説明

ロール曲げ加工した部材及びロール曲げ加工方法

【課題】ロール曲げ加工したアルミニウム合金押出形材製部材において、曲げ内側フランジ12の引張残留応力を小さくすることで耐応力腐食割れ性を改善する。
【解決手段】一対のフランジ11,12と、フランジ11,12を接続する2以上のウエブ13,14からなるアルミニウム合金押出形材を、フランジ12が曲げ内側となるように長手方向に円弧状にロール曲げ加工したアルミニウム合金押出形材製部材。押出形材の長手方向に垂直な断面において、例えば曲げ外側のフランジ11の幅を曲げ内側のフランジ12の幅より小さくし、曲げ半径方向に垂直で曲げ半径方向の高さの中心を通るライン(Z=0のライン)より曲げ内側になる部分の面積を、曲げ外側になる部分の面積より大きく設定する。この部材を自動車ドアの補強材やバンパー補強材等のエネルギー吸収部材として用いる場合、曲げ外側のフランジを車体の外側に向けて設置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロール曲げ加工したアルミニウム合金押出形材及びロール曲げ加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境保護の観点から、自動車の軽量化が期待されており、アルミニウム合金製押出形材は、自動車用フレームあるいはエネルギー吸収部材への適用が期待されている。
【0003】
アルミニウム合金押出形材は、接合を伴わずに予め閉断面化が可能であるという利点があり、鋼板材のプレス成形などで製作される略ハット型などの閉断面構造に比べて、エネルギー吸収性能に優れるという利点がある。また、断面内の肉厚分布を容易に設けることが可能であり、肉厚を適正に配分することで、同等重量で、曲げ強度、剛性、エネルギー吸収特性の高い製品を得ることができる。
このため、自動車用ドア補強材、バンパー補強材、ルーフ補強材など、衝突時に荷重を受け持ち、エネルギー吸収を行う部品やフレームへの適用が進んでいる。中でもJIS7000系(Al−Zn−Mg−(Cu)系)アルミニウム合金は、素材強度が高く、高強度エネルギー吸収部品として期待されている。
【0004】
アルミニウム合金は、従来から用いられている鋼板に比べて耐食性が高いという特徴がある一方で、条件によっては応力腐食割れが生じることがしばしば問題になる。特に前記7000系アルミニウム合金は、この応力腐食割れが生じやすいという問題がある。
応力腐食割れは、素材を加工したときに生じる残留応力に依存しており、素材強度に対して引張残留応力が高いほど発生しやすくなる。アルミニウム合金押出形材は、車体フレームや補強材などに適用する際に、曲げ加工が要求される場合も多く、その曲げ加工後に残留する応力に起因して、前記応力腐食割れが発生する場合がある。
【0005】
7000系又は6000系アルミニウム合金では、この応力腐食割れ性の向上を目的とする材料組成あるいは製造方法の開発が行われている(特許文献1〜3参照)。
しかし、これらの素材を用いても、加工条件によっては、一部に引張応力が残留し、応力腐食割れが発生する場合がある。製品形状自体を変更して、残留応力を低減するという方法も考えられるが、車体フレームや補強材の形状はデザインで規定されており、変更が不可能であることが多い。
また、表面にショットピーニング加工を施すことで残留応力を低減する対策も見られるが(特許文献4参照)、後加工追加によるコストアップが問題になる。
【0006】
加工後の熱処理による耐応力腐食割れ対策も一般的に行われている。例えば、耐力の低いT1調質状態での加工後に、T5あるいはT6処理(時効処理)を行うことで素材強度を増加させれば、素材強度に対する引張残留応力の割合を減少させることが可能となる。また、より高い温度での熱処理によって、残留応力自体を低減させる場合もあるが、この場合には、素材強度自体も低下してしまうため、高強度な7000系又は6000系アルミニウム合金を適用するメリットそのものがなくなるという問題がある。
【0007】
なお、T1調質材の状態で加工後熱処理する場合には、前述のように残留応力を低減できるという利点はあるが、加工後の製品寸法精度の確保が問題になる。熱間で製造される押出形材は、素材強度がばらつきやすい上に、T1調質材は室温中でも自然時効が生じるために、加工タイミングによって素材特性が変化してしまうという問題がある。このため加工後のスプリングバック量にばらつきが生じ、寸法精度を確保することが難しくなる。特に曲げ半径の大きい大R曲げ製品では、スプリングバック量自体が大きくなり、そのばらつき幅も大きくなる。
【0008】
押出形材の曲げ加工方法については、プレス曲げ、押し付け曲げ、引張曲げ、ロール曲げなど、様々な方法がある。これらの曲げ加工方法はそれぞれ特徴があり、上記のような素材特性バラツキが生じた場合の加工条件調整方法もいくつか存在する。また、曲げ加工に供される押出形材の断面形状についても、種々の提案(特許文献5,6参照)がなされている。
曲げ金型に素材を押し付けることで曲げ加工を行うプレス曲げあるいは押し付け曲げ加工の場合は、工具自体が剛体で形成されている。このため、量産時に素材バラツキが生じた場合は、パンチ工具の押し込み量あるいは曲げ角度で調整するしかなく、押出形材の長手方向に全面的にRを設ける場合については調整が難しい。
【0009】
素材に張力を加えながら曲げ加工を行う引張曲げ加工では、張力を付与されることでスプリングバック量自体が小さく、寸法精度を確保しやすいという利点がある。また、素材特性にバラツキが生じた場合には、加工中に加える張力を変更することでスプリングバック量を調整し、所定の製品を得ることが可能になる。しかし、素材に張力を加えるために、素材端部を強固にクランプする必要があるため、曲げ加工後に、この部分を切断、廃棄することが必要であり、素材の歩留まり低下、加工工程追加によるコストアップが問題となる。
一方、ロール曲げの場合、ロール工具の押し込み量を変化させることで異なるRの製品を製造することが可能である。つまり、素材バラツキが変化した場合には、工具押し込み量を変更するだけで対応が可能であり、かつ、金型費用が安いなどの利点があることから、特に大Rの曲げ製品や高強度部品などスプリングバックの大きい条件の製品への適用に有利である。
【0010】
【特許文献1】特公昭61−28744号公報
【特許文献2】特開2001−207233号公報
【特許文献3】特開2001−240930号公報
【特許文献4】特開平5−320838号公報
【特許文献5】特許第3525979号公報
【特許文献6】特開2002−225651号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、ロール曲げ加工で得られた部材の残留応力は、前記プレスベンダーなど他の曲げ加工方法に比べて極めて高くなることが、本発明者らの研究により明らかになった。そのため、先に述べたとおり、SCC(応力腐食割れ)が生じる可能性が顕著に高くなる。
本発明は、製造コスト、及び製造時に素材バラツキに対する調整機能の面で有利となるロール曲げ加工により、長手方向に曲率を形成されるアルミニウム合金押出形材を対象に、曲げ加工後の残留応力を小さくすることで耐SCC(耐応力腐食割れ)性能に優れるアルミニウム合金押出形材製部材を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係るロール曲げ加工した部材(アルミニウム合金押出形材製部材)は、一対の板状のフランジと、前記フランジを接続する2以上の板状のウエブからなるアルミニウム合金押出形材を、前記フランジが曲げ内側及び外側となるように長手方向に円弧状にロール曲げ加工した部材であり、前記アルミニウム合金押出形材は、長手方向に垂直な断面において、曲げ半径方向に垂直で曲げ半径方向の高さの中心を通るラインより曲げ内側になる部分の面積(Si)が、曲げ外側になる部分の面積(So)より大きく設定されている。
このロール曲げ加工した部材は、主として自動車用ドア補強材、バンパー補強材又はルーフ補強材等のエネルギー吸収部材として用いられ、この場合、曲げ外側のフランジが車体の外側に向けて設置される。
【0013】
本発明において、曲げ半径方向に垂直で曲げ半径方向の高さの中心を通るラインとは、図1及び図4(f)に例示するように、アルミニウム合金押出形材の曲げ半径方向に測定した最大高さをHとしたとき、高さの中心(高さH/2の位置)において曲げ半径方向に垂直に引いた直線(Z=0で示す)を意味する。
前記アルミニウム合金押出形材において、曲げ半径方向に垂直で曲げ半径方向の高さの中心を通るラインより曲げ内側になる部分の面積Siが、曲げ外側になる部分の面積Soより大きい断面形状は種々考えられるが、特に曲げ外側のフランジの幅を曲げ内側のフランジの幅より小さく設定することによりSi>Soとすることが望ましい。
また、本発明は応力腐食感受性の高い7000系アルミニウム合金への適用に対して最も効果がある。
【0014】
本発明に係るアルミニウム合金押出形材のロール曲げ加工方法は、上記ロール曲げ加工した部材を製造する方法であり、一対の板状のフランジと、前記フランジを接続する2以上の板状のウエブからなるアルミニウム合金押出形材を、前記フランジが曲げ内側及び外側となるように長手方向に円弧状にロール曲げ加工する場合に、前記アルミニウム合金押出形材として、長手方向に垂直な断面において、曲げ半径方向に垂直で曲げ半径方向の高さの中心を通るラインより曲げ内側になる部分の面積(Si)が、曲げ外側になる部分の面積(So)より大きいアルミニウム合金押出形材を用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、アルミニウム合金押出形材の長手方向に垂直な断面において、曲げ半径方向に垂直で曲げ半径方向の高さの中心を通るラインより曲げ内側になる部分の面積Siが、曲げ外側になる部分の面積Soより大きく設定されている(Si>So)ことにより、Si≦Soの場合に比べて、ロール曲げ加工における曲げの中立軸が曲げ内側に位置する。このため、ロール曲げ加工時に曲げ内側に発生する圧縮応力が低減され、かつ除荷後の引張残留応力が低減され、結果としてロール曲げ加工した部材(アルミニウム合金押出形材製部材)の曲げ内側の耐応力腐食割れ性が向上する。
また、本発明に係るロール曲げ加工した部材を、自動車用ドア補強材又はバンパー補強材等のエネルギー吸収部材に適用した場合、さらに衝突時の破断防止による性能向上という効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
[ロール曲げ加工の特性]
図1に示す断面は、比較例のアルミニウム合金押出形材のものであり、均一な板厚を有し互いに平行な一対の板状のフランジ1,2と、同じく均一な板厚を有しフランジ1,2を垂直に接続する2枚の板状のウエブ3,4からなり、フランジ1,2の両端がウエブ3,4の外側に張り出している(突出フランジ1a,1b,2a,2b)。フランジ1,2の板厚と板幅はそれぞれ同一に設定され、ウエブ3,4の板厚も同一である。図1には、曲げ半径方向に垂直で曲げ半径方向の高さの中心を通るラインがZ=0で示されている。Z=0のラインより曲げ内側になる部分の面積Siと、曲げ外側になる部分の面積Soは同一である(Si=So)。
図2(a)は、上記断面を有する直線状の押出形材を、フランジ2が曲げ内側となるように、長手方向にロール曲げ加工する方法を例示するもので、押さえローラ8を所定の押し込み量hだけ下降させ、送りローラ6及び受けローラ7を回転させて押出形材を矢印方向に移動させることにより行われる。その結果、押出形材は長さ方向に所定の曲率で円弧状に曲げ加工され、図2(b)に示すようなロール曲げ加工された部材(アルミニウム合金押出形材製部材)となる。
【0017】
本発明者らは、このようなロール曲げ加工における変形形態を分析することで、ロール間の非常に狭い領域で曲げ加工されるロール曲げの場合、押出形材の軸方向に圧縮応力が作用していることを、新たに知見した。
この圧縮応力の作用により、ロール曲げ加工における曲げ中立軸は、プレス曲げ加工の場合に比べて曲げ外側方向に位置することになる。なお、比較例の押出形材(図1に示す押出形材)をフランジ2が曲げ内側となるようにプレス曲げ加工する場合、曲げ中立軸は、曲げ半径方向に垂直で曲げ半径方向の高さの中心を通るライン(Z=0のライン)付近に位置する。
【0018】
ロール曲げ加工及びその後の除荷過程では、この曲げ中立軸を中心に歪み量が変化するため、曲げ中立軸から最も遠い曲げ最内側部分における応力変化が最も激しくなる。曲げ内側フランジ2は、曲げ加工段階では圧縮応力により塑性変形し、その後の除荷過程では、これに相反する引張応力が生じる。この際、歪み量の変化が大きければ、引張応力も大きくなり、ロール通過後の引張残留応力が大きくなる。一方、曲げ外側フランジ1は、逆に曲げ加工段階では引張応力により塑性変形し、その後の除荷過程では、これに相反する圧縮応力が生じる。しかし、曲げ中立軸からの距離が近いことで、その応力変化は小さくなる。
【0019】
図3(a)はこれを模式的に説明するもので、ロール曲げ加工時には曲げ中立軸は押出形材の高さの中心(Z=0のライン)付近から曲げ外側方向にずれた位置にあり、そのため、曲げの内側部分(曲げ内側フランジ2)に大きい圧縮応力(破線)が掛かり、除荷過程ではスプリングバックにより逆に大きい引張応力(一点鎖線)が掛かり、その結果、引張残留応力(実線)が大きくなる。
【0020】
[本発明に係る押出形材の断面形状]
図4,5に示す断面は、本発明に係るアルミニウム合金押出形材のものであり、いずれも屈曲部等がなく略平らな板状をなし互いに略平行な一対のフランジと、フランジを接続する同じく板状の2枚以上のウエブからなる。図4の押出形材は断面の肉厚を調整することにより、図5の押出形材はフランジの板幅を調整することにより、いずれも曲げ半径方向に垂直で曲げ半径方向の高さの中心を通るライン(Z=0のライン)より曲げ内側になる部分の面積Siが、曲げ外側になる部分の面積Soより大きく設定されている(Si>So)。これらの押出形材は、比較例の押出形材(図1の押出形材)と同様に、いずれも曲げ内側フランジ12を曲げ内側にしてロール曲げ加工される。ロール曲げ加工後の部材のSiは、理論上はロール曲げ加工前の押出形材のSiより大きく、かつSoはロール曲げ加工前の押出形材のSoより小さくなるが、大Rのロール曲げ加工であれば、実際上の変化はほとんど生じない。
【0021】
図4(a)に示す押出形材は、均一な板厚を有し互いに平行な一対のフランジ11,12と、同じく均一な板厚を有しフランジ11,12を垂直に接続する2枚のウエブ13,14からなり、フランジ11,12の両端がウエブ13,14の外側に張り出し、突出フランジが形成されている。フランジ11,12の板幅は同一に設定されているが、曲げ内側フランジ12の板厚が曲げ外側フランジ11の板厚より厚く設定され、これによりSi>Soとなっている。
図4(b)に示す押出形材は、均一な板厚を有し互いに平行な一対のフランジ11,12と、フランジ11,12を垂直に接続する2枚のウエブ13,14からなり、フランジ11,12の両端がウエブ13,14の外側に張り出し、突出フランジが形成されている。フランジ11,12の板幅と板厚はそれぞれ同一に設定されているが、ウエブ13,14の曲げ内側寄りの板厚が曲げ外側寄りより厚く設定され、これによりSi>Soとなっている。
【0022】
図4(c)に示す押出形材は、互いに平行な一対のフランジ11,12と、均一な板厚を有しフランジ11,12を垂直に接続する2枚のウエブ13,14からなり、フランジ11,12の両端がウエブ13,14の外側に張り出し、突出フランジが形成されている。フランジ11,12の板幅は同一に設定されているが、曲げ内側フランジ12の板厚がウエブ13,14の間において曲げ外側フランジ11の板厚より厚く設定され(曲げ内側フランジ12の板厚はウエブ13,14の外側(突出フランジの部分)において曲げ外側フランジ11の板厚と同じ)これによりSi>Soとなっている。
図4(d)に示す押出形材は、互いに平行な一対のフランジ11,12と、均一な板厚を有しフランジ11,12を垂直に接続する2枚のウエブ13,14からなり、フランジ11,12の両端がウエブ13,14の外側に張り出し、突出フランジが形成されている。フランジ11,12の板幅は同一に設定されているが、曲げ内側フランジ12の板厚がウエブ13,14の外側(突出フランジの部分)において曲げ外側フランジ11の板厚より厚く設定され(曲げ内側フランジ12の板厚はウエブ13,14間において曲げ外側フランジ11の板厚と同じ)これによりSi>Soとなっている。
【0023】
図4(e)に示す押出形材は、均一な板厚を有し互いに平行な一対のフランジ11,12と、同じく均一な板厚を有しフランジ11,12を垂直に接続する2枚のウエブ13,14からなり、矩形の輪郭(ウエブ13,14の外側に突出フランジが形成されていない)を有している。曲げ内側フランジ12の板厚が曲げ外側フランジ11の板厚より厚く設定され、これによりSi>Soとなっている。
図4(f)に示す押出形材は、板状の曲げ外側フランジ11の表面が自動車のデザインに合わせて若干の曲率(緩く凸状に湾曲)を有する点でのみ、図4(a)に示す押出形材と異なる。フランジ11,12の板幅は同一に設定されているが、曲げ内側フランジ12の板厚が曲げ外側フランジ11の平均板厚より厚く設定され、これによりSi>Soとなっている。なお、図4(f)において、Hは曲げ内側フランジ12の底面から曲げ外側フランジ11の頂点までの高さ(最大高さ)であり、その高さの中心位置にZ=0のラインがある。
【0024】
図5(a)に示す押出形材は、均一な板厚を有し互いに平行な一対のフランジ11,12と、同じく均一な板厚を有しフランジ11,12を垂直に接続する2枚のウエブ13,14からなり、フランジ11,12の両端がウエブ13,14の外側に突出し、突出フランジが形成されている。フランジ11,12の板厚は同一に設定されているが、曲げ外側フランジ11の板幅が曲げ内側フランジ12の板幅より小さく設定され、これによりSi>Soとなっている。
図5(b)に示す押出形材は、一対のフランジ11,12と、フランジ11,12を垂直に接続する3枚のウエブ13〜15からなる。曲げ外側フランジ11の板幅が曲げ内側フランジ11の板幅より小さく設定され、これによりSi>Soとなっている。
【0025】
図5(c)に示す押出形材は、一対のフランジ11,12と、フランジ11,12を垂直に接続する3枚のウエブ13〜15からなる。曲げ外側フランジ11の端がウエブ13,14の外側に張り出していない(突出フランジが形成されていない)。曲げ外側フランジ11の板幅が曲げ内側フランジ11の板幅より小さく設定され、これによりSi>Soとなっている。
図5(d)に示す押出形材は、板状の曲げ外側フランジ11の表面が自動車のデザインに合わせて若干の曲率(緩く凸状に湾曲)を有する点でのみ、図5(a)に示す押出形材と異なる。曲げ外側フランジ11の板幅が曲げ内側フランジ12の板幅より小さく設定され、これによりSi>Soとなっている。
【0026】
図4,5に示す押出形材は、長さ方向に垂直な断面において、曲げ半径方向に垂直で曲げ半径方向の高さの中心を通るライン(Z=0のライン)より曲げ内側になる部分の面積Siが、曲げ外側になる部分の面積Soより大きく設定されている(Si>So)。これにより、Si≦Soの断面を持つ押出形材に比べて、曲げ中立軸の位置をより曲げ内側に位置させることができる。
これは、ロール曲げ加工において押出形材の軸方向に圧縮応力が作用した場合でも同様であり、曲げ中立軸から曲げ内側フランジ21までの距離を短くすることで、曲げ内側フランジ12の応力変化を小さくすることが可能になり、この部位の引張残留応力を低減することが可能になる。
【0027】
図3(b)はこれを模式的に説明するもので、ロール曲げ加工時の曲げ中立軸が、比較例(図1の押出形材)に比べて曲げ内側フランジ12側に位置し(図3(b)の矢印参照)、そのため、曲げの内側部分(曲げ内側フランジ12)に掛かる圧縮応力(破線)が軽減され、除荷過程でのスプリングバックによる引張応力(一点鎖線)も軽減され、その結果、引張残留応力(実線)が比較例の押出形材(図1の押出形材)に比べて小さくなる。
【0028】
一方、曲げ中立軸が曲げ内側フランジ12側に移動することで、曲げ外側フランジ11と曲げ中立軸との距離は大きくなり、曲げ外側フランジでの応力変化は大きくなる。しかし、曲げ外側フランジ11は、前述のようにロール曲げ加工段階では引張応力により塑性変形し、その後の除荷過程では、これに相反する圧縮応力が生じる。そして応力変化量が大きくなれば、圧縮応力が増大することになり、耐応力腐食割れという観点からは、さらに有利になる。
【0029】
図4に示す押出形材は、いずれも曲げ半径方向に垂直で曲げ半径方向の高さの中心を通るライン(Z=0のライン)よりも曲げ内側に当たる部位の肉厚を増加させることにより、Si>Soとしている。この場合、曲げ強度及び剛性を効率よく増大させるという観点からは、図4(a),(c)〜(f)のように、曲げ中立軸から最も遠くなる曲げ内側フランジ12の肉厚を曲げ外側フランジ11の肉厚より大きくすることが望ましい。
また、後述するように本発明に係る押出形材をエネルギー吸収部材として利用する場合、衝突面に当たる曲げ外側フランジの座屈防止と、残留応力低減の両立のために、図5に示す押出形材のように、曲げ外側フランジ11の板幅を曲げ内側フランジ12の板幅より小さく設定することにより、Si>Soとするのが望ましい。
なお、本発明に係るアルミニウム合金押出形材の断面形状は、Si>Soである限り、図4,5に例示するものに限られない。例えば外側フランジ11が曲げ内側フランジ12に対して傾斜したもの、外側フランジ11が屈曲部等を有するものなどもあり得る。
【0030】
本発明に係る押出形材は、両フランジ11,12をつなぐウエブが2枚以上設けられる。ウエブが1枚の場合には、曲げ加工中や後述するようにエネルギー吸収部材として利用する際に、ウエブの倒れ変形が生じやすいため、加工後の形状精度が確保できない、あるいは衝突時のエネルギー吸収性能が低下するという問題が生じる。
このウエブは2枚以上設けていれば問題はなく、必要となる強度、剛性などに応じて中ウエブを配置してもよい。また、座屈防止の観点からは、一方又は双方のフランジがウエブから外側に張り出している(突出フランジを有する)ことが望ましい。
【0031】
[エネルギー吸収部材への適用]
本発明に係るロール曲げ加工した部材(アルミニウム合金押出形材製部材)は、自動車用ドア補強材、バンパー補強材又はルーフ補強材等のエネルギー吸収部材としての用途を考慮した場合、曲げ外側のフランジを車体の外側に向けて設置することになる。これは、一般に自動車は車体外側方向に凸形状をなすデザインを持ち、本発明に係るロール曲げ加工した部材をこのデザインに適合させようとすれば、自然にそのような設置形態になるからである。この設置形態により、本発明に係るロール曲げ加工した部材を上記用途(主としてドア補強材、バンパー補強材)に適用した場合、さらに下記(1)〜(3)に示す効果を得ることができる。
【0032】
(1)本発明に係るアルミニウム合金押出形材は曲げ内側方向に曲げ中立軸がずれているが、これをロール曲げ加工した部材においても、同じく曲げ内側方向に曲げ中立軸がずれている。いいかえれば、衝突時の曲げ変形では、曲げ半径方向に垂直で曲げ半径方向の高さの中心を通るライン(Z=0のライン)より曲げ内側フランジ12に近い位置に、曲げ中立軸が存在することになる。このため、衝突時の曲げ変形では、曲げ外側に当たる曲げ内側フランジ12に加わる引張応力は減少し、特許第3439678号公報、特許第3103337号公報等に記載されているように、衝突時にこの引張応力による破断が生じにくくなる。
【0033】
(2)本発明に係るロール曲げ加工した部材は、長手方向に曲率を有し、凸側(曲げ外側フランジ11側)を車体外側方向に向けて設置される。従って、長手方向に曲率を有しない直線部材に比べて、衝突前面側に張り出した構造となり、衝突の相手側との接触が早くなり、エネルギー吸収ストロークを大きくできる利点がある。これにより、エネルギー吸収量を多くして車体の損傷を抑制しやすくなり、また、同じエネルギー吸収量で比較すると、衝突が早くなる(車体外側方向に凸のため)ことで、エネルギ−吸収終了時の車体への進入量が抑制できる。
(3)同じく、長手方向に曲率を有し、凸側(曲げ外側フランジ11側)を車体外側方向に向けて設置されることにより、衝突に伴う変形の際には、押出形材軸方向への圧縮応力が生じるため、曲げ内側フランジ12に加わる引張応力が減少し、さらに破断が生じにくくなる。
【0034】
一対のフランジと2個以上のウエブからなる押出形材において、衝突時の座屈を抑制するためには、衝突面側のフランジ(曲げ外側フランジ11)の幅/厚比をできるだけ小さく設定することが望ましいことが知られている。一方、本発明に係るアルミニウム合金押出形材は、曲げ半径方向に垂直で曲げ半径方向の高さの中心を通るライン(Z=0のライン)より曲げ内側になる部分の面積Siを、曲げ外側の面積Soに比べて大きくすることが前提であり、これらを両立するためには、曲げ外側フランジ11の幅を内側フランジ12に比べて小さくすることが望ましい。
さらに、これらのフランジ11,12をつなぐウエブ13,14は、衝突時の荷重を受け持つために衝突方向に略平行に設けることが望ましい。このため、ウエブ13,14を衝突方向に対し略平行に設定し、曲げ外側フランジ11のウエブ13,14より外側に張り出した部分(突出フランジ)の幅が、曲げ内側フランジ12のウエブ13,14より外側に張り出した部分(突出フランジ)の幅に比べて小さくなるように設定することが最も望ましいといえる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】比較例のアルミニウム合金押出形材の断面図である。
【図2】アルミニウム合金押出形材のロール曲げ加工を説明する側面図(a)、及びロール曲げ加工により成形された部材の側面図である。
【図3】アルミニウム合金押出形材の断面各部位における曲げ加工時の応力分布、除荷時(スプリングバック時)に加わる応力分布、及び除荷後(スプリングバック後)の引張残留応力の応力分布を示す模式図であり、(a)は比較例、(b)は本発明例である。
【図4】本発明に係るアルミニウム合金押出形材の断面図である。
【図5】本発明に係るアルミニウム合金押出形材の断面図である。
【符号の説明】
【0036】
1,11 曲げ外側フランジ
2,12 曲げ内側フランジ
3,4,13〜15 ウエブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の板状のフランジと、前記フランジを接続する2以上の板状のウエブからなるアルミニウム合金押出形材を、前記フランジが曲げ内側及び外側となるように長手方向に円弧状にロール曲げ加工した部材であり、前記アルミニウム合金押出形材の長手方向に垂直な断面において、曲げ半径方向に垂直で曲げ半径方向の高さの中心を通るラインより曲げ内側になる部分の面積が、曲げ外側になる部分の面積より大きいことを特徴とするロール曲げ加工した部材。
【請求項2】
前記アルミニウム合金押出形材は、曲げ外側のフランジの幅が曲げ内側のフランジの幅より小さく、これにより曲げ半径方向に垂直で曲げ半径方向の高さの中心を通るラインより曲げ内側になる部分の面積が、曲げ外側になる部分の面積より大きくされていることを特徴とする請求項1に記載されたロール曲げ加工した部材。
【請求項3】
前記アルミニウム合金押出形材がJIS7000系アルミニウム合金からなることを特徴とする請求項1又は2に記載されたロール曲げ加工した部材。
【請求項4】
前記部材の用途が自動車のエネルギー吸収部材であり、曲げ外側のフランジを車体の外側に向けて設置されることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載されたロール曲げ加工した部材。
【請求項5】
前記一対のフランジはいずれも両端に突出フランジを有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載されたロール曲げ加工した部材。
【請求項6】
前記エネルギー吸収部材が自動車用ドア補強材、バンパー補強材又はルーフ補強材であることを特徴とする請求項5に記載されたロール曲げ加工した部材。
【請求項7】
一対の板状のフランジと、前記フランジを接続する2以上の板状のウエブからなるアルミニウム合金押出形材を、前記フランジが曲げ内側及び外側となるように長手方向に円弧状にロール曲げ加工する場合に、アルミニウム合金押出形材として、長手方向に垂直な断面において、曲げ半径方向に垂直で曲げ半径方向の高さの中心を通るラインより曲げ内側になる部分の面積が、曲げ外側になる部分の面積より大きいアルミニウム合金押出形材を用いることを特徴とするアルミニウム合金押出形材のロール曲げ加工方法。
【請求項8】
曲げ外側のフランジの幅が曲げ内側のフランジの幅より小さく、これにより曲げ半径方向に垂直で曲げ半径方向の高さの中心を通るラインより曲げ内側になる部分の面積が、曲げ外側になる部分の面積より大きくされたアルミニウム合金押出形材を用いることを特徴とする請求項7に記載されたアルミニウム合金押出形材のロール曲げ加工方法。
【請求項9】
アルミニウム合金押出形材がJIS7000系アルミニウム合金からなることを特徴とする請求項7又は8に記載されたアルミニウム合金押出形材のロール曲げ加工方法。
【請求項10】
一対の板状のフランジと、前記フランジを接続する2以上の板状のウエブからなり、前記フランジが曲げ内側及び外側となるように長手方向に円弧状にロール曲げ加工するアルミニウム合金押出形材であり、長手方向に垂直な断面において、曲げ半径方向に垂直で曲げ半径方向の高さの中心を通るラインより曲げ内側になる部分の面積が、曲げ外側になる部分の面積より大きいことを特徴とするロール曲げ加工用アルミニウム合金押出形材。
【請求項11】
曲げ外側のフランジの幅が曲げ内側のフランジの幅より小さく、これにより曲げ半径方向に垂直で曲げ半径方向の高さの中心を通るラインより曲げ内側になる部分の面積が、曲げ外側になる部分の面積より大きくされていることを特徴とする請求項9に記載されたロール曲げ加工したアルミニウム合金押出形材。
【請求項12】
前記アルミニウム合金押出形材がJIS7000系アルミニウム合金からなることを特徴とする請求項10又は11に記載されたロール曲げ加工したアルミニウム合金押出形材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−46685(P2010−46685A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−212472(P2008−212472)
【出願日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】