説明

リニアモータの制御装置、及びリニアモータ装置

【課題】リニアスケールを用いずにリニアモータの位置決め精度を改善することができるリニアモータの制御装置を提供する。
【解決手段】リニアモータの制御装置は、リニアモータの電機子が有している磁気センサであってリニアモータの駆動用磁石より生じる磁界の方向に応じた信号を出力する磁気センサから出力される信号の変化に基づいてリニアモータの可動子の位置を検出する位置検出部と、位置検出部が検出した可動子の位置と外部より入力される位置指令値とに基づいて速度指令値を算出する位置制御部と、リニアモータに備えられている複数のコイルに流れる電流値から可動子が移動する速度を推定する推定部と、位置制御部が算出する速度指令値と推定部により推定する可動子の推定移動速度とに基づいて電流指令値を算出する速度制御部と、速度制御部が算出した電流指令値に応じて複数のコイルに電力を供給する電力変換器とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リニアモータの制御装置、及びリニアモータ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
リニアモータの位置決め制御にリニアスケールを用いて位置決めの精度を高めているものがある。しかし、リニアモータの可動子が長尺な可動域を有する場合、リニアスケールを長くしなければならず、ゆがみの少ないリニアスケールを用いる必要があった。そのため、リニアモータの製造コストが高くなってしまっていた。
【0003】
そこで、位置決め制御が必要になる可動域にのみリニアスケールを設けて、製造コストの削減が行われている(特許文献1)。
また、可動子に取り付けられたMRセンサを用いてリニアモータの駆動用マグネットの磁気を検出し、検出した磁気の強さから可動子の位置を算出することにより、位置決め制御を行うことが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−023936号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、全ての可動域において位置決め制御が必要になる場合、結局全ての可動域にリニアスケールを設けることになり、コストの削減が図れないという問題がある。
また、MRセンサを用いて駆動用マグネットの磁気を検出して可動子の位置を算出する場合、MRセンサの取り付け誤差や、駆動用マグネットの取り付け誤差などがあるため、算出される位置に誤差が含まれることがあり、算出した位置より算出する速度に基づく制御の精度が低下し、位置決め制御の精度が悪くなってしまうという問題があった。
【0006】
本発明は、上記問題を解決すべくなされたもので、その目的は、リニアスケールを用いずにリニアモータの位置決め精度を改善することができるリニアモータの制御装置、及びリニアモータ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記問題を解決するために、本発明は、N極とS極とが交互に一列に配列されている複数の駆動用磁石を有する磁石部と、複数のコイルを有する電機子とを備え、前記電機子又は前記磁石部のいずれか一方が可動子であり、前記電機子が有している複数のコイルに電流を流して生じる磁界と、前記磁石部が有している複数の駆動用磁石より生じる磁界とにより前記駆動用磁石の配列されている配列方向に沿って前記可動子が移動するリニアモータの制御装置であって、前記電機子が有している磁気センサであって前記駆動用磁石より生じる磁界の方向に応じた信号を出力する磁気センサから出力される信号の変化に基づいて前記可動子の位置を検出する位置検出部と、前記位置検出部が検出した前記可動子の位置と、外部より入力される位置指令値とに基づいて速度指令値を算出する位置制御部と、前記リニアモータに備えられている複数のコイルに流れる電流値から前記可動子が移動する速度を推定する推定部と、前記位置制御部が算出する速度指令値と、前記推定部が推定する前記可動子が移動する速度とに基づいて電流指令値を算出する速度制御部と、前記速度制御部が算出した電流指令値に応じて前記複数のコイルに電力を供給する電力変換器とを備えていることを特徴とするリニアモータの制御装置である。
【発明の効果】
【0008】
この発明によれば、リニアスケールを用いずにリニアモータの位置決め精度を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】第1実施形態におけるリニアモータ装置1を示す概略図である。
【図2】同実施形態におけるMRセンサ27の原理を示す斜視図である。
【図3】同実施形態におけるリニアモータ20の斜視図である。
【図4】同実施形態におけるリニアモータ20の正面図である。
【図5】同実施形態における可動子25の移動方向に沿った断面図を示す図である。
【図6】同実施形態におけるMRセンサ27及びコイル28u、28v、28wと、駆動用磁石24との相対的な位置との相対的な位置を示す模式図である。
【図7】同実施形態におけるリニアモータ20の制御装置10の構成を示す概略ブロック図である。
【図8】第2実施形態におけるリニアモータ20の制御装置11の構成を示す概略ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態におけるリニアモータの制御装置を説明する。
【0011】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態におけるリニアモータ装置1を示す概略図である。同図に示すように、リニアモータ装置1は、制御装置10と、リニアモータ20とを具備している。制御装置10は、リニアモータ20を駆動させる制御をする装置である。リニアモータ20は、長尺の固定子21と、固定子21上を移動する可動子25と、固定子21及び可動子25を組み付ける一対の案内装置22、22を備えている。
【0012】
案内装置22は、例えば、ボールを介して組みつけられた軌道レール23及びスライドブロック26から構成されている。案内装置22の軌道レール23は、固定子21が有するベース54に固定され、案内装置22のスライドブロック26は、可動子25に固定されている。これにより、可動子25は、固定子21上を軌道レール23に沿って自在に案内されるようになっている。
【0013】
また、固定子21は、一対の軌道レール23、23の間に並べられた複数の駆動用磁石24を備えている。複数の駆動用磁石24は、可動子25が移動する方向(以下、移動方向という)において、N極及びS極の磁極が交互になるように並べられている。また、各駆動用磁石24は、移動方向において、同じ長さを有しており、可動子25の位置に関わらず一定の推力が得られるようになっている。
【0014】
可動子25は、複数のコイルを有する電機子60と、移動対象を取り付けるテーブル53と、MR(Magnetoresitive Elements;磁気抵抗素子)センサ27とを備えている。
MRセンサ27は、磁気センサの一種であり、固定子21に配列されている駆動用磁石24が生じさせる磁界の磁束線の方向に応じた信号を制御装置10に出力する。
【0015】
図2は、本実施形態におけるMRセンサ27の原理を示す斜視図である。同図に示すように、シリコン(Si)又はガラス基板271と、その上に形成されたニッケル(Ni)、鉄(Fe)などの強磁性金属を主成分とする合金の強磁性薄膜金属で形成される磁気抵抗素子272とを有する。磁気抵抗素子272は、電流の流れる方向(Y軸方向)に対して、磁気抵抗素子272を通過する磁束の方向がなす角度に応じて、抵抗値が変化する。
【0016】
MRセンサ27は、複数の磁気抵抗素子272を組み合わせて構成された2つのフルブリッジ回路を有し、当該2つのフルブリッジ回路が90°の位相差を有する2つの信号(余弦波信号、正弦波信号)を出力するように配置されている。このように、特定の磁界方向で抵抗値が変化する素子を、AMR(Anisotropic Magneto-Resistance;異方性磁気抵抗素子)センサという(参考文献:「垂直タイプMRセンサ技術資料」、[online]、2005年10月1日、浜松光電株式会社、「2010年8月30日検索」、インターネット<URL;http://www.hkd.co.jp/technique/img/amr-note1.pdf>)。
【0017】
図1に戻って、制御装置10は、MRセンサ27が出力する信号に基づいて、固定子21上における可動子25の位置及び移動する速度を算出する。また、制御装置10は、算出した可動子25の位置及び速度と、上位の制御装置より入力される位置指令値とに応じて、電機子60が有している複数のコイルに電流を流す。
これにより、複数のコイルに生じる磁界と、固定子21に配置されている駆動用磁石24により生じる磁界との作用により、可動子25を軌道レール23に沿って駆動させる。
【0018】
図3、図4を用いて、本実施形態におけるリニアモータ20の構成を説明する。
図3は、本実施形態におけるリニアモータ20の斜視図(テーブル53の断面を含む)である。図4は、本実施形態におけるリニアモータ20の正面図である。
【0019】
リニアモータ20は、上述のように、固定子21が、N極又はS極が着磁されている面を可動子25に向けて配列されている複数の板状の駆動用磁石24を備え、可動子25が、固定子21に対して相対的に直線運動をするフラットタイプのリニアモータである。可動子25に備えられている電機子60は、駆動用磁石24とすきまgを介して対向している。
【0020】
固定子21が有する細長く伸びているベース54上には、上述の複数の駆動用磁石24が、移動方向に一列に配列されている。ベース54は、底壁部54aと、底壁部54aの幅方向の両側に設けられている一対の側壁部54bとから構成されている。底壁部54aには、上述の複数の駆動用磁石24が取り付けられている。
【0021】
各駆動用磁石24には、移動方向と直交する方向(図4において上下方向)の両端面にN極及びS極が形成されている。複数の駆動用磁石24は、それぞれが隣接する一対の駆動用磁石24に対して磁極を反転させた状態で並べられている。
これにより、可動子25に取り付けられているMRセンサ27に対し、可動子25が移動した際に、駆動用磁石24のN極とS極との磁極が交互に対向するようになっている。
【0022】
ベース54の側壁部54bの上面には、案内装置22の軌道レール23が取り付けられている。軌道レール23には、上述したように、スライドブロック26がスライド可能に組み付けられている。軌道レール23と、スライドブロック26との間には、転がり運動可能に複数のボールが介在されている(図示せず)。
【0023】
スライドブロック26には、複数のボールを循環させるためのトラック状のボール循環経路が設けられている。軌道レール23に対して、スライドブロック26がスライドすると、複数のボールがこれらの間を転がり運動し、また複数のボールがボール循環経路を循環する。これにより、スライドブロック26の円滑な直線運動が可能になる。
【0024】
案内装置22のスライドブロック26の上面には、可動子25のテーブル53が取り付けられている。テーブル53は、例えば、アルミニウムなどの非磁性素材からなり、移動対象が取り付けられる。テーブル53の下面には、電機子60が吊り下げられている。図4の正面図に示されるように、駆動用磁石24と電機子60との間には、すきまgが設けられている。案内装置22は、電機子60が駆動用磁石24に対して相対的に移動するときも、このすきまgを一定に維持する。
【0025】
図5は、本実施形態における可動子25の移動方向に沿った断面図を示す図である。
テーブル53の下面には、断熱材63を介して電機子60が取り付けられている。電機子60は、珪素鋼などの磁性素材からなるコア64と、上述した複数のコイルであり、コア64の突極64u、64v、64wに巻かれるコイル28u、28v、28wとを有している。
【0026】
コイル28u、28v、28wそれぞれには、位相差を有する三相交流が制御装置10から供給される。突極64u、64v、64wに3つのコイル28u、28v、28wを巻いた後、3つのコイル28u、28v、28wは、樹脂封止される。
また、テーブル53の下面には、電機子60を挟んで一対の補助コア67が取り付けられている。補助コア67は、リニアモータ20に発生するコギングを低減するために設けられている。
【0027】
図6は、本実施形態におけるMRセンサ27及びコイル28u、28v、28wと、駆動用磁石24との相対的な位置との相対的な位置を示す模式図である。
固定子21には、上述したように、ベース54の底壁部54a上に、駆動用磁石24が等間隔に、かつ一列に配列されている。より詳細には、MRセンサ27に対しN極を向けて配置されている駆動用磁石24Nと、MRセンサ27に対しS極を向けて配置されている駆動用磁石24Sとが、交互に配列されている。
【0028】
可動子25において、コイル28u、28v、28wは、固定子21に配置された駆動用磁石24の中心を通過し、移動方向に対し平行な直線上を通過に配列されている。また、MRセンサ27は、コイル28u、28v、28wと同様に、各駆動用磁石24の中心を通過し、移動方向に対し平行な直線上を通過する位置に取り付けられている。これにより、MRセンサ27を駆動用磁石24が生じさせる磁界の最も強い位置を通過させることができる。
【0029】
図7は、本実施形態におけるリニアモータ20の制御装置10の構成を示す概略ブロック図である。同図に示すように、制御装置10は、減算器101、位置制御部102、減算器103、速度制御部104、電流制御部105、電力変換器106、変流器107、位置検出部108、推定部150を備えている。
【0030】
減算器101は、不図示の上位の制御装置から入力される位置指令値θrmから、位置検出部108から入力される検出位置θを減算して、位置偏差を算出する。ここで、検出位置θは、予め定められた位置を原点とした場合におけるリニアモータ20の可動子25の位置を示す。
位置制御部102は、減算器101が算出した位置偏差に基づいて、リニアモータ20の可動子25を位置指令値θrmにより示される位置に移動させる速度指令値ωrmを算出する。
【0031】
減算器103は、位置制御部102が算出した速度指令値ωrmから、推定部150から入力される可動子25の推定速度ωMOを減算し、減算結果である速度偏差を算出する。ここで、推定速度ωMOは、推定部150が、リニアモータ20に印加する電圧と、リニアモータ20に流れる電流とから推定する可動子25の移動速度である。
【0032】
速度制御部104は、減算器103が算出した速度偏差に基づいて、リニアモータ20の可動子25の移動速度が速度指令値ωrmと同一値となるように、リニアモータ20のコイル28u、28v、28wに流す電流値を示す電流指令値を算出する。すなわち、速度制御部104は、速度偏差を「0」にするように電流指令値を算出する。例えば、速度制御部104は、PI制御又はPID制御などにより、可動子25の移動速度が速度指令値ωrmと同一値になるように電流指令値を算出する。なお、速度制御部104は、ベクトル制御を行うことにより、速度指令値から回転座標系におけるd軸とq軸との2つの電流値を含む電流指令値を出力する。
【0033】
電流制御部105は、速度制御部104が算出した電流指令値に対して2相3相変換を行い、リニアモータ20のコイル28u、28v、28wに印加する電圧値を算出する。
電力変換器106は、外部から供給される電圧を、電流制御部105が算出した電圧値に変換する。また、電力変換器106は、変換した電圧をリニアモータ20のコイル28u、28v、28wに印加してリニアモータ20を駆動させるとともに、変換した電圧を推定部150に印加する。例えば、電力変換器106は、リニアモータ20のコイル28u、28v、28wの数に応じて設けられている上アーム及び下アームであって、スイッチング素子を有する上アーム及び下アームを有している。このとき、電力変換器106は、電流制御部105より入力される電圧に応じて、スイッチング素子のオン・オフを切り替えるPWM制御により、スイッチング素子を介して電機子60に備えられているコイル28u、28v、28wに電力を供給して、可動子25を駆動する。スイッチング素子は、例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor;絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)などの半導体素子が用いられる。
【0034】
変流器107は、電力変換器106と、リニアモータ20とを接続する電力線に取り付けられ、リニアモータ20に流れる電流の電流値iを検出する。
位置検出部108は、リニアモータ20に備えられている磁気センサ27が出力する2つの信号(余弦波信号及び正弦波信号)から可動子25の位置を検出し、検出した位置を示す検出位置θを減算器101に出力する。
【0035】
推定部150は、モータモデル部151、減算器152、速度推定部153、ローパスフィルタ部154を有している。
モータモデル部151は、電力変換器106がリニアモータ20に印加している電圧と、速度推定部153が推定する可動子25の推定移動速度と、予め設定されているリニアモータ20のモータ定数とに基づいて、リニアモータ20に流れる推定電流値iMを算出する。ここで、モータ定数は、例えば、リニアモータ20の抵抗値、d軸のインダクタンス値、q軸のインダクタンス値、誘起電圧係数などである。
【0036】
減算器152は、変流器107が検出した電流値iから、モータモデル部151が算出した推定電流値iMを減算して電流偏差Δiを算出する。
速度推定部153は、減算器152が算出した電流偏差Δiから、リニアモータ20の可動子25の推定移動速度を算出し、算出した推定移動速度を示す信号をモータモデル部151とローパスフィルタ部154とに出力する。
【0037】
ローパスフィルタ部154は、速度推定部153が算出した推定移動速度に含まれる高周波の脈動成分を除去し、脈動成分を除去した推定移動速度である推定速度ωMOを減算器103に出力する。
上述の構成により、推定部150は、リニアモータ20に印加する電圧値と、リニアモータ20に流れる電流値iとに基づいて、リニアモータ20の可動子25が移動する速度の推定値である推定移動速度を算出する(参考文献:武田洋次、松井信行、森本茂雄、本田幸夫著、「埋込磁石同期モータの設計と制御」、第1版第3刷、株式会社オーム社、平成16年7月、p.111−p.115)。
【0038】
上述のように、リニアモータ装置1は、MRセンサ27により検出した検出位置θを用いて速度指令値を算出する位置制御を行う位置制御部102と、推定部150により推定した推定速度ωMOを用いて電流指令値を算出する速度制御を行う速度制御部104とを備えることにより、検出位置θに誤差が含まれる場合においても、推定速度ωMOを用いることにより当該誤差が電流指令値に与える影響を低減させることができる。すなわち、本実施形態のリニアモータ装置1は、検出位置θの変化量のみから可動子25の速度を算出する場合に比べ、電流指令値の算出における検出位置θの誤差の影響を低減させることができる。
これにより、リニアスケールを用いずにリニアモータ20を制御する精度を向上させ、リニアモータ20の可動子25の正確な繰返し位置決め制御を行うことができ、位置決め精度を改善することができる。
【0039】
また、制御装置10は、MRセンサ27により検出した検出位置θを用いて速度指令値を算出する位置制御と、推定部150により推定した推定速度ωMOを用いて電流指令値を算出する速度制御とを並行して行うため、特許文献1に記載の技術のように制御を切り替える必要がないので、可動子25の移動速度のムラを減らすことができ、滑らかにリニアモータ20を制御することができる。
【0040】
(第2実施形態)
図8は、第2実施形態におけるリニアモータ20の制御装置11の構成を示す概略ブロック図である。本実施形態の制御装置11は、速度算出部111と、速度選択部112とを備えている点が、第1実施形態の制御装置10と異なる。以下、速度算出部111と、速度選択部112とについて説明する。また、第1実施形態と同じ他の構成については、同じ符号を付してその説明を省略する。
【0041】
速度算出部111は、位置検出部108が検出する検出位置θの単位時間当たりの変化から可動子25の移動速度を算出する。
速度選択部112は、変流器107が検出する電流値iの大きさに基づいて、推定部150のローパスフィルタ部154から出力される推定速度ωMOと、速度算出部111が算出する移動速度とのいずれか一方の速度を選択して、減算器103に出力する。すなわち、減算器103は、位置制御部102が算出した速度指令値ωrmから、速度選択部112が選択した速度を減算し、減算結果を速度偏差として速度制御部104に出力する。
【0042】
具体的には、速度選択部112は、変流器107が検出した電流値iが、予め定められた電流値であるしきい値より小さい場合、速度算出部111が算出した移動速度を選択し、電流値iがしきい値以上の場合、推定部150が算出した推定速度ωMOを選択する。
【0043】
上述の構成により、本実施形態のリニアモータ装置は、第1実施形態のリニアモータ装置1と同様に、MRセンサ27により検出した検出位置θを用いて速度指令値を算出する位置制御を行う位置制御部102と、推定部150により推定した推定速度ωMOを用いて電流指令値を算出する速度制御を行う速度制御部104とを備えることにより、検出位置θに誤差が含まれる場合においても、推定速度ωMOを用いることにより当該誤差が電流指令値に与える影響を低減させることができる。
【0044】
また、本実施形態のリニアモータ装置は、制御装置11が、変流器107が検出した電流値iの大きさに基づいて、推定部150が推定した推定速度ωMOと、磁気センサ27が出力する信号に基づいて算出された移動速度とのいずれか一方の速度を選択し、選択した速度を用いた速度制御を行うようにした。具体的には、変流器107が検出した電流値iがしきい値より小さい場合は、推定部150が算出する推定速度ωMOの推定誤差が大きくなりやすいので、速度算出部111が算出する移動速度を用いてリニアモータ20を制御する。一方、変流器107が検出した電流値iがしきい値以上の場合は、推定部150が算出する推定速度ωMOの推定誤差が大きくなりにくいので、推定速度ωMOを用いてリニアモータ20を制御する。
【0045】
これにより、推定速度ωMOの推定誤差が大きくなり易いリニアモータ20に流れる電流値iが小さいときは、磁気センサ27が出力する信号に基づく速度を用いて速度制御を行うことにより、リニアモータ20の制御精度の低下を防ぐことができ、位置決め精度を改善することができる。
【0046】
なお、上述の第1及び第2実施形態において、制御装置10(11)は、電機子60を備えた可動子25が、駆動用磁石24を備えた固定子21に対して、相対的に直線運動をするフラットタイプのリニアモータ20を制御する構成を説明した。しかし、これに限らず、制御装置10は、ロッドタイプの駆動用磁石を備えた可動子が、電機子(コイル)を備えた固定子に対して相対的に直線運動をするロッドタイプのリニアモータに適用するようにしてもよい。
また、上述の第1及び第2実施形態において、駆動用磁石24は、直線上に一列に配列されている構成について説明したが、これに限らず、リニアモータ20の用途に応じてカーブ状に一列に配列されていてもよい。
【0047】
上述の第1及び第2実施形態における制御装置10(11)は内部に、コンピュータシステムを有していてもよい。その場合、上述した減算器、位置制御部、速度制御部、電流制御部、推定部、位置検出部、速度算出部、速度選択部の各処理の過程は、プログラムの形式でコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記憶されており、このプログラムをコンピュータが読み出して実行することによって、上記処理が行われることになる。ここでコンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、DVD−ROM、半導体メモリ等をいう。また、このコンピュータプログラムを通信回線によってコンピュータに配信し、この配信を受けたコンピュータが当該プログラムを実行するようにしても良い。
【符号の説明】
【0048】
1…リニアモータ装置,10,11…制御装置,20…リニアモータ,21…固定子,24,24N,24S…駆動用磁石,25…可動子,27…MRセンサ(磁気センサ),101,103,152…減算器,102…位置制御部,104…速度制御部,105…電流制御部,106…電力変換器,107…変流器,108…位置検出部,111…速度算出部,112…速度選択部,150…推定部,151…モータモデル部,152…減算器,153…速度推定部,154…ローパスフィルタ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
N極とS極とが交互に一列に配列されている複数の駆動用磁石を有する磁石部と、複数のコイルを有する電機子とを備え、前記電機子又は前記磁石部のいずれか一方が可動子であり、前記電機子が有している複数のコイルに電流を流して生じる磁界と、前記磁石部が有している複数の駆動用磁石より生じる磁界とにより前記駆動用磁石の配列されている配列方向に沿って前記可動子が移動するリニアモータの制御装置であって、
前記電機子が有している磁気センサであって前記駆動用磁石より生じる磁界の方向に応じた信号を出力する磁気センサから出力される信号の変化に基づいて前記可動子の位置を検出する位置検出部と、
前記位置検出部が検出した前記可動子の位置と、外部より入力される位置指令値とに基づいて速度指令値を算出する位置制御部と、
前記リニアモータに備えられている複数のコイルに流れる電流値から前記可動子が移動する速度を推定する推定部と、
前記位置制御部が算出する速度指令値と、前記推定部が推定する前記可動子が移動する速度とに基づいて電流指令値を算出する速度制御部と、
前記速度制御部が算出した電流指令値に応じて前記複数のコイルに電力を供給する電力変換器と
を備えていることを特徴とするリニアモータの制御装置。
【請求項2】
前記推定部は、
前記複数のコイルに印加される電圧と、前記可動子が移動する速度を推定した推定速度と、前記リニアモータのモータ定数とに基づいて、前記複数のコイルに流れる電流値を算出するモータモデル部と、
前記複数のコイルに流れる電流値から、前記モータモデル部が算出した電流値を減算した電流偏差を用いて前記推定速度を算出する速度推定部と、
前記速度推定部が算出した推定速度から高周波の脈動成分を除去するローパスフィルタ部と
を有していることを特徴とする請求項1に記載のリニアモータの制御装置。
【請求項3】
前記制御装置は、更に、
前記位置検出部が検出した前記可動子の位置の変化から前記可動子が移動する速度を算出する速度算出部と、
前記複数のコイルに流れる電流値が予め定められたしきい値より小さい場合、前記速度算出部が算出した速度を選択し、前記電流値が前記しきい値以上の場合、前記推定速度を選択する速度選択部と
を備え、
前記速度制御部は、前記位置制御部が算出する速度指令値と、前記速度選択部が選択した速度とに基づいて前記電流指令値を算出する
ことを特徴とする請求項2に記載のリニアモータの制御装置。
【請求項4】
N極とS極とが交互に一列に配列されている複数の駆動用磁石を有する磁石部と、複数のコイルを有する電機子とを備え、前記電機子又は前記磁石部のいずれか一方が可動子であり、前記電機子が有している複数のコイルに電流を流して生じる磁界と、前記磁石部が有している複数の駆動用磁石より生じる磁界とにより前記駆動用磁石の配列されている配列方向に沿って前記可動子が移動するリニアモータと、
前記電機子が有している磁気センサであって前記駆動用磁石より生じる磁界の方向に応じた信号を出力する磁気センサから出力される信号の変化に基づいて前記可動子の位置を検出する位置検出部と、前記位置検出部が検出した前記可動子の位置と外部より入力される位置指令値とに基づいて速度指令値を算出する位置制御部と、前記リニアモータに備えられている複数のコイルに流れる電流値から前記可動子が移動する速度を推定する推定部と、前記位置制御部が算出する速度指令値と前記推定部が推定する前記可動子が移動する速度とに基づいて電流指令値を算出する速度制御部と、前記速度制御部が算出した電流指令値に応じて前記複数のコイルに電力を供給する電力変換器とを備えている制御装置と
を具備することを特徴とするリニアモータ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−80605(P2012−80605A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−220726(P2010−220726)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(390029805)THK株式会社 (420)
【Fターム(参考)】