説明

乳由来塩基性タンパク質含有組成物

【課題】鉄独特の収斂味がなく、しかも優れた骨強化作用、骨吸収抑制作用、骨 形成促進作用及びコラーゲン産生促進作用を示す組成物の提供。
【解決手段】乳由来の塩基性タンパク質画分と炭酸及び/又は重炭酸と鉄とを溶解、混合し、乳由来塩基性タンパク質含有組成物を形成する。この乳由来塩基性タンパク質含有組成物は、鉄独特の収斂味がなく、しかも骨強化作用、骨吸収抑制作用、骨形成促進作用及びコラーゲン産生促進作用に優れているので、貧血症及び骨疾患という2つの疾患の予防又は治療に有用であり、さらに美肌剤としても有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳由来塩基性タンパク質含有組成物に関する。本発明の乳由来塩基性タンパク質含有組成物は鉄を含有するが、鉄独特の収斂味を示さないという特徴を有するので、貧血の予防又は治療、鉄補給を目的とした医薬品、飲食品、化粧品及び飼料等の有効成分として有用である。また、本発明の乳由来塩基性タンパク質含有組成物は、骨強化作用、骨吸収抑制作用、骨形成促進作用及びコラーゲン産生促進作用を有するので、骨疾患の予防又は治療、骨強化、及び美肌等を目的とした医薬品、飲食品、化粧品及び飼料等の有効成分として有用である。
【背景技術】
【0002】
鉄欠乏による貧血は世界各国で共通の問題となっており、日本においても成人女性の約半数が鉄欠乏性貧血又はその予備群であると報告されている。さらに鉄の摂取量は食生活の変化や過度なダイエットの影響で近年、減少傾向にあり、平成15年の国民栄養調査では、ほぼ全ての年代の女性で厚生労働省の定めた推奨量を下回っている。こうした現状から鉄を強化した飲食品や医薬品の供給が望まれるが、一般に鉄強化に用いられる硫酸鉄やクエン酸鉄等の無機鉄塩を飲食品に添加すると、鉄独特の収斂味を感じたり、胃腸粘膜に損傷を与えたりする懸念があり、その添加量には限界があった。また、有機鉄のヘム鉄も金属味や生臭味といった風味上の問題があり、飲食品等への添加には制約があった。さらに、鉄の吸収を促進する目的で、ミルクカゼイン、アミノ酸、カゼインホスホペプチドを添加することが試みられている(例えば、特許文献1参照)。しかし、これらの方法では、鉄独特の収斂味を消失させることはできず、また、鉄独特の収斂味を感じない程度の鉄の添加量では、鉄欠乏性貧血の予防又は治療に対する効果が発揮されないという問題があった。
【0003】
このような鉄素材の抱える問題を鑑み、これまでの研究によって、炭酸や重炭酸と共に、鉄とラクトフェリン類を混合して得られる、鉄独特の収斂味のない鉄−ラクトフェリン複合体が発明された(例えば、特許文献2参照)。また、同様にして、鉄とカゼイン類を混合して得られる鉄−カゼイン複合体(例えば、特許文献3参照)及び、鉄とホエータンパク質加水分解物を混合して得られる鉄−ホエータンパク質加水分解物複合体(例えば、特許文献4参照)が発明された。
しかし、本願発明のように、乳由来塩基性タンパク質画分と、炭酸及び/又は重炭酸と、鉄とを溶解、混合して得られる乳由来塩基性タンパク質含有組成物については知られていない。
【0004】
また、鉄は骨形成にも重要な役割を果たしており、プロコラーゲンプロリンヒドロキシラーゼとプロコラーゲンリジンヒドロキシラーゼの補酵素として、骨中コラーゲン前駆体のプロリン及びリジンの水酸化に関与している。
【0005】
近年、骨粗鬆症、骨折及び腰痛等の各種骨疾患を患う人が急速に増加しており、その予防や治療法の確立が急がれている。骨粗鬆症等の骨疾患はカルシウムの摂取不足、カルシウム吸収能力の低下及び閉経後のホルモン・アンバランス等が原因であるとされている。このような骨疾患を予防するためには、小児期、青年期に出来るだけ多くの骨量を獲得し、最大骨量を増加させることが極めて重要である。しかし、カルシウム摂取量は平成15年の国民栄養調査においても目標量を満たしておらず、日本人の食生活では充足しにくい栄養素の1つである。こうした現状を背景として、骨形成の促進作用及び骨吸収の抑制作用を示し、骨疾患の予防又は治療に有効な素材である、乳由来の塩基性タンパク質画分が発明された(例えば、特許文献5参照)。
【0006】
さらに、乳由来塩基性タンパク質画分が、皮膚のコラーゲン量を増加させる効果を持つことも見出されている(例えば、特許文献6参照)。コラーゲンの減少は皮膚老化の原因の一つであり、加齢による新陳代謝の減衰のほか、太陽光(紫外線)、乾燥、酸化等の作用が複雑に関与している。コラーゲンによって保たれていた皮膚のハリや弾力性といった張力保持機構が破壊されると、皮膚はシワやたるみを増し老化した状態になる。また、コラーゲンはその分子中に水分を保持することができ、それによって皮膚をしっとりとした状態に保つのにも役立っているから、コラーゲンが破壊されると肌は乾燥し、荒れた状態になる。乳由来塩基性タンパク質画分は、コラーゲンの生合成を促進させることによって皮膚の老化を防止でき、しかも安全性の点でも問題のない優れた美肌剤である。
しかし、本願発明の様な、乳由来塩基性タンパク質画分と、炭酸及び/又は重炭酸と、鉄とを溶解、混合して得られる乳由来塩基性タンパク質含有組成物が、骨強化作用、骨吸収抑制作用、骨形成促進作用及びコラーゲン産生促進作用を有することについては知られていない。
【特許文献1】特開昭59-162843号公報
【特許文献2】特開平7-304798号公報
【特許文献3】特開平9-77793号公報
【特許文献4】特開2000-50812号公報
【特許文献5】特開平8-151331号公報
【特許文献6】特開2003-144095号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
鉄欠乏性貧血の予防又は治療に用いられる無機鉄や有機鉄を飲食品に添加すると、鉄独特の収斂味を感じたり、生臭味を持つといった風味上の問題や、胃腸粘膜に損傷を与えたりする懸念があり、飲食品等への添加には制約があった。これまでの研究によって、鉄−ラクトフェリン複合体、鉄−カゼイン複合体、及び、鉄−ホエータンパク質加水分解物複合体などが報告されているが、これらの物質以上に鉄独特の収斂味がなく、しかも優れた骨強化作用、骨吸収抑制作用、骨形成促進作用及びコラーゲン産生促進作用を示す物質を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を進めたところ、乳由来の塩基性タンパク質画分は、炭酸及び/又は重炭酸と鉄とを溶解、混合すると、鉄独特の収斂味のない安定な乳由来塩基性タンパク質含有組成物を形成することを見出した。さらに、この乳由来塩基性タンパク質含有画分と炭酸及び/又は重炭酸と鉄とが複合した乳由来塩基性タンパク質含有組成物は、原料である乳由来塩基性タンパク質画分、あるいは鉄−ラクトフェリン複合体、鉄−カゼイン複合体、及び、鉄−ホエータンパク質加水分解物複合体よりも有意に優れた骨強化作用、骨吸収抑制作用、骨形成促進作用及びコラーゲン産生促進作用を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。従って、本発明は、鉄独特の収斂味がなく、しかも骨強化作用、骨吸収抑制作用、骨形成促進作用及びコラーゲン産生促進作用に優れた、乳由来塩基性タンパク質画分と炭酸及び/又は重炭酸と鉄とが複合した乳由来塩基性タンパク質含有組成物を提供するものである。
なお、本発明では、乳または乳由来の原料を陽イオン交換樹脂に接触させた後、樹脂に吸着した画分を塩濃度0.1〜1.8Mの溶出液で溶出して得られる画分を「乳由来塩基性タンパク質画分」と呼び、この「乳由来塩基性タンパク質画分」を原料として、これに炭酸及び/又は重炭酸と鉄とを溶解、混合して得られる組成物を「乳由来塩基性タンパク質含有組成物」と呼ぶ。
【発明の効果】
【0009】
本発明の乳由来塩基性タンパク質画分と炭酸及び/又は重炭酸と鉄とが複合した乳由来塩基性タンパク質含有組成物は、鉄強化が可能であると同時に、骨強化作用、骨吸収抑制作用、骨形成促進作用及びコラーゲン産生促進作用が原料である乳由来塩基性タンパク質画分よりも有意に優れている。また、本発明と同一の出願人によりすでに公開されている鉄−ラクトフェリン複合体、鉄−カゼイン複合体、及び、鉄−ホエータンパク質加水分解物複合体よりも有意に優れた骨強化作用、骨吸収抑制作用、骨形成促進作用及びコラーゲン産生促進作用を示す。このように、鉄と、骨強化作用、骨吸収抑制作用、骨形成促進作用及びコラーゲン産生促進作用を持つ成分を同時に摂取することができるので、近年増加傾向にあり、大きな社会問題になっている貧血症及び骨疾患という2つの疾患の予防又は治療に有用であり、さらに美肌剤としても有用な、極めて優れた素材である。
【0010】
本発明の乳由来塩基性タンパク質含有組成物は、乳タンパク質の粗精製画分である乳由来塩基性タンパク質画分を原料とするため、これまでに発明された、精製画分であるラクトフェリンを原料とする鉄−ラクトフェリン複合体に比べて、原材料費を安く抑えることができる。従って、本発明によって、鉄独特の収斂味のない組成物をこれまでより低価格で供給することが可能となる。
【0011】
また、本発明は、乳由来塩基性タンパク質画分の含有量の測定を容易にするという点でも有用である。従来の乳由来塩基性タンパク質画分は、その95重量%以上がタンパク質であり、通常の飲食品のように他のタンパク質が多く含まれる中に添加した場合、乳由来塩基性タンパク質画分の含有量を正確に測定するためには複雑な測定法を用いる必要があった。一方、本発明はその成分として鉄を含有するため、例えば、誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP-AES)を用いた分析によって、鉄の含有量を正確に測定できる。従って本発明によって、一般の医薬品、飲食品、化粧品及び飼料等に添加した場合でも、乳由来塩基性タンパク質画分の含有量測定を容易に行うことが可能となり、これら製品の品質管理を行う上で極めて有用である。
【0012】
さらに、本発明は、強い抗菌性を示すラクトパーオキシダーゼを含む乳由来塩基性タンパク質画分を原料として使用するため、これまでに発明された鉄−ラクトフェリン複合体、鉄−カゼイン複合体、鉄−ホエータンパク質加水分解物複合体等に比べて、優れた抗菌性を示し、長期間の保存が可能である。
さらに、ラクトパーオキシダーゼは虫歯原因菌や歯周病菌に対しても殺菌作用を示すので、本発明の乳由来塩基性タンパク質含有組成物は、うがい薬や歯磨きなど、口腔衛生においても有用である。
【0013】
そして、本発明の乳由来塩基性タンパク質含有組成物は、鉄強化が可能であると同時に、原料である乳由来塩基性タンパク質画分よりも有意に優れた骨強化作用、骨吸収抑制作用、骨形成促進作用及びコラーゲン産生促進作用を示すばかりか、公知の鉄−ラクトフェリン複合体、鉄−カゼイン複合体、及び、鉄−ホエータンパク質加水分解物複合体よりも有意に優れた骨強化作用、骨吸収抑制作用、骨形成促進作用及びコラーゲン産生促進作用を示す。
【0014】
以上のように、本発明の乳由来塩基性タンパク質含有組成物は、鉄独特の収斂味を示さないという特徴を有し、しかも、乳由来塩基性タンパク質画分よりもさらに高い骨強化作用、骨吸収抑制作用、骨形成促進作用及びコラーゲン産生促進作用を示すので、貧血症及び骨疾患という2つの疾患の予防又は治療に有用であり、さらに美肌剤としても有用である。しかも、鉄素材の低価格化、保存性の向上、乳由来塩基性タンパク質画分定量法の簡便化等によって、乳タンパク質、特に乳由来塩基性タンパク質画分の産業上の有用性を高めるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明で原料として用いる乳由来塩基性タンパク質画分は、次の性質を有している。
1) ソジウムドデシルサルフェート−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)によると、分子量 1,000〜100,000の範囲の、数種のタンパク質よりなる。
2) 95重量%以上がタンパク質であって、その他少量の脂肪、灰分を含む。
3) タンパク質は主としてラクトフェリン及びラクトパーオキシダーゼよりなる。
4) タンパク質のアミノ酸組成は、リジン、ヒスチジン、アルギニン等の塩基性アミノ酸を15重量%以上含有する。
本発明で用いる、このような塩基性タンパク質画分は、例えば、脱脂乳や乳清等の乳原料を陽イオン交換樹脂と接触させて塩基性タンパク質を吸着させ、この樹脂に吸着した塩基性タンパク質画分を0.1〜1.8Mの塩濃度の溶出液で溶出、この溶出画分を回収し、逆浸透(RO)膜や電気透析(ED)法等により脱塩及び濃縮し、必要に応じて乾燥することにより得ることができる。
【0016】
また、乳由来の塩基性タンパク質画分を得る方法としては、乳又は乳由来の原料を陽イオン交換体に接触させて塩基性タンパク質を吸着させた後、この陽イオン交換体に吸着した塩基性タンパク質画分を、pH5を超え、イオン強度 0.5を超える溶出液で溶出して得る方法(特開平5-202098号公報)、アルギン酸ゲルを用いて得る方法(特開昭 61-246198号公報)、無機の多孔性粒子を用いて乳清から得る方法(特開平 1-86839号公報)、硫酸化エステル化合物を用いて乳から得る方法(特開昭 63-255300号公報)等が知られており、本発明では、このような方法で得られた塩基性タンパク質画分を用いることができる。また、タンパク質分解酵素によって部分分解された乳又は乳由来の塩基性タンパク質画分を用いることもできる。
本発明で用いる乳由来塩基性タンパク質画分は、そのアミノ酸組成中に塩基性アミノ酸を15重量%以上含有していることが好ましい。15重量%未満であると本願発明の効果を発揮することができない。
【0017】
塩基性タンパク質画分の給原となる乳又は乳由来原料としては、牛乳、人乳、山羊乳、羊乳等の乳を用いることができ、これらの乳をそのまま、あるいは、これらの乳の還元乳、脱脂乳、ホエー等を用いることができる。
【0018】
本発明の乳由来塩基性タンパク質含有組成物は、乳由来塩基性タンパク質画分と、炭酸及び/又は重炭酸と、鉄とを溶解、混合して得られる。
【0019】
乳由来塩基性タンパク質画分、炭酸及び/又は重炭酸、鉄はそれぞれ予め溶液にしてから混合してもよいし、粉末状態で溶液に添加して混合してもよい。例えば、乳由来塩基性タンパク質画分と炭酸及び/又は重炭酸を水に溶解した後、鉄溶液と混合してもよいし、乳由来塩基性タンパク質画分と鉄を水に溶解した後、炭酸及び/又は重炭酸溶液と混合しても良いし、水に乳由来塩基性タンパク質画分、炭酸及び/又は重炭酸、鉄を同時に加えて溶解、混合してもよい。
本発明で添加する炭酸及び/又は重炭酸は、酸の形で添加してもよく、あるいは、水溶性塩の形で添加してもよい。また、鉄は、通常水溶性塩の形で添加する。
【0020】
炭酸又は重炭酸としては、炭酸水、重炭酸アンモニウム、重炭酸ナトリウム、重炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム等を例示することができる。また、本発明で使用することができる鉄化合物としては、例えば、塩化第二鉄、硝酸第二鉄、硫酸第二鉄等の3価の鉄化合物、さらには、硝酸第一鉄、硫酸第一鉄、クエン酸鉄等の2価の鉄化合物を例示することができる。また、これらの溶液にpH調整剤として、水酸化ナトリウム、アンモニア、水酸化カリウム、塩酸、クエン酸、乳酸等を混合して使用してもよい。pHは、通常、2〜9に調整する。
【0021】
調製された乳由来塩基性タンパク質含有組成物は、そのまま医薬品、飲食品、化粧品及び飼料等に配合することもできるし、ペプシン、トリプシン、キモトリプシン、パンクレアチン等のタンパク質分解酵素で分解して、医薬品、飲食品、化粧品及び飼料等に配合することもできる。
【0022】
本発明の乳由来塩基性タンパク質含有組成物は、単独で用いることもできるが、他に糖類や脂質、フレーバー等、医薬品、飲食品、化粧品及び飼料等に通常用いられる原材料と混合して用いることも可能である。
【0023】
以下に、実施例及び試験例を示して本発明を詳細に説明するが、これらは単に本発明の実施態様を例示するものであり、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0024】
(乳由来塩基性タンパク質含有組成物の調製(1))
乳由来塩基性タンパク質画分は、以下の方法で調製した。すなわち、陽イオン交換樹脂であるスルホン化キトパール(富士紡績)400gを充填したカラム(直径5cm×高さ30cm)を脱イオン水で十分洗浄した後、このカラムに未殺菌脱脂乳40リットル(pH 6.7)を流速25ml/minで通液した。通液後、このカラムを脱イオン水で十分洗浄し、 0.98M塩化ナトリウムを含む 0.02M炭酸緩衝液(pH 7.0)で樹脂に吸着した塩基性タンパク質画分を溶出した。そして、この溶出液を逆浸透(RO)膜により脱塩して、濃縮した後、凍結乾燥して粉末状の塩基性タンパク質画分 21gを得た。
この乳由来塩基性タンパク質画分4.0g、重炭酸ナトリウム18g及び塩化第二鉄6水和物2.6gをそれぞれ水に溶解し、乳由来塩基性タンパク質画分を含む水溶液200ml、重炭酸ナトリウムを含む水溶液220ml及び塩化第二鉄6水和物を含む水溶液580mlを調製した。
上記3種類の水溶液を混合し、撹拌して、乳由来塩基性タンパク質含有組成物を生成させた。この溶液は、濁りや沈殿は生じなかった。
【実施例2】
【0025】
(乳由来塩基性タンパク質含有組成物の調製(2))
実施例1と同様に、スルホン化キトパールを充填したカラムから回収した塩基性タンパク質画分を、0.2Mグリシン−塩酸緩衝液でpH4.0に調整し、タンパク質1gあたりペプシン(ペプシンA、Porcine stomach mucosa由来、4,500units/mg、SIGMA)20mgを添加し、37℃で2時間反応させた。反応後、80℃で10分間加熱処理して酵素を失活させ、タンパク質分解酵素で分解した塩基性タンパク質画分を得た。これを用いて、実施例1と同様の方法で乳由来塩基性タンパク質含有組成物を生成させた。この溶液は濁りや沈殿を生じなかった。
【実施例3】
【0026】
(乳由来塩基性タンパク質含有組成物分解物の調製)
実施例1で得られた乳由来塩基性タンパク質含有組成物の溶液を、0.2Mグリシン−塩酸緩衝液でpH4.0に調整し、タンパク質1gあたりペプシン(ペプシンA、Porcine stomach mucosa由来、4,500units/mg、SIGMA)20mgを添加し、37℃で2時間反応させた。反応後、80℃で10分間加熱処理して酵素を失活させ、乳由来塩基性タンパク質含有組成物分解物を得た。この溶液は濁りや沈殿を生じなかった。
【0027】
[試験例1]
(官能評価試験)
実施例1の乳由来塩基性タンパク質含有組成物、実施例2の乳由来塩基性タンパク質含有組成物、及び実施例3の乳由来塩基性タンパク質含有組成物分解物について、以下のような官能評価試験を行った。
それぞれの組成物を0.05モル/リットルのイミダゾール、0.15モル/リットルの食塩を含む、pH 7.5の液状食品を模倣した緩衝液(模擬緩衝液)で、 3.6ミリモル/リットルの鉄濃度となるように溶解した。この溶液について、模擬緩衝液を対照として、男10名、女10名のパネラーに、収斂味を感じるか否かを判定させた。各パネラーには目隠しをし、外見による判断要因を与えないように配慮した。また、一試料のための試験は、対照、試料の順に試験させ、一試料評価後、最低一日の間隔を開けて、次の試料を評価するための試験を実施した。さらに、試料評価の日間偏差をなくすため、パネラーごとに試料評価の順番をランダム化した。なお、他の鉄塩溶液の試料として、鉄濃度が 3.6ミリモル/リットルとなるように塩化第二鉄又は硫酸第一鉄を溶解した模擬緩衝液についても、同様の官能評価試験を行った。その結果として、収斂味を感じたパネラーの人数を表1に示す。
【0028】
[表1]
───────────────────────
試料 収斂味を感じたパネラーの数
───────────────────────
実施例1 0/20
実施例2 0/20
実施例3 0/20
塩化第二鉄 12/20
硫酸第一鉄 20/20
───────────────────────
【0029】
これによると、実施例1の乳由来塩基性タンパク質含有組成物、実施例2の乳由来塩基性タンパク質含有組成物、及び実施例3の乳由来塩基性タンパク質含有組成物分解物は、鉄独特の収斂味を全く示さないことが分かる。
【0030】
[試験例2]
(加熱後の官能評価試験)
実施例1の乳由来塩基性タンパク質含有組成物、実施例2の乳由来塩基性タンパク質含有組成物、及び実施例3の乳由来塩基性タンパク質含有組成物分解物の各溶液を、模擬緩衝液にてタンパク質濃度が1mg/mlとなるように希釈した後、ネジ口付き試験管に密封し、90℃で10分間加熱した。この時、各溶液は濁りや沈殿を生じなかった。加熱後、室温まで自然冷却し、室温にて1ヶ月間保存した。この溶液について、試験例1と同様の方法で官能評価試験を実施したところ、パネラー20名の中で収斂味を感じた者は1名も認められなかった。
【0031】
[試験例3]
(ヘモグロビン値上昇促進効果)
実施例1で得られた乳由来塩基性タンパク質含有組成物について、動物実験によりヘモグロビン値上昇促進効果を調べた。実施例1で作成した乳由来塩基性タンパク質含有組成物溶液(試験群)及び硫酸第一鉄溶液(対照群1)について、鉄濃度が20mg/100mlとなるよう、アスコルビン酸及びアスコルビン酸ナトリウムを、ビタミンCとして6.2mg/100g含む生理的リン酸緩衝液(pH7.2)に溶解し、90℃で10分間加熱したものを試験試料とした。また、アスコルビン酸及びアスコルビン酸ナトリウムを、ビタミンCとして6.2mg/100g含む生理的リン酸緩衝液(pH7.2)を90℃で10分間加熱したものも試験試料とした(対照群2)。
【0032】
離乳直後の21日齢ウィスター系雌ラット(日本チャールスリバー)の中、体重が45〜50gのものを選び、除鉄食(オリエンタル酵母工業、鉄含量0.25mg/100g飼料)を2週間与え、血中ヘモグロビン値が7g/100ml以下の貧血ラットを作製した。ラットは1群7匹として、その後も除鉄食を与え続けながら、試験試料を1ml/日、6週間、強制経口(ゾンデ)投与した。そして、試験試料投与後6週間目に、尾静脈より採血し、自動血球計測装置(東亜医用電子)でヘモグロビン値を測定した。その結果を表2に示す。
【0033】
[表2]
――――――――――――――――――――――――
ヘモグロビン値
(平均値±標準偏差)
(g/100ml)
――――――――――――――――――――――――
試験群 17.5±1.2 a
対照群1 13.3±1.0 b
対照群2 5.4±0.4 c
――――――――――――――――――――――――
a, b, cのラベルが異なる試料間に有意差あり(p<0.05)
【0034】
以上のように、実施例1の乳由来塩基性タンパク質含有組成物は、貧血ラットの血中ヘモグロビン値を上昇させる効果を示し、貧血治療に有用であることが明らかとなった。さらに、その貧血治療効果は無機鉄である硫酸第一鉄よりも有意に優れていることが明らかとなった。
【実施例4】
【0035】
(乳由来塩基性タンパク質含有組成物の調製)
実施例1と同様の方法で乳由来塩基性タンパク質画分を得、この乳由来塩基性タンパク質画分4.0g、重炭酸ナトリウム18g及び塩化第二鉄6水和物0.48gをそれぞれ水に溶解し、乳由来塩基性タンパク質画分を含む水溶液200ml、重炭酸ナトリウムを含む水溶液220ml及び塩化第二鉄6水和物を含む水溶液580mlを調製した。
上記3種類の水溶液を混合し、撹拌して、乳由来塩基性タンパク質含有組成物を生成させた。この溶液は、濁りや沈殿は生じなかった。
【0036】
[試験例4]
(骨強化作用)
実施例4で得られた乳由来塩基性タンパク質含有組成物について、動物実験により骨強化作用を調べた。乳由来塩基性タンパク質含有組成物は、実施例4で得られた溶液を分子量10,000カットの限外ろ過膜にて脱塩、濃縮した後、凍結乾燥して得た粉末を用いた。動物実験には4週齢のSD系雌ラット(日本チャールスリバー)を用いた。1週間の予備飼育後、卵巣摘出手術を施し、その後、カルシウム欠乏食(オリエンタル酵母工業)で5週間飼育して動物実験に供した。なお、卵巣を摘出し、カルシウム欠乏食で5週間飼育したラットは、明らかに骨粗鬆症状態にあった。この骨粗鬆症状態を惹起したラットを1群6匹ずつ、対照群(A群)、乳由来塩基性タンパク質含有組成物0.1重量%投与群(B群)、同 0.25重量%投与群(C群)、同 0.5重量%投与群(D群)の4試験群に分け、それぞれ表3に示す試験飼料で4週間飼育した。なお、各試験飼料の窒素含量(17.06%) が同様となるようカゼインで調整した。また、各試験飼料については、100g当たり、カルシウム 300mg、リン 230mg及びマグネシウム50mgを配合した。また、鉄は、乳由来塩基性タンパク質含有組成物に含まれるものと合わせて、各試験飼料100g当たり10mgとなるようクエン酸第二鉄で調整し、最終的に合計100重量%となるように主要成分であり十分量が含有されている蔗糖で調整した。
【0037】
[表3]
───────────────────────────────
A群 B群 C群 D群
──────────────────────────────―
カゼイン 20.0 19.9 19.8 19.6 (重量%)
コーンスターチ 15.0 15.0 15.0 15.0
セルロース 5.0 5.0 5.0 5.0
コーン油 5.0 5.0 5.0 5.0
ビタミン混合 1.0 1.0 1.0 1.0
ミネラル混合(鉄を除く) 2.63 2.63 2.63 2.63
クエン酸第二鉄 0.06 0.05 0.03 −
蔗糖 51.01 51.02 50.99 50.97
DL−メチオニン 0.3 0.3 0.3 0.3
乳由来塩基性
タンパク質含有組成物 − 0.10 0.25 0.50
──────────────────────────────―
【0038】
4週間後、各試験群のラットの両側大腿骨を摘出し、骨破断力測定装置(レオメータ・マックス RX-1600型、アイテクノ)で骨強度を測定した。その結果を図1に示す。これによると、大腿骨破断応力は、対照群(A群)に比べ、乳由来塩基性タンパク質含有組成物投与群(B〜D群)で有意に高い値を示した。また、大腿骨破断力は、飼料中の乳由来塩基性タンパク質含有組成物の濃度が増加するにしたがって有意に高い値を示した。
【0039】
[試験例5]
(他の骨強化剤との比較)
試験例4と同様の方法により、実施例4で得られた本発明の乳由来塩基性タンパク質含有組成物と、他の骨強化剤との比較を行った。動物実験には4週齢のSD系雌ラット(日本チャールスリバー)を用いた。1週間の予備飼育後、卵巣摘出手術を施し、その後、カルシウム欠乏食(オリエンタル酵母工業)で5週間飼育して動物実験に供した。なお、卵巣を摘出し、カルシウム欠乏食で5週間飼育したラットは、明らかに骨粗鬆症状態にあった。骨粗鬆症状態を惹起したラットを1群6匹ずつ、対照群(A群)、乳由来塩基性タンパク質画分投与群(B群)、鉄−ラクトフェリン複合体投与群(C群)、実施例4の乳由来塩基性タンパク質含有組成物投与群(D群)の4試験群に分け、それぞれ表4に示す試験飼料で4週間飼育した。なお、各試験飼料の窒素含量(17.06%) が同様となるようカゼインで調整した。また、各試験飼料については、100g当たり、カルシウム 300mg、リン 230mg及びマグネシウム50mgを配合した。また、鉄は各試験飼料100g当たり10mgとなるようクエン酸第二鉄で調整し、最終的に合計100重量%となるように主要成分であり十分量が含有されている蔗糖で調整した。
B群に投与した乳由来塩基性タンパク質画分は、実施例1記載の方法により調製した。また、C群に投与した鉄−ラクトフェリン複合体は、特開平7-304798号公報記載の方法に基づき、次のように調製した。すなわち、ラクトフェリン(DMV)4.0g、重炭酸ナトリウム18g及び塩化第二鉄6水和物0.48gをそれぞれ水に溶解し、ラクトフェリンを含む水溶液200ml、重炭酸ナトリウムを含む水溶液220ml及び塩化第二鉄6水和物を含む水溶液580mlを調製した。上記3種類の水溶液を混合し、撹拌して、鉄−ラクトフェリン複合体を生成させた。さらに、この溶液を分子量10,000カットの限外ろ過膜にて脱塩、濃縮した後、凍結乾燥して得た粉末を用いた。
【0040】
[表4]
───────────────────────────────
A群 B群 C群 D群
──────────────────────────────―
カゼイン 20.0 19.5 19.6 19.6
コーンスターチ 15.0 15.0 15.0 15.0
セルロース 5.0 5.0 5.0 5.0
コーン油 5.0 5.0 5.0 5.0
ビタミン混合 1.0 1.0 1.0 1.0
ミネラル混合(鉄を除く) 2.63 2.63 2.63 2.63
クエン酸第二鉄 0.060 0.060 − −
蔗糖 51.01 51.01 50.97 50.97
DL−メチオニン 0.3 0.3 0.3 0.3
乳由来塩基性タンパク質画分 − 0.5 − −
鉄−ラクトフェリン複合体 − − 0.5 −
乳由来塩基性
タンパク質含有組成物 − − − 0.5
──────────────────────────────―
(重量%)
【0041】
4週間後、各試験群のラットの両側大腿骨を摘出し、骨破断力測定装置(レオメータ・マックス RX-1600型、アイテクノ)で骨強度を測定した。その結果を図2に示す。これによると、大腿骨破断応力は、対照群(A群)に比べ、B〜D群で有意に高い値を示した。また、実施例4の乳由来塩基性タンパク質含有組成物投与群(D群)では、乳由来塩基性タンパク質画分投与群(B群)、鉄−ラクトフェリン複合体投与群(C群)よりも有意に高い値を示した。
【0042】
[試験例6]
(骨芽細胞増殖活性)
乳由来塩基性タンパク質画分(試料B)、鉄−ラクトフェリン複合体(試料C)、実施例4で得られた本発明の乳由来塩基性タンパク質含有組成物(試料D)について、骨芽細胞増殖活性を調べた。
培養骨芽細胞様株(MC3T3-E1)を96穴の平底細胞培養プレートに撒き込み、0.2重量%ウシ血清を含むα−MEM培地(Flow Laboratories)で18時間培養した。なお、培養に際しては、培地 100μl に対し、試料B〜Dをタンパク質濃度として 0.4重量%濃度となるように溶解した溶液2.5μl を添加した。培養後、トリチウムでラベルしたチミジンを添加し、2時間後に細胞に取り込まれたチミジンの放射活性を測定することにより骨芽細胞増殖活性を求めた(東大医科学研究所制癌研究部編,新細胞工学実験プロトコール,pp.319-320, 1993による)。その結果を表5に示す。なお、表5では、培地のみで培養した群(試料A)の放射活性を 100%とし、放射活性の相対値で試料B〜Dを添加した群の骨芽細胞増殖活性を表した。
【0043】
[表5]
――――――――――――――――――――――――
トリチウムチミジンの取り込み(%)
(平均値±標準偏差)
――――――――――――――――――――――――
試料A 100±6.7 a
試料B 211±5.6 b
試料C 205±6.3 b
試料D 239±7.0 c
――――――――――――――――――――――――
a, b, cのラベルが異なる試料間に有意差あり(p<0.05)
【0044】
表5に示されるように、試料B〜Dを添加した群は、培地のみで培養した場合(試料A)と比べて、2倍以上の骨芽細胞増殖活性を示した。さらに、乳由来塩基性タンパク質画分(試料B)、鉄−ラクトフェリン複合体(試料C)に比べて、本発明の乳由来塩基性タンパク質含有組成物(試料D)には有意に高い骨芽細胞増殖活性が認められた。
【0045】
[試験例7]
(破骨細胞骨吸収抑制作用)
乳由来塩基性タンパク質画分(試料B)、鉄−ラクトフェリン複合体(試料C)、実施例4で得られた本発明の乳由来塩基性タンパク質含有組成物(試料D)について、破骨細胞骨吸収抑制作用を調べた。10日齡のマウスの大腿骨を摘出し、軟組織を除去した後、5%FBSを含む培地中で機械的に細切した破骨細胞を含む全骨髄細胞を象牙片上に撒き込み、試料B〜Dをタンパク質濃度として 0.3重量%濃度となるように溶解した溶液を10%添加して2日間培養した。そして、この象牙片上にできた骨吸収窩(ピット)をヘマトキシリン染色し、その数をカウントすることにより破骨細胞骨吸収抑制作用を調べた(瀬野悍二ら,研究テーマ別動物培養細胞マニュアル,pp.199-200, 1993)。その結果を表6に示す。なお、表6では、培地のみで培養した群(試料A)のピット数を対照とし、それぞれの破骨細胞骨吸収抑制作用をピットの数で表した。
【0046】
[表6]
――――――――――――――――――――――――
骨吸収窩の数
(平均値±標準偏差)
――――――――――――――――――――――――
試料A 177±11 a
試料B 134±15 b
試料C 151±20 b
試料D 102±14 c
――――――――――――――――――――――――
a, b, cのラベルが異なる試料間に有意差あり(p<0.05)
【0047】
表6に示されるように、試料B〜Dを添加した群は、培地のみで培養した場合(試料A)と比べて、有意に高い破骨細胞骨吸収抑制作用を示した。さらに、乳由来塩基性タンパク質画分(試料B)、鉄−ラクトフェリン複合体(試料C)に比べて、本発明の乳由来塩基性タンパク質含有組成物(試料D)には有意に高い破骨細胞骨吸収抑制作用が認められた。
【0048】
[試験例8]
(コラーゲン合成促進作用)
乳由来塩基性タンパク質画分(試料B)、鉄−ラクトフェリン複合体(試料C)、実施例4で得られた本発明の乳由来塩基性タンパク質含有組成物(試料D)について、コラーゲン合成促進作用をWoessnerの方法[Woessner,J.F., Arch. Biochem.Biophys., vol.93, pp.440-447, 1961]に従って調べた。10%牛胎児血清を含むα−MEM培地を用い、骨芽細胞であるMC3T3-E1細胞を2×104/mlの細胞数となるよう96穴プレートに植え、37℃で5%CO2存在下24時間培養し、試験用培養細胞とした。そして、培地をα−MEM培地(Flow Laboratories)に交換し、上記の各試料を最終濃度50μg/mlとなるよう添加して37℃で3日間培養し、合成されたコラーゲン量を測定した。なお、コラーゲン量は、細胞破砕液を6N塩酸で加水分解し、p-ジメチルアミノベンズアルデヒドを用い、ハイドロキシプロリンを定量することにより行った。コントロールとして各成分試料を添加せずに、α−MEM培地のみで培養したものを試料Aとした。
【0049】
その結果を図3に示す。培地のみで培養した場合(試料A)と比べて、いずれの場合もハイドロキシプロリン量が増加しており、試料B〜Dに骨芽細胞のコラーゲン合成促進作用があることが分かった。さらに、乳由来塩基性タンパク質画分(試料B)、鉄−ラクトフェリン複合体(試料C)に比べて、本発明の乳由来塩基性タンパク質含有組成物(試料D)には有意に高い骨芽細胞のコラーゲン合成促進作用が認められた。
【実施例5】
【0050】
(清涼飲料水の製造)
実施例1と同様の方法で得られた乳由来塩基性タンパク質含有組成物の溶液10kgに、50%乳酸溶液0.12kg、マルチトール 7.5kg、香料 0.2kg、水 82.18kgを混合し、プレート殺菌機を用いて90℃、15秒間殺菌し、清涼飲料水100kgを製造した。なお、この清涼飲料水には 100mlあたり、乳由来塩基性タンパク質画分が40mg、鉄が5mg含まれていた。
【実施例6】
【0051】
(乳飲料の製造)
実施例1と同様の方法で得られた乳由来塩基性タンパク質含有組成物の溶液を、1リットル当たり50mlとなるように生乳に添加し、圧力120 kg/cm2でホモゲナイズした後、 75℃で15秒間加熱殺菌して、乳飲料を製造した。なお、この乳飲料には 100mlあたり、乳由来塩基性タンパク質画分が20mg、鉄が2.5mg含まれていた。
【実施例7】
【0052】
(ヨーグルトの製造)
脱脂粉乳を固形率12%となるように水に溶解し、90℃で20分間加熱殺菌した後、25℃に冷却し、乳酸菌であるラクトバチルス・アシドフィルス(L.acidophilus)とストレプトコッカス・サーモフィルス(S.thermophilus)を接種した。そして、乳酸酸度が 1.0%、pHが 4.3になった時点で 5℃に冷却した。このようにして調製したスターターカルチャーを、115℃で2秒間加熱殺菌した脂肪率 3.5%の生乳に 5重量%接種し、さらに実施例1と同様の方法で得られた乳由来塩基性タンパク質含有組成物の溶液を5重量%溶解して添加した。発酵および冷却を常法に従って行い、ヨーグルトを製造した。なお、このヨーグルトには100gあたり、乳由来塩基性タンパク質画分が20mg、鉄が2.5mg含まれていた。
【実施例8】
【0053】
(錠剤の製造)
実施例1と同様の方法で得られた乳由来塩基性タンパク質含有組成物の溶液を分子量10,000カットの限外ろ過膜にて脱塩、濃縮した後、凍結乾燥して粉末を得た。この粉末1.0kgに、炭酸カルシウム2.0kg、マルトース4.0kg、エリスリトール1.6kg、ソルビトール2.0kg、香料4.0kg、甘味料0.05kg、賦形剤0.5kg、滑択剤0.25kgを加え、混和した後、タブレット状に打錠して、本発明の乳由来塩基性タンパク質含有組成物の錠剤を製造した。なお、この錠剤には、1錠(500mg)あたり、乳由来塩基性タンパク質画分が40mg、鉄が5mg含まれていた。
【実施例9】
【0054】
(経腸栄養剤の製造)
実施例1と同様の方法で得られた乳由来塩基性タンパク質含有組成物の溶液を分子量10,000カットの限外ろ過膜にて脱塩、濃縮した後、凍結乾燥して粉末を得た。この粉末0.025kgに、カゼイン5.5kg、大豆タンパク質5kg、魚油1kg、シソ油3kg、デキストリン21.475kg、ミネラル混合6kg、ビタミン混合1.95kg、乳化剤2kg、安定剤4kg、香料0.05kgを配合し、200mlのレトルトパウチに充填し、レトルト殺菌機(第1種圧力容器、TYPE: RCS-4CRTGN、日阪製作所)で121℃、20分間殺菌して、経腸栄養剤50kgを調製した。なお、この経腸栄養剤には、100gあたり、乳由来塩基性タンパク質画分が40mg、鉄が5mg含まれていた。
【実施例10】
【0055】
(イヌ飼育用飼料の製造)
実施例1と同様の方法で得られた乳由来塩基性タンパク質含有組成物の溶液を分子量10,000カットの限外ろ過膜にて脱塩、濃縮した後、凍結乾燥して粉末を得た。この粉末0.005kgに、大豆粕12kg、脱脂粉乳14kg、大豆油4kg、コーン油2kg、パーム油33.195kg、トウモロコシ澱粉14kg、小麦粉9kg、ふすま2kg、ビタミン混合5kg、セルロース2.8kg、ミネラル混合2kgを配合し、120℃、4分間殺菌して、イヌ飼育用飼料100kgを調製した。なお、このイヌ用飼料には、100gあたり、乳由来塩基性タンパク質画分が4mg、鉄が0.5mg含まれていた。
【実施例11】
【0056】
(化粧水の製造)
実施例4と同様の方法で得られた乳由来塩基性タンパク質含有組成物の溶液を分子量10,000カットの限外ろ過膜にて脱塩、濃縮した後、凍結乾燥して粉末を得た。この粉末0.05kgに、グリセリン3kg、1,3-ブチレングリコール3kg、モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン0.5kg、パラオキシ安息香酸メチル0.15kg、クエン酸0.1kg、クエン酸ソーダ1kg、香料0.05kg、精製水92.15kgを配合して均一な溶液とし、化粧水100kgを調製した。
【実施例12】
【0057】
(歯磨の製造)
実施例4と同様の方法で得られた乳由来塩基性タンパク質含有組成物の溶液を分子量10,000カットの限外ろ過膜にて脱塩、濃縮した後、凍結乾燥して粉末を得た。この粉末0.2kgに、リン酸水素カルシウム2水和物4.5kg、グリセリン1kg、ソルビトール2.5kg、カルボキシメチルセルロースナトリウム0.05kg、カラギーナン0.3kg、ローカストビーンガム0.02kg、サッカリンナトリウム0.02kg、ラウリル硫酸ナトリウム0.12kg、ビタミンE酢酸塩0.01kg、香料0.1kg、水1.18kgを配合して、歯磨10kgを調製した。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】乳由来塩基性タンパク質含有組成物の大腿骨骨強度増強効果を示した説明図である(試験例4)。
【図2】乳由来塩基性タンパク質含有組成物の大腿骨骨強度増強効果を示した説明図である(試験例5)。
【図3】乳由来塩基性タンパク質含有組成物のコラーゲン合成促進作用を示した説明図である(試験例6)。
【符号の説明】
【0059】
a, b, c;ラベルが異なる試料間に有意差があることを示す(p<0.05)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳または乳由来の原料を陽イオン交換樹脂に接触させた後、樹脂に吸着した画分を塩濃度0.1〜1.8Mの溶出液で溶出して得られる乳由来塩基性タンパク質画分と、炭酸及び/又は重炭酸と、鉄とを溶解、混合して得られる、次の(1)〜(7)の特性を有する乳由来塩基性タンパク質含有組成物。
(1)乳由来塩基性タンパク質含有組成物中のタンパク質1g当たり、鉄0.35〜350mg、かつ炭酸及び/又は重炭酸0.38mg以上を含有すること。
(2)鉄独特の収斂味がないこと。
(3)骨強化作用を有すること。
(4)骨吸収抑制作用を有すること。
(5)骨形成促進作用を有すること。
(6)コラーゲン産生促進作用を有すること。
(7)タンパク質濃度が1mg/mlとなるように調製した水溶液を、90℃で10分間加熱しても沈殿を生じないこと。
【請求項2】
乳由来塩基性タンパク質画分が、そのアミノ酸組成中に塩基性アミノ酸を15重量%以上含有している画分である請求項1記載の乳由来塩基性タンパク質含有組成物。
【請求項3】
乳由来塩基性タンパク質画分が、タンパク質分解酵素で分解したものである請求項1記載の乳由来塩基性タンパク質含有組成物。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の乳由来塩基性タンパク質含有組成物を、タンパク質分解酵素で分解した乳由来塩基性タンパク質含有組成物分解物。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の乳由来塩基性タンパク質含有組成物もしくは乳由来塩基性タンパク質含有組成物分解物を配合した医薬品。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれかに記載の乳由来塩基性タンパク質含有組成物もしくは乳由来塩基性タンパク質含有組成物分解物を配合した飲食品及び飼料。
【請求項7】
請求項1乃至4のいずれかに記載の乳由来塩基性タンパク質含有組成物もしくは乳由来塩基性タンパク質含有組成物分解物を配合した化粧品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−246413(P2007−246413A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−69662(P2006−69662)
【出願日】平成18年3月14日(2006.3.14)
【出願人】(000006699)雪印乳業株式会社 (155)
【Fターム(参考)】