説明

乳成分加水分解物

【課題】生体への安全性の高い、終末糖化産物(AGEs)に結合可能な物質を提供すること。
【解決手段】本発明によれば、乳成分加水分解物を含むグリセルアルデヒド由来終末糖化産物(AGE−2)結合剤、食品、および化粧料が提供される。本発明の乳成分加水分解物は、ホエイをエンドプロテアーゼ、エキソプロテアーゼ、およびエンドペプチダーゼで加水分解することにより得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳成分加水分解物に関する。
【背景技術】
【0002】
終末糖化産物(Advanced Glycation End-products;AGEs)は、グルコースなどの還元糖のカルボニル基と、タンパク質のアミノ基との非酵素的な反応から始まる一連の反応(メイラード反応)により生じる不可逆的な高分子架橋物質である。これらの反応は、生体内で長期間にわたりゆっくり進行する。例えば、糖尿病の臨床検査項目の1つとして挙げられているヘモグロビンA1C(HbA1c)は、赤血球のタンパク質であるヘモグロビンの糖化物であり、AGEsの1種である。
【0003】
AGEsは、糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症などの糖尿病による合併症の原因物質である。また、AGEsは、血管内皮細胞に存在する特異的な受容体(RAGE)に結合して糖尿病性血管症の発症に関連することも知られている。現在、わが国において、糖尿病の潜在患者数が1630万人にのぼり、特に中高年の4.5人に1人が糖尿病予備軍であるとの報告を考慮すると、体内のAGEsを除去することは、今後の糖尿病合併症の発症・進行を予防する点で非常に重要である。さらに、AGEsは、アテローム性動脈硬化、アルツハイマー病、慢性関節リウマチなどの種々の衰弱性疾患の発症にも関与している。
【0004】
AGEsは、グルコースだけではなく、グルコースの自動酸化および分解産物などの種々の糖から生成される。このうち、グリセルアルデヒド由来のAGEであるAGE−2は、AGEレセプター(RAGE)との結合能力が高く、このRAGEを介して、糖尿病性網膜症もしくは糖尿病性腎症のような糖尿病血管合併症の発症および進展に強く関与していることが知られている(非特許文献1および2)。このように、糖尿病の予防および治療を目的として、AGEs、特にAGE−2はその役割が注目されており、研究が続けられている。
【0005】
一方で、AGEsは、食品中にも存在する。そもそも、AGEsは、食品化学の研究において発表された非酵素的糖化反応(メイラード反応)による褐変において注目された物質である。AGEsは、煮る・蒸すなどの調理方法ではほとんど含まれず、逆に焼く・炒める・揚げるなどの調理方法では多く含まれることが分かっている。また、AGEsは、コーラ、味噌、および醤油のような食材に多く含まれていることも知られている。このように、人間は、生活上、常に多量のAGEsを食品(特に加工食品)から摂取している。食材としてAGEsを取り込むことに関してはほとんど害がないと考えられているが、腎臓を悪くしている場合は注意が必要であり、また無害の食品性AGEsが体内に吸収された後、有害性のAGEs(例えばAGE−2)に転換される可能性がある。
【0006】
このようにAGEsは生体内でも生成され、また生体外からも摂取される。このため、生体内での過剰なAGEsの蓄積を抑制するために、種々の薬剤が提案されている。例えば、AGEs生成抑制剤として、従来からアミノグアニジン、ピリドキサミン誘導体などが知られている。さらに特許文献1には、3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オンが開示されている。
【0007】
確立されたAGE架橋を破壊する物質も検討されており、例えば、N−臭化フェナシルチアゾリウム(PTB)などが知られている。最近では、1,4−ベンゼン−bis[4−メチレンアミノフェノキシイソ酪酸]などの7種の化合物が報告されている(例えば、特許文献2)。しかし、これらのAGE分解効果は、必ずしも十分とはいえない。
【0008】
近年の研究では、ビタミンB6が、AGE阻害作用を有することが見出され、そのAGE阻害剤としての利用が期待されている。
【0009】
ところで、AGEsは、加齢と共にその蓄積が認められること、およびAGEsがコラーゲンとコラーゲンとの間の結合物質として働くことが知られており、これにより、皮膚の老化に関与すると考えられている。アミノグアニジンを投与することにより、加齢に伴う様々な体内組織の老化現象を抑制することができたことが報告され(非特許文献3)、アミノグアニジンは、欧米では、アンチエージング物質として汎用されている。しかし、アミノグアニジンは、毒性を有することが米国の第III相臨床試験で明らかとなっており、その使用および用量に大きな制限が加えられている。
【0010】
牛乳から乳タンパク質の主成分であるカゼインおよび乳脂肪が取り除かれることにより得られるホエイは、優れた栄養価、抗酸化力、免疫力強化などの働きにより、食品または化粧品の分野において注目されている素材である。天然により得られる素材であるため、これらの分野において安全性もまた期待される。
【特許文献1】特開2004−300153号公報
【特許文献2】特表2004−529126号公報
【非特許文献1】Yamagishi S.ら, Biochem. Biophys. Res. Commun., 2002年, 290巻, 973-978頁
【非特許文献2】Okamoto T.ら, FASEB J., 2002年, 16巻, 1928-1930頁
【非特許文献3】Li Y.M.ら, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 1996年, 93巻, 3902-3907頁
【非特許文献4】Tessierら, Biochem. J., 2003年, 369巻, 705-719頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、生体への安全性の高い、AGEsに結合可能な物質を提供することを目的とする。さらに、本発明は、AGEsの体内への吸収を阻害できる食品およびスキンケア製品を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、ホエイをエンドプロテアーゼ、エキソプロテアーゼ、およびエンドペプチダーゼで加水分解することにより得られる乳成分加水分解物を含む、グリセルアルデヒド由来終末糖化産物(AGE−2)結合剤を提供する。
【0013】
本発明はさらに、ホエイをエンドプロテアーゼ、エキソプロテアーゼ、およびエンドペプチダーゼで加水分解することにより得られる乳成分加水分解物を含む、食品を提供する。
【0014】
本発明はまた、ホエイをエンドプロテアーゼ、エキソプロテアーゼ、およびエンドペプチダーゼで加水分解することにより得られる乳成分加水分解物を含む、化粧料を提供する。
【0015】
1つの実施態様では、上記乳成分加水分解物は皮膚透過能を有する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、AGEs、特に、細胞への毒性が強いと考えられるAGE−2に結合可能な物質が提供される。本発明の乳成分加水分解物は、糖尿病患者や加齢に伴うAGEsの増大による症状(例えば、血管障害)の軽減に有用であり得る。さらに、本発明によれば、皮膚を透過でき、かつAGEsに結合可能な物質も提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
(乳成分加水分解物)
本発明の乳成分加水分解物は、ホエイをエンドプロテアーゼ、エキソペプチダーゼ、およびエンドペプチダーゼで処理することにより調製され得る。このため、「ホエイ加水分解物」ともいう。ホエイは、乳タンパク質の主成分であるカゼインが生乳(例えば牛乳)から取り除かれている乳由来成分である。牛乳または脱脂乳から乳製品(例えば、チーズ、カゼインなど)を製造する際に発生する副産物として得られるホエイは、本発明の乳成分加水分解物を調製するために好適に用いられ得る。
【0018】
AGE−2に結合可能であり、かつ好ましくは皮膚膜を透過可能な乳成分加水分解物が調製できれば、ホエイを処理する酵素の種類および作用様式は問わない。本発明の乳成分加水分解物を調製するための出発材料としては、乳汁(例えば、牛乳)などの哺乳動物の分泌液または脱脂乳もまた用いられ得るが、この場合、酵素で処理する前にカゼインを除去することが好ましい。ホエイ中の乳由来タンパク質に対するタンパク質分解酵素の処理条件(温度および時間を含む)は、タンパク質の変性および酵素の作用温度を考慮して適宜決定され得る。
【0019】
エンドプロテアーゼとしては、ウシ胃粘膜由来ペプシン;E.C.3.4.23.1が好ましく、エキソペプチダーゼとしては、Aeromonas Proteolytica由来アミノペプチダーゼ;E.C.3.4.11.10が好ましく、エンドペプチダーゼとしては、ウシ膵臓由来キモトリプシンII型;E.C.3.4.21.1が好ましい。エンドプロテアーゼ、エキソペプチダーゼ、およびエンドペプチダーゼの酵素の処理温度は、好ましくは20〜60℃、より好ましくは40〜60℃であり、なおより好ましくは約50℃である。エンドプロテアーゼ、エキソペプチダーゼ、およびエンドペプチダーゼは、同時に作用させても、あるいは別々に作用させてもよい。同時に作用させる場合、処理時間は、好ましくは0.5〜5時間、より好ましくは1〜3.5時間である。作用させる組合せの比率は、Unit/1kgタンパク質で、好ましくは、1〜1000:1〜10:1〜100であり、より好ましくは、100〜1000:1〜2:5〜20であり、なおより好ましくは、約1000:1:10である。
【0020】
本発明の乳成分加水分解物は、皮膚を透過することができる。このような乳成分加水分解物は、市販の人工皮膚膜(例えば、東レ株式会社から入手可能)を透過し得る。人工皮膚膜は、分子量約2000をカットオフ可能な膜であり得る。
【0021】
本発明の乳成分加水分解物は、AGE−2に結合し得る。AGE−2に対する結合性については、AGE−2が蛍光を発することを利用して、AGE−2に被験物質を添加したときのAGE−2の蛍光強度の減弱によって測定できる。例えば、以下の実施例2に記載のように、水晶発振子マイクロバランス(QCM)装置を用いてAGE−2との結合および解離を調べることにより判定し得る。
【0022】
AGE−2は、培養法、化学合成法などの任意の方法によって合成され得る。培養法では、例えば、ヒト血清アルブミン(HSA)を、D,L−グルコースと数週間インキュベートするか、あるいはD,L−グリセルアルデヒドまたはD,L−グリコールアルデヒドと数日間インキュベートする。化学合成法は、例えば、Tessierらの方法(非特許文献4)に従って行われる。具体的には、アセチル−リジンとグリセルアルデヒドとをリン酸緩衝液(pH7.4)中で混合し、さらにジエチレントリアミンペンタ酢酸および25%(v/v)メタノールを加えて、37℃で数日間反応させることによって得られる。得られたAGE−2は、適切な固相(例えば、ビーズなど)に固定化されていることが好ましい。
【0023】
本発明の乳成分加水分解物を調製するには、以下の実施例1に記載と実質的に同様にして、ホエイにタンパク質分解酵素を作用させることが好ましい。
【0024】
本発明の乳成分加水分解物は、以下に記載するような製品に含める場合、水溶液の形態であっても、あるいは溶媒を除去して粉末化した形態(例えば、凍結乾燥による)であってもよい。
【0025】
本発明の乳成分加水分解物は、AGEs、特にAGE−2に対する結合性を有する。したがって、本発明の乳成分加水分解物は、食品として摂取した場合、食物性のAGEsを吸着して、腸管からの吸収を阻害して、これにより食物性AGEsから体内で転換されるAGE−2量を減ずる。また、体内に導入した場合は、抗AGE−2剤として、あるいはAGE−2が関与する疾患、例えば、糖尿病およびその合併症、またはアルツハイマー病の予防または治療剤として有用である。
【0026】
糖尿病罹患患者において、または老化に伴って、血中AGEs濃度が上昇することが知られている。血中のAGEs(特に、グルコース由来AGE:AGE−1)の上昇によって、血中の血管障害マーカーである単球走化活性化因子(MCP−1)も増加することが判明した。本発明の乳成分加水分解物は、そのような血中のAGEs濃度の上昇に起因し得るMCP−1の増加を抑制し得る。
【0027】
本発明の乳成分加水分解物はまた、食物性AGEsの吸収阻害物質として利用可能であり、食品中のAGEsが体内に過剰に摂取されるのを抑制するのに有用である。
【0028】
さらに、本発明の乳成分加水分解物は、さらに皮膚透過性を有し、皮下のAGEsの蓄積を抑制する素材としても利用可能であり、化粧料などとして用いられる。
【0029】
(食品)
本発明の乳成分加水分解物は、食品に利用できる。このような食品は、賦形剤、増量剤、結合剤、増粘剤、乳化剤、着色料、香料、食品添加物、調味料などをさらに含み得る。このような食品は、用途に応じて、顆粒、錠剤、液剤などの形態に成形され得る。また、乳成分加水分解物を食品または飲料に添加して、健康保持用の食品とすることもできる。このような食品としては、例えば、在宅用糖尿病食、流動食、病者用食品(糖尿病食調整用組み合わせ食品など)、特定保健用食品、ダイエット食品、あるいは炭水化物を主成分とする食品が挙げられるが、これらに限定されない。具体的な食品形態としては、例えば、米飯製品、麦製品、野菜製品、乳飲料、清涼飲料などが挙げられるが、これらに限定されない。食品への添加または加工は、当業者が通常用いる方法によって行われ得る。ヒト以外への動物、例えば家畜またはペット用の飼料への添加も可能である。
【0030】
食品に含まれ得る本発明の乳成分加水分解物の量は、食品の形態、種類、混合成分に依存するが、好ましくは0.1〜30質量%、より好ましくは0.5〜20質量%、さらに好ましくは1〜10質量%であり得る。
【0031】
本発明の乳成分加水分解物は、食品に、当業者が通常用いる手順によって添加、配合または含有され得る。例えば、水またはアルコールなどの溶媒に予め溶解後、他の配合成分と混合することによって、または粉末のまま他の配合成分と攪拌混合することによって、食品中に添加、配合または含有させ得る。
【0032】
(化粧料)
本発明の乳成分加水分解物は、化粧料中にも含有され得る。本明細書における「化粧料」とは、皮膚もしくは毛髪を健やかに保つために、または身体を清潔にし、美化し、魅力を増し、容貌を変えるために、身体に塗擦、散布などにより適用する物をいう。化粧料は、その用途に応じて、基礎用化粧品、メイクアップ用化粧品、頭髪用化粧品などに分類される。本明細書においては、「化粧料」とは、薬用化粧品のような、薬事法における定義では医薬部外品に分類されるものも含む。化粧料は、具体的に例示すれば、コールドクリーム、バニシングクリーム、中油性である混合型クリーム、マッサージクリーム、エモリエントクリーム、ハイゼニッククリーム、目元および手指用クリーム、リップクリーム、シェービングクリーム、アフターシェービングクリームなどのクリーム類;保湿化粧水、収斂性化粧水、酸性化粧水、アルカリ性化粧水、カーマインローション、アフターシェーブローションなどの化粧水類;ポリマー系を含む乳液などの乳液類;美容液および美容オイル;ボディ用スクラブ;パックおよび剥離性パック;下地クリーム、バニシングタイプファンデーション、おしろい、水おしろい、練りおしろい、スティック型を含む油性ファンデーション、水中油型または油中水型である乳液タイプのクリームファンデーション、パウダリーファンデーション、リキッドファンデーション、口紅、頬紅、ブラッシングパウダー、アイライナー、アイシャドウ、マスカラ、眉墨、機能性口紅、リップライナーペンシル、リップグロス、リップクリーム、ネイルエナメル、ベースコート、トップコート、除光液、ネイルクリーム、キューティクルリムーバーなどを含むメイクアップ用製品;シャンプー、コンディショニングシャンプー、リンス、ヘアトリートメント、リンス一体型シャンプー、育毛剤、養毛剤、ヘアムースおよびヘアフォーム、ヘアスプレー、ヘアミスト、ヘアジェル、セットローション、ヘアリキッド、スカルプトリートメント、ヘアクリーム、ヘアオイル、ヘアコーティングローション、ヘアグロススプレー、ヘアブロウ、ポマード、チック、ヘアワックス、染毛剤、ヘアブリーチなどを含む頭髪用製品類;ならびに浴用および洗顔石鹸、ボディ洗浄料、浴用剤、バブルバス、消臭剤、制汗剤、スリミング用、フレグランス用、香水、パヒューム、オードトワレ、オーデコロンなどを含むボディケア用製品類であるが、これらに限定されない。
【0033】
本発明の乳成分加水分解物以外に、本発明の化粧料に含まれ得る成分としては、以下が挙げられる:油脂類、蝋類、炭化水素類、高級脂肪酸類、高級アルコール類、エステル類、シリコーン類など含む油性原料;精製水、アルコール類などを含む水性原料;多価アルコール類、糖類、生体高分子類、ピロリドンカルボン酸ナトリウム、アミノ酸類、尿素、乳酸ナトリウムを含む天然保湿用因子;動植物抽出物、乳酸菌培養物、カゼイン、酵母エキス、ローヤルゼリー、シルク抽出物、海藻エキス、アルギン酸ナトリウムなどを含む天然系界面活性剤;カルボキシルメチルセルロースなどを含む半合成系界面活性剤;メタアクリル酸共重合体などを含む合成系界面活性剤;カルボン酸塩、スルホン酸塩、リン酸エステル塩、第四級アンモニウム塩、トリメチルグリシン、アミンオキシド、ポリオキシエチレンなどを含む親水基種類フッ素系界面活性剤;ポリエーテル変性などを含む非イオン系、スルホン酸変性などを含むアニオン系、アンモニウム変性などを含むカチオン系、スルホベタイン変性などを含む両性系のシリコーン系界面活性剤;サーファクチン、リポペプチドなどを含むポリペプチド誘導体系界面活性剤;糖脂質、リン脂質、胆汁酸などの動植物および微生物系天然界面活性剤;ソホロリピドなどを含む微生物産生系天然界面活性剤;賦形および展延を目的とした粉体原料;紫外線防御、角層剥離および溶解、鎮痒、消臭、栄養補給、制汗、美白、細胞賦活、血行促進、消炎、収斂、皮脂抑制を目的とした薬剤用原料;抗脂漏剤;およびホルモン剤。
【0034】
上記の成分は、本発明の乳成分加水分解物の効能を損なわないように、化粧料に添加、配合または含有され得る。本発明の乳成分加水分解物の含有量は、化粧料の種類や成分に依存するが、好ましくは0.01〜10質量%、より好ましくは0.05〜5質量%、さらに好ましくは0.1〜2質量%であり得る。この含有量は、クリーム状、液状、乳液状、ムース状、固形状などの形態または用途(基礎用、洗浄用など)による違いは大きくない。
【0035】
本発明の乳成分加水分解物は、化粧料に、当業者が通常用いる手順によって添加、配合または含有され得る。例えば、水またはアルコールなどの溶媒に予め溶解後、他の配合成分と混合することによって、または粉末のまま他の配合成分と攪拌混合することによって、化粧料中に添加、配合または含有させ得る。
【実施例】
【0036】
(実施例1)
ウシの生乳からカゼインナトリウムを製造した後の残りのホエイをタツア・ジャパン株式会社から入手した。このホエイにエンドプロテアーゼ(ウシ胃粘膜由来ペプシン;E.C.3.4.23.1;シグマ社)1000Unit/1kgタンパク質、エキソペプチダーゼ(Aeromonas Proteolytica由来アミノペプチダーゼ;E.C.3.4.11.10;シグマ社)1Unit/1kgタンパク質、およびエンドペプチダーゼ(ウシ膵臓由来キモトリプシンII型;E.C.3.4.21.1;シグマ社)10Unit/1kgタンパク質を添加し、50℃にて3.5時間処理した。このような酵素処理により得られた加水分解物を凍結乾燥し、ホエイ加水分解物を得た。
【0037】
凍結乾燥したホエイ加水分解物を10mg/mLとなるように純水に溶解し、これをA液とした。人工皮膚膜(東レ株式会社)を中心に挟んだ両側の相を有する横置型膜透過セルを作製した。この膜透過セルの片側の相にA液を入れ、そしてもう一方の相には純水を入れて、セル全体を25℃の水を循環させることによって定温とした。両相を120rpmの速度で10分間攪拌した。10分の攪拌後、純水を入れた相から溶液を取り出し、これをB液とした。
【0038】
凍結乾燥したホエイ加水分解物を純水に溶解したA液(攪拌開始前の溶液)およびB液の内容物を、経皮吸収評価法試験で用いられる方法に準じて、以下に記載する条件下で高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって測定した:
カラム ODS(資生堂製) 4.6×150mm
溶離液 A:0.02%(v/v)TFA(溶媒HO)
B:0.016%(v/v)TFA(溶媒ACN)
A:B=95:5(v/v)で使用
流速 0.75ml/分
温度 40℃
検出器UV 220nm。
【0039】
その結果、人工皮膚膜を透過してA液からB液に移動した物質が存在した。
【0040】
(実施例2)
上記実施例1のA液およびB液について、分子間相互作用定量水晶天秤(QCM)装置「AFFINIXQ」(型番:QCM2000;株式会社イニシアム)を用いて、AGE−2との相互作用(解離定数)を調べた。
【0041】
AGE−2は、以下のようにして調製した。
【0042】
まず、180mgのDL−グリセルアルデヒドおよびキレート剤として39mgのジエチレントリアミン−五酢酸をそれぞれ秤量し、50mLのファルコンチューブに入れた。次いでファルコンチューブに0.2Mリン酸緩衝液(pH7.4)を20mL添加して、ボルテックスミキサーにてDL−グリセルアルデヒドおよびジエチレントリアミン−五酢酸を溶解した。さらにファルコンチューブにヒト血清アルブミン(HSA)(Sigma社製)を500mg添加し、ボルテックスミキサーにて溶解した。次いで、得られた溶液をクリーンベンチ内でポアサイズ0.22μmのフィルターを通すことによって無菌溶液とした。パラフィルムにて50mLファルコンチューブの蓋を密封し、37℃で1週間インキュベートし、DL−グリセルアルデヒドとHSAとを反応させた。インキュベーション後、溶液をPD−10カラム(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)にかけて未反応のDL−グリセルアルデヒドを除き、その結果をHPLCで確認した。
【0043】
AGE−2の生成は、モノクローナル抗体を用いたELISA法で確認した。抗AGE−2モノクローナル抗体は、東洋紡株式会社に委託して、AGE−2を抗原としてマウスから作製した。この抗AGE−2モノクローナル抗体をビオチン化試薬EZ-Link(登録商標)Sulfo-NHS-Biotinylation Kit(PIERCE、商品コード21420)でビオチン化し、さらにこのビオチン化抗AGE−2モノクローナル抗体にストレプトアビジン ペルオキシダーゼ標識(ナカライテスク、商品コード02517−61)を結合した。ELISA POD基質A.B.T.Sキット(ナカライテスク、商品コード14351−80)を用いて、HSA抗体(RayBiotech, Inc)を固相化したウェルに、上記にて調製したAGE−2およびペルオキシダーゼ標識ストレプトアビジンを結合したビオチン化抗AGE−2モノクローナル抗体を添加して、化学発光を検出することによりAGE−2の生成を確認した。
【0044】
分子間相互作用定量水晶天秤(QCM)装置「AFFINIXQ」(型番:QCM2000;株式会社イニシアム)の専用センサーチップに、100μg/mLのAGE−2 1μLを滴下し、十分に風乾し、次いで超純水でチップを洗浄した。AGE−2を固定したチップを上記装置に装着し、8mLの超純水を入れた試験容器に挿入した。上記A液またはB液の凍結乾燥物を超純水で1mg/mLとした被験物質溶液を8μL取り、試験容器に添加した。装置のディスプレイ上でチップ上のAGE−2と被験物質との結合が安定になったことを確認し、上記被験物質溶液8μLをさらに添加する。この操作を2〜4回繰り返し、AGE−2と被験物質との相互作用を示す平衡曲線(吸着曲線)を作成した。装置に内蔵した専用測定解析ソフトウェアで結果を解析し、解離定数を算出した。
【0045】
A液およびB液のそれぞれについて、ソフトウェアによる解析から、A液では解離定数K=1.60×10−4Mであり、そしてB液では解離定数K=5.87×10−4Mであった。したがって、攪拌前の溶液であるA液に溶解している物質も人工皮膚膜透過により得られたB液に溶解している物質の両方ともAGE−2に対する結合性を有していた。
【0046】
このことにより、ホエイ加水分解物および人工皮膚膜を透過した物質が、AGE−2に対する結合性を有することがわかった。
【0047】
(実施例3)
以下の組成の人工腸液(pH8.3)を調製した:
NaCl 60mmol/L
NaHCO 50mmol/L
タウロコール酸 5mmol/L
オレイン酸 10mmol/L
NaHPO 10mmol/L
【0048】
この人工腸液に、蛋白量として5g/L(約0.1mmol/L)となるようにAGE−2を添加した。AGE−2は、上記実施例2と同様にして調製した。
【0049】
AGE−2を添加した人工腸液100mLに実施例1で製造した凍結乾燥ホエイ加水分解物100mgを添加し、37℃の恒温槽中で20ストローク/分にて振盪しながら混合した。3時間後にこの溶液1mLを採取し、3000rpmで遠心分離し、上清を回収した。この上清において、上記実施例2と同様に、HSA抗体およびAGE−2モノクローナル抗体を用いてELISAにより残存AGE−2(ホエイ加水分解物に未結合)を定量した。
【0050】
ホエイ加水分解物の吸着量は、合成AGE−2を基準物質として検量線を描いて決定した。その結果、1gホエイ加水分解物当たり蛋白量として0.74gのAGE−2の吸着が観察された。
【0051】
これにより、消化管内において、外来性のAGE−2を捕捉できることが示唆された。
【0052】
(参考例1)
グルコース由来AGE(AGE−1)の投与によって、血中のAGE−2および単球走化活性化因子(MCP−1、これは血管障害マーカーとなる)が増加することを示した。
【0053】
AGE−1は、以下のようにして合成した。DL−グルコース(ナカライテスク株式会社)100mM、ジエチレントリアミン五酢酸(和光純薬株式会社)5mM、ウシ血清アルブミン(BSA;シグマ株式会社)0.37mMを、37℃にて1週間インキュベート(60スイング/分)し、そして得られた粗AGE−1生成物を純水に対して3日間透析し、不純物を除去した。透析により精製されたAGE−1を凍結乾燥し、投与用サンプルとして用いた。
【0054】
5週齢のSprague−Dawley系ラット雄(九動株式会社)を1週間馴化飼育し、AGE−1 5mg/kg投与群、AGE−1 10mg/kg投与群、およびプラセボ投与群にそれぞれ1群当たり5匹を無作為抽出法にて振り分けた。ラットは、温度23±2℃および湿度55±10%に制御された飼育装置(但し、飼育室清掃等の影響によって一過性に温度あるいは湿度が変動することは許容されるものとした)の繁殖用ケージにて飼育し、ラット飼育用餌(CE-2;日本クレア株式会社)および水道水を与えた。ラット用ゾンデを用いて、AGE−1投与群については、最も近い時点で測定した体重を基礎として個体別に投与量5mg/kgおよび10mg/kgとなるように算出し、30日間、胃内に強制経口投与した。また、コントロールであるプラセボ群に関しては、同様の算出量と等量の純水を同じく胃内に強制経口投与した。
【0055】
投与30日後、各投与群のラットについて血中のAGE−2およびMCP−1の濃度を測定した。血中AGE−2濃度は、上述のようにして入手したAGE−2モノクローナル抗体と共に、ミズホメディー株式会社に依頼して調製した競合法ELISAキットを用いて測定した。血中MCP−1濃度は、コスモ・バイオ株式会社から販売されているラット血清用キットを用いて測定した。
【0056】
AGE−1の30日間投与によって、投与濃度依存的に血中AGE−2濃度は増加した。血中MCP−1濃度もまた投与濃度依存的に増加し、10mg/kg投与群では、統計的有意に増加した(p<0.01)。
【0057】
(実施例4)
実施例1で製造した凍結乾燥ホエイ加水分解物をAGE−1と合わせて投与した群を追加したことおよび投与期間を14日間としたこと以外は、上記参考例1と同様にラットを処理し、処理後ラットの血中MCP−1濃度を測定した。より具体的には、ラット処理群は、AGE−1 10mg/kg投与群、AGE−1 10mg/kg+実施例1で製造した凍結乾燥ホエイ加水分解物100mg投与群、およびコントロールであるプラセボ投与群(各群5匹)であった。
【0058】
図1は、AGE−1投与単独投与処理ならびにAGE−1およびホエイ加水分解物の同時投与処理による血中MCP−1濃度の推移を示すグラフである。縦軸は、処理前の血中MCP−1濃度に対する処理後の血中MCP−1濃度の割合を%にて示す。その結果、血中MCP−1濃度は、参考例1で見られたのと同様にAGE−1 10mg/kg投与群では統計的有意に増加した(p<0.01)。実施例1で製造した凍結乾燥ホエイ加水分解物100mg投与群では、AGE−1単独投与の場合で見られる血中MCP−1濃度の上昇を抑制した(本血中MCP−1濃度は、AGE−1単独投与の血中MCP−1濃度に対して統計的有意に低かった)。
【0059】
(実施例5)
本発明の化粧品の製造例を示す。以下の成分を含む化粧品クリームを、当業者が通常用いる方法にて製造した:水、グリセリン、植物性スクワラン、エチルヘキサン酸セチル、ジメチコン、セタノール、ステアリン酸グリセリル、ポリグリセリン、イソステアリン酸PEG−60グリセリル、上記実施例1で製造した凍結乾燥ホエイ加水分解物、パルミチン酸セチル、ヒドロキシエチルエチレンジアミンサン酢酸−三ナトリウム塩(HEDTA−3Na)、ラウリルカルバミン酸イヌリン、およびメチルパラベン。
【0060】
(実施例6)
上記実施例1で製造した凍結乾燥ホエイ加水分解物を用いるクッキーの製造例を示す:
薄力粉 70グラム
上記実施例1で製造した凍結乾燥ホエイ加水分解物 10グラム
アーモンドパウダー 20グラム
ベーキングパウダー 小さじ4分の1
砂糖 40グラム
無塩バター 60グラム
卵 1個
キャラメルチョコチップ 30グラム
香料エッセンス 数滴
上記の材料を準備し、通常の方法に従ってクッキーを製造した。上記実施例1で製造した凍結乾燥ホエイ加水分解物は、粉類の添加時に合わせて添加した。
【0061】
(実施例7)
上記実施例1で製造した凍結乾燥ホエイ加水分解物を用いる乳酸菌飲料の製造例を示す:
プレーンヨーグルト 200グラム
上記実施例1で製造した凍結乾燥ホエイ加水分解物 30グラム
水 200cc
砂糖 180グラム
レモン果汁 大さじ2杯
ドライイースト 小さじ1/3杯
上記の材料を準備し、通常の方法に従って乳酸菌飲料を製造した。上記実施例1で製造した凍結乾燥ホエイ加水分解物は、砂糖水にプレーンヨーグルトを添加する際に少量ずつ添加し、次いでイーストを発酵させた。
【0062】
(実施例8)
上記実施例1で製造した凍結乾燥ホエイ加水分解物を用いる豆腐の製造例を示す:
大豆 300グラム
上記実施例1で製造した凍結乾燥ホエイ加水分解物 15グラム
凝固剤 少々
上記の材料を準備し、通常の方法に従って豆腐を製造した。上記実施例1で製造した凍結乾燥ホエイ加水分解物は水溶きし、煮沸した大豆汁を50℃程度に冷ました後に添加した。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明によれば、細胞への毒性が強いと考えられるAGE−2に結合可能な物質が提供される。本発明の乳成分加水分解物は、消化管内において、食物に由来する(外来性)AGE−2の吸収を阻害するのに有用である。本発明の乳成分加水分解物はまた、老化に伴い体内に蓄積していき、老化の原因になっていると考えられているAGE−2の蓄積を抑制するのに有用である。本発明の乳成分加水分解物はまた、糖尿病患者や加齢に伴うAGEsの増大による症状(例えば、血管障害)の軽減に有用であり得る。本発明の乳成分加水分解物は、化粧料または食品の材料として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】AGE−1投与単独投与処理ならびにAGE−1およびホエイ加水分解物の同時投与処理による血中MCP−1濃度の推移を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホエイをエンドプロテアーゼ、エキソプロテアーゼ、およびエンドペプチダーゼで加水分解することにより得られる乳成分加水分解物を含む、グリセルアルデヒド由来終末糖化産物結合剤。
【請求項2】
ホエイをエンドプロテアーゼ、エキソプロテアーゼ、およびエンドペプチダーゼで加水分解することにより得られる乳成分加水分解物を含む、食品。
【請求項3】
ホエイをエンドプロテアーゼ、エキソプロテアーゼ、およびエンドペプチダーゼで加水分解することにより得られる乳成分加水分解物を含む、化粧料。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2008−260761(P2008−260761A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−63293(P2008−63293)
【出願日】平成20年3月12日(2008.3.12)
【出願人】(506307809)株式会社アップウェル (9)
【Fターム(参考)】