説明

一液型プレコート用接着剤組成物

【課題】本発明は、たとえば自動車内装部品の製造において、表皮材のプレコート用接着剤として有用で、特に長期にわたるシェルフライフを有した一液型プレコート用接着剤組成物を提供する。
【解決手段】本発明の一液型プレコート用接着剤組成物は、カルボン酸基もしくはその無水基を含有する、軟化点が30℃以上異なる少なくとも2種の熱可塑性ポリマー混合物;熱可塑性エラストマーおよび粘着付与剤を有機溶剤に分散せしめたことから成り、かつ潜在性硬化剤を含ませないことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一液型プレコート用接着剤組成物、更に詳しくは、軟化点が特定温度以上に異なる少なくとも2種の特定熱可塑性ポリマー混合物に、熱可塑性エラストマーおよび粘着付与剤を加えたものを有機溶剤に分散せしめた一液から成り、たとえば適当な基材層と表皮材を接着積層させて成る自動車内装部品において、その表皮材のプレコート用接着剤として有用で、特に表皮材に塗布、乾燥した後、基材層への貼り合せまでのシェルフライフを、たとえば6ヶ月〜2年もの長期にわたって延長させることを目的とした接着剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車内装部品は、高級化の目的から、各種の基材層に種々の表皮材を接着積層させたものが使用され、最近では環境対策から、基材層および表皮材共にオレフィン系材料が使用されつつある。
ところで、上記表皮材のプレコート用接着剤として、カルボン酸基もしくはその無水基を含有する熱可塑性ポリマー[特にポリプロピレンやスチレン−エチレン−ブテン−スチレンコポリマー(SEBS)などのオレフィン系ポリマー]および潜在性硬化剤としてポリアミン化合物(たとえばヒドラジド系ポリアミン)を有機溶剤に分散せしめて成る一液型プレコート用接着剤が提案されている(たとえば特許文献1および2参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2000−198940号公報(1〜3頁)
【特許文献2】特開2003−094524号公報(1〜2頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、これらの接着剤は、配合成分の潜在性硬化剤に起因して室温でも徐々に架橋が進むため、特にプレコート用として該接着剤を表皮材に塗布、乾燥した後、基材層への貼り合せまでのシェルフライフが短かく、たとえば3〜4月で表面硬化を起こし、もはや接着用途に供し得なくなることが少なくなかった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、かかるシェルフライフの問題点を解決すべきため鋭意研究を進めたところ、上記提案接着剤において、潜在性硬化剤を省略し、その代わりに、上記カルボン酸基もしくはその無水基を含有する熱可塑性ポリマーとして、軟化点が特定温度以上に異なる少なくとも2種の混合物を用い、かつこれに熱可塑性エラストマーおよび粘着付与剤を加えれば、接着剤本来の求められる強度と適切な耐熱性を保持しつつ、所期目的のシェルフライフを6ヶ月〜2年もの長期にわたって延長しうることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、カルボン酸基もしくはその無水基を含有する、軟化点が30℃以上異なる少なくとも2種の熱可塑性ポリマー混合物;熱可塑性エラストマーおよび粘着付与剤を有機溶剤に分散せしめたことから成り、かつ潜在性硬化剤を含ませないことを特徴とする一液型プレコート用接着剤組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一液型プレコート用接着剤組成物によれば、自動車内装部品の製造において、表皮材のプレコートに有用で、特に6ヶ月〜2年もの長期にわたるシェルフライフを有し、しかも適宜の加熱処理によって、残存溶剤量をさらに低減でき、上記製造現場での安全衛生面でより有利となる。
【0008】
本発明におけるカルボン酸基もしくはその無水基を含有する熱可塑性ポリマー(以下、COOH変性ポリマーと称す)としては、それぞれカルボン酸基もしくはその無水基を含有する、オレフィン系ポリマー、ブタジェン系ポリマー、エステル系ポリマー、カーボネート系ポリマー、ウレタン系ポリマー、アミド系ポリマー等が例示されるが、特に好ましいオレフィン系ポリマーの典型例として、不飽和二塩基酸(たとえばマレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、メサコン酸等)もしくはその無水物を導入して変性したポリプロピレン(COOH変性PP)、プロピレン−1−ブテン−エチレンコポリマー(COOH変性PBE)、プロピレン−1−ブテンコポリマー(COOH変性PB)、スチレン−エチレン−ブテン−スチレンコポリマー(COOH変性SEBS)、エチレン−酢酸ビニルコポリマー(COOH変性EVA)、エチレン−アクリレートコポリマー(COOH変性EEA)等が挙げられる。これらのCOOH変性ポリマーの中で、軟化点が30℃以上異なる少なくとも2種の混合物を適宜選択して使用する。かかる軟化点の差異が30℃未満では、接着可能となる被着体の貼り合せ時の温度領域が狭くなる。
該COOH変性ポリマー混合物にあって、たとえば軟化点が30℃以上異なる2種の熱可塑性ポリマー(特にオレフィン系ポリマー)を1/9〜9/1、好ましくは7/3〜3/7の重量比で混合したものが最適である。
【0009】
本発明で用いる熱可塑性エラストマーとしては、スチレンブタジェン共重合物、たとえばスチレン−ブタジェンコポリマー、スチレン−アクリロニトリル−ブタジェンコポリマー、スチレン−ブタジェン−ブチレン−スチレンコポリマー、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンコポリマー、スチレン−ブタジェン−スチレンコポリマーもしくはその酸変性体および/またはその水素添加物;非晶質ポリアルファオレフィン;エチレン酢酸ビニル共重合体;他のスチレン共重合体、たとえばスチレン−イソプレンコポリマー、スチレン−イソプレン−スチレンコポリマー、スチレン−エチレン−プロピレン−スチレンコポリマー、スチレン−エチレン−ブテン−スチレンコポリマー、スチレン−エチレン−エチレン−プロピレン−スチレンコポリマー等が挙げられる。使用量は通常、上記COOH変性ポリマー混合物100部(重量部、以下同様)に対して、5〜100部、好ましくは10〜50部の範囲で選定すればよい。5部未満では、接着可能となる被着体の貼り合せ時の温度領域が狭くなり、また100部を越えると、基材層への接着力が低下する傾向にある。
【0010】
本発明で用いる粘着付与剤としては、たとえばロジン樹脂、ロジン酸エステル、石油樹脂、クマロンインデン樹脂、フェノール樹脂、テルペンフェノール樹脂、キシレン樹脂、およびこれらの水添,不衡化,部分水添変性体等が挙げられる。使用量は通常、上記COOH変性ポリマー混合物100部に対して、50〜150部、好ましくは50〜100部の範囲で選定すればよい。50部未満では、接着可能となる被着体の貼り合せ時の温度領域が狭くなり、また150部を越えると、基材層への接着力が低下する傾向にある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明に係る一液型プレコート用接着剤組成物は、上記所定割合のCOOH変性ポリマー混合物、熱可塑性エラストマーおよび粘着付与剤を適当な有機溶剤(トルエン、キシレン、ベンゼン、1,1,1−トリクロルエタン、メチレンクロライド、シクロヘキサン、アルキルシクロヘキサンなど)に分散した系で構成され、さらに必要に応じて通常の熱可塑性樹脂(アクリル樹脂、ビニール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン、ポリウレタン、SEBSなど)やオレフィン系密着剤、染顔料等を適量添加してもよい。
【0012】
本発明に係るプレコート表皮材は、種々の表皮材(たとえばポリ塩化ビニル発泡体、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン発泡体)に、本発明組成物を5〜500μm厚にて塗布し、80〜120℃×30〜300秒の加熱で乾燥させることによって製造することができる。得られるプレコート表皮材は、シェルフライフが6ヶ月〜2年もの長期に及び、かつ極性が低く接着困難なオレフィン素材に対しても良好な接着性を維持する。
なお、このプレコート表皮材を165〜200℃で30〜300秒間加熱し、接着剤層に含まれる溶剤をさらに揮散させることで、次に説明する自動車内装部品の製造現場での安全衛生面でより有利となる。
【0013】
本発明に係る自動車内装部品の製造方法は、上記プレコート表皮材を用い、以下の手順による加熱下の真空成形法で実施することができる。
先ず、各種の基材層(たとえばABS板、ノリル板、ASG板、ポリカーボネート板、PPボード、木質系複合ボード、鋼板)を25℃以上、好ましくは45〜90℃の表面温度に保持しつつ、これに165〜200℃で30〜300秒間加熱したプレコート表皮材を重ね合せ、0.1kg/cm以上の圧力下で10秒以上の加熱圧着を行い、成形と接着を同時に行なう。
このようにして、たとえばドアートリム、フロントピラー、リヤピラー、デッキサイドトリム、センターピラーなどのインサイドトリム類;インストルメントパネル;成形天井;コンソールボックス等の自動車内装部品(自動車内装パネル)が得られる。
【実施例】
【0014】
次に実施例および比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。
実施例1〜8および比較例1〜5
(1)接着剤の調製
下記表1に示す部数のCOOH変性ポリマー、熱可塑性エラストマーおよび粘着付与剤を有機溶剤に加え、60℃で2時間攪拌分散させて、接着剤を得る。
【0015】
(2)自動車内装パネルの製造と接着評価
i)厚み2mmのポリプロピレン発泡体表皮材に、上記(1)の接着剤を乾燥膜厚40μmにて塗布し、60℃で5分間乾燥させて、プレコート表皮材を得る。
ii)次に、かかるプレコート表皮材を195℃で2分間加熱して表面温度140℃または100℃に保持しながら、110℃で45秒間加熱した表面温度55℃または35℃のPP基材に重ね合せ、0.075MPa×20秒の条件で圧締せしめ、自動車内装パネルを得る。
【0016】
【表1】

【0017】
注1)スチレン−ブタジェンコポリマーの水素添加物
注2)スチレン−イソプレンコポリマー
注3)スチレン−ブタジェン−ブチレン−スチレンコポリマーの部分水素添加物
注4)新日本石油化学(株)製の芳香族石油樹脂、「日石ネオポリマー170S」
注5)同(株)製の芳香族石油樹脂、「日石ネオポリマー120」
注6)大塚化学(株)製「DDH」
【0018】
iii)この自動車内装パネルについて、下記の条件で剥離強度および耐熱クリープを測定し、結果を表2に示す。なお、自動車内装パネルにおいて、その製造に用いたプレコート表皮材は、製造直後(初期)と製造後40℃×60日放置後のものとを使い分け、それぞれの評価を行った。
剥離強度:貼り合せ後20℃、65%RH×24時間養生後に測定(N/25mm);FMBは表皮材の材料破壊、BAFは基材側からの界面破壊を示す。
耐熱クリープ:20℃×24時間後、90℃雰囲気中100g/25mmの荷重を90°角方向に加え、24時間後の剥離長さ(mm)を測定する。
【0019】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボン酸基もしくはその無水基を含有する、軟化点が30℃以上異なる少なくとも2種の熱可塑性ポリマー混合物;熱可塑性エラストマーおよび粘着付与剤を有機溶剤に分散せしめたことから成り、かつ潜在性硬化剤を含ませないことを特徴とする一液型プレコート用接着剤組成物。
【請求項2】
上記熱可塑性ポリマー混合物100重量部に対し、熱可塑性エラストマー5〜100重量部および粘着付与剤50〜150重量部である請求項1に記載の一液型プレコート用接着剤組成物。
【請求項3】
上記熱可塑性ポリマー混合物が、カルボン酸基もしくはその無水基を含有する、軟化点が30℃以上異なる2種の熱可塑性ポリマーを1/9〜9/1の重量比で混合したものである請求項1または2に記載の一液型プレコート用接着剤組成物。
【請求項4】
上記熱可塑性エラストマーが、スチレン・ブタジェン共重合物および/またはその水素添加物である請求項1乃至3のいずれか1つに記載の一液型プレコート用接着剤組成物。
【請求項5】
自動車内装部品におけるポリオレフィン発泡体の表皮材に、請求項1乃至4のいずれか1つに記載の一液型プレコート用接着剤組成物を塗布、乾燥させることを特徴とするプレコート表皮材の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の製造方法によって得られるプレコート表皮材。
【請求項7】
自動車内装部品におけるポリオレフィン基材層に、請求項6に記載のプレコート表皮材を加熱下の真空成形法で接着することを特徴とする自動車内装部品の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の製造方法によって得られる自動車内装部品。

【公開番号】特開2008−127450(P2008−127450A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−312905(P2006−312905)
【出願日】平成18年11月20日(2006.11.20)
【出願人】(305032254)サンスター技研株式会社 (97)
【出願人】(000157083)関東自動車工業株式会社 (1,164)
【Fターム(参考)】