説明

レーザ溶着装置及びその生成物

【課題】薄肉のシート部材と異素材の樹脂との安定した溶着を実現することができるレーザ溶着装置を提供する。
【解決手段】レーザ溶着装置は、レーザ光透過性樹脂シート5とレーザ光吸収性樹脂シート4をガラス2と受け台1の間に挟んで密着保持する。そして、ガラス2側からレーザヘッド3によりレーザ光を照射して、レーザ光透過性樹脂シート5とレーザ光吸収性樹脂シート4を溶着させる。ここで、ガラス2と受け台1は次の材料で製作される。レーザ光透過性樹脂シート4の融点をT1、レーザ光吸収性樹脂シート4の融点をT2、ガラス2の熱伝導率をTC1、受け台1の熱伝導率をTC2とすると、T1>T2のとき、TC1<TC2、T1<T2のとき、TC1>TC2となる材料である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ光を照射して樹脂を溶着するレーザ溶着装置及びこのレーザ溶着装置により溶着される薄板等の生成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、固体撮像素子を内蔵したビデオカメラ、デジタルカメラ等のカメラやフイルムを使用するカメラには、レンズの焦点深度の確認またはフイルムや固体撮像素子に結像される被写体の光量調節のために、開口径を制御する光量調節装置が設けられている。また、映像を投影するための光学機器に光量調節装置を有したものがある。
【0003】
このような光量調節装置としては、2枚の羽根のV字状の切り欠き部を互いに向かい合わせて移動させて、重なり量の変化で開口径を変化させるタイプのものがある。
【0004】
また、光量調節装置としては、5枚以上の複数の遮光羽根(光量調節羽根)を用い、虹彩のように、光軸を中心にして回転しながら開口径を変化させるタイプがある。
【0005】
後者の方式の遮光羽根は、一般的に、遮光のための薄板部材11と薄板部材11を回動するために設けられた軸部とで構成されている。
【0006】
従来、この遮光羽根に軸を形成するには、シート状の金属板やプラスチックシートに金属製の軸を機械的にカシメたり、羽根シートに樹脂をアウトサート成型で形成するので、羽根の製作に多くの工数が掛かり、信頼性に問題があった。
【0007】
また、軸が取り付けられている羽根の裏側には軸のカシメ跡やアウトサート成形された軸の羽根取り付け部が突出しているため、羽根が駆動する際にカシメ跡や羽根取付け部が地板に引っかかる場合があった。
【0008】
図8は、従来の絞り羽根の一例を示す図であり、(a)は平面図であり、(b)は(a)の線分A−Aに沿う部分断面図、(c)は(a)の線分B−Bに沿う部分断面図である。
【0009】
図8(a)〜(c)に示すように、従来の絞り羽根としての露出制御用羽根50は、羽根のダボ保持位置に切り込みを設ける。そして、羽根にダボを成形する射出成形用金型に羽根を送り、羽根の型締め押えの際に、金型の一部で切り込みを押し上げて切り込みを金型のキャビテイ内に突出させる。さらに、ダボを射出成形するときに切り込みをダボの樹脂で埋設保持することにより製造される(例えば、特許文献1参照)。
【0010】
これによれば、絞り羽根またはシャッタ羽根に孔を明けることなく、切り込みにてダボ内へ樹脂が埋設保持されるため、ダボ保持強度の向上を図ることができる。
【0011】
しかしながら、上記のような絞り羽根は、ダボを羽根と共に射出成形により形成されるので、樹脂射出・冷却・離型に時間が掛かることによるコストアップや、成形機・成形型等の設備費の高騰により、製造コストが増大する。
【0012】
このような背景から、2つの樹脂部材の接合をレーザ光で行うレーザ溶着装置が提案されている。設備としてはレーザ光照射ヘッド、レーザ発振機、制御ユニットからなるので設備コストが比較的小さく、様々な大きさに対応しやすい汎用性もあり、加工ヘッドがワークに対して非接触であり、照射精度も高いことから小型部品の接合に好適とされている。
【特許文献1】特公平6−68595号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
レーザ樹脂溶着等の熱溶着は樹脂の融点が関係するために、同一の材質や同一の熱容量、即ち、同等の大きさや厚さのワーク同士が加工し易いことになる。
【0014】
しかしながら、一般の写真撮影用のカメラに搭載される絞り羽根の構成においては、軸部材の外径が1.4mm程度、高さTが0.8mmと非常に小さく、羽根部材の厚みtが0.1mm前後と非常に薄いので互いに大きさが異なる。また、軸と薄板でそれぞれに要求される仕様が異なることから、使用する材料が異なって、融点が異なることが多い。
【0015】
即ち、大きさや融点が異なると、照射面の融点までの温度上昇プロファイルが異なり、2つの部材の間で溶融状況のアンバランスが生じ、薄肉の羽根部材に穴が明いたり、軸部材の全体が変形して軸径の寸法精度を保てなくなったり、溶着強度が不足する。
【0016】
羽根部材は、薄肉でありながら均質、高強度、遮光性等の要求から、例えば、黒色塗料等を混ぜたポリエチレンテレフタレートのシート材をプレス加工で打ち抜いて作成するのが好適と考えられる。
【0017】
一方で、軸部材は、羽根部材と同質のポリエチレンテレフタレートは成形ができない等の理由の他、良好な寸法精度が得られる樹脂が好適なことからポリカーボネート等の樹脂が選ばれる。
【0018】
しかしながら、ポリエチレンテレフタレートの融点は255℃前後であり、ポリカーボネートのナチュラルグレードは225℃前後、ガラス入りを選択しても240℃前後と融点に差がある。
【0019】
従って、溶融部の温度上昇を適切にコントロールすることが困難となり、レーザ光の照射出力と照射時間等のエネルギー供給の条件の好適な範囲が非常に狭くなり、生産性を妨げていた。
【0020】
また、安定した溶着はワーク同士の密着が必要で、特に、薄板部材の場合は、外側から確実に押さえるために押さえ冶具等の保持部材が必要となる。入射側の保持部材は、レーザ光のエネルギーの損失を防ぐために、透過率の高い透明部材、即ち、ガラスが用いられる。
【0021】
ガラス及び受け台は、それぞれのシート材に密着しており、かつ、照射部面積はワーク全体及び受け台、ガラスに比べると非常に小さいので、照射部の発熱量は瞬時にガラス側及び受け台側に拡散する。従って、溶融部を必要な温度にするためにはレーザ光の出力、及び照射時間等に大きなロスを招く。
【0022】
特に、ガラスの熱伝導率は0.86kcal/mh℃程度だが、受け台は一般的に製作しやすい真鍮や鉄、ステンレス製等で構成され、それぞれ、熱伝導率は、85kcal/mh℃程度、41kcal/mh℃程度、14kcal/mh℃程度と大きく異なる。
【0023】
従って、同一材質のシートの場合は、ガラス側のシート(レーザ光透過性樹脂)の温度が受け台側のシートの温度より高くなり、仕上がりにアンバランスが生じ、かつ、異素材の場合は互いに融点が異なるのでさらに熱の拡散の程度がばらつくことになる。
【0024】
以上のことから一般的な加工条件であるレーザ光の出力、照射時間、デフォーカス量等の最適化だけでは溶着が不可能であり、最適条件が狭すぎて安定した加工が困難であった。
【0025】
本発明の目的は、薄肉のシート部材と異素材の樹脂との安定した溶着を実現することができるレーザ溶着装置及びその生成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0026】
上記目的を達成するために、本発明のレーザ溶着装置は、レーザ光透過性樹脂とレーザ光吸収性樹脂を透明板と受け台の間に挟んで密着保持して、前記透明板側からレーザヘッドによりレーザ光を照射して、前記レーザ光透過性樹脂と前記レーザ光吸収性樹脂を溶着させるレーザ溶着装置において、前記レーザ光透過性樹脂の融点をT1、前記レーザ光吸収性樹脂の融点をT2、前記透明板の熱伝導率をTC1、前記受け台の熱伝導率をTC2とすると、T1>T2のとき、TC1<TC2、T1<T2のとき、TC1>TC2となるような材料により製作された前記透明板及び前記受け台であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0027】
本発明のレーザ溶着装置によれば、薄肉のシート部材と異素材の樹脂との安定した溶着を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しながら詳細に説明する。
【0029】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の第1の実施の形態に係るレーザ溶着装置の構成図である。図2は、図1のレーザ溶着装置で使用される代表的な金属の比熱と熱伝導率の関係を示す図表である。図3は、図1のレーザ溶着装置で使用される代表的なエンジニアリングプラスチックの熱伝導率と融点の関係を示す図表である。図4は、図1のレーザ溶着装置でレーザ溶着する際のレーザ出力と溶融状態の関係を保持部材の材料を変化させて実験した結果を示す図表である。
【0030】
図1において、レーザ溶着装置は、保持部材としての受け台1、透明板としてのガラス2及びレーザヘッド3を備える。
【0031】
受け台1の上に、ポリエチレンテレフタレート(PET)からなるレーザ光吸収性樹脂シート4を載置し、その上にポリカーボネート(PC)からなるレーザ光透過性樹脂シート5を重ね合わせ、さらにその上にガラス2を重ね合わせ、所定圧力で押さえる。
【0032】
そして、レーザヘッド3からレーザ光を照射しながら図面上、横方向に走査してシート4、5を溶着していく。
【0033】
ここにおいて、受け台1が以下の場合のシートの溶融状態を図4に示す。即ち、受け台1が、真鍮製の場合、ガラスの場合、材質はステンレスだがその密着面を鏡面或いは平滑面でないようにするため、いわゆる粗摺り面としてステンレス材とレーザ光吸収性樹脂シート4の裏面の間にミクロン単位の空間を有する場合である。
【0034】
図4において、「△」は、シート(レーザ光透過性樹脂シート)5とシート(レーザ光吸収性樹脂シート)4の各当接面における溶融状態が溶融不足により不良であることを示す。また、「×」は、溶融過剰により各当接面以外の部分に膨張、穴明きがあることを示し、「○」は、所定の溶着力を持つ良好な溶融状態を示す。また、「OK」は、シート5とシート4との溶着結果が良好であることを示す。
【0035】
まず、図4において、(a)のシート4を保持している保持部材(受け台1)が熱伝導率85kcal/mh℃の真鍮製の場合、レーザ出力が9W(ワット)以下ではシート5の当接面近傍の溶融状態が不十分である。この場合、10Wから13Wにおいて良好な溶融状態となった。
【0036】
レーザ出力が14W以上では、溶融過剰となり、シート4では、12Wまでは当接面近傍が溶融不足であり、13Wから15Wにおいて良好な溶融状態となり、16W以上では溶融過剰となって穴が明いた。溶着結果は13Wの条件のみがOKとなった。
【0037】
次の(b)に、保持部材である受け台1を真鍮から熱伝導率0.86kcal/mh℃のガラスに変更した実験結果を示す。
【0038】
(a)に対し、溶着部全体に熱が溜まるので低い出力でも溶融するようになり、シート5は8Wから11Wで良好になった。シート4では、10Wから12Wにおいて良好な溶融状態となり、13W以上では溶融過剰となって薄板部材11に穴が明いた。溶着結果は10Wから11Wの条件がOKとなり、条件が拡大された。
【0039】
次の(c)に、受け台1の材質をステンレス材のままで、その薄板部材に当接する平坦面に細かいスジ状の刻みを設けたもの、即ち、鏡面でも平滑面でもない状態に変更した実験結果を示す。
【0040】
シート5は(b)と同一で、シート4では、9Wから12Wにおいて良好な溶融状態となり、13W以上では溶融過剰となった。溶着結果は9Wから11Wの3W分の範囲の条件がOKとなり、条件が拡大された。
【0041】
即ち、薄板部材から、その裏面において接触面積が広い保持部材へ熱が拡散することにより、照射面の温度が低下して溶着条件が変化することがわかる。さらに、金属の表面を粗面とすることで、粗いほど空気が介在することになり熱の伝達率が低下するので、この加工を工夫することにより、細かな調整が可能となる。
【0042】
このように、異素材のワークに対して適切な保持部材を選択することにより、安定した溶着条件を確保することができる。また、材料だけでなく、ワークとの当接面に空気層として凹凸、スジ等の形状を施すことにより、同様に伝達率を微調整することが可能となり、良好な溶着範囲を拡大することで安定した加工とすることができる。
【0043】
(第2の実施の形態)
図5は、本発明の第2の実施の形態に係るレーザ溶着装置の構成図である。図6は、図5のレーザ溶着装置によりレーザ溶着される光量調節装置の絞り羽根の平面図である。図7は、図6の絞り羽根の薄板部材と軸部材をレーザ溶着する際のレーザ出力と照射時間の関係を示す図表である。
【0044】
図6に示すように、絞り羽根10は、遮光性を有し、開口量を規制する薄板部材11と、絞り羽根の動作を規制する軸部材12から形成されている。
【0045】
薄板部材11は、レーザ光吸収性樹脂として、例えば、黒色塗料等を混ぜた融点が255℃前後のポリエチレンテレフタレートのシート材をプレス加工で打ち抜いて作成される。薄板部材11は、軸部材12との位置を決める位置決め穴11aを2箇所に有し、図5に示すマスク部材13の位置決めピン17が貫通し、マスク部材13に対して薄板部材11の位置が精度よく支持される。
【0046】
軸部材12は、レーザ光透過性樹脂として、例えば、透明なポリカーボネートのナチュラルグレード或いはガラス入りグレード等で円筒形状に成形されている。その融点はそれぞれ225℃前後と240℃前後である。
【0047】
図5のレーザ溶着装置において、マスク部材13は、真鍮、ステンレス等、軸部材12に比べて比熱が低くレーザ光を透過しない材料からなり、軸部材12の直径とガタなく嵌合する円形の穴を有し、光源側にはレーザ光の進入を容易にする面取り形状部がある。
【0048】
透明部材であるガラス14は、レーザ光を損失なく透過させると共に、発生する熱に対し耐熱性を有し、ここでは熱伝導率 0.86kcal/mh℃ の材料とする。
【0049】
受け台(保持部材)である錘部材15は、真鍮やアルミニウム等の金属からなり、レーザヘッド16に対しての垂直度や、平面性等が要求され、ここでは熱伝導率85kcal/mh℃の真鍮材を用いた。錘部材15は、薄板部材11の溶着部分の裏面を支持する平坦面を有する。
【0050】
レーザ溶着装置に固定されたマスク部材13の内部に設けられたガラス14の上面に軸部材12が当接し、さらに、薄板部材11を重ねた状態で、錘部材15の下面により、2つのワーク(薄板部材11と軸部材12)を密着させている。
【0051】
このとき、薄板部材11は、マスク部材13とわずかに隙間を有する寸法とすることで、錘部材15全体の質量(重量)が軸部材12の上面に掛かることで、軸部材12を薄板部材11に所定の圧力で水平に圧接させている。これにより、ガラス14と軸部材12、軸部材12と薄板部材11、薄板部材11と錘部材15が所定の加圧を以ってそれぞれ密着して保持される。
【0052】
レーザヘッド16においては、図示しないレーザ光発振機から出力されたレーザ光がガラスファイバーを透過して、図示しない光学系を透過して照射される。
【0053】
ここで、光学系の先端から被写体までの距離が、例えば30mmのとき、最小のスポット径が約0.6mmに集光する光学系を用いて、軸部材12と薄板部材11との接合面までの距離を15mmにセットする。すると、レーザ光のスポット径は拡大し、およそ直径10mmとなる(デフォーカス状態)。
【0054】
この状態でワークのセットが完了する。その後、所定出力のレーザ光を所定時間照射する。
【0055】
次に上記状態でレーザ光照射の状況を説明する。
【0056】
レーザヘッド16から照射されたレーザ光は,レーザ光透過性樹脂である軸部材12をそのまま透過して、レーザ光吸収性樹脂である薄板部材11の表面に到達し吸収される。
【0057】
このとき、レーザ光はスポット径約10mmの集光しない状態で照射されるが、周辺はマスク部材13に遮られるので、薄板部材11の表面には、軸部材12の直径より小さい範囲のレーザ光が照射される。
【0058】
このときに、薄板部材11側の照射された面が発熱し、薄板部材11は樹脂の融点に達して溶融する。それと共に、当接面からの熱伝達により、軸部材12側の当接面が加熱溶融される。
【0059】
その際、軸部材12に掛かる所定圧力により、薄板部材11と軸部材12のそれぞれの溶融部分が密着融合(溶着)し、レーザ光の照射停止による温度低下により固化して両者が一体的に接合される。
【0060】
このとき、レーザ光は拡散した状態で接合面に照射されると、レーザ光吸収性樹脂における温度上昇は比較的緩やかとなり、照射時間のコントロールが容易になる。つまり、急激な温度上昇を避けるデフォーカス方法である。他にも、低出力で長時間レーザ光照射する方法、レーザ光照射しながらレーザヘッドを動かすライン溶着法等がある。
【0061】
薄肉の場合、特に重要となる薄板部材11を保持する錘部材(受け台、保持部材)15の材質、或いは形状を変更し、この薄板部材11の裏面からの放熱速度を制御することにより、容易かつ、確実なソフトな溶着が可能となる。
【0062】
一般に、レーザ光等を用いた溶着の場合、安定した量産加工を実現するためには十分な実験による溶着条件の検討が必要になる。具体的には、ワークの材料や組合せに合わせ、かつ、材料や形状のばらつき等も吸収できる好適なレーザ光の出力、照射時間、ワーク保持部材の材質等の条件が含まれる。
【0063】
次に、絞り羽根10を作製する際の適切なレーザ溶着条件について説明する。
【0064】
レーザ光透過性樹脂としてポリカーボネート(溶融点:225℃前後)からなる軸部材12と、レーザ光吸収性樹脂として遮光材が添加されたポリエチレンテレフタラート(溶融点:255℃前後)を主成分とする材料からなる薄板部材11を溶着する。
【0065】
この際に、レーザ光として半導体レーザを用いて照射時間を固定し(例えば、1秒間)、レーザ光の出力を変化させて溶着する。その後、破壊してそれぞれ薄板部材11と軸部材12の溶着面の溶融状態の様子を観察し、これを錘部材15の材料を変更して行う。
【0066】
図7において、「△」は、薄板部材11または軸部材12の各当接面における溶融状態が溶融不足により不良であることを示し、「×」は、溶融過剰により各当接面以外の部分に変形、膨張、穴明きがあることを示す。また、「○」は、所定の溶着力を持つ良好な溶融状態を示す。また、「OK」は、薄板部材11と軸部材12との溶着結果が良好であることを示す。
【0067】
まず、図7において、(a)に示す、薄板部材11を保持している錘部材(受け台)15が熱伝導率85kcal/mh℃の真鍮製の場合、レーザ出力が10W(ワット)以下では軸部材12の当接面近傍の溶融状態が不十分である。11Wから14Wにおいて良好な溶融状態となった。
【0068】
レーザ出力が15W以上では溶融過剰となり、溶融した樹脂が軸部材12の半径方向に向かって軸部材12の外周部からはみ出し、結果として軸部材12の外径が当初の軸部材12の外径以上の大きさとなった。
【0069】
薄板部材11では、13Wまでは当接面近傍が溶融不足であり、14Wから16Wにおいて良好な溶融状態となり、17W以上では溶融過剰となって穴が明いた。溶着結果は14Wの条件のみがOKとなった。
【0070】
次の(b)に、受け台を、真鍮から熱伝導率14kcal/mh℃のステンレスに変更した実験結果を示す。
【0071】
軸部材12は、ほとんど影響されずに真鍮の場合と同一であった。薄板部材11では、1W分低い出力でも溶融十分となり、13Wから15Wにおいて良好な溶融状態となり、16W以上では溶融過剰となって穴が明いた。溶着結果は13Wと14Wの条件がOKとなり、条件が拡大された。
【0072】
次の(c)に、受け台を、材質がステンレス材のままで、その薄板部材11に当接する平坦面に細かいスジ状の刻みを設けたものに変更した実験結果を示す。
【0073】
軸部材12は、やはり影響されずに同一で、薄板部材11では、さらに1W分低い出力でも溶融十分となり、12Wから14Wにおいて良好な溶融状態となり、15W以上では溶融過剰となった。溶着結果は、12Wから14Wの3W分の範囲の条件がOKとなり、条件が拡大された。
【0074】
ここで、軸部材12の良好な溶融範囲は、レーザ光出力において約4W分、薄板部材11は約3W分だが、その中心値がずれているので、互いが良好に溶融する出力条件はここでは1W分と狭くなっている。従って、溶着困難となる。
【0075】
即ち、薄板部材11から、その裏面において接触面積が広い錘部材(受け台)15への熱の拡散により、照射面の温度が低下して溶着条件が変化することがわかる。
【0076】
ここで、真鍮とステンレスでは熱伝導率が異なるので、錘部材15内部への熱の拡散速度が異なり、照射面の温度が低下しないステンレス製を用いて薄板部材11の溶融温度を上昇させることで、融点の差を短縮することができる。
【0077】
さらに、金属の表面をバレル研磨、ホーニング、砥粒等により粗面とすることで、粗いほど空気が介在することになり熱の伝達率が低下するので、この加工の程度を工夫することにより、熱の伝達率の細かな調整が可能となる。
【0078】
この実験より、溶着条件が拡大された理由がわかる。即ち、融点が異なる素材でありがちな、溶融条件のずれを錘部材15の材料、形状を変更することにより、ずれを補正することができるため、溶着条件が拡大される。結果的に、良好な溶着範囲を拡大することで安定したレーザ溶着加工を行うことができる。
【0079】
本実施の形態では、レーザ光透過性樹脂はポリカーボネートからなるが、これに限るものではなく、レーザ光透過性樹脂は、ポリカーボネートを主成分とする材料であってもよい。また、レーザ光透過性樹脂及びレーザ光吸収性樹脂は、それぞれ上記以外の材料からなるものであってもよい。
【0080】
以上説明した、第1、第2の実施の形態を総括すると、レーザ溶着装置は、レーザ光透過性樹脂とレーザ光吸収性樹脂を透明板と受け台の間に挟んで密着保持する。そして、透明板側からレーザヘッド3、16によりレーザ光を照射して、レーザ光透過性樹脂とレーザ光吸収性樹脂を溶着させる。
【0081】
そして、透明板及び受け台の材料は以下のように規定される。即ち、レーザ光透過性樹脂の融点をT1、レーザ光吸収性樹脂の融点をT2、透明板の熱伝導率をTC1、受け台の熱伝導率をTC2とすると、T1>T2のとき、TC1<TC2、T1<T2のとき、TC1>TC2となるような材料である。
【0082】
また、透明板は、ガラス、石英、水晶、高耐熱樹脂を含むものであり、レーザ光透過性樹脂或いはレーザ光吸収性樹脂は、シート状である。さらに、受け台のレーザ光吸収性樹脂との当接面は、鏡面或いは平滑面でない粗面加工が施されている。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係るレーザ溶着装置の構成図である。
【図2】図1のレーザ溶着装置で使用される代表的な金属の比熱と熱伝導率の関係を示す図表である。
【図3】図1のレーザ溶着装置で使用される代表的なエンジニアリングプラスチックの熱伝導率と融点の関係を示す図表である。
【図4】図1のレーザ溶着装置でレーザ溶着する際のレーザ出力と溶融状態の関係を保持部材の材料を変化させて実験した結果を示す図表である。
【図5】本発明の第2の実施の形態に係るレーザ溶着装置の構成図である。
【図6】図5のレーザ溶着装置によりレーザ溶着される光量調節装置の絞り羽根の平面図である。
【図7】図6の絞り羽根の薄板部材と軸部材をレーザ溶着する際のレーザ出力と照射時間の関係を示す図表である。
【図8】従来の絞り羽根の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0084】
1 受け台
2 ガラス
3 レーザヘッド
4 レーザ光吸収性樹脂シート
5 レーザ光透過性樹脂シート
11 薄板部材
12 軸部材
13 マスク部材
14 ガラス
15 錘部材
16 レーザヘッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光透過性樹脂とレーザ光吸収性樹脂を透明板と受け台の間に挟んで密着保持して、前記透明板側からレーザヘッドによりレーザ光を照射して、前記レーザ光透過性樹脂と前記レーザ光吸収性樹脂を溶着させるレーザ溶着装置において、
前記レーザ光透過性樹脂の融点をT1、前記レーザ光吸収性樹脂の融点をT2、前記透明板の熱伝導率をTC1、前記受け台の熱伝導率をTC2とすると、
T1>T2のとき、TC1<TC2、
T1<T2のとき、TC1>TC2、
となるような材料により製作された前記透明板及び前記受け台であることを特徴とするレーザ溶着装置。
【請求項2】
前記透明板は、ガラス、石英、水晶、高耐熱樹脂を含むものであり、前記レーザ光透過性樹脂或いは前記レーザ光吸収性樹脂は、シート状であることを特徴とする請求項1記載のレーザ溶着装置。
【請求項3】
前記受け台の前記レーザ光吸収性樹脂との当接面は、鏡面或いは平滑面でない粗面加工が施されていることを特徴とする請求項1または2記載のレーザ溶着装置。
【請求項4】
請求項1記載のレーザ溶着装置によって溶着される生成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−274217(P2009−274217A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−124613(P2008−124613)
【出願日】平成20年5月12日(2008.5.12)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】