説明

中空柱状部品の製造方法

【課題】衝突特性に優れた形状を有する中空柱状部品を安価に量産することのできる方法を提供する。
【解決手段】天壁部11と、底壁部と、天壁部11とその両端でつながる一対の縦壁部13とを備え、縦壁部13のうち天壁部11への連結領域14には、外方に張り出した形状を呈する張り出し部15が形成されている中空柱状部品を製造する。その製造方法は、張り出し部15が形成される前の中間成形体30を形成する工程と、中間成形体30を上下の金型41・42で型締めして、中間成形体30の連結領域14に相当する部分32を外方に向けて座屈変形させることで、張り出し部15を成形する工程とを少なくとも含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空柱状部品の製造方法に関し、特に中空柱状部品のプレス成形に係る技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の安全性向上と軽量化による環境負荷低減を共に図るべく、ハイテン材や超ハイテン材と呼ばれる高強度鋼板の車体構造部品への適用が検討され始めている。しかしながら、この種の鋼板は一般的に高価であり、また、高剛性であるが故に加工性の面でも問題がある。そのため、上記鋼板の適用は、未だ限られた範囲に留まっているのが現状である。
【0003】
例えば、車体フレームを構成する中空柱状部品においては、この柱状部品を構成するハット型部材の断面における稜線の数を増やしたほうが衝突特性が向上することが知られている(例えば、下記非特許文献1を参照)。そのため、中空柱状部品の各々の壁部に凹凸を設けることで衝突性能の向上を図ることができる。例えば、断面略矩形の中空柱状部品の場合、上下壁部だけでなく、両側壁部にも溝状の凹部(ビード部)を長手方向に沿って形成したものが好適と考えられる。
【0004】
ここで、上記形状を有する部品を製作するための方法として、例えばロールフォーミングが考えられる。これは、加工対象となる金属板をタンデム状に配列された複数組の成形ロールに連続的に通過させ、順次成形加工を施すことによって平板から目的の断面形状を有する中空長尺部品を得る方法である。ロールフォーミングを利用した成形方法の一例として、例えば下記特許文献1には、高張力鋼板からなるドアフレームをロールフォーミングにより成形する方法が開示されている。
【0005】
また、その他の方法として、例えば下記特許文献2には、ハイドロフォーミングを利用してフロントサイドメンバー等の車体構造用筒状部材を製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−1453号公報
【特許文献2】特開平9−30345号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】「超高強度車体部品製造における冷間プレス,ロールフォーム,ホットスタンプ工法の特徴」自動車技術会 学術講演会前刷集 No.15-09,p.1〜p.5,2009年5月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、ロールフォーミングを利用した方法だと、原則、長手方向に一定の断面形状を有する部品しか作ることができない。また、その断面積(外寸法)が変化しても作ることができない。そのため、複雑な3次元形状を有することの多い車体構造部品に対しては適用範囲が限られる。
【0009】
また、上記特許文献2のように、ハイドロフォーミングを利用した方法だと、成形可能な断面形状の自由度はあるものの、液圧の負荷条件など制御が複雑で、かつ制御すべきパラメータの数も多い。また、必然的に複数の工程を経る必要があるため、サイクルタイムが長くなる。以上より、この方法では生産性の低下が懸念される。また、ハイドロフォーミングマシンは巨大で高価なことから、製造コストの高騰も避けられない。
【0010】
以上の事情に鑑み、本明細書では、衝突特性に優れた形状を有する中空柱状部品を安価に量産することのできる中空柱状部品の製造方法を提供することを、本発明により解決すべき技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、前記課題の解決を図るためになされたものである。すなわち、本発明に係る中空柱状部品の製造方法は、天壁部と、底壁部と、天壁部とその両端でつながる一対の縦壁部とを備え、縦壁部の天壁部への連結領域が外方に張り出している中空柱状部品の製造方法であって、張り出し部が形成される前の中間成形体を形成する工程と、中間成形体を上下の金型で型締めして、中間成形体のうち連結領域に相当する部分を外方に向けて座屈変形させることで、張り出し部を成形する工程とを含む点をもって特徴付けられる。
【0012】
以下、本発明に係る製造方法の概要を図面に基づき説明する。図10は、製造対象となる中空柱状部品110を示している。この中空柱状部品110は、天壁部111と、底壁部112と、天壁部111とその両端でつながる一対の縦壁部113・113とを備えており、縦壁部113のうち天壁部111への連結領域114が外方に張り出した形状を有する。言い換えると、縦壁部113の連結領域114には外方への張り出し部115が形成されている。上記形状の中空柱状部品110は、図8に示すように、まず張り出し部115を形成する前の中間成形体121を形成する工程と、この中間成形体121を上下の金型131・132を用いて所定の態様に型締め成形して、中間成形体121のうち連結領域に相当する部分123を外方に向けて座屈変形させることで、張り出し部115(図10を参照)を形成する工程とを少なくとも経ることで得られる。
【0013】
ここで、張り出し部115の形成工程について詳述すると、下型132に中間成形体121をセットした状態で型締め動作を開始して、上型131を下型132に向けて移動させていく。そして、図9(a)に示すように、上型131を、中間成形体121のうち天壁部111(図10を参照)に相当する部分122に押し当てることで、図9(b)に示すように、中間成形体121のうち連結領域114(図10を参照)に相当する部分123を外方に向けて座屈変形させる。このようにして、上記座屈変形を伴って型締め動作を続けることで、座屈変形した部分124が、上型131の内面に設けた張り出し部115を成形するための成形面133に押し当てられ、当該成形面133に沿うように変形する。従って、最終的には、図9(c)に示すように、座屈変形した部分124が、成形面133に準じた形状に成形され、張り出し部115が成形される。
【0014】
このように、本発明では、型締めにより、中間成形体のうち縦壁部の連結領域に相当する部分を外方に向けて座屈変形させることで、張り出し部を成形することを特徴とする。そのため、型締めした状態で、ワーク(中間成形体)が座屈変形可能なスペースを設けておくことで、上下の金型の型締め動作のみで容易に縦壁部から外方に張り出した部分を成形することができる。従って、この方法によれば、縦壁部を衝突特性に優れた形状とすることができる。また、上記の張り出し部の成形は、上記金型の型締め動作のみで得られるため、当該金型の内面形状しだいで任意の形状の張り出し部を成形することができる。また、同様に、金型の形状しだいで張り出し部を長手方向の一部のみに設けることもできる。よって、ロールフォーミングに比べて自由度の高い成形が可能となる。また、金型の形状を一部変更するだけで、汎用のプレス装置を用いることができるので、設備投資に要する費用を抑えることができ、かつ、型締め動作のみで張り出し部を成形可能なことからサイクルタイムも短くて済む。よって、低コストに生産性を高めることが可能となる。
【0015】
この場合、上型に、下型との型締め動作により中間成形体の縦壁部に相当する部分の内方に向けてスライドするスライド型を設け、型締め動作によりスライド型をスライドさせて、中間成形体のうち張り出し部に相当する部分に隣接する領域を内方に押し込むことで、張り出し部の底壁部側のコーナー部を成形するようにしてもよい。
【0016】
このように、型締め動作に伴ってスライドするスライド型を用いて、張り出し部の底壁部側のコーナー部を成形するようにすれば、スライド型により押し込まれた分だけ、張り出し部の外方への張り出し量が増える。よって、座屈変形のみで外方に張出す分と併せて、縦壁部からの外方への張り出し量を大きくすることができる。また、型締め動作に伴い上記の方向に向けてスライドするスライド型であれば、型開き時には、自動的に(又は他のスライド手段により容易に)スライド型を縦壁部から離隔する向きにスライドさせることができる。そのため、張り出し部とスライド型とが干渉するのを極力避けて成形体を金型から取出すことができる。
【0017】
また、例えば図8のように、いわゆるハット状に成形したもの(中間成形体)に対して張り出し部を成形する場合であれば、上述のように張り出し部に相当する部分に隣接する領域を内方に押し込むことで、張り出し部の上記コーナー部に相当する部分をしっかりと折り曲げて成形することができる。そのため、型開きの際、スプリングバックが過大となったり、スプリングバックの量にばらつきが生じる事態をできる限り防止して、高精度の張り出し部を成形することができる。
【0018】
また、上記のようにスライド型を設ける場合、型締め動作を開始して先にコーナー部を成形し、次いで、上型を中間成形体のうち天壁部に相当する部分に押し当てることで、連結領域に相当する部分を外方に向けて座屈変形させるようにしてもよい。
【0019】
このように、張り出し部が形成される連結領域に相当する部分を座屈変形させる前に、上記コーナー部を成形しておくことで、当該座屈変形を常に外方に向けて座屈変形させることができる。また、予め張り出し部の一部(コーナー部)が成形されているので、座屈変形させた部分を容易に(上型の内側に設けた)成形面に沿って変形させることができる。よって、その成形精度も向上する。また、座屈変形それ自体は比較的確実性に乏しい変形態様であるが、上記のように予め張り出し部の一部(コーナー部)をスライド型で押し曲げて成形しておくことで、座屈変形及びこの変形に伴う張り出し部の成形を再現性よく実施することができる。
【発明の効果】
【0020】
以上のように、本発明に係る製造方法によれば、衝突特性に優れた形状を有する中空柱状部品を安価に量産することができる。
【0021】
また、本発明に係る製造方法であれば、長手方向で断面形状が変化する中空柱状部品であっても容易に製造することができるので、複雑な3次元形状を有する自動車の構造部品にも本発明を適用して、安価に当該部品を量産することができる。もちろん、衝突性能が向上すれば板厚を薄くできるので、その分の軽量化を図ることができる。あるいは、使用する材料(金属板など)のグレードを下げることができるので、これによっても製造コストの低減化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態に係る中空柱状部品の製造方法の概要を説明するための図であって、張り出し部を形成する前の中間成形体を形成する工程に使用する金型の断面図である。
【図2】中間成形体に張り出し部を形成する工程に使用する金型の断面図である。
【図3】図2に示す金型のスライド型が内方に向けてスライドを開始する状態における金型の断面図である。
【図4】図3に示すスライド型のスライド動作が完了すると共に、上型による中間成形体の型締め方向への押圧が開始された状態における金型の断面図である。
【図5】金型の型締めが完了して張り出し部が形成された状態における金型の断面図である。
【図6】図3から図5に至る間に行われる張り出し部の成形態様を説明するための図であって、(a)は縦壁部の連結領域に相当する部分の座屈変形が開始された時点の金型の要部断面図、(b)は座屈変形している最中の金型の要部断面図、(c)は座屈変形が終了して張り出し部が成形された時点の金型の要部断面図である。
【図7】図1〜図6に示す金型を用いて製造された中空柱状部品の断面図である。
【図8】本発明に係る製造方法を説明するための図であって、中間成形体に張り出し部を成形する工程に使用する金型の断面図である。
【図9】図8に示す金型の型締めに伴って行われる張り出し部の成形態様を説明するための図であって、(a)は縦壁部の連結領域に相当する部分の座屈変形が開始された時点の金型の要部断面図、(b)は座屈変形している最中の金型の要部断面図、(c)は座屈変形が終了して張り出し部が成形された時点の金型の要部断面図である。
【図10】図8および図9に示す金型を用いて製造された中空柱状部品の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係る中空柱状部品の製造方法の一実施形態を図面に基づき説明する。なお、以下の説明における『上下』方向は、単に各図における金型の型締め方向に即して規定したものであって、構成要素間の位置関係を容易に理解するために規定したに過ぎない。よって、後述するハット状部材ないし中空柱状部品の車体における設置方向や使用態様、あるいは他部品への組付け方向等を特定するものではない。「天」と「底」の方向についても同様である。
【0024】
図7は、本発明の一実施形態に係る中空柱状部品の製造方法により製造される中空柱状部品の断面図を示している。この図に示す中空柱状部品10は、天壁部11と、底壁部12と、天壁部11とその両端でつながる一対の縦壁部13・13とを備えている。また、縦壁部13のうち天壁部11への連結領域14には、外方に張り出した形状を呈する張り出し部15が形成されている。この実施形態では、左右双方の縦壁部13にそれぞれ張り出し部15が形成されている。また、双方の縦壁部13のうち底壁部12側の領域には、段差を介して縦壁部13の外方に向けて突出した外方突出部13aが設けられている。これにより、張り出し部15と外方突出部13aとの間に、凹溝状をなすビード部が中空柱状部品10の長手方向に沿って形成されるようになっている。このような構造とすることで、中空柱状部品10を高強度化・高剛性化して、衝突特性を向上させることが可能となる。同様に、天壁部11の左右の縦壁部13への連結領域には、天壁部11の外方に向けて突出した外方突出部11aがそれぞれ設けられており、これら外方突出部11a・11aの間に、凹溝状をなすビード部が形成されるようになっている。さらに底壁部12の左右の縦壁部13側の領域にも、底壁部12の外方に向けて突出した外方突出部12aがそれぞれ設けられており、これら外方突出部12a・12aの間に、凹溝状をなすビード部が形成されるようになっている。
【0025】
また、この実施形態では、天壁部11と一対の縦壁部13・13とが一体かつハット状に形成されている。そして、このハット状部材16と底壁部12とが別体に形成された後、縦壁部13の連結領域14とは反対側の端部に設けた板状の延設部13bと、底壁部12の左右両端に設けた板状の延設部12bとを重ね合わせて例えばスポット溶接等で固定することで、ハット状部材16と底壁部12とが一体化され、中空柱状部品10が形作られる。よって、本実施形態においては、中空柱状部品10は、張り出し部15が形成される前の中間成形体を形成する工程と、中間成形体を上下の金型で型締めして、中間成形体の連結領域14に相当する部分を外方に向けて座屈変形させることで、張り出し部15を成形し、これによりハット状部材16を形成する工程と、ハット状部材16と別体に形成した底壁部12を一体化する工程とを少なくとも経て製造される。以下、中空柱状部品10のハット状部材16を形成するための工程を、特に張り出し部15の成形態様を中心に説明する。
【0026】
まず、図1に示すように、中間成形体を成形するための成形金型21・22の間に、予備成形体20をセットし、これに対して型締めを行うことで、予備成形体20を図2に示す形状の中間成形体30に成形する(中間成形体の形成工程)。
【0027】
このようにして、略ハット状をなす中間成形体30を得た後、この中間成形体30を、図2に示す金型41・42の間にセットし、これら上下の金型41・42の型締めを行う。これにより、中間成形体30に(図7に示す柱状柱状部品10の張り出し部15を中間成形体30に形成する。この実施形態では、張り出し部15を含むハット状部材16を金型41・42の型締めにより成形する(ハット状部材の形成工程)。
【0028】
ここで、中間成形体30は、図2に示すように略ハット状をなすもので、中空柱状部品10のうち天壁部11に相当する部分31と、縦壁部13に相当する部分33と、縦壁部13の天壁部11への連結領域14に相当する部分32と、底壁部12との連結部分となる板状延設部13bとを一体に有する。そして、下型42に板状延設部13bを当接させた状態で下型42を覆うように中間成形体30がセットされる。
【0029】
上下の金型41・42は、張り出し部15となる一部分を除いて、中間成形体30の大部分をプレス成形するためのものである。ここで、上型41の下面には、中間成形体30のうち後述する座屈変形させた部分34に押し当てることで、張り出し部15の上側部分を成形するための第1成形面41aが設けられている。この実施形態では、天壁部11の幅方向両側(図2で言えば左右両側)に対応する位置に第1成形面41aが設けられている。また、幅方向両側に設けた第1成形面41a・41aの間には、中間成形体30のうち天壁部11に相当する部分31を所定形状にプレス成形するための第2成形面41bが設けられている。従って、下型42の上面には、第2成形面41bに対応して、この第2成形面41bとの間で天壁部11に相当する部分31をプレス成形するための第1成形面42aが設けられている。この実施形態では、第2成形面41bは、その幅方向両側に位置する第1成形面41a・41aとつながっており、金型41・42の型締めにより、張り出し部15の上側部分と、外方突出部11a・11aを幅方向両側に有する天壁部11とを連続的かつ滑らかに成形できるようになっている。
【0030】
上型41の下部には、上型41に対して型締め方向とは異なる向き、ここでは中間成形体30の縦壁部13に相当する部分33の内外方向(板厚方向)に沿ってスライド可能なスライド型43が取付けられている。このスライド型43は、例えばスライドカム機構を介して上型41に取付けられており、上型41の型締め動作に伴い上型41と一体に下降すると共に、下型42と当接した時点から、上型41の下降に伴い縦壁部13に相当する部分33の内方に向けてスライドを開始するようになっている。また、型開き時には、上型41の上昇に伴いスライド型43が縦壁部13から外方に離隔する向きにスライドを開始し、所定量外方にスライドした時点で上型41と一体に上昇を開始するようになっている。なお、この際の外方へのスライド量は、上型41と一体に上昇した際、成形品としてのハット状部材16と型締め方向で干渉しない程度の大きさに設定される。
【0031】
スライド型43の内面には、中間成形体30のうち後述する座屈変形させた部分34に押し当てることで、張り出し部15の下側部分を成形するための第1成形面43aが設けられている。また、第1成形面43aの内方側には、張り出し部15の底壁部12寄りのコーナー部17(図7を参照)をプレス成形するための第2成形面43bが設けられると共に、第2成形面43bの下側には、張り出し部15およびそのコーナー部17を除いて、外方突出部13aを含む縦壁部13をプレス成形するための第3成形面43cがそれぞれ設けられている。よって、下型42の外面には、第2成形面43bに対応して、この第2成形面43bとの間でコーナー部17をプレス成形するための第2成形面42bが設けられている。また、第2成形面42bとその下側で隣接する部分には、スライド型43の第3成形面43cに対応して、この第3成形面43cとの間で上記範囲の縦壁部13をプレス成形するための第3成形面42cが設けられている。
【0032】
以下、上記構成の金型41・42およびスライド型43を用いて、張り出し部15及び張り出し部15を含むハット状部材16を成形する工程を図面に基づき説明する。
【0033】
まず、図2に示すように、下型42及び下型42にセットした中間成形体30の上方に上型41とスライド型43を配置した状態から、型締め動作を開始して、上型41及びスライド型43を一体に下降させる。そして、図3に示すように、スライド型43が下型42又は下型42にセットした中間成形体30の板状延設部13bと当接すると、上型41の下降動作に伴い、スライド型43が中間成形体30の縦壁部13に相当する部分33の内方に向けてスライドを開始する。この際、上型41の下面の幅方向中央に設けた第2成形面41bは、中間成形体30の天壁部11に相当する部分31よりも上方に位置している(天壁部11に相当する部分31とは当接していない)。そして、スライド型43を縦壁部13に相当する部分33に押し当てると共に、スライド型43に設けた第2成形面43bと下型42に設けた第2成形面42bとで、連結領域14に相当する部分32とその下側で隣接する領域との境界部分を押し曲げる。これにより、図4及び図6(a)に示すように、張り出し部15のコーナー部17がプレス成形される。また、図4に示すように、スライド型43に設けた第3成形面43cで外方突出部13aを含む縦壁部13(連結領域14を除く)に相当する部分を内方に押し込んで、下型42に設けた対応する第3成形面42cとで外方突出部13aを有する縦壁部13をプレス成形する。
【0034】
なお、この際、スライド型43は、図3に示すように、中間成形体30の板状延設部13bを下型42とで挟持した状態で、第2成形面43b・42bによるプレス成形を行うようにしているので、縦壁部13に相当する部分33の位置ずれを防いでコーナー部17の押し曲げ成形を精度よく行うことができる。もちろん、板状延設部13bよりも連結領域14寄りに位置する部分(連結領域14を除く縦壁部13)についてもその位置ずれを防いで高精度にプレス成形することができる。
【0035】
そして、図4に示すように、スライド型43と下型42の第2成形面43b・42bで張り出し部15の上記コーナー部17を成形した後、上型41を引き続き下降させてその第2成形面41bを天壁部11に相当する部分31に押し当てる。この押し当てるタイミングは、第2成形面43b・42bによるコーナー部17のプレス成形が完了した時点又はそれ以後であることが望ましい。これにより、双方の縦壁部13の天壁部11との連結領域14に相当する部分32を外方に向けて座屈変形させて、その外側に設けた上型41の第1成形面41aおよびスライド型43の第1成形面43aで張り出し部15を成形する。以下、張り出し部15の成形態様を図6に基づき説明する。
【0036】
まず、図6(a)に示すように、上型41を下降させて、上型41の第2成形面41bを中間成形体30のうち天壁部11に相当する部分31に押し当てる。これにより、型締め方向に延び、天壁部11とその両側でつながる縦壁部13の連結領域14に相当する部分32を型締め方向に圧縮する。この際、金型41・42による型締め力を、連結領域14に相当する部分32に座屈を発生させ得る大きさ以上とすることで、図6(b)に示すように、中間成形体30の連結領域14に相当する部分32を外方に向けて座屈変形させる。これにより、座屈変形させた部分34が外方に大きく膨らんでスライド型43の第1成形面43aに押し当てられ、この第1成形面43aに沿うようにして徐々に張り出し部15が成形されていく。そして、さらに型締め動作を続けることで、座屈変形させた部分34が上型41の第1成形面41aにも押し当てられ、この第1成形面41aに沿うようにして徐々に張り出し部15が成形されていく。そして、図6(c)に示すように、上型41の第2成形面41bと、対応する下型42の第1成形面42aとで外方突出部11aを有する天壁部11をプレス成形し終えた時点で、座屈変形させた部分34の全てが双方の第1成形面43a・41aに押し当てられる。これにより、張り出し部15が第1成形面43a・41aのみで成形されると共に、張り出し部15以外の箇所も同時にプレス成形され(厳密には、天壁部11の外方突出部11aの連結領域14寄りの一部は、第2成形面42aのみで成形され)、図5又は図7に示すハット状部材16が成形される。この際、張り出し部15の内方には所定のスペースが残るようになっている。
【0037】
以上のようにして張り出し部15を有するハット状部材16を成形した後、上下の金型41・42を型開きすることで、ハット状部材16を金型41・42から取出す。具体的には、型開き動作に伴いスライド型43を縦壁部13から離隔する向きにスライドさせる。そして、スライド型43と張り出し部15とが型締め方向で干渉しない位置までスライド型43をスライドさせた時点でスライド型43が上型41と一体に上昇を開始する。そうして上型41及びスライド型43をハット状部材16の上方に退避させた上で、ハット状部材16を下型42に対して上方に抜き出すことで、上下の金型41・42からハット状部材16を取出すことができる。
【0038】
なお、この実施形態のように、スライド型43と下型42に設けた第2成形面43b・42bで張り出し部15の底壁部12側のコーナー部17を押し曲げて成形する場合でも、張り出し部15ないしコーナー部17の拡開する向きのスプリングバックにより無理抜きすることなくハット状部材16を離型できる。下型42と張り出し部15との干渉が僅かであれば、無理抜きすることも可能である。もちろん、無理抜きによりハット状部材16の品質低下につながるのであれば、第2成形面43b・42bでコーナー部17を押し曲げて成形せずともよい(図8および図9を参照)。
【0039】
以上、本発明に係る中空柱状部品の製造方法の一実施形態を説明したが、この製造方法は、上記例示の形態に限定されることなく、本発明の範囲内において任意の形態を採り得る。
【0040】
例えば、上記実施形態では、張り出し部15を、図7に示すように、その両側に角部を有する断面形状としたが、上型41やスライド型43の第1成形面43a・41aの形状を工夫することで、例えば一方側にR部を有する形態など種々の断面形状を有する張り出し部15を成形することができる。そのため、図7では張り出し部15とその反対側に位置する外方突出部13aとの間に形成されるビード部に関しても、種々の形状、サイズを成形することが可能となる。
【0041】
また、上記実施形態では、上型41の第1成形面41aおよびスライド型43の第1成形面43aとで張り出し部15を成形するようにしたが、何れか一方の成形面のみで成形することも可能である。
【0042】
また、以上の説明に係る張り出し部15は、上記例示の如く、双方の縦壁部13の天壁部11との連結領域14に成形する他、上型41やスライド型43の内面形状、および下型42の外面形状を工夫することで、一方の縦壁部13の連結領域14のみにを設けることも可能である。もちろん、同様の工夫により、張り出し部15を中空柱状部品10(又はハット状部材16)の長手方向の一部のみに成形することもでき、あるいは張り出し部15の断面形状を長手方向で変化させることも可能である。もちろん、張り出し部15以外の部位(外方突出部11a・12a・13a)は原則プレス成形されるので、当然にその断面形状ないし外寸法(断面積)を長手方向で変化させることは可能である。
【0043】
また、この実施形態では、図7に例示のように、中空柱状部品10をハット状部材16と底壁部12とで構成する場合を例にとり、ハット状部材16に張り出し部15を成形する場合を説明したが、天壁部11と底壁部12、および一対の縦壁部13を一体に有する中空柱状部品10に対しても、本発明に係る製造方法を適用することは可能である(例えば図10を参照)。
【0044】
また、成形対象となる中間成形体30(予備成形体20)の材質、ないし厚みに関しても、外方への座屈変形により張り出し部15を成形可能な限りにおいて特に限定されないことはもちろんである。例えば、鋼板に関して言えば、一般的な軟鋼板だけでなく、いわゆるハイテン材(340MPa級以上)や超ハイテン材(780MPa級以上)と呼ばれる高強度鋼板に対して本発明に係る製造方法を適用することが可能である。また、鋼板以外の金属板(例えばアルミ二ウムや銅など。めっき板も含む)に対しても本製造方法を適用することができる。このように、種々の材質、厚みを有する金属板からなる中間成形体30(予備成形体20)から張り出し部15を有する中空柱状部品10を製造できるので、例えばセンターピラーやフロントピラー、ロッカー、サイドメンバーなど種々の車体構造部品の製造に本発明を適用することが可能となる。
【0045】
また、上記以外の事項についても、本発明の技術的意義を没却しない限りにおいて他の具体的形態を採り得ることはもちろんである。
【符号の説明】
【0046】
10・110 中空柱状部品
11・111 天壁部
12・112 底壁部
13・113 縦壁部
11a・12a・13a 外方突出部
13b 板状延設部
14・114 連結領域
15・115 張り出し部
16 ハット状部材
17 コーナー部
20 予備成形体
30・120 中間成形体
31・121 天壁部に相当する部分
32・122 連結領域に相当する部分
33・123 連結領域を除いた縦壁部に相当する部分
34 座屈変形させた部分
41・131 上型
42・132 下型
43 スライド型
41a・43a 第1成形面
42b・43b 第2成形面
42c・43c 第3成形面
133 成形面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天壁部と、底壁部と、前記天壁部とその両端でつながる一対の縦壁部とを備え、該縦壁部の前記天壁部への連結領域が外方に張り出している中空柱状部品の製造方法であって、
前記張り出し部が形成される前の中間成形体を形成する工程と、
前記中間成形体を上下の金型で型締めして、前記中間成形体のうち前記連結領域に相当する部分を外方に向けて座屈変形させることで、前記張り出し部を成形する工程とを含むことを特徴とする中空柱状部品の製造方法。
【請求項2】
前記上型に、前記下型との型締め動作により前記中間成形体の前記縦壁部に相当する部分の内方に向けてスライドするスライド型を設け、
前記型締め動作により前記スライド型をスライドさせて、前記中間成形体のうち前記張り出し部に相当する部分に隣接する領域を内方に押し込むことで、前記張り出し部の前記底壁部側のコーナー部を成形する請求項1に記載の中空柱状部品の製造方法。
【請求項3】
前記型締め動作を開始して先に前記コーナー部を成形し、次いで、前記上型を前記中間成形体のうち前記天壁部に相当する部分に押し当てることで、前記連結領域に相当する部分を外方に向けて座屈変形させる請求項2に記載の中空柱状部品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−67841(P2011−67841A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−221261(P2009−221261)
【出願日】平成21年9月25日(2009.9.25)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】