説明

レーダ装置

【課題】反射波の受信信号から反射元の種類を判別可能な技術を提供すること。
【解決手段】レーダ装置の信号処理部は、反射波のパワー(受信電力)Pと、このパワーPに対応する反射波の受信時点から観測周期Tsw=Tm遡った時点で受信された反射波のパワーPbと、に基づき、パワーPbに対するパワーPの変化量Y=log(P)−log(Pb)を算出する(S310)。一方、当該レーダ装置は、判別対象とする反射元の種類毎に、レーダ波が当該種類の反射元で反射して到来する反射波から算出される変化量Yの確率分布を記憶する。そして、算出された変化量Yと、上記反射元種類毎の確率分布とから、今回算出された変化量Yに対応するレーダ波の反射元の種類を判別する。即ち、反射元種類毎に、当該変化量Yが得られる確率Prを算出し(S320)、確率Prの最も高い種類を、今回のレーダ波の反射元であると判別する(S330)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、レーダ波を発射して、このレーダ波が前方物体に反射して戻ってくる反射波を受信し、送信波に対する受信波の遅延量から前方物体までの距離を検出し、送信波に対する受信波の周波数変化量から前方物体との相対速度を検出するレーダ装置が知られている(例えば特許文献1参照)。この種のレーダ装置は、例えば車両に搭載されて、車両制御に使用される。
【0003】
この他、レーダ装置としては、物標の存在有無を受信信号の振幅と閾値との比較により判定するものが知られている。この手法では、クラッタにより物標の存在を誤判定する確率(誤警報確率)を一定に抑えるために、例えば、レーダ波の受信信号を対数増幅し、この対数増幅後の受信信号を時間的に前後する受信信号の対数増幅後の平均値で減算する(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−032314号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】関根松夫著、「レーダ信号処理技術」、社団法人 電子情報通信学会、1991年9月、p.96−103
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、従来知られるレーダ装置では、前方物体までの距離や前方物体の方位、前方物体との相対速度を検出することはできるものの、レーダ波を反射した前方物体の種類までを特定することはできない。従来技術によれば、受信波が物標からの反射により生じたものであるのか、それともクラッタであるのかを判別することができる程度である。
【0007】
本発明は、こうした問題に鑑みなされたものであり、反射波の受信信号から、反射元の物体の種類を判別可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するためになされた本発明のレーダ装置は、レーダ波を発射し、当該レーダ波の反射波を受信する送受信手段と、送受信手段が受信した反射波の受信信号に基づき、反射波の信号強度を検出する検出手段と、を備えるレーダ装置であって、更に、変化量算出手段、確率分布記憶手段、及び、判別手段、を備えるものである。
【0009】
このレーダ装置が備える変化量算出手段は、検出手段により検出された反射波の信号強度Pと、当該信号強度Pに対応する反射波の受信時点から所定の観測周期Tsw遡った時点で送受信手段により受信された反射波の検出手段により検出された信号強度Pbと、に基づき、信号強度Pbに対する信号強度Pの変化量Yを算出する。変化量Yとしては、例えば信号強度P,Pbの比P/Pbを挙げることができ、信号強度P,Pbを対数増幅する場合には、変化量Yとして、対数増幅後の信号強度log(P)及びlog(Pb)の差分log(P)−log(Pb)を算出することができる。
【0010】
一方、確率分布記憶手段は、判別対象とする反射元の種類毎に、レーダ波が当該種類の反射元で反射して到来する反射波から算出される変化量Yの確率分布を記憶する。例えば、確率分布記憶手段は、上記確率分布を、累積分布関数や確率密度関数等の関数情報、又は、これら関数に代わるテーブル情報の形態で記憶する。
【0011】
そして、判別手段は、確率分布記憶手段が記憶する上記種類毎の確率分布に基づき、変化量算出手段で算出された変化量Yに対応するレーダ波の反射元の種類を判別する。この他、このレーダ装置では、変化量Yからレーダ波の反射元の種類を判別可能とするため、判別対象とする各種類の反射元にて発生する揺らぎの特徴が変化量Yに反映されるような関係で、レーダ波の送信波長λ及び観測周期Tswが定められている。
【0012】
反射波の位相は、反射面の位置に応じて変化するため、反射面が揺らげば(振動すれば)、その揺らぎによる反射面の位置変化が反射波の位相変化に現れることになる。一方、反射元は、微小な複数の反射面の集合にて構成されるものと解釈することができ、その反射面の揺らぎ方は、反射元が金属物のような表面が硬いものなのか、人のような表面が柔らかいものなのか、各部位(例えば腕や脚)が変位するものなのか等によって異なる。そして、揺らぎ方が異なれば、変化量Yの確率分布に差異が生じる。本発明では、このような現象を利用し、上記変化量Yに基づいて、反射元の種類を判別する。
【0013】
但し、観測周期Tswの間に生じる各反射面から到来する反射波成分の位相変化量Δφがπ以上となると、各反射面の反射波成分が混合する上記送受信手段での反射波の受信信号においては、その振幅がレイリー分布に従うようになり、反射面の揺らぎを観測することが難しい。換言すれば、判別対象とする各種類の反射元にて発生する揺らぎの特徴が変化量Yに反映されなくなり、変化量Yに揺らぎ方による差異が表れないため、変化量Yに基づいて、反射元の種類を判別することが難しい。
【0014】
そこで、本発明では、レーダ波の送信波長λ及び観測周期Tswを、判別対象とする各種類の反射元にて発生する揺らぎの特徴が変化量Yに反映される関係となるように定めることで、揺らぎを、変化量Yにより観測することができるようにしている。
【0015】
尚、観測周期Tsw間の位相変化量Δφは、当然のごとく観測周期Tswとレーダ波の送信波長λに依存する。更に、位相変化量Δφは、反射元の揺らぎの大きさ(反射面の変位幅)に依存する。よって、送信波長λ及び観測周期Tswについては、判別対象の各種類の反射元での揺らぎの大きさを考慮して、判別対象とする各種類の反射元にて発生する揺らぎの特徴が変化量Yに反映される関係となるように定める。具体的には、判別対象とする複数種類の反射元のいずれにおいても、その反射元での各反射面から反射する反射波の位相変化量Δφがπを超えないように、送信波長λ及び観測周期Tswを定めることで、上記関係を満足するように送信波長λ及び観測周期Tswを定めることができる。
【0016】
このように構成された本発明のレーダ装置によれば、反射波の受信信号から、反射元の物体の種類を判別することができる。従って、本発明のレーダ装置を用いれば、前方物体の種類を判別し、この判別結果に基づき、従来では実現することのできなかった処理を行うことができる。例えば、前方物体の種類に応じた処理の切り替えを行うことができる。従って、本発明によれば、従来よりも優れたレーダ装置を提供することができる。
【0017】
尚、確率分布記憶手段は、上記種類毎の確率分布として少なくとも、反射元が金属物であるときの確率分布、及び反射元が人であるときの確率分布を記憶した構成にされるとよい。そして、判別手段は、これらの確率分布に基づき、上記反射元の種類として、少なくとも金属物及び人の夫々を判別可能な構成にされるとよい(請求項2)。
【0018】
このようにレーダ装置を構成すれば、例えばレーダ装置による判別結果を車両制御に応用する場合に、前方物体が金属物(車両やガードレール等)であるのか人であるのかに応じて、車両制御の内容を切り替えることができ、危険回避等に大変役立つ。特に、従来技術では衝突回避が不可能となったときに、人を回避してガードレールに衝突するように車両制御を行うといったことは不可能であったが、本発明のレーダ装置を用いれば、そのような車両制御が実現可能となる。
【0019】
また、反射元が人であるときの確率分布としては、人が静止しているときの確率分布及び人が移動しているときの確率分布の夫々を確率分布記憶手段に記憶させて、これらの確率分布に基づいて、静止している人及び移動している人を、上記反射元の種類として判別できるように上記判別手段を構成すると一層好ましい。このようにレーダ装置を構成すれば、反射元の種類についての判別結果を危険回避等に一層役立てることができる。
【0020】
また、判別手段は、次のようにして反射元の種類を判別する構成にすることができる。即ち、判別手段は、判別対象とする反射元の種類毎に、確率分布記憶手段が記憶する当該種類の確率分布に基づき、上記変化量算出手段で算出された変化量Yの発生確率であって当該変化量Yに対応するレーダ波の反射元が仮に当該種類の反射元であるときの発生確率を導出し、導出した発生確率が最大である反射元の種類を、変化量算出手段で算出された変化量Yに対応する反射元の種類として判別する構成にすることができる(請求項3)。
【0021】
この他、車載型のレーダ装置では、自車両周辺の道路環境を加味して反射元の種類を判別するように上記判別手段を構成すると一層好ましい。
即ち、車載型のレーダ装置には、自車両周辺の道路環境を推定する環境推定手段を設けて、判別手段は、判別対象とする反射元の種類毎に、確率分布記憶手段が記憶する当該種類の確率分布と、環境推定手段により推定された道路環境と、に基づき、変化量算出手段で算出された変化量Yに対応するレーダ波の反射元が当該種類の反射元である確度を算出し、反射元の種類毎の確度に基づき、変化量算出手段で算出された変化量Yに対応するレーダ波の反射元の種類を判別する構成にされると好ましい(請求項4)。
【0022】
各種類の反射元が存在する可能性は、道路環境によって異なる。換言すれば、道路環境を指標にすれば、各種類の反射元が存在する可能性をある程度、事前予測することができる。例えば、車両が、街中を走行しているのか、郊外を走行しているのか、高速道路を走行しているのかによって、車両周辺に人が存在する可能性は大きく変化する。従って、このように道路環境を加味して、反射元の種類を判別するようにレーダ装置を構成すると、一層高精度に反射元の種類を判別することができる。
【0023】
尚、環境推定手段による道路環境の推定結果を用いる場合、判別手段は、具体的に次のように構成することができる。即ち、判別手段は、判別対象とする反射元の種類毎に、確率分布記憶手段が記憶する当該種類の確率分布に基づき、変化量算出手段で算出された変化量Yの発生確率であってレーダ波の反射元が当該種類の反射元であると仮定した場合での発生確率を導出し、この導出した発生確率に環境推定手段により推定された道路環境に対応した補正を加えることで、変化量算出手段で算出された変化量Yに対応するレーダ波の反射元が当該種類の反射元である確度を算出する構成にすることができる(請求項5)。例えば、上記導出した発生確率に道路環境に対応した補正係数を掛けて、変化量Yに対応するレーダ波の反射元が上記種類の反射元である確度を算出するといった具合である。
【0024】
また、環境推定手段は、各区域の道路環境を表すデータを記憶する道路環境データベースから直接又は間接的にデータ取得可能な構成であることを前提として、次のように構成することができる。即ち、環境推定手段は、道路環境データベースから自車両の現在位置に対応する区域の道路環境を表すデータを取得し、この取得データが表す道路環境を、自車両周辺の道路環境であると推定する構成にすることができる(請求項6)。
【0025】
例えば、環境推定手段は、上記道路環境データベースとしての機能を有する道路地図データベースから、GPS受信機等の位置検出器にて検出される自車両の現在位置に対応する区域の道路環境を表すデータ(例えば、街中、郊外、高速道路等の道路環境のカテゴリを表すデータ)を取得し、この取得データに基づき、自車両周辺の道路環境を推定する構成することができる。車両には、道路地図データベースやGPS受信機等の位置検出器が備えられている例も多いため、環境推定手段をこのように構成すれば、車内の機器を利用して、高精度に自車両周辺の道路環境を推定することができる。
【0026】
但し、このような手法では、道路環境データベースをレーダ装置や車両内に設けたり、外部の道路環境データベースからデータを取得するための通信インタフェースをレーダ装置に設けたりする必要があるため、廉価に道路環境を加味した反射元種類の判別動作を実現するのが難しい。
【0027】
そこで、環境推定手段は、自車両の走行速度に基づき、道路環境を推定する構成にされてもよい(請求項7)。交差点の多い環境において、車両は低速で走行することが多く、交差点の少ない環境においては、高速に走行することが多くなる。また、交差点のない高速道路等では、車両は更に高速に走行する。よって、車両の走行速度に基づけば、現在の道路環境が、どのような種類の道路環境であるのかを推定することができ、道路環境データベースを必要とせず、廉価に道路環境を加味した反射元種類の判別動作を実現することができる。
【0028】
また、本発明は、FMCW(Frequency Modulated Continuous Wave)方式にてレーダ波の送受信を行うFMCWレーダ装置や、SFW(Stepped Frequency Waveforms)方式にてレーダ波の送受信を行うSFWレーダ装置に適用することができる(請求項8)。この種のレーダ装置によれば、レーダ波の反射元までの距離、反射元の方位、反射元の移動速度等を検出することができるので、本発明を適用して、更に反射元の種類を判別できるようにレーダ装置を構成すれば、その判別結果を、例えば当該レーダ装置を搭載する車両の走行制御等に役立てることができる。
【0029】
また、本発明を、FMCW方式やSFW方式にて、レーダ波を送信アンテナから発射し、当該レーダ波の反射波をアレーアンテナで受信する送受信手段を有したFMCWレーダ装置やSFWレーダ装置に適用する場合、当該レーダ装置には、アレーアンテナを構成する各アンテナ素子からの受信信号にレーダ波の送信信号を混合して、アンテナ素子毎のビート信号を生成するビート信号生成手段と、ビート信号生成手段により生成されたアンテナ素子毎のビート信号に基づき、レーダ波の反射元までの距離及び当該反射元の方位を検出する信号解析手段とを設け、更に上記検出手段、変化量算出手段、及び、判別手段を次のように構成することができる。
【0030】
即ち、検出手段は、ビート信号生成手段により生成されたアンテナ素子毎のビート信号に基づき、距離及び方位の異なる上記反射元毎に、当該反射元から到来した反射波の信号強度を検出し、変化量算出手段は、上記反射元毎に、当該反射元から到来した反射波の上記検出手段により検出された信号強度Pと、当該信号強度Pに対応する反射波の受信時点から観測周期Tsw遡った時点で当該反射元から到来し送受信手段により受信された反射波の上記検出手段により検出された信号強度Pbと、に基づき、信号強度Pbに対する信号強度Pの変化量Yを算出し、判別手段は、上記反射元毎に、当該反射元の種類を、上記変化量算出手段で算出された変化量Yと、確率分布記憶手段が記憶する上記種類毎の確率分布とに基づき判別する構成にすることができる(請求項9)。
【0031】
このレーダ装置によれば、前方に存在する複数の物体の位置(距離及び方位)並びに種類を特定することができるので、レーダ装置周辺の状況を詳細に把握することができる。従って、この判別結果を例えば車両制御に利用すれば、前方に位置する物体の位置及び種類に応じて、適切な車両制御を実現でき、危険回避等に大変役立つ。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】レーダ装置1の構成を表すブロック図である。
【図2】レーダ波の送受信号Ss,Sr及びビート信号BTを示したグラフ(a)並びに、ビート信号BTのパワースペクトルを示したグラフ(b)である。
【図3】前方物体方位とMUSICスペクトルとの対応関係を示した説明図である。
【図4】確率分布テーブルの構成を表す図である。
【図5】信号処理部30が実行するメインルーチンを表すフローチャートである。
【図6】信号処理部30が実行する物標推定処理を表すフローチャートである。
【図7】第一変形例のレーダ装置2の構成を表す図である。
【図8】第一変形例の物標推定処理の一部を表すフローチャートである。
【図9】第二変形例の物標推定処理の一部を表すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下に本発明の実施例について、図面と共に説明する。
本実施例のレーダ装置1は、FMCW方式によりレーダ波を送受信する車載型のFMCWレーダ装置であり、図1に示すように、周波数が時間に対して直線的に漸次増減するミリ波帯の高周波信号を生成する発振器11と、発振器11が生成する高周波信号を増幅する増幅器13と、増幅器13の出力を送信信号Ssとローカル信号Lとに電力分配する分配器15と、送信信号Ssに応じたレーダ波を発射する送信アンテナ17と、を備える。尚、図2(a)は、レーダ波の送信信号Ss及び受信信号Srを示したグラフ(上段)及びビート信号BTを示したグラフ(下段)である。図2(a)に示すように、本実施例のレーダ装置1は、レーダ波を、三角形状に周波数変調して発射する。
【0034】
更に、レーダ装置1は、前方物体にて反射されたレーダ波(反射波)を受信するK個のアンテナ素子が一列に配置されたリニアアレーアンテナとしての受信アンテナ19と、受信アンテナ19を構成するアンテナ素子の一つを順次選択し、選択したアンテナ素子からの受信信号Srを後段に供給する受信スイッチ21と、受信スイッチ21から供給される受信信号Srを増幅する増幅器23と、増幅器23にて増幅された受信信号Sr及びローカル信号Lを混合して、ビート信号BTを生成(図2(a)下段参照)するミキサ25と、ミキサ25が生成したビート信号BTから不要な信号成分を除去するフィルタ27と、フィルタ27の出力をサンプリングし、ディジタルデータに変換するA/D変換器29とを備える。以下では、K個のアンテナ素子の夫々を番号付けして、第kアンテナ素子(k=1,2,…,K)と表現する。
【0035】
この他、レーダ装置1は、信号処理や装置内各部の制御を行うための構成として、マイクロコンピュータを中心に構成される信号処理部30と、確率分布テーブル(詳細後述)を記憶する記憶部40とを備える。
【0036】
信号処理部30は、発振器11の起動/停止等を制御すると共に、マイクロコンピュータでのプログラム実行により、A/D変換器29から入力されるビート信号BTのサンプリングデータ(ディジタルデータ)を用いた信号処理や、当該信号処理により得られる前方物体の位置・相対速度・方位・種類等の情報を、図示しない通信インタフェースを介して車内の電子制御装置(ECU)に送信する処理を行う。例えば、レーダ装置1は、車間制御を行う電子制御装置である車間制御ECUと通信ケーブルを通じてシリアル通信可能に接続されて、車間制御ECUに対して上記情報を提供する。この他、レーダ装置1は、車内LANに接続されて、同一の車内LANに接続された電子制御装置に上記情報を提供する構成にされてもよい。
【0037】
このレーダ装置1では、信号処理部30からの指令に従って発振器11が起動し、当該起動により発振器11が生成した高周波信号は、増幅器13にて増幅された後、分配器15に入力され、分配器15によって電力分配される。これにより、レーダ装置1では、送信信号Ss及びローカル信号Lが生成され、送信信号Ssは、送信アンテナ17を介し、レーダ波として発射される。
【0038】
一方、送信アンテナ17から発射され前方物体に反射して戻ってきたレーダ波(反射波)は、受信アンテナ19を構成する各アンテナ素子にて受信され、各アンテナ素子からは、受信スイッチ21に向けて、その受信信号Srが出力される。
【0039】
また、受信スイッチ21からは、受信スイッチ21によって選択された第kアンテナ素子(k=1,…,K)の受信信号Srのみが増幅器23に出力され、増幅器23で増幅された受信信号は、ミキサ25に供給される。
【0040】
ミキサ25では、受信信号Srに分配器15からのローカル信号Lが混合されて、信号Sr,Ssの差の周波数成分であるビート信号BTが生成される。このビート信号BTは、フィルタ27にて不要な信号成分が除去された後、A/D変換器29を通じて、ディジタルデータとして信号処理部30に取り込まれる。
【0041】
但し、受信スイッチ21は、レーダ波の変調周期Tmの間に、全てのアンテナ素子AN_1〜AN_Kを所定回ずつ選択するように、切り替えられる。そして、A/D変換器29は、この切替タイミングに同期してデータサンプリングを行う。
【0042】
信号処理部30は、このようにA/D変換器29にてサンプリングされるビート信号BTの当該サンプリングデータ(ディジタルデータ)を、アンテナ素子毎のサンプリングデータに分離し、当該アンテナ素子毎のビート信号BTのサンプリングデータを解析することにより、周知の手法で、反射波の発生元である前方物体までの距離R、自車両に対する前方物体の相対速度V、及び、自車両の進行方向を基準とした前方物体の方位θを推定し、更には、後述する本実施例に特有な手法で、前方物体の種類を判別する。
【0043】
送信信号Ssに基づくレーダ波を送信アンテナ17が送信したことに起因して、受信アンテナ19が、反射波を受信すると、受信信号Srは、図2上段に点線で示すように、レーダ波が前方物体との間を往復するのに要した時間、即ち、前方物体までの距離Rに応じた時間Tr分遅延し、前方物体との相対速度Vに応じた周波数fd分ドップラシフトする。そして、この時間Tr及び周波数fdの情報は、図2(a)下段からも理解できるように、送信信号Ssの周波数が上昇する上り区間及び送信信号Ssの周波数が下降する下り区間の各区間におけるビート信号BTの周波数の違いとして表れる。
【0044】
このため、信号処理部30は、1変調周期Tmにおける上り区間及び下り区間(図2(a)上段参照)の夫々において、上記サンプリングデータ(ディジタルデータ)として得られるアンテナ素子毎のビート信号BTを周波数変換(フーリエ変換)し、区間毎に、アンテナ素子毎のパワースペクトルを求める(図2(b)参照)。
【0045】
そして、各アンテナ素子のパワースペクトルに共通するピーク周波数fpを、区間毎に検出し、上り区間のピーク周波数fp=fb1と、下り区間のピーク周波数fp=fb2とから、前方物体との距離R及び相対速度Vを、式(1)〜(4)に従って算出する。但し、cは電波伝搬速度,fmは送信信号Ssの変調周波数、Δfは送信信号Ssの周波数変動幅、f0は送信信号Ssの中心周波数である。
【0046】
【数1】

【0047】
一方、受信アンテナ19の各アンテナ素子が受信する反射波には、到来方向に応じた位相差が生じる。信号処理部30は、ビート信号BTに含まれるこのような位相差の情報に基づいて、前方物体の方位θを推定する。方位推定の手法としては、ディジタルビームフォーミング(DBF)法、CAPON法、ESPRIT法やMUSIC法など種々の方法が知られているが、例えば、MUSIC法によって方位推定を行う場合、信号処理部30は、上記検出されたピーク周波数fp毎に、各アンテナ素子のビート信号BTの周波数変換値(フーリエ変換値)であって、当該ピーク周波数fpでの周波数変換値を用いて自己相関行列を生成し、この自己相関行列の固有値・固有ベクトルに基づいてMUSICスペクトルを算出する。
【0048】
このようにMUSICスペクトルを算出すると、例えば、自車両前方に先行車両が存在する場合には、図3に示すように、先行車両に対応する方位に鋭いピークが立つ。本実施例では、このようなMUSICスペクトルのピークを抽出し、各ピーク周波数fpに対応するレーダ波の反射波成分の到来方位θ1,…,θMを推定する。
【0049】
尚、上述したように、距離R及び相対速度Vの算出の際には、上り区間のピーク周波数fb1と下り区間のピーク周波数fb2とのペアを特定する必要があるが、前方物体が複数ある場合には、区間毎に複数のピーク周波数fpが検出されることになる。このような区間毎に複数のピーク周波数fpが検出される環境での上り区間のピーク周波数fb1と下り区間のピーク周波数fb2とのペアマッチングは、例えば、ピーク周波数fp毎の方位θ1,…,θMの推定結果を指標に、反射波の到来方位が対応するピーク周波数fb1,fb2の組をマッチングする。このような処理により、信号処理部30は、前方物体の距離R及び相対速度V及び方位θを推定する。
【0050】
この他、信号処理部30は、各方位θ1,…,θMから到来する反射波のパワー(受信電力)P1,…,PMを所定の演算式に従って算出し、各パワーP1,…,PMの1変調周期Tm前のパワーPb1,…,PbMからの変化量Yを算出することで、当該変化量Yを指標に、対応する方位θから到来するレーダ波を反射した前方物体の種類(以下、「反射元種類」とも表現する。)を判別する。
【0051】
反射波の位相は、反射面の位置に応じて変化するため、反射面が揺らげば(振動すれば)、その揺らぎによる反射面の位置変化が反射波の位相変化に現れることになる。一方、レーダ波を反射する前方物体は、微小な複数の反射面の集合にて構成されるものと解釈することができ、その反射面の揺らぎ方は、前方物体が金属物のような表面が硬いものなのか、人のような表面が柔らかいものなのか、各部位(例えば腕や脚)が変位するものなのか等によって異なる。そして、揺らぎ方が異なれば、変化量Yの確率分布に差異が生じる。本実施例では、このような現象を利用し、上記変化量Yに基づいて、反射元の種類を判別する。
【0052】
ここで、一つの物体からの反射波について考えてみると、時刻tでの反射波は、次式により表現することができる。
【0053】
【数2】

【0054】
但し、上式は、物体の反射面が複数の独立に動く等RCSの反射面から構成されることを前提としたものであり、Cは、レーダ波の送信ゲイン、受信ゲイン、送信電力及びRCS値によって定まる値である。また、ここでは、時刻tにおけるi番目の反射面までの距離Ri(t)を、Ri(t)=R(t)+ΔRi(t)で表現する。R(t)は、複数反射面までの距離の平均値を表し、ΔRi(t)は、平均値R(t)からの距離差分を表す。また、fは、レーダ波の送信周波数を表し、λは、レーダ波の送信波長を表す。尚、近似式は、ΔRi(t)が微小であることを利用して、分母のR(t)+ΔRi(t)を、R(t)に近似したものである。
【0055】
また、時刻tから、微小な観測周期Tsw分進んだ時点での反射波は、次式により表現することができる。
【0056】
【数3】

【0057】
但し、上式で用いるv(t)は、レーダ波を反射した前方物体の相対速度を表し、Δvi(t)は、i番目の反射面での相対速度V(t)に対する速度差分、即ち、揺らぎ量を表す。近似式では、時刻t+Tswでの周波数fTswを、時刻tでの周波数fと同一値に近似している。
【0058】
時刻t及び時刻t+Tswでの反射波は、上記のように近似できることから、例えば、変化量Yとして、レーダ波の受信信号のパワー比を算出すると、変化量Yは次式で表現される。
【0059】
【数4】

【0060】
上式では、パワー比を対数増幅したものを変化量Yとして表す。変化量Yとして、時刻t+Tswでのレーダ波の受信信号のパワーと、時刻tでのレーダ波の受信信号のパワーとの比を算出すれば、変化量Yは、ΔRi(t)及びΔVi(t)によって変化する値として算出される。このため、変化量Yを、予め実験で得た反射元種類毎の変化量Yの確率分布と比較することで、反射元(前方物体)の種類を判別することができるのである。
【0061】
但し、観測周期Tswの間に生じる各反射面からの反射波成分の位相変化量Δφがπ以上となると、各反射面の反射波成分が混合する受信アンテナ19の反射波の受信信号では、その振幅がレイリー分布に従うようになり、反射面の揺らぎを観測することが難しい。
【0062】
そこで、本実施例では、レーダ波の送信波長λ及び観測周期Tswを、判別対象とする各種類の前方物体のいずれにおいても、その前方物体での各反射面から反射する反射波の位相変化量Δφがπを超えないように、送信波長λ及び観測周期Tswを定める。
【0063】
ここで、送信波長λ及び観測周期Tswの設定条件について詳述する。時刻tにおけるi番目の反射面からの反射波の位相をφi(t)で表現し、時刻t+Tswにおけるi番目の反射面からの反射波の位相をφi(t+Tsw)で表現すると、観測周期Tswの間でのi番目の反射面からの反射波の位相変化量Δφiは、Δφi=φi(t+Tsw)−φi(t)で表現される。そして、観測周期Tswでの各反射面からの反射波の位相変化量Δφiが独立に−πからπまでの一様分布に従うとき、これら反射波の混合波の振幅分布は、レイリー分布に従う。
【0064】
換言すれば、各反射面からの反射波の位相Δφiがπを超えないように送信波長λ及び観測周期Tswを定めれば、前方物体の揺らぎを、受信アンテナ19による反射波の受信信号にて観測できることになる。即ち、送信波長λ及び観測周期Tswについては、Δφiの最大値max{Δφi}がπ未満となるように定めればよい。
【0065】
【数5】

【0066】
一方、Δφiは、次式によって表すことができる。
【0067】
【数6】

【0068】
各反射面の揺らぎ量ΔVi(t)は、平均ゼロ、分散σv2の正規分布N(0,σv2)に従うと近似的にみなすことができ、分散σv2で揺らぐ前方物体の揺らぎを、3σvの範囲(99.7%の確率で起こる範囲)で観測できるように、送信波長λ及び観測周期Tswを定める場合には、次の関係式を満足すればよい。
【0069】
【数7】

【0070】
換言すると、送信波長λ及び観測周期Tswは、次の関係式を満足すればよい。
【0071】
【数8】

【0072】
本実施例では、このような関係式に従って、判別対象の種類の前方物体の内、揺らぎが最も大きい種類の前方物体の分散σv2を基準に、送信波長λ及び観測周期Tswを定める。尚、揺らぎの大きさ(分散σv2)については、実験により計測すればよい。
【0073】
本実施例では、このような関係式に従って、送信波長λ及び観測周期Tswを定めつつ、記憶部40に、判別対象の反射元種類毎の変化量Yの確率分布を表すテーブルを用意する。これによって、変化量Yから反射元(前方物体)の種類を判別することができるようにする。
【0074】
図4には、記憶部40が記憶する確率分布テーブルの構成を示す。図4に示すように、本実施例の確率分布テーブルは、判別対象の反射元種類毎に、レーダ波の反射元が当該種類の反射元であったときに得られる変化量Yの確率分布が記述されてなるテーブルである。具体的に、この確率分布テーブルには、離散的な変化量Yの各値に対して、変化量Yがその値以下となる確率(累積確率)が、判別対象の反射元種類毎に記述されている。
【0075】
このテーブルについては、例えば、判別対象の前方物体の種類毎に、当該種類の前方物体に対してレーダ波を発射して反射波の計測データを取得し、この反射波の計測データから得られた変化量Yの確率分布を、テーブルに記述することで作成することができる。また、別手法としては、反射波の計測データを取得する一方、シミュレーションにより、分散σv2を変化させて各分散σv2での変化量Yの確率分布を求め、反射波の計測データと最も近い分散σv2での変化量Yの確率分布を、テーブルに記述することで作成することができる。
【0076】
ちなみに、本実施例では、確率分布テーブルに、判別対象の反射元種類毎の累積確率分布を記述したが、前方物体の種類を判別する際には、受信したレーダ波から得られた変化量Yの累積確率と、隣接する変化量Yに対して記述された累積確率との差分を採ることで、累積確率分布を微分し、変化量Yに対応する確率密度を求める。このため、確率分布テーブルには、累積確率分布に代えて確率密度分布を記述してもよい。この他、記憶部40には、確率分布テーブルに代えて、累積分布関数及び確率密度関数の情報を記憶させることも可能である。
【0077】
また、本実施例では、前方物体として、車両やガードレール、人等を判別して、車両制御に役立てることを考えている。このため、記憶部40が記憶する確率分布テーブルには、反射元種類として、金属物及び人の夫々についての確率分布が記述されている。特に、本実施例の確率分布テーブルには、「静止している人」及び「移動している人」の夫々についての確率分布が記述されており、レーダ装置1は、前方物体として、「金属物」、「静止している人」、「移動している人」の夫々を判別可能に構成されている。このようなレーダ装置1によれば、前方に移動する人がいると判定された場合には、車両速度を緩める等の車両制御を行うことができて、危険回避等に大変役立つ。この他、本実施例のレーダ装置1によれば、ガードレールと人を見分けることができるので、例えば、衝突が回避不可能となったときに、人を回避してガードレールに衝突するといったような従来では不可能な車両制御を実現することが可能である。
【0078】
続いては、以上に概略的に説明した信号処理部30の処理動作を、図5及び図6を用いて詳細に説明する。信号処理部30は、図5に示すメインルーチンを変調周期Tm毎に繰返し実行することにより、変調周期Tm毎に、一連の信号処理(S110〜S150)を実行して、前方物体までの距離R、前方物体との相対速度V及び前方物体の方位θを推定すると共に、前方物体の種類を判別する。
【0079】
具体的には、まず1変調周期Tmにおける上り区間を処理対象区間として、この処理対象区間(上り区間)に受信した反射波よって生成されたビート信号BTのサンプリングデータに基づき、図6に示す物標推定処理を実行する(S110)。その後、処理対象区間を下り区間に変更し、この処理対象区間(下り区間)に受信した反射波によって生成されたビート信号BTのサンプリングデータに基づき、図6に示す物標推定処理を実行する(S120)。
【0080】
物標推定処理では、処理対象区間におけるアンテナ素子毎のビート信号BTのサンプリングデータを取得し(S210)、その後、これらサンプリングデータに基づき、各アンテナ素子のビート信号BTを周波数変換して、アンテナ素子毎のパワースペクトルを算出する(S220)。その後、各アンテナ素子共通のピーク周波数fpを検出する。ここでは、アンテナ素子毎のパワースペクトルに共通するピークであって予め定められた閾値以上のピークを検出し、検出した閾値以上の各ピークの周波数を、ピーク周波数fpとして検出する(S230)。
【0081】
ピーク周波数fpの検出後には、検出したピーク周波数fpの一つを処理対象周波数に選択し(S240)、各アンテナ素子における処理対象周波数の周波数変換値(フーリエ変換値)xkを配列してなる受信ベクトルX=(x1,x2,…xKTを生成して、この受信ベクトルXについての自己相関行列Rxx1=E[XXH]及びRxx2=XXHを算出する(S250)。ここで、Tは、ベクトル転置を示し、Hは、複素共役転置を示す。また、xkは、k番目のアンテナ素子の受信信号から生成された処理対象区間のビート信号BTの周波数変換値であって、処理対象周波数での周波数変換値を示す。従来知られる手法では、方位推定のために自己相関行列Rxxとして、XXHの期待値E[XXH]を算出するが、本実施例では、上述の変化量Yを算出する際に、各方位から到来する反射波の瞬時パワーを計算する必要があるので、自己相関行列Rxx1として、XXHの期待値E[XXH]を算出する一方、パワー推定のために自己相関行列Rxx2として、最新の受信ベクトルXを用いたXXHの瞬時値を算出する。期待値E[XXH]としては、XXHの最新値を含む過去所定個のXXHの平均値を算出することができる。
【0082】
その後、自己相関行列Rxx1についての固有値λ1,…,λK(但し、λ1≧λ2≧…λk)及び固有ベクトルe1,…,eKを求め、熱雑音電力に対応する閾値λthより大きい固有値の数から到来波数Mを推定する(S260)。
【0083】
そして、熱雑音電力以下となる(K−M)個の固有値λM+1,…,λKに対応した固有ベクトルeM+1,…,eKからなる雑音固有ベクトルENと、方位θに対するアレーアンテナの複素応答、即ち、ステアリングベクトルa(θ)とから、角度スペクトルとして、下式の評価関数PMU(θ)で表されるMUSICスペクトルを求める。
【0084】
【数9】

【0085】
そして、この評価関数PMU(θ)で表されるMUSICスペクトルから、到来波数M分のピークを抽出し、各ピークに対応する方位θ1,…,θMを、反射波の到来方位θ1,…,θM、換言すれば、レーダ波の反射元である前方物体(物標)の方位として推定する(S270)。
【0086】
また、推定した各方位θ1,…,θMから到来する反射波のパワー(受信電力)を次のように推定して、これを一時記憶する(S280)。
具体的には、まずパワー(受信電力)を推定する対象であるS270で推定した反射波の各到来方位θ1,…,θMに対応するステアリングベクトルa(θ1),…,a(θM)を用いて、次の方向行列A(所謂アレー応答行列)を生成する。
【0087】
【数10】

【0088】
そして、この方向行列A及び瞬時値としての自己相関行列Rxx2を用いて、次式で表される行列Sの対角成分を算出する。
【0089】
【数11】

【0090】
行列Sの第m対角成分は、方位θmの受信電力Pmに対応する(但し、m=1,…,M)。即ち、ここでは、行列Sの対角成分を算出することにより、S270で推定した各到来方位θ1,…,θMから到来した反射波のパワー(受信電力)を推定する。但し、S280では、S270で反射波の到来方位として推定したものの、上式により算出されたパワーが閾値以下の方位を、反射波の到来方位から外す処理を併せて行う。
【0091】
また、この処理を終えると、信号処理部30は、反射波の到来方位θ1,…,θMの一つを、処理対象方位に選択し(S290)、選択した処理対象方位から到来した反射波のパワーの前回推定値が存在するか否かを判断する(S300)。
【0092】
即ち、ここでは、1変調周期Tm前の処理対象区間における反射波の受信信号に基づき、今回の処理対象周波数と同一のピーク周波数fpでの方位推定及びパワー推定が行われて、処理対象方位と同一方位から到来した反射波のパワー推定がなされているか否かを判断し、なされている場合には、パワーの前回推定値が存在すると判断し、なされていない場合には、パワーの前回推定値が存在しないと判断する。そして、パワーの前回推定値が存在しないと判断すると(S300でNo)、S340に移行し、パワーの前回推定値が存在すると判断すると(S300でYes)、S310に移行する。
【0093】
S310に移行すると、信号処理部30は、処理対象方位について今回推定したパワーの前回推定値からの変化量Yを算出する。ここで、今回推定したパワーの推定値をPと表現し、前回推定したパワーの推定値をPbと表現すると、変化量Yについては、次式に従って算出することになる。尚、ここで対数増幅を行っているのは、パワーの推定値をデシベル単位で記憶保持しておくことで、差分により変化量Yを簡単に算出することができるためである。
【0094】
【数12】

【0095】
ちなみに、本実施例では、このように、前回のパワー推定値として、1変調周期Tm前の値を用いるので、上述した観測周期Tswは、変調周期Tmに一致する。
また、この処理を終えると、信号処理部30は、S320に移行し、判別対象とする反射元種類毎に、S310で算出された変化量Yが仮に当該種類の反射元から到来したレーダ波に基づき算出された変化量Yである場合に当該変化量Yが得られる確率Pr(以下、変化量Yの発生確率Prとも言う。)を、記憶部40が記憶する確率分布テーブルに記された該当種類の確率分布の情報に基づいて導出する(S320)。尚、上述したように確率分布テーブルには、確率分布として各変化量Yでの累積確率が離散的に記されていることから、ここでは、S310で算出された変化量Yに対応する累積確率と隣接する変化量Yの累積確率との差分を算出することで、変化量Yに対応する累積確率の微分である確率密度を算出する。即ち、S320では、上記手法で、S310で算出された変化量Yの確率密度を算出することで、変化量Yの発生確率Prを反射元種類毎に算出する。
【0096】
このようにして、判別対象とする反射元種類毎の発生確率Prを算出すると、信号処理部30は、上記種類毎の発生確率Prの中から、最も値の高いものを抽出し、この最も発生確率Prの高い反射元の種類を、処理対象方位から到来した反射波の反射元の種類であると判別する(S330)。
【0097】
その後、S270で反射波の到来方位として推定した全方位θ1,…,θM(但しS280で外されたものを除く。)に関して、当該方位から到来するレーダ波の反射元の種類を判別したか否かを判断し(S340)、判別していない場合には(S340でNo)、S290に移行し、処理対象方位を切り替えて、S300以降の処理を実行する。
【0098】
一方、全方位に関して上記判別を行った場合には(S340でYes)、全ピーク周波数fpについて、これを処理対象周波数として選択し、S250以降の処理を実行したか否かを判断し、全ピーク周波数fpに対して実行していなければ(S350でNo)、S240に移行し、処理対象周波数を切り替えて、S250以降の処理を実行する。そして、全ピーク周波数fpに対して実行すると、当該物標推定処理を終了する。
【0099】
このようにして上り区間及び下り区間の物標推定処理を終了すると、信号処理部30は、S130(図5参照)に移行し、上り区間でのピークと、下り区間でのピークとのペアマッチングを行い、上り区間でのピーク周波数fp=fb1と下り区間でのピーク周波数fp=fb2との組合せを特定する。そして特定した組合せに基づいて、上述した手法で前方物体までの距離R及び前方物体との相対速度Vを推定する(S140)。
【0100】
そして、各ピーク周波数fpに対して推定された反射波の到来方位θ1,…,θM及び各到来方位θ1,…,θMから到来するレーダ波の反射元種類の情報を、上記推定された距離R及び相対速度Vの情報と組み合わせて、自車両周囲に位置する各前方物体の距離R、相対速度V、方位θ及び種類の情報を、通信インタフェースを通じて外部の電子制御装置に出力する(S150)。信号処理部30は、このような処理を変調周期Tm毎に繰返し実行する。
【0101】
以上、本実施例のレーダ装置1の構成について説明したが、このレーダ装置1によれば、従来のレーダ装置1とは異なり、前方物体の距離R、相対速度V及び方位θに加えて、前方物体の種類を推定することが可能である。特に本実施例によれば、前方物体の種類として、「金属物(車両やガードレール等)」、「静止している人」及び「移動している人」の夫々を判別することができる。
【0102】
従って、本実施例によれば、前方物体が金属物か人であるかによって車両制御のパターンを切り替えることができ、更には人が移動中であるか静止しているかによっても車両制御のパターンを切り替えることができて、上述したように危険回避等に大変役立つ。
【0103】
さて、上記実施例では、確率分布テーブルが示す確率分布とレーダ波の受信信号に基づく変化量Yとの比較により、反射元の種類を判別するようにしたが、各種類の反射元が存在する可能性については、道路環境によっても事前にある程度予測することができる。例えば、街中では、人が存在する可能性が高く、郊外では、街中よりも人が存在する可能性が低く、高速道路においては、車外に人が存在することは通常ありえない。
【0104】
そこで、変化量Yの発生確率Prと道路環境とから、変化量Yに対応するレーダ波の反射元が判別対象の各種類の反射元である確度を評価し、この確度に基づいて、反射元の種類を判別するように、レーダ装置を構成してもよい(第一変形例及び第二変形例)。
[第一変形例]
続いて、第一変形例について説明する。第一変形例のレーダ装置2は、記憶部40に対応する記憶部41が確率分布テーブルに加えて補正テーブルを記憶する点、信号処理部30に対応する信号処理部31が車内LANを通じてナビゲーションECU100と通信可能に構成されている点、及び、信号処理部31が実行する物標推定処理の一部が上記実施例と異なる点を除けば、基本的に上記実施例のレーダ装置1と同一構成にされている。従って、以下では、第一変形例のレーダ装置2の説明として、上記実施例のレーダ装置1と同一構成の説明を省略する。
【0105】
図7に示すように第一変形例のレーダ装置2が備える信号処理部31は、車内LANを通じてナビゲーションECU100と通信可能に接続され、ナビゲーションECU100から、自車両の現在位置に対応する道路環境のカテゴリ情報を取得可能な構成にされている。
【0106】
ナビゲーションECU100は、GPS受信機等から構成される自車両の現在位置を検出可能な位置検出器101、及び、道路地図データベース103に接続されており、図7に示す道路環境情報送信処理を繰返し実行して、位置検出器101から自車両の現在位置情報を取得し(S410)、この取得情報が示す自車両の現在位置に対応する道路環境のカテゴリを、道路地図データベース103が記憶する情報に基づいて判定する(S420)。そして、判定した自車両の現在位置に対応する道路環境のカテゴリ情報をレーダ装置2に車内LANを通じて送信する(S430)。
【0107】
尚、道路地図データベース103には、地図収録エリア内の各地域毎に、当該地域が「街中」及び「郊外」のいずれであるかを表すエリア情報が記憶されている。更に、高速道路に該当する道路に対しては「高速道路」であることを示すエリア情報が記憶されている。即ち、S420では、自車両の現在位置に対応する走行道路を特定して、走行道路が「高速道路」であるか否かを判断し、走行道路が「高速道路」である場合には、自車両の現在位置に対応する道路環境のカテゴリを「高速道路」であると判定し、走行道路が「高速道路」でない場合には、道路地図データベース103が記憶する自車両の現在位置に対応する地域のエリア情報が示すカテゴリ(「街中」又は「郊外」)を、自車両の現在位置に対応する道路環境のカテゴリであると判定する。
【0108】
この動作によって、ナビゲーションECU100からは、自車両の現在位置に対応する道路環境のカテゴリとして「街中」「郊外」「高速道路」のいずれかのカテゴリを示す情報がレーダ装置2の信号処理部31に提供される。
【0109】
レーダ装置2の信号処理部31は、このような道路環境のカテゴリ情報をナビゲーションECU100から逐次取得し、物標推定処理のS320(図6参照)の処理を終えると、S330の処理に代えて、S510〜S540(図8参照)の処理を実行する。
【0110】
具体的に、信号処理部30は、ナビゲーションECU100から得られた最新の上記カテゴリ情報に基づき、現在位置に対応する道路環境のカテゴリを特定する(S510)。そして、記憶部41が記憶する補正テーブルから、上記特定したカテゴリに対応する補正係数Wの組であって反射元種類毎の補正係数Wを読み出し(S520)、S320の処理で反射元種類毎に導出した変化量Yの発生確率(確率密度)Prの夫々に対し、対応する反射元種類の補正係数Wを乗算する。これによって、反射元種類毎に、変化量Yを算出する元となったレーダ波を反射してきた前方物体(反射元)が当該種類の反射元である確度Z=W・Prを算出する(S530)。
【0111】
尚、補正テーブルは、図7に示すように、「街中」「郊外」「高速道路」の各道路環境のカテゴリ毎に、補正係数Wの組として、反射元種類毎の補正係数Wが記述されてなるテーブルである。例えば、「街中」の補正係数Wの組としては、「静止している人」に対応する補正係数W11=1/3、「移動している人」に対応する補正係数W12=1/3、「金属物」に対応する補正係数W13=1/3が補正テーブルに記述され、「郊外」の補正係数の組としては、「静止している人」に対応する補正係数W21=0.25、「移動している人」に対応する補正係数W22=0.25、「金属物」に対応する補正係数W23=0.5が補正テーブルに記述される。この他、「高速道路」の補正係数の組としては、例えば「静止している人」に対応する補正係数W31=0、「移動している人」に対応する補正係数W32=0、「金属物」に対応する補正係数W33=1が補正テーブルに記述される。
【0112】
自車両の現在位置が「郊外」に該当する場合には、「静止している人」の確率分布に基づき導出した変化量Yの発生確率PrにW21=0.25を乗算して、反射元が「静止している人」である確度Z=0.25・Prを算出するといった具合である。同様に、「移動している人」の確率分布に基づき導出した変化量Yの発生確率Prに、W22=0.25を乗算して、反射元が「移動している人」である確度Z=0.25・Prを算出し、「金属物」の確率分布に基づき導出した変化量Yの発生確率Prに、W23=0.5を乗算して、反射元が「金属物」である確度Z=0.5・Prを算出する。
【0113】
そして、算出した確度Zが最も大きい反射元種類を、上記処理対象方位から到来した反射波の反射元種類であると判別する(S540)。その後、信号処理部31は、上記実施例で説明したS340以降の処理を実行する。
【0114】
以上、第一変形例のレーダ装置2について説明したが、この変形例によれば、道路環境を加味して、反射元の種類を判別するようにレーダ装置2を構成したので、道路環境による事前予測に基づいて、高精度に反射元の種類を判別することができる。
【0115】
また、第一変形例では、道路地図データベース103と位置検出器101とを用いて、自車両の道路環境を判定するようにしたが、自車両の走行速度に基づき、自車両の道路環境を判定するように、レーダ装置は、構成されてもよい。
[第二変形例]
続いて、第二変形例のレーダ装置3について説明する。但し、第二変形例のレーダ装置3は、信号処理部31に対応する信号処理部32がナビゲーションECU100を通じて上記道路環境のカテゴリ情報を取得する代わりに速度センサ105から自車両の速度情報を取得する構成にされている点、及び、信号処理部32が実行する物標推定処理の一部が上記第一変形例と異なる点を除けば、基本的に第一変形例のレーダ装置2と同一構成にされている。従って、以下では、第二変形例のレーダ装置3の説明として、上述のレーダ装置1,2と同一構成の説明を省略する。
【0116】
第二変形例のレーダ装置3の信号処理部32は、上述したように、道路環境のカテゴリ情報をナビゲーションECU100から取得する代わりに、速度センサ105から逐次自車両の速度情報を取得する。一方で、物標推定処理のS320の処理を終えると、S510〜S540の処理に代えて、S610〜S640(図9参照)の処理を実行する。
【0117】
具体的に、信号処理部30は、S610に移行すると、速度センサ105から得られた速度情報に基づき、自車両周辺の道路環境を推定する(S610)。具体的には、現在から過去の所定時点までの期間(例えば現在から過去5分間)における車両の平均速度を算出し、この平均速度を指標に、自車両周囲の道路環境のカテゴリを判定する。
【0118】
平均速度が第一の境界値(例えば30km)未満であれば、自車両周辺の道路環境のカテゴリを「街中」と判定し、平均速度が第一の境界値(例えば30km)以上第二の境界値(例えば60km)未満であれば、自車両周辺の道路環境のカテゴリを「郊外」と判定し、平均速度が第二の境界値以上である場合には、自車両周辺の道路環境のカテゴリを「高速道路」と判定するといった具合である。
【0119】
このようにして道路環境を推定すると、信号処理部32は、S520,S530での処理と同様に、記憶部40が記憶する補正テーブルから、自車両周辺の道路環境のカテゴリに対応する反射元種類毎の補正係数Wを読み出し(S620)、反射元種類毎に確率分布テーブルから導出した変化量Yの発生確率(確率密度)Prの夫々に対し、上記読み出した反射種類毎の補正係数Wの内、対応する反射元種類の補正係数Wを乗算する。これによって、反射元種類毎に、変化量Yを算出する元となったレーダ波を反射してきた前方物体(反射元)が当該種類の反射元である確度Z=W・Prを算出する(S630)。
【0120】
そして、S540の処理と同様、算出した確度Zが最も大きい反射元種類を上記処理対象方位から到来した反射波の反射元種類であると判別し(S640)、その後、上記実施例で説明したS340以降の処理を実行する。
【0121】
以上、第二変形例のレーダ装置2について説明したが、第二変形例によれば、道路環境を加味して、反射元の種類を判別するようにレーダ装置3を構成したので、道路環境による事前予測に基づいて、高精度に反射元種類を判別することができる。特に、第二変形例によれば、車両速度に基づき道路環境を推定するので、道路地図データベース103や位置検出器101が搭載されていない車両においても、道路環境を加味した反射元種類の判別を行うことができ、安価に様々な車両に適用することができる。
【0122】
以上、本発明の実施例について説明したが、レーダ装置1,2,3が備える発振器11、増幅器13及び送信アンテナ17、並びに、受信アンテナ19、受信スイッチ21及び増幅器23は、本発明の送受信手段の一例に対応する。また、信号処理部30,31,32が実行するS280の処理は、本発明の検出手段により実行される処理の一例に対応する。この他、信号処理部30,31,32が実行するS310の処理は、本発明の変化量算出手段により実行される処理の一例に対応する。
【0123】
この他、記憶部40における確率分布テーブルの記憶領域は、本発明の確率分布記憶手段の一例に対応し、信号処理部30が実行するS320,330の処理、又は、信号処理部31が実行するS320,S520〜S540の処理、又は、信号処理部32が実行するS320,S620〜S640の処理は、本発明の判別手段にて実行される処理の一例に対応する。この他、信号処理部31が実行するS510の処理又は信号処理部32が実行するS610の処理は、本発明の環境推定手段にて実行される処理の一例に対応する。
【0124】
また、レーダ装置1,2,3が備えるミキサ25は、本発明のビート信号生成手段に対応し、信号処理部30,31,32が実行するS110〜S140及び物標推定処理におけるS210〜S270の処理は、本発明の信号解析手段により実行される処理に対応する。
【0125】
また、本発明は、上記実施例に限定されるものではなく、種々の態様を採ることができる。例えば、本発明は、FMCWレーダ装置に限らず、その他の方式にてレーダ波の送受信を行うレーダ装置に適用することができる。具体的には、SFW(Stepped Frequency Waveforms)方式にてレーダ波の送受信を行うSFWレーダ装置に適用することができる。この他、本発明は、車載用のレーダ装置に限らず、その他の用途に用いられるレーダ装置にも適用することができる。また、上記実施例では、人や金属物を判別可能なようにレーダ装置1,2,3を構成したが、判別対象とする反射元の種類は、これに限定されない。また、上記実施例では、道路地図データベース103又は速度センサ105のいずれか一方を用いて道路環境を推定するようにレーダ装置2,3を構成したが、レーダ装置は、これら両者の情報を用いて道路環境を推定するように構成されてもよい。
【符号の説明】
【0126】
1,2,3…レーダ装置、11…発振器、13…増幅器、15…分配器、17…送信アンテナ、19…受信アンテナ、21…受信スイッチ、23…増幅器、25…ミキサ、27…フィルタ、29…A/D変換器、30,31,32…信号処理部、40,41…記憶部、100…ナビゲーションECU、101…位置検出器、103…道路地図データベース、105…速度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーダ波を発射し、当該レーダ波の反射波を受信する送受信手段と、
前記送受信手段が受信した前記反射波の受信信号に基づき、前記反射波の信号強度を検出する検出手段と、
前記検出手段により検出された前記反射波の信号強度Pと、前記信号強度Pに対応する前記反射波の受信時点から所定の観測周期Tsw遡った時点で前記送受信手段により受信された前記反射波の前記検出手段により検出された信号強度Pbと、に基づき、前記信号強度Pbに対する前記信号強度Pの変化量Yを算出する変化量算出手段と、
判別対象とする反射元の種類毎に、前記レーダ波が当該種類の反射元で反射して到来する前記反射波から算出される前記変化量Yの確率分布を記憶する確率分布記憶手段と、
前記確率分布記憶手段が記憶する前記種類毎の確率分布に基づき、前記変化量算出手段で算出された前記変化量Yに対応する前記レーダ波の反射元の種類を判別する判別手段と、
を備え、前記レーダ波の送信波長λ及び前記観測周期Tswは、前記判別対象とする各種類の前記反射元にて発生する揺らぎの特徴が前記変化量Yに反映される関係で定められていること
を特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
前記確率分布記憶手段は、前記種類毎の確率分布として少なくとも、前記反射元が金属物であるときの前記確率分布、及び前記反射元が人であるときの前記確率分布を記憶し、
前記判別手段は、前記確率分布に基づき、前記反射元の種類として、少なくとも前記金属物及び人の夫々を判別可能な構成にされていること
を特徴とする請求項1記載のレーダ装置。
【請求項3】
前記判別手段は、前記判別対象とする反射元の種類毎に、前記確率分布記憶手段が記憶する当該種類の前記確率分布に基づき、前記変化量算出手段で算出された前記変化量Yの発生確率であって当該変化量Yに対応する前記レーダ波の反射元が仮に当該種類の反射元であるときの発生確率を導出し、前記導出した発生確率が最大である前記反射元の種類を、前記変化量算出手段で算出された前記変化量Yに対応する反射元の種類として判別すること
を特徴とする請求項1又は請求項2記載のレーダ装置。
【請求項4】
車載型のレーダ装置であって、
自車両周辺の道路環境を推定する環境推定手段
を備え、
前記判別手段は、
前記判別対象とする反射元の種類毎に、前記確率分布記憶手段が記憶する当該種類の前記確率分布と、前記環境推定手段により推定された前記道路環境と、に基づき、前記変化量算出手段で算出された前記変化量Yに対応する前記レーダ波の反射元が当該種類の反射元である確度を算出し、
前記反射元の種類毎の前記確度に基づき、前記変化量算出手段で算出された前記変化量Yに対応する前記レーダ波の反射元の種類を判別すること
を特徴とする請求項1又は請求項2記載のレーダ装置。
【請求項5】
前記判別手段は、前記判別対象とする反射元の種類毎に、前記確率分布記憶手段が記憶する当該種類の前記確率分布に基づき、前記変化量算出手段で算出された前記変化量Yの発生確率であって前記レーダ波の反射元が当該種類の反射元であると仮定した場合での発生確率を導出し、当該導出した発生確率に、前記環境推定手段により推定された前記道路環境に対応した補正を加えることで、前記変化量算出手段で算出された前記変化量Yに対応する前記レーダ波の反射元が当該種類の反射元である確度を算出すること
を特徴とする請求項4記載のレーダ装置。
【請求項6】
前記環境推定手段は、各区域の道路環境を表すデータを記憶する道路環境データベースから、自車両の現在位置に対応する区域の道路環境を表すデータを取得して、この取得データが表す道路環境を、自車両周辺の道路環境であると推定すること
を特徴とする請求項4又は請求項5記載のレーダ装置。
【請求項7】
前記環境推定手段は、自車両の走行速度に基づき、前記道路環境を推定すること
を特徴とする請求項4又は請求項5記載のレーダ装置。
【請求項8】
前記レーダ装置は、FMCW(Frequency Modulated Continuous Wave)方式又はSFW(Stepped Frequency Waveforms)方式にて前記レーダ波の送受信を行うFMCWレーダ装置又はSFWレーダ装置であること
を特徴とする請求項1〜請求項7のいずれか一項記載のレーダ装置。
【請求項9】
前記送受信手段は、FMCW(Frequency Modulated Continuous Wave)方式又はSFW(Stepped Frequency Waveforms)方式にて、前記レーダ波を送信アンテナから発射し、当該レーダ波の反射波をアレーアンテナで受信する手段であり、
前記レーダ装置は、
前記アレーアンテナを構成する各アンテナ素子からの受信信号に前記レーダ波の送信信号を混合して、前記アンテナ素子毎のビート信号を生成するビート信号生成手段と、
前記ビート信号生成手段により生成された前記アンテナ素子毎のビート信号に基づき、前記レーダ波の反射元までの距離及び前記反射元の方位を検出する信号解析手段と、
備え、
前記検出手段は、前記ビート信号生成手段により生成された前記アンテナ素子毎のビート信号に基づき、前記距離及び方位の異なる反射元毎に、当該反射元から到来した前記反射波の信号強度を検出し、
前記変化量算出手段は、前記反射元毎に、当該反射元から到来した前記反射波の前記検出手段により検出された信号強度Pと、当該信号強度Pに対応する前記反射波の受信時点から前記観測周期Tsw遡った時点で当該反射元から到来し前記送受信手段により受信された前記反射波の前記検出手段により検出された信号強度Pbと、に基づき、前記信号強度Pbに対する前記信号強度Pの変化量Yを算出し、
前記判別手段は、前記反射元毎に、当該反射元の種類を、前記変化量算出手段で算出された前記変化量Yと、前記確率分布記憶手段が記憶する前記種類毎の確率分布とに基づき判別すること
を特徴とする請求項1〜請求項8のいずれか一項記載のレーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−112653(P2012−112653A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−259070(P2010−259070)
【出願日】平成22年11月19日(2010.11.19)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【出願人】(502324066)株式会社デンソーアイティーラボラトリ (332)
【Fターム(参考)】