説明

ワイヤソー

【課題】ワイヤの走行方向の反転時に、トラバーサに位置ずれが生じることを抑制すること。
【解決手段】ワーク加工用のワイヤ11が架設状態で周回される複数の加工用ローラ14A,14Bと、ボビン12A,12Bの軸線方向に往復動されて、ワイヤ11の巻き取り及び繰り出しを案内するトラバーサ16A,16Bとを備える。加工用ローラ14A,14B及びボビン12A,12Bの往復回転にともなってワイヤ11が往復走行されて、加工用ローラ14A,14B間の位置においてワイヤ11によりワークWに切断加工を施すようにする。ワイヤ11の走行方向反転時において、ボビン12A,12Bの回転軸線に対するボビン12A,12Bとトラバーサ16A,16Bとの間におけるワイヤ11の角度を検出する。その検出結果に応じてワイヤ11の角度が90度となるように、トラバーサ16A,16Bを移動調整し、トラバーサ16A,16Bの位置補正を行なう。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば半導体材料、磁性材料、セラミックス等の脆性材料よりなるワークをワイヤにより切断加工するワイヤソーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のワイヤソーとしては、例えば特許文献1に開示されるような構成が提案されている。この従来構成においては、ワーク加工用のワイヤが巻き回される一対のボビンと、両ボビン間においてワイヤが架設状態で周回される複数の加工用ローラとが備えられている。各ボビンには、ボビンの軸線方向に沿って往復動されて、ワイヤの巻き取り及び繰り出しを案内するためのトラバース装置が対向配置されている。そして、ワイヤが所定サイクルで往復走行されることにより、加工用ローラ間においてワイヤ上に砥粒を含むスラリが供給される。この状態で、ワイヤに対してワークが押し付けられて、ワークに切断加工が施される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−70745号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ワイヤソーにおいては、ボビンの回転軸線に対するボビンとトラバーサとの間におけるワイヤの角度が90度となるように制御されることが好ましい。ワイヤの角度が90度以外の角度になった場合は、ボビンに対してワイヤが適正に巻き取られなくなって、巻き取られたワイヤに巻きむらが発生するという問題があった。あるいは、ボビンから繰り出されるワイヤに過度の張力が作用して、ワイヤが断線されるおそれがある。また、ワイヤの走行方向の反転に際して、巻き取り側から繰り出し側に転換されるボビンのトラバーサに位置ずれが生じた場合には、ワイヤの反転走行開始時に、ボビンからワイヤが適正に繰り出し案内されなくなって、繰り出されたワイヤの張力にバラつきが生じるという問題があった。特に、ワイヤの走行方向の反転時に、繰り出し側から巻き取り側に転換されるボビンのトラバーサに位置ずれが生じやすくて、ワイヤの巻きむらの問題が顕著に現われていた。
【0005】
前記特許文献1においては、ワイヤを挟む位置に一対のタッチローラを設けて、ワイヤがタッチローラに接触すると、トラバーサのトラバース速度がワイヤ位置にあわせて修正されるように構成されている。しかしながら、このような構成では、ワイヤとタッチローラとがチャタリング状に短時間に多数回接触して、その状態が収束しないおそれがある。このような状態になると、トラバーサが小刻みに移動するため、トラバース速度の修正は困難で、従って巻きむら等の解消に支障が出てくる。
【0006】
この発明は、このような従来の技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的は、ワイヤの走行方向の反転時に、トラバーサに位置ずれが生じることを抑制することができて、その後のワイヤの走行開始時に、ワイヤに巻きむらや張力のバラつきが生じるおそれを防止することができるワイヤソーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、この発明は、ワーク加工用のワイヤが架設状態で周回される複数の加工用ローラと、前記ワイヤが巻き回されたボビンの軸線方向に沿って往復動されて、ワイヤの巻き取り及び繰り出しを案内するトラバーサとを備え、前記加工用ローラ及びボビンの往復回転にともなってワイヤが往復走行されて、加工用ローラ間の位置においてワイヤによりワークに切断加工を施すようにしたワイヤソーであって、ワイヤの走行方向反転時においてボビンの回転軸線に対するボビンとトラバーサとの間におけるワイヤの角度を検出する検出手段と、その検出手段の検出の結果、ワイヤの角度が90度以外のときには、その角度が90度となるようにトラバーサを移動させる制御手段とを設けたことを特徴としている。
【0008】
従って、この発明のワイヤソーにおいては、加工用ローラ及びボビンの所定サイクルの往復回転にともなって、ワイヤの走行方向が反転されるとき、検出手段によりボビンの回転軸線に対するボビンとトラバーサとの間におけるワイヤの角度が検出される。そして、その検出結果のワイヤ角度が90度以外のとき、つまり90度より大きいときまたは小さいときには、制御手段によりワイヤが90度となるようにトラバーサが移動調整され、トラバーサの位置が補正される。これにより、ワイヤの走行方向の反転時に、トラバーサに位置ずれが生じるのを抑制することができる。よって、その後のワイヤの走行開始時に、巻き取り側ボビンに巻き取られるワイヤに巻きむらが発生したり、繰り出し側ボビンから繰り出されるワイヤに張力のバラつきが生じたりするおそれを防止することができる。
【0009】
前記の構成において、前記制御手段は、ワイヤの走行停止時にトラバーサを移動させるようにするとよい。
前記の構成において、前記制御手段は、繰り出し終了ボビン側のトラバーサを移動させるようにするとよい。
【0010】
前記の構成において、前記制御手段は、繰り出し終了ボビン側及び巻き取り終了側のトラバーサを移動させるようにしてもよい。
前記の構成において、前記加工用ローラとトラバーサとの間においてワイヤの張力を調節するダンサローラを設け、前記検出手段は、ダンサローラ及びトラバーサにそれぞれ設けられ、ダンサローラ及びトラバーサに作用するワイヤの張力荷重を検出するセンサと、それらのセンサからの検出信号に基づいてワイヤの角度を判別する判別手段とより構成するとよい。
【発明の効果】
【0011】
以上のように、この発明によれば、ワイヤの走行方向の反転時に、トラバーサに位置ずれが生じるのを抑制することができて、その後のワイヤの走行開始時に、ワイヤに巻きむらや張力のバラつきが生じるおそれを防止することができるという効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】一実施形態のワイヤソーを示す概略構成図。
【図2】図1のワイヤソーの回路構成を示すブロック図。
【図3】同ワイヤソーにおけるワイヤ関連の動作を示すフローチャート。
【図4】図3のフローチャートにおけるワイヤの角度検出動作の詳細を示すフローチャート。
【図5】(a)及び(b)はトラバーサの位置調整動作を示す構成図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、この発明を具体化したワイヤソーの一実施形態を、図面に従って説明する。
図1に示すように、この実施形態のワイヤソーにおいては、ワーク加工用のワイヤ11が巻き回される一対のボビン12A,12Bが、図示しないフレームに相互間隔をおいて回転可能に支持される。各ボビン12A,12Bには、正逆回転可能なボビン回転用モータ13A,13Bが接続される。そして、これらのボビン回転用モータ13A,13Bにより各ボビン12A,12Bが所定の時間間隔で往復回転されて、いずれか一方のボビン12A,12Bにワイヤ11が巻き取られるとともに、他方のボビン12B,12Aからワイヤ11が繰り出される。この場合、往復のストロークに差が設けられていて、ワイヤ11はトータルとして一方向に移動される。
【0014】
前記両ボビン12A,12B間の位置においてワイヤソーのフレームには、複数(実施形態では一対)の加工用ローラ14A,14Bが間隔をおいて回転可能に支持されている。両加工用ローラ14A,14Bの外周面には複数の環状溝が所定のピッチで形成され、その加工用ローラ14A,14Bの環状溝間に前記ワイヤ11が架設状態で周回されている。そして、このワイヤ11の架設状態で、両加工用ローラ14A,14Bが図示しない加工用ローラ回転用モータにより、前記ボビン12A,12Bと同一の時間間隔で往復回転されて、加工用ローラ14A,14B間でワイヤ11がその延長方向に往復走行される。
【0015】
前記両加工用ローラ14A,14B間のワイヤ11の上方には図示しないサドルが昇降可能に配置され、そのサドルの下面にはワークWが支持板15に貼着した状態で着脱可能に装着される。そして、前記のように加工用ローラ14A,14B間でワイヤ11が延長方向に走行されながら、そのワイヤ11上に砥粒を含むスラリが供給される。この状態で、サドルの下降によりワークWがワイヤ11に押し付けられて、そのワークWに切断加工が施される。なお、ワイヤ11としてダイヤモンド等の砥粒を保持したものを使用した場合は、スラリの供給は不要になる。
【0016】
前記両ボビン12A,12Bの近傍位置には、トラバーサ16A,16Bがボビン12A,12Bの軸線方向に沿って往復動可能に配置されている。各トラバーサ16A,16Bには、ボビン12A,12Bに対するワイヤ11の巻き取り及び繰り出しを案内するためのトラバースローラ17A,17Bが回転可能に支持されている。そして、前記ワイヤ11の走行時には、図2に示すトラバーサ移動用モータ18A,18Bにより、図示しないボールネジ等を介してトラバーサ16A,16Bが往復動されて、トラバースローラ17A,17Bによりボビン12A,12Bに対するワイヤ11の巻き取り及び繰り出しが案内される。
【0017】
前記両加工用ローラ14A,14Bとトラバーサ16A,16Bとの間においてフレームには、ダンサアーム19A,19Bが揺動可能に支持されている。各ダンサアーム19A,19Bの先端部には、ワイヤ11の張力を調節するためのダンサローラ20A,20Bが回転可能に支持されている。各ダンサアーム19A,19Bの基端部には、ダンサアーム19A,19Bを回動させて、ワイヤ11の張力を変更するためのサーボモータ等よりなるダンサアーム回動用モータ21A,21Bが接続されている。各ダンサローラ20A,20Bと両加工用ローラ14A,14Bとの間において加工用ローラ14A,14Bの近傍位置には、ワイヤ11をガイドするためのガイドローラ22A,22Bが回転可能に配置されている。
【0018】
前記各トラバースローラ17A,17Bには、そのトラバースローラ17A,17Bに作用するワイヤ11の張力荷重を検出するための第1センサ23A,23Bが設けられている。各ダンサローラ20A,20Bには、そのダンサローラ20A,20Bに作用するワイヤ11の張力荷重を検出するための第2センサ24A,24Bが設けられている。そして、ワイヤ11の走行中及びワイヤ11の走行方向の反転時に、第1センサ23A,23B及び第2センサ24A,24Bから、ワイヤ11の張力荷重を示す検出信号が出力される。
【0019】
次に、前記のように構成されたワイヤソーの回路構成について説明する。
図2に示すように、制御装置31は、ワイヤソー全体の動作を制御するための制御手段を構成している。制御装置31には、前記第1センサ23A,23B及び第2センサ24A,24Bからの検出信号が入力される。制御装置31からは、前記ボビン回転用モータ13A,13B、トラバーサ移動用モータ18A,18B及びダンサアーム回動用モータ21A,21Bに作動または停止信号が出力される。
【0020】
そして、前記制御装置31は、ワイヤ11の走行中に第1センサ23A,23Bから、トラバースローラ17A,17Bに作用するワイヤ11の張力荷重に関する検出信号を入力したとき、その検出信号に基づいてトラバーサ移動用モータ18A,18Bに作動信号を出力して、トラバーサ16A,16Bの移動速度を調整する。また、制御装置31は、ワイヤ11の走行中に第2センサ24A,24Bから、ダンサローラ20A,20Bに作用するワイヤ11の張力荷重に関する検出信号を入力したとき、その検出信号に基づいてダンサアーム回動用モータ21A,21Bに作動信号を出力し、ダンサアーム19A,19Bを回動させて、ワイヤ11の張力を調節する。
【0021】
前記制御装置31には、判別手段としての判別部32が設けられている。そして、この判別部32は、ワイヤ11の走行方向の反転時に、ワイヤの走行が停止された時点で、第1センサ23A,23B及び第2センサ24A,24Bからワイヤ11の張力荷重に関する検出信号を入力する。そして、それらの検出信号に基づいて、図5(a)及び(b)に示すように、ボビン12A,12Bの回転軸線に対するボビン12A,12Bとトラバースローラ17A,17Bとの間におけるワイヤ11の角度αを判別する。すなわち、第1センサ23A,23B及び第2センサ24A,24Bからのワイヤ11の張力荷重の値が所定の値にある場合に、前記角度αが90度であると判別される。また、その所定の値に対してトラバースローラ17A,17B側の第1センサ23A,23Bの値が低い場合に、前記角度αが鋭角にあると判別され、所定の値に対してダンサローラ20A,20B側の第2センサ24A,24Bの値が低い場合に、前記角度αが鈍角にあると判別される。この実施形態では、前記第1センサ23A,23B、第2センサ24A,24B及び判別部32によって、ボビン12A,12Bの回転軸線とワイヤ11とのなす角度αを検出するための検出手段が構成されている。
【0022】
そして、前記制御装置31は、検出されたワイヤ11の角度αが90度以外のとき、つまり図5(a)に示すように90度より小さい鋭角のとき、または図5(b)に鎖線で示すように90度より大きい鈍角のときには、トラバーサ移動用モータ18A,18Bに作動信号を出力する。この出力により、ワイヤ11の走行停止中に、図5(a)及び(b)に鎖線で示すように、ワイヤ11の角度αが90度となるようにトラバーサ16A,16Bを移動調整し、トラバーサ16A,16Bの位置補正を行なう。この場合、ワイヤ11の走行方向の反転時に、繰り出し側から巻き取り側に転換される繰り出し終了ボビン12A,12B側のトラバーサ16A,16Bについては、位置ずれが生じやすいため、この実施形態では、その繰り出し終了ボビン12A,12B側のトラバーサ16A,16Bを主として移動制御するようになっている。
【0023】
次に、前記のように構成されたワイヤソーにおいて主としてワイヤの走行制御の作用を図3及び図4のフローチャートに従って説明する。
さて、このワイヤソーの運転時には、前記制御装置31の制御により、図3に示すフローチャートの各ステップ(以下、単にSという)に従う動作が実行される。すなわち、ワイヤソーの運転時には、加工用ローラ14A,14Bが回転されるとともに、S1においてボビン回転用モータ13A,13Bの駆動により、ボビン12A,12Bが回転される。そして、S2においては、トラバーサ移動用モータ18A,18Bの駆動により、トラバーサ16A,16Bがボビン12A,12Bの軸線に沿って往復動されて、トラバース動作が開始される。これらの動作により、ワイヤ11が一方のボビン12A,12Bから繰り出され、加工用ローラ14A,14B間で延長方向に走行された後、他方のボビン12B,12Aに巻き取られる。そして、加工用ローラ14A,14B間において走行中のワイヤ11に対してワークWが押し付けられることにより、ワークWに切断加工が施される。
【0024】
次のS3においては、第1センサ23A,23Bにより、トラバースローラ17A,17Bに作用するワイヤ11の張力荷重が検出され、その検出値が予め設定された所定値であるか否かが判別される。この判別において検出値が所定値でない場合には、S4においてトラバーサ移動用モータ18A,18Bが作動制御されて、ワイヤ走行中のトラバーサ16A,16Bの移動速度が調整される。
【0025】
次いで、S5においては、ワイヤ11が一方向に所定量走行されて、ワイヤ11の走行方向の反転時期に達したか否かが判別される。この判別において、ワイヤ11の走行方向の反転時期に達していない場合には、前記S3に戻って、S3〜S5の動作が繰り返し行われる。これに対して、ワイヤ11の走行方向の反転時期に達した場合には、S6において、ボビン回転用モータ13A,13Bによるボビン12A,12Bの回転が停止されるとともに、トラバーサ移動用モータ18A,18Bによるトラバーサ16A,16Bの移動が停止される。それと同時に、加工用ローラ14A,14Bの回転が停止される。これによって、ワイヤ11の走行が所定時間停止される。
【0026】
次のS7においては、前記ワイヤ11の走行停止状態で、ボビン12A,12Bの回転軸線に対するワイヤ11の角度αが検出される。このワイヤ11の角度αが検出時には、図4のフローチャートに示すように、まずS7aにおいて、第1センサ23A,23Bにより、トラバースローラ17A,17Bに作用するワイヤ11の張力荷重が検出される。続いて、S7bにおいて、第2センサ24A,24Bにより、ダンサローラ20A,20Bに作用するワイヤ11の張力荷重が検出される。そして、S7cにおいて、第1センサ23A,23B及び第2センサ24A,24Bからの検出信号に基づいて、図5(a)及び(b)に示すように、ボビン12A,12Bの回転軸線に対するワイヤ11の角度αが判別される。
【0027】
次に、図3のS8においては、検出されたワイヤ11の角度αが90度であるか否かが判別される。この判別において、ワイヤ11の角度αが90度以外の場合、つまり図5(a)に示すように90度より小さい場合、または図5(b)に鎖線で示すように90度より大きい場合には、次のS9において、トラバーサ移動用モータ18A,18Bによりトラバーサ16A,16Bが移動調整される。この移動調整により、ワイヤ11の走行停止状態で、トラバーサ16A,16Bが図5(a)及び(b)に実線で示す位置から鎖線で示す位置に変移されて、ワイヤ11の角度αが90度となるようにトラバーサ16A,16Bの位置補正がなされる。
【0028】
続いて、S10において、ワークWの加工が終了したか否かが判別される。この判別において、加工が終了していない場合には、次のS11において、ボビン回転用モータ13A,13Bによりボビン12A,12Bが前記の場合と逆方向に回転される。それとともに、加工用ローラ14A,14Bも前記の場合と逆方向に回転される。これにより、ワイヤ11が走行方向を反転した状態で走行される。その後、前記S2に戻って、S2〜S11の動作が繰り返し行われる。一方、前記S10の判別において、加工が終了した場合には、ワイヤ11の走行動作が終了する。
【0029】
従って、この実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1) このワイヤソーにおいては、加工用ローラ14A,14B及びボビン12A,12Bの所定サイクルの往復回転にともなって、ワイヤ11の走行方向が反転されるとき、検出手段によりボビン12A,12Bの回転軸線に対するボビン12A,12Bとトラバーサ16A,16Bとの間におけるワイヤ11の角度αが検出される。そして、その検出結果のワイヤ11の角度αが90度以外のとき、つまり90度より大きいときまたは小さいときには、制御装置31により、ワイヤ11の角度αが90度となるようにトラバーサ16A,16Bが移動調整される。このため、ワイヤ11の走行方向の反転時に、トラバーサ16A,16Bに位置ずれが生じることを抑制することができる。よって、その後のワイヤ11の走行開始時に、巻き取り側ボビン12A,12Bに巻き取られるワイヤ11に巻きむらが発生したり、繰り出し側ボビン12B,12Aから繰り出されるワイヤ11に張力のバラつきが生じたりするおそれを防止することができる。
【0030】
(2) このワイヤソーにおいては、前記制御装置31が、ワイヤ11の走行方向の反転時におけるワイヤ11の走行停止中に、ワイヤ11の角度αが90度となるようにトラバーサ16A,16Bの位置を補正することができる。よって、その後のワイヤ11の走行開始時に、位置ずれのないトラバーサ16A,16Bにより、ボビン12A,12Bに対するワイヤ11の巻き取り及び繰り出しの案内動作を速やかに開始させることができる。従って、ワイヤ11の張力を一定に保持することができて、高精度加工が可能となる。
【0031】
(3) このワイヤソーにおいては、前記制御装置31が、繰り出し終了ボビン12A,12B側のトラバーサ16A,16Bを移動させるようになっている。このため、ワイヤ11の走行方向の反転時に、繰り出し側から巻き取り側に転換される繰り出し終了ボビン12A,12B側のトラバーサ16A,16Bに位置ずれが生じやすくても、そのトラバーサ16A,16Bの位置ずれを適切に修正することができる。よって、その後のワイヤ11の走行開始時におけるワイヤ11の巻きむらの発生を効果的に防止することができる。
【0032】
(4) このワイヤソーにおいては、前記検出手段が、ダンサローラ20A,20B及びトラバーサ16A,16Bにそれぞれ設けられ、ダンサローラ20A,20B及びトラバーサ16A,16Bに作用するワイヤ11の張力荷重を検出するセンサ24A,24B,23A,23Bと、それらのセンサ24A,24B,23A,23Bからの検出信号に基づいてワイヤ11の角度αを判別する判別部32とより構成されている。このため、ワイヤ11の走行方向の反転時に、センサ24A,24B,23A,23Bにより、ダンサローラ20A,20B及びトラバーサ16A,16Bに作用するワイヤ11の張力荷重が直接的に検出されて、それらの検出結果に基づいてワイヤ11の角度αを適正に検出することができる。
【0033】
(変更例)
なお、この実施形態は、次のように変更して具体化することも可能である。
・ 前記実施形態では、第1センサ23A,23Bの検出信号に基づいてワイヤ11の走行中のトラバーサ16A,16Bの移動速度を調整していたが、これを省略し、プログラムのみの制御としてもよい。
【0034】
・ ワイヤ11の走行反転時でのトラバーサ16A,16Bの移動調整を検出角度αに応じてあらかじめ設定された距離を移動させるようにしてもよい。
・ 前記実施形態において、ワイヤ11の角度αを検出するための検出手段を例えばワイヤ11を光学的に検出する手段に変更すること。
【0035】
・ 前記実施形態では、ワイヤ11をガイドするためのガイドローラを一対設けたが、2対以上設けたワイヤソーに本発明を具体化すること。
・ 本発明の制御手段による制御を、繰り出し終了時のトラバーサ16A,16Bに対してのみ実行すること。すなわち、ワイヤ11の繰り出しに際しては、ワイヤ11の角度はボビン12A,12B上の繰り出し始点及びトラバーサ16A,16Bの位置の従って決定されるため、90度以外の角度になりやすい。これに対して、ワイヤ11の巻き取りに際して、ワイヤ11はトラバーサ16A,16Bのトラバースのみに従ってボビン12A,12Bに巻き回されるため、ワイヤ角度が90度に維持される。よって、繰り出し終了時のトラバーサ16A,16Bのみが制御されてもよい。
【符号の説明】
【0036】
11…ワイヤ、12A,12B…ボビン、14A,14B…加工用ローラ、16A,16B…トラバーサ、17A,17B…トラバースローラ、20A,20B…ダンサローラ、23A,23B…検出手段を構成する第1センサ、24A,24B…検出手段を構成する第2センサ、31…制御手段を構成する制御装置、32…検出手段を構成する判別手段としての判別部、W…ワーク、α…角度。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワーク加工用のワイヤが架設状態で周回される複数の加工用ローラと、前記ワイヤが巻き回されたボビンの軸線方向に沿って往復動されて、ワイヤの巻き取り及び繰り出しを案内するトラバーサとを備え、前記加工用ローラ及びボビンの往復回転にともなってワイヤが往復走行されて、加工用ローラ間の位置においてワイヤによりワークに切断加工を施すようにしたワイヤソーであって、
ワイヤの走行方向反転時においてボビンの回転軸線に対するボビンとトラバーサとの間におけるワイヤの角度を検出する検出手段と、
その検出手段の検出の結果、ワイヤの角度が90度以外のときには、その角度が90度となるようにトラバーサを移動させる制御手段と
を設けたことを特徴とするワイヤソー。
【請求項2】
前記制御手段は、ワイヤの走行停止時にトラバーサを移動させることを特徴とする請求項1に記載のワイヤソー。
【請求項3】
前記制御手段は、繰り出し終了ボビン側のトラバーサを移動させることを特徴とする請求項1または2に記載のワイヤソー。
【請求項4】
前記制御手段は、繰り出し終了ボビン側及び巻き取り終了側のトラバーサを移動させることを特徴とする請求項1または2に記載のワイヤソー。
【請求項5】
前記加工用ローラとトラバーサとの間においてワイヤの張力を調節するダンサローラを設け、
前記検出手段は、ダンサローラ及びトラバーサにそれぞれ設けられ、ダンサローラ及びトラバーサに作用するワイヤの張力荷重を検出するセンサと、それらのセンサからの検出信号に基づいてワイヤの角度を判別する判別手段とよりなることを特徴とする請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載のワイヤソー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−22653(P2013−22653A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−156876(P2011−156876)
【出願日】平成23年7月15日(2011.7.15)
【出願人】(000152675)コマツNTC株式会社 (218)
【Fターム(参考)】