説明

レーザー光源装置、画像表示装置及びモニター装置

【課題】高出力化を実現するレーザー光源装置を提供する。
【解決手段】本発明のレーザー光源装置は、基台11と、発光部22を有する第1発光素子(第1半導体レーザー素子12)と、発光部23を有する第2発光素子(第2半導体レーザー素子13)と、第1発光素子と第2発光素子との間の光路上に配置され、各発光素子から射出された基本波長のレーザー光の少なくとも一部を所定の変換波長のレーザー光に変換する波長変換素子16と、基台11に支持され、波長変換素子16を保持する保持部材26とを備え、第1発光素子及び第2発光素子は、互いに一方の発光素子の発光部から射出されたレーザー光が他の発光素子の発光部に入射するように配置され、保持部材26は、基台11に対して、互いに直交する任意の2つの軸を中心とする各回転動作における回転角度が調整可能とされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー光源装置、画像表示装置及びモニター装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、プロジェクター等の光学装置用の照明光源として高圧水銀ランプが多用されてきた。しかし、高圧水銀ランプは高出力が得られる反面、色再現性に制約がある、瞬時点灯が難しい、寿命が短い等の課題がある。そこで、高圧水銀ランプに代わる高出力の光源として、レーザー光源装置の開発が進められている。
【0003】
高出力のレーザー光を得られるレーザー光源装置としては、外部共振器構造を持つレーザー光源装置が上げられる。このようなレーザー光源装置では、外部共振器の使用により特定の波長の光が強められ高出力のレーザー光が得られる。
【0004】
また、レーザー光源装置では、必要に応じて第2高調波発生素子(Second Harmonic Generator,以下、SHGと略記する)等の波長変換素子を用い、発光素子から射出されるレーザー光を、1/2の波長のレーザー光に変換する技術が用いられる。この技術を用いると、例えば赤外レーザー光などの基本波長の光を発振させた後、波長変換素子を用いることで、赤外レーザー光を1/2の波長の可視光に変換し、可視光領域のレーザー光を高出力で射出可能なレーザー光源装置を実現することができる。
【0005】
近年では、波長変換素子として非線形光学材料を用い、所望の波長のレーザー光を射出可能とする高出力半導体レーザーが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この半導体レーザーでは、発光素子、波長変換素子、出力ミラー(外部共振ミラー)を精密にアライメントして光軸を揃えることにより、発光部と外部共振ミラーとの間をレーザー光が何度も往復し、誘導放出を連続的に起こさせることにより高出力のレーザー光が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2003−526930号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1においては、光軸がわずかでもずれていると光は十分な往復ができず、レーザー発振ができない状態となってしまうが、精密なアライメント方法については提案されていない。そのため、十分なレーザー発振を生じさせる外部共振構造を確立することが非常に困難となっている。
【0008】
本発明は、上記の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであって、精密なアライメントを容易に行うことができ、高出力化を実現するレーザー光源装置、画像表示装置及びモニター装置を以下の形態として提供することが可能である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記特許文献1の構造においてアライメント精度を確保したとしても、1個の発光素子から得られるレーザー光の強度には自ずと限界がある。そこで、高出力化を進める手法として、近年、2個の発光素子を光学的に対峙させた外部共振器構造のレーザー光源装置が検討されている。2個の発光素子を用いた外部共振器構造では、共振器の両端に発光素子が配置され、2個の発光素子間でレーザー光を往復させることにより誘導放出を連続的に起こし、レーザー光を増幅させることが可能となる。また、発光素子と外部共振ミラーとを用いた場合と比べてレーザー光の増幅が大きくなることが考えられ、高出力化に好適なレーザー光源装置を実現することが期待されている。
【0010】
しかしながら、このような2個の発光素子を備えた外部共振器構造においても、十分なレーザー発振を生じさせるためには、互いの発光素子から射出されたレーザー光の中心軸を精密にアライメントする必要がある。上記のような様々な利点がある一方で、2個の発光素子を備えた共振器構造においては、微細なサイズのエミッター同士をアライメントすることが必要であり、アライメント精度を確保することは、発光素子と外部共振ミラーとをアライメントする場合と比べてより困難なものである。したがって、高出力なレーザー光を得るためには多大な労力が必要となる。
【0011】
そこで、上記のような課題を解決するため、本発明のレーザー光源装置は、基台と、レーザー光を射出する発光部を有する第1発光素子と、レーザー光を射出する発光部を有する第2発光素子と、前記第1発光素子と前記第2発光素子との間の光路上に配置され、前記第1発光素子及び前記第2発光素子から射出された基本波長のレーザー光の少なくとも一部を所定の変換波長のレーザー光に変換する波長変換素子と、前記基台に支持され、前記波長変換素子を保持する保持部材と、を備え、前記第1発光素子及び前記第2発光素子は、前記第1発光素子の発光部から射出されたレーザー光が前記第2発光素子の発光部に入射するとともに前記第2発光素子の発光部から射出されたレーザー光が前記第1発光素子の発光部に入射するように配置され、前記保持部材は、前記基台に対して、互いに直交する任意の2つの軸を中心とする各回転動作における回転角度が調整可能とされていることを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、互いに直交する任意の2つの軸を中心とする回転方向における基台に対する保持部材の回転角度を調整することで、保持部材と同時に波長変換素子の回転角度を調整し、波長変換素子の入射端面に入射するレーザー光の位置および入射角を変更することができる。すると、波長変換素子の通過前後でレーザー光の光路がシフトするため、この光路のシフトを利用して第1,第2発光素子間のアライメントを実施することができる。これにより、共振器構造を実現可能な精度の高いアライメントを行うことができる。また、波長変換素子は加わる圧力や温度が変化すると特性が変化し、変換波長が変わる虞があるが、この構成によれば、保持部材を回転させると同時に波長変換素子を回転させる構成のため、波長変換素子に直接触れる必要がない。そのため、アライメント時の波長変換素子の特性変化を抑えることができ、高出力の共振構造を構築することができる。したがって、高出力のレーザー光を射出可能なレーザー光源装置とすることができる。
【0013】
本発明において、前記保持部材は、前記波長変換素子を保持する保持部材本体と、前記保持部材本体の底部に設けられ、前記波長変換素子を載置する載置面の法線方向に沿う回転軸周りに前記保持部材本体を回転可能とし、且つ前記回転軸に沿う方向に前記保持部材本体を昇降可能とする回転軸部と、前記保持部材の、前記波長変換素子の入射端面と隣り合う側面に設けられ、前記回転軸方向と垂直な回動軸周りに前記保持部材を回動可能とする回動軸部と、を有する構成としても良い。
この構成によれば、保持部材本体に回転軸部と回動軸部とを設けるだけで、上記2つの軸を中心とする回転方向における回転角度を調整可能な構造を容易に実現することができる。
【0014】
本発明において、前記回転軸部の回転軸が前記波長変換素子の中心を通るとともに、前記回動軸部の回動軸が前記波長変換素子の中心を通る構成とすることが望ましい。
なお、本明細書において、「波長変換素子の中心」とは、波長変換素子を、例えば非線形光学結晶から切り出されるチップ状(直方体状)の素子と仮定した場合、直方体の互いに対向する面の中心同士を結ぶ直線の交点を指すものとする。もしくは、互いに対向する面が平行でなく、波長変換素子が完全に直方体状でなかったとしても、波長変換素子を中心に内包する直方体を想定し、その直方体に対して上記と同様に考えればよい。
仮に回転軸や回動軸が波長変換素子の中心を通らない構成であったとすると、各軸回りの回転方向における回転角度を順次調整する作業を行う際、一つの軸周りの回転角度を調整すべく保持部材を回転させると、他の軸周りの回転角度が変わってしまい、一つの軸ずつ追い込んで保持部材を最適位置にアライメントするのが困難である。その点、上記の構成によれば、各軸周りの回転方向における回転角度を独立して調整できるため、アライメント作業が容易になる。
【0015】
本発明において、前記回動軸部は、前記保持部材本体に凸形状または凹形状に形成され、前記回動軸部の回動軸と、凸形状の前記回動軸部の頂部、または凹形状の前記回動軸部の底部を通ることが望ましい。
この構成によれば、回動軸部の形状と回動軸の位置とが対応しているため、回動軸部を中心とした回動運動により、保持部材を回動軸まわりに良好に回動させることができ、効率的に精度良いアライメントを実現することができる。
【0016】
本発明において、前記回動軸部は、前記保持部材本体から突出して形成された断面視略円形の突起物であることが望ましい。
この構成によれば、円形の断面形状の中心を通る軸周りに保持部材を円滑に回動させることができ、精度良いアライメントを実現することができる。
【0017】
本発明において、前記回動軸部は、前記保持部材本体に形成された断面視V字状の溝部であり、前記溝部の最深部の延在方向が、前記載置面の法線方向に平行な方向と略一致していることが望ましい。
溝状の回動軸部は加工が容易であるため、所望の位置に精度良く回動軸部を形成することができ、精度良いアライメントを実現することができる。
【0018】
本発明において、前記保持部材本体は、前記保持部材本体に対する前記波長変換素子の相対位置を規定する位置決め部を備えることが望ましい。
この構成によれば、保持部材本体に位置決め部を備えているため、波長変換素子を保持部材本体に対して常に同じ位置に設置することができる。これにより、例えば波長変換素子の交換や、交換に伴う波長変換素子の再設置などを行っても、アライメントを常に精度良く行うことができる。また上記のように、回転軸や回動軸が波長変換素子の中心を通るように調整する場合、位置決め部を用いて波長変換素子を保持部材本体に位置決めをしさえすれば、自ずと回転軸や回動軸が波長変換素子の中心を通るように予め設計しておけば、波長変換素子の中心位置合わせを簡単に安定して行うことができる。
【0019】
本発明においては、前記第1発光素子及び前記第2発光素子が前記基台に支持され、前記第1発光素子と前記波長変換素子との間の光路上、及び前記第2発光素子と前記波長変換素子の間の光路上にそれぞれ配置され、前記所定の変換波長のレーザー光を前記第1発光素子または前記第2発光素子に向かう方向とは異なる方向へ射出させ、前記基本波長のレーザー光を前記第1発光素子または前記第2発光素子に向かう方向へ射出させる分離部を備えることが望ましい。
この構成によれば、第1発光素子と波長変換素子との間、第2発光素子と波長変換素子との間で分離部を介して光路を折り曲げることにより共振構造を実現することができる。この場合、第1発光素子と第2発光素子を1つの基台上に支持させることができるため、第1発光素子の光射出面と第2発光素子の光射出面とを同一平面上に合わせ込みやすく、アライメント作業が容易になる。また、双方の発光素子の冷却が必要な場合、冷却構造の簡略化が図れる。
【0020】
本発明においては、前記第1発光素子と前記第2発光素子との間の光路上に配置され、所定の波長のレーザー光を透過させる波長選択素子を備え、前記保持部材が前記波長選択素子を保持する構成であることが望ましい。
この構成によれば、波長変換素子と波長選択素子との相対位置が常に同じになるため、保持部材を動かしても互いに物理的に干渉することなく、アライメント作業の作業性を向上させることができる。
【0021】
本発明においては、前記第1発光素子と前記波長変換素子との間の光路上、または前記第2発光素子と前記波長変換素子との間の光路上の少なくとも一方に配置されに配置され、前記基本波長のレーザー光を反射させ、前記所定の変換波長のレーザー光を透過させる分離素子を備え、前記保持部材が前記分離素子を保持する構成であることが望ましい。
この構成によれば、分離素子と波長選択素子との相対位置が常に同じになるため、保持部材を動かしても互いに物理的に干渉することなく、アライメント作業の作業性を向上させることができる。
【0022】
本発明においては、前記第1発光素子及び前記第2発光素子の各々が前記発光部を複数備えることが望ましい。
この構成によれば、複数の発光部の各々から発せられるレーザー光を用い、レーザー光の高出力化を図ることができる。
【0023】
本発明の画像表示装置は、上述のレーザー光源装置と、該レーザー光源装置からの光を用い、画像信号に応じた所望の画像を表示させる画像形成装置とを備えることを特徴とする。
この構成によれば、レーザー光源装置から射出する高出力のレーザー光を用いて画像を表示することで、ダイナミックレンジが広く映像表現力に優れた画像表示装置を提供することができる。
【0024】
本発明のモニター装置は、上述のレーザー光源装置と、該レーザー光源装置から射出されたレーザー光により被写体を撮像する撮像手段とを備えることを特徴とする。
この構成によれば、高出力のレーザー光で被写体を照射し、得られた反射光に基づく画像を撮影することで、鮮明な撮像が可能なモニター装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係る第1実施形態のレーザー光源装置を示す概略構成図である。
【図2】同実施形態のレーザー光源装置を示す斜視図である。
【図3】同レーザー光源装置が備える保持部材を示す説明図である。
【図4】波長変換素子の内部を進行する光の光路を示す説明図である。
【図5】波長変換素子の回転角度に対する位相整合波長の変化を示すグラフである。
【図6】本実施形態のレーザー光源装置の製造方法を示す工程図である。
【図7】第1実施形態に係る別形態のレーザー光源装置を示す概略構成図である。
【図8】第2実施形態のレーザー光源装置が備える保持部材を示す説明図である。
【図9】本発明に係る実施形態としての画像表示装置を示す概略構成図である。
【図10】本発明の別形態の画像表示装置を示す概略構成図である。
【図11】本発明に係る実施形態としてのモニター装置を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
[第1実施形態]
以下、図1〜図7を参照しながら、本発明の第1実施形態に係るレーザー光源装置について説明する。
図1は、本実施形態に係るレーザー光源装置の概略構成図である。図2は、レーザー光源装置1の斜視図である。図3は、保持部材が備える載置台の説明図であり、図3(a)は斜視図、図3(b)は平面図、図3(c)は載置台を保持するクランパの例を示す概略図である。図4は、波長変換素子の内部を進行する光の光路を示す説明図であり、波長変換素子の平面図を示す。
なお、以下の全ての図面においては、図面を見やすくするため、各構成要素の膜厚や寸法の比率などは適宜異ならせてある。
【0027】
本実施形態のレーザー光源装置1は、図1に示すように、基台11と、第1半導体レーザー素子(第1発光素子)12と、第2半導体レーザー素子(第2発光素子)13と、第1ダイクロイックミラー(分離部)14と、第2ダイクロイックミラー(分離部)15と、波長変換素子16と、波長選択素子(Band‐Pass Filter、以下、BPFと略記する)17と、光路変換プリズム19と、保持部材26と、を備えている。ここでは、基台11の上面(第1、第2半導体レーザー素子12,13の載置面)の法線方向をZ軸とし、後述するエミッターの配列方向をY軸とし、後述する各半導体レーザー素子12,13の対応するエミッター同士を結ぶ直線の延在方向であって、基台11の上面の法線方向及びエミッター22,23の配列方向に直交する軸をX軸とし、X軸、Y軸、Z軸を互いに直交する3つの直交座標系として、以下説明を行う。
【0028】
第1,第2半導体レーザー素子12,13は、基台11の上面11aに設けられており、射出端面12a,13aが基台11の上側、すなわちZ軸方向を向くように配置されている。そのため、第1,第2半導体レーザー素子12,13から射出されたレーザー光は、いずれも基台11の上面11aの法線方向(Z軸方向)上方に向けて射出される。
【0029】
そして、第1ダイクロイックミラー14が、第1半導体レーザー素子12から射出される光の光路上に光路に対して所定の角度(例えば45°)をなすように配置されている。同様に、第2ダイクロイックミラー15が、第2半導体レーザー素子13から射出される光の光路上に光路に対して所定の角度(例えば45°)をなすように配置されている。波長変換素子16は、第1ダイクロイックミラー14と第2ダイクロイックミラー15との間に配置されている。この配置により、第1半導体レーザー素子12から射出されたレーザー光は、第1ダイクロイックミラー14を介して波長変換素子16内を透過し、さらに第2ダイクロイックミラー15を介して第2半導体レーザー素子13に入射する。第2半導体レーザー素子13から射出されたレーザー光も、第1半導体レーザー素子12からの光と逆の経路を辿り、第1半導体レーザー素子12に入射する。即ち、第1半導体レーザー素子12側から順に、第1ダイクロイックミラー14、波長変換素子16、第2ダイクロイックミラー15がレーザー光の光路上に配置されている。
【0030】
第1,第2半導体レーザー素子12,13は同一の構成であり、射出端面12a,13aから、例えば1065nmの波長の赤外レーザー光(基本波長の光)を射出する面発光型レーザーダイオードである。第1,第2半導体レーザー素子12,13の射出端面12a,13aには、図2に示すように、平面視が円形状のエミッター(発光部)22,23がそれぞれ複数形成され、複数のエミッター22,23は素子の長手方向(Y軸方向)に配置されている。また、第1半導体レーザー素子12の複数のエミッター22と第2半導体レーザー素子13の複数のエミッター23とは、1対1に対応している。第1、第2半導体レーザー素子12,13は、複数のエミッター22の配列方向と複数のエミッター23の配列方向とが略平行になるように基台11上に配置されている。
【0031】
エミッター22は、図1中の拡大図(破線で囲んだ円内の図)に示すように、DBR(Distributed Bragg Reflector)層22a上に、活性層22bが積層された構成になっている。なお、エミッター23も、エミッター22と同様、DBR層23a上に、活性層23bが積層された構成である。以上の構成により、第1半導体レーザー素子12から射出されたレーザー光は、第2半導体レーザー素子13に入射し、第2半導体レーザー素子13から射出されたレーザー光は、第1半導体レーザー素子12に入射する。すると、第1半導体レーザー素子12と第2半導体レーザー素子13との間をレーザー光が往復する間にレーザー発振が生じ、第1,第2半導体レーザー素子12,13で共振器構造を構成する。
【0032】
第1ダイクロイックミラー14は、複数のエミッター22から射出されたレーザー光が入射し、赤外レーザー光を反射させて第1、第2半導体レーザー素子12,13に向けて射出させる一方、波長変換素子16で変換された可視光を透過させて第1,第2半導体レーザー素子12,13とは異なる方向へ射出させるミラーである。同様に、第2ダイクロイックミラー15は、複数のエミッター23から射出されたレーザー光が入射し、赤外レーザー光を反射させて第1,第2半導体レーザー素子12,13に向けて射出させ、可視光を透過させて第1,第2半導体レーザー素子12,13とは異なる方向へ射出させるミラーである。具体的な構成としては、第1,第2ダイクロイックミラー14,15の反射面に誘電体多層膜が形成されており、波長1065nmの赤外光を反射させ、波長532.5nmの可視光を透過させる特性を有している。
【0033】
第1ダイクロイックミラー14は、第1半導体レーザー素子12から射出されたレーザー光が反射面に対して例えば略45°の角度で入射し、波長変換素子16に向かって反射されるように配置されている。また、第2ダイクロイックミラー15は、第2半導体レーザー素子13から射出されたレーザー光が反射面に対して例えば略45°の角度で入射し、波長変換素子16に向かって反射されるように配置されている。
【0034】
波長変換素子16は、第1ダイクロイックミラー14と第2ダイクロイックミラー15との間に配置されている。また、波長変換素子16は、複数のエミッター22から射出されたレーザー光が一つの端面(入射端面)16aに全て入射するように配置され、複数のエミッター23から射出されたレーザー光が他の端面(射出端面)16bに全て入射するように配置されている。また、波長変換素子16としては、非線形光学結晶であるPPLN(Periodically Poled Lithium Niobate)が用いられ、入射光を略半分の波長に変換し、2次高調波を発生させるSHGとして機能する。
【0035】
第1半導体レーザー素子12から射出され、第2半導体レーザー素子13に向かう光のうちの一部の光は、波長変換素子16を通過することによって、略半分の(532.5nm)の緑色のレーザー光(所定の変換波長の光)に変換される。第2半導体レーザー素子13から射出され、第1半導体レーザー素子12に向かうレーザー光も同様に、一部の光が緑色のレーザー光に変換される。
【0036】
第1ダイクロイックミラー14と波長変換素子16との間の保持部材26上には、BPF17が配置されている。このBPF17は、所定の変換波長の光のみを透過させ、発振波長のスペクトルを制限するものである。BPF17の作用により、発振中のレーザー光の波長帯域が絞られ、波長変換素子16から緑色のレーザー光が安定して出力されるようになっている。
【0037】
第2半導体レーザー素子13と第2ダイクロイックミラー15との間の光路上には、ビームポラライザー18が設けられている。このビームポラライザー18は、P偏光のみを透過させる特性を有している。なお、ここで言う「P偏光」とは、第2ダイクロイックミラー15を基準とした偏光方向である。ビームポラライザー18の特性により、第1半導体レーザー素子12と第2半導体レーザー素子13との間を往復する光は、波長変換素子16で変換可能なP偏光に制限される。
【0038】
この構成により、第1半導体レーザー素子12から射出された赤外レーザー光のうち、第1ダイクロイックミラー14で反射し、波長変換素子16を通過し、緑色のレーザー光に変換されなかった赤外レーザー光は、第2ダイクロイックミラー15で反射され、第2半導体レーザー素子13に入射する。すなわち、第1半導体レーザー素子12から射出された赤外レーザー光W1は、第1半導体レーザー素子12のDBR層22aと第2半導体レーザー素子13のDBR層23aとの間を往復して共振し、増幅される。また、第2半導体レーザー素子13から射出された赤外レーザー光W1も同様である。
【0039】
一方、第1、第2半導体レーザー素子12,13からそれぞれ射出されたレーザー光が波長変換素子16を通過することにより、少なくとも一部のレーザー光が緑色に変換される。第1半導体レーザー素子12から第2半導体レーザー素子13に向かう途中で緑色に変換されたレーザー光W2は、第2ダイクロイックミラー15を通過し、図1の右側(+X軸方向)に向けて射出される。第2半導体レーザー素子13から第1半導体レーザー素子12に向かう途中で緑色に変換されたレーザー光W2は、第1ダイクロイックミラー14を通過し、図1の左側(−X軸方向)に向けて射出される。
【0040】
光路変換プリズム19は、第2ダイクロイックミラー15を透過したレーザー光の光路上に配置されており、図示しない保持部材により基台11に固定されている。この光路変換プリズム19は、第2ダイクロイックミラー15を透過した緑色のレーザー光の光路を、第1ダイクロイックミラー14を透過した緑色のレーザー光の光路と略同一方向に変換するものである。
【0041】
本実施形態の光路変換プリズム19は、直角三角プリズムであり、第2ダイクロイックミラー15を透過したレーザー光を第1面19aで反射させた後、第1面19aと90°の角度をなす第2面19bで反射させる。このようにして、第2ダイクロイックミラー15を透過したレーザー光の光路を折り返し、第1ダイクロイックミラー14を透過したレーザー光と第2ダイクロイックミラー15を透過したレーザー光とを略平行にすることが可能となる。
【0042】
図1、図2に示すように、基台11の第1,第2半導体レーザー素子12,13の間には、波長変換素子16とBPF17とを保持する保持部材26が配置されている。保持部材26は、波長変換素子16を載置する載置台30を含む保持部材本体27を備えている。また、保持部材本体27には、保持部材本体27の下面27aから基台11に向かって突出する円柱状のピン(以下、円柱ピンと称する、回転軸部)29が固定されている。また、基台11の上面11aには、円柱ピン29に対応して円柱状に窪んだ形状の穴11bが設けられており、穴11bの内部に円柱ピン29が装入されている。
【0043】
円柱ピン29の上面および下面の輪郭をなす円の直径は、穴11bの底面の輪郭をなす円の直径よりも小さい。つまり、円柱ピン29を穴11bの内部に装入した状態において、円柱ピン29の側面と穴11bの内面との間には若干の間隙がある。この構成により、保持部材26の全体が、基台11の上面に平行な面内(XY面内)で円柱ピン29の中心軸(回転軸、図2に符号A1で示す)周りに回転可能となっている。また、穴11bに円柱ピン29を抜き差しして円柱ピン29の装入長さを調整することにより、保持部材26の全体が基台11の上面の法線方向(Z軸方向)に昇降可能となっている。保持部材26は、上述した基台11の上面に平行な面内(XY面内)での回転角度、および基台11の上面の法線方向(Z軸方向)における基台11に対する高さが最適化された状態で、図1に示すように、保持部材本体27と基台11とが接着剤等の固定材35により固定されている。
【0044】
図2、図3(a)、図3(b)に示すように、載置台30の両側面には、外側へ突出した回動ピン(回動軸部)32が形成されている。回動ピン32は、載置台30と一体に形成されている。回動ピン32は、載置台30の側面に平行な面で切断した断面形状が略円形の形状であり、本実施形態では外側にいくほど径が小さくなる円錐形である。回動ピン32の形状は、他にも例えば円柱状であっても良い。載置台30に回動ピン32が設けられたことにより、回動ピン32の中心軸(回動軸、図2に符号A2で示す)周りに回動可能となっている。
【0045】
図3(a)に示すように、載置台30には、波長変換素子16を載置させる面に窪み(位置決め部)30aが設けられている。図3(b)に示すように、窪み30aの平面形状は波長変換素子16の形状に対応した矩形状であり、窪み30aの輪郭をなす矩形の縦横寸法は、波長変換素子16を内部に収容できるだけの若干の余裕はあるものの、波長変換素子16の輪郭をなす矩形の縦横寸法と略同一である。なお、図3(b)において、波長変換素子16の輪郭を2点鎖線の仮想線で示す。したがって、波長変換素子16の側面を窪み30aの内壁に突き当てるようにして収容したときに、波長変換素子16の中心Pと、回転軸A1と回動軸A2との交点とが一致するように設計されている。また、波長変換素子16を載置台30の正規の位置に収容したとき、波長変換素子16の入射端面に対して垂直に入射するレーザー光の光路Lと、回転軸A1および回動軸A2とは垂直に交わるようになっている。
【0046】
載置台30は、図3(c)に示すクランパ40を用いて両側から回動ピン32をくわえ込むように保持した状態で、図2に示す回動軸A2周りに所定角度だけ回動させることができる。クランパ40は、対向する2つのクランプ部42と、クランプ部42を支持する本体44とを備え、2つのクランプ部42を接近、離間させる方向に移動させ、2つのクランプ部42間の距離を変化させることで回動ピン32を保持する。そして、クランパ40を矢印Y1の方向に回動させることにより、載置台30は回動軸A2周りに所定の回転角度だけ回動する。
【0047】
このような構成の保持部材26を回転軸A1周りに回転、または回動軸A2周りに回動させると、波長変換素子16は中心位置が移動することなく、入射端面に対するレーザー光の光路Lがなす角度(入射角)が変化する。また、保持部材26を回転軸A1に沿って昇降させると、保持部材26に保持された波長変換素子16も同時に基台11に対して昇降する。このようにして、波長変換素子16の位置および姿勢の制御を行うことが可能となる。本実施形態のレーザー光源装置1は、上述の機構を用いて保持部材26を回転又は回動させることにより、保持部材26が保持している波長変換素子16を回転又は回動させることができ、精密なアライメントが可能となる。
【0048】
次に、図4から図6を用いて本実施形態のレーザー光源装置1の製造方法について説明する。以下では、保持部材26を回転又は回動させることによって各半導体レーザー素子12,13のエミッター22,23同士をアライメントさせる原理について説明し、その後、レーザー光源装置1の実際の製造方法について説明する。
【0049】
波長変換素子16の屈折率をnとし、図4に示すように、波長変換素子16の短手方向(回転させない状態でのレーザー光の進行方向)の長さをLとし、波長変換素子16に入射するレーザー光の中心軸Oに垂直な面と波長変換素子16の入射端面16aまたは射出端面16bとのなす角をθとする。角度θは、入射端面16aに垂直にレーザー光が入射する状態から、波長変換素子16を矢印Y1方向に回転軸A1周りに回転させたときの波長変換素子16の回転角に相当する。
【0050】
その場合、レーザー光は波長変換素子16の入射端面16aで屈折し、波長変換素子16の内部を進行するレーザー光O2は、入射する前のレーザー光の中心軸Oに対して角度θ1だけ進行方向を変える。言い換えると、波長変換素子16の内部を進行するレーザー光O2の光路の、入射端面16aの法線Sに対する角度はθ−θ1となる。このとき、角度θ1は、スネルの式より求めることができ、次の式(1)で表される。
【0051】
【数1】

【0052】
そして、波長変換素子16の内部を進行するレーザー光の光路長をL1とすると、光路長L1は次の式(2)で表される。
【0053】
【数2】

【0054】
そして、レーザー光が波長変換素子16から射出される際に射出端面16bで屈折するため、波長変換素子16から射出された後のレーザー光の中心軸O1は、波長変換素子16に入射する前のレーザー光の中心軸Oと平行になるとともに、Y軸方向にシフトする。波長変換素子16から射出されたレーザー光の中心軸O1と中心軸Oとのずれ量をWとすると、ずれ量Wは次の式(3)で表される。
【0055】
【数3】

【0056】
したがって、波長変換素子16の回転角θを適宜調整すれば、上記(1)、(2)、(3)式で決まるずれ量Wだけ、レーザー光の中心軸をY軸方向にシフトさせることができる。これにより、第1,第2半導体レーザー素子12,13のエミッター22,23のY軸方向(エミッター22,23の配列方向)の位置ずれを補正することができる。
【0057】
以下、説明を省略するが、同様の原理により、図2に示す回動軸A2周りに波長変換素子16を回動させることで、レーザー光の中心軸をX軸方向にシフトさせることができる。これにより、第1,第2半導体レーザー素子12,13のエミッター22,23のX軸方向(半導体レーザー素子12,13の対応するエミッター22,23同士を結ぶ直線方向)の位置ずれを補正することができる。
【0058】
図5は、波長変換素子16の屈折率nを2.15、図4で示す長さLを5mmとした場合の、波長変換素子16の回転角度に対する位相整合波長の変化を示すグラフである。図5の横軸は回転角度[°]、左側の縦軸は位相整合波長[μm]、右側の縦軸は回転角度0度のときを基準とした位相整合波長の変化量[μm]、である。図5中、符号G1で示すグラフは位相整合波長、符号G2で示すグラフは位相整合波長の変化量を示す。
【0059】
図5に示すように、波長変換素子16を回転させると、回転させない(θ=0°)の場合に対して位相整合波長が変化する。しかしながら、その変化量は僅かであり、回転角度が7°のとき、変化量はたかだか0.0005μm程度である。したがって、波長変換素子16を回転させて第1,第2半導体レーザー素子12,13のエミッター22,23の位置ずれを補正する際に必要な回転角度の範囲をある程度見積もっておけばよい。そして、その回転角度の範囲内で位相整合波長が変化したとしても位相整合が可能な程度にレーザー光の波長を設定しておけば、レーザー光を充分な変換効率で射出させることができる。
【0060】
次に、図6を参照しながら、本実施形態のレーザー光源装置1の実際の製造方法について説明する。以下では、特にアライメント方法について説明する。説明する方法および手順は一例であり、これに限るものではない。
【0061】
図6(a)に示すように、第1,第2半導体レーザー素子12,13のそれぞれのエミッター22,23からレーザー光を射出させ、一方の半導体レーザー素子のエミッターが発したレーザー光が他方のレーザー素子のエミッターに入射する状態を作り出す。詳しくは、第1半導体レーザー素子12からレーザー光を射出させ、射出するレーザー光の角度をオートコリメータで測定しながら、レーザー光が第2半導体レーザー素子13に入射するようにダイクロイックミラー14、15の位置および角度を調節する。また、第2半導体レーザー素子13からのレーザー光についても同様の操作を行い、第1,第2半導体レーザー素子12,13のそれぞれのエミッター22,23から射出されたレーザー光が、互いに他方のエミッターに入射する状態とする。
【0062】
次いで、図6(b)に示すように、第1,第2半導体レーザー素子12,13を発光させ、波長変換素子16で変換され、ダイクロイックミラー14,15、および光路変換プリズム19を介して射出されるレーザー光の強度を測定しながら、保持部材26の回動ピン32を不図示のクランパで保持し、保持部材26を回転軸A1周りに回転させる。それと同時に、保持部材26を回転軸A1軸に沿う方向に昇降させ、射出されるレーザー光の最大の強度が得られる位置を見つけ出す。
【0063】
次いで、図6(c)に示すように、保持部材26を回動軸A2周りに回動させ、射出されるレーザー光の最大の強度が得られる位置を見つけ出す。最大強度が得られる位置が確定できたならば、保持部材26を基台11に固定材35で固定する。固定材35は、例えばエポキシ樹脂、アクリル樹脂等の硬化性樹脂を主体とする接着剤を用いることができる。また、固定材35として、ハンダを用いると硬化収縮が無いため、好ましい。
以上の工程を経て、本実施形態のレーザー光源装置を製造することができる。
【0064】
以上、本実施形態に係るレーザー光源装置1においては、保持部材26を用いて波長変換素子16を回転させ、第1,第2半導体レーザー素子12,13から射出されたレーザー光の光路を補正することによって、一方の半導体レーザー素子のエミッターから射出されたレーザー光を他方の半導体レーザー素子のエミッターに正確に入射させることが可能となる。そのため、高出力のレーザー光を射出可能なレーザー光源装置とすることができる。
【0065】
以上のような構成のレーザー光源装置1によれば、保持部材26を移動させることで波長変換素子16を移動させる構成のため、アライメント作業時に波長変換素子16に直接触れることなく、波長変換素子16を移動させることができる。そのため、波長変換素子16に外力が加わったり、温度変化が生じたりし難くなり、アライメント時の波長変換素子16の特性変化を抑えることができる。そのため、高精度なアライメントが可能となり、高出力のレーザー光を射出可能なレーザー光源装置1とすることができる。
【0066】
また、本実施形態では、回転軸A1は、波長変換素子16内の光路Lの中央で垂直に交わり、回動軸A2は、波長変換素子16内の光路Lの中央で光路Lおよび回転軸A1と垂直に交わるように構成されている。すなわち、回転軸A1および回動軸A2が波長変換素子16の中心を通っている。したがって、保持部材26を回転軸A1、回動軸A2周りに回転、回動させると、波長変換素子16は中心位置が移動することなく、光路Lに対する角度を変えるため、各方向の回転角度の調整を独立して行うことができる。これにより、波長変換素子16のアライメントを容易に行うことができる。
【0067】
また、本実施形態では、保持部材26の載置台30には、載置面に波長変換素子の位置を規定する位置決め手段となる窪み30aが設けられている。そのため、波長変換素子16を交換したり、装着し直すようなことがあっても、保持部材26に対する波長変換素子16の位置を常に確実に規定することができ、アライメント精度を安定して維持することができる。
【0068】
また、本実施形態では、保持部材26は、側面から外側に突出して形成された回動ピン32を備えており、回動ピン32の断面視形状は略円形となっている。そして、保持部材26の載置台30は、回動ピン32の中心軸周りを回動可能となっている。回動ピン32の形状と保持部材26を回動軸の位置とが対応しているため、回動ピン32まわりを良好に回動運動させることができ、回動ピン32を通る回動軸A2周りに保持部材26を円滑に回動させることができ、良好なアライメント作業を実現できる。
【0069】
また、本実施形態では、保持部材26に、第1半導体レーザー素子12と第2半導体レーザー素子13との間の光路上に配置されたBPF17が備えられている。そのため、波長変換素子16とBPF17との相対位置が常に変わらないため、保持部材26を動かしても波長変換素子16とBPF17とが互いに物理的に干渉することがなく、アライメント作業の作業性を向上することができる。
【0070】
また、本実施形態では、第1,第2半導体レーザー素子12,13が、それぞれ複数のエミッター22,23を備えている。そのため、複数のエミッター22,23の各々から発せられるレーザー光を用い、高出力のレーザー光を射出させることが可能なレーザー光源装置1を実現することができる。
【0071】
また、本実施形態では、保持部材26が波長変換素子16とBPF17とを保持することとしたが、これらに加えて、第1ダイクロイックミラー14と第2ダイクロイックミラー15との一方または両方を保持することとしても良い。
【0072】
図7は、保持部材26が第1,第2ダイクロイックミラー14,15を保持したレーザー光源装置3の概略平面図である。レーザー光源装置3は、第1,第2ダイクロイックミラー14,15が載置台31に保持されている構成以外は、図1に示すレーザー光源装置1と同じ構成である。図7では図を簡略化するため、保持部材26が保持するBPFを省略している。
【0073】
図7では、レーザー光源装置3が備える第1,第2半導体レーザー素子12,13の配置位置が、エミッター22,23の延在方向にずれている場合を示している。このような場合であっても、図7に示すように、回転軸A1周りに保持部材26を回転させることで第1,第2半導体レーザー素子12,13間のアライメントを行うことができる。この場合、波長変換素子16と第1,第2ダイクロイックミラー14,15との相対位置が常に変わらないため、保持部材26を動かしてもこれらが互いに物理的に干渉することがなく、アライメント作業の作業性を向上することができる。
【0074】
[第2実施形態]
以下、本発明の第2実施形態のレーザー光源装置について、図8を用いて説明する。
第1実施形態において示した保持部材の載置台の構成は一例であり、他の構成とすることもできる。本実施形態では、保持部材を構成する載置台の他の例について説明するが、レーザー光源装置の他の部分は第1実施形態と同様であるため、説明は省略する。
図8は、本実施形態の載置台50の説明図であり、図8(a)は斜視図、図8(b)は平面図、図8(c)は載置台50に用いるクランパの例を示す概略図である。
【0075】
図8(a)、図8(b)に示すように、載置台50の側面の外側には、溝部(回動軸部)52が形成されている。溝部52は、断面視V字状の形状である。この載置台50は、例えば図8(c)に示すようなクランパ60を用いて上下から保持される。クランパ60は、溝部52の形状に対応してV字状に突出した嵌合部62を備えた対向する2つのクランプ部64を備えており、2つのクランプ部64が上下に移動することで2つのクランプ部64間の距離が変化する。2つのクランプ部64がある程度離間した位置から載置台50を間に挟んで2つのクランプ部64を接近させると、クランパ60の嵌合部62が載置台50の溝部52に嵌合する。このとき、上下の壁部63が載置台50の側壁を挟み込むことで載置台50が保持される。
【0076】
そして、クランパ60を矢印Y2方向に回動させることで、載置台50を図8(b)に示す回動軸A2周りに回動させることができる。したがって、回動軸A2は溝部52の最深部(谷部)を通ることになる。また、溝部の最深部の延在方向は回転軸A1と平行な方向、すなわち載置台50の載置面の法線方向に平行な方向と一致するように形成されている。
【0077】
載置台50には、波長変換素子16を載置させる載置面に複数(本実施形態では4つ)の突起(位置決め部)50aが設けられている。載置台50の載置面は矩形状であり、載置面50の輪郭をなす矩形の縦横寸法は、波長変換素子16の輪郭をなす矩形の縦横寸法よりも大きい。各突起50aは、載置面50の縁から所定距離だけ内側に位置するように固定されている。図8(a)、図8(b)において、波長変換素子16を載置面上に載置したときの波長変換素子16の輪郭を1点鎖線の仮想線で示す。4つの突起50aのうち、2つの突起50aは波長変換素子16の入射端面側の辺(BPF17が設置された側の辺)に沿って互いに離間して配置され、残りの2つの突起50aは波長変換素子16の両側面に対向する辺に沿って1つずつ配置されている。
【0078】
上記の突起50aの配置により、波長変換素子16の入射端面および側面を各突起50aに突き当てるようにして載置台50上に載置したときに、波長変換素子16の中心Pと、回転軸A1と回動軸A2との交点とが一致するように設計されている。また、波長変換素子16を載置台50の正規の位置に収容したとき、波長変換素子16の入射端面に対して垂直に入射するレーザー光の光路Lと、回転軸A1および回動軸A2とは垂直に交わるようになっている。
【0079】
本実施形態の載置台50を備えた保持部材を用いた場合でも、図3に示した第1実施形態の載置台30を備えた保持部材を用いた場合と同様、保持部材に対して波長変換素子16が正確に位置決めされる。その結果、エミッター間の高精度なアライメントが可能となり、高出力のレーザー光を射出可能なレーザー光源装置1とすることができる。また、このような断面V字状の溝部52は加工が容易であるため、所望の位置に精度良く溝部52を形成することができ、精度良いアライメントを実現することができる。
【0080】
[画像表示装置]
図9は、本発明に係る一実施形態としての画像表示装置の概略構成図である。本実施形態の画像表示装置100は、赤色光、緑色光、青色光をそれぞれ射出する赤色レーザー光源装置1R,緑色レーザー光源装置1G、青色レーザー光源装置1Bを備えている。これらのレーザー光源装置には上記第1実施形態のレーザー光源装置1を用いる。
【0081】
プロジェクター100は、レーザー光源装置1R,1G,1Bから射出された各色光をそれぞれ変調する透過型の液晶ライトバルブ(画像形成装置)104R,104G,104Bと、液晶ライトバルブ104R,104G,104Bから射出された光を合成して投射レンズ107に導くクロスダイクロイックプリズム106と、液晶ライトバルブ104R,104G,104Bによって形成された像を拡大してスクリーン110に投射する投射レンズ107と、を備えている。
【0082】
さらに、プロジェクター100は、レーザー光源装置1R,1G,1Bから射出されたレーザー光の照度分布を均一化させるための均一化光学系102R,102G,102Bを備えており、照度分布が均一化された光によって液晶ライトバルブ104R,104G,104Bを照明している。本実施形態では、均一化光学系102R,102G、102Bは、例えばホログラム102aとフィールドレンズ102bによって構成されている。
【0083】
各液晶ライトバルブ104R,104G,104Bによって変調された3つの色光は、クロスダイクロイックプリズム106に入射する。このプリズムは4つの直角プリズムを貼り合わせて形成され、その内面に赤色光を反射する誘電体多層膜と青色光を反射する誘電体多層膜とが十字状に配置されている。これらの誘電体多層膜によって3つの色光が合成され、カラー画像を表す光が形成される。そして、合成された光は投射光学系である投射レンズ107によりスクリーン110上に投写され、拡大された画像が表示される。
【0084】
本実施形態のプロジェクター100においては、赤色レーザー光源装置1R,緑色レーザー光源装置1G,青色レーザー光源装置1Bとして上記第1実施形態のレーザー光源装置1が用いられているので、ダイナミックレンジが広く映像表現力に優れたプロジェクターを実現することができる。
【0085】
なお、光変調装置として透過型の液晶ライトバルブを用いたが、反射型のライトバルブを用いても良いし、液晶以外の光変調装置を用いても良い。このようなライトバルブとしては、例えば、反射型液晶ライトバルブやデジタルミラーデバイス(Digital Mirror Device)が挙げられる。投射光学系の構成は、使用されるライトバルブの種類によって適宜変更すればよい。
【0086】
また、色光合成手段として、クロスダイクロイックプリズムを用いることとしたが、これに限るものではない。色光合成手段としては、例えば、ダイクロイックミラーをクロス配置とし色光を合成するもの、ダイクロイックミラーを平行に配置し色光を合成するものを用いることができる。また、双方のエミッターに対し光路を変換するダイクロイックミラーが設置された構成のレーザー光源装置を例に挙げて説明したが、エミッターの配列はこれに限るものではない。例えば、一方のエミッターにのみダイクロイックミラーが設置されていても良い。
【0087】
[走査型画像表示装置]
図10は、本発明に係る別形態の画像表示装置の概略構成図であり、走査型画像表示装置の構成図を示す。本実施形態の画像表示装置200は、上記第1実施形態のレーザー光源装置1と、レーザー光源装置1から射出された光をスクリーン210に向かって走査するMEMSミラー(画像形成装置)202と、レーザー光源装置1から射出された光をMEMSミラー202に集光させる集光レンズ203とを備えている。レーザー光源装置1から射出された光は、MEMSミラー202の駆動によってスクリーン210上を水平方向、垂直方向に走査される。カラー画像を表示する場合は、例えばレーザーダイオードを構成する複数のエミッターを、赤、緑、青のピーク波長を持つエミッターの組み合わせによって構成すれば良い。
【0088】
[モニター装置]
図11は、本発明に係る一実施形態としてのモニター装置の概略構成図である。本実施形態のモニター装置300は、装置本体310と、光伝送部320と、を備える。装置本体310は、上述の第1実施形態のレーザー光源装置1を備えている。
【0089】
光伝送部320は、光を送る側と受ける側の2本のライトガイド321,322を備えている。各ライトガイド321,322は、多数本の光ファイバーを束ねたものであり、レーザー光を遠方に送ることができる。光を送る側のライトガイド321の入射側にはレーザー光源装置1が設置され、その出射側には拡散板323が設置されている。レーザー光源装置1から射出されたレーザー光は、ライトガイド321を通じて光伝送部320の先端に設けられた拡散板323に送られ、拡散板323により拡散されて被写体を照射する。
【0090】
光伝送部320の先端には、結像レンズ324が設けられており、被写体からの反射光を結像レンズ324で受けることができる。受けた反射光は、受け側のライトガイド322を通じて装置本体310内に設けられた撮像手段としてのカメラ311に送られる。この結果、レーザー光源装置1から射出されたレーザー光で被写体を照射して得られた反射光に基づく画像をカメラ(撮像部)311で撮像することができる。
【0091】
本実施形態のモニター装置300によれば、上記第1実施形態のレーザー光源装置1が用いられているので、小型で鮮明な撮像が可能なモニター装置を実現することができる。
【0092】
なお、本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。例えば上記実施形態においては、第1,第2半導体レーザー素子が、それぞれ複数の発光部を備えることとしたが、各々の半導体レーザー素子がそれぞれ一つずつのエミッターを備えるだけであっても良い。また、上記実施形態においては、アライメント後の保持部材26を接着剤等の固定材35で固定することしたが、溶接することとしても構わない。
【0093】
さらに、上記実施形態では、回転軸A1を基台の上面の法線方向(Z軸方向)、回動軸A2をエミッターの配列方向(Y軸方向)に一致させ、これらを中心として保持部材を回転、回動させる構成としたが、これに比べてアライメント作業は困難になるものの、必ずしもこの構成に限ることなく、これらZ軸、Y軸方向からずれた軸を中心として保持部材を回転、回動させてもよい。また、上記実施形態では、2つの半導体レーザー素子が1つの基台上に支持され、双方の半導体レーザー素子から上方に向けて射出されるレーザー光の光路をダイクロイックミラーで折り曲げる構成を採用した。この構成に代えて、2つの半導体レーザー素子の光射出面を直線状に対峙させ、ダイクロイックミラーを用いない構成としても良い。
【符号の説明】
【0094】
1,3…レーザー光源装置、12…第1半導体レーザー素子(第1発光素子)、13…第2半導体レーザー素子(第2発光素子)、14…第1ダイクロックミラー(分離部)、15…第2ダイクロックミラー(分離部)、16…波長変換素子、17…BPF(波長選択素子)、23,24…エミッター(発光部)、26…保持部材、29…円柱ピン(回転軸部)、30a…窪み(位置決め部)、32…回動ピン(回動軸部)、50a…突起(位置決め部)、52…溝部(回動軸部)、100,200…プロジェクター(画像表示装置)、104R,104G,104B…液晶ライトバルブ(画像形成装置)、202…MEMSミラー(画像形成装置)、300…モニター装置、311…カメラ(撮像手段)、A1…回転軸、A2…回動軸。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基台と、
レーザー光を射出する発光部を有する第1発光素子と、
レーザー光を射出する発光部を有する第2発光素子と、
前記第1発光素子と前記第2発光素子との間の光路上に配置され、前記第1発光素子及び前記第2発光素子から射出された基本波長のレーザー光の少なくとも一部を所定の変換波長のレーザー光に変換する波長変換素子と、
前記基台に支持され、前記波長変換素子を保持する保持部材と、を備え、
前記第1発光素子及び前記第2発光素子は、前記第1発光素子の発光部から射出されたレーザー光が前記第2発光素子の発光部に入射するとともに前記第2発光素子の発光部から射出されたレーザー光が前記第1発光素子の発光部に入射するように配置され、
前記保持部材は、前記基台に対して、互いに直交する任意の2つの軸を中心とする各回転動作における回転角度が調整可能とされていることを特徴とするレーザー光源装置。
【請求項2】
前記保持部材は、前記波長変換素子を保持する保持部材本体と、
前記保持部材本体の底部に設けられ、前記波長変換素子を載置する載置面の法線方向に沿う回転軸周りに前記保持部材本体を回転可能とし、且つ前記回転軸に沿う方向に前記保持部材本体を昇降可能とする回転軸部と、
前記保持部材の、前記波長変換素子の入射端面と隣り合う側面に対向する面に設けられ、前記回転軸方向と垂直な回動軸周りに前記保持部材を回動可能とする回動軸部と、を有することを特徴とする請求項1に記載のレーザー光源装置。
【請求項3】
前記回転軸部の回転軸が前記波長変換素子の中心を通るとともに、前記回動軸部の回動軸が前記波長変換素子の中心を通ることを特徴とする請求項2に記載のレーザー光源装置。
【請求項4】
前記回動軸部は、前記保持部材本体に凸形状または凹形状に形成され、
前記回動軸部の回動軸が、凸形状の前記回動軸部の頂部、または凹形状の前記回動軸部の底部を通ることを特徴とする請求項2または3のいずれか1項に記載のレーザー光源装置。
【請求項5】
前記回動軸部は、前記保持部材本体から突出して形成された断面視略円形の突起物であることを特徴とする請求項4に記載のレーザー光源装置。
【請求項6】
前記回動軸部は、前記保持部材本体に形成された断面視V字状の溝部であり、
前記溝部の最深部の延在方向は、前記載置面の法線方向に平行な方向と略一致していることを特徴とする請求項4に記載のレーザー光源装置。
【請求項7】
前記保持部材本体は、前記保持部材本体に対する前記波長変換素子の相対位置を規定する位置決め部を備えることを特徴とする請求項2から6のいずれか1項に記載のレーザー光源装置。
【請求項8】
前記第1発光素子及び前記第2発光素子が前記基台に支持され、
前記第1発光素子と前記波長変換素子との間の光路上、及び前記第2発光素子と前記波長変換素子の間の光路上にそれぞれ配置され、前記所定の変換波長のレーザー光を前記第1発光素子または前記第2発光素子に向かう方向とは異なる方向へ射出させ、前記基本波長のレーザー光を前記第1発光素子または前記第2発光素子に向かう方向へ射出させる分離部を備えたことを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載のレーザー光源装置。
【請求項9】
前記第1発光素子と前記第2発光素子との間の光路上に配置され、所定の波長のレーザー
光を透過させる波長選択素子を備え、
前記保持部材が前記波長選択素子を保持することを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載のレーザー光源装置。
【請求項10】
前記第1発光素子と前記波長変換素子との間の光路上、または前記第2発光素子と前記波長変換素子との間の光路上の少なくとも一方に配置されに配置され、前記基本波長のレーザー光を反射させ、前記所定の変換波長のレーザー光を透過させる分離素子を備え、
前記保持部材が前記分離素子を保持することを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載のレーザー光源装置。
【請求項11】
前記第1発光素子及び前記第2発光素子の各々が前記発光部を複数備えることを特徴とする請求項1から10のいずれか1項に記載のレーザー光源装置。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか1項に記載のレーザー光源装置と、
前記レーザー光源装置からの光を用い、画像信号に応じた所望の画像を表示させる画像形成装置と、を備えることを特徴とする画像表示装置。
【請求項13】
請求項1から11のいずれか1項に記載のレーザー光源装置と、
前記レーザー光源装置から射出されたレーザー光により被写体を撮像する撮像手段と、を備えることを特徴とするモニター装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−124306(P2011−124306A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−279194(P2009−279194)
【出願日】平成21年12月9日(2009.12.9)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】