説明

リニアモータの制御装置

【課題】光学式のアブソリュートエンコーダを用いずに、可動子の絶対位置を検出する。
【解決手段】制御装置は、N極とS極とが交互に等間隔に配列方向に配列されている複数の第1の磁石を備える第1の磁石部と、第1の磁石部に対向して電機子に備えられ第1の磁石が生じさせている磁界を検出し、検出した磁界に応じた信号を出力する第1の磁気センサと、配列方向における可動子の可動範囲を複数に分けた区間それぞれを一意に識別させる複数の第2の磁石であって配列方向に等間隔に配列されている複数の第2の磁石を備える第2の磁石部と、第2の磁石部に対向して電機子に備えられ第2の磁石が生じさせている磁界の磁束密度に応じた信号を出力する第2の磁気センサと、第2の磁気センサが出力する信号から検出された区間と、第1の磁気センサが出力する信号から算出された電気角とに基づいて、可動子の位置を算出する位置算出部とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リニアモータの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
リニアモータが備える可動子の位置検出において、予め定められた原点に対する相対位置(絶対位置)の情報が必要な場合、可動子の位置を検出するアブソリュートエンコーダが用いられる。アブソリュートエンコーダには、例えば、特許文献1に記載されているような、光学センサが用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−12963号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、光学式のアブソリュートエンコーダにおいて、センサにより読み取られる目盛りが印されたリニアスケールは、目盛りの形成に高い技術が要求されるので、高価である。このため、光学式のアブソリュートエンコーダを用いたリニアモータ装置は、高価になってしまうという問題があった。
【0005】
本発明は、上記問題を解決すべくなされたもので、その目的は、リニアモータにおいて、光学式のアブソリュートエンコーダを用いずに、可動子の絶対位置を検出する制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記問題を解決するために、本発明は、N極とS極とが交互に等間隔に配列された複数の駆動用磁石を備える駆動用磁石部と、複数のコイルとを備える電機子とを具備し、前記電機子又は前記駆動用磁石部のいずれか一方が可動子となり、該可動子が、前記電機子に備えられている複数のコイルに電流を流して生じる磁界と、前記駆動用磁石が生じさせる磁界とにより前記駆動用磁石の配列された配列方向に直線運動をするリニアモータの制御装置であって、N極とS極とが交互に等間隔に前記配列方向に配列されている複数の第1の磁石を備える第1の磁石部と、前記第1の磁石部に対向して前記電機子に備えられている第1の磁気センサであって、前記第1の磁石が生じさせている磁界を検出し、検出した磁界に応じた信号を出力する第1の磁気センサと、前記第1の磁気センサから受信した信号に基づいて電気角を算出する電気角算出部と、前記配列方向における前記可動子の可動範囲を複数に分けた区間それぞれを一意に識別させる複数の第2の磁石であって前記配列方向に等間隔に配列されている複数の第2の磁石を備える第2の磁石部と、前記第2の磁石部に対向して前記電機子に備えられている第2の磁気センサであって、前記第2の磁石が生じさせている磁界の磁束密度に応じた信号を出力する第2の磁気センサと、前記第2の磁気センサから受信した信号に基づいて前記電機子が位置している前記区間を検出する区間検出部と、前記区間検出部が検出した区間と、前記電気角算出部が算出した電気角とに基づいて、前記可動範囲における前記可動子の位置を算出する位置算出部とを備えることを特徴とするリニアモータの制御装置である。
【発明の効果】
【0007】
この発明によれば、リニアモータにおいて、光学式のアブソリュートエンコーダを用いずに、固定子に対する可動子の絶対位置を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】第1実施形態における制御装置を具備するリニアモータ装置を示す概略図である。
【図2】同実施形態におけるMRセンサの原理を示す斜視図である。
【図3】同実施形態におけるリニアモータの斜視図である。
【図4】同施形態におけるリニアモータの正面図である。
【図5】同実施形態における可動子の移動方向に沿った断面図を示す図である。
【図6】同実施形態におけるMRセンサ及びコイルと、駆動用磁石24との相対的な位置、並びにホールセンサと、スケール用磁石との相対的な位置を示す模式図である。
【図7】同実施形態における制御装置、固定子、及び可動子の構成を示す概略ブロック図である。
【図8】同実施形態において、電機子の駆動用磁石に対する磁極位置θと、電気角算出部が算出する電気角αと、MRセンサから出力される信号と、及びコイルに印加する電圧との関係の一例を示すグラフである。
【図9】同実施形態における制御装置が可動子の位置を算出する一例を説明するための図である。
【図10】第2実施形態における制御装置が可動子の位置を算出する一例を説明するための図である。
【図11】変形例のリニアモータ装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態による制御装置を説明する。
【0010】
<第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態における制御装置10を具備するリニアモータ装置1を示す概略図である。図示するように、リニアモータ装置1は、制御装置10と、リニアモータ20とを具備している。
制御装置10は、リニアモータ20を駆動させて制御をする装置である。リニアモータ20は、長尺の固定子21と、固定子21上を移動する可動子25と、固定子21及び可動子25を組み付ける一対の案内装置22、22を備えている。
【0011】
案内装置22は、例えば、ボールを介して組みつけられた軌道レール23及びスライドブロック26から構成されている。案内装置22の軌道レール23は、固定子21が有するベース54に固定され、案内装置22のスライドブロック26は、可動子25に固定されている。これにより、可動子25は、固定子21上を軌道レール23に沿って自在に案内されるようになっている。
【0012】
また、固定子21は、一対の軌道レール23、23の間に並べられた複数の駆動用磁石24を備えている。複数の駆動用磁石24は、可動子25の移動方向(以下、移動方向という)において、N極及びS極の磁極が交互になるように並べられている。また、各駆動用磁石24は、移動方向において、同じ長さを有しており、可動子25の位置に関わらず一定の推力が得られるようになっている。
【0013】
また、固定子21には、固定子21上における可動子25の位置する区間を識別するための複数のスケール用磁石31が、ベース54の側壁部に取り付けられている。スケール用磁石31により識別される区間は、可動子25の可動範囲を移動方向において等分した区間である。また、複数のスケール用磁石31は、それぞれが各区間に対応付けられている。
また、複数のスケール用磁石31は、N極とS極との磁極を交互にして、駆動用磁石24の配列方向に対し平行に、すなわち移動方向に並べられている。ここで、駆動用磁石24の配列方向に対し平行とは、各スケール用磁石31の中央を結ぶ直線が、配列方向を示す直線と平行なことである。
また、例えば、並べられた複数のスケール用磁石31の一端が、可動子25の位置を示す際の原点30となる。
【0014】
可動子25は、複数のコイルを有する電機子60と、移動対象を取り付けるテーブル53と、MR(Magnetoresitive Elements;磁気抵抗素子)センサ27と、ホールセンサ29とを備えている。
MRセンサ27は、固定子21に配置されている駆動用磁石24が生じさせる磁界を検出し、検出した磁界に応じた信号を制御装置10に出力する。具体的には、MRセンサ27は、駆動用磁石24が生じさせる磁界の磁束線の方向に応じた信号を制御装置10に出力する。ホールセンサ29は、例えば、レベル出力タイプのホールセンサであり、スケール用磁石31が生じさせる磁界の磁束密度に応じた信号を制御装置10に出力する。また、MRセンサ27と、ホールセンサ29とは、移動方向において、原点30からの距離が等しくなるように可動子25に取り付けられている。
【0015】
図2は、本実施形態におけるMRセンサ27の原理を示す斜視図である。同図に示すように、シリコン(Si)又はガラス基板271と、その上に形成されたニッケル(Ni)、鉄(Fe)などの強磁性金属を主成分とする合金の強磁性薄膜金属で形成される磁気抵抗素子272とを有する。磁気抵抗素子272は、電流の流れる方向(Y軸方向)に対して、磁気抵抗素子272を通過する磁束の方向がなす角度に応じて、抵抗値が変化する。
【0016】
MRセンサ27は、複数の磁気抵抗素子272を組み合わせて、2つのフルブリッジ回路を構成し、2つのフルブリッジ回路が45°の位相差を有する信号を出力するように配置されている。このように、特定の磁界方向で抵抗値が変化する素子を、AMR(Anisotropic Magneto-Resistance;異方性磁気抵抗素子)センサという(参考文献:「垂直タイプMRセンサ技術資料」、[online]、2005年10月1日、浜松光電株式会社、「2010年5月6日検索」、インターネット<URL;http://www.hkd.co.jp/technique/img/amr-note1.pdf>)。
【0017】
図1に戻って、制御装置10は、MRセンサ27が出力する信号と、ホールセンサ29が出力する信号とに基づいて、固定子21上における可動子25の位置を算出する。また、制御装置10は、算出した可動子25の位置と、外部より入力される位置指令情報とに応じて、電機子60が有している複数のコイルに電流を流す。これにより、複数のコイルに生じる磁界と、固定子21に配置されている駆動用磁石24により生じる磁界との作用により、可動子25を軌道レール23に沿って駆動させる。
【0018】
図3、図4を用いて、本実施形態におけるリニアモータ20の構成を説明する。
図3は、本実施形態におけるリニアモータ20の斜視図(テーブル53の断面を含む)である。図4は、本実施形態におけるリニアモータ20の正面図である。
リニアモータ20は、上述のように、N極又はS極が着磁されている複数の板状の駆動用磁石24を備えている固定子21に対して、可動子25が相対的に直線運動をするフラットタイプのリニアモータである。可動子25に備えられている電機子60は、駆動用磁石24とすきまgを介して対向している。
【0019】
固定子21が有する細長く伸びているベース54上には、上述の複数の駆動用磁石24が、移動方向に一列に配列されている。ベース54は、底壁部54aと、底壁部54aの幅方向の両側に設けられている一対の側壁部54bとから構成されている。底壁部54aには、上述の複数の駆動用磁石24が取り付けられている。
【0020】
各駆動用磁石24には、移動方向と直交する方向(図4において上下方向)の両端面にN極及びS極が形成されている。複数の駆動用磁石24は、それぞれが隣接する一対の駆動用磁石24に対して磁極を反転させた状態で並べられている。これにより、可動子25に取り付けられているMRセンサ27に対し、可動子25が移動した際に、駆動用磁石24のN極とS極との磁極が交互に対向するようになっている。
【0021】
ベース54の一方の側壁部54bには、上述の複数のスケール用磁石31が取り付けられている。各スケール用磁石31は、移動方向と直交する方向(図4において左右方向)の両端面にN極及びS極が形成されている。複数のスケール用磁石31は、それぞれが隣接する一対のスケール用磁石31に対して磁極を反転させた状態で並べられている。これにより、可動子25にブラケット55を介して取り付けられているホールセンサ29に対し、可動子25が移動した際に、スケール用磁石31のN極とS極との磁極が交互に対向するようになっている。
【0022】
ベース54の側壁部54bの上面には、案内装置22の軌道レール23が取り付けられている。軌道レール23には、上述したように、スライドブロック26がスライド可能に組み付けられている。軌道レール23と、スライドブロック26との間には、転がり運動可能に複数のボールが介在されている(図示せず)。スライドブロック26には、複数のボールを循環させるためのトラック状のボール循環経路が設けられている。軌道レール23に対して、スライドブロック26がスライドすると、複数のボールがこれらの間を転がり運動し、また複数のボールがボール循環経路を循環する。これにより、スライドブロック26の円滑な直線運動が可能になる。
【0023】
案内装置22のスライドブロック26の上面には、可動子25のテーブル53が取り付けられている。テーブル53は、例えば、アルミニウムなどの非磁性素材からなり、移動対象が取り付けられる。テーブル53の下面には、電機子60が吊り下げられている。図4の正面図に示されるように、駆動用磁石24と電機子60との間には、すきまgが設けられている。案内装置22は、電機子60が駆動用磁石24に対して相対的に移動するときも、このすきまgを一定に維持する。
【0024】
図5は、本実施形態における可動子25の移動方向に沿った断面図を示す図である。
テーブル53の下面には、断熱材63を介して電機子60が取り付けられている。電機子60は、珪素鋼などの磁性素材からなるコア64と、上述した複数のコイルであり、コア64の突極64u、64v、64wに巻かれるコイル28u、28v、28wとを有している。コイル28u、28v、28wそれぞれには、位相差を有する三相交流が制御装置10から供給される。突極64u、64v、64wに3つのコイル28u、28v、28wを巻いた後、3つのコイル28u、28v、28wは、樹脂封止される。
また、テーブル53の下面には、電機子60を挟んで一対の補助コア67が取り付けられている。補助コア67は、リニアモータ20に発生するコギングを低減するために設けられている。
【0025】
図6は、本実施形態におけるMRセンサ27及びコイル28u、28v、28wと、駆動用磁石24との相対的な位置、並びにホールセンサ29と、スケール用磁石31との相対的な位置を示す模式図である。
固定子21には、上述したように、ベース54の底壁部54a上に、MRセンサ27に対しN極を向けて配置されている駆動用磁石24Nと、MRセンサ27に対しS極を向けて配置されている駆動用磁石24Sとが、移動方向に交互に配列されている。可動子25において、コイル28u、28v、28wは、固定子21に配置された駆動用磁石24と対向するように、移動方向に配列されている。
また、MRセンサ27は、各駆動用磁石24の中心を通過し、移動方向に対し平行な直線上を通過する位置に取り付けられている。これにより、MRセンサ27を駆動用磁石24が生じさせる磁界の最も強い位置を通過させることができる。
【0026】
また、固定子21には、上述したように、ベース54の移動方向においてN極とS極との磁極が交互になるようにスケール用磁石31がベース54の側壁部54bに並べて配置されている。ホールセンサ29は、スケール用磁石31が生じさせる磁界の最も強い位置を通過するように、各スケール用磁石31の中央部に対向する位置に配置されている。
また、スケール用磁石31のベース54の移動方向における長さ(寸法)は、駆動用磁石24の移動方向における長さの半分である。
【0027】
図7は、本実施形態における制御装置10、固定子21、及び可動子25の構成を示す概略ブロック図である。図示するように、制御装置10は、制御部11と、駆動部12と、電気角算出部13と、区間検出部14と、位置算出部15とを備えている。
また、固定子21は、上述したように、スケール用磁石31と、駆動用磁石24とを備えている。また、可動子25は、駆動用磁石24に対向して配置されているコイル28u、28v、28w及びMRセンサ27と、ホールセンサ29とを備えている。
【0028】
制御部11は、外部より入力される位置指令情報と、電気角算出部13が算出する電気角と、位置算出部15が算出する可動子25の位置とに基づいて、可動子25を移動させるためにコイル28u、28v、28wそれぞれに流す電流値を示す電流指令値を算出し、算出した電流指令値を駆動部12に出力する。
駆動部12は、制御部11の制御に基づいて、リニアモータ20を駆動するモータドライバである。駆動部12は、制御部11から入力される電流指令値に基づいて、コイル28u、28v、28wに電圧を印加する。
【0029】
電気角算出部13は、MRセンサ27から入力される2つの信号に基づいて、可動子25に備えられている電機子60の駆動用磁石24に対する電気角を算出する。ここで、MRセンサ27から入力される2つの信号は、正弦波信号と、正弦波信号に対して45°の位相差を有する余弦波信号とである。区間検出部14は、ホールセンサ29から入力される信号に基づいて、固定子21上における可動子25が、軌道レール23上において位置する区間を検出する。例えば、区間検出部14には、ホールセンサ29が出力する信号のレベルと、各区間を示す情報とが対応して予め記憶されており、入力された信号のレベルに対応する区間を示す情報を読み出すことにより、可動子25が位置する区間を検出する。
位置算出部15は、電気角算出部13が算出する電気角と、区間検出部14が検出する区間とに基づいて可動子25の位置を算出する。
【0030】
図8は、本実施形態において、可動子25に備えられている電機子60の駆動用磁石24に対する磁極位置θと、電気角算出部13が算出する電気角αと、MRセンサ27から出力される2つの信号と、及びコイル28u、28v、28wに印加する電圧との関係の一例を示すグラフである。同図において、横軸は電機子60の駆動用磁石24に対する磁極位置θ及び電気角αを示し、縦軸はMRセンサ27が出力する正弦波信号Ssin及び余弦波信号Scos、並びに駆動部12がコイル28u、28v、28wそれぞれに印加する電圧Vu、Vv、Vwを示している。なお、縦軸方向において、正弦波信号Ssin及び余弦波信号Scosと、電圧Vu、Vv、Vwとそれぞれの値は、最大値により正規化された値が示されている。
【0031】
MRセンサ27は、対向する駆動用磁石24が発生させる磁界の磁束の向きに応じた、正弦波信号Ssin及び余弦波信号Scosを出力する。また、MRセンサ27は、対向する駆動用磁石24の磁極がN極、S極、N極の順に変化すると、駆動用磁石24それぞれにより発生される磁束の向きの変化に応じた2周期分の正弦波信号(Ssin)及び余弦波信号(Scos)を出力する。つまり、180°の位相差がある磁極位置に可動子25の電機子60が位置するとき、それぞれの磁極位置において、MRセンサ27から出力される正弦波信号の値は同じ値となると共に、余弦波信号の値も同じ値となる。
また、電気角算出部13は、正弦波信号Ssinのレベルと、余弦波信号Scosのレベルとに基づいて、電気角αを算出する。具体的には、電気角算出部13は、(正弦波信号Ssinのレベル)/(余弦波信号Scosのレベル)に対してarctan(アークタンジェント)を算出することにより、電気角αを算出する。
【0032】
また、同図は、磁極位置θ及び電気角αに応じたコイル28u、28v、28wに対応する励磁パターンを示している。励磁パターンは、磁極位置θに対応した、コイル28u、28v、28wそれぞれに印加する電圧Vu、Vv、Vwの比である。また、制御部11には、同図に示す励磁パターンが磁極位置に対応付けられて記憶されている。そして、制御部11は、位置算出部15が算出する位置と、電気角算出部13が算出する電気角とから磁極位置θを算出し、算出した磁極位置θに対応する励磁パターンに基づいて、コイル28u、28v、28wに印加する電流値を算出し、算出した電流値を示す電流指令値を駆動部12に出力する。
【0033】
図9は、本実施形態における制御装置10が可動子25の位置を算出する一例を説明するための図である。図9(a)には、駆動用磁石24と、スケール用磁石31(31−N1、31−S1、…)と、MRセンサ27及びホールセンサ29が出力する信号のレベルとが対応付けて示されている。
また、図9(a)には、スケール用磁石31(31−N1、31−S1、…)の配置と、ホールセンサ29が出力する信号のレベルとが対応付けて示されている。同図において、横軸は可動子25の位置を示し、縦軸はホールセンサ29が出力する信号のレベルが示されている。また、図9(a)には、電気角算出部13が算出する電気角に対する正弦波が示されている。
同図において、駆動用磁石24の磁極間ピッチは、10mmに設定され、スケール用磁石31の磁極間ピッチは、駆動用磁石24の磁極間ピッチに対して半分の5mmに設定されている。
【0034】
また、同図において、スケール用磁石31のうち、ホールセンサ29に対向する面の磁極がN極であるスケール用磁石31−N1、31−N2、31−N3…は、それぞれの磁束密度が全て異なり、磁束密度が原点30から順に単調減少するように並べられている。また、スケール用磁石31のうち、ホールセンサ29に対向する面の磁極がS極であるスケール用磁石31−S1、31−S2、31−S3、…は、同様に、それぞれの磁束密度が全て異なり、磁束密度が原点30から順に単調減少するように並べられている。すなわち、スケール用磁石31は、区間ごとに各磁極の極性と磁束密度との組合せが異なる。
【0035】
更に、原点30から奇数番目の区間における電気角αは0°≦α≦180°になり、偶数番目の区間における電気角αは、180°≦α<360°になる位置に各スケール用磁石31(31−N1、31−S1、…)が駆動用磁石24に対して配置されている。すなわち、各スケール用磁石31が示す区間が原点30から奇数番目であるか、偶数番目であるかに応じて、位置算出部15は、電気角算出部13が算出する電気角を0°として扱う場合と、360°として扱う場合とを区別している。
【0036】
また、図9(b)は、スケール用磁石31(31−N1、31−S1、…)の配列を示す斜視図である。図示するように、スケール用磁石31(31−N1、31−S1、…)は、ホールセンサ29が通過する側の磁極が、N極とS極と交互になるように配列されている。
【0037】
MRセンサ27と、ホールセンサ29とが図9(a)に示す位置Cにある場合、制御装置10は、以下のように、可動子25の位置を算出する。
【0038】
電気角算出部13は、MRセンサ27が出力する正弦波信号及び余弦波信号に基づいて、電気角αを算出する。このとき、電気角算出部13が算出する電気角αは、図8に示したように、0°(あるいは、360°)となる。
区間検出部14は、ホールセンサ29が出力する信号のレベルより、ホールセンサ29が原点30から5(L=5)番目の第5の区間に位置していることを検出する。
【0039】
位置算出部15は、区間検出部14が検出する区間が原点30から奇数番目の場合、次式(1)を用いて、MRセンサ27及びホールセンサ29の原点30からの移動方向における距離を算出する。また、位置算出部15は、区間検出部14が検出する区間が原点30から偶数番目の場合、次式(2)を用いて、距離を算出する。ここで、Lは、区間検出部14が検出した区間が、原点30から何番目の区間であるかを示す。
【0040】
(原点からの距離)=(駆動用磁石24の磁極ピッチ)÷2×(L−1)
+(駆動用磁石24の磁極ピッチ)×(電気角α)÷360 …(1)
(原点からの距離)=(駆動用磁石24の磁極ピッチ)÷2×(L−2)
+(駆動用磁石24の磁極ピッチ)×(電気角α)÷360 …(2)
【0041】
したがって、位置算出部15は、図9(a)における位置Cの原点30からの距離を次式(3)のように、20mmと算出する。
(位置Cの距離)=10÷2×(5−1)+10×0÷360=20 …(3)
【0042】
また、区間検出部14が図9(a)における位置Cを4番目の区間であると検出した場合、位置算出部15は、位置Cの原点30からの距離を次式(4)のように、20mmと算出する。
(位置Cの距離)=10÷2×(4−2)+10×360÷360=20 …(4)
【0043】
以上のように、制御装置10において、区間検出部14がホールセンサ29から出力される信号に基づいて可動子25の可動範囲における区間を検出し、電気角算出部13がMRセンサ27から出力される信号に基づいて各区間における電気角を算出する。そして、位置算出部15は、区間検出部14が検出した区間と、電気角算出部13が算出した電気角とに基づいて、上記の式(1)又は式(2)により、可動子25に備えられたMRセンサ27及びホールセンサ29の位置を算出する。
これにより、光学式のアブソリュートエンコーダを用いずに、固定子21に対する可動子25の絶対位置を検出することができる。
【0044】
また、本実施形態では、上述のように、スケール用磁石31を設けて絶対位置を検出する構成とした。これにより、スケール用磁石31は、駆動用磁石24を製造する技術を流用することができ、安価に製造することができるので、光学式のアブソリュートエンコーダを用いる場合に比べ、可動子25の絶対位置を検出する機能を安価に実現することができる。また、駆動用磁石24を絶対値検出に用いることで、絶対位置検出のために要するコストを削減することができる。
【0045】
また、本実施形態では、各スケール用磁石31の間の磁極ピッチを、各駆動用磁石24の間の磁極ピッチの半分にする構成とした。
これにより、ホールセンサ29が、並べられているスケール用磁石31の境界に対向した位置にある場合において、区間検出部14が、取り得る2つの区間のいずれを検出したとしても、位置算出部15は、電気角算出部13が算出する電気角に基づいて、原点30からの正しい距離(絶対位置)を算出することができる。
【0046】
また、本実施形態では、スケール用磁石31は、N極とS極との磁極が移動方向において交互に並べられ、区間ごとに各磁極の極性と磁束密度との組合せが異なるようにした。
これにより、磁極の極性と磁束密度との組合せを各区間に対応付けることができ、磁束密度のみで区間を識別する場合に比べ、2倍(N極とS極と)の区間を表すことができる。あるいは、磁束密度のみで区間を識別する場合に比べ、各スケール用磁石31における磁束密度の差の間隔を2倍にして、区間検出部14の検出精度の低下を防ぐことができる。
【0047】
<第2実施形態>
本発明の第2実施形態におけるリニアモータ装置は、スケール用磁石が有する磁石のホールセンサ29に対向する磁極をN極又はS極のいずれか一方のみである点が、第1実施形態におけるリニアモータ装置1と異なる。以下、スケール用磁石の配置について説明し、他の構成は、第1実施形態と同じであるので、同じ符号を付してその説明を省略する。
【0048】
図10は、第2実施形態における制御装置10が可動子25の位置を算出する一例を説明するための図である。また、図10(a)は、スケール用磁石31A(31A−N1、31A−N2、31A−N3、…)は、ホールセンサ29に対して、N極のみが対向するように配置されている場合を例にして示している。
また、図10(a)には、スケール用磁石31A(31A−N1、31A−N2、31A−N3、…)の配置と、ホールセンサ29が出力する信号のレベルとが対応付けて示されている。同図において、横軸は可動子25の位置を示し、縦軸はホールセンサ29が出力する信号のレベルが示されている。また、図10(a)には、電気角算出部13が算出する電気角に対する正弦波が示されている。
【0049】
同図において、駆動用磁石24の磁極間ピッチは、10mmに設定され、スケール用磁石31の磁極間ピッチは、駆動用磁石24の磁極間ピッチに対して半分の5mmに設定されている。
また、同図において、スケール用磁石31A−N1、31A−N2、…は、それぞれの磁束密度が全て異なり、磁束密度が原点30から順に単調減少するように並べられている。
【0050】
更に、原点30から奇数番目の区間における電気角αは0°≦α≦180°になり、偶数番目の区間における電気角αは、180°≦α<360°になる位置に各スケール用磁石31が駆動用磁石24に対して配置されている。すなわち、各スケール用磁石31A(31A−N1、31A−N2、…)が示す区間が原点30から奇数番目であるか、偶数番目であるかに応じて、位置算出部15は、第1実施形態と同様に、電気角算出部13が算出する電気角を0°として扱う場合と、360°として扱う場合とを区別している。
【0051】
また、図10(b)は、スケール用磁石31A(31A−N1、31A−N2、…)の配列を示す斜視図である。図示するように、スケール用磁石31A(31A−N1、31A−N2、…)は、ホールセンサ29が通過する側の磁極が、N極になるように配列されている。
【0052】
MRセンサ27と、ホールセンサ29とが図10(a)に示す位置Dにある場合、制御装置10は、以下のように、可動子25の位置を算出する。
電気角算出部13が算出する電気角αは、図8に示したように、180°となる。また、区間検出部14は、原点30から5(L=5)番目の第5の区間を検出する。
そして、位置算出部15は、上記の式(1)により、位置Dを次式(5)のように算出する。
【0053】
(位置Dの距離)=10÷2×(5−1)+10×180÷360=25 …(5)
【0054】
また、区間検出部14が図10(a)における位置Dを6番目の区間であると検出した場合、位置算出部15は、上記の式(2)により、位置Dを次式(6)のように算出する。
【0055】
(位置Dの距離)=10÷2×(6−2)+10×180÷360=25 …(6)
【0056】
以上のように、スケール用磁石31Aのホールセンサ29に対向する磁極をN極又はS極のいずれか一方にしても、原点30からの距離(絶対位置)を算出することができる。
本実施形態のように、スケール用磁石31Aのホールセンサ29に対向する磁極をN極又はS極のいずれか一方にすることにより、2つの極を着磁させる場合に比べて、着磁の手間を省くことができ、スケール用磁石31Aの製造を容易にすることができる。
【0057】
なお、上述の第1実施形態、及び第2実施形態において、スケール用磁石31(31A)は、磁束密度が原点30から単調増加するように並べられている構成を説明したが、これに限らず、スケール用磁石31に対応する区間が一意に検出することができるように、磁束密度が異なっていればよい。
【0058】
また、上述の第1実施形態、及び第2実施形態において、リニアモータ20の駆動用磁石24を流用して電気角を算出する構成について説明した。しかし、以下に示すように、電気角を算出するための磁石を別に設ける構成にしてもよい。
図11は、第1実施形態、及び第2実施形態の変形例のリニアモータ装置2を示す図である。同図に示すように、可動子25の移動方向に対し平行に、電気角を算出するために、複数の磁石からなる電気角用磁石32が設けられている点が、第1実施形態及び第2実施形態と異なる。また、他の構成については、第1実施形態と同じであるので、同じ符号を付してその説明を省略する。
電気角用磁石32の複数の磁石は、等間隔に、可動子25の移動方向に対し平行に配列されている。ここで、可動子25の移動方向に対し平行とは、電気角用磁石32の複数の磁石それぞれの中心を結ぶ直線が、可動子25の移動方向を示す直線と平行なことである。
【0059】
このように、スケール用磁石31及び電気角用磁石32を固定子21設け、それぞれに対向する位置にMRセンサ27及びホールセンサ29を配置することにより、リニアモータ20以外の直動型の装置において、絶対位置の算出を行うことができる。
なお、スケール用磁石31及び電気角用磁石32は、固定子21以外の場所に設けるようにしてもよい。
【0060】
なお、上述の第1実施形態、及び第2実施形態において、電機子60が移動する構造のリニアモータを用いて説明したが、電機子60が固定され、駆動用磁石24が移動する構造のリニアモータであってもよい。
また、上述の第1実施形態、及び第2実施形態において、MRセンサ27は、磁界の向きに応じた正弦波信号Ssin及び余弦波信号Scosを出力する方式のMRセンサを用いた例を示した。しかし、これに限らず、MRセンサ27は、磁界の強さに応じて、正弦波信号Ssin及び余弦波信号Scosを出力する方式のMRセンサを用いてもよい。
【0061】
上述の制御装置10は内部に、コンピュータシステムを有していてもよい。その場合、上述した制御部11、電気角算出部13、区間検出部14の動作の過程は、プログラムの形式でコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記憶されており、このプログラムをコンピュータが読み出して実行することによって、上記の動作が行われることになる。ここでコンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、DVD−ROM、半導体メモリ等をいう。また、このコンピュータプログラムを通信回線によってコンピュータに配信し、この配信を受けたコンピュータが当該プログラムを実行するようにしても良い。
【符号の説明】
【0062】
1,2…リニアモータ装置、10…制御装置、11…制御部、13…電気角算出部、14…区間検出部、15…位置算出部、20…リニアモータ、21…固定子、24…駆動用磁石、25…可動子、27…MRセンサ(第1のセンサ)、29…ホールセンサ(第2のセンサ)、31,31A…スケール用磁石(第2の磁石)、32…電気角用磁石(第1の磁石)、60…電機子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
N極とS極とが交互に等間隔に配列された複数の駆動用磁石を備える駆動用磁石部と、複数のコイルとを備える電機子とを具備し、前記電機子又は前記駆動用磁石部のいずれか一方が可動子となり、該可動子が、前記電機子に備えられている複数のコイルに電流を流して生じる磁界と、前記駆動用磁石が生じさせる磁界とにより前記駆動用磁石の配列された配列方向に直線運動をするリニアモータの制御装置であって、
N極とS極とが交互に等間隔に前記配列方向に配列されている複数の第1の磁石を備える第1の磁石部と、
前記第1の磁石部に対向して前記電機子に備えられている第1の磁気センサであって、前記第1の磁石が生じさせている磁界を検出し、検出した磁界に応じた信号を出力する第1の磁気センサと、
前記第1の磁気センサから受信した信号に基づいて電気角を算出する電気角算出部と、
前記配列方向における前記可動子の可動範囲を複数に分けた区間それぞれを一意に識別させる複数の第2の磁石であって前記配列方向に等間隔に配列されている複数の第2の磁石を備える第2の磁石部と、
前記第2の磁石部に対向して前記電機子に備えられている第2の磁気センサであって、前記第2の磁石が生じさせている磁界の磁束密度に応じた信号を出力する第2の磁気センサと、
前記第2の磁気センサから受信した信号に基づいて前記電機子が位置している前記区間を検出する区間検出部と、
前記区間検出部が検出した区間と、前記電気角算出部が算出した電気角とに基づいて、前記可動範囲における前記可動子の位置を算出する位置算出部と
を備えることを特徴とするリニアモータの制御装置。
【請求項2】
前記第1の磁石部は、前記駆動用磁石である
ことを特徴とする請求項1に記載のリニアモータの制御装置。
【請求項3】
前記第2の磁石部に備えられている複数の第2の磁石は、前記配列方向における長さが、前記区間と同じ長さであり、かつ、前記第1の磁石の前記配列方向における長さに対して半分である
ことを特徴とする請求項1又は請求項2のいずれかに記載のリニアモータの制御装置。
【請求項4】
前記第2の磁石部に備えられている複数の第2の磁石は、N極とS極との磁極が前記配列方向において交互に並べられ、前記区間ごとに各磁極の極性と磁束密度との組合せが異なる
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のリニアモータの制御装置。
【請求項5】
前記第2の磁石部に備えられている複数の第2の磁石は、前記区間ごとに磁束密度が異なる
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のリニアモータの制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−5233(P2012−5233A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−137564(P2010−137564)
【出願日】平成22年6月16日(2010.6.16)
【出願人】(390029805)THK株式会社 (420)
【Fターム(参考)】