説明

乳癌の治療反応の予後および予測の分子指標

本発明は、エストロゲン受容体(ESR1)陽性でリンパ節陰性の乳癌などの乳癌における臨床診断の指針となりうる定量的分子指標に関する。具体的には、本発明は、補助療法として治療薬による治療を受けていない患者において、その発現の変化が外科的に摘出された乳癌の再発の尤度を示す一定の遺伝子に関する。さらに、本発明は、(a)タモキシフェンなどの抗エストロゲン治療剤に対する有益な反応の尤度、および(b)化学療法に対して生じる尤度のある有益な反応の大きさを判定するために、連続型変数として測定する、ESR1遺伝子など、一定の遺伝子の発現を定量的測定法の利用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、例えば、エストロゲン受容体(ESR1)陽性、リンパ節陰性乳癌などの乳癌の臨床診断の指針となりうる定量的分子指標に関する。具体的には、本発明は、補助療法として治療薬による治療を受けていない患者において、その発現の変化が外科的に摘出された乳癌の再発の尤度を示す一定の遺伝子に関する。また、本発明は、(a)タモキシフェン(tamoxifen)などの抗エストロゲン治療剤に対する有益な反応の尤度、および(b)化学療法に対して生じる尤度のある有益な反応の大きさを判定するために、連続型変数として測定する、ESR1遺伝子など、一定の遺伝子の発現を定量的測定法の利用に関する。
【背景技術】
【0002】
関連技術の説明
遺伝子発現の研究
癌専門医は、「標準的な療法」として特徴づけられる化学療法薬のさまざまな組み合わせ、および特定の癌の治療に有効との表示はないが、その癌に効能があるとの証拠がある、いくつかの薬剤など、利用可能な治療選択肢をいくつか有している。良好な治療成果を得る尤度を最大にするには、転移性疾患のリスクが最も大きい患者を同定して、利用できる最適な癌治療に割り当てることが必要である。具体的には、「標準的な療法」治療薬、例えば、シクロスホファミド、メトトレキサート、5−フルオロウラシル、アントラサイクリン、タキサン、および抗エストロゲン薬、例えば、タモキシフェン(tamoxifen)などに対する患者の反応の尤度を決定することが重要である。なぜなら、これらは限定的な効能しかなく、しばしば重度の一連の副作用を有するからである。したがって、利用可能な薬剤を必要とし、それに反応する尤度が最も高い患者と最も低い患者とを識別すれば、患者をより賢明に選択することができ、それによって、これらの薬剤がもたらす正味の恩恵を増大させ、また、正味の罹患率および毒性を低下させることができるであろう。
【0003】
現在、臨床治療で用いられている診断検査は単一被検体法(single analyte)であるため、何十もの異なる標識間の関係を知ることの潜在的な価値は把握されていない。さらに、診断検査はしばしば免疫組織化学に基づいているが、それらは定量的ではない。免疫組織化学による検査は、検査機関ごとに異なった結果が出るが、これは、一つには試薬が正規化されておらず、また一つには解釈が主観的であることによる。RNAによる検査は、非常に定量的なものとなる尤度があるが、常法により調製したサンプル、すなわち、ホルマリンで固定してパラフィンに包埋(FPE)した腫瘍サンプルの中ではRNAが破壊されるとの認識があり、また、患者の新鮮な検査用組織サンプルを採取して保存するのは不便であるため、いままで用いられてこなかった。
【0004】
過去20年間にわたり、分子生物学および生化学によって、その活性が腫瘍細胞の挙動、分化状態、および一定の治療薬に対する感受性または耐性に影響を及ぼす何百もの遺伝子が明らかにされてきた。しかし、少数の例外はあるものの、これらの遺伝子の状態は、薬物療法について日常的な臨床的判断を行う目的で利用されては来なかった。この2、3年、いくつかのグループによって、何千もの遺伝子のマイクロアレイ遺伝子発現解析による、さまざまな癌型の分類に関する研究が発表されている(例えば、Golub et al.,Science 286:531−537(1999);Bhattacharjae et al,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 98:13790−13795(2001);Chen−Hsiang et al.,Bioinformatics 17(Suppl.1):S316−S322(2001);Ramaswamy et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 98:15149−15154(2001);Martin et al.,Cancer Res.60:2232−2238 (2000);West et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 98:11462−114(2001);Sorlie et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 98:10869−10874(2001);Yan et al.,Cancer Res.61:8375−8380(2001)参照)。しかし、主には、マイクロアレイには新鮮であるか冷凍された組織RNAが必要とされるが、そのようなサンプルは、同定された分子的特徴を臨床評価できるほど十分な量存在しないという理由から、これらの研究によっても、臨床診察において日常的に使用できる試験法は未だに得られていない。
【0005】
この3年で、RT−PCR技術を用いて、ホルマリン固定したパラフィン包埋(FPE)組織の中で、数百もの遺伝子の遺伝子発現をプロファイルすることが可能となった。非常に高感度で、正確、かつ再現性のある方法が説明されてきた(非特許文献1)。数千もの保管されているFPE臨床組織サンプルが、例えば、生存率、薬物療法歴などの関連臨床記録とともに存在するため、今や、このような組織の中での遺伝子発現を定量的に測定することができるようになり、あるいくつかの遺伝子の発現を、患者の予後および治療に対する反応の尤度に関連づける迅速な臨床研究が可能となっている。臨床徴候には歴史性があるため、過去の臨床研究で作成されたデータを用いることによって迅速に結果を得ることができる。これに対し、例えば、新たに集めた癌患者について生存期間の研究を行ないたければ、一般的には、統計学的に十分な数の死亡例が生じるまで何年間も待つ必要があるだろう。
【0006】
乳癌の予後および予測
合衆国では、乳癌が女性の間で最も普通の癌であり、40〜59歳の女性の癌死亡の主な原因となっている。
【0007】
現在、乳癌では、ほんのわずかな分子検査法が日常的に臨床上使用されているにすぎない。エストロゲン受容体(ESR1)タンパク質およびプロゲステロン受容体(PGR)タンパク質についての免疫組織化学的アッセイ法が、タモキシフェン(TAM)などの抗エストロゲン薬による治療の対象となる患者を選択するための基礎として利用されている。また、インサイツハイブリダイゼーション法においてErbB2(Her2)免疫化学法または蛍光法(それぞれタンパク質およびDNAを測定する)を用いて、Her2アンタゴニスト薬、例えばトラスツズマブ(登録商標Herceptin;Genentech,Inc.,South San Francisco,CA)による治療の対象となる患者を選択する。
【0008】
予後、および化学療法に対する反応を予測のための現在の検査法は不十分であるため、乳癌の治療戦略は、癌専門医の間で異なっている(Schott and Hayes,J.Clin.Oncol.PMID15505274(2004);非特許文献2)。一般に、腫瘍がESR1陽性であることが分かっているリンパ節陰性患者は、TAMなどの抗エストロゲン薬による治療を受け、腫瘍がESR1陰性であることが分かっている患者は化学療法による治療を受ける。しばしば、ESR1陽性患者は、抗エストロゲン薬に加えて化学療法も処方され、癌再発の危険を適度に減らすために化学療法による有毒な副作用を受け入れる。毒性には、神経障害、嘔気やその他の胃腸症状、脱毛、および認知障害が含まれる。再発乳癌は通常、転移性があり、かつ治療に反応しにくいため、再発を恐れられている。明らかに、再発の実質的な危険性がある患者を(すなわち、予後に関する情報を提供するために)同定し、また化学療法に反応する尤度のある患者を(すなわち、予測に関する情報を提供するために)同定する必要が存在する。同様に、再発の顕著な危険性のない患者、または化学療法に反応する見込みのない患者を、これらの毒性薬に不必要に曝すべきではないから、このような患者を同定する必要も存在する。
【0009】
乳癌においては、予後因子は治療予測因子とは異なる。予後因子は、乳癌の自然史に関連した変数であって、かつて乳癌を発症した患者の再発率と結果に影響を与える変数である。予後不良に関係した臨床的要素には、例えば、リンパ節の関与、腫瘍サイズの増大、および高悪性度の腫瘍が含まれる。予後因子は、患者を、異なった再発基礎的リスクをもつサブグループに分類するためにしばしば用いられる。それに対し、治療予測因子は、予後とは別に、例えば、抗エストロゲン薬または化学療法などの治療に対して個々の患者が有益な反応を示す尤度に関連した変数である。
【0010】
開業医が、十分な根拠のあるリスク便益分析に基づいて、個々の患者の必要に合った、賢明な治療法選択を行なうのを補助することができる、正確で定量的な予後因子および予測因子が大いに必要とされている。
【非特許文献1】Cronin et al.,Am.J.Pathol.(2004)164:35−42
【非特許文献2】Hayes,Breast(2003)12:543−9
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0011】
一つの態様において、本発明は、乳癌患者における疾患の結果の予後を予測する方法であって、
(a)患者から採取した癌細胞を含む生体サンプルにおいて、以下の変数:
(i)増殖グループスコア、
(ii)侵襲グループスコア、
(iii)増殖グループ閾値スコア、および
(iv)遺伝子CCNB1、BIRC5、MYBL2、PGR、STK6、MKI67、GSTM1、GAPD、RPLPO、およびMMP11の1つ以上のもののRNA転写物、またはその発現産物の発現レベル、
の1つ以上のものの値を定量的に測定することを含み、
(b1)(i)〜(iii)の1つ以上のものの値、および/または各遺伝子CCNB1、BIRC5、MYBL2、STK6、MKI67、GAPD、およびMMP11のうちの1つ以上の遺伝子のRNA転写産物、またはそれに対応する発現産物の増加分1単位ごとに、その患者が、疾患の結果不良のリスクを比例して増加させていると同定され、また
(b2)各遺伝子PGR、GSTM1、およびRPLPOのうちの1つ以上の遺伝子のRNA転写産物、またはそれに対応する発現産物の発現レベルの増加分1単位ごとに、その患者が、疾患の結果不良のリスクを比例して低下させていると同定されるが、
ここで
増殖グループのスコア=(BIRC5+MKI67+MYBL2+CCNB1+STK6)/5;
侵襲グループのスコア=(CTSL2+MMP11)/2;
増殖グループ閾値スコアは、増殖グループのスコアが6.5よりも小さければ、6.5に等しく、増殖グループのスコアが6.5以上であれば、増殖グループのスコアと同一であり、式中、
等式の中の遺伝子記号は、各遺伝子のRNA転写物、またはその発現産物の発現レベルを表わし、また、
上記いずれかの変数に存在する遺伝子は、適用可能な腫瘍型において、0.5よりも大きいピアソン係数で上記腫瘍型において上記遺伝子とともに同時発現する別の遺伝子によって置換することができる方法に関する。
【0012】
患者は、ヒトなどの高等霊長類を含む哺乳動物であってよく、好ましくはヒト患者である。
【0013】
疾患の結果は、患者全体の生存率、無再発生存率、無遠位再発生存率など、さまざまな形で表わすことができる。
【0014】
具体的な実施形態において、予後は、患者が該乳癌の外科的切除後に、さらなる治療を受けないことを前提としている。
【0015】
別の実施形態において、発現レベルを、1つ以上の参照遺伝子、またはその発現産物の発現レベルに対して正規化させるが、ここで、参照遺伝子は、例えば、ACTB、GAPD、GUS、RPLPO、およびTFRCからなる群から選択することができる。
【0016】
さらに別の実施形態において、発現レベルを、ACTB、GAPD、GUS、RPLPO、およびTFRCの発現レベルの平均値に対して基準化する。
【0017】
特定の実施例において、該疾患の結果の定量値は、一連の期間にわたって(over a continuum)測定した変数の値に直接比例している。
【0018】
さらなる実施形態において、本方法は、増殖スコア、任意には、増殖グループ閾値スコアと侵襲グループのスコアのどちらか一方または両方を測定することを含む。
【0019】
本発明の方法は、(iv)に挙げた各遺伝子、またはそれらの発現産物の少なくとも2つ、または少なくとも3つ、または少なくとも4つ、または少なくとも5つ、または少なくとも6つ、または少なくとも7つ、または少なくとも8つの発現レベルを測定することを含むことが可能である。
【0020】
特定の実施形態において、この方法は、(iv)に挙げた各遺伝子のすべて、またはそれらの発現産物の発現レベルを測定することを含む。
【0021】
乳癌は、例えば、リンパ節陰性および/またはESR1陽性であってよい。
【0022】
本発明の方法は、同一の患者に、化学療法、ホルモン療法および/または放射線療法の前後に1回以上施すことができる。
【0023】
患者は、疾患の結果不良のリスクが増大していると判定されれば、そのような判定が行われた後に、化学療法、ホルモン療法および/または放射線療法の治療を受けることができるが、ここで化学療法は、術後補助化学療法および術前補助化学療法など、臨床診療で用いられる全ての化学療法を含む。
【0024】
特定の実施形態において、この化学療法はタキサン誘導体、例えば、ドセタキセルまたはパクリタキセルの投与を含む。
【0025】
別の実施形態において、この化学療法はアントラサイクリン誘導体、例えば、ドキソルビシンの投与を含む。
【0026】
さらに別の実施形態において、この化学療法はトポイソメラーゼ阻害剤、例えば、カンプトテシン、トポテカン、イリノテカン、20−S−カンプトテシン、9−ニトローカンプトテシン、9−アミノ−カンプトテシンまたはGI147211の投与を含む。
【0027】
さらなる実施形態において、ホルモン療法はTAMの投与を含む。
【0028】
さらに別の実施形態において、このホルモン療法は抗エストロゲン薬の投与を含むが、これは、エストロゲン受容体に対するエストロゲンの結合の拮抗剤であるか、または、アロマターゼ阻害剤など、エストロゲン生合成の阻害剤であってもよい。このような抗エストロゲン薬の具体的な代表例には、トレミフェン、アナストロゾール(anastrozole)、およびメガステロールアセテート(megasterol acetate)などがある。
【0029】
本発明の方法によって測定を行った生体サンプルは固形腫瘍由来のサンプル、すなわち癌細胞を含む組織サンプルであってよい。
【0030】
この組織は、例えば、固定され、パラフィン包埋されているか、新鮮なものか、または冷凍されたものでもよく、細針生検、コア生検、またはその他の型の生検に由来するものでもよい。具体的な実施形態において、組織サンプルは、細針吸引、気管支洗浄、経気管支生検によって得られる。
【0031】
さらなる実施形態において、遺伝子発現レベルは定量的RT−PCRによって測定される。
【0032】
さらに別の実施形態において、発現産物の発現レベルは、免疫組織化学法によるか、プロテオミクス技術によって測定される。
【0033】
なおさらなる実施形態において、本発明の方法はさらに、予後を要約したレポートを作成する工程を含む。
【0034】
別の態様において、本発明は、抗エストロゲン薬による治療に対する、ESR1陽性乳癌患者の有益な反応の尤度を定量的に測定するための方法であって、該患者から得られた、癌細胞を含む生体サンプルにおいて、次の変数:
(i)ESR1グループのスコア、および
(ii)以下の各遺伝子、ESR1、SCUBE2、TFRC、およびBCL2の1つ以上のもののRNA転写産物、またはそれらの発現産物の発現レベル
の1つ以上のものを定量的に測定する方法を含み、
ESR1グループのスコア、ESR1、SCUBE2、またはBCL2の数値の増加分1単位ごとに、患者が抗エストロゲン薬による治療に対して有益な反応を示す尤度が比例して増加すると同定され、また、TFRCの数値の増加分1単位ごとに、患者が抗エストロゲン薬による治療に対して有益な反応を示す尤度が低下すると同定される方法に関する。
【0035】
一つの実施形態において、ESR1グループのスコア、あるいはESR1遺伝子またはその発現産物の発現レベルを測定する。
【0036】
別の実施形態において、ESR1遺伝子またはその発現産物の発現レベルを測定する。
【0037】
例えば、抗エストロゲン薬は、タモキシフェン、トレミフェン、アナストロゾール、およびメガストロールアセテートからなる群から選択することができる。
【0038】
別の実施形態において、抗エストロゲン薬はTAMである。
【0039】
本発明の治療予測法は、治療法の推奨など、患者のための報告書を作成する工程を含むことができる。
【0040】
さらなる実施形態において、患者のESR1発現が、同じ検査で、ある割合のER陽性で節陰性の乳癌患者について測定された発現値よりも高い場合には、化学療法を用いない抗エストロゲン薬治療が推奨され、また、この患者は、その他の点では低リスクグループに属することが知られる。
【0041】
別の実施形態において、前記変数はESR1のRNA転写物またはその発現産物の発現レベルである。
【0042】
さらなる実施形態において、この方法は患者の再発スコアを決定する工程を含む。
【0043】
特定の実施形態において、再発スコアを決定した後に、患者のESR1発現がゼロではないが、特定の割合のER陽性で節陰性の乳癌患者について同じ検査で測定された発現値よりも低く、それ以外では、その患者は、高再発リスクグループに入っていることが分かっている場合には、化学療法を含む治療法が推奨される。
【0044】
さらに別の態様において、本発明は、定量的RT−PCRによって、表1に挙げた遺伝子の1つ以上のものの発現を定量化するための、一組の遺伝子特異的プローブおよび/またはプライマーを含むキットに関する。
【0045】
具体的な実施形態において、遺伝子特異的プローブは、表7に挙げたプローブからなる群から選択される。
【0046】
別の実施形態において、遺伝子特異的プライマーは、表7に挙げたフォワードプライマーおよびリバースプライマーからなる群から選択される。
【0047】
さらに別の実施形態において、定量的RT−PCRによって増幅されるアンプリコンを、表8に挙げたアンプリコンから選択する。
【0048】
さらに別の実施形態において、本発明のキットは、腫瘍サンプルからRNAを発現させるための1種類以上の試薬、および/または、1つ以上の容器を含むことができる。ただし、この容器は、例えば、作成済みマイクロアレイ、緩衝液、ヌクレオチド三リン酸、逆転写酵素、DNAポリメラーゼ、RNAポリメラーゼ、プローブ、またはプライマーを含むことができる。このキットは、さらに、その構成成分を使用するための指示書、例えば、乳癌の予測または予後予測に使用するための指示書を有するラベルまたは添付文書を含むことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0049】
A.定義
本明細書において使用する専門用語および科学用語は、別段の定義がない限り、本発明が属する技術分野の当業者によって広く理解されているものと同じ意味を有する。Singleton et al.,Dictionary of Microbiology and Molecular Biology 2nd ed.,J.Wiley & Sons(New York,N.Y.1994);およびWebster’s New World(TM)Medical Dictionary,2nd Edition,Wiley Publishing Inc.,2003が、本出願で使用される用語の多くに対する一般的な手引きを当業者に提供している。本発明の目的上、以下の用語を下記に定義する。
【0050】
「有益な反応」という用語は、例えば全体的生存、無進行生存、無再発生存、および無再遠隔再転移生存など、当技術分野において普通に用いられる指標など、患者の状態のいずれかの指標の改善を意味する。無再発生存(RFS)は、手術の時から、最初に局所的、領域的、または遠位的に再発するまでの時間(年数)を意味する。無遠位再発生存期間(DFRS)は、手術から最初の解剖学的遠隔転移までの時間(年数)を意味する。これらの指標の実際の計算法は、打ち切りとなるか、または考慮されない事象の定義に応じて研究ごとに異なる。
【0051】
「マイクロアレイ」という用語は、ハイブリダイズ可能なアレイ要素、好ましくはポリヌクレオチドプローブが、基質上に規則正しく並べられたものを意味する。
【0052】
「ポリヌクレオチド」という用語は、単数で用いられても複数で用いられても、一般にポリリボヌクレオチドまたはポリデオキシリボヌクレオチドを意味し、未修飾のRNAもしくはDNA、または修飾されたRNAもしくはDNAであろう。したがって、例えば、本明細書で定義されたポリヌクレオチドには、一本鎖および二本鎖のDNA、一本鎖および二本鎖の領域を含むDNA、一本鎖および二本鎖のRNA、一本鎖および二本鎖の領域を含むRNA、ならびに一本鎖、もしくは、より一般的には二本鎖であるか、または一本鎖もしくは二本鎖の領域を含んでいるDNAおよびRNAを含むハイブリッド分子が含まれるが、これらに限定されない。さらに、本明細書において使用する「ポリヌクレオチド」という用語は、RNAもしくはDNA、またはRNAとDNAの両方を含む三重鎖領域を意味する。このような領域の中にある鎖は、同じ分子に由来するものでも、異なる分子に由来するものでもよい。この領域は、これら1つ以上の分子の全部を含むことができるが、より一般的には、分子のいくつかのものの一領域のみを含む。三重らせん領域の分子の1つは、しばしばオリゴヌクレオチドである。「ポリヌクレオチド」という用語は、具体的にはcDNAを含む。この用語は、1つ以上の修飾塩基を含むDNA(cDNAを含む)およびRNAを含む。したがって、安定性のため、またはその他の理由で修飾された骨格を有するDNAまたはRNAは、本明細書で意図されている用語としての「ポリヌクレオチド」である。さらに、例えばイノシンなどの稀な塩基または、例えばトリチウム化した塩基などの修飾塩基を含むDNAもしくはRNAも、本明細書で定義する「ポリヌクレオチド」という用語の範囲内に含まれる。一般に「ポリヌクレオチド」という用語は、非修飾ポリヌクレオチドを化学的、酵素的および/または代謝的に修飾した形態のもの、および、ウイルス、ならびに単純細胞および複雑型細胞を含む細胞に特徴的なDNAおよびRNAの化学形物質態を含む。
【0053】
「オリゴヌクレオチド」という用語は、一本鎖デオキシリボヌクレオチド、一本鎖または二本鎖リボヌクレオチド、RNA:DNAハイブリッド、および二本鎖DNAなど、比較的短いポリヌクレオチドを意味する。オリゴヌクレオチド、例えば一本鎖DNAプローブオリゴヌクレオチドは、化学的な方法によって、例えば市販されているオリゴヌクレオチド自動合成装置を用いて合成される。しかし、インビトロ組換えDNA介在法、および細胞および生物においてDNAを発現させるなど、その他の種々の方法によってオリゴヌクレオチドを製造することができる。
【0054】
「遺伝子発現」という用語は、DNA遺伝子配列の情報が、転写RNA(初期非スプライスRNA転写物または成熟型mRNA)またはそれにコードされたタンパク質産物に転換されることをいう。遺伝子発現は、遺伝子またはサブ配列の全RNAまたはタンパク質産物の量を測定してモニターすることができる。
【0055】
「遺伝子増幅」という語句は、遺伝子または遺伝子断片の複数のコピーが特定の細胞または細胞株の中で形成される過程を意味する。複写された領域(増幅DNA鎖)は、しばしば「アンプリコン」と呼ばれる。しばしば、産生されたメッセンジャーRNA(mRNA)の量、すなわち遺伝子発現レベルは、発現した特定の遺伝子でできたコピーの数に比例して増加する。
【0056】
予後因子は乳癌の自然史に関連した変数であり、いったん患者が乳癌を発症すると、患者の再発率および結果に影響する。予後不良に関連する臨床的指標には、例えばリンパ節転移、腫瘍サイズの増大、および高悪性度の腫瘍などがある。予後因子は、さまざまな基礎的再発リスクをもつサブグループに分類するためにしばしば用いられる。それに対し、治療予測因子は、予後とは別に、例えば、抗エストロゲン薬または化学療法などの治療に対して個々の患者が有益な反応を示す尤度に関連した変数である。
【0057】
本明細書では「予後」という用語を用いて、癌の自然史における、癌に起因する死亡または、例えば乳癌などの腫瘍性疾患の再発および転移拡散など、癌の進行の尤度を意味する。予後因子は、例えば乳癌などの腫瘍性疾患の自然史に関連した変数であり、いったん患者が前記腫瘍性疾患、例えば乳癌などを発症すると、患者の再発率および結果に影響する。これとの関連で、「自然結果」は、さらなる治療を受けない場合の結果を意味する。例えば乳癌のケースでは、「自然結果」は、外科的切除後さらなる治療(例えば化学療法または放射線治療など)を受けない場合の結果を意味する。予後因子は、さまざまな基礎的リスク、例えば基礎的再発リスクをもつサブグループに分類するためにしばしば用いられる。
【0058】
本明細書では「予測」という用語を用いて、患者が薬剤または薬剤セットに対して好ましい反応をするか否かの尤度、およびその反応の程度も意味する。したがって、治療予測因子は、予後に依存しない、特定の治療法に対する個々の患者の反応の尤度に関する変数である。本発明の予測法を臨床的に用いて、具体的な患者のために最も適切な治療モダリティーを選択して、治療法を決定することができる。本発明の予測法は、患者が、例えばTAM療法単独または化学療法および/または放射線療法と併用など、坑エストロゲン療法などの治療計画に好ましく反応する尤度があるかどうかを予測するのに役に立つ手段である。
【0059】
本明細書では「長期」生存という用語を用いて、外科手術またはその他の治療の後、少なくとも3年間、より好ましくは少なくとも8年間、最も好ましくは少なくとも10年間生存することを意味する。
【0060】
本明細書で用いる「腫瘍」という用語は、悪性か良性かを問わず、全ての腫瘍性細胞の成長ならびに増殖、ならびに全ての前癌性および癌性の細胞および組織を意味する。
【0061】
「癌」および「癌性」という用語は、一般に無秩序な細胞増殖を特徴とする、哺乳動物における生理学的状態を意味するか、表現している。癌の例には、乳癌、卵巣癌、大腸癌、肺癌、前立腺癌、肝細胞癌、胃癌、膵癌、子宮頸癌、肝臓癌、膀胱癌、泌尿器癌、甲状腺癌、腎臓癌、腫瘍型、黒色腫、および脳腫瘍などがあるが、これらに限定されない。
【0062】
癌の「病理」は、患者の健康を脅かす全ての現象を含む。これには、異常または制御不能な細胞の成長、転移、隣接細胞の正常な機能に対する干渉、異常なレベルでのサイトカインまたはその他の分泌産物の放出、炎症反応または免疫反応の抑制または悪化、新生組織形成、前悪性腫瘍、悪性腫瘍、例えばリンパ節など、周囲または遠隔の組織または器官への浸潤などがあるが、これらに限定されない。
【0063】
本発明に関連して、いずれかの特定の遺伝子セットの中に挙げられた遺伝子の「少なくとも1つ」、「少なくとも2つ」、「少なくとも3つ」、「少なくとも4つ」、「少なくとも5つ」などという場合、リストされた遺伝子のいずれか1つ、またはいくつか、および全ての組み合わせを意味する。
【0064】
本明細書においては、例えば「節陰性」乳癌など、「節陰性」癌という用語を用いて、リンパ節に転移していない癌を意味する。
【0065】
「スプライシング」および「RNAスプライシング」という用語は互換的に用いられ、イントロンを除去し、エクソンを結合して、連続したコード配列をもち、真核細胞の細胞質の中に入って行く成熟型mRNAを産生するRNAプロセシングを意味する。
【0066】
理論上、「エクソン」という用語は、成熟型RNA産物に相当する、分断された遺伝子の分節(セグメント)を意味する(B.Lewin.Genes IV Cell Press,Cambridge Mass.1990)。理論上、「イントロン」という用語は、転写はされるが、その両側にあるエクソンと一緒にスプライシングされて、転写産物の中から除去される、DNAのセグメントを意味する。操作上、エクソン配列は、参照配列番号によって定義された遺伝子のmRNA配列の中に存在する。操作上、イントロン配列は、遺伝子のゲノムDNAの中にある介在配列であり、エクソン配列によって囲まれ、5’および3’境界にGTおよびAGスプライスコンセンサス配列を有している。
【0067】
B.詳細な説明
本発明の実施には、別段の記載がないかぎり、分子生物学(組換え技術を含む)、微生物学、細胞生物学、および生化学の従来技術を用いられるが、それらは当技術分野の範囲内にある。そのような技術は、例えば”Molecular Cloning:A Laboratory Manual”, 2nd edition(Sambrook et al.,1989); ”Oligonucleotide Synthesis”(M.J.Gait,ed.,1984);”Animal Cell Culture”(R.I.Freshney,ed.,1987);”Methods in Enzymology”(Academic Press,Inc.);”Handbook of Experimental Immunology”, 4th edition (D. M. Weir&C. C. Blackwell, eds.,Blackwell Science Inc.,1987);”Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells”(J.M.Miller&M.P.Calos,eds.,1987);”Current Protocols in Molecular Biology”(F.M.Ausubel et al., eds., 1987);”PCR: The Polymerase Chain Reaction”, (Mullis et al.,eds.,1994)などの文献において十分に説明されている。
【0068】
B.1.発明の一般的説明
過去2年間Genomic Health,Inc およびその共同研究者ら(Esteban et al.,Proc Am Soc Clin Oncol 22:page 850,2003(abstract 3416);Cobleigh et al.Soc Clin Oncol 22:page 850,2003(abstract 3415);Soule et al.,Proc Am Soc Clin Oncol 22:page 862,2003(abstract 3466))によって、再発リスクを表わす分子署名(molecular signature)を見出すことを目的として、初期乳癌における遺伝子発現の予備的臨床治験がいくつか報告された。これらの研究は、関連した臨床記録を有する凍結したパラフィン包埋(FPE)サンプルの中で、定量的RT−PCRを用いて250個の候補遺伝子マーカーの試験を行うものであった。3つの研究の全てにわたり、多様な患者集団を通して、再発リスクに一貫して関係した遺伝子を同定できるか否かを調べるために解析が行われた。これら一変量の結果の基づき、多重遺伝子モデルをデザインして、3つの研究の全てにわたり解析した。16個の癌関連遺伝子および5個の参照遺伝子からなる単一多重遺伝子測定法が開発されて、臨床評価研究において前向きに試験された。これら21個のmRNA種の測定値を利用して、100点満点制で再発リスクを読み出す、再発スコア(RS)と呼ばれるアルゴリズムが作成された。
【0069】
この再発スコア検査およびアルゴリズムの臨床評価試験を行うために、前向きに定められたエンドポイントを用いる盲検臨床試験が実行された。この評価試験では、米国乳房・腸外科補助療法プロジェクト(National Surgical Adjuvant Breast and Bowel Project)(NSABP)研究B−14臨床治験集団の無作為治療群および登録治療群におけるTAM単独による治療を受けた患者に注目した(Fisher B,Costantino J P,Redmond C K,et al:Endometrial cancer in TAM−treated breast cancer patients: Findings from the National Surgical Adjuvant Breast and Bowel Project(NSABP)B−14.J Natl Cancer Inst 86:527−537(1994))。Genomic Health,Inc.およびNSABPは、これらの患者に由来する668個の乳癌組織サンプルについて21個の遺伝子のRT−PCR測定を行い、各患者の再発スコアを算出した。
【0070】
再発スコアの予め設定されたカットオフ値により、患者を、遠位再発の低リスク、中リスク、高リスクという3つの群に分類した。RT−PCR測定によって、低リスク、中リスク、高リスクと分類された668人の患者の比率はそれぞれ51%、23%、および27%であった。10年間の遠位再発率のカプラン・マイヤー推定値および95%信頼区間は、低リスク群、中リスク群、および高リスク群について、それぞれ6.8%(4.0%、9.6%)、14.3%(8.3%、20.3%)、30.5%(23.6%、37.4%)であり、低リスク群の比率は、高リスク群の比率より有意に低かった(p<0.001)。遠位再発を再発スコア、年齢、および腫瘍サイズに関連付ける多変量コックス(Cox)モデルでは、再発スコアが、年齢や腫瘍サイズを上回る、有意な(p<0.001)予測力を提供する。この研究によって、再発スコアが、ESR1陽性の腫瘍を有しTAMによる治療を受けた患者における遠位再発の強力な予測因子であることが確認された(Paik et al.Breast Cancer Research and Treatment 82,Supplement 1:page S10,2003(Abstract 16))。
【0071】
本明細書に開示した発明は、一部は、NSABPのB−14臨床試験(B−14)のプラセボ治療群の患者についての研究や、また、一部には、B−14プラセボ治療群の患者を、NSABPのB−14試験の無作為治療群および登録治療群でTAM療法を受けた患者と比較した結果によるものである。16個の癌関連遺伝子および5個の参照遺伝子の発現を定量化するためのRT−PCR測定法を用いて、プラセボ治療を受けた患者由来の乳癌組織を定量的に解析した。
【0072】
定量的遺伝子発現解析の結果、予後の分子指標が同定された。NSABPのB−14試験のプラセボ治療群における遺伝子発現と無遠位再発生存との関係の解析に基づいて、患者にさらなる治療を施さなければ、その発現レベルが結果の指標となる、一組の遺伝子が同定された。結果は、生存、無再発生存および無遠位再発生存など、さまざまな測定値に表出するが、それらは全て本発明の範囲内にある。
【0073】
同定した予後遺伝子および遺伝子群を、単独あるいは特定の組み合わせで用いて、特定の患者の結果の尤度を予測することができる。予後指標には、具体的には増殖グループ(BIRC5+MKI+MYBL2+CCNB1+STK6)、侵襲グループ(CTSL2+MMP11)、および個別の遺伝子、CCNB1、BIRC5、MYBL2、PGR、STK6、MKI、GSTM1、GAPD、RPLP0、ならびにMMP11の1つ以上を含む。
【0074】
別の態様において、本明細書に開示した遺伝子発現解析の結果、B−14のプラセボ治療群の未治療患者と、またB−14の登録治療群および無作為治療群のTAM治療患者とにおける、遺伝子発現と遠位再発との関係の解析に基づいて、例えばTAMなどの坑エストロゲン薬に対する有益な反応の分子指標を同定することができた。
【0075】
プラセボコホート群および治療コホート群の複合集団における遺伝子発現と無遠位再発生存との関係の相互作用解析に基づいて、一組の遺伝子および遺伝子群を同定したが、その発現レベルはTAM療法に対する有益な反応を示すものである。これらの遺伝子および遺伝子群を単独あるいは特定の組み合わせで用いて、個別の患者について、TAM、または別の坑エストロゲン薬による治療に対する有益な反応を予測することができる。具体的には、これらの遺伝子/遺伝子群はESR1グループ(ESR1+PGR+BCL2+SCUBE2)、ならびに個別の遺伝子、ESR1、SCUBE2、TFRC、およびBCL2のうち1つ以上のものである。
【0076】
本発明の重要な発見は、ESR1の量的レベルが、14ポイントの発現スケールにわたる連続型変数として、TAMが有益である尤度と関係していることである。従って、ESR1遺伝子の発現レベルが高いほど、反応の見込みが大きくなることから、個別の患者に対して、この治療剤の利益を受ける尤度を量的に推定する値を提供することが可能である。この情報はいく通りかに利用することができる。TAM療法およびその他の坑エストロゲン療法に対して有益な反応を示す確率を、従来利用可能であったものよりも細かく評価することが可能となる。TAMは、子宮癌、深部静脈血栓、肺塞栓症、および白内障など、顕著な副作用を有している(Physicians Desk Reference 2002)。同様に、その他の坑エストロゲン薬、例えばトレミフェン(登録商標Fareston、Orion,Corp.)、アナストロゾール(登録商標Arimidex、AstraZeneca Pharmaceuticals)、およびメガステロールアセテートなども重篤な副作用を有している。本発明の結果として、患者および彼らの癌専門医は今や、TAM療法、またはその他の坑エストロゲン療法が適切かどうかを判断する際に、ESR1スコアを用いてリスクと利益を評価することができる。
【0077】
臨床診断では、通常、ESR1の発現(主にタンパク質の量を免疫化学的に測定して決定される)を用いて、「ESR1陽性」の状態か「ESR1陰性」の状態かに基づいて、患者をTAMにより治療すべきか否かを決定するが、本発明の根底をなす発見は、従来の診断基準によって既に「ESR1陽性」であると規定された患者に関するものである。本発明により、この患者集団において、TAM治療、またはその他の坑エストロゲン薬による治療に対して有益な反応が示される尤度を測定することができる。
【0078】
ESR1の発現レベルを再発スコア(後述)と一緒に用いて、各患者にTAM(または別の坑エストロゲン薬)単独を処方するか、TAM(または別の坑エストロゲン薬)と化学療法を併用して処方すべきかを決定することができる。
【0079】
さらに、本発明では、TAM治療、またはその他の坑エストロゲン薬による治療による有益さが高度、中度、または低度であると予測する正確なESR1切点によって、特定の検査法を設計することが可能になるが、その例は下記の実施例に示されている。
【0080】
本発明のさまざまな実施形態において、開示した遺伝子の発現レベルを測定するために、RT−PCR、マイクロアレイ、連続遺伝子発現解析(SAGE)、および超並列的配列解析(MPSS)など、さまざまな技術的アプローチが利用可能であるが、これについては下記に詳述する。具体的な実施形態において、各遺伝子の発現レベルは、エクソン、イントロン、タンパク質エピトープ、およびタンパク質活性など、その遺伝子の発現産物のさまざまな特徴と関連づけて測定することが可能である。
【0081】
B.2.遺伝子発現プロファイリング
一般に、遺伝子発現プロファイリングの方法は、ポリヌクレオチドのハイブリダイゼーション解析に基づく方法、およびポリヌクレオチドの配列決定に基づく方法という2つの大きなグループに分けることができる。当技術分野において知られている、サンプル中でのmRNA発現を定量化するために最も一般的に用いられる方法には、ノーザンブロット法ならびにインサイツハイブリダイゼーション法(Parker&Barnes,Methods in Molecular Biology 106:247−283(1999))、RNA分解酵素保護アッセイ(Hod,Biotechniques 13:852−854(1992))、および逆転写ポリメラーゼ連鎖反応法(RT−PCR法)(Weis et al.,Trends in Genetics 8:263−264(1992))などがある。あるいは、DNA二重鎖、RNA二重鎖、およびDNA−RNAハイブリッド二重鎖、またはDNA−タンパク質二重鎖など、特異的な二重鎖を認識することができる抗体を使用することも可能である。シーケンシングによる遺伝子発現解析のための代表的な方法には、連続遺伝子発現解析法(SAGE)、および超並列的配列解析法(MPSS)による遺伝子解析法などがある。
【0082】
腫瘍形成に通常含まれる2つの生物学的過程は、遺伝子増幅とDNAメチル化である。この2つの過程の結果、腫瘍の形成または進行にとって重要な遺伝子の異常発現が生じる。従って、遺伝子増幅およびDNAメチル化をモニターする方法が、遺伝子発現プロファイリングの代替的方法と考えることができる。
【0083】
遺伝子増幅は、細胞性癌遺伝子の高度発現を引き起こすことがある、多くの癌における一般的な変化である(Meltzer,P.et al.,Cancer Genet Cytogenet.19:93(1986))。乳癌においては、ERBB2遺伝子の増幅とERBB2の過剰発現との間には充分な相関関係がある(Nagai,M.A.et al.,Cancer Biother 8:29(1993),Savinainen,K.J.et al.,Am.J.Pathol.160:339(2002))。ERBB2遺伝子の増幅は、その過剰発現を引き起こすが、予後不良と相関し(Press,M.F.et al.,J.Clin.Oncol.15:2894(1997),Slamon,D.J.et al.,Science 244:707(1989))、標準的な化学療法と併用した場合の坑HER2療法に対する反応を予測できる(Seidman,A.D.et al.,J.Clin.Oncol.19:1866(2001))。
【0084】
DNAメチル化も、広範囲の遺伝子の発現上昇または発現低下を引き起こす、癌における一般的な変化であることが分かっている(Jones,P.A.Cancer Res.65:2463(1996))。一般的に、プロモーター領域および調節因子の中にあるCpGアイランドの低メチル化によって、多くの癌細胞含む遺伝子の発現の低下がもたらされる(Hanada,M.,et al.,Blood 82:1820(1993),Feinberg,A.P.and Vogelstein,B.Nature 301:89(1983))。DNAメチル化は、多くの癌における特異的な遺伝子発現の量に相関しているため、腫瘍の発現プロファイリングの有用な代替法として役に立つ(Toyota,M.et al.,Blood 97:2823(2001),Adorjan,P.et al.Nucl.Acids.Res.10:e21(2002))。
【0085】
a.逆転写PCR(RT−PCR)
上記の技術の中で、最も感度が高く、かつ最もフレキシブルな定量化法はRT−PCRであり、これを用いて、さまざまなサンプル集団、正常な組織および腫瘍組織、薬物療法の有無などにおけるmRNAの量を比較したり、遺伝子発現のパターンを特徴づけたり、密接に関係するmRNA同士を識別したり、また、RNA構造を解析したりすることができる。
【0086】
第一の工程は、mRNAを標的サンプルから単離することである。出発物質は一般に、ヒトの腫瘍もしくは腫瘍細胞株、および、それらに対応する正常組織もしくは細胞株から単離した全RNAである。すなわち、健康なドナーに由来するDNAプールを用いて、乳房、肺、大腸、前立腺、脳、肝臓、腎臓、膵臓、脾臓、胸腺、睾丸、卵巣、子宮などの多様な原発腫瘍、腫瘍、または腫瘍細胞株からRNAを単離することができる。mRNAの由来源が原発腫瘍であれば、mRNAを、例えば冷凍または保存されているパラフィン包埋固定(例えばホルマリン固定)組織サンプルから抽出することができる。
【0087】
mRNA抽出の一般的な方法は当技術分野においてよく知られており、Ausubel et al.,Current Protocols of Molecular Biology,John Wiley and Sons(1997)など、分子生物学の標準的な教科書に記載されている。パラフィン包埋組織からRNAを抽出する方法は、例えばRupp and Locker,Lab Invest.56:A(1987)、およびDe Andres et al.,BioTechniques 18:42044(1995)に開示されている。特に、RNA単離は、例えばQiagenなどの製造業者から購入した精製キット、緩衝液セット、およびタンパク質分解酵素を用いて、メーカーの指示書に従って行うことができる。例えばQiagen RNeasyミニカラムを用いて、培養細胞由来の全RNAを単離することができる。その他の市販されているRNA単離キットには、商標MasterPure Complete DNA and RNA Purification Kit(登録商標EPICENTRE,Madison,WI)、およびParaffin Block RNA Isolation Kit(Ambion,Inc.)などがある。RNA Stat−60(Tel−Test)を用いて、組織サンプルから全RNAを単離することができる。腫瘍から調製したRNAは、例えば塩化セシウム密度勾配遠心法によって単離することができる。
【0088】
RNAがPCRの鋳型として用いることができないため、RT−PCRによる遺伝子発現プロファイリングの最初の工程では、RNAの鋳型をcDNAに逆転写し、その後、それをPCR反応で指数関数的に増幅させる。2つの最も広く使用されている逆転写酵素は、トリ骨髄芽球症ウイルス(avilo myeloblastosis virus)の逆転写酵素(AMV−RT)、およびモロニーマウス白血病ウイルスの逆転写酵素(MMLV−RT)である。逆転写工程は、一般的に、環境と発現プロファイリングの目的に応じて、特異的なプライマー、ランダムなヘキサマー、またはオリゴ−dTプライマーを用いて開始される。例えば、メーカーの指示書に従ってGeneAmp RNA PCRキット(Perkin Elmer,CA,USA)を用いて、抽出したRNAを逆転写することができる。次に、得られたcDNAを以後のPCR反応の鋳型として用いることができる。
【0089】
PCR工程では、多様な耐熱性DNA依存型DNAポリメラーゼを用いることができるが、一般的には、5’−3’ヌクレアーゼ活性を有するが3’−5’校正エンドヌクレアーゼ活性を欠くTaqDNAポリメラーゼを使用する。すなわち、登録商標TaqMan PCRは一般的に、TaqまたはTthのポリメラーゼの5’−ヌクレアーゼ活性を利用して、その標的アンプリコンに結合したハイブリダイゼーションプローブを加水分解するが、同等の5’ヌクレアーゼ活性を有する任意の酵素を用いることもできる。2つのオリゴヌクレオチドプライマーを用いて、PCR反応に典型的なアンプリコンを作成する。第3のオリゴヌクレオチド、またはプローブを設計して、この2つのPCRプライマーの間にあるヌクレオチド配列を検出する。このプローブは、TaqDNAポリメラーゼ酵素によっては伸長不能であり、レポーター蛍光色素およびクエンチャー蛍光色素によって標識されている。この2つの色素がプローブ上にあるときのように近接していると、レポーター色素からレーザー誘起された発光が、クエンチャー色素によって消光される。増幅反応過程で、TaqDNAはプローブを鋳型依存的に切断する。得られたプローブ断片を溶液中で分離すると、放出されたレポーター色素からのシグナルは、第2の蛍光プローブの消光作用を受けない。合成された新しい分子毎に1つのレポーター色素分子が遊離されるため、消失されないレポーター色素を検出することで、データの定量的解釈の根拠が提供される。
【0090】
市販の機器、例えばABIの商標PRISM 7700 商標Sequence Detection System(Perkin−Elmer−Applied Biosystems,Foster City,CA,USA)、またはLightcycler(Roche Molecular Biochemicals,Mannheim,Germany)などを用いて、登録商標TaqMan RT−PCRを行うことができる。好ましい実施形態において、リアルタイム定量的PCR装置、例えばABI 商標PRISM 7700 商標Sequence Detection System上で5’ヌクレアーゼ処理を実行する。このシステムは、サーモサイクラー、レーザー、電荷結合素子装置(CCD)、カメラ、およびコンピューターから構成されている。このシステムはサーモサイクラー上で96ウエルフォーマットにてサンプルを増幅する。増幅の過程で、レーザー誘起蛍光シグナルがCCDで検出される。このシステムは、装置を動かし、データを解析するためのソフトウエアを含む。
【0091】
5’ヌクレアーゼ測定データは、まず、C、すなわちサイクル閾値(threshold cycle)として表示される。上記したように、蛍光値はすべてのサイクルの間記録され、増幅反応においてその時点まで増幅された産物の量を示している。蛍光シグナルが統計学的に有意であるとして記録された最初の時点が、サイクル閾値(C)である。
【0092】
誤差、およびサンプル間の変動の影響を最小にするために、RT−PCRは、通常1つ以上の参照遺伝子を内部標準として用いて行なわれる。理想的な内部標準は、異なった組織でも定常的な量発現され、実験処理による影響を受けない。遺伝子発現パターンを正規化するために最も頻繁に使用されるRNAは、ハウスキーピング遺伝子であるグリセルアルデヒド三リン酸脱水素酵素(GAPD)およびβ−アクチン(ACTB)のmRNAである。
【0093】
RT−PCR技術のより新しい改変型はリアルタイム定量PCR法であるが、これは二重標識した蛍光原性プローブ(すなわち登録商標TaqManプローブ)によってPCR産物の蓄積を測定する。リアルタイムPCRは、各標的配列に対する内部競合配列を正規化のために用いる競合的定量PCR法とも、サンプル中に含まれる正規化遺伝子、またはRT−PCR用のハウスキーピング遺伝子を用いる比較定量的PCRと相性がよい。詳細は、例えばHeld et al.,Genome Research 6:986−994(1996)参照。
【0094】
mRNAの単離、精製、プライマー伸長、および増幅など、RNA由来源として固定されたパラフィン包埋組織を用いて遺伝子発現をプロファイリングするための代表的なプロトコルの工程については、さまざまな雑誌論文{例えばT.E.Godfrey et al.J.Molec.Diagnostics 2:84−91(2000);K.Specht et al.,Am.J.Pathol.158:419−29(2001);Cronin et al.,Am J Pathol 164:35−42(2004)}に記載されている。要するに、代表的な工程は、パラフィン包埋腫瘍組織サンプルを厚さ約10μmの切片に切断することから開始する。次に、RNAを抽出し、タンパク質およびDNAを除去する。RNA濃度を分析してから、必要ならばRNA修復および/または増幅工程を含ませてもよく、遺伝子特異的プロモーターを用いてRNAを逆転写し、続いてRT−PCRを行う。
【0095】
b.マイクロアレイ
マイクロアレイ技術を用いて、示差的遺伝子発現を同定するか確認することもできる。すなわち、乳癌関連遺伝子の発現プロファイルを、マイクアレイ技術を用いて新鮮な腫瘍組織またはパラフィン包埋腫瘍組織の中で測定することができる。この方法では、対象となるポリヌクレオチド配列(cDNAおよびオリゴヌクレオチドを含む)をマイクロチップ基質の上にプレートするか並べる。次に、並べた配列を、対象とする細胞または組織に由来する特異的なDNAプローブとハイブリダイズさせる。RT−PCR法と同様に、mRNA源は一般的に、ヒトの腫瘍または腫瘍細胞株、およびそれらに対応する正常な組織または細胞株から単離した全RNAである。このように、RNAは多様な原発腫瘍または腫瘍細胞株から単離することができる。mRNA源が原発腫瘍の場合には、mRNAを、例えば冷凍または保存したパラフィン包埋され固定(例えばホルマリン固定)された組織サンプルから抽出することができるが、これらは、普段の診療において日常的に調製され保存されている。
【0096】
マイクロアレイ技術の特定の実施形態において、cDNAクローンをPCR増幅した挿入断片を高密度で基板に適用する。好ましくは、少なくとも10,000個のヌクレオチド配列を基板に適用する。それぞれ10,000個の成分をマイクロチップの上に固定した、マイクロアレイ化遺伝子はストリンジェントな条件下でハイブリダイゼーションさせるのに適している。対象とする組織から抽出したRNAの逆転写により蛍光ヌクレオチドを取り込んで、蛍光標識されたcDNAを作成することができる。基板に適用された標識cDNAプローブは、アレイ上のDNAの各スポットに特異的にハイブリダイズする。チップをストリンジェントな条件で洗浄して、非特異的に結合したプローブを除去してから、共焦点レーザー顕微鏡法によるか、例えばCCDカメラなどの別の検出法によってスキャンする。各アレイ要素のハイブリダイゼーションを定量化すると、対応するmRNAの存在量を判定することができる。2つのRNA源から作成され、2色の蛍光によって別々に標識されたcDNAプローブは、対にしてアレイにハイブリダイズさせる。したがって、特定の遺伝子それぞれに対応する、2つの由来源から得た転写物の相対的存在量が同時に測定される。ハイブリダイゼーションの規模が小さいために、多数の遺伝子の発現パターンを簡便かつ迅速に評価することができる。このような方法は、1細胞あたり数コピーしか発現しない稀少な転写物を検出したり、少なくとも約2倍の発現レベル差を再現性良く検出したりするのに必要な感度を有することが示されている(Schena et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 93(2):106−149(1996))。マイクロアレイ解析は、例えばAffimetrix GenChip技術、またはIncyteのマイクロアレイ技術を用いて、メーカーの指示書に従って市販の機器によって行うことができる。
【0097】
遺伝子発現の大量解析を行うためのマイクロアレイ法の開発によって、多様な腫瘍型において癌の分類および結果予測の分子マーカーを系統的に探し出すことが可能になっている。
【0098】
c.遺伝子発現の連続解析(SAGE)
遺伝子発現の連続解析(SAGE)は、各転写物に対する個別のハイブリダイゼーションプローブを提供する必要なしに、非常に多くの転写物を同時かつ定量的に解析することを可能にする方法である。まず、各転写物の中のユニークな部位からタグを得られれば、転写物をユニークに識別するのに十分な情報を含む短い配列タグ(約10〜14bp)を作成する。そして、多くの転写物を一緒に連結させて、シーケンシングすることができる長い連続的な分子を形成させて、複数のタグの同一性を同時に明らかにする。各タグの存在量を測定し、かつ各タグに対応する遺伝子を同定することによって、任意の転写物集団の発現パターンを定量的に評価することができる。詳細については、例えばVelculescu et al., Science 270:484−487 (1995)およびVelculescu et al.,Cell 88:243−51(1997)参照。
【0099】
d.および超並列的配列解析(MPSS)法による遺伝子発現解析
この方法は、Brenner et al.,Nature Biotechnology 18:630−634(2000)に記載されているが、非ゲル性分子署名シーケンシングを、直径5μmの別々のマイクロビーズ上で何百万もの鋳型をインビトロでクローニングすることと組む合わせたシーケンシング法である。まず、インビトロでのクローニングによってDNA鋳型のビーズライブラリーを作成する。次に、鋳型を含むマイクロビーズの平面アレイを高密度(一般的には3×10マイクロビーズ/cmよりも大きい)でフローセルの中で集合させる。各マイクロビーズの上にある、クローニングされた鋳型の自由端を、DNA断片の分離を必要としない蛍光性の分子署名シーケンシングによって同時に解析する。この方法は、1回の操作で、酵母菌cDNAライブラリーに由来する何十万もの遺伝子署名配列を、同時かつ正確に提供することが示されている。
【0100】
e.mRNAの単離、精製および増幅に関する一般的説明
mRNAの単離、精製、プライマー伸長、および増幅など、RNA源として固定パラフィン包埋組織を用いて遺伝子発現をプロファイリングするための代表的なプロトコルの工程が、さまざまな発行済み雑誌論文に記載されている(例えばT.E.Godfrey et al.J.Molec.Diagnostics 2:84−91[2000];K.Specht et al.,Am.J.Pathol.158:419−29[2001])。要すれば、代表的な工程は、パラフィン包埋腫瘍組織サンプルを厚さ約10μmの切片に切断することから開始する。次に、RNAを抽出し、タンパク質およびDNAを除去する。RNA濃度を分析してから、必要ならばRNA修復および/または増幅工程を含ませてもよく、遺伝子特異的プロモーターを用いてRNAを逆転写し、続いてRT−PCRを行う。最後に、データを解析して、癌再発の予測された尤度に応じて、検査した腫瘍サンプルの中で同定された特徴的な遺伝子発現パターンに基づいて、患者に利用可能な最良の治療法の選択肢を同定する。
【0101】
f.乳癌遺伝子セット、被測定遺伝子サブ配列、および遺伝子発現データの臨床応用
本発明の重要な態様は、乳癌組織による一定の遺伝子の測定された発現を用いて、予後情報、または予測情報を提供することである。この目的のためには、測定されたRNA量の違い、および使用されたRNAの品質の変動を補正することが必要である。従って、本アッセイ法は、一般的に、下記の実施例に示すように、例えばβ−アクチン、GAPD、GUS、RPLO、およびTFRCなど、よく知られたハウスキーピング遺伝子を含む一定の正規化遺伝子の発現を測定して、これを取り込む。あるいは、標準は、被測定遺伝子全部、またはその大規模なサブセットのシグナルの平均値または中央値(C)に基づ区ことも可能である(包括的正規化法(global normalization approach))。以下、別段の記載がない限り、遺伝子発現は正規化された発現を意味する。
【0102】
g.イントロンに基づくPCRプライマーおよびプローブの設計
本発明の一つの態様によれば、増幅すべき遺伝子の中に存在するイントロン配列に基づいて、PCRプライマーおよびプローブを設計する。従って、プライマー/プローブ設計の第一工程は、遺伝子の中にあるイントロン配列を描きだすことである。これは、例えばKent,W.J.,Genome Res.12(4):656−64(2002)によって開発されたDNA BLATソフトウエアなど、公開されたソフトウエアによるか、その変法を含むBLASTソフトウエアによって行うことができる。この後の工程は、PCRプライマーおよびプローブを設計する確立した方法に従う。
【0103】
非特異的シグナルを避けるためには、プライマーおよびプローブを設計する際に、反復配列をマスクすることが重要である。これは、Baylor College of Medicineを通じてオンラインで入手可能なRepeat Maskerプログラムを用いて容易に行うことができるが、このプログラムは、反復要素のライブラリーに対してDNA配列をスクリーニングして、反復要素がマスクされているクエリー配列を返す。そして、マスクされたイントロン配列を使用して、例えばPrimer Express(Applied Biosystems);MGB assay−by−design(Applied Biosystems);一般ユーザーおよび生物学者プログラマーのためにWWW上に置かれたPrimer3(Steve Rozen and Helen J.Skaletsky(2000))など、市販されているか、さもなければ公開されているプライマー/プローブ設計用パッケージを用いて、プライマーおよびプローブの配列を設計することができる。Krawetz S,Misener S(eds)Bioinformatics Methods and Protocols:Methods in Molecular Biology.Humana Press,Totowa,N.J.,pp365−386)記載。
【0104】
PCRプライマー設計において最も重要だと考えられている要素は、プライマー長、融解温度(Tm)、およびG/C含量、特異性、相補的プライマー配列、および3’末端配列などである。通常、最適なPCRプライマーは一般的に長さが17〜30塩基あり、約20〜80%、例えば50〜60%のG+C塩基を含む。融解温度は50と80℃の間であり、例えば約50〜70℃が一般には好ましい。
【0105】
PCRプライマーおよびプローブ設計のさらなるガイドラインについては、例えばDieffenbach,C.W.et al.,”General Concepts for PCR Primer Design” in:PCR Primer,A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press,New York,1995,pp.133−155;Innis and Gelfand,”Optimization of PCRs” in:PCR Protocols,A Guide to Methods and Applications,CRC Press,London,1994,pp.5−11;and Plasterer,T.N.Primerselect:Primer and probe design.Methods Mol.Biol.70:520−527(1997)参照。これらの全ての開示は参照して本明細書に明確に組み込まれる。
【0106】
B.3 アルゴリズムおよび統計学的方法
本発明では、同時継続出願第10/883,303号に記載された一定のアルゴリズムおよび統計学的方法を利用する。
【0107】
定量的RT−PCR(qRT−PCR)を用いてmRNA量を測定する場合には、mRNA量をC(閾値サイクル)単位で表示する(Held et al.,Genome Research 6:986−994(1996))。参照mRNAのCの合計を平均したものを0などの固定した数に設定して、被検mRNAの各測定C値を、この固定した点に対して相対的に与える。例えば、ある患者の腫瘍サンプルについて、5つの参照遺伝子のCの平均が31であり、被検遺伝子XのCが35であることが分かった場合、遺伝子Xについて報告される値は−4(すなわち、31−35)である。
【0108】
mRNA量を定量的に測定した後の最初の工程として、腫瘍サンプルで同定された遺伝子と、癌の分子的病理に関連していることが知られている遺伝子をサブセットにグループ化する。すなわち、増殖に関連していることが知られている遺伝子は「増殖グループ」(軸(axis)すなわちサブセット)を構成する。癌の侵襲に関連していることが知られている遺伝子は「侵襲グループ」(軸すなわちサブセット)を構成する。主要な成長因子受容体経路に関係する遺伝子は、「成長因子グループ」(軸すなわちサブセット)を構成し、GRB7グループとも呼ばれる。エストロゲン受容体(ESR1)を介した活性化またはシグナル伝達に関与することが知られている遺伝子は「エストロゲン受容体(ER)グループ」(軸すなわちサブセット)を構成するなどである。このサブセットのリストは、当然ながら無制限である。生成されるサブセット(軸)は、具体的な癌、例えば、乳癌、前立腺癌、膵臓癌、肺癌などによって異なる。通常、その発現が互いに相関することが知られている遺伝子、または同一の経路に関係することが知られている遺伝子は一緒にグループ化される。
【0109】
次の工程では、サブセットにおける各mRNAについて測定された腫瘍量に、癌再発のリスクに対する相対的セット内寄与を反映する係数を掛けて、この積を、そのサブセットにおけるmRNA量とそれらの係数とのその他の積に加えて、例えば、増殖項、侵襲項、成長因子項などの項を得る。例えば、リンパ節陰性で侵襲性の乳癌の場合には、成長因子項は、(0.45から1.35)×GRB7+(0.05から0.15)×ErbB2となり、例えば、0.9×GRB7+0.1×ERBB2となる(下記実施例参照)。
【0110】
全体的な再発スコアに対する各項の寄与は、係数を使用することで重み付される。例えば、リンパ節陰性で侵襲性の乳癌の場合には、成長因子項の係数は0.23と0.70の間となりうる。
【0111】
さらに、成長因子項や増殖項など、いくつかの項については、更なる工程が行われる。項と再発リスクの間の関係が非線形的な場合には、項の非線形的な関数変換、例えば閾値が使用される。したがって、リンパ節陰性で侵襲性の乳癌では、成長因子項が<8の場合には、その値は8と定められる。
【0112】
得られた項の合計が再発スコア(RS)となり、疾患の通常の経過で癌を再発させる尤度を予測できる。
【0113】
本発明のアルゴリズムによって作成されるRSスケールは、さまざまな方法で調整することができる。すなわち、範囲を、例えば、スケールが0から10、0から50、または0から100にわたるように選択することができよう。
【0114】
例えば、下記の実施例で説明する具体的なスケーリング法では、スケール化された再発スコアを、0から100というスケールで計算している。便宜上、10C単位を各測定C値に加え、スケール化されていないRSを既述したように計算する。スケール化されていないRSとスケール化されたRSを計算するための等式を下記実施例に示す。
【0115】
再発スコア、または再発スコアを計算するために用いられる変数をする際に、0.5よりも大きいピアソン係数で検定された特定の癌における第一の遺伝子とともに、該腫瘍タイプ(乳癌など)の少なくとも30人以上の異なった患者サンプルのセットの中で同時発現する別の遺伝子によって置換することができる。同様に、本発明の予後法および予測法に含まれる個別の遺伝子、または遺伝子グループ(サブセット)に含まれる遺伝子を、0.5よりも大きいピアソン係数で検定された特定の癌における第一の遺伝子とともに同時発現する別の遺伝子で置換することができる。
【0116】
B.4 坑エストロゲン薬療法
エストロゲンは、乳癌など、いくつかの癌、特にエストロゲン受容体(ESR1)を発現する癌の増殖を促進することが知られている。エストロゲンの作用を遮断するか、そのような患者、特にESR1陽性乳癌患者におけるエストロゲン量を低下させるためにいくつかの療法が開発されている。
【0117】
坑エストロゲン薬は一般に、エストロゲン受容体へのエストロゲンの結合のアンタゴニストとして分類することができ、またはアロマターゼ阻害剤のようなエストロゲン生合成の阻害剤である。
【0118】
最も普通に用いられる坑エストロゲン薬はTAMであり、これはエストロゲン受容体に結合するエストロゲンの仲間に属し、乳癌の外科的切除後、および/または化学療法もしくは放射療法の後の5年間、1日1回経口摂取する。手術後に補助療法としてTAMを用いると癌再発リスクを低下させることが臨床研究で示されているが、ESR1陽性患者のこの療法に対する反応はさまざまであり、反応性についての明確な予測因子で利用できるものは存在していない。
【0119】
その他の坑エストロゲン薬には、TAMと同様に乳房組織および乳癌に対するエストロゲンの作用を遮断するラロキシフェン、TAMと近縁関係にあり、転移性乳癌を有する閉経後の女性にとって選択肢となりうるクエン酸トレミフェンなどがある。
【0120】
アロマターゼ阻害剤であるアナストロゾールは、エストロゲンがその受容体を活性化させるのを阻害することによって作用し、エストロゲンの産生に必要な酵素を遮断する。アナストロゾールは現在、進行性乳癌がTAM療法の間またはその後でも成長し続ける女性にとっての選択肢である。
【0121】
メガストロールアセテート(megastrol acetate)は一般的に進行性乳癌のホルモン療法に用いられ、通常、癌がTAMに反応できない女性に用いられる。
【0122】
全ての治療法は、重篤な副作用や、患者の反応について信頼のおける予測因子がないために制限されており、内科医は、特定の治療法を薦める前にリスク−利益分析を行うことができるようになろう。
【0123】
B.5 癌化学療法
癌治療に用いる化学療法剤は、それらの作用メカニズムに応じて、いくつかのグループに分けることができる。化学療法剤には、DNAまたはRNAに直接ダメージを与えるものがある。このような化学療法剤はDNAの複製を混乱させて、複製を完全に停止させるか、ナンセンスDNAもしくはRNAを産生させる。このカテゴリーには、例えばシスプラチン(登録商標Platinol)、ダウノルビシン(登録商標Cerubidine)、ドキソルビシン(登録商標Adriamycin)、およびエトポシド(登録商標VePesid)などがある。別のグループの癌化学療法剤は、ヌクレオチドまたはデオキシリボヌクレオチドの形成を妨害して、RNA合成および細胞複製を遮断する。このクラスの薬剤の例には、メトトレキサート(登録商標Abitrexate)、メルカプトプリン(登録商標Purinethol)、フルオロウラシル(登録商標Adrucil)、およびヒドロキシウレア(登録商標Hydrea)などがある。第3のクラスの化学療法剤は紡錘体の合成および崩壊をもたらし、その結果、細胞分裂を妨げる。このクラスの薬剤には、ビンブラスチン(登録商標Velban)、ビンクリスチン(登録商標Oncovin)、およびパシタキセル(登録商標Taxol)、ならびにトセタキセル(登録商標Taxotere)などのタキセン(taxene)などがある。トセタキセルは米国において現在、それ以前の化学療法に失敗した局部進行性または転移性の乳癌患者、およびそれ以前の白金を用いた化学療法に失敗した局部進行性または転移性の非小細胞性肺癌患者を治療するために承認されている。これら全て、およびその他の化学療法剤に対する患者の反応を予測することは特に本発明の範囲内に含まれる。
【0124】
特定の実施形態において、化学療法はタキサン誘導体による治療を含む。タキサンには、癌治療に広く用いられているパクリタキセル(登録商標Taxol)およびドセタキセル(登録商標Taxotere)などがあるが、これらに限定されるものではない。前述したように、タキサンは、細胞機能において重要な役割を果たしている、微小管と呼ばれる細胞構造に影響を与える。正常な細胞増殖において、細胞が分裂を開始するときに微小管が形成される。いったん細胞が分裂をやめると、微小管は分解されるか破壊される。タキサンは微小管が分解されるのを阻止し、それによって癌細胞の分裂を遮断する。
【0125】
別の特定の実施形態において、化学療法は、例えばドキソルビシン、ダウノルビシン、およびアクラシノマイシンなどのアントラサイクリン誘導体による治療を含む。
【0126】
更なる特定の実施形態において、化学療法は、例えばカンプトテシン、トポテカン、イリノテカン、20−S−カンプトテシン、9−ニトロ−カンプトテシン、9−アミノ−カンプトテシン、またはGI147211などのトポイソメラーゼ誘導体による治療を含む。
【0127】
これら、およびその他の化学療法剤のいずれかの組み合わせによる治療が具体的に考えられている。
【0128】
ほとんどの患者は、癌切除手術の直後から化学療法を受ける。この方法は一般に補助療法と呼ばれている。しかし、手術前にも、いわゆる術前補助化学療法のように化学療法を施すことができる。術前補助化学療法の利用は、進行して手術不能な乳癌の治療から始まっているが、その他の型の癌の治療でも承認を受けている。いくつかの臨床治験において術前補助化学療法の有効性がテストされている。National Surgical Adjuvant Breast and Bowel Project B−18多施設試験(NSAB B−18)において(Fisher et al.,J.Clin.Oncology 15:2002−2004(1997);Fisher et al.,J.Clin. Oncology 16:2672−2685(1998))、アドリアマイシンおよびシクロホスファミドを組み合わせて術前補助化学療法を実施した(「AC療法」)。別の臨床治験においては、5−フルオロウラシル、エピルビシン、およびシクロホスファミドの組み合わせを用いて術前補助化学療法を実施した(「FEC療法」)(van Der Hage et al.,J.Clin.Oncol.19:4224−4237(2001))。新たな臨床治験でも、タキサン含有術前補助投薬計画が用いられている。例えばHolmes et al.,J.Natl.Cancer Inst.83:1797−1805(1991)およびMolitemi et al.,Seminars in Oncology,24:S17−10−S−17−14(1999)参照。乳癌のための術前補助化学療法のさらなる情報については、Cleator et al.,Endocrine−Related Cancer 9:183−195(2002)参照。
【0129】
B.6 本発明のキット
本発明の方法で用いる材料は、よく知られた手順に従って作成されるキットを調製するのに適したものである。従って、本発明は、予後の結果または治療に対する反応を予測するために、開示された遺伝子の発現を定量化するための、遺伝子特異的または遺伝子選択的なプライマーおよび/またはプローブを含むことができる薬剤を含むキットを提供する。このようなキットは任意で、腫瘍サンプル、特に固定パラフィン包埋組織サンプルからRNAを抽出するための試薬、および/またはRNA増幅用試薬を含むことができる。さらに、本キットは任意で、本発明の方法においてそれらを使用することに関連した識別するための指示書、またはラベル、または説明書とともに試薬を含むことができる。本キットは容器(本方法を自動実行する際に用いるのに適したマイクロタイタープレートなど)を含むことができ、それぞれの容器は、本方法で利用する、例えば作成済みマイクロアレイ、緩衝液、適当なヌクレオチド三リン酸(例えばdATP、dCTP、dGTP、およびdTTP;またはrATP、rCTP、rGTP、およびUTP)、逆転写酵素、DNAポリメラーゼ、RNAポリメラーゼ、ならびに1つ以上の本発明のプライマーおよびプローブ(例えば、RNAポリメラーゼと反応するプロモーターに結合した適当な長さのポリ(T)を1つ以上含むことができる。予後情報または予測情報を推定または定量化するのに用いられる数学的アルゴリズムもまさしくキットの成分となる尤度がある。
【0130】
また、本発明によって提供される方法は、全体または一部を自動化することができる。
【0131】
また、本発明の全ての態様は、高いピアソン相関係数によって証明されたように、開示された遺伝子とともに同時発現される限られた数の追加的遺伝子を、例えば、開示遺伝子に加えて、および/またはその代わりに予後テストまたは予測テストに含まれるように実施することができる。
【0132】
ここまで本発明を説明してきたが、本発明は、以下の実施例を参照することで、より容易に理解されるが、これらは例示のために提示されるものであって、いかなる意味でも本発明を制限するものではない。
【実施例】
【0133】
遺伝子発現と予後診断との関係に関する研究、および初期乳癌患者におけるタモキシフェンに対する有益な応答
方法
本研究では、NSABP研究B−14:「原発性乳癌に罹患し腋窩部リンパ節陰性の患者であって、その腫瘍がエストロゲン受容体に対して陽性である患者においてタモキシフェンを評価するための臨床試験」から得られた組織およびデータを用いる。この試験の結果は、Fisher B,Costantino JP,Redmond CK,et al:Endometrial cancer in TAM−treated breast cancer patients:Findings from the National Surgical Adjuvant Breast and Bowel Project(NSABP)B−14.J Natl Cancer Inst 86:527−537(1994)で報告されている。
【0134】
1.1 研究B−14では、研究を開始時にプラセボ単独で処理した450人までの患者に由来する固定パラフィン包埋乳癌組織サンプルを解析した。評価可能な患者毎に、16種類の癌関連遺伝子および5種類の参照用遺伝子の発現をRT−PCRによって定量的に測定した。疾患の再発と、(a)再発スコア、(b)特定の遺伝子グループにおける遺伝子の発現、または(c)各遺伝子の発現との関係を評価した。
【0135】
1.2 組み入れ基準
1.2.1 NSABP研究B−14:「原発性乳癌に罹患し腋窩部リンパ節陰性の患者であって、その腫瘍がエストロゲン受容体に対して陽性である患者においてタモキシフェンを評価するための臨床試験」に登録されていること。
【0136】
1.2.2 研究のプラセボ対照試験部分において、プラセボまたはTAMに対して無作為化されていること。
【0137】
1.2.3 追跡治療によって臨床的に適格であること
1.3 除外基準
1.3.1 NSABP保存データ中に、初期診断から利用可能な腫瘍区がないこと。
【0138】
1.3.2 H&Eスライドを検査して測定しても、総括的に腫瘍がないか、ほんの僅かしかないこと(グループ1)。
【0139】
1.3.3 RT−PCR解析するにはRNAが足りない(<275ng)こと。
【0140】
1.3.4 5つの参照遺伝子に対する非正規化Cの平均値が35よりも大きいこと。
【0141】
1.4 遺伝子パネル
1.4.1 表1に列挙された16の癌関連遺伝子および5つの参照遺伝子の解析を、定量的RT−PCRを用いて行った。
【0142】
1.4.2 患者生存率
無遠位再発生存期間(DRFS)は、手術から最初の遠隔転移までの時間(年単位)に基づく。対側性疾患、他の二次原発癌、および遠隔転移前の死亡は、打ち切りとなる場合と見なす。一次解析では、同側性乳癌再発、局所的胸壁再発、および局所的再発は無視し、発症とも打ち切り事象ともみなさない。
【0143】
1.4.3 遺伝子発現
表1に列挙された21の遺伝子の発現レベルを、GHIアッセイ法による値として報告した。遺伝子発現値を、参照遺伝子の平均値に対して正規化した。各癌関連遺伝子について、RT−PCRによってサイクル閾値(C)を得、表1に列挙した5つで一組の遺伝子に対して正規化した。参照遺伝子は、さまざまなサンプル状況および処理条件下同様、乳癌において比較的不変であることが知られているため、外部からの作用に対して正規化するのに役立つ。参照−正規化発現測定値は、一般的に0から15の範囲であり、1単位の増加は、通常、RNA量が2倍増加したことを示す。
【0144】
1.4.4 癌関連遺伝子および参照遺伝子
【0145】
【表1】

1.4.5 再発スコア
0から100までのスケールによる再発スコア(RS)は、以下の参照−正規化発現測定値から得られる:
【0146】
【数1】

そして、このRS(スケールなしの再発スコア)を、0から100までの間に再スケール化する:
【0147】
【数2】

コックス(Cox)比例ハザードモデルに基づき、癌の再発と再発スコアとの相関関係を連続型変数として評価した。この評価法は、さらに増殖グループ、GRB7グループ、ESR1グループ、侵襲グループ、および16の癌関連遺伝子のそれぞれを連続型変数として含んでいた。
【0148】
予後遺伝子を同定するための主な目的は、未治療患者群において、遺伝子発現と無遠位再発生存期間(DRFS)および全生存期間(OS)との間の関係を調査することであった。DRFSは、手術から最初の遠隔転移までの時間(年単位)に基づくものであったが、但し、対側性疾患、他の二次原発癌、および遠隔転移前の死亡は、打ち切り事象と見なし、同側性乳癌再発、局所的胸壁再発、および局所的再発は無視した。主効果コックス比例ハザードモデル(D.R.Cox(1972)Regression Models and Life−Tables(with discussion).J Royal Statistical Soc.B,34:187−220)を利用して、標準的な臨床的予後変数、例えば、年齢、臨床的腫瘍サイズ、および腫瘍異型度を超える、遺伝子発現の更なる寄与度を比較した。遺伝子発現変数を除外した縮小モデルを、対象となる遺伝子変数を含む競合完全モデル(competing full model)と比較する、尤度比検定法と呼ばれるテスト(Ronald Fisher(1922)“On the Mathematical Foundations of Theoretical Statistics”,Phil.Trans.Royal.Soc.,series A,222:326,1922;Leonard Savage(1962),The Foundations of Statistical Inference(1962))を用いて、統計的に有意な予後遺伝子を同定した。
【0149】
乳癌における治療予測遺伝子を同定するための本発明者らの主な目的は、治療患者群において、遺伝子発現とDRFSおよびOSとの間の関係を調査することであった。そのような解析を行うため、治療患者群および未治療患者群の両群からのデータを、純粋に予後的な遺伝子から治療予測遺伝子を区別するために利用した。タモキシフェン(TAM)反応に対する治療予測遺伝子を同定するために、NSABP研究B−14からプラセボ患者およびTAM治療患者の両方を包含した。どちらの研究においても、コックス比例ハザードモデルを用いて、治療効果と遺伝子発現との間の相互作用を調べた。治療効果が遺伝子発現レベルに依存している場合、すなわち、遺伝子発現が治療予測因子であれば、治療効果と遺伝子発現との間には相互作用が存在する。ここで再び、尤度比検定法を用いて、治療相互作用(treatment interaction)による遺伝子発現を除外した縮小モデルと、治療相互作用による遺伝子発現を包含する競合完全モデルとを比較して、統計的に有意な予測治療遺伝子を同定した。
【0150】
結果
表2では、NSABP B−14試験の未治療患者(プラセボ治療群)の解析から、遺伝子および遺伝子群(軸方向)の発現の変動に対する再発のハザード率(H.R.)が報告されている。
【0151】
【表2】

表2に示すように、13の変数(遺伝子および遺伝子群)が、p<0.1で再発H.R.と相関していた。上記のとおり、これらの相関関係は、未治療患者に関するものであるから、これらの変数は、統計的に有意な予後因子である。予後変数は、以下の通りである:増殖グループ;CCNB1;BIRC5;MYBL2;PGR;STK6;MKI67;GSTM1;GAPD;侵襲グループ;RPLP0;増殖閾値;MMP11。増殖グループ、侵襲グループ、および増殖閾値は、再発スコアアルゴリズムの確定した要素である。
【0152】
これらの予後因子のうち次の10の因子で発現が上昇したことと、H.R.の増加は相関していた:増殖グループ;CCNB1;BIRC5;MYBL2;STK6;MKI67;GAPD;侵襲グループ;増殖閾値;MMP11。これらの10の予後不良マーカーのうち7つは、増殖している細胞を特徴付ける遺伝子または遺伝子セットである。これらのうち、増殖グループは、(再発スコアアルゴリズムで定義されているところでは、)P値に関して最も高い変数である。13の予後因子のうち、発現が上昇した以下の3つは、H.R.の減少と相関する:PGR、GSTM1、およびRPLP0。
【0153】
表2に示した結果は、統計学上有意なだけでなく、H.R.の大きさでも有意である。どのマーカーでも、H.R.が1.0から2倍変化すると、H.R.を50%変化させること、および、各HR値は、患者集団における平均的発現に対し、マーカー変数の発現を2倍変化させるという影響があることを表していることに注意されたい。したがって、例えば、表2では、増殖グループまたはCCNB1の発現が2倍増加する毎に、H.R.が約50%増加すること(95%信頼限界は約20%から約90%の範囲)が示されている。
【0154】
表3は、NSABP B−14のプラセボ治療群およびTAM治療群の両群の結果を用いた、TAMに対する感受性または抵抗性を予測する変数を同定するために行われた相互作用解析結果を報告するものである。
【0155】
【表3】

表のとおり、5つの変数(遺伝子および遺伝子群)が、p<0.1でTAMに対する反応と相関している。これらはESR1、SCUBE2、ESR1グループ、TFRC、およびBCL2である。これらのうち最も有意性が高いのはESR1である。ESR1の発現が2倍増加する毎に、TAM治療を受けた患者の再発に対するH.R.は、約25%減少する(95%信頼限界は約12%から約37%の範囲)。これらのデータを、TAMに対する患者の反応の尤度を示す連続型定量的指標として用いることができる。これを図1に図示する。臨床的に使用されているアッセイ法、したがって、TAM処方の候補に基づいて、NSABP B−14の患者はすべてER陽性に分類されたことは強調されるべきである。今回のデータは、この「ER陽性」集団の中では、患者が、ESR1スコアに応じて予測可能なさまざまな程度の恩恵を受けることを明らかにしている。
【0156】
ESR1発現とTAMによる治療効果の尤度との間のこの関係も、高度、中度、および低度のESR1発現という基準に応じて表すことができる。ESR1発現は、四分位、三分位、またはその他の分位で表すことができる。例えば、本発明者らによるNSABP B−14患者集団の研究で得られたデータは、四分位にESR1発現を分割するために以下の参照−正規化C切点を提供する:
【0157】
【表4】

図2に、これら3つの患者グループの間におけるTAMの絶対的な有効性を、ESR1発現の関数として示す(棒グラフを通る水平線は、95%の信頼限界を表わす)。
【0158】
図のように、TAMは、ESR1を高レベルで発現する患者の3分の2で実質的で絶対的な有効性をもつが、ESR1発現の三分位の最下位に分類された患者では影響はずっと少ない。
【0159】
同様に、ESR1発現とTAM便益の間の関係は、ESR1発現を四分位に分けた関数として表すことができる。図3は、TAM治療の絶対的有効性を、ESR1発現の四分位の関数として表している(棒グラフを通る水平線は95%の信頼限界を表わす)。ESR1発現に関する切点は、NSABP B−14患者集団の解析結果から得られた参照−正規化C値である図に示すように、ESR1発現の四分位の最下位に分類された患者は、TAMによる恩恵をほとんど受けない。
【0160】
ESR1の発現データを再発スコアと一緒に使用して、患者にTAM療法またはTAM+化学療法を処方すべきか否かを同時に決定することができる。NSABP B14の両治療群の解析から得られたデータを示す表6は、このことを具体的に示しており、また、これらのデータをもたらすフォーマットも示している。この表をどのように利用できるかを例示するために、RSによって規定されたところでは低再発リスクのカテゴリーに含まれる患者は、百分位の上位75位でESR1を発現するが、論理的にはTAM単独で治療すべき候補者である。再発リスクは低いが、ESR1発現が百分位の下から25位の患者であって、TAMの副作用が特に懸念される患者は、合理的には、TAM療法が適当でない患者と見なされよう。百分位の上位25位よりも上でERを発現する高リスク患者は、論理的には、TAMおよび化学療法で治療すべき候補者である。
【0161】
【表5】

(各欄中の数字は、表示されたカテゴリーで測定されたB−14患者の数)
以下の参照−正規化ESR1カットオフ点に基づいている:
【0162】
【表6】

以下の図は、どのようにして表5を抗エストロゲンおよび/または化学療法による患者の治療を決定するために利用できるかを示している。
【0163】
【表6−1】

【0164】
本開示を通じて引用されている文献はすべて、参照されて明示的に本明細書に組み込まれる。
【0165】
当業者は、本発明を実施する際に、本明細書に記載された方法および材料と同様または同等のものがあることを認識できる。実際、本発明は、決して、記載された方法および材料に限定されるものではない。本発明は、具体的実施形態と考えられるものに関して説明されているが、当然のことながら、本発明は、そのような実施形態に限定されるものではない。それとは反対に、本発明は、添付された請求の範囲の趣旨と範囲に含まれる、さまざまな変更物および等価物もカバーするものである。例えば、本開示は、乳癌患者のTAMによる治療に対する有益な反応を予測するのに役立つ遺伝子または遺伝子群を同定することで説明されているが、別の抗エストロゲン薬による治療に対する患者の反応を判定するための類似の方法、および、別のタイプの癌に関する同様の遺伝子、遺伝子セット、および方法も、具体的には、本明細書の範囲に含まれる。
【0166】
【表7−1】

【0167】
【表7−2】

【0168】
【表8】

【図面の簡単な説明】
【0169】
【図1】ESR1の定量的測定値の関数として、10年目で無遠位発症のTAM療法を受けた患者の比率の絶対的増加を示す。
【図2】ESR1発現の関数として、タモキシフェン(TAM)療法の絶対的有益性を示す。棒グラフを通る水平線は95%の信頼限界を表わす。
【図3】ESR1の発現が該当する四分位値の関数として、(TAM)療法の絶対的有益性を示す。棒グラフを通る水平線は95%の信頼限界を表わす。ESR1発現の四分位値を規定する切点は、NSABP B−14患者集団の解析結果から得られた参照−正規化C値に基づいている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳癌患者における疾患の結果の予後を予測する方法であって、
(a)該患者から採取した癌細胞を含む生体サンプルにおいて、以下の変数:
(i)増殖グループスコア、
(ii)侵襲グループスコア、
(iii)増殖グループ閾値スコア、および
(iv)各遺伝子CCNB1、BIRC5、MYBL2、PGR、STK6、MKI67、GSTM1、GAPD、RPLPO、およびMMP11のうちの1つ以上の遺伝子のRNA転写物、またはそれらの発現産物の発現レベル、
の1つ以上の変数の値を定量的に決定する工程を包含し、
(b1)上記(i)〜(iii)の1つ以上の値、および/または各遺伝子CCNB1、BIRC5、MYBL2、STK6、MKI67、GAPD、およびMMP11のうちの1つ以上の遺伝子のRNA転写産物、またはそれらに対応する発現産物の増加分1単位ごとに、該患者が、疾患の結果不良のリスクを比例して増加させていると同定され、そして
(b2)各遺伝子PGR、GSTM1、およびRPLOのうちの1つ以上の遺伝子のRNA転写産物、またはそられに対応する発現産物の発現レベルの増加分1単位ごとに、該患者が、疾患の結果不良のリスクを比例して低下させていると同定され、
ここで
増殖グループのスコア=(BIRC5+MKI67+MYBL2+CCNB1+STK6)/5;
侵襲グループのスコア=(CTSL2+MMP11)/2;
増殖グループ閾値スコアは、増殖グループのスコアが6.5よりも小さければ、6.5に等しく、増殖グループのスコアが6.5以上であれば、増殖グループのスコアと同一であり、式中、
等式中の遺伝子記号は、各遺伝子のRNA転写物、またはその発現産物の発現レベルを表わし、かつ、
全ての各遺伝子または上記いずれかの変数に存在する遺伝子は、適用可能な腫瘍型において、0.5以上のピアソン係数で該腫瘍型において該遺伝子とともに同時発現する別の遺伝子によって置換され得る、方法。
【請求項2】
前記患者がヒト患者である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記疾患の結果が、患者の全生存で表される、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記疾患の結果が、無再発生存で表される、請求項2記載の方法。
【請求項5】
前記疾患の結果が、無遠位再発生存で表される、請求項2記載の方法。
【請求項6】
前記予後が、前記乳癌の外科的切除後、前記患者が更なる治療を受けないことを前提とする、請求項2記載の方法。
【請求項7】
前記発現レベルが、1つ以上の参照遺伝子、またはそれらの発現産物の発現レベルに対して正規化される、請求項2記載の方法。
【請求項8】
前記参照遺伝子が、ACTB、GAPD、GUS、RPLPO、およびTFRCからなる群から選択される、請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記発現レベルが、ACTB、GAPD、GUS、RPLPO、およびTFRCの発現レベルの平均値に対して正規化される、請求項7記載の方法。
【請求項10】
前記疾患の結果の定量値が、一連の期間にわたって測定した変数の値に直接比例する、請求項2記載の方法。
【請求項11】
前記増殖スコアを決定することを含む、請求項2記載の方法。
【請求項12】
前記増殖グループ閾値スコアを決定することを含む、請求項11記載の方法。
【請求項13】
前記侵襲グループスコアを決定することを含む、請求項12記載の方法。
【請求項14】
(iv)に記載された各遺伝子の少なくとも2つ、またはそれらの発現産物の発現レベルを決定することを含む、請求項2記載の方法。
【請求項15】
(iv)に記載された各遺伝子の少なくとも3つ、またはそれらの発現産物の発現レベルを決定することを含む、請求項2記載の方法。
【請求項16】
(iv)に記載された各遺伝子の少なくとも4つ、またはそれらの発現産物の発現レベルを決定することを含む、請求項2記載の方法。
【請求項17】
(iv)に記載された各遺伝子の少なくとも5つ、またはそれらの発現産物の発現レベルを決定することを含む、請求項2記載の方法。
【請求項18】
(iv)に記載された各遺伝子の少なくとも6つ、またはそれらの発現産物の発現レベルを決定することを含む、請求項2記載の方法。
【請求項19】
(iv)に記載された各遺伝子の少なくとも7つ、またはそれらの発現産物の発現レベルを決定することを含む、請求項2記載の方法。
【請求項20】
(iv)に記載された各遺伝子の少なくとも8つ、またはそれらの発現産物の発現レベルを決定することを含む、請求項2記載の方法。
【請求項21】
(iv)に記載された各遺伝子の少なくとも9つ、またはそれらの発現産物の発現レベルを決定することを含む、請求項2記載の方法。
【請求項22】
(iv)に記載された各遺伝子のすべて、またはそれらの発現産物の発現レベルを決定することを含む、請求項2記載の方法。
【請求項23】
前記乳癌がリンパ節陰性である、請求項2記載の方法。
【請求項24】
前記乳癌がESR1陽性である、請求項23記載の方法。
【請求項25】
前記決定が1回以上行われる、請求項2記載の方法。
【請求項26】
前記決定が、化学療法、ホルモン療法、および/または放射線療法の前後に行われる、請求項25記載の方法。
【請求項27】
前記患者が、不良な疾患結果のリスクを高めていると決定される、請求項2記載の方法。
【請求項28】
決定後、前記患者が、化学療法、ホルモン療法、および/または放射線療法による治療を受ける、請求項27記載の方法。
【請求項29】
前記化学療法が、術前補助化学療法である、請求項28記載の方法。
【請求項30】
前記化学療法が、タキサン誘導体を投与することを含む、請求項29記載の方法。
【請求項31】
前記タキサン誘導体がドセタキセルまたはパクリタキセルである、請求項30記載の方法。
【請求項32】
前記タキサン誘導体がドセタキセルである、請求項31記載の方法。
【請求項33】
前記化学療法が、アントラサイクリン誘導体を投与することを含む、請求項29記載の方法。
【請求項34】
前記アントラサイクリン誘導体がドキソルビシンである、請求項33記載の方法。
【請求項35】
前記化学療法が、トポイソメラーゼ阻害剤を投与することを含む、請求項29記載の方法。
【請求項36】
前記トポイソメラーゼ阻害剤が、カンプトテシン、トポテカン、イリノテカン、20−S−カンプトテシン、9−ニトローカンプトテシン、9−アミノーカンプトテシン、およびGI147211からなる群から選択される、請求項35記載の方法。
【請求項37】
前記ホルモン療法が、TAMを投与することを含む、請求項28記載の方法。
【請求項38】
前記ホルモン療法が、トレミフェン、アナストロゾール、およびメガストロールアセテートからなる群から選択される抗エストロゲン薬を投与することを含む、請求項28記載の方法。
【請求項39】
前記生体サンプルが、癌細胞を含む組織サンプルである、請求項1記載の方法。
【請求項40】
前記組織が固定パラフィン包埋されているか、または新鮮であるか、または凍結されている、請求項39記載の方法。
【請求項41】
前記組織が、細針生検、コア生検、またはその他のタイプの生検に由来する、請求項40記載の方法。
【請求項42】
前記組織サンプルが、細針吸引、気管支洗浄、経気管支生検によって得られる、請求項40記載の方法。
【請求項43】
前記発現レベルが、定量的RT−PCRによって決定される、請求項1記載の方法。
【請求項44】
前記発現産物の発現レベルが、免疫組織化学法によって決定される、請求項1記載の方法。
【請求項45】
前記発現産物の発現レベルが、プロテオミクス技術によって決定される、請求項1記載の方法。
【請求項46】
予後を要約したレポートを作成する工程を含む、請求項2記載の方法。
【請求項47】
抗エストロゲン薬による治療に対する、ESR1陽性乳癌患者の有益な反応の尤度を定量的に決定するための方法であって、該患者から得られた、癌細胞を含む生体サンプルにおいて、次の変数:
(i)ESR1グループのスコア、および
(ii)以下の各遺伝子、ESR1、SCUBE2、TFRC、およびBCL2の1つ以上の遺伝子のRNA転写産物、またはそれらの発現産物の発現レベル
の1つ以上を定量的に決定することを含み、
ESR1グループのスコア、ESR1、SCUBE2、またはBCL2の変数の増加分1単位ごとに、該患者が抗エストロゲン薬による治療に対して有益な反応を示す尤度が比例して増加すると同定され、かつ、TFRCの変数の増加分1単位ごとに、該患者が抗エストロゲン薬による治療に対して有益な反応を示す尤度が比例して低下すると同定される、方法。
【請求項48】
前記ESR1グループのスコア、またはESR1遺伝子もしくはその発現産物の発現レベルが決定される、請求項47記載の方法。
【請求項49】
前記ESR1遺伝子またはその発現産物の発現レベルが決定される、請求項48記載の方法。
【請求項50】
前記抗エストロゲン薬が、タモキシフェン、トレミフェン、アナストロゾール、およびメガステロールアセテートからなる群から選択される、請求項47記載の方法。
【請求項51】
前記抗エストロゲン薬がタモキシフェンである、請求項50記載の方法。
【請求項52】
治療法の推奨などの前記患者のための報告書を作成する工程を含む、請求項47記載の方法。
【請求項53】
一方の軸に沿って、連続型変数として、またはESR1発現の範囲としてかのいずれかでESR1の発現レベルが表示され、他方の軸に沿って、連続型変数として、またはリスクの範囲としてかのいずれかで、癌再発の尤度が表示されている表またはグラフを参考にすることによって、抗エストロゲン単独、化学療法単独、または化学療法+抗エストロゲンによる治療が推奨される、請求項52記載の方法。
【請求項54】
前記発現範囲が、乳癌患者のESR1値の集団内で四分位値になっている、請求項53記載の方法。
【請求項55】
前記リスク範囲が、低度、中度、高度の範囲になっている、請求項53記載の方法。
【請求項56】
高ESR1および低リスクというカテゴリーの患者が、抗エストロゲン薬を単独投与される、請求項53記載の方法。
【請求項57】
低ESR1および高リスクというカテゴリーの患者が、化学療法を単独投与される、請求項53記載の方法。
【請求項58】
中度ESR1および高リスクというカテゴリーの患者が、抗エストロゲン薬および化学療法を投与される、請求項53記載の方法。
【請求項59】
5つ以上の遺伝子の発現レベルに基づく診断テストに基づくと、ある患者が低リスクグループに含まれることが分かる、請求項53記載の方法。
【請求項60】
前記テストが測定された再発スコアである、請求項59記載の方法。
【請求項61】
前記変数が、ESR1のRNA転写物、またはその発現産物の発現レベルである、請求項53記載の方法。
【請求項62】
前記患者の再発スコアを決定する工程をさらに含む、請求項47記載の方法。
【請求項63】
前記抗エストロゲン薬が、タモキシフェン、トレミフェン、アナストロゾール、およびメガステロールアセテートからなる群から選択される、請求項62記載の方法。
【請求項64】
前記抗エストロゲン薬がタモキシフェンである、請求項63記載の方法。
【請求項65】
請求項53に基づいて、治療法の推奨などの患者のための報告書を作成する工程をさらに含む、請求項62記載の方法。
【請求項66】
定量的RT−PCRによって、表1に列挙した遺伝子の1つ以上のものの発現を定量化するための一組の遺伝子特異的プローブおよび/またはプライマーを含む、キット。
【請求項67】
前記遺伝子特異的プローブが、表7に列挙したプローブからなる群から選択される、請求項66記載のキット。
【請求項68】
前記遺伝子特異的プライマーが、表7に列挙したフォワードプライマーおよびリバースプライマーからなる群から選択される、請求項66記載のキット。
【請求項69】
前記定量的RT−PCRで使用されるアンプリコンが、表8に列挙したアンプリコンからなる群から選択される、請求項66記載のキット。
【請求項70】
腫瘍サンプル由来のRNAの発現のための1種類以上の試薬をさらに含む、請求項66記載のキット。
【請求項71】
1個以上の容器を含む、請求項66記載のキット。
【請求項72】
予後情報または予測情報を与える1つ以上のアルゴリズムを含む、請求項66記載のキット。
【請求項73】
前記1個以上の容器が、作成済みマイクロアレイ、緩衝液、ヌクレオチド三リン酸、逆転写酵素、DNAポリメラーゼ、RNAポリメラーゼ、プローブ、またはプライマーを含む、請求項71記載のキット。
【請求項74】
構成成分を使用するための指示書を有するラベルまたは添付文書を含む、請求項66記載のキット。
【請求項75】
前記指示書が、乳癌の予測または予後診断に使用するための指示を含む、請求項74記載のキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2008−518620(P2008−518620A)
【公表日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−540068(P2007−540068)
【出願日】平成17年11月4日(2005.11.4)
【国際出願番号】PCT/US2005/039970
【国際公開番号】WO2006/052731
【国際公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【出願人】(504345126)ジェノミック ヘルス, インコーポレイテッド (17)
【出願人】(507145488)エヌエスエービーピー ファウンデーション, インコーポレイテッド (4)
【Fターム(参考)】