説明

ワイヤソー装置およびこれを用いた切断方法

【課題】 ワイヤが長寿命であり、且つ加工精度が高く、信頼性の高いワイヤソー装置を提供すること。
【解決手段】 供給装置10及び超音波伝搬体12は、ガラス製の管であり、両者は溶着に接続されている。供給装置10の他方はプラスチック配管に接続され、その中からスラリまたは切削液11を流し、管状の超音波伝搬体12を通り、ワイヤ2に到達する。管状の超音波伝搬体12に、ワイヤ2により溝14を形成する。そして超音波伝搬体12の先端はワイヤ2の下側に達する。超音波伝搬体12に設けられた溝14とワイヤ2の距離が1mm以下であるので、ワイヤ2は常にスラリまたは切削液11に接触する。そして、ランジュバン型超音波振動子13の超音波振動は超音波伝搬体12に伝搬し、確実にスラリまたは切削液11を伝搬してワイヤ2に到達してワイヤ2を超音波振動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、サファイア単結晶などの脆性材料をワイヤにより切断するワイヤソー装置およびこれを用いた切断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にワイヤソー装置は、複数の加工用ローラーが所定間隔をおいて配設され、それらのローラーの外周に複数の環状溝が所定ピッチで形成されており、それらの環状溝間には1本のワイヤが順に巻回されている。そして、加工用ローラーの回転にともなって、ワイヤを走行させながら、そのワイヤ上に遊離砥粒を含むスラリを供給し、この状態でワイヤに対し被切断物を押し付け接触させて、被切断物を切断するように構成されている。
【0003】
このように構成されるワイヤソー装置においては、切断能力を向上させるために各種の提案がなされている。例えば、特許文献1においては、外周に凹凸部を有した補助ローラーを被切断物近傍のワイヤに接触するように設け、このローラーの回転によりワイヤに対して直接上下に振動を付与するようにしている。
【0004】
しかしながら、上に述べたワイヤソー装置においては、ワイヤと補助ローラーが接触することにより、補助ローラーの外周に凹凸部が平坦化するためワイヤの振動は小さくなってしまう。このため、補助ローラーの頻繁な交換が必要である。また、被切断物を効率よく切断するために、15KHz以上の振動をワイヤの付与することが好ましいが、補助ローラに所望の振動数と振幅を発生させる凹凸部を設ける構成では難しい。
【0005】
そこで特許文献2のワイヤソー装置が提案された。このワイヤソー装置は、一対の磁界発生器を被切断物の加工域におけるワイヤ進行方向両側に設ける。そして、磁界発生器に対して、所定の駆動出力を供給し、磁界発生器を動作させて、ワイヤを間欠的に吸引し、ワイヤに対して上下振動を付与する。
【0006】
この発明によれば、ワイヤ列に近接し、微少間隔を介してワイヤに振動を付与する振動手段が設けられるため、ワイヤの振動により、ワイヤと被切断物との間に十分な量のスラリを供給することができ、効率的な切断加工を行うことができるとされている。しかも、ワイヤに振動を付与する振動付与手段がワイヤと接触しないため、その振動付与手段がワイヤによって切断されたり、磨耗されたりすることがなく、耐久性を向上させることができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−99262号公報
【特許文献2】特開2001−62700号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】超音波便覧編集委員会、「超音波便覧」、丸善株式会社、平成11年8月、p679−684
【非特許文献2】日本電子機械工業会、「超音波工学」、株式会社コロナ社、1993年、p218−229
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記の特許文献2に記載のワイヤソー装置においては、ワイヤと非接触で交流電源から磁界発生器によりワイヤに交番する振動力を印加するものであるが、非接触であるためワイヤに十分な振幅幅を与えることは困難である。そして、ワイヤの振幅幅を調整することは困難である。さらに振動方向を制御することも困難である。
【0010】
また、磁界発生を発生させるための交流電源は、15KHz以上の超音波領域では、効率が低く熱を発生させるのでワイヤの温度を上昇させる虞がある。ワイヤの温度上昇は加工精度の悪化そしてワイヤの寿命を短くすることの原因にもなる。
【0011】
本発明の目的は、加工精度が高く、かつ切断速度を向上させることができるワイヤソー装置およびこれを用いた切断方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、遊離砥粒を含むスラリを供給された走行するワイヤまたは、砥粒を固定した走行するワイヤに対し被切断物を押し付け接触させて、被切断物を切断するワイヤソー装置において、ワイヤより上の位置に超音波振動子を設置して、前記超音波振動子に超音波伝搬体を接続し、超音波伝搬体にスラリまたは切削液を供給し、前記超音波振動子に15KHz以上、100KHz以下の交流電圧を印加するものである。
【0013】
本発明はまた、超音波伝搬体がスラリまたは切削液を通る管状である上記に記載のワイヤソー装置とするものである。
【0014】
本発明はまた、ワイヤと超音波伝搬体の先端の距離を3mm以下にする前記に記載のワイヤソー装置とするものである。
【0015】
本発明はまた、超音波伝搬体の先端がワイヤより下に位置する前記に記載のワイヤソー装置とするものである。
【0016】
本発明はまた、ワイヤに接触する超音波伝搬体の材料を有機物、無機物または、有機物と無機物の複合材料とするワイヤソー装置とするものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明のワイヤソー装置を用いた切断加工により、高精度かつ高速加工が可能となり、さらにワイヤが長寿命となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の構成のワイヤソー装置を示す斜視図である。
【図2】ワイヤ、ランジュバン型超音波振動子そして供給装置の詳細を示す平面図である。
【図3】ワイヤ、ランジュバン型超音波振動子そして供給装置の詳細を示す側面図である。
【図4】本発明の別の構成のワイヤ、ランジュバン型超音波振動子そして供給装置の詳細を示す平面図である。
【図5】本発明の別の構成のワイヤ、ランジュバン型超音波振動子そして供給装置の詳細を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に関わるワイヤソー装置の実施の形態について図1の斜視図を用いて説明する。ワイヤソー装置1は、1本のワイヤ2を巻きつける3個の多溝ローラー3a、3b、3cを有し、各多溝ローラーに、例えば約120ミクロンの直径を有するワイヤ2を巻き付けるワイヤ列を構成し、このワイヤ列のワイヤ2をワイヤ駆動モータ4により駆動されるドライブ側多溝ローラー3aの駆動により往復運動させるようになっている。またワイヤ2を巻き取り、送り出すボビン5a、5bを持っている。多溝ローラー3a、3b、3cの表面に設けられた複数の溝は図面の都合上省略した。なお、ワイヤソー装置は複雑であるためワイヤより下にランジュバン型超音波振動子13と超音波伝搬体12とスラリまたは切削液11を噴出する供給装置10を置くスペースを設けることが困難である。このため、ワイヤより上にランジュバン型超音波振動子13と超音波伝搬体12とスラリまたは切削液11を噴出する供給装置10を置く必要がある。
【0020】
次にワイヤ2に超音波振動を印加するランジュバン型超音波振動子13と超音波伝搬体12とスラリまたは切削液11を噴出する供給装置10を図2の平面図と図3の側面図を用いて説明する。約120μmの直径のワイヤ2と1mm以下の間隔を置いてガラス製の超音波伝搬体12を接合したランジュバン型超音波振動子13を位置させる。超音波伝搬体12にはオネジ部を設け、一方ランジュバン型超音波振動子13にはメネジを設け、エポキシ接着剤と共に両者を締め付け接合する。そして、超音波伝搬体12の上部位置にスラリまたは切削液11を噴出する供給装置10を接続する。供給装置10及び超音波伝搬体12は、ガラス製の管であり、両者は溶着に接続されている。供給装置10の他方はプラスチック配管に接続され、その中からスラリまたは切削液11を流し、ガラス製の管状の超音波伝搬体12を通り、ワイヤ2に到達する。
【0021】
管状の超音波伝搬体12に、ワイヤ2により溝14を形成する。そして超音波伝搬体12の先端はワイヤ2の下側に達する。超音波伝搬体12に設けられた溝14とワイヤ2の距離が1mm以下であるので、ワイヤ2は常にスラリまたは切削液11に接触する。そして、ランジュバン型超音波振動子13の超音波振動は超音波伝搬体12に伝搬し、確実にスラリまたは切削液11を伝搬してワイヤ2に到達してワイヤ2を超音波振動させる。スラリまたは切削液11は超音波伝搬体12からワイヤ2までは連続体であり、霧状ではない。
【0022】
また、スラリまたは切削液11を効率的に使用するため管状の超音波伝搬体12の先端を溶着等により塞ぎ、その後ワイヤ2により溝14を形成することにより、ほぼ溝14の部分だけからスラリまたは切削液11を外部に流出させる。このことにより、ワイヤ2がスラリまたは切削液11中に置かれた状態になるので、より確実にワイヤ2は超音波振動することになる。
【0023】
超音波伝搬体12は、ワイヤ2と接触してもワイヤ2を切断する虞のほとんどない材料により構成する。上記ではガラス材料を用いた。他には、例えば炭素繊維とエポキシの複合材料、ポリエチレンなどのプラスチック、炭素材料、セラミックなどがある。
【0024】
また超音波伝搬体12の形状は管状であるが、管の断面形状は円、矩形など様々な形状がある。
【0025】
次に本発明のワイヤソー装置1を用いたサファイアインゴットの切断方法について説明する。ここでは、ワイヤは、ワイヤ表面に砥粒を固定したものを用いた。
【0026】
最初に、図1に示すように、被切断物9であるサファイアインゴットをカーボン製のベース台8に接着する。また、ワイヤ列に対向する上方には、送りモータ6を有し被切断物9を送るフィードユニット7が設けられており、このフィードユニット7のカーボン製のベース台8に接着された被切断物9であるサファイアインゴットをワイヤ列に押し付けて研磨切断するようになっている。
【0027】
ワイヤ駆動モータ4を回転させて、ワイヤ列を高速で動かし、そして図2、図3に示す超音波伝播体を接合したランジュバン型超音波振動子13の圧電セラミックに図示しない超音波発振器より約25KHzの超音波交流電圧を印加する。
【0028】
そして図示しないプラスチック配管を接続した供給装置10を稼動させ、管状の超音波伝搬体12の中を、切削液を通す。管状の超音波伝搬体12の中に全部または一部が位置するワイヤ2は、管状の容器内にあるため超音波振動が効率的に励起できる。
【0029】
送りモータ6を回転させてサファイアインゴットをワイヤ列に接触させ、切断を開始し、切断を継続する。
【0030】
ワイヤ2は常に切削液中に全部または一部があるため切削液に伝搬した超音波振動がワイヤ2を超音波振動させる。また、超音波伝播体とワイヤ2は被接触であるためワイヤ2に損傷を与えることはない。
【0031】
ワイヤ2の超音波振動により、ワイヤ2と被切断物9との摩擦が減少することにより、ワイヤ2の消耗は少なくなり、かつワイヤ2の切断の恐れも小さくなる。さらに、ワイヤ2と被切断物9との摩擦熱が小さくなるため、加工精度も向上する。したがって、従来よりもワイヤの走行速度を向上させることができるので、加工効率が向上する。
【0032】
また、ワイヤ2の超音波振動により、ワイヤ2と被切断物9との間に切削液が十分供給されるので、切断速度が向上する。さらに、被切断物9の切断粉及びワイヤ2の消耗粉などが速やかに排除されるため加工精度は向上し、切断速度も向上する。
【0033】
なお超音波切削加工は、例えば、非特許文献1に詳しく記載されている。超音波切削加工は、加工対象物と工具との摩擦抵抗が、小さくなるため、加工面の熱歪みが低減され、加工精度が高くなり、そして、切削工具の寿命が長くなるなどの利点を有している。そして、加工速度が倍以上になることも非特許文献2に詳しく記載されている。
【0034】
さらにワイヤ2には常に切削液が供給され、かつ超音波振動が切削液に付加されるため、ワイヤを超音波洗浄する効果も生じる。このため、ランジュバン型超音波振動子13の位置において被切断物9の切断粉及びワイヤ2の消耗粉などが速やかに排除される。このことにより加工精度は向上し、切断速度も向上する。
【0035】
本発明に関わるワイヤソー装置の別の実施の形態について図4の平面図と図5の側面図を用いて説明する。
【0036】
管状の超音波伝搬体12が取付けられた超音波振動子13および供給装置10について説明する。ランジュバン型超音波振動子13に接合された管状の超音波伝搬体12はプラスチック製である。スラリまたは切削液11を供給する供給装置10は、超音波伝搬体12と一体で成形されて製作される。図示しないゴム管より供給されるスラリまたは切削液11は、管状の超音波伝搬体12を通る。
【0037】
また、ランジュバン型超音波振動子13が発生した超音波振動は、プラスチック製の管である超音波伝搬体12の中のスラリまたは切削液11に超音波振動は確実に伝搬する。
【0038】
超音波伝搬体12の先端とワイヤ2との距離は約3mm以下でほぼ接触するほど近接している。したがって、少なくても超音波伝搬体12の先端からワイヤ2まではスラリまたは切削液11は連続体となっている。このため、スラリまたは切削液11の超音波振動はワイヤ2を確実に超音波振動させる。
【0039】
以上の説明では、超音波振動子13をランジュバン型のものを用いたが、例えば圧電セラミック単体のものでもよい。
【0040】
上記のように、ワイヤに超音波振動を付与することによりワイヤが長寿命であり、加工精度の高い、信頼性の高いワイヤソー装置を提供できる。
【符号の説明】
【0041】
1 ワイヤソー装置
2 ワイヤ
3 多溝ローラー
4 ワイヤ駆動モータ
5 ボビン
6 送りモータ
7 フィードユニット
8 ベース台
9 被切断物
10 供給装置
11 スラリ又は切削液
12 超音波伝搬体
13 超音波振動子
14 溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遊離砥粒を含むスラリを供給された走行するワイヤまたは、砥粒を固定した走行するワイヤに対し被切断物を押し付け接触させて、被切断物を切断するワイヤソー装置において、ワイヤより上の位置に超音波振動子を設置して、前記超音波振動子に超音波伝搬体を接続し、超音波振動子または超音波伝搬体に、スラリまたは切削液を供給し、前記超音波振動子に15KHz以上、100KHz以下の交流電圧を印加することを特徴とする。
【請求項2】
超音波伝搬体がスラリまたは切削液を通る管状であることを請求項1に記載のワイヤソー装置。
【請求項3】
ワイヤと超音波伝搬体の先端の距離を3mm以下にすることを特徴とする請求項2に記載のワイヤソー装置。
【請求項4】
超音波伝搬体の先端がワイヤより下に位置することを特徴とする請求項2に記載のワイヤソー装置。
【請求項5】
超音波伝搬体の材料を有機物、無機物または、有機物と無機物の複合材料とする請求項2に記載のワイヤソー装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−224762(P2011−224762A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−109670(P2010−109670)
【出願日】平成22年4月19日(2010.4.19)
【出願人】(500222021)
【Fターム(参考)】