説明

不正走行防止システム

【課題】積算走行距離をごまかすことをより確実に防止することのできる不正走行防止システムを提供する。
【解決手段】不正走行防止システム1では、MPU31aは、バッテリ40から電源供給を受けているか否かを判断することで、車両の走行距離が積算可能な状態にあるか否かを判断する。ここで、メータECU31は、車両の走行距離が積算可能な状態にあると判断される場合、車載メータ接続確認信号をエンジンECU20に送信する一方、車両の走行距離が積算可能な状態にないと判断される場合、車載メータ接続確認信号をエンジンECU20に送信しない。そして、エンジンECU20は、車載メータ接続確認信号を受信している場合には、車載エンジン10を始動可及び車両の走行を実行可とする一方、車載メータ接続確認信号を受信していない場合には、車載エンジン10を始動不可、したがって、車両の走行を実行不可とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行距離が積算されない不正な走行を防止する不正走行防止システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両走行制御装置によって走行制御が実行される車両の走行距離を算出・積算するとともに、この積算した走行距離である積算走行距離を表示部に表示するオドメータ装置が知られている。このオドメータ装置が表示部に表示する積算走行距離は、例えば中古車買取や販売など、その車両の価格査定に非常に大きな影響を与える。
【0003】
ところで、従来、オドメータ装置と、車載エンジンの始動制御を含む車両の走行制御を実行する車両走行制御装置との間で、電気的に接続するワイヤハーネスが外されていたとしても、走行距離を積算することができなくなるだけで、車両は走行可能である。そのため、車両の積算走行距離をごまかすことができてしまう。
【0004】
こうした、走行距離を積算させない不正な走行を防止する不正走行防止システムとして、従来、例えば特許文献1に記載の技術が知られている。この文献に記載の技術では、エンジン制御装置は、オドメータ装置が車載エンジンの停止時に表示していた積算走行距離を当該エンジン制御装置のメモリ等に記憶保持する。そして、エンジン制御装置は、オドメータ装置が車載エンジンの再始動時に表示する積算走行距離と、上記メモリに記憶保持されている積算走行距離とを比較し、前者の積算走行距離が後者の積算走行距離よりも短いと判断される場合、エンジン制御装置は、オドメータ装置が不正に操作されたと判断し、その旨の告知を行なう。これにより、ユーザは、オドメータ装置が不正に操作されたことを認識することができるようになる。
【特許文献1】特開2001−249027号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、こうした従来技術であっても、上記積算走行距離をごまかそうとする者に対し、抑止力として作用するだけに過ぎず、オドメータ装置が表示する上記積算走行距離をごまかすことは可能であり、依然として改善の余地がある。
【0006】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、積算走行距離をごまかすことをより確実に防止することのできる不正走行防止システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
こうした目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、車両の不正走行を防止する車両不正走行防止システムであって、車両の走行制御を実行する車両走行制御装置と、前記車両の走行距離を算出・積算するとともに、この積算した走行距離である積算走行距離をオドメータ表示部に表示制御するオドメータ表示制御装置とを備え、前記オドメータ表示制御装置は、前記車両の走行距離が積算可能な状態にある場合、その旨を示す信号である積算可能信号を前記車両走行制御装置に送信し、前記車両走行制御装置は、前記積算可能信号を受信している場合には、当該車両の走行を実行可とする一方、前記積算可能信号を受信していない場合には、当該車両の走行を実行不可とすることを特徴とする。
【0008】
不正走行防止システムとしての上記構成では、オドメータ表示制御装置によって車両の走行距離が積算可能な状態にある場合、オドメータ表示制御装置からその旨を示す信号である積算可能信号が車両走行制御装置に送信され、車両走行制御装置は、この積算可能信号を受信している場合には、当該車両の走行を実行可する一方、積算可能信号を受信していない場合には、当該車両の走行を実行不可とする。これにより、オドメータ表示制御装置が車両の走行距離を積算可能な状態である場合に限り、当該車両の走行制御が実行されるようになるため、走行距離が積算されない不正な走行を防止することができるようになる。そして、ひいては、積算走行距離をごまかすことをより確実に防止することができるようになる。
【0009】
ところで、車両の走行を実行可あるいは実行不可とする具体的な手段として様々な手段が考えられる。例えば請求項2に記載の発明のように、前記車両走行制御装置は、前記積算可能信号を受信している場合には、当該車両のエンジンを始動可とする一方、前記積算可能信号を受信していない場合には、当該車両のエンジンを始動不可とすることとしてもよい。これにより、上記積算可能信号を受信しない限り、当該車両のエンジンをそもそも始動することができないため、上記不正な走行を防止することができるようになる。
【0010】
他に例えば、車両走行制御装置は、上記積算可能信号を受信しない限り、車載エンジンあるいは車載モータ等の動力源にて動力を発生させたとしてもその発生した動力が車輪に伝達されないようにしてもよい。これにより、上記不正な走行を防止することができるようになる。
【0011】
また、車両の走行距離を積算可能な状態にあるか否かを判断する具体的な判断手段としても様々な手段が考えられる。
【0012】
例えば請求項3に記載の発明のように、前記オドメータ表示制御装置には、車両に搭載されたバッテリから電源が供給されるようになっており、前記オドメータ表示制御装置は、前記バッテリから供給される電源信号を積算可能信号として前記車両走行制御装置に送信することとしてもよい。
【0013】
不正走行防止システムとしてのこのような構成では、オドメータ表示制御装置はバッテリから電源信号が供給されると、判断部を介することなく、積算可能信号として車両走行制御装置に送信する。すなわち、判断部による判断を行わずともよいため、上記不正な走行を簡素な構成によって防止することができるようになる。
【0014】
あるいは、例えば請求項4に記載の発明のように、前記オドメータ表示制御装置には、車両に搭載されたバッテリから電源が供給されるようになっており、前記オドメータ表示制御装置は、前記車両の走行距離が積算可能な状態にあるか否かを判断する判断部を備え、前記判断部は、前記バッテリから電源供給を受けることで前記積算可能な状態にあると判断し、前記車両走行制御装置に前記積算可能信号を送信することとしてもよい。
【0015】
不正走行防止システムとしてのこのような構成では、オドメータ表示制御装置は、その判断部によって、バッテリから電源供給を受けることで積算可能な状態にあるか否かを判断し、積算可能な状態にあると判断する場合、車両走行制御装置に積算可能信号を送信する。判断部による判断が行なわれるため、上記不正な走行をより確実に防止することができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明に係る不正走行防止システムの一実施の形態について、図1を参照しつつ説明する。なお、図1は、本実施の形態の不正走行防止システム1について、その全体構成を示すブロック図である。
【0017】
図1に示されるように、不正走行防止システム1は、車載エンジン10の始動制御を含む車両(図示略)の走行制御を実行する車両走行制御装置(以下、エンジンECUと記載)20を備える。
【0018】
エンジンECU20は、例えばユーザがキーシリンダにメカニカルキーを挿入してエンジン始動操作を行なったか否かを判断する。また、エンジンECU20には、後述するメータECU31が接続されており、エンジンECU20は、このメータECU31から車載メータ接続確認信号(積算可能信号)を受信するか否かを判断する。さらに、エンジンECU20には、車載エンジン10が接続されており、エンジンECU20は、車載エンジン10の始動を実行する。
【0019】
詳しくは、エンジンECU20は、車載メータ接続確認信号を受信していると判断する場合において、エンジン始動操作が実行された旨を判断すると、車載エンジン10を始動可とする。さらに、エンジンECU20は、車載エンジン10が始動されていると判断すると、車両の走行を実行可とする。一方、エンジンECU20は、車載メータ接続確認信号を受信していないと判断する場合において、エンジン始動操作が実行された旨を判断しても、車載エンジン10を始動可とせず、始動不可とする。したがって、エンジンECU20は、車両の走行を実行不可とする。
【0020】
また、図1に示されるように、不正走行防止システム1は、メータECU31とオドメータ表示部32とを有するコンビネーションメータ30を備えており、このコンビネーションメータ30を含む各種車載機器に直流電源(例えば「12[V]」)を供給するバッテリ40を搭載する車両に適用されている。なお、メータECU31はMPU31aを有しており、これらメータECU31及びMPU31aは特許請求の範囲に記載のオドメータ表示制御装置及び判断部にそれぞれ相当する。
【0021】
このうち、メータECU31(詳しくはMPU31a)は、不正走行防止システム1が適用される車両の走行距離を算出・積算する。詳しくは、MPU31aは、例えば各車輪に取付けられた車輪速センサ(図示略)から出力される矩形波状のパルス信号をカウント・積算することで、車両の走行距離を算出・積算する。
【0022】
また、MPU31aは、この積算した走行距離である積算走行距離をオドメータ表示部32に表示制御する。詳しくは、MCU31aは、例えばLCD表示用ドライバ(図示略)を駆動することで、該当するLCDのセグメントを点灯し、ユーザが視認可能に上記積算走行距離をオドメータ表示部32に表示する。
【0023】
また、MPU31aは、車両の走行距離を積算可能な状態にあるか否かを判断する。詳しくは、MPU31aが例えばバッテリ40から直流電圧「12[V]」にてコネクタ(図示略)を介して電源供給を受けると、車両の走行距離を積算可能な状態にあると判断し、その旨を示す車載メータ接続確認信号を例えば直流電圧「5[V]」にてエンジンECU20に送信する。一方、MPU31aがコネクタを介して電源供給を受けていないと、車両の走行距離を積算可能な状態にないと判断し、上記車載メータ接続確認信号をエンジンECU20に送信しない。
【0024】
以上説明した不正走行防止システム1では、まず、メータECU31を構成するMPU31aは、バッテリ40から電源供給を受けているか否かを判断することで、車両の走行距離が積算可能な状態にあるか否かを判断する。ここで、車両の走行距離が積算可能な状態にあると判断される場合、メータECU31は、車載メータ接続確認信号をエンジンECU20に送信する一方、車両の走行距離が積算可能な状態にないと判断される場合、メータECU31は、車載メータ接続確認信号をエンジンECU20に送信しない。そして、車載メータ接続確認信号を受信している場合には、エンジンECU20は、車載エンジン10を始動可及び車両の走行を実行可とする一方、車載メータ接続確認信号を受信していない場合には、エンジンECU20は、車載エンジン10を始動不可、したがって、車両の走行を実行不可とする。これにより、MPU31aが車両の走行距離を積算可能な状態である場合に限り、車載エンジン10が始動可、さらには、車両の走行が実行可とされるため、走行距離が積算されない不正な走行を防止することができるようになる。そして、ひいては、積算走行距離をごまかすことをより確実に防止することができるようになる。
【0025】
なお、本発明に係る不正走行防止システム1は、上記実施の形態にて例示した構成に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々に変形して実施することが可能である。すなわち、上記実施の形態を適宜変更した例えば次の形態として実施することもできる。
【0026】
上記実施の形態では、エンジンECU20は、メカニカルキーによるエンジン始動操作が行われたか否かを判断していたが、これに限らない。当該不正走行防止システム1が例えばいわゆるスマートスタートシステムが採用された車両に適用される場合には、エンジンECU20は、携帯機の車室内照合が成立する状態において、エンジンスイッチ及びブレーキペダル(いずれも図示略)を組み合わされたエンジン始動操作が行われたか否かを判断することになる。また、当該不正走行防止システム1が例えばエンジン及び電動モータを搭載するハイブリッド車両に適用される場合には、エンジンECU20は、このハイブリッドシステムを起動する起動操作が行われたか否かを判断することになる。要は、エンジンECU20は、車載動力源による動力発生を指示あるいは許可する操作が行われたか否かを判断する。
【0027】
上記実施の形態では、コンビネーションメータ30からエンジンECU20へ車載メータ接続確認信号が送信される際、MPU31aによって、車両の走行距離を積算可能な状態であるか否かが判断されていたが、こうしたMPU31aによる判断を割愛してもよい。具体的には、図1に対応する図として図2に示すように、バッテリ40からメータECU31に供給される電源信号が、メータECU31を構成するMPU31aを介することなく、車載メータ接続確認信号(積算可能信号)として、エンジンECU20に伝達されるように構成してもよい。こうした不正走行防止システム1aによれば、MPU31aを介さずともよいため、上記不正な走行を簡素な構成によって防止することができるようになる。
【0028】
上記実施の形態では、エンジンECU20は、車載メータ接続確認信号を受信していない場合には、車載エンジンを始動不可としていたが、これに限らず、車載エンジンを始動可とするものの、動力から車輪までの動力伝達経路を一部切断することにより、車両の走行を実行不可としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に係る不正走行防止システムの一実施の形態について、その全体構成を示すブロック図。
【図2】本発明に係る不正走行防止システムの変形例について、その全体構成を示すブロック図。
【符号の説明】
【0030】
1、1a…不正走行防止システム、10…車載エンジン、20…エンジンECU、30…コンビネーションメータ、31…メータECU、31a…MPU、32…オドメータ表示部、40…バッテリ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の不正走行を防止する車両不正走行防止システムであって、
車両の走行制御を実行する車両走行制御装置と、前記車両の走行距離を算出・積算するとともに、この積算した走行距離である積算走行距離をオドメータ表示部に表示制御するオドメータ表示制御装置とを備え、
前記オドメータ表示制御装置は、前記車両の走行距離が積算可能な状態にある場合、その旨を示す信号である積算可能信号を前記車両走行制御装置に送信し、
前記車両走行制御装置は、前記積算可能信号を受信している場合には、当該車両の走行を実行可とする一方、前記積算可能信号を受信していない場合には、当該車両の走行を実行不可とすることを特徴とする不正走行防止システム。
【請求項2】
前記車両走行制御装置は、前記積算可能信号を受信している場合には、当該車両のエンジンを始動可とする一方、前記積算可能信号を受信していない場合には、当該車両のエンジンを始動不可とすることを特徴とする請求項1に記載の不正走行防止システム。
【請求項3】
前記オドメータ表示制御装置には、車両に搭載されたバッテリから電源が供給されるようになっており、
前記オドメータ表示制御装置は、前記バッテリから供給される電源信号を積算可能信号として前記車両走行制御装置に送信することを特徴とする請求項1または2に記載の不正走行防止システム。
【請求項4】
前記オドメータ表示制御装置には、車両に搭載されたバッテリから電源が供給されるようになっており、
前記オドメータ表示制御装置は、前記車両の走行距離が積算可能な状態にあるか否かを判断する判断部を備え、
前記判断部は、前記バッテリから電源供給を受けることで前記積算可能な状態にあると判断し、前記車両走行制御装置に前記積算可能信号を送信することを特徴とする請求項1または2に記載の不正走行防止システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2010−38045(P2010−38045A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−202316(P2008−202316)
【出願日】平成20年8月5日(2008.8.5)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】