レーザー走査光学装置
【課題】光学的異方性を有する走査光学素子の影響で反射部材へ入射する光束の偏光状態が変化した場合であっても被走査面上での光量むらの変化を低減する。
【解決手段】直線偏光しているレーザー光束を射出する光源11と、光源11から発せられた光束を偏向走査するポリゴンミラー17と、ポリゴンミラー17により偏向された光束を被走査面40上に結像させる走査光学素子21,22と、ポリゴンミラー17と被走査面40との間に設けられ、光束を副走査方向zに折り返すミラー24と、を備えたレーザー走査光学装置。走査光学素子21,22の少なくとも一つは、光学的異方性を有する物質からなり、ミラー24が所定の条件を満たすように設定されている。
【解決手段】直線偏光しているレーザー光束を射出する光源11と、光源11から発せられた光束を偏向走査するポリゴンミラー17と、ポリゴンミラー17により偏向された光束を被走査面40上に結像させる走査光学素子21,22と、ポリゴンミラー17と被走査面40との間に設けられ、光束を副走査方向zに折り返すミラー24と、を備えたレーザー走査光学装置。走査光学素子21,22の少なくとも一つは、光学的異方性を有する物質からなり、ミラー24が所定の条件を満たすように設定されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー走査光学装置、特に、画像データに基づいて変調される光源手段から発せられる直線偏光しているレーザー光束で被走査面上を走査するレーザー走査光学装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のレーザー走査光学装置において、被走査面内の光量むら(シェーディング)を補正する方法としては、特許文献1,2,3,4に記載のように、走査光学素子に入射する光束の偏光状態を規定して、光量むらが小さくなるように走査光学素子の透過率特性や反射率特性を最適化することが知られている。
【0003】
しかし、従来の補正方法では被走査面内の光量むらを好ましい状態にまで低減することは困難であった。その理由は、走査光学素子より偏向器側に光学的異方性を有する物質が配置されていると、光学素子に入射する光束の偏光状態はいわゆる複屈折の作用により光源から射出されたときの偏光状態から変化するのであるが、従来ではこのような変化に対応できていなかった。
【0004】
前記偏光状態の変化は、光学的異方性を有する物質の状態、及び、光学的異方性を有する物質に対する光束の通過位置に起因すると考えられる。従って、偏光状態の変化を正確に予測することは困難である。想定していた偏光状態の光束が入射した場合、光量むらが低減できるような設計をしたとしても、偏光状態が変化した場合、光量むらがむしろ悪化していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2727572号公報
【特許文献2】特許第4330489号公報
【特許文献3】特許第4566398号公報
【特許文献4】特開2009−169248号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、光学的異方性を有する走査光学素子の影響で反射部材へ入射する光束の偏光状態が変化した場合であっても被走査面上での光量むらの変化を低減できるレーザー走査光学装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、本発明の一形態であるレーザー走査光学装置は、
直線偏光しているレーザー光束を射出する光源手段と、
前記光源手段から発せられた光束を偏向走査する偏向手段と、
前記偏向手段により偏向された光束を被走査面上に結像させる走査光学素子と、
前記偏向手段と前記被走査面との間に設けられ、前記偏向手段により偏向された光束を副走査方向に折り返す反射部材と、
を備えたレーザー走査光学装置において、
前記反射部材より前記偏向手段側に配置された前記走査光学素子の少なくとも一つは、光学的異方性を有する物質からなり、
前記反射部材が以下の式(1),(2),(3)を満たすこと、
|Rpmax−Rp0|<0.5[%] …(1)
0.8<|Rpmax−Rsmax|/|Rp0−Rs0|<1.2 …(2)
β0>30[°] …(3)
β0:被走査面上の有効走査域の最大像高へ向かう光束の反射部材への入射角
Rsmax:被走査面上の有効走査域の最大像高へ向かう光束のS偏光反射率
Rpmax:被走査面上の有効走査域の最大像高へ向かう光束のP偏光反射率
Rs0:被走査面上の有効走査域の中心像高へ向かう光束のS偏光反射率
Rp0:被走査面上の有効走査域の中心像高へ向かう光束のP偏光反射率
を特徴とする。
【0008】
反射部材へレーザー光束が入射する場合、被走査面上の有効走査域の中心像高へ向かう光束と有効走査域の最大像高へ向かう光束とでは、反射部材への入射角が異なる。ここで、入射角は反射部材の法線ベクトルと光線ベクトルとのなす角度と定義する。そのため、反射部材の角度特性(入射角に対する反射率特性)に従って、反射部材において反射率むらが発生する。反射率むらとは、被走査面上に向かう光束ごとの反射率の差である。また、一般的に、反射率はP偏光反射率とS偏光反射率とに分けられ、反射率むらは入射光束の偏光比率(P偏光とS偏光との比率)が変わっても変化する。
【0009】
光源手段から射出された直線偏光の光束は、光学的異方性を有する物質からなる走査光学素子に入射すると、振動方向が互いに直交する二つの平面偏光(P偏光とS偏光)に分かれ、振動方向によって屈折率が異なる(複屈折を生じる)。その結果位相差が発生し、直線偏光の光束は偏光方向が変化したり、楕円偏光に変化する。複屈折のレベルは光学素子の場所によって異なるので、光束が通過する場所が異なると、透過後の偏光状態も異なることになる。
【0010】
前記レーザー走査光学装置においては、前記式(1)を満たすことにより、被走査面上の有効走査域の中心像高へ向かう光束と最大像高へ向かう光束とのP偏光反射率の差が0.5%よりも小さくなるので、角度特性(入射角に対する反射率特性)により反射率むらが小さくなる。さらに、前記式(2)を満たすことにより、被走査面上の有効走査域の中心像高へ向かう光束と最大像高へ向かう光束との間で、P偏光反射率とS偏光反射率との差の比が小さくなるので、光束通過位置ごとに偏光状態が変化し、反射部材への入射角ごとにP偏光とS偏光との比率が変わった場合も反射率むらの変化を低減することが可能となる。反射部材における反射率むらの変化を小さくすれば、光量むらの変化も小さくすることが可能になる。一般的な反射部材の角度特性を見ると、反射部材への入射角β0が30°以下の場合は角度特性が小さく、P偏光反射率とS偏光反射率も小さい。よって、式(1),(2)は式(3)を満たす場合に有効となる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、前記式(1),(2),(3)を満たすことによって、光学的異方性を有する走査光学素子の影響で反射部材へ入射する光束の偏光状態が変化した場合であっても被走査面上での光量むらの変化を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1,3に用いられるレーザー走査光学装置を示す斜視図である。
【図2】実施例2に用いられるレーザー走査光学装置を示す斜視図である。
【図3】実施例4に用いられるレーザー走査光学装置を示す斜視図である。
【図4】実施例1,4で用いている反射部材の入射角特性を示すグラフである。
【図5】実施例2,3で用いている反射部材の入射角特性を示すグラフである。
【図6】比較例1,4で用いている反射部材の入射角特性を示すグラフである。
【図7】比較例2,3で用いている反射部材の入射角特性を示すグラフである。
【図8】実施例1で用いている反射部材にて発生する反射率むらを示すグラフである。
【図9】実施例1の被走査面上での光量むらを示すグラフである。
【図10】実施例1の光学系にて反射部材を比較例1に置き換えた場合に発生する反射率むらを示すグラフである。
【図11】実施例1の光学系にて反射部材を比較例1に置き換えた場合に被走査面上での光量むらを示すグラフである。
【図12】実施例2で用いている反射部材にて発生する反射率むらを示すグラフである。
【図13】実施例2の被走査面上での光量むらを示すグラフである。
【図14】実施例2の光学系にて反射部材を比較例2に置き換えた場合に発生する反射率むらを示すグラフである。
【図15】実施例2の光学系にて反射部材を比較例2に置き換えた場合に被走査面上での光量むらを示すグラフである。
【図16】実施例3で用いている反射部材にて発生する反射率むらを示すグラフである。
【図17】実施例3の被走査面上での光量むらを示すグラフである。
【図18】実施例4で用いている反射部材にて発生する反射率むらを示すグラフである。
【図19】実施例4の被走査面上での光量むらを示すグラフである。
【図20】反射部材に形成される光学薄膜を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係るレーザー走査光学装置の実施例について、添付図面を参照して説明する。なお、各図において同じ部材には共通する符号を付し、重複する説明は省略する。
【0014】
(実施例1,3に用いられるレーザー走査光学装置、図1参照)
実施例1,3に用いられるレーザー走査光学装置1Aは、図1に示すように、感光体ドラム40上に画像を形成するように構成されている。
【0015】
具体的には、光源光学系10は、レーザダイオードからなる光源11と、コリメータレンズ12と、開口部(絞り)13と、シリンダレンズ16とで構成されている。光源11から放射されたレーザー光束(拡散光)はコリメータレンズ12により平行光とされ、開口部13を通過し、シリンダレンズ16を透過してポリゴンミラー17の偏向面の近傍で副走査方向zに集光される。ポリゴンミラー17は所定の速度で回転駆動され、光束は主走査方向yに偏向走査される。
【0016】
ポリゴンミラー17から光束の進行方向xに関しては、走査光学系20として、第1走査レンズ21、第2走査レンズ22、ミラー24、平行平板(防塵用ウインドウガラス)28が配置されている。ポリゴンミラー17の偏向面で偏向された光束は、第1走査レンズ21及び第2走査レンズ22を透過し、ミラー24で反射され、平行平板28を透過して感光体ドラム40上で結像し、主走査方向yに走査する。
【0017】
走査レンズ21,22はともに熱可塑性樹脂にて形成されており、該樹脂の光弾性係数は10×10-12[Pa-1]以下である。なお、実施例3では、ミラー24の配置角度が実施例1とは異なっているので、厳密な意味では図1とは異なる。
【0018】
(実施例2に用いられるレーザー走査光学装置、図2参照)
実施例2に用いられるレーザー走査光学装置1Bは、図2に示すように、図1に示したレーザー走査光学装置1Aと基本的には同じ種類の光学素子にて構成され、第1走査レンズ21と第2走査レンズ22の形状が図1とは異なっている。この走査レンズ21,22はともに熱可塑性樹脂にて形成されており、該樹脂の光弾性係数は10×10-12[Pa-1]以下であるが、光弾性係数が40×10-12[Pa-1]以上の樹脂を用いてもよい。
【0019】
(実施例4に用いられるレーザー走査光学装置、図3参照)
実施例4に用いられるレーザー走査光学装置1Cは、図3に示すように、タンデム方式のカラー画像形成装置に用いられるものであり、図3において、符号に付したy,m,c,kはイエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの各色の形成に用いられる部材であることを意味し、いずれの色にも該当する場合にはこれらの添字は省略する。
【0020】
このレーザー走査光学装置1Cは、四つの感光体ドラム40y,40m,40c,40k上にそれぞれイエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの画像を形成するように構成されている。感光体ドラム40上に形成された4色の画像(静電潜像)はトナーにて現像された後、図示しない中間転写ベルト上に1次転写/合成され、記録材上に2次転写される。この種の画像形成プロセスは周知であり、その説明は省略する。
【0021】
光源光学系10は、主として、レーザダイオードアレイからなる四つの光源11y,11m,11c,11kと、コリメータレンズ12y,12m,12c,12kと、開口部(絞り)13y,13m,13c,13kと、シリンダレンズ16とで構成されている。各光源11から放射されたレーザー光束(拡散光)は各コリメータレンズ12により平行光とされ、各開口部13を通過する。光源11yから放射された光束Byは、光路合成ミラー14yで反射されてミラー15へ向かう。光源11mから放射された光束Bmは、光路合成ミラー14mで反射されてミラー15へ向かう。光源11cから放射された光束Bcは、光路合成ミラー14cで反射されてミラー15へ向かう。光源11kから放射された光束Bkは、光路合成ミラー14kで反射されてミラー15へ向かう。ここで、光路合成ミラー14とは各光束の光路を同一方向(x方向)にするように配置された反射部材である。
【0022】
前記ミラー15で反射されたそれぞれの光束は、シリンダレンズ16を透過してポリゴンミラー17の偏向面の近傍で副走査方向zに集光される。ポリゴンミラー17は所定の速度で回転駆動され、それぞれの光束は主走査方向yに偏向走査される。各光束はポリゴンミラー17の回転軸に垂直な面に対して所定の互いに異なる角度で偏向面に入射する。
【0023】
ポリゴンミラー17から各光束の進行方向xに関しては、走査光学系20として、第1走査レンズ21、第2走査レンズ22、第3走査レンズ23y,23m,23c,23k、ミラー24y,24m,24c,24k,25y,25m,25c,26c、平行平板(防塵用ウインドウガラス)28y,28m,28c,28kが配置されている。
【0024】
ポリゴンミラー17の偏向面で同時に偏向されたそれぞれの光束は、第1走査レンズ21及び第2走査レンズ22を透過する。光束Byは、ミラー24yで反射され、第3走査レンズ23yを透過し、さらに、ミラー25yで反射され、平行平板28yを透過して感光体ドラム40y上で結像し、主走査方向yに走査する。光束Bmは、ミラー24mで反射され、第3走査レンズ23mを透過し、さらに、ミラー25mで反射され、平行平板28mを透過して感光体ドラム40m上で結像し、主走査方向yに走査する。光束Bcは、ミラー24cで反射され、第3走査レンズ23cを透過し、さらに、ミラー25c,26cで反射され、平行平板28cを透過して感光体ドラム40c上で結像し、主走査方向yに走査する。光束Bkは、第3走査レンズ23kを透過し、ミラー24kで反射され、平行平板28kを透過して感光体ドラム40k上で結像し、主走査方向yに走査する。
【0025】
前記走査レンズ21,22,23はともに熱可塑性樹脂にて形成されており、該樹脂の光弾性係数は70×10-12[Pa-1]程度の樹脂を用いている。
【0026】
(感光体上における光量むらの低減、図4〜図19参照)
ところで、前記レーザー走査光学装置1A,1B,1Cにおいて、走査レンズ21,22の少なくとも一つは、光学的異方性を有する樹脂からなり、ミラー24は以下の式(1),(2),(3)を満たしている。即ち、
【0027】
|Rpmax−Rp0|<0.5[%] …(1)
0.8<|Rpmax−Rsmax|/|Rp0−Rs0|<1.2 …(2)
β0>30[°] …(3)
【0028】
β0:被走査面上の有効走査域の最大像高へ向かう光束の反射部材への入射角
Rsmax:被走査面上の有効走査域の最大像高へ向かう光束のS偏光反射率
Rpmax:被走査面上の有効走査域の最大像高へ向かう光束のP偏光反射率
Rs0:被走査面上の有効走査域の中心像高へ向かう光束のS偏光反射率
Rp0:被走査面上の有効走査域の中心像高へ向かう光束のP偏光反射率
【0029】
例えば、図1において、ミラー24へレーザー光束が入射する場合、感光体ドラム40上の有効走査域の中心像高へ向かう光束と有効走査域の最大像高へ向かう光束とでは、ミラー24への入射角が異なる。ここで、入射角はミラー24の法線ベクトルと光線ベクトルとのなす角度と定義する。そのため、ミラーの角度特性(入射角に対する反射率特性)に従って、ミラー24において反射率むらが発生する。反射率むらとは、感光体ドラム40上に向かう光束ごとの反射率の差である。また、一般的に、反射率はP偏光反射率とS偏光反射率とに分けられ、反射率むらは入射光束の偏光比率(P偏光とS偏光との比率)が変わっても変化する。
【0030】
光源11から射出された直線偏光の光束は、光学的異方性を有する物質からなる走査レンズ21,22に入射すると、振動方向が互いに直交する二つの平面偏光(P偏光とS偏光)に分かれ、振動方向によって屈折率が異なる(複屈折を生じる)。その結果位相差が発生し、直線偏光の光束は偏光方向が変化したり、楕円偏光に変化する。複屈折のレベルは走査レンズ21,22の場所によって異なるので、光束が通過する場所が異なると、透過後の偏光状態も異なることになる。
【0031】
前記レーザー走査光学装置1A,1B,1Cにおいては、前記式(1)を満たすことにより、感光体ドラム40上の有効走査域の中心像高へ向かう光束と最大像高へ向かう光束とのP偏光反射率の差が0.5%よりも小さくなるので、角度特性(入射角に対する反射率特性)により反射率むらが小さくなる。さらに、前記式(2)を満たすことにより、感光体ドラム40上の有効走査域の中心像高へ向かう光束と最大像高へ向かう光束との間で、P偏光反射率とS偏光反射率との差の比が小さくなるので、光束通過位置ごとに偏光状態が変化し、反射部材への入射角ごとにP偏光とS偏光との比率が変わった場合も反射率むらの変化を低減することが可能となる。ミラー24における反射率むらの変化を小さくすれば、光量むらの変化も小さくすることが可能になる。一般的なミラー24の角度特性を見ると、ミラー24への入射角β0が30°以下の場合は角度特性が小さく、P偏光反射率とS偏光反射率も小さい。よって、式(1),(2)は式(3)を満たす場合に有効となる。
【0032】
実施例1,4で用いているミラー24の入射角特性を図4に示し、実施例2,3で用いているミラー24の入射角特性を図5に示す。いずれも横軸は入射角、縦軸は反射率を示している。実施例1,4での光学薄膜は5層構成であり、実施例2,3での光学薄膜は3層構成である。比較例1,4として用いたミラー24(光学薄膜は5層)の入射角特性を図6に示し、比較例2,3として用いたミラー24(光学薄膜は3層)の入射角特性を図7に示す。
【0033】
実施例1〜4における各式(1),(2),(3)の値は以下の表1に示すとおりであり、比較例1〜4における各式(1),(2),(3)の値は以下の表2に示すとおりである。
【0034】
【表1】
【0035】
【表2】
【0036】
図8は偏光状態が変化した場合の実施例1でのミラー24における反射率むらを示し、(a)〜(g)は以下の表3に示す偏光状態の違いを表わしている。表3に示す入射位置は、ミラー24に入射する光束の入射位置を示し、COIが有効走査域の中心に向かう光束の入射位置であり、SOI及びEOIが有効走査域の最大像高へ向かう光束の入射位置である。図8に示すように偏光状態が変化すると、ミラー24の反射率むらも変化する。図9は偏光状態が変化した場合の実施例1での感光体ドラム40上の光量むらを示している。
【0037】
図10は、実施例1の光学系においてミラー24を比較例1に置き換えた場合の反射率むらを示し、図11はその場合の感光体ドラム40上の光量むらを示している。図8と図10及び図9と図11を比較すれば、本実施例1では光量むらが低減されていることが明らかである。
【0038】
【表3】
【0039】
また、図12は偏光状態が変化した場合の実施例2でのミラー24における反射率むらを示し、図13はその場合の感光体ドラム40上の光量むらを示している。図14は、実施例2の光学系においてミラー24を比較例2に置き換えた場合の反射率むらを示し、図15はその場合の感光体ドラム40上の光量むらを示している。図12と図14及び図13と図15を比較すれば、本実施例2では光量むらが低減されていることが明らかである。
【0040】
また、図16は偏光状態が変化した場合の実施例3でのミラー24における反射率むらを示し、図17はその場合の感光体ドラム40上の光量むらを示している。
【0041】
図18は、偏光状態が変化した場合の実施例4の光学系において光束Byの光路の感光体ドラム40側に配置されたミラー25yにおける反射率むらを示し、図19はその場合の感光体ドラム40上の光量むらを示している。光束Bm,Bc,Bkの各光路上に配置されているミラー25m,26c,24kにおいても同様の特性を示す。
【0042】
ところで、感光体ドラム40上での光量むらの低減には、入射角β0が40°以上になるミラーに対して適用するとより効果的である。
【0043】
(光学薄膜、図20参照)
反射部材に形成される光学薄膜は、図20に概念的に示すように、基板31上に金属膜32を蒸着し、その上に複数層の光学薄膜33a〜33eを蒸着した構成となっている。以下に示す表4は前記実施例1,4で用いたミラー24,25y,25m,26c,24kの光学薄膜の構成を示し、表5は前記実施例2,3で用いたミラー24の光学薄膜の構成を示している。屈折率1.46に相当する材料としては例えば二酸化珪素(SiO2)、屈折率2.35に相当する材料としては例えば二酸化チタン(TiO2)、屈折率1.38に相当する材料としては例えばフッ化マグネシウム(MgF2)を挙げることができる。
【0044】
【表4】
【0045】
【表5】
【0046】
前記実施例1〜4によれば、反射部材(ミラー24,25y,25m,26c,24k)の反射率特性を適切に設定すること、即ち、前記式(1),(2),(3)を満たすことによって、光学的異方性を有する走査光学素子の影響で反射部材へ入射する光束の偏光状態が変化した場合であっても被走査面上での光量むらの変化を低減できる。走査光学素子に光学異方性を有する物質として熱可塑性樹脂を用いた場合、樹脂成形条件に応じて応力分布が変化すると考えられ、それにより複屈折の発生状態も変化すると想定される。そうなると、走査光学素子を透過後の偏光状態を予測することは困難になるので、前記式(1),(2),(3)を満たす構成が効果的となる。
【0047】
また、前記熱可塑性樹脂の光弾性係数が40×10-12[Pa-1]以上になると、応力分布が変化した場合の複屈折率の発生状態の変化が大きくなり、走査光学素子を透過後の偏光状態を予測することはさらに困難になる。それゆえ、前記式(1),(2),(3)を満たす構成がより効果的となる。
【0048】
また、反射部材は基板上に金属膜及び複数層の光学膜が蒸着されたものであり、最も空気側の層の光学膜厚が1/4λより大きく、2/5λより小さいこと(λ:レーザー光束の波長)が好ましい。このような光学薄膜の構成であれば、95%以上の高い反射率を維持しつつ、被走査面上での光量むらの変化を低減することができる。
【0049】
なお、本発明に係るレーザー走査光学装置は前記実施例に限定するものではなく、その要旨の範囲内で種々に変更できる。
【0050】
特に、レーザー走査光学装置において光路を構成する各種光学素子の種類、形状、配置関係は任意である。
【産業上の利用可能性】
【0051】
以上のように、本発明は、レーザー走査光学装置に有用であり、特に、光学的異方性を有する走査光学素子の影響で反射部材へ入射する光束の偏光状態が変化した場合であっても被走査面上での光量むらの変化を低減できる点で優れている。
【符号の説明】
【0052】
1A,1B,1C…レーザー走査光学装置
10…光源光学系
11…光源
17…ポリゴンミラー
21,22,23…走査レンズ
24,25y,25m,26c,24k…ミラー
40…感光体ドラム
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー走査光学装置、特に、画像データに基づいて変調される光源手段から発せられる直線偏光しているレーザー光束で被走査面上を走査するレーザー走査光学装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のレーザー走査光学装置において、被走査面内の光量むら(シェーディング)を補正する方法としては、特許文献1,2,3,4に記載のように、走査光学素子に入射する光束の偏光状態を規定して、光量むらが小さくなるように走査光学素子の透過率特性や反射率特性を最適化することが知られている。
【0003】
しかし、従来の補正方法では被走査面内の光量むらを好ましい状態にまで低減することは困難であった。その理由は、走査光学素子より偏向器側に光学的異方性を有する物質が配置されていると、光学素子に入射する光束の偏光状態はいわゆる複屈折の作用により光源から射出されたときの偏光状態から変化するのであるが、従来ではこのような変化に対応できていなかった。
【0004】
前記偏光状態の変化は、光学的異方性を有する物質の状態、及び、光学的異方性を有する物質に対する光束の通過位置に起因すると考えられる。従って、偏光状態の変化を正確に予測することは困難である。想定していた偏光状態の光束が入射した場合、光量むらが低減できるような設計をしたとしても、偏光状態が変化した場合、光量むらがむしろ悪化していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2727572号公報
【特許文献2】特許第4330489号公報
【特許文献3】特許第4566398号公報
【特許文献4】特開2009−169248号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、光学的異方性を有する走査光学素子の影響で反射部材へ入射する光束の偏光状態が変化した場合であっても被走査面上での光量むらの変化を低減できるレーザー走査光学装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、本発明の一形態であるレーザー走査光学装置は、
直線偏光しているレーザー光束を射出する光源手段と、
前記光源手段から発せられた光束を偏向走査する偏向手段と、
前記偏向手段により偏向された光束を被走査面上に結像させる走査光学素子と、
前記偏向手段と前記被走査面との間に設けられ、前記偏向手段により偏向された光束を副走査方向に折り返す反射部材と、
を備えたレーザー走査光学装置において、
前記反射部材より前記偏向手段側に配置された前記走査光学素子の少なくとも一つは、光学的異方性を有する物質からなり、
前記反射部材が以下の式(1),(2),(3)を満たすこと、
|Rpmax−Rp0|<0.5[%] …(1)
0.8<|Rpmax−Rsmax|/|Rp0−Rs0|<1.2 …(2)
β0>30[°] …(3)
β0:被走査面上の有効走査域の最大像高へ向かう光束の反射部材への入射角
Rsmax:被走査面上の有効走査域の最大像高へ向かう光束のS偏光反射率
Rpmax:被走査面上の有効走査域の最大像高へ向かう光束のP偏光反射率
Rs0:被走査面上の有効走査域の中心像高へ向かう光束のS偏光反射率
Rp0:被走査面上の有効走査域の中心像高へ向かう光束のP偏光反射率
を特徴とする。
【0008】
反射部材へレーザー光束が入射する場合、被走査面上の有効走査域の中心像高へ向かう光束と有効走査域の最大像高へ向かう光束とでは、反射部材への入射角が異なる。ここで、入射角は反射部材の法線ベクトルと光線ベクトルとのなす角度と定義する。そのため、反射部材の角度特性(入射角に対する反射率特性)に従って、反射部材において反射率むらが発生する。反射率むらとは、被走査面上に向かう光束ごとの反射率の差である。また、一般的に、反射率はP偏光反射率とS偏光反射率とに分けられ、反射率むらは入射光束の偏光比率(P偏光とS偏光との比率)が変わっても変化する。
【0009】
光源手段から射出された直線偏光の光束は、光学的異方性を有する物質からなる走査光学素子に入射すると、振動方向が互いに直交する二つの平面偏光(P偏光とS偏光)に分かれ、振動方向によって屈折率が異なる(複屈折を生じる)。その結果位相差が発生し、直線偏光の光束は偏光方向が変化したり、楕円偏光に変化する。複屈折のレベルは光学素子の場所によって異なるので、光束が通過する場所が異なると、透過後の偏光状態も異なることになる。
【0010】
前記レーザー走査光学装置においては、前記式(1)を満たすことにより、被走査面上の有効走査域の中心像高へ向かう光束と最大像高へ向かう光束とのP偏光反射率の差が0.5%よりも小さくなるので、角度特性(入射角に対する反射率特性)により反射率むらが小さくなる。さらに、前記式(2)を満たすことにより、被走査面上の有効走査域の中心像高へ向かう光束と最大像高へ向かう光束との間で、P偏光反射率とS偏光反射率との差の比が小さくなるので、光束通過位置ごとに偏光状態が変化し、反射部材への入射角ごとにP偏光とS偏光との比率が変わった場合も反射率むらの変化を低減することが可能となる。反射部材における反射率むらの変化を小さくすれば、光量むらの変化も小さくすることが可能になる。一般的な反射部材の角度特性を見ると、反射部材への入射角β0が30°以下の場合は角度特性が小さく、P偏光反射率とS偏光反射率も小さい。よって、式(1),(2)は式(3)を満たす場合に有効となる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、前記式(1),(2),(3)を満たすことによって、光学的異方性を有する走査光学素子の影響で反射部材へ入射する光束の偏光状態が変化した場合であっても被走査面上での光量むらの変化を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1,3に用いられるレーザー走査光学装置を示す斜視図である。
【図2】実施例2に用いられるレーザー走査光学装置を示す斜視図である。
【図3】実施例4に用いられるレーザー走査光学装置を示す斜視図である。
【図4】実施例1,4で用いている反射部材の入射角特性を示すグラフである。
【図5】実施例2,3で用いている反射部材の入射角特性を示すグラフである。
【図6】比較例1,4で用いている反射部材の入射角特性を示すグラフである。
【図7】比較例2,3で用いている反射部材の入射角特性を示すグラフである。
【図8】実施例1で用いている反射部材にて発生する反射率むらを示すグラフである。
【図9】実施例1の被走査面上での光量むらを示すグラフである。
【図10】実施例1の光学系にて反射部材を比較例1に置き換えた場合に発生する反射率むらを示すグラフである。
【図11】実施例1の光学系にて反射部材を比較例1に置き換えた場合に被走査面上での光量むらを示すグラフである。
【図12】実施例2で用いている反射部材にて発生する反射率むらを示すグラフである。
【図13】実施例2の被走査面上での光量むらを示すグラフである。
【図14】実施例2の光学系にて反射部材を比較例2に置き換えた場合に発生する反射率むらを示すグラフである。
【図15】実施例2の光学系にて反射部材を比較例2に置き換えた場合に被走査面上での光量むらを示すグラフである。
【図16】実施例3で用いている反射部材にて発生する反射率むらを示すグラフである。
【図17】実施例3の被走査面上での光量むらを示すグラフである。
【図18】実施例4で用いている反射部材にて発生する反射率むらを示すグラフである。
【図19】実施例4の被走査面上での光量むらを示すグラフである。
【図20】反射部材に形成される光学薄膜を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係るレーザー走査光学装置の実施例について、添付図面を参照して説明する。なお、各図において同じ部材には共通する符号を付し、重複する説明は省略する。
【0014】
(実施例1,3に用いられるレーザー走査光学装置、図1参照)
実施例1,3に用いられるレーザー走査光学装置1Aは、図1に示すように、感光体ドラム40上に画像を形成するように構成されている。
【0015】
具体的には、光源光学系10は、レーザダイオードからなる光源11と、コリメータレンズ12と、開口部(絞り)13と、シリンダレンズ16とで構成されている。光源11から放射されたレーザー光束(拡散光)はコリメータレンズ12により平行光とされ、開口部13を通過し、シリンダレンズ16を透過してポリゴンミラー17の偏向面の近傍で副走査方向zに集光される。ポリゴンミラー17は所定の速度で回転駆動され、光束は主走査方向yに偏向走査される。
【0016】
ポリゴンミラー17から光束の進行方向xに関しては、走査光学系20として、第1走査レンズ21、第2走査レンズ22、ミラー24、平行平板(防塵用ウインドウガラス)28が配置されている。ポリゴンミラー17の偏向面で偏向された光束は、第1走査レンズ21及び第2走査レンズ22を透過し、ミラー24で反射され、平行平板28を透過して感光体ドラム40上で結像し、主走査方向yに走査する。
【0017】
走査レンズ21,22はともに熱可塑性樹脂にて形成されており、該樹脂の光弾性係数は10×10-12[Pa-1]以下である。なお、実施例3では、ミラー24の配置角度が実施例1とは異なっているので、厳密な意味では図1とは異なる。
【0018】
(実施例2に用いられるレーザー走査光学装置、図2参照)
実施例2に用いられるレーザー走査光学装置1Bは、図2に示すように、図1に示したレーザー走査光学装置1Aと基本的には同じ種類の光学素子にて構成され、第1走査レンズ21と第2走査レンズ22の形状が図1とは異なっている。この走査レンズ21,22はともに熱可塑性樹脂にて形成されており、該樹脂の光弾性係数は10×10-12[Pa-1]以下であるが、光弾性係数が40×10-12[Pa-1]以上の樹脂を用いてもよい。
【0019】
(実施例4に用いられるレーザー走査光学装置、図3参照)
実施例4に用いられるレーザー走査光学装置1Cは、図3に示すように、タンデム方式のカラー画像形成装置に用いられるものであり、図3において、符号に付したy,m,c,kはイエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの各色の形成に用いられる部材であることを意味し、いずれの色にも該当する場合にはこれらの添字は省略する。
【0020】
このレーザー走査光学装置1Cは、四つの感光体ドラム40y,40m,40c,40k上にそれぞれイエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの画像を形成するように構成されている。感光体ドラム40上に形成された4色の画像(静電潜像)はトナーにて現像された後、図示しない中間転写ベルト上に1次転写/合成され、記録材上に2次転写される。この種の画像形成プロセスは周知であり、その説明は省略する。
【0021】
光源光学系10は、主として、レーザダイオードアレイからなる四つの光源11y,11m,11c,11kと、コリメータレンズ12y,12m,12c,12kと、開口部(絞り)13y,13m,13c,13kと、シリンダレンズ16とで構成されている。各光源11から放射されたレーザー光束(拡散光)は各コリメータレンズ12により平行光とされ、各開口部13を通過する。光源11yから放射された光束Byは、光路合成ミラー14yで反射されてミラー15へ向かう。光源11mから放射された光束Bmは、光路合成ミラー14mで反射されてミラー15へ向かう。光源11cから放射された光束Bcは、光路合成ミラー14cで反射されてミラー15へ向かう。光源11kから放射された光束Bkは、光路合成ミラー14kで反射されてミラー15へ向かう。ここで、光路合成ミラー14とは各光束の光路を同一方向(x方向)にするように配置された反射部材である。
【0022】
前記ミラー15で反射されたそれぞれの光束は、シリンダレンズ16を透過してポリゴンミラー17の偏向面の近傍で副走査方向zに集光される。ポリゴンミラー17は所定の速度で回転駆動され、それぞれの光束は主走査方向yに偏向走査される。各光束はポリゴンミラー17の回転軸に垂直な面に対して所定の互いに異なる角度で偏向面に入射する。
【0023】
ポリゴンミラー17から各光束の進行方向xに関しては、走査光学系20として、第1走査レンズ21、第2走査レンズ22、第3走査レンズ23y,23m,23c,23k、ミラー24y,24m,24c,24k,25y,25m,25c,26c、平行平板(防塵用ウインドウガラス)28y,28m,28c,28kが配置されている。
【0024】
ポリゴンミラー17の偏向面で同時に偏向されたそれぞれの光束は、第1走査レンズ21及び第2走査レンズ22を透過する。光束Byは、ミラー24yで反射され、第3走査レンズ23yを透過し、さらに、ミラー25yで反射され、平行平板28yを透過して感光体ドラム40y上で結像し、主走査方向yに走査する。光束Bmは、ミラー24mで反射され、第3走査レンズ23mを透過し、さらに、ミラー25mで反射され、平行平板28mを透過して感光体ドラム40m上で結像し、主走査方向yに走査する。光束Bcは、ミラー24cで反射され、第3走査レンズ23cを透過し、さらに、ミラー25c,26cで反射され、平行平板28cを透過して感光体ドラム40c上で結像し、主走査方向yに走査する。光束Bkは、第3走査レンズ23kを透過し、ミラー24kで反射され、平行平板28kを透過して感光体ドラム40k上で結像し、主走査方向yに走査する。
【0025】
前記走査レンズ21,22,23はともに熱可塑性樹脂にて形成されており、該樹脂の光弾性係数は70×10-12[Pa-1]程度の樹脂を用いている。
【0026】
(感光体上における光量むらの低減、図4〜図19参照)
ところで、前記レーザー走査光学装置1A,1B,1Cにおいて、走査レンズ21,22の少なくとも一つは、光学的異方性を有する樹脂からなり、ミラー24は以下の式(1),(2),(3)を満たしている。即ち、
【0027】
|Rpmax−Rp0|<0.5[%] …(1)
0.8<|Rpmax−Rsmax|/|Rp0−Rs0|<1.2 …(2)
β0>30[°] …(3)
【0028】
β0:被走査面上の有効走査域の最大像高へ向かう光束の反射部材への入射角
Rsmax:被走査面上の有効走査域の最大像高へ向かう光束のS偏光反射率
Rpmax:被走査面上の有効走査域の最大像高へ向かう光束のP偏光反射率
Rs0:被走査面上の有効走査域の中心像高へ向かう光束のS偏光反射率
Rp0:被走査面上の有効走査域の中心像高へ向かう光束のP偏光反射率
【0029】
例えば、図1において、ミラー24へレーザー光束が入射する場合、感光体ドラム40上の有効走査域の中心像高へ向かう光束と有効走査域の最大像高へ向かう光束とでは、ミラー24への入射角が異なる。ここで、入射角はミラー24の法線ベクトルと光線ベクトルとのなす角度と定義する。そのため、ミラーの角度特性(入射角に対する反射率特性)に従って、ミラー24において反射率むらが発生する。反射率むらとは、感光体ドラム40上に向かう光束ごとの反射率の差である。また、一般的に、反射率はP偏光反射率とS偏光反射率とに分けられ、反射率むらは入射光束の偏光比率(P偏光とS偏光との比率)が変わっても変化する。
【0030】
光源11から射出された直線偏光の光束は、光学的異方性を有する物質からなる走査レンズ21,22に入射すると、振動方向が互いに直交する二つの平面偏光(P偏光とS偏光)に分かれ、振動方向によって屈折率が異なる(複屈折を生じる)。その結果位相差が発生し、直線偏光の光束は偏光方向が変化したり、楕円偏光に変化する。複屈折のレベルは走査レンズ21,22の場所によって異なるので、光束が通過する場所が異なると、透過後の偏光状態も異なることになる。
【0031】
前記レーザー走査光学装置1A,1B,1Cにおいては、前記式(1)を満たすことにより、感光体ドラム40上の有効走査域の中心像高へ向かう光束と最大像高へ向かう光束とのP偏光反射率の差が0.5%よりも小さくなるので、角度特性(入射角に対する反射率特性)により反射率むらが小さくなる。さらに、前記式(2)を満たすことにより、感光体ドラム40上の有効走査域の中心像高へ向かう光束と最大像高へ向かう光束との間で、P偏光反射率とS偏光反射率との差の比が小さくなるので、光束通過位置ごとに偏光状態が変化し、反射部材への入射角ごとにP偏光とS偏光との比率が変わった場合も反射率むらの変化を低減することが可能となる。ミラー24における反射率むらの変化を小さくすれば、光量むらの変化も小さくすることが可能になる。一般的なミラー24の角度特性を見ると、ミラー24への入射角β0が30°以下の場合は角度特性が小さく、P偏光反射率とS偏光反射率も小さい。よって、式(1),(2)は式(3)を満たす場合に有効となる。
【0032】
実施例1,4で用いているミラー24の入射角特性を図4に示し、実施例2,3で用いているミラー24の入射角特性を図5に示す。いずれも横軸は入射角、縦軸は反射率を示している。実施例1,4での光学薄膜は5層構成であり、実施例2,3での光学薄膜は3層構成である。比較例1,4として用いたミラー24(光学薄膜は5層)の入射角特性を図6に示し、比較例2,3として用いたミラー24(光学薄膜は3層)の入射角特性を図7に示す。
【0033】
実施例1〜4における各式(1),(2),(3)の値は以下の表1に示すとおりであり、比較例1〜4における各式(1),(2),(3)の値は以下の表2に示すとおりである。
【0034】
【表1】
【0035】
【表2】
【0036】
図8は偏光状態が変化した場合の実施例1でのミラー24における反射率むらを示し、(a)〜(g)は以下の表3に示す偏光状態の違いを表わしている。表3に示す入射位置は、ミラー24に入射する光束の入射位置を示し、COIが有効走査域の中心に向かう光束の入射位置であり、SOI及びEOIが有効走査域の最大像高へ向かう光束の入射位置である。図8に示すように偏光状態が変化すると、ミラー24の反射率むらも変化する。図9は偏光状態が変化した場合の実施例1での感光体ドラム40上の光量むらを示している。
【0037】
図10は、実施例1の光学系においてミラー24を比較例1に置き換えた場合の反射率むらを示し、図11はその場合の感光体ドラム40上の光量むらを示している。図8と図10及び図9と図11を比較すれば、本実施例1では光量むらが低減されていることが明らかである。
【0038】
【表3】
【0039】
また、図12は偏光状態が変化した場合の実施例2でのミラー24における反射率むらを示し、図13はその場合の感光体ドラム40上の光量むらを示している。図14は、実施例2の光学系においてミラー24を比較例2に置き換えた場合の反射率むらを示し、図15はその場合の感光体ドラム40上の光量むらを示している。図12と図14及び図13と図15を比較すれば、本実施例2では光量むらが低減されていることが明らかである。
【0040】
また、図16は偏光状態が変化した場合の実施例3でのミラー24における反射率むらを示し、図17はその場合の感光体ドラム40上の光量むらを示している。
【0041】
図18は、偏光状態が変化した場合の実施例4の光学系において光束Byの光路の感光体ドラム40側に配置されたミラー25yにおける反射率むらを示し、図19はその場合の感光体ドラム40上の光量むらを示している。光束Bm,Bc,Bkの各光路上に配置されているミラー25m,26c,24kにおいても同様の特性を示す。
【0042】
ところで、感光体ドラム40上での光量むらの低減には、入射角β0が40°以上になるミラーに対して適用するとより効果的である。
【0043】
(光学薄膜、図20参照)
反射部材に形成される光学薄膜は、図20に概念的に示すように、基板31上に金属膜32を蒸着し、その上に複数層の光学薄膜33a〜33eを蒸着した構成となっている。以下に示す表4は前記実施例1,4で用いたミラー24,25y,25m,26c,24kの光学薄膜の構成を示し、表5は前記実施例2,3で用いたミラー24の光学薄膜の構成を示している。屈折率1.46に相当する材料としては例えば二酸化珪素(SiO2)、屈折率2.35に相当する材料としては例えば二酸化チタン(TiO2)、屈折率1.38に相当する材料としては例えばフッ化マグネシウム(MgF2)を挙げることができる。
【0044】
【表4】
【0045】
【表5】
【0046】
前記実施例1〜4によれば、反射部材(ミラー24,25y,25m,26c,24k)の反射率特性を適切に設定すること、即ち、前記式(1),(2),(3)を満たすことによって、光学的異方性を有する走査光学素子の影響で反射部材へ入射する光束の偏光状態が変化した場合であっても被走査面上での光量むらの変化を低減できる。走査光学素子に光学異方性を有する物質として熱可塑性樹脂を用いた場合、樹脂成形条件に応じて応力分布が変化すると考えられ、それにより複屈折の発生状態も変化すると想定される。そうなると、走査光学素子を透過後の偏光状態を予測することは困難になるので、前記式(1),(2),(3)を満たす構成が効果的となる。
【0047】
また、前記熱可塑性樹脂の光弾性係数が40×10-12[Pa-1]以上になると、応力分布が変化した場合の複屈折率の発生状態の変化が大きくなり、走査光学素子を透過後の偏光状態を予測することはさらに困難になる。それゆえ、前記式(1),(2),(3)を満たす構成がより効果的となる。
【0048】
また、反射部材は基板上に金属膜及び複数層の光学膜が蒸着されたものであり、最も空気側の層の光学膜厚が1/4λより大きく、2/5λより小さいこと(λ:レーザー光束の波長)が好ましい。このような光学薄膜の構成であれば、95%以上の高い反射率を維持しつつ、被走査面上での光量むらの変化を低減することができる。
【0049】
なお、本発明に係るレーザー走査光学装置は前記実施例に限定するものではなく、その要旨の範囲内で種々に変更できる。
【0050】
特に、レーザー走査光学装置において光路を構成する各種光学素子の種類、形状、配置関係は任意である。
【産業上の利用可能性】
【0051】
以上のように、本発明は、レーザー走査光学装置に有用であり、特に、光学的異方性を有する走査光学素子の影響で反射部材へ入射する光束の偏光状態が変化した場合であっても被走査面上での光量むらの変化を低減できる点で優れている。
【符号の説明】
【0052】
1A,1B,1C…レーザー走査光学装置
10…光源光学系
11…光源
17…ポリゴンミラー
21,22,23…走査レンズ
24,25y,25m,26c,24k…ミラー
40…感光体ドラム
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直線偏光しているレーザー光束を射出する光源手段と、
前記光源手段から発せられた光束を偏向走査する偏向手段と、
前記偏向手段により偏向された光束を被走査面上に結像させる走査光学素子と、
前記偏向手段と前記被走査面との間に設けられ、前記偏向手段により偏向された光束を副走査方向に折り返す反射部材と、
を備えたレーザー走査光学装置において、
前記反射部材より前記偏向手段側に配置された前記走査光学素子の少なくとも一つは、光学的異方性を有する物質からなり、
前記反射部材が以下の式(1),(2),(3)を満たすこと、
|Rpmax−Rp0|<0.5[%] …(1)
0.8<|Rpmax−Rsmax|/|Rp0−Rs0|<1.2 …(2)
β0>30[°] …(3)
β0:被走査面上の有効走査域の最大像高へ向かう光束の反射部材への入射角
Rsmax:被走査面上の有効走査域の最大像高へ向かう光束のS偏光反射率
Rpmax:被走査面上の有効走査域の最大像高へ向かう光束のP偏光反射率
Rs0:被走査面上の有効走査域の中心像高へ向かう光束のS偏光反射率
Rp0:被走査面上の有効走査域の中心像高へ向かう光束のP偏光反射率
を特徴とするレーザー走査光学装置。
【請求項2】
前記光学的異方性を有する物質は熱可塑性樹脂であること、を特徴とする請求項1に記載のレーザー走査光学装置。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂の光弾性係数が40×10-12[Pa-1]以上であること、を特徴とする請求項2に記載のレーザー走査光学装置。
【請求項4】
前記反射部材は基板上に金属膜及び複数層の光学膜が蒸着されたものであり、最も空気側の層の光学膜厚が1/4λより大きく、2/5λより小さいこと(λ:レーザー光束の波長)、を特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のレーザー走査光学装置。
【請求項5】
前記光学膜が5層であること、を特徴とする請求項4に記載のレーザー走査光学装置。
【請求項1】
直線偏光しているレーザー光束を射出する光源手段と、
前記光源手段から発せられた光束を偏向走査する偏向手段と、
前記偏向手段により偏向された光束を被走査面上に結像させる走査光学素子と、
前記偏向手段と前記被走査面との間に設けられ、前記偏向手段により偏向された光束を副走査方向に折り返す反射部材と、
を備えたレーザー走査光学装置において、
前記反射部材より前記偏向手段側に配置された前記走査光学素子の少なくとも一つは、光学的異方性を有する物質からなり、
前記反射部材が以下の式(1),(2),(3)を満たすこと、
|Rpmax−Rp0|<0.5[%] …(1)
0.8<|Rpmax−Rsmax|/|Rp0−Rs0|<1.2 …(2)
β0>30[°] …(3)
β0:被走査面上の有効走査域の最大像高へ向かう光束の反射部材への入射角
Rsmax:被走査面上の有効走査域の最大像高へ向かう光束のS偏光反射率
Rpmax:被走査面上の有効走査域の最大像高へ向かう光束のP偏光反射率
Rs0:被走査面上の有効走査域の中心像高へ向かう光束のS偏光反射率
Rp0:被走査面上の有効走査域の中心像高へ向かう光束のP偏光反射率
を特徴とするレーザー走査光学装置。
【請求項2】
前記光学的異方性を有する物質は熱可塑性樹脂であること、を特徴とする請求項1に記載のレーザー走査光学装置。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂の光弾性係数が40×10-12[Pa-1]以上であること、を特徴とする請求項2に記載のレーザー走査光学装置。
【請求項4】
前記反射部材は基板上に金属膜及び複数層の光学膜が蒸着されたものであり、最も空気側の層の光学膜厚が1/4λより大きく、2/5λより小さいこと(λ:レーザー光束の波長)、を特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のレーザー走査光学装置。
【請求項5】
前記光学膜が5層であること、を特徴とする請求項4に記載のレーザー走査光学装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2013−33121(P2013−33121A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−168959(P2011−168959)
【出願日】平成23年8月2日(2011.8.2)
【出願人】(303000372)コニカミノルタビジネステクノロジーズ株式会社 (12,802)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年8月2日(2011.8.2)
【出願人】(303000372)コニカミノルタビジネステクノロジーズ株式会社 (12,802)
【Fターム(参考)】
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