説明

リニアアクチュエータおよびボールベアリング・スプライン

【課題】滑り摩擦による磨耗が少なく効率の高いリニアアクチュエータを提供する。
【解決手段】ボールねじ205は、電動モータによって動力を与えられる。ボールベアリング・スプラインは、並進ナット204に一体化されており、外側レース201、内側レースつまり負荷経路202、ボール・リターン経路203、および複数の転動要素つまりベアリングボール206を備えている。ボールねじ205が回転すると、ボールベアリング・スプラインが、ボールねじ205の回転トルクに対抗し、並進ナット204を直線的な方向に移動させる。複数の転動要素206が、ボール・リターン経路203を介して、内側レース202から外側レース201へ移動しさらに内側レース202へ戻るように連続的に循環する。これによって、並進ナット204の無限の直線ストロークに亘ってボールベアリング・スプラインが作動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概してリニアアクチュエータの技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
リニアアクチュエータは、対象物に力を加えたり直線的に変位させるように設計された機械である。リニアアクチュエータとしては、電気機械アクチュエータ(EMA)があり、EMAにおいては、電動モータがEMAに動力を与える。EMAは、油圧式あるいは空圧式のリニアアクチュエータよりも効率が高く、油圧式作動システムで使用される作動油に関連する火炎危険や漏出の問題を生じさせない。
【0003】
リニアアクチュエータとしては、ボールねじアクチュエータとすることができ、ボールねじアクチュエータにおいては、電動モータが回転ボールベアリングねじつまりボールねじに動力を与える。ボールねじアクチュエータは、ボールねじの回転運動を、螺旋状のボール溝を介して、並進ナットの直線運動に変換する。ボールねじが回転するとき、このボールねじに螺合した並進ナットは、回転しないように拘束されており、ボールねじとナットとの間に配置された一式のベアリングボールが螺旋状のボール溝に追従することで、ボールねじとナットとの間の摩擦が低減される。こうして、ボールねじの回転運動が、ナットの直線運動に変換される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ボールねじアクチュエータにおいて、並進ナットを、ボールねじと共に回転しないように拘束するためには、ボールねじの回転に伴うトルクに対抗するように構成する必要がある。この駆動トルクに対抗する最も簡単な方法は、アクチュエータの負荷に接続された構造体を利用することである。ボールねじアクチュエータが一般に使用される用途においては、動かされる対象物が、構造体の上で所定の経路に沿って関節動作するので、この構造体を並進ナットの回転防止に利用することができる。しかし、いくつかの用途においては、ボールねじアクチュエータは、このような基礎となる構造体でもってトルクに対抗することができない。このような用途においては、トルクに対抗する外部のリンクやトルクに対抗するスプラインなどのトルク対抗要素がアクチュエータに組み込まれる。アクチュエータに外部のトルク対抗リンクを組み込めない(例えば、レイアウト上の制約による)ような用途においては、トルク対抗スプラインが使用され得る。トルク対抗スプラインは、アクチュエータの静止要素と並進要素との間に位置する摺動境界面を有し、並進要素の並進運動を許容しつつ回転要素からのトルクに対抗する。しかしながら、トルク対抗スプラインの摺動境界面における摺動摩擦によってシステムのエネルギが消費され、アクチュエータ全体の効率が低下してしまう。また、このトルク対抗スプラインは、摺動摩擦によって、比較的大きな磨耗を生じることがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様によると、リニアアクチュエータは、回転するように構成されたボールねじと、ボールねじと螺合し、ボールねじの回転運動に応答して直線運動に変換するように構成されたナットと、ナットに一体化されて、複数のベアリングボールを含み、かつボールねじの回転トルクに対抗するように構成されたボールベアリング・スプラインと、を備える。
【0006】
本発明の他の態様によると、ボールベアリング・スプラインは、リニアアクチュエータの並進ナットに一体化されて、複数のベアリングボールを含み、並進ナットと螺合したボールねじからの回転トルクに対抗するように構成されている。
【0007】
本発明の他の態様、特徴および技術は、図に関連する以下の説明から明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】ボールベアリング・スプラインを備えるリニアアクチュエータの実施例を示す図。
【図2】ボールベアリング・スプラインを備えるリニアアクチュエータの実施例の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
ボールベアリング・スプラインを備えるリニアアクチュエータの実施例に即して以下に詳述する。
【0010】
ボールベアリング・スプラインは、リニアボールねじアクチュエータの並進要素つまりナットに組み込むことができる。このボールベアリング・スプラインは、複数の転動要素つまりベアリングボールを保持する直線状のレース(race)を備えている。これらのベアリングボールは、静止ハウジングと並進ナットとの間の境界を横切って負荷を直線的に伝達し、比較的小さな摩擦でもってボールねじのトルクに対抗するように機能する。これによって、アクチュエータの効率が向上する。また、ボールベアリング・スプラインは、ボール・リターン経路を備えることができ、このリターン経路を介してボールベアリング・スプラインの負荷経路から出たベアリングボールが負荷経路の入口へ戻るようにすることで、ベアリングボールがレース内で再循環することが可能になり、これにより、ボールベアリング・スプラインが無限ストロークに亘って作動することが可能になる。
【0011】
図1は、ボールベアリング・スプラインを備えたリニアアクチュエータ100の実施例である。リニアアクチュエータ100は、並進ナット103と螺合したボールねじ101を備えている。いくつかの実施例においては、ボールねじ101は、電動モータによって動力を与えられる。ボールベアリング・スプライン102a,102bは、並進ナット103に一体化されており、複数のベアリングボールを備えている。ボールベアリング・スプライン102a,102bが、ボールねじ101の回転に伴うトルクに対抗し、並進ナット103は、ボールねじ101の回転に応答して、矢印104で示す直線的な方向に移動する。これらのボールベアリング・スプライン102a,102bは、例示に過ぎず、リニアアクチュエータが備えるボールベアリング・スプラインは、適当な数および構成とすることができる。
【0012】
図2は、ボールベアリング・スプラインを備えるリニアアクチュエータ200の実施例の断面図である。このリニアアクチュエータ200は、並進ナット204に螺合した回転するボールねじ205を備えている。いくつかの実施例においては、ボールねじ205は、電動モータによって動力を与えられる。ボールベアリング・スプラインは、並進ナット204に一体化されており、外側レース201と、内側レースつまり負荷経路202と、ボール・リターン経路203と、複数の転動要素つまりベアリングボール206と、を備えている。動作について説明する。ボールねじ205が回転すると、ボールベアリング・スプラインがボールねじ205からの回転トルクに対抗し、並進ナット204を直線的な方向に移動させる。複数の転動要素206が、ボール・リターン経路203を介して、内側レース202から外側レース201へ移動しさらに内側レース202へ戻るように、連続的に循環する。これによって、ボールベアリング・スプラインが並進ナット204の無限の直線ストロークに亘って作動することが可能になる。
【0013】
実施例における技術的効果および利点としては、リニアアクチュエータのスプラインの効率が高くかつ磨耗が少ないことが挙げられる。
【0014】
なお、本明細書中で使用される用語は、特定の実施例を説明するためのものであり、本発明を限定することを意図するものではない。上記の説明は、例示であり、当業者であれば、本発明のさまざまな変更や変形がなされ得ることを理解されよう。本発明の態様は、説明した実施例のうちの一部しか含まないこともある。従って、本発明は、上記の説明によって限定されるものではなく、特許請求の範囲によって確定される。
【符号の説明】
【0015】
100…リニアアクチュエータ
101…ボールねじ
103…ナット
200…リニアアクチュエータ
201…外側レース
202…内側レース
204…ナット
205…ボールねじ
206…ベアリングボール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転するように構成されたボールねじ(101,205)と、
ボールねじ(101,205)と螺合し、ボールねじ(101,205)の回転運動に応答して直線的に並進運動するように構成されたナット(103,204)と、
ナット(103,204)に一体化され、かつ複数のベアリングボール(206)を含み、ボールねじ(101,205)からの回転トルクに対抗するように構成されたボールベアリング・スプライン(102a)と、
を備えるリニアアクチュエータ(100,200)。
【請求項2】
ボールベアリング・スプライン(102a)が内側レース(202)および外側レース(201)を含み、これらの内側レース(202)と外側レース(201)とがボール・リターン経路(203)によって接続されていることを特徴とする請求項1に記載のリニアアクチュエータ(100,200)。
【請求項3】
複数のベアリングボール(206)が、ボール・リターン経路(203)を介して、内側レース(202)から外側レース(201)へ移動しさらに内側レース(202)へ戻るように、連続的に循環することを特徴とする請求項2に記載のリニアアクチュエータ(100,200)。
【請求項4】
ボールねじ(101,205)を回転駆動するように構成された電動モータをさらに備えることを特徴とする請求項1に記載のリニアアクチュエータ(100,200)。
【請求項5】
複数のボールベアリング・スプライン(102a,102b)がナット(103,204)に一体化されていることを特徴とする請求項1に記載のリニアアクチュエータ(100,200)。
【請求項6】
リニアアクチュエータ(100,200)の並進ナット(103,204)に一体化され、かつ複数のベアリングボール(206)を含むボールベアリング・スプライン(102a)であって、上記並進ナット(103,204)と螺合したボールねじ(101,205)からの回転トルクに対抗するように構成されたボールベアリング・スプライン(102a)。
【請求項7】
ボールベアリング・スプライン(102a)が内側レース(202)および外側レース(201)を含み、これらの内側レース(202)と外側レース(201)とがボール・リターン経路(203)によって接続されていることを特徴とする請求項6に記載のボールベアリング・スプライン(102a)。
【請求項8】
複数のベアリングボール(206)が、ボール・リターン経路(203)を介して、内側レース(202)から外側レース(201)へ移動しさらに内側レース(202)へ戻るように、連続的に循環することを特徴とする請求項7に記載のボールベアリング・スプライン(102a)。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−122724(P2011−122724A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−275591(P2010−275591)
【出願日】平成22年12月10日(2010.12.10)
【出願人】(500107762)ハミルトン・サンドストランド・コーポレイション (165)
【氏名又は名称原語表記】HAMILTON SUNDSTRAND CORPORATION
【住所又は居所原語表記】One Hamilton Road, Windsor Locks, CT 06096−1010, U.S.A.
【Fターム(参考)】