説明

レンジ表示装置

【課題】シフトレンジの表示にかかる時間のばらつきを防止して、運転者に違和感を生じさせることを防止することができるレンジ表示装置を提供する。
【解決手段】T−ECUは、シフトレバーが操作されシフトレンジの切替要求が発生したと判断した場合には(ステップS11でYes)、切替要求が発生してからの経過時間をタイマにより計測する。そして、T−ECUは、作動油温が油温T以下であると判断した場合には(ステップS12でNo)、要求シフトレンジをレンジ表示部に表示させる。そして、T−ECUは、現在レンジが確定したと判断した場合には(ステップS15でYes)、確定した現在表示をレンジ表示部に表示させ、現在レンジが所定時間t以内に確定しない場合には(ステップS16でNo)、レンジ表示部を消灯する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載される自動変速機のシフトレンジを表示するレンジ表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両に搭載される自動変速機にあっては、エンジンからトルクコンバータを介して入力した動力を変速機構部に伝達するようになっており、摩擦係合要素を構成するクラッチやブレーキの係合および解放に応じて、複数のギアによって形成される動力伝達経路が切り替わることにより、所望の変速段を形成するようになっている。
【0003】
クラッチおよびブレーキは、油圧制御回路の一部を構成するソレノイド弁およびマニュアル弁等の作動状態に応じて油圧が調節されることにより、その係合状態および解放状態が切り替えられ、シフトレバーの操作位置に応じて複数の前進変速段および後進段が成立させられるようになっている。
【0004】
このマニュアル弁は、シフトレバーの操作位置に応じて機械的に切り替えられるようになっており、エンジンの動力により駆動するオイルポンプによって生成されたライン圧が各油圧回路に供給されるようになっている。
【0005】
近年、シフトレバーの操作位置に応じて電気的にシフト制御を行うシフト・バイ・ワイヤ方式が存在し、これに伴いマニュアル弁を備えていない自動変速機も増加しつつある(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
この従来の特許文献1に記載された自動変速機にあっては、マニュアル弁を備えていないため、電磁弁ロジックに基づいていずれのソレノイド弁を作動させるか予め定められており、後進段等や所望の前進変速段を形成するために対応したソレノイド弁を作動させるようになっている。これにより、従来の特許文献1に記載された自動変速機にあっては、対応したソレノイド弁を作動させることにより、電磁弁ロジックに基づいてブレーキおよびクラッチの作動をさせて、後進段等や所望の前進変速段が形成されるようになっている。
【0007】
ここで、シフト・バイ・ワイヤ方式によってシフトレンジおよび変速段の変更が実現される自動変速機にあっては、マニュアルバルブを備えていないため、シフトレバーの操作位置に応じて設けられた複数のシフトポジションセンサからの検出結果と電磁弁ロジックに基づいてトランスミッション制御装置(以下、T−ECUという)が各ソレノイド弁を制御するようになっている。
【0008】
そして、T−ECUは、シフトレバーの位置が変化すると、ブレーキおよびクラッチに供給される作動油の油圧に基づいて、自動変速機に実際に形成された前進変速段および後進段を判断し、判断した結果を現在のシフトレンジとして車室内に表示させることにより、現在のシフトレンジを運転者に知らせるようになっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特表2002−533631号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上述のような従来の特許文献1に記載された自動変速機にあっては、T−ECUが作動油の油圧に基づいて現在のシフトレンジを判断するようになっているため、作動油の油温など作動油の状態に応じて、ブレーキおよびクラッチに供給される作動油の油圧応答性が変化し、現在のシフトレンジを判定するために必要となる時間がばらつくことがあった。そのため、シフトレバーが操作されてから車室内にシフトレンジが表示されるまでの時間がばらつくこととなり、結果として、運転者に違和感を生じさせるという問題があった。
【0011】
本発明は、上述のような従来の問題を解決するためになされたもので、シフトレンジの表示にかかる時間のばらつきを防止して、運転者に違和感を生じさせることを防止することができるレンジ表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係るレンジ表示装置は、上記目的達成のため、(1)駆動源の出力トルクを伝達する遊星歯車を有する歯車変速機構と、係合状態と解放状態との間で作動状態が切り替えられる複数の摩擦係合要素と、駆動輪と接続される出力軸を固定するロック状態と前記出力軸を解放するアンロック状態との間で作動状態が切り替えられるパーキングロック機構とを備え、前記複数の摩擦係合要素の作動状態によって前記歯車変速機構のトルク伝達経路が切り替えられて変速が実現される自動変速機に用いられるとともに、前記複数の摩擦係合要素および前記パーキングロック機構の作動状態に基づいてシフトレンジの判定を行い、判定されたシフトレンジを現在のシフトレンジとして表示するレンジ表示装置において、シフトレンジの変更要求が表す要求シフトレンジを検出する要求レンジ検出手段と、前記要求シフトレンジに応じて前記複数の摩擦係合要素および前記パーキングロック機構の作動状態が切り替わるよう前記複数の摩擦係合要素および前記パーキングロック機構に供給される作動油の油圧を制御する油圧制御手段と、前記複数の摩擦係合要素に供給される作動油の油圧を検出する油圧検出手段と、前記パーキングロック機構の作動状態を検出するロック状態検出手段と、前記複数の摩擦係合要素および前記パーキングロック機構の各作動状態の組み合わせにより表される作動パターンを、シフトレンジと対応付けて予め記憶する記憶手段と、前記油圧検出手段および前記ロック状態検出手段の検出結果が表す前記複数の摩擦係合要素および前記パーキングロック機構の作動パターンと、前記記憶手段に記憶された作動パターンとの比較に基づいて、現在のシフトレンジの判定を行う現在レンジ判定手段と、前記現在レンジ判定手段により判定された現在のシフトレンジを表示するレンジ表示手段と、を備え、前記レンジ表示手段は、要求シフトレンジが前記要求レンジ検出手段により検出された場合には、前記現在レンジ判定手段により現在のシフトレンジが判定されるまで前記要求シフトレンジを表示することを特徴とする。
【0013】
この構成により、要求シフトレンジが要求レンジ検出手段により検出されると、レンジ表示手段は要求シフトレンジを表示した後に現在のシフトレンジを表示するので、現在のシフトレンジを判定するために必要な時間のばらつきが生じる場合においても、レンジ表示手段によるシフトレンジの表示を同じタイミングで行うことができる。これにより、シフトレバーの操作によるシフトレンジの変更要求ごとにシフトレンジの表示にかかる時間が変化することを防止でき、結果として、運転者に違和感を与えることを防止することができる。
【0014】
また、上記(1)に記載のレンジ表示装置において、(2)前記作動油の油温を検出する油温検出手段を備え、前記レンジ表示手段は、要求シフトレンジが前記要求レンジ検出手段により検出され、かつ、前記油温検出手段により検出された前記作動油の油温が所定値以下である場合には、前記現在レンジ判定手段により現在のシフトレンジが判定されるまで前記要求シフトレンジを表示することを特徴とする。
【0015】
この構成により、作動油の油温が所定値以下である場合には、レンジ表示手段が要求シフトレンジを表示した後に実際のシフトレンジを表示するので、作動油の油温が低く粘性が高いことに起因して、油温が所定値より高い場合よりも各摩擦係合要素の作動状態の切替が長くかかる場合においても、レンジ表示手段が要求シフトレンジを表示させることにより、シフトレンジの変更要求から同じタイミングでシフトレンジを表示させることができる。これにより、シフトレンジの変更要求ごとにシフトレンジの表示にかかる時間が変化することを防止でき、結果として、運転者に違和感を与えることを防止することができる。
【0016】
また、上記(2)に記載のレンジ表示装置において、(3)前記レンジ表示手段は、前記油温検出手段により検出された前記作動油の油温が所定値より高い場合には、前記要求シフトレンジを表示せずに前記現在レンジ判定手段により判定された現在のシフトレンジを表示することを特徴とする。
【0017】
この構成により、作動油の油温が所定値より高く、現在レンジ判定手段による現在のシフトレンジの判定に要する時間が短い場合には、現在のシフトレンジを遅延なくレンジ表示手段に表示させることができる。
【0018】
また、上記(1)から(3)に記載のレンジ表示装置において、(4)前記レンジ表示手段は、要求シフトレンジが前記要求レンジ検出手段により検出されてから所定の時間が経過したにもかかわらず、前記現在レンジ判定手段により現在のシフトレンジが判定されない場合には、前記要求シフトレンジの表示を消灯することを特徴とする。
【0019】
この構成により、現在レンジ判定手段によるシフトレンジの判定が所定時間以内に終了しない場合には、現在レンジ判定手段に故障が生じている可能性があるため、レンジ表示手段により表示されているシフトレンジを消灯することにより、不正確な可能性のあるシフトレンジの表示を防止することが可能となる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、シフトレンジの表示にかかる時間のばらつきを防止して、運転者に違和感を生じさせることを防止することができるレンジ表示装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施の形態に係る車両に搭載されるパワートレーンの概略構成図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る自動変速機のスケルトン図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る自動変速機の変速機構部を模式的に示す斜視図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る自動変速機の油圧制御装置の回路図である。
【図5】本発明の実施の形態に係るパーキングロック機構を示す図である。
【図6】本発明の実施の形態に係るトランスミッション制御装置の構成を示す図である。
【図7】本発明の実施の形態に係る変速機構部における各クラッチおよび各ブレーキ等の係合表である。
【図8】本発明の実施の形態に係る各プラネタリにおける各構成要素の回転数比を変速段毎に示す速度線図である。
【図9】本発明の実施の形態に係る油圧センサやパーキングセンサにより検出される摩擦係合要素の作動状態を示す図である。
【図10】本発明の実施の形態に係るトランスミッション制御装置の動作を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態に係るレンジ表示装置について、図1ないし図10を参照して説明する。
まず、構成について説明する。
【0023】
図1に示すように、車両に搭載されるパワートレーンは、主として、駆動源としてのエンジン1と、変速を実現可能な自動変速機2と、エンジン制御装置3と、トランスミッション制御装置4と、を備えている。
【0024】
エンジン1は、外部から吸入する空気と燃料噴射弁5から噴射される燃料とを適宜の比率で混合した混合気を燃焼させることにより、回転動力を発生させるようになっている。この燃料噴射弁5は、エンジン制御装置3により制御される。
【0025】
自動変速機2は、主として、トルクコンバータ20、変速機構部30、油圧制御装置40、オイルポンプ60を備えている。なお、本実施の形態においては、自動変速機2は、前進8段、後進1段の変速が可能な場合について説明する。
【0026】
変速機構部30は、エンジン1から入力されたトルクを伝達する遊星歯車を有する歯車変速機構や係合状態と解放状態との間で作動状態が切り替えられる後述する複数の摩擦係合要素等を含んでおり、複数の摩擦係合要素の作動状態によって歯車変速機構のトルク伝達経路が切り替えられる。このように、トルク伝達経路が切り替えられることにより、トルクコンバータ20から入力軸9に入力される回転動力を変速して出力軸10に出力するようになっている。油圧制御装置40は、変速機構部30の変速動作および後述するパーキングロック機構62(図5参照)を制御するようになっている。
【0027】
エンジン制御装置3およびトランスミッション制御装置4は、公知のECU(Electronic Control Unit)により構成されている。エンジン制御装置3は、エンジン1により生成されるトルクの大きさを制御するようになっている。一方、トランスミッション制御装置4は、変速機構部30に対し適宜の変速段つまり動力伝達経路を成立させるよう、油圧制御装置40を制御するようになっている。
【0028】
トランスミッション制御装置(以下、再びT−ECUという)4は、エンジン制御装置3との間で送受信可能に接続されており、必要に応じてエンジン制御装置3からエンジン制御に関する種々の情報を取得するようになっている。ここで、本実施の形態に係るT−ECU4は、後述するように、本発明に係るレンジ表示装置、要求レンジ検出手段、油圧制御手段、油圧検出手段、ロック状態検出手段、記憶手段、現在レンジ判定手段、油温検出手段およびレンジ表示手段を構成する。
【0029】
図2に示すように、トルクコンバータ20は、エンジン1(図1参照)の出力軸と連結されており、ポンプインペラ21、タービンランナ22、ステータ23、ワンウェイクラッチ24、ステータシャフト25、ロックアップクラッチ26により構成されている。
【0030】
ワンウェイクラッチ24は、自動変速機2のケース2aに対するステータ23の回転を一方向にのみ許容するようになっている。ステータシャフト25は、ワンウェイクラッチ24のインナレースを自動変速機2のケースに固定するようになっている。
【0031】
ロックアップクラッチ26は、トルクコンバータ20のポンプインペラ21とタービンランナ22とを直結できるようになっている。T−ECU4は、車速やエンジン回転数等予め定められた条件にしたがって油圧制御装置40を制御し、ポンプインペラ21(入力側)とタービンランナ22(出力側)とを直結する係合状態、ポンプインペラ21とタービンランナ22とを切り離す解放状態、および係合状態と解放状態との中間の半係合状態とを切り替えるようになっている。
【0032】
図2および図3に示すように、変速機構部30は、フロントプラネタリ31と、リアプラネタリ32と、中間ドラム33と、第1〜第4クラッチC1〜C4と、第1,第2ブレーキB1,B2とを有している。ここで、第1〜第4クラッチC1〜C4、第1,第2ブレーキB1,B2は、本発明に係る複数の摩擦係合要素を構成している。
【0033】
フロントプラネタリ31は、ダブルピニオンタイプの歯車式遊星機構により構成されており、第1サンギアS1と、第1リングギアR1と、複数個のインナーピニオンギアP1と、複数個のアウターピニオンギアP2と、第1キャリアCA1とを有している。
【0034】
なお、第1サンギアS1は、ケース2aに固定されて回転不可能とされ、第1リングギアR1は、中間ドラム33に第3クラッチC3を介して一体回転可能な状態または相対回転可能な状態に支持され、内径側に第1サンギアS1が同心状に挿入されている。
【0035】
複数個のインナーピニオンギアP1および複数個のアウターピニオンギアP2は、第1サンギアS1および第1リングギアR1により形成される対向環状空間の円周数ヶ所に介装されており、複数個のインナーピニオンギアP1は、第1サンギアS1に噛合され、また、複数個のアウターピニオンギアP2は、インナーピニオンギアP1と第1リングギアR1とに噛合されている。
【0036】
第1キャリアCA1は、インナーピニオンギアP1およびアウターピニオンギアP2を回転可能に支持するもので、この第1キャリアCA1の中心軸部が入力軸9に一体的に連結され、第1キャリアCA1においてインナーピニオンギアP1およびアウターピニオンギアP2を支持する各支持軸部が第4クラッチC4を介して中間ドラム33に一体回転可能な状態または相対回転可能な状態に支持されている。
【0037】
また、中間ドラム33は、第1リングギアR1の外径側に回転可能に配置されており、第1ブレーキB1を介して自動変速機2のケース2aに回転不可能な状態または相対回転可能な状態に支持されている。
【0038】
リアプラネタリ32は、ラビニヨタイプの歯車式遊星機構により構成されており、大径の第2サンギアS2と、小径の第3サンギアS3と、第2リングギアR2と、複数個のショートピニオンギアP3と、複数個のロングピニオンギアP4と、第2キャリアCA2と、を有している。
【0039】
なお、第2サンギアS2は、中間ドラム33に連結され、第3サンギアS3は、第1クラッチC1を介してフロントプラネタリ31の第1リングギアR1に一体回転可能または相対回転可能に連結され、第2リングギアR2は、出力軸10に一体に連結されている。
【0040】
また、複数個のショートピニオンギアP3は、第3サンギアS3に噛合され、複数個のロングピニオンギアP4は、第2サンギアS2および第2リングギアR2に噛合するとともにショートピニオンギアP3を介して第3サンギアS3に噛合されている。
【0041】
さらに、第2キャリアCA2は、複数個のショートピニオンギアP3および複数個のロングピニオンギアP4を回転可能に支持するようになっており、その中心軸部が第2クラッチC2を介して入力軸9に連結され、この第2キャリアCA2において各ピニオンギアP3,P4を支持する各支持軸部が、第2ブレーキB2およびワンウェイクラッチF1を介して自動変速機2のケース2aに支持されている。
【0042】
第1〜第4クラッチC1〜C4および第1,第2ブレーキB1,B2は、オイルの粘性を利用した湿式多板摩擦係合装置によって構成されている。
【0043】
第1クラッチC1は、リアプラネタリ32の第3サンギアS3をフロントプラネタリ31の第1リングギアR1に対して一体回転可能な係合状態または相対回転可能な解放状態とするようになっている。
【0044】
第2クラッチC2は、リアプラネタリ32の第2キャリアCA2を入力軸9に対して一体回転可能な係合状態または相対回転可能な解放状態とするようになっている。
【0045】
第3クラッチC3は、フロントプラネタリ31の第1リングギアR1を中間ドラム33に対して一体回転可能な係合状態または相対回転可能な解放状態とするようになっている。
【0046】
第4クラッチC4は、フロントプラネタリ31の第1キャリアCA1を中間ドラム33に対して一体回転可能な係合状態または相対回転可能な解放状態とするようになっている。
【0047】
第1ブレーキB1は、中間ドラム33を自動変速機2のケース2aに対して一体化して回転不可能な係合状態または相対回転可能な解放状態とするようになっている。
【0048】
第2ブレーキB2は、リアプラネタリ32の第2キャリアCA2を自動変速機2のケース2aに対して一体化して回転不可能な係合状態または相対回転可能な解放状態とするようになっている。
【0049】
ワンウェイクラッチF1は、リアプラネタリ32の第2キャリアCA2の一方向のみの回転を許容するようになっている。
【0050】
図4に示すように、油圧制御装置40は、例えばリニアソレノイド弁SL1〜SL6を有する油圧制御回路により構成されており、変速機構部30(図1参照)を制御するようになっている。
【0051】
T−ECU4(図1参照)は、後述するシフトレバー装置の操作に応じて油圧制御装置40のリニアソレノイド弁SL1〜SL6や、ソレノイド弁63を制御し、変速機構部30(図1参照)における各摩擦係合要素の作動状態やパーキングロック機構62(図5参照)の作動状態を切り替えるようになっている。したがって、本実施の形態に係るT−ECU4および油圧制御装置40は、本発明に係る油圧制御手段を構成する。
【0052】
第1〜第4クラッチC1〜C4、および第1,第2ブレーキB1,B2は、油圧に応じて係合状態および解放状態を切り替えるための油圧アクチュエータ(油圧シリンダ)AC1,AC2,AC3,AC4,AB1,AB2をそれぞれ有している。
【0053】
油圧アクチュエータAC1,AC2,AC3,AC4,AB1,AB2は、リニアソレノイド弁SL1〜SL6や図示しないソレノイド弁の作動状態に応じた油圧が供給され、この油圧に応じて第1〜第4クラッチC1〜C4、および第1,第2ブレーキB1,B2の係合圧が変化するようになっている。
【0054】
リニアソレノイド弁SL1〜SL6には、ライン油圧PLがそれぞれ直接的に供給されるようになっている。リニアソレノイド弁SL1〜SL6は、T−ECU4から入力される指令信号に応じて調圧された係合油圧PC1,PC2,PC3,PC4,PB1,PB2を、油圧アクチュエータAC1,AC2,AC3,AC4,AB1,AB2にそれぞれ作動油圧として供給するようになっている。
【0055】
ライン油圧PLは、エンジン1(図1参照)により回転駆動される機械式のオイルポンプ60(図1参照)によって発生するようになっている。
【0056】
リニアソレノイド弁SL1〜SL6は、基本的には互いに同じ構成を有しており、T−ECU4により独立に励磁、非励磁されるようになっている。したがって、各油圧アクチュエータAC1,AC2,AC3,AC4,AB1,AB2に供給される油圧が独立に調圧制御され、結果として第1〜第4クラッチC1〜C4、および第1,第2ブレーキB1,B2の係合油圧PC1,PC2,PC3,PC4,PB1,PB2がそれぞれ制御されるようになっている。そして、変速機構部30は、後述する作動表に示すように所定の摩擦係合要素が係合させられることによって各変速段が成立するようになっている。
【0057】
油圧センサ81〜84は、油圧アクチュエータAC1,AC2,AC4,AB2にそれぞれ供給される油圧を検出するようになっており、検出した油圧が予め設定された閾値を超えている場合には、摩擦係合要素が係合状態であるONを表す信号を、閾値以下である場合には、摩擦係合要素が解放状態であるOFFを表す信号をT−ECU4に出力するようになっている。
【0058】
なお、本実施の形態においては、油圧センサ81〜84は、各油圧アクチュエータAC1,AC2,AC4,AB2に供給される油圧を検出するようになっているが、油圧センサの数および検出対象の油圧は単に例示であってこれに限定されない。
【0059】
さらに、油圧制御装置40は、パーキングロック機構62を制御するようになっている。ここで、図5を参照して、パーキングロック機構62について詳細に説明する。
パーキングロック機構62は、シリンダ64と、シリンダ64内を往復動するピストン65と、ピストン65を固定したピストンロッド66およびパーキングロッド67を連結する連結部材68と、パーキングロッド67に押圧されることによりパーキングギア70に係合するパーキングロックポール69とを有している。
【0060】
シリンダ64には、延在方向の一端側にソレノイド弁63に接続された油孔部71が形成され、延在方向の他端側に電磁コイル72が巻回されたアンロック保持部73が取り付けられている。シリンダ64の延在方向の中間位置には、ストッパ74が設けられている。
【0061】
また、シリンダ64内の油孔部71側の端部は、パーキングロックポール69をパーキングギア70に係合させるロック位置75にピストン65を規制し、シリンダ64内のストッパ74を設けた中間部は、パーキングロックポール69をパーキングギア70から離隔させるアンロック位置76にピストン65を規制するようになっている。
【0062】
そして、パーキングロック機構62は、ロック位置75とアンロック位置76との間でピストン65をシリンダ64内で往復動させることにより、ロック状態とアンロック状態とを切り替えるようになっている。
【0063】
ピストン65は、ピストンロッド66の途中部分に固定されており、シリンダ64内に油孔部71を通じてオイルが供給される油圧室77を画成している。そして、ピストン65は、ソレノイド弁63の駆動により制御される油圧室77内の作動油の供給および排出に応じて、シリンダ64内をロック位置75とアンロック位置76との間で往復動するようになっている。
【0064】
ピストンロッド66のうち、シリンダ64の外側に位置する端部には連結部材68が回動自在に連結され、シリンダ64の内側に位置する端部には磁石78が設けられている。磁石78は、ピストン65がアンロック位置76に移動すると、電磁コイル72で囲われた空間に進入し、ピストン65がロック位置75に移動すると、電磁コイル72で囲われた空間から外れるようになっている。
【0065】
ピストン65がロック位置75に移動すると連結部材68を介してパーキングロッド67の先端がパーキングロックポール69側に押し込まれ、ピストン65がアンロック位置76に移動すると連結部材68を介してパーキングロッド67の先端がパーキングロックポール69から引き離されるようになっている。
【0066】
また、連結部材68の支軸87には、スプリング79が設けられており、スプリング79の一端は、連結部材68を、パーキングロッド67がパーキングロックポール69に押し当てられる方向に付勢している。
【0067】
パーキングロッド67には、先端部にパーキングカム86が設けられており、このパーキングカム86がパーキングロックポール69に押し当てられることによりパーキングロックポール69がパーキングギア70に係合するようになっている。
【0068】
パーキングセンサ96は、ソレノイド弁63とパーキングロック機構62との間の油圧経路に設置され、パーキングロック機構62の油圧室77に供給される油圧を検出するようになっている。
【0069】
パーキングセンサ96は、所定の閾値以上の油圧を検出した場合には、T−ECU4に対しパーキングロック機構62がアンロック状態であることを表すOFF信号を送信し、所定の閾値未満の油圧を検出した場合には、T−ECU4に対しパーキングロック機構62がロック状態であることを示すON信号を送信するようになっている。
【0070】
所定の閾値としては、パーキングロックポール69がパーキングギア70から引き離れる油圧を設定するようにし、予め実験的な測定により定められている。
【0071】
図6に示すように、T−ECU4は、中央処理装置(CPU)51と、読出し専用メモリ(ROM)52と、ランダムアクセスメモリ(RAM)53と、バックアップRAM54と、入力インターフェース55と、出力インターフェース56とを有しており、これらの構成要素は、双方向性バス57によって互いに接続されている。
【0072】
CPU51は、ROM52に記憶された各種制御プログラムや制御マップに基づいて演算処理を実行する。ROM52には、変速機構部30の変速動作を制御するための各種制御プログラムが予め記憶されている。また、ROM52には、以下に説明する処理を実現するプログラムや車速とアクセル開度とによって定義される変速線図に対応したマップ等が記憶されている。RAM53は、CPU51での演算結果や各センサから入力されたデータ等を一時的に記憶するようになっている。バックアップRAM54は、各種の保存すべきデータを記憶する不揮発性のメモリにより構成されている。
【0073】
入力インターフェース55は、油圧センサ81〜84、エンジン回転速度センサ91、入力軸回転数センサ92、出力軸回転数センサ93、アクセル開度センサ95、パーキングセンサ96および油温センサ97等の各種センサと接続されている。また、入力インターフェース55は、アナログ信号を送信するセンサから信号を取得した場合には、取得したアナログ信号をデジタル信号に変換するようになっている。
【0074】
出力インターフェース56は、油圧制御装置40を構成するリニアソレノイド弁(SL1〜SL6)や、ソレノイド弁63等と接続されている。
【0075】
エンジン回転速度センサ91は、トルクコンバータ20(図1参照)のポンプインペラ21の回転速度をエンジン回転速度として検出するようになっている。また、入力軸回転数センサ92は、入力軸9(図1参照)の回転数を検出するようになっている。また、出力軸回転数センサ93は、出力軸10(図1参照)の回転数を検出するようになっている。
【0076】
また、アクセル開度センサ95は、アクセルペダルの踏み込み量を検出するようになっている。パーキングセンサ96は、上述したように、ソレノイド弁63とパーキングロック機構62との間の油圧経路に設置され、パーキングロック機構62の油圧室77に供給される油圧を検出するようになっている。このパーキングセンサ96は、パーキングロック機構62のロック状態を検出した場合には、ロック状態を表すON信号を出力し、アンロック状態を検出した場合には、アンロック状態を表すOFF信号を出力するようになっている。したがって、本実施の形態に係るT−ECU4およびパーキングセンサ96は、本発明に係るロック状態検出手段を構成する。
【0077】
油温センサ97は、オイルポンプ60(図1参照)の吐出部近傍に設置されており、オイルポンプ60から吐出された作動油の油温を検出し、検出した油温を表す信号をT−ECU4に出力するようになっている。したがって、T−ECU4および油温センサ97は、本発明に係る油温検出手段を構成する。
【0078】
油圧センサ81〜84は、上述したように、T−ECU4および油圧制御装置40によって制御される複数の摩擦係合要素にそれぞれ供給される油圧を検出するようになっている。
【0079】
T−ECU4は、シフトレンジを選択するシフトレバー装置45に入力インターフェース55を介して接続されており、シフトレバー装置45から出力された選択信号に基づいて油圧制御装置40を制御してシフトレンジを切り替えるようになっている。また、T−ECU4は、シフトレンジを表示するレンジ表示部46に接続されており、自動変速機2において成立しているシフトレンジに応じてレンジ表示部46の表示を切り替えるようになっている。したがって、本実施の形態に係るT−ECU4およびレンジ表示部46は、本発明に係るレンジ表示手段を構成する。
【0080】
レンジ表示部46は、例えば、運転席近傍のコンビネーションメータに設置されている。なお、T−ECU4によるレンジ表示部46の制御については、後に詳しく説明する。
【0081】
シフトレバー装置45は、シフトレバー47とパーキングボタン48とを有し、シフトレバー47の操作によりリバースレンジ(R)、ニュートラルレンジ(N)、Dレンジとしてのドライブレンジ(D)を選択でき、パーキングボタン48の押下によりパーキングレンジ(P)を選択できるようになっている。そして、シフトレバー装置45は、その操作に応じた位置にセンサが複数設けられており、シフトレバー47の操作により選択されたシフトレンジに対応する選択信号をT−ECU4に出力するようになっている。
【0082】
また、T−ECU4は、シフトレンジに対応したシフト位置にシフトレバー47が一定時間保持された場合に、シフトレンジの切替要求が発生したと判断し、要求されたシフトレンジ、すなわち要求シフトレンジが成立するよう油圧制御装置40を制御するようになっている。したがって、本実施の形態に係るT−ECU4およびシフトレバー装置45は、本発明に係る要求レンジ検出手段を構成する。
【0083】
T−ECU4は、例えばシフトレバー47がDレンジに対応する位置に操作されることにより、シフトレバー装置45からDレンジを表す選択信号が一定時間入力されると、要求シフトレンジがDレンジであると判断し、前述した変速線図に基づく変速を実行するようになっている。
【0084】
油圧制御装置40は、上述したように、各シフトレンジに応じてライン油圧PLを調整するとともに、上記の各摩擦係合要素に調圧された係合油圧を供給するようになっている。
【0085】
なお、本実施の形態においては、シフトレバー装置45およびレンジ表示部46が直接T−ECU4に接続される場合について説明しているが、これに限らず、シフトレバー装置45およびレンジ表示部46が図示しないシフトバイワイヤECUを介してT−ECU4に接続されるようにしてもよい。また、本実施の形態におけるシフトレバー装置45は、自動変速モードの他に手動変速モードも選択可能であるが、説明を省略する。
【0086】
ここで、上述した変速機構部30における各変速段の成立条件を、図7および図8を参照して説明する。
【0087】
図7は、各変速段と、第1〜第4クラッチC1〜C4、第1,第2ブレーキB1,B2およびワンウェイクラッチF1の作動状態との関係を示す係合表である。この係合表において、○印は「係合状態」を、×印は「解放状態」を、◎印は「エンジンブレーキ時に係合状態」を、△印は「駆動時にのみ係合状態」をそれぞれ表す。
【0088】
図8は、第1〜第4クラッチC1〜C4、第1,第2ブレーキB1,B2およびワンウェイクラッチF1の作動状態に応じて成立する変速段(第1速段〜第8速段、後進段)と、そのときの前後二つのプラネタリ31,32における各構成要素の回転数比との関係を示す速度線図である。
【0089】
図8において、縦軸は二つのプラネタリ31,32における各構成要素の速度比を表しており、各縦軸の間隔は、各要素のギア比に応じて設定される。また、第1〜第4クラッチC1〜C4、第1,第2ブレーキB1,B2およびワンウェイクラッチF1が係合される点に、"C1"〜"C4"、"B1"、"B2"、"F1"を記入している。
【0090】
また、図8に記載された"入力1"〜"入力4"は、入力軸9から入力される回転動力の入力位置を示し、また、図8に記載された"出力"は、出力軸10に出力される回転動力の出力位置を示している。
【0091】
ここで、油圧センサやパーキングセンサにより検出される複数の摩擦係合要素の作動状態の組み合わせを表す作動パターンを図9に示す。
【0092】
本実施の形態において、T−ECU4は、図9に示した作動パターンに基づいて現在のレンジを判定するようになっている。この作動パターンは、第1クラッチC1、第2クラッチC2、第4クラッチC4、第2ブレーキB2の作動状態と、パーキングセンサ(Pセンサ)96の作動状態とによって表される。なお、図9において、摩擦係合要素が係合状態である場合には「○」で表記しており、摩擦係合要素が解放状態である場合には「×」で表記しており、パーキングセンサ96がONの場合には「○」で表記しており、パーキングセンサ96がOFFの場合には「×」で表記している。T−ECU4のROM52には、この作動パターンに対応したマップが予め記憶されている。したがって、T−ECU4は、記憶手段を構成する。
【0093】
以下、本発明の実施の形態に係るT−ECU4の特徴的な構成について説明する。
本発明に係るレンジ表示装置を構成するT−ECU4は、第1クラッチC1、第2クラッチC2、第4クラッチC4および第2ブレーキB2に設けられた各油圧センサ81〜84およびパーキングセンサ96から検出結果を取得して、これらの作動状態を判定するようになっている。具体的には、T−ECU4は、各油圧センサ81〜84およびパーキングセンサ96から出力されたON状態を表す信号やOFF状態を表す信号を取得して、この検出結果に基づいて摩擦係合要素の作動状態が係合状態か解放状態か、およびパーキングロック機構62がロック状態かアンロック状態かを判定するようになっている。したがって、本実施の形態に係るT−ECU4、油圧センサ81〜84およびパーキングセンサ96は、本発明に係る油圧検出手段を構成する。
【0094】
また、T−ECU4は、クラッチやブレーキの作動状態およびパーキングロック機構62の作動状態に基づいて現在のシフトレンジを判定するようになっている。つまり、T−ECU4は、油圧センサ81〜84およびパーキングセンサ96によって検出された検出結果が表す作動パターンとROM52に記憶された作動パターンとの比較に基づいて現在のシフトレンジを判定するようになっている。具体的には、T−ECU4は、上述したように、油圧センサ81〜84から入力される信号に基づいて、第1クラッチC1、第2クラッチC2、第4クラッチC4および第2ブレーキB2の作動状態をそれぞれ判定するとともに、パーキングセンサ96から入力される信号に基づいてパーキングロック機構62の作動状態を判定すると、これらの摩擦係合要素およびパーキングロック機構62の作動状態の組み合わせを実作動パターンとして取得するようになっている。そして、T−ECU4は、ROM52に記憶された作動パターンを参照し、実作動パターンと一致する作動パターンが表すシフトレンジを現在のシフトレンジと判定するようになっている。
したがって、本実施の形態に係るT−ECU4は、本発明に係る現在レンジ判定手段を構成する。
【0095】
また、T−ECU4は、シフトレバー装置45からシフトレンジの切替要求を表す信号を取得したときに、油温センサ97により検出された作動油の油温が予め設定された所定値T以下であると判断した場合には、要求シフトレンジをレンジ表示部46に表示させるようになっている。ここで、所定値Tは、この油温を下回ると作動油の粘性が増加し、油圧応答性が低下する結果、シフトレンジの移行に通常より時間がかかる可能性のある温度として設定されており、使用される作動油の温度特性等に基づいて予め定められ、ROM52に記憶されている。
【0096】
また、T−ECU4は、要求シフトレンジをレンジ表示部46に表示させた後に、上述した方法で現在のシフトレンジを判定した場合には、判定したシフトレンジをレンジ表示部46に表示させるようになっている。
【0097】
また、T−ECU4は、油温センサ97により検出された油温が上記の所定値Tより高い場合には、要求シフトレンジを表示せず、判定したシフトレンジをレンジ表示部46に表示させるようになっている。
【0098】
また、T−ECU4は、油温センサ97により検出された作動油の油温が予め設定された所定値T以下であると判断し、要求シフトレンジをレンジ表示部46に表示させた場合には、シフトレバー47が操作され切替要求が発生した時点からの経過時間をタイマにより計測するようになっている。ここで、T−ECU4は、現在のシフトレンジの判定が終了した場合には、タイマによる経過時間の計測をリセットするようになっている。一方、T−ECU4は、タイマにより計測された経過時間が予め設定された所定値tを超えた場合には、油圧センサ81〜84あるいはパーキングセンサ96のいずれかが故障している可能性があるため、レンジ表示部46の表示を消灯するようになっている。ここで、所定値tは、作動油温が低くシフトレンジの移行に通常より時間がかかる可能性のある場合においてもシフトレンジの移行が完了可能な十分な時間を表しており、実験的な測定により求められている。
【0099】
次に、動作について図10を参照して説明する。なお、以下に説明する処理は、予めROM52に記憶されているプログラムによって実現され、所定の時間間隔でCPU51によって実行される。
【0100】
図10に示すように、まず、T−ECU4は、シフトレバー47が操作されたか否かを判断する(ステップS11)。具体的には、T−ECU4は、シフトレバー47の操作により選択されたシフトレンジに対応する選択信号をシフトレバー装置45から一定時間継続して取得した場合に、シフトレバー47が操作され、シフトレンジを切り替える切替要求が発生し、要求シフトレンジが入力されたと判断するようになっている。
【0101】
T−ECU4は、シフトレバー47が操作され、要求シフトレンジが入力されたと判断した場合には(ステップS11でYes)、切替要求が発生してからの経過時間のタイマによる計測を開始するとともに、ステップS12に移行する。一方、T−ECU4は、シフトレバー47が操作されておらず、要求シフトレンジが入力されていないと判断した場合には(ステップS11でNo)、このステップを繰り返す。
【0102】
次に、T−ECU4は、作動油温が所定値Tより大きいか否かを判断する(ステップS12)。具体的には、T−ECU4は、油温センサ97から作動油温を表す信号を入力し、作動油温が予め設定された所定値Tより大きいか否かを判断する。なお、所定値Tは、上述したように、この油温を下回ると作動油の粘性が増加し、シフトレンジの移行に通常より時間がかかる可能性のある温度として設定されている。
【0103】
T−ECU4は、作動油温が所定値Tより大きいと判断した場合には(ステップS12でYes)、ステップS13に移行し、現在のシフトレンジ、すなわち現在レンジを表示する。具体的には、T−ECU4は、選択されたシフトレンジに応じて油圧制御装置40を制御し、シフトレンジを切り替える。そして、T−ECU4は、油圧センサ81〜84およびパーキングセンサ96から検出された結果を取得すると、図9に示す作動パターンを参照して現在レンジを判断し、レンジ表示部46の表示を現在レンジに切り替える。
【0104】
一方、T−ECU4は、作動油温が所定値T以下であると判断した場合には(ステップS12でNo)、ステップS14に移行し、要求シフトレンジをレンジ表示部46に表示させる。具体的には、T−ECU4は、ステップS11において発生した切替要求が表す要求シフトレンジをレンジ表示部46に表示させるようになっている。
【0105】
次に、T−ECU4は、現在レンジが確定したか否かを判断する(ステップS15)。具体的には、T−ECU4は、選択されたシフトレンジに応じて油圧制御装置40を制御し、シフトレンジを切り替える。そして、T−ECU4は、油圧センサ81〜84およびパーキングセンサ96から検出された結果により表される作動パターンが、図9に示す作動パターンのいずれかと一致した場合には、現在レンジが確定したと判断する。
【0106】
T−ECU4は、現在レンジが確定したと判断した場合には(ステップS15でYes)、ステップS13に移行し、確定した現在レンジをレンジ表示部46に表示させるとともに、タイマをリセットする。一方、T−ECU4は、現在レンジが確定していないと判断した場合には(ステップS15でNo)、ステップS16に移行する。
【0107】
次に、T−ECU4は、タイマにより計測された経過時間が所定値tを超えたか否かを判断する(ステップS16)。具体的には、T−ECU4は、ステップS11においてタイマにより計測が開始された経過時間を参照し、切替要求が発生してから現在までの経過時間が所定値tを超えているか否かを判断する。
【0108】
T−ECU4は、経過時間が所定値tを超えていると判断した場合には(ステップS16でYes)、油圧センサ81〜84あるいはパーキングセンサ96のいずれかに故障が発生している可能性があるため、レンジ表示部46におけるシフトレンジの表示を消灯する(ステップS17)。
【0109】
一方、T−ECU4は、経過時間が所定値tを超えていないと判断した場合には(ステップS16でNo)、ステップS14に移行し、レンジ表示部46における要求シフトレンジの表示を継続させる。
【0110】
以上のように、本発明に係るレンジ表示装置は、作動油の油温が所定値T以下である場合には、レンジ表示部46に要求シフトレンジを表示した後に実際のシフトレンジを表示するので、作動油の油温が低く粘性が高いことに起因して、油温が所定値Tより高い場合よりも各摩擦係合要素の作動状態の切替が長くかかる場合においても、要求シフトレンジをレンジ表示部46に表示させることにより、シフトレンジの変更要求から同じタイミングでシフトレンジを表示させることができる。これにより、シフトレンジの変更要求ごとにシフトレンジの表示にかかる時間が変化することを防止でき、結果として、運転者に違和感を与えることを防止することができる。
【0111】
また、T−ECU4によるシフトレンジの判定が所定時間t以内に終了しない場合には、油圧センサ81〜84あるいはパーキングセンサ96に故障が生じている可能性があるため、レンジ表示部46に表示されているシフトレンジを消灯することにより、不正確な可能性のあるシフトレンジの表示を防止することが可能となる。
【0112】
なお、以上の説明においては、T−ECU4は、油温センサ97により検出された作動油の油温が所定値T以下であると判断した場合に、要求シフトレンジを表示させた後に実際のシフトレンジを表示させる場合について説明した。しかしながら、T−ECU4は、油温にかかわらず、実際のシフトレンジを表示させる前に要求シフトレンジを表示させるようにしてもよい。この場合、T−ECU4は、油温以外の影響によりシフトレンジの変更に必要な時間がばらつく場合においても、レンジ表示部46にシフトレンジを表示させるタイミングを一定にすることができる。
【0113】
また、以上の説明においては、本発明に係るレンジ表示装置が、トルクコンバータ20を備える車両に適用される場合について説明した。しかしながら、本発明に係るレンジ表示装置は、エンジンから変速機構部に伝達される動力を遮断するためのクラッチ機構を備える車両に適用されてもよい。この場合、T−ECU4は、図10に示すフローチャートと同様の動作を実行するとともに、クラッチ機構が動力の遮断状態に移行した場合には、シフト表示装置におけるシフトレンジの表示を消灯するようにする。このような構成を有することにより、レンジ表示装置は、変速機構部における動力の伝達状態をより正確に表示することができる。
【0114】
また、以上の説明においては、シフトレバー装置45が要求レンジ検出手段の一部を構成する場合について説明したが、これに限定されず、要求レンジ検出手段は、ハンドルに設置されるモーメンタリスイッチ等により構成されていてもよい。
【0115】
以上説明したように、本発明に係るレンジ表示装置は、シフトレンジの表示にかかる時間のばらつきを防止して、運転者に違和感を生じさせることを防止することができるという効果を奏するものであり、自動変速機を搭載した車両に適用されるレンジ判定装置に有用である。
【符号の説明】
【0116】
1 エンジン(駆動源)
2 自動変速機
2a ケース
3 エンジン制御装置
4 トランスミッション制御装置(レンジ表示装置、要求レンジ検出手段、油圧制御手段、油圧検出手段、ロック状態検出手段、油温検出手段、記憶手段、現在レンジ判定手段、レンジ表示手段)
5 燃料噴射弁
9 入力軸
10 出力軸
20 トルクコンバータ
21 ポンプインペラ
22 タービンランナ
23 ステータ
24 ワンウェイクラッチ
26 ロックアップクラッチ
30 変速機構部
31 フロントプラネタリ
32 リアプラネタリ
40 油圧制御装置(油圧制御手段)
45 シフトレバー装置(要求レンジ検出手段)
46 レンジ表示部(レンジ表示手段)
47 シフトレバー
48 パーキングボタン
51 CPU
52 ROM
53 RAM
55 入力インターフェース
56 出力インターフェース
60 オイルポンプ
81〜84 油圧センサ(油圧検出手段)
91 エンジン回転速度センサ
92 入力軸回転数センサ
93 出力軸回転数センサ
96 パーキングセンサ(ロック状態検出手段)
97 油温センサ(油温検出手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源の出力トルクを伝達する遊星歯車を有する歯車変速機構と、係合状態と解放状態との間で作動状態が切り替えられる複数の摩擦係合要素と、駆動輪と接続される出力軸を固定するロック状態と前記出力軸を解放するアンロック状態との間で作動状態が切り替えられるパーキングロック機構とを備え、前記複数の摩擦係合要素の作動状態によって前記歯車変速機構のトルク伝達経路が切り替えられて変速が実現される自動変速機に用いられるとともに、前記複数の摩擦係合要素および前記パーキングロック機構の作動状態に基づいてシフトレンジの判定を行い、判定されたシフトレンジを現在のシフトレンジとして表示するレンジ表示装置において、
シフトレンジの変更要求が表す要求シフトレンジを検出する要求レンジ検出手段と、
前記要求シフトレンジに応じて前記複数の摩擦係合要素および前記パーキングロック機構の作動状態が切り替わるよう前記複数の摩擦係合要素および前記パーキングロック機構に供給される作動油の油圧を制御する油圧制御手段と、
前記複数の摩擦係合要素に供給される作動油の油圧を検出する油圧検出手段と、
前記パーキングロック機構の作動状態を検出するロック状態検出手段と、
前記複数の摩擦係合要素および前記パーキングロック機構の各作動状態の組み合わせにより表される作動パターンを、シフトレンジと対応付けて予め記憶する記憶手段と、
前記油圧検出手段および前記ロック状態検出手段の検出結果が表す前記複数の摩擦係合要素および前記パーキングロック機構の作動パターンと、前記記憶手段に記憶された作動パターンとの比較に基づいて、現在のシフトレンジの判定を行う現在レンジ判定手段と、
前記現在レンジ判定手段により判定された現在のシフトレンジを表示するレンジ表示手段と、を備え、
前記レンジ表示手段は、要求シフトレンジが前記要求レンジ検出手段により検出された場合には、前記現在レンジ判定手段により現在のシフトレンジが判定されるまで前記要求シフトレンジを表示することを特徴とするレンジ表示装置。
【請求項2】
前記作動油の油温を検出する油温検出手段を備え、
前記レンジ表示手段は、要求シフトレンジが前記要求レンジ検出手段により検出され、かつ、前記油温検出手段により検出された前記作動油の油温が所定値以下である場合には、前記現在レンジ判定手段により現在のシフトレンジが判定されるまで前記要求シフトレンジを表示することを特徴とする請求項1に記載のレンジ表示装置。
【請求項3】
前記レンジ表示手段は、前記油温検出手段により検出された前記作動油の油温が所定値より高い場合には、前記要求シフトレンジを表示せずに前記現在レンジ判定手段により判定された現在のシフトレンジを表示することを特徴とする請求項2に記載のレンジ表示装置。
【請求項4】
前記レンジ表示手段は、要求シフトレンジが前記要求レンジ検出手段により検出されてから所定の時間が経過したにもかかわらず、前記現在レンジ判定手段により現在のシフトレンジが判定されない場合には、前記要求シフトレンジの表示を消灯することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1の請求項に記載のレンジ表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−209928(P2010−209928A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−53488(P2009−53488)
【出願日】平成21年3月6日(2009.3.6)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】