説明

中空樹脂筐体用樹脂組成物および中空樹脂筐体

【課題】半導体チップを内部に収容する中空樹脂筐体において、高湿度環境下での半導体チップの信頼性の低下を抑制する樹脂組成物を提供する。
【解決手段】樹脂組成物は、液晶ポリエステルとフィラーとを含む。この液晶ポリエステルは、式(1)で表される繰返し単位と、式(2)で表される繰返し単位と、式(3)で表される繰返し単位とを有し、2,6−ナフチレン基を含む繰返し単位の含有量が、全繰返し単位の合計量に対して、40モル%以上である液晶ポリエステルである。(1)−O−Ar1−CO−(2)−CO−Ar2−CO−(3)−O−Ar3−O−(Ar1は、2,6−ナフチレン基、1,4−フェニレン基または4,4’−ビフェニリレン基を表す。Ar2およびAr3は、それぞれ独立に、2,6−ナフチレン基、1,4−フェニレン基、1,3−フェニレン基または4,4’−ビフェニリレン基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体チップを内部に収容するための中空樹脂筐体の成形に用いられる樹脂組成物、つまり中空樹脂筐体用樹脂組成物と、この中空樹脂筐体用樹脂組成物から成形される中空樹脂筐体とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、次世代の電子デバイス技術として、小型のアクチュエータ、各種のセンサー(例えば、イメージセンサー、加速度センサー)などに関するMEMS(メムス、Micro Electro Mechanical Systems)技術が期待されている。このMEMS技術が用いられた小型のアクチュエータ、各種のセンサーなどの半導体素子においては、中空筐体の内部に半導体チップが収容されている。この中空筐体は、一般に、半導体チップを載置するための容器部に蓋部が封着されて内部が気密封止された構造を有している。
【0003】
そして、このような中空筐体の材質としては、従来からの金属、セラミックス、ガラスその他に加えて、最近では合成樹脂が注目されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表平9−510930号公報
【特許文献2】特許第4214730号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、こうした合成樹脂製の中空筐体、つまり中空樹脂筐体を高湿度雰囲気下で使用するような用途分野においては、その材質が汎用の合成樹脂である場合、この中空樹脂筐体(容器部および蓋部)を通して外部から内部へ吸湿する。その結果、中空樹脂筐体の内部の湿度が高くなるため、内部の半導体チップが錆びて寿命が短くなり、半導体チップの信頼性が低下する恐れがあった。
【0006】
そこで、本発明は、このような事情に鑑み、高湿度環境にさらされても、半導体チップの信頼性の低下を抑制することが可能な中空樹脂筐体用樹脂組成物および中空樹脂筐体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成するため、本発明者は、鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、請求項1に記載の発明は、半導体チップを内部に収容するための中空樹脂筐体の成形に用いられ、液晶ポリエステルとフィラーとを含む中空樹脂筐体用樹脂組成物であって、前記液晶ポリエステルが、下記式(1)で表される繰返し単位と、下記式(2)で表される繰返し単位と、下記式(3)で表される繰返し単位とを有し、2,6−ナフチレン基を含む繰返し単位の含有量が、全繰返し単位の合計量に対して、40モル%以上である液晶ポリエステルであることを特徴としている。
(1)−O−Ar1 −CO−
(2)−CO−Ar2 −CO−
(3)−O−Ar3 −O−
(Ar1 は、2,6−ナフチレン基、1,4−フェニレン基または4,4’−ビフェニリレン基を表す。Ar2 およびAr3 は、それぞれ独立に、2,6−ナフチレン基、1,4−フェニレン基、1,3−フェニレン基または4,4’−ビフェニリレン基を表す。Ar1 、Ar2 またはAr3 で表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基またはアリール基で置換されていてもよい。)
【0009】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の構成に加え、前記フィラーの配合量が、前記液晶ポリエステル100質量部に対して10〜100質量部の範囲内であることを特徴としている。
【0010】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の中空樹脂筐体用樹脂組成物を溶融成形して得たことを特徴としている。
【0011】
さらに、請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の構成に加え、前記半導体チップを載置するための容器部に蓋部が封着されて内部が気密封止された構造を有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、中空樹脂筐体の材質が、特定のモノマー単位を有する液晶ポリエステルを含む樹脂組成物であるため、中空樹脂筐体が高湿度環境にさらされても、この中空樹脂筐体の内部に収容された半導体チップの信頼性の低下を抑制することができる。
【0013】
したがって、本発明に係る中空樹脂筐体用樹脂組成物および中空樹脂筐体は、これから樹脂化が進むと予想されるMEMS関連分野を始めとして、高湿度環境下で使用するような用途分野において、極めて有用となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態1に係る中空樹脂筐体を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
[発明の実施の形態1]
【0016】
図1には、本発明の実施の形態1を示す。
【0017】
この実施の形態1に係る中空樹脂筐体1は、図1に示すように、六面体状の容器部2を有しており、容器部2内には半導体チップ4が載置されている。また、容器部2の上側には長方形板状の蓋部3がレーザー溶着で封着されている。そのため、中空樹脂筐体1の内部は、容器部2および蓋部3によって気密封止された状態となっている。
【0018】
ここで、容器部2および蓋部3はいずれも、液晶ポリエステル樹脂組成物を溶融成形して得たものである。この液晶ポリエステル樹脂組成物は、以下に述べる特定のモノマー単位(繰返し単位)を有する液晶ポリエステルに、フィラー(充填剤)その他の成分を配合したものである。
【0019】
すなわち、この液晶ポリエステルは、溶融時に光学異方性を示すポリエステルであり、下記式(1)で表される繰返し単位(以下、繰返し単位(1)という。)と、下記式(2)で表される繰返し単位(以下、繰返し単位(2)という。)と、下記式(3)で表される繰返し単位(以下、繰返し単位(3)という。)とを有するものである。
(1)−O−Ar1 −CO−
(2)−CO−Ar2 −CO−
(3)−O−Ar3 −O−
(Ar1 は、2,6−ナフチレン基、1,4−フェニレン基または4,4’−ビフェニリレン基を表す。Ar2 およびAr3 は、それぞれ独立に、2,6−ナフチレン基、1,4−フェニレン基、1,3−フェニレン基または4,4’−ビフェニリレン基を表す。Ar1 、Ar2 またはAr3 で表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基またはアリール基で置換されていてもよい。)
【0020】
前記ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子が挙げられる。前記アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、n−ヘキシル基、2−エチルヘキシル基、n−オクチル基およびn−デシル基が挙げられ、その炭素数は、通常1〜10である。前記アリール基の例としては、フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、1−ナフチル基および2−ナフチル基が挙げられ、その炭素数は、通常6〜20である。前記水素原子がこれらの基で置換されている場合、その数は、Ar1 、Ar2 またはAr3 で表される前記基ごとに、それぞれ独立に、通常2個以下であり、好ましくは1個以下である。
【0021】
繰返し単位(1)は、所定の芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する繰返し単位である。繰返し単位(1)としては、Ar1 が2、6−ナフチレン基であるもの、すなわち6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸に由来する繰返し単位が好ましい。
【0022】
繰返し単位(2)は、所定の芳香族ジカルボン酸に由来する繰返し単位である。繰返し単位(2)としては、Ar2 が2,6−ナフチレン基であるもの、すなわち2,6−ナフタレンジカルボン酸に由来する繰返し単位、およびAr2 が1,4−フェニレン基であるもの、すなわちテレフタル酸に由来する繰返し単位が好ましい。
【0023】
繰返し単位(3)は、所定の芳香族ジオールに由来する繰返し単位である。繰返し単位(3)としては、Ar3 が1,4−フェニレン基であるもの、すなわちヒドロキノンに由来する繰返し単位、およびAr3 が4,4’−ビフェニリレン基であるもの、すなわち4,4’−ジヒドロキシビフェニルに由来する繰返し単位が好ましい。
【0024】
液晶ポリエステル中、2,6−ナフチレン基を含む繰返し単位の含有量、すなわち、Ar1 が2,6−ナフチレン基である繰返し単位(1)、Ar2 が2,6−ナフチレン基である繰返し単位(2)、およびAr3 が2,6−ナフチレン基である繰返し単位(3)の合計含有量は、全繰返し単位の合計量(液晶ポリエステルを構成する各繰返し単位の質量を各繰返し単位の式量で割ることにより、各繰返し単位の物質量相当量(モル)を求め、それらを合計した値)に対して、40モル%以上である。かかる所定の繰返し単位組成を有する液晶ポリエステルをフィルム化することにより、水蒸気バリア性に優れる液晶ポリエステルフィルムを得ることができる。この2,6−ナフチレン基の含有量は、好ましくは50モル%以上、より好ましくは60モル%以上、さらに好ましくは70モル%以上である。
【0025】
また、液晶ポリエステル中、繰返し単位(1)の含有量は、全繰返し単位の合計量に対して、好ましくは30〜80モル%、より好ましくは40〜70モル%、さらに好ましくは45〜65モル%であり、繰返し単位(2)の含有量は、全繰返し単位の合計量に対して、好ましくは10〜35モル%、より好ましくは15〜30モル%、さらに好ましくは17.5〜27.5モル%であり、繰返し単位(3)の含有量は、全繰返し単位の合計量に対して、好ましくは10〜35モル%、より好ましくは15〜30モル%、さらに好ましくは17.5〜27.5モル%である。このような所定の繰返し単位組成を有する液晶ポリエステルは、耐熱性と成形性とのバランスに優れている。なお、繰返し単位(2)の含有量と繰返し単位(3)の含有量とは、実質的に等しいことが好ましい。また、液晶ポリエステルは、必要に応じて、繰返し単位(1)〜(3)以外の繰返し単位を有していてもよいが、その含有量は、全繰返し単位の合計量に対して、通常10モル%以下、好ましくは5モル%以下である。
【0026】
耐熱性や溶融張力が高い液晶ポリエステルの典型的な例は、全繰返し単位の合計量に対して、Ar1 が2、6−ナフチレン基である繰返し単位(1)、すなわち6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸に由来する繰返し単位を、好ましくは40〜74.8モル%、より好ましくは40〜64.5モル%、さらに好ましくは50〜58モル%有し、Ar2 が2,6−ナフチレン基である繰返し単位(2)、すなわち2,6−ナフタレンジカルボン酸に由来する繰返し単位を、好ましくは12.5〜30モル%、より好ましくは17.5〜30モル%、さらに好ましくは20〜25モル%有し、Ar2 が1,4−フェニレン基である繰返し単位(2)、すなわちテレフタル酸に由来する繰返し単位を、好ましくは0.2〜15モル%、より好ましくは0.5〜12モル%、さらに好ましくは2〜10モル%有し、Ar3 が1,4−フェニレン基である繰返し単位(3)、すなわちヒドロキノンに由来する繰返し単位を、好ましくは12.5〜30モル%、より好ましくは17.5〜30モル%、さらに好ましくは20〜25モル%有し、かつ、Ar2 が2,6−ナフチレン基である繰返し単位(2)の含有量が、Ar2 が2,6−ナフチレン基である繰返し単位(2)およびAr2 が1,4−フェニレン基である繰返し単位(2)の合計含有量に対して、好ましくは0.5モル倍以上、より好ましくは0.6モル倍以上のものである。
【0027】
液晶ポリエステルは、繰返し単位(1)を与えるモノマー、すなわち所定の芳香族ヒドロキシカルボン酸と、繰返し単位(2)を与えるモノマー、すなわち所定の芳香族ジカルボン酸と、繰返し単位(3)を与えるモノマー、すなわち所定の芳香族ジオールとを、2,6−ナフチレン基を有するモノマーの合計量、すなわち6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸および2,6−ナフタレンジオールの合計量が、全モノマーの合計量に対して、40モル%以上になるようにして、重合(重縮合)させることにより、製造することができる。その際、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸および芳香族ジオールは、それぞれ独立に、その一部または全部に代えて、その重合可能な誘導体を用いてもよい。芳香族ヒドロキシカルボン酸および芳香族ジカルボン酸のようなカルボキシル基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、カルボキシル基をアルコキシカルボニル基またはアリールオキシカルボニル基に変換してなるもの、カルボキシル基をハロホルミル基に変換してなるもの、カルボキシル基をアシルオキシカルボニル基に変換してなるものが挙げられる。芳香族ヒドロキシカルボン酸および芳香族ジオールのようなヒドロキシル基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、ヒドロキシル基をアシル化してアシルオキシル基に変換してなるものが挙げられる。
【0028】
また、液晶ポリエステルは、モノマーを溶融重合させ、得られた重合物(プレポリマー)を固相重合させることにより、製造することが好ましい。これにより、耐熱性や溶融張力が高い液晶ポリエステルを操作性良く製造することができる。この溶融重合は、触媒の存在下に行ってもよい。この触媒の例としては、酢酸マグネシウム、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸鉛、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、三酸化アンチモンなどの金属化合物や、N,N−ジメチルアミノピリジン、N−メチルイミダゾールなどの含窒素複素環式化合物が挙げられ、これらの中でも含窒素複素環式化合物が好ましく用いられる。
【0029】
液晶ポリエステルは、その流動開始温度が、好ましくは280℃以上、より好ましくは290℃以上、さらに好ましくは295℃以上であり、また、通常380℃以下、好ましくは350℃以下である。流動開始温度が高いほど、耐熱性や溶融張力が向上しやすいが、あまり高いと、溶融させるために高温を要し、成形時に熱劣化しやすくなる。
【0030】
なお、この流動開始温度は、フロー温度または流動温度とも呼ばれ、内径1mm、長さ10mmのノズルを持つ毛細管レオメータを用い、9.8MPa(100kgf/cm2 )の荷重下において、昇温速度4℃/分で液晶ポリエステルの加熱溶融体をノズルから押し出すときに、溶融粘度が4800Pa・s(48000ポアズ)を示す温度であり、液晶ポリエステルの分子量の目安となるものである(例えば、小出直之編「液晶ポリマー−合成・成形・応用−」第95〜105頁、(株)シーエムシー出版、1987年6月5日発行を参照)。
【0031】
液晶ポリエステルには、必要に応じて、液晶ポリエステルの成形加工性を著しく損なわない範囲で、また、得られる成形体が必要とする特性を損なわない範囲で、他の成分を適量配合して組成物、つまり液晶ポリエステル樹脂組成物としてもよい。他の成分の例としては、充填材、液晶ポリエステル以外の熱可塑性樹脂および添加剤が挙げられる。液晶ポリエステル樹脂組成物に占める液晶ポリエステルの割合は、好ましくは80質量%以上であり、より好ましくは90質量%以上である。
【0032】
充填材の例としては、ミルドガラスファイバー、チョップドガラスファイバーなどのガラス繊維、チタン酸カリウムウィスカー、アルミナウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー、炭化けい素ウィスカー、窒化けい素ウィスカーなどの金属または非金属系ウィスカー類、ガラスビーズ、中空ガラス球、ガラス粉末、マイカ、タルク、クレー、シリカ、アルミナ、チタン酸カリウム、ウォラストナイト、炭酸カルシウム(重質、軽質、膠質など)、炭酸マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、硫酸ソーダ、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、亜硫酸カルシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、けい酸カルシウム、けい砂、けい石、石英、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄グラファイト、モリブデン、アスベスト、シリカアルミナ繊維、アルミナ繊維、石膏繊維、炭素繊維、カーボンブラック、ホワイトカーボン、けいそう土、ベントナイト、セリサイト、シラスおよび黒鉛が挙げられ、必要に応じて、それらの2種以上を用いることもできる。中でも、ガラス繊維、マイカ、タルクおよび炭素繊維が好ましく用いられる。
【0033】
充填材は、必要に応じて、表面処理されたものであってもよく、この表面処理剤の例としては、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、ボラン系カップリング剤などの反応性カップリング剤、および高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸金属塩、フルオロカーボン系界面活性剤などの潤滑剤が挙げられる。
【0034】
液晶ポリエステル以外の熱可塑性樹脂の例としては、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリエステル、ポリサルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンエーテルおよびその変性物、ポリエーテルケトン、ポリエーテルサルホンおよびポリエーテルイミドが挙げられる。
【0035】
添加剤の例としては、フッ素樹脂、金属石鹸類などの離型改良剤;離型安定剤;染料、顔料などの着色剤;着色防止剤;酸化防止剤;熱安定剤;紫外線吸収剤;帯電防止剤;界面活性剤;核剤;可塑剤;滑剤;潤滑剤および難燃剤などが挙げられる。
【0036】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物において、フィラーの使用量は、液晶ポリエステル100質量部に対して10〜100質量部の範囲内であるのが好ましく、より好ましくは20〜80質量部であり、特に好ましくは30〜70質量部である。フィラーの使用量がこの範囲内であると、液晶ポリエステル樹脂組成物を溶融押出成形してペレット状に組成物を調製する際、押出成形機のスクリュウへの噛み込み性が良好となり、ペレット加工時の可塑化が十分に安定となることから好ましい。さらには、このような方法で作成したペレット状の液晶ポリエステル樹脂組成物を用いて成形すると、得られる成形体の外観が良好になるといった利点がある。
【0037】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物を得るためには、液晶ポリエステルとフィラーとを公知の方法で混合すればよい。ここで、フィラーとしては、剛性および補強効果の観点から繊維状フィラー、特に入手が容易であることから、ガラス繊維などが望ましい。また、必要に応じて、ガラス繊維以外の無機フィラーや添加剤などを用いることもできる。このような無機フィラーとしては、シリカアルミナ繊維、ウォラストナイト、炭素繊維、チタン酸カリウムウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー、酸化チタンウィスカーなどの繊維状または針状の補強剤;炭酸カルシウム、ドロマイト、タルク、マイカ、クレイ、ガラスビーズなどの無機フィラーが挙げられ、これらの無機フィラーは2種以上を混合して使用してもよい。
【0038】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物を製造するには、ストランド状に押出成形し、ペレタイザなどを用いてペレット化する方法が特に好ましく、ヘンシェルミキサー、タンブラーミキサーなどを用いて混合した後、押出機を用いて溶融混練するといった溶融混練法が特に好ましい。この溶融混練法としては、全ての原材料を一括して混合した後で押出機へフィードしてもよく、必要に応じて、異形断面ガラス繊維や、必要に応じて用いられる無機フィラーまたは添加剤を、液晶ポリエステルを主体とする原材料とは別にフィードしても構わない。
【0039】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物を用いて成形体を成形する手法としては、射出成形法が好ましいが、特に限定されるものではない。
【0040】
このように、中空樹脂筐体1は、その材質が、特定のモノマー単位(繰返し単位)を有する液晶ポリエステルを含む樹脂組成物であるため、高い水蒸気バリア性を発現する。したがって、たとえ中空樹脂筐体1が高湿度環境にさらされても、中空樹脂筐体1の内部に収容された半導体チップ4が錆びて寿命が短くなる事態の発生を未然に防ぎ、ひいては半導体チップ4の信頼性の低下を抑制することが可能となる。
【0041】
したがって、中空樹脂筐体1は、これから樹脂化が進むと予想されるMEMS関連分野を始めとして、高湿度環境下で使用するような用途分野において、極めて有用となる。
【0042】
また、中空樹脂筐体1では、上述したとおり、容器部2と蓋部3とが同種の樹脂(特定の繰返し単位を有する液晶ポリエステルを主成分とする樹脂)から形成されているため、両者の接合強度を高めることができる。
[発明のその他の実施の形態]
【0043】
なお、上述した実施の形態1では、容器部2に蓋部3がレーザー溶着で接合されている中空樹脂筐体1について説明した。しかし、容器部2と蓋部3との接合方法としては、所定の気密性を確保しつつ両者を接合できるものである限り、レーザー溶着以外の接合方法、例えば、接着(接着剤による接合)、熱板溶接、スピン溶着、振動溶着、超音波溶着などを代用または併用することも可能である。
【実施例】
【0044】
以下、本発明の実施例について説明する。なお、本発明は実施例に限定されるものではない。
<製造例1>
【0045】
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計および還流冷却器を備えた反応器に、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸1034.99g(5.5モル)、2,6−ナフタレンジカルボン酸378.33g(1.75モル)、テレフタル酸83.07g(0.5モル)、ヒドロキノン272.52g(2.475モル:2,6−ナフタレンジカルボン酸およびテレフタル酸の合計量に対して0.225モル過剰)、無水酢酸1226.87g(12モル)、および触媒として1−メチルイミダゾール0.17gを入れ、反応器内のガスを窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下、攪拌しながら、室温から145℃まで15分かけて昇温し、145℃で1時間還流させた。次いで、副生酢酸および未反応の無水酢酸を留去しながら、145℃から310℃まで3時間30分かけて昇温し、310℃で3時間保持した後、内容物を取り出し、室温まで冷却した。
【0046】
得られた固形物を粉砕機で粒径約0.1〜1mmに粉砕した後、窒素雰囲気下、室温から250℃まで1時間かけて昇温し、250℃から310℃まで10時間かけて昇温し、310℃で5時間保持することにより、固相重合を行った。固相重合後、冷却して、粉末状の液晶ポリエステルを得た。この液晶ポリエステルは、全繰り返し単位の合計量に対して、Ar1 が2,6−ナフチレン基である繰返し単位(1)を55モル%、Ar2 が2,6−ナフチレン基である繰返し単位(2)を17.5モル%、Ar2 が1,4−フェニレン基である繰返し単位(2)を5モル%、およびAr3 が1,4−フェニレン基である繰返し単位(3)を22.5%有し、その流動開始温度は333℃であった。
【0047】
なお、この流動開始温度は、フローテスター((株)島津製作所製の「CFT−500型」)により、試料約2gを用いて測定した値である。すなわち、このフローテスターを用いて、内径1mm、長さ10mmのダイスを取り付けた毛細管レオメータに試料約2gを充填し、9.8MPa(100kgf/cm2 )の荷重下において、昇温速度4℃/分で溶融させながら押し出し、溶融粘度が4800Pa・s(48000ポアズ)を示す温度を測定し、この温度を流動開始温度とした。
<製造例2>
【0048】
製造例1と同様の反応器に、p−ヒドロキシ安息香酸911g(6.6モル)、テレフタル酸274g(1.65モル)、イソフタル酸91g(0.55モル)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル409g(2.2モル)、無水酢酸1235g(12.1モル)、および触媒として1−メチルイミダゾール0.17gを入れ、反応器内のガスを窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下、攪拌しながら、室温から150℃まで15分かけて昇温し、150℃で1時間還流させた。次いで、1−メチルイミダゾール1.7gを添加した後、副生酢酸および未反応の無水酢酸を留去しながら、150℃から320℃まで2時間50分かけて昇温し、トルクの上昇が認められた時点で、内容物を取り出し、室温まで冷却した。
【0049】
得られた固形物を粉砕機で粒径約0.1〜1mmに粉砕した後、窒素雰囲気下、室温から250℃まで1時間かけて昇温し、250℃から285℃まで5時間かけて昇温し、285℃で3時間保持することにより、固相重合を行った。固相重合後、冷却して、粉末状の液晶ポリエステルを得た。この液晶ポリエステルは、Ar1 が1,4−フェニレン基である繰返し単位(1)を60モル%、Ar2 が1,4−フェニレン基である繰返し単位(2)を15モル%、Ar2 が1,3−フェニレン基である繰返し単位(2)を5モル%、およびAr3 が4,4’−ビフェニリレン基である繰返し単位(3)を20%有し、その流動開始温度は327℃であった。なお、この流動開始温度は、製造例1と同様の手順で測定した値である。
<実施例1>
【0050】
製造例1で得られた液晶ポリエステルを二軸押出機((株)池貝製の「PCM−30」)で造粒してペレット状にした後、一軸押出機(スクリュー径50mm)に供給して溶融させ、Tダイ(リップ長さ300mm、リップクリアランス1mm、ダイ温度350℃)からフィルム状に押し出して冷却し、厚さ25μmの液晶ポリエステルフィルムを得た。
<比較例1>
【0051】
製造例1で得られた液晶ポリエステルに代えて、製造例2で得られた液晶ポリエステルを用いたこと以外は、実施例1と同様の操作を行い、厚さ25μmの液晶ポリエステルフィルムを得た。
<水蒸気バリア性の評価>
【0052】
実施例1、2の液晶ポリエステルフィルムについて、その水蒸気バリア性を評価するため、JIS K7126(A法:差圧法)に準拠して、ガス透過率・透湿度測定装置(GTRテック(株)製の「GTR−10X」)により、温度40℃、相対湿度90%の条件で水蒸気透過度を測定した。
【0053】
その結果、比較例1の液晶ポリエステルフィルムの水蒸気透過度は、0.343g/m2 ・24hであり、液晶ポリエステル樹脂組成物に用いる樹脂材料としては、水蒸気バリア性が不十分であった。これに対して、実施例1の液晶ポリエステルフィルムの水蒸気透過度は、0.011g/m2 ・24h(つまり、比較例1の約1/31の値)であり、液晶ポリエステル樹脂組成物に用いる樹脂材料として、水蒸気バリア性に優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、周囲に水蒸気が多く存在するような環境で使用される中空樹脂筐体に広く適用することができる。
【0055】
本発明に係る中空樹脂筐体の内部に半導体チップが収容された半導体素子は、様々な用途に用いることができる。例えば、キャパシター、インダクター、抵抗器、トランジスター、ダイオード、集積回路、大規模集積回路、小型のアクチュエータ、各種のセンサー(例えば、イメージセンサー、加速度センサー、角速度センサー、湿度センサーなど)、振動子、圧電素子、発振子その他、特に形状が比較的複雑なものに好適に用いることができる。
【0056】
また、この半導体素子を含む具体的な製品や部品・部材としては、コンピューター関連部品;半導体製造プロセス関連部品;VTR、テレビジョン受像機、アイロン、エアコンディショナー、ステレオ、掃除機、冷蔵庫、炊飯器、照明器具などの家庭電気製品部品;ランプリフレクター、ランプホルダーなどの照明器具部品;CDやDVDのプレーヤー、レーザーディスク(登録商標)プレーヤー、スピーカーなどの音響製品部品;光ケーブル用フェルール、電話機部品、ファクシミリ部品、モデムなどの通信機器部品;複写機関連部品;モーター部品などの機械部品;自動車部品;調理用器具;航空機部品;宇宙機部品;原子炉などの放射線施設部材;海洋施設部材;光学機器部品;バルブ類;医療用機器部品および医療用材料;センサー類部品その他を挙げることができる。
【符号の説明】
【0057】
1……中空樹脂筐体
2……容器部
3……蓋部
4……半導体チップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体チップを内部に収容するための中空樹脂筐体の成形に用いられ、液晶ポリエステルとフィラーとを含む中空樹脂筐体用樹脂組成物であって、
前記液晶ポリエステルが、下記式(1)で表される繰返し単位と、下記式(2)で表される繰返し単位と、下記式(3)で表される繰返し単位とを有し、2,6−ナフチレン基を含む繰返し単位の含有量が、全繰返し単位の合計量に対して、40モル%以上である液晶ポリエステルであることを特徴とする中空樹脂筐体用樹脂組成物。
(1)−O−Ar1 −CO−
(2)−CO−Ar2 −CO−
(3)−O−Ar3 −O−
(Ar1 は、2,6−ナフチレン基、1,4−フェニレン基または4,4’−ビフェニリレン基を表す。Ar2 およびAr3 は、それぞれ独立に、2,6−ナフチレン基、1,4−フェニレン基、1,3−フェニレン基または4,4’−ビフェニリレン基を表す。Ar1 、Ar2 またはAr3 で表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基またはアリール基で置換されていてもよい。)
【請求項2】
前記フィラーの配合量が、前記液晶ポリエステル100質量部に対して10〜100質量部の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の中空樹脂筐体用樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の中空樹脂筐体用樹脂組成物を溶融成形して得たことを特徴とする中空樹脂筐体。
【請求項4】
前記半導体チップを載置するための容器部に蓋部が封着されて内部が気密封止された構造を有することを特徴とする請求項3に記載の中空樹脂筐体。

【図1】
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【公開番号】特開2012−167224(P2012−167224A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−30680(P2011−30680)
【出願日】平成23年2月16日(2011.2.16)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】