説明

ワイヤソー装置およびワーク切断方法、ウエハの製造方法

【課題】ワイヤ供給側(新線側)ワイヤの張力を低減してワイヤの撓み量をワイヤ供給側からワイヤ回収側に渡って一定に保持して、ワイヤの断線リスクを抑制すると共に、ワイヤ供給側とワイヤ回収側でワーク切断能力を均一にできて切断厚さのバラツキを低減する。
【解決手段】所定の間隔で配置された複数(ここでは二つ)の溝付きローラ2,3の外周溝に巻き付けられた切断用のワイヤ4を走行させてワイヤ4の複数列でワークである半導体インゴット7を切断するワイヤソー装置1において、溝付きローラ2,3間に張架されたワイヤ張力のうち、ワイヤ回収側のワイヤ張力を大きくし、ワイヤ供給側のワイヤ張力を小さくした張力制御手段16を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の間隔で配置された複数の溝付きローラの外周に通した切断用ワイヤを走行させることによって、切断用ワイヤでワークを切断するワイヤソー装置およびこれを用いたワーク切断方法、ウエハの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の従来のワイヤソー装置は、メインローラに掛け渡されたワイヤの張力を制御しながらワークを切断してウエハ素材を作製している。これが特許文献1、2に開示されている。
【0003】
図17は、特許文献1に開示されている従来のワイヤソー装置の要部構成例を模式的に示す斜視図である。
【0004】
図17に示すように、従来のワイヤソー装置200は、主に、ワークWを切断するための固定砥粒ワイヤ201と、この固定砥粒ワイヤ201を巻掛けした二つの溝付きローラ202と、固定砥粒ワイヤ201に張力を付与するためのワイヤ張力付与機構203A、203Bと、切断するワークWを保持して切り込み送りするワーク送り機構204と、切断されるワークWを冷却するための冷却水供給機構205とを有している。
【0005】
固定砥粒ワイヤ201は、供給側のワイヤリール206Aから繰り出され、ワイヤ張力付与機構203Aを経て、溝付きローラ202に入っている。固定砥粒ワイヤ201がこの溝付きローラ202に300〜400回程度巻掛けられることによってワイヤ列が形成される。固定砥粒ワイヤ201はもう一方のワイヤ張力付与機構203Bを経て回収側のワイヤリール206Bに巻き取られている。
【0006】
このように、これらのワイヤ張力付与機構203A、203Bにより、溝付きローラ202に巻掛けられた固定砥粒ワイヤ201に張力を付与し、駆動モータ207によって軸方向へ予め設定した反転サイクル時間、走行速度で往復走行させ、ワークWを往復走行する固定砥粒ワイヤ201に押し当てて切り込み送りし、ワークWをウエーハ状に切断している。
【0007】
上記従来のワイヤソー装置200では、新線供給側と旧線回収側でワイヤ張力付与機構203A、203Bにより固定砥粒ワイヤ201の張力を管理しているが、各溝付きローラ202内側で固定砥粒ワイヤ201の張力を管理していない。各溝付きローラ202内側で固定砥粒ワイヤ201の張力を管理しているものが特許文献2に開示されている。
【0008】
図18は、特許文献2に開示されている従来のワイヤソー装置の要部構成例を模式的に示す側面図である。図19は、図18のワイヤソー装置における3個の溝付ローラの斜視図である。
【0009】
図18および図19において、従来のワイヤソー装置100は3個の溝付ローラ101〜103が所定間隔を置いて軸方向に平行で回転自在に設けられている。各溝付ローラ101〜103にワイヤ104が巻き付けられてその巻付き形状が側面視で三角形になっている。各溝付ローラ101〜103はそれぞれ、その周面に回転軸と直交する平面内に所定ピッチ間隔で複数の円周溝105が螺旋状に形成されている。
【0010】
各溝付ローラ101〜103の所定ピッチの円周溝105にワイヤ104が係合するように、溝付ローラ101〜103間にワイヤ104を巻き付ける。このとき、溝付ローラ101〜103の円周溝105に巻き付けられるワイヤ104は、螺旋状に多重に巻き付けられる。溝付ローラ101〜103間に螺旋状に巻き付けられたワイヤ104の一方を供給リール106に巻き付け、他方を回収リール107に巻き付けてワイヤ104を巻き取るようにしている。これらの供給リール106および回収リール107を駆動することにより、溝付ローラ101〜103に巻き付けられたワイヤ104を走行させることができるようになっている。
【0011】
各溝付ローラ101〜103に巻き付けられるワイヤ104に、所要の張力を与えるため、溝付ローラ101〜103の外では、ダンサローラー108、109により張力を検知し、供給リール106および回収リール107の回転数を制御して、溝付ローラ101〜103の外でのワイヤ104の張力が一定となるようにしている。なお、キャプスタン110,111はワイヤ104を複数回巻き付けてワイヤ104に制動を与えている。
【0012】
各溝付ローラ101〜103内でもワイヤ104の張力が一定となるように溝付ローラ間に螺旋状に巻き付けられたワイヤ104に当接して、ワイヤ104の張力を一定に保持する張力保持手段112を設けている。この張力保持手段112の設置場所は、図18に示すように、三角形の頂点位置に配設した溝付ローラ101と溝付ローラ103との間の斜辺のワイヤ104の近傍、および溝付ローラ101と溝付ローラ102との間の斜辺のワイヤ104の近傍の2箇所で、共に三角形の外側辺部である。
【0013】
張力保持手段112は、ワイヤ104に当接する張力付与部材113と、それを支えるシャフト114と、張力付与部材113を一定の圧力でワイヤ104に付勢するスプリング115と、スプリング115およびシャフト114を支える支持部材116とから構成されている
溝付ローラ102と溝付ローラ103との間の底辺のワイヤ104はワークの切断部となり、この切断部となるワイヤ104に冷却用のクーラントをかけながら、例えばワークとしての半導体インゴットなどの被切断物117を押し付ける。この押付けは、駆動装置118によりスライド部119を介してステージ120を昇降させ、ステージ120上に固定した被切断物117を昇降させる昇降装置121によって行われる。多数本が平行に並んだ各ワイヤ104に被切断物117を押し付けることによりラッピング作用で切削を行い、同時に被切断物117を多数の薄いウエハ状に切断することができる。これによって、多数のウエハ素材を製造することができる。
【0014】
スプリング115によって一定の圧力で付勢された張力付与部材113を、切断に寄与しない三角形の頂角に隣接する2辺のワイヤ104に当接させて、ワイヤ104の張力が常に一定となるように保持している。
【0015】
この結果、張力保持手段112により、ワイヤ104に引張強度以上の張力が加えられてワイヤ104が断線したり、または、ワイヤ104の溝付ローラ101〜103への巻付力が弱くなってワーク切断精度が低下したり、ワイヤ104が円周溝105から外れて切断不良を起こしたりすることもなくなる。
【0016】
このように、切断部のワイヤ104の張力を一定に保持すると、特に、半導体材料、磁性体材料、セラミックス材料のような脆性材料をウエハ状に高精度に多数同時に切断することができる。
【0017】
張力付与部材113は、各ワイヤ104単位で個別に当接する複数個の当接ローラを用いたものであり、その周面にはワイヤ104と係合する円周溝が設けられている。このようにすると、個別に各ワイヤ104の張力が調節できるため、ワイヤ104の横振れが無くなり、ウエハ切断精度の一層の向上が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開2011−20197号公報
【特許文献2】特開平7−276218号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
特許文献2に開示されている上記従来のワイヤソー装置100では、新線供給側と旧線回収側でダンサーローラ108,109でワイヤ104の張力を管理し、各溝付ローラ101〜103内側でもワイヤ104の張力が一定となるようにワイヤ104の張力を張力保持手段112により管理している。
【0020】
この場合、ワイヤ104に固着された砥粒は、ワークとの摩擦で磨耗するため、図20に示すように新線側ほど良く切れて、ワークの幅方向のワイヤ供給側(新線側)からワイヤ回収側(旧線側)に行くほど切れ味が低下する。したがって、ワイヤ104にワークを一定の力で押し付けると、多数本張られた各ワイヤ104の撓み量に差が発生する。即ち、ワイヤ供給側からワイヤ回収側に向かうほど、ワイヤの撓み量が大きくワイヤ104に強い張力がかかりブレが生じ易くなって加工精度が低下するという問題があった。また、ワイヤ104が切れると、ワイヤ104のつなぎ目やワーク117の温度も冷えて切れ方が変わって段差を生じてしまうので、ワーク117とワイヤ104を共に交換する必要があるという問題があった。
【0021】
本発明は、上記従来の問題を解決するもので、ワイヤ供給側(新線側)のワイヤの張力を低減してワイヤの撓み量バラツキをワイヤ供給側(新線側)からワイヤ回収側(旧線側)に渡って低減することにより、ワイヤの断線リスクを抑制すると共に、ワイヤ供給側(新線側)とワイヤ回収側(旧線側)でワーク切断能力を均一にできて切断厚さのバラツキを低減することができるワイヤソー装置およびこれを用いたワーク切断方法、ウエハの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明のワイヤソー装置は、所定の間隔で配置された複数の溝付きローラの外周溝に巻き付けられた切断用のワイヤを走行させて該ワイヤの複数列でワークを切断するワイヤソー装置において、該複数の溝付きローラ間に張架されたワイヤ張力のうち、ワイヤ回収側のワイヤ張力を大きくし、ワイヤ供給側のワイヤ張力を小さくした張力制御手段を有するものであり、そのことにより上記目的が達成される。
【0023】
また、好ましくは、本発明のワイヤソー装置における張力制御手段は、前記ワイヤ回収側のワイヤ張力を最大とし、該ワイヤ回収側から前記ワイヤ供給側に向けて一または複数のワイヤ毎に段階的に張力を小さくした状態で張力を保持する。
【0024】
さらに、好ましくは、本発明のワイヤソー装置において、前記ワイヤ供給側のワイヤ張力を前記ワイヤ回収側のワイヤ張力に比べて低減して前記ワイヤの撓み量が該ワイヤ供給側から該ワイヤ回収側に渡って一定に保持されている。
【0025】
さらに、好ましくは、本発明のワイヤソー装置において、前記ワークを切断するワイヤ列面と、前記張力制御手段が当接するワイヤ列面とがそれぞれ別のワイヤ列面である。
【0026】
さらに、好ましくは、本発明のワイヤソー装置における張力制御手段は、一または複数設けられ、2段階以上で前記ワイヤの複数列におけるワイヤ本数分の複数段階以下に張力を制御する。
【0027】
さらに、好ましくは、本発明のワイヤソー装置における張力制御手段は、前記ワイヤ回収側から前記ワイヤ供給側に向けて複数段階に前記ワイヤ張力が設定されている。
【0028】
さらに、好ましくは、本発明のワイヤソー装置における張力制御手段は、前記各ワイヤに当接する複数のサブローラ群と、該複数のサブローラ群を回転自在に軸支する軸部材およびこれを支える支持部材と、該サブローラ群を一定の圧力で該ワイヤのそれぞれに付勢する付勢部材とを一または複数セット有し、該複数のサブローラ群を一括して該ワイヤのそれぞれに押圧する。
【0029】
さらに、好ましくは、本発明のワイヤソー装置において、前記ワイヤ回収側から前記ワイヤ供給側に向けて前記サブローラ群毎または該サブローラ群の各サブローラ毎に段階的にサブローラの直径が小さくなるように構成されている。
【0030】
さらに、好ましくは、本発明のワイヤソー装置における張力制御手段は、前記ワイヤのそれぞれに当接するサブローラ群と、該サブローラ群を回転自在に軸支する軸部材およびこれを支える支持部材と、該サブローラ群を一定の圧力で該ワイヤのそれぞれに付勢する付勢部材とを複数セット有し、該複数セットのサブローラ群のそれぞれを独立して該ワイヤのそれぞれに押圧する。
【0031】
さらに、好ましくは、本発明のワイヤソー装置において、前記ワイヤ回収側から前記ワイヤ供給側に向けて前記サブローラ群毎に段階的にサブローラ群の前記ワイヤのそれぞれへの押し込み力または押し込み量が小さくなるように構成されている。
【0032】
さらに、好ましくは、本発明のワイヤソー装置において、前記ワイヤ回収側から前記ワイヤ供給側に向けて前記サブローラ群毎に段階的にワイヤ張力を小さくするように構成されている。
【0033】
さらに、好ましくは、本発明のワイヤソー装置において、前記ワイヤ回収側から前記ワイヤ供給側に向けて前記サブローラ群の各サブローラ毎に段階的にワイヤ張力を小さくするように構成されている。
【0034】
さらに、好ましくは、本発明のワイヤソー装置における溝付きローラ間に、前記ワイヤの撓み量を検出する撓み量検出手段を備え、前記張力制御手段は、該ワイヤの撓み量がワイヤ供給側からワイヤ回収側に渡って一定に保持されるかまたは、該ワイヤの撓み量のバラツキを該ワイヤ供給側から該ワイヤ回収側に渡って低減するように、該撓み量検出手段で検出した該撓み量に応じて該ワイヤのそれぞれを加圧する加圧制御部が設けられている。
【0035】
本発明のワーク切断方法は、本発明の上記ワイヤソー装置を用いたワークの切断方法であって、テスト用ワークの切断により前記溝付きローラ間に張架されたワイヤのワイヤ張力を設定するワイヤ張力設定工程と、該設定されたワイヤ張力を用いて実際のワークを切断するワーク切断工程とを有するものであり、そのことにより上記目的が達成される。
【0036】
また、好ましくは、本発明のワーク切断方法におけるワイヤ張力設定工程は、前記テスト用ワークの切断中に検出されたワイヤ撓み量の変位に基づいて前記張力制御手段を操作して前記ワイヤ張力を制御することにより、前記ワイヤ供給側のワイヤ張力を前記ワイヤ回収側のワイヤ張力に比べて低減して該ワイヤ撓み量が該ワイヤ供給側から該ワイヤ回収側に渡って一定に保持されるかまたは、該ワイヤの撓み量のバラツキを該ワイヤ供給側から該ワイヤ回収側に渡って低減するように、該ワイヤ張力を調整して該ワイヤ張力を設定する。
【0037】
本発明のワーク切断方法は、本発明の上記ワイヤソー装置を用いたワークの切断方法であって、前記溝付きローラ間に張架されたワイヤのワイヤ張力を自動的に設定するワイヤ張力設定工程と、該設定されたワイヤ張力を用いて実際のワークを切断するワーク切断工程とを有するものであり、そのことにより上記目的が達成される。
【0038】
さらに、好ましくは、本発明のワーク切断方法におけるワイヤ張力設定工程は、前記実際のワークの切断中に検出されたワイヤ撓み量の変位に基づいて、前記ワイヤ供給側のワイヤ張力を前記ワイヤ回収側のワイヤ張力に比べて低減して該ワイヤ撓み量が該ワイヤ供給側から該ワイヤ回収側に渡って一定に保持されるかまたは、該ワイヤの撓み量のバラツキを該ワイヤ供給側から該ワイヤ回収側に渡って低減するように、前記張力制御手段が自動的に前記ワイヤ張力を制御して該ワイヤ張力を設定する。
【0039】
本発明のウエハの製造方法は、本発明の上記ワーク切断方法において、前記ワークが半導体のインゴットであって、該半導体インゴットを前記ワイヤソー装置のワイヤ列で多数枚の半導体ウエハに切断するものであり、そのことにより上記目的が達成される。
【0040】
上記構成により、以下、本発明の作用を説明する。
【0041】
本発明においては、所定の間隔で配置された複数の溝付きローラの外周溝に巻き付けられた切断用の各ワイヤを走行させてワイヤの複数列でワークを切断するワイヤソー装置において、複数の溝付きローラ間に張架されたワイヤ張力のうち、ワイヤ回収側のワイヤ張力を大きくし、ワイヤ供給側のワイヤ張力を小さくした張力制御手段を有する。
【0042】
これによって、ワイヤ供給側(新線側)ワイヤの張力を低減してワイヤの撓み量バラツキをワイヤ供給側(新線側)からワイヤ回収側(旧線側)に渡って低減することにより、ワイヤの断線リスクを抑制すると共に、ワイヤ供給側(新線側)とワイヤ回収側(旧線側)でワーク切断能力を均一にでき切断厚さのバラツキを低減することが可能となる。
【発明の効果】
【0043】
以上により、本発明によれば、ワイヤ供給側(新線側)ワイヤの張力を低減してワイヤの撓み量バラツキをワイヤ供給側(新線側)からワイヤ回収側(旧線側)に渡って低減することにより、ワイヤの断線リスクを抑制すると共に、ワイヤ供給側(新線側)とワイヤ回収側(旧線側)でワーク切断能力を均一にでき切断厚さのバラツキを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の実施形態1におけるワイヤソー装置の要部構成例を模式的に示す斜視図である。
【図2】図1のワイヤソー装置の溝付ローラ間にワイヤが巻き付けられた状態を上から見た平面図である。
【図3】図1のワイヤソー装置の要部構成の一例を示す側面図である。
【図4】図1のワイヤソー装置の要部構成の一例を示す平面図である。
【図5】図4の張力制御手段の一例を示す構成図である。
【図6】図1のワイヤソー装置の要部構成の一例を示す平面図である。
【図7】図6の張力制御手段の他の一例を示す構成図である。
【図8】図1の張力制御手段の変形例を含むワイヤソー装置の要部構成例を模式的に示す側面図である。
【図9】(a)は、本発明の実施形態1におけるワイヤソー装置の変形例を模式的に示す側面図であり、(b)は、(a)のワイヤソー装置の更なる変形例を模式的に示す側面図である。
【図10】図9の張力制御手段の一例を示す構成図である。
【図11】図9の張力制御手段の他の一例を示す構成図である。
【図12】ワイヤ1本毎の張力を設定した場合のワイヤによるワークの切れ方を模式的に示すワークおよびワイヤの縦断面図である。
【図13】2段階にワイヤの張力を設定した場合のワイヤによるワークの切れ方を模式的に示すワークおよびワイヤの縦断面図である。
【図14】本発明の実施形態3におけるワイヤソー装置の要部構成例を模式的に示す側面図である。
【図15】図14のワイヤソー装置の要部構成例を模式的に示す平面図である。
【図16】図14および図15の張力制御手段の一例を示す構成図である。
【図17】特許文献1に開示されている従来のワイヤソー装置の要部構成例を模式的に示す側面図である。
【図18】図17のワイヤソー装置における3個の溝付ローラの斜視図である。
【図19】特許文献3に開示されている従来のワイヤソー装置の要部構成例を模式的に示す斜視図である。
【図20】従来のワイヤソー装置のワイヤによるワークの切れ方を模式的に示す半導体インゴットおよびワイヤの縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下に、本発明のワイヤソー装置の実施形態1、3および、これらの本発明のワイヤソー装置の実施形態1を用いたワーク切断方法の実施形態2について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図における構成部材のそれぞれの厚みや長さなどは図面作成上の観点から、図示する構成に限定されるものではない。
【0046】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1におけるワイヤソー装置の要部構成例を模式的に示す斜視図である。
【0047】
図1において、本実施形態1のワイヤソー装置1は複数(ここでは2個)の溝付ローラ2,3が所定間隔を置いて水平に配置されている。2個の溝付ローラ2,3の回転軸はその軸方向が平行でその回転軸の外側の外周溝と共に回転自在に設けられている。これらの溝付ローラ2,3はそれぞれ、その周面に所定ピッチ間隔で複数の外周溝が螺旋状に形成されている。所定の間隔で配置された複数の溝付きローラ2,3の外周溝に切断用のワイヤ4が巻き付けられている。
【0048】
溝付ローラ2,3の外周溝に巻き付けられるワイヤ4は、螺旋状に多重に巻き付けられる。溝付ローラ2,3間で巻き回数が多い場合には数千回程度にもなる。溝付ローラ2,3間に螺旋状に巻き付けられたワイヤ4の一方端が新線供給側の供給リール5に巻き付けられ、その他方端が旧線回収側の回収リール6に巻き付けられている。これらの供給リール5および回収リール6を駆動することにより、溝付ローラ2,3間に巻き付けられたワイヤ4を走行させてワイヤ4の複数列でワーク7(ここでは半導体インゴット)を多数枚同時に切断するようになっている。切断枚数は多い場合には、数千枚程度を同時に切断する。ワイヤ4は、芯線径が例えばここでは50μm〜500μmのものを用い、芯線の周囲にダイヤモンドなどの砥粒が固着されている。ワイヤ4の芯線径によって切り代が決まり例えばワイヤ4の径が50μm(0.05mm)の場合に切り代も50μm(0.05mm)程度となるのが理想的である。供給リール5には、例えば数十〜数百Kmのワイヤ4が巻かれている。
【0049】
各溝付ローラ2,3に巻き付けられるワイヤ4に、所要の張力を与えるため、溝付ローラ2と供給リール5との間に慣性駆動のガイドローラ8,9が設けられ、ガイドローラ8,9の間にダンサローラ10が設けられている。ダンサローラ10により溝付ローラ2へのワイヤ4の張力を一定に制御している。また、溝付ローラ3と回収リール6との間の慣性駆動のガイドローラ11,12が設けられ、ガイドローラ11,12の間にダンサローラ13が設けられている。ダンサローラ13により溝付ローラ3からのワイヤ4の張力を一定に制御している。要するに、ダンサローラ10,13は、ワイヤ4の向きを変えるためのガイドローラ8,9間とガイドローラ11,12間に設けられ、一定の付勢力が下方に働いてワイヤ4に一定の張力が作用するようになっている。旧線側のダンサローラ13によるワイヤ張力が最大、供給側のダンサローラ10によるワイヤ張力は回収側のワイヤ張力よりも低い値(例えば70〜95パーセント)とする。
【0050】
ガイドローラ9と供給リール5との間にはトラバーサ14が設けられ、トラバーサ14により供給リール5に整列して巻き付けられているワイヤ4が順次取り出されるように作用する。また、ガイドローラ12と回収リール6との間にもトラバーサ15が設けられ、トラバーサ15により回収リール6に整列してワイヤ4が巻き取られるように作用する。
【0051】
供給側のトラバーサ14は、供給リール5からワイヤ4を取り込むときに順次ワイヤ位置に上下移動して整列巻き付けされたワイヤ4をスムーズに取り出す機能を有している。また、回収側のトラバーサ15は、回収リール6もワイヤ4を整列巻き付けするために順次上下移動してワイヤ4をスムーズに順次巻き付ける機能を有している。
【0052】
各溝付ローラ2,3内において、ワイヤ4の張力が制御できるように溝付ローラ2,3間に螺旋状に巻き付けられた多数のワイヤ4に当接して、ワイヤ4の張力を制御する張力制御手段16が設けられている。この張力制御手段16が当接する下側のワイヤ列面は、ワーク7を切断する上側のワイヤ列面とは別のワイヤ列面である。このように、張力制御手段16をワーク切断部(半導体インゴット側)と別の場所に備えることにより、張力制御によるワイヤ高さずれがワーク切断に与える影響を小さくすることができる。ここで、ワイヤ列面とは、溝付ローラ2、3間のワイヤ列で形成される上側と下側の各平面を示している。
【0053】
張力制御手段16は、溝付きローラ2,3間に張架されたワイヤ4の張力のうち、少なくとも2段階で、ワイヤ回収側(旧線側)のワイヤ4の張力を大きくし、ワイヤ供給側(新線側)のワイヤ4の張力を小さく設定している。また、張力制御手段16は、ワイヤ回収側(旧線側)のワイヤ4の張力を最大とし、ワイヤ回収側(旧線側)からワイヤ供給側(新線側)に向けて一または複数のワイヤ毎に段階的にワイヤ4の張力を小さくした状態でワイヤ4の張力を保持している。この場合、ワイヤ供給側(新線側)のワイヤの張力を低減する。
【0054】
溝付ローラ2、3間のワイヤ4の上側ワイヤ列面はワーク7の切断面であり、この切断面を左右に横切るように加工液供給部20が設けられ、この切断面の各ワイヤ列に加工液供給部19の加工液供給口から冷却用のクーラントをかけながら、例えばワーク7をその切断面のワイヤ列面に押し付けて切断する。冷却の目的で液体のクーラントをワーク7および各ワイヤ4にかけながら多数本のワイヤ4で一括して同時にワーク7をウエハ状に切断する。
【0055】
このワイヤ列へのワーク7の押付けは、ワーク7を固定した固定部17をワーク送り機構18により昇降させて、ワーク7を溝付ローラ2、3間のワイヤ列に上から押し付ける。多数本が平行に並んだワイヤ4の列上にワーク7を押し付けることにより、厚さが均一な多数の薄いウエハ状に同時に切断する。これによって、厚さの揃ったウエハ素材を製造することができる。
【0056】
加工室には、溝付ローラ2、3、その間のワイヤ4、張力制御手段16、ワーク7、これを固定した固定部17およびワーク送り機構18が収容され、それ以外の部材は加工室の外部に配置されている。
【0057】
図2は、図1のワイヤソー装置1の溝付ローラ2,3間にワイヤ4が巻き付けられた状態を上から見た平面図である。
【0058】
図2に示すように、溝付きローラ2,3間に張架された多数のワイヤ4のうち、少なくともワイヤ回収側(旧線側)Aとワイヤ供給側(新線側)Bの2段階に分割し、張力制御手段16は、ワイヤ回収側(旧線側)Aのワイヤ4の張力を大きくし、ワイヤ供給側(新線側)Bのワイヤ4の張力を小さく設定する。ここでは、ワイヤ回収側(旧線側)Aとワイヤ供給側(新線側)Bとの比率を1対2(全体の1/3と2/3)としている。ワイヤ回収側(旧線側)Aとワイヤ供給側(新線側)Bとの比率は1対2に限らず、センターラインを境にして1対1(全体の1/2と1/2)でもよいし、それ以外の比率でもよい。また、張力制御手段16は、ワイヤ回収側(旧線側)のワイヤ4の張力を最大とし、ワイヤ回収側(旧線側)Aの端部からワイヤ供給側(新線側)に向けて一または複数のワイヤ4毎に段階的にワイヤ4の張力を小さくした状態でワイヤ4の張力を保持するようにしてもよい。要するに、張力制御手段16は、一または複数設けられ、2段階以上でワイヤ列のワイヤ本数以下の段階に張力を制御する。これによって、2段階以上でワイヤ列のワイヤ本数以下の張力グラデーションがある状態となる。
【0059】
ここで、張力制御手段16として、図3および図4を用いて、溝付ローラ2,3間の下側のワイヤ4をワイヤ4に沿った左右2箇所で押圧する連結サブローラについて説明する。
【0060】
図3は、図1のワイヤソー装置1の要部構成の一例を示す側面図である。図4は、図1のワイヤソー装置1の要部構成の一例を示す平面図である。図5は、図4の張力制御手段16の一例を示す構成図である。
【0061】
図3〜図5に示すように、張力制御手段16は、各ワイヤ4に当接する5個のサブローラ群と、5個の溝付サブローラ群を回転自在に軸支する軸部材およびこれを支える支持部材と、溝付サブローラ群を一定の圧力で各ワイヤ4に付勢する付勢部材とを有し、5個のサブローラ群を一括して各ワイヤ4に押圧してもよいが、ここでは、各ワイヤ4への張力が5段階に分割されており、平面視でワーク7と溝付きローラ2間に設けられた3個のサブローラ群を持つ連結サブローラの張力制御手段161Aと、平面視でワーク7と溝付きローラ3間に設けられた2個のサブローラ群を持つ連結サブローラの張力制御手段161Bとに分けられている。
【0062】
張力制御手段161Aは、各ワイヤ4に当接する張力付与部材としての溝付サブローラ161a、161cおよび161eと、溝付サブローラ161a、161cおよび161eを回転自在に軸支する軸部材およびこれを支えるシャフト部材161fからなる支持部材と、張力付与部材としての溝付サブローラ161a、161cおよび161eを一定の圧力で各ワイヤ4に付勢するためにシャフト部材161fに付勢するスプリング161gと、スプリング161gおよびシャフト部材161fを支持する支持部材161hとを有し、溝付サブローラ161a、161cおよび161e(3個のサブローラ群)を一括して各ワイヤ4に押圧する。これらのスプリング161gと支持部材161hにより上記付勢部材が構成されている。
【0063】
ワイヤ回収側(旧線側)からワイヤ供給側(新線側)に向けて第1〜第5の5段階にワイヤ張力を付与するワイヤ列範囲に分割されており、溝付サブローラ161aは最も旧線側の第1のワイヤ列範囲に対応し、溝付サブローラ161cは中間に位置する第3のワイヤ列範囲に対応し、溝付サブローラ161eは最もワイヤ供給側(新線側)の第5のワイヤ列範囲に対応している。溝付サブローラ161aの直径をR1、溝付サブローラ161cの直径をR3、溝付サブローラ161eの直径をR5とした場合に、R1>R3>R5とする。直径の異なる3個のサブローラ群である溝付サブローラ161a、161cおよび161eを共通な軸部材を介して一括して各ワイヤ4に押圧するように構成されている。この場合、旧線側ほど径が大きい分だけ、旧線側ほど押し込み量が大きく強い張力で各ワイヤ4に押圧することができる。
【0064】
張力制御手段161Bは、各ワイヤ4に当接する張力付与部材としての溝付サブローラ161bおよび161dと、溝付サブローラ161bおよび161dを回転自在に軸支する軸部材およびこれを支えるシャフト部材からなる支持部材と、張力付与部材としての溝付サブローラ161bおよび161dを一定の圧力で各ワイヤ4に付勢するスプリングと、このスプリングおよびシャフト部材を支持する支持部材とを有している。これらのスプリングと支持部材により上記付勢部材が構成されている。
【0065】
溝付サブローラ161bは旧線側の第2のワイヤ列範囲に対応し、溝付サブローラ161dは新線側の第4のワイヤ列範囲に対応している。溝付サブローラ161bの直径をR2、溝付サブローラ161dの直径をR4とした場合に、R2>R4であって、R1>R2>R3>R4>R5とする。直径の異なる2個のサブローラ群である溝付サブローラ161bおよび161dを共通な軸部材を介して一括して各ワイヤ4に押圧することができる。この場合、旧線側ほど径が大きい分だけ、旧線側ほど押し込み量が大きく強い張力で各ワイヤ4に押圧することができる。
【0066】
以上の場合、張力制御手段161Aおよび161Bにより、ワイヤ4に引張強度以上の張力が加えられてワイヤ4が断線したり、または、ワイヤ4の溝付ローラ2,3への巻付力が弱くなってワーク切断精度が低下したり、ワイヤ4が外周溝から外れて切断不良を起こしたりすることがないように、ワイヤ4の張力が設定される。ワイヤ4の張力はワイヤ4の破断強度(引張強度)に基づいて設定される。
【0067】
以上は、張力制御手段161Aおよび161Bにより、それぞれ一括して各ワイヤ4に押圧し、サブローラ径の違いによってワイヤ張力を異ならせた張力制御手段161Aの張力付与部材として3個の溝付サブローラ161a、161cおよび161e、張力制御手段161Bの張力付与部材として2個の溝付サブローラ161bおよび161dについて説明したが、別の事例として、図6および図7を用いて、独立してワイヤ群毎に押圧し、ローラ押し込み量(ローラ押し込み力)の違いによってワイヤ張力を異ならせた5個の張力制御手段162の張力付与部材として溝付サブローラ161a、161b、161c、161dおよび161eについて説明する。
【0068】
さらに、張力制御手段16として、溝付ローラ2,3間の下側のワイヤ4をワイヤに沿った左右2箇所で押圧する非連結サブローラについて説明する。
【0069】
図6は、図1のワイヤソー装置1の要部構成の他の一例を示す平面図である。図7は、図6の張力制御手段16の他の一例を示す構成図である。
【0070】
図6および図7に示すように、上記張力制御手段16は、各ワイヤ4への張力が5段階に分割されており、平面視でワーク7と溝付きローラ2間に設けられ、それぞれ独立して動く溝付サブローラ162a,162c,162eをそれぞれ持つ3個の張力制御手段162と、平面視でワーク7と溝付きローラ3間に設けられ、それぞれ独立して動く溝付サブローラ162bおよび162dをそれぞれ持つ2個の張力制御手段162とを有し、複数(5個)のサブローラ群をそれぞれ独立に駆動させて、分割した5個の溝付きサブローラ162a、162b、162c、162d、162eのうち、最もワイヤ回収側(溝付きサブローラ162a)の押し込み量(押し込み力)を最大としてワイヤ張力を最大とし、ワイヤ回収側(旧線側)からワイヤ供給側(新線側)に向けて押し込み量(押し込み力)を段階的に小さくしてワイヤ4の張力を順次段階的に小さくした状態でワイヤ4の張力を保持するように各ワイヤ4に押圧する。
【0071】
張力制御手段162は、各ワイヤ4に当接するサブローラ群の溝付サブローラと、溝付溝付サブローラを回転自在に軸支する軸部材およびこれを支える支持部材と、溝付サブローラ群を一定の圧力で各ワイヤ4に付勢する付勢部材とを有し、サブローラ群の溝付きサブローラ162a、162b、162c、162d、162eをそれぞれ独立して各ワイヤ4にそれぞれ押圧する。
【0072】
例えば、最もワイヤ回収側(旧線側)の張力制御手段162は、各ワイヤ4に当接する張力付与部材としての溝付サブローラ162aと、溝付サブローラ162aを回転自在に軸支する軸部材およびこれを支えるシャフト部材162fからなる支持部材と、張力付与部材としての溝付サブローラ162aを所定圧力(押し込み力)で各ワイヤ4に付勢するためにシャフト部材162fを付勢するスプリング162gと、スプリング162gおよびシャフト部材162fを支持する支持部材162hとを有している。他の張力制御手段162も同様の構成である。これらのスプリング162gと支持部材162hにより上記付勢部材が構成されている。
【0073】
5個の張力制御手段162のスプリング162gによる各ワイヤ4への押し込み力は、ワイヤ回収側(旧線側)からワイヤ供給側(新線側)に向けて段階的に小さくなっている。要するに、溝付サブローラ162aは、最もワイヤ回収側(旧線側)に位置しており、溝付サブローラ161eは最もワイヤ供給側(新線側)に位置している。溝付サブローラ162aが最も大きい押し込み量(押し込み力)で、溝付サブローラ162a〜162eにおいてワイヤ供給側(新線側)に行くほど押し込み量(押し込み力)を段階的に小さくしてワイヤ4の張力を順次小さくしている。
【0074】
以上の場合、5個の張力制御手段162により、ワイヤ4に引張強度以上の張力が加えられてワイヤ4が断線したり、または、ワイヤ4の溝付ローラ2,3への巻付力が弱くなってウエハ切断精度が低下したり、ワイヤ4が外周溝から外れて切断不良を起こしたりすることがないように、ワイヤ4の張力が設定される。ワイヤ4の張力はワイヤ4の破断強度(引張強度)に基づいて設定される。
【0075】
さらに、張力制御手段16として、溝付ローラ2,3間の下側のワイヤ4を左右2箇所で押圧する非連結サブローラの場合に、以上の同一ローラ径を持ち押し込み量を変化させた5個の張力制御手段162a〜162eに代えて、図11を用いて説明すると、5個の張力制御手段がそれぞれ、ローラ直径が段階的(階段状)または連続的(テーパ状)に変化するように構成してもよい。この場合、1個の張力制御手段においても5個の張力制御手段全体においても、ワイヤ供給側(新線側)に行くほどローラ直径が段階的(階段状)または連続的(テーパ状)に小さくなるように設定して、ワイヤ供給側ほどワイヤ4の張力を順次小さくすればよい。この場合に、5個の張力制御手段において押し込み量(押し込み力)は一定かまたはそれほど変化しないように変化幅を小さくすることができる。要するに、ローラ直径の変化と押し込み量の変化とを組み合わせることにより、ワイヤ回収側のワイヤ4の張力を大きくし、ワイヤ供給側のワイヤ4の張力を小さくすることができる。
【0076】
図11を用いて説明すると、5個の張力制御手段はそれぞれ、各ワイヤ4に当接するサブローラ群23aからなる溝付サブローラと、溝付サブローラ群23aを回転自在に軸支する軸部材およびこれを支えるシャフト部材23bからなる支持部材と、サブローラ群23aを一定の圧力で各ワイヤ4に付勢するスプリング23cと、スプリング23cおよびシャフト部材23bを支持する支持部材23dとを有し、サブローラ群23aを一括して各ワイヤ4に押圧する場合に、ワイヤ回収側(旧線側)からワイヤ供給側(新線側)に向けて溝付サブローラ毎に段階的(階段状)または連続的(テーパ状)にワイヤ張力を小さくするように構成することができる。これらのスプリング23cと支持部材23dにより付勢部材が構成されている。ここでは、サブローラ群23aは、一の溝付サブローラで一のワイヤ4を押圧して最もワイヤ回収側のワイヤ張力を最大とし、ワイヤ回収側からワイヤ供給側に向けて1本のワイヤ4毎に連続的(テーパ状)に張力を小さくした状態で張力を保持するようになっている。
【0077】
以上の5個の張力制御手段162a〜162e、張力制御手段161Aおよび161Bは、取り付け機構において、溝付サブローラの各ワイヤ4に対する押し込み量を調整可能に取り付けられている。
【0078】
以上により、本実施形態1によれば、所定の間隔で配置された複数(ここでは二つ)の溝付きローラ2,3の外周溝に巻き付けられた切断用のワイヤ4を走行させてワイヤ4の複数列でワーク7を切断するワイヤソー装置1において、溝付きローラ2,3間に張架されたワイヤ張力のうち、ワイヤ回収側のワイヤ張力を大きくし、ワイヤ供給側のワイヤ張力を小さくした張力制御手段16を有している。即ち、張力制御手段16は、ワイヤ回収側のワイヤ張力を最大とし、ワイヤ回収側からワイヤ供給側に向けて複数のワイヤ4毎に段階的に張力を小さくした状態で張力を保持する。
【0079】
これによって、ワイヤ供給側(新線側)のワイヤ4の張力をワイヤ排出側のワイヤ張力に比べて低減してワイヤ4の撓み量のバラツキを低減した状態で保持するため、ワイヤ4の断線リスクを抑制すると共に、ワイヤ供給側(新線側)とワイヤ排出側(旧線側)でワイヤ切断能力を均一にできて各ウエハの切断厚さのバラツキを低減することができる。
【0080】
ここで、一般的に、ワイヤを細線化するとワイヤ破断強度が低下し、装置内で使用できるワイヤ張力上限を下げる必要があるが、ワイヤ張力上限を下げると、ワークの加工性が低下し、ワイヤ張力の違い、すなわり、上述の各ウェハの切断厚さのバラツキがより顕著に表れてしまう。したがって、細線ワイヤ使用時(特にワイヤ4の芯線径が80μm以下のような破断強度が小さなワイヤを用いるとき)、本発明のように制御することで、従来装置に対してより大きな効果を得ることができる。
【0081】
特に、ワイヤ供給側(新線側)のワイヤ4の張力を低減するのは、ワイヤ供給側(新線側)のワイヤ4は良く切れるために切り代を広げてしまう可能性が高く、ワイヤ供給側(新線側)のワイヤ4の張力を低減することにより、ワーク切断能力を均一にできて各ウエハの切断厚さのバラツキを低減することができる。また同様に、ワイヤ回収側のワイヤ4においても良く切れなくなっているためにかえって切り代を広げてしまう可能性が高く、ワイヤ回収側(旧線側)のワイヤ4の張力を大きくすることにより、ワイヤ切断能力を均一にできて各ウエハの切断厚さのバラツキを低減することができる。要するに、ワイヤ供給側(新線側)からワイヤ回収側(旧線側)に渡ってワイヤ4にて同じように切断することができる。
【0082】
次に、前述したように、ワイヤ4に沿って左右に分けられた2個(またはそれ以上の複数個)の張力制御手段16を設けたが、これに限らず、張力制御手段16の変形例として、図9および図10を用いて、溝付ローラ2,3間の下側のワイヤ4をワイヤ4に沿って1箇所で押圧する連結サブローラについて説明する。
【0083】
ここでは、ワイヤ4に沿って後述する1個の張力制御手段22を設けた場合について図9(a)および図10〜図13を用いて詳細に説明する。
【0084】
図9(a)は、本発明の実施形態1におけるワイヤソー装置の変形例を模式的に示す側面図である。図9(a)では、図1の構成部材と同一の作用効果を奏する構成部材には同一の部材番号を付けて説明する。図10は、図9(a)の張力制御手段の一例を示す構成図である。
【0085】
図9(a)および図10において、本実施形態1の変形例であるワイヤソー装置1Aは、複数(ここでは2個)の溝付ローラ2,3が所定間隔を置いて水平に配置されている。2個の溝付ローラ2,3の回転軸は、その軸方向が平行でその回転軸の外側の外周溝と共に回転自在に設けられている。これらの溝付ローラ2,3はそれぞれ、その周面に所定ピッチ間隔(例えば0.3mm)で複数の外周溝が螺旋状に形成されている。所定の間隔で配置された2個の溝付きローラ2,3の外周溝に切断用のワイヤ4が巻き付けられている。溝付ローラ2,3間に巻き付けられたワイヤ4を走行させてワイヤ4の複数列でワーク7(ここでは半導体インゴット)を多数枚同時に切断するようになっている。
【0086】
上記実施形態1の場合と異なるのは、ワイヤ4に沿った張架方向に分けられた2個(またはそれ以上の複数個)の張力制御手段16の代わりに、ワイヤ4に沿った張架方向に設けられた1個の張力制御手段22を設けた点である。
【0087】
張力制御手段22は、平面視で溝付ローラ2とワーク7との間で、ワーク7とは反対側のワイヤ面に設けられている。張力制御手段22は、各ワイヤ4に当接する、直径が段階的に異なる6個のサブローラ群22a〜22fからなる溝付サブローラと、6個の溝付サブローラ群22a〜22fを回転自在に軸支する軸部材およびこれを支えるシャフト部材22gからなる支持部材と、6個のサブローラ群22a〜22fを一定の圧力で各ワイヤ4に付勢する付勢部材22hとを有し、6個のサブローラ群22a〜22fを一括して各ワイヤ4に押圧する。
【0088】
溝付サブローラ22a〜22fは、ワイヤ回収側(旧線側)からワイヤ供給側(新線側)に向けて複数段階の第1〜第6の6段階にワイヤ張力を付与するワイヤ列範囲に分割されており、溝付サブローラ22aが最も旧線側の第1のワイヤ列範囲に対応し、溝付サブローラ22fは最も新線側の第6のワイヤ列範囲に対応している。溝付サブローラ22aの直径をR1、溝付サブローラ22bの直径をR2、溝付サブローラ22cの直径をR3、溝付サブローラ22dの直径をR4、溝付サブローラ22eの直径をR5、溝付サブローラ22fの直径をR6とした場合に、R1>R2>R3>R4>R5>R6とする。直径の異なるサブローラ群22a〜22fを共通な軸部材を介して一括して各ワイヤ4に押圧することができる。この場合、旧線側ほどローラ直径が大きい分だけ、旧線側ほど強い張力で各ワイヤ4に押圧することができるようになっている。
【0089】
以上の場合、張力制御手段22により、ワイヤ4に引張強度以上の張力が加えられてワイヤ4が断線したり、または、ワイヤ4の溝付ローラ2,3への巻付力が弱くなってウエハ切断精度が低下したり、ワイヤ4が外周溝から外れて切断不良を起こしたりすることがないように、ワイヤ4の張力が設定される。ワイヤ4の張力はワイヤ4の破断強度(引張強度)に基づいて設定される。
【0090】
以上の張力制御手段22は、取り付け機構において、溝付サブローラの各ワイヤ4に対する押し込み量を調整可能に取り付けられている。
【0091】
以上により、本実施形態1の変形例によれば、所定の間隔で配置された複数(ここでは二つ)の溝付きローラ2,3の外周溝に巻き付けられた切断用のワイヤ4を走行させてワイヤ4の複数列でワークであるワーク7を切断するワイヤソー装置1Aにおいて、溝付きローラ2,3間に張架されたワイヤ張力のうち、ワイヤ回収側のワイヤ張力を大きくし、ワイヤ供給側のワイヤ張力を小さくした張力制御手段22を有している。即ち、張力制御手段22は、ワイヤ回収側のワイヤ張力を最大とし、ワイヤ回収側からワイヤ供給側に向けて一のワイヤ4毎に連続的に張力を小さくした状態で張力を保持する。
【0092】
これによって、ワイヤ供給側(新線側)のワイヤの張力を低減してワイヤの撓み量のバラツキをワイヤ供給側(新線側)からワイヤ回収側(旧線側)に渡って低減するかまたは一定に保持するため、ワイヤの断線リスクを抑制すると共に、ワイヤ供給側(新線側)とワイヤ回収側(旧線側)でワイヤ切断能力を均一にできて各ウエハの切断厚さのバラツキを低減することができる。
【0093】
なお、本実施形態1では、ワーク7として半導体材料の半導体インゴット(例えば単結晶または多結晶のシリコンインゴット)を多数に切断する場合について説明したが、これに限らず、サファイヤ、磁性体材料やセラミックス材料のような脆性材料をウエハ状に高精度に多数同時に切断することもできる。
【0094】
なお、本実施形態1では、一括して各ワイヤ4に押圧し、サブローラ径の違いによってワイヤ張力を異ならせた張力制御手段161Aの張力付与部材として3個の溝付サブローラ161a、161cおよび161e、張力制御手段161Bの張力付与部材として2個の溝付サブローラ161bおよび161dについて説明すると共に、別の事例として、独立してワイヤ群に押圧し、ローラ押し込み量の違いによってワイヤ張力を異ならせた5個の張力制御手段162の張力付与部材として溝付サブローラ161a、161b、161c、161dおよび161eについて説明したが、これに限らず、ワイヤ4に対して摩擦がない溝付サブローラの代わりに、図8に示すように、ワイヤ4に対して多少の摩擦がある押さえ部材191を設けてもよい。溝付サブローラのサブローラ径の違いに代えて押さえ部材191の厚みの違い(ワイヤ列面の幅方向に平面状、階段状またはテーパ状など)でワイヤ張力の違いを生じさせてもよいし、溝付サブローラの押し込み量(押し込み力)の違いに代えて押さえ部材191の押し込み量(押し込み力)の違いでワイヤ張力の違いを生じさせてもよい。さらに、厚みが連続的または段階的に異なる押さえ部材191をワイヤ列面の幅方向に端から端(ワイヤ供給側からワイヤ回収側の旧線側)まで設けてもよい。
【0095】
この場合、張力制御手段19は、各ワイヤ4に当接する張力付与部材としての押さえ部材191と、一または複数のワイヤ4に対して押さえ部材191を押し込み量を調節可能に保持する保持部材192と、張力付与部材としての押さえ部材191を、所定の押し込み量で各ワイヤ4に所定の張力になるように付勢する付勢部材である制御部193とを有している。
【0096】
なお、本実施形態1では、複数のワイヤ4のワイヤ列を幅方向に5段階のエリアに分割し5段階のエリアに対応した各溝付サブローラでワイヤ4を押圧してワイヤ回収側のワイヤ張力を最大とし、ワイヤ回収側からワイヤ供給側に向けて複数のワイヤ(5段階のエリア)毎に段階的に張力を小さくした状態で張力を保持する場合について説明したが、5段階のエリアに限らず、2〜4段階のエリアや段階のエリア、さらにはそれ以上の複数段階のエリアに分割して各エリアに対応した各溝付サブローラでワイヤ4を押圧してワイヤ回収側のエリアのワイヤ張力を最大とし、ワイヤ回収側からワイヤ供給側に向けて複数のワイヤ4(各エリア)毎に段階的に張力を小さくした状態で張力を保持するようにしてもよい。
【0097】
なお、本実施形態1では、図6の場合に、各ワイヤ4への張力が5段階に分割されており、平面視でワーク7と溝付きローラ2間に、それぞれ独立して動く溝付サブローラ162a,162c,162eをそれぞれ持つ3個の張力制御手段162が設けられ、平面視でワーク7と溝付きローラ3間に、それぞれ独立して動く溝付サブローラ162bおよび162dをそれぞれ持つ2個の張力制御手段162が設けられる場合について説明したが、これに限らず、平面視でワーク7と溝付きローラ2間に、それぞれ独立して動く溝付サブローラ162a、162b、162c、162dおよび162eをそれぞれ持つ5個の張力制御手段162が設けられてもよい。ところが、実際は、それぞれ独立して動く溝付サブローラ162a、162b、162c、162dおよび162eは、ローラ径は同一であってもワイヤ4への押し込み力(押し込み量)が異なっており、ワイヤ4の走行に同期して独立に回転する以上、隣接する溝付サブローラとの間にある程度の隙間を持たせる必要があり、ワイヤ4の間隔を例えば0.3mmとした場合に、ある程度の隙間が0.3mm以下にできれば可能である。ここでは、前後の位置に分けて3個の張力制御手段162と2個の張力制御手段162を配置している。各張力制御手段162が、隣の張力制御手段162とくっ付かないようにする必要がある。
【0098】
図6の各溝付きサブローラをそれぞれ独立して各ワイヤ4に押圧する場合の方が、図4のローラ径が異なる各溝付サブローラを共通な軸部材を介して一括して各ワイヤ4に押圧する場合に比べて汎用性がある。つまり、ローラ径はワイヤ4の張力の設定に応じて変更されることから、図4のローラ径が異なる各溝付サブローラを共通な軸部材を介して一括して各ワイヤ4に押圧する場合は、ワイヤ4の芯線径の異なるものには適用できない可能性があるが、図6の各溝付きサブローラをそれぞれ独立して各ワイヤ4に押圧する場合には押し込み量(押し込み力)の設定を、ワイヤ4の芯線径に応じて変えるだけで対応することができる。
【0099】
なお、本実施形態1の変形例では、張力制御手段22は、各ワイヤ4に当接する6個のサブローラ群22a〜22fからなる溝付サブローラと、6個の溝付サブローラ群22a〜22fを回転自在に軸支する軸部材およびこれを支えるシャフト部材22gからなる支持部材と、6個のサブローラ群22a〜22fを一定の圧力で各ワイヤ4に付勢する付勢部材とを有し、6個のサブローラ群22a〜22fを一括して各ワイヤ4に押圧する場合に、ワイヤ回収側(旧線側)からワイヤ供給側(新線側)に向けて第1〜第6の6段階にワイヤ張力を階段状に小さくするように構成したが、これに限らず、図11に示すように、張力制御手段23として、各ワイヤ4に当接するサブローラ群23aからなる溝付サブローラと、溝付サブローラ群23aを回転自在に軸支する軸部材およびこれを支えるシャフト部材23bからなる支持部材と、サブローラ群23aを一定の圧力で各ワイヤ4に付勢するスプリング23cと、スプリング23cおよびシャフト部材23bを支持する支持部材23dとを有し、サブローラ群23aを一括して各ワイヤ4に押圧する場合に、ワイヤ回収側(旧線側)からワイヤ供給側(新線側)に向けて溝付サブローラ毎に連続的(テーパ状)にワイヤ張力を小さくするように構成してもよい。これらのスプリング23cと支持部材23dにより付勢部材が構成されている。ここでは、サブローラ群23aは、一の溝付サブローラで一のワイヤ4を押圧して最もワイヤ回収側のワイヤ張力を最大とし、ワイヤ回収側からワイヤ供給側に向けて1本のワイヤ4毎に連続的(テーパ状)に張力を小さくした状態で張力を保持する。
【0100】
ワイヤ1本毎に張力を設定した場合(テーパ状)のワイヤ4によるワーク7の切れ方を模式的に示すワーク7およびワイヤ4の縦断面図を図12に示している。このように、ワイヤ供給側のワイヤ張力を低減してワイヤ4の撓み量がワイヤ供給側からワイヤ回収側に渡って一定に保持されている。
【0101】
2段階にワイヤの張力を設定した場合(階段状)のワイヤ4によるワーク7の切れ方を模式的に示すワーク7およびワイヤ4の縦断面図を図13に示している。2段階にワイヤ4の張力を設定した図13の場合よりもワイヤ1本毎に張力を設定した図12の場合の方がワイヤ供給側(新線側)とワイヤ回収側(旧線側)でワイヤ切断能力をより均一にすることができて、各ウエハの切断厚さのバラツキをより低減することができる。
【0102】
なお、本実施形態1では特に説明しなかったが、各ワイヤ4に当接する張力制御手段16の各サブローラ群は、ワイヤ回収側からワイヤ供給側に向けてワイヤ列面の端から端まで設けたが、ダンサローラ10、13でワイヤ4の張力制御ができるワイヤ回収側とワイヤ供給側のワイヤ4の各数本については、各ワイヤ4に当接する張力制御手段16の各サブローラ群を配置しなくてもよい。
【0103】
なお、本実施形態1では、2個の溝付ローラ2,3が所定間隔を置いて水平に配置されている場合について説明したが、これに限らず、図18のように三角形の頂点部分に3個の溝付ローラを設けてもよく、また、四角形の頂点部分に4個の溝付ローラを設けてもよい。
【0104】
なお、本実施形態1では、特に説明しなかったが、溝付サブローラ161a、161b、161c、161d、161e、溝付サブローラ162a、162b、162c、162d、162e、サブローラ群22a〜22f、サブローラ群23aに関して溝付きであったが、これに限らず、溝なしサブローラまたは溝なしサブローラ群であってもよい。
【0105】
(実施形態2)
本実施形態2では、上記実施形態1のワイヤソー装置1、1Aを用いてワーク7を多数のウエハに切断するワーク切断方法について説明する。
【0106】
本実施形態2のワーク切断方法は、テスト用ワーク(ワーク7と同様の半導体インゴット)の切断により溝付きローラ2.3間に張架されたワイヤ4のワイヤ張力を設定するワイヤ張力設定工程と、設定されたワイヤ張力を用いて実際のワーク7を切断するワーク切断工程とを有している。このワイヤ張力設定工程は、テスト用ワークの切断中に検出されたワイヤ撓み量の変位に基づいて張力制御手段16または22を操作してワイヤ張力を制御することにより、ワイヤ供給側のワイヤ張力を低減してワイヤ撓み量がワイヤ供給側からワイヤ回収側に渡って一定に保持されるようにワイヤ張力を調整してワイヤ張力を設定する。ここでは、ワーク7は半導体インゴットであって、半導体インゴットをワイヤソー装置1または1Aのワイヤ列で多数枚の半導体ウエハにスライス状に切断する。
【0107】
以下に、本実施形態2のワーク切断方法について更に詳細に説明する。
【0108】
まず、テスト用のワーク7での試し切断により、張力グラデーションを設定する。その後、張力グラデーションの切断条件で、実際のワーク7を切断する。ワイヤ4の張力にグラデーションを付けて、加工中のワイヤ撓み量のバラツキを低減するかまたはワイヤ撓み量を一定にする。要するに、撓み量の分布を小さくする。なお、ワイヤ張架直後は、メインローラMR(溝付きローラ2.3)全面が新線の状況であり、連続的に切断しているときと状況が異なる。
【0109】
ここで、張力グラデーションの設定方法について説明する。
(1)新線側のダンサローラ10の張力(例:10N)でMRに芯線径50μm〜500μmのワイヤ4を張架する。
(2)旧線側の張力値となるように張力制御手段を構成する全溝付サブローラを各ワイヤ4にそれぞれ当接する。
(3)テスト用のワーク7(半導体インゴット)を1本、固定部17にセットする。予めワーク7について、接着剤を介して固定部17の固定板に固定しておく。ワーク7の切断深さは例えば□125mm、□156mmである。
(4)テスト用の半導体インゴット7を1本、実際のスライス条件でスライスを実施する。
スライス条件例としては、新線供給量:5−30m/分、サイクル数:0.5−4cycle/min(なお、1cycle/minとは往路30sec/復路30secで往復走行させることを意味する)、インゴット送り速度:0.1−1.0mm/min、ワイヤ走行速度:500−1200m/minである。
(5)ワーク7を例えば半分以上切断したところで、スライスを中断し、ワイヤ4の撓み量を実測する。
(6)新線側のサブローラ当接量を減少させることにより、MR張力グラデーションを付与し、ワイヤ4の撓み量分布を減少させる。
(7)テスト用のワーク7のスライスを再開し、張力グラデーション付与の妥当性を確認する。
【0110】
以上によって、張力グラデーションを設定することができる。
【0111】
次に、設定された張力グラデーションを用いて実際のワーク7を切断するワーク切断工程を実施する。
(1)新線側のダンサローラ10の張力(例:10N)でMRに芯線径50μm〜500μmのワイヤ4を張架する。
(2)旧線側の張力値となるように張力制御手段を構成する全溝付サブローラを各ワイヤ4にそれぞれ当接する。
(3)実際に切断するワーク7を1本、固定部17にセットする。予めワーク7について、接着剤を介して固定部17の固定板に固定しておく。ワーク7の切断深さは例えば□125mm、□156mmである。
(4)実際に切断するワークを1本、実際のスライス条件でスライスを実施する。
スライス条件例としては、新線供給量:5−30m/分、サイクル数:0.5−4cycle/min(なお、1cycle/minとは往路30sec/復路30secで往復走行させることを意味する)、インゴット送り速度:0.1−1.0mm/min、ワイヤ走行速度:500−1200m/minである。
【0112】
これによって、本実施形態2によれば、ワイヤ供給側(新線側)のワイヤの張力を低減してワイヤの撓み量のバラツキをワイヤ供給側(新線側)からワイヤ回収側(旧線側)に渡って低減するかまたは一定に保持するため、ワイヤの断線リスクを抑制すると共に、ワイヤ供給側(新線側)とワイヤ回収側(旧線側)でワイヤ切断能力を均一にできて各ウエハの切断厚さのバラツキを低減することができる。
【0113】
なお、上記実施形態1の変形例であるワイヤソー装置1Aの更なる変形例として、ワーク送り機構18を制御するための撓み量センサ21が設けられていてもよい。
【0114】
図9(b)は、図9(a)のワイヤソー装置1Aの更なる変形例を模式的に示す側面図である。図9(b)では、図1および図9(a)の構成部材と同一の作用効果を奏する構成部材には同一の部材番号を付けて説明する。
【0115】
図9(b)に示すように、図9(a)のワイヤソー装置1Aの場合と異なるのは、ワーク送り機構18を制御するための撓み量センサ21が設けられた点である。
【0116】
撓み量センサ21は、ワーク7の切断領域のワイヤ4の撓み量を検出し、検出した撓み量が所定値以下になるように、ワーク7を上部で固定してワーク7を下方に移動させて各ワイヤ4に押し付けるワーク送り機構18を制御する。この撓み量センサ21で検出したワイヤ撓み量に応じてワーク送り機構18のワーク送り量が制御される。
【0117】
なお、この撓み量センサ21を用い、ワイヤ4の撓み量に応じてワーク送り量を制御する構成は、図9(a)の構成への適用に限らず、ワイヤに沿った左右2箇所で押圧する上記実施形態1の連結サブローラや非連結サブローラの他、図8の押さえ部材191および溝なしサブローラまたは溝なしサブローラ群など、上記実施形態1で記載した全てのサブローラ押圧構成に適用することができる。
【0118】
(実施形態3)
前述したように、撓み量センサ21を用い、ワイヤ4の撓み量に応じてワーク送り量を制御する場合に対して、本実施形態3では、撓み量センサを用い、ワイヤ4の撓み量に応じてサブローラ押圧量を調整する場合について説明する。
【0119】
図14は、本発明の実施形態3におけるワイヤソー装置の要部構成例を模式的に示す側面図である。図15は、図14のワイヤソー装置の要部構成例を模式的に示す平面図である。図14および図15では、図1の構成部材と同一の作用効果を奏する構成部材には同一の部材番号を付けて説明する。図16は、図14および図15の張力制御手段の一例を示す構成図である。
【0120】
図14〜図16において、本実施形態3のワイヤソー装置1Bは複数(ここでは2個)の溝付ローラ2,3が所定間隔を置いて水平に配置されている。2個の溝付ローラ2,3の回転軸は、その軸方向が平行でその回転軸の外側の外周溝と共に回転自在に設けられている。これらの溝付ローラ2,3はそれぞれ、その周面に所定ピッチ間隔(例えば0.3mm)で複数の外周溝が螺旋状に形成されている。所定の間隔で配置された2個の溝付きローラ2,3の外周溝に切断用のワイヤ4が巻き付けられている。溝付ローラ2,3間に巻き付けられたワイヤ4を走行させてワイヤ4の複数列でワーク7(ここでは半導体インゴット)を多数枚同時に切断するようになっている。
【0121】
上記実施形態1、2の場合と異なるのは、各ワイヤ4の撓み量を検出する撓み量検出手段としての撓み量センサ24と、張力制御手段16,22の代わりに、前後に設けられ、撓み量センサ24で検出した各ワイヤ4の撓み量に基づいてワイヤ4の張力を制御する張力制御手段25とを設けた点である。
【0122】
撓み量センサ24は、ワーク7のへワイヤ4の供給側と回収側にそれぞれ設けられると共に、張力制御手段25が配置されているワイヤ列面毎に設けられている。撓み量センサ24は、ワーク7の切断領域のワイヤ4の撓み量を検出し、検出した撓み量が所定値以下になるように、ワーク7を上部で固定してワーク7を下方に移動させて各ワイヤ4に押し付けるワーク送り機構18(ここでは図示せず)を制御すると共に、撓み量センサ24で検出した各ワイヤ4の撓み量の検出値を、対応する張力制御手段25にフィードバックする。
【0123】
張力制御手段25は、ここでは合計5個、平面視で溝付ローラ2とワーク7との間および平面視で溝付ローラ3とワーク7との間で、ワーク7を切断する上側のワイヤ列面とは反対側の下側のワイヤ列面に設けられている。張力制御手段25はそれぞれ、各ワイヤ4に当接する、直径が同一のサブローラ群からなる溝付サブローラ25aと、溝付サブローラ群を回転自在に軸支する軸部材およびこれを支えるシャフト部材25bからなる支持部材と、張力付与部材としての溝付サブローラ25aを所定圧力(押し込み力)で各ワイヤ4に付勢するためにシャフト部材25bを付勢するスプリング25cと、スプリング25cおよびシャフト部材25bを支持する支持部材25dと、スプリング25cを介して溝付サブローラ25aを押し込む押し込み力(押し込み量)を検出する圧力センサ25eと、撓み量センサ24で検出した各ワイヤ4の撓み量の検出値に応じた所定加圧値を圧力センサ25eが検出するまで圧力センサ25eを介してスプリング25cを加圧する加圧ステージ25fとを有し、サブローラ群22aを他のサブローラ群22aと独立的に溝付サブローラ25aによって各ワイヤ4に押圧する。これらのスプリング25c、支持部材25d、圧力センサ25eおよび加圧ステージ25fにより加圧制御部25gが構成されている。この場合、撓み量センサ24で検出した各ワイヤ4の撓み量の検出値に応じた所定加圧値は、ワイヤ供給側のワイヤ張力を低減してワイヤ4の撓み量がワイヤ供給側からワイヤ回収側に渡って一定に保持されるように設定される。
【0124】
複数(ここでは5個)のサブローラ群の各溝付サブローラ25aは、ワイヤ回収側(旧線側)からワイヤ供給側(新線側)に向けて第1〜第5の5段階にワイヤ張力を付与するワイヤ列面範囲に分割されており、複数の溝付きローラ2,3間に張架されたワイヤ張力のうち、ワイヤ回収側のワイヤ張力を大きくし、ワイヤ供給側のワイヤ張力を小さくしている。
【0125】
即ち、張力制御手段25のサブローラ制御部は、撓み量センサ24で検出した各ワイヤ4の撓み量の検出値をモニタリングする張力モニタリング手段(ロードセル;ここでは図示せず)と、モニタリングした各ワイヤ4の撓み量の検出値に応じて、ワイヤ供給側のワイヤ張力を低減してワイヤ4の撓み量がワイヤ供給側からワイヤ回収側に渡って一定に保持されるように、加圧する加圧ステージ25fとを有し、ワイヤ回収側のワイヤ張力を最大とし、ワイヤ回収側からワイヤ供給側に向けて複数のワイヤ毎に段階的に張力を小さくした状態で張力を保持するようになっている。加圧制御部25gを構成する加圧ステージ25fの内部に、図示しない張力モニタリング手段が設けられていてもよい。
【0126】
以上の場合、張力制御手段25により、ワイヤ4に引張強度以上の張力が加えられてワイヤ4が断線したり、または、ワイヤ4の溝付ローラ2,3への巻付力が弱くなってウエハ切断精度が低下したり、ワイヤ4が外周溝から外れて切断不良を起こしたりすることがないように、ワイヤ4の張力が設定される。ワイヤ4の張力はワイヤ4の破断強度(引張強度)に基づいて設定される。
【0127】
上記構成により、まず、全ての溝付サブローラ25aを旧線側張力値にてワイヤ列に当接し、所定の切断条件でワーク7の切断を開始する。
【0128】
次に、張力制御手段25の加圧制御部25g内の張力モニタリング手段により、張力制御手段25に対応した撓み量センサ24で検出されたワーク7の切断領域のワイヤ4の撓み量がモニタリングされる。このモニタリングした各ワイヤ4の撓み量の検出値に応じて、ワイヤ供給側のワイヤ張力を低減してワイヤ4の撓み量がワイヤ供給側からワイヤ回収側に渡って一定に保持されるように、加圧ステージ25fが溝付サブローラ25aをワイヤ4側に押し込むように加圧する。
【0129】
これを繰り返して、ワイヤ回収側のワイヤ張力を最大とし、ワイヤ回収側からワイヤ供給側に向けて複数のワイヤ毎に段階的に張力を小さくした状態で張力が保持されて、ワイヤ供給側のワイヤ張力を低減してワイヤ4の撓み量がワイヤ供給側からワイヤ回収側に渡って一定に保持される。
【0130】
したがって、本実施形態3によれば、所定の間隔で配置された複数(ここでは二つ)の溝付きローラ2,3の外周溝に巻き付けられた切断用のワイヤ4を走行させてワイヤ4の複数列でワーク7を切断するワイヤソー装置1Bにおいて、溝付きローラ2,3間に張架されたワイヤ張力のうち、ワイヤ回収側のワイヤ張力を大きくし、ワイヤ供給側のワイヤ張力を小さくした張力制御手段25を有している。即ち、張力制御手段25は、ワイヤ回収側のワイヤ張力を最大とし、ワイヤ回収側からワイヤ供給側に向けて一のワイヤ4毎に連続的に張力を小さくした状態で張力を保持する。この場合に、溝付きローラ2,3間に、ワイヤ4の撓み量を検出する撓み量検出手段としての撓み量センサ24が設けられ、張力制御手段25は、ワイヤ4の撓み量がワイヤ供給側からワイヤ回収側に渡って一定に保持されるように撓み量センサ24で検出した撓み量に応じてワイヤ4を加圧する加圧制御部25gが設けられている。
【0131】
本実施形態3のワーク切断方法は、溝付きローラ2,3間に張架されたワイヤ4のワイヤ張力を自動的に設定するワイヤ張力設定工程と、設定されたワイヤ張力を用いて実際のワーク7(ここでは半導体インゴット)を切断するワーク切断工程とを有している。このワイヤ張力設定工程は、実際のワーク切断中に検出されたワイヤ撓み量の変位に基づいて、ワイヤ供給側のワイヤ張力を低減してワイヤ撓み量がワイヤ供給側からワイヤ回収側に渡って一定に保持されるように、張力制御手段25が自動的にワイヤ張力を制御してワイヤ張力を設定する。
【0132】
このように、試し切断をしてワイヤ張力を調整する必要はなく、直接、ワイヤ供給側(新線側)のワイヤの張力を低減してワイヤ4の撓み量をワイヤ供給側(新線側)からワイヤ回収側(旧線側)に渡って一定に保持して、ワイヤの断線リスクを抑制すると共に、ワイヤ供給側(新線側)とワイヤ回収側(旧線側)でワーク切断能力を均一にできて各ウエハの切断厚さのバラツキを低減することができる。
【0133】
なお、本実施形態3では、各ワイヤ4の撓み量を検出する撓み量検出手段としての撓み量センサ24と、上記実施形態1の張力制御手段16,22の代わりに、ワイヤ4に沿った左右2箇所に設けられ、撓み量センサ24で検出した各ワイヤ4の撓み量に基づいてワイヤ4の張力を制御する張力制御手段25とを設けた場合について説明したが、これに限らず、各ワイヤ4の撓み量を検出する撓み量検出手段としての撓み量センサ24と、上記実施形態1の張力制御手段16または/および22とを用いてもよい。この場合にも、張力制御手段25のサブローラ制御部と同様のサブローラ制御部が必要である。このサブローラ制御部は、撓み量センサ24で検出した各ワイヤ4の撓み量の検出値をモニタリングする張力モニタリング手段(ロードセル;ここでは図示せず)と、モニタリングした各ワイヤ4の撓み量の検出値に応じて、ワイヤ供給側のワイヤ張力を低減してワイヤ4の撓み量がワイヤ供給側からワイヤ回収側に渡って一定に保持されるように、加圧する加圧ステージ25fとを有し、ワイヤ回収側のワイヤ張力を最大とし、ワイヤ回収側からワイヤ供給側に向けて複数のワイヤ毎に段階的に張力を小さくした状態で張力を保持する。
【0134】
要するに、この撓み量センサ24を用い、ワイヤ4の撓み量に応じてワイヤ4の張力を制御する張力制御手段25は、本実施形態3の構成に限らず、ワイヤ4に沿った左右2箇所で押圧する上記実施形態1の連結サブローラや非連結サブローラの他、図8の押さえ部材191および溝なしサブローラまたは溝なしサブローラ群など、上記実施形態1で記載した全てのサブローラ押圧構成に適用することができる。
【0135】
なお、本実施形態3では、撓み量センサ21を用い、ワイヤ4の撓み量に応じてワーク送り量を制御する場合とは別に、撓み量センサ24を用い、ワイヤ4の撓み量に応じてワイヤ4の張力を制御する張力制御手段25を用いてサブローラ押圧量を調整する場合について説明したが、これに限らず、撓み量センサ21を用い、ワイヤ4の撓み量に応じてワーク送り量を制御する場合に加えて、撓み量センサ24を用い、ワイヤ4の撓み量に応じてワイヤ4の張力を制御する張力制御手段25を用いてサブローラ押圧量を調整するようにしてもよい。撓み量センサ24は撓み量センサ21と別々でもよいし、撓み量センサ24は撓み量センサ21を兼ねてもよい。
【0136】
なお、本実施形態3では、溝付サブローラ161a、161b、161c、161d、161e、溝付サブローラ162a、162b、162c、162d、162e、サブローラ群22a〜22f、サブローラ群23a、溝付サブローラ25aに関して溝付きであったが、これに限らず、溝なしサブローラまたは溝なしサブローラ群であってもよい。
【0137】
なお、本実施形態3では、撓み量センサ24で検出した撓み量に応じてワイヤ4を加圧する加圧制御部25gを設けたことによって、試し切断をしてワイヤ張力を調整する必要はなかったが、上記実施形態1では、試し切断をしてワイヤ張力を調整する必要がある。
【0138】
なお、以上のように、本発明の好ましい実施形態1〜3を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、この実施形態1〜3に限定して解釈されるべきものではない。本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本発明の具体的な好ましい実施形態1〜3の記載から、本発明の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0139】
本発明は、所定の間隔で配置された複数の溝付きローラの外周に通した切断用ワイヤを走行させることによって、切断用ワイヤでワークを切断するワイヤソー装置およびこれを用いたワーク切断方法、ウエハの製造方法の分野において、ワイヤ供給側(新線側)ワイヤの張力を低減してワイヤの撓み量をワイヤ供給側(新線側)からワイヤ回収側(旧線側)に渡って一定に保持することにより、ワイヤの断線リスクを抑制すると共に、ワイヤ供給側(新線側)とワイヤ回収側(旧線側)でワーク切断能力を均一にでき切断厚さのバラツキを低減することができる。
【符号の説明】
【0140】
1、1A、1B ワイヤソー装置
2,3 溝付ローラ
4 ワイヤ
5 供給リール(新線ボビン)
6 回収リール(旧線ボビン)
7 ワーク(半導体インゴット)
8、9、11、12 ガイドローラ
10、13 ダンサローラ
14、15 トラバーサ
16、161A、161B、162 張力制御手段
161a、161b、161c、161d、161e 溝付サブローラ
161f シャフト部材
161g スプリング
161h 支持部材
162a、162b、162c、162d、162e 溝付サブローラ
162f シャフト部材
162g スプリング
162h 支持部材
17 固定部
18 ワーク送り機構
19 張力制御手段
191 押さえ部材
192 保持部材
193 制御部
20 加工液供給部
21 撓み量センサ
22、23 張力制御手段
22a〜22f サブローラ群
22g シャフト部材
22h 付勢部材
23a サブローラ群
23b シャフト部材
23c スプリング
23d 支持部材
24 撓み量センサ
25 張力制御手段
25a 溝付サブローラ
25b シャフト部材
25c スプリング
25d 支持部材
25e 圧力センサ
25f 加圧ステージ
25g 加圧制御部
A ワイヤ回収側(旧線側)
B ワイヤ供給側(新線側)
R1〜R6 溝付サブローラの直径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の間隔で配置された複数の溝付きローラの外周溝に巻き付けられた切断用のワイヤを走行させて該ワイヤの複数列でワークを切断するワイヤソー装置において、
該複数の溝付きローラ間に張架されたワイヤ張力のうち、ワイヤ回収側のワイヤ張力を大きくし、ワイヤ供給側のワイヤ張力を小さくした張力制御手段を有するワイヤソー装置。
【請求項2】
前記張力制御手段は、前記ワイヤ回収側のワイヤ張力を最大とし、該ワイヤ回収側から前記ワイヤ供給側に向けて一または複数のワイヤ毎に段階的に張力を小さくした状態で張力を保持する請求項1に記載のワイヤソー装置。
【請求項3】
前記張力制御手段は、前記ワイヤ供給側のワイヤ張力を前記ワイヤ回収側のワイヤ張力に比べて低減して前記ワイヤの撓み量を該ワイヤ供給側から該ワイヤ回収側に渡って一定にしているかまたは、該ワイヤの撓み量のバラツキを該ワイヤ供給側から該ワイヤ回収側に渡って低減している請求項1または2に記載のワイヤソー装置。
【請求項4】
前記ワークを切断するワイヤ列面と、前記張力制御手段が当接するワイヤ列面とがそれぞれ別のワイヤ列面である請求項1または2に記載のワイヤソー装置。
【請求項5】
前記張力制御手段は、一または複数設けられ、2段階以上で前記ワイヤの複数列におけるワイヤ本数分の複数段階以下に張力を制御する請求項1または2に記載のワイヤソー装置。
【請求項6】
前記張力制御手段は、前記ワイヤ回収側から前記ワイヤ供給側に向けて複数段階に前記ワイヤ張力が設定されている請求項1に記載のワイヤソー装置。
【請求項7】
前記張力制御手段は、前記各ワイヤに当接する複数のサブローラ群と、該複数のサブローラ群を回転自在に軸支する軸部材およびこれを支える支持部材と、該サブローラ群を一定の圧力で該ワイヤのそれぞれに付勢する付勢部材とを一または複数セット有し、該複数のサブローラ群を一括して該ワイヤのそれぞれに押圧する請求項6に記載のワイヤソー装置。
【請求項8】
前記ワイヤ回収側から前記ワイヤ供給側に向けて前記サブローラ群毎または該サブローラ群の各サブローラ毎に段階的にサブローラの直径が小さくなるように構成されている請求項7に記載のワイヤソー装置。
【請求項9】
前記張力制御手段は、前記ワイヤのそれぞれに当接するサブローラ群と、該サブローラ群を回転自在に軸支する軸部材およびこれを支える支持部材と、該サブローラ群を一定の圧力で該ワイヤのそれぞれに付勢する付勢部材とを複数セット有し、該複数セットのサブローラ群のそれぞれを独立して該ワイヤのそれぞれに押圧する請求項6に記載のワイヤソー装置。
【請求項10】
前記ワイヤ回収側から前記ワイヤ供給側に向けて前記サブローラ群毎に段階的にサブローラ群の前記ワイヤのそれぞれへの押し込み力または押し込み量が小さくなるように構成されている請求項9に記載のワイヤソー装置。
【請求項11】
前記ワイヤ回収側から前記ワイヤ供給側に向けて前記サブローラ群毎に段階的にワイヤ張力を小さくするように構成されている請求項7または9に記載のワイヤソー装置。
【請求項12】
前記ワイヤ回収側から前記ワイヤ供給側に向けて前記サブローラ群の各サブローラ毎に段階的にワイヤ張力を小さくするように構成されている請求項7に記載のワイヤソー装置。
【請求項13】
前記溝付きローラ間に、前記ワイヤの撓み量を検出する撓み量検出手段を備え、前記張力制御手段は、該ワイヤの撓み量がワイヤ供給側からワイヤ回収側に渡って一定に保持されるかまたは、該ワイヤの撓み量のバラツキを該ワイヤ供給側から該ワイヤ回収側に渡って低減するように、該撓み量検出手段で検出した該撓み量に応じて該ワイヤのそれぞれを加圧する加圧制御部が設けられている請求項6に記載のワイヤソー装置。
【請求項14】
請求項1〜12に記載のワイヤソー装置を用いたワークの切断方法であって、
テスト用ワークの切断により前記溝付きローラ間に張架されたワイヤのワイヤ張力を設定するワイヤ張力設定工程と、該設定されたワイヤ張力を用いて実際のワークを切断するワーク切断工程とを有するワーク切断方法。
【請求項15】
請求項14に記載のワーク切断方法であって、前記ワイヤ張力設定工程は、前記テスト用ワークの切断中に検出されたワイヤ撓み量の変位に基づいて前記張力制御手段を操作して前記ワイヤ張力を制御することにより、前記ワイヤ供給側のワイヤ張力を前記ワイヤ回収側のワイヤ張力に比べて低減して該ワイヤ撓み量が該ワイヤ供給側から該ワイヤ回収側に渡って一定に保持されるかまたは、該ワイヤ撓み量のバラツキを該ワイヤ供給側から該ワイヤ回収側に渡って低減するように、該ワイヤ張力を調整して該ワイヤ張力を設定するワーク切断方法。
【請求項16】
請求項13に記載のワイヤソー装置を用いたワークの切断方法であって、
前記溝付きローラ間に張架されたワイヤのワイヤ張力を自動的に設定するワイヤ張力設定工程と、該設定されたワイヤ張力を用いて実際のワークを切断するワーク切断工程とを有するワーク切断方法。
【請求項17】
請求項16に記載のワーク切断方法であって、前記ワイヤ張力設定工程は、前記実際のワークの切断中に検出されたワイヤ撓み量の変位に基づいて、前記ワイヤ供給側のワイヤ張力を前記ワイヤ回収側のワイヤ張力に比べて低減して該ワイヤ撓み量が該ワイヤ供給側から該ワイヤ回収側に渡って一定に保持されるかまたは、該ワイヤ撓み量のバラツキを該ワイヤ供給側から該ワイヤ回収側に渡って低減するように、前記張力制御手段が自動的に前記ワイヤ張力を制御して該ワイヤ張力を設定するワーク切断方法。
【請求項18】
請求項14または17に記載のワーク切断方法であって、前記ワーク切断工程は、前記ワイヤ撓み量に応じてワーク送り機構のワーク送り量を制御するワーク切断方法。
【請求項19】
請求項14〜18のいずれかに記載のワーク切断方法において、前記ワークが半導体のインゴットであって、該半導体インゴットを前記ワイヤソー装置のワイヤ列で多数枚のウエハ状に切断するウエハの製造方法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図1】
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【図17】
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【公開番号】特開2012−250328(P2012−250328A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−125818(P2011−125818)
【出願日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】