説明

ワイヤソー装置およびワーク切断方法、ウエハの製造方法

【課題】ワイヤ走行時のワイヤの捩れによるワイヤ断線を防止してワークの歩留まりを向上させると共に、捩れに弱い細い高張力ワイヤを安定的に用いて精度のよい加工をする。
【解決手段】ワイヤ4の捩れをモニタリングし、モニタリングしたワイヤの捩れ状態に応じてワイヤ4の複数列を溝付きローラ2,3の軸方向に移動させてワイヤ4の捩れを緩和させるワイヤ捩れ緩和手段19を有している。このワイヤ捩れ緩和手段19は、2箇所で同一ワイヤ位置の側面映像を撮影するワイヤ側面撮影手段191,192と、ワイヤ側面撮影手段191,192で撮影した二つのワイヤ側面映像に基づいてワイヤ4の捩れ状態を検出するワイヤ捩れ検出手段193と、ワイヤの捩れ状態に応じてワイヤ列を溝付きローラ2,3の軸方向に移動調整してワイヤ4の捩れを緩和するワイヤ列調整手段194とを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の間隔で配置された複数の溝付きローラの外周に通したスライス用ワイヤを走行させることによって、スライス用ワイヤでワークを切断するワイヤソー装置およびこれを用いたワーク切断方法、ウエハの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の従来のワイヤソー装置は、メインローラに掛け渡されたワイヤの張力を制御しながらワークをスライスしてウエハ素材を作製している。従来のワイヤソー装置について特許文献1、2に開示されている。
【0003】
特許文献1には、複数個のガイドローラのうちの少なくとも1組のガイドローラの回転軸が直交するように配置され、ワイヤが回転軸に対して斜行するように配置することによってワイヤに積極的に捩れを与えることが記載されている。直交配置されたガイドローラをワイヤが走行する際に、ワイヤがガイドローラのV溝の斜面を転がるように走行してワイヤに捩れが与えられる。この捩れによって、インゴットをスライス状に切断する際に、インゴットと接触するワイヤ面が常に変化するため、ワイヤが磨耗した場合であってもワイヤの外周面全体が均一に磨耗する。この結果、切断するインゴット内でワイヤが蛇行することもなくなり、ウエハの切断精度が向上する。
【0004】
特許文献2には、砥粒と走行するワイヤによってワークを切断するワイヤソー装置であって、ワイヤが多条に配設され、複数の走行列を規定する複数の溝をそれぞれが有する第1のローラ対と、第1のローラ対にワイヤを供給し、かつ第1のローラ対からワイヤを回収する少なくとも一つのリールボビンとを備え、ワイヤは、少なくとも一つのリールボビンから第1のローラ対に供給され、少なくとも一つのリールボビンに回収されるまでの間に、ワイヤに相反方向の念回を与えることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−348029号公報
【特許文献2】特開2004−314214号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示されている従来のワイヤソー装置では、ワイヤに積極的に捩れを与えて、切断するインゴット内でワイヤが蛇行するのを防止して、ウエハの切断精度を向上させている。これはワイヤに積極的に捩れを与える発明であって、ワイヤに発生した捩れを解消するものではない。
【0007】
特許文献2に開示されている従来のワイヤソー装置では、リールボビンから第1のローラ対に供給され、リールボビンに回収されるまでの間に、ワイヤに相反方向の念回を与えてこれを元の溝付きローラに戻してやることによって、元の溝付きローラで発生したワイヤの捩れを解消することが開示されている。
【0008】
一方、ワイヤの断線は、ワイヤ張力がワイヤの破断強度を超えた場合とワイヤの捩れ強度を超えたときに発生する。ワークの切断中にワイヤが断線すると、ワイヤを再び繋いでワークの切断を続行しても、ワークの切り口に段差ができてワークごと廃却する必要が生じる。これによって、ワークの歩留まりが悪化する。
【0009】
ワイヤ張力はダンサローラなどでモニタし、これをダンサローラなどで制御することができるものの、特許文献2では、ワイヤの捩れを解消するために一旦、溝付きローラの中間点でワイヤを回収し、ワイヤの捩れを直して元に戻すというワイヤ念回機構が別途必要である。しかも、特許文献2では、溝付きローラで徐々に捩れたワイヤをその中間点でワイヤの捩れを直しても、ワイヤの捩れを直してワイヤを戻した溝付きローラの中間点から再びワイヤが捩れる可能性が高く、溝付きローラの全ワイヤ列でのワイヤの全体的な捩れ緩和にはなっておらず、その中間点から再びワイヤが捩れてワイヤが断線する虞もある。また、ワイヤに所定方向に極端に捩れが発生している場合や、ワイヤに所定方向とは反対方向にワイヤが捩れている場合もあることから、これを検出するためには、ワイヤの捩れをモニタする必要があるが、ワイヤの捩れをモニタすることに関しては特許文献1、2共に記載はなく、特許文献1、2では、ワイヤの捩れをモニタし、モニタしたワイヤの捩れの程度や捩れ方向に応じてワイヤの捩れを全ワイヤ列で全体的に緩和制御することは全くできないという問題があった。
【0010】
本発明は、上記従来の問題を解決するもので、ワイヤの捩れをモニタし、このモニタしたワイヤの捩れの程度および捩れ方向に応じてワイヤの捩れを緩和制御することにより、ワイヤ走行時のワイヤの捩れによるワイヤ断線を防止してワークの歩留まりを向上させると共に、捩れに弱い細い高張力ワイヤを安定的に用いて精度のよい加工をすることができるワイヤソー装置およびこれを用いたワーク切断方法、ウエハの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のワイヤソー装置は、所定の間隔で配置された少なくとも二つの溝付きローラの外周溝に巻き付けられたスライス用のワイヤを走行させて該ワイヤの複数列でワークを切断するワイヤソー装置において、該ワイヤの捩れをモニタリングし、モニタリングしたワイヤの捩れ状態を緩和させるように該ワイヤの複数列の一部または全体を該溝付きローラの軸方向に移動させるワイヤ捩れ緩和手段を有するものであり、そのことにより上記目的が達成される。
【0012】
また、好ましくは、本発明のワイヤソー装置におけるワイヤ捩れ緩和手段は、少なくとも2箇所で同一ワイヤ位置の該ワイヤの側面映像を撮影するワイヤ側面撮影手段と、該ワイヤ側面撮影手段で撮影した少なくとも二つのワイヤ側面映像に基づいて該ワイヤの捩れ状態を検出するワイヤ捩れ検出手段と、該ワイヤの捩れ状態に応じてワイヤ列の一部または全体を該溝付きローラの軸方向に移動調整して該ワイヤの捩れを緩和させるワイヤ列調整手段とを有する。
【0013】
さらに、好ましくは、本発明のワイヤソー装置におけるワイヤ列調整手段は、前記少なくとも二つの溝付きローラの溝位置が1対1対応する位置に、前記ワイヤの捩れ状態に応じて該溝付きローラをその軸方向に移動調整する。
【0014】
さらに、好ましくは、本発明のワイヤソー装置におけるワイヤ列調整手段は、前記ワイヤの捩れ状態に応じて、前記二つの溝付きローラ間に配設され、前記ワイヤの複数列の各ワイヤに当接するサブローラの一部または全部をその軸方向に移動調整する。
【0015】
さらに、好ましくは、本発明のワイヤソー装置において、前記ワイヤの複数列を複数に分割し、分割した各ワイヤ列にそれぞれ対応するように各サブローラがそれぞれ配設されており、前記ワイヤの捩れ状態に応じて、複数のサブローラのうちの少なくとも一のサブローラをその軸方向に移動調整する。
【0016】
さらに、好ましくは、本発明のワイヤソー装置におけるワイヤ捩れ検出手段は、前記ワイヤ側面撮影手段による撮影点間の前記ワイヤの捩れ方向の位置変化から該ワイヤの捩れ角度をワイヤ捩れ情報として算出する。
【0017】
さらに、好ましくは、本発明のワイヤソー装置におけるワイヤの捩れ方向の位置変化は、前記ワイヤに固定された固定砥粒の特徴ある位置関係の位置変化を画像処理により特定し、特定した当該位置変化から該ワイヤの捩れ角度を算出する。
【0018】
さらに、好ましくは、本発明のワイヤソー装置におけるワイヤ側面撮影手段は、前記二つの溝付きローラ間の少なくとも2箇所の位置に少なくとも二つ設けられている。
【0019】
さらに、好ましくは、本発明のワイヤソー装置におけるワイヤ側面撮影手段は、前記溝付きローラに前記ワイヤを供給する第1プーリの上流位置と、該溝付きローラから該ワイヤを回収する第2プーリの下流位置のうちのいずれかに更に設けられている。
【0020】
さらに、好ましくは、本発明のワイヤソー装置におけるワイヤ側面撮影手段は、前記溝付きローラに前記ワイヤを供給する第1プーリの上流側から前記二つの溝付きローラ間と、該溝付きローラから該ワイヤを回収する第2プーリの下流側から該二つの溝付きローラ間とのいずれかの少なくとも2箇所の位置に少なくとも二つ設けられている。
【0021】
さらに、好ましくは、本発明のワイヤソー装置におけるワイヤの捩れ状態は、該ワイヤの捩れ程度および捩れ方向を示す該ワイヤの捩れ角度である。
【0022】
さらに、好ましくは、本発明のワイヤソー装置におけるスライス用のワイヤは、芯線の外周に砥粒がランダムに固定された固定砥粒ワイヤである。
【0023】
さらに、好ましくは、本発明のワイヤソー装置において、所定の間隔に配置された少なくとも二つの溝付きローラの外周溝に巻き付けられたスライス用の固定砥粒ワイヤのワイヤ列両端の張力制御を行う各ダンサローラをそれぞれ介して該固定砥粒ワイヤの各一端側がそれぞれ各トラバーサにより供給側ボビンおよび回収側ボビンにそれぞれ巻き付けられており、該固定砥粒ワイヤを往復走行させて、該供給側ボビンから該回収側ボビンへと該ワイヤを巻き取りながら前記ワークを切断する。
【0024】
本発明のワーク切断方法は、本発明の上記ワイヤソー装置を用いたワークの切断方法であって、前記ワークを切断する前のドライラン時または該ワークの切断時に、前記ワイヤ捩れ緩和手段が、前記ワイヤの捩れ状態をモニタリングし、モニタリングしたワイヤの捩れ状態に応じて該ワイヤの複数列の一部または全体を該溝付きローラの軸方向に移動させて該ワイヤの捩れを緩和させるワイヤ捩れ緩和工程を有するものであり、そのことにより上記目的が達成される。
【0025】
また、好ましくは、本発明のワーク切断方法におけるワイヤ捩れ緩和工程は、前記ワイヤ側面撮影手段が、前記溝付きローラ間の少なくとも2箇所で同一ワイヤ位置の側面映像を撮影するワイヤ側面撮影工程と、前記ワイヤ捩れ検出手段が、該ワイヤ側面撮影手段で撮影した少なくとも二つのワイヤ側面映像に基づいて前記ワイヤの捩れ状態を検出するワイヤ捩れ検出工程と、前記ワイヤ列調整手段が、該ワイヤの捩れ状態に応じて該ワイヤの複数列の一部または全体を該溝付きローラの軸方向に移動調整して該ワイヤの捩れを緩和させるワイヤ列調整工程とを有する。
【0026】
さらに、好ましくは、本発明のワーク切断方法におけるワイヤ捩れ検出工程は、前記ワイヤ捩れ検出手段が、前記少なくとも二つの溝付きローラ間の複数点での前記側面映像の前記ワイヤの特徴的な固定砥粒の位置関係の変化から該ワイヤの捩れ状態として該ワイヤの捩れ角度を算出し、前記ワイヤ列調整工程は、前記ワイヤ列調整手段が、算出した該ワイヤの捩れ角度に応じて該溝付きローラの軸方向に該ワイヤの複数列の一部または全部を移動調整する。
【0027】
本発明のウエハの製造方法は、本発明の上記ワーク切断方法において、前記ワークが半導体のインゴットであって、該半導体インゴットを前記ワイヤソー装置のワイヤの複数列で多数枚の半導体ウエハに切断するものであり、そのことにより上記目的が達成される。
【0028】
上記構成により、以下、本発明の作用を説明する。
【0029】
例えば2個の溝付きローラの外周溝にスライス用のワイヤが巻き付けられている。この場合に、一方の溝付きローラのV溝と他方の溝付きローラのV溝との位置関係が正確であれば、ワイヤはV溝の傾斜面に転がって捩れることはないが、溝付きローラのV溝はNC旋盤で精度よく加工されているものの、一方の溝付きローラと他方の溝付きローラとの設置が精度的にラフであり、一方の溝付きローラと他方の溝付きローラとの位置関係が合わないことが発生する。しかも、一方の溝付きローラと他方の溝付きローラとの位置関係によっては、ワイヤの捩れが一方向だけではなく逆方向になることもある。
【0030】
これに対して、本発明においては、所定の間隔で配置された少なくとも二つの溝付きローラの外周溝に巻き付けられたスライス用のワイヤを走行させてワイヤの複数列でワークを切断するワイヤソー装置において、ワイヤの捩れをモニタリングし、モニタリングしたワイヤの捩れ状態を緩和させるようにワイヤの複数列の一部または全体を溝付きローラの軸方向に移動させるワイヤ捩れ緩和手段を有している。
【0031】
このように、ワイヤの捩れをモニタし、このモニタしたワイヤの捩れの程度および捩れ方向に応じてワイヤの捩れを緩和制御するので、ワイヤ走行時のワイヤの捩れによるワイヤ断線を防止してワークの歩留まりを向上させると共に、捩れに弱い細い高張力ワイヤを安定的に用いて精度のよい加工をすることが可能となる。
【発明の効果】
【0032】
以上により、本発明によれば、より簡単な構成で、ワイヤの捩れをモニタし、このモニタしたワイヤの捩れの程度および捩れ方向に応じてワイヤの捩れを緩和制御することにより、ワイヤ走行時のワイヤ捩れによるワイヤ断線を防止してワークの歩留まりを向上させると共に、捩れに弱い細い高張力ワイヤを安定的に用いて精度のよい加工をすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施形態1におけるワイヤソー装置の要部構成例を模式的に示す斜視図である。
【図2】図1のワイヤソー装置1の溝付ローラをワイヤ捩れ緩和手段と共に模式的に示す平面図である。
【図3】(a)および(b)は、図2の第1のワイヤ側面撮影手段で撮影したワイヤの側面映像およびその断面を模式的に示す図であり、(c)および(d)は、図2の第2のワイヤ側面撮影手段で撮影したワイヤの側面映像およびその断面を模式的に示す図である。
【図4】本発明の実施形態2におけるワイヤソー装置の要部構成例を模式的に示す斜視図である。
【図5】図4のワイヤソー装置の溝付ローラをワイヤ捩れ緩和手段と共に模式的に示す平面図である。
【図6】本発明の実施形態3におけるワイヤソー装置の要部構成例を模式的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下に、本発明のワイヤソー装置およびこれを用いたワーク切断方法、ウエハの製造方法の実施形態1〜3について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図における構成部材のそれぞれの厚みや長さなどは図面作成上の観点から、図示する構成に限定されるものではない。
【0035】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1におけるワイヤソー装置の要部構成例を模式的に示す斜視図である。
【0036】
図1において、本実施形態1のワイヤソー装置1は複数(ここでは2個)の溝付ローラ2,3が所定間隔を置いて水平に配置されている。2個の溝付ローラ2,3の回転軸はその軸方向が平行でその回転軸の外側の外周溝と共に回転自在に設けられている。これらの溝付ローラ2,3はそれぞれ、その周面に所定ピッチ間隔で複数の外周溝が同心円状に形成されている。所定の間隔で配置された複数の溝付きローラ2,3の外周溝にスライス用のワイヤ4が巻き付けられている。
【0037】
溝付ローラ2,3の外周溝に巻き付けられるワイヤ4は、螺旋状に多重に巻き付けられる。溝付ローラ2,3間で巻き回数が多い場合には1800回〜2000回程度にもなる。溝付ローラ2,3間に螺旋状に巻き付けられたワイヤ4の一方端が新線繰出側の供給側ボビン5に巻き付けられ、その他方端が旧線巻取側の回収側ボビン6に巻き付けられている。溝付ローラ2,3の駆動に同期させて、これらの供給側ボビン5および回収側ボビン6を駆動することにより、溝付ローラ2,3間に巻き付けられたワイヤ4を走行させてワイヤ4の複数列でワーク(ここでは半導体インゴット7)を多数枚同時に切断するようになっている。切断枚数は多い場合には、1800枚〜2000枚程度を同時に切断する。ワイヤ4は、固定砥粒ワイヤであり、その芯線径が例えばここでは80μm以下のものを用い、芯線の周囲にダイヤモンドなどの砥粒が固着されている。ワイヤ4の外径によって切り代が決まり例えばワイヤ4の外径が50μm(0.05mm)の場合に切り代も50μm(0.05mm)程度となるのが理想的である。供給側ボビン5には、例えば50Kmのワイヤ4が巻かれており、例えば10本分程度の半導体インゴット7の切断を行うことができる。
【0038】
各溝付ローラ2,3に巻き付けられるワイヤ4に、所要の張力を与えるため、溝付ローラ2と供給側ボビン5との間に慣性駆動のガイドローラ8,9が設けられ、ガイドローラ8,9の間にダンサローラ10が設けられている。ダンサローラ10により溝付ローラ2へのワイヤ4の張力を一定に制御している。また、溝付ローラ3と回収側ボビン6との間の慣性駆動のガイドローラ11,12が設けられ、ガイドローラ11,12の間にダンサローラ13が設けられている。ダンサローラ13により溝付ローラ3からのワイヤ4の張力を一定に制御している。要するに、ダンサローラ10,13はそれぞれ、ガイドローラ8,9間とガイドローラ11,12間にそれぞれ設けられ、一定の付勢力が下方に働いてワイヤ4に一定の張力が作用するようになっている。
【0039】
ガイドローラ8と供給側ボビン5との間にはトラバーサ14が設けられ、また、ガイドローラ12と回収側ボビン6との間にもトラバーサ15が設けられている。トラバーサ14、15は、供給側ボビン5、回収側ボビン6に整列して巻き付けられているワイヤ4が順次取り出されるように作用すると共に、供給側ボビン5、回収側ボビン6に整列してワイヤ4が巻き取られるように作用する。新線側のトラバーサ14は、新線を供給する際には供給側ボビン5からワイヤ4を取り出すときに順次ワイヤ位置に上下移動して整列巻き付けされたワイヤ4をスムーズに取り出し、ワイヤ4を巻き取る場合は、ワイヤ4を整列巻き付けするために順次上下移動してワイヤ4をスムーズに順次巻き付ける機能を有している。また、旧線側のトラバーサ15は、ワイヤ4を巻き取る場合は、ワイヤ4を整列巻き付けするために順次上下移動してワイヤ4をスムーズに順次巻き付け、ワイヤ4を供給する際には回収側ボビン6からワイヤ4を取り出すときに順次ワイヤ位置に上下移動して整列巻き付けされたワイヤ4をスムーズに取り出す機能を有している。
このように、ワイヤ4は往復走行しながら半導体インゴット7を切断している。
【0040】
溝付ローラ2、3間のワイヤ4の上側ワイヤ列面はワークである半導体インゴット7の切断面であり、この切断面を左右に横切るように2本の加工液供給部16がワーク前後に設けられている。この切断面のワイヤの複数列(ワイヤ列)に加工液供給部16の加工液供給口から冷却用の切削液(クーラント)を添加しながら、例えばワークである半導体インゴット7をその切断面のワイヤ列面に押し付けて切断する。冷却の目的で液体のクーラントを半導体インゴット7および各ワイヤ4にかけながら多数本のワイヤ4で一括して同時に半導体インゴット7をスライス状に切断する。
【0041】
このワイヤ列への半導体インゴット7の押付けは、半導体インゴット7を固定した固定板17をインゴット送り機構18により昇降させて、半導体インゴット7を溝付ローラ2、3間のワイヤ列に上から押し付ける。多数本が平行に並んだワイヤ4の複数列上に半導体インゴット7を押し付けることにより、厚さが均一な多数の薄いウェハ状に同時に半導体インゴット7を切断する。これによって、厚さの揃ったウエハ素材を製造することができる。
【0042】
このように、本実施形態1のワイヤソー装置1は、所定の間隔で配置された複数(ここでは二つ)の溝付きローラ2,3の外周溝に巻き付けられたスライス用の固定砥粒のワイヤ4のワイヤ列両端(ワイヤ列幅方向両端)の張力制御を行う各ダンサローラ10、13をそれぞれ介してワイヤ4の各一端側がそれぞれ各トラバーサ14,15により供給側ボビン5および回収側ボビン6にそれぞれ整列巻き付けられており、ワイヤ4を往復走行させて、供給側ボビン5から回収側ボビン6へとワイヤ4を巻き取りながらワークである半導体インゴット7を多数枚に切断する。
【0043】
ここで、ワイヤ列の同一ワイヤ4の2箇所でワイヤ4の側面映像をワイヤ側面撮影手段191,192で撮影し、その撮影した2枚の側面映像に基づいてワイヤ捩れ情報を出力し、出力したワイヤ捩れ情報の捩れ程度および捩れ方向(回転角度θ)に基づいて溝付きローラ2をその軸方向に移動させてワイヤの捩れを緩和させるワイヤ捩れ緩和手段について説明する。
【0044】
図2は、図1のワイヤソー装置1の溝付ローラ2,3をワイヤ捩れ緩和手段と共に模式的に示す平面図である。図3(a)および図3(b)は、図2の第1のワイヤ側面撮影手段191で撮影したワイヤ4の側面映像およびその断面を模式的に示す図であり、図3(c)および図3(d)は、図2の第2のワイヤ側面撮影手段192で撮影したワイヤ4の側面映像およびその断面を模式的に示す図である。
【0045】
図2に示すように、溝付きローラ2,3間に多数のワイヤ4が張架されている。供給側ボビン5からのワイヤ4が溝付きローラ2に供給され、ワイヤ4は溝付きローラ2から溝付きローラ3を経由して下側のワイヤ列の端部を通過する。
【0046】
溝付きローラ2,3間のワイヤ4の捩れをモニタリングし、モニタリングしたワイヤ4の捩れ状態を緩和させるようにワイヤの複数列を溝付きローラ2,3の軸方向に移動させるワイヤ捩れ緩和手段19が設けられている。
【0047】
ワイヤ捩れ緩和手段19は、溝付きローラ3から溝付きローラ2に至る両側2箇所に所定距離開けて配置されたワイヤ側面撮影手段191,192と、ワイヤ側面撮影手段191,192で撮影された2枚のワイヤ側面映像に基づいてワイヤ4の捩れ状態を検出してワイヤ捩れ情報を出力するワイヤ捩れ検出手段193と、このワイヤ捩れ情報の捩れ程度および捩れ方向(回転角度θ;捩れ方向が逆方向の場合は回転角度−θ)に応じて、ワイヤ捩れ情報の捩れ程度が緩和されるように溝付きローラ2をその軸方向に移動させるワイヤ列調整手段194とを有している。
【0048】
ワイヤ捩れ検出手段191,192は、溝付きローラ3の近傍位置のワイヤ4の側面映像を撮影すると共に、溝付きローラ2の近傍位置のワイヤ4の側面映像を撮影する。1本のワイヤ4の所定距離を開けた2箇所の第1ワイヤ側面映像と第2ワイヤ側面映像とが撮影される。
【0049】
ワイヤ捩れ検出手段193は、溝付きローラ3の近傍の第1のワイヤ側面撮影手段191で撮影した図3(a)に示す第1ワイヤ側面映像と、溝付きローラ2の近傍の第2のワイヤ側面撮影手段192で撮影した図3(c)に示す第2ワイヤ側面映像とが入力され、第1ワイヤ側面映像と第2ワイヤ側面映像とに共通する固定砥粒の位置関係を示す特徴的な固定砥粒配置Aを画像認識処理を用いて回転同一画像と認識した場合に、ワイヤ4の捩れ状態として第1ワイヤ側面映像と第2ワイヤ側面映像からその特徴的な固定砥粒配置Aの回転角度θを測定し、その測定した特徴的な固定砥粒配置Aの回転角度θをワイヤ捩れ情報として出力する。このように、特徴的な固定砥粒配置Aの状態変化を確認することによりワイヤ4の捩れ状態を検出する。
【0050】
ワイヤ列調整手段194は、このワイヤ捩れ情報としての特徴的な固定砥粒配置Aの回転角度θに応じて、特徴的な固定砥粒配置Aの回転角度θが減る方向または回転角度θが零の方向に溝付きローラ2をその軸方向に所定量だけ全体的に移動させる。
【0051】
ワイヤ4の捩れは、溝付きローラ2、3のV溝の相対位置ずれによってワイヤ4がV溝の斜面を転がることに起因しており、ワイヤ4の捩れの状況を示す特徴的な固定砥粒配置Aの回転角度θから、ワイヤ列調整手段194により回転角度θが減るように溝付きローラ2の軸方向にワイヤ4の複数列(ワイヤ列)を移動させて、ワイヤ4の捩れを低減するようになっている。このワイヤ列を溝付きローラ2、3の軸方向に移動させるのは、半導体インゴット7の切断前のドライラン時であってもよいが、半導体インゴット7の加工途中であってもよい。
【0052】
上記構成により、まず、新線側ボビン5からのワイヤ4が溝付きローラ2に供給され、ワイヤ4は溝付きローラ2から溝付きローラ3を経由する。その後、溝付きローラ3の近傍位置のワイヤ4の側面映像をワイヤ側面撮影手段191が撮影し、ワイヤ4が走行して、ワイヤ側面撮影手段191で撮影されたワイヤ4の側面映像と同じ位置に対応する、溝付きローラ2の近傍位置のワイヤ4の側面映像をワイヤ側面撮影手段192が撮影する。
【0053】
次に、ワイヤ側面撮影手段191,192で撮影された2枚の同一位置のワイヤ側面映像の特徴的な固定砥粒配置Aの回転成分の位置的変化量に基づいて、ワイヤ捩れ検出手段193がワイヤ4の捩れ状態および捩れ方向(回転角度θ)を検出してワイヤ捩れ情報をワイヤ列調整手段194に出力する。
【0054】
続いて、ワイヤ列調整手段194は、このワイヤ捩れ情報の捩れ程度および捩れ方向(固定砥粒の特徴的な固定砥粒配置Aの回転角度θ)に応じて、ワイヤ捩れ情報の捩れ程度が緩和されるように(回転角度θが零になるかまたは零に近づくように)、溝付きローラ2をその軸方向に移動させる。これによって、ワイヤ捩れが、検出したワイヤ4の捩れの程度に応じて緩和される。
【0055】
本実施形態1のワークの切断方法は、ワーク切断前のドライラン時またはワークの切断時に、ワイヤ捩れ緩和手段19が、ワイヤ側面撮影手段191,192およびワイヤ捩れ検出手段193によってワイヤ4の捩れ状態をモニタリングし、モニタリングしたワイヤ4の捩れ状態に応じてワイヤ4の複数列を溝付きローラ2により溝付きローラ2,3の軸方向に移動させてワイヤ4の捩れを緩和させるワイヤ捩れ緩和工程を有している。このワイヤ捩れ緩和工程は、ワイヤ側面撮影手段191,192が、2箇所で同一ワイヤ位置の側面映像を撮影するワイヤ側面撮影工程と、ワイヤ捩れ検出手段193が、ワイヤ側面撮影手段191,192で撮影した二つのワイヤ側面映像に基づいてワイヤ4の捩れ状態を検出するワイヤ捩れ検出工程と、ワイヤ列調整手段194が、ワイヤ4の捩れ状態に応じてワイヤ列を溝付きローラ2により溝付きローラ2,3の軸方向に移動調整してワイヤ4の捩れを緩和するワイヤ列調整工程とを有している。
【0056】
さらに、このワークの切断方法のワイヤ捩れ検出工程は、ワイヤ捩れ検出手段193が、二つの溝付きローラ2,3間の複数点(ここでは2点)でのワイヤ側面映像のワイヤ4の特徴的な砥粒の位置関係の変化からワイヤ4の捩れ状態としてワイヤ4の捩れ角度θを算出し、ワイヤ列調整工程は、ワイヤ列調整手段194が、算出したワイヤ4の捩れ角度θに応じて、ワイヤ捩れ情報の捩れ程度が緩和されるように(回転角度θが零になるかまたは零に近づくように)、溝付きローラ2,3の軸方向に溝付きローラ2を移動調整してワイヤ4の複数列を移動調整する。
【0057】
以上のワーク切断方法において、ワークが半導体ウエハのインゴット7であって、半導体ウエハをワイヤソー装置1のワイヤ列で多数枚の半導体ウエハに切断することによりウエハを製造することができる。
【0058】
以上により、本実施形態1によれば、所定の間隔で配置された二つの溝付きローラ2,3の外周溝に巻き付けられたスライス用のワイヤ4を走行させてワイヤ4の複数列でワークとして半導体インゴット7を切断するワイヤソー装置1において、ワイヤ4の捩れをモニタリングし、モニタリングしたワイヤの捩れ状態に応じてワイヤ4の複数列を溝付きローラ2,3の軸方向に移動させてワイヤ4の捩れを緩和させるワイヤ捩れ緩和手段19を有している。このワイヤ捩れ緩和手段19は、2箇所で同一ワイヤ位置の側面映像を撮影するワイヤ側面撮影手段191,192と、ワイヤ側面撮影手段191,192で撮影した二つのワイヤ側面映像に基づいてワイヤ4の捩れ状態を検出するワイヤ捩れ検出手段193と、ワイヤの捩れ状態に応じてワイヤ列を溝付きローラ2,3の軸方向に移動調整してワイヤ4の捩れを緩和するワイヤ列調整手段194とを有している。
【0059】
これによって、ワイヤ4の捩れをモニタし、より簡単な構成で、このモニタしたワイヤ4の捩れの程度および捩れ方向に応じてワイヤ4の捩れをワイヤ列全体で緩和制御することにより、ワイヤ走行時のワイヤの極端な捩れによるワイヤ断線を防止してワークの歩留まりを向上させることができる。
【0060】
また、固定砥粒のワイヤ4の引っ張り強度が材質的に強くなるほどワイヤ4の捩れに対して弱くなり、しかも固定砥粒のワイヤ4の芯線径が細くなるほど捩れに対して弱くなる。ワイヤ4の捩れをモニタして管理し、このモニタしたワイヤ4の捩れの程度に応じてワイヤ4の捩れを緩和制御することにより、芯線径が細くしかも引っ張り強度を強い高張力細線ワイヤでのワークの精細加工を安定的に行うことができる。
【0061】
なお、本実施形態1では、特に説明しなかったが、ワイヤ4の単位長さ当たりに何回転の捩りを加えると断線するかのデータに安全率を掛けた捩り回数以内になるようなワイヤ4の捩れであればよい。ワイヤ4の捩れは、断線しなければ、ある程度は捩れていた方が、半導体インゴット7と接触するワイヤ面が常に変化するため、ワイヤ4が磨耗した場合であってもワイヤ4の外周面全体が均一に磨耗する。この結果、切断する半導体インゴット7内でワイヤ4が蛇行することもなくなり、これによって、ウエハの切断精度が向上する。
【0062】
なお、本実施形態1では、溝付きローラ3の近傍位置のワイヤ4の側面映像を撮影すると共に、溝付きローラ2の近傍位置のワイヤ4の側面映像を撮影して、所定間隔を空けた2箇所でワイヤ4の側面映像を撮影したが、これに限らず、特徴的な固定砥粒配置Aの回転角度θが一周回転した後の捩れである場合や、特徴的な固定砥粒配置Aの回転角度θが逆方向に回転した後の捩れである場合かどうかをも精密に検出するために、所定間隔を空けた2箇所の中間位置においてもワイヤ4の側面映像をワイヤ側面撮影手段にて撮影してもよい。要するに、通常発生する可能性のある回転角度θが撮影し易い鋭角の範囲内になるように撮影する2点間の距離を設定すればよいが、回転角度θの範囲が鋭角を越えて大きくばらつく場合には3点や4点など複数点でワイヤ4の側面撮影をする必要がある。したがって、溝付きローラ2から溝付きローラ3へのワイヤ4の走行に対してワイヤの側面映像を複数箇所で撮影することにより、特徴的な固定砥粒配置Aの回転角度θが鋭角の範囲内になってより正確に得られる。
【0063】
なお、本実施形態1では、ワイヤ列調整手段19が、二つの溝付きローラ2,3のV溝の位置関係が1対1対応する位置(ワイヤ4の捩れが起こりにくい位置関係)に近づくように、ワイヤ4の捩れ状態に応じて溝付きローラ2をその軸方向に移動調整する場合について説明したが、これに限らず、ワイヤ列調整手段19が、二つの溝付きローラ2,3のV溝の位置関係が1対1対応する位置関係(ワイヤ4の捩れが起こりにくい位置関係)に近づくように、ワイヤ4の捩れ状態に応じて溝付きローラ3をその軸方向に移動調整するようにしてもよい。
【0064】
(実施形態2)
上記実施形態1では、ワイヤ列調整手段19が、二つの溝付きローラ2,3の溝位置が1対1対応する位置に近づくように、ワイヤ4の捩れ状態に応じて溝付きローラ2をその軸方向に移動調整する場合について説明したが、本実施形態2では、後述するワイヤ列調整手段19Aが、ワイヤ4の捩れ状態に応じて、二つの溝付きローラ2,3間に配設され、ワイヤ4の複数列の各ワイヤ4に当接する後述のサブローラ群20,21の一部または全部をその軸方向に移動調整する場合について説明する。
【0065】
図4は、本発明の実施形態2におけるワイヤソー装置の要部構成例を模式的に示す斜視図である。図5は、図4のワイヤソー装置の溝付ローラ2,3をワイヤ捩れ緩和手段と共に模式的に示す平面図である。図4および図5では、図1および図2の構成部材と同一の作用効果を奏する構成部材には同一の部材番号を付けて説明する。
【0066】
図4および図5において、本実施形態2のワイヤソー装置1Aは複数(ここでは2個)の溝付ローラ2,3が所定間隔を置いて水平に配置されている。2個の溝付ローラ2,3の回転軸は、その軸方向が平行でその回転軸の外側の外周溝と共に回転自在に設けられている。これらの溝付ローラ2,3はそれぞれ、その周面に所定ピッチ間隔(例えば0.3mm)で複数の外周溝が同心円状に形成されている。所定の間隔で配置された2個の溝付きローラ2,3の外周溝にスライス用のワイヤ4が巻き付けられている。溝付ローラ2,3間に巻き付けられたワイヤ4を走行させてワイヤ4の複数列でワーク(ここでは半導体インゴット7)を多数枚同時に切断するようになっている。
【0067】
上記実施形態1の場合と異なるのは、ワイヤ4の複数列を複数(ここでは第1〜第5)に分割し、分割した第1〜第5の各ワイヤ列に対してサブローラ20、21を配設し、ワイヤ4の捩れ状態に応じて、サブローラ20、21をその軸方向に移動調整する点である。
【0068】
この場合のサブローラの軸方向は、溝付きローラ2の軸方向と平行であって同一方向である。
【0069】
サブローラ20、21は、分割した第1〜第5の各ワイヤ列に当接している。
【0070】
サブローラ20、21の少なくともいずれかを溝付ローラ2,3の軸方向に移動調整することにより、ワイヤ4の捩れ状態に応じて各ワイヤ4を案内して、ワイヤ4の捩れが発生する要因である溝付ローラ2,3のV溝の位置関係を相対的に合わせるようになっている。これによって、溝付ローラ2,3のV溝でのワイヤ4の摩擦が少なくなれば、ワイヤ4の捩れが緩和される。このワイヤ4の捩れ状態とは、前述したが、捩れ程度および捩れ方向であって、これはワイヤ4の回転角度θである。ワイヤ4の捩れ方向が逆方向の場合は回転角度−θとなる。
【0071】
即ち、ワイヤ4の捩れをモニタリングし、モニタリングしたワイヤ4の捩れ状態に応じて、サブローラ20、21の少なくともいずれかを溝付ローラ2,3の軸方向に移動調整することにより、ワイヤ4の複数列の一部(サブローラ20または21)または全体(サブローラ20および21)を溝付きローラ2,3の軸方向に移動させてワイヤの捩れを緩和させるワイヤ捩れ緩和手段19Aが設けられている。
【0072】
このワイヤ捩れ緩和手段19Aは、2箇所で同一ワイヤ位置のワイヤ4の側面映像を撮影するワイヤ側面撮影手段191,192と、ワイヤ側面撮影手段191,192で撮影した二つのワイヤ側面映像に基づいてワイヤ4の捩れ状態を検出するワイヤ捩れ検出手段193と、ワイヤ4の捩れ状態に応じてワイヤ列の一部または全体を溝付きローラ2,3の軸方向に移動調整してワイヤ4の捩れを緩和するワイヤ列調整手段194Aとを有している。
【0073】
ワイヤ捩れ検出手段193は、上記実施形態1の場合と同様に、ワイヤ側面撮影手段191,192による撮影点間のワイヤ4の捩れ方向の位置変化からワイヤ4の捩れ角度θをワイヤ捩れ情報として算出している。このワイヤ4の捩れ方向の位置変化は、ワイヤ4に固定された砥粒(ここではダイヤモンド)の特徴ある位置関係の位置変化を画像処理により特定し、特定した砥粒の位置変化からワイヤ4の捩れ角度θを算出する。
【0074】
各メインローラである溝付きローラ2,3の近傍にそれぞれ設けた二つのワイヤ側面撮影手段191,192でワイヤの側面状態を撮影するが、これは前述した図3の場合と同様である。二つのワイヤ側面画像において、特徴的な固定砥粒配置Aの状態変化を画像処理により確認することによりワイヤ4の捩れ角度θを算出することができる。
【0075】
ワイヤ4の捩れは、各メインローラである溝付きローラ2,3の溝の相対位置ずれに起因しており、ワイヤ4の捩れの状況(ワイヤ4の捩れ角度θ;ワイヤ4の捩れ程度と方向)から、ワイヤ列を分割して、溝付きローラ2,3の軸方向にガイドローラによりワイヤ列の一部または全部を移動させ、ワイヤ4の捩れを低減させる。
【0076】
これらのサブローラ20,21の一部または全部をその軸方向に移動調整することにより、ワイヤ列を溝付きローラ2,3の軸方向に移動させるのは、インゴット切断前のドライラン時でも、インゴット加工途中でもよい。
【0077】
本実施形態2のワークの切断方法は、ワーク切断前のドライラン時またはワークの切断時に、ワイヤ捩れ緩和手段19Aが、ワイヤ側面撮影手段191,192およびワイヤ捩れ検出手段193によってワイヤ4の捩れ状態をモニタリングし、ワイヤ4の複数列の各ワイヤ4に当接するサブローラ20,21の一部または全部をその軸方向に移動させることにより、モニタリングしたワイヤ4の捩れ状態に応じてワイヤ4の複数列を溝付きローラ2,3の軸方向に移動させてワイヤ4の捩れを緩和させるワイヤ捩れ緩和工程を有している。このワイヤ捩れ緩和工程は、ワイヤ側面撮影手段191,192が、2箇所で同一ワイヤ位置の側面映像を撮影するワイヤ側面撮影工程と、ワイヤ捩れ検出手段193が、ワイヤ側面撮影手段191,192で撮影した二つのワイヤ側面映像に基づいてワイヤ4の捩れ状態を検出するワイヤ捩れ検出工程と、ワイヤ4の複数列の各ワイヤ4に当接するサブローラ20,21の一部または全部をその軸方向に移動させることにより、ワイヤ列調整手段194が、ワイヤ4の捩れ状態に応じてワイヤ列を溝付きローラの軸方向に移動調整してワイヤ4の捩れを緩和するワイヤ列調整工程とを有している。
【0078】
さらに、このワークの切断方法のワイヤ捩れ検出工程は、ワイヤ捩れ検出手段193が、二つの溝付きローラ2,3間の複数点(ここでは2点)でのワイヤ側面映像のワイヤ4の特徴的な砥粒の位置関係の変化からワイヤ4の捩れ状態としてワイヤ4の捩れ角度θを算出し、ワイヤ列調整工程は、ワイヤ列調整手段194が、算出したワイヤ4の捩れ角度θに応じて、ワイヤ捩れ情報の捩れ程度が緩和されるように(回転角度θが零になるかまたは零に近づくように)、溝付きローラ2,3の軸方向にサブローラ20または21を移動調整してワイヤ4の複数列を移動調整する。
【0079】
以上のワーク切断方法において、ワークが半導体ウエハのインゴット7であって、半導体ウエハをワイヤソー装置1のワイヤ列で多数枚の半導体ウエハに切断することによりウエハを製造することができる。
【0080】
以上により、本実施形態2によれば、上記実施形態1の場合と同様に、ワイヤ4の捩れをモニタし、このモニタしたワイヤ4の捩れの程度および捩れ方向(ワイヤ4の回転角度θ)に応じてワイヤ4の捩れを緩和制御することにより、ワイヤ走行時のワイヤ4の捩れによるワイヤ断線を防止してワークの歩留まりを向上させると共に、捩れに弱い細い高張力ワイヤを安定的に用いて精度のよい加工をすることができる。
【0081】
また、本実施形態2では、以上のサブローラ20,21の一部または全部をその軸方向に移動調整することにより、ワイヤ列を溝付きローラ2,3の軸方向に移動させるので、ワイヤ4の回転角度θに応じたワイヤ4の捩れの緩和制御をより精細に行うことができる。
【0082】
なお、本実施形態1、2では、2個の溝付ローラ2,3が所定間隔を置いて水平に配置されている場合について説明したが、これに限らず、三角形の頂点部分に3個の溝付ローラを設けてもよく、また、四角形の頂点部分に4個の溝付ローラを設けてもよい。
【0083】
なお、本実施形態1、2では、ワークとして半導体材料の半導体インゴット7(例えば単結晶または多結晶のシリコンインゴット)を多数のスライス状に切断する場合について説明したが、これに限らず、ワークとして、サファイヤ、磁性体材料およびセラミックス材料のような脆性材料をウェハ状に高精度に多数同時に切断することもできる。
【0084】
なお、本実施形態2では、上記実施形態1の場合と同様、溝付きローラ3の近傍位置のワイヤ4の側面映像を撮影すると共に、溝付きローラ2の近傍位置のワイヤ4の側面映像を撮影して、所定間隔を空けた2箇所でワイヤ4の側面映像をワイヤ側面撮影手段191,192で撮影したが、これに限らず、図3に示す特徴的な固定砥粒配置Aの回転角度θが一周回転した後の捩れである場合や、特徴的な固定砥粒配置Aの回転角度θが逆方向に回転した後の捩れである場合かどうかをも検出するために、所定間隔を空けた2箇所の中間位置においてもワイヤ4の側面映像をワイヤ側面撮影手段にて撮影してもよい。したがって、溝付きローラ2から溝付きローラ3へのワイヤ4の走行に対してワイヤ4の側面映像を複数箇所で撮影することにより、特徴的な固定砥粒配置Aの回転角度θが鋭角の範囲内になって回転角度θがより正確に得られる。
【0085】
要するに、ワイヤ4の複数列を複数に分割し、分割した各ワイヤ列にそれぞれ対応するように複数のサブローラが配設されており、ワイヤ4の捩れ状態(回転角度θ)に応じて、複数のサブローラのうちの少なくとも一のサブローラ群をその軸方向に移動調整すればよい。この場合、独立して移動させる複数のサブローラで、少なくても二つのワイヤ側面撮影手段191,192が設けられていれば、ワイヤ4の捩れの緩和制御をより精細に行うことができるが、これに限らず、独立して移動させるサブローラ毎に、少なくても二つのワイヤ側面撮影手段191,192をそれぞれ設けて、サブローラ群毎に対応した少なくても二つのワイヤ側面撮影手段191,192を用いてワイヤ4の捩れ状態(回転角度θ)を個別に検出して個別に、対応するサブローラをその軸方向に移動させてワイヤ4の捩れの緩和制御をより精細に行ってもよい。
【0086】
(実施形態3)
図6は、本発明の実施形態3におけるワイヤソー装置の要部構成例を模式的に示す斜視図である。図6では、図1の構成部材と同一の作用効果を奏する構成部材には同一の部材番号を付けて説明する。
【0087】
図6において、本実施形態2のワイヤソー装置1Bは複数(ここでは2個)の溝付ローラ2,3が所定間隔を置いて水平に配置されている。2個の溝付ローラ2,3の回転軸は、その軸方向が平行でその回転軸の外側の外周溝と共に回転自在に設けられている。これらの溝付ローラ2,3はそれぞれ、その周面に所定ピッチ間隔(例えば0.3mm)で複数の外周溝が同心円状に形成されている。所定の間隔で配置された2個の溝付きローラ2,3の外周溝にスライス用のワイヤ4が巻き付けられている。溝付ローラ2,3間に巻き付けられたワイヤ4を走行させてワイヤ4の複数列でワーク(ここでは半導体インゴット7)を多数枚同時に切断するようになっている。
【0088】
上記実施形態1、2の場合と異なるのは、ワイヤ4の捩れが発生する要因が、溝付ローラ2,3のV溝の位置関係の相対的なずれである場合について説明してきたが、これに限らず、ワイヤ4の捩れが発生する他の要因として、溝付ローラ2にワイヤ4を供給するプーリ22の位置が溝付ローラ3のV溝の位置と相対的に合わない場合や、溝付ローラ3からワイヤ4を回収するプーリ23の位置が溝付ローラ3のV溝の位置と相対的に合わない場合にもワイヤ4に捩れが発生する点を考慮して、ガイドローラ9とプーリ22との間やガイドローラ11とプーリ23との間にワイヤ側面撮影手段190を設けた点である。ここでは、ガイドローラ9とプーリ22との間にだけにワイヤ側面撮影手段190を設けた場合について説明する。もちろん、これに加えてまたはこれとは別に、ガイドローラ11とプーリ23との間にワイヤ側面撮影手段190を設けてもよい。
【0089】
即ち、ワイヤ4の捩れをモニタリングし、モニタリングしたワイヤ4の捩れ状態に応じて、サブローラ20、21の少なくともいずれかを溝付ローラ2,3の軸方向(またはサブローラ20、21の軸方向)に移動調整することにより、ワイヤ4の複数列の一部(サブローラ20または21)または全体(サブローラ20および21)を溝付きローラ2,3の軸方向に移動させてワイヤの捩れを緩和させるワイヤ捩れ緩和手段19Bが設けられている。ワイヤ捩れ緩和手段19Bとワイヤ捩れ緩和手段19Aとの違いは、溝付ローラ2,3間の2箇所にワイヤ側面撮影手段191,192を設ける以外に、ガイドローラ9とプーリ22との間にもワイヤ側面撮影手段190を設けた点である。
【0090】
このワイヤ捩れ緩和手段19Bは、ガイドローラ9とプーリ22との間のワイヤ4の側面映像を撮影するワイヤ側面撮影手段190と、溝付ローラ2,3間の2箇所で同一ワイヤ位置(ワイヤ側面撮影手段190で撮影したワイヤ4の側面映像と同一ワイヤ位置)のワイヤ4の側面映像を撮影するワイヤ側面撮影手段191,192と、ワイヤ側面撮影手段190、191、192で撮影した三つのワイヤ側面映像に基づいてワイヤ4の捩れ状態を検出するワイヤ捩れ検出手段193Bと、ワイヤ4の捩れ状態に応じてワイヤ列の一部または全体を溝付きローラ2,3の軸方向に移動調整してワイヤ4の捩れを緩和するワイヤ列調整手段194Bとを有している。
【0091】
ワイヤ捩れ検出手段193Bは、ワイヤ側面撮影手段190、191、192による三つの撮影点間のワイヤ4の捩れ方向の位置変化からワイヤ4の捩れ角度θをワイヤ捩れ情報として算出している。このワイヤ4の捩れ方向の位置変化は、ワイヤ4に固定された固定砥粒(ここではダイヤモンド)の特徴ある位置関係の位置変化を画像処理により特定し、特定した砥粒の位置変化からワイヤ4の捩れ角度θを算出する。
【0092】
ガイドローラ9とプーリ22との間のワイヤ4の側面映像を撮影するワイヤ側面撮影手段190および、各メインローラである溝付きローラ2,3の近傍にそれぞれ設けた二つのワイヤ側面撮影手段191,192でワイヤの側面状態を撮影するが、この三つのワイヤ側面画像のうちの二つは図3の場合(ワイヤ側面撮影手段190と192による各ワイヤ側面画像)と同様に示すことができる。ワイヤ側面撮影手段190とワイヤ側面撮影手段192で撮影した最初と最後の二つのワイヤ側面画像において、特徴的な固定砥粒配置Aの状態変化を画像処理により確認することによりワイヤ4の捩れ角度θを算出することができる。この場合、ワイヤ4の側面映像を三箇所で撮影することにより、特徴的な固定砥粒配置Aの回転角度θがより正確に得られる。ワイヤ列を溝付ローラ2,3の軸方向に移動させるのは、インゴット切断前のドライラン時でも、インゴット加工途中でもよい。インゴット加工途中はワイヤ4の往復走行の切替時に溝付ローラ2,3の回転が0になる瞬間があるので、そのときおよびその前後に撮影をすればよい。
【0093】
本実施形態3のワークの切断方法は、ワーク切断前のドライラン時またはワークの切断時に、ワイヤ捩れ緩和手段19Bが、ワイヤ側面撮影手段190、191および192およびワイヤ捩れ検出手段193Bによってワイヤ4の捩れ状態をモニタリングし、ワイヤ4の複数列の各ワイヤ4に当接するサブローラ20,21の一部または全部をその軸方向に移動させることにより、モニタリングしたワイヤ4の捩れ状態に応じてワイヤ4の複数列を溝付きローラ2,3の軸方向に移動させてワイヤ4の捩れを緩和させるワイヤ捩れ緩和工程を有している。このワイヤ捩れ緩和工程は、ワイヤ側面撮影手段190、191および192が、3箇所で同一ワイヤ位置の側面映像を撮影するワイヤ側面撮影工程と、ワイヤ捩れ検出手段193Bが、ワイヤ側面撮影手段190、191および192で撮影した三つのワイヤ側面映像に基づいてワイヤ4の捩れ状態を検出するワイヤ捩れ検出工程と、ワイヤ列調整手段194Bが、ワイヤ4の複数列の各ワイヤ4に当接するサブローラ20,21の一部または全部をその軸方向に移動させることにより、ワイヤ4の捩れ状態に応じてワイヤ列を溝付きローラの軸方向に移動調整してワイヤ4の捩れを緩和するワイヤ列調整工程とを有している。
【0094】
さらに、このワークの切断方法のワイヤ捩れ検出工程は、ワイヤ捩れ検出手段193Bが、ガイドローラ9とプーリ22間の1点と、二つの溝付きローラ2,3間の2点との複数点(ここでは3点)でのワイヤ側面映像のワイヤ4の特徴的な砥粒の位置関係の変化からワイヤ4の捩れ状態としてワイヤ4の捩れ角度θを算出し、ワイヤ列調整工程は、ワイヤ列調整手段194Bが、算出したワイヤ4の捩れ角度θに応じて、ワイヤ捩れ情報の捩れ程度が緩和されるように(回転角度θが零になるかまたは零に近づくように)、溝付きローラ2,3の軸方向にサブローラ20および/または21を移動調整してワイヤ4の複数列を移動調整する。
【0095】
以上のワーク切断方法において、ワークが半導体ウエハのインゴット7であって、半導体ウエハをワイヤソー装置1のワイヤ列で多数枚の半導体ウエハに切断することによりウエハを製造することができる。
【0096】
以上により、本実施形態3によれば、上記実施形態1の場合と同様に、ワイヤ4の捩れをモニタし、このモニタしたワイヤ4の捩れの程度および捩れ方向(ワイヤ4の回転角度θ)に応じてワイヤ4の捩れを緩和制御することにより、ワイヤ走行時のワイヤ4の捩れによるワイヤ断線を防止してワークの歩留まりを向上させると共に、捩れに弱い細い高張力ワイヤを安定的に用いて精度のよい加工をすることができる。
【0097】
また、本実施形態3では、上記実施形態2の場合と同様に、サブローラ20,21の一部または全部をその軸方向に移動調整することにより、ワイヤ列を溝付きローラ2,3の軸方向に移動させるので、ワイヤ4の回転角度θに応じたワイヤ4の捩れの緩和制御をより精細に行うことができる。
【0098】
さらに、ガイドローラ9とプーリ22間のワイヤ側面映像を含んでいることにより、プーリ22から溝付きローラ2にワイヤ4が走行するときの捩れをも含めて検出することができ、ワイヤ4の回転角度θに応じたワイヤ4の捩れの緩和制御をより精細に行うことができる。
【0099】
なお、上記実施形態1〜3では、特に説明しなかったが、溝付ローラ2,3のいずれかやサブローラ20,21の軸方向の移動機構としては、ボイスコイルモータやステッピングモータなどの駆動源を有していてもよく、移動距離は微小かつ正確で移動力が得られるものであればどのような駆動源であってもよい。
【0100】
なお、本実施形態3では、ワイヤ4の捩れは各溝付ローラ2,3のV溝または、各プーリ22,23の相対位置ずれに起因しており、ワイヤ4の捩れの状況から、ワイヤ4の複数列の一部(サブローラ20または21)または全体(サブローラ20および21)を溝付きローラ2,3の軸方向に移動させたが、これに限らず、ワイヤ4の捩れの状況から、溝付ローラ2,3の軸方向に溝付ローラ2,3のいずれかを移動させて、ワイヤ4の捩れを低減するようにしてもよい。
【0101】
なお、本実施形態1〜3では、特に詳細には説明しなかったが、所定の間隔で配置された少なくとも二つの溝付きローラ2,3の外周溝に巻き付けられたスライス用のワイヤ4を走行させてワイヤ4の複数列でワーク4を切断するワイヤソー装置1、1Aまたは1Bにおいて、ワイヤ4の捩れをモニタリングし、モニタリングしたワイヤ4の捩れ状態を緩和させるようにワイヤ4の複数列の一部または全体を溝付きローラ2または3の軸方向に移動させるワイヤ捩れ緩和手段19,19Aまたは19Bを有することにより、ワイヤ4の捩れをモニタし、このモニタしたワイヤ4の捩れの程度および捩れ方向に応じてワイヤ4の捩れを緩和制御するため、ワイヤ走行時のワイヤ4の捩れによるワイヤ断線を防止してワークの歩留まりを向上させると共に、捩れに弱い径が細い高張力ワイヤを安定的に用いて精度のよい加工をすることができる本発明の目的を達成することができる。
【0102】
以上のように、本発明の好ましい実施形態1〜3を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、この実施形態1〜3に限定して解釈されるべきものではない。本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本発明の具体的な好ましい実施形態1〜3の記載から、本発明の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明は、所定の間隔で配置された複数の溝付きローラの外周に通したスライス用ワイヤを走行させることによって、スライス用ワイヤでワークを切断するワイヤソー装置およびこれを用いたワーク切断方法、ウエハの製造方法の分野において、イヤの捩れをモニタし、このモニタしたワイヤの捩れの程度および捩れ方向に応じてワイヤの捩れを緩和制御することにより、ワイヤ走行時のワイヤの捩れによるワイヤ断線を防止してワークの歩留まりを向上させると共に、捩れに弱い細い高張力ワイヤを安定的に用いて精度のよい加工をすることができる。
【符号の説明】
【0104】
1、1A、1B ワイヤソー装置
2、3 溝付ローラ
4 ワイヤ
5 供給側ボビン
6 回収側ボビン
7 半導体インゴット
8、9、11、12 ガイドローラ
10、13 ダンサローラ
14、15 トラバーサ
16 加工液供給部
17 固定板
18 インゴット送り機構
19 ワイヤ捩れ緩和手段
190、191、192 ワイヤ側面撮影手段
193,193B ワイヤ捩れ検出手段
194、194A、194B ワイヤ列調整手段
20、21 サブローラ
22、23 プーリ
A 特徴的な固定砥粒配置
θ 回転角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の間隔で配置された少なくとも二つの溝付きローラの外周溝に巻き付けられたスライス用のワイヤを走行させて該ワイヤの複数列でワークを切断するワイヤソー装置において、
該ワイヤの捩れをモニタリングし、モニタリングしたワイヤの捩れ状態を緩和させるように該ワイヤの複数列の一部または全体を該溝付きローラの軸方向に移動させるワイヤ捩れ緩和手段を有するワイヤソー装置。
【請求項2】
前記ワイヤ捩れ緩和手段は、少なくとも2箇所で同一ワイヤ位置の該ワイヤの側面映像を撮影するワイヤ側面撮影手段と、該ワイヤ側面撮影手段で撮影した少なくとも二つのワイヤ側面映像に基づいて該ワイヤの捩れ状態を検出するワイヤ捩れ検出手段と、該ワイヤの捩れ状態に応じてワイヤ列の一部または全体を該溝付きローラの軸方向に移動調整して該ワイヤの捩れを緩和させるワイヤ列調整手段とを有する請求項1に記載のワイヤソー装置。
【請求項3】
前記ワイヤ列調整手段は、前記少なくとも二つの溝付きローラの溝位置が1対1対応する位置に、前記ワイヤの捩れ状態に応じて該溝付きローラをその軸方向に移動調整する請求項2に記載のワイヤソー装置。
【請求項4】
前記ワイヤ列調整手段は、前記ワイヤの捩れ状態に応じて、前記二つの溝付きローラ間に配設され、前記ワイヤの複数列の各ワイヤに当接するサブローラの一部または全部をその軸方向に移動調整する請求項2に記載のワイヤソー装置。
【請求項5】
前記ワイヤの複数列を複数に分割し、分割した各ワイヤ列にそれぞれ対応するように各サブローラがそれぞれ配設されており、前記ワイヤの捩れ状態に応じて、複数のサブローラのうちの少なくとも一のサブローラをその軸方向に移動調整する請求項4に記載のワイヤソー装置。
【請求項6】
前記ワイヤ捩れ検出手段は、前記ワイヤ側面撮影手段による撮影点間の前記ワイヤの捩れ方向の位置変化から該ワイヤの捩れ角度をワイヤ捩れ情報として算出する請求項2に記載のワイヤソー装置。
【請求項7】
前記ワイヤの捩れ方向の位置変化は、前記ワイヤに固定された固定砥粒の特徴ある位置関係の位置変化を画像処理により特定し、特定した当該位置変化から該ワイヤの捩れ角度を算出する請求項6に記載のワイヤソー装置。
【請求項8】
前記ワイヤ側面撮影手段は、前記二つの溝付きローラ間の少なくとも2箇所の位置に少なくとも二つ設けられている請求項2に記載のワイヤソー装置。
【請求項9】
前記ワイヤ側面撮影手段は、前記溝付きローラに前記ワイヤを供給する第1プーリの上流位置と、該溝付きローラから該ワイヤを回収する第2プーリの下流位置のうちのいずれかに更に設けられている請求項8に記載のワイヤソー装置。
【請求項10】
前記ワイヤ側面撮影手段は、前記溝付きローラに前記ワイヤを供給する第1プーリの上流側から前記二つの溝付きローラ間と、該溝付きローラから該ワイヤを回収する第2プーリの下流側から該二つの溝付きローラ間とのいずれかの少なくとも2箇所の位置に少なくとも二つ設けられている請求項2に記載のワイヤソー装置。
【請求項11】
前記ワイヤの捩れ状態は、該ワイヤの捩れ程度および捩れ方向を示す該ワイヤの捩れ角度である請求項2に記載のワイヤソー装置。
【請求項12】
前記スライス用のワイヤは、芯線の外周に砥粒がランダムに固定された固定砥粒ワイヤである請求項1に記載のワイヤソー装置。
【請求項13】
所定の間隔に配置された少なくとも二つの溝付きローラの外周溝に巻き付けられたスライス用の固定砥粒ワイヤのワイヤ列両端の張力制御を行う各ダンサローラをそれぞれ介して該固定砥粒ワイヤの各一端側がそれぞれ各トラバーサにより供給側ボビンおよび回収側ボビンにそれぞれ巻き付けられており、該固定砥粒ワイヤを往復走行させて、該供給側ボビンから該回収側ボビンへと該ワイヤを巻き取りながら前記ワークを切断する請求項1に記載のワイヤソー装置。
【請求項14】
請求項1〜13に記載のワイヤソー装置を用いたワークの切断方法であって、
前記ワークを切断する前のドライラン時または該ワークの切断時に、
前記ワイヤ捩れ緩和手段が、前記ワイヤの捩れ状態をモニタリングし、モニタリングしたワイヤの捩れ状態に応じて該ワイヤの複数列の一部または全体を該溝付きローラの軸方向に移動させて該ワイヤの捩れを緩和させるワイヤ捩れ緩和工程を有するワークの切断方法。
【請求項15】
前記ワイヤ捩れ緩和工程は、前記ワイヤ側面撮影手段が、前記溝付きローラ間の少なくとも2箇所で同一ワイヤ位置の側面映像を撮影するワイヤ側面撮影工程と、前記ワイヤ捩れ検出手段が、該ワイヤ側面撮影手段で撮影した少なくとも二つのワイヤ側面映像に基づいて前記ワイヤの捩れ状態を検出するワイヤ捩れ検出工程と、前記ワイヤ列調整手段が、該ワイヤの捩れ状態に応じて該ワイヤの複数列の一部または全体を該溝付きローラの軸方向に移動調整して該ワイヤの捩れを緩和させるワイヤ列調整工程とを有する請求項14に記載のワークの切断方法。
【請求項16】
前記ワイヤ捩れ検出工程は、前記ワイヤ捩れ検出手段が、前記少なくとも二つの溝付きローラ間の複数点での前記側面映像の前記ワイヤの特徴的な固定砥粒の位置関係の変化から該ワイヤの捩れ状態として該ワイヤの捩れ角度を算出し、
前記ワイヤ列調整工程は、前記ワイヤ列調整手段が、算出した該ワイヤの捩れ角度に応じて該溝付きローラの軸方向に該ワイヤの複数列の一部または全部を移動調整する請求項15に記載のワークの切断方法。
【請求項17】
請求項14〜16のいずれかに記載のワーク切断方法において、前記ワークが半導体のインゴットであって、該半導体インゴットを前記ワイヤソー装置のワイヤの複数列で多数枚の半導体ウエハに切断するウエハの製造方法。

【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図1】
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【図4】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−250329(P2012−250329A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−125819(P2011−125819)
【出願日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】