説明

ワイヤーソーイング時の半導体材料製被加工物の冷却方法

【課題】半導体材料からなる被加工物のワイヤーソーイング時の最適な冷却を保証しつつ、切削液(ソーイングスラリー、スラリー)の特性に影響を及ぼさない方法を開発する。
【解決手段】本発明は、ワイヤーソーイング時に、たとえばシリコン、ゲルマニウムまたはガリウムヒ素などの半導体材料からなる円筒形被加工物を冷却する方法に関し、切断時にノズルによって冷却液が半導体材料被加工物に塗布される。被加工物を支承するワイパーが、冷却液が切削液と混合するのを防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の詳細な説明
本発明は、ワイヤーソーイング時に、たとえばシリコン、ゲルマニウムまたはガリウムヒ素などの半導体材料からなる円筒形被加工物を冷却する方法に関し、切断時にノズルによって冷却液が半導体材料被加工物に塗布される。
【背景技術】
【0002】
電子機器、超小型電子機器および超小型電気機械装置には、出発物質(基板)として、広域的および局所的な平坦度、片面参照型の局所的な平坦度(ナノトポロジー)、粗度ならびに清浄度についての極限的な要件を有する半導体ウェハが必要である。半導体ウェハは、半導体材料、特にガリウムヒ素などの化合物半導体、およびシリコンや時にはゲルマニウムなどの主に元素半導体のウェハである。先行技術によると、半導体ウェハは、多数の連続した処理ステップで製造される。第1のステップでは、たとえば、半導体材料の単結晶(ロッド)をチョクラルスキー法によって引上げるか、半導体材料の多結晶ブロックを鋳造し、さらなるステップにおいて、結果として得られる半導体材料の円柱状またはブロック形状の被加工物(インゴット)をワイヤーソーイングによって個々の半導体ウェハに切断する。
【0003】
ワイヤーソーは、半導体材料からなる被加工物から多数のウェハを切断するために用いられる。米国特許第5,771,876号には、半導体ウェハの製造に好適なワイヤーソーの機能原理が記載されている。これらのワイヤーソーの基本的な構成部品は、マシンフレームと、前送り装置と、平行なワイヤー部のウェブ(ワイヤーウェブ)を構成するソーイング工具とを含む。
【0004】
一般にワイヤーウェブは、少なくとも2つのワイヤー案内ロール同士の間に張力が掛けられた多数の平行なワイヤー部によって形成され、ワイヤー案内ロールは回転可能に装着されており、その少なくとも1つが駆動ロールである。
【0005】
ワイヤー部は、ロールシステムの周りに螺旋状に案内され、かつストックロールから受取ロール上に解かれる、単一の有限ワイヤーに属し得る。一方、米国特許第4,655,191号特許明細書は、多数の有限ワイヤーが設けられ、ワイヤーウェブの各ワイヤー部がこれらワイヤーのうちの1本に割当てられたワイヤーソーを開示している。欧州特許出願公開第0522542号は、多数の循環ワイヤーループがロールシステムの周囲を取巻くワイヤーソーを開示している。
【0006】
ソーイングワイヤーは、切断層で覆われ得る。強固に結合された研磨材を用いずにソーイングワイヤーを有するワイヤーソーを使用する場合、懸濁液(切削液、ソーイングスラリー、スラリー)の形態の研磨材が切断処理時に供給される。切断処理時、被加工物がワイヤーウェブを通過し、ワイヤーウェブの内部では、ソーイングワイヤーが、互いに平行なワイヤー部の形態で配置されている。ワイヤーウェブの通過は前送り装置によってもたらされ、当該装置は、被加工物をワイヤーウェブに逆らって移動させるか、ワイヤーウェブを被加工物に逆らって移動させるか、被加工物およびワイヤーウェブを互いに逆らって移動させる。
【0007】
半導体材料からなる被加工物から半導体ウェハを切断する際、被加工物は従来、ソーイングストリップに接続され、処理の最後にソーイングワイヤーが当該ストリップに切込む。ソーイングストリップはたとえば、被加工物の外側面に接着接合またはセメント接合されるグラファイトストリップである。次に、ソーイングストリップを有する被加工物を支持体にセメント接合する。切断後、結果として得られる半導体ウェハは、くしの刃状にソーイングストリップ上に固定され続けるため、ワイヤーソーから取外すことができる。その後、残りのソーイングストリップを半導体ウェハから分離する。
【0008】
半導体材料からなる被加工物からの、たとえば円柱状単結晶ロッドまたは立方多結晶ブロックなどからの半導体ウェハの製造では、ワイヤーソーイングに特に注意が必要である。ソーイング処理の目的は一般に、切断された各半導体ウェハが、できる限り平坦な、互いに平行な側面を有することである。ウェハのいわゆる反りは、所望の理想的な形状からの実際のウェハ形状の偏差の公知の尺度である。反りは一般に、せいぜい数マイクロメートル(μm)になるべきである。反りは、被加工物に対するソーイングワイヤー部の相対移動に起因し、当該移動は、ソーイング処理の最中に、被加工物に対して軸方向に起こる。この相対移動はたとえば、ソーイング時に発生した切断力、熱膨張によるワイヤー案内ロールの軸方向の変位、軸受の遊び、または被加工物の熱膨張に起因し得る。
【0009】
被加工物を研磨材によって切断する際に大量に放熱し、これによってソーイング処理の最中に被加工物が加熱され、したがって熱膨張が起こる。そしてこれによって、反りが増大するだけでなく、切断されたウェハが大きくうねる。被加工物に切込んだ後の切断の最初の数ミリメートルにわたって、特に激しい温度上昇が起こる。係合長さが増大するにつれて、被加工物の温度がさらに上昇する。最大係合長さの領域では、被加工物温度も最大になり、その後やや減少するが、これは、切断熱の減少に加えて、結果として得られるウェハの冷却フィン効果にも起因する。ワイヤーソーイング時の+/−5℃の被加工物の温度変化の反りおよびうねりに対する影響は無視できるものであるが、一般には追加費用をかけなければ達成できない。
【0010】
被加工物は、半導体ウェハを製造するためのワイヤーソーイング処理時に加熱されるので、被加工物の熱誘導膨張を防止し、したがって切断プロファイルの不利な曲率を防止するためには、被加工物はソーイング処理時に常に冷却され続けなければならない。ワイヤーソーイング時に被加工物を冷却するさまざまな方法が公知である。欧州特許出願公開第2070653号では、被加工物の冷却速度を監視し、ソーイングワイヤーの切断深さが被加工物の直径の2/3以上になると、さらなる冷却液(冷却スラリー、スラリー)を追加する。欧州特許第1097782号およびドイツ特許出願公開第10122628号には、被加工物に熱的調整冷却液を適用する方法が記載されている。
【0011】
上述の方法の不利な点は、冷却液が切断領域に流れ込んで切削液と混合することである。したがって、好適な冷却液の選択肢が非常に限定され、冷却液は、切削液と同様の組成でなければならない。冷却液と切削液に全く同じ媒体を用いる場合であっても、冷却液が切断挙動に悪影響を及ぼすという問題が残る。
【0012】
この悪影響は、結晶の好適な冷却のための冷却液の温度は、切削液の温度とは異なるレベルでなければならないためである。しかし、切削液の温度は、研磨材の移動特性を決定し、かつ、したがって切断品質に影響を及ぼす当該切削液の粘度にとって非常に重要である。したがって、切削液の温度は通常は正確に調整され、切断時に制御された態様で任意に変化する。特に、切削液中のキャリア媒体としてグリコールを用いる場合は、粘度の温度依存性が大きい。
【0013】
さらに、切断ウェブ上へ流れる冷却液は、切削液の温度にも影響を及ぼす。これによってワイヤーウェブ温度の望ましくない変化が起こるため、切断品質が劣化してしまう。
【0014】
米国特許出願公開第2010/0163010号には、この問題の回避を試みた方法が記載されている。この場合、ソーイングワイヤーが被加工物から離れる被加工物の側にのみ冷却液が塗布されるように、冷却液の供給が交互に開始および停止される。これは、冷却液が、切削溝に入る切削液と直接混合するのを防止することを意図している。しかし、程度は減少するものの、冷却液は依然としてワイヤーウェブに達し、切断の熱的および機械的条件を変えてしまう。この方法では、冷却液と切削液に全く同じ媒体を使用する必要がある。そうしなければ、切削液が制御不可能に変質してしまうからである。
【0015】
特開2005−329506号は、冷却気体を冷却液としてソーイングワイヤーに吹き掛ける方法を開示している。この方法では、切削液の粘度が同様に低下して、切断品質が劣化し得る。さらに、気体の熱容量が比較的低いために、切断時に通常発生する熱量の十分な放散を保証することができないため、気体は冷却について、限定的にしか好適でない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】米国特許第5,771,876号
【特許文献2】米国特許第4,655,191号
【特許文献3】欧州特許出願公開第0522542号
【特許文献4】欧州特許出願公開第2070653号
【特許文献5】欧州特許第1097782号
【特許文献6】ドイツ特許出願公開第10122628号
【特許文献7】米国特許出願公開第2010/0163010号
【特許文献8】特開2005−329506号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明の目的は、半導体材料からなる被加工物のワイヤーソーイング時の最適な冷却を保証しつつ、切削液(ソーイングスラリー、スラリー)の特性に影響を及ぼさない方法を開発することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
この目的は、ワイヤーソーイング時に半導体材料からなる円筒形被加工物を冷却する方法であって、ワイヤーウェブが、平行に配置されたワイヤー部からなり、ワイヤー部と被加工物との反対方向の相対移動によってソーイング時に被加工物を貫通し、被加工物の温度は、ワイヤーソーイング時に冷却液によって制御され、ワイパーが被加工物を支承し、冷却液は、被加工物の表面を支承するワイパーの上方で被加工物に塗布され、冷却液は、被加工物を支承するワイパーによって被加工物の表面から取除かれる方法によって達成される。本発明に係る方法によって、結果として得られる半導体ウェハの反りおよび製品の平坦特性が向上するように結晶を冷却することもできる。さらに、本発明に係る方法によって、切削液とは無関係に選択できる冷却液を用いることができる。
【0019】
円筒形被加工物は、平行な直線によって形成される、2つの平行な平面(端面)および外側面からなる表面を有する幾何学的形状の物体である。円柱状本体の場合、端面は丸く、外側面は凸状である。立方円筒形の被加工物の場合、外側面は平面である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】先行技術に係る半導体材料からなる円柱状被加工物を切断するための構造を示す図であり、図1に示す物体の符号は図2の符号と同一であり、図2の説明文にも用いる。
【図2】半導体材料からなる円柱状被加工物の例を参照した、本発明に係る方法の好ましい基本的構造を示す図である。
【図3】半導体材料製結晶からワイヤーソーイングによって先行技術に従って製造された、直径300mmの半導体ウェハについてのナノトポロジーパラメータ「うねり」(W)および「局所的な反り」(L)を一例として示す図である。
【図4】半導体材料製結晶からワイヤーソーイングによって本発明に従った方法で製造された、直径300mmの半導体ウェハについてのナノトポロジーパラメータ「うねり」(W)および「局所的な反り」(L)を一例として示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図2を参照して、本発明に係る方法の実施例を以下に説明する。
本発明に係る方法では、従来のワイヤーソーを使用する。これらのワイヤーソーの基本的な構成部品は、マシンフレームと、前送り装置と、平行ワイヤー部のウェブを構成するソーイング工具とを含む。被加工物は全体的に装着板に固定され、ワイヤーソー内で当該板に締付けられる。
【0022】
一般に、ワイヤーソーのワイヤーウェブは、少なくとも2つ(任意に3つまたは4つ以上)のワイヤー案内ロール7同士の間に張力が掛けられた多数の平行ワイヤー部6によって形成され、ワイヤー案内ロールは回転可能に装着されており、ワイヤー案内ロールの少なくとも1つが駆動される。ワイヤー部は一般に、ロールシステムの周りに螺旋状に案内され、かつストックロールから受取ロール上に解かれる、単一の有限ワイヤーに属する。
【0023】
ノズル5によって、切削液がワイヤー部に塗布される。外側面10および2つの端面3aを有する切断対象の被加工物3は、端面3aがワイヤー部6と平行に並ぶように、ソーイングストリップ1によって保持装置(図示せず)に締結される。ソーイング処理時、前送り装置は、ワイヤー部と被加工物との反対方向の相対移動を引起す。この前送り移動の結果として、切削液が塗布されるワイヤーが被加工物を通って作用し、平行な切溝を形成する。
【0024】
ワイヤーウェブのソーイングワイヤーがたとえばダイヤモンド研磨材または炭化ケイ素などの強固に結合された研磨材を含有するワイヤーソー、および、ソーイングワイヤーが研磨材層を有しておらず、ソーイング処理の最中または前にソーイングワイヤーに塗布される研磨材を含有する切削液によって切断力が与えられるワイヤーソーの両方が、本発明に係る方法に好適である。
【0025】
先行技術に係るすべての懸濁液が、切削液として好適である。好ましくは、キャリア材料としてグリコール、油または水を含有し、研磨材として炭化ケイ素を含有する切削液が用いられる。
【0026】
ソーイング処理時に発生する熱を放散するのに十分な熱容量を有するすべての液体媒体が、冷却液として好適である。好適な冷却液はたとえば、水、グリコール、または先行技術に係る切削液である。
【0027】
好ましくは、ソーイング処理時に用いられる切削液が、冷却液として用いられる。
好ましくは、たとえば水などの熱容量の高い媒体も冷却液として用いられる。
【0028】
特に好ましくは、切削液用のキャリア媒体(たとえばグリコール、油または水)が冷却液として用いられる。
【0029】
好ましくは、ソーイング時に、ワイヤーウェブのワイヤー部6が、ワイパー8の取付点よりも下方で被加工物3を貫通する。冷却液4は、本発明に係る方法で用いられるワイパーシステムの上方で、ソーイング処理時にノズル2を通じて、ワイパー8が好ましくは両側を支承する被加工物3の外側面10に塗布される。好ましくは、2本のワイパー8と、好ましくはワイパー8の各々を支承するそれぞれの収集トラフ9からなるワイパーシステムは、切断対象の被加工物3においてワイヤーウェブの規定された水平方向の切断位置に達するまで、ソーイング処理時に2本のワイパー8が外側面10の左右(被加工物の軸に対して)を支承するように、ホルダ11からなる締結装置によって案内される。外側面10上を流れる冷却液4は、外側面10を支承するワイパー8によって、それぞれの収集トラフ9内へ取除かれる。これによって確実に、冷却液4がソーイング処理時に排出され、切削液12およびワイパーの下方にあるワイヤーウェブのワイヤー部6と接触することが防止される。
【0030】
好ましい実施例では、被加工物の冷却は切断の前または開始時、すなわち、ワイヤーウェブのソーイングワイヤー6が被加工物3の表面に接触したときに開始される。
【0031】
冷却液4は好ましくは、ソーイング処理時に、被加工物3の外側面10を支承するワイパーシステムの上方で円筒形被加工物3の外側面10に塗布される。
【0032】
本発明の同様に好ましい構成では、冷却液4はソーイング処理時に、端面を支承するワイパーシステムの上方で被加工物の端面3aに塗布される。
【0033】
本発明の別の可能な構成では、被加工物3の下方にソーイングストリップ1が取付けられ、ワイヤーウェブがソーイング時に上方から被加工物を貫通する。本実施例ではワイヤーウェブの下方にあるワイパーシステムが、本実施例では被加工物の表面(外側面または端面のいずれか一方)から切削液を取除くため、下方から当該表面上へ案内される冷却液4と混合することが防止される。
【0034】
ワイパーシステム用の締結装置は、たとえば、ワイヤーウェブに対して水平方向に傾斜および/または移動可能な、好ましくは移動ホルダ11からなり得る。
【0035】
ワイパーシステム用の本発明の好ましい実施例で用いられる締結装置は、好ましくはばね13によって接続される2つの移動(好ましくは傾斜可能)ホルダ11からなる。被加工物に向けられた2つのホルダの端の各々に、ワイパー8およびワイパー8を支承する収集トラフ9がある。締付装置は、切断対象の被加工物において、ワイヤーウェブの規定された自由に選択可能な水平方向の切断位置または貫通深さに達するまで、外側面10または端面3a上のワイパー8の取付点とワイヤーウェブとの間の垂直方向の距離が一定であるように、ソーイング装置に堅固に接続される。規定点に達するのは、たとえば、ワイヤーウェブのワイヤー部6がソーイングストリップ1に切込んだときである。
【0036】
ワイヤーウェブがソーイングストリップ1に切込んだとき、切断による熱の発生は、切断長さが短いため既に比較的小さく、冷却はもはや不要である。また、ソーイング処理によってこのときまでに生成されたウェハの面が冷却フィンとして作用する。
【0037】
規定点に達するまで、ワイパー8はソーイング処理時に外側面10または端面3aを支承する。この規定点に達すると、外側面10または端面3aへの冷却液4の塗布が終了し、ワイパーシステムはホルダ11によって外側面10または端面3aから取外される。
【0038】
被加工物3の外側面10または端面3aからの両側のワイパー8の取外しは好ましくは、ワイヤーウェブの前送り移動に結合された好適な端部停止装置を用いて機械的に実行される。端部停止装置は好ましくは、被加工物3の外側面10または端面3aから離れるようなワイパーの折り畳みを引起す。同様に好ましくは、被加工物3の外側面10または端面3aからの両側のワイパーの取外しは、ワイヤーウェブの平面に対して水平方向に延在するレール上で実行される。
【0039】
特に好ましくは、被加工物3の外側面10または端面3aからのワイパー8の取外しは、サーボモータを用いたセンサ制御によって実行される。
【0040】
ワイパーシステムのホルダ11は好ましくは、凸状外側面10を有する円柱状被加工物3の場合であっても、規定点に達するまで、ワイパー8が先行技術に係るソーイング処理時に外側面10の両側を常に支承することによって、ワイパーが取外されるまで冷却液4が確実に収集トラフ9に流れ込むように設計される(図2にはわかりやすくするために図示せず)。
【0041】
ソーイング処理の開始時、凸状外側面10を有する円柱状被加工物3の場合、ワイパー8の2つの取付点同士の間隔は被加工物3の直径と比べて小さく、ソーイング処理の最中に、最大で被加工物3の直径まで増大した後、再び減少する(被加工物3の直径に対して)。規定点に達すると、ワイパー8は収集トラフ9とともに外側面10から取外される。ソーイング処理の開始から規定点に達するまでの、凸状外側面10上のワイパー8の継続的な支承は、好ましくは、ばね13の張力およびホルダ11の設計によって保証される。
【0042】
端面に垂直な平行な直線によって外側面が形成されるブロック形状被加工物の場合、ホルダ11はばね13とともに同様に、ソーイング処理時に、規定点に達するまで、ワイパー8が収集トラフ9とともに、冷却液4が塗布される外側面10を支承することを保証する。
【0043】
本発明の同様に好ましい実施例では、移動(好ましくは傾斜可能)ホルダ11が、たとえばレール上でワイヤーウェブのワイヤー部6の切断方向に平行に移動可能であるようにワイヤーソーイング装置に接続されて、たとえば、ソーイング処理時の外側面10上のワイパーの取付点同士の異なる間隔を補償することができる。
【0044】
好ましくは、被加工物3の外側面10または端面3a上のワイパー8の支承は、ばね13の力によって保証される。
【0045】
別の好ましい実施例では、ワイパーシステムの支承はセンサによって制御される。切断対象の被加工物の外形によって決定される、ソーイング処理時の締結装置のホルダ11の移動は、規定点に達するまで、ソーイング処理時にワイパー8が外側面10または端面3aを一定圧力で支承するように、モータによって機械的に行なわれる。
【0046】
図2に示されるように、それぞれの収集トラフ9は好ましくはワイパー8の各々を支承する。ワイパーの下方に位置するがワイパー8を支承しない収集トラフ9も同様に好ましい。ワイパーによって流れ去る媒体は好ましくは、チャネルまたはスロープによって、本実施例では収集トラフ9内に案内される。
【0047】
収集トラフ9は好ましくは、収集トラフ9に収容された液体媒体が制御不可能な態様で溢れないように設計される。これは好ましくは、収集トラフ9に一体化された放出口装置(図2には図示せず)によって達成され得る。
【0048】
好ましくはワイパー8によって流れ去る冷却液4は、収集トラフ9に収集される。冷却液4は必要であれば分離され、調節冷却回路(図示せず)を介して供給され得る。この場合、冷却液4の所望の温度が回復し、冷却液4は、ノズル2によって被加工物3の外側面10に再び塗布される。代替案として、冷却液4は、収集トラフ9から貯蔵容器内にも排出され得る。
【0049】
ソーイング処理(切断)のため、切削液12がノズル5を介してワイヤーウェブのワイヤー部6に塗布される。ワイヤーウェブは、被加工物3の軸に対して垂直に(鉛直に)ロール7によって先行技術に従って案内される。
【0050】
特に好ましくは、キャリア材料としてグリコールを含有し、研磨材として炭化ケイ素を含有する切削液が用いられる。
【0051】
ワイパー8の長さは好ましくは、切断対象の被加工物の外側面10の長さ以上である。ワイパーシステムは好ましくは、ワイパー8が切断対象の被加工物の軸方向の全長を支承するように配置される。
【0052】
被加工物の端面3aを支承する際のワイパー8の長さは好ましくは、切断対象の被加工物の端面の水平方向の幅以上である。ワイパーシステムは好ましくは、ワイパー8が切断対象の被加工物の端面の水平方向の全幅を支承するように配置される。
【0053】
ワイパー8は好ましくは、外側面10または端面3aに全く損傷を与えずに良好な封止を保証する、たとえば軟質プラスチックまたはゴムなどの軟質材料からなる。
【0054】
好ましくは、ショアA硬度が60〜80のプラスチックまたはゴムが用いられる。
ワイパー8が被加工物3を一定圧力で支承する同様に好ましい実施例では、好ましくは、ショアA硬度が60未満のプラスチックまたはゴムが用いられる。
【0055】
ソーイング後、本発明に係る方法によって切断された半導体ウェハは、先行技術に従って切断された半導体ウェハよりも、ナノトポロジーに関して著しく平坦度の高い表面を有する。
【0056】
図3は、半導体材料製結晶からワイヤーソーイングによって先行技術に従って製造された、直径300mmの半導体ウェハについてのナノトポロジーパラメータ「うねり」(W)および「局所的な反り」(L)を一例として示す図である。
【0057】
図4は、半導体材料製結晶からワイヤーソーイングによって本発明に従った方法で製造された、直径300mmの半導体ウェハについてのナノトポロジーパラメータ「うねり」(W)および「局所的な反り」(L)を一例として示す図である。
【0058】
図3および図4の「うねり」(W)および「局所的な反り」(L)の変化は、よりよく表現するために正規化された態様で(単位なし)表わされており、同一の正規化が両図に用いられている。
【0059】
図3および図4は、ソーイング前送り方向におけるウェハの曲率の尺度としての「局所的な反り」(L)と、ウインドウ長さが10mmの移動ウインドウを局所的な反りの曲線上に置いて、このウインドウ内でそれぞれの最大偏差をプロットすることによって「局所的な反り」(L)から得られる「うねり」(W)とを表わす。
【0060】
図3に表わされる「局所的な反り」(L)は、冷却液4を結晶外側面10上に供給することによって切断時に結晶3の温度を制御する際のウェハに特徴的であり、冷却液4には、結晶3が切断時に実質的に一定の温度であるような温度プロファイルが適用されている。この場合の冷却液4は、結晶3上をワイヤーウェブのワイヤー部6上へ妨害されずに流れ込み、切削液12と混合して、ワイヤーウェブのワイヤー部6の機械的および熱的特性に影響を及ぼす。
【0061】
図3の幾何学的測定値は、ソーイング後の半導体材料製ウェハに対する、これに起因する明らかな悪影響を示す。この不利な影響は特にウェハの中心部から最大である(約+35mmの位置から「局所的な反り」(L)が大きく減少)。この理由は、ここでは結晶側面10とワイヤーウェブとの角度が90度未満であり、切削液12の停滞による不利な影響を受け、これが冷却液4によってさらに悪化するためである。
【0062】
図4は比較用として、同一条件下であるが本発明に係る方法を用いて切断された、半導体材料からなるウェハを示す。冷却液4が横方向に取除かれるため、ワイヤーウェブの切断挙動に対する悪影響はなく、実質的に直線状の切断プロファイルが保証される。本発明に係る方法を用いると、「局所的な反り」(L)の65%を超える減少が達成可能である。
【0063】
本発明に係る方法は、直径に関わらず、ワイヤー切断対象のすべての被加工物に好適である。
【0064】
好ましくは、本発明に係る方法は、直径が200mmを超える結晶に用いられる。
特に好ましくは、本発明に係る方法は、直径が300mm以上の結晶に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤーソーイング時に、2つの端面および1つの外側面からなる表面を有する半導体材料からなる円筒形被加工物を冷却する方法であって、ワイヤーウェブが、平行に配置されたワイヤー部からなり、ワイヤー部と被加工物との反対方向の相対移動によってソーイング時に被加工物を貫通し、被加工物の温度は、ワイヤーソーイング時に冷却液によって制御され、ワイパーが被加工物の表面を支承し、冷却液は、被加工物の表面を支承するワイパーの上方で被加工物に塗布され、冷却液は、被加工物を支承するワイパーによって被加工物の表面から取除かれる、方法。
【請求項2】
冷却液は、被加工物の外側面を支承するワイパーの上方で外側面に塗布される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
冷却液は、被加工物の端面を支承するワイパーの上方で端面に塗布される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
ワイヤーウェブのワイヤー部は、被加工物を支承するワイパーの下方で被加工物を貫通する、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
ワイヤーウェブのワイヤー部が被加工物を貫く際、被加工物内へのワイヤーウェブの自由に選択可能な貫通深さに達するまで、ワイパーが外側面または端面を支承し、この貫通深さに達すると、冷却液の塗布が終了し、ワイパーが被加工物の表面から取外される、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
遊離研磨材を含有する切削液がソーイングウェブのワイヤー部に塗布される、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
切削液は、キャリア材料としてグリコールを含有する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
冷却液は、切削液用のキャリア媒体からなる、請求項6および7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
ワイヤー部は強固に結合された研磨材を含有する、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−143863(P2012−143863A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−1116(P2012−1116)
【出願日】平成24年1月6日(2012.1.6)
【出願人】(599119503)ジルトロニック アクチエンゲゼルシャフト (223)
【氏名又は名称原語表記】Siltronic AG
【住所又は居所原語表記】Hanns−Seidel−Platz 4, D−81737 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】