説明

レーダ装置および類似装置

【課題】探知領域内の物標(エコー)の状態や周辺環境によらず物標の探知画像データを確実に表示することができるレーダ装置を提供する。
【解決手段】挙動データ検出部11はスイープメモリ4から出力される探知データx(n)からWデータ発生部7で取り扱う探知画像データX(n)のレベル挙動を検出して今回のレベル検出データを生成する。挙動データメモリ12には過去数スキャン分のレベル検出データからなる前回の挙動データが記憶されており、挙動検出部11はこの前回の挙動データを今回のレベル検出データで更新し、Wデータ発生部7に出力する。Wデータ発生部7はこの挙動データから該当する画素の探知画像データの特徴を検出して、フィルタ演算データW(n)か、今回の探知画像データX(n)か、特定フィルタ演算データZ(n)のいずれかを選択して書込画像データY(n)として出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、今回の探知画像データと記憶した過去の探知画像データとでスキャン相関処理を行うレーダ装置および類似装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、船舶用のレーダ装置では海面反射等を除去するためスキャン相関処理が用いられている。スキャン相関処理とは、今回の探知画像データと、同位置のアンテナ1回転(1スキャン)前に書き込まれた書込探知画像データとを用いて今回の書込探知画像データを決定する処理である。このようなスキャン相関処理を行うレーダ装置として、例えば、特許文献1には、1スキャン分の探知画像データを記憶する画像メモリと、この画像メモリに記憶された書込探知画像データおよび今回取得した探知画像データから所定のデータ処理を行い新たな探知画像データを形成するライトデータ発生部とを備えてスキャン相関処理するレーダ装置が開示されている。
【0003】
図8は従来のレーダ装置の概略構成を示すブロック図であり、図9は図8に示すレーダ装置のライトデータ発生部の機能を示すブロック図である。
【0004】
図8に示すように、従来のレーダ装置は、所定回転周期で水平面を回転しながら、送信期間にパルス状電波(送信パルス信号)を外部に送信し、受信期間に物標で反射された電波(探知信号)を極座標系で受信するレーダアンテナ101と、探知信号を検波する受信部102と、探知信号を所定周期でサンプリングしてディジタル形式の探知データに変換するAD変換部103と、1スイープ分の探知データを実時間で書き込み、次の送信により得られる探知データが再び書き込まれるまでに、この1スイープ分のデータをWデータ発生部(ライトデータ発生部)107に出力するスイープメモリ104と、を備える。
【0005】
また、従来のレーダ装置は、スイープの回転中心を開始番地として、中心から周囲に向かって、所定方向を基準としたアンテナ角度θと、スイープメモリ104の読み出し位置rとから、対応する直交座標系で配列された画像メモリ108の画素を指定する番地を作成して描画アドレス発生部105と、スイープの1回転内において、画像メモリ108上における描画アドレス発生部105で指定された直交座標系の各画素に、スイープが最初にアクセスしたタイミング、または最後にアクセスしたタイミングを検出し、FIRST信号またはLAST信号を与えるFIRST/LAST検出部106と、を備える。
【0006】
また、従来のレーダ装置は、FIRSTまたはLASTのタイミングでスイープメモリ104からの探知画像データX(n)と前回の書込探知画像データY(n―1)とをスキャン相関処理し、今回の書込探知画像データY(n)を生成するWデータ(ライトデータ)発生部107と、書込探知画像データが描画アドレス発生部105で番地指定された画素に描画される画像メモリ108と、書込画像データを表示する表示器109とを備える。
【0007】
従来のレーダ装置のWデータ発生部107は、図9に示す機能からなり、画像メモリ108の画素毎にアンテナ1回転前に画像メモリ108に記憶された画像データY(n−1)と、スイープメモリから入力される今回の画像データX(n)とを用いて、予め設定されたルールに従い、今回画像メモリ108に記憶させる画像データY(n)を決定する。このルールの一例として、例えば、次式で決定されるルールで画像データY(n)を決定する。
【0008】
Y(n)=α・X(n)+β・Y(n−1) −(1)
ここで、α,βは予め設定された係数であり、スキャン相関処理の目的、用途毎に設定されている。
【特許文献1】特開平11−352212号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところが、従来のスキャン相関処理を行うレーダ装置では、今回画像メモリに書き込まれる探知画像データ(書込探知画像データ)は、今回取得した探知画像データと、前回のスキャンまでの探知画像データから得られる画像メモリに記憶されている前回の書込探知画像データと、予め特定の用途に合致する係数により決定されている。このため、このスキャン相関処理が有効、すなわち、スキャン相関処理として最適な効果を得るには、予め設定したルールと探知画像データの挙動とが一致する場合に限られる。このため、予め数種類のスキャン相関処理モードが設定されており、オペレータが観測対象毎に相応しい処理モードを選択して切り替えする操作を可能としている。
【0010】
ところが、従来のスキャン相関処理は全処理範囲で同じ処理を実行するため、この範囲内に異なる種類の挙動を有する物標が存在する場合に、双方に対して同時に最適なスキャン相関処理を行うことができない。すなわち、前記範囲内の或る部分ではスキャン相関処理が有効であっても他の部分では逆に悪い結果を得る場合がある。
【0011】
例えば、海面反射内に存在するブイを識別する場合で且つ高速で移動する他船が存在する場合、海面反射を抑制すれば高速で移動する他船も抑圧されて識別が困難になる。この際、高速で移動する他船の識別を容易にするためスキャン相関処理モードを選択すると、これに従い海面反射の除去効果が低下して、逆にブイを識別しにくくなる。
【0012】
また、時間の経過や、観測位置(自船位置)の移動に伴い、受信エコーの状態、周囲の状況が変化すると、オペレータはこれらの変化に対応して最適なスキャン相関処理モードを選択切り替えすることが必要であった。
【0013】
したがって、この発明の目的は、探知領域内の物標の状態や周辺環境によらず物標の探知画像データを確実に表示することができるレーダ装置および類似装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この発明は、受信した探知データから画像メモリの各画素に対応する探知画像データを抽出し、抽出された探知画像データと画像メモリに記憶されている前回の書込探知画像データとに基づき画像メモリへの今回の書込探知画像データを生成する探知画像データ生成手段と、書込探知画像データを1スキャン分記憶する画像メモリと、を備え、今回の書込探知画像データに基づく表示画像データを出力するレーダ装置および類似装置において、抽出された探知画像データのスキャン毎のレベル変化の挙動を検出する挙動データ検出手段、および、画素毎に挙動データを所定スキャン回数分記憶する挙動データ記憶手段を含み、挙動データを更新しながら探知画像データ生成手段に出力する挙動データ生成手段を備え、探知画像データ生成手段で、挙動データ生成手段から入力した時系列の挙動データに基づき該当する画素の探知画像データの特徴を識別し、識別結果に応じたフィルタ処理および選択処理により画像メモリの各画素への前記書込探知画像データを生成することを特徴としている。
【0015】
この構成では、探知画像データ生成手段は、今回の探知画像データに対応する該当画素における前回までのスキャンにより生成され画像メモリに記憶されている前回の書込画像データ(前回の表示画像データ)を読み出す。挙動データ検出手段は、受信した探知データから該当画素の探知画像データのレベルの挙動を検出して今回の挙動データを生成する。挙動データ記憶手段には過去所定スキャン分の挙動データが記憶されており、挙動データ生成手段は、今回の挙動データで更新された所定スキャン分の挙動データを探知画像データ生成手段に出力する。探知画像データ生成手段は、入力された時系列の挙動データに基づき、該当画素の探知画像データの特徴を識別する(例えば、海面反射であるか、固定物標であるか、移動物標であるか等)。そして、探知画像データ生成手段はこの識別結果に応じて、今回の探知画像データと画像メモリから読み出した前回の書込探知画像データとによるフィルタ処理を行い今回の書込探知画像データを生成する。すなわち、スキャン相関処理を行う。この探知画像データは画像メモリに記憶され、次回のフィルタ処理に用いられるとともに、今回の表示画像データとして表示器等に出力される。
【0016】
また、この発明のレーダ装置は、探知画像データ生成手段で、挙動データから探知画像データの存在度と探知画像データの変化回数で示される不安定度とを検知し、存在度および不安定度に基づきフィルタ処理および選択処理を行うことを特徴としている。
【0017】
また、この発明のレーダ装置は、探知画像データ生成手段で、存在度および不安定度に基づきフィルタ処理の係数を可変させる。
【0018】
また、この発明のレーダ装置は、探知画像データ生成手段で、挙動データが予め設定した所定数の特定パターンとなる場合に、これら特定パターンに応じた特定フィルタ処理を行うことを特徴としている。
【0019】
これらの構成では、固定物標、移動物標、海面反射に対応する探知画像データの変化が異なることに基づき、該当探知画像データに対応する挙動データの変化を検知することで、探知画像データの特徴を検知する。この際、1つのパラメータが、該当画素にどれだけ長い間探知画像データが存在するかを示す、今回を含む過去の数スキャン分の挙動データの存在割合で表される存在度である。また、もう1つのパラメータが、該当画素に存在する探知画像データがどれだけ不安定であるかを示す、今回を含む過去の数スキャン分の挙動データの変化割合で表される不安定度である。例えば、固定物標は存在度が大きく不安定度が小さくなり、海面反射は不安定度が大きく、移動船は不安定度が小さくなる。また、移動船の挙動は特定のパターンを示す。
【0020】
このようにして得られた探知画像データの特徴に基づき、探知画像データ生成手段は、画素のデータ毎にフィルタ処理および選択処理を行う。この際、前記特徴に基づきフィルタ処理の係数を変化させる。例えば、探知画像データの特徴に応じて、今回の探知画像データをそのまま書込探知画像データとしたり、今回の探知画像データと前回の書込探知画像データとをフィルタ処理した結果を書込探知画像データとしたり、このフィルタ処理の係数を変化させる。
【発明の効果】
【0021】
この発明によれば、該当画素の探知画像データのスキャン単位の挙動に応じてスキャン相関処理の処理内容を変化させることで、最適なスキャン相関処理結果を得ることができる。これにより、外部状況に影響されることなく、所望とする物標を確実に表示するレーダ装置および類似装置を構成することができる。さらには、レーダ装置が状況に応じて自動的に最適なスキャン相関処理条件を適用するので、オペレータが煩雑な操作をすることなく所望とする物標を確実に表示することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の実施形態に係るレーダ装置について図を参照して説明する。
図1は本実施形態のレーダ装置の概略構成を示すブロック図である。
【0023】
図1に示すように、本実施形態のレーダ装置は、レーダアンテナ1、レーダ受信部2、AD変換部3、スイープメモリ4、描画アドレス発生部5、FIRST/LAST検出部6、Wデータ発生部7、画像メモリ8、表示器9、挙動データ生成部10を備える。
【0024】
レーダアンテナ1は、所定回転周期で水平面を回転しながら、送信期間にパルス状電波(送信パルス信号)を外部に送信する。また、レーダアンテナ1は受信期間に物標で反射された電波(探知信号)を極座標系で受信して、受信部2にこの探知信号を出力するとともに、描画アドレス発生部5にスイープ角度データ(アンテナ角度θ)を出力する。
受信部2は、レーダアンテナ1からの探知信号を増幅、検波し、STC処理等を行ってAD変換部3に出力する。
AD変換部3は、このアナログ形式の探知信号を所定周期でサンプリングしてディジタル形式の探知データに変換する。
スイープメモリ4は、ディジタル変換された1スイープ分の探知データを実時間で書き込み、次の送信により得られる探知データが再び書き込まれるまでに、この1スイープ分のデータx(n)をWデータ発生部7および挙動データ生成部10の挙動データ検出部11に出力する。
描画アドレス発生部5は、スイープの回転中心を開始番地として、中心から周囲に向かって、所定方向を基準としたアンテナ角度θと、スイープメモリ4の読み出し位置rとから、対応する直交座標系で配列された画像メモリ8の画素およびこの画素に対応する挙動データ生成部10の挙動データメモリ12の画素を指定する番地を作成して画像メモリ8および挙動データメモリ12に出力する。
なお、この描画アドレス発生部5は、具体的には次式を実現するハードウェアにより構成される。
X=Xs+r・sinθ
Y=Ys+r・cosθ
ただし、
X,Y:画像メモリ8(挙動データメモリ12)の画素を指定する番地
Xs,Ys:スイープの中心番地
r:中心からの距離
θ:スイープ(アンテナ)の角度
FIRST/LAST検出部6は、スイープの1回転内において、画像メモリ8および挙動データメモリ12上における描画アドレス発生部5で設定された直交座標系の各画素に、スイープが最初にアクセスしたタイミング、または最後にアクセスしたタイミングを検出し、FIRST信号またはLAST信号としてWデータ発生部9および挙動データ生成部10の挙動データ検出部11に与える。ここで、スイープが最初に画素にアクセスするタイミングとは、スイープ上のサンプル点、すなわち探知データが存在する点が初めて該当画素にアクセスするタイミングをいう。一方、スイープが最後に画素にアクセスするタイミングとは、スイープ上のサンプル点、すなわち探知データが存在する点が最後に該当画素にアクセスするタイミングをいう。スキャン相関処理による画像メモリの更新はアンテナ1回転に1回のみであることが必要であるから、FIRSTまたはLASTのどちらか一方のみを検出した場合に画像メモリを更新する。そして、FIRST/LAST信号は、極座標系データを直交座標系データに変換する演算処理過程で生成する信号を基に検出される。
【0025】
挙動データ生成部10は挙動データ検出部11と挙動データメモリ12とを備える。
挙動データ検出部11は、スイープメモリ4から入力される探知データに対して、前記FIRST信号またはLAST信号のタイミング、すなわち、前記探知画像データの抽出タイミングでレベルを検出する。この検出結果は2値で行われ、予め設定された閾値よりも探知データ(探知画像データ)のレベルが高ければ「1」のレベル検出データを出力し、前記閾値よりも探知データのレベルが低ければ「0」のレベル検出データを出力する。ここで、この閾値は、物標として検知すべき探知データのレベルにより設定される。
【0026】
また、挙動データ検出部11は、今回検出したレベル検出データと、挙動データメモリ12に記憶される、時系列に並ぶ過去所定スキャン分のレベル検出データからなる前回の挙動データB(n−1)とをさらに時系列で並べて今回の挙動データB(n)を生成して、挙動データメモリ12およびWデータ発生部7に出力する。
【0027】
挙動データメモリ12は、画像メモリ8に対応する番地付けがなされ、画素毎に複数ビットの容量を持つ。この番地付けは描画アドレス発生部5により指定される。そして、この画素毎の複数ビットに、挙動データ検出部11から出力される挙動データが入力される。挙動データのレベル検出データは時系列にLSBからMSBに向かってシフトさせながら記憶される。このようにシフト処理が行われる結果、最も古いレベル検出データが破棄される。例えば、各画素に対応するビット数が8ビットである場合には、挙動データメモリ12は、LSBからMSBに向けて、常に新たなレベル検出データから時系列順に8スキャン分のレベル検出データが挙動データとして記憶される。このように記憶された挙動データは次に挙動データ検出部11が新たな挙動データを生成する際に利用される。
【0028】
Wデータ発生部(ライトデータ発生部)7は、図2に示す構成からなり、スイープメモリ4から入力される今回の探知データx(n)から、後述する探知画像データ抽出部70で得られる探知画像データX(n)と後述する画像メモリ8から入力される前回の書込探知画像データY(n−1)とのフィルタ処理により得られるフィルタ演算データ(n)か、探知画像データX(n)か、特定フィルタ処理により得られる特定演算データZ(n)かを今回の書込探知画像データY(n)として出力する。この際、Wデータ発生部7は、挙動データ生成部10から出力される挙動データB(n)に基づく該当画素の探知画像データの特徴に応じて、いずれかのデータを今回の書込探知画像データY(n)として出力する。このWデータ発生部7が本発明の「探知画像データ生成手段」に相当する。
【0029】
画像メモリ8は、アンテナ1回転分、すなわちスイープ1回転分の探知画像データを記憶する容量を備えるメモリであり、前述のWデータ発生部7により生成された、今回の書込探知画像データY(n)を描画アドレス発生部5で番地指定された画素に書き込む。そして、図示しない表示制御部により表示器がラスター走査されると、このラスター動作に同期して画像メモリ8に描画されている探知画像データが高速で読み出され、このデータに応じた輝度または色で表示器9上に探知画像が表示される。
【0030】
次に、Wデータ発生部7の具体的な構成について説明を行う。
【0031】
図2は図1に示すWデータ発生部7の概略構成を示すブロック図である。
Wデータ発生部7は、探知画像データ抽出部70、第1フィルタ71、特徴抽出部72、特徴別選択信号発生部73、第2フィルタ74、およびセレクタ75,76を備える。
【0032】
探知画像データ抽出部70は、FIRST/LAST検出部6から入力するFIRSTまたはLAST信号に基づき、スイープメモリから入力される複数の探知データx(n)の中から、直交座標系の画像メモリ8の各画素に対応する探知画像データX(n)を抽出して、第1フィルタ71に出力する。
【0033】
第1フィルタ71は、探知画像データ生成部70から入力される該当画素の今回の探知画像データX(n)と、画像メモリ8から入力される該当画素の前回の書込探知画像データY(n−1)とを用いて、今回のフィルタ演算データW(n)を決定する。
【0034】
例えば、次式で表されるIIRフィルタを用いて今回のフィルタ演算データW(n)を出力する。
W(n)=α・X(n)+β・Y(n−1) (但し、α<β、α+β=1) −(2)
ここで、α、βは予め決定した定数か、存在度および不安定度により可変にした変数であり、本実施形態ではこれらの値により海面反射と海面反射中の小物標との識別能力を向上させる値にそれぞれ設定されている。
【0035】
第1フィルタ71から出力される今回のフィルタ演算データW(n)は、特徴別選択信号発生部73とセレクタ75とに入力される。
【0036】
特徴抽出部72は、存在度検出部721、不安定度検出部722、挙動識別部723を備える。
存在度検出部721はカウンタ回路等からなり、挙動データが更新されるFIRSTまたはLASTのタイミングで挙動データB(n)に含まれるレベル検出データの「1」の数を算出する。言い換えれば、存在度検出部721は今回を含む過去の複数スキャン分のレベル検出データにより構成される該当画素の挙動データB(n)から、物標が検知された事を示す「1」のレベル検出データの割合を示す存在度E(n)を算出する。例えば、前記8ビット(8個)中に4ビット(4個)で「1」が存在すれば、存在度E(n)は「4」となる。
【0037】
不安定度検出部722は、挙動データが更新されるFIRSTまたはLASTのタイミングで挙動データB(n)における「1→0」、「0→1」のレベル変化の数を算出する。言い換えれば、不安定度検出部722は今回を含む過去の複数スキャン分のレベル検出データにより構成される該当画素の挙動データB(n)から、物標が検知された事を示す「1」から物標が検知されない事を「0」へのレベル遷移と、物標が検知されない事を「0」から物標が検知された事を示す「1」へのレベル遷移との合計の割合を示す不安定度U(n)を算出する。例えば、前記8ビット中に7回レベル遷移が存在すれば、不安定度U(n)は「7」となる。
【0038】
挙動識別部723は、挙動データB(n)を入力して、挙動データB(n)のデータパターンが図3に示す各分類パターンに該当すれば、その分類パターンに応じた分類コードR(n)=1〜4を、これらの分類パターンR(n)=1〜4に該当しなければ分類コードR(n)=0を第2フィルタ74およびセレクタ76に出力する。
【0039】
図3は挙動データの分類パターンを示す概念図であり、(A)〜(E)はそれぞれ分類コード1〜分類コード4および分類コード0を示す。ここで、分類コード1は物標のエコー(以下、単に「エコー」と称す。)が検知されていない状態から初めてエコーが検知された場合を示し、分類コード2はエコーが検知されていない状態から2スキャン連続してエコーが検知された場合を示し、分類コード3はエコーが検知されていない状態から3スキャン連続してエコーが検知された場合を示す。また、分類コード4はエコーが検知されていない状態から1スキャンエコーが検知されたが再度検知されなくなった場合と、今回を含む少なくとも6スキャン連続してエコーが検知されなかった場合とを示す。そして、分類コード0は上記分類コード1〜4以外のエコーパターンの場合に適用する。
【0040】
特徴別選択信号発生部73は、第1フィルタ71から入力されるフィルタ演算データW(n)と、今回の探知画像データX(n)と、存在度検出部721から入力される存在度E(n)と、不安定度検出部722から入力される不安定度U(n)とに基づき、所望とする探知画像データが表示できるようなセレクタ選択信号sを出力する。すなわち、X(n)>W(n),E(n)>4,U(n)<3を同時に満たす場合は今回の探知画像データX(n)を、そうでない場合はフィルタ演算データW(n)をセレクタ75から出力させるセレクタ信号sを出力する。例えば、固定物標のように同一地点で比較的連続して安定に探知され、存在度が大きく不安定度が小さくなる場合は今回の探知画像データX(n)を選択し、海面反射のように連続して探知されず、不安定度が大きくなる場合はフィルタ演算データW(n)を選択する。
【0041】
第2フィルタ74は、挙動識別部723から入力される前述の分類コードR(n)と今回の探知画像データX(n)を用いて、予め設定した規則に従い、特定フィルタ演算データZ(n)を生成して、セレクタ76に出力する。具体的には、各分類コードに対応して予め設定した規定値と入力される今回の探知画像データX(n)とを比較して、小さい方を特定フィルタ演算データZ(n)として出力する。
【0042】
例えば、特定フィルタ演算データZ(n)を8ビット(上位4ビットが整数部で下位4ビットが小数部)とし分類コードに関連付けした内容を表1に示す。なお、8ビット中上位4ビットを整数部とし、下位4ビットを小数部とすることで、小数部に対して4ビット分の計算精度1/16を得ることができる。すなわち、フィルタ演算データW(n)の演算式(式(2))の定数α,βが1未満であることから、書込探知画像データY(n)は小数部を含む。
【0043】
【表1】

【0044】
表1に示すように、分類コード1の場合は特定フィルタ演算データZ(n)の規定値が「1」であるので、そのまま「1」が特定フィルタ演算データZ(n)として出力される。分類コード2の場合は特定フィルタ演算データZ(n)の規定値が「8」となるので、今回の探知画像データX(n)が「8」以上であれば「8」が出力され、今回の探知画像データX(n)が「8」よりも小さければ今回の探知画像データX(n)の値が特定フィルタ演算データZ(n)として出力される。分類コード3の場合は特定フィルタ演算データZ(n)の規定値が「15」となるので、今回の探知画像データX(n)が「15」であれば「15」が出力され、今回の探知画像データX(n)が「15」よりも小さければ今回の探知画像データX(n)の値が特定フィルタ演算データZ(n)として出力される。分類コード4の場合は特定フィルタ演算データZ(n)の規定値が「0」であるので、そのまま「0」が特定フィルタ演算データZ(n)として出力される。そして、分類コード0の場合は、以下に述べるように、セレクタ76は第2フィルタ74の出力である特定フィルタ演算データZ(n)を選択しないので、このデータZ(n)は無効となる。
【0045】
セレクタ75には、第1フィルタ71からフィルタ演算データW(n)が入力されるとともに、探知画像データ抽出部70から今回の探知画像データX(n)が入力される。これらとともに、セレクタ75には、特徴別選択信号発生部73からセレクト信号sが入力され、セレクタ75は、このセレクト信号sに基づき、フィルタ演算データW(n)か今回の探知画像データX(n)かのいずれかをセレクタ76に出力する。
【0046】
セレクタ76には、セレクタ75の出力データと第2フィルタ74からの特定フィルタ演算データZ(n)が入力される。また、セレクタ76には、特徴抽出部72の挙動識別部723から分類コードR(n)が入力され、セレクタ76は分類コードR(n)に基づき、セレクタ75の出力データ(フィルタ演算データW(n)または今回の探知画像データX(n))か特定フィルタ演算データZ(n)を出力する。具体的にこの実施形態の構成では、分類コードが「1〜4」の場合には特定フィルタ演算データZ(n)を出力し、分類コードが「0」の場合にはセレクタ75の出力データを今回の書込探知画像データY(n)として画像メモリ8に出力する。
【0047】
次に、本実施形態に示すレーダ装置の処理内容について図4、図5を参照して説明する。
図4は所定の状態における挙動データメモリの各ビット内容変化を示す概念図であり、(A)〜(M)はそれぞれ異なる状態を示す。なお、以下の説明では8ビットの挙動データを用いて処理を行う場合を示す。
【0048】
(1) 移動する船のエコーを取得する場合
図4(A)〜(J)は、注目する1画素上を船が通過する前から船の通過後6スキャン経過した状態を表し、(A)から(J)に順に時間が遷移する。なお、以下の説明では、今回のエコーに対応する今回の探知画像データX(n)=15とする。また、特徴別選択信号発生部73が今回の探知画像データX(n)を出力するセレクト信号sを発生する条件を、
X(n)>W(n),E(n)>4,U(n)<3 −(St1)
とする。
【0049】
また、第1フィルタ71のフィルタ演算データW(n)の演算式の係数α,βをそれぞれ「0.1」,「0.9」とする。すなわち、
W(n)=0.1×X(n)+0.9×Y(n−1) −(2)
とする。
【0050】
図4(A)は船が通過する前の状態であり、挙動データB(0)の全てのビットが「0」である。この場合、挙動識別部723から出力される分類コードR(0)は前述の仕様に応じて「4」となるので、第2フィルタ74から特定フィルタ演算データZ(0)=0が出力される。この際、セレクタ76には分類コードR(0)=4が入力されるので、セレクタ76は特定フィルタ演算データZ(0)=0を出力する。これにより、書込探知画像データY(0)は「0」となる。
【0051】
次に、図4(B)は船の通過し始め、すなわち、初めて船のエコーを取得した状態であり、挙動データB(1)の最新状態を表すビット(0)のみが「1」である。この場合、挙動識別部723から出力される分類コードR(1)は前述の仕様に応じて「1」となるので、第2フィルタ74から特定フィルタ演算データZ(1)=1が出力される。この際、セレクタ76には分類コードR(1)=1が入力されるので、セレクタ76は特定フィルタ演算データZ(1)=1を出力する。これにより、書込探知画像データY(1)は「1」となる。
【0052】
次に、図4(C)は船のエコーを取得して2スキャン経過後(船通過中)の状態であり、挙動データB(2)の新しい側2ビットであるビット(0),ビット(1)のみが「1」である。この場合、挙動識別部723から出力される分類コードR(2)は前述の仕様に応じて「2」となるので、第2フィルタ74から特定フィルタ演算データZ(2)=8が出力される。この際、セレクタ76には分類コードR(2)=2が入力されるので、セレクタ76は特定フィルタ演算データZ(2)=8を出力する。これにより、書込探知画像データY(2)は「8」となる。
【0053】
次に、図4(D)は船のエコーを取得して3スキャン経過後(船通過中)の状態であり、挙動データB(3)の新しい側3ビットであるビット(0),ビット(1),ビット(2)のみが「1」である。この場合、挙動識別部723から出力される分類コードR(3)は前述の仕様に応じて「3」となるので、第2フィルタ74から特定フィルタ演算データZ(3)=15が出力される。この際、セレクタ76には分類コードR(3)=3が入力されるので、セレクタ76は特定フィルタ演算データZ(3)=15を出力する。これにより、書込探知画像データY(3)は「15」となる。
【0054】
次に、図4(E)は船の通過し終わり、すなわち、船の通過後初めて船のエコーを取得しなかった状態であり、挙動データB(4)の最新状態を表すビット(0)が「0」であり、ここから過去を示す3ビットである、ビット(1),ビット(2),ビット(3)が「1」である。この場合、挙動識別部723から出力される分類コードR(4)は前述の仕様に応じて「0」となるので、第2フィルタ74から出力される特定フィルタ演算データZ(4)はセレクタ76により選択されない。
【0055】
ここで、今回の探知画像データX(4)が「0」であり、存在度検出部721から出力される存在度E(4)は「3」であり、不安定度検出部722から入力される不安定度U(4)は「2」である。また、前回の書込探知画像データY(3)が「15」であることから式(2)より、今回のフィルタ演算データW(4)は「13.5」となる。このため、特徴別選択信号発生部73は、前述の選択条件St1から、フィルタ演算データW(4)=13.5をセレクタ75の出力とする。セレクタ76には分類コードR(4)=0が入力されるので、セレクタ76はセレクタ75の出力すなわちフィルタ演算データW(4)=13.5を出力する。これにより、書込探知画像データY(4)は「13.5」となる。
【0056】
次に、図4(F)は船が通過し終わって2スキャン時間経過した状態であり、挙動データB(5)の最新側2ビットであるビット(0),ビット(1)が「0」であり、ここから過去を示す3ビットであるビット(2),ビット(3),ビット(4)が「1」である。この場合、挙動識別部723から出力される分類コードR(5)は前述の仕様に応じて「0」となるので、第2フィルタ74から出力される特定フィルタ演算データZ(5)はセレクタ76により選択されない。
【0057】
ここで、今回の探知画像データX(5)が「0」であり、存在度検出部721から出力される存在度E(5)は「3」であり、不安定度検出部722から入力される不安定度U(5)は「2」である。また、前回の書込探知画像データY(4)が「13.5」であることから式(2)より、今回のフィルタ演算データW(5)は「12.2」となる。このため、特徴別選択信号発生部73は、前述の選択条件St1から、フィルタ演算データW(5)=12.2をセレクタ75の出力とする。セレクタ76には分類コードR(5)=0が入力されるので、セレクタ76はセレクタ75の出力すなわちフィルタ演算データW(5)=12.2を出力する。これにより、書込探知画像データY(5)は「12.2」となる。
【0058】
次に、図4(G)〜図4(I)についても同様に、X(n)=0、E(n)=3であるので、選択条件St1によりセレクタ75では、フィルタ演算データW(n)が選択される。また、分類コードR(n)=0であるので、セレクタ76はフィルタ演算データW(n)を選択し、書込探知画像データY(n)はフィルタ演算データW(n)となる。この結果、図4(G)に示す状態から図4(I)に示す状態では、書込探知画像データY(n)は以下のように変化する。
【0059】
図4(G)状態:Y(6)=W(6)=11.0
図4(H)状態:Y(7)=W(7)=9.9
図4(I)状態:Y(8)=W(8)=8.9
次に、図4(J)は船が通過し終わって6スキャン時間経過した状態であり、挙動データB(9)の最新側6ビットであるビット(0)〜ビット(5)が「0」であり、ここから過去を示す2ビット(最過去2ビット)である、ビット(6),ビット(7)が「1」である。この場合、挙動識別部723から出力される分類コードR(9)は前述の仕様に応じて「4」となるので、第2フィルタ74から特定フィルタ演算データZ(9)=0が出力される。この際、セレクタ76には分類コードR(9)=4が入力されるので、セレクタ76は特定フィルタ演算データZ(9)=0を出力する。これにより、書込探知画像データY(9)は強制的に「0」となる。
【0060】
以上のような移動する船の状態(A)〜(J)における、探知画像データX(n)、挙動識別部723からの分類コードR(n)、特定フィルタ演算データZ(n)、フィルタ演算データW(n)、書込探知画像データY(n)の値の遷移について表2、および図5に示す。また、表2、図5には仮に全ての状態を第1フィルタ演算データW(n)を使用した場合の値も示す。なお、図5において、実線は本実施形態の構成を用いた場合の書込探知画像データY(表示画像データ)の遷移を包絡線処理して表したものであり、破線は第1フィルタ演算処理のみを用いた場合の書込探知画像データYの遷移を包絡線処理して表したものである。
【0061】
【表2】

【0062】
表2および図5に示すように、本実施形態の構成を用いることで、船を表す書込画像データの最大値が大きくなり、且つ船が通過してから書込探知画像データが「0」になるまでの時間が短くなる。一方、第1フィルタ演算処理のみを用いる場合では、船を表す書込画像データの最大値が小さくなり、且つ船が通過してから書込探知画像データが「0」になるまでの時間が長い。このため、第1フィルタ演算処理のみを用いた方法では、船の表示画像が抑圧されるとともに、いつまでも残光することとなる。また、図5の実線と破線との関係は、単一のフィルタ処理のみの場合でフィルタ処理に海面反射を抑制する設定とすることで移動する他船が抑圧されてしまうことを示す。一方、本実施形態の場合では過去の挙動を示す挙動データを基にして移動する他船と海面反射とを個別に識別し、各々に異なるフィルタ処理を実行することにより、船の抑圧は海面反射の抑圧よりも小さくなり、船の識別が容易な映像となることを示す。したがって、本実施形態の構成を用いることにより、表示画面上で見ると、探知して識別した船をより鮮明に表示し、且つ、船が通り過ぎてからの残光時間を短くすることができる。これにより、目標とする物標をより識別しやすく、さらに見やすいレーダ画像を得ることができる。
【0063】
(2) なにも存在しない状態から1スキャンのみエコーが存在し、再度消えた場合
図4(K)は、なにも存在しない状態から1スキャンのみエコーが存在して再度消えた直後の状態を示す。この状態は前述の図4(A)の状態、図4(B)の状態のちに起こった状態である。ここで、図4(A)、図4(B)の状態については前述しているので説明を省略する。
図4(K)の状態では、挙動データBは、最新側から2番目のビットbit(1)のみが「1」である。この場合、挙動識別部723から出力される分類コードRは前述の仕様に応じて「4」となるので、第2フィルタ74から特定フィルタ演算データZ=0が出力される。この際、セレクタ76には分類コードR=4が入力されるので、セレクタ76は特定フィルタ演算データZ=0を出力する。これにより、書込探知画像データYは「0」となる。
【0064】
このような構成とすることで、書込探知画像データYは「0」→「1」→「0」と遷移する。すなわち、なにも存在しない状態から1スキャンのみエコーが存在して再度消えるような突発的に現れる連続しない不安定のエコーの場合には、非常に低いレベルに抑圧された状態で表示され、且つ即座に消滅して残光もなくなる。
【0065】
これにより、同じ画素位置に連続しないエコーで捉えられる海面反射やノイズ等を抑圧し、必要とする移動する船と明確に識別することができる。
【0066】
(3) 陸または安定したエコーの場合
この状態は、ゲインを上げることにより、反射が強い大きな固定物標のエコーが同一画素に連続して捉えられる場合を示す。
【0067】
図4(L)は、8スキャン以上連続してエコーが存在した状態を示す。この状態は、前述の図4(A)の状態〜図4(D)の状態を経由して、そのまま、エコーを示すビットが増加した後に起こる状態である。ここで、図4(A)〜図4(D)の状態については前述しているので説明を省略し、図4(D)から図4(L)に至る状態は前述の説明から容易に推定できるので、説明を省略する。
図4(L)の状態では、挙動データBは、全てのビットbit(0)〜bit(7)が「1」である。この場合、挙動識別部723から出力される分類コードRは前述の仕様に応じて「0」となるので、第2フィルタ74から出力される特定フィルタ演算データZはセレクタ76により選択されない。
【0068】
ここで、今回の探知画像データXが「15」であり、存在度検出部721から出力される存在度Eは「8」であり、不安定度検出部722から入力される不安定度Uは「0」である。このため、特徴別選択信号発生部73は、前述の選択条件St1から、フィルタ演算データWまたは今回の探知画像データXを比較して、値の大きい方をセレクタ75の出力とする。セレクタ76には分類コードR=0が入力されるので、セレクタ76はセレクタ75の出力すなわちフィルタ演算データWと今回の探知画像データXの大きい方を出力する。これにより、書込探知画像データYはフィルタ演算データWと今回の探知画像データXの大きい方となる。このように大きい方を選択する構成とすることで、突発的に探知画像データが無くなっても、第1フィルタ演算データ側を採用することにより、安定し且識別しやすい表示画像データを得ることができる。
【0069】
また、前述のとおり、この構成ではエコーの入力が3スキャン連続すると十分大きな書込探知画像データとすることができるので、ゲインを上げて物標のエコーを取得するのに3スキャンで済む。これにより、ゲイン調整結果を素早く表示することができ、操作性を向上することができる。
【0070】
(4)ゲインを上げた状態からゲインを下げてエコーが消滅した場合
図4(M)は図4(L)に示したように連続してエコーが得られた状態からエコーが消滅し始めた状態を示す。なお、図4(L)に示す状態については前述しているので説明は省略する。
【0071】
図4(M)の状態では、挙動データBは、最新状態を示すビットbit(0)のみが「0」であり、他のビットbit(1)〜bit(7)が「1」である。この場合、挙動識別部723から出力される分類コードRは前述の仕様に応じて「0」となるので、第2フィルタ74から出力される特定フィルタ演算データZはセレクタ76により選択されない。
【0072】
ここで、今回の探知画像データXが「0」であり、存在度検出部721から出力される存在度Eは「7」であり、不安定度検出部722から入力される不安定度Uは「1」である。このため、特徴別選択信号発生部73は、前述の選択条件St1から、フィルタ演算データWをセレクタ75の出力とする。セレクタ76には分類コードR=0が入力されるので、セレクタ76はセレクタ75の出力すなわちフィルタ演算データWを出力する。そして、この後エコーが連続して存在しなければ、その度数に応じてフィルタ演算データWの出力が低下し、6スキャン以上連続してエコーが存在しなければ(図4(J)に示す状態)、前述のように書込探知画像データは「0」となる。
【0073】
このように、ゲインを下げる操作を行った場合には、第1フィルタ演算データWから特定フィルタ演算データZに切り替わることにより、不必要な残光時間を短くすることができる。
【0074】
(5)海面反射または、海面反射中の小物標のように不安定なエコーの場合
ゲイン、またはSTCを用いて海面反射除去の処理を適切に調整した場合には、海面反射のエコーが毎スキャン同じ画素位置に存在する確率は非常に低くなる。したがって、挙動データとしては、移動する船や安定した物標の場合よりも「0」、「1」が規則的に発生する確率は低くなる。これにより、挙動識別部723から出力される分類コードは、規則的な挙動を示す分類コード1〜4以外の「0」となり、選択条件St1により決まる第1フィルタ演算データW(n)または、今回の探知画像データX(n)のいずれかが書込探知画像データY(n)となる。不安定度U(n)が大である海面反射の場合は、選択条件St1により第1フィルタ演算データW(n)が書込探知画像データY(n)となり抑圧されて表示される。不安定度が大きい物標の場合も、海面反射と同様に第1フィルタ演算データW(n)が書込探知画像データY(n)となるが、探知画像データX(n)の入力頻度、レベルに差があれば、その差が第1フィルタ演算データW(n)に現れる。この結果、海面反射にくらべて探知信号の入力頻度、入力レベルが大きい物標の場合は海面反射に比べて物標の第1フィルタ演算データW(n)が大きくなり、物標が識別し易い映像となる。
【0075】
また、第1フィルタのフィルタ特性を決定する係数α,βは、α=0.2、β=0.8の場合より、α=0.1、β=0.9の方がフィルタとしての効果が強く、より抑圧された第1フィルタ演算データW(n)を得ることができる。したがって、係数α,βを存在度、不安定度に関連付けて変更することにより、存在度または不安定度の差を第1フィルタ演算データW(n)に反映することができる。
【0076】
また、前述の説明では、フィルタ演算処理の係数(定数)α、βをα+β=1の関係となるように設定したが、得ようとする画像に応じてα+β>1や、α+β<1の関係となるように設定してもよい。これにより、必要とするエコーの画像データをより強調したり、不必要なエコーの画像データをより抑圧することができる。例えば、存在度E(n)が大きい場合はα+β>1として演算することにより、遠方の物標からのエコーで反射強度が低く識別し難いエコーでも、存在度E(n)が大きい場合は強調して表示し、識別しやすい映像(画像データ)を得ることができる。
【0077】
以上のような構成とすることにより、図6に示すような表示画像を得ることができる。
【0078】
図6は表示画像を示す概略図であり、(A)はスキャン相関処理をしない場合を示し、(B)は従来の単一のフィルタ処理のみからなるスキャン相関処理を行った場合を示し、(C)は本実施形態の構成により実現されるスキャン相関処理を用いた場合を示す。
【0079】
図6(A)に示すように、スキャン相関処理を行わなければ、海上の3つの固定ブイ、移動船、海面反射の全てが同等に画像表示されてしまい、海面反射中から他船およびブイを識別することは困難である。また、図6(B)に示すように、単一のフィルタ処理のみからなるスキャン相関処理を行うと、海面反射は抑圧され、固定ブイは鮮明に表示されるが、移動船の画像も抑圧されてしまう。一方、図6(C)に示すように、本実施形態のスキャン相関処理を行った場合には、固定ブイ、移動船共に鮮明に画像表示し、且つ海面反射を抑圧することができる。
【0080】
以上のように、海面反射中のブイや移動する船を、海面反射中から鮮明に識別表示するレーダ装置を実現できる。すなわち、エコーの挙動からエコーの種類を検出し、エコーの種類に応じてスキャン相関処理することにより、必要でないエコーを抑圧するとともに、必要なエコーを強調表示するレーダ装置を実現できる。
【0081】
また、以上のような構成を用いることにより、安定な物標は安定な表示になるまでの時間が短くなり、物標のエコーが消滅してからの残光時間が短くなるので、表示画像の視認性が向上し、操作性に優れるレーダ装置を実現することができる。
【0082】
なお、前述の説明では、選択条件St1により書込探知画像データを選択したが、存在度E(n)、不安定度U(n)の条件は所望とする状態に応じて適宜設定することができる。
【0083】
図7(A)は、存在度E(n)、不安定度U(n)と各エコーの領域との関係を示す図であり、全てのエコーが図7(A)に示す略三角形状の領域内に存在する。これは次に示す理由による。例えば、安定した陸のようなエコーの場合、存在度E(n)が100%、不安定度U(n)が0%となり、エコーがない場合、存在度E(n)が0%、不安定度U(n)が0%となる。絶えず変化するエコーの場合で不安定度U(n)が100%の場合は、存在度E(n)が50%になる。また、存在度E(n)が50%の場合には不安定度U(n)は0%にはならない。これらの理由により全てのエコーが図7(A)に示す略三角形状の領域内に存在する。
【0084】
また、図7(B)は、存在度E(n)、不安定度U(n)と、フィルタ演算データW(n)、探知画像データX(n)、特定フィルタ演算データZ(n)の選択領域との関係を示す図である。
【0085】
図7(A)、(B)に示すように、移動する船のエコーが存在する領域、陸または安定したエコーが存在する領域、海面反射や不安定なエコーが存在領域はそれぞれ、存在度E(n)と不安定度U(n)との関係に関連づけすることができ、前記各領域が、特定フィルタ演算データZ(n)またはフィルタ演算データW(n)を採用する領域、フィルタ演算データW(n)のみを採用する領域、探知画像データX(n)またはフィルタ演算データW(n)の大きい方を採用する領域に関連づけすることができる。
【0086】
このような関係図から所望とする存在度E(n)、不安定度U(n)の条件を設定すればよい。
【0087】
また、前述の説明ではレーダ装置について説明したが、スキャニングソナー等他の探知画像を表示する装置についても前述の構成を適用することができ、前述の効果を奏することができる。
【0088】
また、前述の説明では、直交座標系でスキャン相関処理を行ったが、極座標系のままでスキャン相関処理を行ってもよい。
【0089】
また、前述の説明では、第1フィルタに、比較的入手が容易で簡素な構造のIIRフィルタを用いたが、FIRフィルタ等の別のフィルタを用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】本実施形態のレーダ装置の概略構成を示すブロック図
【図2】図1に示すWデータ発生部7の概略構成を示すブロック図
【図3】挙動データの分類パターンを示す概念図
【図4】所定の状態における挙動データメモリの各ビット内容変化を示す概念図
【図5】表示画像データの時刻変化を示す図
【図6】表示画像を示す概略図
【図7】存在度E(n)、不安定度U(n)と各エコーの領域との関係を示す図、および、存在度E(n)、不安定度U(n)と、フィルタ演算データW(n)、探知画像データX(n)、特定フィルタ演算データZ(n)の選択領域との関係を示す図
【図8】従来のレーダ装置の概略構成を示すブロック図
【図9】図8に示すレーダ装置のライトデータ発生部の機能を示すブロック図
【符号の説明】
【0091】
1,101−レーダアンテナ
2,102−受信部
3,103−AD変換部
4,104−スイープメモリ
5,105−描画アドレス発生部
6,106−FIRST/LAST検出部
7,107−Wデータ発生部
8,108−画像メモリ
9,109−表示器
10−挙動データ生成部
11−挙動データ検出部
12−挙動データメモリ
70−探知画像データ生成部
71−第1フィルタ
711a〜711d−メモリ
712a〜712d−1/4倍乗算器
713−加算器
72−特徴抽出部
721−存在度検出部
722−不安定度検出部
723−挙動識別部
73−特徴別選択信号発生部
74−第2フィルタ
75,76−セレクタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
受信した探知データから画像メモリの各画素に対応する探知画像データを抽出し、抽出された探知画像データと画像メモリに記憶されている前回の書込探知画像データとに基づき前記画像メモリへの今回の書込探知画像データを生成する探知画像データ生成手段と、
前記書込探知画像データを1スキャン分記憶する画像メモリと、を備え、前記今回の書込探知画像データに基づく表示画像データを出力するレーダ装置および類似装置において、
前記抽出された探知画像データのスキャン毎のレベル変化の挙動を検出する挙動データ検出手段と、前記画素毎に前記挙動データを所定スキャン回数分記憶する挙動データ記憶手段とを含み、前記挙動データを更新しながら前記探知画像データ生成手段に出力する挙動データ生成手段を備え、
前記探知画像データ生成手段は、前記挙動データ生成手段から入力した時系列の挙動データに基づき該当する画素の探知画像データの特徴を識別し、識別結果に応じたフィルタ処理および選択処理により前記画素毎への前記書込探知画像データを生成することを特徴とするレーダ装置および類似装置。
【請求項2】
前記探知画像データ生成手段は、前記挙動データから、所定期間内での前記探知画像データの存在度と前記探知画像データの変化回数で示される不安定度とを検知し、前記存在度および前記不安定度に基づき前記フィルタ処理および選択処理を行う請求項1に記載のレーダ装置および類似装置。
【請求項3】
前記探知画像データ生成手段は、前記存在度および前記不安定度に基づき前記フィルタ処理の係数を可変する請求項2に記載のレーダ装置および類似装置。
【請求項4】
前記探知画像データ生成手段は、前記挙動データが予め設定した所定数の特定パターンとなる場合に、該特定パターンに応じた特定フィルタ処理を行う請求項1〜3のいずれかに記載のレーダ装置および類似装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2006−112973(P2006−112973A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−302052(P2004−302052)
【出願日】平成16年10月15日(2004.10.15)
【出願人】(000166247)古野電気株式会社 (441)
【Fターム(参考)】