説明

不快味マスキング粒子及びこれを含有する経口製剤

【課題】口腔内における不快な味を有する薬物の不快味マスキング効果に優れると共に、胃内における薬物の溶出性が高く、しかも打錠時の壊れを抑制した不快味マスキング粒子及びこれを含む経口製剤を提供する。
【解決手段】(A)不快味を有する薬物を含有する核粒子、該核粒子を被覆する第一コーティング層、及び該第一コーティング層を被覆する第二コーティング層を有する不快味マスキング粒子であって、上記第一コーティング層が、(B)水難溶性高分子化合物及び(C)溶出調整剤を含み、上記第二コーティング層が、(B)水難溶性高分子化合物及び(D)崩壊剤を含む不快味マスキング粒子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口腔内における不快な味を有する薬物のマスキング効果に優れると共に、胃内における薬物の溶出性が高く、かつ打錠時の破壊が抑制された不快味マスキング粒子及びこれを含む経口製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
経口用の固形製剤で最も汎用されている剤型は錠剤であるが、通常の錠剤は、崩壊が2分以上であるため、服用後、水等ですぐに飲み込み、胃等の消化管で崩壊する。一方、近年、高齢者又は小児にも飲みやすい剤型、即ち、患者のクオリティ・オブ・ライフ(QOL)を向上させる剤型として注目されている口腔内崩壊錠やチュアブル錠剤は、服用後、口腔内で崩壊するため、水なしで服用することができるが、不快味を有する主薬の場合、服用感を悪化させることがあり、マスキングする必要がある。
【0003】
不快味のマスキング法としては、甘味剤や矯味剤を添加する方法、胃溶性高分子又は水不溶性高分子を懸濁又は溶解した液を噴霧乾燥することで薬物を担体中に分散させるマトリックス法、薬物を含有する核を胃溶性高分子又は水不溶性高分子を含む被膜で被覆するコーティング法が主に知られている。一般に、甘味剤や矯味剤を添加する方法は、不快味のマスキングが不十分であり、マトリックス法では薬物の一部が製剤の表面に露出するため強い不快味を有する薬物には利用することが難しい。
【0004】
例えば、特開2000−7556号公報(特許文献1)には、アセトアミノフェン等の不快な味を有する成分をエチルセルロース等の水難溶性高分子物質を用いて造粒したチュアブル錠が提案されており、特開2005−343800号公報(特許文献2)には、カフェイン粒子をエチルセルロース等の水難溶性高分子と可塑剤とを含むコーティング剤で被覆した被覆カフェイン粒子が提案されている。また、特開2008−37863号公報(特許文献3)には、イブプロフェン等の不快味を呈する薬物を含有する核粒子を、水溶性高分子及び溶出促進剤を含むアンダーコート層で被覆し、その上から水溶性高分子、水不溶性高分子及び溶出促進剤を含むオーバーコート層で被覆した製剤粒子が提案されている。しかし、口中での苦味を抑制すると共に、胃内での速放性により優れた粒子が求められていた。
【0005】
また、苦味が抑制された粒子を用いても、打錠時に粒子のコーティング膜が破壊され、錠剤服用時に口中で薬物が溶出するため、所望の苦味マスキング効果が達成できないという問題もあった。コーティング膜の機械的強度が弱いためである。コーティング膜の被覆率を上げれば打錠時の壊れを抑制できるが、胃中での溶出が遅くなり、所望の薬効(速放性)が達成できない。現行組成では、打錠後の口中苦味の抑制効果と胃内での速溶解効果を両立するコーティング膜及びこのコーティング膜を有するマスキング粒子は得られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−7556号公報
【特許文献2】特開2005−343800号公報
【特許文献3】特開2008−37863号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、口腔内における不快な味を有する薬物の不快味マスキング効果に優れると共に、胃内における薬物の溶出性が高く、しかも打錠時の壊れを抑制した不快味マスキング粒子及びこれを含む経口製剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、口腔内における不快な味を有する薬物に、口腔内のpHではほとんど溶けず、胃内のpHで可溶な溶出調整剤を配合した水難溶性高分子化合物をコーティング(第一層目)し、更にその上から崩壊剤を配合した水難溶性高分子化合物をコーティング(第二層目)することで、この第二層目のコーティング膜は機械的強度に強いため、低い被覆量でも打錠時にマスキング粒子が壊れるのを防ぎ、低pH領域で速やかに溶ける性質をもつため胃中での溶出を遅延させず、打錠後の口中苦味マスキング効果と胃内速溶解を両立した不快味マスキング粒子及びこの粒子を含む経口製剤が得られることを見出し、本発明をなすに至った。
【0009】
即ち、本発明は、下記不快味マスキング粒子及び経口製剤を提供する。
請求項1:
(A)不快味を有する薬物を含有する核粒子、該核粒子を被覆する第一コーティング層、及び該第一コーティング層を被覆する第二コーティング層を有する不快味マスキング粒子であって、
上記第一コーティング層が、(B)水難溶性高分子化合物及び(C)溶出調整剤を含み、
上記第二コーティング層が、(B)水難溶性高分子化合物及び(D)崩壊剤を含むことを特徴とする不快味マスキング粒子。
請求項2:
(D)崩壊剤が、クロスポビドン、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース及びポリビニルピロリドンから選ばれる1種又は2種以上である請求項1記載の不快味マスキング粒子。
請求項3:
(C)溶出調整剤が、合成ヒドロタルサイトである請求項1又は2記載の不快味マスキング粒子。
請求項4:
(A)核粒子が、アセトアミノフェン、カフェイン又はイブプロフェンである請求項1乃至3のいずれか1項記載の不快味マスキング粒子。
請求項5:
(B)水難溶性高分子化合物が、エチルセルロース、アミノアルキルメタクリレートコポリマーE、アミノアルキルメタクリレートコポリマーRS、酢酸フタル酸セルロース及びアクリル酸エチル・メタクリル酸メチル共重合体から選ばれる1種又は2種以上である請求項1乃至4のいずれか1項記載の不快味マスキング粒子。
請求項6:
第一コーティング層において、(A)成分100質量部に対する(B)及び(C)成分の総量の割合が、5質量部以上である請求項1乃至5のいずれか1項記載の不快味マスキング粒子。
請求項7:
第一コーティング層において、(C)/{(B)+(C)}で表される、(B)及び(C)成分の総量に対する(C)成分の割合が、質量比で0.11〜0.8である請求項1乃至6のいずれか1項記載の不快味マスキング粒子。
請求項8:
第二コーティング層において、(A)成分100質量部に対する(B)及び(D)成分の総量の割合が、5質量部以上である請求項1乃至7のいずれか1項記載の不快味マスキング粒子。
請求項9:
第二コーティング層において、(D)/{(B)+(D)}で表される、(B)及び(D)成分の総量に対する(D)成分の割合が、質量比で0.11〜0.8である請求項1乃至8のいずれか1項記載の不快味マスキング粒子。
請求項10:
マスキング速放性粒子である請求項1乃至9のいずれか1項記載の不快味マスキング粒子。
請求項11:
請求項1乃至10のいずれか1項記載の不快味マスキング粒子を含有することを特徴とする経口製剤。
請求項12:
錠剤又は顆粒剤である請求項11記載の経口製剤。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、口腔内では不快な味を有する薬物のマスキングができ、胃内では高い薬物の溶出性を示し、しかも打錠時の壊れを抑制した不快味マスキング粒子及びこの粒子を含む経口製剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の不快味マスキング粒子は、(A)不快味を有する薬物を含有する核粒子、この核粒子を被覆する第一コーティング層、及びこの第一コーティング層を被覆する第二コーティング層を有し、第一コーティング層が(B)水難溶性高分子化合物及び(C)溶出調整剤を含み、第二コーティング層が(B)水難溶性高分子化合物及び(D)崩壊剤を含むものである。
【0012】
<核粒子>
(A)不快味を有する薬物を含有する核粒子
不快味を有する薬物としては、アセトアミノフェン、アスピリン、イブプロフェン、エテンザミド、フェナセチン、メフェナム酸、アンチピリン、フェニルブタゾン、スルピリン、ジクロフェナトリウム、ケトプロフェン、ナプロキセン、ロキソプロフェンナトリウム、エトドラク、エピリゾール、塩酸チアラミド、インドメタシン、ペンタゾシン、塩化アセチルコリン、酒石酸アリメマジン、塩酸シプロヘプタジン、塩酸ジフェンヒドラミン、マレイン酸クロルフェニラミン、リン酸コデイン、リン酸ジヒドロコデイン、臭化水素酸デキストロメトルファン、クエン酸ペントキシベリン、テオフィリン、アミノフィリン、塩酸エフェドリン、塩酸エピネフリン、硫酸サルブタモール、塩酸トリメトキノール、塩酸プロカテロール、塩酸メチルエフェドリン、塩酸フェニルプロパノールアミン、グアイフェネシン、トラネキサム酸、無水カフェイン、カフェイン、サリチル酸コリン、サリチル酸ナトリウム等が挙げられ、核粒子としては、1種単独で又は2種以上を組み合わせて、原薬のまま、或いは適当な結合剤や賦形剤を組み合わせて用いて造粒した粒子を使用してもよい。これらの中でもアセトアミノフェン、カフェイン及びイブプロフェンが好ましい。
【0013】
薬物核粒子の平均粒径は、50〜600μmの範囲が好ましく、より好ましくは100〜400μmの範囲である。50μm未満であると、粒子が細かいため粒子同士の凝集が起こることにより造粒が進みやすく、コーティングが不均一になり、マスキング性が劣る場合がある。一方、600μmを超えると、マスキング性には問題はないが、ざらつきが強くなり、服用性が悪化することがある。本コーティング粒子を製造する上で装置の性能を最も活かせるのは100μm以上であり、コーティング粒子が口中でよりざらつきが少なくできるのは600μm以下である。
【0014】
なお、本発明において、平均粒径とは、1000μm、850μm、500μm、355μm、250μm、150μm、75μm、45μm、20μmの内径75mmのふるいを用い、サンプル量10gで、日局「粉体粒度測定法」第2法に基づき試験を行い測定した際の累積質量の50%粒子径とする。また、上記測定法により平均粒径が100μm以下であったものについてはレーザー式散乱回析法粒度分布測定装置(BECKMAN COULTER社製)を用いて測定した際の累積質量の50%粒子径を平均粒径とした。
【0015】
核粒子としては、原料をそのまま、或いは造粒品や、目的の粒径に調整したものを適宜使用することができる。造粒する場合、他の成分、例えばデキストリン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール部分けん化物、ゼラチン、プルラン、カルボキシビニルポリマー等の結合剤、トウモロコシデンプン、コメデンプン等のデンプン類、カルボキシメチルスターチナトリウム、ヒドロキシプロピルスターチ等デンプン誘導体類、結晶セルロース、粉末セルロース等のセルロース類、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース誘導体類、乳糖、マンニトール等の糖および糖アルコール類等を適宜添加することができる。不快味を有する薬物に対するこれら結合剤等の含有量(質量比)は、特に限定されないが、不快味を有する薬物:他の成分=1:0.01〜1:1程度が好ましい。
【0016】
(A)薬物又は薬物を含んだ核粒子の含有量は、マスキング性及び製剤化の点から、本発明の粒子全体に対して、質量比で0.25〜0.98の比率とすることが好ましく、より好ましくは0.33〜0.96である。
【0017】
<第一コーティング剤>
本発明の第一コーティング層を形成する第一コーティング剤は、下記(B)及び(C)成分を必須成分として含有する第一コーティング組成物からなる。
【0018】
(B)水難溶性高分子化合物
(B)水難性高分子化合物は、コーティング剤の被膜基剤となる成分である。本発明においては、エチルセルロース、アミノアルキルメタクリレートコポリマーE(メタクリル酸メチル・メタクリル酸ブチル・メタクリル酸ジメチルアミノエチルコポリマー)、アミノアルキルメタクリレートコポリマーRS(アクリル酸エチル・メタクリル酸メチル・メタクリル酸塩化トリメチルアンモニウムエチルコポリマー)、酢酸フタル酸セルロース、アクリル酸エチル・メタクリル酸メチル共重合体等の医薬品添加物規格等の公定書収載品を使用できる。これらは、水10000mLに溶解する量が1g又は1mL未満である胃溶性水難溶性高分子化合物である。これらは1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができるが、これらの中でも使用性、臭いの点から、特にエチルセルロースが好まく、市販のエチルセルロース水分散液(医薬品添加物規格、FMC社製、アクアコートECD−30)等を用いることができる。
【0019】
第一コーティング剤中の(B)成分の含有量は、第一コーティング層ではコーティングのしやすさ、可塑性、溶出性等を考慮すると、第一コーティング剤の総固形分に対して11〜80質量%が好ましく、より好ましくは40〜60質量%である。第一コーティング剤中の(B)成分の量が少なすぎると成膜性、不快味マスキング性に劣る場合があり、多すぎると胃内溶出性、速放性が低下する場合がある。
【0020】
なお、コーティング基剤としてポリビニルピロリドンやポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース等の水溶性高分子化合物を含有すると、口腔内での不快味マスキング効果が損なわれるため、使用しないことが好ましく、使用する場合においても、(B)成分に対して5質量%以下、より好ましくは1質量%以下、特に好ましくは0.5質量%以下に制限される。
【0021】
(C)溶出調整剤
(C)成分はコーティング剤の溶解性をコントロールする成分である。例として、pH感応、温度感応、物質特異的感応等が挙げられ、溶解性を支配する因子はいずれのものでもよい。特にpH感応の場合の例を挙げると、以下のとおりである。即ち、コーティング剤の溶解性をコントロールする成分であり、温度37℃において、pH1.2で水易溶性であり、pH6.8で水難溶性である成分が挙げられる。これを被膜成分である(B)成分と併用してコーティング剤中に配合することにより、服用後、口腔内(pH6.8程度)ではコーティング剤が溶解せずにマスキング効果が高く、胃内(pH1.2程度)ではコーティング剤中の(C)成分が溶解し、被膜が壊れるため、核粒子である薬物を素早く放出させ、溶出性・速効性に優れた粒子とすることができる。なお、本発明において、「pH1.2で水易溶性であり、pH6.8で水難溶性である成分」の「水易溶性」とは、溶質1gを溶かすのに必要な溶媒量が30mL未満の場合をいい、「水難溶性」とは、溶質1gを溶かすのに必要な溶媒量が100mL以上の場合をいう。
【0022】
このような(C)成分としては、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸マグネシウム等のマグネシウム系制酸剤、炭酸水素ナトリウム等のナトリウム系制酸剤、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム等のカルシウム系制酸剤、ヒドロタルサイト、ジヒドロキシアルミニウムアミノアセテート、水酸化アルミニウムゲル、水酸化アルミニウム、ケイ酸アルミニウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、ケイ酸アルミン酸マグネシウム、硫酸アルミニウム等のアルミニウム系制酸剤が挙げられる。これらは1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。これらのなかでもヒドロタルサイトが好ましく、天然又は合成ヒドロタルサイトのいずれであってもよく、好ましいヒドロタルサイトとしては、合成ヒドロタルサイト(商品名:アルカマック(協和化学(株)))等の市販品を用いることができる。なお、コーティング液中に配合する(C)成分の粒子径は、核粒子の10分の1以下のものを用いることが好ましい。
【0023】
(C)成分の含有量は、溶出性等を考慮すると、第一コーティング剤の(B)及び(C)成分の総固形分に対して、質量比で、(C)/{(B)+(C)}=0.11〜0.8が好ましく、より好ましくは0.4〜0.6である。第一コーティング剤中の(C)成分の量が少なすぎると胃内溶出性、速放性が低下する場合があり、多すぎると成膜性が低下する場合がある。
【0024】
また、(A)成分100質量部に対する(B)及び(C)成分の固形分総量の割合は、マスキング効果の点から5質量部以上であることが好ましい。上限は特に制限はないが、胃内での速溶出性の点から30質量部以下であることが好ましく、20質量部以下であることがより好ましく、18質量部以下であることがさらに好ましい。
【0025】
その他の成分
本発明の第一コーティング剤には可塑剤が含まれることが好ましい。可塑剤はコーティング組成物を含む溶液に適度な展延性を与え、成膜しやすくする機能を有すると推測される。可塑剤としては、トリアセチン、クエン酸トリエチル等の医薬品添加物規格((株)薬事日報社)等の公定書に記載されているものが挙げられる。これらは1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。成膜性を考慮するとトリアセチン、クエン酸トリエチルが好ましく、味の点からトリアセチンがさらに好ましい。可塑剤の含有量は第一コーティング剤の総固形分に対して7〜50質量%が好ましく、8〜47質量%がより好ましい。また、可塑剤:(B)成分の総固形分(質量比)=1:1〜1:8が好ましく、1:3〜1:5がより好ましい。
【0026】
第一コーティング剤には、本発明の効果を妨げない範囲で、更に酸化チタン、酸化鉄等の顔料、セタノール、ラウリル硫酸ナトリウム等の任意成分を含むことができる。
【0027】
本発明において、第一コーティング層のコーティング率とは、(B)及び(C)成分を含むコーティング膜の固形分総量の(A)不快味を有する薬物を含有する核粒子に対する被覆率(質量/質量(%))をいう。第一コーティング層のコーティング率としては、5〜30%が好ましく、より好ましくは10〜20%である。このコーティング率が低すぎると(A)成分の保護が不十分で、苦味抑制効果が十分に期待できない場合があり、高すぎると(A)成分の保護は十分だが、胃内での(A)成分の溶出が抑えられ、速放性が確保できない場合がある。
【0028】
<第二コーティング剤>
本発明の第二コーティング層を形成する第二コーティング剤は、下記(B)及び(D)成分を必須成分として含有する第二コーティング組成物からなる。
(B)水難溶性高分子化合物
第二コーティング剤で用いられる(B)成分は、第一コーティング剤について説明したものと同様なものが挙げられる。第二コーティング剤中の(B)成分の含有量は、第二コーティング剤の総固形分に対して30〜90質量%が好ましく、より好ましくは35〜60質量%である。第二コーティング剤中の(B)成分の量が少なすぎると成膜性に劣る場合があり、多すぎると胃内溶出性、速放性が低下する場合がある。
【0029】
(D)崩壊剤
(D)成分はコーティング剤の物理的強度を上げる成分であり、クロスポビドン、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルセルロース等が挙げられる。これらは市販品を用いることができ、例えば、クロスポビドンとしては、コリドン(Kollidon)シリーズ(商品名:Kollidon CL、Kollidon CL−F、Kollidon CL−SF、Kollidon CL−M,BASF社製)が挙げられ、また、ヒドロキシプロピルセルロース(商品名:HPC−L,日本曹達(株)製)等も使用できる。これらは1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0030】
また、(D)成分の含有量は、打錠時の壊れ防止を考慮すると、第二コーティング剤中の(B)及び(D)成分の総固形分に対して、質量比で、(D)/{(B)+(D)}=0.11〜0.8が好ましく、より好ましくは0.3〜0.62である。第二コーティング剤中の(D)成分の量が少なすぎると胃内溶出性、速放性が低下する場合があり、多すぎるとコーティング膜の物理的強度が低下し、本発明の効果が低下する場合がある。
【0031】
(A)成分100質量部に対する(B)及び(D)成分の固形分総量の割合は、マスキング効果の点から5質量部以上であることが好ましく、より好ましくは8質量部以上、更に好ましくは20質量部以上である。上限は特に制限はないが、胃内速溶出性の点から30質量部以下であることが好ましい。
【0032】
その他の成分
本発明の第二コーティング剤にも第一コーティング剤と同様に可塑剤が含まれることが好ましい。可塑剤としては、第一コーティング剤において説明したものと同じものを同じ割合で使用することができる。
また、第二コーティング剤にも、本発明の効果を妨げない範囲で、第一コーティング剤と同様な任意成分を含むことができる。
【0033】
本発明において、第二コーティング剤のコーティング率とは、(B)及び(D)成分を含むコーティング膜の固形分総量の(A)不快味を有する薬物を含有する核粒子に対する被覆率(質量/質量(%))をいう。第二コーティング剤のコーティング率としては、5〜40%が好ましく、より好ましくは10〜35%、特に好ましくは15〜35%である。このコーティング率が低すぎると保護が不十分で打錠時の顆粒壊れを十分抑制できない場合があり、高すぎると胃内での(A)成分の溶出が抑えられ、速放性が確保できない場合がある。
【0034】
<粒子の製造方法>
本発明の不快味マスキング粒子の製造方法は特に制限されず、(A)不快味を有する薬物を含有する核粒子を、(B)水難溶性高分子化合物及び(C)溶出調整剤を含む第一コーティング剤でコーティングし、更に(B)水難溶性高分子化合物及び(D)崩壊剤を含む第二コーティング剤でコーティングして得ることができる。
【0035】
コーティング剤によるコーティングは、湿式コーティングが一般的だが、この限りではない。湿式コーティングの場合は、例えば、コーティング剤組成物を任意の分散媒に分散させた分散液(以下、コーティング剤溶液ということがある。)を核粒子に噴霧する。コーティング剤溶液の分散媒としては、水、エタノール等の親水性溶媒が好ましく挙げられる。
【0036】
コーティング剤溶液の噴霧方法としては、特に限定されないが、コーティング剤を核粒子の表面に均一に付着させることができることから、流動層を有するコーティング装置を使用することが好ましい。これにより、均一で溶出性にむらが少ない、優れたコーティングを行うことができる。また、形成されるコーティング膜の強度も高く、打錠や咀嚼により壊れる可能性が低くなる。
【0037】
微粒子のコーティングには下記に示すような装置を用いることができる。攪拌転動流動層コーティングができるマルチプレックス、遠心転動層コーティングができるCFグラニュレーター、流動層コーティングができるフローコーター、GPCG、スパイラーフローがある。中でもワースター法が可能な装置(例えばGPCGのワースター仕様機)においては、効率の良い微粒子コーティングが可能である。ワースター法とは、流動層底部から上部に向かって核粒子粉体に噴霧液を噴霧する仕組みのものである。
【0038】
装置名 型 仕込み量(例) メーカー
マルチプレックス MP−01 20kg (株)パウレック
マルチプレックス MP−25 20kg (株)パウレック
CFグラニュレーター CF−360 3kg フロイント産業(株)
フローコーター FLO−5 1.8kg フロイント産業(株)
GPCG GPCG−15 15kg (株)パウレック
スパイラーフロー SFC−5 3kg フロイント産業(株)
【0039】
コーティングを行う際の条件としては、特に限定されず、通常用いられている条件が使用できる。例えば、コーティング剤溶液の噴霧速度は、仕込み量や使用する装置のスケールによって適宜調製することが好ましいが、例えば仕込み量が1kgの場合、5〜30g/minとすることができる。コーティング装置の排気温度は、20〜70℃が好ましく、給気温度は60〜90℃が好ましい。排気温度及び給気温度がこの範囲内であると均一なコーティングができる。
第一層目のコーティング後、得られた粒子に第二層目のコーティングを施し、本発明のマスキング粒子を得ることができる。
【0040】
以上のようにして得られる本発明のマスキング粒子の平均粒径は、錠剤では特に制限されず、顆粒剤や散剤は規定された範囲内の粒度に調整することが好ましい。なお、平均粒径の測定方法は、上述した通りである。
【0041】
また、本発明のマスキング粒子の構造は、(A)核粒子を(B)成分の高分子化合物が均一に被覆し、この被膜中に、好ましくは(A)核粒子の平均粒径の1/10以下の粒径を有する(C)溶出調整剤が分散され、更にこの被覆粒子を(B)成分が均一に被覆し、この(B)成分中に(D)崩壊剤が分散されたものである。
【0042】
本発明のマスキング粒子は、口腔内では核粒子の不快味を遮蔽するマスキング性に優れ、胃内では高い溶出性(速放性)を有するマスキング速放性粒子である。なお、本発明において、速放性とは、pH1.2液中において、37℃、30分以内で(A)成分の薬物の飽和溶解度の60質量%以上の溶出性を示すものをいう。
【0043】
<経口製剤>
本発明のマスキング粒子は、経口製剤として用いることができ、製剤の種類としては、錠剤、顆粒剤等が挙げられる。これらの製剤の製造方法も特に制限されず、常法に従って通常の条件で製造することができる。
【0044】
経口製剤中のマスキング粒子の含有量は、20〜50質量%が好ましく、より好ましくは25〜40質量%である。マスキング粒子の含有量が少なすぎると、有効量を含むには錠剤が大きくなりすぎたり、あるいは有効量を摂取するには錠剤数を増やさないといけなくなる場合があり、多すぎると賦形剤の割合が低くなり成形が難しくなる場合がある。
【実施例】
【0045】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0046】
[実施例1a〜35a、比較例1a〜6a]
<核粒子>
核粒子には市販のアセトアミノフェン(タイコヘルスケアジャパン(株)、SPECIAL GRANULAR、平均粒子径295.0μm)を用いた。
【0047】
<マスキング粒子(1)の製造>
まず、コーティング液の総固形分濃度を20質量%に調整する量の精製水に(B)成分としてエチルセルロース水分散液、トリアセチン及び(C)成分の溶出調整剤を、それぞれ表2,4,6,8,10に記載した割合で入れ、よく攪拌してコーティング液を得た。
次いで、流動層造粒機マルチプレックスMP−01((株)パウレック製)を用い、(A)成分として上記アセトアミノフェン粒子800gを入れ、これに給気温度65℃、排気温度25〜40℃になる風量にて、上記で調製したコーティング液を14g/minの速度で、表2,4,6,8,10に示す(B)+(C)の固形分総量となるよう噴霧した。これを給気温度80℃で30分間乾燥し、アセトアミノフェンマスキング粒子(1)を得た。得られた粒子の平均粒径は、核粒子として用いた粒子の平均粒径とほぼ同じか、大きくなってもわずかであった。マスキング粒子の構造は、(A)核粒子を(B)成分が均一に被覆し、この(B)成分中に(C)成分が均一に分散されたものであった。
【0048】
<マスキング粒子(2)の製造>
次に、コーティング液の総固形分濃度を20質量%に調整する量の精製水に(B)成分としてエチルセルロース水分散液、トリアセチン及び(D)成分の崩壊剤を、それぞれ表2,4,6,8,10に記載した割合で入れ、よく攪拌してコーティング液を得た。
次いで、流動層造粒機マルチプレックスMP−01((株)パウレック製)を用い、<マスキング粒子(1)の製造>で作製したアセトアミノフェンマスキング粒子(1)800gを入れ、これに給気温度65℃、排気温度25〜40℃になる風量にて、上記で調製したコーティング液を17g/minの速度で、表2,4,6,8,10に示す(B)+(D)の固形分総量となるよう噴霧した。これを給気温度80℃で30分間乾燥し、アセトアミノフェンマスキング粒子(2)を得た。得られた粒子(2)の平均粒径は、<マスキング粒子(1)の製造>で作製したアセトアミノフェンマスキング粒子(1)の平均粒径とほぼ同じか、大きくなってもわずかであった。マスキング粒子(2)の構造は、アセトアミノフェンマスキング粒子(1)を(B)成分が均一に被覆し、この(B)成分中に(D)成分が均一に分散されたものであった。
【0049】
[実施例1b〜35b、比較例1b〜6b]
<錠剤の製造>
マスキング粒子は、<マスキング粒子(2)の製造>で得られたアセトアミノフェンコーティング粒子(2)を用いた。
次に、以下の手順でマンニトール造粒品を調製した。D−マンニトール(ロケットジャパン(株)、PEARLITOL 50C)3600gをスパイラーフローSFC−5型(フロイント産業(株)製)に入れ、給気温度90℃、排気温度35〜45℃で、ヒドロキシプロピルセルロース6質量%水溶液(HPC−L、日本曹達(株)製)を2400g噴霧して造粒し、マンニトール造粒品を得た。
次いで、得られた粒子を用いて表3,5,7,9,11に示す組成の錠剤をクリーンプレス((株)菊水製作所製)で打錠(打錠圧1000kgf)し、質量453mg、12mmの円形錠を得た。
実施例1b〜35bの本発明の錠剤は壊れることなく打錠することができた。一方、比較例1b〜6bの錠剤は、打錠時に壊れてしまうものがあった。
【0050】
上記実施例及び比較例で得られたマスキング粒子を含む錠剤について、苦みのマスキング性及び速放性の評価を行った。結果を表3,5,7,9,11に併記する。
なお、苦味のマスキング性と速放性は溶出性により評価した。日本薬局方パドル法に準拠する溶出試験を行った。
【0051】
<苦味のマスキング性評価>
苦味のマスキング性については、パネラー7人が錠剤1錠を口に含み、舌と上顎でシアーをかけて溶解した際に感じた苦味の強さを下記5段階で評価し平均値を算出した。評価点が3以上であれば許容できる。
【表1】

[評価基準(pH6.8)]
◎:4点以上
○:3点以上4点未満
×:3点未満
【0052】
<速放性評価>
速放性については胃内における胃液での溶出性の代替として、胃液のpHを想定した37℃、pH1.2の緩衝液を用いて評価した。その際、1サンプルに含まれるアセトアミノフェン含量を100質量%とした場合、それに対する溶出したアセトアミノフェンの割合を溶出率(質量%)として示した。
[評価基準(pH1.2)]
30分後のアセトアミノフェンの溶出が60質量%以上であれば効果があると判断した。60質量%以上であれば市販製品レベルの溶出性を確保できるためである。
◎:80質量%以上
○:60質量%以上80質量%未満
×:60質量%未満
【0053】








































【表2】

【0054】
【表3】

【0055】
【表4】

【0056】
【表5】

【0057】
【表6】

【0058】
【表7】

【0059】
【表8】

【0060】
【表9】

【0061】
【表10】

【0062】
【表11】

【0063】
<使用原料>
アセトアミノフェン(タイコヘルスケアジャパン(株)、SPECIAL GRANULAR)
エチルセルロース水分散液(FMC社、アクアコートECD−30)
トリアセチン(大八化学工業(株)、トリアセチン)
合成ヒドロタルサイト(協和化学工業(株)、アルカマックVF)
D−マンニトール(ロケットジャパン(株)、PEARLITOL 50C)
コリドンCL−SF(クロスポビドン、BASF社製)
コリドンCL−M(クロスポビドン、BASF社製)
コーンスターチ(松谷化学工業(株)製)
低置換度ヒドロキシプロピルセルロース(日本曹達(株)、HPC−L)
ステアリン酸マグネシウム(Mallinckrodt Inc)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)不快味を有する薬物を含有する核粒子、該核粒子を被覆する第一コーティング層、及び該第一コーティング層を被覆する第二コーティング層を有する不快味マスキング粒子であって、
上記第一コーティング層が、(B)水難溶性高分子化合物及び(C)溶出調整剤を含み、
上記第二コーティング層が、(B)水難溶性高分子化合物及び(D)崩壊剤を含むことを特徴とする不快味マスキング粒子。
【請求項2】
(D)崩壊剤が、クロスポビドン、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース及びポリビニルピロリドンから選ばれる1種又は2種以上である請求項1記載の不快味マスキング粒子。
【請求項3】
(C)溶出調整剤が、合成ヒドロタルサイトである請求項1又は2記載の不快味マスキング粒子。
【請求項4】
(A)核粒子が、アセトアミノフェン、カフェイン又はイブプロフェンである請求項1乃至3のいずれか1項記載の不快味マスキング粒子。
【請求項5】
(B)水難溶性高分子化合物が、エチルセルロース、アミノアルキルメタクリレートコポリマーE、アミノアルキルメタクリレートコポリマーRS、酢酸フタル酸セルロース及びアクリル酸エチル・メタクリル酸メチル共重合体から選ばれる1種又は2種以上である請求項1乃至4のいずれか1項記載の不快味マスキング粒子。
【請求項6】
第一コーティング層において、(A)成分100質量部に対する(B)及び(C)成分の総量の割合が、5質量部以上である請求項1乃至5のいずれか1項記載の不快味マスキング粒子。
【請求項7】
第一コーティング層において、(C)/{(B)+(C)}で表される、(B)及び(C)成分の総量に対する(C)成分の割合が、質量比で0.11〜0.8である請求項1乃至6のいずれか1項記載の不快味マスキング粒子。
【請求項8】
第二コーティング層において、(A)成分100質量部に対する(B)及び(D)成分の総量の割合が、5質量部以上である請求項1乃至7のいずれか1項記載の不快味マスキング粒子。
【請求項9】
第二コーティング層において、(D)/{(B)+(D)}で表される、(B)及び(D)成分の総量に対する(D)成分の割合が、質量比で0.11〜0.8である請求項1乃至8のいずれか1項記載の不快味マスキング粒子。
【請求項10】
マスキング速放性粒子である請求項1乃至9のいずれか1項記載の不快味マスキング粒子。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれか1項記載の不快味マスキング粒子を含有することを特徴とする経口製剤。
【請求項12】
錠剤又は顆粒剤である請求項11記載の経口製剤。

【公開番号】特開2012−140335(P2012−140335A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−291978(P2010−291978)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】