説明

リップ反転検出方法

【課題】軸受組立時にリップが反転したか否かを目視確認すること無く簡単且つ確実に検出することが可能なリップ反転検出方法を提供する。
【解決手段】相対回転可能に対向配置された軌道輪2、4と、軌道輪間で区画された軸受内部を軸受外部から密封するためのシール構造とを備え、シール構造には、その基端が一方の軌道輪に固定され、その先端のリップが他方の軌道輪に対して摺動自在に位置決めされたシール部材10aが設けられた軸受のリップ反転検出方法であって、軌道輪間で区画された軸受内部へ所定の気体を圧送する工程と、当該軸受内部を加圧した状態において、シール部材のリップを通って気体が軸受外部へ漏れ出した際の軸受内部の圧力変化を測定する工程と、軸受内部の圧力変化を基準値と比較することで、リップの反転の有無を検出する工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に車輪(アウトボード)側にシール構造を組み付ける際に、当該シール構造のリップが反転したか否かを検出するリップ反転検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の車輪(例えば、ディスクホイール)を車体(例えば、懸架装置(サスペンション))に対して回転自在に支持するための各種の軸受ユニットが知られている。なお、軸受ユニットとしては、駆動輪用と従動輪用とがあるが、図3には、一例として従動輪用の軸受ユニットが示されている。当該軸受ユニットは、車体(インボード)側に固定されて常時非回転状態に維持される静止輪(外輪)2と、静止輪2の内側に対向して設けられ且つ車輪(アウトボード)側に接続されて車輪と共に回転する回転輪(内輪)4と、静止輪2と回転輪4との間に複列(例えば2列)で回転可能に組み込まれた複数の転動体6,8とを備えている。なお、転動体6,8として図面では玉を例示しているが、軸受ユニットの構成や種類に応じて、コロが適用される場合もある。
【0003】
静止輪(外輪)2は中空円筒状を成し、回転輪4の外周を覆うように配置されており、かかる静止輪2には、その外周側から外方に向って突出した固定フランジ2aが一体成形されている。この場合、固定フランジ2aの固定孔2bに固定用ボルト(図示しない)を挿入し、これを車体側に締結することで、静止輪2を図示しない懸架装置(ナックル)に固定することができる。また、回転輪(内輪)4には、例えば自動車のディスクホイール(図示しない)を支持しつつ共に回転する略円筒形状のハブ(スピンドル)12が設けられており、ハブ(スピンドル)12には、ディスクホイールが固定されるハブフランジ12aが突設されている。
【0004】
ハブフランジ12aは、静止輪(外輪)2を越えて外方(ハブ12の半径方向外側)に向って延出しており、その延出縁付近には、周方向に沿って所定間隔で配置された複数のハブボルト14が設けられている。この場合、複数のハブボルト14をディスクホイールに形成されたボルト孔(図示しない)に差し込んでハブナット(図示しない)で締付けることにより、当該ディスクホイールをハブフランジ12aに対して位置決めして固定することができる。このとき、ハブ12の車輪側に突設されたパイロット部12pによって車輪の径方向の位置決めが成される。
【0005】
また、ハブ(スピンドル)12には、その車体側の嵌合面4m-1に環状の回転輪構成体16(ハブ12と共に回転輪(内輪)4を構成する部品)が嵌合されるようになっている。この場合、例えば静止輪2と回転輪4との間に各転動体6,8を保持器18で保持した状態で、回転輪構成体16を嵌合面4m-1に形成された段部12bまで嵌合した後、ハブ12の車体側軸端部の加締め領域12cを塑性変形させて、当該加締め領域12cを回転輪構成体16の周端部16sに沿って加締める(密着させる)ことで、当該回転輪構成体16を回転輪4(ハブ12)に固定することができる。
【0006】
このとき、軸受ユニットには所定の予圧が付与された状態となり、この状態において、各転動体6,8は、互いに所定の接触角を成して静止輪2と回転輪4の対向面に形成された2列の軌道溝(静止軌道溝2s、回転軌道溝4s)間に回転可能に組み込まれる。なお、静止軌道溝2sは、静止輪2の内周面(回転輪4に対向する面)に沿って周方向に連続して形成されていると共に、回転軌道溝4sは、回転輪4の外周面(静止輪2に対向する面)に沿って静止軌道溝2sに対向して形成されている。この場合、2つの接触点を結んだ作用線(図示しない)は、各軌道溝2s,4sに直交し且つ各転動体6,8の中心を通り、軸受ユニットの中心線上の1点(作用点)で交わる。これにより背面組合せ形(DB)軸受が構成される。
【0007】
なお、このような構成において、自動車走行中に車輪に作用した力は、全てディスクホイールから軸受ユニットを通じて懸架装置に伝達されることになり、その際、軸受ユニットには、各種の荷重(ラジアル荷重、アキシアル荷重、モーメント荷重など)が作用する。しかし、軸受ユニットは、上述したような背面組合せ形(DB)軸受となっているため、各種の荷重に対して高い剛性が維持される。
【0008】
また、上述したような軸受ユニットには、静止輪(外輪)2と回転輪(内輪)4との間に、軸受ユニット内部を密封するためのシール構造が構築されている。シール構造の一例として図3に示された軸受ユニットには、車輪(アウトボード)側を密封するためのシール部材と、車体(インボード)側を密封するためのシール部材とが設けられている。これにより、静止輪2と回転輪4との間で区画された軸受内部を軸受外部から密封することができる。
【0009】
この場合、インボード側のシール部材としてカバー10bが設けられている。カバー10bは、車体側における軸受内部を軸受外部から密封するような円板形状を成しており、その基端が静止輪2の車体側の固定面2m-1に固定されている。一方、アウトボード側のシール部材としてリップシール10aが設けられている。リップシール10aは、その基端が静止輪2の車輪側の固定面2m-2に固定され、その先端が回転輪4のシール摺動面4m-2に対して摺動自在に位置決めされている。なお、シール摺動面4m-2は、ハブフランジ12aの根元部分(ハブ12の外周面からハブフランジ12aの側面に移行する部分)に周方向(回転輪4の回転方向)に沿って連続して形成されている。
【0010】
ここで、図4(a)には、リップシール10aの構成例が示されている。当該リップシール10aは、心金20の外周面にシール材22を付加して構成されていると共に、その先端には、回転輪4のシール摺動面4m-2に摺接した3つのリップLs,Lm,Lgが設けられている。この場合、各リップLs,Lm,Lgは、周方向(回転輪4の回転方向)に沿って連続した環状を成し、常にシール摺動面4m-2に対して摺接状態となる。これにより、静止輪(外輪)2と回転輪(内輪)4とが相対回転する間及び静止状態において、軸受外部への潤滑剤(例えば、グリース、油)の漏洩防止及び軸受内部への異物(例えば、泥水、塵埃)の浸入防止を同時に図ることができる。
【0011】
具体的に説明すると、リップシール10aの心金20は、静止輪2の固定面2m-2に内嵌される中空円筒部20aと、中空円筒部20aからハブ12(回転輪4)のシール摺動面4m-2に向けて略S字状に屈曲した環状屈曲部20bとから構成されている。この場合、リップシール10aを静止輪2の固定面2m-2に固定する前の状態において、中空円筒部20aの外径は固定面2m-2の内径よりも僅かに大きく設定されている。このため、中空円筒部20aは、静止輪2の固定面2m-2に対して締まり嵌めで内嵌される。
【0012】
また、シール材22は、環状屈曲部20bの外周面(シール摺動面4m-2に対向した面)に付加されている。この場合、リップシール10aを静止輪2の固定面2m-2に固定する前の状態において、環状屈曲部20bのS字移行部20cの外周面に付加されたシール材22の外径は、固定面2m-2の内径よりも僅かに大きく設定されている。この場合、中空円筒部20aを固定面2m-2に内嵌した際、S字移行部20cに付加されたシール材22は、S字移行部20cと固定面2m-2との間で弾性的に押圧されて当該固定面2m-2に密着し、これによりシール性を更に維持向上させることができる。なお、シール材22としては、例えばゴムやエラストマーなどの弾性材を適用すれば良い。また、シール材22を環状屈曲部20bに付加する方法としては、例えば焼き付けや接着剤により付加すれば良い。
【0013】
このようなリップシール10aにおいて、3つのリップLs,Lm,Lgは、それぞれシール材22で一体成形されており、回転輪4のシール摺動面4m-2に対する摺接位置が互いに異なる。具体的に説明すると、サイドリップLsは、車輪側に向いた状態でシール摺動面4m-2の外径寄りに摺接し、これに対して、グリースリップLgは、車体側に向いた状態でシール摺動面4m-2の内径寄りに摺接している。そして、メインリップLmは、サイドリップLsとグリースリップLgとの間に位置付けられており、車輪(アウトボード)側に向けて延出し且つその内径側がシール摺動面4m-2に対してラジアル方向に摺接している。この場合、サイドリップLs及びメインリップLmにより軸受内部への異物の浸入防止が図られると同時に、グリースリップLgにより潤滑剤の漏洩防止が図られる。
【0014】
また、上述したような軸受ユニットを組み立てる場合には、静止輪(外輪)2に対して保持器18で保持された各転動体6,8を装着した後、リップシール10aをアウトボード側に固定し、その状態でハブ(スピンドル)12に組み合わされる。このとき、リップシール10aの各リップLs,Lm,Lgは、回転輪(内輪)4のシール摺動面4m-2に摺接しつつ送り込まれ、図4(a)に示すような状態に位置決めされる。
【0015】
ところで、上述したような軸受組立工程中に、例えば静止輪2と回転輪4との間に芯ズレが生ずると、車輪(アウトボード)側に向いた状態にあるメインリップLmが矢印t方向(図4(a))に反転してしまう場合がある。この場合、メインリップLmが反転したままの状態では、軸受のアウトボード側の密封性が低下してしまうため、ここから軸受内部へ異物が浸入し易くなってしまう。このため、長期に亘って軸受内部を一定の密封状態に保持することが困難になり、その結果、軸受が早期に劣化してしまう虞がある。なお、サイドリップLsとグリースリップLgは、その向きにより反転の虞は無い。
【0016】
そこで、かかる弊害を解消するための方策として、例えば特許文献1の従来例には、図4(b)に示すように、シール摺動面4m-2と車輪側の回転軌道溝4sとの間の領域に、環状のテーパ部24を連続して設けた技術が提案されている。この場合、テーパ部24は、シール摺動面4m-2から車輪側の回転軌道溝4sに向うに従って先細り形状を成した(小径化した)円錐台を構成しており、最も小径化した部分(回転軌道溝4sに隣接した部分)の外径は、メインリップLmの内径よりも小さく設定されている。これにより、軸受組立時におけるメインリップLmの反転防止が図られている。
【0017】
しかしながら、特許文献1の技術には、次のような問題がある。即ち、軸受ユニットにおいて、そのアウトボード側のシール構造には高い防水耐久性が要求されるため、リップシール10aの各リップLs,Lm,Lgと回転輪4のシール摺動面4m-2との“しめしろ”が比較的大きく設定されている。このため、シール摺動面4m-2と車輪側の回転軌道溝4sとの間にテーパ部24を設けても、各リップLs,Lm,Lgの反転を確実に防止することは困難である。
【0018】
この場合、各リップLs,Lm,Lgが反転したか否かを確認することが好ましいが、特にメインリップLmは、サイドリップLsとグリースリップLgとの間に介在し、外部から目視確認することが困難な箇所に配置されている。このため、軸受組立時にメインリップLmが反転したか否かを確認することができない。また、メインリップLmは、シール構造の根幹を成すリップであるため、これが反転した状態のままでは、シール機能を一定に維持することが困難になってしまう。
【0019】
そこで、軸受組立時に各リップLs,Lm,Lgが反転したか否かを目視確認すること無く簡単且つ確実に検出することができる技術の開発が望まれているが、現在そのような技術は知られていない。
【特許文献1】特許3640786号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明は、このような問題を解決するためになされており、その目的は、軸受組立時にリップが反転したか否かを目視確認すること無く簡単且つ確実に検出することが可能なリップ反転検出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
かかる目的を達成するために、本発明は、相対回転可能に対向配置された軌道輪と、軌道輪相互で区画された軸受内部を軸受外部から密封するためのシール構造とを備え、シール構造には、その基端が一方の軌道輪に固定され、その先端のリップが他方の軌道輪に対して摺動自在に位置決めされたシール部材が設けられた軸受のリップ反転検出方法であって、軸受内部へ所定の気体を圧送し、当該軸受内部を加圧する工程と、軸受内部を加圧した状態において、シール部材のリップを通って気体が軸受外部へ漏れ出した際の軸受内部の圧力変化を測定する工程と、軸受内部の圧力変化を基準値と比較することで、リップの反転の有無を検出する工程とを有する。
【0022】
本発明において、シール部材のリップには、当該リップを通って軸受外部へ気体を漏れ易くするための気体通路が形成されている。この場合、一方の軌道輪は、車体側に固定されて常時非回転状態に維持される静止輪であり、他方の軌道輪は、静止輪に対向して設けられ且つ車輪側に接続されて車輪と共に回転する回転輪であり、シール部材は、静止輪と回転輪との間の車輪側に設けられている。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、軸受組立時にリップが反転したか否かを目視確認すること無く簡単且つ確実に検出することが可能なリップ反転検出方法を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の一実施の形態に係るリップ反転検出方法について、添付図面を参照して説明する。本実施の形態のリップ反転検出方法に適用可能な軸受としては、車両の駆動輪用及び従動輪用の各種の軸受ユニットがあるが、ここでは一例として、図3に示された従動輪用の軸受ユニットを想定する。なお、当該軸受ユニットの構成については、既に詳述してあるので、その説明は省略する。
【0025】
図1には、本実施の形態に係るシール機能検出方法に適用した検出装置の構成例が示されている。検出装置は、静止輪2の車体側を密封するように装着される検出ハウジング26と、所定の気体(例えば、空気、その他の気体)を圧送するためのポンプ30とを備えている。検出ハウジング26には、気体導入口26aが形成されており、ここから圧送管路28を介してポンプ30が連通接続されている。
【0026】
このような検出装置において、検出ハウジング26は、車体(インボード)側のカバー10bを取り付ける前に、静止輪2の車体側を密封するように装着される。これにより、ポンプ30から圧送管路28を通って圧送された気体は、導入口26aを経て検出ハウジング26内に導入される。なお、検出ハウジング26内に導入された気体の圧力は、圧力計32で計測されるようになっている。
【0027】
このとき、検出ハウジング26内に導入された気体は、静止輪(外輪)2と回転輪(内輪)4とで区画された軸受内部に圧送され、これにより、当該軸受内部が所定の圧力値まで加圧される。ここで、図4(a)に示すように、車輪(アウトボード)側を密封するリップシール10aにおいて、サイドリップLs及びメインリップLmは、軸受内部への異物(例えば、泥水、塵埃)の浸入を防止するために、車輪側に向いた状態(漏れ勝手の向き)でシール摺動面4m-2に摺接しており、グリースリップLgは、車体側に向いた状態(入り勝手の向き)でシール摺動面4m-2に摺接している。
【0028】
この状態において、軸受内部が例えば6気圧に加圧されている場合、リップシール10aの各リップLs,Lm,Lgの漏れ圧を約1気圧程度とすると、残留圧力は、約5気圧程度となる。つまり、シール摺動面4m-2に対して各リップLs,Lm,Lgが正常に摺接している場合には、圧力計32で計測される軸受内部の圧力値は、約5気圧程度となる。なお、以下の説明では、このときの軸受内部の圧力値(約5気圧程度)を基準値とする。
【0029】
これに対して、シール摺動面4m-2に対して各リップLs,Lm,Lgが正常に摺接していない場合には、当該各リップLs,Lm,Lgとシール摺動面4m-2との間の“しめしろ”が部分的に小さくなる状態或いは部分的に無くなる状態となる。かかる状態は、軸受組立工程中における例えば静止輪2と回転輪4との間に生ずる芯ズレが原因であるが、これにより、例えばメインリップLmが矢印t方向(図4(a))反転する場合がある。この場合、圧力計32により軸受内部の圧力値を計測し、その計測値と上述の基準値(約5気圧程度)とを比較すると、軸受内部の圧力値は、メインリップLmからの漏れ圧の影響により、基準値を下回る結果となる。従って、この結果に基づいて、メインリップLmが反転していることを検出することができる。
【0030】
以上、本実施の形態によれば、各リップLs,Lm,Lgの漏れ圧を計測することにより、軸受組立時に各リップLs,Lm,Lgが反転したか否かを目視確認すること無く簡単且つ確実に検出することができる。この場合、特にメインリップLmは、サイドリップLsとグリースリップLgとの間に介在し、外部から目視確認することができないが、各リップLs,Lm,Lgの漏れ圧を計測するだけで、当該メインリップLmの反転の有無を外部から目視確認すること無く簡単且つ確実に検出することができる。これにより、シール構造が組み込まれた軸受ユニットのシール機能を一定に維持することが可能となり、その結果、完成品の品質を向上させることができる。
【0031】
ところで、例えばメインリップLmが矢印t方向(図4(a))反転した状態において、その反転部分がシール摺動面4m-2に対して強く押し付けられると、当該メインリップLmを通って軸受外部へ気体が流れ難くなる場合がある。この場合、反転していない他のリップLs,Lgは、軸受組立時にシール摺動面4m-2に沿って押圧変形し、シール摺動面4m-2に対する緊迫力が上昇する。このとき、メインリップLmとグリースリップLgとの間には、気体が漏れ難い密封空間10v(図2(a))が形成される。
【0032】
そうなると、グリースリップLgの耐圧力が上昇するため、上述した実施の形態のリップ反転検出方法では、正確にメインリップLmの反転の有無を検出することが困難になってしまう場合がある。そこで、かかる不具合を解消する方法として、シール部材(シール構造)の各リップLs,Lm,Lgに、当該各リップLs,Lm,Lgを通って軸受外部へ気体を漏れ易くするための気体通路を形成することが好ましい。
【0033】
ここで、気体通路としては、例えば図2(a)に示すように、メインリップLmの一部を切り欠いてスリット状或いは凹状の気体通路22kを形成すれば良い。この場合、気体通路22kは、メインリップLmに対して1箇所形成しても良いし、或いは、複数箇所に亘って形成しても良い。複数箇所に気体通路22kを形成する場合には、メインリップLmに沿って等間隔に配置しても良いし、不等間隔に配置しても良い。なお、気体通路22kの大きさや形状については、例えばメインリップLmの大きさや形状、或いは、その反転部分のシール摺動面4m-2に対する押し付け量などに応じて任意に設定されるため、特に限定はしない。
【0034】
このように、メインリップLmに気体通路22kを形成することで、例えば図2(b)に示すように、メインリップLmが反転した際に、その反転部分がシール摺動面4m-2に対して強く押し付けられた場合でも、メインリップLmとグリースリップLgとの間の密封空間10vから気体通路22kを通って気体を漏れ易くすることができる。これにより、グリースリップLgの耐圧力の上昇を抑えることが可能となり、その結果、上述した実施の形態のリップ反転検出方法により、正確にメインリップLmの反転の有無を検出することができる。
【0035】
また、上述した実施の形態では、各リップLs,Lm,Lgの漏れ圧を計測することで、メインリップLmの反転の有無を検出したが、これに代わる他の実施の形態として、例えば各リップLs,Lm,Lgとシール摺動面4m-2とで囲まれる容積(以下、シール容積と言う)の変化を計測することで、メインリップLmの反転の有無を検出するようにしても良い。
【0036】
このような検出方法では、図1に示すように、ポンプ30から検出ハウジング26内に気体を圧送し、軸受内部を加圧する。そして、このときの圧力上昇から軸受内部のシール容積(以下、基準値と言う)を算出する。ここで、静止輪(外輪)2、回転輪(内輪)4、各転動体6,8、保持器18は、軸受性能を一定に維持するために精度良く加工されており、軸受内部の容積のばらつきは少ない。従って、軸受内部の圧力上昇値と、軸受内部の容積とは対応関係にあり、圧力上昇値から容積を算出することが可能である。
【0037】
ここで、例えばメインリップLmが矢印t方向(図4(a))反転すると、当該メインリップLmとシール摺動面4m-2との間の“しめしろ”が部分的に小さくなる状態或いは部分的に無くなる状態となる。このとき、メインリップLmの反転部分の耐圧力が低下し、当該反転部分を通って気体が流れ易くなるため、軸受内部の圧力値が変化(低下)する。この場合、軸受内部のシール容積は、基準値に比較して変化(低下)する結果となる。従って、この結果に基づいて、メインリップLmが反転していることを検出することができる。
【0038】
以上、他の実施の形態によれば、シール容積の変化を計測することにより、軸受組立時に各リップLs,Lm,Lgが反転したか否かを目視確認すること無く簡単且つ確実に検出することができる。なお、これ以外の効果は、上述した実施の形態と同様であるため、その説明は省略する。
【0039】
ところで、例えばメインリップLmが反転した状態において、その反転部分がシール摺動面4m-2に対して強く押し付けられると、当該メインリップLmを通って軸受外部へ気体が流れ難くなる場合がある。また、反転していない他のリップLs,Lgは、シール摺動面4m-2に対する緊迫力が上昇する。このとき、メインリップLmとグリースリップLgとの間には、気体が漏れ難い密封空間10v(図2(a))が形成される。
【0040】
この場合、密封空間10vのみの容積がシール容積に加算されることになるが、密封空間10vは、元々容積が小さい上に潤滑剤も多く存在する。このため、密封空間10vの容積の変化は僅かとなり、正確にメインリップLmの反転の有無を検出することが困難になってしまう場合がある。そこで、かかる不具合を解消する方法として、シール部材(シール構造)の各リップLs,Lm,Lgに、当該各リップLs,Lm,Lgを通って軸受外部へ気体を漏れ易くするための気体通路22k(図2(a),(b))を形成することが好ましい。なお、気体通路22kとしては、上述した実施の形態と同様の構成とすれば良いので、その詳細な説明は省略する。
【0041】
このように、上述した実施の形態と同様に、メインリップLmに気体通路22kを形成することで(図2(a))、当該メインリップLmが反転した際に、その反転部分がシール摺動面4m-2に対して強く押し付けられた場合でも(図2(b))、メインリップLmとグリースリップLgとの間の密封空間10vから気体通路22kを通って気体を漏れ易くすることができる。この場合、密封空間10vに加えて、サイドリップLsとメインリップLmとシール摺動面4m-2とで囲まれた空間容積もシール容積に加算することができるため、各リップLs,Lm,Lgの漏れ圧に伴う容積変化も大きくなる。この結果、当該容積変化に基づいて、正確にメインリップLmの反転の有無を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の一実施の形態に係るシール機能検出方法に適用した装置構成を示す断面図。
【図2】(a)は、図1に示されたアウトボード側のシール構造の構成例を示す部分断面図、(b)は、同図(a)のシール構造のリップが反転した状態を示す部分断面図。
【図3】従動輪用の軸受ユニットの構成例を示す断面図。
【図4】(a)は、従来の車輪側のシール構造の構成例を示す図、(b)は、メインリップの反転防止を図るための従来技術の構成を示す図。
【符号の説明】
【0043】
2 静止輪(外輪)
4 回転輪(内輪)
6,8 転動体
10a リップシール(シール部材)
10v 密封空間
Ls,Lm,Lg リップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対回転可能に対向配置された軌道輪と、軌道輪相互で区画された軸受内部を軸受外部から密封するためのシール構造とを備え、シール構造には、その基端が一方の軌道輪に固定され、その先端のリップが他方の軌道輪に対して摺動自在に位置決めされたシール部材が設けられた軸受のリップ反転検出方法であって、
軸受内部へ所定の気体を圧送し、当該軸受内部を加圧する工程と、
軸受内部を加圧した状態において、シール部材のリップを通って気体が軸受外部へ漏れ出した際の軸受内部の圧力変化を測定する工程と、
軸受内部の圧力変化を基準値と比較することで、リップの反転の有無を検出する工程とを有することを特徴とするリップ反転検出方法。
【請求項2】
シール部材のリップには、当該リップを通って軸受外部へ気体を漏れ易くするための気体通路が形成されていることを特徴とする請求項1に記載のリップ反転検出方法。
【請求項3】
一方の軌道輪は、車体側に固定されて常時非回転状態に維持される静止輪であり、他方の軌道輪は、静止輪に対向して設けられ且つ車輪側に接続されて車輪と共に回転する回転輪であり、シール部材は、静止輪と回転輪との間の車輪側に設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載のリップ反転検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−82410(P2008−82410A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−261687(P2006−261687)
【出願日】平成18年9月27日(2006.9.27)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】