説明

ワーク加工用固定治具の交換装置

【課題】加工用ワークをクランパーで固定するワーク加工用固定治具を小型軽量化することができ、ワーク加工用固定治具の格納スペースの拡大と、タクトタイムが長くなることを防ぐことができ、而もパレットの格納スペースを大きくすることなく多車種に対応するワーク加工用固定治具を簡易な構成にできるワーク加工用固定治具の交換装置を提供する。
【解決手段】ワーク加工用固定治具20A、30Aをクランプするクランパーを、相反する方向に形成される垂直面それぞれに設置していると共に、前記各垂直面を垂直回転軸によって垂直回転させる回転機構をそれぞれ備る2つの固定治具固定ユニット2、3と対になるワーク加工用固定治具20A、30Aが格納される治具ストッカ4と、ワーク加工用固定治具20A、30Aを、治具ストッカ4の治具格納位置及び前記クランパーのクランプ位置間で移動させる産業用搬送ロボット5を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接等の加工を施す加工用ワークを着脱自在に固定するワーク加工用固定治具を、加工用ワークの種類毎に入れ替えるためのワーク加工用固定治具の交換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、多車種の同部位に取り付ける部分組立品(subassembly)の自動車製造工程において、設備レイアウトのミニマム化や作業効率の向上を図るために、パネル等の部品を支持可能な受け駒を有し、車種毎に異なる部品支持部材と、それぞれの部品支持部材を着脱自在に装着可能な複数のパレットと、それぞれのパレットを取り付け可能な複数のパレット装着面を有する回転部とを有する治具回転切り替え装置が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
このような治具回転切り替え装置が応用される自動車製造工程である例えば、フルドアのアウタパネルが除かれたインナードアシェルを組み立てるためのロボット溶接工程で使用される装置は図4(A)、図5(A)に示すように、3車種毎に異なる加工用ワークWをクランパ等で着脱自在に固定する3車種毎に異なる3つのワーク加工用固定治具であるパレット200A、200B、200Cと、パレット200を着脱自在に固定する2つのパレット装着面301a、301bが相反する方向に形成され、2つのパレット装着面301a、301bを垂直回転軸302によって垂直回転させる回転機構(図示せず。)を備えているパレット回転台300と、パレット回転台300を中心にして相反する方向に設けられる2つのパレット・ストッカ400A、400Bと、パレット200をパレット回転台300及び2つのパレット・ストッカ400A、400B間で移動させるパレット移動機構500と、パレット回転台300のパレット装着面301に固定されているパレット200に固定された加工用ワークWに他の部品をスポット溶接する溶接ガン601aを有する産業用溶接ロボット600とを備えている。なお、説明の便宜上、パレット200A、200B、200Cを単にパレット200、パレット装着面301a、301bを単にパレット装着面301と称する場合がある。また、図5(A)では、パレット200A、200B、200Cを単にパレット200と称している。
【0004】
パレット移動機構500は、2つのパレット・ストッカ400A、400B間に敷設される軌道501と、パレット200の下部に設けられ、軌道501上を走行するための車輪(図示せず。)と、パレット200を軌道501上で移動させるためのシリンダ等の駆動手段(図示せず。)とから構成されている。さらに、パレット200及びパレット回転台300のパレット装着面301間には図5(B)に示すように、パレット200をパレット回転台300のパレット装着面301に着脱自在に固定するロック機構700が複数設けられている。このロック機構700は凹凸を嵌め合わせることでロックさせる機構で、ロックされると、パレット200の車輪が軌道501上から離脱するように構成されている。なお、図5(B)では、パレット200A、200B、200Cを単にパレット200と称している。
【0005】
このように構成されたパレットの交換装置100の動作について、図4(A)、(B)、(C)、(D)、図5(A)、(B)に基づき説明する。なお、動作開始時には図4(A)に示すように、回転台300は、加工用ワークが固定されていない空のA車用のパレット200Aがパレット装着面301aにロック機構700で固定され、加工用ワークが固定されていない空のC車用のパレット200Cがパレット装着面301bにロック機構700で固定されているものとする。このようなパレット装着面301aが作業者Hの位置する方向に、パレット装着面301bが産業用溶接ロボット600の位置する方向にそれぞれ向いているものとする。また、パレット・ストッカ400Aには加工用ワークが固定されていない空のB車用のパレット200Bが格納され、パレット・ストッカ200Bにはパレットは格納されていないものとする。
【0006】
このような状況において、作業者HがA車用のパレット200AにA車用の加工用ワークWを固定させると図4(B)に示すように、回転台300は回転機構で垂直回転軸302を垂直回転させてパレット装着面301aを産業用溶接ロボット600の位置する方向に移動させる。そして、図4(C)に示すように、産業用溶接ロボット600はパレット200Aに固定されているA車用の加工用ワークWに溶接ガン601で他の部品をスポット溶接する。この際、次にB車用の加工用ワークWに溶接ガン601で他の部品をスポット溶接する場合には、作業者Wの位置する方向に向いているパレット装着面301bにロック機構700で固定されている空のC車用のパレット200Cを、パレット・ストッカ400Aに格納されている空のB車用のパレット200Bに交換する。即ち、ロック機構700をアンロックさせて空のC車用のパレット200Cをパレット装着面301bから離脱させ、軌道501上に車輪を嵌合させる。そして、駆動手段によって、空のC車用のパレット200Cを軌道501上で移動させてパレット・ストッカ400Bに格納させると共に、パレット・ストッカ400Aに格納されている空のB車用のパレット200Bをパレット装着面301aの位置まで移動させる。ここで、ロック機構700をロックさせて空のB車用のパレット200Bをパレット装着面301bに固定する。
【0007】
空のB車用のパレット200Bがパレット装着面301bに固定されると図4(D)に示すように、作業者HはB車用のパレット200BにB車用の加工用ワークWを固定させることで、以下、図4(B)と同様に、回転台300は回転機構で垂直回転軸302を垂直回転させてパレット装着面301bを産業用溶接ロボット600の位置する方向に移動させる。これにより、B車用の加工用ワークWに溶接ガン601で他の部品をスポット溶接することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−311549号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、背景技術に記載したパレットの交換装置100では、インナードアシェル用の加工用ワークWの場合、加工用ワークWを固定するパレット200が大きくなり500Kgくらいの重さになることから、パレット移動機構500や回転機構が大掛かりになるので、設備コストが上がると共に設置スペースが大きくなり、而も、垂直回転軸302の回転速度やパレット200の移動速度が遅くなる難点があった。また、パレット200が大きいと共に、当該パレット200をパレット装着面301に着脱自在に固定するロック機構700が単に凹凸を嵌め合わせることでロックさせる機構なので、正確な装着位置に合わせる調整に時間が掛かったり、パレットの機差により品質がばらついたりする場合があった。
【0010】
また、3車種に対応する3つの加工用ワークをスポット溶接する比率が異なる場合、例えば、A車用の加工用ワークW、B車用の加工用ワークW、及びC車用の加工用ワークWをスポット溶接する比率がA車用の加工用ワークWが一番大きいとすると、産業用溶接ロボット600の位置する方向で連続してA車用の加工用ワークWをスポット溶接しなければならなかった。この場合、スポット溶接されたA車用の加工用ワークWを産業用搬送ロボット(図示せず。)でA車用のパレット200Aから離脱後、回転台300でパレット200Aを作業者Hの位置する方向まで回転させ、その位置で作業者HがA車用のパレット200AにA車用の加工用ワークWを固定し、さらに、A車用の加工用ワークWがセットされたA車用のパレット200Aを回転台300で作業者Hの位置する方向まで回転しなければならない。したがって、A車用のパレット200Aをパレット・ストッカ400A、400Bに複数格納させるためにパレット・ストッカ400A、400Bの格納スペースを拡大させるか、タクトタイムを長く設定しなければならなくなる難点があった。
【0011】
さらに、このパレットの交換装置100を3車種以上に対応させるには、その車種毎にパレットを揃えればよいが、パレットの格納スペースが大きくなる難点があった。なお、パレットの格納スペースを大きくすることができない場合は、車種毎に別個のクランパーや位置決めピンを1つのパレットに配置することが考えられるが、パレットの機構が複雑になる難点があった。
【0012】
本発明は、このような従来の難点を解消するためになされたもので、加工用ワークを着脱自在に固定するワーク加工用固定治具を小型軽量化することができ、また、複数の車種に対応する各加工用ワークをスポット溶接する比率が異なる場合においても、ワーク加工用固定治具の格納スペースの拡大と、タクトタイムが長くなることを防ぐことができ、而もパレットの格納スペースを大きくすることなく多車種に対応するワーク加工用固定治具を簡易な構成にすることができるワーク加工用固定治具の交換装置を提供することを目的とする。
【0013】
また、本発明は、固定治具固定ユニットの装着面にワーク加工用固定治具を、時間を掛けることなく容易に精度よく装着することができるワーク加工用固定治具の交換装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述の目的を達成する第1の態様であるワーク加工用固定治具の交換装置は、加工用ワークの一方の側面を着脱自在に固定する当該加工用ワークの種類毎に異なる第1のワーク加工用固定治具をクランプして位置決めするための第1のクランパーを、少なくとも2箇所以上の垂直面それぞれに設置していると共に、各第1のクランパーが設置されている各垂直面を垂直回転軸によって垂直回転させる回転機構を備えている第1の固定治具固定ユニットと、加工用ワークの他方の側面を着脱自在に固定する第1のワーク加工用固定治具と対になる第2のワーク加工用固定治具をクランプして位置決めするための第2のクランパーを、第1の固定治具固定ユニットの垂直面と同数の垂直面それぞれに設置していると共に、各第2のクランパーが設置されている各垂直面を垂直回転軸によって垂直回転させる回転機構を備えている第2の固定治具固定ユニットと、対になる第1のワーク加工用固定治具及び第2のワーク加工用固定治具が格納される治具ストッカと、複数のアームがそれぞれ関節部にて連結され、先端のアームには第1のワーク加工用固定治具又は第2のワーク加工用固定治具を把持するためのロボットハンドが設けられ、第1のワーク加工用固定治具を治具ストッカの治具格納位置及び第1のクランパーのクランプ位置間で移動させ、第2のワーク加工用固定治具を治具ストッカの治具格納位置及び第2のクランパーのクランプ位置間で移動させる産業用搬送ロボットとを備えているものである。
【0015】
このような第1の態様であるワーク加工用固定治具の交換装置によれば、2つのワーク加工用固定治具で加工用ワークを着脱自在に固定することができるので、ワーク加工用固定治具を小型軽量化することができ、また、作業者が位置する側で、当該作業者が対になる第1のワーク加工用固定治具及び第2のワーク加工用固定治具に加工用ワークをセットすることができると共に、第1のワーク加工用固定治具及び第2のワーク加工用固定治具にセットされた加工用ワークに、産業用物理的処理ロボットで物理的処理を施すことが可能になる。
【0016】
本発明の第2の態様は第1の態様であるワーク加工用固定治具の交換装置において、第1の固定治具固定ユニットの各垂直面、及び第2の固定治具固定ユニットの各垂直面には、それぞれ第1のワーク加工用固定治具及び第2のワーク加工用固定治具を各クランパーでクランプする際の位置決め精度を高めるための位置決めピンが突設され、第1のワーク加工用固定治具及び第2のワーク加工用固定治具には、それぞれ位置決めピンを嵌合させるための嵌合穴が形成されているものである。なお、本明細書において「突設」とは、突き出した状態に設けることを意味する。
【0017】
このような第2の態様であるワーク加工用固定治具の交換装置によれば、固定治具固定ユニットの装着面にワーク加工用固定治具を、時間を掛けることなく容易に精度よく装着することができるようになる。
【0018】
本発明の第3の態様は第1の態様又は第2の態様であるワーク加工用固定治具の交換装置において、第1のクランパー及び第2のクランパーは、それぞれクランプ中に第1のワーク加工用固定治具及び第2のワーク加工用固定治具がずれないように複数設置されているものである。
【0019】
このような第3の態様であるワーク加工用固定治具の交換装置によれば、品質がばらつくことを防ぐことができる。
【0020】
本発明の第4の態様は第1の態様乃至第3の態様のうち何れか1つの態様であるワーク加工用固定治具の交換装置において、複数のアームがそれぞれ関節部にて連結され、先端のアームには加工用ワークに対して物理的処理を施す処理装置が設けられている産業用物理的処理ロボットが、作業者側で物理的処理を施すことができるような位置に配置されているものである。
【0021】
このような第4の態様であるワーク加工用固定治具の交換装置によれば、作業者側で第1のワーク加工用固定治具及び第2のワーク加工用固定治具にセットされた加工用ワークに、産業用物理的処理ロボットで物理的処理を施すことができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明のワーク加工用固定治具の交換装置によれば、加工用ワークをクランパーで固定するワーク加工用固定治具を小型軽量化することができ、また、複数の車種に対応する各加工用ワークをスポット溶接する比率が異なる場合においても、ワーク加工用固定治具の格納スペースの拡大と、タクトタイムが長くなることを防ぐことができ、而もパレットの格納スペースを大きくすることなく多車種に対応するワーク加工用固定治具を簡易な構成にすることができるようになる。
【0023】
また、本発明のワーク加工用固定治具の交換装置によれば、固定治具固定ユニットの装着面にワーク加工用固定治具を、時間を掛けることなく容易に精度よく装着することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明のワーク加工用固定治具の交換装置の好ましい実施の形態例を示す平面図で、(A)は作業者側に位置する2つのワーク加工用固定治具に、作業者が加工用ワークをセットする状態の図、(B)は(A)で2つのワーク加工用固定治具にセットされた加工用ワークに溶接を施すと共に、産業用搬送ロボット側に位置する2つのワーク加工用固定治具を、産業用搬送ロボットで他の2つのワーク加工用固定治具に交換する状態の図、(C)は(B)で交換された2つのワーク加工用固定治具をそれぞれ対応する固定治具固定ユニットで作業者側に回転後、作業者が加工用ワークをセットする状態の図である。
【図2】(A)は図1に示す本発明のワーク加工用固定治具の交換装置の側面図、(B)は固定治具固定ユニットの固定治具装着部の詳細を示す上面から見た断面図、(C)は固定治具固定ユニットの固定治具装着部のクランプと位置決めピンの配置状態を示す説明図である。
【図3】2つのワーク加工用固定治具に加工用ワークがセットされている状態を示す説明図である。
【図4】従来のパレットの交換装置を示す平面図で、(A)は作業者側に位置するパレットに作業者が加工用ワークをセットする状態の図、(B)は(A)で加工用ワークがセットされたパレットを、パレット回転台で産業用溶接ロボット側に回転する状態の図、(C)は(B)で産業用溶接ロボット側に位置するパレットにセットされた加工用ワークに産業用溶接ロボットで溶接を施すと共に、作業者側に位置するパレットをパレット移動機構で他のパレットに交換する状態の図、(D)は(C)で交換された他のパレットに作業者が加工用ワークをセットする状態の図である。
【図5】(A)は図4に示す従来のパレットの交換装置の側面図、(B)はパレットに加工用ワークがセットされている状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明のワーク加工用固定治具の交換装置を実施するための最良の形態例について、図面を参照して説明する。
本発明のワーク加工用固定治具の交換装置は図1(A)、図2(A)、(B)、(C)に示すように、加工用ワークWの一方の側面Waをクランパ等で着脱自在に固定する当該加工用ワークWの種類毎に異なる第1のワーク加工用固定治具20をクランプして位置決めする第1の固定治具固定ユニット2と、加工用ワークWの他方の側面Wbをクランパ等で着脱自在に固定する第1のワーク加工用固定治具20と対になる第2のワーク加工用固定治具30をクランプして位置決めする第2の固定治具固定ユニット3と、対になる第1のワーク加工用固定治具20及び第2のワーク加工用固定治具30が格納される治具ストッカ4と、複数のアーム50がそれぞれ関節部にて連結され、先端のアーム51には第1のワーク加工用固定治具20又は第2のワーク加工用固定治具30を把持するためのロボットハンド52が設けられている産業用搬送ロボット5とを備えている。なお、第1のワーク加工用固定治具20は図1においては符号を20A、20B、20Cと付してあるが、これは異なる加工用ワークWに対応させるためであり、同様に、第2のワーク加工用固定治具30も図1においては符号を30A、30B、30Cと付してあるが、これは異なる加工用ワークWに対応させるためである。
【0026】
第1の固定治具固定ユニット2は、第1のワーク加工用固定治具20を装着する垂直面21a、21bが相反する方向に形成される固定治具装着部21を備え、固定治具装着部21の垂直面21a、21bには、それぞれ第1のワーク加工用固定治具20をクランプして位置決めするための第1のクランパー22が設置されている。この第1のクランパー22は、エアシリンダ(図示せず。)の駆動制御によって加工用ワークWの一方の側面Waに対してクランプ及びアンクランプが可能になる。また、第1の固定治具固定ユニット2は、固定治具装着部21に各垂直面21a、21bを垂直回転させる垂直回転軸23が設けられ、この垂直回転軸23を回転させるモータ等の回転機構(図示せず。)を備えている。
【0027】
第2の固定治具固定ユニット3は、第2のワーク加工用固定治具30を装着する垂直面31a、31bが相反する方向に形成される固定治具装着部31を備え、固定治具装着部31の垂直面31a、31bには、それぞれ第2のワーク加工用固定治具30をクランプして位置決めするための第2のクランパー32が設置されている。この第2のクランパー32は、エアシリンダ(図示せず。)の駆動制御によって加工用ワークWの他方の側面Wbに対してクランプ及びアンクランプが可能になる。また、第2の固定治具固定ユニット3は、固定治具装着部31に各垂直面31a、31bを垂直回転させる垂直回転軸33が設けられ、この垂直回転軸33を回転させるモータ等の回転機構(図示せず。)を備えている。なお、固定治具装着部21及び固定治具装着部31は同一の構成なので、図2(B)、(C)はそれぞれ一つの図で固定治具装着部21及び固定治具装着部31を示している。
【0028】
このような第1の固定治具固定ユニット2及び第2の固定治具固定ユニット3は、それぞれ回転機構で垂直回転軸23を介して固定治具装着部21、垂直回転軸33を介して固定治具装着部31を回転させて、作業者H側に例えば固定治具装着部21の垂直面21a及び固定治具装着部31の垂直面31aを位置させると、固定治具装着部21の垂直面21b及び固定治具装着部31の垂直面31bは、垂直面21a及び垂直面31aと相反する方向に形成されているので、産業用搬送ロボット5が配置されている方向に位置することになる。したがって、固定治具装着部21及び固定治具装着部31をそれぞれ回転機構で180度回転させるだけで、対になる垂直面21a及び垂直面31aと、対になる垂直面21b及び垂直面31bとを、作業者H側及び産業用搬送ロボット5側に相互に入れ替えることができる。なお、このような入れ替え機能を持たせることができれば、固定治具装着部21及び固定治具装着部31の垂直面の数は2つに限らず、3つ以上の同数にしてもよい。
【0029】
また、第1の固定治具固定ユニット2は、回転機構で垂直回転軸23を介して固定治具装着部21を回転させた際、固定治具装着部21の垂直面21a及び垂直面21bの何れにもワーク加工用固定治具がセットされていても干渉しないように空間が設けられ、第2の固定治具固定ユニット3も、垂直回転軸33を介して固定治具装着部31を回転させた際、固定治具装着部31の垂直面31a及び垂直面31bの何れにもワーク加工用固定治具がセットされていても干渉しないように空間が設けられている。
【0030】
また、第1の固定治具固定ユニット2の固定治具装着部21の各垂直面21a、21b、及び第2の固定治具固定ユニット3の固定治具装着部31の各垂直面31a、31bには、それぞれ第1のワーク加工用固定治具20及び第2のワーク加工用固定治具30を各クランパー22、32でクランプする際の位置決め精度を高めるための位置決めピン24、34が突設されている。また、第1のワーク加工用固定治具20及び第2のワーク加工用固定治具30には、それぞれ位置決めピン24、34を嵌合させるための嵌合穴25、35が形成されている。このような位置決めピン24、34を設けることで、固定治具固定ユニットの装着面にワーク加工用固定治具を、時間を掛けることなく容易に精度よく装着することができるようになる。
【0031】
さらに、第1のクランパー22は、クランプ中に第1のワーク加工用固定治具20がずれないように、固定治具装着部21の垂直面21a、21bそれぞれに複数設置されている。同様に、第2のクランパー32は、クランプ中に第1のワーク加工用固定治具30がずれないように、固定治具装着部31の垂直面31a、31bそれぞれに複数設置されている。このように、第1のクランパー22及び第2のクランパー32を、それぞれクランプ中に第1のワーク加工用固定治具20及び第2のワーク加工用固定治具30がずれないように複数設置することで、品質がばらつくことを防ぐことができる。
【0032】
産業用搬送ロボット5は、第1のワーク加工用固定治具20を治具ストッカ4の治具格納位置及び第1のクランパー22のクランプ位置間で移動させ、第2のワーク加工用固定治具30を治具ストッカ4の治具格納位置及び第2のクランパー32のクランプ位置間で移動させることができるような位置に配置されている。したがって、治具ストッカ4は、産業用搬送ロボット5の近傍に配置されることになる。
【0033】
また、加工用ワークWに対して物理的処理を施す処理装置62が固定されている産業用物理的処理ロボット6が、作業者側で物理的処理を施すことができるような位置に配置されている。この産業用物理的処理ロボット6は、例えば、産業用搬送ロボット5とほぼ同様の構成で、複数のアーム61がそれぞれ関節部にて連結され、先端のアーム62には処理装置60が設けられている。
【0034】
このように構成されたワーク加工用固定治具の交換装置1の動作について、図1(A)、(B)、(C)、図2(A)、(B)、(C)、図3に基づき説明する。なお、このワーク加工用固定治具の交換装置1を、自動車製造工程であるロボット溶接工程に適用させる。したがって、産業用物理的処理ロボット6は、フルドアのアウタパネルが除かれたインナードアシェルを組み立てるための産業用溶接ロボットで、処理装置60が溶接ガンとする。
【0035】
また、動作開始時には図1(A)に示すように、第1の固定治具固定ユニット2の固定治具装着部21の垂直面21aに第1のワーク加工用固定治具20Aが第1のクランパー22でクランプされ、第2の固定治具固定ユニット3の固定治具装着部31の垂直面31aに第2のワーク加工用固定治具30Aが第2のクランパー32でクランプされ、これらA車用の対になる第1のワーク加工用固定治具20A及び第2のワーク加工用固定治具30Aには加工用ワークは固定されていないものとする。
【0036】
また、第1の固定治具固定ユニット2の固定治具装着部21の垂直面21bに第1のワーク加工用固定治具20Cが第1のクランパー22でクランプされ、第2の固定治具固定ユニット3の固定治具装着部31の垂直面31bに第2のワーク加工用固定治具30Cが第2のクランパー32でクランプされ、これらC車用の対になる第1のワーク加工用固定治具20C及び第2のワーク加工用固定治具30Cには加工用ワークは固定されていないものとする。このような第1の固定治具固定ユニット2の固定治具装着部21の垂直面21a及び第2の固定治具固定ユニット3の固定治具装着部31の垂直面31aは作業者Hの位置する方向に、第1の固定治具固定ユニット2の固定治具装着部21の垂直面21b及び第2の固定治具固定ユニット3の固定治具装着部31の垂直面31bは産業用搬送ロボット5の位置する方向にそれぞれ向いているものとする。
さらに、治具ストッカ4にはB車用の対になる第1のワーク加工用固定治具20B及び第2のワーク加工用固定治具30BがB車用の治具格納位置に格納されているものとする。
【0037】
このような状況において、作業者HがA車用の対になる第1のワーク加工用固定治具20A及び第2のワーク加工用固定治具30AにA車用の加工用ワークWを固定させると図1(B)に示すように、その状態のままでA車用の加工用ワークWに産業用溶接ロボット6の溶接ガン60で他の部品をスポット溶接する。
【0038】
この際、次にB車用の加工用ワークWに溶接ガン60で他の部品をスポット溶接する場合には、第1の固定治具固定ユニット2の固定治具装着部21の垂直面21bに第1のクランパー22でクランプされ、第2の固定治具固定ユニット3の固定治具装着部31の垂直面31bに第2のクランパー32でクランプされているC車用の対になる第1のワーク加工用固定治具20C及び第2のワーク加工用固定治具30Cを、治具ストッカ4に格納されているB車用の対になる第1のワーク加工用固定治具20B及び第2のワーク加工用固定治具30Bに交換する。
【0039】
具体的には、産業用搬送ロボット5のロボットハンド52を、第1の固定治具固定ユニット2の固定治具装着部21の垂直面21bの第1のクランパー22のクランプ位置まで移動して、第1のクランパー22でクランプされている第1のワーク加工用固定治具20Cを当該ロボットハンド52で把持する。そして、第1のクランパー22をアンクランプして当該第1のワーク加工用固定治具20Cをロボットハンド52で把持した状態で、第1のクランパー22のクランプ位置から治具ストッカ4のC車用の治具格納位置まで移動して、ロボットハンド52を開放することで、第1のワーク加工用固定治具20Cを治具ストッカ4のC車用の治具格納位置に格納する。
【0040】
次に、産業用搬送ロボット5のロボットハンド52を、治具ストッカ4のB車用の治具格納位置まで移動して、B車用の第1のワーク加工用固定治具20Bを当該ロボットハンド52で把持する。そして、B車用の第1のワーク加工用固定治具20Bをロボットハンド52で把持した状態で、第1の固定治具固定ユニット2の固定治具装着部21の垂直面21bの第1のクランパー22のクランプ位置まで移動して、第1のクランパー22をクランプすることで、B車用の第1のワーク加工用固定治具20Bを第1の固定治具固定ユニット2の固定治具装着部21の垂直面21bに固定する。ここで、ロボットハンド52を開放する。
【0041】
同様に、産業用搬送ロボット5のロボットハンド52を、第2の固定治具固定ユニット3の固定治具装着部31の垂直面31bの第2のクランパー32のクランプ位置まで移動して、第2のクランパー32でクランプされている第2のワーク加工用固定治具30Cを当該ロボットハンド52で把持する。そして、第2のクランパー32をアンクランプして当該第2のワーク加工用固定治具30Cをロボットハンド52で把持した状態で、第2のクランパー32のクランプ位置から治具ストッカ4のC車用の治具格納位置まで移動して、ロボットハンド52を開放することで、第2のワーク加工用固定治具30Cを治具ストッカ4のC車用の治具格納位置に格納する。
【0042】
次に、産業用搬送ロボット5のロボットハンド52を、治具ストッカ4のB車用の治具格納位置まで移動して、B車用の第2のワーク加工用固定治具30Bを当該ロボットハンド52で把持する。そして、B車用の第2のワーク加工用固定治具30Bをロボットハンド52で把持した状態で、第2の固定治具固定ユニット3の固定治具装着部31の垂直面31bの第2のクランパー32のクランプ位置まで移動して、第2のクランパー32をクランプすることで、B車用の第2のワーク加工用固定治具30Bを第2の固定治具固定ユニット3の固定治具装着部31の垂直面31bに固定する。ここで、ロボットハンド52を開放する。
【0043】
したがって、対になるC車用の第1のワーク加工用固定治具20C及び第2のワーク加工用固定治具30Cを、並べて治具ストッカ4のC車用の治具格納位置に格納でき、対になるB車用の第1のワーク加工用固定治具20B及び第2のワーク加工用固定治具30Bを、第1の固定治具固定ユニット2の固定治具装着部21及び第2の固定治具固定ユニット3の固定治具装着部31にセットすることができる。
【0044】
対になるB車用の第1のワーク加工用固定治具20B及び第2のワーク加工用固定治具30Bを、第1の固定治具固定ユニット2の固定治具装着部21及び第2の固定治具固定ユニット3の固定治具装着部31にセットした後に、第1の固定治具固定ユニット2の回転機構で垂直回転軸23を介して固定治具装着部21を180度回転させ、第2の固定治具固定ユニット3の回転機構で垂直回転軸33を介して固定治具装着部31を180度回転させる。これにより、対になるB車用の第1のワーク加工用固定治具20B及び第2のワーク加工用固定治具30Bを作業者Hが位置する側に向かせることができる。この状態のままで、作業者Hが対になるB車用の第1のワーク加工用固定治具20B及び第2のワーク加工用固定治具30Bに、B車用の加工用ワークWをセットすることができ、B車用の加工用ワークWに産業用溶接ロボット6の溶接ガン60で他の部品をスポット溶接することができる。
【0045】
このようなワーク加工用固定治具の交換装置1は、図3に示すように、2つに分離されている第1のワーク加工用固定治具20及び第2のワーク加工用固定治具30で加工用ワークWを固定することができるので、加工用ワークを着脱自在に固定するワーク加工用固定治具を小型軽量化することができる。また、作業者Hが位置する側で、当該作業者Hが対になる第1のワーク加工用固定治具20及び第2のワーク加工用固定治具30に加工用ワークWをセットすることができると共に、第1のワーク加工用固定治具20及び第2のワーク加工用固定治具30にセットされた加工用ワークWに、産業用溶接ロボット6の溶接ガン60で他の部品をスポット溶接することができるので、複数の車種に対応する各加工用ワークをスポット溶接する比率が異なる場合においても、ワーク加工用固定治具の格納スペースの拡大と、タクトタイムが長くなることを防ぐことができ、而もパレットの格納スペースを大きくすることなく多車種に対応するワーク加工用固定治具を簡易な構成にすることができる。
【0046】
なお、上述した動作説明においては、産業用物理的処理ロボット6を産業用溶接ロボットとして説明したが、これに限らず、処理装置60としてシーラーガン、インパクトレンチ及びドリルヘッド等の物理的処理を施すことができるツールを、それぞれ1つだけ接続できるようにしてもよい。この場合、産業用物理的処理ロボット6の先端のアーム62と処理装置60とを接続するためには、ツールチェンジャが好適である。このツールチェンジャは、ツールを装着したり離脱したりすることをワンタッチで行なえるものが、作業性の観点から好ましい。
【0047】
また、ワーク加工用固定治具の交換装置1の産業用搬送ロボット5及び産業用溶接ロボット6は、ティーチングしたプログラムを、産業用搬送ロボット5及び産業用溶接ロボット6を制御する制御部7のハードディスクやメモリに記録させることで、上述したような各動作をティーチングプレイバックすることができる。
【0048】
これまで本発明について図面に示した特定の実施の形態をもって説明してきたが、本発明は図面に示した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の効果を奏する限り、これまで知られたいかなる構成であっても採用することができることはいうまでもないことである。
【符号の説明】
【0049】
1……ワーク加工用固定治具の交換装置
2……第1の固定治具固定ユニット
20……第1のワーク加工用固定治具
21a、21b……垂直面
22……第1のクランパー
23……垂直回転軸
24……位置決めピン
25……嵌合穴
3……第2の固定治具固定ユニット
30……第2のワーク加工用固定治具
31a、31b……垂直面
32……第2のクランパー
33……垂直回転軸
34……位置決めピン
35……嵌合穴
4……治具ストッカ
5……産業用搬送ロボット
50……複数のアーム
51……先端のアーム
52……ロボットハンド
6……産業用溶接ロボット(産業用物理的処理ロボット)
60……処理装置
61……複数のアーム
62……先端のアーム
W……加工用ワーク
Wa……一方の側面
Wb……他方の側面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工用ワークの一方の側面を着脱自在に固定する当該加工用ワークの種類毎に異なる第1のワーク加工用固定治具をクランプして位置決めするための第1のクランパーを、少なくとも2箇所以上の垂直面それぞれに設置していると共に、前記各第1のクランパーが設置されている前記各垂直面を垂直回転軸によって垂直回転させる回転機構を備えている第1の固定治具固定ユニットと、
前記加工用ワークの他方の側面を着脱自在に固定する前記第1のワーク加工用固定治具と対になる第2のワーク加工用固定治具をクランプして位置決めするための第2のクランパーを、前記第1の固定治具固定ユニットの前記垂直面と同数の垂直面それぞれに設置していると共に、前記各第2のクランパーが設置されている前記各垂直面を垂直回転軸によって垂直回転させる回転機構を備えている第2の固定治具固定ユニットと、
前記対になる第1のワーク加工用固定治具及び第2のワーク加工用固定治具が格納される治具ストッカと、
複数のアームがそれぞれ関節部にて連結され、先端のアームには前記第1のワーク加工用固定治具又は前記第2のワーク加工用固定治具を把持するためのロボットハンドが設けられ、前記第1のワーク加工用固定治具を前記治具ストッカの治具格納位置及び前記第1のクランパーのクランプ位置間で移動させ、前記第2のワーク加工用固定治具を前記治具ストッカの治具格納位置及び前記第2のクランパーのクランプ位置間で移動させる産業用搬送ロボットとを備えていることを特徴とするワーク加工用固定治具の交換装置。
【請求項2】
前記第1の固定治具固定ユニットの前記各垂直面、及び前記第2の固定治具固定ユニットの前記各垂直面には、それぞれ前記第1のワーク加工用固定治具及び前記第2のワーク加工用固定治具を前記各クランパーでクランプする際の位置決め精度を高めるための位置決めピンが突設され、前記第1のワーク加工用固定治具及び前記第2のワーク加工用固定治具には、それぞれ前記位置決めピンを嵌合させるための嵌合穴が形成されていることを特徴とする請求項1記載のワーク加工用固定治具の交換装置。
【請求項3】
前記第1のクランパー及び前記第2のクランパーは、それぞれクランプ中に前記第1のワーク加工用固定治具及び前記第2のワーク加工用固定治具がずれないように複数設置されていることを特徴とする請求項1又は請求項2記載のワーク加工用固定治具の交換装置。
【請求項4】
複数のアームがそれぞれ関節部にて連結され、先端のアームには前記加工用ワークに対して物理的処理を施す処理装置が設けられている産業用物理的処理ロボットが、作業者側で前記物理的処理を施すことができるような位置に配置されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のうち何れか1項に記載のワーク加工用固定治具の交換装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−192501(P2012−192501A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−59150(P2011−59150)
【出願日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(000157083)トヨタ自動車東日本株式会社 (1,164)
【Fターム(参考)】