説明

ワイヤハーネス

【課題】電線の経路規制を、軽量かつ薄い構成によって容易に実現できるとともに、支持体への固定が容易なワイヤハーネスを提供する。
【解決手段】ワイヤハーネス1は、2枚のラミネートフィルム10,20が、電線9と、クランプ4の基部41と、を挟み込んで保持する構造である。クランプ4は、ラミネートフィルム10の表面であって、電線9の配設経路に設けられたクランプ挿通孔104に挿通されることで、支持体の取付孔に挿入可能なクランプ4の挿入部42が、外部に向かって突出している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤハーネスに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車に代表される車両に搭載される電装機器を電気的に接続するために、ワイヤハーネスが車両の各部に配設されている。このようなワイヤハーネスは、予め定められた経路に沿って正しく配線ができること、つまり、電線の経路規制が容易なことが要求される。一般的に、電線の経路規制は、テーピング又は樹脂製のプロテクタの取り付けなどによって実現されることが多い。
【0003】
経路規制が行われた電線は、車両の配設経路に沿って取り付けられる。特許文献1には、ルーフトリムをルーフパネルに保持する取付部材が、ルーフトリムの裏側に敷設される電線を保持する部分を有することについて示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−7025号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、テーピングによる電線の経路規制は、テーピング作業が繁雑であり、さらに、作業者に応じて、作製されたワイヤハーネスの品質にばらつきが生じやすいという問題点を有している。
【0006】
また、樹脂製のプロテクタの取り付けによる電線の経路規制は、ワイヤハーネスの配置スペース及び重量の増大を招くという問題点を有している。このため、樹脂製のプロテクタによる電線の経路規制は、ルーフトリムの裏側などの薄い隙間への電線の敷設には適さない。さらに、従来の樹脂製のプロテクタは、重量が比較的大きいため、車両のフレーム又はパネルなどの支持体に対し、ネジなどの強固な固定具を用いて固定される必要がある。
【0007】
また、特許文献1に示される電線の保持機構では、ルーフトリムに設けられた複数の取付部材各々が、電線の複数の箇所各々を部分的に保持する。このため、ルーフトリムの傾き及びルーフトリムに加わる振動などによる電線の経路のずれが生じやすい。従って、特許文献1に示される電線の保持機構は、電線の経路のずれの防止のために、より多くの取付部材の装着又は他の補助的な電線保持具の装着など、煩雑な作業を要するという問題点がある。
【0008】
本発明は、電線の経路規制を軽量かつ薄い構成によって容易に実現できると共に、支持体への固定が容易なワイヤハーネスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、第1の発明に係るワイヤハーネスは、電線と、支持体に形成された取付孔に挿入される挿入部と前記挿入部を支持する基部とが形成され、前記挿入部が前記取付孔に挿入されることによって前記支持体に保持される留め具と、前記電線と前記留め具の前記基部とを挟んで重なる状態で相互に接着され、前記電線を予め定められた経路に沿う状態で保持するとともに前記留め具の前記基部を保持する2枚のラミネートフィルムと、を備える。
【0010】
第2の発明に係るワイヤハーネスは、第1の発明に係るワイヤハーネスであって、前記2枚のラミネートフィルムが、前記留め具の前記基部と前記基部に接して重ねられた前記電線とを挟んで接着されている。
【0011】
第3の発明に係るワイヤハーネスは、第2の発明に係るワイヤハーネスであって、前記留め具の前記基部に、前記電線の両側方へ起立した起立部が形成されている。
【0012】
第4の発明に係るワイヤハーネスは、第1ないし第3発明に係るワイヤハーネスであって、前記2枚のラミネートフィルムの一方に、前記留め具の前記基部の両側方へ突出した突出部が形成されている。
【発明の効果】
【0013】
第1の発明に係るワイヤハーネスは、電線及び留め具の一部を2枚のラミネートフィルムで挟み、それら2枚のラミネートフィルムを金型で加圧及び加熱するという簡易な工程により得られる。そのようなワイヤハーネスが採用されることにより、電線の経路規制と、電線への留め具の取り付けとを簡易に実現することができる。
【0014】
また、本発明に係るワイヤハーネスは、留め具の挿入部を支持体の取付孔に挿入するという簡易な作業によって支持体への固定が可能である。なお、2枚のラミネートフィルムは、樹脂成形部材によって形成された従来の一般的なプロテクタに比べて軽量である。このため、本発明に係るワイヤハーネスは、ネジなどの特に強固な固定具を用いることなく、支持体への固定が容易な留め具による支持体への固定が可能である。
【0015】
本発明に係るワイヤハーネスにおいて、電線に応力が加わった場合、応力と電線から留め具までの距離とに比例するトルクが、2枚のラミネートフィルムの支点である留め具の部分に加わる。トルクが大きいと、ラミネートフィルムが大きく撓み、電線の経路が本来の経路から大きくずれる。さらに、トルクが大きい場合、ラミネートフィルムでの留め具の部分が破損する。
【0016】
しかしながら、第2の発明によれば、電線が、留め具の基部に接して重ねられているため、電線から留め具までの距離が最短となり、ラミネートフィルムでの留め具の部分に加わるトルクが最小となる。その結果、電線に加わる応力に起因する電線の経路のずれ、及び電線保持具の破損が防止される。
【0017】
第3の発明によれば、留め具の基部に電線の両側方に起立した起立部が形成されているため、電線が両側方へ移動することを抑えることができる。
【0018】
第4の発明によれば、突出部が、2枚のラミネートフィルムの接着面に沿って留め具の基部が移動する範囲を制限する。この結果、留め具の基部が2枚のラミネートフィルムの接着面に沿って移動することにより、2枚のラミネートフィルムが剥がれることを防止する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るワイヤハーネス1の斜視図である。
【図2】ワイヤハーネス1の断面図である。
【図3】ワイヤハーネス1が備えるクランプ4の斜視図である。
【図4】ワイヤハーネス1のクランプ4が取り付けられている部分の下面図である。
【図5】ワイヤハーネス1の製造におけるフィルム重ね工程の第1工程を表す平面図である。
【図6】ワイヤハーネス1の製造におけるフィルム重ね工程の第2工程を表す平面図である。
【図7】ワイヤハーネス1の製造におけるフィルム重ね工程の第3工程を表す平面図である。
【図8】ワイヤハーネス1の製造におけるプレス工程を表す平面図である。
【図9】ワイヤハーネス1の製造におけるプレス工程の主要部の分解断面図である。
【図10】ワイヤハーネス1の製造におけるプレス工程の主要部の断面図である。
【図11】ワイヤハーネス1bの斜視図である。
【図12】ワイヤハーネス1bの断面図である。
【図13】本発明の第2の実施形態に係るワイヤハーネス1cの断面図である。
【図14】本発明の第3の実施形態に係るワイヤハーネス1dの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。以下の実施形態は、本発明を具体化した一例であって、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【0021】
<1.第1の実施形態>
以下、本発明の第1の実施形態に係るワイヤハーネス1の構成について説明する。図1に示されるように、ワイヤハーネス1は、複数の電線9と2枚のラミネートフィルム10,20と、複数のクランプ4と、各電線9の末端に設けられたコネクタ8と、を備える。
【0022】
ラミネートフィルム10,20は、それぞれ不図示のフィルムの層と不図示の接着剤の層とで構成されており、接着剤の層は、相手側に対向する面に形成されている。このような2枚のラミネートフィルム10,20が重ねられた状態で加熱されることにより、接着剤の層が溶け出す。この結果、2枚のラミネートフィルム10,20が接着される。
【0023】
図2に示される断面Dにおけるワイヤハーネス1の断面図のように、2枚のラミネートフィルムの一方は平坦なラミネートフィルム10であり、他方は異形のラミネートフィルム20である。異形のラミネートフィルム20は、電線9が嵌り込んだ溝を形成する立体部分22とその他の平坦部分23とが形成されたラミネートフィルムである。異形のラミネートフィルム20の平坦部分23は、平坦なラミネートフィルム10に接着された部分である。即ち、ワイヤハーネス1が備える複数の電線9及びクランプ4は、2枚のラミネートフィルム10,20で挟み込まれることによってラミネート加工されている。
【0024】
また、平坦なラミネートフィルム10及び異形のラミネートフィルム20の各々の電線9の経路に沿う複数の位置に、相互に連通する貫通孔11,21(図1参照)が形成されている。異形のラミネートフィルム20に形成された貫通孔21は、平坦なラミネートフィルム10に形成された貫通孔11よりも大きく形成されている。
【0025】
図3には、留め具の一例であるクランプ4が示されている。クランプ4は、車両のフレーム又はパネルなどの支持体に形成された取付孔に挿入されることによって取付孔の縁部に保持される用具である。クランプ4は、電線9の載置面を備える矩形の基部41と基部41に支持される挿入部42とが一体に樹脂成形された構造を有する。挿入部42は支持体の取付孔に挿入される部分であり、基部41は支持体の取付孔に挿入されない部分である。挿入部42は基部41の面から突出しており、先端で折り返されて側方に張り出した一対の張出部421を備えている。
【0026】
図4は、ワイヤハーネス1のクランプ4が取り付けられている部分の下面図である。クランプ挿通孔104は平坦なラミネートフィルム10の表面であって電線9の配設経路の各位置に設けられている。なお、クランプ挿通孔104は電線9の配設経路に沿っているならば異形のラミネートフィルム20に設けられていても構わない。
【0027】
クランプ挿通孔104は、張出部421が外側に広がる方向(張出方向)の張出部421の幅よりも大きい第1外縁部104aと、張出方向に直交する方向の挿入部42の幅よりも大きい第2外縁部104bと、を有する矩形の孔である。
【0028】
クランプ4のクランプ挿通孔104への取り付け時には、第1外縁部104aと張出部421の張出方向とを沿わせた状態にして、挿入部42をクランプ挿通孔104に挿通させる。そして、挿入部42をクランプ挿通孔104に挿通させた状態で、クランプ4を直角に回転させる。これによって、張出部421の張出方向と基部41が備える面の長手方向とが、第2外縁部104bに対して沿う状態になる。基部41の長手方向の幅は、第2外縁部104bよりも長いため、基部41の長手方向の両端が、クランプ挿通孔104周辺の内側の面に接して引っ掛かる。従って、クランプ4が、クランプ挿通孔104を介してラミネートフィルム10の外側に向かって抜け落ちることを防ぐことができる。このように、クランプ4はクランプ挿通孔104に取り付けられてから回転されるので、基部41の面の長手方向が、クランプ挿通孔104の第2外縁部より長ければ、基部41の面積をとりたてて大きくしなくても、クランプ4がクランプ挿通孔104から抜け落ちることを防ぐことができる。
【0029】
なお、クランプ4の基部41の面積がクランプ挿通孔104の面積よりも大きければ、クランプ4の取り付け時にクランプ4を回転させる必要はない。クランプ4のラミネートフィルム10への取り付けは、クランプ4をクランプ挿通孔104に嵌め入れるだけでよい。また、クランプ挿通孔104は矩形の孔である必要はない。クランプ4の挿入部42が挿入可能であるとともに、クランプ4の基部41がクランプ挿通孔104周辺のラミネートフィルム10に引っ掛かることによって、クランプ4がクランプ挿通孔104から抜け落ちなければ、クランプ挿通孔104はどのような形状であってもよい。
【0030】
支持体へのワイヤハーネス1の取り付け時には、クランプ挿通孔104に取り付けられたクランプ4の挿入部42が、支持体に設けられた不図示の取付孔に差し込まれる。
【0031】
張出部421は、可撓性を有し、両側に張り出した幅が、支持体の取付孔の幅よりも大きな幅で形成されている。挿入部42が支持体の取付孔に挿入される際に、張出部421は、取付孔の縁部(支持体)に接し、取付孔の幅まで収縮する。挿入部42が取付孔の内側へさらに押し込められると、張出部421の形状は、取付孔の縁部の裏側において、取付孔の幅よりも大きな幅になるまで復帰する。その結果、張出部421の一部が、取付孔の縁部の裏側に引っ掛かり、クランプ4が、支持体における取付孔の縁部に保持される。
【0032】
ワイヤハーネス1を構成する電線9は、挿入部42が突出していない側の基部41の面(載置面)上に載置されている。これにより、クランプ4及び電線9は相互に接して重なる状態となる。ワイヤハーネス1は、2枚のラミネートフィルム10,20が、重なったクランプ4の基部41と電線9とを挟み込む状態で相互に接着された構造を有している。ラミネートフィルム10,20の挟み込みにより、電線9は定められた経路に沿う状態で保持され、クランプ4の基部41は電線9と重なる位置に保持される。
【0033】
また、後述するように、重ねられた2枚のラミネートフィルム10,20は、金型で加圧及び加熱されるという簡易な工程を経て、電線9及びクランプ4が配置されていない領域において接着される。
【0034】
以上のように、本実施形態に係るワイヤハーネス1は、電線9及びクランプ4の基部41を2枚のラミネートフィルム10,20で挟み、それら2枚のラミネートフィルム10,20を加圧及び加熱するという簡易な工程により得られる。そのようなワイヤハーネス1が採用されることにより、電線9の経路規制と、電線9へのクランプ4の取り付けとを実現することができる。従って、煩雑な作業を要することなく、電線9の経路規制、または電線9へのクランプ4の取り付けを簡易に行うことができる。
【0035】
また、ワイヤハーネス1は、クランプ4の挿入部42を支持体の取付孔に挿入するという簡易な作業によって支持体への固定が可能である。なお、2枚のラミネートフィルムは、樹脂成形部材によって形成された従来の一般的なプロテクタに比べて軽量である。このため、本発明に係るワイヤハーネス1は、ネジなどの特に強固な固定具を用いることなく、支持体への固定が容易なクランプ4による支持体への固定が可能である。
【0036】
一般的に、電線9に応力が加わった場合、その応力と電線9からクランプ4までの距離とに比例するトルクが大きいと、ラミネートフィルム10が撓み、電線9の経路が本来の経路から大きくずれる。さらにトルクが大きい場合、ラミネートフィルム10のクランプ4周囲の部分が破損する。しかしながら、本実施形態では、クランプ4は、ラミネートフィルム10における電線9の経路と重なる位置に設けられている。このため、電線9からクランプ4までの距離が最短となり、ラミネートフィルム10のクランプ4の部分に加わるトルクが最小となる。この結果、電線9に加わる応力に起因する電線9の経路のずれ、ラミネートフィルム10の破損が防止される。
【0037】
また、クランプ4は、2枚の極薄いラミネートフィルム10,20の挟み込みにより、電線9に対して一体に保持される。このようなラミネートフィルム10,20によるクランプ4の保持機構は、電線9に巻き付けられるベルトとクランプとが一体に構成されたベルト付クランプと比較して、比較的大きな厚みを有するベルトが不要となる分だけ薄くなる。このため、本実施形態に係るワイヤハーネス1は、ルーフトリムの裏側などの薄い隙間への敷設に適する。
【0038】
次に、図5から図10を参照しつつ、ワイヤハーネス1の製造方法の一例について説明する。ワイヤハーネス1は、フィルム重ね工程、プレス工程及び加熱工程を経て製造される。以下、各工程について説明する。
【0039】
<フィルム重ね工程>
フィルム重ね工程は、複数の電線9を挟んで2枚のラミネートフィルム10,20を重ねる工程である。このフィルム重ね工程は、例えば、以下に示される第1工程から第3工程までの各工程を含む。
【0040】
<フィルム重ね工程の第1工程>
フィルム重ね工程の第1工程は、図5(a)に示されるように、下側の金型30の上に複数の貫通孔11が形成された1枚目の平坦なラミネートフィルム10を、接着面を上にして載置する工程である。下側の金型30は、電線9の経路を規制する複数の棒状の突起部31、クランプ4の挿入部42を収容可能なクランプ溝部33、及びその他の平坦な部分が上面に形成された金型である。
【0041】
クランプ4の挿入部42は、クランプ溝部33に収容された状態で、後述する加熱工程及びプレス工程が行われる。この第1工程では、1枚目の平坦なラミネートフィルム10が、突起部31各々が対応する貫通孔11に貫通するようにして下側の金型30の上に載置される。
【0042】
図5(b)は、第1工程が終了した直後の状態、即ち、下側の金型30の上に平坦なラミネートフィルム10のみが載置された状態を示す。矩形のクランプ挿通孔104が、ラミネートフィルム10の表面で、電線9の配設経路に設けられている。ラミネートフィルム10が金型30上に載置されると、クランプ挿通孔104とクランプ溝部33とが重なりあった状態となる。
【0043】
<フィルム重ね工程の第2工程>
フィルム重ね工程の第2工程は、図6に示されるように、1枚目の平坦なラミネートフィルム10の上に、クランプ4及び電線9を載置する工程である。図6(a)は、クランプ4が各クランプ挿通孔104及びクランプ溝部33に嵌め入れられた状態を示す。クランプ4は、クランプ挿通孔104に挿通されると直角に回転されて、クランプ挿通孔104の第2外縁部104bと、張出部421の張出方向とを沿わせた状態にされる。
【0044】
続いて、クランプ4が挿通された1枚目の平坦なラミネートフィルム10の上に、複数の電線9を下側の金型30の棒状の突起部31に沿って配置する。図5(b)は、第2工程が終了した直後の状態、即ち、下側の金型30の上に平坦なラミネートフィルム10が載置され、さらにその上に複数のクランプ4及び複数の電線9が配置された状態を示す。
【0045】
下側の金型30の各突起部31は、予め定められた電線9の配設経路の両側の位置に設けられている。従って、作業者は、複数の電線9各々を下側の金型30の上面に対向して配置された一対の突起部31の間に配置することにより、容易に複数の電線9を予め定められた経路に沿って配置することができる。
【0046】
<フィルム重ね工程の第3工程>
フィルム重ね工程の第3工程は、図7(a)に示されるように、1枚目のラミネートフィルム10及びその上の複数のクランプ4及び複数の電線9のさらに上に、下側の金型30の突起部31各々が貫通する複数の貫通孔21が形成された2枚目の平坦なラミネートフィルム20を、接着面を下にして重ねる工程である。2枚目の平坦なラミネートフィルムは、後の工程で、異形のラミネートフィルム20へと成形される。従って、2枚目の平坦なラミネートフィルム20に形成された貫通孔21は、1枚目の平坦なラミネートフィルム10に形成された貫通孔11よりも大きく形成されている。
【0047】
図7(b)は、第3工程が終了した直後の状態、即ち、下側の金型30の上に平坦なラミネートフィルム10が載置され、その上に複数のクランプ4及び複数の電線9が配置され、さらにその上に2枚目の平坦なラミネートフィルム20が重ねられた状態を示す。
【0048】
以上に示されるように、フィルム重ね工程では、複数の電線9を、予め定められた経路に沿って配置された棒状の突起部31に支持させるとともに、クランプ4をクランプ挿通孔104及びクランプ溝部33に嵌め入れるため、電線9及びクランプ4の配置作業は容易である。そして、2枚のラミネートフィルム10,20が、下側の金型30の突起部31に干渉しないよう、2枚のラミネートフィルム10,20には、突起部31が貫通する貫通孔11,21が形成されている。
【0049】
<プレス工程>
ワイヤハーネス1の製造でのプレス工程は、2枚目の平坦なラミネートフィルム20の上から、上側の金型50を下側の金型30へ向けて押し付ける工程である。上側の金型50は、複数の電線9が嵌り込む溝51と下側の金型30の突起部31が入る穴52とその他の平坦な部分とが下面に形成された金型である。
【0050】
図9は、ワイヤハーネス1の製造でのプレス工程の主要部の分解断面図である。また、図10は、ワイヤハーネス1の製造でのプレス工程の主要部の断面図である。これら主要部の断面は、図8に示される断面Eの下側の金型30、1枚目のラミネートフィルム10、電線9、クランプ4、2枚目のラミネートフィルム20及び上側の金型50の断面を含む。
【0051】
図8に示されるように、下側の金型30の上面には、電線9の経路を規制する棒状の突起部31とその他の平坦な部分とが形成されている。また、1枚目の平坦なラミネートフィルム10及び2枚目の平坦なラミネートフィルム20各々には、突起部31各々に対応する位置、即ち、電線9の経路に沿う複数の位置に、相互に連通する貫通孔11,21が形成されている。さらに、上側の金型50の下面には、複数の電線9が嵌り込む溝51と突起部31が入る穴52とその他の平坦な部分とが形成されている。
【0052】
そして、図10に示されるように、上側の金型50が、下側の金型30へ向けて押し付けられることにより、2枚目の平坦なラミネートフィルム20は、上側の金型50の下面に沿った形状に成形される。即ち、2枚目の平坦なラミネートフィルム20は、電線9が嵌り込んだ溝を形成する立体部分22と、その他の平坦部分23とを含む異形のラミネートフィルム20へと成形される。異形のラミネートフィルム20の平坦部分23は、後の加熱工程を経ることにより、1枚目の平坦なラミネートフィルム10に接着される。
【0053】
一方、1枚目の平坦なラミネートフィルム20は、下側の金型30の平坦な上面に押し付けられることにより、平坦なまま維持される。
【0054】
ところで、2枚目の平坦なラミネートフィルム20が異形のラミネートフィルム20へ成形される際、その成形に伴って2枚目のラミネートフィルム20の貫通孔21の位置がずれる。そのため、2枚目のラミネートフィルム20の貫通孔21が小さいと、その貫通孔21の縁部が位置決め用の突起部31に引っ掛かかり、2枚目のラミネートフィルム20の成形が阻害される。
【0055】
しかしながら、2枚目のラミネートフィルム20に形成された貫通孔21は、十分な遊びを有するように、1枚目のラミネートフィルム10に形成された貫通孔11よりも大きく形成されている。これにより、2枚目のラミネートフィルム20は、突起部31に引っ掛かかることなく円滑に成形される。
【0056】
<加熱工程>
ワイヤハーネス1の製造での加熱工程は、プレス工程の状態にある下側の金型30及び上側の金型50のうちの一方又は両方をヒータ7で加熱することにより、2枚のラミネートフィルム10,20を、相互に接する平坦部分で接着する工程である。
【0057】
図5、図8、図9及び図10に示される例では、ヒータ7は、下側の金型30及び上側の金型50各々に埋め込まれ、図10に示されるプレス工程の状態にある下側の金型30及び上側の金型50の両方を加熱する。なお、ヒータ7は、下側の金型30及び上側の金型50各々の外側に取り付けられてもよい。また、ヒータ7が、下側の金型30及び上側の金型50のうちの一方にのみ設けられた構成も考えられる。
【0058】
このようにして、電線9が2枚のラミネートフィルム10,20で挟み込まれたワイヤハーネス1が形成される。そして、ワイヤハーネス1の形を整えるために、接着されたラミネートフィルム10,20の不要な部分が切断されて、図1に示されるようなワイヤハーネス1が形成される。
【0059】
以上に示されたように、ワイヤハーネス1は、煩雑なテーピング作業を要することなく、クランプ4及び電線9を2枚のラミネートフィルム10,20で挟み、それら2枚のラミネートフィルム10,20を金型30,50で加圧し、さらにヒータ7で加熱するという簡易な工程により製造される。また、そのような簡易な工程により製造されるワイヤハーネス1の品質は、作業者の熟練度合いに関わらず安定する。
【0060】
ワイヤハーネス1は、2枚のラミネートフィルム10,20がクランプ4の基部41と基部41に接して重ねられた電線9とを挟んだ構造であった。つまり、ラミネートフィルム10と、ラミネートフィルム20の立体部分22と、の間にクランプ4が配設されていたが、このような形態には限られない。ワイヤハーネス1bのように、ラミネートフィルム10と、ラミネートフィルム20の平坦部分23と、の間にクランプ4が配設された形態であっても構わない。つまり、図12に示されるように、クランプ4の基部41は電線9に接しておらず、クランプ4は電線9の側方であって、電線9の配設経路を離れた位置のラミネートフィルム10,20間に配設されていてもよい。
【0061】
このように、電線9の配設経路とは異なる位置にもクランプ4を設けることができる。例えば、クランプ4を挿入する取付孔を設けるのに適した支持体が、電線9の配設経路上の適当な位置に存在しない場合がある。このような場合においても、本実施形態に係るワイヤハーネス1bが採用されることにより、適当な支持体が存在しない経路に沿って電線9を配設し、電線9の配設経路から離れた位置に存在する支持体の取付孔の部分にクランプ4を取り付けてワイヤハーネス1bを固定することができる。従って、電線9の配設経路の自由度が高まる。なお、第1の実施形態のように、電線9の配設経路にクランプ9を取り付ける形態と、本実施形態のように、電線9の配設経路から離れた位置にクランプ9を取り付ける形態とを組み合わせることも可能である。
【0062】
<2.第2の実施形態>
次に、図13を参照しつつ、本発明の第2実施形態に係るワイヤハーネス1cの構成を説明する。ワイヤハーネス1cは、上述のワイヤハーネス1,1bの構成に対し、ラミネートフィルム10に形成された突起部105が追加された構成を有している。その突出部105は、ラミネートフィルム10における、基部41が配置される部分の両側方に形成されている。図13において、図1から図12に示される構成要素に対応する構成要素は同じ参照符号が付されている。以下、ワイヤハーネス1cのワイヤハーネス1,1bと異なる点についてのみ説明する。
【0063】
図13に示されるように、突出部105は、ラミネートフィルム10の表面における、クランプ4の基部41の両側方の位置に基部41の外縁部に沿って形成され、ラミネートフィルム20の接着面に向かう方向へ突出している。
【0064】
ワイヤハーネス1が強い応力を受けると、クランプ4の基部41が、2枚のラミネートフィルム10,20の間で移動し、2枚のラミネートフィルム10,20を引き剥がす恐れがある。ワイヤハーネス1cにおいては、突出部105が、基部41の移動を規制するため、ラミネートフィルム10,20の剥がれを防止できる。
【0065】
なお、突出部105は必ずしもラミネートフィルム10に設けられることはなく、ラミネートフィルム20の表面において、ラミネートフィルム10へ向かって突出して形成されても構わない。
【0066】
<3.第3の実施形態>
次に、図14を参照しつつ、本発明の第3実施形態に係るワイヤハーネス1dの構成を説明する。ワイヤハーネス1dは、上述のワイヤハーネス1,1b,1cと異なり、クランプ4の基部41bが起立部411を有している。図14において、図1から図13に示される構成要素に対応する構成要素は、同じ参照符号が付されている。以下、ワイヤハーネス1dの、ワイヤハーネス1,1b,1cと異なる点についてのみ説明する。
【0067】
図14に示されるように、ワイヤハーネス1dにおける、クランプ4bの基部41bの表面には、起立部411が設けられている。起立部411は、電線9と接する載置面の両側方の端部に沿って設けられており、載置面と載置面上の電線9との隙間を埋めるようにして、基部41bの載置面上に肉盛りされた部分である。このように、起立部411が基部41bに設けられていることによって、電線9は安定してクランプ4の基部41b上に載置されることとなり、側方への電線9の移動を抑えることができる。
【0068】
<4.変形例>
本願発明は、上記実施形態に限られるものではない。ワイヤハーネス1は、貫通孔11,21が形成されていない形態であっても構わない。具体的には、上記実施形態では、金型30が棒状の突起部31を有しており、予め定められた経路に沿って配置された突起部31に電線9を支持させていた。このため、ラミネートフィルム10,20はそれぞれ貫通孔11,21が設けられていたが、このような形態には限られない。例えば、金型30が突起部31ではなく、電線9の配設経路に沿って形成された溝を有している形態であれば、電線9は溝に嵌め入れられることで電線9を予め定められた経路に沿って配置させることができる。従って、金型30が突起部31を有する必要はない。また、ラミネートフィルムは、事前に溝に嵌め込むことができるように、電線9が嵌め入れられる溝を形成する立体部分と平坦なラミネートフィルム20に接着される平坦な部分とを含む形状に成形された異形のラミネートフィルム10が用いられる。また、金型30の溝の中心には、プレス加工及び熱加工時のクランプ4の位置固定のために、クランプ溝部33が設けられている。
【符号の説明】
【0069】
1,1b,1c,1d ワイヤハーネス
4 クランプ
9 電線
10,20 ラミネートフィルム
11,21 貫通孔
41 基部
42 挿入部
104 クランプ挿通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電線と、
支持体に形成された取付孔に挿入される挿入部と前記挿入部を支持する基部とが形成され、前記挿入部が前記取付孔に挿入されることによって前記支持体に保持される留め具と、
前記電線と前記留め具の前記基部とを挟んで重なる状態で相互に接着され、前記電線を予め定められた経路に沿う状態で保持するとともに前記留め具の前記基部を保持する2枚のラミネートフィルムと、を備えるワイヤハーネス。
【請求項2】
請求項1に記載のワイヤハーネスであって、
前記2枚のラミネートフィルムが、前記留め具の前記基部と前記基部に接して重ねられた前記電線とを挟んで接着されている、ワイヤハーネス。
【請求項3】
請求項2に記載のワイヤハーネスであって、
前記留め具の前記基部に、前記電線の両側方へ起立した起立部が形成されている、ワイヤハーネス。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載のワイヤハーネスであって、
前記2枚のラミネートフィルムの一方に、前記留め具の前記基部の両側方へ突出した突出部が形成されている、ワイヤハーネス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−157158(P2012−157158A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−13901(P2011−13901)
【出願日】平成23年1月26日(2011.1.26)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】