説明

レジスト除去方法、半導体製造方法、及びレジスト除去装置

【課題】薬液を使用せず、環境に与える影響の小さいレジスト除去方法及び装置において、表面が変質したレジストの基板からの除去を、実用的、合理的に実現する。
【解決手段】変質層2aと未変質層2bからなるレジスト2を基板1から除去するレジスト除去装置10は、窒素、酸素、水素、及び水蒸気のいずれか、あるいはそれらの混合ガスを低圧力下でプラズマ処理して生成したラジカルを前記基板1に接触させてレジスト除去を行う工程と、前記基板1にオゾン水を接触させてレジスト除去を行う工程を実行する。ラジカルによるレジスト除去工程では、レジスト表面の変質層2aの形成条件に応じラジカルの接触時間を制御して未変質層2bの大部分を残す。または、レジスト除去中に排出される反応ガスの分析結果に応じて工程制御を行い、未変質層2bの大部分を残す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウェハ、液晶パネルの基板、電子回路基板など、レジストを用いてパターン形成を行う基板において、パターン形成後のレジストを基板から除去する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上記した各種基板のうち、半導体ウェハを例にとり製造工程を説明すると、基板表面に化学的気相蒸着法(CVD法)、酸化法あるいはスパッタリング法などで薄膜(酸化膜)を形成し、その薄膜上にフォトレジストを塗布し、それを露光、現像処理してレジストのパターンを形成する。そのレジストパターンを保護膜としてエッチングを行い、不要な薄膜を除去した後、イオン注入を行う。イオン注入後、不要となったレジストを除去するのであるが、従来の除去方法では、酸(例えば硫酸)と過酸化物の混合液、あるいは有機溶剤など、種々の薬液でレジストを分解または溶解して除去するのが一般的であった。高濃度のイオン注入により甚だしく変質し、薬液のみでは除去できないレジストについては、低圧プラズマアッシング処理を併用することもあった。
【0003】
薬液によるレジスト除去は、薬液の管理に十分な注意を払う必要がある。薬液として硫酸などの強酸を使用するケースでは、薬液自体が危険物であるため、安全に作業を行い、安全に管理を行うため、特に配慮が必要である。また使用後の薬液の廃液処理も、それによる環境汚染を考えた場合、厄介な問題である。そのため、安全性や環境保全の見地から、薬液を使用しないレジスト除去が望まれている。
【0004】
薬液を使用しないレジスト除去の一例として、オゾン(O3)を用いる方法がある。これは、オゾンガスやオゾン溶解液に基板を曝してレジストを酸化分解させるものであり、廃液の処理が容易で、安全性の確保、環境保全といった要請に十分応えられる。
【0005】
しかしながら、オゾンによるレジスト除去には時間がかかる。時間がかかるばかりでなく、熱重合や架橋反応などによりレジストが極度に変質していると、オゾンの洗浄作用では力不足で、全く除去できないこともある。そこで、レジスト除去手法をいくつか組み合わせ、薬液不使用という枠組みを守りつつ、除去能力を高めようとする種々の提案がなされている。
【0006】
特許文献1に記載の方法では、大気圧近傍の圧力下で、プラズマ処理した処理ガスをレジストに照射し、そのレジストにスチームを接触させ、基板からレジストを剥離させて除去する。
【0007】
特許文献2に記載の方法では、ドライアッシングの後、基板に残留するレジストを紫外線で励起されたオゾン水によってウェット剥離する。
【0008】
特許文献3に記載の方法では、第1の圧力におけるプラズマ処理によりレジストの表面変質層を除去し、その後、第1の圧力よりも高い第2の圧力におけるプラズマ処理でレジストの未変質部を除去する。
【0009】
特許文献4に記載の方法では、プラズマ処理でレジストをアッシングして除去した後、より高い温度のアッシングでドーパントを含む残渣を除去する。
【特許文献1】特開2006−49712号公報
【特許文献2】特開2002−353196号公報
【特許文献3】特開2005−236012号公報
【特許文献4】特開2000−286248号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記従来型の薬液不使用レジスト除去方法は、次の点で満足できるものではなかった。特許文献1記載の方法では、イオン注入によりレジスト表面に形成された変質層の表面改質ができず、改質できたとしても多大の時間を要する。そのため、後の分解が進まず、実用的な時間ではレジスト除去を完了できず、後処理が必要になる。特許文献2記載の方法では、ドライアッシングの熱でレジストが変質し、残留しやすくなる。また、オゾン水活性化のための紫外線発生装置が必要となる。特許文献3記載の方法では、低圧プラズマ処理後の残渣除去に高圧プラズマ処理を行う際、フッ素を含む環境負荷の大きなガスの添加が必要である。
【0011】
本発明は上記の点に鑑みなされたものであり、薬液を使用せず、環境に与える影響の小さいレジスト除去方法及び装置であって、表面が変質したレジストの基板からの除去を、実用的、合理的に実現できるものを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために本発明は、表面が変質したレジストを基板から除去するレジスト除去方法であって、窒素、酸素、水素、及び水蒸気のいずれか、あるいはそれらの混合ガスを低圧力下でプラズマ処理して生成したラジカルを前記基板に接触させてレジスト除去を行う工程と、前記基板にオゾン水を接触させてレジスト除去を行う工程と、を含むことを特徴としている。
【0013】
この構成によると、ラジカルとオゾン水を併用することにより、表面が変質したレジストを、変質層と未変質層を含めて、基板から効果的に除去できる。
【0014】
また本発明は、表面が変質したレジストを基板から除去するレジスト除去方法であって、
水素原子を含有する分子のガスを低圧力下でプラズマ処理して生成したラジカルを前記基板に接触させてレジスト除去を行う工程と、前記基板にオゾン水を接触させてレジスト除去を行う工程と、を含むことを特徴としている。
【0015】
この構成によると、プラズマ処理によりHラジカルやOHラジカルが生成されるので、そのラジカルとオゾン水を併用して、表面が変質したレジストを、変質層と未変質層を含めて、基板から効果的に除去できる。
【0016】
また本発明は、上記構成のレジスト除去方法において、前記ラジカルによるレジスト除去工程の後に、前記オゾン水によるレジスト除去工程を配したことを特徴としている。
【0017】
この構成によると、レジスト表面の変質層の除去に効果がある、ラジカルによるレジスト除去工程の後に、レジスト内部の未変質層の除去に効果がある、オゾン水によるレジスト除去工程を配したので、表面が変質したレジストを、変質層と未変質層を含めて、合理的に除去できる。
【0018】
また本発明は、上記構成のレジスト除去方法において、前記ラジカルによるレジスト除去工程では主としてレジスト表面の変質層を除去し、前記オゾン水によるレジスト除去工程では主としてレジスト内部の未変質層を除去することを特徴としている。
【0019】
この構成によると、ラジカルとオゾン水の特性の違いを利用して、表面が変質したレジストを、変質層と未変質層を含めて、基板から効果的に除去できる。
【0020】
また本発明は、上記構成のレジスト除去方法において、前記ラジカルによるレジスト除去工程で、レジスト表面の変質層の形成条件に応じラジカルの接触時間を制御して前記未変質層の大部分を残すことを特徴としている。
【0021】
この構成によると、ラジカルの接触時間を無意味に延ばさず、工程の時間効率を高めることができる。
【0022】
また本発明は、上記構成のレジスト除去方法において、前記ラジカルによるレジスト除去工程で、レジスト除去中に排出される反応ガスの分析結果に応じて工程制御を行い、前記未変質層の大部分を残すことを特徴としている。
【0023】
この構成によると、ラジカルの接触を丁度良いタイミングで止め、工程の時間効率を高めることができる。
【0024】
また本発明は、上記構成のレジスト除去方法において、前記ラジカルによるレジスト除去工程で、前記基板の温度を、前記変質層のラジカルによる除去を可能とする活性化エネルギーを供与できる温度以上、且つポッピング発生温度未満に維持することを特徴としている。
【0025】
この構成によると、ポッピングを発生させることなくレジストの除去を促進することができる。
【0026】
また本発明は、上記構成のレジスト除去方法において、前記ラジカルによるレジスト除去工程で、前記プラズマ処理部と前記基板の間にイオン遮断板を配置し、生成したプラズマ中のイオンが基板に接触するのを防止することを特徴としている。
【0027】
この構成によると、イオンの接触による基板の温度上昇を抑え、ポッピングの発生を防止することができる。
【0028】
また本発明は、上記構成のレジスト除去方法において、前記ラジカルによるレジスト除去工程で、前記基板とラジカルの接触時圧力を6.6Pa以上とすることを特徴としている。
【0029】
この構成によると、ラジカルを効果的に作用させ、変質層除去能力を高めることができる。
【0030】
また本発明は、上記構成のレジスト除去方法において、前記ラジカルによるレジスト除去工程で、前記基板とラジカルの接触時圧力を667Pa以下とすることを特徴としている。
【0031】
この構成によると、ラジカルを効果的に作用させ、変質層除去能力を高めることができる。
【0032】
また本発明は、上記構成のレジスト除去方法において、前記オゾン水によるレジスト除去工程で、オゾン水を加温して用いることを特徴としている。
【0033】
この構成によると、オゾン水の活性を高め、未変質層を効果的に除去できる。
【0034】
また本発明は、上記レジスト除去方法を実施した前記基板をフッ化水素で洗浄して拡散工程に送ることを特徴とする半導体製造方法であることを特徴としている。
【0035】
この構成によると、薬液使用量の少ない、環境に与える影響の小さい半導体製造方法とすることができる。
【0036】
また本発明は、表面が変質したレジストを基板から除去するレジスト除去装置であって、
窒素、酸素、水素、及び水蒸気のいずれか、あるいはそれらの混合ガスを供給するガス供給部と、前記ガス供給部から供給されたガスをプラズマ処理してラジカルを生成させるプラズマ処理部と、前記ラジカルを基板に接触させ、主としてレジスト表面の変質層を除去する変質層除去部と、オゾン水生成部と、前記オゾン水生成部から供給されたオゾン水を前記基板に接触させ、主としてレジストの未変質層を除去する未変質層除去部と、を備えることを特徴としている。
【0037】
この構成によると、ラジカルとオゾン水を併用し、両者の特性に応じた使い分けをすることにより、表面が変質したレジストを、変質層と未変質層を含めて、基板から効果的に除去できる。
【0038】
また本発明は、表面が変質したレジストを基板から除去するレジスト除去装置であって、
水素原子を含有する分子のガスを供給するガス供給部と、前記ガス供給部から供給されたガスをプラズマ処理してラジカルを生成させるプラズマ処理部と、前記ラジカルを基板に接触させ、主としてレジスト表面の変質層を除去する変質層除去部と、オゾン水生成部と、前記オゾン水生成部から供給されたオゾン水を前記基板に接触させ、主としてレジストの未変質層を除去する未変質層除去部と、を備えることを特徴としている。
【0039】
この構成によると、プラズマ処理により生成されたHラジカルや、OHラジカルとオゾン水を併用し、両者の特性に応じた使い分けをすることにより、表面が変質したレジストを、変質層と未変質層を含めて、基板から効果的に除去できる。
【0040】
また本発明は、上記構成のレジスト除去装置において、前記変質層除去部の動作を、レジスト表面の変質層の形成条件に応じラジカルの接触時間を制御することにより、または変質層除去中に排出される反応ガスの分析結果に応じて工程制御を行うことにより、制御することを特徴としている。
【0041】
この構成によると、変質層除去部の動作を合理的に制御し、装置の稼働効率を高めることができる。
【0042】
また本発明は、上記構成のレジスト除去装置において、前記変質層除去部での前記基板の温度を、前記変質層のラジカルによる除去を可能とする活性化エネルギーを供与できる温度以上、且つポッピング発生温度未満に維持することを特徴としている。
【0043】
この構成によると、ポッピングを発生させることなくレジストの除去を促進することができる。
【0044】
また本発明は、上記構成のレジスト除去装置において、前記変質層除去部の前記プラズマ処理部と前記基板の間にイオン遮断板を配置し、生成したプラズマ中のイオンが基板に接触するのを防止することを特徴としている。
【0045】
この構成によると、イオンの接触による基板の温度上昇を抑え、ポッピングの発生を防止することができる。
【0046】
また本発明は、上記構成のレジスト除去装置において、前記未変質層除去部に供給するオゾン水の温度調節を行う温度調節装置を備えることを特徴としている。
【0047】
この構成によると、オゾン水の活性を高め、未変質層を効果的に除去できる。
【発明の効果】
【0048】
本発明によると、従来用いられていた薬剤、例えば加熱硫酸のように使用にも保存にも危険を伴い、環境負荷の大きい薬剤を使用することなく、またフッ素を含有する環境負荷の大きいガスを使用することなく、表面が変質したレジストを短時間で効率良く基板から除去することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0049】
以下本発明の実施形態を図に基づき説明する。図1はレジスト除去工程の概念図、図2はレジスト除去装置の概念図、図3はイオン遮断板の平面図である。
【0050】
図1(a)は基板1の表面にレジスト2が形成された状況を示す。レジスト2の表面は変質層2aとなっており、その内側に未変質層2bがある。このレジスト2から図1(b)のように変質層2aを除去し、次いで図1(c)のように未変質層2bも除去する。
【0051】
レジスト除去工程を実施するレジスト除去装置10は、図2に示すように、変質層除去ユニット11と未変質層除去ユニット12により構成される。以下、変質層除去ユニット11の構成と未変質層除去ユニット12の構成を個別に説明する。
【0052】
変質層除去ユニット11は真空チャンバー20を備える。真空チャンバー20には真空ポンプ21が、ガス分析器22を介して接続されている。真空チャンバー20の天面にはガス導入口23が設けられる。ガス導入口23は図示しないガス供給部に接続されている。
【0053】
真空チャンバー20の内部はイオン遮断板24により上下に仕切られる。図3に示すイオン遮断板24は、石英製の板に幅2mm程度のスリット状のラジカル通過口25を多数並
列に形成したものである。ラジカル通過口25同士の間隔も2mm程度とされる。イオン遮
断板24より上の空間がプラズマ処理部26となり、イオン遮断板24より下の空間が変質層除去部27となる。
【0054】
プラズマ処理部26の周囲を高周波コイル28が取り巻く。高周波コイル28は高周波電源29より所定周波数の電流を供給される。
【0055】
高周波以外のラジカル生成メカニズムを採用することも可能である。例えばECR(
Electron Cyclotron Resonance)プラズマ、ICP(Inductively Coupled Plasma)プラズマ、ヘリコン波プラズマなどである。
【0056】
変質層除去部27の底部には基板温度調節部30が設けられる。基板温度調節部30は温度制御用の温水/冷水生成部31から供給される温水で加熱、または冷水で冷却されるものであり、その上に載置された基板1の温度を所定値にする。
【0057】
未変質層除去ユニット12は未変質層除去部40を備える。未変質層除去部40は、基板1を載置するテーブル41と、テーブル41上の基板1にオゾン水を滴下するオゾン水供給ノズル42を備える。オゾン水供給ノズル42にはオゾン水生成部43が、オゾン水温度調節部44を介して接続されている。
【0058】
レジスト除去装置10において、レジスト除去工程は次のように遂行される。まず変質層除去ユニット11の変質層除去部27に基板1を入れる。基板1としては、本実施形態では半導体ウェハが想定されている。基板1に形成されたレジスト2は、前工程のレジスト注入工程で表面が変質し、変質層2aを生じている。
【0059】
イオンを注入し変質層2aが生じたレジスト2を、レジストパターン形成時に脱ガスのため行われるベーク工程の温度以上の温度にすると、未変質層2b内の有機溶媒の蒸気により変質層2aが破裂(ポッピング)する。すると変質層2aがフレーク状に飛散し、陥没が生じる。図4はレジストパターンに生じたポッピングの実例写真である。この例ではレジストパターン形成時に110℃でベークし、リンのイオンを50keV、5.0×1015ions/cm2で注入した後、変質層除去を行った。同図の(a)は60℃で変質層除
去を行ったときの写真、(b)は80℃で変質層除去を行ったときの写真、(c)は100℃で変質層除去を行ったときの写真である。100℃でポッピングが発生していることがわかる。ポッピングが発生すると未変質層まで露出し、変質層のみ選択的に除去するということができなくなる。
【0060】
ラジカルによる変質層除去は化学反応によるものであり、温度が高い方が反応の進行が速いが、温度が高すぎると前述のようにポッピングが発生する。そこで基板温度調節部30は、その上に載置された基板1を、変質層2aのラジカルによる除去を可能とする活性化エネルギーを供与できる温度以上、且つポッピング発生温度未満に維持する。ポッピングを起こさないためには、レジストパターン形成時のベーク温度未満にする必要がある。ベーク温度は一般的には110℃〜120℃であるが、温度上昇によるレジスト垂れでパターンシフトが生じるのを防ぐためにこれより低温でベークする場合もあり、一義的には決まらない。
【0061】
基板1の温度が所定範囲となったところでガス導入口23からガスを入れ、同時に高周波コイル28に通電してガスをプラズマ処理する。導入するガスは窒素、酸素、水素、及び水蒸気のいずれか、あるいはそれらの混合ガスである。プラズマ処理は低圧力下で行う。
【0062】
プラズマ処理で生成されたイオンはイオン遮断板24で遮断され、変質層除去部27に入らない。このため、イオンの接触による基板1の温度上昇を抑え、ポッピングの発生を防止することができる。
【0063】
図5は真空チャンバー内の真空度と基板温度の関係を示すグラフである。イオン遮断板が有るときの方が、無いときよりも基板の温度が良くコントロールされていることが見てとれる。高真空側だとイオンが基板に到達しやすいうえ、熱伝導が悪いので基板の温度が上昇しやすいのであるが、この高真空側における温度上昇抑制効果が特に顕著である。
【0064】
プラズマ処理で生成されたラジカルはイオン遮断板24のラジカル通過口25を通り抜けて変質層除去部27に入り、基板1に接触する。ラジカルはレジスト2の変質層2aを除去する。プラズマ処理対象として水素原子を含有する分子のガスを選択すれば、Hラジカルが生成され、変質層2aが効果的に除去される。変質層2a除去後の処理ガスは図示しない排気口より真空チャンバー20外に排出される。
【0065】
ラジカルの接触時間は変質層2aの形成条件に応じて制御する。そして未変質層2bの大部分を残すものとする。変質層2aの除去中に排出される反応ガスをガス分析器22で分析し、その分析結果に応じて工程制御を行い、未変質層2bの大部分を残すこととしてもよい。
【0066】
ラジカルによる変質層除去は、ラジカルを基板1に接触させるときの圧力(真空度)によって除去レートが変わり、これにより処理能力も変わってくる。圧力が低すぎると(真空度が高すぎると)ラジカルが真空ポンプ21に引かれて変質層除去部27のラジカル密度が低下し、変質層2aの除去が進まない。反対に圧力が高すぎると(真空度が低すぎると)、プラズマ処理部26から基板1まで移動する間にラジカルが他の物質と反応し、除去レートが悪くなる。実験では6.6Paから667Paでプラズマが生成され、ラジカルによる変質層2aの除去が可能であった。最適圧力は133.3Pa程度であった。ちなみに、6.6Paは真空度では50mtorrに相当し、667Paは同じく5torrに相当し、133.3Paは同じく1torrに相当する。
【0067】
基板1は、変質層2aを除去し終わり、未変質層2bの大部分が残った状態で変質層除去ユニット11から取り出し、未変質層除去ユニット12に移す。未変質層除去部40のテーブル41の上に基板1を載置した後、オゾン水供給ノズル42よりオゾン水を基板1に滴下する。このオゾン水により未変質層2bが除去される。
【0068】
オゾン水の活性を高めて未変質層2bを短時間で除去するため、オゾン水温度調節部44でオゾン水を加温する。図6はオゾン水の温度と未変質層の除去時間の関係を示すグラフである。70℃〜80℃が最適範囲となる。
【0069】
図7に示すのは変質層と未変質層の除去状況の実例写真である。(a−1)に見られる変質層を選択除去しないまま未変質層を除去すると、(b−1)のように残渣が生じる。(a−2)のように変質層を選択除去し、その上で未変質層を除去すると、(b−2)に見られるように残渣は発生しない。
【0070】
本発明を使用しない、一般的な半導体製造工程では、レジスト除去後、アンモニア過酸化水素水洗浄(APM洗浄、SC1洗浄)による異物除去の過程や塩酸過酸化水洗浄(HPM洗浄、SC2洗浄)による金属分除去の過程を経てフッ化水素(HF)による洗浄工程へ、さらに拡散工程へと進む。本発明の方法により、残渣のない状態でレジスト除去を完了できれば、直接フッ化水素による洗浄工程から拡散工程へと進むことができ、薬液使用量の少ない、環境に与える影響の小さい半導体製造方法とすることができる。
【0071】
図8に示すのは本発明を実施した装置によるレジスト除去実験の写真である。実験で用いた基板は半導体用シリコンウェハであり、その表面にレジストパターンを形成し、31+、50keV、5.0×1015ions/cm2という高濃度のイオン注入を施したもので
ある。このような高濃度のイオン注入がなされたレジスト表面は硬く変質しており、最も除去困難とされている。レジスト除去前の状態を示すのが図8の(a−1)と(a−2)である。(a−1)はレジストの断面写真、(a−2)はレジストパターンの平面写真である。
【0072】
プラズマ処理用ガスとして用いたのはN2にH2を4%混合した、H2とN2の混合ガスである。基板温度は100℃、真空チャンバーの圧力は133.3Pa、プラズマパワーは2000Wとし、イオン遮断板の存在のもと、変質層除去作業を360秒行った。この工程を経た後の状態を示すのが図8の(b−1)と(b−2)である。(b−1)はレジストの断面写真、(b−2)はレジストパターンの平面写真である。変質層の除去はそれだけを選択的に、ポッピングを生じさせることなく行われる。
【0073】
変質層除去後、80℃、90ppmのオゾン水に基板を180秒接触させ、未変質層を除去した。未変質層除去後の状態を示すのが図8の(c−1)と(c−2)である。(c−1)はレジストの断面写真、(c−2)はレジストパターンの平面写真である。未変質層は残渣を残すことなく除去されている。
【0074】
2とN2の混合ガスでなく、HeにH2を4%混合した、H2とHeの混合ガスを用いて実験を行っても、上記と同様の結果が得られた。
【0075】
図9に示すのは本発明を実施した装置で水蒸気を用いて行ったレジスト除去実験の写真である。変質層除去条件は、純水の水蒸気を100ml/minの割合で生成し、それを真空チャンバーの圧力133.3Pa、プラズマパワー2000Wで、イオン遮断板の存在の下にプラズマ処理した。生成されたラジカルを温度40℃の基板に180秒接触させ、変質層を除去した。図9の(a)は変質層除去前の状態、(b)は変質層除去後の状態である。(b)より、未変質層がポッピングを生じることなく残っているのがわかる。写真を欠くが、未変質層は残渣を残すことなく除去される。
【0076】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明の範囲はこれに限定されるものではなく、発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えて実施することができる。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明は基板からレジストを除去する工程に広く利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】レジスト除去工程の概念図
【図2】レジスト除去装置の概念図
【図3】イオン遮断板の平面図
【図4】レジストパターンに生じたポッピングの実例写真
【図5】真空チャンバー内の真空度と基板温度の関係を示すグラフ
【図6】オゾン水の温度と未変質層の除去時間の関係を示すグラフ
【図7】変質層と未変質層の除去状況の実例写真
【図8】本発明を実施した装置によるレジスト除去実験の写真
【図9】本発明を実施した装置で水蒸気を用いて行ったレジスト除去実験の写真
【符号の説明】
【0079】
1 基板
2 レジスト
2a 変質層
2b 未変質層
10 レジスト除去装置
11 変質層除去ユニット
12 未変質層除去ユニット
20 真空チャンバー
21 真空ポンプ
22 ガス分析器
26 プラズマ処理部
27 変質層除去部
30 基板温度調節部
40 未変質層除去部
42 オゾン水供給ノズル
43 オゾン水生成部
44 オゾン水温度調節部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面が変質したレジストを基板から除去するレジスト除去方法であって、
窒素、酸素、水素、及び水蒸気のいずれか、あるいはそれらの混合ガスを低圧力下でプラズマ処理して生成したラジカルを前記基板に接触させてレジスト除去を行う工程と、
前記基板にオゾン水を接触させてレジスト除去を行う工程と、
を含むことを特徴とするレジスト除去方法。
【請求項2】
表面が変質したレジストを基板から除去するレジスト除去方法であって、
水素原子を含有する分子のガスを低圧力下でプラズマ処理して生成したラジカルを前記基板に接触させてレジスト除去を行う工程と、
前記基板にオゾン水を接触させてレジスト除去を行う工程と、
を含むことを特徴とするレジスト除去方法。
【請求項3】
前記ラジカルによるレジスト除去工程の後に、前記オゾン水によるレジスト除去工程を配したことを特徴とする請求項1または2に記載のレジスト除去方法。
【請求項4】
前記ラジカルによるレジスト除去工程では主としてレジスト表面の変質層を除去し、前記オゾン水によるレジスト除去工程では主としてレジスト内部の未変質層を除去することを特徴とする請求項3に記載のレジスト除去方法。
【請求項5】
前記ラジカルによるレジスト除去工程で、レジスト表面の変質層の形成条件に応じラジカルの接触時間を制御して前記未変質層の大部分を残すことを特徴とする請求項3または4に記載のレジスト除去方法。
【請求項6】
前記ラジカルによるレジスト除去工程で、レジスト除去中に排出される反応ガスの分析結果に応じて工程制御を行い、前記未変質層の大部分を残すことを特徴とする請求項3または4に記載のレジスト除去方法。
【請求項7】
前記ラジカルによるレジスト除去工程で、前記基板の温度を、前記変質層のラジカルによる除去を可能とする活性化エネルギーを供与できる温度以上、且つポッピング発生温度未満に維持することを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載のレジスト除去方法。
【請求項8】
前記ラジカルによるレジスト除去工程で、前記プラズマ処理部と前記基板の間にイオン遮断板を配置し、生成したプラズマ中のイオンが基板に接触するのを防止することを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載のレジスト除去方法。
【請求項9】
前記ラジカルによるレジスト除去工程で、前記基板とラジカルの接触時圧力を6.6Pa以上とすることを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載のレジスト除去方法。
【請求項10】
前記ラジカルによるレジスト除去工程で、前記基板とラジカルの接触時圧力を667Pa以下とすることを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載のレジスト除去方法。
【請求項11】
前記オゾン水によるレジスト除去工程で、オゾン水を加温して用いることを特徴とする請求項1から10のいずれか1項に記載のレジスト除去方法。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか1項に記載のレジスト除去方法を実施した前記基板をフッ化水素で洗浄して拡散工程に送ることを特徴とする半導体製造方法。
【請求項13】
表面が変質したレジストを基板から除去するレジスト除去装置であって、
窒素、酸素、水素、及び水蒸気のいずれか、あるいはそれらの混合ガスを供給するガス供給部と、
前記ガス供給部から供給されたガスをプラズマ処理してラジカルを生成させるプラズマ処理部と、
前記ラジカルを基板に接触させ、主としてレジスト表面の変質層を除去する変質層除去部と、
オゾン水生成部と、
前記オゾン水生成部から供給されたオゾン水を前記基板に接触させ、主としてレジストの未変質層を除去する未変質層除去部と、
を備えることを特徴とするレジスト除去装置。
【請求項14】
表面が変質したレジストを基板から除去するレジスト除去装置であって、
水素原子を含有する分子のガスを供給するガス供給部と、
前記ガス供給部から供給されたガスをプラズマ処理してラジカルを生成させるプラズマ処理部と、
前記ラジカルを基板に接触させ、主としてレジスト表面の変質層を除去する変質層除去部と、
オゾン水生成部と、
前記オゾン水生成部から供給されたオゾン水を前記基板に接触させ、主としてレジストの未変質層を除去する未変質層除去部と、
を備えることを特徴とするレジスト除去装置。
【請求項15】
前記変質層除去部の動作を、レジスト表面の変質層の形成条件に応じラジカルの接触時間を制御することにより、または変質層除去中に排出される反応ガスの分析結果に応じて工程制御を行うことにより、制御することを特徴とする請求項13または14に記載のレジスト除去装置。
【請求項16】
前記変質層除去部での前記基板の温度を、前記変質層のラジカルによる除去を可能とする活性化エネルギーを供与できる温度以上、且つポッピング発生温度未満に維持することを特徴とする請求項13から15のいずれか1項に記載のレジスト除去装置。
【請求項17】
前記変質層除去部の前記プラズマ処理部と前記基板の間にイオン遮断板を配置し、生成したプラズマ中のイオンが基板に接触するのを防止することを特徴とする請求項13から16のいずれか1項に記載のレジスト除去装置。
【請求項18】
前記未変質層除去部に供給するオゾン水の温度調節を行う温度調節装置を備えることを特徴とする請求項13から17のいずれか1項に記載のレジスト除去装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図4】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−300704(P2008−300704A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−146396(P2007−146396)
【出願日】平成19年6月1日(2007.6.1)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【出願人】(503187073)アクアサイエンス株式会社 (13)
【Fターム(参考)】