説明

レーダ装置、信号処理装置

【課題】
指向角度を間引いてレーダ信号を送出しても物標の角度検出精度の低下を防止する。
【解決手段】
アンテナが第1の方向に回動するときには、前記アンテナにより間欠的な第1の指向角度群でレーダ信号を送受信し、前記送受信されたレーダ信号の周波数差を有する第1のビート信号群を生成し、前記第1の方向と反対の第2の方向に回動するときには、前記アンテナにより前記第1の指向角度群とは異なる間欠的な第2の指向角度群でレーダ信号を送受信し、前記送受信されたレーダ信号の周波数差を有する第2のビート信号群を生成する。そして、前記第1のビート信号群の第1のピークと、前記第2のビート信号群の第2のピークとを検出し、前記第1のピーク形状における極大値と前記第2のピーク形状における極大値とに基づき、物標の角度を検出するので、物標の角度検出精度の低下を防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械走査方式の車載レーダ装置とその信号処理装置に関し、特に、所定の角度範囲でアンテナを往復回動させながらレーダ信号を送受信するときに送信電力を低減する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
車載レーダ装置を用いて先行車両に追従走行する車両制御システムが知られている。かかる車両制御システムは、車載レーダ装置により先行車両の位置と速度を検出する。そして、所期の車間距離が保たれるように、自車両の挙動を制御する。
【0003】
車載レーダ装置は、ミリ波帯の電波を用いて車両前方の走査対象領域を走査する。その際、物標までの距離を往復してもある程度のS/N比(信号対雑音比)が得られるような送信電力を必要とする。追従走行の場合、車両前方数メートルから百数十メートル前方の先行車両を検出可能な送信電力が必要とされる。
【0004】
ところが一方で、車載レーダ装置の送信電力を必要最小限にすることが求められる。特に、車両が一定の走行速度未満のとき(以下、停車時を含め低速走行時という)に送信電力低減が求められる。これは、第1に、周囲の車両の電子機器へのノイズの影響や通行人など人体への悪影響を回避するためである。特に、渋滞時や駐車場内での低速走行時、あるいは交差点で信号待ちをする際の停車時には、周囲に他の車両や通行人が存在する蓋然性が高くなるからである。また第2に、レーダ装置内の回路素子の温度上昇を抑制し、熱暴走や回路素子の損傷を防止するためである。車載レーダ装置においては、サイズとコストの制約により冷却装置を設けることが困難である。よって、フロントグリル内などに搭載され、フロントグリル越しに走行風を受けて冷却される。すると、低速走行時には走行風が弱くなり、冷却効率が低下する。よって、低速走行時には特に、送信電力低減が求められる。そして第3に、法規制に準拠するためである。具体的には、米国における、低速走行時の送信電力低減を定めたFCC(連邦通信委員会)規定に準拠するためである。
【0005】
こうした要請に対し、従来種々の方法が提案されている。たとえば、特許文献1には、車両の走行速度に応じて送信を停止させる車載レーダ装置について開示されている。また別の例として、機械走査方式のレーダ装置において、レーダ信号を間欠的な指向角度で送出することにより送信電力を低減させる方法が提案されている。機械走査方式のレーダ装置は、アンテナを往復回動させ、走査対象領域に対応する角度範囲でアンテナの指向角度を変化させながらレーダ信号を送受信する。ここで、すべての指向角度でレーダ信号を送出する代わりに、間欠的に間引かれた指向角度でレーダ信号を送出することで送信電力を低減できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−249623号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、機械走査方式のレーダ装置は、受信信号レベルを反映したビート信号のピークに基づいて物標の角度を検出する。すなわち、アンテナの指向角度ごとにビート信号のピークを検出する。そして、ピークの分布形状(以下、ピーク形状)における極大値が形成される指向角度を物標の角度として検出する。これは、一般に物標の反射断面の中央部で反射レベルが極大となることによる。すると、上記方法では、指向角度を間欠的に間引かずにレーダ信号を送信する場合より、受信信号が得られる指向角度の数が少なくなる。すなわち、受信信号レベルのピークの極大値を求めるときに、データの数が少なくなる。よって、角度検出精度が低下するという問題がある。
【0008】
そこで、本発明の目的は、指向角度を間引いてレーダ信号を送出しても物標の角度検出精度の低下を防止するレーダ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明の第1の側面によれば、車両に搭載されるとともに往復回動して所定の角度範囲で指向角度を順次変化させるアンテナを備えたレーダ装置であって、前記アンテナが第1の方向に回動するときには、前記アンテナにより間欠的な第1の指向角度群でレーダ信号を送受信し、前記送受信されたレーダ信号の周波数差を有する第1のビート信号群を生成し、前記第1の方向と反対の第2の方向に回動するときには、前記アンテナにより前記第1の指向角度群とは異なる間欠的な第2の指向角度群でレーダ信号を送受信し、前記送受信されたレーダ信号の周波数差を有する第2のビート信号群を生成するレーダ送受信機と、 前記第1のビート信号群の第1のピークと、前記第2のビート信号群の第2のピークとを検出するピーク検出手段と、前記第1のピーク形状における極大値と前記第2のピーク形状における極大値とに基づき、物標の角度を検出する角度検出手段とを有するレーダ装置が提供される。
【0010】
また、本発明の第2の側面によれば、車両に搭載されるとともに往復回動して所定の角度範囲で指向角度を順次変化させるアンテナを備えたレーダ送受信機の信号処理装置であって、前記レーダ送受信機に、前記アンテナが第1の方向に回動するときには、前記アンテナにより間欠的な第1の指向角度群でレーダ信号を送受信させ、前記送受信されたレーダ信号の周波数差を有する第1のビート信号群を生成させ、前記第1の方向と反対の第2の方向に回動するときには、前記アンテナにより前記第1の指向角度群とは異なる間欠的な第2の指向角度群でレーダ信号を送受信させ、前記送受信されたレーダ信号の周波数差を有する第2のビート信号群を生成させる送受信制御手段と、前記第1のビート信号群の第1のピークと、前記第2のビート信号群の第2のピークとを検出するピーク検出手段と、前記第1のピーク形状における極大値と前記第2のピーク形状における極大値とに基づき、物標の角度を検出する角度検出手段とを有する信号処理装置が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、間欠的に間引いた指向角度でレーダ信号を送出しても、物標の角度検出精度の低下を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本実施形態におけるレーダ装置の使用状況を説明する図である。
【図2】レーダ装置10の構成を説明する図である。
【図3】レーダ信号の周波数とアンテナ12の動作について説明する図である。
【図4】送信電力低減モードにおけるレーダ信号の送信タイミングとアンテナ12の指向角度の対応関係を説明する図である。
【図5】送受信時のレーダ信号の周波数偏移について説明する図である。
【図6】ビート信号のピークについて説明する図である。
【図7】レーダ装置10の基本的な動作手順を説明するフローチャート図である。
【図8】本実施形態における物標の角度検出処理を説明する図である。
【図9】図8の処理の手順を説明するフローチャート図である。
【図10】変形例における角度検出処理の手順を説明するフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面にしたがって本発明の実施の形態について説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれらの実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された事項とその均等物まで及ぶものである。
【0014】
図1は、本実施形態におけるレーダ装置の使用状況を説明する図である。図1(A)は、レーダ装置が車両に搭載される位置を示す平面図である。図1(B)は、レーダ装置のアンテナの指向角度を示す。
【0015】
レーダ装置10は、機械走査方式のレーダ装置であって、往復回動するアンテナ12を有する。レーダ装置10は、車両1の前部フロントグリル内に搭載され、車両1のフロントグリルを透過して車両1の前方にてレーダ信号を送受信する。このとき、車両1前方の走査対象領域に対応する角度範囲αでアンテナ12の指向角度を順次変化させる。すなわち、車両1の正面(0度)を中心とする−α/2〜+α/2度の間で変化させる。このとき、アンテナ12は−α/2から+α/2度の方向(右方向)に指向角度を順次変化させる動作と、+α/2から−α/2度の方向(左方向)に指向角度を順次変化させる動作とを反復する。これにより、走査対象領域がレーダ信号により走査される。ここで角度範囲αは、たとえば20度(−10〜+10度)である。
【0016】
レーダ装置10は、受信信号を処理して物標の位置を検出する。物標は、具体的には先行車両である。物標の位置には、角度、相対距離が含まれる。さらに物標の角度は、その中心部の車両1の正面(0度)に対する角度である。また、レーダ装置10は、物標の相対速度を検出する。こうした先行車両の情報は車両制御システム100に出力される。そして、車両制御システム100が、物標、つまり先行車両との車間距離が所期の距離になるように車両1の挙動を制御する。すなわち、車両1における不図示のアクチュエータを駆動し、走行速度を加減する。このようにして、先行車両に対する追従走行が行われる。
【0017】
なお、レーダ装置10は、フロントグリルを介して走行風を受ける。よって、レーダ装置10が動作することでその内部の回路素子の温度が上昇したときに、走行風により冷却される。
【0018】
図2は、レーダ装置10の構成を説明する図である。レーダ装置10は、レーダ信号を送受信するレーダ送受信機10aと、信号処理装置14とを有する。
【0019】
レーダ送受信機10aは、回動可能に構成されたアンテナ12と、アンテナ12を回動させるアンテナ駆動部13とを有する。アンテナ12は、レーダ信号を送信する送信アンテナ素子12Tと、物標に反射されたレーダ信号を受信する受信アンテナ素子12Rを有する。アンテナ駆動部13は、アンテナを駆動させる駆動機構30とアンテナの指向角度を検出する角度検知器32を有する。駆動機構30はアンテナの回動軸付近に接続されるクランクと、これを回転させるモータと、モータの駆動回路を有する。モータの駆動回路には、信号処理装置14からの制御信号が入力される。よってこの制御信号に基づいてアンテナの回動速度が制御される。また角度検知器32は、アンテナに付随したロータのスリットを検知するエンコーダを有する。エンコーダが出力する検知信号は、信号処理装置14に入力される。
【0020】
レーダ送受信機10aは、周波数変調されたミリ波帯の連続波(電波)をレーダ信号として送信する。変調信号生成部16は、変調信号を生成する。変調信号は、周波数変調周期と周波数調幅を規定する、三角波状に振幅する電圧信号である。発振器18は、変調信号に従って周波数変調したミリ波長のレーダ信号を発振する。例えば、電圧制御発振器で構成される。分配器20は、レーダ信号を2つの経路に電力分配して出力する。
【0021】
分配されたレーダ信号は増幅器20aにより増幅された後、スイッチ回路21に入力される。スイッチ回路21は、レーダ信号を常時、あるいは間欠的に送信アンテナ素子12Tに出力する。スイッチ回路21は、たとえばスイッチングトランジスタで構成される。その動作タイミングは信号処理装置14から入力される制御信号により制御される。スイッチ回路21の動作タイミングについては、後に詳述する。送信アンテナ素子12Tから送出されたレーダ信号は、物標で反射された後、受信信号として受信アンテナ素子12Rに受信される。受信信号は増幅器20bにより増幅され、混合器22に入力される。
【0022】
混合器22は、電力分配されたレーダ信号の一部と、受信信号とを混合する。これにより、送受信信号の周波数差を有するビート信号が生成される。そして、帯域通過フィルタ23は、ビート信号の低域・高域ノイズを除去する。そして、ビート信号は、A/D変換器24によりデジタルデータに変換され、信号処理装置14に入力される。
【0023】
ここで信号処理装置14の説明の前に、図3、図4を用いてレーダ送受信機10aの動作について説明する。
【0024】
図3は、レーダ信号の周波数とアンテナ12の動作について説明する図である。図3(A)は、レーダ信号の時間(横軸)に対する周波数(縦軸)の変化を示す。レーダ信号は、上述したように変調信号の周期により周波数変調周期が、振幅により周波数変調幅が規定される。ここでは、周波数fmの三角波状の周波数変調信号により周波数変調された、レーダ信号の周波数変化が示される。このレーダ信号の周波数は、周期1/fm、周波数変調幅ΔF(中心周波数f0)で直線的な上昇と下降を反復する。以下では、周波数が上昇する期間UPをアップ期間、周波数が下降する期間DNをダウン期間という。
【0025】
図3(B)は、レーダ信号の周波数変化アンテナの指向角度との、時間軸における対応関係を示す。図3(B)上段には、送信信号の周波数(縦軸)の、時間経過(横軸)にともなう変化が示される。一方、図3(B)下段には、アンテナ12の指向角度(縦軸)の、時間経過(横軸)にともなう変化が示される。アンテナ12は、図1で示したように角度範囲α(つまり-α/2度〜+α/2度)で指向角度を順次変化させる。このとき、アンテナ12の回動速度は送信信号の周波数変調周期と同期がとられる。これにより、アンテナ12の指向角度θにつき1対のアップ期間とダウン期間とが対応する。ここで、角度θは例えば1度である。
【0026】
本実施形態では、スイッチ回路21がレーダ信号の出力をオン・オフする。スイッチ回路21の動作は、信号処理装置14から入力される制御信号により制御される。これにより、レーダ信号の送信タイミングが制御される。レーダ装置10は、基本的な通常モードと、送信電力を低減させるための送信電力低減モードとで動作する。通常モードのときには、スイッチ回路21がレーダ信号の出力を常時オンにする。よってレーダ送受信機10aは、アンテナ12に指向角度θごとにレーダ信号を送信させる。また、送信電力低減モードのときには、スイッチ回路21は間欠的に送信アンテナ素子12Tにレーダ信号を出力する。
【0027】
図3(C)は、送信電力低減モードにおけるスイッチ回路21の出力タイミングを示す。図示するように、スイッチ回路21は、1変調周期(1対のアップ期間とダウン期間)おきに、レーダ信号を出力する。そして、アンテナ12が右方向(−α/2度からα/2度の方向)に回動するときと、左方向(α/2度から−α/2度の方向)に回動するときとでは、出力のタイミングが反転する。
【0028】
信号処理装置14からの制御信号は、たとえばデューティ比50%のパルス信号である。スイッチ回路21は、制御信号がHiレベルのときにレーダ信号を出力する。そして、アンテナ12の回動方向が反転すると、パルスの立ち上がりと立ち下がりが反転する。
【0029】
図4は、送信電力低減モードにおけるレーダ信号の送信タイミングとアンテナ12の指向角度の対応関係を説明する図である。ここでは、アンテナ12が右方向に回動するときにレーダ信号が送信される指向角度を「θR」、アンテナ12が右方向に回動するときにレーダ信号が送信される指向角度を「θL」で示す。つまり、右方向のときと左方向のときとではレーダ信号が送信される指向角度が交互になる。
【0030】
このようにして、送信電力低減モードでは、レーダ送受信機10aは、間欠的な指向角度でレーダ信号を送出する。よって、すべての指向角度でレーダ信号を送信する場合と比べ、送信電力を低減させることが可能となる。また、アンテナ12が右方向に回動するときと、左方向に回動するときとでは、異なる指向角度でレーダ信号を送信する。レーダ送受信機10aのこのような動作に加え、信号処理装置14が後に詳述する処理を実行することにより、物標の角度検出精度低下を防止できる。
【0031】
図5は、送受信時のレーダ信号の周波数について説明する図である。図5(A)には、送信時のレーダ信号(送信信号)と、目標物体で反射されて受信されたレーダ信号(受信信号)それぞれの、時間(横軸)に対する周波数(縦軸)の変化が示される。送信信号の周波数は、実線で示すように、アップ期間UPで上昇し、ダウン期間DNで下降する。これに対し、受信信号の周波数は、破線で示すように周波数偏移を受ける。これは、目標物体との相対距離による時間的遅延ΔTと、相対速度に応じたドップラシフトΔDの影響による。この結果、アップ期間UPでは周波数差fuが生じ、ダウン期間DNでは周波数差fdが生じる。
【0032】
送受信信号を混合して得られるビート信号の周波数は、両者の周波数差を有する。その周波数の時間に対する変化は、図5(B)に示される。すなわち、送信信号のアップ期間UPでは周波数fuとなり、ダウン期間DNでは周波数fdとなる。なおこれらの周波数は、次の数式に示すように、目標物体の相対速度Vと相対距離Rを反映している。ここで、Cは光速、fmは変調信号における三角波の周波数、f0は送信信号Stの中心周波数、ΔFは周波数偏移幅である。
【0033】
R=C・(fu+fd)/(8・ΔF・fm) ・・・式(1)
V=C・(fd−fu)/(4・f0) ・・・式(2)
図2に戻り、信号処理装置14の構成について説明する。FFT(高速フーリエ変換)処理部140は、ビート信号をFFT処理して、周波数スペクトルを検出する。FFT処理部140は、たとえばDSPなどのプロセッサにより構成される。
【0034】
送受信制御手段142、ピーク検出手段144、角度検出手段146、距離・速度検出手段148、出力手段150は、それぞれの動作手順に対応する信号処理を実行するマイクロコンピュータにより構成される。マイクロコンピュータは、不図示のCPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)を有する。マイクロコンピュータでは、CPUが各手段の動作に対応するプログラムを実行する。各プログラムは予めROMに格納される。また、CPUが演算処理するデータは一時的にRAMに格納される。
【0035】
送受信制御手段142は、アンテナ駆動部13にアンテナ12の回動速度を制御するための制御信号を出力する。また、スイッチ回路21に対する制御信号を生成し出力する。ピーク検出手段144は、駆動部13から入力される信号に基づいて、アンテナ12の指向角度を検出する。そして、指向角度ごとに、ビート信号の周波数スペクトルにおけるピークを検出する。角度検出手段146は、ビート信号のピーク形状に基づき物標の角度を検出する。また、距離・速度検出手段148は、物標の相対距離、相対速度を検出する。そして、検出されたこれらの情報は、出力手段150により車両制御装置100に出力される。
【0036】
なお、信号処理装置14には、車両制御システム100から車両1の走行速度が入力される。
【0037】
ここで、信号処理装置14における信号処理について、図6を用いて説明する。
【0038】
図6は、ビート信号のピークについて説明する図である。図6の説明は便宜上、通常モードの場合を例とする。ここで説明する処理は、アンテナ12が左右方向のいずれかに一回回動するとき(以下、1スキャンとする)に実行される。
【0039】
図6(A)は、ビート信号の周波数スペクトルを示す。周波数スペクトルは、アンテナ12の指向角度ごとに検出される。そして、物標が存在する指向角度では、図6(A)に示すような周波数スペクトルが検出される。ここでは、アップ期間に得られるビート信号の周波数スペクトルと、ダウン期間に得られるビート信号の周波数スペクトルとを示す。図5で示したように、物標の反射により得られたビート信号の周波数は、アップ期間で周波数fuである。また、ダウン期間で周波数fdである。よって、ピーク検出手段144は、アップ期間では周波数fuのスペクトルがピークを形成する。また、ダウン期間では周波数fdのスペクトルがピークを形成する。
【0040】
図6(B)は、かかるピークの角度範囲αにおける分布を示す。検出されたピークは、角度範囲α(-α/2度〜+α/2度)において物標が位置する指向角度にわたって分布する。そしてアップ期間では、周波数fuのピークのグループが形成される。一方、ダウン期間では、周波数fdのピークのグループが形成される。
【0041】
角度検出手段146は、上記のようなアップ期間、ダウン期間それぞれにおけるピークのグループを2次近似してピークの分布形状、つまりピーク形状(点線で図示)を検出する。すると、その中心付近で極大値が形成される。これは、物標の反射断面積はその中心部で最大であることによる。ここで、同一物標から検出されるアップ期間、ダウン期間のピーク形状では、極大値に対応する指向角度θpは略一致する。ここにおいて、角度検出手段146は、まず物標の角度θpを検出する。
【0042】
そして、距離・速度検出手段148は、極大値に対応する指向角度θpが略一致するピークのグループ同士を対応づける。すると、同一物標から得られたアップ期間の周波数fuとダウン期間の周波数fdとが対応づけられる。よって、距離・速度検出手段148は、上述した式(1)、(2)により物標の相対速度、相対距離を算出する。
【0043】
ここで、送信電力低減モードにおける信号処理について説明する。送信電力低減モードでは、レーダ信号を送信する指向角度が通常モードの半分になる。よって、図6(A)で示した周波数スペクトルは、レーダ信号が送信された指向角度であって物標が存在する指向角度ごとに検出される。また、図6(B)で示したピーク分布は、ピークのグループを構成するピークの数が半分になる。このような点を除き、角度検出手段146、距離・速度検出手段148の動作は、上記と同じである。
【0044】
図7は、レーダ装置10の動作手順を説明するフローチャート図である。この動作手順は、1スキャンごとに実行される。
【0045】
送受信制御手段14bは、車両制御システム100から入力される走行速度に基づいて、通常走行時(例えば時速5km以上)であるか、低速走行時(時速5km未満)であるかを判断する(S10)。通常走行時であれば、通常モードで動作する。すなわち、変調信号生成部16に変調信号の出力を指示し、レーダ送受信機10aにレーダ信号を送信させる(S12)。このとき、アンテナ12のすべての指向角度でレーダ信号を送信させる。
【0046】
そしてFFT処理部140は、指向角度ごとのビート信号に対しFFT処理を行い、アップ期間、ダウン期間ごとに周波数スペクトルを検出する(S14)。
【0047】
そして、ピーク検出手段144は、アップ期間、ダウン期間ごとにビート信号のピークを検出する(S16)。そして、角度検出手段146は、ピーク形状から角度を検出する(S18)。そして、距離・速度検出手段148は、アップ期間のピークグループとダウン期間のピークグループとを対応付けして(S20)、目標物体の相対距離、相対速度を算出する(S22)。そして、出力手段は、検出結果の履歴が一定の連続性を有するかに基づいて出力可否を判断する(S24)。ここでは、過去所定回数(たとえば3回)のスキャンで検出された物標の角度が一定誤差範囲内(たとえば±0.5度以内)のときに、連続性を確認する。そして、連続性が確認された結果は、検出結果としての信頼性が担保されるので、出力可と判断する。そして、出力手段は、出力可と判断した目標物体の情報を車両制御システム100に出力する(S26)。
【0048】
一方、低速走行時であれば、送信電力低減モードで動作する。すなわち送受信制御手段14bは、レーダ送受信機10aにレーダ信号を間欠的な指向角度で送信させる(S12a)。このとき、アンテナの回動方向ごとにレーダ信号を送信する指向角度が異なる。そして、そしてFFT処理部140は、レーダ信号が送信された指向角度ごとのビート信号に対しFFT処理を行い、アップ期間、ダウン期間ごとに周波数スペクトルを検出する(S14a)。そして、ピーク検出手段144は、上記同様、ビート信号のピークを検出する(S16a)。そして、角度検出手段146は、ピーク形状から角度を検出する(S18a)。
【0049】
そして、距離・速度検出手段148は、上記同様にアップ期間のピークグループとダウン期間のピークグループとを対応付けして(S20a)、目標物体の相対速度、相対距離を算出する(S22a)。そして、出力手段は、上記同様に、出力可否判断(S24)、車両制御システム100への出力(S26)を行う。
【0050】
ここで、送信電力低減モードでは、1つおきの指向角度で得られたビート信号に基づいて、物標の角度が検出される。よって、角度分解能の低下を防ぐために、本実施形態では次のような処理を行う。
【0051】
図8は、送信電力低減モードにおける物標の角度検出処理を説明する図である。図8では、横軸にアンテナ12の指向角度、縦軸にビート信号のレベルを示す。図8(A)は、アンテナ12が右方向に回動するスキャンのときに単一の物標から得られたピークの形状を示す。図8(B)は、左方向に回動するスキャンのときに、同じ物標から得られたピークの形状を示す。上述したように、アンテナ12は回動方向ごとに異なる間欠的な指向角度でレーダ信号を送受信する。よって、図8(A)、(B)では、ピークが検出される指向角度は交互になる。なおここでは説明の便宜上、アップ期間でのピーク形状に基づいて説明する。
【0052】
図8(A)では、ピーク形状(点線で図示)の極大値は指向角度θp1で形成される。よって、上述した手順によれば物標の角度θp1が検出される。一方、図8(B)では、ピーク形状(点線で図示)の極大値は指向角度θで形成される。よって、上述した手順によれば物標の角度θp2が検出される。ここで、検出される角度に差が生じる。
【0053】
よって、本実施形態では、角度θp1とθp2の平均θp_avを算出して、これを物標の角度として検出する。
【0054】
ここで、図8(C)に、すべての指向角度でレーダ信号を送受信したときに得られるピーク形状を示す。すると図8(C)では、ピーク形状は指向角度θpmで検出される。よって、角度θpmが、本来検出すべき物標の角度である。すると、上記のように検出される角度θp1とθp2の平均の角度θp_avが角度θpmと略一致する。
【0055】
このように、回動方向ごとに検出した角度の平均を算出することで、角度分解能の低下を補うことができる。
【0056】
図9は、図8の処理の手順を説明するフローチャート図である。このフローチャート図は、図7の手順S18aのサブルーチンに対応する。
【0057】
角度検出手段146は、今回のスキャンにおける物標の角度を検出し(S200)、RAMに格納する(S202)。そして、前回のスキャンで検出した物標の角度をRAMから読み出し(S204)、今回検出した角度との平均を算出する(S206)。
【0058】
このようにして、間欠的な指向角度でレーダ信号を送受信した場合であっても、物標の角度の検出精度低下を防止できる。
【0059】
本実施形態の変形例では、検出した角度の平均を算出する代わりに、ピーク分布を合成して物標の角度を検出する。
【0060】
図10は、変形例における角度検出処理の手順を説明するフローチャート図である。図10の手順S160〜S166は、図7で示した手順S16aの詳細な手順に対応する。また、図10の手順S168は、図7で示した手順S18aが変形された手順である。ここで、再度図8を参照しつつ説明する。
【0061】
ピーク検出手段144は、今回のスキャンにおけるピーク(図8(B)のピーク)を検出し(S160)、RAMに格納する(S162)。そして、前回のスキャンで検出したピーク(図8(A)のピーク)をRAMから読み出し(S164)、今回検出したピークと合成する(S166)。すると、図8(C)のピークが合成される。
【0062】
そして、角度検出手段146は、合成したピーク形状における極大値が形成される指向角度を物標の角度として検出する(S168)。
【0063】
このようにして、間欠的な指向角度でレーダ信号を送受信した場合であっても、物標の角度の検出精度低下を防止できる。さらに、この変形例によれば、ピーク形状を2次近似により算出する際のデータ量が増加するので、角度検出精度が向上する。
【0064】
上述の説明では、間欠的な指向角度でレーダ信号を送信するときに、指向角度を1つおきに間引く場合を示した。本実施形態では、指向角度を例えば2つ以上間引いてレーダ信号を送信してもよい。また、左右の回動方向で異なる指向角度でレーダ信号を送信すれば、左右の回動方向で間引く指向角度の数が異なってもよい。
【0065】
また、本実施形態におけるレーダ装置は、車両前方だけでなく、車両の前側方、後方、あるいは後側方を走査する場合にも適用できる。
【0066】
以上説明したように、本実施形態のレーダ装置によれば、間欠的な指向角度でレーダ信号を送出するので、まず送信電力を低減させることができる。周囲の車両の電子機器へのノイズの影響や、通行人など人体への悪影響を回避できる。特に、低速走行時に上記処理を行うことで、渋滞時や駐車場内での低速走行時、あるいは交差点で信号待ちをする際の停車時には、周囲に他の車両や通行人が存在する蓋然性が高くなる場合であっても、上記効果を奏することができる。また、レーダ装置内の回路素子の温度上昇を抑制し、熱暴走や素子の損傷を防止できる。特に、低速走行時には走行風が弱くなり、冷却効率が低下しても、冷却効率低下を補える。さらに、たとえば米国でFCC規制に準拠した制御が可能となる。FCC規制では、低速走行時の送信電力が制約されているが、低速走行時に送信電力を低減させるのでかかる規制に準拠できる。
【0067】
そして、前回のピーク形状と今回のピーク形状とに基づき物標の角度を検出するので、角度検出の精度低下を防止できる。
【符号の説明】
【0068】
1:車両、10:レーダ装置、10a:信号処理装置、12:アンテナ、140:送受信制御手段、144:ピーク検出手段、146:角度検出手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載されるとともに往復回動して所定の角度範囲で指向角度を順次変化させるアンテナを備えたレーダ装置であって、
前記アンテナが第1の方向に回動するときには、前記アンテナにより間欠的な第1の指向角度群でレーダ信号を送受信し、前記送受信されたレーダ信号の周波数差を有する第1のビート信号群を生成し、前記第1の方向と反対の第2の方向に回動するときには、前記アンテナにより前記第1の指向角度群とは異なる間欠的な第2の指向角度群でレーダ信号を送受信し、前記送受信されたレーダ信号の周波数差を有する第2のビート信号群を生成するレーダ送受信機と、
前記第1のビート信号群の第1のピークと、前記第2のビート信号群の第2のピークとを検出するピーク検出手段と、
前記第1のピーク形状における極大値と前記第2のピーク形状における極大値とに基づき、物標の角度を検出する角度検出手段とを有するレーダ装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記角度検出手段は、前記第1のピーク形状における極大値が形成される角度と、前記第2のピーク形状における極大値が形成される角度の平均を物標の角度として検出することを特徴とするレーダ装置。
【請求項3】
請求項1において、
前記角度検出手段は、前記第1のピークと前記第2のピークとを合成したピーク形状における極大値が形成される角度を物標の角度として検出することを特徴とするレーダ装置。
【請求項4】
請求項1において、
前記車両の速度が基準速度以上のときには、前記レーダ送受信機は前記アンテナの回動方向が前記第1、第2の方向のいずれであっても前記第1、第2の指向角度で前記レーダ信号を送受信し、前記送受信されたレーダ信号の周波数差を有するビート信号群を生成し、前記ピーク検出手段は前記ビート信号のピークを検出し、前記角度検出手段は、前記検出されたピーク形状に基づき物標の角度を検出することを特徴とするレーダ装置。
【請求項5】
車両に搭載されるとともに往復回動して所定の角度範囲で指向角度を順次変化させるアンテナを備えたレーダ送受信機の信号処理装置であって、
前記レーダ送受信機に、前記アンテナが第1の方向に回動するときには、前記アンテナにより間欠的な第1の指向角度群でレーダ信号を送受信させ、前記送受信されたレーダ信号の周波数差を有する第1のビート信号群を生成させ、前記第1の方向と反対の第2の方向に回動するときには、前記アンテナにより前記第1の指向角度群とは異なる間欠的な第2の指向角度群でレーダ信号を送受信させ、前記送受信されたレーダ信号の周波数差を有する第2のビート信号群を生成させる送受信制御手段と、
前記第1のビート信号群の第1のピークと、前記第2のビート信号群の第2のピークとを検出するピーク検出手段と、
前記第1のピーク形状における極大値と前記第2のピーク形状における極大値とに基づき、物標の角度を検出する角度検出手段とを有する信号処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−2368(P2011−2368A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−146471(P2009−146471)
【出願日】平成21年6月19日(2009.6.19)
【出願人】(000237592)富士通テン株式会社 (3,383)
【Fターム(参考)】