説明

レーダ装置

【課題】クロスレンジプロフィールを用いた類別判定において、目標の観測条件(距離、速度、進行方向)によってクロスレンジ分解能が変化することにより、類別判定結果の信頼性が大きく変化するという運用上の課題がある。
【解決手段】追尾情報から得られた目標の観測条件と、所望のクロスレンジ分解能から、所望のクロスレンジ分解能を得るために必要となる目標観測時間を算出し、これに基づき捜索ビーム及び類別ビームのビームスケジューリングを行う。
所望のクロスレンジ分解能を得るために更に長い目標観測時間が必要な場合は、類別ビームを分割送信することによりクロスレンジ分解能を向上させ、目標の観測条件によらずクロスレンジ分解能を一定にすることにより、類別判定結果の信頼性を一定に保つ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空機、ミサイル、ヘリコプタ等の飛しょう目標や海上の船舶等を発見することを目的とする捜索レーダ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
本発明は、捜索レーダからパルス波である目標類別のためのビーム(以降、これを「類別ビーム」という。)を目標に向けて送信し、観測している目標からの反射信号より得られる「クロスレンジプロフィール」を用いて、観測目標の類別(例えば固定翼機/ミサイルの類別、或いは機種の類別)を行うものである。以降に、この背景技術の基本原理について説明する。
クロスレンジプロフィールとは、目標のクロスレンジ方向の反射強度分布であり、観測目標の寸法を推定するための有効な手段である。(図10参照)
但し、目標のクロスレンジプロフィールは、通常単にレーダで目標を観測しただけでは得られず、観測した目標のドップラプロフィールを、観測目標のアスペクト角変化量に基づいてスケーリング(変換)することにより得られる。
【0003】
アスペクト角とは、観測目標位置を基準としたレーダ位置の方向と、観測目標の進行方向とが成す角度を言う。従って、図11に示すように目標が観測開始した時の位置から観測終了する時の位置へ移動すると、そのアスペクト角はθ1からθ2へアスペクト角変化量Δθだけ変化する。
ドップラプロフィールとは、レーダから類別ビームを送信し観測した目標上の各反射点のドップラ周波数が異なることを利用して、これらをドップラ軸上で分離して得られる反射強度分布である。
ドップラプロフィールf(n)からクロスレンジプロフィールR(n)へスケーリングするための変換式は次式の通りである。
【0004】
【数1】


但し、f:ドップラ周波数、λ:送信電波の波長、Δθ:アスペクト角変化量、
H:類別ビームとして送信したパルスの数、n:ディジタルデータのサンプリング数である。
【0005】
目標寸法を精度良く推定するためには、クロスレンジプロフィールの分解能(以降、これを「クロスレンジ分解能」という。)が高いことが必要である。つまり、類別しようとする目標の寸法よりも、分解能がより小さい必要がある。しかし、(1)式から解るように、クロスレンジ分解能は、観測時間中における目標のアスペクト角変化量Δθによって決定され、アスペクト角変化量が大きい程、クロスレンジプロフィールR(n)の分解能は高く(R(n)とR(n+1)間の長さが小さく)なり、クロスレンジプロフィールを用いたクロスレンジ方向の目標寸法(以降、これを「クロスレンジ幅」という。)の推定精度が高まる。
ところが、アスペクト角変化量Δθは、次の目標の観測条件によって大きく変動する。ア目標の距離(図12参照)、イ目標の進行速度(図13参照)、ウ目標の進行方向(図14参照)、エ目標の観測時間(図15参照)。
【0006】
次に、捜索レーダが目標を観測する方法について説明する。図16は、捜索ビームと類別ビームの送信方法を説明するイメージ図である。
一般的に電子ビーム走査を行う捜索レーダでは、図に示すように、ある一定の周期(データレート)内で、監視しようとする領域へ目標捜索のためのビーム(以降、これを「捜索ビーム」という。)を決まった順序で送受信(スキャン)を行う。そして、この捜索ビームの合間を縫って、類別ビームを対象目標に対して送信する。
【0007】
捜索ビームと類別ビームの時間を配分する従来の例を図17に示す。図に示す例は、1スキャン内に1目標に対してのみ類別ビームを送信する場合の例である。類別ビームの送信に割り当てた時間は、目標観測時間と同じでありB秒間である。
また、所要の領域をスキャンするために捜索ビームの送信に割り当てた時間は、C秒間である。類別ビーム割当て時間B秒と捜索ビーム割当て時間C秒との合計は、データレートC秒間となり一定の周期である。図17に示す例では、類別ビームの送信時間は固定であるため、目標の観測条件(距離、速度、進行方向)が大きく変化すると、クロスレンジ分解能も大きく変化してしまう。
以上が、クロスレンジプロフィールを用いた目標類別方法の基本原理である。
【0008】
クロスレンジプロフィールを用いた目標類別には、高分解能な反射強度分布を用いて、広帯域な送受信を必要としないメリットが有る。しかしその反面、目標のクロスレンジプロフィールがそのアスペクト角変化量により大きく変動するため、類別結果の精度・信頼性が低いのが課題である。
特許文献1では、目標のクロスレンジプロフィールから得られる特徴量を用いて目標類別を行う際に、目標の特徴量がアスペクト角により大きく変化することを考慮し、アスペクト角ごとに閾値を変化させ、有効な特徴量を追加した判定基準を用いて類別処理を行なうことにより、類別性能を向上させている。
また、特許文献2では、オートフォーカス処理で得られるドップラ周波数の変化量がレーダに対する目標の速度変化に関係することに着目して、旋回する目標のアスペクト角の変化量を精度良く推定し、これに基づいて分解能を一致させるように参照プロフィールを作成することができる。この結果、蛇行目標の類別性能を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−140687号広報(第19頁、図1)
【特許文献2】特開2007−218689号広報(第10頁、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
クロスレンジプロフィールを用いた目標類別は、目標の観測条件(目標の距離、速度、進行方向)によって、クロスレンジ分解能が大きく変化するため、類別結果の精度・信頼性が低い。
レーダで取得した目標の情報は、通常上位の指揮装置等へ伝送され、敵機であればさらに指揮装置から火器システムへと伝送され、射撃等の対処が行われる。高いクロスレンジ分解能が得られなければ、たとえレーダで観測目標の類別判定を実施したとしても、その判定結果は信頼性が低く、実運用には供しない。従って、実運用においては、レーダで判定する類別結果は常に一定の信頼性を確保する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
追尾情報から得られた目標の距離、速度、進行方向と、所望のクロスレンジ分解能から、所望のクロスレンジ分解能を得るために必要となる目標観測時間を算出し、算出した観測時間に基づき捜索ビーム及び類別ビームのスケジューリングを行う。所望のクロスレンジ分解能が得られない場合は、類別ビームを分割送信することにより、クロスレンジ分解能を向上させ、目標の観測条件(目標の距離、速度、進行方向)によらずクロスレンジ分解能を一定にすることにより、類別判定結果の信頼性を一定に保つ。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、常に一定のクロスレンジ分解能を確保できることから、レーダで判定する類別結果の信頼性を一定に保つことが可能になり、実運用上に使用できるメリットがある。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】この発明の実施の形態1によるレーダ装置の構成を示すブロック図。
【図2】この発明の実施の形態1における目標類別処理のフローチャート。
【図3】この発明の実施の形態1における類別ビームの分割送信要領。
【図4】この発明の実施の形態1におけるビームスケジューリング要領。
【図5】この発明の実施の形態2によるレーダ装置の構成を示すブロック図。
【図6】この発明の実施の形態2におけるビームスケジューリング。
【図7】この発明の実施の形態3におけるビームスケジューリング。
【図8】この発明の実施の形態4によるレーダ装置の構成を示すブロック図。
【図9】この発明の実施の形態4の類別判定データベース。
【図10】クロスレンジプロフィールを用いた類別原理説明図。
【図11】アスペクト角変化量の原理説明図。
【図12】目標距離によるアスペクト角変化量の原理説明図。
【図13】目標速度によるアスペクト角変化量の原理説明図。
【図14】目標の進行方向によるアスペクト角変化量の原理説明図。
【図15】目標の観測時間によるアスペクト角変化量の原理説明図。
【図16】捜索ビームと類別ビームの送信イメージ説明図。
【図17】従来の捜索ビームと類別ビームのスケジューリング例。
【符号の説明】
【0014】
1:アンテナ、2:送受切替器、3:送信機、4:受信機、
5:目標アスペクト角推定部、5a:追尾処理部、5b:アスペクト角推定部、
6:ドップラプロフィール生成部、7:クロスレンジスケーリング部、8:類別処理部、9:基準目標観測時間記憶部、10:クロスレンジ分解能推定部、
11:所望クロスレンジ分解能記憶部、12:所要目標観測時間算出部、
13:ビームスケジューラ、14:類別ビーム送信判定部、
15:クロスレンジ分解パラメータ記憶部、16:類別判定データベース、
17:目標観測時間算出部。
【発明を実施するための形態】
【0015】
実施の形態について述べる前に、従来から実施していたクロスレンジプロフィールを用いた目標類別方法の原理を詳細に説明する。
目標寸法を精度良く推定するためには、クロスレンジ分解能が高いことが必要である。しかし、クロスレンジ分解能は、観測時間中における目標のアスペクト角変化量Δθにより決定され、このΔθは、以下の観測条件によって決定される。
【0016】
ア 目標の距離(図12参照)
目標が同じ速度・同じ進行方向で、同時間内に移動する距離は一定である。しかし、アスペクト角変化量Δθ(=θ2−θ1)を見た場合、図12に示すように、近距離目標ほどその変化量Δθは大きく、遠距離目標ほどその変化量Δθは小さい。従って、高いクロスレンジ分解能を得るためには、目標をより近距離で観測する必要がある。
イ 目標の進行速度(図13参照)
目標の進行速度が速いほど、同じ時間内に移動する距離は長くなるため、図13に示すように、高速で移動する目標の方が、低速で移動する目標と比較してアスペクト角変化量Δθが大きい。従って、高いクロスレンジ分解能を得るためには、より高速の目標を観測する必要がある。
【0017】
ウ 目標の進行方向(図14参照)
目標が同速度で同時間内に移動する距離は一定である。しかし、図14に示すように、アスペクト角変化量を見た場合、目標がレーダへ向かって直進する場合はアスペクト角変化量は最小(ゼロ)であり、目標がレーダに対して真横に直進する場合は、アスペクト角変化量が最大となる。従って、高いクロスレンジ分解能を得るためには、目標の進行方向がレーダに対してより真横であることが望ましい。
エ 目標の観測時間(図15参照)
目標が同じ速度・同じ進行方向で移動する場合、目標の観測時間が長いほど、観測時間内に目標が移動する距離も長くなる。その結果、図15に示すように、観測時間が長い場合は、短い場合に比べて、アスペクト角変化量が大きくなる。従って、高いクロスレンジ分解能を得るためには、より長時間の目標観測時間が必要となる。
【0018】
従来は、クロスレンジプロフィールを用いて次の手順で目標類別処理を実施していた。
ア レーダで目標を探知・追尾する。
イ 捜索ビームにより追尾中の目標に対して、類別ビームを目標観測の時間送信する。
ウ 目標から反射された受信信号からドップラプロフィールを得る。
エ 対象目標のアスペクト角変化量を、追尾情報から得られる目標の距離・速度・進行速度と、別途定めた観測時間(ビームの送信時間)から推定する。
オ エで推定したアスペクト角変化量から、式(1)を用いてドップラプロフィールをクロスレンジプロフィールにスケーリング(変換)する。
カ クロスレンジプロフィールから観測目標の特徴量(クロスレンジ幅など)を推定し、別途定めた判定基準を用いて目標の類別判定を行う。ここで、クロスレンジプロフィールから観測目標の特徴量を推定する方法については、特許文献1(6〜17頁、図4,5,7,9〜11)、特許文献2(9,10頁、図6,7)に記載されているので参照願う。
以上、クロスレンジプロフィールを用いた目標類別の原理を詳細に述べた。
【0019】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1におけるレーダ装置の構成を示すブロック図である。図において、1は送信信号を電波として対象目標へ照射するアンテナ、2は送信・受信を切替える送受切替器、3は送信信号を照射する送信機、4は目標からの反射波を受信する受信機である。
5は目標からの受信信号を追尾処理を行ない、アスペクト角変化量を推定する目標アスペクト角推定部、
6は受信信号(ビデオ信号)をフーリエ変換し、ドップラプロフィールを生成するドップラプロフィール生成部、
7はアスペクト角変化量を用いて、ドップラプロフィールのスケーリング(変換)を行ない、クロスレンジプロフィールを生成するクロスレンジスケーリング部である。
【0020】
8はクロスレンジプロフィールからクロスレンジ幅(目標の寸法)などの特徴量を推定し、目標の類別判定を実施する類別処理部、
9は別途定めた基準となる目標観測時間を格納する基準目標観測時間記憶部、
10はアスペクト角変化量の推定値と、基準目標観測時間から、推定クロスレンジ分解能を算出するクロスレンジ分解能推定部である。
11はあらかじめ定めた所望クロスレンジ分解能を格納している所望クロスレンジ分解能記憶部、
12は推定クロスレンジ分解能と所望クロスレンジ分解能を比較し、必要な目標観測時間を算出する所要目標観測時間算出部、
13は所要目標観測時間に基づき、捜索ビーム及び類別ビームの送信スケジューリングを行なうビームスケジューラである。
【0021】
次に、本発明の特徴を述べる。従来のクロスレンジプロフィールを用いた目標類別処理において、クロスレンジプロフィールを得るために観測時間送信を行う際に、追尾情報から目標の距離、速度、進行方向は既知であり、かつ観測送信の時間も決まっていることから、クロスレンジ分解能も事前に知ることができることに着目する。
逆に言うと、追尾情報から目標の距離、速度、進行方向が既知であるため、これらの情報と、所望のクロスレンジ分解能から、所望のクロスレンジ分解能を確保するために必要な目標の観測時間(類別ビームを送信する時間)を逆に求めることが可能である。
すなわち、本発明の特徴は、目標アスペクト角推定部5において追尾情報から得られる目標の距離、速度、進行方向と、所望のクロスレンジ分解能から、所要目標観測時間を算出し、算出した観測時間に応じて、対象目標へ送信する時間を制御することにより、所望のクロスレンジ分解能を確保することである。次に数式を用いてこれを説明する。
【0022】
所望のクロスレンジ分解能をΔRcとすると、
【0023】
【数2】

【0024】
【数3】


ここで、λ:送信波長,Δθ:アスペクト角変化量である。
また、追尾情報から得られる目標の距離をR、目標の速度をv、目標観測時間をT、目標の進行方向をφとすると、アスペクト角変化量Δθは、
【0025】
【数4】


となる。式(3)と(4)より次式が得られる。
【0026】
【数5】


(5)式を変形すると次式となる。
【0027】
【数6】

このように、目標の距離R、目標の速度v、目標の進行方向φ、は追尾情報から得られ、送信波長λは既知である。従って、所望のクロスレンジ分解能ΔRcが決まれば、所要の目標観測時間Tは式(6)から算出できる。
【0028】
図2には、本発明の実施の形態1における目標類別処理のフローチャートを示す。なお、図において、アンダーラインを引いた文字は、送付するパラメータを意味する。
まず、従来と同様に、ステップS101で、送信したビームの反射波を受信機4で受信する。
ステップS102で、ドップラプロフィール生成部6は、受信した信号(ビデオ信号)をメモリに取り込み、取り込んだデータに対し高速フーリエ変換を行ない、ドップラプロフィールを生成し、クロスレンジスケーリング部7へ送る。
ステップS103で、追尾処理部5aは、受信信号の追尾処理を行ない、目標の距離、速度、進行方向を算出ずる。
ステップS104で、アスペクト角推定部5bは、目標の距離、速度、進行方向からアスペクト角変化量を算出する。
【0029】
ステップS105で、クロスレンジ分解能判定部10は、まず追尾情報と基本パターンにおける基準目標観測時間(類別ビーム割当て時間)、及びアスペクト角変化量から式(6)を用いてクロスレンジ分解能を推定する。
ステップS106にて、クロスレンジスケーリング部7は、アスペクト角変化量を用いて生成されたドップラプロフィールのスケーリング(変換)を行ない、クロスレンジプロフィールを生成する。
ステップS107にて、類別処理部8は、クロスレンジスケーリング部7から送られるクロスレンジプロフィールからクロスレンジ幅(目標の寸法)などの特徴量を推定し、目標の類別判定を実施する。
【0030】
ステップS108にて、所要目標観測時間算出部12は、クロスレンジ分解能判定部10から得た推定クロスレンジ分解能と、所望クロスレンジ分解能記憶部11に格納された所望クロスレンジ分解能11を比較する。推定クロスレンジ分解能が所望クロスレンジ分解能よりも低い(大きい)場合はステップS109に、推定クロスレンジ分解能が所望クロスレンジ分解能よりも高い(小さい)場合はステップS110に進む。
ステップS109の場合は、基準目標観測時間をそのまま、ビームスケジューラ13へ送る。ステップS110の場合は、所望クロスレンジ分解能を得るために必要な目標観測時間を算出し、それをビームスケジューラ13へ送る。
【0031】
ステップS111にて、ビームスケジューラ13は、所要目標観測時間算出部12から得た所要目標観測時間に基づき、捜索ビーム及び類別ビームのビームスケジューリングを行なう。基準目標観測時間がステップS109によりそのまま送付された場合は、基本パターンのまま類別ビームを送信するようにビーム制御データを送る。
ステップS112にてビームスケジューラ13は、ステップS110により所要目標観測時間が算出された場合は、類別ビームを分割するビーム制御データを送る。
ステップS113にて、送信機3は、ビームスケジューラ13から得たビーム制御データに従って、送信信号を目標に照射する。
【0032】
次に、所要目標観測時間算出部12にて算出した所要目標観測時間に応じて、目標への送信時間をビームスケジューラ13により制御する方法について詳細に説明する。
図3A(図17と同じ)に示す従来の例では、類別ビームの送信時間(目標観測時間)は固定であるため、目標の観測条件(距離、速度、進行方向)に応じてアスペクト角変化量が変化した結果、クロスレンジ分解能も変化してしまう。
ここで、アスペクト角変化量とは、図11に示した通り、目標の観測開始時のアスペクト角と、観測終了時のアスペクト角の差である。これを利用して、例えば図3に示すように、従来は類別ビームと捜索ビームの送信時間を図3A(図17と同じ)のようにスケジュールしていたものを、図3Bに示すスケジュールに変更する。
すなわち、類別ビームをB1秒とB2秒の2回に分割して、合計B秒間(=B1秒+B2秒)同一目標に送信し、2回の類別ビーム送信により得られた反射信号をあわせてクロスレンジプロフィールを生成する。
【0033】
この結果、アスペクト角変化量は、1回目の類別ビームによる目標観測開始時のアスペクト角と、2回目の類別ビームによる目標観測終了時のアスペクト角の差であるので、結果的にアスペクト角変化量を増加させることができ、目標の観測時間を長くしたのと同じ効果を得ることができる。
つまり、所望のクロスレンジ分解能を確保するために必要な目標観測時間に応じて、捜索ビームと類別ビームの送信要領をスケジューリングすることにより、目標の観測条件によらずクロスレンジ分解能を一定に保つことが、本発明の特徴である。
【0034】
図3において、類別ビームを分割送信する場合、各類別ビーム送信割当て時間(B1秒とB2秒)の合計は、ひとまとめに送信する場合の送信時間B秒と同じとする。この際に、所要の領域をスキャンするために捜索ビームに割り当てた時間も、C1秒とC2秒に分割されるが、この合計についてもC秒と同じとなる。つまり、捜索ビームに割当てる時間C秒は、類別ビームを分割送信する場合としない場合でも同じとなり、データレートA秒を一定に保ち、且つレーダの捜索能力を低下させることが無い。この際の目標観測時間は、B秒+C1秒となる。
また、類別ビームを分割送信する場合は、スキャンをまたいで分割することも可能である。但し、目標の類別情報を早期に得るためには、類別ビームは複数に分割せず、ひとまとめに送信した方が実運用上有利であるので、所望のクロスレンジ分解能が得られる場合には、類別ビームの分割送信は行わない。
【0035】
ビームスケジューリングについては、以下の手順で行う。
ア 基本パターンとして、図4上段の図4Aに示すスケジューリングを行う。
イ 特定目標に対して類別判定指示がなされた場合、図2ステップS105にも示したように、クロスレンジ分解能推定部10において、まず追尾情報と基本パターンにおける類別ビーム割当て時間(目標観測時間)から推定クロスレンジ分解能を算出する。
ウ イで算出した推定クロスレンジ分解能が所望のクロスレンジ分解能以上であった場合、基本パターンのビームスケジューリングのまま、捜索ビーム及び類別ビームを送信する。(図2、ステップS111参照)
【0036】
エ イで算出したクロスレンジ分解能が、所望のクロスレンジ分解能以下であった場合、まず、所望のクロスレンジ分解能を得るために必要な目標観測時間を算出する。
オ エで算出した目標観測時間に応じて、類別ビームをどのタイミングで送信するかを決定する。(図2、ステップS112参照)
この決定基準については、捜索ビーム側のスケジューリング、類別ビーム自体が送信するパルス数等に応じて異なるが、あらかじめ類別ビームの分割数を固定する(例えば、ドップラプロフィール作成時のフーリエ変換を考慮し、2のべき乗のパルスヒット数毎に分割する)等により決定基準を設定する。
【0037】
実施の形態2.
実施の形態1は、所望のクロスレンジ分解能が得られない場合は、類別ビームを分割送信することにより目標観測時間を長くして、所望のクロスレンジ分解能を確保するものである。
これに対し、本実施の形態は、所望のクロスレンジ分解能が得られない場合は、その目標に対する類別判定自体を取りやめ、代わりに捜索ビームに割当てる時間を増加させることにより、目標の捜索性能を向上させるものである。(図6参照)
【0038】
図5は、本発明の実施の形態2によるレーダ装置の構成を示すブロック図である。これは、実施の形態1の所要目標観測時間算出部12を類別ビーム送信判定部14に置き換えたものである。
図において、類別ビーム送信判定部14は、クロスレンジ分解能判定部10から受け取った推定クロスレンジ分解能と所望クロスレンジ分解能を比較し、推定クロスレンジ分解能が所望クロスレンジ分解能よりも高い(小さい)場合は、基準目標観測時間を目標観測時間としてビームスケジューラ13へ送る。推定クロスレンジ分解能が所望クロスレンジ分解能よりも低い(大きい)場合は、類別ビームの目標観測時間をゼロ(送信しない)として、ビームスケジューラ13へ送る。
【0039】
ビームスケジューラ13は、類別ビーム送信判定部14から、基準目標観測時間を受け取った場合は、基準目標観測時間に対応する基本パターンのビームスケジューリングのまま類別ビームを送信するように送信ビーム制御データを生成する。類別ビームを送信しない(送信時間をゼロの)場合は、データレートの全ての時間を用いて捜索ビームにより所定の領域を監視するように送信ビーム制御データを生成する。その他の構成は実施の形態1と同様である。
【0040】
本実施の形態では、信頼性の低い類別情報を得るよりも目標の捜索の方が優先度が高いと考え、所望のクロスレンジ分解能が得られない場合は類別判定自体を取りやめ、捜索ビームに割当てる時間を増加させることにより、レーダの時間リソースをより有効に活用できる効果を奏するものである。
【0041】
実施の形態3.
実施の形態1は所望のクロスレンジ分解能が得られない場合は、類別ビームを分割送信することにより、目標の観測時間を長くするものである。
これに対して、実施の形態3は、類別ビームを分割送信せずに、図7に示すように
ひとまとめに送信する時間を長くすることで、所望のクロスレンジ分解能を得るものである。従って、類別ビーム割当て時間と目標観測時間は等しくなる。
【0042】
図7Aは、クロスレンジ分解能が高い場合であり、目標の観測時間は短かい。
図7B、図7Cとクロスレンジ分解能が低くなるにつれて、目標の観測時間、すなわち類別ビーム割当て時間を長くしてゆく。
構成を示すブロック図は実施の形態1と同様であるが、ビームスケジューラ13におけるスケジューリングの処理方法が上記に説明したように異なっている。
【0043】
本実施の形態では、類別ビームの送信時間を長くしてひとまとめに送信するため、ビームスケジューリングが容易であるという利点がある。また,分割送信と比較して,同じクロスレンジ分解能でも、目標に照射するパルスヒット数が多くなるため,目標のS/N比を高くできる効果を奏する。
【0044】
実施の形態4.
この実施の形態は、式(6)示すように、目標の観測時間に応じて、クロスレンジ分解能が異なることを利用し類別判定を行う。つまり、同一目標に対して、いくつかのクロスレンジ分解能に対応した観測時間で、複数回類別処理を実施し、複数個のクロスレンジプロフィールを得る。
図8に示すようにいくつかのクロスレンジ分解能に対応した目標の推定寸法をデータベースとして保持し、上記で得られた複数個のクロスレンジプロフィールから類別判定を行うものである。
図9は、本実施の形態4の構成を示すブロック図である。実施の形態1とほぼ同様であり、構成が異なる部分のみを次に説明する。
【0045】
クロスレンジ分解能パラメータ記憶部15は、あらかじめ設定した複数個のクロスレンジ分解能をパラメータとして格納している。
目標観測時間算出部17は、クロスレンジ分解能パラメータとして設定されている分解能に応じた目標観測時間を式(6)に従って算出し、ビームスケジューラ13へ送る。
ビームスケジューラ13の処理内容は,実施の形態1と同様である。
類別判定データベース16は、複数のクロスレンジ分解能に対応した目標の推定寸法をデータベースとして格納している。
【0046】
類別処理部8は、同一目標に対して、異なる観測時間により得られた複数のクロスレンジプロフィールと類別判定データベース16に記憶されているクロスレンジ分解能に応じた目標寸法を照合することにより、目標の類別判定を行なう。
類別判定は個々のクロスレンジプロフィールが得られた時点で逐次更新を行い、得られるクロスレンジプロフィールの個数が増えるに従い、類別判定の確度が向上することを期待するものである。但し、あらかじめ設定しているデータベースの個数分のクロスレンジプロフィールが揃った後に、類別判定を実施することもできる。
【0047】
本実施の形態では、クロスレンジ分解能に応じて,目標の推定寸法が異なることから、逆にこれを利用して,類別情報の信頼性を向上できる効果を奏する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
捜索した目標をクロスレンジプロフィールを用いて類別するレーダ装置であって、
目標へ送信信号を照射し散乱した反射波を受信して受信信号を出力する送受信機と、
前記受信信号に基づいて追尾処理を行ないアスペクト角変化量を推定する目標アスペクト角推定部と、前記受信信号を処理してドップラプロフィールを生成するドップラプロフィール生成部と、前記アスペクト角変化量に基づき前記ドップラプロフィールをクロスレンジプロフィールに変換するクロスレンジスケーリング部と、
前記クロスレンジプロフィールから特徴量を算出し前記目標の類別を行う類別処理部と、
あらかじめ設定した基準目標観測時間と前記目標の観測条件並びに前記アスペクト角変化量に基づき推定クロスレンジ分解能を推定するクロスレンジ分解能推定部と、
前記推定クロスレンジ分解能が、らかじめ設定した所望クロスレンジ分解能より高い場合は所要目標観測時間を前記基準目標観測時間とし、前記所望クロスレンジ分解能より低い場合は所要目標観測時間を算出する所要目標観測時間算出部と、
前記所要目標観測時間が、前記基準目標観測時間である場合は基本パターンのビームスケジューリングを送信し、前記所要目標観測時間である場合は類別ビームを分割送信するように送信ビーム制御データを生成するビームスケジューラと、
前記送信ビーム制御データに基づき目標に信号を照射する前記送信機とを備えたことを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
前記所要目標観測時間算出部に代えて、前記推定クロスレンジ分解能が前記所望クロスレンジ分解能よりも高い場合は目標観測時間を前記基準目標観測時間とし、所望クロスレンジ分解能よりも低い場合は目標観測時間をゼロとする類別ビーム送信判定部を有し、
前記ビームスケジューラにおいて、前記目標観測時間が基準目標観測時間である場合は基本パターンのビームスケジューリングを送信し、前記目標観測時間がゼロである場合は類別ビームを送信しないように送信ビーム制御データを生成することを特徴とする請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項3】
前記ビームスケジューラにおいて、
前記所要目標観測時間が、前記基準目標観測時間である場合は基本パターンのビームスケジューリングを送信し、前記所要目標観測時間である場合はその時間ひとまとめに送信するように送信ビーム制御データを生成することを特徴とする請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項4】
あらかじめ設定した複数個のクロスレンジ分解能をパラメータとして格納しているクロスレンジ分解能パラメータ記憶部と、
所要目標観測時間算出部に代わり前記前記クロスレンジ分解能パラメータに対応する目標観測時間を算出する目標観測時間算出部と、
複数のクロスレンジ分解能に対応した目標の推定寸法をデータベースとして格納している類別判定データベースと、
同一目標を異なる時間観測して得られた複数のクロスレンジプロフィールと前記類別判定データベースに格納されたクロスレンジプロフィールとを照合することにより目標の類別判定を行なう類別処理部と
を備えたことを特徴とする請求項1に記載のレーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2010−271226(P2010−271226A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−124050(P2009−124050)
【出願日】平成21年5月22日(2009.5.22)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】