説明

乾燥工程における熱安定性測定装置

【課題】乾燥機等における可燃性物質の熱安定性を適切に評価できる乾燥工程における熱安定性測定装置を提供する。
【解決手段】粉体または粒状の物質からなる被乾燥物Mを乾燥する乾燥工程における、被乾燥物Mの発熱挙動を測定する装置であって、被乾燥物Mにおける表面の一部を、表面の一部を周囲の気体から隔離した状態で加熱しうる加熱源12と、加熱源12によって加熱されている状態における被乾燥物Mの内部の温度を測定する温度センサ34と、を備えており、加熱源12は、被乾燥物Mを、被乾燥物Mの表面に周囲の気体と接する部分が形成されるように保持しうるものである。実際の乾燥工程に近い状態で、被乾燥物を乾燥させたときに生じる被乾燥物の酸化反応による発熱現象を再現することができ、乾燥工程における被乾燥物Mの酸化反応による発熱挙動を把握することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乾燥工程における熱安定性測定装置に関する。さらに詳しくは、化学工場、食品工場などにおける粉体を加熱して乾燥させる工程において、粉体の熱安定性を把握するために使用される乾燥工程における熱安定性測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬中間体、農薬、農薬中間体、染料、高分子化合物などの有機化合物、機能性材料などを製造する方法として、原料となる物質を液相中で反応させて製造する方法がある。この方法の場合、目的とする物質は、液相中に粒子状となって析出するので、液相を濾過したり物質を沈殿させたりする等の方法により目的物質を回収することができる。
かかる方法で製造された粒子状の目的物質(以下、粒子状物という)は、液相中での反応により製造されたものであるので、湿った状態になっている。このため、製造された粒子状物は、一旦乾燥された上で製品として出荷される。
【0003】
かかる粒子状物を乾燥させる装置として、特許文献1の装置が開発されている。
特許文献1には、外周面にジャケットが設けられた横置筒型のドラムの軸心部に中空の回転軸が回転自在に挿通され、この中空回転軸に中空円盤状のディスク羽根が多数連設された乾燥装置が開示されている。この乾燥装置では、中空回転軸から各ディスク羽根内に熱媒を流通させることによってディスク羽根が加熱されている。このため、ドラム内に被乾燥物をいれておけば、ディスク羽根を回転させることによって被乾燥物をディスク羽根に接触させることができるから、ディスク羽根からの伝熱によって被乾燥物を乾燥させることができる。
【0004】
しかるに、水分を有する粒子状物をディスク羽根によって攪拌すると、粒子状物がディスク羽根の表面に付着して堆積する可能性があり、かかる堆積する粒子状物(以下、堆積物という)は、ディスク羽根からの伝熱によって連続して加熱される状態となる。しかも、堆積物はある程度の通気性を有しているので、堆積物内の粒子状物にも気体(酸素)が供給された状態となる。すると、堆積物内部において酸化反応が生じる可能性があり、この酸化反応に起因して熱が発生する。
堆積物は、その表面は堆積物内部に比べて低温の気体と接触しており、その表面はある程度気体への放熱によりその温度上昇が抑えられている。しかし、堆積物内部は、ある程度気体が供給されていても、その気体による冷却効果はほとんど得られないので、酸化反応に起因して発生した熱は堆積物内部に蓄熱されて、堆積物内部の温度、つまり、堆積物内部の粒子状物の温度が上昇する。そして、粒子状物の温度が粒子状物の発火点に到達すると、堆積物内部の粒子状物が自然発火する恐れがある。
かかる粒子状物の自然発火を防ぐ上では、堆積物内部で生じる酸化反応に起因する発熱現象、および、この発熱現象に起因して生じる自然発火現象を把握する必要がある。
【0005】
従来、可燃性物質の自然発火性を評価する装置は種々開発されているが(例えばSIT等、非特許文献1)、かかる装置は、あくまで可燃性物質がどのような条件において発火する可能性があるかについて調べるものに過ぎない。
しかも、従来の装置では、実際の乾燥機とは異なる環境で試験が行われている。つまり、実際の乾燥機では、上述したように、堆積物表面において気体との接触による放熱が生じているが、従来の装置では、試料表面における気体との接触により試料から放熱が生じることを防ぐために、試料周囲の気体および試料容器が、試料の温度と同じ温度となるように調整されている。
すると、従来の装置では、表面からの放熱がない分だけ、試料が自然発火を生じやすい状態になっていると考えられるので、従来の装置による測定結果に基づいて乾燥機内での試料の自然発火性を評価した場合には、過剰に安全サイドの評価となる可能性がある。
【0006】
現状では、乾燥機内における可燃性物質の自然発火性を、実機内での条件に適した条件で評価できる装置は開発されておらず、乾燥機内における可燃性物質の自然発火性を適切に試験評価できる装置が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−250588号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】長谷川和俊著、「危険物の安全」、丸善株式会社、平成16年11月10日、p78−79
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記事情に鑑み、乾燥機等における可燃性物質の熱安定性を適切に評価できる乾燥工程における熱安定性測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1発明の乾燥工程における熱安定性測定装置は、粉体または粒状の物質からなる被乾燥物を乾燥する乾燥工程における、前記被乾燥物の発熱挙動を測定する装置であって、前記被乾燥物における表面の一部を、該表面の一部を周囲の気体から隔離した状態で加熱しうる加熱源と、該加熱源によって加熱されている状態における前記被乾燥物の内部の温度を測定する測定手段と、を備えており、前記加熱源は、前記被乾燥物を、該被乾燥物の表面に周囲の気体と接する部分が形成されるように保持しうるものであることを特徴とする。
第2発明の乾燥工程における熱安定性測定装置は、第1発明において、前記加熱源が、上面が平面に形成された加熱部と、前記加熱部の上面に配置された、前記被乾燥物が収容される収容部と、を備えており、前記加熱部の上面が、前記被乾燥物における表面の一部を周囲の気体から隔離した状態で加熱する加熱面となっており、前記収容部は、側面が通気性を有する材料によって形成された筒状の部材であることを特徴とする。
第3発明の乾燥工程における熱安定性測定装置は、第1または第2発明において、前記加熱源を収容するケースと、該ケース内の気体の温度を制御する温度制御手段と、を備えていることを特徴とする。
第4発明の乾燥工程における熱安定性測定装置は、第3発明において、前記ケース内の酸素濃度を調整する酸素濃度制御手段を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
第1発明によれば、加熱源に被乾燥物を保持させれば、被乾燥物をその表面から加熱することができる。しかも、加熱源は、被乾燥物を、その表面の一部を気体から隔離する一方、その表面において気体と接する部分が形成されるように保持している。すると、被乾燥物に酸素を供給して酸化反応を生じさせるとともに、酸化反応によって発生した熱を、被乾燥物内に蓄熱させつつ、一部の熱を被乾燥物の表面から放熱させることができる。つまり、実際の乾燥工程に近い状態で、被乾燥物を乾燥させたときに生じる被乾燥物の酸化反応による発熱現象を再現することができる。そして、測定手段によって、加熱源によって被乾燥物が加熱している状態における被乾燥物内部の温度変化を測定することができるから、乾燥工程における被乾燥物の酸化反応による発熱挙動を把握することができる。
第2発明によれば、収容部を、その下端が加熱部の上面に接するように加熱部の上面に載せて、収容部内に被乾燥物を収容すれば、被乾燥物を加熱部によって加熱することができる。しかも、収容部の側面が通気性を有する材料によって形成されているので、被乾燥物において加熱部の上面に接している部分は気体から隔離されるが、収容部の側面から被乾燥物に空気を供給することができる。すると、粉体や粒状の被乾燥物が、加熱プレートなどの上に堆積した状態で加熱されている現象を再現することができるから、より実際の乾燥工程に近い状態おける被乾燥物の酸化反応による発熱現象を再現することができる。
第3発明によれば、温度制御手段によって、ケース内の気体の温度を調整すれば、被乾燥物と気体との温度差を制御できるので、実験の再現性を高くすることができる。
第4発明によれば、酸素濃度制御手段によって、ケース内の酸素濃度を調整すれば、実際の乾燥工程の条件に近い状態で被乾燥物の酸化反応による発熱挙動を把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本実施形態の乾燥工程における熱安定性測定装置10の概略説明図であり、(A)は概略ブロック図であり、(B)は部分拡大図である。
【図2】乾燥機における被乾燥物Mの乾燥状態を簡単に示した概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
本発明の乾燥工程における熱安定性測定装置は、乾燥機等において加熱乾燥されたときにおける可燃性物質の熱安定性を適切に評価するための装置であって、粒子状物となった可燃性物質の温度を実際の乾燥機等における加熱乾燥状態に近い状態で測定できるようにした点に特徴を有している。
【0014】
なお、本発明の乾燥工程における熱安定性測定装置によって熱安定性が測定される被乾燥物は、例えば、コーンスターチや合成樹脂、セルロースエーテルなどの可燃性物質を粉体や粒状などの粒子状にしたものであるが、堆積した状態においてある程度の通気性を有する形態を有するものであればよい。例えば、被乾燥物として、コーンスターチや合成樹脂、セルロースエーテルなどのように液相中での反応によって生成された有機化合物の粉体や医薬品の中間体などの粉体を挙げることができる。
【0015】
また、本発明の乾燥工程における熱安定性測定装置において、被乾燥物を乾燥する装置として想定される乾燥機等はとくに限定されない。例えば、被乾燥物が加熱源の表面に堆積された状態となりその状態で被乾燥物を乾燥し得る乾燥機が、想定される乾燥機である。具体的にいえば、被乾燥物の加熱乾燥の際に、加熱源の表面に接する被乾燥物は気体から遮断された状態に近い状態で加熱されているが被乾燥物の表面は外気などと接した状態となり得る乾燥機が、想定される乾燥機である。
【0016】
(想定される乾燥機における現象の簡単な説明)
まず、本発明の乾燥工程における熱安定性測定装置を説明する前に、上述したような乾燥機において、被乾燥物がどのような状態で加熱乾燥されているかについて簡単に説明する。
【0017】
図2おいて、符号HPは、乾燥機における加熱源HPを示している。また、符号Mは、加熱源HPの上に堆積されている被乾燥物(粒子状物)を示している。
図2において、点線で囲まれた領域SAを考えると、堆積されている被乾燥物Mでは、上部に位置する被乾燥物Mは空気Airと接する一方、下部に位置する被乾燥物Mは加熱源HPに接した状態となっている。
また、堆積されている被乾燥物Mは、加熱源HP上に堆積されている状態においても、被乾燥物Mの内部にもある程度の空気Airを供給できる状態となっている。
【0018】
かかる状態で被乾燥物Mを加熱源HPによって加熱すると、被乾燥物Mは加熱源HPから熱が供給されるとともに、その表面からは空気Airとの接触によって熱が逃げる状態になる。つまり、被乾燥物M中には、その下部から上部に向かって温度が低くなる温度分布が形成される。
【0019】
ここで、被乾燥物M内部で酸化反応による発熱が生じないのであれば、被乾燥物Mの温度は加熱源HPからの供給熱量を調整することによって調整することができる。つまり、被乾燥物Mが自然発火する温度とならないように調整することができる。
【0020】
しかし、上述したように被乾燥物Mの内部に空気Airを供給できる状況となっていると、温度の高い被乾燥物Mの内部では、空気と被乾燥物Mが酸化反応して発熱する可能性がある。かかる酸化反応による発熱が生じると、酸化反応により発生した熱が蓄積されて、被乾燥物Mが自然発火する温度となる可能性がある。かかる酸化反応により発生する熱は、加熱源HPからの供給熱量を調整するだけでは制御することが困難である。このため、上述したような状況となり得る乾燥機で被乾燥物Mを乾燥する場合において自然発火を防ぐためには、被乾燥物Mの酸化反応による発熱を含めて、被乾燥物M中の温度変化や発熱状況を把握する必要があるのである。
【0021】
(熱安定性測定装置10の説明)
つぎに、本実施形態の乾燥工程における熱安定性測定装置10を説明する。
本実施形態の乾燥工程における熱安定性測定装置10(以下、単に本実施形態の熱安定性測定装置10という)は、上述したような乾燥状態、つまり、外部からの加熱と外部への放熱がありしかも被乾燥物M中で酸化反応による発熱が生じる状態となった、堆積した被乾燥物Mの温度変動を測定できるものである。例えば、本実施形態の熱安定性測定装置を用いれば、図2のような状態で被乾燥物Mを加熱乾燥させたときに、加熱乾燥中に点線SAで囲まれた部分で発生する現象を再現できるから、その状態における被乾燥物M中の温度変化を測定できるのである。
【0022】
図1において、符号11は本実施形態の熱安定性測定装置10のケースを示している。このケース11は、内部を外部から気密に隔離しかつ断熱状態に保つことができるものであり、例えば、恒温槽などを挙げることができるが、とくに限定されない。
【0023】
(加熱源12の説明)
図1に示すように、ケース11内には、被乾燥物Mを載せて加熱するための加熱源12が設けられている。この加熱源12は、加熱部13と、収容部14、加熱制御部15と、を備えている。
【0024】
加熱部13は、被乾燥物Mを加熱するものである。この加熱部13は、その上面が平坦面に形成されており、この上面が外部に熱を供給する加熱面となっている。加熱部13には、例えば、プレート型のヒータなどを採用できるが、被乾燥物Mを加熱することができるものであればよく、とくに限定されない。
【0025】
収容部14は、被乾燥物Mを収容して加熱部13の上面に載せられる容器である。この収容部14は、伝熱性に優れた素材(例えばアルミなど)によって、上部が開口した中空な有底筒状に形成されている。この収容部14の側板14aには、収容部14の内部と外部との間を連通する通気孔14hが複数設けられており、この複数の通気孔14hから収容部14内に気体を供給できるようになっている。
なお、収容部14の底部14bの外面は、加熱部13からの供給される熱を被乾燥物Mに対して効率よく供給するために、加熱部13の上面と面接触し得る形状(つまり、平坦面)に形成されていることが好ましい。
また、通気孔14hの孔径はとくに限定されず、被乾燥物Mが漏れない程度であればよい。
【0026】
加熱制御部15は、加熱部13の作動を制御するものである。この加熱制御部15は、収容部14内に収容されている被乾燥物Mの温度、具体的には、収容部14の底部14b近傍の温度を測定する温度センサ16と電気的に接続されている。そして、温度センサ16の測定値に基づいて、加熱部13から被乾燥物Mに供給する熱量を制御している。
【0027】
(酸素濃度調整手段20の説明)
図1に示すように、ケース11には、ケース11内に酸素を含有する気体を供給して、ケース11内の酸素濃度を調整する酸素濃度調整手段20が設けられている。この酸素濃度調整手段20は、酸素濃度が調整された気体を形成する酸素供給部21を備えており、この酸素供給部21とケース11内とが配管20pによって連通されている。この配管20pには、バルブ22および流量計23が設けられており、このバルブ22の開閉を制御することによって、ケース11内の酸素濃度を調整できるようになっている。
なお、ケース11には、ケース11内から気体を排出する排気口11eが設けられている。この排気口11eは、ケース11内からケース11外への気体の流通は許容するが、逆方向への流れないようにする弁などが設けられている。
【0028】
また、図1に示すように、ケース11には、ケース11内の気体の温度を制御する温度制御手段30が設けられている。
この温度制御手段30は、配管20pから供給される気体を加熱する気体加熱器31を備えている。この気体加熱器31は、例えば、配管20pを外部から加熱するヒータなどであるが、配管20pから供給される気体を加熱できるものであればよく、とくに限定されない。
この気体加熱器31は、温度制御部32に電気的に接続されており、この温度制御部32によってその作動が制御されている。具体的には、温度制御部32にはケース11内の気体の温度を測定する温度センサ33が電気的に接続されており、この温度センサ33の測定値に基づいて、温度制御部32は、ケース11内の気体が所定の温度となるように、気体加熱器31の作動を制御している。
また、温度制御部32には被乾燥物M内の温度を測定する温度センサ34も電気的に接続されており、この温度センサ34の測定値および前記温度センサ33の測定値を記録しておく記録部も備えている。つまり、温度制御部32は、特許請求の範囲にいう測定手段の機能も有している。
【0029】
以上のごとき構造を有しているので、本実施形態の熱安定性測定装置10によれば、加熱源12の収容部14に被乾燥物Mを入れて加熱部13の上面に載せれば、収容されている被乾燥物Mをその表面、具体的には、被乾燥物Mをその下面から加熱することができる。
【0030】
しかも、収容部14は、その底面14bによって被乾燥物Mの下面が気体に接しないように保持することができる一方、上部が開口しておりしかも側板14aに複数の通気孔14hを有しているので、被乾燥物Mの上面および側面が気体と接するようにすることができる。つまり、収容部14に被乾燥物Mを入れれば、被乾燥物Mの表面において、加熱される部分を気体から隔離する一方、その表面において気体と接する部分が形成されるようにすることができる。
【0031】
すると、被乾燥物Mにおいて、その上面や側面から酸素を供給してその内部で酸化反応を生じさせることができるとともに、酸化反応によって発生した熱を被乾燥物M内に蓄熱させつつ、一部の熱は被乾燥物Mの表面から放熱させることができる。
【0032】
つまり、上述した乾燥状態(段落0016〜0020参照)に近い状態で、被乾燥物Mを乾燥させたときに生じる被乾燥物Mの酸化反応による発熱現象を再現することができる。そして、温度センサ34によって、加熱源12によって被乾燥物Mが加熱されている状態における被乾燥物M内部の温度変化を測定し記録しておくことができる。すると、被乾燥物M内部の温度の時間変動に基づいて発熱の発生する状況を把握できるし、この温度の時間変動に基づいて、被乾燥物Mの酸化反応に起因する被乾燥物M内部での発熱挙動を把握することができる。したがって、上述したような状態で被乾燥物Mを乾燥する可能性のある乾燥機内における、被乾燥物Mの自然発火性を適切に試験評価することができるのである。
【0033】
(熱安定性測定装置10による測定)
つぎに、上記のごとき構成を有する熱安定性測定装置10によって、上述したような乾燥状態における被乾燥物M中の温度変化を測定する方法を説明する。
【0034】
まず、収容部14内に所定の量の被乾燥物Mを入れて、この収容部14をケース11内の加熱部13の上面に載せる。その状態で、被乾燥物M中に、温度センサ16および温度センサ34をそれぞれ設置し、それぞれ加熱制御部15および温度制御部32に接続する。
これらの温度センサ16,34の設置が終了すると、ケース11を密封して、ケース11内を外部から気密に遮断する。すると、測定準備が完了する。
【0035】
ついで、酸素濃度調整手段20から酸素濃度および温度が調整された気体を供給するとともに、加熱部13による被乾燥物Mの加熱を開始する。すると、被乾燥物Mは、下部から加熱されることによってその温度が上昇していく。
なお、収容部14の上部は開口しているので、被乾燥物Mの上面はケース11内の気体と接触する。このため、被乾燥物Mの上面からは、熱伝達によって、気体に熱が排出される。また、熱輻射などによっても被乾燥物Mの上面から熱が排出される。
【0036】
ここで、上述したように、収容部14の側板14aには複数の通気孔14hが複数設けられているので、被乾燥物Mが加熱されている間も、ケース11内の酸素を含有する気体は被乾燥物M内に供給される。このため、収容部14内に収容されている被乾燥物Mの内部の温度が所定の温度以上となると、被乾燥物M内において、被乾燥物Mと酸素を反応させることができる。つまり、被乾燥物M内において、酸化反応に起因する発熱を発生させることができる。
【0037】
上述したように、被乾燥物M中には温度センサ34が設置されているので、被乾燥物M中における温度変動を測定できる。つまり、酸化反応に起因する発熱が生じる前後における被乾燥物M内部の温度変動を測定できるのである。
【0038】
(収容部の他の例)
被乾燥物Mを収容する収容部は、上記のごとき構造に限られず、種々の形状のものを使用することができる。
上記例では、収容部の側板に通気孔を設けた場合を説明したが、通気孔は必ずしも設けなくてもよい。この場合でも、被乾燥物Mの上面は気体に接しているので、この上面からある程度の量の気体は被乾燥物M内に供給される。すると、側板に通気孔を設けない場合でも、被乾燥物M内部に発熱反応を生じさせることは可能である。
しかし、収容部の側板に通気孔を設けておけば、粉体や粒状の被乾燥物Mが、加熱プレートなどの上に堆積した状態(図2参照)で加熱されている現象を再現することができるから、より実際の乾燥工程に近い状態おける被乾燥物Mの酸化反応による発熱現象を再現することができる。
【0039】
また、上記例では、収容部14が、側板14aと底部14bとを有する場合を説明したが、底部14bを設けなくてもよく、側板14aだけを有するものを収容部14として使用してもよい。つまり、両端が開口した筒状の部材を収容部14として使用してもよい。この場合には、被乾燥物Mが直接加熱部13の上面に載せられることになるので、被乾燥物Mに対して加熱部13から効率よく熱を供給することができる。
【0040】
そして、収容部14を設けず、被乾燥物Mを直接加熱部13の上面に載せてもよい。この場合には、山積みされた被乾燥物Mにおける発熱現象を再現することができる。
【0041】
(温度制御手段について)
上記例では、配管20pから供給される気体を加熱してケース11内の気体の温度を制御した。しかし、ケース11内の気体の温度は必ずしも配管20pから供給される気体を加熱して制御しなくてもよく、ケース11内の気体を直接ヒータなどによって加熱して制御してもよい。
【0042】
(酸素濃度制御手段について)
また、上記例では、ケース11内に酸素濃度を調整した気体を供給する酸素濃度制御手段20を設けた場合を説明した。酸素濃度制御手段20は必ずしも設ける必要はないが、このような酸素濃度制御手段20を設けておけば、ケース11内の酸素濃度を調整することができるので、実際の乾燥機内における乾燥状態をより忠実に再現できる。すると、実際の乾燥機内での乾燥状態に近い状態における被乾燥物Mの酸化反応による発熱挙動を把握することができる。
【0043】
(その他)
また、本実施形態の熱安定性測定装置10は、ケース11や、酸素濃度調整手段20、温度制御手段30は必ずしも設けなくてもよい。例えば、大気解放された場所に加熱源12を設置して測定を行うことも可能である。しかし、ケース11内に加熱源12を設置し、かつ、酸素濃度調整手段20および温度制御手段30を設けて、ケース11内の気体の温度や酸素濃度を調整すれば、被乾燥物Mと気体との温度差および被乾燥物Mに供給される気体中の酸素濃度を制御できるので、実験の再現性を高くすることができる。また、所望の実験環境(例えば、特殊な乾燥機など)における被乾燥物Mの乾燥中における発熱挙動を把握することも可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の乾燥工程における熱安定性測定装置は、有機化合物などの可燃性物質の熱安定性を測定する装置として適している。
【符号の説明】
【0045】
10 熱安定性測定装置
11 ケース
12 加熱源
13 加熱部
14 収容部
20 酸素濃度制御手段
30 温度制御手段
M 被乾燥物


【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉体または粒状の物質からなる被乾燥物を乾燥する乾燥工程における、前記被乾燥物の発熱挙動を測定する装置であって、
前記被乾燥物における表面の一部を、該表面の一部を周囲の気体から隔離した状態で加熱しうる加熱源と、
該加熱源によって加熱されている状態における前記被乾燥物の内部の温度を測定する測定手段と、を備えており、
前記加熱源は、
前記被乾燥物を、該被乾燥物の表面に周囲の気体と接する部分が形成されるように保持しうるものである
ことを特徴とする乾燥工程における熱安定性測定装置。
【請求項2】
前記加熱源が、
上面が平面に形成された加熱部と、
前記加熱部の上面に配置された、前記被乾燥物が収容される収容部と、を備えており、
前記加熱部の上面が、前記被乾燥物における表面の一部を周囲の気体から隔離した状態で加熱する加熱面となっており、
前記収容部は、
側面が通気性を有する材料によって形成された筒状の部材である
ことを特徴とする請求項1記載の乾燥工程における熱安定性測定装置。
【請求項3】
前記加熱源を収容するケースと、
該ケース内の気体の温度を制御する温度制御手段と、を備えている
ことを特徴とする請求項1または2記載の乾燥工程における熱安定性測定装置。
【請求項4】
前記ケース内の酸素濃度を調整する酸素濃度制御手段を備えている
ことを特徴とする請求項3記載の乾燥工程における熱安定性測定装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−163268(P2012−163268A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−24672(P2011−24672)
【出願日】平成23年2月8日(2011.2.8)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】