説明

レーザー走査方法

【課題】回路コストを上昇させることなく、主走査方向の各色の部分倍率を修正し、色ずれを目立たなくする。
【解決手段】 各像の主走査上の画素位置の正規の位置からのずれ量に基づき、主走査上の画素位置の補正を行うにあたり、各像の画素位置の補正量を、いずれかの像の前記ずれ量の最大値と最小値から求める。具体的には、各像の主走査上の画素位置を、いずれかの像の前記ずれ量の最大値と最小値の中間値に合わせるように補正するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、レーザー走査方法に関し、特に、タンデム方式のカラー画像の形成に用いられ、複数のレーザービームを感光体上に走査することにより各レーザービームに対応した複数の像を画素単位で形成するレーザー走査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式の画像形成装置に使用されるLSU(レーザー・スキャニング・ユニット)は、その光学系の歪み等によって、主走査方向の倍率が必ずしも100%となっておらず、計算上100%となる一定周波数のクロックでレーザーを変調して像形成を行った場合には、部分的な倍率のずれによって形成される画素位置が正規の位置からずれ、特にタンデム方式のカラー画像の場合には、色毎の光学系の特性の差から、色ずれが発生するという問題があった。
【0003】
そのため従来から、あらかじめジグ等でLSUの主走査方向各部での画素位置を測定して補正値として記憶しておき、像形成時には記憶された補正値により主走査方向の画素位置を補正し、部分倍率が100%となるように(すなわち、画素位置が正規の位置になるように)する方法等が提案されている(例えば特許文献1〜3参照。)。この補正は、PLL(位相同期回路)を用いてクロックの周波数を主走査の1ラインにおいて部分的に補正することによって実現される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−174917号公報
【特許文献2】特開2001−201702号公報
【特許文献3】特開2006−198896号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、この方法では、画素位置のずれ量にかかわらず、補正のターゲット位置が一律に決まってしまい、補正量が絶対量で規定されるので、補正量の範囲を大きく確保しなければならない。また、精度良く補正するためには、補正量の単位を細かく設定しなければならない。
【0006】
細かな単位で比較的大きな範囲の補正量が安定して得られるようにPLLを構成しようとすると、高性能な部品の使用や、場合によっては使用する周波数レンジに応じて複数の設定が異なる回路を切り換えて使用するといった対応が必要となり、回路コストの上昇を招くという問題があった。
【0007】
また補正量の範囲は、LSUのばらつきを考慮して決定する必要があり、更にはLSUの温度変化によって光学系が膨張して必要な補正量が変化する為に、温度範囲まで考慮して周波数の可変範囲を想定する必要があり、必然的に周波数可変範囲を広く設定して更に回路負担が増すといった問題があった。
【0008】
この発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、回路コストを上昇させることなく、各色の主走査上の画素位置を修正し、色ずれを目立たなくすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明では、複数のレーザービームを感光体上に走査することにより各レーザービームに対応した複数の像を画素単位で形成するレーザー走査方法において、各像の主走査上の画素位置の正規の位置からのずれ量に基づき、主走査上の画素位置の補正を行うにあたり、各像の画素位置の補正量を、複数の像における前記ずれ量の最大値と最小値から求めることを特徴とする。
【0010】
この方法によれば、各像間のずれが無くなるように各像の主走査上の画素位置が相対的に補正される。したがって、補正量が相対量で規定されるため、補正量を大きく確保する必要がなくなる。また、補正の精度もそれほど高く要求されないので、補正量の単位を細かく設定する必要がなくなる。
【0011】
具体的には、各像の主走査上の画素位置を、複数の像における前記ずれ量の最大値と最小値の中間値に合わせるように補正するものである。
【0012】
また、いずれかの像の前記ずれ量が所定値を超えるときは、各像の主走査上の画素位置を、複数の像における前記ずれ量の最大値と最小値の中間値に合わせるように補正し、いずれの像の前記ずれ量も所定値を超えないときは、各像の主走査上の画素位置を、正規の位置に合わせるように補正するようにしても良い。この場合、画素位置のずれ量が極めて大きい場合でも各像間のずれが無くなるように補正されるので、目につきやすい色ずれを防止でき、光学的精度が低いLSUでも画質を確保できる。
【発明の効果】
【0013】
この発明によると、回路コストを上昇させることなく、各色の主走査上の画素位置を修正し、色ずれを目立たなくすることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1(a)はLSUを模式的に示す概略平面図であり、図1(b)はLSUの光学系の最後に位置するミラー、感光体ドラム、および転写ベルトの配置関係を説明する概略斜視図である。
【図2】図2(a)は主走査上の定点に各色の像が副走査方向に連続して形成される理想的な画素パターン図である。図2(b)は光学系のゆがみ等により各色の像形成位置が主走査方向にずれることを模式的に説明する画素パターン図である。図2(c)は、図2(a)、(b)の画素パターンにおいてブラックの像の主走査上の部分倍率の変化を示す図である。
【図3】PLLの回路構成を示す回路ブロック図である。
【図4】主走査方向における各色の像の部分倍率の分布例を示す図である。
【図5】図5(a)は本発明方式による主走査位置と各色の像の部分倍率の補正量の関係を説明する図である。図5(b)は従来方式による主走査位置と各色の像の部分倍率の補正量の関係を説明する図である。
【図6】図6(a)は本発明方式による主走査方向における各色の像の部分倍率の補正結果を示す図である。図6(b)は従来方式による主走査方向における各色の像の部分倍率の補正結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明をタンデム方式のフルカラー複写機に応用した場合を例にして図面を参照しながら説明する。
【0016】
図1(a)は本発明の一実施形態に係るLSUを模式的に示す概略平面図であり、図1(b)はLSUの光学系の最後に位置するミラー、感光体ドラム、転写ベルトの配置関係を説明する概略斜視図である。
【0017】
図1(a)に示すように、LSU100は、主として、レーザー発振器1A〜1D、コリメータレンズ2,3、ミラー4、回転多面鏡5、fθレンズ6,7、光センサ8、ミラー9、およびミラー10A〜10Dを備える。
【0018】
また、図1(b)に示すように、ミラー10A〜10Dに対応して感光体ドラム11A〜11Dがそれぞれ中間転写ベルト12上に並んで配置される。像形成は、図の左から、Y(イエロー)、M(マゼンタ)、C(シアン)、K(ブラック)の順で行われる。つまり、それぞれ4つある半導体レーザー素子1A〜1D、ミラー10A〜10D、および感光体ドラム11A〜11Dは、後述するように、これら4色の各色の像形成に関係している。
【0019】
図1(a)に示すように、レーザー発振器1A〜1Dからは画像データに応じて変調されたレーザー光が射出され、コリメータレンズ2、3、およびミラー4を介して回転多面鏡5に入射される。回転多面鏡5で反射されたレーザー光はfθレンズ6、7を通ってミラー10A〜10Dで反射され、各感光体ドラム11A〜11Dを露光する。感光体ドラム11A〜11D周辺には、図示しない帯電、現像、クリーニングを行うユニットが配置されており、感光体ドラム11A〜11D上に形成された静電潜像が各色のトナーによって可視化され、転写ベルト12上に転写される。
【0020】
各感光体ドラム11A〜11Dへの露光開始タイミングは、各感光体ドラム11A〜11Dが配されている副走査上の位置に応じて制御され、転写ベルト12上で各色のトナー像が合成され、カラー画像が形成される。主走査方向の開始側に設けられたミラー9で反射されたレーザー光は光センサ8に入射し、1ライン毎の露光開始タイミングを示すBD信号を出力する。
【0021】
次に、上記のように構成されるLSU100の動作で生ずる色ずれの補正について図2〜図6を参照して説明する。
【0022】
まず、図2を用いて主走査方向について部分倍率と色ずれの関係を説明する。図2(a)は主走査上の定点に各色の像が副走査方向に連続して形成される理想的な画素パターン図である。この図において、20Aは主走査上の最初の画素パターン、22Aは主走査上の最後の画素パターン、21Aはその間の画素パターンを示している。
【0023】
図2(a)に示すように、理想的には主走査上のどの部分をとっても最終的に形成される像の倍率(すなわち、各画素パターン間の距離に相当。)は100%であるべきである。しかし、現実にはLSUの光学系のゆがみ等によって、主走査上の各部の部分倍率が変化する。そして、光学系のパスは各色毎に異なることから、色毎に部分倍率の変化も異なる。これにより、主走査上の位置によって色ずれ量が変化する。
【0024】
この色ずれは主走査の開始位置および終了位置においても起こるが、主走査方向の平均倍率と最初の有効画素パターンの位置を調整することで、最初の画素パターンと最後の画素パターンでは、各色の像の画素位置が一致するように調整することが可能となる。
【0025】
図2(b)はその調整後の画素パターンを示している。平均倍率はレーザー光を画像データに応じて変調するクロックの周波数をPLLで微調整することで行われるが、通常は、1ページの像形成中は一定の周波数であり、主走査の画素位置によって変化されない。すなわち、像の部分倍率は変更されない。最初の画素パターン20Bの位置調整はBD信号から露光を開始するまでのクロック数を調整することで行われる。
【0026】
図2(b)では、部分倍率が補正されていないので、最初の画素パターン20Bと最後の画素パターン22B以外、すなわちパターン21Bは位置がずれ、色ずれが発生して画質低下をきたしている。
【0027】
これを避けるには、各色毎の部分倍率をあらかじめジグ等で測定し、測定結果に応じて各部分倍率をすべて100%となるように調整すれば色ずれを補正できる。通常は光学系自体を個々に修正することは困難であるため、上記PLLで微調整されたクロック周波数を、更に前記測定結果に応じて1ライン中で周波数を変化させ、色ずれの補正をかける。
【0028】
図2(c)はブラックの画素間の距離(部分倍率)が、正規(100%の部分倍率で像形成できた場合)の距離からどれだけずれているかをプロットしたものであり、このずれ量に応じた逆補正をクロック周波数にかければ、パターン21Bも正規の位置に形成される。
【0029】
図3は、レーザー変調用クロックを生成するためのPLLの回路ブロック図の一例である。図3に示すように、基準発振器36からのクロックは、第1分周器37により適宜分周され、位相比較器39に入力される。位相比較器39の他方の入力には、第1VCO(電圧制御発振器)41が出力するクロックが第2分周器38により分周されて入力されており、基準発振器36と第1VCO41との周波数が一定比率となるように位相比較出力がフィルタ40に入力される。フィルタ40の出力により第1VCO41の発振電圧が制御されると共に、同じ電圧がアナログ電圧加算器33に入力される。
【0030】
補正値メモリ30には、あらかじめジグなどで測定された部分倍率の補正値が書き込まれており、LSUからの露光開始タイミングを示すBD信号により、補正値読み出し回路31が補正値の読み出しを開始する。読み出された補正値はD/A変換器32によりアナログ値に変換され、電圧加算器33の他方の入力に与えられる。これにより、電圧加算器33の出力電圧値はフィルタ40の出力値に補正値分を加えた値となる。第2VCO34は第1VCO41と特性が揃ったものとなっており、電圧加算器33の出力電圧によって、第1VCO41の発振周波数に補正値分だけシフトした周波数で発振をする。
【0031】
第2VCO34の出力はレーザー変調回路35に入力され、部分倍率が補正されたクロックによって像形成が行われる。ここでは、第1VCO41により前記主走査方向の平均倍率を調整し、第2VCO34で部分倍率を補正している。補正値読み出し回路31で補正値メモリ30からの読み出しをせずに±0の値を出力するように制御した場合には、第1VCO41と第2VCO34とは同じ周波数となるように制御され、平均倍率のみでの像形成が可能となる。
【0032】
実際の光学系の単位距離あたりの部分倍率変化量は微小であるが、高解像度での像形成を行う場合には主走査方向の画素数(換言すれば、クロック数)が多くなるため、累積された倍率は比較的大きなものとなる。そのため、小刻みなステップで大きな最大変化量を確保する必要があり、フィルタやVCO、D/A変換器などの性能を高める必要があった。
【0033】
図4は、主走査上各部の部分倍率の分布例を示す。一般的に、回転多面鏡等を各色で共用していること、また場合によっては各色の光学部品を同じ金型で作成することから、図4に示すように各色の部分倍率の分布が同じ傾向を示すことが多い。そのため主走査上のある一点を見た場合、各色の部分倍率の最大値と最小値の差は比較的小さくなる傾向がある。
【0034】
図5(b)は、従来方式である、部分倍率が常に100%に補正されるように補正した場合に必要な補正量を示す。図6(b)はこの従来技術の方式で補正した場合、主走査上各部の実際の部分倍率を示す。これらの図に示すように、従来技術の方式のようにどの部分も倍率が100%となるように補正した場合は、各色のずれの最大と最小をカバーする必要があり、図5(b)に示すように±4%程度の補正量の範囲の確保が必要である。
【0035】
図5(a)は本発明の方式である、各色の部分倍率の最大値・最小値から求められる中央値に合わせるように補正した場合に必要となる補正量を示す。図6(a)は本発明の方式で補正した場合の、主走査上各部の実際の部分倍率を示す。これらの図に示すように、本発明の方式では、主走査上の同じ位置での各色の像の画素位置のずれ量の最大値と最小値から中央値を求め、中央値をターゲットとして補正量を決定している。このため、図5(a)に示すように、本発明の方式では必要な補正量の範囲±2%程度に低減される。これにより、図3に示すようなPLLによるクロックの生成回路での可変範囲を小さくでき、フィルタやVCO、D/Aの回路性能を抑えることが可能となる。したがって、回路コストの低減、回路の応答が不安定になって画質の低下をきたすといった不具合を避けることができる。
【0036】
なお、本発明では補正後の部分倍率を100%に設定していないため、図6(a)に示すように主走査上各部分での倍率が変化するが、これらは急激に倍率が変化するわけではなく、また100%からのずれ量もわずかなため、人の目の特性から、画質に影響を与えることはない。一方、各色の画素位置がずれた場合には、人の目の特性から大きな画質の低下が起こるが、本発明では各色の画素位置が揃うように補正されるため、そのような不具合は発生しない。
【0037】
なお、ここでは各色の画素位置の補正量の最大値と最小値から求めた中央値を補正目標値としているが、搭載されているPLL回路の補正可能範囲と、搭載されているLSUの部分倍率はあらかじめ判明しており、LSUの部分倍率は個々のユニットばらつきによって変わるため、例えば、いずれの像も部分倍率100%からの変化量が所定値を超えなければ図5(b)に示したように部分倍率をすべて100%に補正をするように補正量を設定し、いずれかの像の部分倍率の100%からの変化量が所定値を超えれば、図5(a)に示したように中央値に補正量を設定するように構成してもよい。
【0038】
また温度による光学系の膨張に対応するために、例えばLSU内に温度センサを設け、温度センサの出力値によって補正量を変えるような場合にも、変更された補正量から100%に補正できるかどうかを判定し、可能な場合には100%に補正し、不可能な場合には本発明の方法を適用することが有効である。
【0039】
また補正値の計算については、ジグ等で部分倍率を測定した際にパソコン等で計算して補正値メモリに書き込むようにしてもよく、LSU内の温度に応じて再計算するのであれば、ジグでは基本補正値を補正値メモリに書込み、実際の補正量は画像形成装置を制御するCPUで行ってもよい。
【0040】
上述の実施形態の説明は、すべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上述の実施形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。さらに、本発明の範囲には、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0041】
1A〜1D…レーザー発振器
11A〜11D…感光体ドラム
12…転写ベルト
100…LSU(レーザスキャニングユニット)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のレーザービームを感光体上に走査することにより各レーザービームに対応した複数の像を画素単位で形成するレーザー走査方法において、各像の主走査上の画素位置の正規の位置からのずれ量に基づき、主走査上の画素位置の補正を行うにあたり、各像の画素位置の補正量を、複数の像における前記ずれ量の最大値と最小値から求めることを特徴とするレーザー走査方法。
【請求項2】
各像の主走査上の画素位置を、複数の像における前記ずれ量の最大値と最小値の中間値に合わせるように補正することを特徴とする請求項1に記載のレーザー走査方法。
【請求項3】
いずれかの像の前記ずれ量が所定値を超えるときは、各像の主走査上の画素位置を、複数の像における前記ずれ量の最大値と最小値の中間値に合わせるように補正し、
いずれの像の前記ずれ量も所定値を超えないときは、各像の主走査上の画素位置を、正規の位置に合わせるように補正することを特徴とする請求項1に記載のレーザー走査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−192588(P2012−192588A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−57591(P2011−57591)
【出願日】平成23年3月16日(2011.3.16)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】