ワーク切断方法、半導体基板の製造方法、半導体基板およびワイヤソー装置
【課題】ワーク切断に起因するマイクロクラックを抑制してウエハ割れや欠けを抑える。
【解決手段】ワーク切断後のウエハ割れ発生頻度を抑制するべく、ウエハ表面のマイクロクラック深さおよびワーク切断後のウエハ厚さのうちの少なくとも該マイクロクラック深さが設定制御されている。具体的には、ウエハ厚さを、100μm以上130μm以下の半導体基板に薄板化し、マイクロクラック深さを0μm以上2μm以下に設定制御して、ウエハ割れ発生頻度を0.5パーセント以上1パーセント以下に設定制御する。
【解決手段】ワーク切断後のウエハ割れ発生頻度を抑制するべく、ウエハ表面のマイクロクラック深さおよびワーク切断後のウエハ厚さのうちの少なくとも該マイクロクラック深さが設定制御されている。具体的には、ウエハ厚さを、100μm以上130μm以下の半導体基板に薄板化し、マイクロクラック深さを0μm以上2μm以下に設定制御して、ウエハ割れ発生頻度を0.5パーセント以上1パーセント以下に設定制御する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の間隔で配置された複数の溝付きローラ間の外周に巻回した切断用ワイヤを走行させることによって、切断用ワイヤでワークを切断するワーク切断方法、このワーク切断方法を用いてウエハ素材を製造する半導体基板の製造方法、この半導体基板の製造方法により製造された半導体基板およびこのワーク切断方法に用いるワイヤソー装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の従来のワイヤソー装置を用いたワーク切断方法は、複数の溝付きローラに掛け渡されたワイヤの張力を制御しながらワークを切断してウエハ素材を作製している。この従来のワイヤソー装置が特許文献1に開示されている。
【0003】
図10は、特許文献1に開示されている従来のワイヤソー装置の要部構成例を模式的に示す斜視図である。
【0004】
図10に示すように、従来のワイヤソー装置100は、主に、ワークWを切断するための固定砥粒ワイヤ101と、この固定砥粒ワイヤ101を巻掛けした二つの溝付きローラ102と、固定砥粒ワイヤ101に張力を付与するためのワイヤ張力付与機構103A、103Bと、切断するワークWを保持して切り込み送りするワーク送り機構104と、切断されるワークWを冷却するための冷却水供給機構105とを有している。
【0005】
固定砥粒ワイヤ101は、供給側のワイヤボビン106Aから繰り出され、ワイヤ張力付与機構103Aを経て、溝付きローラ102に入っている。固定砥粒ワイヤ101がこの溝付きローラ102に300〜400回程度巻掛けられることによってワイヤ列が形成される。固定砥粒ワイヤ101はもう一方のワイヤ張力付与機構103Bを経て回収側のワイヤボビン106Bに巻き取られている。
【0006】
このように、これらのワイヤ張力付与機構103A、103Bにより、溝付きローラ102に巻掛けられた固定砥粒ワイヤ101に張力を付与し、駆動モータ107によって軸方向へ予め設定した反転サイクル時間、走行速度で往復走行させ、ワークWを往復走行する複数列の固定砥粒ワイヤ101に押し当てて切り込み送りし、ワークWをウエハ状に切断している。
【0007】
上記従来のワイヤソー装置100では、新線供給側と旧線回収側でワイヤ張力付与機構103A、103Bにより固定砥粒ワイヤ101の張力を管理している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2011−20197号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に開示されている従来のワイヤソー装置100のように、複数の溝付きローラ102に掛け渡されたワイヤ101の張力を制御しながらワークWを多数枚に一括して切断しているが、ウエハの薄板化に伴って、ダイヤモンドなどの固定砥粒によるワーク切断によって切削部分からマイクロクラックが発生する。そのマイクロクラックに起因して、ワーク切断工程からエッチング工程までの各工程において、ウエハ割れや欠けが増加してウエハの歩留まりに悪影響している。
【0010】
図11は、ワーク切断工程からエッチング工程までの各工程の作業内容とその作業内容に対応したウエハ割れや欠けの懸念事項を示す図である。
【0011】
図11に示すように、ワーク切断工程からエッチング工程において、まず、(1)ワーク切断工程のスライス完了後から、(2)切断されたワーク(インゴット)を台車で洗浄エリアまで移送する。次に、(3)シャワー洗浄、(4)アルカリ洗浄および(5)純粋洗浄の各洗浄工程を実施する。続いて、(6)接着剤剥離工程の後に、(7)純粋洗浄を行って、(8)カセットへの移載を行う。さらに、(9)エッチング工程を実施してウエハ表面を整える。(1)〜(9)のワーク切断工程からエッチング工程の各工程の間に、ウエハへの衝撃などによりウエハにマイクロクラックが発生してウエハが割れたり欠けたりしている。
【0012】
本発明は、上記従来の問題を解決するもので、ワーク切断に起因するマイクロクラックを抑制してウエハ割れや欠けを抑えることができるワーク切断方法、このワーク切断方法を用いてウエハ素材を製造する半導体基板の製造方法、この半導体基板の製造方法により製造された半導体基板およびこのワーク切断方法に用いるワイヤソー装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のワーク切断方法は、所定の間隔で配置された複数の溝付ローラ間に巻き付けられる切断用のワイヤの複数列でワークを切断するワーク切断方法において、ワーク切断後のウエハ割れ発生頻度を抑制するべく、切断したウエハ表面のマイクロクラック深さおよび該ワーク切断後のウエハ厚さのうちの少なくとも該マイクロクラック深さを設定制御するものであり、そのことにより上記目的が達成される。
【0014】
また、好ましくは、本発明のワーク切断方法におけるマイクロクラック深さを0μm以上2μm以下に設定制御して、前記ウエハ割れ発生頻度を0.5パーセント以上1パーセント以下に制御する。
【0015】
さらに、好ましくは、本発明のワーク切断方法におけるウエハ厚さを100μm以上150μm以下に設定制御する。
【0016】
さらに、好ましくは、本発明のワーク切断方法におけるマイクロクラック深さの設定制御は、前記ワイヤの張力および該ワイヤの固定砥粒の固定層からの突き出し量のうちの少なくともいずれかにより行う。
【0017】
さらに、好ましくは、本発明のワーク切断方法において、固定砥粒外径は、前記ワイヤの外周に固定層により固着された固定砥粒の突き出し量を加えた値である。
【0018】
さらに、好ましくは、本発明のワーク切断方法における複数の溝付ローラ間に巻き付けられるワイヤの一方端が第1ダンサローラーを介して供給ボビンに巻き付けられ、該ワイヤの他方端が第2ダンサローラーを介して回収ボビンに巻き付けられており、該ワイヤの張力の設定制御を該第1ダンサローラーおよび該第2ダンサローラーにより行う。
【0019】
さらに、好ましくは、本発明のワーク切断方法におけるワイヤは、芯線の外周表面に砥粒を固定した固定砥粒ワイヤであって、該芯線の外径が50μm以上80μm以下で、該芯線の単位面積当たりの該砥粒の個数が少なくとも400個/mm2である。
【0020】
さらに、好ましくは、本発明のワーク切断方法におけるウエハ厚さが100μm以上130μm以下で、平均固定砥粒外径が10〜20μmの場合の張力を10N以上14N以下に設定制御する。
【0021】
さらに、好ましくは、本発明のワーク切断方法におけるウエハ厚さが100μm以上130μm以下で、平均固定砥粒外径が8〜16μmの場合の張力を10N以上14N以下に設定制御する。
【0022】
さらに、好ましくは、本発明のワーク切断方法において、前記ワイヤにかかる張力(N)×該ワイヤの固定砥粒外径(μm)×所定係数の加工条件Xに対するマイクロクラック深さY(μm)から関係式をXY座標上での近似直線とする。
【0023】
本発明の半導体基板の製造方法は、本発明の上記ワーク切断方法において、前記ワークが半導体インゴットであって、該半導体インゴットをワイヤソー装置の前記ワイヤ列で多数枚のウエハ状に切断するものであり、そのことにより上記目的が達成される。
【0024】
本発明の半導体基板は、切断後のウエハ厚さが100μm以上150μm以下で、ウエハ表面のマイクロクラックのマイクロクラック深さが0μm以上2μm以下であり、そのことにより上記目的が達成される。
【0025】
本発明のワイヤソー装置は、所定の間隔で配置された複数の溝付ローラ間に巻き付けられる切断用のワイヤの複数列でワークを切断するワイヤソー装置において、ワーク切断後のウエハ割れ発生頻度を抑制するべく、切断したウエハ表面のマイクロクラック深さおよび該ワーク切断後のウエハ厚さのうちの少なくとも該マイクロクラック深さを設定制御するものであり、そのことにより上記目的が達成される。
【0026】
また、好ましくは、本発明のワイヤソー装置におけるマイクロクラック深さを0μm以上2μm以下に設定制御して、前記ウエハ割れ発生頻度が0.5パーセント以上1パーセント以下に制御されている。
【0027】
さらに、好ましくは、本発明のワイヤソー装置におけるウエハ厚さが、100μm以上150μm以下に設定制御されている。
【0028】
さらに、好ましくは、本発明のワイヤソー装置におけるマイクロクラック深さの設定制御は、前記ワイヤの張力および該ワイヤの固定砥粒の固定層からの突き出し量のうちの少なくともいずれかにより行う。
【0029】
さらに、好ましくは、本発明のワイヤソー装置における固定砥粒外径は、前記ワイヤの外径に固定層により固着された固定砥粒の突き出し量を加えた値である。
【0030】
さらに、好ましくは、本発明のワイヤソー装置における複数の溝付ローラ間に巻き付けられるワイヤの一方端が第1ダンサローラーを介して供給ボビンに巻き付けられ、該ワイヤの他方端が第2ダンサローラーを介して回収ボビンに巻き付けられており、該ワイヤの張力の制御は該第1ダンサローラーおよび該第2ダンサローラーにより行われる。
【0031】
さらに、好ましくは、本発明のワイヤソー装置におけるワイヤは、芯線の外周表面に砥粒を固定した固定砥粒ワイヤであって、該芯線の外径が50μm以上80μm以下で、該芯線の単位面積当たりの該砥粒の個数が少なくとも400個/mm2である。
【0032】
さらに、好ましくは、本発明のワイヤソー装置におけるウエハ厚さが100μm以上130μm以下で、平均固定砥粒外径が10〜20μmの場合の張力を10N以上14N以下に設定制御する。
【0033】
さらに、好ましくは、本発明のワイヤソー装置におけるウエハ厚さが100μm以上130μm以下で、平均固定砥粒外径が8〜16μmの場合の張力を10N以上14N以下に設定制御する。
【0034】
上記構成により、以下、本発明の作用を説明する。
【0035】
本発明においては、ワーク切断後のウエハ割れ発生頻度を抑制するべく、ウエハ表面のマイクロクラックのマイクロクラック深さおよびワーク切断後のウエハ厚さのうちの少なくとも該マイクロクラック深さが設定制御されている。具体的には、マイクロクラック深さを2μm以下に設定制御して、ウエハ割れ発生頻度を1パーセント以下に設定制御する。
【0036】
これによって、ワーク切断時の加工変質層の深さを抑えて、ワーク切断に起因するマイクロクラックを低減することにより、ワーク切断後からエッチング工程までのウエハの薄板化に伴うウエハ割れや欠けを抑えることが可能となってウエハの歩留まりを向上させることが可能となる。
【発明の効果】
【0037】
以上により、本発明によれば、ワーク切断時のマイクロクラック深さを抑えるため、ワーク切断に起因するマイクロクラックが低減されて、ワーク切断後からエッチング工程までのウエハの薄板化に伴うウエハ割れや欠けを抑えることができてウエハの歩留まりを向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の実施形態1におけるワイヤソー装置の要部構成例を模式的に示す斜視図である。
【図2】マイクロクラックの確認方法について説明するための図であって、(a)はウエハ切断表面を示す一部平面図、(b)はそのウエハの側面図である。
【図3】ウエハ厚さが130μmで、ワイヤのワイヤ径が100μmおよびワイヤの固定砥粒の外径が10〜20μmの場合に、ワイヤにかかる張力を変化させたときのマイクロクラック深さとの関係を示す図である。
【図4】ウエハ厚さが130μmで、ワイヤのワイヤ径が80μmおよびワイヤの固定砥粒の外径が8〜16μmの場合に、ワイヤにかかる張力を変化させたときのマイクロクラック深さとの関係を示す図である。
【図5】ウエハ厚さが100μmで、ワイヤのワイヤ径が80μmおよびワイヤの固定砥粒の外径が8〜16μmの場合に、ワイヤにかかる張力を変化させたときのマイクロクラック深さとの関係を示す図である。
【図6】ウエハ厚さ、ワイヤ径、張力および固定砥粒外径をパラメータとして、ウエハ切断テストを行い、マイクロクラック深さ、ウエハ割れの発生頻度の他に「切り代」および「加工時間」を確認した試験結果を示す図である。
【図7】ウエハ厚さ(μm)に対するマイクロクラック深さ(μm)の関係を示す図である。
【図8】ワイヤの固定砥粒の突き出し量μmをパラメータとして、ワイヤにかかる張力(N)を変化させたときのマイクロクラック深さ(μm)との関係を示す図である。
【図9】ワイヤにかかる張力(N)×ワイヤの固定砥粒の突き出し量(μm)×係数とマイクロクラック深さとの関係を示す図である。
【図10】特許文献1に開示されている従来のワイヤソー装置の要部構成例を模式的に示す斜視図である。
【図11】ワーク切断工程からエッチング工程までの各工程の作業内容とその作業内容に対応したウエハ割れや欠けの懸念事項を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下に、本発明のワイヤソー装置およびこれを用いたワーク切断方法、このワーク切断方法を用いた半導体基板の製造方法、この半導体基板の製造方法により製造された半導体基板の実施形態1について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図における構成部材のそれぞれの厚みや長さなどは図面作成上の観点から、図示する構成に限定されるものではない。
【0040】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1におけるワイヤソー装置の要部構成例を模式的に示す斜視図である。
【0041】
図1において、本実施形態1のワイヤソー装置1は複数(ここでは2個)の溝付ローラ2,3が所定間隔を置いて水平に配置されている。2個の溝付ローラ2,3の回転軸はその軸方向が平行でその回転軸の外側の外周溝と共に回転自在に設けられている。これらの溝付ローラ2,3はそれぞれ、その周面に所定ピッチ間隔で複数の外周溝が同心円状に形成されている。所定の間隔で配置された複数の溝付きローラ2,3の外周溝に切断用のワイヤ4が巻き付けられている。
【0042】
溝付ローラ2,3の外周溝に巻き付けられるワイヤ4は、螺旋状に巻き付けられる。溝付ローラ2,3間で巻き回数が多い場合には数千回程度にもなる。溝付ローラ2,3間に螺旋状に巻き付けられたワイヤ4の一方端が新線供給側の供給ボビン5に巻き付けられ、その他方端が旧線回収側の回収ボビン6に巻き付けられている。これらの溝付ローラ2,3、供給ボビン5および回収ボビン6を同期駆動することにより、溝付ローラ2,3間に巻き付けられたワイヤ4を走行させてワイヤ4の複数列でワーク7(ここでは半導体インゴット)を多数枚同時に切断するようになっている。切断枚数は多い場合には、数千枚程度を同時に切断する。
【0043】
ワイヤ4は、芯線径(これをワイヤ径という)が例えばここでは50μm〜500μmのものを用い、芯線の外周表面にダイヤモンド(例えば単結晶ダイヤモンド)などの砥粒が固着された固定砥粒ワイヤを用いる。特に、ワイヤ4は、芯線の外径が50μm以上80μm以下の細線で、芯線の単位面積当たりの砥粒の個数が少なくとも400個/mm2であるものを用いる。ワイヤ4の芯線径および固定砥粒の突き出し量によって切り代が決まり例えばワイヤ4の外径が50μm(0.05mm)であって、固定砥粒の突き出し量が6μmの場合、切り代は62μm(0.064mm)程度となるのが理想的であるが、ワイヤ4とワーク7間にSiの削りカスが介在したり、ワイヤが振動したりすることで、切り代は約65μm程度となる。供給ボビン5には、例えば数十〜数百Kmのワイヤ4が巻き付けられている。
【0044】
各溝付ローラ2,3に巻き付けられるワイヤ4に所要の張力を与えるため、慣性駆動のガイドローラ8,9の間にダンサローラー10が設けられている。このガイドローラ8,9は、溝付ローラ2と供給ボビン5との間に設けられている。ダンサローラー10により溝付ローラ2へのワイヤ4の張力を一定に制御している。また、溝付ローラ3と回収ボビン6との間の慣性駆動のガイドローラ11,12が設けられ、ガイドローラ11,12の間に張力付与用のダンサローラー13が設けられている。ダンサローラー13により溝付ローラ3からのワイヤ4の張力を一定に制御している。要するに、ダンサローラー10,13は、ワイヤ4の向きを変えるためのガイドローラ8,9間とガイドローラ11,12間に設けられ、一定の付勢力が下方に働いてワイヤ4に一定の張力が作用するようになっている。
【0045】
ガイドローラ9と供給ボビン5との間にはトラバーサ14が設けられ、トラバーサ14により供給ボビン5に整列して巻き付けられているワイヤ4が順次取り出されるように作用する。また、ガイドローラ12と回収ボビン6との間にもトラバーサ15が設けられ、トラバーサ15により回収ボビン6に整列してワイヤ4が巻き取られるように作用する。
【0046】
供給側のトラバーサ14は、供給ボビン5からワイヤ4を取り込むときに順次ワイヤ位置に上下移動して整列巻き付けされたワイヤ4をスムーズに取り出す機能を有している。また、回収側のトラバーサ15は、回収ボビン6もワイヤ4を整列巻き付けするために順次上下移動してワイヤ4をスムーズに順次巻き付ける機能を有している。
【0047】
溝付ローラ2、3間のワイヤ4の上側ワイヤ列面はワーク7の切断面であり、この切断面を左右に横切るように加工液供給部19が設けられ、この切断面の各ワイヤ列に加工液供給部19の加工液供給口から冷却用のクーラントをかけながら、例えばワーク7をその切断面のワイヤ列面に押し付けて切断する。このように、冷却の目的で液体のクーラントをワーク7および各ワイヤ4にかけながら多数本のワイヤ4で一括して同時にワーク7をウエハ状に切断するようになっている。
【0048】
このワイヤ列へのワーク7の押付けは、ワーク7を固定した固定部17をワーク送り機構18により下降させて、ワーク7を溝付ローラ2、3間のワイヤ列に上から押し付ける。多数本が平行に並んだワイヤ4の列面上にワーク7を押し付けることにより、厚さが均一な多数の薄いウエハ状に同時に切断する。これによって、厚さの揃ったウエハ素材を製造することができる。
【0049】
加工室には、溝付ローラ2、3、その間のワイヤ4、ワーク7、これを固定した固定部17およびワーク送り機構18が収容され、それ以外の部材は加工室の外部に配置されている。
【0050】
ここで、ワーク切断に起因するマイクロクラックを抑制することによりウエハ割れや欠けを抑えることについて詳細に説明する。このウエハ素材の割れや欠けは、マイクロクラック深さとウエハ厚さとに起因している。この点について以下詳細に説明する。
【0051】
図2は、マイクロクラックの確認方法について説明するための図であって、(a)はウエハ切断表面を示す一部平面図、(b)はそのウエハの側面図である。
【0052】
図2(a)および図2(b)に示すように、ウエハ201の切断表面202には、固定砥粒によって引っかいた切断跡(ソーマーク)が付いているが、切断表面202から5.47度の角度だけ斜め研磨する。斜め研磨した面203にマイクロクラック痕204がある場合、そこまでのマイクロクラック深さは、斜め研磨したラインからの距離をLとして、マイクロクラック深さ=L×0.1により求めることができる。斜め研磨したラインは、切断跡(ソーマーク)、研磨の影響でガタツキが約2〜3μm程度あり、〜0.3μm程度の計測誤差が発生することから複数回計測した平均値で求めている。
【0053】
次に、ワイヤ径(μm)、張力(N)、平均固定砥粒外径(μm)(ここでは単に固定砥粒外径という)の異なるワイヤ4で、ウエハ厚さ150μmとウエハ厚さ130μmのウエハに切断し、ウエハの割れの有無を確認したところ、ウエハの割れは、ウエハ厚(μm)さとマイクロクラック深さ(μm)に依存することが判明した。ワーク切断後のウエハ厚さを厚さ130μmと150μmとし、ワイヤ径、張力、固定砥粒外径をパラメータとして、ウエハ切断テストを行い、マイクロクラック深さとウエハ割れの発生頻度の確認を実施した試験結果が、次の表1である。
【0054】
【表1】
上記表1から分かるように、ウエハ厚さが150μmで、ワイヤ4のワイヤ径が100μm、ワイヤ4にかかる張力が19N、ワイヤ4の固定砥粒の外径が10〜20μmをパラメータとして、ウエハ切断テストを行い、そのときのマイクロクラック深さが2.5μmでウエハ割れの発生頻度が1パーセント以下であった。一方、ウエハ厚さが130μmで、上記各パラメータの切断条件と同一の切断条件でウエハ切断テストを行い、そのときのマイクロクラック深さが2.6μmは略同等であるがウエハ割れの発生頻度は4パーセントに悪化した。即ち、ウエハ厚さが150μmでマイクロクラック深さが2.5μmの場合から、ウエハ厚さが130μmでマイクロクラック深さが2.6μmの場合で、ウエハ割れの発生頻度が1パーセント以下から4パーセントに悪化している。このことから、このウエハ素材の割れや欠けは、ウエハ厚さに起因しており、ウエハ厚さが厚くなる方がウエハ割れの発生頻度が抑制され、ウエハ厚さが薄くなる方がウエハ割れの発生頻度が悪化することが分かる。ウエハ厚さを厚くすることは、ワーク材料を効率的に用いるウエハの薄板化に逆行する。
【0055】
要するに、ウエハの割れは、ウエハ厚さ150μmで、マイクロクラック深さが2.5μmのときに、ウエハ割れの発生頻度が1パーセント以下の良好な結果を得ることができたが、ウエハの割れは、薄い方のウエハ厚さ130μmでは、マイクロクラック深さが2.6μmと同等であっても、ウエハ割れの発生頻度が4パーセントで良好な結果を得ることができなかった。
【0056】
本実施形態1のワイヤソー装置1では、ワーク切断後のウエハ割れ発生頻度(パーセント)を抑制するべくワーク切断後のウエハ厚さ(μm)を設定することができる。ウエハ厚さの設定制御は、溝付ローラ2,3の溝ピッチやワイヤ径および切り代などにより行われる。
【0057】
前述したが、ワイヤ4のワイヤ径が100μm、ワイヤ4にかかる張力が19N、ワイヤ4の固定砥粒の外径が10〜20μmをパラメータとしてワーク切断する場合に、ウエハ厚さ150μmに設定制御すれば、マイクロクラック深さが2.5μmでウエハ割れの発生頻度が1パーセント以下の良好な値とすることができる。この場合に、ウエハ厚さ130μmに設定制御すると、ウエハ割れの発生頻度は4パーセントになってしまう。
【0058】
次に、ワーク切断後のウエハ厚さを薄い方の130μmとして一定にし、ワイヤ径(μm)、張力(N)および固定砥粒外径(μm)をパラメータとして、ウエハ切断テストを行い、マイクロクラック深さ(μm)とウエハ割れの発生頻度(パーセント)の確認を実施した試験結果が、次の表2である。
【0059】
【表2】
上記表2の項目(3)から分かるように、ウエハ厚さが130μmで、ウエハ割れの発生頻度が1パーセント以下の良好な結果を得るには、ワイヤ4のワイヤ径が100μm、ワイヤ4にかかる張力が14N、ワイヤ4の固定砥粒の外径が10〜20μmをパラメータとして、ワーク切断を行う必要がある。このときのマイクロクラック深さが2μmであった。
【0060】
上記表2の項目(4)から分かるように、ウエハ厚さが130μmで、ワイヤ4のワイヤ径が100μm、ワイヤ4にかかる張力が10N、ワイヤ4の固定砥粒の外径が10〜20μmをパラメータとして、ウエハ切断テストを行い、そのときのマイクロクラック深さが1.5μmで、ウエハ割れの発生頻度が1パーセント以下の良好な結果を得ることができた。
【0061】
上記表2の項目(2)から分かるように、ウエハ厚さが130μmで、ワイヤ4のワイヤ径が100μm、ワイヤ4にかかる張力が19N、ワイヤ4の固定砥粒の外径が10〜20μmをパラメータとして、ウエハ切断テストを行い、そのときのマイクロクラック深さが2.6μmで、ウエハ割れの発生頻度が高く、4パーセントであった。
【0062】
図3は、ウエハ厚さが130μmで、ワイヤ4のワイヤ径が100μmおよびワイヤ4の固定砥粒の外径が10〜20μmの場合に、ワイヤ4にかかる張力を変化させたときのマイクロクラック深さとの関係を示す図である。
【0063】
図3において、上記表2の項目(2)〜項目(4)からも分かるように、張力19Nのときにマイクロクラック深さが2.6μmで、張力14Nのときにマイクロクラック深さが2μmで、張力10Nのときにマイクロクラック深さが1.5μmである。張力が低下するのに伴ってマイクロクラックも薄くなっている。ワーク切断後のウエハ厚さを厚さ130μmとし、ワイヤ4のワイヤ径が100μmおよびワイヤ4の固定砥粒外径10〜20μmの場合では、張力14N以下でウエハ切断テストを行った結果が、マイクロクラック深さが2μm以下の結果となり、ウエハの割れ発生頻度も1パーセント以下で大幅に小さく良好な結果を得ることができた。
【0064】
このことから、ウエハ厚さ130μmで、ワイヤ4の固定砥粒外径が一定の場合に、マイクロクラック深さは張力に依存していることが判明した。さらに、ウエハ素材の割れや欠けの発生頻度は、マイクロクラックの深さに依存していることが判明した。
【0065】
本実施形態1のワイヤソー装置1では、ワーク切断後のウエハ割れ発生頻度を抑制するべくウエハ表面のマイクロクラック深さ(μm)を制御することができる。前述したが、ウエハ厚さ130μm、ワイヤ4のワイヤ径が100μmおよびワイヤ4の固定砥粒の外径が10〜20μmをパラメータとしてワーク切断する場合に、マイクロクラック深さが2μm以下になるようにワイヤ4にかかる張力を10N以上14N以下に設定すれば、ウエハ割れの発生頻度が1パーセント以下の良好な値とすることができる。
【0066】
ウエハ割れの発生頻度は、インゴットバラツキ、工程バラツキ等により0.5%程度の割れ発生バラつきがある。したがって0.5%以上の割れ発生頻度については優位差があるものと判断できる。
【0067】
要するに、ウエハ厚さが130μmで、ワイヤ4の固定砥粒外径10〜20μmの場合の張力を10以上14N以下とすれば、ウエハ割れの発生頻度が1パーセント以下の良好な値とすることができる。また同様に、ウエハ厚さが130μmで、固定砥粒の平均突き出し量が8μmの場合の張力を10N以上14N以下とすれば、ウエハ割れの発生頻度が1パーセント以下の良好な値とすることができる。固定砥粒外径は、ワイヤ4の外周に固定層により固着された固定砥粒の突き出し量を加えた値であるから、固定層としての電着めっき層の厚さをの2μmとしたとき、ワイヤ4の固定砥粒外径10μmの場合に固定砥粒の平均突き出し量は8μmとなる。
【0068】
さらに、ウエハ厚さが100μm〜130μmであっても、ワイヤ4の固定砥粒外径10〜20μmの場合の張力を14N以下とすれば、ウエハ割れの発生頻度が1パーセント以下の良好な値とすることができる。
【0069】
図4は、ウエハ厚さが130μmで、ワイヤ4のワイヤ径が80μmおよびワイヤ4の固定砥粒の外径が8〜16μmの場合に、ワイヤ4にかかる張力を変化させたときのマイクロクラック深さとの関係を示す図である。
【0070】
図4において、上記表2の項目(6)〜項目(9)からも分かるように、ウエハ厚さが130μmで、張力19Nのときにマイクロクラック深さが1.9μmで、張力14Nのときにマイクロクラック深さが1.6μmで、張力12Nのときにマイクロクラック深さが1.4μm、張力10Nのときにマイクロクラック深さが1.2μmである。張力が低下するのに伴ってマイクロクラックも薄くなっている。ワーク切断後のウエハ厚さを厚さ130μmとし、ワイヤ4のワイヤ径が80μmおよびワイヤ4の固定砥粒径8〜16μmの場合では、張力19N以下でウエハ切断テストを行った結果が、マイクロクラック深さが1.9μm以下の結果となり、ウエハの割れ発生頻度も1パーセント以下で大幅に小さく良好な結果を得ることができた。このことからも、ウエハ厚さ130μmで、ワイヤ4の固定砥粒外径が一定の場合に、マイクロクラック深さは張力に依存している。さらに、ウエハ素材の割れや欠けの発生頻度も、マイクロクラックの深さに依存している。
【0071】
上記表2の項目(5)、項目(7)および項目(10)からも分かるように、ウエハ厚さが130μmで、ワイヤ4にかかる張力が14N、ワイヤ4の固定砥粒の外径が8〜16μmをパラメータとすると共に、別のパラメータとしてワイヤ4のワイヤ径を100μm、80μm、70μmと変化させてウエハ切断テストを行ったマイクロクラック深さが全て1.6μmであった。これによって、マイクロクラック深さはワイヤ径には依存しないことが分かる。
【0072】
上記表2の項目(3)および項目(5)からも分かるように、ウエハ厚さが130μmで、ワイヤ4のワイヤ径を100μmおよびワイヤ4にかかる張力が14Nをパラメータとすると共に、別のパラメータとしてワイヤ4の固定砥粒の外径が10〜16μm、8〜16μmに変化させてウエハ切断テストを行ったマイクロクラック深さが、2μm、1.6μmであった。これによって、マイクロクラック深さはワイヤ4の固定砥粒の外径に依存していることが分かる。この固定砥粒の外径とは、ワイヤ4の外周に固定層により固着された固定砥粒の突き出し量を加えた値であり、マイクロクラック深さはワイヤ4の固定砥粒の固定層からの突き出し量に依存している。
【0073】
したがって、ウエハ厚さが薄く一定の場合(例えばウエハ厚さ100μm〜130μm)、マイクロクラック深さは、ワイヤ4の固定砥粒径と張力に依存し、マイクロクラック深さが2μm以下の場合に、ウエハの割れ発生頻度が大幅に小さくなり、ウエハの割れ発生頻度も1パーセント以下で大幅に小さく良好な結果を得ることができる。また、マイクロクラック深さが2μmを超えると、ウエハの割れ発生頻度が大幅に増加する。
【0074】
本実施形態1のワイヤソー装置1では、ワーク切断後のウエハ割れ発生頻度を抑制するべくウエハ表面のマイクロクラック深さ(μm)を制御することができる。前述したが、ウエハ厚さ130μm、ワイヤ4のワイヤ径が80μmおよびワイヤ4の固定砥粒の外径が8〜16μmをパラメータとしてワーク切断する場合に、マイクロクラック深さが2μm以下になるようにワイヤ4にかかる張力を10N以上19N以下に設定すれば、ウエハ割れの発生頻度が1パーセント以下の良好な値とすることができる。
【0075】
要するに、ウエハ厚さが130μmで、ワイヤ4の固定砥粒外径8〜16μmの場合の張力を10以上19N以下とすれば、ウエハ割れの発生頻度が1パーセント以下の良好な値とすることができる。また同様に、ウエハ厚さが130μmで、固定砥粒の平均突き出し量が6μmの場合の張力を10以上19N以下とすれば、ウエハ割れの発生頻度が1パーセント以下の良好な値とすることができる。固定砥粒外径は、ワイヤの外径に固定層により固着された固定砥粒の突き出し量を加えた値であるから固定層としての電着めっき層の厚さを2μmとしたとき、ワイヤ4の固定砥粒外径8μmの場合に固定砥粒の平均突き出し量は6μmとなる。
【0076】
さらに、ウエハ厚さが100μm〜130μmであっても、ワイヤ4の固定砥粒外径8〜16μmの場合の張力を19N以下とすれば、ウエハ割れの発生頻度が1パーセント以下の良好な値とすることができる。
【0077】
図5は、ウエハ厚さが100μmで、ワイヤ4のワイヤ径が80μmおよびワイヤ4の固定砥粒の外径が8〜16μmの場合に、ワイヤ4にかかる張力を変化させたときのマイクロクラック深さとの関係を示す図である。
【0078】
図5において、後述する図6からも分かるように、ウエハ厚さが100μmで、張力14Nのときにマイクロクラック深さが1.6μmで、張力12Nのときにマイクロクラック深さが1.4μmで、張力10Nのときにマイクロクラック深さが1.2μmである。張力が低下するのに伴ってマイクロクラックも薄くなっている。ワーク切断後のウエハ厚さを厚さ100μmとし、ワイヤ4のワイヤ径が80μmおよびワイヤ4の固定砥粒径8〜16μmの場合で、張力14N以下でウエハ切断テストを行った結果が、マイクロクラック深さが1.6μm以下の結果となり、ウエハの割れ発生頻度も1パーセント以下で大幅に小さく良好な結果を得ることができた。このことからも、ウエハ厚さ100μmで、ワイヤ4の固定砥粒外径が一定の場合に、マイクロクラック深さは張力に依存している。さらに、ウエハ素材の割れや欠けの発生頻度も、マイクロクラックの深さに依存している。具体的には、ウエハ厚さが100μmの場合ではマイクロクラック深さとして1.6μm以下であれば割れ発生頻度1パーセント以下となる。
【0079】
次は、ワーク切断後のウエハ厚さ、ワイヤ径、張力および固定砥粒外径をパラメータとして、ウエハ切断テストを行い、マイクロクラック深さとウエハ割れの発生頻度の確認の他に、ワーク材料の有効利用に関係する「切り代」およびワーク切断の速さを示す「加工時間」をも確認した試験結果について、次の図6に示している。
【0080】
図6は、ウエハ厚さ、ワイヤ径、張力および固定砥粒外径をパラメータとして、ウエハ切断テストを行い、マイクロクラック深さ、ウエハ割れの発生頻度の他に「切り代」および「加工時間」を確認した試験結果を示す図である。
【0081】
図6において、「切り代」は少なければ少ないほどワーク材料の有効利用の観点からよい。「加工時間」は短ければ短いほど製造工数の観点からよい。「切り代」はワイヤ径、張力および固定砥粒外径に関係し、「加工時間」は張力および固定砥粒外径に関係している。「切り代」を所定基準値の例えば95〜100μm以下でかつウエハの割れ発生頻度も1パーセント以下とするために、ワイヤ径、張力および固定砥粒外径のパラメータを設定する。また、「加工時間」を所定基準時間の例えば300分以下でかつウエハの割れ発生頻度も1パーセント以下にするために、ワイヤ径、張力および固定砥粒外径のパラメータを設定する。マイクロクラック深さ(2μm以下)およびウエハ厚さ(100μm以上130μm以下)の他に、「切り代」および「加工時間」をも加味して、ウエハ割れの発生頻度を1パーセント以下に抑制するために最適値を再度求める必要がある。
【0082】
ここで、本実施形態1では、前述したように、ワーク切断完了時のウエハ表面のマイクロクラック深さ(μm)をある範囲以下に制御することにより、その後工程でのウエハ割れや欠けを大幅に低減することができるものであり、マイクロクラック深さ(μm)の影響度合いはウエハ厚さ(μm)によって異なり、マイクロクラック深さ(μm)は張力(N)と砥粒の突き出し量(μm)に依存していることが判る。このことから、ワイヤ4にかかる張力(N)×ワイヤ4の固定砥粒の突き出し量(μm)×所定係数の加工条件に対するマイクロクラック深さ(μm)から関係式を近似直線Y=0.0125X+0.3として本発明者らは見出した。この場合、マイクロクラック深さをY、ワイヤ4にかかる張力(N)×ワイヤ4の固定砥粒の突き出し量(μm)×所定係数をXとしている。これについて図7〜図9を参照して詳細に説明する。
【0083】
図7は、ウエハ厚さ(μm)に対するマイクロクラック深さ(μm)の関係を示す図である。
【0084】
図7において、次の表3からも分かるように、ウエハ厚さが100μmのときにマイクロクラック深さが1.5μmで、ウエハ厚さが130μmのときにマイクロクラック深さが2μmで、ウエハ厚さが150μmのときにマイクロクラック深さが2.5μmである。ウエハ厚さが薄くなるのに伴ってマイクロクラック深さが浅くなっている。
【0085】
但し、図6からも分かるように、ワイヤ4の固定砥粒の突き出し量(μm)は一定(ワイヤ径100μmで砥粒径10−20μm)であるが、張力(N)は異なっている。例えばウエハ厚さが100μmでマイクロクラック深さが1.5μmのときに張力は10N、ウエハ厚さが130μmでマイクロクラック深さが2μmのときに張力は14N、ウエハ厚さが150μmでマイクロクラック深さが2μmのときに張力は19Nである。このように、張力(N)は、ウエハ厚さが薄くなるのにしたがって少ない設定である。
【0086】
【表3】
図8は、ワイヤ4の固定砥粒の突き出し量(μm)をパラメータとして、ワイヤ4にかかる張力(N)を変化させたときのマイクロクラック深さ(μm)との関係を示す図である。
【0087】
図8において、次の表4からも分かるように、マイクロクラック深さは、前述したが、張力(N)に比例し、突き出し量(μm)に比例する。次の表4より、突き出し量が6μmのマイクロクラック深さ×係数1.25で突き出し量9μmのマイクロクラック深さになる。また、張力(N)×突き出し量6μm×係数1.25のデータと、張力×突き出し量9μmのデータをグラフ化すると直線状となる。これは次の表5および図9に示している。この場合の係数1.25は砥粒密度、形状により異なり、本データは突き出し量9μmのときの係数である。逆に言えば、突き出し量6μmの場合は、突き出し量9μmのマイクロクラック深さの係数0.8倍である。
【0088】
その一例として、張力10N×突き出し量6μm×係数1.25=75で、このときのマイクロクラック深さは1.2μmである。また、張力12N×突き出し量6μm×係数1.25=90で、このときのマイクロクラック深さは1.4μmである。これを次の表5に示している。
【0089】
【表4】
図9は、ワイヤ4にかかる張力(N)×ワイヤ4の固定砥粒の突き出し量(μm)×係数とマイクロクラック深さ(μm)との関係を示す図である。
【0090】
図9において、次の表5をグラフ化すると直線近似でき、少なくともウエハ厚さ100μm以上150μmまでの範囲では、近似直線Y=0.0125X+0.3よりも以下の範囲ではウエハ割れ発生頻度が1パーセント以下となる。
【0091】
【表5】
したがって、ワイヤ4にかかる張力(N)×ワイヤ4の固定砥粒外径(μm)×所定係数の加工条件Xに対するマイクロクラック深さY(μm)から関係式をXY座標上での近似直線として表すことができる。この関係式から、マイクロクラック深さY(μm)を0μm以上2μm以下に設定制御して、ウエハ割れ発生頻度を0.5パーセント以上1パーセント以下に制御することができる。
【0092】
以上により、本実施形態1によれば、ワーク切断後のウエハ割れ発生頻度を抑制するべく、ウエハ表面のマイクロクラック深さおよびワーク切断後のウエハ厚さのうちの少なくともマイクロクラック深さが設定制御されている。具体的には、ウエハ厚さを、100μm以上130μm以下の半導体基板に薄板化し、マイクロクラック深さを2μm以下に設定制御して、ウエハ割れ発生頻度を1パーセント以下に設定制御する。なお、切断している以上、マイクロクラック深さは2μm以下の全値の範囲を意味している。
【0093】
これによって、ワーク切断に起因するマイクロクラックが抑制されるように、ワーク切断時のマイクロクラック深さを2μm以下に抑えるため、ワーク切断後からエッチング工程までのウエハの薄板化に伴うウエハ割れや欠けを抑えることができてウエハ(半導体基板)の歩留まりを向上させることができる。
【0094】
なお、本実施形態1では、ワイヤソー装置1を用いたワーク切断方法について説明したが、このワーク切断方法は、ワーク切断後のウエハ割れ発生頻度を抑制するべくウエハ表面のマイクロクラック深さおよびワーク切断後のウエハ厚さのうちの少なくともいずれかを設定制御する。このマイクロクラック深さを2μm以下に設定制御して、ウエハ割れ発生頻度を1パーセント以下に設定制御する。ウエハ厚さを100μm以上130μm以下の薄板に設定制御する。マイクロクラック深さの設定制御は、ワイヤ4の張力およびワイヤ4の固定砥粒の固定層からの突き出し量のうちの少なくともいずれかにより行う。
また、ワイヤ4の張力の設定制御をダンサローラー10,13により行う。具体的には、ウエハ厚さが100μm以上130μm以下で、平均固定砥粒外径が10〜20μmの場合の張力を10N以上14N以下に設定制御する。また、ウエハ厚さが100μm以上130μm以下で、平均固定砥粒外径が8〜16μmの場合の張力を10N以上19N以下に設定制御する。
【0095】
これに対して、本実施形態1の半導体基板の製造方法は、上記ワーク切断方法において、ワーク7が半導体インゴットであって、この半導体インゴットをワイヤソー装置1のワイヤ4の複数列で多数枚のウエハ状に切断することにより、多数枚のウエハ素材を半導体基板素材として一括して製造する。これによって、ワーク切断に起因するマイクロクラックを抑制してウエハ割れや欠けを抑えて歩留まりを向上させることができるものである。
【0096】
この本実施形態1の半導体基板の製造方法によって製造された半導体基板は、切断後のウエハ厚さが100μm以上130μm以下の薄板の場合に、ウエハ表面のマイクロクラック深さが、ワーク切断後のウエハ割れ発生頻度を抑制するように抑えられている。具体的には、この半導体基板のマイクロクラック深さは2μm以下に設定されている。マイクロクラック深さが2μm以下の場合にウエハ割れ発生頻度は小さく、マイクロクラック深さが2μmを超えると、ウエハ割れ発生頻度は増加する。
【0097】
以上のように、本発明の好ましい実施形態1を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、この実施形態1に限定して解釈されるべきものではない。本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本発明の具体的な好ましい実施形態1の記載から、本発明の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明は、所定の間隔で配置された複数の溝付きローラ間の外周に巻回した切断用ワイヤを走行させることによって、切断用ワイヤでワークを切断するワーク切断方法、このワーク切断方法を用いてウエハ素材を製造する半導体基板の製造方法、この半導体基板の製造方法により製造された半導体基板およびこのワーク切断方法に用いるワイヤソー装置の分野において、ワーク切断時のマイクロクラック深さを抑えるため、ワーク切断に起因するマイクロクラックが低減されて、ワーク切断後からエッチング工程までのウエハの薄板化に伴うウエハ割れや欠けを抑えることができてウエハの歩留まりを向上させることができる。
【符号の説明】
【0099】
1 ワイヤソー装置
2,3 溝付ローラ
4 ワイヤ(固定砥粒ワイヤ)
5 供給ボビン
6 回収ボビン
7 ワーク
8、9、11、12 ガイドローラ
10、13 ダンサローラー
14、15 トラバーサ
19 加工液供給部
17 固定部
18 ワーク送り機構
201 ウエハ(半導体基板)
202 切断表面
203 斜め研磨した面
204 マイクロクラック痕
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の間隔で配置された複数の溝付きローラ間の外周に巻回した切断用ワイヤを走行させることによって、切断用ワイヤでワークを切断するワーク切断方法、このワーク切断方法を用いてウエハ素材を製造する半導体基板の製造方法、この半導体基板の製造方法により製造された半導体基板およびこのワーク切断方法に用いるワイヤソー装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の従来のワイヤソー装置を用いたワーク切断方法は、複数の溝付きローラに掛け渡されたワイヤの張力を制御しながらワークを切断してウエハ素材を作製している。この従来のワイヤソー装置が特許文献1に開示されている。
【0003】
図10は、特許文献1に開示されている従来のワイヤソー装置の要部構成例を模式的に示す斜視図である。
【0004】
図10に示すように、従来のワイヤソー装置100は、主に、ワークWを切断するための固定砥粒ワイヤ101と、この固定砥粒ワイヤ101を巻掛けした二つの溝付きローラ102と、固定砥粒ワイヤ101に張力を付与するためのワイヤ張力付与機構103A、103Bと、切断するワークWを保持して切り込み送りするワーク送り機構104と、切断されるワークWを冷却するための冷却水供給機構105とを有している。
【0005】
固定砥粒ワイヤ101は、供給側のワイヤボビン106Aから繰り出され、ワイヤ張力付与機構103Aを経て、溝付きローラ102に入っている。固定砥粒ワイヤ101がこの溝付きローラ102に300〜400回程度巻掛けられることによってワイヤ列が形成される。固定砥粒ワイヤ101はもう一方のワイヤ張力付与機構103Bを経て回収側のワイヤボビン106Bに巻き取られている。
【0006】
このように、これらのワイヤ張力付与機構103A、103Bにより、溝付きローラ102に巻掛けられた固定砥粒ワイヤ101に張力を付与し、駆動モータ107によって軸方向へ予め設定した反転サイクル時間、走行速度で往復走行させ、ワークWを往復走行する複数列の固定砥粒ワイヤ101に押し当てて切り込み送りし、ワークWをウエハ状に切断している。
【0007】
上記従来のワイヤソー装置100では、新線供給側と旧線回収側でワイヤ張力付与機構103A、103Bにより固定砥粒ワイヤ101の張力を管理している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2011−20197号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に開示されている従来のワイヤソー装置100のように、複数の溝付きローラ102に掛け渡されたワイヤ101の張力を制御しながらワークWを多数枚に一括して切断しているが、ウエハの薄板化に伴って、ダイヤモンドなどの固定砥粒によるワーク切断によって切削部分からマイクロクラックが発生する。そのマイクロクラックに起因して、ワーク切断工程からエッチング工程までの各工程において、ウエハ割れや欠けが増加してウエハの歩留まりに悪影響している。
【0010】
図11は、ワーク切断工程からエッチング工程までの各工程の作業内容とその作業内容に対応したウエハ割れや欠けの懸念事項を示す図である。
【0011】
図11に示すように、ワーク切断工程からエッチング工程において、まず、(1)ワーク切断工程のスライス完了後から、(2)切断されたワーク(インゴット)を台車で洗浄エリアまで移送する。次に、(3)シャワー洗浄、(4)アルカリ洗浄および(5)純粋洗浄の各洗浄工程を実施する。続いて、(6)接着剤剥離工程の後に、(7)純粋洗浄を行って、(8)カセットへの移載を行う。さらに、(9)エッチング工程を実施してウエハ表面を整える。(1)〜(9)のワーク切断工程からエッチング工程の各工程の間に、ウエハへの衝撃などによりウエハにマイクロクラックが発生してウエハが割れたり欠けたりしている。
【0012】
本発明は、上記従来の問題を解決するもので、ワーク切断に起因するマイクロクラックを抑制してウエハ割れや欠けを抑えることができるワーク切断方法、このワーク切断方法を用いてウエハ素材を製造する半導体基板の製造方法、この半導体基板の製造方法により製造された半導体基板およびこのワーク切断方法に用いるワイヤソー装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のワーク切断方法は、所定の間隔で配置された複数の溝付ローラ間に巻き付けられる切断用のワイヤの複数列でワークを切断するワーク切断方法において、ワーク切断後のウエハ割れ発生頻度を抑制するべく、切断したウエハ表面のマイクロクラック深さおよび該ワーク切断後のウエハ厚さのうちの少なくとも該マイクロクラック深さを設定制御するものであり、そのことにより上記目的が達成される。
【0014】
また、好ましくは、本発明のワーク切断方法におけるマイクロクラック深さを0μm以上2μm以下に設定制御して、前記ウエハ割れ発生頻度を0.5パーセント以上1パーセント以下に制御する。
【0015】
さらに、好ましくは、本発明のワーク切断方法におけるウエハ厚さを100μm以上150μm以下に設定制御する。
【0016】
さらに、好ましくは、本発明のワーク切断方法におけるマイクロクラック深さの設定制御は、前記ワイヤの張力および該ワイヤの固定砥粒の固定層からの突き出し量のうちの少なくともいずれかにより行う。
【0017】
さらに、好ましくは、本発明のワーク切断方法において、固定砥粒外径は、前記ワイヤの外周に固定層により固着された固定砥粒の突き出し量を加えた値である。
【0018】
さらに、好ましくは、本発明のワーク切断方法における複数の溝付ローラ間に巻き付けられるワイヤの一方端が第1ダンサローラーを介して供給ボビンに巻き付けられ、該ワイヤの他方端が第2ダンサローラーを介して回収ボビンに巻き付けられており、該ワイヤの張力の設定制御を該第1ダンサローラーおよび該第2ダンサローラーにより行う。
【0019】
さらに、好ましくは、本発明のワーク切断方法におけるワイヤは、芯線の外周表面に砥粒を固定した固定砥粒ワイヤであって、該芯線の外径が50μm以上80μm以下で、該芯線の単位面積当たりの該砥粒の個数が少なくとも400個/mm2である。
【0020】
さらに、好ましくは、本発明のワーク切断方法におけるウエハ厚さが100μm以上130μm以下で、平均固定砥粒外径が10〜20μmの場合の張力を10N以上14N以下に設定制御する。
【0021】
さらに、好ましくは、本発明のワーク切断方法におけるウエハ厚さが100μm以上130μm以下で、平均固定砥粒外径が8〜16μmの場合の張力を10N以上14N以下に設定制御する。
【0022】
さらに、好ましくは、本発明のワーク切断方法において、前記ワイヤにかかる張力(N)×該ワイヤの固定砥粒外径(μm)×所定係数の加工条件Xに対するマイクロクラック深さY(μm)から関係式をXY座標上での近似直線とする。
【0023】
本発明の半導体基板の製造方法は、本発明の上記ワーク切断方法において、前記ワークが半導体インゴットであって、該半導体インゴットをワイヤソー装置の前記ワイヤ列で多数枚のウエハ状に切断するものであり、そのことにより上記目的が達成される。
【0024】
本発明の半導体基板は、切断後のウエハ厚さが100μm以上150μm以下で、ウエハ表面のマイクロクラックのマイクロクラック深さが0μm以上2μm以下であり、そのことにより上記目的が達成される。
【0025】
本発明のワイヤソー装置は、所定の間隔で配置された複数の溝付ローラ間に巻き付けられる切断用のワイヤの複数列でワークを切断するワイヤソー装置において、ワーク切断後のウエハ割れ発生頻度を抑制するべく、切断したウエハ表面のマイクロクラック深さおよび該ワーク切断後のウエハ厚さのうちの少なくとも該マイクロクラック深さを設定制御するものであり、そのことにより上記目的が達成される。
【0026】
また、好ましくは、本発明のワイヤソー装置におけるマイクロクラック深さを0μm以上2μm以下に設定制御して、前記ウエハ割れ発生頻度が0.5パーセント以上1パーセント以下に制御されている。
【0027】
さらに、好ましくは、本発明のワイヤソー装置におけるウエハ厚さが、100μm以上150μm以下に設定制御されている。
【0028】
さらに、好ましくは、本発明のワイヤソー装置におけるマイクロクラック深さの設定制御は、前記ワイヤの張力および該ワイヤの固定砥粒の固定層からの突き出し量のうちの少なくともいずれかにより行う。
【0029】
さらに、好ましくは、本発明のワイヤソー装置における固定砥粒外径は、前記ワイヤの外径に固定層により固着された固定砥粒の突き出し量を加えた値である。
【0030】
さらに、好ましくは、本発明のワイヤソー装置における複数の溝付ローラ間に巻き付けられるワイヤの一方端が第1ダンサローラーを介して供給ボビンに巻き付けられ、該ワイヤの他方端が第2ダンサローラーを介して回収ボビンに巻き付けられており、該ワイヤの張力の制御は該第1ダンサローラーおよび該第2ダンサローラーにより行われる。
【0031】
さらに、好ましくは、本発明のワイヤソー装置におけるワイヤは、芯線の外周表面に砥粒を固定した固定砥粒ワイヤであって、該芯線の外径が50μm以上80μm以下で、該芯線の単位面積当たりの該砥粒の個数が少なくとも400個/mm2である。
【0032】
さらに、好ましくは、本発明のワイヤソー装置におけるウエハ厚さが100μm以上130μm以下で、平均固定砥粒外径が10〜20μmの場合の張力を10N以上14N以下に設定制御する。
【0033】
さらに、好ましくは、本発明のワイヤソー装置におけるウエハ厚さが100μm以上130μm以下で、平均固定砥粒外径が8〜16μmの場合の張力を10N以上14N以下に設定制御する。
【0034】
上記構成により、以下、本発明の作用を説明する。
【0035】
本発明においては、ワーク切断後のウエハ割れ発生頻度を抑制するべく、ウエハ表面のマイクロクラックのマイクロクラック深さおよびワーク切断後のウエハ厚さのうちの少なくとも該マイクロクラック深さが設定制御されている。具体的には、マイクロクラック深さを2μm以下に設定制御して、ウエハ割れ発生頻度を1パーセント以下に設定制御する。
【0036】
これによって、ワーク切断時の加工変質層の深さを抑えて、ワーク切断に起因するマイクロクラックを低減することにより、ワーク切断後からエッチング工程までのウエハの薄板化に伴うウエハ割れや欠けを抑えることが可能となってウエハの歩留まりを向上させることが可能となる。
【発明の効果】
【0037】
以上により、本発明によれば、ワーク切断時のマイクロクラック深さを抑えるため、ワーク切断に起因するマイクロクラックが低減されて、ワーク切断後からエッチング工程までのウエハの薄板化に伴うウエハ割れや欠けを抑えることができてウエハの歩留まりを向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の実施形態1におけるワイヤソー装置の要部構成例を模式的に示す斜視図である。
【図2】マイクロクラックの確認方法について説明するための図であって、(a)はウエハ切断表面を示す一部平面図、(b)はそのウエハの側面図である。
【図3】ウエハ厚さが130μmで、ワイヤのワイヤ径が100μmおよびワイヤの固定砥粒の外径が10〜20μmの場合に、ワイヤにかかる張力を変化させたときのマイクロクラック深さとの関係を示す図である。
【図4】ウエハ厚さが130μmで、ワイヤのワイヤ径が80μmおよびワイヤの固定砥粒の外径が8〜16μmの場合に、ワイヤにかかる張力を変化させたときのマイクロクラック深さとの関係を示す図である。
【図5】ウエハ厚さが100μmで、ワイヤのワイヤ径が80μmおよびワイヤの固定砥粒の外径が8〜16μmの場合に、ワイヤにかかる張力を変化させたときのマイクロクラック深さとの関係を示す図である。
【図6】ウエハ厚さ、ワイヤ径、張力および固定砥粒外径をパラメータとして、ウエハ切断テストを行い、マイクロクラック深さ、ウエハ割れの発生頻度の他に「切り代」および「加工時間」を確認した試験結果を示す図である。
【図7】ウエハ厚さ(μm)に対するマイクロクラック深さ(μm)の関係を示す図である。
【図8】ワイヤの固定砥粒の突き出し量μmをパラメータとして、ワイヤにかかる張力(N)を変化させたときのマイクロクラック深さ(μm)との関係を示す図である。
【図9】ワイヤにかかる張力(N)×ワイヤの固定砥粒の突き出し量(μm)×係数とマイクロクラック深さとの関係を示す図である。
【図10】特許文献1に開示されている従来のワイヤソー装置の要部構成例を模式的に示す斜視図である。
【図11】ワーク切断工程からエッチング工程までの各工程の作業内容とその作業内容に対応したウエハ割れや欠けの懸念事項を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下に、本発明のワイヤソー装置およびこれを用いたワーク切断方法、このワーク切断方法を用いた半導体基板の製造方法、この半導体基板の製造方法により製造された半導体基板の実施形態1について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図における構成部材のそれぞれの厚みや長さなどは図面作成上の観点から、図示する構成に限定されるものではない。
【0040】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1におけるワイヤソー装置の要部構成例を模式的に示す斜視図である。
【0041】
図1において、本実施形態1のワイヤソー装置1は複数(ここでは2個)の溝付ローラ2,3が所定間隔を置いて水平に配置されている。2個の溝付ローラ2,3の回転軸はその軸方向が平行でその回転軸の外側の外周溝と共に回転自在に設けられている。これらの溝付ローラ2,3はそれぞれ、その周面に所定ピッチ間隔で複数の外周溝が同心円状に形成されている。所定の間隔で配置された複数の溝付きローラ2,3の外周溝に切断用のワイヤ4が巻き付けられている。
【0042】
溝付ローラ2,3の外周溝に巻き付けられるワイヤ4は、螺旋状に巻き付けられる。溝付ローラ2,3間で巻き回数が多い場合には数千回程度にもなる。溝付ローラ2,3間に螺旋状に巻き付けられたワイヤ4の一方端が新線供給側の供給ボビン5に巻き付けられ、その他方端が旧線回収側の回収ボビン6に巻き付けられている。これらの溝付ローラ2,3、供給ボビン5および回収ボビン6を同期駆動することにより、溝付ローラ2,3間に巻き付けられたワイヤ4を走行させてワイヤ4の複数列でワーク7(ここでは半導体インゴット)を多数枚同時に切断するようになっている。切断枚数は多い場合には、数千枚程度を同時に切断する。
【0043】
ワイヤ4は、芯線径(これをワイヤ径という)が例えばここでは50μm〜500μmのものを用い、芯線の外周表面にダイヤモンド(例えば単結晶ダイヤモンド)などの砥粒が固着された固定砥粒ワイヤを用いる。特に、ワイヤ4は、芯線の外径が50μm以上80μm以下の細線で、芯線の単位面積当たりの砥粒の個数が少なくとも400個/mm2であるものを用いる。ワイヤ4の芯線径および固定砥粒の突き出し量によって切り代が決まり例えばワイヤ4の外径が50μm(0.05mm)であって、固定砥粒の突き出し量が6μmの場合、切り代は62μm(0.064mm)程度となるのが理想的であるが、ワイヤ4とワーク7間にSiの削りカスが介在したり、ワイヤが振動したりすることで、切り代は約65μm程度となる。供給ボビン5には、例えば数十〜数百Kmのワイヤ4が巻き付けられている。
【0044】
各溝付ローラ2,3に巻き付けられるワイヤ4に所要の張力を与えるため、慣性駆動のガイドローラ8,9の間にダンサローラー10が設けられている。このガイドローラ8,9は、溝付ローラ2と供給ボビン5との間に設けられている。ダンサローラー10により溝付ローラ2へのワイヤ4の張力を一定に制御している。また、溝付ローラ3と回収ボビン6との間の慣性駆動のガイドローラ11,12が設けられ、ガイドローラ11,12の間に張力付与用のダンサローラー13が設けられている。ダンサローラー13により溝付ローラ3からのワイヤ4の張力を一定に制御している。要するに、ダンサローラー10,13は、ワイヤ4の向きを変えるためのガイドローラ8,9間とガイドローラ11,12間に設けられ、一定の付勢力が下方に働いてワイヤ4に一定の張力が作用するようになっている。
【0045】
ガイドローラ9と供給ボビン5との間にはトラバーサ14が設けられ、トラバーサ14により供給ボビン5に整列して巻き付けられているワイヤ4が順次取り出されるように作用する。また、ガイドローラ12と回収ボビン6との間にもトラバーサ15が設けられ、トラバーサ15により回収ボビン6に整列してワイヤ4が巻き取られるように作用する。
【0046】
供給側のトラバーサ14は、供給ボビン5からワイヤ4を取り込むときに順次ワイヤ位置に上下移動して整列巻き付けされたワイヤ4をスムーズに取り出す機能を有している。また、回収側のトラバーサ15は、回収ボビン6もワイヤ4を整列巻き付けするために順次上下移動してワイヤ4をスムーズに順次巻き付ける機能を有している。
【0047】
溝付ローラ2、3間のワイヤ4の上側ワイヤ列面はワーク7の切断面であり、この切断面を左右に横切るように加工液供給部19が設けられ、この切断面の各ワイヤ列に加工液供給部19の加工液供給口から冷却用のクーラントをかけながら、例えばワーク7をその切断面のワイヤ列面に押し付けて切断する。このように、冷却の目的で液体のクーラントをワーク7および各ワイヤ4にかけながら多数本のワイヤ4で一括して同時にワーク7をウエハ状に切断するようになっている。
【0048】
このワイヤ列へのワーク7の押付けは、ワーク7を固定した固定部17をワーク送り機構18により下降させて、ワーク7を溝付ローラ2、3間のワイヤ列に上から押し付ける。多数本が平行に並んだワイヤ4の列面上にワーク7を押し付けることにより、厚さが均一な多数の薄いウエハ状に同時に切断する。これによって、厚さの揃ったウエハ素材を製造することができる。
【0049】
加工室には、溝付ローラ2、3、その間のワイヤ4、ワーク7、これを固定した固定部17およびワーク送り機構18が収容され、それ以外の部材は加工室の外部に配置されている。
【0050】
ここで、ワーク切断に起因するマイクロクラックを抑制することによりウエハ割れや欠けを抑えることについて詳細に説明する。このウエハ素材の割れや欠けは、マイクロクラック深さとウエハ厚さとに起因している。この点について以下詳細に説明する。
【0051】
図2は、マイクロクラックの確認方法について説明するための図であって、(a)はウエハ切断表面を示す一部平面図、(b)はそのウエハの側面図である。
【0052】
図2(a)および図2(b)に示すように、ウエハ201の切断表面202には、固定砥粒によって引っかいた切断跡(ソーマーク)が付いているが、切断表面202から5.47度の角度だけ斜め研磨する。斜め研磨した面203にマイクロクラック痕204がある場合、そこまでのマイクロクラック深さは、斜め研磨したラインからの距離をLとして、マイクロクラック深さ=L×0.1により求めることができる。斜め研磨したラインは、切断跡(ソーマーク)、研磨の影響でガタツキが約2〜3μm程度あり、〜0.3μm程度の計測誤差が発生することから複数回計測した平均値で求めている。
【0053】
次に、ワイヤ径(μm)、張力(N)、平均固定砥粒外径(μm)(ここでは単に固定砥粒外径という)の異なるワイヤ4で、ウエハ厚さ150μmとウエハ厚さ130μmのウエハに切断し、ウエハの割れの有無を確認したところ、ウエハの割れは、ウエハ厚(μm)さとマイクロクラック深さ(μm)に依存することが判明した。ワーク切断後のウエハ厚さを厚さ130μmと150μmとし、ワイヤ径、張力、固定砥粒外径をパラメータとして、ウエハ切断テストを行い、マイクロクラック深さとウエハ割れの発生頻度の確認を実施した試験結果が、次の表1である。
【0054】
【表1】
上記表1から分かるように、ウエハ厚さが150μmで、ワイヤ4のワイヤ径が100μm、ワイヤ4にかかる張力が19N、ワイヤ4の固定砥粒の外径が10〜20μmをパラメータとして、ウエハ切断テストを行い、そのときのマイクロクラック深さが2.5μmでウエハ割れの発生頻度が1パーセント以下であった。一方、ウエハ厚さが130μmで、上記各パラメータの切断条件と同一の切断条件でウエハ切断テストを行い、そのときのマイクロクラック深さが2.6μmは略同等であるがウエハ割れの発生頻度は4パーセントに悪化した。即ち、ウエハ厚さが150μmでマイクロクラック深さが2.5μmの場合から、ウエハ厚さが130μmでマイクロクラック深さが2.6μmの場合で、ウエハ割れの発生頻度が1パーセント以下から4パーセントに悪化している。このことから、このウエハ素材の割れや欠けは、ウエハ厚さに起因しており、ウエハ厚さが厚くなる方がウエハ割れの発生頻度が抑制され、ウエハ厚さが薄くなる方がウエハ割れの発生頻度が悪化することが分かる。ウエハ厚さを厚くすることは、ワーク材料を効率的に用いるウエハの薄板化に逆行する。
【0055】
要するに、ウエハの割れは、ウエハ厚さ150μmで、マイクロクラック深さが2.5μmのときに、ウエハ割れの発生頻度が1パーセント以下の良好な結果を得ることができたが、ウエハの割れは、薄い方のウエハ厚さ130μmでは、マイクロクラック深さが2.6μmと同等であっても、ウエハ割れの発生頻度が4パーセントで良好な結果を得ることができなかった。
【0056】
本実施形態1のワイヤソー装置1では、ワーク切断後のウエハ割れ発生頻度(パーセント)を抑制するべくワーク切断後のウエハ厚さ(μm)を設定することができる。ウエハ厚さの設定制御は、溝付ローラ2,3の溝ピッチやワイヤ径および切り代などにより行われる。
【0057】
前述したが、ワイヤ4のワイヤ径が100μm、ワイヤ4にかかる張力が19N、ワイヤ4の固定砥粒の外径が10〜20μmをパラメータとしてワーク切断する場合に、ウエハ厚さ150μmに設定制御すれば、マイクロクラック深さが2.5μmでウエハ割れの発生頻度が1パーセント以下の良好な値とすることができる。この場合に、ウエハ厚さ130μmに設定制御すると、ウエハ割れの発生頻度は4パーセントになってしまう。
【0058】
次に、ワーク切断後のウエハ厚さを薄い方の130μmとして一定にし、ワイヤ径(μm)、張力(N)および固定砥粒外径(μm)をパラメータとして、ウエハ切断テストを行い、マイクロクラック深さ(μm)とウエハ割れの発生頻度(パーセント)の確認を実施した試験結果が、次の表2である。
【0059】
【表2】
上記表2の項目(3)から分かるように、ウエハ厚さが130μmで、ウエハ割れの発生頻度が1パーセント以下の良好な結果を得るには、ワイヤ4のワイヤ径が100μm、ワイヤ4にかかる張力が14N、ワイヤ4の固定砥粒の外径が10〜20μmをパラメータとして、ワーク切断を行う必要がある。このときのマイクロクラック深さが2μmであった。
【0060】
上記表2の項目(4)から分かるように、ウエハ厚さが130μmで、ワイヤ4のワイヤ径が100μm、ワイヤ4にかかる張力が10N、ワイヤ4の固定砥粒の外径が10〜20μmをパラメータとして、ウエハ切断テストを行い、そのときのマイクロクラック深さが1.5μmで、ウエハ割れの発生頻度が1パーセント以下の良好な結果を得ることができた。
【0061】
上記表2の項目(2)から分かるように、ウエハ厚さが130μmで、ワイヤ4のワイヤ径が100μm、ワイヤ4にかかる張力が19N、ワイヤ4の固定砥粒の外径が10〜20μmをパラメータとして、ウエハ切断テストを行い、そのときのマイクロクラック深さが2.6μmで、ウエハ割れの発生頻度が高く、4パーセントであった。
【0062】
図3は、ウエハ厚さが130μmで、ワイヤ4のワイヤ径が100μmおよびワイヤ4の固定砥粒の外径が10〜20μmの場合に、ワイヤ4にかかる張力を変化させたときのマイクロクラック深さとの関係を示す図である。
【0063】
図3において、上記表2の項目(2)〜項目(4)からも分かるように、張力19Nのときにマイクロクラック深さが2.6μmで、張力14Nのときにマイクロクラック深さが2μmで、張力10Nのときにマイクロクラック深さが1.5μmである。張力が低下するのに伴ってマイクロクラックも薄くなっている。ワーク切断後のウエハ厚さを厚さ130μmとし、ワイヤ4のワイヤ径が100μmおよびワイヤ4の固定砥粒外径10〜20μmの場合では、張力14N以下でウエハ切断テストを行った結果が、マイクロクラック深さが2μm以下の結果となり、ウエハの割れ発生頻度も1パーセント以下で大幅に小さく良好な結果を得ることができた。
【0064】
このことから、ウエハ厚さ130μmで、ワイヤ4の固定砥粒外径が一定の場合に、マイクロクラック深さは張力に依存していることが判明した。さらに、ウエハ素材の割れや欠けの発生頻度は、マイクロクラックの深さに依存していることが判明した。
【0065】
本実施形態1のワイヤソー装置1では、ワーク切断後のウエハ割れ発生頻度を抑制するべくウエハ表面のマイクロクラック深さ(μm)を制御することができる。前述したが、ウエハ厚さ130μm、ワイヤ4のワイヤ径が100μmおよびワイヤ4の固定砥粒の外径が10〜20μmをパラメータとしてワーク切断する場合に、マイクロクラック深さが2μm以下になるようにワイヤ4にかかる張力を10N以上14N以下に設定すれば、ウエハ割れの発生頻度が1パーセント以下の良好な値とすることができる。
【0066】
ウエハ割れの発生頻度は、インゴットバラツキ、工程バラツキ等により0.5%程度の割れ発生バラつきがある。したがって0.5%以上の割れ発生頻度については優位差があるものと判断できる。
【0067】
要するに、ウエハ厚さが130μmで、ワイヤ4の固定砥粒外径10〜20μmの場合の張力を10以上14N以下とすれば、ウエハ割れの発生頻度が1パーセント以下の良好な値とすることができる。また同様に、ウエハ厚さが130μmで、固定砥粒の平均突き出し量が8μmの場合の張力を10N以上14N以下とすれば、ウエハ割れの発生頻度が1パーセント以下の良好な値とすることができる。固定砥粒外径は、ワイヤ4の外周に固定層により固着された固定砥粒の突き出し量を加えた値であるから、固定層としての電着めっき層の厚さをの2μmとしたとき、ワイヤ4の固定砥粒外径10μmの場合に固定砥粒の平均突き出し量は8μmとなる。
【0068】
さらに、ウエハ厚さが100μm〜130μmであっても、ワイヤ4の固定砥粒外径10〜20μmの場合の張力を14N以下とすれば、ウエハ割れの発生頻度が1パーセント以下の良好な値とすることができる。
【0069】
図4は、ウエハ厚さが130μmで、ワイヤ4のワイヤ径が80μmおよびワイヤ4の固定砥粒の外径が8〜16μmの場合に、ワイヤ4にかかる張力を変化させたときのマイクロクラック深さとの関係を示す図である。
【0070】
図4において、上記表2の項目(6)〜項目(9)からも分かるように、ウエハ厚さが130μmで、張力19Nのときにマイクロクラック深さが1.9μmで、張力14Nのときにマイクロクラック深さが1.6μmで、張力12Nのときにマイクロクラック深さが1.4μm、張力10Nのときにマイクロクラック深さが1.2μmである。張力が低下するのに伴ってマイクロクラックも薄くなっている。ワーク切断後のウエハ厚さを厚さ130μmとし、ワイヤ4のワイヤ径が80μmおよびワイヤ4の固定砥粒径8〜16μmの場合では、張力19N以下でウエハ切断テストを行った結果が、マイクロクラック深さが1.9μm以下の結果となり、ウエハの割れ発生頻度も1パーセント以下で大幅に小さく良好な結果を得ることができた。このことからも、ウエハ厚さ130μmで、ワイヤ4の固定砥粒外径が一定の場合に、マイクロクラック深さは張力に依存している。さらに、ウエハ素材の割れや欠けの発生頻度も、マイクロクラックの深さに依存している。
【0071】
上記表2の項目(5)、項目(7)および項目(10)からも分かるように、ウエハ厚さが130μmで、ワイヤ4にかかる張力が14N、ワイヤ4の固定砥粒の外径が8〜16μmをパラメータとすると共に、別のパラメータとしてワイヤ4のワイヤ径を100μm、80μm、70μmと変化させてウエハ切断テストを行ったマイクロクラック深さが全て1.6μmであった。これによって、マイクロクラック深さはワイヤ径には依存しないことが分かる。
【0072】
上記表2の項目(3)および項目(5)からも分かるように、ウエハ厚さが130μmで、ワイヤ4のワイヤ径を100μmおよびワイヤ4にかかる張力が14Nをパラメータとすると共に、別のパラメータとしてワイヤ4の固定砥粒の外径が10〜16μm、8〜16μmに変化させてウエハ切断テストを行ったマイクロクラック深さが、2μm、1.6μmであった。これによって、マイクロクラック深さはワイヤ4の固定砥粒の外径に依存していることが分かる。この固定砥粒の外径とは、ワイヤ4の外周に固定層により固着された固定砥粒の突き出し量を加えた値であり、マイクロクラック深さはワイヤ4の固定砥粒の固定層からの突き出し量に依存している。
【0073】
したがって、ウエハ厚さが薄く一定の場合(例えばウエハ厚さ100μm〜130μm)、マイクロクラック深さは、ワイヤ4の固定砥粒径と張力に依存し、マイクロクラック深さが2μm以下の場合に、ウエハの割れ発生頻度が大幅に小さくなり、ウエハの割れ発生頻度も1パーセント以下で大幅に小さく良好な結果を得ることができる。また、マイクロクラック深さが2μmを超えると、ウエハの割れ発生頻度が大幅に増加する。
【0074】
本実施形態1のワイヤソー装置1では、ワーク切断後のウエハ割れ発生頻度を抑制するべくウエハ表面のマイクロクラック深さ(μm)を制御することができる。前述したが、ウエハ厚さ130μm、ワイヤ4のワイヤ径が80μmおよびワイヤ4の固定砥粒の外径が8〜16μmをパラメータとしてワーク切断する場合に、マイクロクラック深さが2μm以下になるようにワイヤ4にかかる張力を10N以上19N以下に設定すれば、ウエハ割れの発生頻度が1パーセント以下の良好な値とすることができる。
【0075】
要するに、ウエハ厚さが130μmで、ワイヤ4の固定砥粒外径8〜16μmの場合の張力を10以上19N以下とすれば、ウエハ割れの発生頻度が1パーセント以下の良好な値とすることができる。また同様に、ウエハ厚さが130μmで、固定砥粒の平均突き出し量が6μmの場合の張力を10以上19N以下とすれば、ウエハ割れの発生頻度が1パーセント以下の良好な値とすることができる。固定砥粒外径は、ワイヤの外径に固定層により固着された固定砥粒の突き出し量を加えた値であるから固定層としての電着めっき層の厚さを2μmとしたとき、ワイヤ4の固定砥粒外径8μmの場合に固定砥粒の平均突き出し量は6μmとなる。
【0076】
さらに、ウエハ厚さが100μm〜130μmであっても、ワイヤ4の固定砥粒外径8〜16μmの場合の張力を19N以下とすれば、ウエハ割れの発生頻度が1パーセント以下の良好な値とすることができる。
【0077】
図5は、ウエハ厚さが100μmで、ワイヤ4のワイヤ径が80μmおよびワイヤ4の固定砥粒の外径が8〜16μmの場合に、ワイヤ4にかかる張力を変化させたときのマイクロクラック深さとの関係を示す図である。
【0078】
図5において、後述する図6からも分かるように、ウエハ厚さが100μmで、張力14Nのときにマイクロクラック深さが1.6μmで、張力12Nのときにマイクロクラック深さが1.4μmで、張力10Nのときにマイクロクラック深さが1.2μmである。張力が低下するのに伴ってマイクロクラックも薄くなっている。ワーク切断後のウエハ厚さを厚さ100μmとし、ワイヤ4のワイヤ径が80μmおよびワイヤ4の固定砥粒径8〜16μmの場合で、張力14N以下でウエハ切断テストを行った結果が、マイクロクラック深さが1.6μm以下の結果となり、ウエハの割れ発生頻度も1パーセント以下で大幅に小さく良好な結果を得ることができた。このことからも、ウエハ厚さ100μmで、ワイヤ4の固定砥粒外径が一定の場合に、マイクロクラック深さは張力に依存している。さらに、ウエハ素材の割れや欠けの発生頻度も、マイクロクラックの深さに依存している。具体的には、ウエハ厚さが100μmの場合ではマイクロクラック深さとして1.6μm以下であれば割れ発生頻度1パーセント以下となる。
【0079】
次は、ワーク切断後のウエハ厚さ、ワイヤ径、張力および固定砥粒外径をパラメータとして、ウエハ切断テストを行い、マイクロクラック深さとウエハ割れの発生頻度の確認の他に、ワーク材料の有効利用に関係する「切り代」およびワーク切断の速さを示す「加工時間」をも確認した試験結果について、次の図6に示している。
【0080】
図6は、ウエハ厚さ、ワイヤ径、張力および固定砥粒外径をパラメータとして、ウエハ切断テストを行い、マイクロクラック深さ、ウエハ割れの発生頻度の他に「切り代」および「加工時間」を確認した試験結果を示す図である。
【0081】
図6において、「切り代」は少なければ少ないほどワーク材料の有効利用の観点からよい。「加工時間」は短ければ短いほど製造工数の観点からよい。「切り代」はワイヤ径、張力および固定砥粒外径に関係し、「加工時間」は張力および固定砥粒外径に関係している。「切り代」を所定基準値の例えば95〜100μm以下でかつウエハの割れ発生頻度も1パーセント以下とするために、ワイヤ径、張力および固定砥粒外径のパラメータを設定する。また、「加工時間」を所定基準時間の例えば300分以下でかつウエハの割れ発生頻度も1パーセント以下にするために、ワイヤ径、張力および固定砥粒外径のパラメータを設定する。マイクロクラック深さ(2μm以下)およびウエハ厚さ(100μm以上130μm以下)の他に、「切り代」および「加工時間」をも加味して、ウエハ割れの発生頻度を1パーセント以下に抑制するために最適値を再度求める必要がある。
【0082】
ここで、本実施形態1では、前述したように、ワーク切断完了時のウエハ表面のマイクロクラック深さ(μm)をある範囲以下に制御することにより、その後工程でのウエハ割れや欠けを大幅に低減することができるものであり、マイクロクラック深さ(μm)の影響度合いはウエハ厚さ(μm)によって異なり、マイクロクラック深さ(μm)は張力(N)と砥粒の突き出し量(μm)に依存していることが判る。このことから、ワイヤ4にかかる張力(N)×ワイヤ4の固定砥粒の突き出し量(μm)×所定係数の加工条件に対するマイクロクラック深さ(μm)から関係式を近似直線Y=0.0125X+0.3として本発明者らは見出した。この場合、マイクロクラック深さをY、ワイヤ4にかかる張力(N)×ワイヤ4の固定砥粒の突き出し量(μm)×所定係数をXとしている。これについて図7〜図9を参照して詳細に説明する。
【0083】
図7は、ウエハ厚さ(μm)に対するマイクロクラック深さ(μm)の関係を示す図である。
【0084】
図7において、次の表3からも分かるように、ウエハ厚さが100μmのときにマイクロクラック深さが1.5μmで、ウエハ厚さが130μmのときにマイクロクラック深さが2μmで、ウエハ厚さが150μmのときにマイクロクラック深さが2.5μmである。ウエハ厚さが薄くなるのに伴ってマイクロクラック深さが浅くなっている。
【0085】
但し、図6からも分かるように、ワイヤ4の固定砥粒の突き出し量(μm)は一定(ワイヤ径100μmで砥粒径10−20μm)であるが、張力(N)は異なっている。例えばウエハ厚さが100μmでマイクロクラック深さが1.5μmのときに張力は10N、ウエハ厚さが130μmでマイクロクラック深さが2μmのときに張力は14N、ウエハ厚さが150μmでマイクロクラック深さが2μmのときに張力は19Nである。このように、張力(N)は、ウエハ厚さが薄くなるのにしたがって少ない設定である。
【0086】
【表3】
図8は、ワイヤ4の固定砥粒の突き出し量(μm)をパラメータとして、ワイヤ4にかかる張力(N)を変化させたときのマイクロクラック深さ(μm)との関係を示す図である。
【0087】
図8において、次の表4からも分かるように、マイクロクラック深さは、前述したが、張力(N)に比例し、突き出し量(μm)に比例する。次の表4より、突き出し量が6μmのマイクロクラック深さ×係数1.25で突き出し量9μmのマイクロクラック深さになる。また、張力(N)×突き出し量6μm×係数1.25のデータと、張力×突き出し量9μmのデータをグラフ化すると直線状となる。これは次の表5および図9に示している。この場合の係数1.25は砥粒密度、形状により異なり、本データは突き出し量9μmのときの係数である。逆に言えば、突き出し量6μmの場合は、突き出し量9μmのマイクロクラック深さの係数0.8倍である。
【0088】
その一例として、張力10N×突き出し量6μm×係数1.25=75で、このときのマイクロクラック深さは1.2μmである。また、張力12N×突き出し量6μm×係数1.25=90で、このときのマイクロクラック深さは1.4μmである。これを次の表5に示している。
【0089】
【表4】
図9は、ワイヤ4にかかる張力(N)×ワイヤ4の固定砥粒の突き出し量(μm)×係数とマイクロクラック深さ(μm)との関係を示す図である。
【0090】
図9において、次の表5をグラフ化すると直線近似でき、少なくともウエハ厚さ100μm以上150μmまでの範囲では、近似直線Y=0.0125X+0.3よりも以下の範囲ではウエハ割れ発生頻度が1パーセント以下となる。
【0091】
【表5】
したがって、ワイヤ4にかかる張力(N)×ワイヤ4の固定砥粒外径(μm)×所定係数の加工条件Xに対するマイクロクラック深さY(μm)から関係式をXY座標上での近似直線として表すことができる。この関係式から、マイクロクラック深さY(μm)を0μm以上2μm以下に設定制御して、ウエハ割れ発生頻度を0.5パーセント以上1パーセント以下に制御することができる。
【0092】
以上により、本実施形態1によれば、ワーク切断後のウエハ割れ発生頻度を抑制するべく、ウエハ表面のマイクロクラック深さおよびワーク切断後のウエハ厚さのうちの少なくともマイクロクラック深さが設定制御されている。具体的には、ウエハ厚さを、100μm以上130μm以下の半導体基板に薄板化し、マイクロクラック深さを2μm以下に設定制御して、ウエハ割れ発生頻度を1パーセント以下に設定制御する。なお、切断している以上、マイクロクラック深さは2μm以下の全値の範囲を意味している。
【0093】
これによって、ワーク切断に起因するマイクロクラックが抑制されるように、ワーク切断時のマイクロクラック深さを2μm以下に抑えるため、ワーク切断後からエッチング工程までのウエハの薄板化に伴うウエハ割れや欠けを抑えることができてウエハ(半導体基板)の歩留まりを向上させることができる。
【0094】
なお、本実施形態1では、ワイヤソー装置1を用いたワーク切断方法について説明したが、このワーク切断方法は、ワーク切断後のウエハ割れ発生頻度を抑制するべくウエハ表面のマイクロクラック深さおよびワーク切断後のウエハ厚さのうちの少なくともいずれかを設定制御する。このマイクロクラック深さを2μm以下に設定制御して、ウエハ割れ発生頻度を1パーセント以下に設定制御する。ウエハ厚さを100μm以上130μm以下の薄板に設定制御する。マイクロクラック深さの設定制御は、ワイヤ4の張力およびワイヤ4の固定砥粒の固定層からの突き出し量のうちの少なくともいずれかにより行う。
また、ワイヤ4の張力の設定制御をダンサローラー10,13により行う。具体的には、ウエハ厚さが100μm以上130μm以下で、平均固定砥粒外径が10〜20μmの場合の張力を10N以上14N以下に設定制御する。また、ウエハ厚さが100μm以上130μm以下で、平均固定砥粒外径が8〜16μmの場合の張力を10N以上19N以下に設定制御する。
【0095】
これに対して、本実施形態1の半導体基板の製造方法は、上記ワーク切断方法において、ワーク7が半導体インゴットであって、この半導体インゴットをワイヤソー装置1のワイヤ4の複数列で多数枚のウエハ状に切断することにより、多数枚のウエハ素材を半導体基板素材として一括して製造する。これによって、ワーク切断に起因するマイクロクラックを抑制してウエハ割れや欠けを抑えて歩留まりを向上させることができるものである。
【0096】
この本実施形態1の半導体基板の製造方法によって製造された半導体基板は、切断後のウエハ厚さが100μm以上130μm以下の薄板の場合に、ウエハ表面のマイクロクラック深さが、ワーク切断後のウエハ割れ発生頻度を抑制するように抑えられている。具体的には、この半導体基板のマイクロクラック深さは2μm以下に設定されている。マイクロクラック深さが2μm以下の場合にウエハ割れ発生頻度は小さく、マイクロクラック深さが2μmを超えると、ウエハ割れ発生頻度は増加する。
【0097】
以上のように、本発明の好ましい実施形態1を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、この実施形態1に限定して解釈されるべきものではない。本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本発明の具体的な好ましい実施形態1の記載から、本発明の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明は、所定の間隔で配置された複数の溝付きローラ間の外周に巻回した切断用ワイヤを走行させることによって、切断用ワイヤでワークを切断するワーク切断方法、このワーク切断方法を用いてウエハ素材を製造する半導体基板の製造方法、この半導体基板の製造方法により製造された半導体基板およびこのワーク切断方法に用いるワイヤソー装置の分野において、ワーク切断時のマイクロクラック深さを抑えるため、ワーク切断に起因するマイクロクラックが低減されて、ワーク切断後からエッチング工程までのウエハの薄板化に伴うウエハ割れや欠けを抑えることができてウエハの歩留まりを向上させることができる。
【符号の説明】
【0099】
1 ワイヤソー装置
2,3 溝付ローラ
4 ワイヤ(固定砥粒ワイヤ)
5 供給ボビン
6 回収ボビン
7 ワーク
8、9、11、12 ガイドローラ
10、13 ダンサローラー
14、15 トラバーサ
19 加工液供給部
17 固定部
18 ワーク送り機構
201 ウエハ(半導体基板)
202 切断表面
203 斜め研磨した面
204 マイクロクラック痕
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の間隔で配置された複数の溝付ローラ間に巻き付けられる切断用のワイヤの複数列でワークを切断するワーク切断方法において、ワーク切断後のウエハ割れ発生頻度を抑制するべく、切断したウエハ表面のマイクロクラック深さおよび該ワーク切断後のウエハ厚さのうちの少なくとも該マイクロクラック深さを設定制御するワーク切断方法。
【請求項2】
前記マイクロクラック深さを0μm以上2μm以下に設定制御して、前記ウエハ割れ発生頻度を0.5パーセント以上1パーセント以下に制御する請求項1に記載のワーク切断方法。
【請求項3】
前記ウエハ厚さを100μm以上150μm以下に設定制御する請求項1または2に記載のワーク切断方法。
【請求項4】
前記マイクロクラック深さの設定制御は、前記ワイヤの張力および該ワイヤの固定砥粒の固定層からの突き出し量のうちの少なくともいずれかにより行う請求項1または2に記載のワーク切断方法。
【請求項5】
固定砥粒外径は、前記ワイヤの外周に固定層により固着された固定砥粒の突き出し量を加えた値である請求項4に記載のワーク切断方法。
【請求項6】
前記複数の溝付ローラ間に巻き付けられるワイヤの一方端が第1ダンサローラーを介して供給ボビンに巻き付けられ、該ワイヤの他方端が第2ダンサローラーを介して回収ボビンに巻き付けられており、該ワイヤの張力の設定制御を該第1ダンサローラーおよび該第2ダンサローラーにより行う請求項4に記載のワーク切断方法。
【請求項7】
前記ワイヤは、芯線の外周表面に砥粒を固定した固定砥粒ワイヤであって、該芯線の外径が50μm以上80μm以下で、該芯線の単位面積当たりの該砥粒の個数が少なくとも400個/mm2である請求項1または4に記載のワーク切断方法。
【請求項8】
前記ウエハ厚さが100μm以上130μm以下で、平均固定砥粒外径が10〜20μmの場合の張力を10N以上14N以下に設定制御する請求項4に記載のワーク切断方法。
【請求項9】
前記ウエハ厚さが100μm以上130μm以下で、平均固定砥粒外径が8〜16μmの場合の張力を10N以上14N以下に設定制御する請求項4に記載のワーク切断方法。
【請求項10】
前記ワイヤにかかる張力(N)×該ワイヤの固定砥粒外径(μm)×所定係数の加工条件Xに対するマイクロクラック深さY(μm)から関係式をXY座標上での近似直線とする請求項4に記載のワーク切断方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載のワーク切断方法において、前記ワークが半導体インゴットであって、該半導体インゴットをワイヤソー装置の前記ワイヤ列で多数枚のウエハ状に切断する半導体基板の製造方法。
【請求項12】
切断後のウエハ厚さが100μm以上150μm以下で、ウエハ表面のマイクロクラック深さが0μm以上2μm以下である半導体基板。
【請求項13】
所定の間隔で配置された複数の溝付ローラ間に巻き付けられる切断用のワイヤの複数列でワークを切断するワイヤソー装置において、ワーク切断後のウエハ割れ発生頻度を抑制するべく、切断したウエハ表面のマイクロクラック深さおよび該ワーク切断後のウエハ厚さのうちの少なくとも該マイクロクラック深さを設定制御するワイヤソー装置。
【請求項14】
前記マイクロクラック深さを0μm以上2μm以下に設定制御して、前記ウエハ割れ発生頻度が0.5パーセント以上1パーセント以下に制御されている請求項13に記載のワイヤソー装置。
【請求項15】
前記ウエハ厚さが、100μm以上150μm以下に設定制御されている請求項13または14に記載のワイヤソー装置。
【請求項16】
前記マイクロクラック深さの設定制御は、前記ワイヤの張力および該ワイヤの固定砥粒の固定層からの突き出し量のうちの少なくともいずれかにより行う請求項13または14に記載のワイヤソー装置。
【請求項17】
固定砥粒外径は、前記ワイヤの外径に固定層により固着された固定砥粒の突き出し量を加えた値である請求項16に記載のワイヤソー装置。
【請求項18】
前記複数の溝付ローラ間に巻き付けられるワイヤの一方端が第1ダンサローラーを介して供給ボビンに巻き付けられ、該ワイヤの他方端が第2ダンサローラーを介して回収ボビンに巻き付けられており、該ワイヤの張力の制御は該第1ダンサローラーおよび該第2ダンサローラーにより行われる請求項16に記載のワイヤソー装置。
【請求項19】
前記ワイヤは、芯線の外周表面に砥粒を固定した固定砥粒ワイヤであって、該芯線の外径が50μm以上80μm以下で、該芯線の単位面積当たりの該砥粒の個数が少なくとも400個/mm2である請求項13または16に記載のワイヤソー装置。
【請求項20】
前記ウエハ厚さが100μm以上130μm以下で、平均固定砥粒外径が10〜20μmの場合の張力を10N以上14N以下に設定制御する請求項16に記載のワイヤソー装置。
【請求項21】
前記ウエハ厚さが100μm以上130μm以下で、平均固定砥粒外径が8〜16μmの場合の張力を10N以上14N以下に設定制御する請求項16に記載のワイヤソー装置。
【請求項1】
所定の間隔で配置された複数の溝付ローラ間に巻き付けられる切断用のワイヤの複数列でワークを切断するワーク切断方法において、ワーク切断後のウエハ割れ発生頻度を抑制するべく、切断したウエハ表面のマイクロクラック深さおよび該ワーク切断後のウエハ厚さのうちの少なくとも該マイクロクラック深さを設定制御するワーク切断方法。
【請求項2】
前記マイクロクラック深さを0μm以上2μm以下に設定制御して、前記ウエハ割れ発生頻度を0.5パーセント以上1パーセント以下に制御する請求項1に記載のワーク切断方法。
【請求項3】
前記ウエハ厚さを100μm以上150μm以下に設定制御する請求項1または2に記載のワーク切断方法。
【請求項4】
前記マイクロクラック深さの設定制御は、前記ワイヤの張力および該ワイヤの固定砥粒の固定層からの突き出し量のうちの少なくともいずれかにより行う請求項1または2に記載のワーク切断方法。
【請求項5】
固定砥粒外径は、前記ワイヤの外周に固定層により固着された固定砥粒の突き出し量を加えた値である請求項4に記載のワーク切断方法。
【請求項6】
前記複数の溝付ローラ間に巻き付けられるワイヤの一方端が第1ダンサローラーを介して供給ボビンに巻き付けられ、該ワイヤの他方端が第2ダンサローラーを介して回収ボビンに巻き付けられており、該ワイヤの張力の設定制御を該第1ダンサローラーおよび該第2ダンサローラーにより行う請求項4に記載のワーク切断方法。
【請求項7】
前記ワイヤは、芯線の外周表面に砥粒を固定した固定砥粒ワイヤであって、該芯線の外径が50μm以上80μm以下で、該芯線の単位面積当たりの該砥粒の個数が少なくとも400個/mm2である請求項1または4に記載のワーク切断方法。
【請求項8】
前記ウエハ厚さが100μm以上130μm以下で、平均固定砥粒外径が10〜20μmの場合の張力を10N以上14N以下に設定制御する請求項4に記載のワーク切断方法。
【請求項9】
前記ウエハ厚さが100μm以上130μm以下で、平均固定砥粒外径が8〜16μmの場合の張力を10N以上14N以下に設定制御する請求項4に記載のワーク切断方法。
【請求項10】
前記ワイヤにかかる張力(N)×該ワイヤの固定砥粒外径(μm)×所定係数の加工条件Xに対するマイクロクラック深さY(μm)から関係式をXY座標上での近似直線とする請求項4に記載のワーク切断方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載のワーク切断方法において、前記ワークが半導体インゴットであって、該半導体インゴットをワイヤソー装置の前記ワイヤ列で多数枚のウエハ状に切断する半導体基板の製造方法。
【請求項12】
切断後のウエハ厚さが100μm以上150μm以下で、ウエハ表面のマイクロクラック深さが0μm以上2μm以下である半導体基板。
【請求項13】
所定の間隔で配置された複数の溝付ローラ間に巻き付けられる切断用のワイヤの複数列でワークを切断するワイヤソー装置において、ワーク切断後のウエハ割れ発生頻度を抑制するべく、切断したウエハ表面のマイクロクラック深さおよび該ワーク切断後のウエハ厚さのうちの少なくとも該マイクロクラック深さを設定制御するワイヤソー装置。
【請求項14】
前記マイクロクラック深さを0μm以上2μm以下に設定制御して、前記ウエハ割れ発生頻度が0.5パーセント以上1パーセント以下に制御されている請求項13に記載のワイヤソー装置。
【請求項15】
前記ウエハ厚さが、100μm以上150μm以下に設定制御されている請求項13または14に記載のワイヤソー装置。
【請求項16】
前記マイクロクラック深さの設定制御は、前記ワイヤの張力および該ワイヤの固定砥粒の固定層からの突き出し量のうちの少なくともいずれかにより行う請求項13または14に記載のワイヤソー装置。
【請求項17】
固定砥粒外径は、前記ワイヤの外径に固定層により固着された固定砥粒の突き出し量を加えた値である請求項16に記載のワイヤソー装置。
【請求項18】
前記複数の溝付ローラ間に巻き付けられるワイヤの一方端が第1ダンサローラーを介して供給ボビンに巻き付けられ、該ワイヤの他方端が第2ダンサローラーを介して回収ボビンに巻き付けられており、該ワイヤの張力の制御は該第1ダンサローラーおよび該第2ダンサローラーにより行われる請求項16に記載のワイヤソー装置。
【請求項19】
前記ワイヤは、芯線の外周表面に砥粒を固定した固定砥粒ワイヤであって、該芯線の外径が50μm以上80μm以下で、該芯線の単位面積当たりの該砥粒の個数が少なくとも400個/mm2である請求項13または16に記載のワイヤソー装置。
【請求項20】
前記ウエハ厚さが100μm以上130μm以下で、平均固定砥粒外径が10〜20μmの場合の張力を10N以上14N以下に設定制御する請求項16に記載のワイヤソー装置。
【請求項21】
前記ウエハ厚さが100μm以上130μm以下で、平均固定砥粒外径が8〜16μmの場合の張力を10N以上14N以下に設定制御する請求項16に記載のワイヤソー装置。
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図11】
【図1】
【図10】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図11】
【図1】
【図10】
【公開番号】特開2013−82020(P2013−82020A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−222233(P2011−222233)
【出願日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】
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