説明

中枢及び末梢神経系疾患の治療のための組成物

【課題】非シナプス的機構を用いる中枢及び末梢神経系の選択された容態を治療するための方法と組成物の提供。
【解決手段】中枢神経系のイオン濃度とイオン平衡を改変する試剤の投与。特にイオン依存性又はカチオン−塩素共輸送体アンタゴニストの投与。具体的にはループ利尿薬が挙げられる。これは、発作、発作性障害、てんかん、てんかん重積状態、片頭痛、痛みの治療のため、頭部の外傷、卒中、虚血、低酸素症の病態生理学的な影響の治療のため、エタノールのような神経毒性の病態生理学的な影響を治療し保護するため及び精神神経疾患及び中枢神経系水腫の治療のために用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非シナプス的機構を用いて中枢及び末梢神経系の選択された容態(condition)を治療するための方法と組成物に関する。より明確には本発明の1の局面は、中枢神経系のイオン濃度とイオン平衡を改変する試剤(agent)を投与することにより、発作、発作性障害、てんかん、てんかん重積状態、片頭痛、皮質拡延性抑制、頭蓋内高血圧、精神神経疾患及び中枢神経系水腫の治療のための方法と材料と、エタノールのような毒物及びある種の感染因子の病態生理学的な効果を治療しあるいはこれらの効果から保護するための方法と材料と、頭部外傷、脳卒中、虚血及び低酸素症の病態生理学的な効果を治療するための方法と材料と、認知、学習及び記憶のようなある種の脳機能を改善するための方法と材料とに関する。イオン濃度と勾配を改変するため及びさまざまな容態を治療するための、ループ利尿薬を含む特異的な治療組成物と、かかる組成物の類似体及び誘導体とが、かかる組成物と他の因子との併用とともに開示される。末梢神経系のイオン濃度と勾配を改変する因子を投与することにより痛みを治療するための材料と方法も開示される。試験管内の(in vitro)及び生体の(in vivo)のシステムを用いて所望の活性について薬物候補組成物をスクリーニングするための方法とシステムが開示される。
【背景技術】
【0002】
発作性障害、てんかん等のような神経疾患の通常の治療法は、神経伝達物質又は阻害剤の放出又は活性の改変によってのように、興奮経路に影響を及ぼすシナプス機構を標的とする。発作性障害の通常の治療用試剤と治療方式は、ニューロンの興奮性を減少し、シナプスの発火(firing)を抑制する。このアプローチの重篤な欠点は、てんかんは一般に局部的であるのに、その治療法は無差別にニューロン活動に影響を与え(減退させる)ことである。この理由により重篤な副作用があり、通常の薬剤の反復投与は認知、学習及び記憶のような正常で望ましい脳機能の意図しない障害をもたらすことがある。個々の関心のある障害についてのさらに詳細な情報は以下に提供される。
【0003】
てんかん
てんかんは、大脳ニューロンの異常な放電が特徴で、典型的にはさまざまなタイプの発作として現れる。てんかん発作様活動は、電気生理学的技術を用いて計測可能な、ニューロン集団の自発的に発生する協調的放電と同一とみなされる。てんかん発作様活動を非てんかん発作様活動から区別するこの協調的な活動は、個々のニューロンが段々と時限ロックの鍵のようなやり方で互いに放電しやすくなる状態を表現するため、「過同期化(hypersynchronization)」と呼ばれる。
【0004】
てんかんは最もありふれた神経疾患で、人口の約1%が罹患する。特発性、症候性及び潜在性を含むさまざまなてんかんの病型がある。遺伝的素因は特発性てんかんの主要な病因因子であると考えられている。症候性てんかんは通例脳の構造的な異常の結果発症する。
【0005】
てんかん重積状態は、特に重篤な発作の病型で、著しく長時間持続する多発性発作又は発作と発作の間に意識の回復が全くみられない連続的な発作として出現する。てんかん重積状態の成人の全死亡率は約20%である。最初のエピソードがあった患者は将来のエピソードと慢性てんかん発症のリスクが相当ある。米国でのてんかん重積状態の発生率は毎年約150,000件で、毎年約55,000人の死がてんかん重積状態と関係ある。てんかん重積状態と関連する急性の経過は、難治性てんかん、代謝障害(例、電解質異常、腎臓障害及び敗血症)、中枢神経系感染症(髄膜炎又は脳炎)、卒中、成人病、頭部外傷、薬剤毒性及び低酸素症を含む。てんかん重積状態の病態生理学の基礎には単発の発作を正常なら中断させる機構の機能不全が関与する。この機能不全は、異常に持続的な過剰興奮又は無効な抑制の動員から生じる。これまでの研究は興奮性アミノ酸レセプターの過剰活性化が持続性発作を惹起することを示してきて、興奮性アミノ酸は病因であることを示唆する。てんかん重積状態はまた、脳の主要な抑制的神経伝達物質である、γ―アミノ酪酸(GABA)の効果と拮抗するペニシリン及び類似の組成物によっても惹起される。
【0006】
てんかんの1つの初期の診断手順は、同時に発生する利尿を防止するために大量の水の経口投与をバソプレッシンの注射とともに行うことを伴う。この治療法はてんかん患者には発作を誘導するがてんかんでない人間にはほとんど誘導しないことが見つけられた(Garlandら、Lancet、2:566、1943)。てんかん重積状態は、カイニン酸処理ラットにおいてマンニトール静注により阻止できる(Baranら、Neuroscience、21:679、1987)。この効果は人間の患者に尿素を静注することにより達成される効果と同様である(Carter、Epilepsia、3:198、1962)。これらのケースのそれぞれの治療法は血液と細胞外液の浸透圧を上昇させ、細胞からの水の流出と脳内の細胞外空間の増加をもたらす。別の作用機序(炭酸脱水酵素の阻害)を持つ別の利尿剤であるアセタゾラミド(acetazolamide、ACZ)は抗けいれん薬として実験的に研究されてきて(Whiteら、Advance Neurol.、44:695、1986及びGuillaumeら、Epilepsia、32:10、1991)、臨床的には限定的に使用されてきた(Tanimukaiら、Biochem.Pharm.、14:961、1965及びForsytheら、Develop.Med.Child Neurol.、23:761、1981)。抗けいれん作用機序は不明だが、ACZは大脳細胞外空間には明らかな効果がある。
【0007】
伝統的な抗けいれん薬は、(a)電位依存性ナトリウムチャンネルを阻害することによる反復性の高周期ニューロン発火の抑制と、(b)γアミノ酪酸(GABA)性(GABA−mediated)後シナプス抑制と、(c)T型カルシウムチャンネルの阻害の3つの機序のうちの1つにより主要な効果を奏する。フェニトイン(phenytoin)とカルバマゼピン(carbamazepine)は、ニューロンの規則的な発火には感知できるほどの影響を与えない一方で、持続的な高周期ニューロン脱分極を減少又は除去することにより細胞レベルで効果を奏するナトリウムチャンネルアンタゴニストの例である。フェノバルビタールとベンゾジアゼピン(benzodiazepine)のようなバルビツレートは、GABA性シナプス抑制を増強することにより作用する。両方のクラスの組成物はシナプス後膜の過分極を増大し、結果として抑制を増大する。エトスクシミド(ethosuximide)とバルプロ酸(valporate)はT型電位依存性カルシウムチャンネルを介するカルシウムのニューロンへの流入を減少する薬剤の例である。
【0008】
現在の抗けいれん薬療法は発作活動への関与の有無に関わらず全ての脳細胞に薬理学的効果を奏する。ありふれた副作用は過度の鎮静、眩暈感、記憶喪失及び肝臓障害である。さらに、てんかん患者の20ないし30%は耐療性(refractory)を示す。
【0009】
シナプス過興奮性に焦点を絞ることはてんかん発生機序の基礎研究と新規抗てんかん薬の設計と発見におけるこれまでの主導的な原理であった。このアプローチの欠点の1つは、今日の大抵の抗てんかん薬が脳内のてんかん発作発現性領域と正常な領域の両方に無差別的にその影響を及ぼすことである。本発明の組成物は、非シナプス経路により作用するためもあって、発作の治療に新規なアプローチを提供する。
【0010】
片頭痛
片頭痛は米国の人口の10ないし20%が罹患しており、毎年推定6400万労働日が失われている。片頭痛は、時たま起こり、片側性又は両側性で、4から72時間持続し、しばしば悪心、嘔吐及び光及び/又は音に対する過敏性を伴う、拍動性の頭部の痛みにより特徴づけられる。視覚、感覚、発語又は運動の徴候のような前駆症状を伴うときは、前記の頭痛は、古典的な片頭痛として以前は知られていた「前兆を伴う片頭痛」と呼ばれる。かかる徴候を伴わないときは、前記の頭痛は、普通の片頭痛として以前は知られていた「前兆を伴わない片頭痛」と呼ばれる。両タイプとも強い遺伝的な要素の証拠があり、両方とも女性のほうが男性より3倍罹患しやすい。片頭痛の正確な病因はまだ不明である。片頭痛になりやすい人は、おそらく抑制的神経伝達物質γアミノ酪酸(GABA)の活性低下のために、神経興奮の閾値が低下しているとの学説が立てられている。GABAは正常では、ともに片頭痛発作に関与するとみられる神経伝達物質セロトニン(5−HT)とグルタミン酸の活性を抑制する。興奮性神経伝達物質グルタミン酸は片頭痛発作を始動する皮質拡延性抑制と呼ばれる電気的な現象に関与し、セロトニンは片頭痛の進行とともに起こる血管の変化に関与する。
【0011】
皮質拡延性抑制(CSD)は後頭部皮質の強烈な脱分極の短い突発波と、それに続く大脳皮質表面を前方に進むニューロンの沈黙と減退した誘発電位の波で特徴づけられる。後頭部皮質ニューロンの増大した興奮性がCSDの基礎であると提案されている。視覚領は興奮性の閾値が比較的低いために最もCSDを起こしやすい。ミトコンドリア疾患、マグネシウム欠乏症及びシナプス前カルシウムチャンネル異常はニューロン過興奮性の原因かもしれない(Welch、 K.M.A.、「片頭痛の病因論(Pathogenesis of Migraine)」、Seminars in Neurobiology、17:4、1997)。拡延性抑制が起こっている間、間質の酸性化、細胞外カリウムの蓄積及び細胞内コンパートメントへのナトリウムと塩素イオンの再分布を含む、甚大なイオンの混乱が生じる。さらに、持続的なグリアの膨張が、変更された細胞外のイオン液組成及び間質の神経伝達物質と脂肪酸蓄積に対する恒常性(homeostasis)反応として起こる。これまでの研究はフロセミド(furosemide)が麻酔したネコで再生的な皮質拡延性抑制を抑制することを示している(Read、S.J.ら、Cephalagia、17:826、1997)。
【0012】
抗療性の転換型片頭痛タイプの慢性連日性頭痛(CDH)患者85人の研究は、急性の頭痛の悪化はエルゴタミン(ergotamine)、ジヒドロエルゴタミン(dihydroergotamine、DHE)及びスマトリプタン(sumatriptan)のような特定の抗てんかん薬に反応し、頭蓋内圧の上昇の診断後のアセタゾラミン(acetazolamide)及びフロセミド(furosemide)のような試剤の追加投与が症状の改善(better control of symptoms)をもたらしたと結論した(Mathew、 N.T.ら、Neurology46:1226−1230、1996)。前記論文の著者たちは、この結果はさらに研究を要する片頭痛と特発性頭蓋内高血圧との関連を示唆していると注記している。
【0013】
薬物療法は片頭痛の重篤度と頻度にあわせて処方される。時折頭痛が起こる場合には病勢を頓挫させる治療法が必要とされるが、月に2回以上頭痛が起こる場合又は頭痛が患者の日常生活に重大な影響を与える場合には、予防療法が必要とされる。スマトリプタンのようなセロトニン受容体アゴニストが病勢頓挫療法に処方されてきた。セロトニン受容体アゴニストは拡張した脳血管を収縮させてこれに伴う痛みを軽減すると考えられている。この療法に伴う副作用は刺痛、眩暈感、火照り感(warm−hot sensation)及び注射部位反応(injection−site reaction)を含む。静脈投与は冠状動脈の血管けいれんのおそれのため禁忌である。エルゴタミンにもとづく薬剤は、主に外部頸動脈の分枝である一部の動脈と小動脈の拡張を特異的に抑える血管収縮剤に分類される。エルゴタミンのリバウンド現象を防止するため、エルゴタミンは片頭痛発症の第2日又は第3日に反復すべきではない。しかし、前記薬剤の使用を急に中止する場合には患者は重篤なリバウンドによる頭痛を経験する。エルゴタミンの過剰消費は冷たく湿った四肢のような血管収縮の徴候を惹起し、麦角中毒につながる。
【0014】
予防療法に用いる薬剤は、プロプラノロール(propranolol)のようなアドレナリン作動性ベータ遮断薬、カルシウムチャンネル遮断薬又は低投与量の抗てんかん薬を含む。特に、GABA合成を増加させるかその分解を減少させるかのいずれかにより、脳内GABAレベルを増加させる抗てんかん薬はある人々には片頭痛を防止する上で有効のようにみえる。一部の患者には、アミトリプチリン(amitriptline)のような三環系抗うつ薬(tricyclic analgesics)が有効である。脳内グルタミン酸受容体サブタイプの1つに作用するNMDA受容体アンタゴニストはCSDを抑制する。弱いNMDA受容体アンタゴニストとして機能すると現在信じられている薬剤又は物質は、デキストロメトルファン(dextromethoraphan)、マグネシウム及びケタミン(ketamine)を含む。静脈内マグネシウムは片頭痛の発作を頓挫させるために使用することに成功してきた。
【0015】
さまざまな化学因子及び生物学的因子といくつかの病原因子は神経毒効果がある。ありふれた例は急性エタノール摂取の病態生理学的効果である。エピソード的なエタノール中毒と過度のアルコール中毒に特徴的な禁断は脳障害を起こす。アルコールのヒトへの影響を模倣するように設計された動物モデルは、5ないし10日間続けて1回量与えることで、大脳皮質の水腫と電解質(Na及びK)の蓄積を伴った嗅脳溝内皮質、歯状回及び嗅球の神経変性が起こることを証明した。他の神経変性状態と同様、過度のグルタミン酸作動性活動と細胞内カルシウムの増大とγアミノ酪酸の減少とが関与するシナプスにもとづくエキサイトトキシンによる事象に研究の焦点が主に当てられてきた。エピソード的なアルコール被曝により誘導された脳損傷をNMDA受容体アンタゴニスト、非NMDA受容体及びCa2+チャンネルアンタゴニストとフロセミドとで共に治療することにより、脳の水分過剰と電解質上昇を防止する一方、アルコール依存性の大脳皮質の損傷は75ないし85%減少する(Collins、M.ら、FASEB、12巻1998年2月号)。著者らは前記の結果はフロセミド及び関連試剤はアルコール乱用での神経保護剤として有用ではないかと示唆するものであることを観察した。
【0016】
認知、学習及び記憶
哺乳類の認知能力は皮質のプロセシングに依存すると考えられている。皮質の機能を記述し理解するための最も適切なパラメーターは活動の時空的なパターンであるということは一般的に受け入れられている。特に、長期増強と長期減退は記憶と学習に関係があるとされてきて、認知にも役割を果たすかもしれない。哺乳類の脳の振動的で同期的な活動は特定の行動状態と相関があるとされてきた。
【0017】
自発的なニューロンの発火活動の同期化が中枢神経系の数多くの正常及び病態生理学的な過程の重要な特徴であると考えられている。例は、認知に関与すると考えられている新皮質のガンマ波のような集団活動の同期化された振動(SingerとGray、1995)と、空間記憶及びシナプス可塑性誘導に役割を果たすと考えられている海馬のシータ波(HeurtaとLisman、1995、HeurtaとLisman、1996、O’keefe、1993)を含む。今日まで、自発的な同調化した活動の発生と維持の基礎となる過程についての大抵の研究はシナプス的機構に焦点を当ててきた。しかし、非シナプス的機構も中枢神経系の正常及び病理学的活動における同調化の改変に重要な役割を果たすかもしれない。
【0018】
候補組成物のスクリーニングと治療法の効能の評価
薬剤開発プログラムは、被検者を用いる臨床治験を行う前に薬剤候補を評価するために、試験管内でのスクリーニング検定法とその後の適切な動物モデルでの試験に依存する。現在用いられているスクリーニング方法は、伝統的手段及びコンピュータによる手段により生成される無数の候補化合物を試験するために必要なハイスループットスクリーニングを用意するためにスケールアップすることが一般には困難である。さらに、細胞培養系と動物モデルの反応に関する研究は、ヒトの臨床治験の間に観察される反応と副作用を正確には予測しない。
【0019】
さまざまな因子又は生理活性が試験管内及び生体のシステムの両方において生物材料に及ぼす影響を評価するための通常の方法は、感度が高いわけでも多くの情報を与えるわけでもない。例えば、薬剤のような生理学的な因子が培養下で増殖された細胞又は組織の集団に与える効果を評価することは、ある特定の時点のみにおける細胞又は組織の集団に前記因子が与える効果に関する情報を提供するのが常である。さらに、現在に評価技術は一般に単一又は少数のパラメーターに関する情報を提供する。候補試剤は、濃度との相関関係で決定される細胞毒性について系統的にテストされる。細胞集団が処理され、処理後の1つ又はいくつかの時点で細胞の生存率が計測される。一般的には、細胞毒性は細胞死の原因又は時間経過に関する情報は全く提供しない。
【0020】
同様に因子は、例えば特定の代謝機能又は代謝産物に与える生理学的な効果にもとづいてしばしば評価される。ある因子が細胞集団又は組織試料に投与されて、関心のある代謝機能又は代謝産物が当該因子の影響を評価するために検定される。このタイプの検定法は有用な情報を提供するが、これは作用機序、他の代謝産物又は代謝機能への影響、生理学的効果の時間経過、一般的な細胞又は組織の健康状態等に関する情報は提供しない。
【0021】
米国特許第5,902,732及び5,976,825号明細書は、培養グリア細胞を用いて、グリア細胞に浸透圧ショックを与えること、薬剤候補を導入すること、該薬剤候補がグリア細胞の膨張を抑制可能かどうか評価することにより、抗けいれん活性について薬剤候補化合物をスクリーニングするための方法を開示する。この特許はまた、アポトーシス(apoptosis)を誘導可能な増感因子と浸透圧ストレスを与える因子とをCNS細胞に加えること、前記薬剤候補を加えること、前記薬剤候補が細胞膨張を抑制可能かどうか評価することにより、アルツハイマー病の徴候を防止又は治療するためあるいは虚血の結果起こるCNS損傷を防止するための活性について薬剤候補化合物をスクリーニングするための方法をも開示する。高分子の組織インプラントの内部の生細胞の寸法(dimension)を計測すること、該細胞に浸透圧でショックを与えること、細胞膨張の変化を評価することを伴う、高分子組織インプラントの内部の生細胞の生存能力と健康状態を決定するための方法も開示される。細胞膨張活性の評価は内在性光学信号を光学的な検出システムを用いて計測することにより達成される。
【発明の概要】
【0022】
本発明の選択された治療用組成物及び方法は、発作、発作性障害、てんかん重積状態を含むてんかん、片頭痛、皮質拡延性抑制、頭蓋内高血圧、精神神経疾患及び中枢神経系水腫を含む中枢神経系の容態の治療のために有用である。本発明の選択された治療用組成物と方法は、エタノールとある種の感染因子のような神経毒性因子の病態生理学的な効果を治療しその効果から保護するため及び頭部外傷、卒中、虚血及び低酸素症の病態生理学的な効果を治療するためにも適している。別の実施態様によると、本発明の治療試剤と方法は、認知、学習及び記憶の皮質中枢のようなある種の皮質組織の機能を改善する。さらに、本発明の治療試剤と方法は、末梢神経系の痛みに伴うインパルスの伝導に影響を与え又は改変することにより、痛みを治療するためにも有用である。本発明の治療用組成物と方法はエピソードごとにあるいは予防的に使用でき、ヒト及び獣医学への応用の両方に適している。
【0023】
本発明の方法と組成物は、非シナプス的機序により、より明確には、ニューロン集団活動の同期化を改変することにより、中枢及び末梢神経系のさまざまな容態の治療することに関与する。好ましい実施態様によると、ニューロン集団活動の同期化は中枢及び/又は末梢神経系のアニオン濃度と勾配を改変することにより操作される。イオン依存性共輸送体アンタゴニストは適切な治療用組成物であり、アニオン共輸送体アンタゴニストは好ましい治療用組成物であり。カチオン−塩素共輸送体アンタゴニストは特に好ましい治療用組成物である。1の実施態様によれば、Na、K、2Cl塩素共輸送体アンタゴニストは、ニューロン集団活動の同期化を改変するための特に好ましい治療用試剤である。アニオン共輸送体アンタゴニストは、発作、てんかん及びてんかん重積状態、皮質拡延性抑制及び片頭痛、頭蓋内高血圧、精神神経疾患、中枢神経系水腫の治療のような状態を治療するためと、エタノールとある種の感染因子のような神経毒性因子の病態生理学的な影響を治療しその影響から保護するためと、痛みの知覚の減少のためとに有用である。例えば認知、学習及び記憶に関連する皮質領域の機能を改善するために、塩素共輸送体アゴニストは好ましい治療用試剤であり、カチオン−塩素共輸送体アゴニストは特に好ましい治療用試剤である。イオン依存性共輸送体アゴニスト及びアンタゴニスト活性及びさまざまな容態と障害を治療する効能について候補化合物をスクリーニングするための方法も提供される。
【0024】
「非シナプス的」機序を用いる本発明の方法と化合物への言及は、神経伝達物質の放出又は活性あるいは抑制物質の放出又は活性のようなニューロン興奮性に関連する機序は本発明の方法と試剤によって影響を受けないということを意味する。同様に、イオンチャンネル及び受容体は本発明の方法と組成物によって直接影響を受けることはない。むしろ、本発明の方法と治療用試剤はニューロン集団活動の同期化又は相対的同期性に影響を与える。本発明の好ましい方法と治療用試剤は、ニューロンの興奮性に影響を与えることなく、中枢又は末梢神経系での細胞外アニオン塩素の濃度及び/又は勾配を改変する。
【0025】
本発明の1つの局面は、発作その他の中枢神経系の病態生理学的な状態に関連したニューロン集団活動の過同期化を減少又は除去することによりニューロンの放電の同期化を改変するための治療用試剤と方法に関する。1の実施態様では、前記治療用組成物は中枢神経系内の細胞外空間でのアニオン濃度、好ましくは塩素濃度を改変可能である。好ましい実施態様では、治療用試剤は塩素共輸送体アンタゴニストである。別の好ましい実施態様では、治療用試剤はカチオン塩素共輸送体アンタゴニストであり、特に好ましい実施態様では、治療用試剤はグリア細胞Na、K、2Cl共輸送体アンタゴニストである。さらに別の好ましい実施態様によれば、治療用試剤はグリア細胞において高レベルのカチオン−塩素共輸送体アンタゴニスト活性を有し、ニューロンと腎臓細胞において低レベルのイオン依存性共輸送体活性を有する。好ましい中枢神経系の治療用試剤は血液脳関門を通過でき、あるいは中枢神経系への試剤の送達を促進する送達システムを用いて投与されることが好ましい。
【0026】
一般には、フロセミド、ブメタニド(bumetanide)、エタクリン酸(ethacrinic acid)等のようなループ利尿薬は、イオン依存性共輸送体アンタゴニスト活性を示し、本発明の治療用組成物として用いるのに適している。かかるループ利尿薬は細胞外アニオン塩素濃度とイオン勾配の所望の改変を起こし、ニューロン集団活動の同期化の改変を起こすが、これらはまた他の望ましくない効果も起こす。例えばフロセミドはグリアとニューロン細胞の両方とともに腎臓においてもカチオン−塩素共輸送体アンタゴニストとして作用する。イオン依存性共輸送体アンタゴニスト活性を示す特に好ましい本発明の治療用試剤は、グリア細胞集団では高い活性を示すがニューロンと腎臓の細胞集団ではより低い活性を示す。
【0027】
てんかん重積状態の治療法は、他の治療用試剤とともに、イオン依存性共輸送体アンタゴニストを、好ましくはカチオン−塩素共輸送体アンタゴニストを投与することを伴う。フロセミドその他のループ利尿薬は適切なカチオン−塩素共輸送体アンタゴニストである。実験的研究は、フロセミド処理はニューロン集団活動の同期化の一時的で早い増大とその後に続くてんかん発作様の活動に特徴的な過同期化の持続的で完全な中断を起こすことを示した。本発明によると、てんかん重積状態の治療はイオン依存性共輸送体アンタゴニストを、好ましくはフロセミドのようなカチオン−塩素共輸送体アンタゴニストを、フロセミドの投与により観察されるニューロン集団活動の一時的で早い増大に関連する症状を治療することができる、バルビツレートのような他の試剤とともに投与することを伴う。
【0028】
発作及び発作性障害、てんかん、片頭痛、皮質拡延性抑制、頭蓋内高血圧、精神神経疾患のため及び神経毒性因子、頭部外傷、卒中、虚血及び低酸素症の病態生理学的な影響を治療しこれらの影響から保護するための方法と治療用組成物は、好ましくは中枢神経系内のイオン勾配の改変によりニューロン集団活動の同期化を改変することを伴う。イオン依存性共輸送体アンタゴニストは好ましい治療用組成物であり、カチオン−塩素共輸送体アンタゴニストは特に好ましい治療用組成物である。前記イオン依存性共輸送体アンタゴニスト治療用組成物が例えばグリア細胞に関しては活性を有するがニューロン細胞に関してはより低い活性を有するか全く活性を有しない場合は、それは単独投与に適する。前記イオン依存性共輸送体アンタゴニスト治療用組成物がニューロンに関して他のタイプの細胞とともに活性を有する場合は、それは通常の抗てんかん薬又は抗けいれん薬のような他の試剤とともに投与されることが好ましい。
【0029】
本発明の別の局面は、末梢神経系のある種の神経繊維における活動電位の伝播又はインパルスの伝導に影響を与え又は改変することによる痛み又は痛みの知覚の緩和のための方法と試剤に関する。より明確には、イオン依存性共輸送体への作用により、末梢神経系の細胞におけるイオン濃度とイオン勾配変化が痛みの知覚又は感覚を減少する。末梢神経系に送達されたイオン依存性共輸送体アンタゴニストと、好ましくはカチオン−塩素共輸送体アンタゴニストが痛みの減少のための好ましい治療用組成物である。
【0030】
さらに別の本発明の局面は、中枢神経系の認知、学習及び記憶中枢の機能を増強するための方法と試剤に関する。ニューロン集団活動の増強された同期化は中枢神経系皮質の認知能力、学習及び記憶機能に関連した中枢での機能を改善する。認知、学習及び記憶機能を増強するための本発明の治療用組成物と方法は、好ましくは同期化とタイミングの同調を増強することにより、ニューロン集団活動の同期化とタイミングを改変することを伴う。1の実施態様によると、同期化の増強は、脳内の細胞外アニオン塩素濃度とイオン勾配を改変できる試剤を投与することにより達成される。イオン依存性共輸送体アゴニストは好ましい治療用試剤であり、カチオン−塩素共輸送体アゴニストは特に好ましい治療用試剤である。イオン依存性共輸送体アゴニスト活性について候補組成物をスクリーニングするための方法も提供される。
【0031】
本発明のスクリーニング方法とシステムは、細胞、組織、細胞下の構成要素及び個体全体を含む生物学的材料の生理状態を評価するための光学的な、あるいは分光学的な技術を用いる。前記生物学的材料はヒト、動物又は植物由来のものであってもよく、いかなるかかる材料由来であってもよい。生理学的なチャレンジ又はテスト用試剤の投与に対する反応として生じる前記生物学的材料の幾何学的構造及び/又は内在性光学的特性の静的及び動的な変化は、前記生物学的材料の生理状態及び健康状態の変化を表示し予言する。
【0032】
(1)直径、体積、立体的な位置関係(conformation)、個々の細胞の細胞内空間又は個々の細胞の周囲の細胞外空間の幾何学的変化と、(2)光散乱、反射、吸収、屈折、回折、複屈折、屈折率、Kerr効果等のような、個々の細胞あるいは細胞集団の1以上の内在性光学的特性の変化という、2つの異なるクラスの動的現象が光学的な検出技術を用いて生きたままの生物学的材料で観察される。両方のクラスの現象とも、コントラスト増強剤の助けを借りてあるいは借りずに、静的又は動的に観察できる。幾何学的な変化は、直接的に個々の細胞の幾何学的な特性を測定する(又は近似値を求める)ことにより、あるいは間接的に細胞の光学的特性の変化を観察することにより評価できる。個々の細胞又は細胞集団の光学的特性の変化は本発明のシステムを用いて直接的に評価できる。
【0033】
個々の細胞又は細胞集団の幾何学的及び/又は内在性光学的特性の観察と解釈は、試験管内と生体内のシステムの両方ともにおいて、固定剤のような生理学的に侵襲する材料を適用することにより試料の特性を変更することなく達成される。生体染色色素のような生理学的に非侵襲的なコントラスト増強剤は所望の応用において光学的検出技術の感度を上げるために用いてもよい。コントラスト増強剤を用いる応用では、光学的検出技術は生物学的材料の外在性光学的特性を評価するのに用いられる。
【0034】
個々の細胞又は試料細胞集団の幾何学的及び/又は内在性光学的特性の検出と解析は、個々の細胞又は試料細胞集団の生理状態の分類を可能にする情報を提供する。試料細胞集団の幾何学的及び/又は光学的特性の解析にもとづいて、前記試料は、生存可能か生存不可能か、アポトーシス状態、壊死状態、増殖中、活動、抑制、同期化又はこれらに類する状態、あるいはさまざまな生理状態のいずれかであって、その全てが明瞭な幾何学的及び/又は光学的プロフィールを生じる状態として分類できる。したがって本発明の方法とシステムは試料集団の生理状態の同定とさまざまな生理状態の鑑別のために提供される。
【0035】
本発明の方法とシステムの重要な応用は、さまざまなテスト用試剤とテスト用条件に曝露することの効果を評価するために細胞集団をスクリーニングすることに関する。さまざまなテスト用試剤と条件の効果は正常及び病理的な試料集団にもとづいて評価できる。安全性及び細胞毒性テストは、試料集団をテスト用試剤又はテスト用条件に曝露すること、該テスト用試剤又はテスト用条件の投与後の1以上の時点で光学的技術を用いて該試料集団の生理状態を評価することにより行われる。かかる試験はテスト用試剤又は条件が所望の標的試料集団にいかなる効果を与えるかを決定するため、そしてテスト用試剤又は条件が該テスト用試剤又は条件の標的でない試料集団に生理的な副作用を起こすかどうかを予測するため、さまざまな試料集団について行われる。
【0036】
好ましい実施態様によると、テスト用試剤又は条件の投与前に生物学的材料に病理的状態がシミュレーションされて、その病的状態又は問題のある(compromized)状態を治療するために前記テスト用試剤又は条件がふさわしいかどうか評価する。細胞外浸透圧又はイオン濃度の変化、酸素又は栄養又は代謝産物の条件の変更、薬剤又は診断用又は治療用試剤、イオン恒常性の乱れ、電気的刺激、炎症、さまざまな因子の感染、放射線被曝等の生理学的なチャレンジに試料集団を曝露することは細胞又は組織レベルで病理的な状態をシミュレーションする。その後に前記試料集団にテスト用試剤又は条件を曝露すること、前記試料集団に幾何学的及び/又は光学的特性の変化を検出し解析することにより、該テスト用試剤又は条件により生じた前記試料集団の生理状態に関する情報が与えられる。スクリーニング技術は、ハイスループット用の自動化されたスクリーニングシステムを用意すべく適当な細胞培養条件下で試験管内で維持された、さまざまなタイプの細胞試料集団に使用するために改変されてもよい。代替策として、スクリーニング技術は、生理学的なチャレンジ及び/又はテスト用試剤の投与が動物モデルでの自然位での(in situ)さまざまな細胞集団に与える効果を評価すべくさまざまな動物モデルを用いて細胞及び組織集団を調べるために改変されてもよい。さらに本発明のスクリーニング技術は、生理学的に非侵襲的であり分光学的技術を用いるため、患者の状態を評価し監視すべく、そして治療用試剤又は治療方式の効能を評価し監視すべく、ヒトの自然位での細胞及び組織集団を調べるために改変されてもよい。
【0037】
個々の細胞又は細胞集団の幾何学的及び/又は光学的特性の変化は、特定の細胞タイプ、細胞密度及びさまざまな生理学的な状態について経験的に決定された基準との関連で決定され、あるいは直接比較するデータを提供するために前記テスト用試料と同時に並べて(in tandem)適当な対照実験を行ってもよい。テスト用試剤又は条件が試料集団に与える効果の時間経過に関係するデータを提供するため、複数の時点でデータが収集され好ましくは記録される。適切な対照実験、さまざまな投与量、活性等をスクリーニングするための複数の試料を含むスクリーニングプロトコールを設計するための戦略は当業者に周知であり、本発明の方法とシステムとともに用いるために改変してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】図1A〜Dは、ラット海馬スライス標本における放電活動後に誘発された刺激に対するフロセミドの効果を示す。
【図2】図2A〜Rは、試験管内のモデルの自発的てんかん様バースト放電のフロセミドによるブロックを示す。
【図3】ウレタン麻酔されたラットにおけるカイニン酸により誘発された電気的な「てんかん重積状態」のフロセミドによるブロックを示し、上のトレースはEKG記録を示し、下のトレースは皮質のEEG記録を示す。
【図4】図4A及びBは、減少した塩素濃度条件下でのイオン共輸送の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本発明の好ましい治療用試剤と方法は、発作その他の中枢神経系の病態生理学的な障害を治療するために、てんかん性焦点のような同期化が亢進した領域でのニューロン集団活動の同期性を改変し又は中断する。以下に詳細に説明され実施例に示されたように、イオン依存性共輸送体、好ましくはカチオン−塩素共輸送体によるイオンの移動とイオン勾配の変動はニューロンの同期化の調節にとって重要である。塩素共輸送体機能は長い間主に塩素を細胞外に移動することを目的とすると考えられてきた。ニューロンに局在することが示されてきたナトリウム非依存性輸送体は塩素イオンをニューロンの外に移動する。ループ利尿薬フロセミドの投与のようなこの輸送体のブロックは、フロセミドのようなカチオン−塩素共輸送体に対する短期的な反応である過興奮を起こす。しかし、フロセミドの長期的な反応は、グリア関連Na、K、2Cl共輸送体を介した塩素イオンの細胞内へのナトリウム依存性移動が、興奮性と刺激喚起性細胞活動とに影響を与えることなくニューロン同期化と発作をブロックするうえで積極的な役割を果たすことを証明する。
【0040】
1の実施態様によると、発作と、発作、発作性障害、てんかん重積状態を含むてんかん、片頭痛、皮質拡延性抑制、頭蓋内高血圧、精神神経疾患、中枢神経系水腫、アルコール曝露により誘導された毒性のような神経毒性、頭部外傷の病態生理学的な影響、卒中、虚血及び低酸素症、その他の中枢神経系内のイオンの平衡失調を原因あるいは結果とする状態又はニューロン集団の同期化した放電のようなある種の皮質の容態との治療のための本発明の組成物と方法は、イオン依存性共輸送体活性を改変する。発作性障害その他の皮質の状態を治療ための本発明の治療用試剤はイオン依存性共輸送体アンタゴニスト、好ましくはカチオン−塩素共輸送体アンタゴニストを含む。好ましい実施態様によると、本発明の試剤と方法はグリア細胞のNa、K、2Cl塩素依存性共輸送体システムに優先的に作用し、ニューロン及び腎臓細胞のような他の細胞タイプの塩素依存性共輸送体システムには弱い活性を有する。
【0041】
別の実施態様では、本発明の材料と方法は片頭痛とその前駆症状である皮質拡延性抑制(CSD)を治療するために用いられる。拡延性抑制の間、間質の酸性化、細胞外カリウム蓄積及びナトリウムと塩素イオンの細胞内コンパートメントへの再分布を含む重大な混乱が発生する。さらに、細胞外液イオン組成の変化及び間質の神経伝達物質と脂肪酸の蓄積に対する恒常性反応として、持続的なグリアの膨張が起こる。本発明の材料と方法は塩素依存性共輸送体を介する塩素イオンの細胞内へのナトリウム依存性移動をブロックすることによりCSDの発生と持続を抑制する。片頭痛と皮質拡延性抑制を治療するための本発明の治療用組成物はカチオン−塩素共輸送体アンタゴニストを含む。好ましい実施態様によると、片頭痛と皮質拡延性抑制を治療ための本発明の試剤と方法はグリア細胞のNa、K、2Cl塩素依存性共輸送体システムに優先的に作用し他の細胞タイプ、特にニューロンと腎臓細胞の塩素依存性共輸送体システムには弱い活性を有する。
【0042】
さらに別の本発明の局面はさまざまな化学的及び生物学的因子といくつかの感染因子による神経毒性の治療に関する。本発明の組成物と方法は急性エタノール摂取の神経変性的効果を減らすうえで特に有効である。さらに、本発明の組成物は例えば急性エタノール摂取による神経毒性の効果から皮質組織を保護するために予防的に投与されてもよい。治療のため又は神経毒性の効果から保護すべく予防的投与のための本発明の治療用組成物はイオン依存性共輸送体アンタゴニスト、好ましくはカチオン−塩素共輸送体アンタゴニストを含む。好ましい実施態様によると、片頭痛と皮質拡延性抑制を治療するための本発明の試剤と方法は、グリア細胞のNa、K、2Cl塩素依存性共輸送体システムに優先的に作用し、他の細胞タイプ、特にニューロンと腎臓細胞の塩素依存性共輸送体システムには弱い活性を有する。
【0043】
さらに別の実施態様によると、本発明の組成物と方法は痛みの知覚と感覚を軽減するために用いることもできる。この実施態様において、本発明の組成物と方法は末梢神経系の無髄性繊維の活動電位の伝播を改変し、これにより痛みの知覚と感覚を軽減する。痛みを治療し又は痛みから保護するために予防的に投与するための本発明の試剤は、末梢神経系において細胞外イオン濃度及び/又はイオン勾配を改変するイオン依存性塩素共輸送体アンタゴニストを含み、好ましくはカチオン−塩素共輸送体アンタゴニストを含む。好ましい実施態様によると、痛みを治療する本発明の組成物は優先的にグリア細胞又はシュワン細胞のカチオン−塩素共輸送体システムに優先的に作用し、ニューロンと腎臓細胞のような他の細胞タイプの塩素依存性共輸送体システムには弱い活性を有する。
【0044】
さらにべつの実施態様では、本発明の材料と方法は認知、学習及び記憶のようなある種の皮質機能を増強するための用いることもできる。この応用のためには、本発明の組成物と方法はニューロン集団活動の同期化を中断するというよりもむしろ改変し増強する。認知、学習及び記憶のような皮質機能を増強するための本発明の組成物はイオン依存性共輸送体アゴニスト、好ましくはカチオン−塩素共輸送体アンタゴニストを含む。
【0045】
本発明の組成物はヒト及び獣医学的応用に適しており、薬事的な組成物として送達されることが好ましい。薬事的な組成物は1以上の治療用試剤と生理学的に容認できる担体を含む。本発明の薬事的な組成物は生物学的に活性又は不活性な他の組成物をも含んでもよい。例えば、塩素共輸送体アゴニスト又はアンタゴニストのクラスからの1以上の組成物が別の試剤との併用治療として組み合わせることもでき、本発明の治療方式に従って投与できる。かかる併用は分離した組成物として投与してもよく、相補的な送達システムで送達するために組み合わされてもよく、あるいは混合物又は融合化合物のように組合せられた組成物として処方通り調製され(formulated)てもよい。
【0046】
当業者に周知のいかなる適当な担体でも本発明の薬事的な組成物に用いることができるが、好ましい担体は好ましい投与モードに依存する。本発明の組成物は、例えば局部的、口、鼻、直腸、静脈内、頭蓋内、腰椎穿刺、腹腔内、経皮的、皮下又は筋肉内投与を含む、いかなる適当な投与モード用の処方に合わせてでも調製できる。皮下注射のような非経口的投与用には、担体は水、生理食塩水、グリセリン、プロピレングリコール、アルコール、脂肪、ロウ及び/又は緩衝液を含むのが好ましい。経口投与用には、上記のいずれかの担体又はマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ラクトース、クエン酸ナトリウム、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、ケイ酸塩、ポリエチレングリコール、サッカリンナトリウム、タルク、セルロース、グルコース、スクロース、色素及び炭酸マグネシウムのような固体の担体が用いられる。直腸投与用には、水性ゲル剤又は他の当業者に周知の適当な処方(formulation)を投与できる。固体の組成物も軟らかい及び堅い充填されたゼラチンカプセルの充填剤として用いることができる。これに好ましい材料は、ラクトース又は乳糖(mild sugar)及び高分子量ポリエチレングリコールを含む。水溶液又はエリキシルが経口投与用に望ましいときは、本質的な活性成分はさまざまな甘味料又は香料、着色剤又は色素、そして所望なら、乳状化剤又は沈殿防止剤を、水、エタノール、プロピレングリコール、グリセリン及びこれらの組合せのような希釈液とともに併用することができる。
【0047】
治療用組成物の全身への分布を減らす局部的脳内投与は浸透圧ポンプのような機械化された送達システムにより灌流することによりあるいは脳内の限局された領域に一定の時間経過にわたり治療用組成物の制御された拡散を提供するために非反応性の担体に取り込まれた治療用組成物の一投与量を埋め込むことにより提供される。他のタイプの長期間にわたって放出する(time release)処方も要件を満たす。さらに、注射、浸透圧ポンプ又はその他の手段による脳脊髄液への直接投与もある種の応用には好ましい。
【0048】
ここに説明した組成物は持続的放出処方の一部として投与できる。一般的にはかかる処方は周知の技術を用いて調製され、例えば経口、直腸、経皮送達システム又は処方又は治療装置の1以上の所望の標的部位への埋め込みにより投与される。持続放出処方は、イオン依存性共輸送体アゴニスト又はアンタゴニストを単独で含むか第2の治療用試剤と組み合わせて含み、担体マトリクスに分散され及び/又は放出速度制御膜に囲まれた貯蔵庫に収容された、治療用組成物を含むものであってもよい。かかる処方とともに用いられる担体は生物適合性を有し生分解性もあるものでもよい。1の実施態様によると、前記持続的放出処方は活性組成物の放出が比較的一定レベルに保たれる。別の実施態様によると、前記持続的放出処方は、例えばある種の症状の立ち上がりと同時に、治療用組成物の前もって決められた投与量を送達するために、患者本人又は医療関係者によって作動させることができる装置に収容されている。持続的放出処方に収容された治療用組成物の量は埋め込まれた部位、放出速度と予想持続時間及び治療又は防止される状態の性質に依存する。
【0049】
発作、発作性障害、てんかん、てんかん重積状態、片頭痛、拡延性抑制、その他のニューロン集団活動の同期化により特徴づけられる容態と、頭蓋内高血圧、中枢神経系水腫、神経毒性等の皮質障害又は容態の治療のための本発明の組成物は、中枢神経系に前記治療用組成物が送達されるのを促進する処方と投与経路を用いて投与されるのが好ましい。イオン依存性共輸送体アンタゴニスト、好ましくはカチオン−塩素共輸送体アンタゴニストのような治療用組成物は血液脳関門の通過を促進するように処方され、あるいは血液脳関門を通過する試剤とともに共投与(co−administer)されるのがよい。治療用組成物は、血液脳関門を通過する例えばリポソーム処方で送達されてもよく、あるいは血液脳関門を通過する例えばブラジキニン、ブラジキニン類似体又は誘導体、又はSERAPORTのような他の化合物のような他の化合物とともに共投与されてもよい。代替策として、本発明の治療用組成物は循環する脳脊髄液中に直接前記治療用組成物を入れる脊髄穿刺を用いて送達されてもよい。慢性てんかんと、エピソード的発作と、拡延性抑制及び片頭痛のエピソードの間のようないくつかの治療状態については、血液脳関門の一時的又は永続的な破壊があるかもしれないので、前記治療用組成物が血液脳関門を通過するための特別な処方を不要である。
【0050】
ここに開示された治療用組成物の投与の経路と頻度は、投与量とともに、適応症により、個人個人で異なり、標準的な技術を用いて容易に確定できる。一般的には、適切な投与量と治療方式は治療及び/又は予防療法の便益を生じるために十分な量の活性の組成物を提供する。投与量と治療方式は治療を受けていない患者と比較した治療を受けた患者の臨床的な転帰の改善を監視することにより確立できる。適切な投与量は上記の通り投与されたときに患者に治療の反応が見られる組成物の量をいう。治療上有効な投与量と治療方式は治療を受ける患者の容態、状態の重篤度及び一般状態に依存する。本発明の治療用組成物の薬物動力学及び薬力学は患者によって異なるため、ある患者について治療上有効な投与量を決定するための好ましい方法は徐々に投与量を上げていき臨床的及び検査結果の兆候を監視することである。急性のエピソード的な状態、慢性状態又は予防法の治療のための適切な投与量と治療方式は前記患者の状態に適合させるため必然的に違ってくる。
【0051】
代表的な治療方式においては、本発明の薬事的製剤は、単独で又は任意的に第2の試剤との併用で投与される。発作とてんかんのような発作関連障害の併用治療においては、イオン依存性共輸送体アンタゴニスト、好ましくはカチオン−塩素共輸送体アンタゴニストを含む本発明の治療用組成物は1以上の抗けいれん薬又は抗てんかん薬との併用で中枢神経系に前記治療用組成物を送達する送達システムを用いて投与される。しばしば前記第2の試剤の投与量は、前記イオン依存性共輸送体アンタゴニストの神経生理学的な活性の結果として、標準的な投与量以下となることがある。イオン依存性アンタゴニストを含む対象組成物と併用される第2の試剤の例示は、フェニトイン、カルバマゼピン、バルビツレート、フェノバルビタール、ペントバルビタール(pentbarbital)、メフォバルビタール(mephobarbital)、トリメタジオン(trimethadione)、メフェニトイン(mephenytoin)、パラメタジオン(paramethadione)、フェンテニレート(phenthenylate)、フェナセミド、メタルビタール(metharbital)、ベンズクロロプロパンミド(benzchlorpropanmide)、フェンスクシミド(phensuximide)、プリミドン(primidone)、メトスクシミド(methsuximide)、エトトイン(ethotoin)、アミノグルテチミド(aminoglutethimide)、ジアゼパム(diazepam)、クロナゼパム(clonazepam)、クロラゼパート(clorazepate)、フォスフェニトイン(fosphenytoin)、エトスクシミド(ethosuximide)、バルポレート(valporate)、フェルバマート(felbamate)、ガバペンチン(gabapentin)、ラモトリジン(lamotrigine)、トピラマート(topiramate)、ビグラバトリン(vigrabatrin)、チアガビン(tiagabine)、ゾニサミド(zonisamide)、クロバザム(clobazam)、チオペンタール(thiopental)、ミダゾプラム(midazoplam)、プロポフォール(propofol)、レベチラセタム(levetiracetam)、オキシカルバゼピン(oxcarbazepine)、CCPエン(CCPene)、GYK152466及びスマトリプタンを含む。容易に理解できる通り、上記の化合物は適する併用治療の例に過ぎず、他の化合物又は同様のクラスの化合物も適する。
【0052】
てんかん重積状態を治療するための1の好ましい実施態様において、イオン依存性共輸送体アンタゴニスト活性、好ましくはフロセミド又は他のループ利尿薬のようなカチオン−塩素共輸送体活性を有する本発明の治療用組成物はバルビツレートのような伝統的な抗発作薬と併用して投与される。この治療方式では、バルビツレート又は他の抗発作薬は、ニューロン集団活動の過興奮を減衰させ、発作の症状を治療するためにシナプス的機序で作用する。イオン依存性共輸送体アンタゴニストは、発作活動の領域でのニューロン集団活動の過同期化を減衰するために非シナプス的機序で作用する。この治療用組成物の組合せは緊急事態ごとにてんかん重積状態の治療のために投与でき、中枢神経系に治療用組成物を送達するさまざまな送達技術を用いて投与できる。したがって、本発明は1以上のイオン依存性共輸送体アンタゴニスト、好ましくは1以上のカチオン−塩素共輸送体アンタゴニストを、例えばフェニトイン、カルバマゼピン、バルビツレート、フェノバルビタール、ペントバルビタール、メフォバルビタール、トリメタジオン、メフェニトイン、パラメタジオン、フェンテニレート、フェナセミド、メタルビタール、ベンズクロロプロパンミド、フェンスクシミド、プリミドン、メトスクシミド、エトトイン、アミノグルテチミド、ジアゼパム、クロナゼパム、クロラゼパート、フォスフェニトイン、エトスクシミド、バルポレート、フェルバマート、ガバペンチン、ラモトリジン、トピラマート、ビグラバトリン、チアガビン、ゾニサミド、クロバザム、チオペンタール、ミダゾプラム、プロポフォール、レベチラセタム、オキシカルバゼピン、CCPエン(CCPene)、GYK152466及びスマトリプタンのうち1つから選択された1以上の伝統的な抗発作薬と併用して投与することを伴う治療方式を意図する。本発明は1以上の塩素共輸送体アンタゴニストを1以上の抗けいれん薬又は抗発作薬とともに含む組合せも意図する。1の実施態様によると、前記組合せは2時間以下の期間過興奮を減らすのに十分な前もって選択された投与量の1以上の抗けいれん薬又は抗発作薬を、2時間以上の期間ニューロン集団活動の過同期化を減らすのに十分な前もって選択された投与量の1以上のアニオン依存性共輸送体アンタゴニストとともに含む。
【0053】
好ましい実施態様によると、本発明は前もって選択された投与量のフロセミド又は他のイオン依存性共輸送体アンタゴニストとバルビツレートとの組合せを有する容器を意図する。「容器」という用語は、その中に前もって選択された投与量の本発明の併用試剤を格納した、小箱(packet)、瓶(jar)、薬瓶(vial)、ボトル(bottle)及びその他の固体又は微粒子送達システムにおける治療用組成物のための容器を、注射器及びその他の袋(bag)、薬瓶、ボトル等のような液体格納手段とともに意図する。前記組合せは、組合せの各々の組成物が別々に包装され投与されるか、あるいは組成物が同時に投与するための混合剤として包装され投与されてもよい。本発明は前もって選択された投与量のイオン依存性共輸送体アンタゴニストと抗けいれん薬又は抗てんかん薬との組合せを有する1以上の容器を設置した、病院、診療所、移動式ユニット(mobile unit)等の救命用又は外科用スイート(suite)も意図する。
【0054】
片頭痛と皮質拡延性抑制の治療のための本発明の治療用組成物は、任意的に1以上の他の治療用組成物と組み合わせた、イオン依存性共輸送体アンタゴニスト、好ましくはカチオン−塩素共輸送体アンタゴニストを含む。前記イオン依存性共輸送体アンタゴニストは他の治療方式と一緒に又は関連してか、例えば違う時間に又は違う送達技術を使って別々にかのいずれかで、投与されてもよい。イオン依存性共輸送体アンタゴニストの投与と併用されるときは、しばしば片頭痛又は拡延性抑制の通常の治療用組成物の投与量は標準的な投与量以下に減らされる。したがって本発明は、例えば、エルゴタミン、ジヒドロエルゴタミン、スマトリプタン、プロプラノロール、(metoprolol)、アテノロール(atenolol)、チモロール(timolol)、ナドロール(nadolol)、ニフェジピン(nifeddipine)、ニモジピン(nimodipine)ベラパミル、(verapamil)、アスピリン(aspirin)、ケトプロフェン(ketoprofen)、トフェナム酸(tofenamic acid)、(mefenamic acid)、ナプロキセン(naproxen)、メチセルギド(methysergide)、パラセタモール(paracetamol)、クロニジン(clonidine)、リスリド(lisuride)、イプラゾクロム(iprazochrome)、ブタルビタール(butalbital)、ベンゾジアゼピン(benzodiazepines)及びジバルルロエックスナトリウム(divalproex sodium)のうちの1つのセロトニン受容体アゴニストから選択された1以上の伝統的な片頭痛又は拡延性抑制の薬とともに1以上のイオン依存性共輸送体アンタゴニストを併用する投与を伴う治療方式を意図する。容易に理解できる通り、以上の化合物は適する併用治療の例に過ぎず、他の化合物又は同様のクラスの化合物は等しく適する。
【0055】
頭蓋内高血圧、神経精神性疾患、中枢神経系水腫の治療のためと、エタノール、感染因子等のような神経毒性因子への曝露の結果起こる神経毒性を治療し又は神経毒性から保護するための、本発明の治療用組成物はイオン依存性共輸送体アンタゴニストを含む。前記治療用組成物は、任意的に1以上の他の治療用組成物と併用して投与されてもよい。イオン依存性共輸送体アンタゴニスト組成物の中枢神経系への送達を提供する送達システムが好ましい。
【0056】
痛みを減らすための本発明の治療用組成物は、1以上の他の治療用組成物と任意的に併用したイオン依存性共輸送体アンタゴニスト、好ましくはカチオン−塩素共輸送体アンタゴニストを含む。かかる治療用組成物は、血液脳関門を通過する能力がなく、末梢神経系のみに循環することが好ましい。前記イオン依存性共輸送体アンタゴニスト組成物の末梢神経系への送達を提供する送達システムが好ましい。
【0057】
認知、学習及び記憶中枢のような領域での皮質機能を増強するための本発明の治療用組成物は、1以上の他の治療用組成物と任意的に併用したイオン依存性共輸送体アゴニスト、好ましくはカチオン−塩素共輸送体アゴニストを含む。適する送達システムは、優先的には中枢神経系への、より優先的には認知、学習及び/又は記憶の局在した皮質中枢への、前記イオン依存性共輸送体アゴニスト治療用組成物の送達を提供する。
【0058】
本発明の方法とシステムは、さまざまな障害と状態の診断と治療のための候補化合物と治療方式を評価するためにも用いられる。所望のイオン依存性共輸送体アゴニスト又はアンタゴニスト活性を有する可能性のある候補化合物を生成するためのさまざまな技術が用いられる。候補化合物は、フロセミド、ブメタニド、エタクリン酸等と関連化合物を含むループ利尿薬のような既知のイオン依存性共輸送体アンタゴニストから出発して、所望の活性と特異性を与えることが期待されるやり方でこれらの化合物を改変する周知のコンビナトリアルケミストリー又は分子モデリング技術を用いて生成できる。同様に候補となる塩素共輸送体アゴニスト化合物は、既知のイオン依存性共輸送体アゴニストと関連化合物から出発してこれらの化合物を所望の活性と特異性を与えるようなやり方で改変する周知のコンビナトリアルケミストリー又は分子モデリング技術を用いて生成できる。所望の活性について候補化合物をスクリーニングするための方法は以下に説明する。
【0059】
1の実施態様によると、本発明の方法とシステムは、個々の細胞又は細胞試料の1以上の寸法についての特性を表すデータを取得し比較する。光学的特性に関するデータの取得、処理及び解析のための技術は既知であり、例えば米国特許明細書第5,438,989号、第5,465,718号、第5,845,639号、第5,699,798号、第5,902,732号及び第5,976,825号に説明されており、これらのそれぞれはここにその全体が引用により取り込まれている。個々の細胞の寸法についての特性に関するデータの取得は以下に説明する。寸法についての特性に関するデータの取得と解析は光学的特性に関して説明されたものと同一又は類似の方法及び装置を用いて達成できる。
【0060】
細胞密度の低い細胞試料においては、細胞面積は単一焦点面を用いて近似できる。体積を計算したいときは、z軸(焦点)も自動的に調整できる。例えば、自動化され制御されたステージが移動するにつれて、各々の画像が前もって決定された焦点面で取得されて、複数の空間的に分析された関心のある面積についての一連のデータセットが取得できるように、試料集団が入った光学的に透明な容器は位置決めされる。それぞれのz平面の体積は近似され(以下のアルゴリズムを参照せよ)、各z座標についての体積が加算される。
【0061】
Doughty、S.による“回転固体の解析学的特性(Calculating property for solids of revolution)”、Machine Design、1981年12月10日、184−186頁にもとづく細胞面積と体積を近似するための一般的な技術が以下に説明されている。これらの技術はグリーンの定理にもとづく。
【0062】
【数1】







【0063】
個々の細胞は適当な拡大装置を用いて調べられる。細胞境界のエッジ検出は例えばソーベルオペレータを用いて達成された。前記境界は「n」個の線分の複数の線分に「n」個の節で内接することにより近似させる。境界の積分は以下の通り「n」個の線積分として見られる。
【0064】
【数2】





【0065】
3つの場合がある。
第1の場合: 垂直線、x=一定
第2の場合: 水平線、y=一定
第3の場合: 斜線、y=5(x−x)+y
面積はしたがって、
【0066】
【数3】




【0067】
グリーンの定理を適用するために、積分はδQ/δx−δP/δyの形式で考慮され、適切な関数、例えばP(x,y)とQ(x,y)が与えられる。面積積分については、Q(x,y)=0であれば∫Qdy=0、P=−yとすると、δP/δy=−1となる。すると、面積は以下の通り計算できる。
【0068】
【数4】

【0069】
体積計算のためには、例えばソーベルオペレータを用いる通常のエッジ検出が、複数(n個)の個々の平面切片に分割される個々の細胞を通して焦点を当てるのに用いることができる。前記「n」個の切片のそれぞれの体積はΔV;=Δz; ・ ΔA;と計算され、細胞全体の体積はV=ΣΔVと近似できる。細胞面積と体積の決定と比較はコンピュータハードウェア及び/又はソフトウェアの実行により達成されるのが好ましい。
【0070】
別の実施態様によると、本発明の方法とシステムは細胞試料集団における個々の細胞又は関心のある領域の1以上の光学的特性を表すデータを取得し比較する。生理活性を表示し検出できる光学的特性の変化は、例えば反射、屈折、回折、吸収、散乱、複屈折、屈折率、Kerr効果等を含む。光学的特性の変化は光子感受性素子と、任意的には検出された光学的特性を増強する光学素子とを用いて直接的に検出される。
【0071】
ここに引用により取り込まれた米国特許明細書に明示された通り、本発明の方法と装置によると、生理活性を表示する動的な幾何学的及び光学的特性の高解像度検出は色素又はその他のタイプのコントラスト増強剤を用いないで達成できる。本発明の評価技術と装置の多くは、幾何学的及び/又は内在性光学的情報の検出と解析が、色素、油、装置等のいかなる因子とも関心のある領域が直接接触することを要しないという点で、生理学的に非侵襲的である。しかし、特定の応用にとっては、生理活性と関連して検出される光学的特性の相違を増幅するコントラスト増強剤を、その後のデータ取得と比較の前に投与することは有用であるかもしれない。コントラスト増強剤の使用は、ここに引用によりその全体を取り込まれた米国特許明細書第5,465,718号及び第5,438,989号に腫瘍及び非腫瘍組織の光学的画像化に関して詳細に説明されている。適当なコントラスト増強剤は蛍光及び燐光物質、細胞膜に結合する色素、血液又は細胞間空間に優先的に蓄積する光学プローブ、相共鳴色素対(phase resonance dye pairs)等を含む。かかるコントラスト増強剤とともに用いるために適切な検出器は当業者に周知である。
【0072】
培養下の細胞試料集団あるいは動物モデル又はヒト被検材料の自然位での関心のある領域の1以上の幾何学的及び/又は光学的特性を表すデータを取得し、処理し及び表示するための数多くの装置が用いられる。1の好ましい装置は、生理活性又は機能不全を示す幾何学的及び/又は光学的特性の変化の領域を同定するために比較できる前もって決定された時間間隔で、1以上の関心のある領域の画像を取得するカメラである。前記データ取得装置は顕微鏡のように関心のある領域を拡大する装置を取り込むか、かかる装置と接続して使用することが好ましい。個々の細胞が識別できる解像度を提供するのに十分な倍率が好ましい。ニコンDiophot300のような倒立顕微鏡が適している。
【0073】
培養条件下で維持された細胞試料集団を用いるハイスループットスクリーニング技術のためには、フラスコ、プレート、マルチウェルプレートのような光学的に透明な容器に入った試料は、プログラム化されたスケジュールに従って個々の細胞又は細胞集団の定期的検査を可能にするために、プログラム化された手法で制御され移動される自動化されたステージの上に置かれる。例えば、複数の細胞試料を有するマルチウェルプレートは自動化され制御可能な顕微鏡ステージに置かれる。該ステージは、自動的に各々の培養ウェルの位置に移動するように、自動化されたマイクロコントローラーにより制御される。個々の細胞又は細胞集団の幾何学的及び/又は光学的特性に関するデータセットはそれぞれのポジションごとに取得される。このようにして、システムは迅速かつ系統的に多くの試料に関するデータを取得できる。選択されたウェルの生理環境は、生理学的なチャレンジ、試験因子又は試験条件に曝露することにより変更でき、システムはそれぞれの培養プレートの同じウェルからのデータを処理後前もって決定された時間間隔で自動的に取得でき、さまざまな処理を施されたウェルから取得されたデータはさまざまな対照実験ウェルから取得されたデータ又は経験的に決定された対照と比較される。
【0074】
1以上の幾何学的及び/又は光学的特性を表すデータの取得は、特定の空間的な場所に関する幾何学的又は光学的データが比較のためさまざまな時間間隔で取得されるように、高い空間分解能も提供することが好ましい。このやり方では、単一細胞又は細胞試料集団の中の関心のある非常に限局された領域から取得されたデータは、前記試料集団の生理状態又は条件に関する信頼でき非常に感度の高い情報を提供するために比較される。高い空間分解能は、例えば高解像度カメラと電荷結合デバイス(CCDs)を使用することにより提供される。かかる画像を得るために適した装置はここに引用により取り込まれた前記特許に説明されている。
【0075】
さまざまなデータ処理技術は、本発明の通りに収集されたデータを評価するために都合良く利用できる。比較用データはさまざまな形式で評価又は提示されてもよい。処理は、対照用の、逐次的な、そしてさまざまな比較用のデータセットを作成するために複数のデータセットを平均化すること、あるいはその逆に、組み合わせることを含む。データは、処理のためアナログからデジタル形式に変換され、画像として表示するためのアナログ形式に再変換されてもよい。代替策としては、データは取得され、処理され、解析され、そしてデジタル形式で出力されてもよい。
【0076】
データ処理は、データセット比較において見られるコントラストを増強するため、及び幾何学的及び/又は光学的特性の変化が進行する細胞又は細胞集団を高度の空間分解能で同定するためのある種の信号又はデータセット(例えば画像の領域)の増幅をも含む。例えば、1の実施態様によると、画像はより広いダイナミックレンジをカバーするように画像のピクセルの明度の値が再度マッピングされる変換を用いて処理される。ある「低い」値が選択されてゼロにマップされ、その低い値以下の全てのピクセル明度値はゼロに設定され、ある「高い」値が選択されて選択された値にマップされ、その高い値以上の全てのピクセル明度値はその高い値にマップされる。ニューロン活動を示す明度の動的な変動を表す中間の明度値を有するピクセルは直線的又は対数曲線的に増加する明度値にマップされる。このタイプの処理操作はしばしば「ヒストグラム伸縮」と呼ばれ、ニューロン活動の変動を表す画像のようなデータセットのコントラストを増強するために本発明の通り用いられる。
【0077】
データ処理技術はより正確な組み合わされた及び比較のデータを用意すべくデータセットを操作するためにも用いられる。例えば、生体内での応用については、動作、呼吸、心拍、発作又は反射活動がデータ取得中に関心のある領域の位置を変えることがある。正確な組合せで比較されたデータを提供するためにはデータセットにおける対応するデータポイントが空間的に分析されて正確に並べられることが重要である。光学的マーカーは、データセットを手作業で並べるか又は数学的に操作するのを補助するために、関心のある領域に固定されてそのデータが収集されるときに検出される。さまざまな処理技術は以下及び引用によりここに取り込まれた特許に説明される。
【0078】
比較データはさまざまな方法で表示される。比較用データは、例えば生理学的な変化を示す幾何学的又は光学的特性を強調するグラフ形式で表示されてもよい。比較用データを提示し表示するための好ましい技術は、空間的な分解能のある関心のある領域に対応する視覚的な画像又は写真のフレームの形式のものである。この形式は解析される細胞集団の(2ないし3次元の)視覚化可能な空間的な位置を提供する。生理活性又は機能不全をあらわす幾何学的及び/又は光学的特性の変化を示すコントラストの高い領域のより良い視覚化を増強し提供するために、比較用データは処理されてコントラストの増強されたグレースケール又はカラーの画像を提供する。例えばそれぞれのピクセルのグレースケールの値を異なる(よりコントラストの高い)グレースケール値又はカラー値に変換する参照表(look up table、LUT)が用意される。カラー値はグレースケール値の範囲にマップされ又はカラーが幾何学的又は光学的な陽性への変化と陰性への変化との間を区別するために用いられる。一般に、カラー変換された画像は生理活性、機能又は機能不全を表す光学的特性の変化を強調するコントラストのより高い画像を提供する。
【0079】
本発明のシステムは生物学的材料を照らすための光源と、該生物学的材料の幾何学的又は光学的特性に関するデータを取得するための光学的検出器と、該生物学的材料の幾何学的又は光学的特性に関するデータを記録しさまざまなデータセット及び/又は対照実験のデータプロフィールを比較して試料集団の生理状態の変化を表す幾何学的及び/又は光学的特性の変化に関する比較用データを作成し有用な形式で出力データを提供又は表示するためのデータ記録解析出力装置とを含むのが一般的である。
【0080】
関心のある領域の細胞又は組織の1以上の寸法の又は内在性光学的特性を表すデータの取得の間に関心のある領域を照らすためにemr光源が用いられる。emr光源は、光学的に透明な容器に維持された試験管内の細胞培養に照明を当てるとき又は外科手術と関係ある場合のように組織が露出しているときのように関心のある領域に直接照明を当てるのに用いることができ、あるいは骨、硬膜、皮膚、筋肉等のような隣接し又は被覆した組織を通して間接的に関心のある領域に照明を当てるのに用いることができる。本発明に用いるemr光源は、高照度の光源でも低照度の光源でもよく、連続照明を提供するものでも不連続照明を提供するものでもよい。適切な光源は、高照度の光源、スペクトルが広い光源、無色度の(non−chromatic)光源、タングステン−ハロゲンランプ、レーザー、発光ダイオード等を含む。選択された波長以上又は以下の全ての波長を選択的に透過させるためのカットオフフィルターを用いてもよい。好ましいカットオフフィルターは約695nm以下の全ての波長を除外する。
【0081】
内在性光学信号に関するデータを取得するためのemr波長は、例えば約450nmから約2500nmを含むのが好ましく、約700nmから約2500nmの近赤外スペクトルの波長が最も好ましい。より長波長(例えば約800nm)が、細胞又は組織の下にあるあるいは皮膚、骨、硬膜等のような他の材料の下にある細胞又は組織の状態を検出するために用いられることが一般的である。皮質活動。選択されたemrの波長は例えばさまざまなタイプのコントラスト増強剤が投与されたときにも用いることができる。前記emr光源はいかなる適当な手段で関心のある領域を照射してもよい。一部の応用では、光ファイバーの利用が好ましい。1の好ましい配置は直流制御された電源(Lambda、Inc社)で制御されたビーム分割器を用いて光ファイバーの撚り糸を通してemr光源を提供する。
【0082】
本発明の光学的検出方法には非連続的な照明及び検出の技術も有用である。例えば、短パルス(時間領域)、パルスドタイム及び振幅変調(周波数領域)光源が適当な検出器とともに用いられることもある(Yodh、 A.とChance、 B.、Physics Today、1995年3月参照)。周波数領域光源は、それぞれの素子は隣の素子に対して180°位相がずれて変調されたレーザーダイオードのような複数の光源素子のアレイを含むのが典型的である(Chance、 B.ら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、90:3423−3427、1993参照)。直交する2つの平面の4個以上の素子を含む2次元アレイは2次元の局在情報を得るために用いることができる。かかる技術は引用によりここにその全体を取り込んだ米国特許明細書第4,972,331号と第5,187,672号に説明される。
【0083】
飛行時間と吸収の技術(Benaron、 D.A.とStevenson、 D.K.、Science259:1463−1466、1993)も本発明に有用に利用できる。さらに別の本発明の実施態様では、スキャニングレーザービームが光増幅管のような適当な検出器とともに好ましくは関心のある領域の形態の高解像度のデータ画像を得るために用いられる。
【0084】
赤外スペクトルの一部による照明は、関心のある領域に隣接し又は被覆する硬膜と頭蓋骨のような組織を通した、内在性光学的信号の検出を可能にする。関心のある領域を被覆し又は隣接する組織を通して内在的な光学的信号を検出するのに適した1の例示的な赤外emr光源はフロリダ州OrlandoのLaser Photonics社からのTunable IR Diode Laserである。遠赤外波長のこの範囲を用いるときは光学的検出器は赤外(IR)検出器として提供されることが好ましい。IR検出器はヒ化インジウム、ゲルマニウム及び水銀テルル化カドミウムのような材料から構築され、赤外放射の小さな変化に対する感受性を増強するために一般的には低温に冷却される。本発明に有用に利用できるIR検出システムの1つの例はIRC−64赤外カメラ(Cincinnati Electronics社、オハイオ州Mason)である。
【0085】
関心のある領域は、以下に説明する通り、信号をダイナミックレンジの全域にわたるように調整するために均一に照明されることが好ましい。照明の不均一さは光源のゆらぎと組織表面の3次元的性質からくる照度の変化が原因であることが一般的である。関心のある領域へのより均一な照明は、例えば拡散照明すること、光学的検出器及び/又はemr光源の前に波長カットオフフィルターをマウントすることあるいはこれらの組合せを用いることにより提供できる。光源自体のゆらぎは光源の電源を調節するための光フィードバック機構により防止するのが好ましい。さらに、より平らな外形の表面を検出するために無菌で光学的に透明な板を関心のある領域に接触して覆うこともできる。照明のゆらぎは、関心のある領域に対照ポイントとして一定の陰影の灰色の画像マーカーポイントを置くことを含む検出処理アルゴリズムを用いて補正できる。
【0086】
前記システムは、関心のある領域の1以上の光学的特性を表す信号を取得するための光学的検出器も含む。いかなる光子検出器でも光学的検出器として用いることができる。適切な光学的検出器は例えばフォトダイオード、光電子増倍管、CCD装置に提供されるような光子感受性シリコン検出器チップ等を含む。複数のemr光源及び/又は複数の光子検出器が提供されてもよく、いかなる適当な配置で並べられてもよい。選択された光学的特性を検出するための特別な検出器が用いられてもよい。アナログビデオ信号の形式でデータを取得するための1の好ましい光学的検出器は、例えば標準的なRS170規格を用いるフレームあたり512本の走査線を有する出力ビデオ信号を30Hzで作成するCCDビデオカメラである。1の適当な装置はCCD−72ソリッドステートカメラ(Dage−MTI Inc.、インディアナ州、Michigan City)である。別の適当な装置は、COHU 6500電子制御ボックス付きCOHU6510 CCDモノクロカメラ(COHU Electronicsカリフォルニア州、San Diego)である。一部のカメラでは、前記アナログ信号はADI基板(アナログからデジタルへの変換)上で8ビットデジタル信号に変換される。前記CCDは、必要な場合には熱雑音を減らすために冷却される。
【0087】
データ処理は、本発明の光学的な検出と解析の技術とシステムの重要な特徴である。使用に際して、例えばCCD装置は、装置の感度を最大化するために、(アナログ信号のレベルでデジタル化前に)前記信号を増幅し、該信号を可能な全ダイナミックレンジに拡散する(spread)ように調節されることが好ましい。全ダイナミックレンジにわたる感度で光学的信号を検出する具体的な方法は、ここに引用により取り込まれた特許に詳細に説明されている。差分フレームのヒストグラム伸縮を実行するための手段(例えば、ヒストグラム/フィーチャーエキストラクターHF 151-1-Vモデュール、Imaging Technology、マサチューセッツ州、Woburn)が、例えば、それぞれの差分画像をそのダイナミックレンジにわてって増強するために提供される。例示的な線形ヒストグラム伸縮はGreen、「デジタル画像処理:系統的アプローチ(Digital Image Processing: A Systems Approach)」Van Nostrand Reinhold社、New York、1983年に説明されている。ヒストグラム伸縮は、最も明るいピクセル又は比較画像中の最高値のピクセルをとって、それを最大値に割り当てる。最低のピクセル値は最小値に割り当てられ、その間の他の全ての値は最大値と最小値の間の線形の値(線形ヒストグラム伸縮の場合)又は対数の値(対数ヒストグラム伸縮の場合)を割り当てられる。これは比較画像が全ダイナミックレンジを利用してニューロン活動又は不活動の領域を明確に同定するコントラストの高い画像を提供することを可能にする。
【0088】
(交流電灯線からの60Hzのような)雑音は、アナログフィルターにより制御ボックス内で除去される。追加的な調整が、CCD検出器からのアナログ信号をさらに増強し、増幅し及び条件付ける。入力アナログ信号を調整するための1つの手段は、ビデオ速度(30Hz)でこの信号をデジタル化し、その後アナログ形式に再変換されるデジタル化画像として関心のある領域を視覚化することである。
【0089】
特定の関心のある領域に対応する逐次的なデータセットのようなデータは、同一の空間的に分析された場所に対応するデータが比較されるように、並べられることが重要である。データセットが比較の前に誤って並べられた場合には、アーチファクトが導入され、結果として生じる比較用データセットは雑音及びエッジ情報を増幅することがある。データを誤って並べることは試料の運動又は動作、心拍、呼吸等によって起こる。解析される関心のある領域の細胞の大きな運動は、前記検出器の新たな方向定位を必要とする。関心のある領域の細胞の小さな運動を、機械的又はコンピュータによる手段あるいはその両方の組合せによって補正することは可能である。
【0090】
リアルタイムの動作の補正と幾何学的な変換も対応するデータを並べるために用いられる。データの単純な機械的翻訳又はより複雑な(そして一般的にはより正確な)幾何学的変換技術は、入力データの収集の速度と量及びデータ処理のタイプに依存して実施される。多くのタイプの画像データについては、x−y平面の翻訳により画像を変換する幾何学的な補正により補正可能である。これを可能にするようなアルゴリズムのためには、コンピューターとして効率的で(整数演算が実行可能であることが好ましい)、記憶効率が良く、そして周囲の光の変化に対して強い(robust)ものでなければならない。
【0091】
例えば、機能的な対照点又は数が関心のある領域に位置づけられ、三角法タイプのアルゴリズムがこれらの対照点の運動を補正するのに用いられる。Goshtasby(「画像の位置決めのための部分毎の線形マッピング関数(Piecewise Linear Mapping Functions for Image Registration)」Pattern Recognition19:459−66、1986)は、画像が対照点を用いて三角形の部域に分割される方法を説明する。それぞれの三角形の部域ごとに別々の幾何学的変換が施されてそれぞれの対照点が対応する対照画像の三角形の部域に位置決めされる。
【0092】
「画像ワーピング(image warping)」技術は、運動を補正するためそれぞれの引き続く画像が平均化された対照画像に幾何学的に位置決めされることにより実施される。(例えば、Wolberg、「デジタル画像ワーピング(Digital Image Warping)」IEEE Computer Society Press、カリフォルニア州Los Alamitos、1990に説明された)画像ワーピング技術が用いられれもよい。画像ワーピング技術は、有効な補正のためには運動が大きすぎて新たな平均化された対照画像が取得されなければならない時を示すこともできる。
【0093】
データ記録処理と解析の機能は一般的にはホストコンピューターにより実行され制御される。前記ホストコンピューターは、前記emr光源及び/又は光学的検出器とインターフェースをとり、データの取得と流入、比較演算、解析、出力等を制御する、(Intel386、486、Pentium又は同様のマイクロプロセッサ又はSun SPARCのような)いかなる一般的なコンピューターをも含む。したがって、前記ホストコンピューターはデータの取得と解析を制御しユーザーインターフェースを提供する。
【0094】
前記ホストコンピューターは、バスの帯域幅の考慮次第で、VME64インターフェース又は標準的な(IEEE1014−1987)VMEインターフェースを有する単一基板の組み込み式コンピューターを含むものでもよい。本発明に用いられてもよいホストコンピューター基板は、例えばForce社SPARC/CPU−2E及びHP9000モデル7471を含む。ユーザーインターフェースは、例えばUnix/X−Window環境でよい。画像処理基板は、外科手術中に見るための高品質差分画像を作成するために必要な、リアルタイム画像平均化、位置決めその他の処理を提供する、例えばTexas Instruments社のMVPその他のチップにもとづくものでよい。この基板は、腫瘍組織を強調するため疑似カラーマッピングで差分画像の時間的配列を示すために120x1024RGBディスプレイも駆動する。前記ホストコンピューターが全体としてのスクリーンの表示面積(real estate)を増加させユーザーインターフェースを円滑にするために第2のモニターが用いられるのが好ましい。(完全にプログラム可能な)プロセシング基板は、他の基板とのデータのやりとりを制御するためにVMEマスターインターフェースをサポートできる。最後に、周辺制御基板は、前記ホストコンピューターから機械的インターフェースを制御するために電気的なインターフェースを提供することができる。かかる機械的インターフェースは例えば光源と光学的検出器制御ボックスを含むことができる。
【0095】
リアルタイムデータ取得及び表示システムは、例えば取得、画像処理、周辺制御及びホストコンピューター用の4枚の基板を含むものでもよい。縮小された処理能力の最小限の構成は、取得とホストコンピューター基板だけを含む。前記取得基板は、入ってくるビデオフレームのリアルタイムでの平均化を行い、平均化されたフレームの最大バス速度での読み出しを可能にする回路を含む。VMEバスは、ピーク帯域幅が高く多数の既存のVME製品との互換性があるために好ましい。前記取得基板は、可変スキャンインターフェースを介して多くの異なるタイプの光学的検出器をもサポートすべきである。ドーターボードは、多くの異なるタイプの光学的検出器のインターフェース面のニーズをサポートし、可変スキャン信号を取得マザーボードに供給する。前記ユニットは、広範囲のカメラをサポートするためにRS−170Aビデオ信号とインターフェースをとるドーターボードを含むことが好ましい。より高い空間/コントラスト解像度及び/又はより良い信号雑音比を有する低速走査カメラのような他のカメラタイプを開発し、かかる改良カメラに適合するように改良されたドーターボードとともに本発明の装置に取り込むことができる。
【0096】
例えばアナログビデオ信号として取得された試料集団の寸法及び/又は内在性光学的特性に関するデータは、例えば画像解析器(例えばシリーズ151Image Processor、Imaging Technologies、 Inc.、マサチューセッツ州、Woburn)を用いて連続的に処理される。画像解析器はアナログビデオ信号を受け取りアナログからデジタルへの変換インターフェースでデジタル化し、約30分の1秒のフレーム速度(例えば30Hz又は「ビデオ速度」)で実行する。信号の処理は、まずそのピクセルに割り当てられた関心のある領域の部分からの組織で反射された光子の数(例えばemrの数量)に依存する(二進法での)数値を割り当てられた一連のピクセル又は小さな正方形に前記信号をデジタル化することを伴う。例えば、CCDカメラからの標準的な512x512画像では、画像当たり262,144個のピクセルがある。8ビットシステムでは、それぞれのピクセルは灰色の256個の階調レベルの1つに対応する8ビットで表される。
【0097】
前記信号処理器は、白黒画像を表す灰色のコード化されたピクセル値をカラーのコード化された値にそれぞれの灰色でコード化された値の強度にもとづいて変換するための値で初期化されたプログラム化可能な参照表(例えばCM150−LUT16、Imaging Technology、マサチューセッツ州、Woburn)を含んでもよい。画像伸縮技術を用いて、デジタル化された画像フレーム中のそれぞれのピクセルを表す最高及び最低のピクセル強度値が、伸縮される画像フレームの部域にわたって決定される。選択された部域をより大きな数値範囲に伸縮することは、例えば雑音由来の比較的高い偽性の数値のより容易な同定と除去を可能にする。
【0098】
前記信号処理器の手段は、前記A/Dインターフェースから受け取ったデジタル化画像データのフレームを記録するためのフレーム記録領域を有する複数のフレームバッファも含む。前記フレーム記録領域は少なくとも1メガバイトのメモリスペースで、好ましくは少なくとも8メガバイトの記録スペースを含む。追加の16ビットフレーム記録領域が、8ビット以上で表されたピクセル強度を有する処理された画像フレームを記録する累算器として提供される。前記処理器手段は、1つは前記平均化された対照画像の記録用、もう1つは逐次画像の記録用、3番目は比較画像の記録用の、少なくとも3つのフレームバッファを含むのが好ましい。
【0099】
前記信号処理器は、1以上のフレームバッファに位置づけられたデータに算術及び論理関数を実行するための(例えばALU−150パイプラインプロセッサ)算術演算装置も含む。ALUは例えば、リアルタイムでの画像(データ)平均化を提供する。新規に取得されたデジタル化画像は直接前記ALUに送られてフレームバッファに記録された対照画像と組合せられる。16ビットの結果は、この結果をある定数(つまり全画像数)で割るALUを通して処理される。該ALUからの出力はフレームバッファに記録されても、さらに処理されても、又は入力として用いられて別の画像と組み合わされてもよい。
【0100】
正常では、生理活性が増大した領域は、細胞試料又は組織のemr吸収能力の増加を示す(つまり、可視光がemr照射に用いられる場合には細胞試料が暗くなり、表された内在性信号は正の方向に増加する)。同様に、生理活性の減少は組織のemr吸収能力の減少に一般的には対応する(つまり、該組織はより明るく見え、又は内在性信号は負になる)。例えば、データセットAは次の平均化された画像でデータセットBは平均化された対照画像である。正常では、データセットAのピクセルがデータセットBのピクセルから引き算されて負の数値になったときは、この数値はゼロとして処理される。ゆえに、差分画像は抑制領域を説明できない。本発明は、(a)データセットA(次の平均化された画像)をデータセットB(平均化された対照画像)から引き算して全ての負のピクセル値がゼロである第1の差分データセットを作ること、(b)データセットBをデータセットAから引き算してすべての負のピクセル値がゼロとなる第2の差分データセットをつくることにより負と正の内在的信号の両方を同定するため及び第1と第2の差分画像データセットを加えて「和差分データセット」をつくるための方法を提供する。該和差分データセットは活性が増大した(つまり、黄、オレンジ、赤のような暖色でカラーコード化された)領域を示し、活性が減少又は抑制された(つまり、緑、青、紫のような寒色でカラーコード化された)画像領域として可視化することも可能である。代替的には、第1の差分データセットを第2の差分データセットに重ねることができる。差分出力は画像として可視化でき、チャレンジ、刺激、パラダイム等に対する反応としての内在的信号が存在する場所を指示するためにカラーコード化された差分フレームでスーパーインポーズされた関心のある領域(例えば皮質表面)の画像を提供するために、リアルタイムのアナログ画像にスーパーインポーズされる。
【0101】
前記の比較(例えば差分)データは、さらにデータを平滑化して高周波雑音を除去するために処理される。ローパス空間フィルタは、ダイナミックレンジのいずれかの端の高周波雑音を除去するために高空間周波及び/又は低空間周波を遮断する。これは平滑化処理された差分データセットを(デジタル形式で)提供する。前記デジタル処理された差分データセットは、画像として提供でき、色スペクトルを異なるグレーの陰影に割り当てることにより、カラーコード化される。この画像はアナログ画像に(ADI基板により)再変換され、平均化された対照画像とその次の画像の間の差分をリアルタイム可視化のために表示される。さらに前記処理された差分画像は、コントラスト増強剤(a contract enhancing agent)が早く取り込まれるか内在性信号がある特定の組織部位を表示するために、前記アナログ画像にスーパーインポーズできる。
【0102】
処理速度はリアルタイムモデュラープロセッサ又はより高速のCPUチップを前記画像プロセッサに追加することにより増強できる。本発明に用いることのできるリアルタイムモデュラープロセッサの1つの例は、150RTMP−150リアルタイムモデュラープロセッサ(Imaging Technology社、マサチューセッツ州、Woburn)である。前記プロセッサはさらに、デジタルデータ記録用光ディスク、前記デジタル及び/又はアナログデータのハードコピー提供用のプリンタ及びユーザが連続的に前記比較用データ出力を監視できるようにするためのビデオモニタのような表示装置を含んでもよい。
【0103】
本発明によると単一のシャーシが、画像形式のような容易に解釈できる形式で光学的検出と解析を提供するのに必要な全てのモデュールを格納することもできる。どの程度統合されているかにかかわらず、必要な構成要素は、表示用モニタと周辺入出力装置とともに容易に運搬可能なラックに取り付けられてもよい。
【0104】
PentaMAX 576x384FT LCDシステム(Princeton Instruments Inc.、ニュージャージ州)を含む好ましい高解像度高性能システムはチップ上でデータをデジタル化し大きなダイナミックレンジと軽減された雑音を提供する。このシステムはPCIバスを用いてウィンドウズNTを走らせたデュアル400MHzPentium PCにインターフェースをとられてもよい。画像解析アルゴリズムはMicrosoftビジュアルC++バージョン5.0コンパイラを用いてC言語で書かれてもよい。さらに迅速なオンライン処理のためには、前記データは前記PCコンピュータに常設された専用画像化ハードウェアに配送されてもよい。例えばIM−PCIハードウェア(Imaging Technology Inc.社製、マサチューセッツ州、Bedford)が使用できる。1つのかかる構成は、IM−PCI、AMVS及びCMALUのIM−PCI基板とモデュールからなる。
【0105】
生体内の応用に用いられた前記画像化方法は関心のある領域の表面のデータを取得できる。引用によりここの取り込まれた特許に説明された通り、長波長emr(赤外領域)が深部の組織又は被覆組織の下にある関心のある領域を画像化するために用いられる。体内の一部の領域では、長波長可視光と近赤外emrは容易にかかる画像化のための組織を透過できる。さらに、差分画像が、500nmのemrで取得された画像と700nmのemrで取得された画像のように、2つの異なる照射波長で取得された画像の間で作成される場合には、差分画像は組織の光学的スライスを表す。さらに、さらに、特定のemr波長を吸収するコントラスト増強剤の投与は、関心のある領域のフィルタとして作用する。この場合には、持続的に組織に残留するコントラスト増強剤を用いることが望ましい。
【0106】
動物モデルの自然位の細胞集団又は組織培養モデルの細胞集団を評価するために適した簡単なシステムでは、本発明のシステムは、細胞又は組織を照射するemr光源に動作可能に接続された1以上の光ファイバーと、照射された細胞又は組織の1以上の光学的特性を検出する、フォトダイオードのような光学的検出器に動作可能に接続された別の光ファイバーを含む。前記検出器は、試料集団の「正常」又は「バックグランド」の光学的特性を表す対照用データを取得するため及びテスト用試剤又はテスト用条件の投与中又は投与後の試料集団の光学的特性を表す逐次的データを取得するために用いられる。疾病又は病理的状態を刺激する生理学的なチャレンジ及び/又は刺激は治療用試剤又は治療条件の投与前に投与される。システムは、個々の細胞又は細胞集団の幾何学的及び/又は光学的特性を、経験的に決定された基準又は異なる時点で取得されたデータと比較するために十分な情報記録及び処理能力を有するデータ記録及び処理のシステムを含むかあるいはかかるシステムと通信している。
【0107】
動作中は、試験管内又は生体内の細胞試料が電磁放射(emr)で照射され、空間的に分析された関心のある領域の1以上の幾何学的及び/又は光学的特性を表す単一又は一連のデータポイント又はデータセットが、「正常な」生理活性の間隔の間中取得される。このデータは、これらの特定の生理条件下での特定の細胞試料についての対照又はバックグランドのデータプロフィールを表す。一連のデータセットは、例えば平均化により、対照用データプロフィールを取得するために組み合わせられるのが好ましい。前記対照用データプロフィールは他のデータセットとの比較用に記録される。同様に、特定の生理条件下での特定の細胞タイプについてのバックグランドデータプロフィールを表す対照用データセットが収集され記録されてもよい。
【0108】
同一の空間的に分析された関心のある領域での試料集団の対応する幾何学的及び/又は光学的特性を表すデータセットは、次の期間(time period)に取得される。監視用の応用については、データは、細胞試料の状態を監視し基線量のプロフィールからの異常を検出するために、定期的な時間間隔で収集される。スクリーニング用の応用については、例えばテスト用組成物の導入又はテスト用条件への曝露により誘発された、生理学的な活性化又は抑制の後の期間中1以上の逐次的なデータセットが収集される。生理学的な活性化又は抑制は、動物モデルでの発作又は卒中のように「自然な(natural)」出来事により誘発されることもあり、あるいは生理学的な活性化又は抑制を示す細胞試料の幾何学的及び/又は光学的特性の変化を刺激するために生体内又は試験管内の細胞試料にパラダイム又は因子を投与することによって誘発されることもある。監視間隔又は内在的生理反応の刺激期間中、前記関心のある領域の1以上の検出された幾何学的又は光学的特性を表す単一又は一連の逐次的データセットが取得される。一連の逐次的データセットは、逐次的なデータセットを取得するために例えば平均化により組み合わせられるのが好ましい。前記逐次的データセットは、比較用データセット、好ましくは差分データセットを取得するために対照用データセットと比較される。比較用データセットは、関心のある領域内での生理学的な活性化又は抑制を表す幾何学的及び/又は光学的特性の変化の証拠を求めて解析される。
【0109】
細胞集団は、薄い密度の懸濁液中の細胞、コンフルエントの単層細胞、その他の前もって決定された細胞密度の多層細胞又は組織スライス標本のような組織試料を含むものであってもよい。広範囲の細胞及び組織試料の細胞培養条件下で維持することは当業者に周知である。
【0110】
前記試料集団は顕微鏡のステージのような試料台の上の前もって決定された位置に置かれる。1つの例示的な組織試料は、浸漬下の灌流チャンバーに維持された急性ラット海馬スライス標本である。代替策としては、試料はフラスコ、マルチウェルプレート等で細胞培養培地中に維持された細胞試料であってもよい。マルチウェル組織培養プレートは、前もって決定された間隔で個々のウェルの細胞試料の位置決めをするための自動化ステージとともに併用して、ハイスループットスクリーニング用に使用できる。プログラム化できる自動化位置決め装置は当業者に周知である。
【0111】
(CCDカメラのような)光学的検出器は顕微鏡のカメラポートに接続される。1以上の対照期間と1以上のテスト用期間の間中、個々の細胞又は細胞試料中の関心のある領域の寸法及び/又は光学的特性に関するデータは取得、記録及び処理される。データの取得と処理は以下及び実施例に説明された通りに達成される。
【0112】
右上のグレースケール画像はCCDカメラで見た組織スライス標本の未処理画像である。該組織スライス標本は、ニューロンとシナプスの活動の少しの増加を起こす低強度電気刺激及びニューロンとシナプスの活動のより大きな増加を起こす高強度電気刺激という2つの異なる強度で電気的に刺激される。
【0113】
疑似カラー画像は以下に説明する通りに生成される。簡潔には、前記電気刺激中に取得された画像は対照状態で取得された画像から引き算される。この画像はローパスフィルタを通し、ヒストグラム伸縮され、そして疑似カラー着色される。色は活性により喚起された光学的変化の強度を示すようにコード化される。
【0114】
上記に説明された通りに作成された画像に表された動的な光学的変化はグラフにプロットすることもできる。グラフ形式では、それぞれのデータポイントは疑似カラー画像に示した単位(unite)を通して光透過の平均化された変化を表す。時間間隔で分離された一連の画像は取得され平均化された値がそれぞれの画像について計算されグラフ上での点としてプロットされる。直線で示された場所で2秒間電気的に刺激された。小さなピークは第1の小さな電気刺激により誘導された最大の光学的変化を示し、大きい方のピークは第2のより大きな刺激からのものを示す。前記電気刺激は2秒後に停止され、組織は回復させられた。該回復のプロットは前記組織のイオン恒常性機構に特徴的である。この回復は例えば回復期間に最もうまく当てはまる対数曲線を見つけることにより、定量化できた。
【0115】
候補化合物は、培養下あるいは動物モデルで自然位の、グリア細胞、ニューロン細胞、腎臓細胞等のようなさまざまなタイプの細胞を本発明のスクリーニング方法を用いてカチオン−塩素共輸送体アゴニスト及び/又はアンタゴニスト活性についてスクリーニングされる。例えば塩素共輸送体アンタゴニスト活性を同定するためのスクリーニング技術は「正常」より高濃度のアニオン塩素濃度にすることにより、組織培養試料又は動物モデルでの自然位の細胞外空間のイオン平衡を変更することを伴う。この変更されたイオン平衡に置かれた細胞又は組織試料の幾何学的及び/又は光学的特性は決定され、候補試剤が投与される。前記候補化合物の投与後、対応する細胞又は組織試料の幾何学的及び/又は光学的特性が、前記イオン平衡失調がそのままかどうかあるいは前記細胞は細胞外及び細胞内空間のイオン平衡を変更することにより反応したかどうか決定するために監視される。前記イオン平衡失調がそのままである場合には、候補試剤は塩素共輸送体アンタゴニストの可能性がある。さまざまなタイプの細胞又は組織を用いてスクリーニングすることにより、高レベルのグリア細胞の塩素共輸送体アンタゴニスト活性を有しそれより低いレベルのニューロン細胞と腎臓細胞の塩素共輸送体アンタゴニスト活性を有する候補化合物が同定できる。同様に、異なるタイプの細胞と組織システムへの影響も評価できる。
【0116】
さらに、中枢及び末梢神経系のさまざまな状態を治療するための候補化合物の効能は、発作、中枢神経系水腫、エタノール神経毒性、皮質拡延性抑制等のような状態を組織試料又は動物モデルの自然位でシミュレーションするか誘発すること、容態のシミュレーション(stimulation of the condition)中の細胞又は組織試料の幾何学的及び/又は光学的特性を監視すること、候補化合物を投与すること、前記候補化合物の投与後の細胞又は組織試料の幾何学的及び/又は光学的特性を監視すること、前記候補化合物の効果を決定するために細胞又は組織試料の幾何学的及び/又は光学的特性を比較することにより評価できる。同様に、動物又はヒト被検材料での治療用組成物の効能は本発明の光学的方法とシステムを用いて自然位で監視できる。
【0117】
本発明の治療用組成物と方法は上記に好ましい実施態様について説明されてきた。以下に明らかにする実施例は具体的な実験結果を説明するが、本発明をいかなる意味でも限定することを意図するものではない。
【0118】
(実施例1)
フロセミドの海馬スライス標本におけるてんかん発作様放電への影響
以下の研究では自発性てんかん発作様活動はさまざまな処理により誘発された。Sprague−Dawleyラット(オス及びメス、25ないし35日齢)は断頭され、頭蓋頂は迅速に除去され、脳は氷冷酸素添加スライス標本培養液で冷やされた。スライス標本培養液は、220mMスクロース、3mM KCI、1.25mM NaHPO、2mM MgSO、26mM NaHCO、2mM CaCl及び10mM デキストロース(295ないし305mOsm)からなるスクロースを基本とする人工脳脊髄液(sACSF)であった。海馬を含む脳半球はブロック状に切り出されVibroslicer(Frederick Haer社、メイン州、Brunsick)のステージに(シアノアクリレート系接着剤で)のり付けされた。厚さ400μmの水平断又は横断スライス標本が4°Cの酸素加(95%O、5%CO)スライス標本培養液中で薄切された。前記スライス標本は直ちに、保持チャンバーに移され、その中で、24mM NaCl、3mM KCl、1.25mM NaHPO、2mM MgSO、26mM NaHCO、2mM CaCl及び10mMデキストロース(295ないし305mOsm)からなる酸素加浴培養液(ACSF)中に浸漬された。前記スライス標本は浸漬型(submersion−style)記録チャンバーに移される前に少なくとも45分間室温に保たれた(全ての他の実験)。前記記録チャンバー中で前記スライス標本は34ないし35°Cの酸素加された記録培養液で灌流された。全ての動物のケアはNIHとワシントン大学の動物ケアガイドラインに従って実施された。
【0119】
大抵のスライス標本実験では、同時細胞外電場電極記録がCA1及びCA3領域から取られた。双極性タングステン刺激電極が、シナプス的に駆動されたCA1での電場反応を喚起するためにシャファー側枝に置かれた。刺激は100ないし300マイクロ秒( sec)持続パルスで集団スパイク閾値(the population−spike threshold)の4倍の強度からなった。後放電は60Hzで送達されたかかる刺激の2秒間の連続により喚起された。自発性発作間様バーストは、前記浴培養液を、10mM カリウム(動物4匹、スライス標本6枚、平均−81バースト/秒)、200−300μM( M)4−アミノピリジン(4−aminopyridine)(動物2匹、スライス標本4枚、平均−33バースト/秒)、50−100μM( M)ビククリン(bicuculline)(動物3匹、スライス標本4枚、平均−14バースト/秒)、M Mg++(灌流1時間、動物2匹、スライス標本3枚、平均−20バースト/秒、又は灌流3時間、動物2匹、スライス標本2枚)、ゼロカルシウム/6mM KCI及び2mM EGTA(動物3匹、スライス標本4枚)により改変又は追加することにより処理されたスライス標本で観察された。全ての処理において、一旦持続的なバースト発生レベルが確立されたときは、記録用培養液にフロセミドが添加された。
【0120】
これらの手順の最初として、後放電のエピソードはシャファー側枝の電気刺激で喚起され(Stasheffら、Brain Res.344:296、1985)、CA1錐体細胞領域において細胞外電場反応が監視された(動物8匹、スライス標本13枚)。前記浴培養液中のMg++濃度は0.9mMに減少され、後放電は60Hz、2秒間、集団スパイク閾値の4倍の強度での刺激で喚起された(集団スパイク閾値強度は持続時間100ないし300マイクロ秒で20ないし150μAの間で変わった)。前記組織は刺激試行と試行の間10分間回復させた。それぞれの実験では、CA1のシナプス入力への初期応答が、単一刺激パルスにより喚起された電場電位を記録することにより、最初に試験された。対照条件では、シャファー側枝刺激は単一の集団スパイクを喚起した(図1A、差し込み図)。放電後約30秒で喚起されたテタヌス様刺激(図1A、左)は内在性信号の大きな変化を伴っていた(図1A、右)。
【0121】
内在性光学的信号の画像化のためには、前記組織は正立顕微鏡のステージの上に位置決めされた灌流チャンバー内に置かれ、前記顕微鏡のコンデンサーを通して導かれた白色光(タングステンフィラメント光及びレンズシステム、Dedo Inc.)のビームで照射された。光はゆらぎを最小にするために、制御され調節され(電源、Lamda Inc.)、前記スライス標本が長波長(赤色)で透過照明されるように、フィルター(695nmロングパス)を通された。視野と倍率は顕微鏡対物レンズ(スライス標本全体を監視するためには4x)の選択で決定された。画像フレームは電荷結合デバイス(CCD)カメラ(Dage MTI Inc)を30Hzでもちいて取得され、カメラ制御ボックスとA/D基板のゲインとオフセットがシステムの感度を最適化するように調整されたImaging Technology Inc.社製シリーズ151画像化システムを用いて8ビット、空間分解能512x480ピクセルでデジタル化された。画像化ハードウェアは486−PC互換コンピューターにより制御された。信号/雑音比を増大させるために、平均化された画像は、0.5秒にわたって積分され一体として平均化された16枚の個別の画像フレームから作成された。実験系列は、一連の平均化された画像の数分間にわたる時間の連続的取得を典型的には伴い、刺激前に対照画像として、少なくとも10枚のこれらの平均化された画像が取得された。疑似カラー化画像は、最初の対照画像を逐次的に取得された画像から引き算すること及びカラー参照表を前記ピクセル値に割り当てることにより演算された。これらの画像のために、通常は、線形ローパスフィルターが高周波雑音を除去するのに用いられ、線形ヒストグラム伸縮がピクセル値をシステムのダイナミックレンジにわたってマップするために用いられた。これらの画像についての全ての操作は、定量的な情報が保存されるように線形であった。雑音はある取得シリーズの中の対照画像の系列のAR/Rのゆらぎの最大標準偏差として定義されたが、ここでAR/Rは組織を透過する光の変化の振幅を表す。デルタR/Rは、全ての差分画像をとり最初の対照画像で割り算をすることにより(逐次画像−最初の対照画像)/最初の対照画像として計算された。雑音はそれぞれの選ばれた画像系列についていつでも0.01以下であった。組織を透過する光の絶対的な変化は、カメラと光源の間にニューロン密度フィルターを置いた後に画像を取得することにより、一部の実験の際に推定された。平均して、カメラ電子装置と画像化システム電子装置は、組織透過光のピークの絶対変化が通常1%と2%との間となるように、信号をデジタル化前に10倍増幅した。
【0122】
図1Dに示すグレイスケール写真は、典型的な記録チャンバー内の海馬スライス標本のビデオ画像である。組織を保持するために用いられる細い金のワイヤメッシュがスライス標本に斜めに走る黒い線として見える。刺激電極はCA1の放線状層右上に見える。記録電極(薄すぎて写真では見えない)は白い矢印で指示された位置に挿入された。図1Aは、2秒間60Hzの刺激が後放電を喚起したことを示し、細胞外電極によって記録された典型的な後放電エピソードを示す。図1Aの差し込み図は、シャファー側枝から送達された単一の200秒テスト用パルス(矢印のアーティファクト)に対するCA1野の応答を示す。図1A1はシャファー側枝刺激喚起性組織透過光のピーク変化のマップを示す。光学的変化が最大となる領域は、刺激電極のいずれかの側のCA1の先端及び基底樹状突起領域に対応する。図1Bは、2.5mMフロセミド含有培養液で20分灌流後の刺激に対する応答を表すサンプルトレース(sample traces)を示す。電気的後放電活動(図1Bに示す)及び刺激喚起性光学的変化(図1B1に示す)の両方ともブロックされた。しかし、テスト用パルスに対する過興奮的な電場応答(多発性集団スパイク)が存在した(差し込み図)。図1C及び図1C1は、初期の応答パターンの回復が正常な浴培養液で45分灌流した後に見られたことを示す。
【0123】
刺激喚起性後放電のフロセミドによるブロック及び随伴するテスト用パルスに対するシナプス応答の増大という相反する効果は、(1)フロセミドはてんかん様活動をブロックしたこと及び(2)(自発性てんかん様活動に反映される)同期化と(単一シナプス入力に対する応答に反映される)興奮とが分離されたことという2つの鍵となる結果を示す。フロセミドの投与量依存性が調べられた実験は、1.25mMの最低濃度が後放電と光学的変化の両方をブロックするために必要であったことを決定した。
【0124】
(実施例2)
高濃度K(10mM)浴培養液で灌流された海馬スライス標本におけるてんかん様後放電に対するフロセミドの効果
上記の通り調製されたラット海馬スライス標本は、自発的な発作間様バースト発生の拡張期間がCA3(上のトレース)及びCA1(下のトレース)錐体細胞領域で同時に記録されるまで、高濃度K溶液に灌流された(図2A及び2B)。フロセミド添加培養液(2.5mMフロセミド)で15分灌流後、バースト放電は振幅が増加した(図2C及び2D)。しかし、フロセミド灌流45分後にバーストは可逆的にブロックされた(図2E、2F、2G、2H)。フロセミド灌流のこの全系列の間、シャファー側枝に送達された単一テスト用パルスに対するシナプス応答は変化しなかったか又は増大した(データ示さず)。放電振幅の初期の増加はフロセミドに誘発された抑制の減少を反映したものである可能性がある(Misgeldら、Science232:1413、1986、Thompsonら、J.Neurophysiol.60:105、1988、ThompsonとGaehwiler、J.Neuropysiol.61:512、1989及びPearce、Neuron 10:189、1993)。ここで観察された興奮の増大の立ち上がり時間と同様の潜伏時間(15分以内)でフロセミドが海馬スライス標本の抑制電流の要素をブロックすることは過去に報告された(Pearce、Neuron 10:189、1993)。自発性バーストのフロセミドによるブロックに要する長い潜伏時間は高濃度K条件下でのフロセミド感受性細胞体積調節機構の十分なブロックに要する追加の時間に対応するかもしれない。
【0125】
高濃度Kで灌流されたスライス標本に対するフロセミドの効果を試験した後、同様の研究がさまざまな他の一般に研究されたてんかん様放電の試験管内のモデルで行われた(Galvanら、Brain Res.241:75、1982、SchwartzkroinとPrince、Brain Res.183:61、1980、Andersonら、Brain Res.398:215、1986及びZhangら、Epilepsy Res.20:105、1995)。マグネシウムフリー培養液(0−Mg++)への持続的な曝露(2ないし3時間)の後、スライス標本は一般に臨床で用いられる抗けいれん薬に対する耐性を有するてんかん様放電を起こすようになることが示された(Zhangら、Epilepsy Res.20:105、1995)。嗅脳溝内皮質(図2I)と支脚(データ示さず)からの記録は、0−Mg++の3時間灌流後スライス標本は前記「抗けいれん薬耐性」バーストと一見同様のバーストパターンを示すようになったことを表した。浴培養液へのフロセミド添加1時間後これらのバーストはブロックされた(図2J)。(1)200−300μM 4−アミノピリジン(4−AP、カリウムチャンネル遮断薬)の追加(図2Kと2L)、(2)50−100μM ビククリン(GABAアンタゴニスト)の追加(図2Mと2N)、(3)マグネシウム除去(0−Mg++)と1時間の灌流(図2Oと2P)及び(4)カルシウム除去と細胞外キレート剤処理(extracellular chelation)(0−Ca++)(図2Qと2R)の浴培養液の追加/改変で観察された自発性バースト放電もフロセミドはブロックした。これらの操作のそれぞれで、自発性発作間様パターンはCA1及びCA3サブ領域から同時に記録された。(図2K、2L、2M及び2NはCA3トレースのみを示し、図2O、2P、2Q及び2RはCA1トレースのみを示す)。前記0−Mg++実験では、5mMフロセミドは15ないし20分の潜伏時間でバースト発生をブロックした。他の全てのプロトコールについてmバースト発生は2.5mMフロセミドで20ないし60分の潜伏時間でブロックされた。フロセミドは全ての実験で、CA1及びCA3の両方の自発性バースト発生を可逆的にブロックした(図2L、2N、2P及び2R)。
【0126】
(実施例3)
カイニン酸静脈注射により麻酔ラットに誘発されたてんかん様活動に対するフロセミドの効果
本実施例は、てんかん様活動が麻酔ラットへのカイニン酸(KA)の静脈注射により誘発される試験管内のモデルを示す(Lothmanら、Neurology31:806、1981)。結果は図3Aないし3Hに示す。Sprague−Dawleyラット(4匹、体重250−270g)はウレタン(1.25g/kg、腹腔内注射)で麻酔され、必要に応じウレタン追加注射(025g/kg、腹腔内注射)で麻酔は維持された。体温は直腸温度計を用いて監視され35ないし37°Cを保温パッドで維持され、拍動数(EKG)は連続的に監視された。頚静脈は一方から静脈内薬剤投与用にカニューレが挿入された。ラットはKopf脳定位装置に固定し(頭蓋頂レベルで)、先端0.5mmまで絶縁された双極ステンレス微小電極が、前頭頭頂皮質の脳波(EEG)活動を記録するために、皮質表面から深さ0.5ないし1.2mmまで刺入された。一部の実験では、海馬EEGを記録するために、2M NaClを含むピペットが深さ2.5ないし3.0mmまで下げられた。データがVHSビデオテープに記録されオフラインで解析された。
【0127】
前記の外科的準備と電極設置の後、動物はカイニン酸(10ないし12mg/kg、静脈注射)が注入される前30分間回復させた。強烈な発作活動、心拍数の増加及び鼻毛の急な運動は約30分の潜伏時間で誘発された。一旦安定な電気的発作が明らかになると、フロセミドは20mg/kg濃縮塊として30分毎に3回の注射により送達された。実験はウレタンの静脈投与で終了した。動物のケアはNIHガイドラインに従って行われ、ワシントン大学動物ケア委員会により承認された。
【0128】
図3Aないし3Hはウレタン麻酔ラットにカイニン酸で喚起された電気的「てんかん重積状態」のフロセミドによるブロックを示す。EKG記録は上のトレースに示され、EEG記録は下のトレースに示された。このモデルでは、強烈な電気放電(電気的「てんかん重積状態」)はKA(10ないし12mg/kg)注射後30ないし60分で皮質(又は深部海馬電極)から記録された(図3Cと3D)。対照実験(及びLothmanらの過去の報告Neurology、31:806、1981)ではこのてんかん重積状態様活動は3時間以上維持された。逐次的なフロセミド静脈注射(蓄積量40ないし60mg/kg)は発作活動を30ないし45分の潜伏時間でブロックし、しばしば比較的平坦なEEG(図3E、3F、3G及び3H)となる。フロセミド注射後90分でも皮質活動はほぼ正常な基線レベル(つまり、KA及びフロセミド注射以前に観察されたレベル)にとどまった。ラットにおけるフロセミドの薬物動力学に関する研究は、本実施例に用いられた投与量が毒性レベルをはるかに下回っていたことを明らかにしている(HammarlundとPaalzow、Biopharmaceutics Drug Disposition、3:345、1982)。
【0129】
(実施例4ないし7の実験方法)
海馬スライス標本はSprague−Dawleyラット成獣から前記の通り調製された。厚さ100μmの海馬横断スライス標本がビブラトーム(vibrating cutter)で薄切された。スライス標本は、典型的には海馬全域と支脚を含んだ。薄切後、スライス標本は室温の酸素加したホールディングチャンバーに少なくとも記録前1時間保存された。全ての記録は酸素加された(95%O、5%CO)34ないし35°Cの人工脳脊髄液(ACSF)の入ったインターフェースタイプチャンバーの中で行われた。正常ACSFは、124mM NaCl、3mM KCl、1.25mM NaHPO、1.2mM MgSO、26mM NaHCO、2mM CaCl及び10mM デキストロースを含む。
【0130】
CA1及びCA3錐体細胞からの細胞内記録用の先の尖った電極は4M 酢酸カリウムで満たされた。CA1及びCA3細胞体層からの電場記録は2M NaClで満たされた抵抗の低いガラス電極を用いて取得された。シャファー側枝又は肺門経路(hilar pathways)の刺激には、小型単極タングステン電極がスライス標本の表面に設置された。電場及び細胞内記録からの自発性及び刺激喚起性活動はデジタル化され(Neurocorder、Neurodata Instruments社、ニューヨーク州New York)、ビデオテープに記録された。パソコン上のAxoScopeソフトウェア(Axon Instruments)はデータのオフラインでの解析に用いられた。
【0131】
一部の実験では、ビククリン(20μM)、4アミノピリジン(4AP)(100μM)又は高K濃度(7.5又は12mM)含有正常培養液又は低塩素濃度培養液が用いられた。全ての実験で、低塩素溶液(7又は21mM[Cl)はNaClをNaグルコン酸(Sigma)に等モル置換することにより調製された。全ての溶液は35°Cで約pH7.4、重量モル浸透圧濃度290ないし300mOsmで95%O5%COで炭酸ガス飽和されるように調製された。
【0132】
インターフェースチャンバーに置いた後スライス標本は約1ml/分で灌流された。この流速では灌流培養液の完全な変化が起こるのに8ないし10分かかる。ここで報告された全ての時間はこの遅れを考慮に入れ約±2分の誤差がある。
【0133】
(実施例4)
CA1及びCA3領域での自発性てんかん様バースト発生の停止のタイミング
同期化された活動を改変する因子の相対的貢献はCA1及びCA3領域の間で相違がある。これらの因子は局部的な回路の相違と細胞の密度及び細胞外空間の体積比の領域特異的な相違を含む。アニオン塩素共輸送拮抗現象の抗てんかん効果はニューロン放電のタイミングの脱同期化が原因である場合には、塩素共輸送ブロックはCA1及びCA3領域で効果が異なることが予想される。この仮説を検証すべく、一連の実験がCA1及びCA3領域での自発性てんかん様活動のブロックのタイミングの相違を特徴づけるために行われた。
【0134】
電場活動はCA1及びCA3(CA3領域の最近位と最遠位のおおよそ中間)領域で同時に記録され、自発性バースト発生は高[K(12μM、n=12)、ビククリン(20mM、n=12)又は4−AP(100μM、n=5)の処理により誘発された。CA1及びCA3領域の電場応答がそれぞれの実験の継続中監視できるように、30秒毎に単一電気刺激がCA1及びCA3領域の中間のシャファー側枝に送達された。全ての実験で、少なくとも20分の連続した自発性てんかん様バースト発生が低[Cl(21mM)又はフロセミド含有(2.5mM)培養液に切り替える前に観察された。
【0135】
全ての場合でフロセミド又は低塩素濃度培養液への曝露後30ないし40分で自発性バースト発生はCA3領域での停止前にCA1領域で停止した。典型的に観察された事象の時間系列は、自発性電場事象のバースト発生頻度と振幅の初期の増加と、CA3でのバースト放電振幅の減少より迅速なCA1でのよりバースト放電振幅の減少を含む。CA1が沈黙した後CA3はもはや自発性てんかん様事象を示さなくなるまで、5ないし10分間放電を継続する。
【0136】
このバースト停止の時間的パターンは、自発性バースト発生のブロックに用いられた試剤がフロセミドであったか低[Cl培養液であったかにかかわらず、試験した全てのてんかん様状態を誘発する処理で観察された。これらの実験の全ての段階を通じて、シャファー側枝の刺激はCA1及びCA3細胞体層の両方で過興奮性電場応答を喚起した。自発性バースト発生がCA1及びCA3領域の両方でブロックされた直後には過興奮性集団スパイクはまだ喚起できた。
【0137】
我々は、観察されたCA3に先だつCA1でのバースト停止は、我々の記録部位の選択に対するこれらの領域の間のシナプス接続の配置から生じるアーティファクトである可能性を考慮した。さまざまなCA3サブ領域の投射はCA1にまとまって終末すること、すなわち歯状回(CA3近位)に近いCA3細胞はCA1の遠位部分(支脚の境界の近く)に最も多く投射するが、CA3のより遠位に位置する細胞から発するCA3投射はCA2境界の近くに位置するCA1の部分により多く終末することが知られている。バーストの停止がCA3の異なるサブ領域で異なる時に起こる場合には、上記の実験結果はCA1及びCA3領域の相違として生じるのではなく、むしろCA3サブ領域にわたるバースト活動のばらつきの相関として生じる。我々はこの可能性を3つの異なる実験で検証した。CA1で自発性バーストが停止した直後に我々はCA3領域を記録電極を用いて探索した。いくつかの異なるCA3部位(CA3の最も近位から最も遠位の部分まで)からの記録は、CA3領域の全てのサブ領域はCA1が沈黙したこの時間の間中自発的にバーストを発生していたことを明らかにした。
【0138】
CA3の集団放電は興奮性シナプス伝達を介してCA1での放電を喚起すると一般には考えられていたため、CA1が沈黙した後CA3が自発的に放電を継続したという観察は予想外であった。前記の通り、シャファー側枝に送達された単一パルス刺激は、自発性バーストのブロック後でさえもCA1において多発性集団スパイクを喚起し、よってCA3からCA1へのシナプスでの過興奮した興奮性シナプス伝達は無傷であった。このシナプス伝達の効能が維持されており、CA3の自発性電場放電が継続していることから、我々はCA1における自発性バースト発生がなくなるのは到来する興奮性入力の同期化が弱まったためであると仮定した。さらに、CA3での自発性てんかん様放電もやがて停止することから、たぶんこの脱同期化の過程は2つの海馬のサブ領域で異なる時に起こった。
【0139】
(実施例5)
CA1及びCA3領域集団放電の同期化に対する塩素共輸送拮抗現象の効果
実施例4からの観察は、低[Cl又はフロセミド含有培養液への曝露と自発性バースト活動の特徴との時間的関係を示唆した。さらに、この関係はCA1領域とCA3領域とでは異なる。前記時間的関係の特徴をより解明するために、我々は自発性及び刺激喚起性バースト放電の際のCA1活動電位の発生と、CA1及びCA3サブ領域の電場応答における集団スパイク事象とを比較した。
【0140】
細胞内記録は、細胞内電極をCA1電場電極の近傍(100μm以内)に設置して、CA1錐体細胞から取得された。スライス標本は20秒毎にシャファー側枝に送達された単一の刺激により刺激された。連続的な自発性バースト発生が少なくとも20分間確立された後に浴培養液はビククリン含有低[Cl(21mM)培養液に切り替えられた。約20分後にバースト頻度と振幅は最大となった。このときの電場及び細胞内の同時記録はCA1の電場及び細胞内の記録はCA3の電場放電と緊密に同期していることを明らかにした。それぞれの自発性放電の際、CA3電場応答はCA1放電より数ミリ秒先に起こった。刺激喚起性事象の際には、CA1錐体細胞の活動電位放電はCA3及びCA1電場放電の両方に緊密に同期していた。
【0141】
低[Cl培養液への持続的曝露により、CA1及びCA3領域の自発性放電の間の潜伏時間が増加し、ビククリン含有低塩素培養液への曝露の30ないし40分後に最大潜伏時間が30ないし40ミリ秒となった。この間CA1及びCA3自発性電場放電の両方の振幅とも減少した。この間刺激喚起性放電は波形及び相対的な潜伏時間の点で自発的に発生する放電に似ていた。しかし、初期の刺激喚起性ニューロンの脱分極(おそらく単シナプス性EPSP)は潜伏時間の有意な増加を伴わずに開始した。これらのデータが取得された時間間隔はCA1での自発性バースト停止の直前に対応する。
【0142】
低[Cl培養液での灌流40ないし50分後、自発性バーストはCA1ではほとんど消失したが、CA3では変化が見られなかった。この間のシャファー側枝刺激は、単一シナプス的に誘発された(monosynaptically−triggered)CA1錐体細胞の応答は有意な潜伏時間の増加を全くともなわずに起こるが刺激喚起性電場応答はほとんど消失することを示した。これらのデータが取得された時間間隔はCA3での自発性バーストの停止の直前に対応した。
【0143】
低[Cl培養液への持続的な曝露の後、シャファー側枝刺激とその結果起こるCA3電場放電との間の潜伏時間に大きな増加(30ミリ秒以上)が生じた。やがてはシャファー側枝刺激によってCA1及びCA3領域とも全く電場応答が喚起できなくなった。しかし、シャファー側枝刺激に対するCA1錐体細胞からの活動電位放電は反応潜伏時間にほとんど変化なく喚起できた。実際、実験の継続時間全体の間(2時間以上)、CA1錐体細胞からの活動電位放電はシャファー側枝刺激により短い潜伏時間で喚起できた。さらに、CA3の刺激喚起性過興奮性放電はやがては低[Cl培養液への持続的な曝露の後にはブロックされたが、CA3の逆行性応答は保存されたようであった。
【0144】
(実施例6)
CA1錐体細胞のバースト放電の同期化への塩素共輸送拮抗現象の効果
前述のデータは、電場応答の消失はニューロン間の活動電位の発生の脱同期化が原因であることを示唆する。すなわち、CA1錐体細胞のシナプス駆動性興奮は保存されなかったが、CA1ニューロン集団の間の活動電位の同期性は測定可能な直流電場応答に蓄積するのに十分ではなかった。この仮説を検証するためにCA1錐体細胞の対になった細胞内記録がCA1電場応答と同時に取得された。これらの実験で、細胞内電極と電場記録電極の両方ともが互いに200μm以内に設置された。
【0145】
ビククリン含有低[Cl培養液により誘発された自発性活動が最大の期間中、記録はCA1ニューロンとCA1電場の放電は自発性又は刺激喚起性放電の両方の場合とも緊密に同期していたことを示した。低[Cl培養液に継続して曝露した後、CA1電場放電の振幅が広がって消失したとき、自発性及び刺激喚起性放電の両方が、CA1ニューロンの対の間及び活動電位と電場応答の間での活動電位の発生のタイミングの脱同期化を示した。この脱同期化はCA1電場振幅の抑制と同時に起こった。その自発的なCA1のバーストが停止したときまでに、有意な潜伏時間の増加がシャファー側枝刺激とCA1電場放電との間で起こった。このとき、対になった細胞内記録は、ニューロンの対の間及び活動電位とシャファー側枝刺激により喚起された電場放電との間での活動電位のタイミングの劇的な脱同期化を示した。
【0146】
CA1活動電位放電の観察された脱同期化は、シナプス放出のタイミングの破壊又は神経突起でのランダムな伝導異常のような、シナプス駆動性活動電位発生に必要な機構のランダム化が原因であることもありえる。そうである場合には、特定のニューロンの対の間の活動電位の発生は互いに状況ごとでランダムにばらつきが生じることを予想できる。我々はこれを、シャファー側枝の多発性の逐次刺激の間のニューロンの対の活動電位放電パターンを比較することにより検証した。それぞれの刺激事象の間、活動電位は互いに対してほとんど同時に発生し、状況ごとでほとんど同一のバースト波形(burst morphology)を示した。我々は、自発的な電場放電の際のあるニューロンの対の間での活動電位の発生が時間的に固定しているかどうかを知るために調べた。あるCA1ニューロンの対からの活動電位放電のパターンが、活動電位の発生が明らかに脱同期化した時期の逐次的な自発的な電場バーストの間で比較された。上記の刺激喚起性活動電位放電の場合と全く同様に、自発的な集団放電の際に生成した活動電位は、互いに対してほとんど同一の時に起こり、ある自発性放電から次の放電までほとんど同一のバースト波形を示した。
【0147】
(実施例7)
自発性シナプス活動に対する低塩素処理の効果
塩素共輸送拮抗現象と関連する抗てんかん効果は神経伝達物質放出への何らかの作用により仲介されている可能性がある。塩素共輸送のブロックが神経終末から放出された神経伝達物質の量とタイミングを変化させ、ニューロン同期化に影響を与えることがありうる。低[Cl培養液への曝露が神経伝達物質放出に関連する機構に影響を与えたかどうかを検証するために、シナプス前終末からの神経伝達物質の自発的なシナプス放出を劇的に増大させる処理中の細胞内CA1応答がCA1及びCA3の電場応答と同時に記録された。
【0148】
自発性神経伝達物質放出の増大は4−AP(100μM)処理により誘発された。4−AP含有培養液への40分曝露後、自発性同期化バースト放電がCA1及びCA3領域で記録された。4−AP含有低[Cl培養液への切替は、前記の通り初めは自発性バーストの増大をもたらした。高利得(high−grain)細胞内記録は高振幅自発性シナプス活動が4−AP処理により誘発されたことを示した。低塩素培養液への更なる曝露はCA1での自発性バースト放電はブロックしたが、CA3は自発的な放電を継続した。このときCA1細胞内記録は、自発的なシナプス雑音がさらに増大し、4−AP含有低塩素培養液への持続的な曝露の期間中そのままであったことを示した。これらのデータは、神経終末からのシナプス放出の原因となる機構が、4−APにより誘発されたCA1の自発性バーストのブロックを説明できる方法で低塩素曝露による悪影響を被らなかったことを示唆した。これらの結果は、低[Cl曝露の効果がPSPsを細胞体に伝導する効率を悪化させるようなCA1樹状突起の性質の変化が原因であるという可能性も除外した。
【0149】
(実施例8ないし12の実験方法)
以下の全ての実験では、[ClはNaClをNa−グルコン酸で等モル置換することにより減少された。いくつかの理由から他の代替アニオンではなくグルコン酸が用いられた。まず、パッチクランプ法の研究がグルコン酸は事実上塩素チャンネルを透過できないが、他のアニオン(メチル硫酸、硫酸、イセチオン酸及び酢酸)はさまざまな程度で透過できることを証明してきた。第2に、細胞外カリウムのグリアのNa、K、2Cl共輸送を通しての輸送は細胞外塩素がグルコン酸に置換されるとブロックされるが、イセチオン酸で置換された場合は完全にはブロックされない。このフロセミド感受性共輸送体は細胞膨張と細胞外空間(ECS)の体積変化に意義深い役割を果たすため、我々は、我々の処理の効果が過興奮性のフロセミドの実験と比較できるように適切な代替アニオンを用いることを望んだ。[Hochman、D.W.、Baraban、S.C.、Owens、J.W.M.及びSchwartzkroin、P.A.、「フロセミドによるてんかん様活動ブロックにおける同期化と興奮性の分離」Science、270:99−102、1995及び米国特許明細書第5,902,732号]第3に、ギ酸、酢酸及びプロプリオン酸(proprionate)はClの代替として用いると弱酸となり細胞内pHを急速に下降させるが、グルコン酸は細胞外にとどまり細胞内pHの変化は報告されていない。第4に、比較のために我々は低[Clの活動喚起性ECS変化への影響を調べた過去の研究で用いられたのと同じ代替アニオンを用いることを望んだ。
【0150】
ある種の代替アニオンはカルシウムをキレートするとの示唆がある。その後の研究は代替アニオンのカルシウムキレート能を証明できなかったが、いまだにこの問題に関する関心が文献に存在する。休止期の膜電位は正常のままであり、[Clがグルコン酸置換により低下した培養液に曝露後数時間経過してもシナプス応答(実際には過興奮性シナプス応答)は誘発されることから、カルシウムキレート作用は以下の実験では問題とはならないようである。さらに我々は、Ca2+選択的微小電極を用いた測定によって、低[Cl培養液のカルシウム濃度が対照の培養液のカルシウム濃度と同一であることを確認した。
【0151】
Sprague−Dawleyラット成獣は前記の通りに準備された。簡潔には、厚さ400μmの海馬横断スライス標本はビブラトームを用いて薄切された。スライス標本は典型的には海馬全体と支脚が含まれた。薄切後スライス標本は酸素加されたホールディングチャンバーに少なくとも記録前1時間保存された。全ての記録は酸素加された(95%O、5%CO)34ないし35°Cの人工脳脊髄液(ACSF)の入ったインターフェースタイプチャンバーの中で行われた。正常ACSFは、124mM NaCl、3mM KCl、1.25mM NaHPO、1.2mM MgSO、26mM NaHCO、2mM CaCl及び10mM デキストロースを含む。一部の実験では、ビククリン(20μM)、4アミノピリジン(4AP)(100μM)又は高K濃度(7.5又は12mM)含有正常培養液又は低塩素濃度培養液が用いられた。低塩素溶液(7又は21mM[Cl)は、NaClをNaグルコン酸(Sigma Chemical Co.社、ミズーリ州、St.Louis)に等モル置換することにより調製された。全ての溶液は35°Cで約pH7.4、重量モル浸透圧濃度290ないし300mOsmで95%O5%COで炭酸ガス飽和されるように調製された。
【0152】
CA1錐体細胞からの細胞内記録用の先の尖った電極は4M 酢酸カリウムで満たされた。CA1及びCA3細胞体層からの電場記録はNaCl(2M)で満たされた抵抗の低いガラス電極を用いて取得された。シャファー側枝の刺激には、小型単極タングステン電極がCA1及びCA3領域の中間のスライス標本の表面に設置された。電場及び細胞内記録からの自発性及び刺激喚起性活動はデジタル化され(Neurocorder、Neurodata Instruments社、ニューヨーク州New York)、ビデオテープに記録された。パソコン上のAxoScopeソフトウェア(Axon Instruments Inc.社)はデータのオフラインでの解析に用いられた。
【0153】
イオン選択的微小電極は当業者に周知の標準的な方法に従って作製された。二連銃型(Double−barreled)ピペットが引かれ、先端の直径が約3.0μmになるように割られた。基準バレル(reference barrel)はACSFで満たされ、他のバレルはシラン処理され(sylanized)、先端にK選択的な樹脂(Corning 477317)が後ろから充填された。該シラン処理されたバレルの残りはKCl(140mM)で満たされた。それぞれのバレルはAg/AgCl線を介して高インピーダンスデュアル差動アンプ(WPI FD223)に接続された。それぞれのイオン選択的微小電極は既知のイオン組成の溶液を用いて較正され、ネルンスト曲線に近い応答性を示し実験期間中安定である場合に適すると判断された。
【0154】
インターフェースチャンバーに置いた後スライス標本は約1ml/分で灌流された。この流速では灌流培養液の完全な変化が起こるのに8ないし10分かかる。ここで報告された全ての時間はこの遅れを考慮に入れ約±2分の誤差がある。
【0155】
(実施例8)
CA1電場記録への低[Clの効果
他の研究は、皮質及び海馬のスライス標本の低[Clへの持続的な曝露は入力抵抗、休止膜電位、脱分極誘発性活動電位発生又は興奮性シナプス伝導のような基本的な内在性及びシナプス性の性質は影響を与えないことを示した。ある過去の研究は海馬CA1領域への低[Clのてんかん発作発現の特徴も部分的に明らかにした。以下の研究は、低[Cl誘発性の過興奮と過同期化の立ち上がりと停止の時間を観察するために行われた。スライス標本(n=6)ははじめCA1錐体細胞及びCA1細胞体層で安定な細胞内及び電場の記録が確立するまで正常培養液で灌流された。2つの実験においては、同一細胞が実験の全期間中(2時間以上)保持された。残りの実験(n=4)では、培養液交換の過程で最初の細胞内記録は失われ、追加の記録が異なる細胞から取得された。これらの実験におけるニューロン活動パターンは単一細胞が観察されたときにみられたものと同一であった。
【0156】
電場及び細胞内電極はいつも互いに近接して(200μm以下)設置された。それぞれの場合で、低[Cl培養液(7mM)への曝露約15ないし20分後自発性バーストが最初に細胞レベルで、それから電場で始まった。ニューロンの大集団での同期化したバースト放電を表すこの自発性の電場活動は、5ないし10分継続し、その後電場記録は静かになった。電場が最初に静かになったときは細胞は自発的な放電を続けていた。この結果は、個々の細胞の放電能力は損なわれずに集団活動が「脱同期化」したことを示唆する。低[Cl培養液への曝露約30分後、細胞内記録は、電場は静かなままだが細胞は自発的に放電し続けることを示した。2つの時点での細胞内電流注入に対する細胞の応答は、細胞の活動電位発生能力は低[Cl曝露によっては損なわれなかったことを証明した。さらに、CA1放線状層での電気刺激はバースト放電を誘発し、この組織では過興奮性状態が維持されていたことを示した。
【0157】
(実施例9)
高[Kにより誘発されたCA1でのてんかん様活動への低[Clの効果
前記の実験は、低[Cl培養液への組織の曝露は10分以内に停止する短期の自発的な電場電位バースト発生を誘発したことを示した。[Clの減少が本当に自発的てんかん様(つまり同期化した)バースト発生をやがてブロックできる場合は、これらの結果はこの初期のバースト活動が停止した後にのみ抗てんかん効果が観察可能であることを示唆する。そこで、我々は低[Cl処理の高[K誘発性バースト活動への一時的効果を調べた。スライス標本(n=12)は[Kが12mMに増加された培養液に曝露され電場電位がCA1細胞体層内の電場電極で記録された。自発性電場電位バースト発生は少なくとも20分間観察され、その後前記スライス標本は[Kは12mMに維持されるが[Clが21mMに減少した培養液に曝露された。組織が低[Cl/高[K培養液に曝露された後15ないし20分以内にバースト振幅が増大しそれぞれ電場事象がより長い間継続した。この電場活動が促進された短い期間(5ないし10分持続)の後バースト発生は停止した。このブロックが可逆的かどうか検証するために、電場電位の沈黙の少なくとも10分後に我々は高[K培養液を正常[Cl培養液に戻した。20ないし40分後にバースト発生が再開した。それぞれの実験を通してシャファー側枝刺激に対するCA1電場応答が監視された。最大の電場応答は、自発的バーストが最大の振幅となる自発的バーストの停止の直前に記録された。しかし、自発的バースト発生のブロックの後であってもシャファー側枝刺激によって多発性集団スパイクは誘発され、シナプス伝達は無傷であり組織はまだ過興奮されうる状態のままであることを示した。
【0158】
4枚のスライス標本では、CA1錐体細胞からの細胞内記録はCA1電場記録とともに取得された。高[K誘発性自発的バースト発生の期間中、シナプス後電位(PSPs)がよく観察できるように過興奮を起こさせる電流が細胞に注入された。自発的バースト発生の低[Clによるブロックの後でも自発的に起こる活動電位とPSPsはまだ観察された。これらの観察はシナプス活動自体は前記の低[Cl処理によってはブロックされなかったという見解をさらに支持する。
【0159】
(実施例10)
4−AP、高[K、及びビククリンによりCA1及びCA3に誘発されたてんかん様活動の低[Clによるブロック
我々は次に低[Cl処理は、フロセミド処理について示したようにさまざまな薬理学的処理により誘発されたCA1及びCA3領域におけるてんかん様活動をブロックできるかどうか検証した。この実験のために我々は低[Cl処理が高[K(12mM)(n=5)、4−AP(100μM)(n=4)及びビククリン(20と100μM)(n=5)によって誘発された自発的バースト発生に及ぼす効果を検証することにした。それぞれの実験で電場応答はCA1及びCA3領域から同時に記録され、それぞれの場合にCA1及びCA3領域の両方での自発性てんかん様活動は、灌流培養液の[Clが21mMに減少された後30分以内に可逆的にブロックされた。これらのデータは、フロセミドのように低[Clは、最も普通に研究されたてんかん様活動の試験管内のモデルのいくつかにおける自発的バースト発生を可逆的にブロックすることを示唆する。
【0160】
(実施例11)
高[Kに誘発されたてんかん様活動のブロックについての低[Clとフロセミドの比較
前記の実験からのデータは、低[Clとフロセミドの両方の抗てんかん効果は同じ生理機構への作用により仲介されているとする仮説と矛盾しない。この仮説をさらに検証するために、我々は、CA1での電場電極で記録された、低[Cl(n=12)とフロセミド(2.5及び5mM)(n=4)の高[Kに誘発されたバーストへの効果の時系列を比較した。我々は、低[Clとフロセミドの処理の両方とも、短い初期の電場活動振幅の増大と自発的な電場活動の(可逆的な)ブロックという、同様の時系列の効果を誘発することをみつけた。両方の場合でシャファー側枝の電気刺激は、自発的バースト発生がブロックされた後であっても、過興奮性応答を誘発した。
【0161】
(実施例12)
さまざまな[Kの低[Cl培養液への持続的な曝露の結果
前記の実験では、我々は低[Cl曝露により自発的バースト発生がブロックされた後1時間以上一部のスライス標本の電場活動を監視した。かかる持続的な低[Cl曝露の後、自発的な長時間持続する脱分極を起こさせるシフトが発生した。これらの後期に起こる電場の事象の波形と頻度は細胞外カリウム及び塩素濃度と関連があるようにみえた。これらの観察に動機づけられて、我々は系統的に[Clと[Kを変化させてこれらのイオン変化の前記の後期に起こる自発性電場事象への効果を観察する実験を行った。
【0162】
最初の実験では、スライス標本は低[Cl(7mM)と[K(3mM)含有培養液に曝露された(n=6)。この培養液に50ないし70分曝露後自発性事象をCA1領域で記録したところ、これらの事象は、最初のエピソードが30ないし60秒継続する直流電場での5ないし10mVの負のシフトのようであった。それぞれの次のエピソードは前のエピソードよりも長かった。この観察は、浴培養液中のイオン濃度のせいでイオン恒常性機構が時間とともに減衰したことを示唆した。これらの負の直流電場シフトが誘発された一部の実験(n=2)では、CA1錐体細胞からの細胞内記録はCA1電場記録と同時に取得された。
【0163】
これらの実験については、細胞内及び電場記録は互いに近接して(200μm以内)取得された。それぞれの負の電場シフトの前(10ないし20秒)、ニューロンは脱分極を開始した。細胞脱分極は、休止膜電位の低下、自発的発火頻度の増加及び活動電位振幅の減少により示された。負の電場シフトの立ち上がりと同時に、細胞が自発性又は電流誘発性(データ示さず)活動電位を発火できないほど十分に脱分極した。おそらく、ニューロン脱分極は電場シフトの10ないし20秒前に開始するため、細胞外カリウムの段階的増加の結果ニューロン集団の脱分極が起こり、これらの電場事象を開始したのかもしれない。かかる[Kの増加は、正常ではカリウムを細胞外から細胞内空間に移動する塩素依存性グリア共輸送機構の変化が原因であるかもしれない。[Kの増加がこれらの負の電場シフト(及び並行した細胞脱分極)に先立つかどうかを検証するため、K選択的な微小電極が[Kの変化を記録するのに用いられた実験が行われた。
【0164】
それぞれの実験において、前記のK選択的微小電極と電場電極がCA1錐体層に互いに近接して(200μm以内)に設置され、集団スパイクの振幅を監視できるように、刺激パルスがシャファー側枝に20秒毎に送達された。多発性の自発的に起こる負の電場シフトが低[Cl(7mM)培養液の灌流により誘発された。それぞれの事象は[Kの有意な増加と関連し、該[Kの増加は負の電場シフトの立ち上がりの数秒前に開始した。それぞれの事象の立ち上がりの数秒前に、[Kの1.5ないし2.0mMのゆっくりとした増加が約1ないし2分の時間間隔にわたり起こった。この刺激誘発性電場応答は時とともに増加する[Kを伴って、負の電場シフトの直前まで振幅が増大した。
【0165】
第2の実験(n=4)においては、[Kは12mMまで増加され[Clは16mMまで増加された。この培養液への曝露の50ないし90分後、ゆっくりとした振動がCA1領域で記録された。これらの振動は電場電位の5ないし10mVの負の直流シフトで特徴づけられ、約1サイクル/40秒の周期であった。はじめはこれらの振動はときどき途切れながら起こり不規則な波形であった。時とともに、これらの振動は連続して規則的な波形になった。フロセミド(2.5mM)曝露と同時に振動の振幅は段階的に減少し、振動が完全にブロックされるまで頻度は増加した。かかる組織スライス標本での低[Cl誘発性振動は過去に報告されていなかった。しかし、前記の振動する事象の時間的特徴は、これまで純粋な軸索標本で記載されていた低[Clで誘発される[Kの振動に著しい類似性がある。
【0166】
第3の実験(n=5)においては、[Clはさらに21mMまで増加され[Kはもとの3mMに減少された。これらの実験では、単発で希にしか起こらない負の電場電位のシフトが40ないし70分後に発生した(データ示さず)。40ないし60秒間持続するこれらの事象(5ないし10mV)はランダムな間隔で起こり、実験を通して比較的一定した持続時間を維持した。これらの事象は時にはシャファー側枝に送達された単一の電気刺激により誘発できた。
【0167】
最後の実験(n=5)では、[Clは21mMに保たれ[Kは12mMに上昇された。これらの実験では、実験期間(2ないし3時間)の間に後期に発生する自発性電場事象は観察されなかった。
【0168】
(実施例13)
低塩素曝露中の[Kの変化
Sprague−Dawleyラット成獣は前記の通りに準備された。簡潔には、厚さ400μmの海馬横断スライス標本はビブラトームを用いて薄切された。薄切後スライス標本は酸素加されたホールディングチャンバーに少なくとも記録前1時間保存された。K選択的な微小電極記録には浸漬型チャンバーが用いられた。スライス標本は酸素加された(95%O、5%CO)34ないし35°Cの人工脳脊髄液(ACSF)で灌流された。正常ACSFは、10mM デキストロース、124mM NaCl、3mM KCl、1.25mM NaHPO、1.2mM MgSO、26mM NaHCO及び2mM CaClを含む。一部の実験では、4アミノピリジン(4AP)を100μM含む正常培養液又は低塩素濃度培養液が用いられた。低塩素溶液(21mM[Cl)は、NaClをNaグルコン酸(Sigma Chemical Co.社)に等モル置換することにより調製された。
【0169】
CA1又はCA3細胞体層からの電場記録はNaCl(2M)で満たされた抵抗の低いガラス電極を用いて取得された。シャファー側枝経路の刺激には、単極ステンレス電極がCA1及びCA3領域の中間のスライドの表面に設置された。全ての記録はデジタル化され(Neurocorder、Neurodata Instruments社、ニューヨーク州New York)、ビデオテープに記録された。
【0170】
選択的微小電極は標準的な方法に従って作製された。簡潔には、二連銃型ピペットの基準バレルはACSFで満たされ、他のバレルはシラン処理され、先端にK選択的な樹脂(Corning 477317)が後ろから充填された。イオン選択的微小電極は既知のイオン組成の溶液を用いて較正され、ネルンスト曲線に近い応答性を示し実験期間中安定である場合に適すると判断された。
【0171】
海馬スライス標本の低[Cl培養液への曝露は、前記の通り、3つの特徴的な相を有するCA1錐体細胞の活動の時間依存性の変化の系列を含むことが示されてきた。簡潔には、低[Cl培養液への曝露は、短期的な過興奮性と自発的てんかん様放電の増大をもたらす。さらなる低[Cl培養液への曝露で自発的てんかん様活動はブロックされるが細胞の過興奮はそのまま続き、活動電位発火時間は互いに同期しなくなっていく。最後に、持続的な曝露で、刺激誘発性電場応答は完全に消失するように活動電位発火時間は十分に脱同期化するが、個々の細胞はシャファー側枝刺激に対する単シナプス誘発性応答を示し続ける。以下の結果は、フロセミドの塩素共輸送拮抗現象に対する抗てんかん効果が興奮性シナプス伝導に対する直接作用とは独立で、関連した興奮性の低下を伴うことのない(with our)集団活動の脱同期化の結果であることを証明する。
【0172】
6枚の海馬スライス標本において、K選択的電極と電場電極はCA1細胞体層に設置され、刺激電極はシャファー側枝経路に設置され、単一パルス刺激(300μs)が20秒毎に送達された(図19)。安定的な基線[Kが少なくとも20分間観察された後、灌流は低[Cl培養液に切り替えられた。低[Cl培養液の曝露から1ないし2分以内に、[Kが上昇しはじめるにつれて電場応答は過興奮性になった。低[Cl培養液への曝露の約4ないし5分後、電場応答の振幅が減退し、完全に消失した。対応する[Kの記録は、低[Cl培養液への曝露直後にカリウムは上昇を開始し、この[Kの上昇のピークは時間的に過興奮性のCA1電場応答の最大に対応することを示した。電場応答の振幅の減衰と同時に[Kは減少を開始し、低[Cl培養液曝露から8ないし10分後には1.8ないし2.5mM対照レベルより上で実験の残りの間一定になった。4枚のスライス標本は対照培養液に戻され、完全に回復させられた。実験はその後放線状層に設置されたK選択的微小電極で繰り返された。[Kの同様の変化の順序は前記の細胞体層で観察された[K値よりも0.2ないし0.3mM低い値で樹状層で観察された。
【0173】
4枚の海馬スライス標本においては、刺激喚起性の[Kの対照条件と低[Cl曝露によりCA1電場応答が完全に消失した後との間の変化に対する応答が比較された。それぞれのスライス標本において、[K選択的な測定は最初は細胞体層で取得され、対照培養液での完全な回復後、実験がK選択的電極を放線状層に移動させて繰り返された。それぞれ刺激の試行はシャファー側枝に送達された5秒間10Hzの連続射撃(volley)からなっていた。[Kのピーク上昇は、対照条件と長時間の低[Cl曝露の後との間及び細胞体層と樹状層との間で同様であった。しかし、持続的な低[Cl曝露の後に観察された回復時間は対照条件で観察された回復時間より著しく長かった。
【0174】
これらの結果は、フロセミドの投与は細胞外空間の[Kの増加をもたらすことを証明する。脳組織の低[Cl培養液への曝露は直ちに1ないし2mMの[Kの上昇を誘発し、曝露期間中そのままであり、初期の興奮性の増大及びその後のCA1電場応答の消失と同時に起こった。低[Cl曝露中のこのCA1電場応答の消失はニューロン発火時間の脱同期化が原因である可能性が最も高い。意義深いことには、細胞体層と樹状層の両方での[Kの刺激喚起性増加は、CA1電場応答の低[Clによる完全なブロックの前後でほとんど同一であった。このデータは、同等の刺激喚起性シナプス駆動及び活動電位発生が対照条件と低[Clによる完全なブロックの後とで起こったことを示唆する。これらのデータはともに、塩素共輸送体アンタゴニストフロセミドの抗てんかん効果及び脱同期化効果が興奮性シナプス伝導への直接作用とは独立であり、興奮性の減退を伴わない集団活動の脱同期化の結果であることを証明する。
【0175】
(実施例14)
低塩素曝露中の細胞外pHの変化
フロセミドと低[Clのようなアニオン/塩素依存性共輸送体のアンタゴニストは、同期化された集団活動の維持に貢献する細胞外pHのトランシェントに影響を与えるかもしれない。ラット海馬脳スライス標本は、NaHCOが等モル量のHEPES(26mM)に置換されインターフェース型チャンバーが用いられたことを除いて、実施例13に記載の通り準備された。
【0176】
海馬脳スライス標本4枚において、連続した自発的バースト発生は実施例13に記載の通り100μM 4−AP含有培養液への曝露により誘発された。電場記録はCA1及びCA3領域の細胞体層から同時に取得された。実験継続中刺激は30秒毎にシャファー側枝に送達された。少なくとも20分連続バースト発生が観察された後、スライス標本は名目上重炭酸塩フリーの4−AP含有HEPES培養液に曝露された。HEPES培養液への持続的な曝露(0.2時間)からもたらされる自発性又は刺激喚起性の電場応答には、観察される有意な変化はなかった。前記スライス標本が少なくとも2時間HEPES培養液に曝露された後、灌流は[Clが21mMに減少された4−AP含有HEPES培養液に切り替えられた。前記低[ClHEPES培養液への曝露は、過去に低[ClNaHCO含有培養液で観察されたのと同一の事象の順序及び同じ時間経過を誘発した。自発的バースト発生の完全なブロックの後、灌流培養液は正常[Cl含有HEPES培養液に戻された。20ないし40分以内に自発的バースト発生が再開した。自発的バースト発生が再開した時には前記スライス標本は名目的に重炭酸塩フリーHEPES培養液に3時間以上灌流されていた。
【0177】
このデータは、同期化及び興奮性に対する塩素共輸送拮抗現象の作用は細胞外pHの変動(dynamics)への効果とは独立であることを示唆する。
【0178】
図4は減少された[Cl条件下でのイオン共輸送を示すモデルである。図4Aの左のパネルは、ニューロンのIPSPsの発生に必要な塩素勾配がフロセミド感受性のK、Cl共輸送体を通したイオンの流出によって維持されることを示す。正常条件下では、高濃度の細胞内カリウム(3Na、2KATPaseポンプにより維持される)は濃度勾配に対してClを排除するための駆動力としての役割を果たす。グリア細胞では、図4Aの右のパネルに示す通り、フロセミド感受性Na、K、2Cl共輸送体を通るイオンの移動は細胞外空間から細胞内空間へである。この共輸送に必要なイオン勾配は、部分的には、低濃度の細胞内ナトリウムを維持できるようにNa、K、2Cl共輸送体を通してグリア細胞に取り込まれたナトリウムイオンが常に3Na、2KATPaseポンプによって排除される、「膜間ナトリウムサイクル」によって維持される。フロセミド依存性共輸送体を通るイオンの流れの速度と方向は、ニューロンのK+、Cl共輸送体については([K x [Cl − [K x [Cl)と、グリアのNa、K、2Cl共輸送体については([Na x [K x [Cl − [Na x [K x [Clo)と書き表せるこのイオン産物の差と機能的に比例する。これらのイオン産物の差の符号は、正が細胞内空間から細胞外空間へという、イオン輸送の方向を示す。
【0179】
図4Bは、持続的な低[Cl曝露の結果として生じる、後期に起こる自発性電場事象の出現を説明する現象論的なモデルを示す。ニューロン及びグリアのイオン産物の差をそれぞれQN及びQGで表す。対照条件下(1)では、ニューロンについてのイオン産物の差はNa、K及びClが細胞内空間から細胞外空間へ共輸送されるようになり(QN>0)、グリア細胞についてのイオン産物の差はNa、K及びClが細胞外空間から細胞内コンパートメントへ共輸送されるようになる(QG<0)。[Clが減少されたとき(2)は、イオン産物の差はニューロンのKClの流出は増加するように変化するが、細胞内空間から細胞外空間へのKClとNaClの全体としての流出(net efflux)があるように(QG>0)グリアのイオン共輸送は逆転する。これらの変化は時とともに細胞外カリウムの蓄積をもたらす。やがて[Kはニューロン集団の脱分極を誘発するレベルに達し、さらに大きな[Kの蓄積をもたらす。この細胞外イオンの大量の蓄積は、KClが細胞外空間から細胞内空間へ移動するように(QN<0、QG<0)、イオン産物の差を逆転させるのに役立つ(3)。さらに細胞外カリウムが除去されることにより、やがて膜間イオン勾配は最初の状態に復帰する。この過程を循環することにより、反復的な負の電場事象が発生する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種類のカチオン−塩素共輸送体アンタゴニストを含む、片頭痛、発作、発作性障害、てんかん、てんかん重積状態及び痛みからなるグループから選択される中枢神経系の容態の治療用組成物。
【請求項2】
前記カチオン−塩素共輸送体アンタゴニストはNa2Cl共輸送体アンタゴニストである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記カチオン−塩素共輸送体アンタゴニストは、ループ利尿薬か、その類似体又は誘導体かである、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記ループ利尿薬は、フロセミドと、ブメタニドと、エタクリン酸と、それらの類似体及び誘導体とからなるグループから選択される、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
更にバルビツレートを含む、請求項1ないし4のいずれか1つに記載の組成物。
【請求項6】
更に抗発作組成物を含む、請求項1ないし5のいずれか1つに記載の組成物
【請求項7】
血液脳関門の通過を促進するように処方される、請求項1ないし6のいずれか1つに記載の組成物。
【請求項8】
更に血液脳関門透過性の増強剤の効果的な量を含む、請求項1ないし7のいずれか1つに記載の組成物。
【請求項9】
頭蓋内投与、局部的脳内投与、脊髄液への投与又は持続的放出投与のために処方される、請求項1ないし8のいずれか1つに記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5−A】
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【図6−A】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−6438(P2011−6438A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−178977(P2010−178977)
【出願日】平成22年8月9日(2010.8.9)
【分割の表示】特願2000−589672(P2000−589672)の分割
【原出願日】平成11年12月22日(1999.12.22)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.PENTIUM
2.UNIX
3.ウィンドウズ
【出願人】(501251264)シトスキャン サイエンシズ エルエルシー (1)
【出願人】(501251297)
【Fターム(参考)】