乗員検知システム
【課題】シートの濡れなどの外乱要因による誤検知が抑えられた乗員検知システムを低コストで提供すること。
【解決手段】本発明の乗員検知システムは、車両のシートの着席部に配設されたアンテナ電極と、アンテナ電極および車両に接続され、アンテナ電極に負荷電流を付与して微弱電界を発生させるとともにアンテナ電極に流れる電位電流を検出する電源手段と、を有する乗員検知システムであって、負荷電流と電位電流からインピーダンスおよび位相差あるいはアドミタンスを算出し、算出されたインピーダンスおよび位相差あるいはアドミタンスにもとづいてシート上の乗員の検知を行うことを特徴とする。本発明の乗員検知システムは、低コストで高い精度で着席者を検知できる乗員検知システムとなっている。
【解決手段】本発明の乗員検知システムは、車両のシートの着席部に配設されたアンテナ電極と、アンテナ電極および車両に接続され、アンテナ電極に負荷電流を付与して微弱電界を発生させるとともにアンテナ電極に流れる電位電流を検出する電源手段と、を有する乗員検知システムであって、負荷電流と電位電流からインピーダンスおよび位相差あるいはアドミタンスを算出し、算出されたインピーダンスおよび位相差あるいはアドミタンスにもとづいてシート上の乗員の検知を行うことを特徴とする。本発明の乗員検知システムは、低コストで高い精度で着席者を検知できる乗員検知システムとなっている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のシートに着席した乗員を検知するための乗員検知システムに関し、詳しくは、車両のシートに液体がかかった状態でも乗員の検知を行うことができる乗員検知システムに関する。
【背景技術】
【0002】
車両には、衝突時に乗員が過剰なダメージを受けることを抑えるためにエアバック装置が取り付けられている。エアバック装置は、運転席側だけでなく、助手席側にも取り付けられるようになっている。エアバッグ装置は、加速度センサ等の車両に取り付けられたセンサからの出力信号から演算手段が衝突の判定を行い、車両が衝突したと判定したときにエアバックを展開させる。
【0003】
ところで、エアバッグ装置は、シ−トへの乗員の着席の有無に関係なく、自動車の衝突によってエアバッグが展開するように設定されている。しかし、近年は、着席者の体格によってはエアバックの展開を制限することが求められている。例えば、助手席に大人の乗員が着席している場合には衝突時にエアバックが展開することで乗員の保護効果が期待できる。しかし、乗員が子供の場合には、大人に比べて座高が低いことに伴って頭部位置も低いことから、十分な保護効果が期待できないだけでなく、場合によってはエアバックの展開圧力により子供が頭部にダメージを受けるという問題があった。
【0004】
このような問題に対して、着席者が大人であるかを判定するために、車両の助手席のシートには乗員を検知するセンサを備えた乗員検知システムが搭載されてきている。例えば、特許文献1には、複数のアンテナ電極をシートに取り付け、このアンテナ電極のうち特定の一組のアンテナ電極で乗員の検知を行う乗員検知システムが開示されている。この乗員検知システムは、着席者の有無だけでなく着席状況も検知できる。
【0005】
しかしながら、車両のシートが濡れたりしたときには十分な検知精度が得られないという問題があった。車両のシートが濡れると、濡れた部分全体がアンテナ電極の機能を果たすようになり、アンテナ電極の出力が大きくなる。出力が大きくなると、子供を大人と検知するようになる。つまり、エアバックが誤って展開しやすくなる。
【0006】
シートが濡れても高い検知精度を維持するために、特許文献2には、シートに水分センサを取り付けた乗員検知システムが開示されている。シートに水分センサを取り付けることでシートの濡れによる誤検知を抑えることはできるが、新たなセンサを取り付けることでコストの上昇を招いていた。また、水分センサを取り付けると、シートの濡れは検知できるが、それ以外の誤検知の要因(例えば温度変化)に対しては全く効果を発揮できなかった。
【0007】
また、特許文献3には、電場センサと検出回路と、を備え、検出回路がシートの濡れ状態に最大限に弱く応答する振動信号を電場センサに印加する乗員センサが開示されている。しかしながら、特許文献3の乗員センサは、シートの濡れ状態に最大限に弱く応答する振動信号を印加することからもわかるように、シートの濡れ状態の影響を排除することができなかった。
【特許文献1】特許第3346464号
【特許文献2】特開2002−347498号公報
【特許文献3】特表2003−504624号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記実状に鑑みてなされたものであり、シートの濡れなどの外乱要因による誤検知が抑えられた乗員検知システムを低コストで提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明者らは検討を重ねた結果、乗員の判定を静電容量にもとづいて行うのではなくインピーダンスおよび位相差あるいはアドミタンスの実数部と虚数部に基づいて行うシステムとすることで上記課題を解決できることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明の乗員検知システムは、車両のシートの着席部に配設されたアンテナ電極と、アンテナ電極および車両に接続され、アンテナ電極に負荷電流を付与して微弱電界を発生させるとともにアンテナ電極に流れる電位電流を検出する電源手段と、を有する乗員検知システムであって、負荷電流と電位電流からインピーダンスおよび位相差を算出し、算出されたインピーダンスおよび位相差にもとづいてシート上の乗員の検知を行うことを特徴とする。
【0011】
また、本発明の乗員検知システムは、車両のシートの着席部に配設されたアンテナ電極と、アンテナ電極および車両に接続され、アンテナ電極に負荷電流を付与して微弱電界を発生させるとともにアンテナ電極に流れる電位電流を検出する電源手段と、を有する乗員検知システムであって、負荷電流と電位電流から得られるアドミタンスのコンダクタンスおよびサセプタンスにもとづいてシート上の乗員の検知を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の乗員検知システムは、車両シートが水に濡れても、車両シート上の乗員の検知を行うことができる。つまり、車両のシートの状態が変化しても、その状態の変化によらずに乗員の検知を行うことで高い検知精度を発揮する。また、車両シートの状態を検知するためのセンサを新たに追加することなく高い検知精度を得られる。つまり、本発明の乗員検知システムは、低コストで高い精度で着席者を検知できる乗員検知システムとなっている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
(第一発明)
本発明の乗員検知システムは、アンテナ電極と、電源手段と、を有する。そして、電位電流からインピーダンスおよび位相差を算出し、算出されたインピーダンスおよび位相差にもとづいてシート上の乗員の検知を行う。
【0014】
具体的には、本発明の乗員検知システムは、電源手段を作動してアンテナ電極に電力を印加する。電力が印加されたアンテナ電極は負荷電流が流れ、微弱電界を発生する。そして、アンテナ電極に生じた微弱電界は、車両との電位差からアンテナ電極に電位電流を生じさせる。そして、この負荷電流と電位電流とから車両とアンテナ電極との間のインピーダンスおよび位相差を算出し、インピーダンスおよび位相差からシート上への乗員の着席を検出する。
【0015】
インピーダンスは交流回路における電流の流れにくさのことであり、シートが濡れた状態ではインピーダンスが増加する。インピーダンスは、シートがより濡れるほど(被水量が増加するほど)増加する。つまり、インピーダンスに基づいて判定を行うことで、シートが濡れた状態であっても、乗員の検知を行うことができる。また、位相差は、電圧から電流の遅れ位相差であり、シートが濡れた状態では位相差が大きくなる。位相差は、シートがより濡れるほど(被水量が増加するほど)大きくなる。
【0016】
つまり、本発明の乗員検知システムは、シートが濡れた状態であっても、シート上の乗員の検知を行うことができる。
【0017】
シート上の乗員の検知は、算出された位相差に基づいて決定されたしきい値と、算出されたインピーダンスとの比較から行われることが好ましい。位相差からしきい値を決定し、このしきい値とインピーダンスの比較を行うことで、シートが濡れた状態であっても、精度よくシート上の乗員の検知を行うことができる。
【0018】
アンテナ電極は、シートの着席部でのインピーダンスおよび位相差を測定する近接測定用電極を有し、近接測定用電極の測定結果に基づいてシート上の乗員の検知を行うことが好ましい。シートを濡らす液体が導電性を有しているときには、アンテナ電極と車両とのインピーダンスは減少する。得られるインピーダンスが減少することは、シート上の乗員の検知に誤検知を生じるようになる。近接測定用電極を用いると、シートの着席部のインピーダンスおよび位相差を得ることができ、シートの着席部の状態を検知できるようになる。そして、シートの着席部の状態に応じた新たなしきい値を設定することができる。
【0019】
つまり、アンテナ電極と車両との間のインピーダンスおよび位相差のみからだけでなく、シートの着席部のインピーダンスおよび位相差も参照して乗員の検知を行うことで、より高い精度でシート上の乗員の検知を行うことができる。
【0020】
本発明の乗員検知システムは、車両とシートの着席部との間のインピーダンスおよび位相差を求めることができる構成であれば、具体的な構成は限定されるものではない。たとえば、従来の静電容量から乗員の検知を行うシステムに用いられた電極および電源を用いることができる。
【0021】
本発明の乗員検知システムにおいて、アンテナ電極は、シートの着席部に配設される。
【0022】
一般的には、車両のシートは、シートフレームにバネ材をセットし、その上にクッションパッドをおき、さらに表皮材で上張りされている。アンテナ電極は、バネ材とクッションパッドの間、クッションパッドと表皮材の間のいずれかであることが好ましい。そして、シートが、クッションパッドと、クッションパッドの表面に配置され着席面を形成する表皮材と、を有し、クッションパッドの表皮材の配置されていない側の表面にアンテナ電極が配設されたことが好ましい。アンテナ電極と表皮材との間にクッションパッドが配置されることで、クッションパッドの作用によりシートに着席したときにアンテナ電極の凹凸を感じなくなり、着席時の快適性が保たれる。
【0023】
アンテナ電極は、シートの表面に平行に配設される略箔状を有し、負荷電流を印加されると、箔の両面から車両のシートの表面方向(上方)および裏面方向(下方)に向かって広がる微弱電界を発生する。そして、アンテナ電極には、上方に向かって発生した電界と下方に向かって発生した電界の両方の電界からの電位電流が流れる。
【0024】
電源手段は、アンテナ電極および車両に接続され、アンテナ電極に負荷電流を付与して微弱電界を発生させるとともにアンテナ電極に流れる電位電流を検出する。
【0025】
さらに、本発明の乗員検知システムは、電源手段が印加した負荷電流と、アンテナ電極に流れた電位電流とからインピーダンスおよび位相差を算出する算出手段および算出されたインピーダンスおよび位相差から乗員のシート上の乗員の判定を行う判定手段を有することが好ましい。この算出手段および判定手段は、ひとつの演算手段により構成されることがより好ましい。
【0026】
本発明の乗員検知システムは、エアバッグなどシート上の着席者を保護する乗員保護装置を備えた乗員保護システムの一部を構成することが好ましい。本発明の乗員検知システムは、精度よくシート上の乗員を検知できることから、誤検知に起因する乗員保護装置の後作動が発生しなくなる。
【0027】
(第二発明)
本発明の乗員検知システムは、アンテナ電極と、電源手段と、を有する。そして、負荷電流と電位電流から得られるアドミタンスのコンダクタンスおよびサセプタンスにもとづいてシート上の乗員の検知を行う。
【0028】
具体的には、本発明の乗員検知システムは、電源手段を作動してアンテナ電極に電力を印加する。電力が印加されたアンテナ電極は負荷電流が流れ、微弱電界を発生する。そして、アンテナ電極に生じた微弱電界は、車両との電位差からアンテナ電極に電位電流を生じさせる。そして、この負荷電流と電位電流とから車両とアンテナ電極との間のアドミタンスを得、アドミタンスのコンダクタンスおよびサセプタンスを求め、このコンダクタンスおよびサセプタンスからシート上への乗員の着席を検出する。
【0029】
アドミタンスは、インピーダンスの逆数よりなる。シートが濡れた状態では、シートの被水量とアドミタンスとは相関関係をもつ。つまり、アドミタンスに基づいて判定を行うことで、シートが濡れた状態であっても、乗員の検知を行うことができる。
【0030】
アドミタンス(Y)は、インピーダンス(Z)の逆数よりなる。インピーダンスは、ある周波数における部品や回路の交流電流の流れを妨げる量として定義され、数学的には複素数平面上のベクトル量として扱うことができる。インピーダンスベクトルは、実数部(抵抗R)と虚数部(リアクタンスX)とより、Z=R+iX(i:虚数単位)と表すことができる。そして、アドミタンス(Y)は、このインピーダンスの逆数であることから、Y=1/Z=1/(R+iX)=G+iB(G:コンダクタンス,B:サセプタンス,i:虚数単位)と表すことができる。つまり、アドミタンスは、抵抗RとリアクタンスXとが並列に接続された状態を表している。そして、シートが濡れた状態は、この抵抗RとリアクタンスXとが並列に接続された状態であると考えられている。本発明のシステムはアドミタンスに基づいて検知を行うことから、アドミタンスの測定結果(データ)をさらに処理する工程を必要としなくなり、簡単にシート上の乗員の検知を行うことができる。
【0031】
つまり、本発明の乗員検知システムは、シートが濡れた状態であっても、簡単にシート上の乗員の検知を行うことができる。
【0032】
シート上の乗員の検知は、コンダクタンス(G)に基づいて決定されたしきい値と、サセプタンス(B)との比較から行われることが好ましい。コンダクタンスからしきい値を決定し、このしきい値とサセプタンスの比較を行うことで、シートが濡れた状態であっても、精度よくシート上の乗員の検知を行うことができる。
【0033】
アンテナ電極は、シートの着席部でのアドミタンスを測定する近接測定用電極を有し、近接測定用電極の測定結果に基づいてシート上の乗員の検知を行うことが好ましい。シートを濡らす液体が導電性を有しているときには、アンテナ電極と車両とのアドミタンスは増加する。得られるアドミタンスが増加することは、シート上の乗員の検知に誤検知を生じるようになる。近接測定用電極を用いると、シートの着席部のアドミタンス(コンダクタンスおよびサセプタンス)を得ることができ、シートの着席部の状態を検知できるようになる。そして、シートの着席部の状態に応じた新たなしきい値を設定することができる。
【0034】
つまり、アンテナ電極と車両との間のアドミタンスのみからだけでなく、シートの着席部のアドミタンスも参照して乗員の検知を行うことで、より高い精度でシート上の乗員の検知を行うことができる。
【0035】
本発明の乗員検知システムは、車両とシートの着席部との間のアドミタンスを求めることができる構成であれば、具体的な構成は限定されるものではない。たとえば、従来の静電容量から乗員の検知を行うシステムに用いられた電極および電源を備えた装置を用いることができる。また、上記の第一発明に用いることができる装置を用いることができる。
【0036】
さらに、本発明の乗員検知システムは、上記の第一発明と第二発明とを組み合わせて乗員の検知を行ってもよい。
【実施例】
【0037】
以下、実施例を用いて本発明を説明する。
【0038】
本発明の実施例として、着席した乗員を検知する乗員検知システムを車両のシートに設置した。
【0039】
(実施例1)
まず、車両シート1の着座部10に設置されるアンテナ電極2を作製した。
【0040】
アンテナ電極2の作製は、まず、絶縁性をもつ樹脂シート20を作製し、その表面上に銀インクを塗布、乾燥して第一の導電部21を形成した。第一の導電部21は、略長方形状の環状をなすように形成された。本実施例においては、二つの第一の導電部21,21が間隔を隔てて並んだ状態で配置された。二つの第一の導電部21,21は、銀インクにより電気的に接続された。そして、カーボンインクを二つの第一の導電部21,21に塗布、乾燥して、第一の導電部21を被覆した電極部22を形成した。第一の電極部22は、第一の導電部21の形状に類似した形状をもち、第一の導電部21の軸心部にすき間が形成された環状であり外形が略長方形状に形成された。二つの第一の導電部21,21は、長方形状の短辺方向に間隔を隔てた状態で形成された。
【0041】
また、二つの第一の導電部21,21の外周部にそって銀インクを塗布、乾燥して第二の導電部24を形成した。そして、カーボンインクを第二の導電部24に塗布、乾燥して、第二の導電部24を被覆した電極部25を形成した。二つの電極部22,25は、接触しない状態で近接した位置に形成された。その後、表面上に絶縁性の粘着剤23を塗布し、その上に絶縁性をもつ樹脂シート26を積層させた。これにより、アンテナ電極2が製造できた。
【0042】
製造されたアンテナ電極2を車両シート1の着席部10に設置した。着席部10には車両の前後方向に二つの第一の電極部22,22が並んだ状態で設置された。設置されたアンテナ電極2は、第一の導電部21と第二の導電部24が電源手段(図示せず)と電気的に接続された。アンテナ電極2が取り付けられた車両シート1を図1に、着席部10(クッションカバーを取り外した状態)を図2に示した。また、図2のI−I線の断面を図3に示した。ここで、車両シート1の着席部10へのアンテナ電極2の取り付けは、表皮110とラミ層111とが一体に形成された表皮材11とクッションパッド12との間に配置された。
【0043】
また、電源手段は、アンテナ電極2の二種類の電極部22,25に所望の特性を持つ電流(負荷電流)を印加するとともにそれぞれのアンテナ電極2で発生した電界の変化を電位電流として検出する。また、電源手段は、アンテナ電極2に印加された電流(負荷電流)とアンテナ電極2からの電流(電位電流)とからアンテナ電極2,2間のインピーダンスおよび位相差を算出するとともに、算出された値から乗員の検知(判定)を行う。この電源手段は、それぞれのアンテナ電極2と電流や信号の送受信を行うことが出来るとともに乗員の検知(判定)を行うことが出来る装置であればよく、本実施例においては車両用ECUを用いた。
【0044】
本実施例の乗員検知装置は、着席部10と車両ボディとの間のインピーダンスおよび位相差(遠隔検知)と着席部10のアンテナ電極2の二種類の電極部22,25の間のインピーダンスおよび位相差(近接検知)を測定する。
【0045】
遠隔検知は、着席部10のアンテナ電極2と車両ボディに高周波・低電圧の信号を印加する。車両ボディとアンテナ電極2との間の電位差の結果として、電界が発生する。この電界は、着席部10と車両ボディとの間に電流を発生する。そして、車両シート1上の乗員の身体が電界内に存在したら、電界の乱れが電流を変化させる。同様に、着席部10のアンテナ電極2に供給される電流(負荷電流)も、身体の存在に応答して変化する。身体は、キャパシタとして働く。身体のインピーダンス(抵抗及び容量)が、電界を分路する。身体があれば、身体の電気的特性に応答して送信及び何れかの受信電極を流れる電流が変化する。この現象を使用し、着席部10と車両ボディの間のインピーダンスおよび位相差を測定した。遠隔検知の測定方法の模式図を図4に示した。
【0046】
また、近接検知は、遠隔検知の時と同様に、着席部10のアンテナ電極2の二種類の電極部22,25の間に高周波・低電圧の信号を印加し、電極部22,25間のインピーダンスおよび位相差を測定する。なお、二種類の電極部22,25のうち、大きな電極部22に低電位が付与される。近接検知の測定方法の模式図を図5に示した。
【0047】
この乗員検知システムが設置された車両シート1に、小柄女性(アメリカ人の大人女性の体格分布で5パーセンタイル相当、図中の被水AF05)および一歳児(図中の被水CRS)が着席したときのアンテナ電極2と車両ボディの間のインピーダンスおよび位相差を測定した。なお、一歳児は車両シートに固定されたチャイルドシートに着席している。また、小柄女性が防寒着を三枚着た状態(図中のAF05防3枚)のインピーダンスおよび位相差を測定した。測定結果を図6に示した。あわせて、空席状態(図中の被水空席)のインピーダンスおよび位相差を測定した。
【0048】
そして、車両シート全体に水を均一に散水して湿らせて(濡らして)いったときのインピーダンス(Z)および位相差(θ)を測定し、測定結果を図6にあわせて示した。なお、車両シートへの散水量が、0(乾燥状態),20,40,60,80,100,200mlのときに測定を行った。
【0049】
図6に示したように、車両シートが乾燥した状態では位相差に大きな変化は見られず、かつ乗員の体格によりインピーダンスに大きな差が見られた。
【0050】
そして、車両シートを湿らせるにつれて(車両シートへの散水量が増加するにつれて)インピーダンスが低下していることがわかる。しかしながら、インピーダンスが低下しても、小柄女性(衣服によらず)と一歳児(チャイルドシート)のインピーダンスの間には大きな差があることがわかる。また、車両シートへの散水量が増加しても、インピーダンスの間の差が確認できることから、車両シートに水がかかっても、車両シート上の乗員の検知を行うことができることがわかる。つまり、両者の間にしきい値(遠隔用しきい値)をもうけることで両者の判別を行うことが出来ることがわかる。実施例の車両シートのしきい値の例を、図6にあわせて示した。
【0051】
また、空席状態の車両シートに導電性をもつ液体として生理食塩水を均一に散水して湿らせて(濡らして)いったときのアンテナ電極2と車両ボディの間のインピーダンスおよび位相差を測定し(図中の塩水空席)、測定結果を図6にあわせて示した。なお、車両シートへの散水量が、0(乾燥状態),20,40,60,80,100,200mlのときに測定を行った。
【0052】
図6に示したように、つまり、空席状態のインピーダンスは、小柄女性よりも大きいが、食塩水が散水されると、測定されるインピーダンスが大幅に低下していることがわかる。
【0053】
そして、小柄女性が着席した状態で車両シートに散水したときのアンテナ電極2の二種類の電極部22,25の間のインピーダンスおよび位相差を測定した。測定結果を図7に示した。また、空席状態の車両シートに生理食塩水を散水したときの二種類の電極部22,25の間のインピーダンスおよび位相差を測定し、測定結果を図7にあわせて示した。
【0054】
図7に示したように、乾燥状態ではインピーダンスは一致し、食塩水が散水されると、測定されるインピーダンスが大幅に低下し、水が散水されたときの小柄女性(衣服によらず)のインピーダンスよりもはるかに小さくなっていることがわかる。
【0055】
つまり、両者の間にしきい値をもうけることで両者の判別を行うことが出来ることがわかる。実施例の車両シートのしきい値(近接用しきい値)の例を、図7にあわせて示した。
【0056】
上記したように、本実施例の乗員検知システムは、インピーダンスと位相差とから乗員の検知を行うことで、車両シートへ大量の水がかかっても、車両シート上の乗員の検知を行うことができることがわかる。
【0057】
実施例の乗員検知システムが図6および7に示した二つのしきい値(遠隔用しきい値、近接用しきい値)をもつときに、車両シートへの着席者の検知は以下に示した手順で行うことができる。この検知方法のフローチャートを図8に示した。
【0058】
まず、上記の方法を用いて遠隔検知を行い、インピーダンスおよび位相差を求める。そして、得られた位相差から図6に示された遠隔用しきい値を決定し、この遠隔用しきい値とインピーダンスを比較する。得られたインピーダンスが遠隔用しきい値よりも大きい(図6の領域Iにある)場合には、車両シートが空席あるいはチャイルドシートが設置されていると検知する。
【0059】
インピーダンスがしきい値よりも小さい(図6の領域IIにある)ときには、つづいて、近接検知を行う。そして、近接検知により得られた位相差から図7に示された近接用しきい値を決定し、この近接用しきい値とインピーダンスを比較する。得られたインピーダンスが近接用しきい値よりも大きい(図7の領域IIIにある)場合には、車両シートへの着席者が大人であると検知する。
【0060】
そして、近接検知のインピーダンスが近接用しきい値よりも小さい(図7の領域IVにある)ときには、検知不能とした。
【0061】
本実施例の乗員検知システムは、エアバッグ装置等の車両の乗員保護装置に助手席上の乗員についての検知結果を送信することができる。検知結果を乗員保護装置に送信することで、車両シートに着席した乗員ごとに乗員保護装置を作動させることが出来る。具体的には、シート状の乗員が大人でないと検知したときには、車両の衝突時にエアバッグを展開させないことができる。
【0062】
さらに、図7および8に示した各しきい値を用いて検知を行って検知不能となったときには、乗員に対して警告を発するとともにエアバッグの展開を禁止することができる。車両シート上の乗員がエアバッグによる保護効果が期待できる大人の乗員である場合のみにエアバッグを展開できる。保護効果が期待できないあるいはエアバッグの展開によりダメージを受ける乗員(子供)が着席したときには、エアバッグを展開させないことで乗員を保護することが出来る。
【0063】
(実施例2)
まず、実施例1の時と同様にして、アンテナ電極2を作製し、車両シート1の着座部10に設置した。
【0064】
アンテナ電極2と電源手段とを接続した。電源手段は、アンテナ電極2の二種類の電極部22,25に所望の特性を持つ電流(負荷電流)を印加するとともにそれぞれのアンテナ電極2で発生した電界の変化を電位電流として検出する。また、電源手段は、アンテナ電極2に印加された電流(負荷電流)とアンテナ電極2からの電流(電位電流)とからアンテナ電極2,2間のアドミタンス(コンダクタンスG,サセプタンスB)を算出するとともに、算出された値から乗員の検知(判定)を行う。この電源手段は、それぞれのアンテナ電極2と電流や信号の送受信を行うことが出来るとともに乗員の検知(判定)を行うことが出来る装置であればよく、本実施例においては車両用ECUを用いた。
【0065】
本実施例の乗員検知装置は、着席部10と車両ボディとの間のアドミタンス(コンダクタンスG,サセプタンスB)と(遠隔検知)、着席部10のアンテナ電極2の二種類の電極部22,25の間のアドミタンス(コンダクタンスG,サセプタンスB)と(近接検知)を測定する。この遠隔検知および近接検知は、実施例1の時と同様にして行うことができる。
【0066】
実施例1の時と同様に、この乗員検知システムが設置された車両シート1に、小柄女性(アメリカ人の大人女性の体格分布で5パーセンタイル相当、図中の被水AF05)および一歳児(図中の被水CRS)が着席したときのアンテナ電極2と車両ボディの間のアドミタンス(コンダクタンスG,サセプタンスB)を測定した。なお、一歳児は車両シートに固定されたチャイルドシートに着席している。また、小柄女性が防寒着を三枚着た状態(図中のAF05防3枚)のアドミタンス(コンダクタンスG,サセプタンスB)を測定した。測定結果を図9に示した。アドミタンスの測定結果を示した図9は、横軸がコンダクタンスGであり、縦軸がサセプタンスBである。あわせて、空席状態(図中の被水空席)のアドミタンス(コンダクタンスG,サセプタンスB)を測定した。
【0067】
そして、車両シート全体に水を均一に散水して湿らせて(濡らして)いったときのアドミタンス(コンダクタンスG,サセプタンスB)を測定し、測定結果を図9にあわせて示した。なお、車両シートへの散水量が、0(乾燥状態),20,40,60,80,100,200mlのときに測定を行った。
【0068】
また、空席状態の車両シートに導電性をもつ液体として生理食塩水を均一に散水して湿らせて(濡らして)いったときのアンテナ電極2と車両ボディの間のアドミタンス(コンダクタンスG,サセプタンスB)を測定し(図中の塩水空席)、測定結果を図9にあわせて示した。なお、車両シートへの散水量が、0(乾燥状態),20,40,60,80,100,200mlのときに測定を行った。
【0069】
図9に示したように、本実施例のアドミタンスの測定結果は、シートの被水量が増加するにつれてコンダクタンスGおよびサセプタンスBが増加している。そして、小柄女性が着席した状態で観測されるサセプタンスBは、空席状態あるいは一歳児により観測されるサセプタンスBよりもはるかに大きくなっている。つまり、シートに着席した人物の体重が増加するほど大きなサセプタンスBを得られる。特に、被水量が増加した高コンダクタンスの領域においては、サセプタンスBの差が大きくなり、より識別が容易となっている。このため、両者の間にしきい値をもうけることで両者の判別を行うことが出来ることがわかる。実施例の車両シートのしきい値(遠隔用しきい値)の例を、図9にあわせて示した。
【0070】
そして、小柄女性が着席した状態で車両シートに散水したときのアンテナ電極2の二種類の電極部22,25の間のアドミタンス(コンダクタンスG,サセプタンスB)を測定した。測定結果を図10に示した。また、空席状態の車両シートに生理食塩水を散水したときの二種類の電極部22,25の間のアドミタンス(コンダクタンスG,サセプタンスB)を測定し、測定結果を図10にあわせて示した。
【0071】
図10に示したように、乾燥状態ではアドミタンス(コンダクタンスG,サセプタンスB)は一致し、食塩水が散水されると、得られるサセプタンスが大幅に増加し、水が散水されたときの小柄女性(衣服によらず)のサセプタンスよりもはるかに大きくなっていることがわかる。
【0072】
つまり、両者の間にしきい値をもうけることで両者の判別を行うことが出来ることがわかる。実施例の車両シートのしきい値(近接用しきい値)の例を、図10にあわせて示した。
【0073】
また、図9に示されたように、車両のシートに生理食塩水を散水したときに観測されるサセプタンスと、小柄女性が着席した状態で観測されるサセプタンスとは、近似している。このため、遠隔検知と近接検知とを組み合わせることで、導電性の液体がシートにかかったときの誤検知を抑えることができる。
【0074】
上記したように、本実施例の乗員検知システムは、アドミタンス(コンダクタンスG,サセプタンスB)から乗員の検知を行うことで、車両シートへ大量の水がかかっても、車両シート上の乗員の検知を行うことができることがわかる。
【0075】
実施例の乗員検知システムが図9および10に示した二つのしきい値(遠隔用しきい値、近接用しきい値)をもつときに、車両シートへの着席者の検知は以下に示した手順で行うことができる。この検知方法のフローチャートを図11に示した。
【0076】
まず、上記の方法を用いて遠隔検知を行い、アドミタンス(コンダクタンスG,サセプタンスB)を求める。そして、得られたコンダクタンス(G)から図9に示された遠隔用しきい値を決定し、この遠隔用しきい値とサセプタンス(B)を比較する。得られたサセプタンスが遠隔用しきい値よりも大きい(図9の領域Vにある)場合には、車両シートが空席あるいはチャイルドシートが設置されていると検知する。
【0077】
サセプタンスがしきい値よりも小さい(図9の領域VIにある)ときには、つづいて、近接検知を行い、アドミタンス(コンダクタンスG,サセプタンスB)を得る。そして、近接検知により得られたコンダクタンス(G)から図10に示された近接用しきい値を決定し、この近接用しきい値とサセプタンス(B)を比較する。得られたサセプタンス(B)が近接用しきい値よりも大きい(図10の領域VIIにある)場合には、車両シートへの着席者が大人であると検知する。
【0078】
そして、近接検知のインピーダンスが近接用しきい値よりも小さい(図10の領域VIIIにある)ときには、検知不能とした。
【0079】
本実施例の乗員検知システムは、実施例1の時と同様に、エアバッグ装置等の車両の乗員保護装置に助手席上の乗員についての検知結果を送信することができる。検知結果を乗員保護装置に送信することで、車両シートに着席した乗員ごとに乗員保護装置を作動させることが出来る。具体的には、シート状の乗員が大人でないと検知したときには、車両の衝突時にエアバッグを展開させないことができる。
【0080】
さらに、図9および10に示した各しきい値を用いて検知を行って検知不能となったときには、乗員に対して警告を発するとともにエアバッグの展開を禁止することができる。車両シート上の乗員がエアバッグによる保護効果が期待できる大人の乗員である場合のみにエアバッグを展開できる。保護効果が期待できないあるいはエアバッグの展開によりダメージを受ける乗員(子供)が着席したときには、エアバッグを展開させないことで乗員を保護することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】実施例1の乗員検知システムの電極が組み付けられた車両シートを示した図である。
【図2】実施例1の乗員検知システムの電極が組み付けられた車両シートの着席部を示した図である。
【図3】実施例1の乗員検知システムの電極が組み付けられた車両シートの断面図である。
【図4】実施例1の乗員検知システムでの遠隔検知の測定方法を示した図である。
【図5】実施例1の乗員検知システムでの近接検知の測定方法を示した図である。
【図6】実施例1の乗員検知システムの遠隔検知の測定結果を示したグラフである。
【図7】実施例1の乗員検知システムの近接検知の測定結果を示したグラフである。
【図8】実施例1の乗員検知システムの検知のフローチャートである。
【図9】実施例2の乗員検知システムの遠隔検知の測定結果を示したグラフである。
【図10】実施例2の乗員検知システムの近接検知の測定結果を示したグラフである。
【図11】実施例2の乗員検知システムの検知のフローチャートである。
【符号の説明】
【0082】
1:車両シート 10:着席部
11:表皮材11 110:表皮
111:ラミ層 12:クッションパッド
2:アンテナ電極 20,26:樹脂シート
21:第一の導電部 22:第一の電極部
23:粘着剤
24:第二の導電部 25:第二の電極部
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のシートに着席した乗員を検知するための乗員検知システムに関し、詳しくは、車両のシートに液体がかかった状態でも乗員の検知を行うことができる乗員検知システムに関する。
【背景技術】
【0002】
車両には、衝突時に乗員が過剰なダメージを受けることを抑えるためにエアバック装置が取り付けられている。エアバック装置は、運転席側だけでなく、助手席側にも取り付けられるようになっている。エアバッグ装置は、加速度センサ等の車両に取り付けられたセンサからの出力信号から演算手段が衝突の判定を行い、車両が衝突したと判定したときにエアバックを展開させる。
【0003】
ところで、エアバッグ装置は、シ−トへの乗員の着席の有無に関係なく、自動車の衝突によってエアバッグが展開するように設定されている。しかし、近年は、着席者の体格によってはエアバックの展開を制限することが求められている。例えば、助手席に大人の乗員が着席している場合には衝突時にエアバックが展開することで乗員の保護効果が期待できる。しかし、乗員が子供の場合には、大人に比べて座高が低いことに伴って頭部位置も低いことから、十分な保護効果が期待できないだけでなく、場合によってはエアバックの展開圧力により子供が頭部にダメージを受けるという問題があった。
【0004】
このような問題に対して、着席者が大人であるかを判定するために、車両の助手席のシートには乗員を検知するセンサを備えた乗員検知システムが搭載されてきている。例えば、特許文献1には、複数のアンテナ電極をシートに取り付け、このアンテナ電極のうち特定の一組のアンテナ電極で乗員の検知を行う乗員検知システムが開示されている。この乗員検知システムは、着席者の有無だけでなく着席状況も検知できる。
【0005】
しかしながら、車両のシートが濡れたりしたときには十分な検知精度が得られないという問題があった。車両のシートが濡れると、濡れた部分全体がアンテナ電極の機能を果たすようになり、アンテナ電極の出力が大きくなる。出力が大きくなると、子供を大人と検知するようになる。つまり、エアバックが誤って展開しやすくなる。
【0006】
シートが濡れても高い検知精度を維持するために、特許文献2には、シートに水分センサを取り付けた乗員検知システムが開示されている。シートに水分センサを取り付けることでシートの濡れによる誤検知を抑えることはできるが、新たなセンサを取り付けることでコストの上昇を招いていた。また、水分センサを取り付けると、シートの濡れは検知できるが、それ以外の誤検知の要因(例えば温度変化)に対しては全く効果を発揮できなかった。
【0007】
また、特許文献3には、電場センサと検出回路と、を備え、検出回路がシートの濡れ状態に最大限に弱く応答する振動信号を電場センサに印加する乗員センサが開示されている。しかしながら、特許文献3の乗員センサは、シートの濡れ状態に最大限に弱く応答する振動信号を印加することからもわかるように、シートの濡れ状態の影響を排除することができなかった。
【特許文献1】特許第3346464号
【特許文献2】特開2002−347498号公報
【特許文献3】特表2003−504624号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記実状に鑑みてなされたものであり、シートの濡れなどの外乱要因による誤検知が抑えられた乗員検知システムを低コストで提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明者らは検討を重ねた結果、乗員の判定を静電容量にもとづいて行うのではなくインピーダンスおよび位相差あるいはアドミタンスの実数部と虚数部に基づいて行うシステムとすることで上記課題を解決できることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明の乗員検知システムは、車両のシートの着席部に配設されたアンテナ電極と、アンテナ電極および車両に接続され、アンテナ電極に負荷電流を付与して微弱電界を発生させるとともにアンテナ電極に流れる電位電流を検出する電源手段と、を有する乗員検知システムであって、負荷電流と電位電流からインピーダンスおよび位相差を算出し、算出されたインピーダンスおよび位相差にもとづいてシート上の乗員の検知を行うことを特徴とする。
【0011】
また、本発明の乗員検知システムは、車両のシートの着席部に配設されたアンテナ電極と、アンテナ電極および車両に接続され、アンテナ電極に負荷電流を付与して微弱電界を発生させるとともにアンテナ電極に流れる電位電流を検出する電源手段と、を有する乗員検知システムであって、負荷電流と電位電流から得られるアドミタンスのコンダクタンスおよびサセプタンスにもとづいてシート上の乗員の検知を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の乗員検知システムは、車両シートが水に濡れても、車両シート上の乗員の検知を行うことができる。つまり、車両のシートの状態が変化しても、その状態の変化によらずに乗員の検知を行うことで高い検知精度を発揮する。また、車両シートの状態を検知するためのセンサを新たに追加することなく高い検知精度を得られる。つまり、本発明の乗員検知システムは、低コストで高い精度で着席者を検知できる乗員検知システムとなっている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
(第一発明)
本発明の乗員検知システムは、アンテナ電極と、電源手段と、を有する。そして、電位電流からインピーダンスおよび位相差を算出し、算出されたインピーダンスおよび位相差にもとづいてシート上の乗員の検知を行う。
【0014】
具体的には、本発明の乗員検知システムは、電源手段を作動してアンテナ電極に電力を印加する。電力が印加されたアンテナ電極は負荷電流が流れ、微弱電界を発生する。そして、アンテナ電極に生じた微弱電界は、車両との電位差からアンテナ電極に電位電流を生じさせる。そして、この負荷電流と電位電流とから車両とアンテナ電極との間のインピーダンスおよび位相差を算出し、インピーダンスおよび位相差からシート上への乗員の着席を検出する。
【0015】
インピーダンスは交流回路における電流の流れにくさのことであり、シートが濡れた状態ではインピーダンスが増加する。インピーダンスは、シートがより濡れるほど(被水量が増加するほど)増加する。つまり、インピーダンスに基づいて判定を行うことで、シートが濡れた状態であっても、乗員の検知を行うことができる。また、位相差は、電圧から電流の遅れ位相差であり、シートが濡れた状態では位相差が大きくなる。位相差は、シートがより濡れるほど(被水量が増加するほど)大きくなる。
【0016】
つまり、本発明の乗員検知システムは、シートが濡れた状態であっても、シート上の乗員の検知を行うことができる。
【0017】
シート上の乗員の検知は、算出された位相差に基づいて決定されたしきい値と、算出されたインピーダンスとの比較から行われることが好ましい。位相差からしきい値を決定し、このしきい値とインピーダンスの比較を行うことで、シートが濡れた状態であっても、精度よくシート上の乗員の検知を行うことができる。
【0018】
アンテナ電極は、シートの着席部でのインピーダンスおよび位相差を測定する近接測定用電極を有し、近接測定用電極の測定結果に基づいてシート上の乗員の検知を行うことが好ましい。シートを濡らす液体が導電性を有しているときには、アンテナ電極と車両とのインピーダンスは減少する。得られるインピーダンスが減少することは、シート上の乗員の検知に誤検知を生じるようになる。近接測定用電極を用いると、シートの着席部のインピーダンスおよび位相差を得ることができ、シートの着席部の状態を検知できるようになる。そして、シートの着席部の状態に応じた新たなしきい値を設定することができる。
【0019】
つまり、アンテナ電極と車両との間のインピーダンスおよび位相差のみからだけでなく、シートの着席部のインピーダンスおよび位相差も参照して乗員の検知を行うことで、より高い精度でシート上の乗員の検知を行うことができる。
【0020】
本発明の乗員検知システムは、車両とシートの着席部との間のインピーダンスおよび位相差を求めることができる構成であれば、具体的な構成は限定されるものではない。たとえば、従来の静電容量から乗員の検知を行うシステムに用いられた電極および電源を用いることができる。
【0021】
本発明の乗員検知システムにおいて、アンテナ電極は、シートの着席部に配設される。
【0022】
一般的には、車両のシートは、シートフレームにバネ材をセットし、その上にクッションパッドをおき、さらに表皮材で上張りされている。アンテナ電極は、バネ材とクッションパッドの間、クッションパッドと表皮材の間のいずれかであることが好ましい。そして、シートが、クッションパッドと、クッションパッドの表面に配置され着席面を形成する表皮材と、を有し、クッションパッドの表皮材の配置されていない側の表面にアンテナ電極が配設されたことが好ましい。アンテナ電極と表皮材との間にクッションパッドが配置されることで、クッションパッドの作用によりシートに着席したときにアンテナ電極の凹凸を感じなくなり、着席時の快適性が保たれる。
【0023】
アンテナ電極は、シートの表面に平行に配設される略箔状を有し、負荷電流を印加されると、箔の両面から車両のシートの表面方向(上方)および裏面方向(下方)に向かって広がる微弱電界を発生する。そして、アンテナ電極には、上方に向かって発生した電界と下方に向かって発生した電界の両方の電界からの電位電流が流れる。
【0024】
電源手段は、アンテナ電極および車両に接続され、アンテナ電極に負荷電流を付与して微弱電界を発生させるとともにアンテナ電極に流れる電位電流を検出する。
【0025】
さらに、本発明の乗員検知システムは、電源手段が印加した負荷電流と、アンテナ電極に流れた電位電流とからインピーダンスおよび位相差を算出する算出手段および算出されたインピーダンスおよび位相差から乗員のシート上の乗員の判定を行う判定手段を有することが好ましい。この算出手段および判定手段は、ひとつの演算手段により構成されることがより好ましい。
【0026】
本発明の乗員検知システムは、エアバッグなどシート上の着席者を保護する乗員保護装置を備えた乗員保護システムの一部を構成することが好ましい。本発明の乗員検知システムは、精度よくシート上の乗員を検知できることから、誤検知に起因する乗員保護装置の後作動が発生しなくなる。
【0027】
(第二発明)
本発明の乗員検知システムは、アンテナ電極と、電源手段と、を有する。そして、負荷電流と電位電流から得られるアドミタンスのコンダクタンスおよびサセプタンスにもとづいてシート上の乗員の検知を行う。
【0028】
具体的には、本発明の乗員検知システムは、電源手段を作動してアンテナ電極に電力を印加する。電力が印加されたアンテナ電極は負荷電流が流れ、微弱電界を発生する。そして、アンテナ電極に生じた微弱電界は、車両との電位差からアンテナ電極に電位電流を生じさせる。そして、この負荷電流と電位電流とから車両とアンテナ電極との間のアドミタンスを得、アドミタンスのコンダクタンスおよびサセプタンスを求め、このコンダクタンスおよびサセプタンスからシート上への乗員の着席を検出する。
【0029】
アドミタンスは、インピーダンスの逆数よりなる。シートが濡れた状態では、シートの被水量とアドミタンスとは相関関係をもつ。つまり、アドミタンスに基づいて判定を行うことで、シートが濡れた状態であっても、乗員の検知を行うことができる。
【0030】
アドミタンス(Y)は、インピーダンス(Z)の逆数よりなる。インピーダンスは、ある周波数における部品や回路の交流電流の流れを妨げる量として定義され、数学的には複素数平面上のベクトル量として扱うことができる。インピーダンスベクトルは、実数部(抵抗R)と虚数部(リアクタンスX)とより、Z=R+iX(i:虚数単位)と表すことができる。そして、アドミタンス(Y)は、このインピーダンスの逆数であることから、Y=1/Z=1/(R+iX)=G+iB(G:コンダクタンス,B:サセプタンス,i:虚数単位)と表すことができる。つまり、アドミタンスは、抵抗RとリアクタンスXとが並列に接続された状態を表している。そして、シートが濡れた状態は、この抵抗RとリアクタンスXとが並列に接続された状態であると考えられている。本発明のシステムはアドミタンスに基づいて検知を行うことから、アドミタンスの測定結果(データ)をさらに処理する工程を必要としなくなり、簡単にシート上の乗員の検知を行うことができる。
【0031】
つまり、本発明の乗員検知システムは、シートが濡れた状態であっても、簡単にシート上の乗員の検知を行うことができる。
【0032】
シート上の乗員の検知は、コンダクタンス(G)に基づいて決定されたしきい値と、サセプタンス(B)との比較から行われることが好ましい。コンダクタンスからしきい値を決定し、このしきい値とサセプタンスの比較を行うことで、シートが濡れた状態であっても、精度よくシート上の乗員の検知を行うことができる。
【0033】
アンテナ電極は、シートの着席部でのアドミタンスを測定する近接測定用電極を有し、近接測定用電極の測定結果に基づいてシート上の乗員の検知を行うことが好ましい。シートを濡らす液体が導電性を有しているときには、アンテナ電極と車両とのアドミタンスは増加する。得られるアドミタンスが増加することは、シート上の乗員の検知に誤検知を生じるようになる。近接測定用電極を用いると、シートの着席部のアドミタンス(コンダクタンスおよびサセプタンス)を得ることができ、シートの着席部の状態を検知できるようになる。そして、シートの着席部の状態に応じた新たなしきい値を設定することができる。
【0034】
つまり、アンテナ電極と車両との間のアドミタンスのみからだけでなく、シートの着席部のアドミタンスも参照して乗員の検知を行うことで、より高い精度でシート上の乗員の検知を行うことができる。
【0035】
本発明の乗員検知システムは、車両とシートの着席部との間のアドミタンスを求めることができる構成であれば、具体的な構成は限定されるものではない。たとえば、従来の静電容量から乗員の検知を行うシステムに用いられた電極および電源を備えた装置を用いることができる。また、上記の第一発明に用いることができる装置を用いることができる。
【0036】
さらに、本発明の乗員検知システムは、上記の第一発明と第二発明とを組み合わせて乗員の検知を行ってもよい。
【実施例】
【0037】
以下、実施例を用いて本発明を説明する。
【0038】
本発明の実施例として、着席した乗員を検知する乗員検知システムを車両のシートに設置した。
【0039】
(実施例1)
まず、車両シート1の着座部10に設置されるアンテナ電極2を作製した。
【0040】
アンテナ電極2の作製は、まず、絶縁性をもつ樹脂シート20を作製し、その表面上に銀インクを塗布、乾燥して第一の導電部21を形成した。第一の導電部21は、略長方形状の環状をなすように形成された。本実施例においては、二つの第一の導電部21,21が間隔を隔てて並んだ状態で配置された。二つの第一の導電部21,21は、銀インクにより電気的に接続された。そして、カーボンインクを二つの第一の導電部21,21に塗布、乾燥して、第一の導電部21を被覆した電極部22を形成した。第一の電極部22は、第一の導電部21の形状に類似した形状をもち、第一の導電部21の軸心部にすき間が形成された環状であり外形が略長方形状に形成された。二つの第一の導電部21,21は、長方形状の短辺方向に間隔を隔てた状態で形成された。
【0041】
また、二つの第一の導電部21,21の外周部にそって銀インクを塗布、乾燥して第二の導電部24を形成した。そして、カーボンインクを第二の導電部24に塗布、乾燥して、第二の導電部24を被覆した電極部25を形成した。二つの電極部22,25は、接触しない状態で近接した位置に形成された。その後、表面上に絶縁性の粘着剤23を塗布し、その上に絶縁性をもつ樹脂シート26を積層させた。これにより、アンテナ電極2が製造できた。
【0042】
製造されたアンテナ電極2を車両シート1の着席部10に設置した。着席部10には車両の前後方向に二つの第一の電極部22,22が並んだ状態で設置された。設置されたアンテナ電極2は、第一の導電部21と第二の導電部24が電源手段(図示せず)と電気的に接続された。アンテナ電極2が取り付けられた車両シート1を図1に、着席部10(クッションカバーを取り外した状態)を図2に示した。また、図2のI−I線の断面を図3に示した。ここで、車両シート1の着席部10へのアンテナ電極2の取り付けは、表皮110とラミ層111とが一体に形成された表皮材11とクッションパッド12との間に配置された。
【0043】
また、電源手段は、アンテナ電極2の二種類の電極部22,25に所望の特性を持つ電流(負荷電流)を印加するとともにそれぞれのアンテナ電極2で発生した電界の変化を電位電流として検出する。また、電源手段は、アンテナ電極2に印加された電流(負荷電流)とアンテナ電極2からの電流(電位電流)とからアンテナ電極2,2間のインピーダンスおよび位相差を算出するとともに、算出された値から乗員の検知(判定)を行う。この電源手段は、それぞれのアンテナ電極2と電流や信号の送受信を行うことが出来るとともに乗員の検知(判定)を行うことが出来る装置であればよく、本実施例においては車両用ECUを用いた。
【0044】
本実施例の乗員検知装置は、着席部10と車両ボディとの間のインピーダンスおよび位相差(遠隔検知)と着席部10のアンテナ電極2の二種類の電極部22,25の間のインピーダンスおよび位相差(近接検知)を測定する。
【0045】
遠隔検知は、着席部10のアンテナ電極2と車両ボディに高周波・低電圧の信号を印加する。車両ボディとアンテナ電極2との間の電位差の結果として、電界が発生する。この電界は、着席部10と車両ボディとの間に電流を発生する。そして、車両シート1上の乗員の身体が電界内に存在したら、電界の乱れが電流を変化させる。同様に、着席部10のアンテナ電極2に供給される電流(負荷電流)も、身体の存在に応答して変化する。身体は、キャパシタとして働く。身体のインピーダンス(抵抗及び容量)が、電界を分路する。身体があれば、身体の電気的特性に応答して送信及び何れかの受信電極を流れる電流が変化する。この現象を使用し、着席部10と車両ボディの間のインピーダンスおよび位相差を測定した。遠隔検知の測定方法の模式図を図4に示した。
【0046】
また、近接検知は、遠隔検知の時と同様に、着席部10のアンテナ電極2の二種類の電極部22,25の間に高周波・低電圧の信号を印加し、電極部22,25間のインピーダンスおよび位相差を測定する。なお、二種類の電極部22,25のうち、大きな電極部22に低電位が付与される。近接検知の測定方法の模式図を図5に示した。
【0047】
この乗員検知システムが設置された車両シート1に、小柄女性(アメリカ人の大人女性の体格分布で5パーセンタイル相当、図中の被水AF05)および一歳児(図中の被水CRS)が着席したときのアンテナ電極2と車両ボディの間のインピーダンスおよび位相差を測定した。なお、一歳児は車両シートに固定されたチャイルドシートに着席している。また、小柄女性が防寒着を三枚着た状態(図中のAF05防3枚)のインピーダンスおよび位相差を測定した。測定結果を図6に示した。あわせて、空席状態(図中の被水空席)のインピーダンスおよび位相差を測定した。
【0048】
そして、車両シート全体に水を均一に散水して湿らせて(濡らして)いったときのインピーダンス(Z)および位相差(θ)を測定し、測定結果を図6にあわせて示した。なお、車両シートへの散水量が、0(乾燥状態),20,40,60,80,100,200mlのときに測定を行った。
【0049】
図6に示したように、車両シートが乾燥した状態では位相差に大きな変化は見られず、かつ乗員の体格によりインピーダンスに大きな差が見られた。
【0050】
そして、車両シートを湿らせるにつれて(車両シートへの散水量が増加するにつれて)インピーダンスが低下していることがわかる。しかしながら、インピーダンスが低下しても、小柄女性(衣服によらず)と一歳児(チャイルドシート)のインピーダンスの間には大きな差があることがわかる。また、車両シートへの散水量が増加しても、インピーダンスの間の差が確認できることから、車両シートに水がかかっても、車両シート上の乗員の検知を行うことができることがわかる。つまり、両者の間にしきい値(遠隔用しきい値)をもうけることで両者の判別を行うことが出来ることがわかる。実施例の車両シートのしきい値の例を、図6にあわせて示した。
【0051】
また、空席状態の車両シートに導電性をもつ液体として生理食塩水を均一に散水して湿らせて(濡らして)いったときのアンテナ電極2と車両ボディの間のインピーダンスおよび位相差を測定し(図中の塩水空席)、測定結果を図6にあわせて示した。なお、車両シートへの散水量が、0(乾燥状態),20,40,60,80,100,200mlのときに測定を行った。
【0052】
図6に示したように、つまり、空席状態のインピーダンスは、小柄女性よりも大きいが、食塩水が散水されると、測定されるインピーダンスが大幅に低下していることがわかる。
【0053】
そして、小柄女性が着席した状態で車両シートに散水したときのアンテナ電極2の二種類の電極部22,25の間のインピーダンスおよび位相差を測定した。測定結果を図7に示した。また、空席状態の車両シートに生理食塩水を散水したときの二種類の電極部22,25の間のインピーダンスおよび位相差を測定し、測定結果を図7にあわせて示した。
【0054】
図7に示したように、乾燥状態ではインピーダンスは一致し、食塩水が散水されると、測定されるインピーダンスが大幅に低下し、水が散水されたときの小柄女性(衣服によらず)のインピーダンスよりもはるかに小さくなっていることがわかる。
【0055】
つまり、両者の間にしきい値をもうけることで両者の判別を行うことが出来ることがわかる。実施例の車両シートのしきい値(近接用しきい値)の例を、図7にあわせて示した。
【0056】
上記したように、本実施例の乗員検知システムは、インピーダンスと位相差とから乗員の検知を行うことで、車両シートへ大量の水がかかっても、車両シート上の乗員の検知を行うことができることがわかる。
【0057】
実施例の乗員検知システムが図6および7に示した二つのしきい値(遠隔用しきい値、近接用しきい値)をもつときに、車両シートへの着席者の検知は以下に示した手順で行うことができる。この検知方法のフローチャートを図8に示した。
【0058】
まず、上記の方法を用いて遠隔検知を行い、インピーダンスおよび位相差を求める。そして、得られた位相差から図6に示された遠隔用しきい値を決定し、この遠隔用しきい値とインピーダンスを比較する。得られたインピーダンスが遠隔用しきい値よりも大きい(図6の領域Iにある)場合には、車両シートが空席あるいはチャイルドシートが設置されていると検知する。
【0059】
インピーダンスがしきい値よりも小さい(図6の領域IIにある)ときには、つづいて、近接検知を行う。そして、近接検知により得られた位相差から図7に示された近接用しきい値を決定し、この近接用しきい値とインピーダンスを比較する。得られたインピーダンスが近接用しきい値よりも大きい(図7の領域IIIにある)場合には、車両シートへの着席者が大人であると検知する。
【0060】
そして、近接検知のインピーダンスが近接用しきい値よりも小さい(図7の領域IVにある)ときには、検知不能とした。
【0061】
本実施例の乗員検知システムは、エアバッグ装置等の車両の乗員保護装置に助手席上の乗員についての検知結果を送信することができる。検知結果を乗員保護装置に送信することで、車両シートに着席した乗員ごとに乗員保護装置を作動させることが出来る。具体的には、シート状の乗員が大人でないと検知したときには、車両の衝突時にエアバッグを展開させないことができる。
【0062】
さらに、図7および8に示した各しきい値を用いて検知を行って検知不能となったときには、乗員に対して警告を発するとともにエアバッグの展開を禁止することができる。車両シート上の乗員がエアバッグによる保護効果が期待できる大人の乗員である場合のみにエアバッグを展開できる。保護効果が期待できないあるいはエアバッグの展開によりダメージを受ける乗員(子供)が着席したときには、エアバッグを展開させないことで乗員を保護することが出来る。
【0063】
(実施例2)
まず、実施例1の時と同様にして、アンテナ電極2を作製し、車両シート1の着座部10に設置した。
【0064】
アンテナ電極2と電源手段とを接続した。電源手段は、アンテナ電極2の二種類の電極部22,25に所望の特性を持つ電流(負荷電流)を印加するとともにそれぞれのアンテナ電極2で発生した電界の変化を電位電流として検出する。また、電源手段は、アンテナ電極2に印加された電流(負荷電流)とアンテナ電極2からの電流(電位電流)とからアンテナ電極2,2間のアドミタンス(コンダクタンスG,サセプタンスB)を算出するとともに、算出された値から乗員の検知(判定)を行う。この電源手段は、それぞれのアンテナ電極2と電流や信号の送受信を行うことが出来るとともに乗員の検知(判定)を行うことが出来る装置であればよく、本実施例においては車両用ECUを用いた。
【0065】
本実施例の乗員検知装置は、着席部10と車両ボディとの間のアドミタンス(コンダクタンスG,サセプタンスB)と(遠隔検知)、着席部10のアンテナ電極2の二種類の電極部22,25の間のアドミタンス(コンダクタンスG,サセプタンスB)と(近接検知)を測定する。この遠隔検知および近接検知は、実施例1の時と同様にして行うことができる。
【0066】
実施例1の時と同様に、この乗員検知システムが設置された車両シート1に、小柄女性(アメリカ人の大人女性の体格分布で5パーセンタイル相当、図中の被水AF05)および一歳児(図中の被水CRS)が着席したときのアンテナ電極2と車両ボディの間のアドミタンス(コンダクタンスG,サセプタンスB)を測定した。なお、一歳児は車両シートに固定されたチャイルドシートに着席している。また、小柄女性が防寒着を三枚着た状態(図中のAF05防3枚)のアドミタンス(コンダクタンスG,サセプタンスB)を測定した。測定結果を図9に示した。アドミタンスの測定結果を示した図9は、横軸がコンダクタンスGであり、縦軸がサセプタンスBである。あわせて、空席状態(図中の被水空席)のアドミタンス(コンダクタンスG,サセプタンスB)を測定した。
【0067】
そして、車両シート全体に水を均一に散水して湿らせて(濡らして)いったときのアドミタンス(コンダクタンスG,サセプタンスB)を測定し、測定結果を図9にあわせて示した。なお、車両シートへの散水量が、0(乾燥状態),20,40,60,80,100,200mlのときに測定を行った。
【0068】
また、空席状態の車両シートに導電性をもつ液体として生理食塩水を均一に散水して湿らせて(濡らして)いったときのアンテナ電極2と車両ボディの間のアドミタンス(コンダクタンスG,サセプタンスB)を測定し(図中の塩水空席)、測定結果を図9にあわせて示した。なお、車両シートへの散水量が、0(乾燥状態),20,40,60,80,100,200mlのときに測定を行った。
【0069】
図9に示したように、本実施例のアドミタンスの測定結果は、シートの被水量が増加するにつれてコンダクタンスGおよびサセプタンスBが増加している。そして、小柄女性が着席した状態で観測されるサセプタンスBは、空席状態あるいは一歳児により観測されるサセプタンスBよりもはるかに大きくなっている。つまり、シートに着席した人物の体重が増加するほど大きなサセプタンスBを得られる。特に、被水量が増加した高コンダクタンスの領域においては、サセプタンスBの差が大きくなり、より識別が容易となっている。このため、両者の間にしきい値をもうけることで両者の判別を行うことが出来ることがわかる。実施例の車両シートのしきい値(遠隔用しきい値)の例を、図9にあわせて示した。
【0070】
そして、小柄女性が着席した状態で車両シートに散水したときのアンテナ電極2の二種類の電極部22,25の間のアドミタンス(コンダクタンスG,サセプタンスB)を測定した。測定結果を図10に示した。また、空席状態の車両シートに生理食塩水を散水したときの二種類の電極部22,25の間のアドミタンス(コンダクタンスG,サセプタンスB)を測定し、測定結果を図10にあわせて示した。
【0071】
図10に示したように、乾燥状態ではアドミタンス(コンダクタンスG,サセプタンスB)は一致し、食塩水が散水されると、得られるサセプタンスが大幅に増加し、水が散水されたときの小柄女性(衣服によらず)のサセプタンスよりもはるかに大きくなっていることがわかる。
【0072】
つまり、両者の間にしきい値をもうけることで両者の判別を行うことが出来ることがわかる。実施例の車両シートのしきい値(近接用しきい値)の例を、図10にあわせて示した。
【0073】
また、図9に示されたように、車両のシートに生理食塩水を散水したときに観測されるサセプタンスと、小柄女性が着席した状態で観測されるサセプタンスとは、近似している。このため、遠隔検知と近接検知とを組み合わせることで、導電性の液体がシートにかかったときの誤検知を抑えることができる。
【0074】
上記したように、本実施例の乗員検知システムは、アドミタンス(コンダクタンスG,サセプタンスB)から乗員の検知を行うことで、車両シートへ大量の水がかかっても、車両シート上の乗員の検知を行うことができることがわかる。
【0075】
実施例の乗員検知システムが図9および10に示した二つのしきい値(遠隔用しきい値、近接用しきい値)をもつときに、車両シートへの着席者の検知は以下に示した手順で行うことができる。この検知方法のフローチャートを図11に示した。
【0076】
まず、上記の方法を用いて遠隔検知を行い、アドミタンス(コンダクタンスG,サセプタンスB)を求める。そして、得られたコンダクタンス(G)から図9に示された遠隔用しきい値を決定し、この遠隔用しきい値とサセプタンス(B)を比較する。得られたサセプタンスが遠隔用しきい値よりも大きい(図9の領域Vにある)場合には、車両シートが空席あるいはチャイルドシートが設置されていると検知する。
【0077】
サセプタンスがしきい値よりも小さい(図9の領域VIにある)ときには、つづいて、近接検知を行い、アドミタンス(コンダクタンスG,サセプタンスB)を得る。そして、近接検知により得られたコンダクタンス(G)から図10に示された近接用しきい値を決定し、この近接用しきい値とサセプタンス(B)を比較する。得られたサセプタンス(B)が近接用しきい値よりも大きい(図10の領域VIIにある)場合には、車両シートへの着席者が大人であると検知する。
【0078】
そして、近接検知のインピーダンスが近接用しきい値よりも小さい(図10の領域VIIIにある)ときには、検知不能とした。
【0079】
本実施例の乗員検知システムは、実施例1の時と同様に、エアバッグ装置等の車両の乗員保護装置に助手席上の乗員についての検知結果を送信することができる。検知結果を乗員保護装置に送信することで、車両シートに着席した乗員ごとに乗員保護装置を作動させることが出来る。具体的には、シート状の乗員が大人でないと検知したときには、車両の衝突時にエアバッグを展開させないことができる。
【0080】
さらに、図9および10に示した各しきい値を用いて検知を行って検知不能となったときには、乗員に対して警告を発するとともにエアバッグの展開を禁止することができる。車両シート上の乗員がエアバッグによる保護効果が期待できる大人の乗員である場合のみにエアバッグを展開できる。保護効果が期待できないあるいはエアバッグの展開によりダメージを受ける乗員(子供)が着席したときには、エアバッグを展開させないことで乗員を保護することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】実施例1の乗員検知システムの電極が組み付けられた車両シートを示した図である。
【図2】実施例1の乗員検知システムの電極が組み付けられた車両シートの着席部を示した図である。
【図3】実施例1の乗員検知システムの電極が組み付けられた車両シートの断面図である。
【図4】実施例1の乗員検知システムでの遠隔検知の測定方法を示した図である。
【図5】実施例1の乗員検知システムでの近接検知の測定方法を示した図である。
【図6】実施例1の乗員検知システムの遠隔検知の測定結果を示したグラフである。
【図7】実施例1の乗員検知システムの近接検知の測定結果を示したグラフである。
【図8】実施例1の乗員検知システムの検知のフローチャートである。
【図9】実施例2の乗員検知システムの遠隔検知の測定結果を示したグラフである。
【図10】実施例2の乗員検知システムの近接検知の測定結果を示したグラフである。
【図11】実施例2の乗員検知システムの検知のフローチャートである。
【符号の説明】
【0082】
1:車両シート 10:着席部
11:表皮材11 110:表皮
111:ラミ層 12:クッションパッド
2:アンテナ電極 20,26:樹脂シート
21:第一の導電部 22:第一の電極部
23:粘着剤
24:第二の導電部 25:第二の電極部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のシートの着席部に配設されたアンテナ電極と、
該アンテナ電極および該車両に接続され、該アンテナ電極に負荷電流を付与して微弱電界を発生させるとともに該アンテナ電極に流れる電位電流を検出する電源手段と、
を有する乗員検知システムであって、
該負荷電流と該電位電流からインピーダンスおよび位相差を算出し、算出されたインピーダンスおよび位相差にもとづいて該シート上の乗員の検知を行うことを特徴とする乗員検知システム。
【請求項2】
前記シート上の前記乗員の検知は、算出された位相差に基づいて決定されたしきい値と、算出されたインピーダンスとの比較から行われる請求項1記載の乗員検知システム。
【請求項3】
前記アンテナ電極は、前記シートの前記着席部でのインピーダンスおよび位相差を測定する近接測定用電極を有し、
該近接測定用電極の測定結果に基づいて該シート上の乗員の検知を行う請求項1記載の乗員検知システム。
【請求項4】
車両のシートの着席部に配設されたアンテナ電極と、
該アンテナ電極および該車両に接続され、該アンテナ電極に負荷電流を付与して微弱電界を発生させるとともに該アンテナ電極に流れる電位電流を検出する電源手段と、
を有する乗員検知システムであって、
該負荷電流と該電位電流から得られるアドミタンスのコンダクタンスおよびサセプタンスにもとづいて該シート上の乗員の検知を行うことを特徴とする乗員検知システム。
【請求項5】
前記シート上の前記乗員の検知は、前記コンダクタンスに基づいて決定されたしきい値と、前記サセプタンスとの比較から行われる請求項4記載の乗員検知システム。
【請求項6】
前記アンテナ電極は、前記シートの前記着席部でのアドミタンスを測定する近接測定用電極を有し、
該近接測定用電極の測定結果に基づいて該シート上の乗員の検知を行う請求項4記載の乗員検知システム。
【請求項1】
車両のシートの着席部に配設されたアンテナ電極と、
該アンテナ電極および該車両に接続され、該アンテナ電極に負荷電流を付与して微弱電界を発生させるとともに該アンテナ電極に流れる電位電流を検出する電源手段と、
を有する乗員検知システムであって、
該負荷電流と該電位電流からインピーダンスおよび位相差を算出し、算出されたインピーダンスおよび位相差にもとづいて該シート上の乗員の検知を行うことを特徴とする乗員検知システム。
【請求項2】
前記シート上の前記乗員の検知は、算出された位相差に基づいて決定されたしきい値と、算出されたインピーダンスとの比較から行われる請求項1記載の乗員検知システム。
【請求項3】
前記アンテナ電極は、前記シートの前記着席部でのインピーダンスおよび位相差を測定する近接測定用電極を有し、
該近接測定用電極の測定結果に基づいて該シート上の乗員の検知を行う請求項1記載の乗員検知システム。
【請求項4】
車両のシートの着席部に配設されたアンテナ電極と、
該アンテナ電極および該車両に接続され、該アンテナ電極に負荷電流を付与して微弱電界を発生させるとともに該アンテナ電極に流れる電位電流を検出する電源手段と、
を有する乗員検知システムであって、
該負荷電流と該電位電流から得られるアドミタンスのコンダクタンスおよびサセプタンスにもとづいて該シート上の乗員の検知を行うことを特徴とする乗員検知システム。
【請求項5】
前記シート上の前記乗員の検知は、前記コンダクタンスに基づいて決定されたしきい値と、前記サセプタンスとの比較から行われる請求項4記載の乗員検知システム。
【請求項6】
前記アンテナ電極は、前記シートの前記着席部でのアドミタンスを測定する近接測定用電極を有し、
該近接測定用電極の測定結果に基づいて該シート上の乗員の検知を行う請求項4記載の乗員検知システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2007−240515(P2007−240515A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−189535(P2006−189535)
【出願日】平成18年7月10日(2006.7.10)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年7月10日(2006.7.10)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
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