポリプロピレンのいずれかの単一層またはこれらのうち選択された複数からなる積層体で形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池用容器である。
【0013】
また、請求項5に記載の発明は、前記接着樹脂層が、酸変性エラストマー樹脂もしくは、酸変性ポリオレフィン樹脂の単一層または両者の複合層で形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池用容器である。
また、請求項6に記載の発明は、前記アルミニウム箔層が、少なくとも片面が化成処理されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池容器である。
また、請求項7に記載の発明は、前記化成処理が3価クロムを含有する化成処理であることを特徴とする請求項6記載のリチウムイオン電池用容器である。
また、請求項8に記載の発明は、請求項1〜7のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池用容器を備えることを特徴とするリチウムイオン電池である。
【0014】
また、請求項9に記載の発明は、基材層の一方の面に少なくとも、接着剤層、アルミニウム箔層、接着樹脂層、シーラント層を順次積層してなる2枚の積層フィルムの端縁部を、前記シーラント層同士が接着するようにヒートシールしてリチウムイオン電池用容器を製造するに際し、前記積層フィルムのヒートシール部のうち前記接着樹脂層とシーラント層の総厚を前記電池用容器の内部側から外部側にかけて連続的に変化させるように、前記端縁部を挟んで加熱押圧する一対のシールバーとして、前記積層フィルムの端縁部を押圧する部分の相互間が前記電池容器の内部側から外部側にかけて連続的に狭くなるように傾斜したものを用いることにより、内部側のシールエッジ部よりも、外部側のシールエッジ部もしくはシール端縁部の接着樹脂層とシーラント層の総厚を減少させることを特徴とするリチウムイオン電池用容器の製造方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の請求項1の構成によると、ヒートシール部のうち接着樹脂層とシーラント層の総厚を電池用容器の内部から外部にかけて連続的に変化させ、ヒートシール時の電池用容器内でのポリ玉の形成や、クラックの発生を抑制することにより、衝撃耐性が高い電池用容器を提供することが可能である。
また本発明の請求項2の構成によると、内部側のシールエッジ部よりも、外部側のシールエッジ部もしくはシール端縁部の接着樹脂層とシーラント層の総厚を減少させることにより、外部からの水分透過の抑制および容器の内圧に対するシール強度の確保が可能な電池用容器を提供することが可能である。
【0016】
また本発明の請求項3の構成によると、耐衝撃性およびヒートシール性に優れた電池用容器を提供することが可能である。
また本発明の請求項4の構成によると、融着温度や硬度の選定ができるため、目的に応じた耐衝撃性およびヒートシール性の選定が可能な電池用容器を提供することが可能である。
また本発明の請求項5の構成によると、電解液などの耐内容物特性に優れ、フッ酸発生時でも接着樹脂の劣化による密着力の低下がない電池用容器を提供することが可能である。
また本発明の請求項6の構成によると、電解液などの耐内容物特性に優れ、フッ酸発生時でも接着剤との密着の低下がない電池用容器を提供することが可能である。
【0017】
また本発明の請求項7の構成によると、特に耐フッ酸性のある長期信頼性に優れた電池用容器を提供することが可能である。
また本発明の請求項8の構成によると、前記リチウムイオン電池用容器を備えることにより、長期信頼性に優れたリチウムイオン電池を提供することが可能である。
また本発明の請求項9の構成によると、一対のシールバーのうち、積層フィルムの端縁部を押圧する部分が電池容器の内部側から外部側にかけて傾斜したものを用いることで、従来技術に比して電池容器の製造工程を増やすことなく請求項1〜8の電池容器を製造することができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に用いるリチウムイオン電池用の積層フィルムの実施形態の一例を示した断面図である。
【図2】本発明に用いるリチウムイオン電池用の積層フィルムのシール方法の一例を示したものである。
【図3】本発明に用いるリチウムイオン電池用の積層フィルムのシール方法の他の例を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の、リチウムイオン電池用容器の実施形態および、リチウムイオン電池用の容器を形成するための積層フィルムをヒートシールする方法の一例を示して詳細に説明する。
リチウムイオン電池用の積層フィルム1は同電池の外装材をなすもので、図1に示すように、基材層5の一方の面に、接着剤層10、アルミニウム箔層15、化成処理層20、接着樹脂層25、シーラント層30が順次積層された積層フィルムからなる。
【0020】
この積層フィルム1をエンボス成型した内部に、正極、セパレーター、負極を収納し、タブを容器内部から外部に導出し、その後、シーラント層30が対向するように積層フィルムを重ね合わせ、1辺を残してヒートシールする。その後、開口した1辺から電解液を注入し、残りの1辺を真空環境下でヒートシールし、内部を密封することにより、リチウムイオン電池を作製する。この際、図2に示すように、接着樹脂層25とシーラント層30の総厚が電池用容器の内部から外部にかけて連続的に変化し、内部側のシールエッジ部よりも、外部側のシールエッジ部もしくはシール端縁部の接着樹脂層とシーラント層の総厚が減少するように外装材の端縁部をヒートシールする。これにより、ヒートシール時の電池用容器内でのポリ玉の形成や、クラックの発生の抑制及び、外部からの水分透過の抑制、容器の内圧に対するシール強度の確保が可能な電池用容器を提供することが可能である。
【0021】
<基材層>
基材層5は、リチウムイオン電池製造時のシール工程における耐熱性付与、加工や流通の際に起こりうるピンホール対策という目的で設けるものであり、絶縁性を有する樹脂層を用いる。そのような樹脂層としては、例えば、ポリエステルフィルム、ポリアミドフィルム、ポリプロピレンフィルムなどの延伸または未延伸フィルムを、単層または2層以上の積層フィルムを使用することもできるが、成形性、耐熱性、耐ピンホール性、絶縁性を向上させるという点で、延伸ポリアミドフィルムや延伸ポリエステルフィルムが好適である。また、基材層5の厚さは、耐ピンホール性、加工性を考慮して6〜40μmが好ましく、10〜25μmがより好ましい。さらに、基材層5は、例えばスリップ剤やアンチブロッキング剤などの添加剤を配合または塗布してもよい。
【0022】
<接着剤層>
接着剤層10としては、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、アクリルポリオールを主剤、芳香族系や脂肪族系イソシアネートを硬化剤とした2液硬化型のポリウレタン系接着剤が好ましい。塗工後のエージングとして40℃4日以上行うことで、OH基とNCO基の反応が進行し、両面のフィルムを強固に接着される。一般的に主剤のOHに対する硬化剤NCOのモル比[NCO/OH]が1〜10程度が好ましく、2〜5がより好ましい。また、接着剤層10の厚さは、接着強度や、追随性、加工性などを考慮して1〜10μmが好ましく、3〜7μmがより好ましい。
【0023】
<アルミニウム箔層>
アルミニウム箔層15の材質としては、一般の軟質アルミニウム箔を用いることができるが、さらなる耐ピンホール性、及び成形時の延展性を付与させる目的で、鉄を含むアルミニウム箔を用いることが望ましい。鉄の含有量はアルミニウム箔100質量%中、0.1〜9.0質量%が好ましく、0.5〜2.0質量%がより好ましい。鉄の含有量の下限値が上記値より少ないと耐ピンホール性、延展性を十分に付与させることができず、一方、上限値が上記値よりも多いと柔軟性が損なわれる。また、アルミニウム箔層15の厚さは、バリア性、耐ピンホール性、加工性を考慮して9〜200μmが好ましく、15〜100μmがより好ましい。
【0024】
アルミニウム箔層15は、未処理のアルミニウム箔も用いてもよいが、脱脂処理を施したアルミニウム箔を用いるのが好ましい。脱脂処理としては、大きく区分するとウェットタイプとドライタイプが挙げられる。ウェットタイプでは、酸脱脂やアルカリ脱脂などが挙げられる。酸脱脂に使用する酸としては、例えば、硫酸、硝酸、塩酸、フッ酸などの無機酸が挙げられ、これら酸は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、アルミニウム箔のエッチング効果を向上させるという観点から、必要に応じてFeイオンなどの供給源となる各種金属塩を配合しても構わない。
【0025】
アルカリ脱脂に使用するアルカリとしては、例えば、水酸化ナトリウムなどの強エッチングタイプが挙げられる。また、弱アルカリ系や界面活性剤を配合したものを用いてもよい。これらの脱脂は浸漬法やスプレー法で行われる。ドライタイプの方法の一つとして、アルミニウムを焼鈍処理する工程で、その処理時間を長くすることで脱脂処理を行う方法が挙げられる。また、脱脂処理としては、上記の他にも、フレーム処理やコロナ処理などが挙げられる。さらには特定波長の紫外線を照射して発生する活性酸素により、汚染物質を酸化分解・除去するような脱脂処理も挙げられる。
【0026】
<化成処理層>
化成処理層20は、アルミニウム箔層15の、少なくとも片面に施されていることが望ましく、特に接着樹脂層25側に施すことが好ましい。これは、電解液と水分との反応により発生するフッ酸によるアルミニウム箔層15の腐蝕防止や、濡れ性を向上させ接着樹脂層25との密着を向上させる目的から設けるもので、塗布型、又は浸漬型の腐蝕防止処理剤を用いて塗膜を形成することができる。例えば3価クロムを含有するクロメート処理を施すことにより、環境破壊物質である6価クロムを含まない環境に配慮したクロメート処理が可能となる。
【0027】
また上記処理以外にもアルミニウム箔層15の耐蝕性を満たす塗膜であれば使用できる。化成処理層20の厚さは腐蝕防止機能とアンカーとしての機能を考慮して10nm以上で5μm以下であることが好ましく、20nm以上で500nm以下がより好ましい。また、両面に化成処理層を施すことにより、シーラント層30だけでなく基材層5側からのアルミニウム箔層15の腐蝕防止をすることができる。
【0028】
<接着樹脂層>
接着樹脂層25は、シーラント層30と、化成処理層20が形成されたアルミニウム箔層15とを接着する層である。接着樹脂層25を構成する樹脂としては、ポリオレフィン樹脂もしくはエラストマー樹脂に無水マレイン酸などをグラフト変性させた酸変性ポリオレフィン樹脂または酸変性エラストマー樹脂が好ましい。ポリオレフィン樹脂としては、低密度、中密度、高密度のポリエチレン;エチレン−αオレフィン共重合体、ホモ、ブロックやランダムポリプロピレン、プロピレン−αオレフィン共重合体などが挙げられる。これらポリオレフィン樹脂は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これにより電解液等の耐内容物特性に優れ、フッ酸発生時でも接着樹脂の劣化による密着力の低下がない電池用容器を提供することができる。この際、接着樹脂層25の厚みは1〜40μmが好ましく、5〜20μmがより好ましい。これは、接着樹脂層が1μmより薄いと接着強度が保てず、40μmより厚いと水分透過が高くなるためである。
【0029】
<シーラント層>
シーラント層30を構成する樹脂としては熱可塑性樹脂が好ましく、成分としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂が挙げられる。これにより耐衝撃性およびヒートシール性に優れた電池を提供することができる。ポリプロピレンとしては、例えば、ホモポリプロピレン、ランダムポリプロピレン、ブロックポリプロピレン等が挙げられ、これらは単層フィルムであっても、複数の層を積層させたフィルムであってもよい。
【0030】
これにより、融着温度や硬度の選択が可能となり、目的に応じた耐衝撃性およびヒートシールの選択が可能となる。この際、シーラント層30の厚さは、25〜100μmが好ましい。これは、シーラント層が25μmより薄いとシール強度が保てず、100μmよ
り厚いと水分透過が高くなるためである。また、シーラント層30には各種添加剤、例えば、難燃剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、酸化防止剤、光安定剤、粘着付与剤などを配合または塗布してもよい。
【0031】
<リチウムイオン電池用容器の製造方法>
次に、図1に示す本発明のリチウムイオン電池用容器の製造方法について記載するが、これに限定されない。
<アルミニウム箔層への化成処理層の積層工程>
金属化合物、リン化合物、バインダー樹脂、架橋剤から構成される化成処理液を、アルミニウム箔層15へ塗工し、乾燥・硬化を行い、化成処理層20を形成させる。塗工方法としては、公知の方法が用いられるが、例えば、グラビアコーター、グラビアリバースコーター、ロールコーター、リバースロールコーター、ダイコーター、バーコーター、キスコーター、コンマコーターなどが挙げられる。なお、上述したように、アルミニウム箔層15は、未処理のアルミニウム箔を用いてもよく、ウェットタイプまたはドライタイプにて前処理を施したアルミニウム箔を用いてもよい。またアルミニウム箔の両面に化成処理層20を形成することも可能である。
【0032】
<基材層とアルミニウム箔層の貼り合わせ工程>
化成処理層20を形成したアルミニウム箔層15と、基材層5とを貼り合わせる。貼り合わせの方法としては、ドライラミネート、ノンソルベントラミネート、ウエットラミネートなどの手法を用い、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、アクリルポリオールを主剤としたポリウレタン系接着剤にて両者を貼り合わせ、基材層5/接着剤層10/アルミニウム箔層15/化成処理層20からなる積層体を作製する。
【0033】
<シーラント層の積層工程>
前記積層体上にシーラント層30を積層する。積層の方法としては、ウェットラミネーション、押し出しラミネーション、ドライラミネーション、ホットメルトラミネーション、ノンソルベントラミネーション、ヒートラミネーション等が挙げられる。押し出しラミネーションの場合、前記積層体の化成処理層20上に接着樹脂層25を押出ラミネートし、シーラント層30を積層して、リチウムイオン電池用容器のための積層フィルム1を作製する。なお、化成処理層20は、この押出ラミネートの際にインラインで設けてもよい。その後、化成処理層20と接着樹脂層25との密着性を向上させる目的で、熱処理(エージング処理や熱ラミネートなど)を施す。また、接着樹脂層25とシーラント層30とで多層フィルムを作成し、前記積層体上に熱ラミネートにより積層させることも可能である。
【0034】
<ヒートシール工程>
前記リチウムイオン電池用の積層フィルム1を、そのシーラント層30同士が対向するように重ね合わせて次のようにヒートシールすることによりリチウムイオン電池用容器を作成する。前記重ね合わせた接着樹脂層25とシーラント層30の総厚が電池用容器の内部から外部にかけて連続的に変化し、内部側のシールエッジ部よりも、外部側のシールエッジ部もしくはシール端縁部の接着樹脂層25とシーラント層30の総厚が減少するように積層フィルム1の端縁部をヒートシールする。
【0035】
例えば、ヒートシール装置において上下のシールバー2に傾斜を加え、内部側のシールエッジ部と外部側のシールエッジ部もしくはシール端縁部の接着樹脂層25およびシーラント層30の総厚に差を生じさせることが可能である。前記シールバー2の傾斜については、内部側のシールエッジ部から外部側のシールエッジ部もしくはシール端縁部までの部分に当たるシールバーの間隔が、内部側が外部側よりも連続的に大きくなるようにシールバー2に傾斜をつければよい。このため、この傾斜は両シールバーにあってもよいし、一方のシールバーのみに付されてもよい。また、両シールバーに傾斜が付される場合でも、両傾斜が対称になってもよいし、また対称ではなくても結果として上下のシールバーの間隔が前記のように外向きに連続して小さくなるように変化するものであればよい。
【0036】
また、内部シールエッジ部の接着樹脂層25とシーラント層30の総厚は40μmより厚いことが好ましい。これは、接着樹脂層25とシーラント層30の総厚が40μm以下であるとシール強度が保てないためである。ただし本発明の場合、段差を設けることにより、内部側のシールエッジ部と外部側のシールエッジ部もしくはシール端縁部の接着樹脂層25およびシーラント層30の総厚に差を生じさせるものは除く。これは、段差を設けることで、シール部にエッジ、すなわち角状に凹んだ変形部分が生じ、接着樹脂層25およびシーラント層30の膜厚が急激に変化するため、このエッジ部に大きな応力がかかり易くなり、外的負荷によるエッジ切れの原因となるためである。
このようなヒートシール方法により作製する電池用容器の形態は、特定の形状に限定されるものではなく、例えば、三方シール、四方シール、ピローパウチタイプ等の袋状容器および、電池用積層フィルムをプレス成形して凹部を形成し、前記凹部に電池を収納するエンボスタイプ等の凹状容器であってもよい。
【実施例】
【0037】
以下に本発明の実施例を示すが、これに限定されるわけではない。
[使用材料]
以下の試験例に用いた材料は下記の通りである。
<基材層>
ナイロン(25μm)
<接着剤層>
ポリウレタン系接着剤(4μm)
【0038】
<アルミニウム箔層>
軟質アルミニウム箔8079材(40μm)
<化成処理層>
クロメート処理
<接着樹脂層>
無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂
<シーラント層>
無延伸ポリプロピレン樹脂
【0039】
[リチウムイオン電池用の積層フィルムの作製]
まず、アルミニウム箔上に、3価クロム含有の化成処理液をマイクログラビアコートにより塗工し、乾燥ユニットにて150℃以上かつ250℃以下で焼き付け処理を施し、アルミニウム箔コイル上に、化成処理層を積層させた。次いで、アルミニウム箔層の、化成処理層とは反対側の面に、ドライラミネート手法により、ポリウレタン系接着剤を用いて基材層を設けた。これらを押出ラミネート機によりマレイン酸変性ポリプロピレン、マレイン酸変性エラストマーの接着剤からなる接着樹脂層を押出し、化成処理層上に接着樹脂層を積層させた。その後、ポリプロピレン樹脂層を前記積層体と熱ラミネートして、リチウムイオン電池用積層フィルムを作製した。[リチウムイオン電池用容器作製]
【0040】
図2は、本発明のリチウムイオン電池用の積層フィルムのシール方法の一例を示したものであり、ヒートシール装置のシールバーとリチウムイオン電池用の積層フィルムのヒートシール部を拡大したものである。ヒートシール方法としては、上下のシールバーの間に、シーラント層同士が対向するように重ね合わせた積層フィルムの端縁部を挟み、所定温度・所定時間・所定圧力で加熱圧着した。この際、上下のシールバーに傾斜をもたせ、内部側のシールエッジ部の接着樹脂層とシーラント層の総厚H1よりも、外部側のシールエッジ部もしくはシール端縁部の接着樹脂層とシーラント層の総厚H2が減少するように外装材の端縁部をヒートシールした。
【0041】
[評価]
<シール強度評価>
前記ヒートシール方法を用いて、シーラント層同士が対向するように重ね合わせてヒートシールした後、100×15mmサイズの短冊状に切り取り、内部側のシールエッジ部から外部側のシールエッジ部もしくはシール端縁部にかけて、引張速度300m/minにてシール強度を測定した。なお、シール強度が40N/15mm以上の結果を合格とする。
【0042】
<水分透過率評価>
前記ヒートシール方法を用いて、120mm×110mmのリチウムイオン電池用の積層フィルムを、シーラント層同士が対向するように重ね合わせ、外形寸法120mm×55mmに折りたたみ、両側の端縁部を10mm巾でヒートシールすることで、一辺が開口した袋を作製した。その後、電池の内容物となる炭酸エチレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチルを1:1:1の割合で混合した電解液を5ml注入し、残りの1辺を3mm幅でヒートシールした。なお、10mmシール部は水分透過がほぼないものとみなし、3mmシール部を測定対象とした。作製した電池用容器を60℃、95%RHの環境下に4週間保存し、保存後の電解液に含まれる水分量をカールフィッシャーにて測定し、水分透過率が100ppm以下の結果を合格とした。
【0043】
[実施例1〜2 比較例1]
実施例1〜2、比較例1〜2は、下記に示すように、内部側のシールエッジ部および外部側のシール端縁部における接着樹脂層およびシーラント層の総厚を変化させ、シール強度評価を行った。結果を表1に示す。
<実施例1>
内部側のシールエッジ部の接着樹脂層およびシーラント層の総厚 80μm
外部側のシール端縁部の接着樹脂層およびシーラント層の総厚 40μm
<実施例2>
内部側のシールエッジ部の接着樹脂層およびシーラント層の総厚 60μm
外部側のシール端縁部の接着樹脂層およびシーラント層の総厚 40μm
【0044】
<比較例1>
内部側のシールエッジ部の接着樹脂層およびシーラント層の総厚 80μm
外部側のシール端縁部の接着樹脂層およびシーラント層の総厚 80μm
<比較例2>
内部側のシールエッジ部の接着樹脂層およびシーラント層の総厚 40μm
外部側のシール端縁部の接着樹脂層およびシーラント層の総厚 40μm
【0045】
【表1】

【0046】
上記のシール強度の結果からわかるように、内部側のシールエッジ部の接着樹脂層およびシーラント層の総厚が40μmより厚いと、40N/15mm以上を維持でき、内部側のシールエッジ部の接着樹脂層およびシーラント層の総厚が40μm以下になると40N/15mm以上を維持できなくなる。また、水分透過率の結果から、シール端縁部における接着樹脂層およびシーラント層の総厚を薄くすることにより、水分透過率を100ppm以下に抑えられることがわかった。また、内部側のシールエッジ部の接着樹脂層およびシーラント層の総厚よりも、シール端縁部における接着樹脂層およびシーラント層の総厚を薄くすることにより、水分透過率の増加を抑制できることがわかった。
【0047】
以上の結果より、内部側のシールエッジ部の接着樹脂層およびシーラント層の総厚を40μmより厚くすることにより、シール強度を保つことが可能であり、且つ内部側のシールエッジ部の接着樹脂層およびシーラント層の総厚よりも、外部側のシール端縁部の接着樹脂層とシーラント層の総厚が減少するように外装材の端縁部をヒートシールすることにより、水分透過率を抑制することが可能となる。
このように、本発明によれば、ヒートシール部のうち接着樹脂層とシーラント層の総厚を電池用容器の内部側から外部側にかけて連続的に変化させることにより、水分透過の抑制およびシール強度の確保が可能で且つ、破袋しにくい電池用容器、およびこれを備えたリチウムイオン電池を提供することができる。
【符号の説明】
【0048】
1 リチウムイオン電池用の積層フィルム
2 シールバー
3 内側のシールエッジ部
4 外側のシールエッジ部
5 基材層
10 接着剤層
15 アルミニウム箔層
20 化成処理層
25 接着樹脂層
30 シーラント層
H1 内部側のシールエッジ部
H2 外部側の端縁部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層の一方の面に少なくとも、接着剤層、アルミニウム箔層、接着樹脂層、シーラント層を順次積層した積層フィルムが用いられ、前記シーラント層同士が接着するように、前記積層フィルムの端縁部をヒートシールすることにより形成されるリチウムイオン電池用容器において、ヒートシール部のうち前記接着樹脂層とシーラント層の総厚が前記電池用容器の内部側から外部側にかけて連続的に変化することを特徴とするリチウムイオン電池用容器。
【請求項2】
前記ヒートシール部のうち接着樹脂層とシーラント層の総厚が前記電池用容器の内部から外部にかけて連続的に変化する電池用容器であって、内部側のシールエッジ部よりも、外部側のシールエッジ部もしくはシール端縁部の接着樹脂層とシーラント層の総厚が減少することを特徴とする請求項1記載のリチウムイオン電池用容器。
【請求項3】
前記シーラント層が、熱可塑性を有する樹脂であることを特徴とする請求項1又は2に記載のリチウムイオン電池用容器。
【請求項4】
前記シーラント層はポリプロピレンからなり、このポリプロピレンの層をホモポリプロピレン、ランダムポリプロピレン、ブロックポリプロピレンのいずれかの単一層またはこれらのうちから選択された複数からなる積層体で形成したことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池用容器。
【請求項5】
前記接着樹脂層が、酸変性エラストマー樹脂もしくは、酸変性ポリオレフィン樹脂の単一層または両者の複合層で形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池用容器。
【請求項6】
前記アルミニウム箔層が、少なくとも片面が化成処理されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池用容器。
【請求項7】
前記化成処理が3価クロムを含有する化成処理であることを特徴とする請求項6記載のリチウムイオン電池用容器。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池用容器を備えたリチウムイオン電池。
【請求項9】
基材層の一方の面に少なくとも、接着剤層、アルミニウム箔層、接着樹脂層、シーラント層を順次積層してなる2枚の積層フィルムの端縁部を、前記シーラント層同士が接着するようにヒートシールしてリチウムイオン電池用容器を製造するに際し、前記積層フィルムのヒートシール部のうち前記接着樹脂層とシーラント層の総厚を前記電池用容器の内部側から外部側にかけて連続的に変化させるように、前記端縁部を挟んで加熱押圧する一対のシールバーとして、前記積層フィルムの端縁部を押圧する部分の相互間が前記電池容器の内部側から外部側にかけて連続的に狭くなるように傾斜したものを用いることにより、内部側のシールエッジ部よりも、外部側のシールエッジ部もしくはシール端縁部の接着樹脂層とシーラント層の総厚を減少させることを特徴とするリチウムイオン電池用容器の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−192603(P2011−192603A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−59659(P2010−59659)
【出願日】平成22年3月16日(2010.3.16)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】