説明

レーザ光出射装置およびレーザ光の中心波長および波長帯域幅の変更方法

【課題】レーザ出射光の中心波長および波長帯域幅を変更すること。
【解決手段】レーザ光出射装置2は、レーザ光を生成するレーザ生成部10と、生成されたレーザ光L1の光路上に並んで配置され、当該レーザ光の入射角度に応じて、透過したレーザ光の中心波長がシフトする特性を有する一対の光学フィルタ31A,31Bと、一対の光学フィルタの少なくとも一方を、光路に交差する所定方向に沿った軸Zを中心に変位させる変位機構32と、一対の光学フィルタを透過したレーザ光を外部に出射するレーザ出射部13と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、出力光の中心波長およびバンドパス幅を調整するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、レーザ光を測定対象に照射し測定対象を分析する分析装置の光源として、レーザ光出射装置が利用されることがある。この場合、レーザ光出射装置は、広い波長帯域(換言すればスペクトル形状)のレーザ光を出射することが好ましい。即ち、分析装置は、広い波長帯域のレーザ光を測定対象に照射し、その反射光や透過光をグレーティングミラー等で波長成分に空間的に分解したり、干渉計で周波数成分にフーリエ変換したりして分析するからである。そして、様々な種類の測定対象について適切な分析をするために、レーザ出射光の中心波長を変更可能とすることが好ましい。
【0003】
そこで、従来より、光サーキュレータおよびバンドパスフィルタ等を利用して、レーザ出射光の中心波長を選択設定することができる技術がある(特許文献1参照)。
【0004】
また、レーザ加工装置の光源として、レーザ光出射装置が利用されることもある。この場合、レーザ加工装置は、狭い波長帯域幅(特に単一波長)のレーザ光を出射することが好ましい。広い波長帯域幅のレーザ出射光では、焦点を絞り切れず、加工品質が低下するおそれがあるからである。そして、加工対象物の材質によって光の吸収波長が異なるため、やはり、レーザ出射光の中心波長を変更可能とすることが好ましい。
【0005】
このようにレーザ光出射装置は、分析装置やレーザ加工装置など様々な用途に使用されるため、その用途に応じて波長帯域幅を変更することができることが好ましい。また、各用途においてレーザ光の中心波長を変更することができることが好ましい場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−347668号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本明細書は、レーザ出射光の中心波長および波長帯域幅を変更することが可能な新たな技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るレーザ光出射装置は、レーザ光を生成するレーザ生成部と、前記レーザ生成部により生成されたレーザ光の光路上に並んで配置され、当該レーザ光の入射角度に応じて、透過したレーザ光の中心波長がシフトする特性を有する、一対の光学フィルタと、前記一対の光学フィルタの少なくとも一方を、前記光路に交差する所定方向に沿った軸を中心に変位させる変位機構と、前記一対の光学フィルタを透過したレーザ光を外部に出射するレーザ出射部と、を備える。
【0009】
この構成によれば、一対の光学フィルタの少なくとも一方を変位させることにより、中心波長を変更したり、波長帯域幅を変更したりすることができる。
【0010】
上記レーザ光出射装置は、前記レーザ生成部が、一部または全部に光増幅用光ファイバを含む光ファイバケーブルを有し、前記レーザ出射部は、前記光ファイバケーブルの一端から出力され増幅されたレーザ光の一部を外部に出射し、残りを前記光ファイバケーブルの他端に入力する構成であり、前記一対の光学フィルタは、前記光ファイバケーブルの前記一端から前記他端への光路上において、前記レーザ出射部の下流側に配置されている構成でもよい。
【0011】
この構成によれば、一対の光学フィルタは、光ファイバケーブルの一端から他端への光路上において、レーザ出射部の下流側に配置されている。従って、一対の光学フィルタをレーザ出射部の上流側に配置する構成に比べて、光学フィルタの変位に応じてレーザ出射部からのレーザ光の出射位置が変位することを抑制することができる。
【0012】
上記レーザ光出射装置は、前記レーザ出射部は、第1波長板と、第1ビームスプリッタとを有し、前記第1波長板は、前記増幅されたレーザ光の一の偏光面を、前記第1ビームスプリッタの反射偏光面に合わせるよう位相を変更し、
前記第1ビームスプリッタは、前記波長板からのレーザ光の一部を反射させて外部に出射する構成でもよい。
【0013】
この構成により、波長板(位相板)およびビームスプリッタの配置関係により、光ファイバケーブルの一端から出力され増幅されたレーザ光から、所定の偏光面を有する光量を取り出して、外部に出射することができる。
【0014】
上記レーザ光出射装置は、前記光路上において、前記レーザ出射部の上流側に配置される波長板およびビームスプリッタを有するノイズ除去部を有し、前記第2波長板は、前記増幅されたレーザ光の一の偏光面を、前記第2ビームスプリッタの反射偏光面に一致させるよう位相を変更し、前記第2ビームスプリッタは、前記第2波長板からのレーザ光の一部を反射させてノイズとして除去する構成でもよい。
【0015】
この構成によれば、第2ビームスプリッタの反射偏光面に一致しない偏光面を有するレーザ光の成分を、ノイズとして除去することができる。
【0016】
上記レーザ光出射装置は、前記レーザ光の中心波長および波長帯域幅を設定する第1設定部と、前記レーザ光の中心波長およびバンドパス幅についての複数の組合せパターンと、前記レーザ光を前記複数の組合せパターンそれぞれに設定するための前記一対の光学フィルタについての複数の位置関係との第1対応関係情報が記憶される第1メモリと、前記第1対応関係情報を参照し、前記設定部にて設定された中心波長および波長帯域幅に対応する前記一対の光学フィルタの位置関係を求め、当該位置関係になるように前記一対の光学フィルタの少なくとも一方を変位させるよう前記変位機構を制御する第1制御部と、を備える構成でもよい。
【0017】
この構成によれば、所望の中心波長および波長帯域幅を設定部にて設定することにより、自動で、一対の光学フィルタを適切な位置関係にすることができる。
【0018】
上記レーザ光出射装置は、前記レーザの照射対象物の種類を設定する第2設定部と、前記照射対象物の複数の種類と、前記レーザ光を、前記複数の種類それぞれの照射対象物を照射するのに適した中心波長およびバンドパス幅に設定するための前記一対の光学フィルタについての複数の位置関係との第2対応関係情報が記憶される第2メモリと、前記第2対応関係情報を参照し、前記設定部にて設定された中心波長および波長帯域幅に対応する前記一対の光学フィルタの位置関係を求め、当該位置関係になるように前記一対の光学フィルタの少なくとも一方を変位させるよう前記変位機構を制御する第2制御部と、を備える構成でもよい。
【0019】
この構成によれば、照射対象物の種類を設定部にて設定することにより、自動で、一対の光学フィルタを適切な位置関係にすることができる。
【0020】
上記レーザ光出射装置は、前記一対の光学フィルタはいずれも変位可能であって、前記一対の光学フィルタを同じ角度だけ同方向に変位させることにより前記レーザ光の中心波長をシフトさせ、前記一対の光学フィルタの間の相対角度を変位させることにより前記レーザ光の波長帯域幅をシフトさせるよう、前記変位機構を制御する第3制御部を備える構成でもよい。
【0021】
この構成によれば、中心波長と波長帯域幅を自動で調整することができる。照射対象物の種類を設定部にて設定することにより、自動で、一対の光学フィルタを適切な位置関係にすることができる。
【0022】
上記レーザ光出射装置は、前記光学フィルタは、誘電体多層膜バンドパスフィルタである構成でもよい。
【0023】
誘電体多層膜バンドパスフィルタは、一般に複屈折フィルタに比べて厚さを薄くできるので、レーザ光の出射位置(光軸)のオフセットを抑制することができる。
【0024】
レーザ光の中心波長および波長帯域幅の変更方法は、レーザ光の光路上に、当該レーザ光の入射角度に応じて、透過したレーザ光の中心波長がシフトする特性を有する、一対の光学フィルタを並べて配置し、前記一対の光フィルタの少なくとも一方を、前記光路に交差する所定方向に沿った軸を中心に変位させることにより、前記一対の光フィルタを透過したレーザ光の中心波長および波長帯域幅の少なくとも一方を変更する。
【0025】
この構成によれば、一対の光学フィルタの少なくとも一方を変位させることにより、中心波長を変更したり、波長帯域幅を変更したりすることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、レーザ出射光の中心波長および波長帯域幅を変更することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】一実施形態に係るレーザマーキング装置1の全体構成の概略図
【図2】レーザ光出射装置2の構成の概略図
【図3】各バンドパスフィルタについて入射角度と中心波長およびハンドパス幅との関係を示す模式図(その1)
【図4】各バンドパスフィルタについて入射角度と中心波長およびハンドパス幅との関係を示す模式図(その2)
【図5】各バンドパスフィルタについて入射角度と中心波長およびハンドパス幅との関係を示す模式図(その3)
【図6】各バンドパスフィルタについて入射角度と中心波長およびハンドパス幅との関係を示す模式図(その4)
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の一例である実施形態について図1〜図6を参照しつつ説明する。本実施形態は、レーザマーキング装置に本発明のレーザ光出射装置の一例を適用したものである。
【0029】
1.レーザマーキング装置の全体構成
図1は、本実施形態のレーザマーキング装置1の全体構成の概略図である。同図において、符号2は、レーザ光出射装置(レーザ光出射装置の一例であって、ここから出射されたレーザ光L1はガルバノスキャナ3によって向きが変更される。ガルバノスキャナ3は、第1及び第2のガルバノミラー3V,3Wと、それらの各ガルバノミラー3V,3Wが回転軸に取り付けられた駆動モーター(図示せず)を備えた駆動部3X,3Yとを備え、前記駆動部3X,3Yの駆動モーターに座標データとしての電圧信号を与えると、その電圧信号のレベルに応じた角度に各ガルバノミラー3V,3Wが回動する。
【0030】
そして、第1ガルバノミラー3Vでレーザ光L1が、所定方向(これを「X方向」という)に振られると共に、第2ガルバノミラー3Wで、その所定方向と直交する方向(これを「Y方向」という)に振られて、これにより、レーザ光L1のマーキング対象物W上における照射点MPが、X方向とY方向の2次元方向で、所望の位置に走査され、マーキング対象物W上に所定のパターンがマーキングされる。
【0031】
2.レーザ光出射装置の構成
図2は、レーザ光出射装置2の構成の概略図である。レーザ光出射装置2は、一部に希土類(例えばYbなど)ドープファイバF1(光増幅用光ファイバの一例)を含み、リング状に構成された光ファイバケーブルFを備える、いわゆるリングレーザである。
【0032】
具体的には、レーザ光出射装置2は、レーザ伝達部10(レーザ生成部の一例)、光抽出部11、レーザ出射量調整部12(レーザ出射部の一例)、波長調整部13、レーザ戻し部14を備える。
【0033】
レーザ伝達部10は、前述した光ファイバケーブルF、ファイバカプラ21、励起用光源(例えばレーザダイオード)22を有する。光ファイバケーブルFは、希土類ドープファイバF1の両端に、希土類が混入されていない光ファイバF2,F3(非増幅用光ファイバ)が、例えばファイバ融着により、それぞれ接続されたものである。光ファイバF2の一端F2A(「光ファイバケーブルの他端」の一例)は、上記レーザ戻し部14から戻されたレーザ光L2(以下、戻り光L2という)の入力面とされ、光ファイバF2の他端は、希土類ドープファイバF1の一端に接続されている。
【0034】
また、光ファイバF2の途中にはファイバカプラ21が設けられ、励起用光源22から出力された励起用レーザ光(種光)L3は光ファイバF4(非増幅用光ファイバ)を介してファイバカプラ21に入力され、当該ファイバカプラ21にて励起用レーザ光L3と、光ファイバF2から伝達される戻り光L2とが合流する。
【0035】
そして、その合流したレーザ光L2、L3は、希土類ドープファイバF1にて自然放出および誘導放出により増幅され、その増幅されたレーザ光(「レーザ生成部により生成されたレーザ光」の一例 以下、増幅レーザ光L4という)は光ファイバF3に入力される。光ファイバF3の一端F3A(「光ファイバケーブルの一端」の一例)は、出力面とされ、当該出力面から増幅レーザ光L4が出力される。なお、この増幅レーザ光L4は、光強度が周期的に変化するレーザ光(換言すれば、光強度が高い波形と低い波形とが交互に繰り返されるレーザ光)を有する。
【0036】
光抽出部11(ノイズ除去部の一例)は、上記増幅レーザ光L4から、光強度が低いレーザ光L6をノイズ成分として除去し、光強度が高いレーザ光L7だけを抽出する。具体的には、光抽出部11は、コリメータレンズ25、1/4波長板26、1/2波長板27および偏光ビームスプリッタ(PBS)28を有する。増幅レーザ光L4は、光ファイバF3を伝達する際、光カー効果(例えば光カー効果としては特許第3257139号に示されている)により、光強度が高いレーザ光ほど屈折率が変化し、互いに直交する成分に位相差が生じる。これは、(楕円)偏光面が回転する非線形偏波回転が生じるためである。非線形偏波回転が生じたレーザ光L6は、コリメータレンズ25により平行光L5に変換される。
【0037】
1/4波長板26および1/2波長板27は、平行光L5のうち光強度が高いレーザ光L7の偏光面の向きを調整することにより、光強度が高いレーザ光L7は偏光ビームスプリッタ28を透過し、光強度が低いレーザ光L6は偏光ビームスプリッタ28を反射するようにする。
【0038】
レーザ出射量調整部12は、レーザ光L7の一部を前述したレーザL1として外部に出射する。具体的には、レーザ出射量調整部12は、1/2波長板29および偏光ビームスプリッタ(PBS)30を有する。1/2波長板29は、図示しない支持部材により回転可能に支持され、レーザ光L1として出射したい光量に応じてレーザ光L7の偏光面を回転させることができる。偏光ビームスプリッタ30は、1/2波長板29の回転角度に応じた光量分(例えば数%)だけ反射させ、レーザ光L1として出射する。即ち、1/2波長板29を回転させることにより、レーザ光L1の出射量を調整することができる。
【0039】
波長調整部13は、偏光ビームスプリッタ30を透過したレーザ光L8の中心波長および波長帯域幅の少なくとも一方を変更可能な構成を有する。具体的には、波長調整部13は、一対の誘電体多層膜バンドパスフィルタ(「光学フィルタ」の一例)および変位機構32を有する。
【0040】
誘電体多層膜バンドパスフィルタは、例えば半波長相当の厚みを持つ共振器層を、屈折率が異なる2種の1/4波長膜の交互積層からなる誘電体高反射率コートでサンドイッチした層構造を持つ(以下、単に「バンドパスフィルタ31A,31B」という)。一対のバンドパスフィルタ31A,31Bは、レーザ光8の光路上に並んで配置されている。各バンドパスフィルタ31A,31Bは、変位機構32により、レーザ光8の光路に交差する所定方向に沿った軸を中心に変位可能に支持されている。当該軸は、図2に符号Zを付して例示するように、レーザ光8の光路上に略直交する方向(同図の紙面奥行き方向)に沿っていることが好ましい。波長調整部13の動作については後述する。
【0041】
先に説明した非線形偏波回転を生じさせるためには、直線偏光では、その非線形偏波回転が生じないので、レーザ戻し部14によって非線形偏波回転を生じ易くするために、楕円(円)偏光としている。レーザ戻し部14は、波長調整部13からのレーザ光L9を、光ファイバF2の一端F2Aに戻す。具体的には、レーザ戻し部14は、光アイソレータ33、1/4波長板34および集光レンズ35を有する。光アイソレータ33は、波長調整部13からのレーザ光L9が逆行することを防止し、1/4波長板34は、レーザ光L9を楕円偏光である上記戻り光L2に変換し、集光レンズ35は、その戻り光L2を集光して光ファイバF2の一端F2Aに入力する。
【0042】
以上の構成により、レーザ光出射装置2は、レーザ光をレーザ伝達部10にて増幅させつつ、そのレーザ光の一部を、レーザ出射量調整部12からガルバノスキャナ3に出射する。
【0043】
3.波長調整部の動作
図3〜図6は、各バンドパスフィルタ31A,31Bについて入射角度と、中心波長λCおよびハンドパス幅Dとの関係を示す模式図である。各図のレーザ出力Eと波長の関係グラフ中の「λ0」は、所定の基準波長を示す。
各バンドパスフィルタ31A,31Bは、レーザ光の入射角度に応じて、透過したレーザ光の中心波長がシフトする特性を有する。しかも、中心波長がシフトしてもバンドパス幅(波長帯域幅)は略不変である。
【0044】
図3のように、一対のバンドパスフィルタ31A,31Bに対するレーザ光L8の入射角度が略同一角度(θ1)である場合、両バンドパスフィルタ31A,31Bはいずれも、中心波長が「λ0」で略一致し、ハンドパス幅も「D1」で略一致する。従って、両バンドパスフィルタ31A,31Bを透過したレーザ光L9も中心波長が「λ0」で、波長帯域幅は「D1」である。
【0045】
図4のように、一対のバンドパスフィルタ31A,31Bに対するレーザ光L8の入射角度を共に、図3の上記「θ1」とは異なる「θ2」(<θ1)だけ同方向に変位させると、両バンドパスフィルタ31A,31Bはいずれも、ハンドパス幅は「D1」を維持しつつ、中心波長が「λ0」から「λ1」にシフトする。このように一対のバンドパスフィルタ31A,31Bに対するレーザ光L8の入射角度を、共に同じ角度分だけ同方向に変位させることにより、図3に示す変位前に対し、レーザ光L9の波長帯域幅を変えずに、中心波長だけをシフトさせることができる。
【0046】
図5のように、一対のバンドパスフィルタ31A,31Bに対するレーザ光L8の入射角度を、上記「θ2」だけ互いに逆方向に変位させると、両バンドパスフィルタ31A,31Bはいずれも、ハンドパス幅は「D1」を維持しつつ、中心波長が「λ0」から互いに異なる「λ1」「λ2」にそれぞれシフトする。その結果、図3に示す変位前に比べて、レーザ光L9の波長帯域幅は「D1」から「D2」(<D1)に変位するが、中心波長は「λ0」に維持することができる。このように一対のバンドパスフィルタ31A,31Bに対するレーザ光L8の入射角度を、同じ角度分だけ互いに逆方向に変位させることにより、変位前に対し、レーザ光L9の中心波長を変えずに、波長帯域幅だけを変更することができる。
【0047】
図6のように、一対のバンドパスフィルタ31A,31Bの一方(同図ではバンドパスフィルタ31B)に対するレーザ光L8の入射角度だけを、上記「θ2」に変位させると、両バンドパスフィルタ31A,31Bはいずれも、ハンドパス幅は「D1」を維持しつつ、バンドパスフィルタ31Bだけ中心波長が「λ0」から「λ1」にシフトする。これにより、図3に示す変位前に比べて、レーザ光L9の波長帯域幅は「D1」から「D3」に変更し、且つ、中心波長も「λ0」から「λ3」に変更することができる。このように一対のバンドパスフィルタ31A,31Bの一方に対するレーザ光L8の入射角度だけを変位させることにより、変位前に対し、レーザ光L9の中心波長および波長帯域幅の両方を変更することができる。
【0048】
また、図1に示すように、レーザ光出射装置2には、制御部40が設けられている。この制御部40は、設定部41およびメモリ42が接続されている。このメモリ42(第2メモリの一例)には、例えばマーキング対象物Wの種類(例えば材質の相違)と、各種類のマーキング対象物Wをマーキングするのに適したレーザ光L1の中心波長および波長帯域(或いはバンドパスフィルタ31A,31Bの角度)との対応関係情報(対応テーブルでも演算式でもよい 第2対応関係情報の一例)が記憶されている。そして、制御部40は、設定部41(コンソール 第2設定部の一例)からのユーザの入力情報や、マーキング対象物Wの種類を検出するセンサ(図示せず)からの検出情報に基づき、対応関係情報から適切な角度等を抽出し、変位機構32を制御して、バンドパスフィルタ31A,31Bの角度を自動で調整する。このとき、制御部40は、第1制御部および第3制御部として機能する。
【0049】
また、レーザ光出射装置2が、レーザマーキング装置以外の用途(例えば分析装置)に使用される可能性がある場合には、用途と、当該用途に適したレーザ光L1の中心波長および波長帯域(或いはバンドパスフィルタ31A,31Bの角度)との対応関係情報をメモリに記憶しておくことが好ましい。
【0050】
4.本実施形態の効果
本実施形態によれば、一対のバンドパスフィルタ31A,31Bの角度を変位させる、という比較的に簡単な方法で、レーザ光の中心波長を変更したり、波長帯域幅を変更したりすることができる。
【0051】
ここで、レーザ光L8の光路に対し、レーザ光L9の光路は、バンドパスフィルタ31A,31Bの角度変位に応じてオフセットする。このため、仮に、本実施形態とは異なり、一対のバンドパスフィルタ31A,31Bを、光ファイバケーブルFの一端F3Aから他端F2Aへの光路上において、レーザ出射量調整部12の上流側に配置すると、レーザ出射量調整部12からのレーザ光L1の出射光路もオフセットしてしまうおそれがある。
【0052】
そこで、本実施形態では、一対のバンドパスフィルタ31A,31Bは、光ファイバケーブルFの一端F3Aから他端F2Aへの光路上において、レーザ出射量調整部12の下流側に配置されている。これにより、波長調整部13からのレーザ光L9はオフセットし得るが、このレーザ光L9は、当該波長調整部13で調整された中心波長および波長帯域幅を維持した状態で、レーザ戻し部14にて円偏光に変換され、レーザ伝達部10により伝達される。そして、偏光面変換部11により上記オフセットが是正された状態でレーザ出射量調整部12に入力する。従って、バンドパスフィルタ31A,31Bの角度変位によるオフセットの影響を抑制しつつ、レーザ光L1を外部に出射することができる。
【0053】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような種々の態様も本発明の技術的範囲に含まれる。特に、各実施形態の構成要素のうち、最上位の発明の構成要素以外の構成要素は、付加的な要素なので適宜省略可能である。
【0054】
(1)上記実施形態では、レーザマーキング装置1に適用されたレーザ光出射装置2を例に挙げたが、本発明はこれに限られない。例えば前述した分析装置など、他の装置(用途)にレーザ光出射装置2を適用してもよい。
【0055】
(2)上記実施形態では、「レーザ生成部」の一例として、リング状の光ファイバケーブルF1を挙げたが、本発明はこれに限られない。例えば固体レーザ、液体レーザなどでもよい。
【0056】
(3)上記実施形態では、「光学フィルタ」の例として誘電体多層膜バンドパスフィルタを挙げたが、本発明はこれに限られない。互いに屈折率の異なる複数の光学部材を積層して構成された複屈折フィルタでもよい。但し、一般的に、誘電体多層膜バンドパスフィルタは、複屈折フィルタより厚さ(レーザ光L8の光路方向における幅)が小さいため、角度変位によって透過したレーザ光の出力位置がずれることを抑制することができる。
【0057】
(4)上記実施形態では、一対のバンドパスフィルタ31A,31Bの両方の角度を変位可能としたが、本発明はこれに限られない。例えばバンドパスフィルタ31A,31Bのいずれか一方だけの角度を変位可能としても、レーザ出射光の中心波長および波長帯域幅を変更することができる。
【0058】
(5)上記実施形態では、光抽出部11にて光強度が低いレーザ光L6を除去したが、本発明は、これに限られない。用途や装置上、ノイズによる影響が問題にならない場合には、例えば図2の構成のうち、レーザ出射量調整部12を取り除き、1/2波長板27の回転角度に応じて、光強度が高いレーザ光と光強度が低いレーザ光とが混在したレーザ光を、偏光ビームスプリッタ28にて反射させて、上記レーザ光L1として外部に出力する構成でもよい。この場合に、1/2波長板27を、光路に沿った軸を中心に回転可能に支持すれば、当該1/2波長板27の回転角度を変更することによりレーザ光L1の出射光量を調整することができる。
【0059】
(6)上記実施形態では、「レーザ出射部」の一例として、レーザ光の出射量を調整可能なレーザ出射量調整部12を挙げたが、本発明はこれに限られない。レーザ光の出射量を調整不能な構成でもよい。この場合、上記実施形態において、1/4波長板26、ノイズ除去部12および1/2波長板29を設けない構成とすることができる。
【0060】
(7)上記実施形態では、変位機構32を制御部40によって制御したが、本発明はこれに限られない。例えば作業者が手動でバンドパスフィルタ31A,31Bの角度を変位させる構成でもよい。
【0061】
(8)上記実施形態において、一対のバンドパスフィルタ31A,31Bを、光ファイバケーブルFの一端F3Aから他端F2Aへの光路上において、レーザ出射量調整部12の上流側に配置する構成でもよい。この場合、バンドパスフィルタ31A,31Bと、レーザ出射量調整部12との間に、上記オフセットを是正するための光学部材(例えばレーザ光の光路に対して傾斜した傾斜した姿勢で配置された透過部材など)を配置することが好ましい。また、オフセットによる影響が用途上問題にならない場合には、上記光学部材を設けない構成でもよい。
【0062】
(9)上記実施形態において、メモリ42に、レーザ光L1の中心波長および波長帯域幅の組合せパターンと、レーザ光L1を当該各組合せパターンに設定するための一対のバンドパスフィルタ31A,31Bの位置関係(角度関係)との対応関係情報(例えば対応テーブル 第1対応関係情報の一例)を記憶する。そして、設定部41にて所望の中心波長および波長帯域幅の組合せパターンを設定すれば、上記対応関係情報を参照して、制御部40が、その設定された組合せパターンに対応するバンドパスフィルタ31A,31Bの位置関係になるよう変位機構32を制御する構成でもよい。このとき、設定部31は「第1設定部」」として、メモリ42は「第1メモリ」として機能する。
【符号の説明】
【0063】
2:レーザ光出射装置、F1:ドープファイバケーブル(光増幅用光ファイバの一例)、F:光ファイバケーブル、10:レーザ伝達部(レーザ生成部の一例)、12:レーザ出射量調整部(レーザ出射部の一例)、31A,31B:誘電体多層膜バンドパスフィルタ(光学フィルタの一例)、32:変位機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を生成するレーザ生成部と、
前記レーザ生成部により生成されたレーザ光の光路上に並んで配置され、当該レーザ光の入射角度に応じて、透過したレーザ光の中心波長がシフトする特性を有する、一対の光学フィルタと、
前記一対の光学フィルタの少なくとも一方を、前記光路に交差する所定方向に沿った軸を中心に変位させる変位機構と、
前記一対の光学フィルタを透過したレーザ光を外部に出射するレーザ出射部と、を備えるレーザ光出射装置。
【請求項2】
請求項1に記載のレーザ光出射装置であって、
前記レーザ生成部は、一部または全部に光増幅用光ファイバを含む光ファイバケーブルを有し、
前記レーザ出射部は、前記光ファイバケーブルの一端から出力され増幅されたレーザ光の一部を外部に出射し、残りを前記光ファイバケーブルの他端に入力する構成であり、
前記一対の光学フィルタは、前記光ファイバケーブルの前記一端から前記他端への光路上において、前記レーザ出射部の下流側に配置されている、レーザ光出射装置。
【請求項3】
請求項2に記載のレーザ光出射装置であって、
前記レーザ出射部は、第1波長板と、第1ビームスプリッタとを有し、
前記第1波長板は、前記増幅されたレーザ光の一の偏光面を、前記第1ビームスプリッタの反射偏光面に合わせるよう位相を変更し、
前記第1ビームスプリッタは、前記波長板からのレーザ光の一部を反射させて外部に出射する、レーザ光出射装置。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載のレーザ光出射装置であって、
前記光路上において、前記レーザ出射部の上流側に配置される波長板およびビームスプリッタを有するノイズ除去部を有し、
前記第2波長板は、前記増幅されたレーザ光の一の偏光面を、前記第2ビームスプリッタの反射偏光面に一致させるよう位相を変更し、
前記第2ビームスプリッタは、前記第2波長板からのレーザ光の一部を反射させてノイズとして除去する、レーザ光出射装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のレーザ光出射装置であって、
前記レーザ光の中心波長および波長帯域幅を設定する第1設定部と、
前記レーザ光の中心波長およびバンドパス幅についての複数の組合せパターンと、前記レーザ光を前記複数の組合せパターンそれぞれに設定するための前記一対の光学フィルタについての複数の位置関係との第1対応関係情報が記憶される第1メモリと、
前記第1対応関係情報を参照し、前記設定部にて設定された中心波長および波長帯域幅に対応する前記一対の光学フィルタの位置関係を求め、当該位置関係になるように前記一対の光学フィルタの少なくとも一方を変位させるよう前記変位機構を制御する第1制御部と、を備える、レーザ光出射装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のレーザ光出射装置であって、
前記レーザの照射対象物の種類を設定する第2設定部と、
前記照射対象物の複数の種類と、前記レーザ光を、前記複数の種類それぞれの照射対象物を照射するのに適した中心波長およびバンドパス幅に設定するための前記一対の光学フィルタについての複数の位置関係との第2対応関係情報が記憶される第2メモリと、
前記第2対応関係情報を参照し、前記設定部にて設定された中心波長および波長帯域幅に対応する前記一対の光学フィルタの位置関係を求め、当該位置関係になるように前記一対の光学フィルタの少なくとも一方を変位させるよう前記変位機構を制御する第2制御部と、を備える、レーザ光出射装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載のレーザ光出射装置であって、
前記一対の光学フィルタはいずれも変位可能であって、
前記一対の光学フィルタを同じ角度だけ同方向に変位させることにより前記レーザ光の中心波長をシフトさせ、前記一対の光学フィルタの間の相対角度を変位させることにより前記レーザ光の波長帯域幅をシフトさせるよう、前記変位機構を制御する第3制御部を備える、レーザ光出射装置。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか一項に記載のレーザ光出射装置であって、
前記光学フィルタは、誘電体多層膜バンドパスフィルタである、レーザ光出射装置。
【請求項9】
レーザ光の光路上に、当該レーザ光の入射角度に応じて、透過したレーザ光の中心波長がシフトする特性を有する、一対の光学フィルタを並べて配置し、
前記一対の光フィルタの少なくとも一方を、前記光路に交差する所定方向に沿った軸を中心に変位させることにより、前記一対の光フィルタを透過したレーザ光の中心波長および波長帯域幅の少なくとも一方を変更する、
レーザ光の中心波長および波長帯域幅の変更方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−79885(P2012−79885A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−223132(P2010−223132)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000106221)パナソニック電工SUNX株式会社 (578)
【Fターム(参考)】