説明

レンズフィルムの製造方法

【課題】外観及び柔軟性に優れる樹脂製のレンズフィルムを、押出成形により製造する。
【解決手段】メタクリル樹脂20〜95重量部及びアクリルゴム粒子5〜80重量部を含有する樹脂組成物を溶融させてフィルム状に押し出し、該フィルム状物を賦型ロールとタッチロールとの間に挟み込んで成形することにより、厚さ50〜500μmのレンズフィルムを製造する。メタクリル樹脂は、メタクリル酸アルキルを50〜100重量%、アクリル酸アルキルを0〜50重量%、及びこれら以外の単量体を0〜49重量%の割合で重合させてなる重合体であるのがよく、アクリルゴム粒子は、アクリル酸アルキルを50〜99.9重量%、これ以外の単官能単量体を0〜49.9重量%、及び多官能単量体を0.1〜10重量%の割合で重合させてなる弾性重合体を含有する粒子であるのがよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、押出成形により樹脂製のレンズフィルムを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂製のレンズシートは、液晶表示装置のバックライトや透過型表示装置のスクリーンの部材として有用であり、特に近年、表示装置の薄型化に対応すべく、また表示装置の高画質化に伴うレンズのファインピッチ化に対応すべく、厚さ50〜500μm程度のレンズフィルムの需要が高まっている。かかるレンズフィルムの製造は、生産性やコストの点から押出成形により行うのが有利であり、例えば、特開平9−304606号公報(特許文献1)には、ポリカーボネート樹脂及び架橋アクリル樹脂を含有する樹脂組成物をフィルム状に溶融押出し、鋸歯形状が刻設されたニップロール間に挿入して成形することにより、プリズムレンズフィルムを製造することが開示されている。また、特開2004−287418号公報(特許文献2)には、熱可塑性樹脂を溶融押出し、賦型ロールとタッチロールとの間に挿入して成形することにより、レンチキュラーレンズフィルムを製造することが開示されており、その際、熱可塑性樹脂として、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、MS樹脂、AS樹脂、ABS樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、熱可塑性エラストマー、これらの共重合体などが用いられることが記載されている。
【0003】
【特許文献1】特開平9−304606号公報
【特許文献2】特開2004−287418号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の方法では、レンズフィルムが賦型ロールから離型する際、表面に剥がれ模様(タックマーク)が発生し易く、外観上の問題が生じたり、得られるレンズフィルムが柔軟性に乏しく、割れ易いという問題が生じたりすることがある。そこで、本発明の目的は、外観及び柔軟性に優れる樹脂製のレンズフィルムを、押出成形により製造しうる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は鋭意研究を行った結果、樹脂材料として所定の組成を有するアクリル系の樹脂組成物を採用することにより、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、メタクリル樹脂20〜95重量部及びアクリルゴム粒子5〜80重量部を含有する樹脂組成物を溶融させてフィルム状に押し出し、該フィルム状物を賦型ロールとタッチロールとの間に挿入して成形することにより、厚さ50〜500μmのレンズフィルムを製造する方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、外観及び柔軟性に優れる樹脂製のレンズフィルムを、押出成形により製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明について詳細に説明する。本発明では、レンズフィルムを押出成形により製造するための樹脂材料として、メタクリル樹脂とアクリルゴム粒子を所定の割合で含有するアクリル系の樹脂組成物を用いる。
【0008】
この樹脂組成物の必須成分の1つであるメタクリル樹脂は、メタクリル酸エステルを主体とする重合体であり、メタクリル酸エステルの単独重合体であってもよいし、メタクリル酸エステル50重量%以上とこれ以外の単量体50重量%以下との共重合体であってもよい。ここで、メタクリル酸エステルとしては、通常、メタクリル酸のアルキルエステルが用いられる。
【0009】
メタクリル樹脂の好ましい単量体組成は、全単量体を基準として、メタクリル酸アルキルが50〜100重量%、アクリル酸アルキルが0〜50重量%、これら以外の単量体が0〜49重量%であり、より好ましくは、メタクリル酸アルキルが50〜99.9重量%、アクリル酸アルキルが0.1〜50重量%、これら以外の単量体が0〜49重量%である。
【0010】
ここで、メタクリル酸アルキルの例としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシルなどが挙げられ、そのアルキル基の炭素数は通常1〜8、好ましくは1〜4である。中でもメタクリル酸メチルが好ましく用いられる。
【0011】
また、アクリル酸アルキルの例としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシルなどが挙げられ、そのアルキル基の炭素数は通常1〜8である。
【0012】
また、メタクリル酸アルキル及びアクリル酸アルキル以外の単量体は、単官能単量体、すなわち分子内に重合性の炭素−炭素二重結合を1個有する化合物であってもよいし、多官能単量体、すなわち分子内に重合性の炭素−炭素二重結合を少なくとも2個有する化合物であってもよいが、単官能単量体が好ましく用いられる。そして、この単官能単量体の例としては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエンの如き芳香族アルケニル化合物、アクリロニトリル、メタクリロニトリルの如きアルケニルシアン化合物などが挙げられる。また、多官能単量体の例としては、エチレングリコールジメタクリレート、ブタンジオールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレートの如き多価アルコールのポリ不飽和カルボン酸エステル、アクリル酸アリル、メタクリル酸アリル、ケイ皮酸アリルの如き不飽和カルボン酸のアルケニルエステル、フタル酸ジアリル、マレイン酸ジアリル、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレートの如き多塩基酸のポリアルケニルエステル、ジビニルベンゼンの如き芳香族ポリアルケニル化合物などが挙げられる。
【0013】
なお、上記のメタクリル酸アルキル、アクリル酸アルキル、及びこれら以外の単量体は、それぞれ、必要に応じてそれらの2種以上を用いてもよい。
【0014】
メタクリル樹脂は、そのガラス転移温度が40℃以上であるのが好ましく、60℃以上であるのがより好ましい。このガラス転移温度があまり低いと、得られるレンズフィルムの耐熱性が低くなり、実用上、好ましくない。このガラス転移温度は、単量体の種類やその割合を調整することにより、適宜設定できる。
【0015】
メタクリル樹脂は、先に述べた単量体成分を、通常の懸濁重合、乳化重合、塊状重合などの方法により重合させることにより、製造することができる。また、好適なガラス転移温度を得るため、又は好適なレンズフィルムへの成形性を示す粘度を得るために、重合時に連鎖移動剤を使用することが好ましい。連鎖移動剤の量は、単量体の種類やその割合などにより、適宜決定すればよい。
【0016】
前記樹脂組成物のもう1つの必須成分であるアクリルゴム粒子は、ゴム成分としてアクリル酸エステルを主体とする弾性重合体を含有する粒子であり、この弾性重合体のみからなる単層構造の粒子であってもよいし、この弾性重合体の層を有する多層構造の粒子であってもよい。また、この弾性重合体は、アクリル酸エステルの単独重合体であってもよいし、アクリル酸エステル50重量%以上とこれ以外の単量体50重量%以下との共重合体であってもよい。ここで、アクリル酸エステルとしては、通常、アクリル酸のアルキルエステルが用いられる。
【0017】
アクリル酸エステルを主体とする弾性重合体の好ましい単量体組成は、全単量体を基準として、アクリル酸アルキルが50〜99.9重量%、これ以外の単官能単量体が0〜49.9重量%、多官能単量体が0.1〜10重量%である。
【0018】
ここで、アクリル酸アルキルの例は、先にメタクリル樹脂の単量体成分として挙げたアクリル酸アルキルの例と同様であり、そのアルキル基の炭素数は通常1〜8、好ましくは4〜8である。
【0019】
また、アクリル酸アルキル以外の単官能単量体は、メタクリル酸アルキルその他の単官能単量体であることができ、その例は、先にメタクリル樹脂の単量体成分として挙げたメタクリル酸アルキルの例や、メタクリル酸アルキル及びアクリル酸アルキル以外の単官能単量体の例と同様である。
【0020】
また、多官能単量体の例は、先にメタクリル樹脂の単量体成分として挙げた多官能単量体の例と同様であり、中でも、不飽和カルボン酸のアルケニルエステルや、多塩基酸のポリアルケニルエステルが好ましく用いられる。
【0021】
なお、上記のアクリル酸アルキル、これ以外の単官能単量体、及び多官能単量体は、それぞれ、必要に応じてそれらの2種以上を用いてもよい。
【0022】
アクリルゴム粒子として多層構造のものを使用する場合、その好適な例としては、アクリル酸エステルを主体とする弾性重合体の層の外側に、メタクリル酸エステルを主体とする重合体の層を有するもの、すなわち、アクリル酸エステルを主体とする弾性重合体の層を内層とし、メタクリル酸エステルを主体とする重合体の層を外層とする、少なくとも2層構造のものを挙げることができる。ここで、外層の重合体の単量体成分であるメタクリル酸エステルとしては、通常、メタクリル酸アルキルが用いられる。また、外層の重合体は、内層の弾性重合体100重量部に対し、通常10〜400重量部、好ましくは20〜200重量部の割合で形成するのがよい。外層の重合体を、内層の弾性重合体100重量部に対し10重量部以上とすることで、該弾性重合体の凝集が生じ難くなり、透明性が良好となる。
【0023】
上記外層の重合体の好ましい単量体組成は、全単量体を基準として、メタクリル酸アルキルが50〜100重量%、アクリル酸アルキルが0〜50重量%、これら以外の単量体0〜49重量%である。
【0024】
ここで、メタクリル酸アルキルの例は、先にメタクリル樹脂の単量体成分として挙げたメタクリル酸アルキルの例と同様であり、そのアルキル基の炭素数は通常1〜8、好ましくは1〜4である。中でもメタクリル酸メチルが好ましく用いられる。
【0025】
また、アクリル酸アルキルの例は、先にメタクリル樹脂の単量体成分として挙げたアクリル酸アルキルの例と同様であり、そのアルキル基の炭素数は通常1〜8である。
【0026】
また、メタクリル酸アルキル及びアクリル酸アルキル以外の単量体は、単官能単量体であってもよいし、多官能単量体であってもよいが、単官能単量体が好ましく用いられる。そして、この単官能単量体の例は、先にメタクリル樹脂の単量体成分として挙げたメタクリル酸アルキル及びアクリル酸アルキル以外の単官能単量体の例と同様であり、また、多官能単量体の例は、先にメタクリル樹脂の単量体成分として挙げた多官能単量体の例と同様である。
【0027】
なお、上記のメタクリル酸アルキル、アクリル酸アルキル、及びこれら以外の単量体は、それぞれ、必要に応じてそれらの2種以上を用いてもよい。
【0028】
また、多層構造のアクリルゴム粒子の好適な例として、上記2層構造の内層であるアクリル酸エステルを主体とする弾性重合体の層の内側に、さらにメタクリル酸エステルを主体とする重合体の層を有するもの、すなわち、このメタクリル酸エステルを主体とする重合体の層を内層とし、アクリル酸エステルを主体とする弾性重合体の層を中間層とし、先のメタクリル酸エステルを主体とする重合体の層を外層とする、少なくとも3層構造のものを挙げることもできる。ここで、内層の重合体の単量体成分であるメタクリル酸エステルとしては、通常、メタクリル酸アルキルが用いられる。また、内層の重合体は、中間層の弾性重合体100重量部に対し、通常10〜400重量部、好ましくは20〜200重量部の割合で形成するのがよい。
【0029】
上記内層の重合体の好ましい単量体組成は、全単量体を基準として、メタクリル酸アルキルが70〜100重量%、これ以外の単量体が0〜30重量%である。
【0030】
ここで、メタクリル酸アルキルの例は、先にメタクリル樹脂の単量体成分として挙げたメタクリル酸アルキルの例と同様であり、そのアルキル基の炭素数は通常1〜8、好ましくは1〜4である。中でもメタクリル酸メチルが好ましく用いられる。
【0031】
また、メタクリル酸アルキル以外の単量体は、アクリル酸アルキルその他の単官能単量体であってもよいし、多官能単量体であってもよい。そして、この単官能単量体の例は、先にメタクリル樹脂の単量体成分として挙げたアクリル酸アルキルの例や、メタクリル酸アルキル及びアクリル酸アルキル以外の単官能単量体の例と同様であり、また、多官能単量体の例は、先にメタクリル樹脂の単量体成分として挙げた多官能単量体の例と同様である。
【0032】
なお、上記のメタクリル酸アルキル、及びこれら以外の単量体は、それぞれ、必要に応じてそれらの2種以上を用いてもよい。
【0033】
このような3層構造のアクリルゴム粒子は、例えば、特公昭55−27576号公報(米国特許第3793402号明細書)に開示されている。特に、同公報の実施例3に記載のものは、好ましい組成の一つである。
【0034】
アクリルゴム粒子は、先に述べたアクリル酸エステルを主体とする弾性重合体の単量体成分を、乳化重合法などにより、少なくとも1段の反応で重合させることにより、製造することができる。その際、先に述べた如く、上記弾性重合体の層の外側に、メタクリル酸エステルを主体とする重合体の層を形成する場合は、この外層の重合体の単量体成分を、上記弾性重合体の存在下に、乳化重合法などにより、少なくとも1段の反応で重合させることにより、上記弾性重合体にグラフトさせればよい。また、先に述べた如く、上記弾性重合体の層の内側に、さらにメタクリル酸エステルを主体とする重合体の層を形成する場合は、まず、この内層の重合体の単量体成分を、乳化重合法などにより、少なくとも1段の反応で重合させ、次いで、得られる重合体の存在下に、上記弾性重合体の単量体成分を、乳化重合法などにより、少なくとも1段の反応で重合させることにより、上記内層の重合体にグラフトさせ、さらに、得られる弾性重合体の存在下に、上記外層の重合体の単量体成分を、乳化重合法などにより、少なくとも1段の反応で重合させることにより、上記弾性重合体にグラフトさせればよい。なお、各層の重合を、それぞれ2段以上で行う場合、いずれも、各段の単量体組成ではなく、全体としての単量体組成が前記範囲内にあればよい。
【0035】
アクリルゴム粒子の粒径については、該ゴム粒子中のアクリル酸エステルを主体とする弾性重合体の層の平均粒子径が、0.05〜0.4μmであるのが好ましく、より好ましくは0.06〜0.3μm、さらに好ましくは0.1〜0.25μmである。この平均粒子径があまり大きいと、得られるレンズフィルムの透明性が低下するため、好ましくない。また、この平均粒子径があまり小さいと、得られるレンズフィルムの耐衝撃性が低下して脆くなり、生産性も低下するため、好ましくない。
【0036】
なお、上記平均粒子径は、アクリルゴム粒子をメタクリル樹脂と混合してフィルム化し、その断面において酸化ルテニウムによる上記弾性重合体の層の染色を施し、電子顕微鏡で観察して、染色された部分の直径から求めることができる。すなわち、アクリルゴム粒子をメタクリル樹脂に混合し、その断面を酸化ルテニウムで染色すると、母相のメタクリル樹脂は染色されず、上記弾性重合体の層の外側にメタクリル酸エステルを主体とする重合体が存在する場合は、この外層重合体も染色されず、上記弾性重合体の層のみが染色されるので、こうして染色され、電子顕微鏡でほぼ円形状に観察される部分の直径から、粒子径を求めることができる。上記弾性重合体の層の内側にメタクリル酸エステルを主体とする重合体が存在する場合は、この内層重合体も染色されず、その外側の上記弾性重合体の層が染色された2層構造の状態で観察されることになるが、この場合は、2層構造の外側、すなわち上記弾性重合体の層の外径で考えればよい。
【0037】
メタクリル樹脂とアクリルゴム粒子との配合割合は、両者の合計100重量部を基準に、メタクリル樹脂が20〜95重量部であり、アクリルゴム粒子が5〜80重量部である。メタクリル樹脂の割合があまり小さく、アクリルゴム粒子の割合があまり大きいと、得られるレンズフィルムの外観が悪くなる。一方、メタクリル樹脂の割合があまり大きく、アクリルゴム粒子の割合があまり小さいと、上記同様、得られるレンズフィルムの外観が悪くなるうえ、柔軟性が低下する。
【0038】
また、アクリルゴム粒子中のアクリル酸エステルを主体とする弾性重合体の量は、メタクリル樹脂及びアクリルゴム粒子の合計100重量部を基準に、5〜35重量部であることが好ましく、10〜25重量部であることがより好ましい。メタクリル樹脂及びアクリルゴム粒子の合計100重量部あたり上記弾性重合体の量が5重量部以上となるようにすれば、レンズフィルムが脆くなることなく、製膜性を向上させることができる。一方、メタクリル樹脂及びアクリルゴム粒子の合計100重量部あたり上記弾性重合体の量が35重量部以下となるようにすれば、レンズフィルムの透明性や表面硬度を向上させることができる。
【0039】
本発明では、押出成形用の樹脂材料として、以上説明したメタクリル樹脂及びアクリルゴム粒子を含有する樹脂組成物を用いるが、この樹脂組成物は、必要に応じて他の成分、例えば、紫外線吸収剤、有機系染料、無機系染料、顔料、酸化防止剤、帯電防止剤、界面活性剤などの通常の添加剤を含有してもよい。また、この樹脂組成物は、流動性を表す指標であるメルトフローレート(MFR)が、220℃において、0.5〜5であるのが好ましく、より好ましくは0.6〜3.5である。このメルトフローレートがあまり低いと、レンズフィルムの製膜が困難となる。一方、このメルトフローレートがあまり高いと、賦型ロールとタッチロールとの間にできる樹脂溜まり(バンク)の安定性が悪くなり、レンズ形状の賦形状態が不均一化し易い。
【0040】
レンズフィルムの製造は、上記樹脂組成物を押出機内で溶融させて、T型ダイスなどを通してフィルム状に押し出し、このフィルム状物を回転する賦型ロールとタッチロールとの間に挿入して、両ロールで挟み込んで賦型成形することにより行われる。
【0041】
賦型ロールは、上記フィルム状物に所望のレンズ形状を付与するためのロールであり、表面にレンズ型、すなわちレンズ形状の逆形状を有している。賦型ロールとしては、通常、金属ロールが用いられ、表面に銅メッキなどのメッキ処理が施されたものが好ましい。また、賦型ロールの形状については、一般的なストレートロールやクラウニングロールなどを採用できる。
【0042】
タッチロールは、上記フィルム状物を賦型ロールに押し付けるためのロールであり、表面は通常、平滑面(鏡面)であるが、必要に応じてレンズ型などの形状付与機能を有していてもよい。表面が平滑なタッチロールを用いれば、片面レンズフィルムを製造でき、表面にレンズ型を有するタッチロールを用いれば、両面レンズフィルムを製造できる。タッチロールとしては、通常、ゴムロールや金属ロールが用いられるが、金属ロールが好ましい。また、タッチロールの形状については、賦型ロール同様、一般的なストレートロールやクラウニングロールなどを採用できる。
【0043】
上記フィルム状物が両ロール間に挿入される際、該フィルム状物にかかる線圧は、賦型性の点から、200kN/cm以上であるのが好ましく、220〜350kN/cmであるのがより好ましい。このように線圧をかけるためにタッチロールを押さえつける機構としては、油圧シリンダーやモーターなどが採用できる。
【0044】
また、成形の際、賦型ロールの温度は、樹脂組成物のガラス転移温度をTg(℃)と表したとき、Tg−30(℃)より高くするのが好ましく、また、Tgより低くするのが好ましい。すなわち、賦型ロールの温度をTr(℃)と表したとき、Tg−30<Tr<Tg、したがって、0<Tg−Tr<30となるのが好ましい。賦型ロールの温度があまり低いと、レンズ形状が完全に賦型される前に、樹脂組成物が固化し易くなるため、賦型性ないしその均一性が低下し易くなる。一方、賦型ロールの温度があまり高いと、レンズフィルムが賦型ロールから離型する際、表面に剥がれ模様(タックマーク)が発生し易くなる。なお、タッチロールの温度は、賦型ロールの温度より若干低めにするのが好ましい。ロール温度は、ロールとしてその内部に熱媒を通すことができるものを用い、この熱媒の温度を調節することにより、調整できる。
【0045】
こうして得られるレンズフィルムは、その厚さが50〜500μmであり、好ましくは50〜300μm、さらに好ましくは100〜200μmである。あまり厚いレンズフィルムは、表示装置の薄型化の嗜好性に沿わず、また、剛性が大きくなるため、ハンドリング性や二次加工性が低下して、取り扱い難くなり、さらに、単位面積あたりの単価が増大するため、経済的にも不利となる。一方、あまり薄いレンズフィルムは、押出成形によるレンズ形状の付与が、機械的制約により困難になる。レンズフィルムの厚さは、製膜速度、T型ダイスの吐出口厚み、ロールの間隙などを調節することにより、調整できる。なお、ここでいうレンズフィルムの厚さとは、最大厚さであり、片面レンズフィルムであれば、レンズ面の凸部頂点に接する面から反対の面までの距離であり、両面レンズフィルムであれば、一方のレンズ面の凸部頂点に接する面から反対のレンズ面の凸部頂点に接する面までの距離である。また、前記フィルム状物の厚さは、所望のレンズフィルムの厚さの2〜10倍程度となるように、T型ダイスの吐出口厚みなどを調整するのがよい。
【0046】
レンズフィルムに形成されるレンズ形状としては、例えば、プリズムレンズ、レンチキュラーレンズ、フレネルレンズなどが挙げられるが、本発明の方法は、特に、プリズムレンズの形状を有するフィルムの製造に、好適に用いられる。この場合、レンズ形状のピッチは200μm以下とし、高さは100μm以下とするのが、近年の表示装置の高画質化に伴い要求されるレンズのファインピッチ化の点から、好ましい。
【実施例】
【0047】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、例中、含有量ないし使用量を表す%及び部は、特記ないかぎり重量基準である。
【0048】
メタクリル樹脂として、メタクリル酸メチル97.8%とアクリル酸メチル2.2%とからなる単量体のバルク重合により得られた、ガラス転移温度104℃の熱可塑性重合体のペレットを用いた。なお、このガラス転移温度は、JIS K 7121に従って、示差走査熱量測定(DSC)により加熱速度10℃/分で求めた補外ガラス転移開始温度であり、後述の樹脂組成物のガラス転移温度も同様である。
【0049】
アクリルゴム粒子(A)として、最内層がメタクリル酸メチル93.8%とアクリル酸メチル6%とメタクリル酸アリル0.2%とからなる単量体の重合により得られた硬質重合体であり、中間層がアクリル酸ブチル81%とスチレン17%とメタクリル酸アリル2%とからなる単量体の重合により得られた弾性重合体であり、最外層がメタクリル酸メチル94%とアクリル酸メチル6%とからなる単量体の重合により得られた硬質重合体であり、最内層/中間層/最外層の重量割合が35/45/20であり、中間層の弾性重合体の層の平均粒子径が0.22μmである、乳化重合法による球形3層構造のゴム粒子を用いた。
【0050】
アクリルゴム粒子(B)として、上記アクリルゴム粒子(A)と基本的に同じ組成であるが、重合条件を変えることにより、中間層の弾性重合体の層の平均粒子径が0.14μmとなった球形3層構造のゴム粒子を用いた。
【0051】
なお、アクリルゴム粒子(A)及び(B)における中間層の弾性重合体の層の平均粒子径は、以下の方法で測定した。
【0052】
〔弾性重合体の層の平均粒子径の測定〕
アクリルゴム粒子を上記のメタクリル樹脂と混合してフィルム化し、得られたフィルムを適当な大きさに切り出し、切片を0.5%四酸化ルテニウム水溶液に室温で15時間浸漬し、該ゴム粒子中の弾性重合体の層を染色した。さらに、ミクロトームを用いて約80nmの厚さにサンプルを切断した後、透過型電子顕微鏡で写真撮影を行った。この写真から無作為に100個の染色された弾性重合体の層を選択し、その各々の粒子径を算出した後、その数平均値を平均粒子径とした。
【0053】
実施例1〜4、比較例1、2
【0054】
上記のメタクリル樹脂ペレットと、アクリルゴム粒子(A)又は(B)とを、表1に示す割合でスーパーミキサーで混合し、二軸押出機にて溶融混錬して樹脂組成物のペレットとした。この樹脂組成物のガラス転移温度Tgを表1に示す。次いでこのペレットを、東芝機械(株)製の65mmφ一軸押出機で溶融し、設定温度275℃のT型ダイスを介して押し出し、得られるフィルム状物を、表面にピッチ100μm、高さ50μm(頂点角90°)のプリズムレンズ型を有する金属製の賦型ロールと、表面が平滑な金属製のタッチロールとの間に挟み込んで成形した。その際、賦型ロールの温度Trは表1に示す温度に設定し、フィルム状物にかかる線圧は330kN/cmとした。上記樹脂組成物のガラス転移温度Tgとこの賦型ロールの温度Trとの差(Tg−Tr)を表1に示した。こうして、厚さ0.175mmのプリズムレンズフィルムを製造し、以下の評価を行い、結果を表1に示した。
【0055】
〔柔軟性試験〕
JIS K 5400−1990「塗料一般試験方法」の「8.塗膜の抵抗性に関する試験方法」、「8.1 耐屈曲性」に従って、レンズフィルムの耐屈曲性を評価し、試験片が破断せず、柔軟性が良好であるものを○、試験片が破断し、柔軟性に欠けるものを×とした。
【0056】
〔外観〕
目視によりレンズフィルムの表面状態を確認し、タックマークが全く見られないものを○、タックマークが見られるものを×とした。
【0057】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタクリル樹脂20〜95重量部及びアクリルゴム粒子5〜80重量部を含有する樹脂組成物を溶融させてフィルム状に押し出し、該フィルム状物を賦型ロールとタッチロールとの間に挿入して成形することを特徴とする、厚さ50〜500μmのレンズフィルムの製造方法。
【請求項2】
メタクリル樹脂が、メタクリル酸アルキルを50〜100重量%、アクリル酸アルキルを0〜50重量%、及びこれら以外の単量体を0〜49重量%の割合で重合させてなる重合体である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
アクリルゴム粒子が、アクリル酸アルキルを50〜99.9重量%、これ以外の単官能単量体を0〜49.9重量%、及び多官能単量体を0.1〜10重量%の割合で重合させてなる弾性重合体を含有する粒子である請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
アクリルゴム粒子が、前記弾性重合体の層の外側に、メタクリル酸アルキルを50〜100重量%、アクリル酸アルキルを0〜50重量%、及びこれら以外の単量体を0〜49重量%の割合で重合させてなる重合体の層を有する多層構造の粒子である請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
アクリルゴム粒子が、前記弾性共重合体の層の内側に、メタクリル酸アルキルを70〜100重量%、及びこれ以外の単量体を0〜30重量%の割合で重合させてなる重合体の層を有する多層構造の粒子である請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
賦型ロールとタッチロールとの間に挿入された前記フィルム状物にかかる線圧が、200kN/cm以上である請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
前記樹脂組成物のガラス転移温度をTg(℃)と表したとき、賦型ロールの温度が、Tg−30(℃)より高く、Tg(℃)より低い温度である請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
レンズフィルムが、プリズムレンズフィルムである請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法。

【公開番号】特開2007−276462(P2007−276462A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−63000(P2007−63000)
【出願日】平成19年3月13日(2007.3.13)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】