説明

二軸延伸ポリアミドフィルムの製造装置

【課題】二軸延伸ポリアミドフィルムの製造装置において、温水槽におけるガイドローラーとポリアミドフィルムとの間のすべりを防ぐことにより、二軸延伸ポリアミドフィルムを操業性よく生産できるようにする。
【解決手段】ポリアミド樹脂からなる未延伸シートを二軸延伸工程の前に調湿処理するための温水槽が設けられる。温水槽には、未延伸シートが掛けられるガイドローラー11が設けられる。ガイドローラー11の表面に格子状パターンで溝14が設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二軸延伸ポリアミドフィルムの製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
二軸延伸ポリアミドフィルムは、例えば特許文献1に記載されているように、通常、ポリアミド樹脂を溶融してTダイより押し出し、温水槽中で調湿処理を施し、次に未延伸シートの端部を同時二軸延伸機内のクリップで把持して同時二軸延伸を行い、これを巻取機で巻取ることにより得られる。
【0003】
しかし、上述した温水槽においてフィルムに付着した水によって、フィルムとフィルムを搬送するローラーとの間にすべりを生じ、複数のローラー間におけるフィルムのたるみやローラー上での蛇行を生じる。このため、フィルムの製造および加工装置においてはガイドローラーを利用した蛇行制御装置が用いられている(特許文献2)。
【0004】
処理槽におけるフィルムの蛇行を防止する手段として、金属ストリップを製造する際に周方向もしくは軸方向の溝を有するクラウンロールを用いることが有効であることが、特許文献3にて提案されている。
【0005】
特許文献2で提案されている上述のガイドローラーは、運転時間が経過すると、温水により表面のゴム層が膨潤されてロール径が変化して、その周速が変化する。そのため、フィルムに伸びやたるみが生じ、その結果そのフィルム上にシワやスジを生じて、品位の低下やトラブルの原因となる。この問題を解決するために、特許文献4では、ガイドローラーの速度を精密にコントロールする方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−348115号公報
【特許文献2】特開2002−3035号公報
【特許文献3】特許第3591165号公報
【特許文献4】特開2003−71917号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、温水槽におけるローラー上でフィルムが大きく蛇行した場合は、特許文献2の蛇行制御装置では制御しきれない。また、特許文献2のようにポリアミドフィルムの搬送にクラウンロールを用いた場合、ロールの平行部とクラウン部とでフィルムとロールとの間に働く摩擦力の不均衡によりフィルムに引きつりを生じ、フィルムにシワや延伸を引き起こす原因となる。さらに、上述した特許文献4のガイドローラーの速度を精密にコントロールする方法は、ローラー周速の変動の抑制およびこの変動に起因する延伸やシワに対しては有効であるが、上記のクラウンロールの弊害を除くことはできず、しかもフィルムに付着することでこのフィルムとフィルムを搬送するローラーとの間に巻き込まれる水によって両者の間に生じるすべりを防ぐこともできない。
【0008】
本発明は、上記の問題を解決し、温水槽におけるガイドローラーとポリアミドフィルムとの間のすべりを防ぐことにより、二軸延伸ポリアミドフィルムを操業性よく生産できるようにすることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、前記の課題を解決するために鋭意検討した結果、温水槽に設けたローラーの表面にフィルム表面に付着した水を流す溝を設けることで上記課題が解決されることを見出して、本発明に到達した。
【0010】
すなわち、本発明の要旨は、つぎの通りである。
<1>ポリアミド樹脂からなる未延伸シートを二軸延伸工程の前に調湿処理するための温水槽が設けられ、前記未延伸シートが掛けられるガイドローラーが前記温水槽に設けられ、前記ガイドローラーの表面に格子状パターンで溝が設けられていることを特徴とする二軸延伸ポリアミドフィルムの製造装置。
【0011】
<2>溝が形成されているガイドローラーは軸心方向に沿って均一な外径を有する直円柱形状または直円筒形状であり、
溝は、ガイドローラーの周方向に対して20〜45度の角度をもって形成され、その幅が1〜5mmであり、かつその深さが1〜5mmであり、
溝と溝との間隔が11〜20mmであることを特徴とする<1>の二軸延伸ポリアミドフィルムの製造装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、調湿処理の温水槽のローラーにおいて、フィルムのすべりによるフィルムの蛇行やたるみに起因するトラブルを低減することができて、操業性よく二軸延伸ポリアミドフィルムを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施の形態の二軸延伸ポリアミドフィルムの製造装置において使用されるガイドローラーの斜視図である。
【図2】図1のガイドローラーの表面の要部の展開図である。
【図3】図1のガイドローラーが設けられた温水槽を有するフィルム製造装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。
図3に示すように、Tダイ1と冷却ドラム2と温水槽3と同時二軸延伸機4と巻取機5とがこの順で設けられている。二軸延伸ポリアミドフィルムを製造する際には、ポリアミド樹脂を溶融してTダイ1より溶融シートの状態で押し出し、これを冷却ドラム2の表面に接触させることで固体の未延伸シート6とし、この未延伸シート6を温水槽3中で調湿処理し、次に未延伸シート6の端部を同時二軸延伸機4内のクリップで把持して同時二軸延伸を行う。これにより得られた二軸延伸ポリアミドフィルム7は、巻取機5で巻取られる。
【0015】
温水槽3には、調湿処理に供される未延伸シート6が巻き掛けられるガイドローラー11が設けられている。図1に示されるように、ガイドローラー11は、円柱状の金属ローラー12の外周表面に、ゴム製の表面層13が被覆された構成とされている。このガイドローラー11は、その軸心方向に沿って均一な外径を有する直円柱状に形成されている。そして、ゴム製の表面層13の外周面には、溝14が形成されている。ローラー11の表面における溝14の面積を増やすという点において、溝14は、格子状のパターンで形成されていることが必要である。
【0016】
溝14が格子状のパターンに配されていない場合は、ガイドローラー11の表面に配することのできる溝の本数が少なくなり、ガイドローラー11のフィルムに接する面における溝の占める面積が少なくなることから、フィルムとローラーとの間にすべりを生じ、擦り傷の発生原因となることがある。
【0017】
図2に示すように、ゴム製の表面層13に形成された各溝14の形状は、その幅B、深さがそれぞれ1〜5mmの範囲であることが好ましい。溝14の幅Bもしくは溝14の深さが1mm未満の場合は、ローラー11と未延伸シートとの間の水を十分に流し去ることができず、その結果シートに横方向のすべりが生じて、蛇行が発生する場合がある。溝14の断面形状としては四角形、三角形、半円形などが考えられるが、特に制限はない。溝14と溝14との間隔Sは、11〜20mmの範囲であることが好ましい。
【0018】
格子状のパターンを形成している交差する2本の溝14、14は、それぞれの溝14が、ローラー11の周方向に対して左右いずれかの方向に20〜45度の範囲内の一定の角度θを有していることが好ましい。例えば、交差する2本の溝14、14の一方が、ローラーの周方向に対して左に20〜45°の角度を有している場合、他方の溝はローラーの周方向に対して右に20〜45°の角度を有していることが好ましい。また2本の溝14、14がローラー11の周方向に対してなす、前記左右方向の角度θは、互いに等しいことがより好ましい。ガイドローラー11の周方向に対する角度が左右で異なっていた場合は、未延伸シートに横方向のすべりが生じて蛇行の原因となることがある。
【0019】
ガイドローラー11は、テーパー、円弧といった軸心方向での直径の変化を有するものではなく、軸心方向に沿って均一な外径を有する直円柱形状または直円筒形状であることが望ましい。具体的には、軸心方向に沿った中央部と端部の直径の差が直径に対して1%以下であることが好ましい。さらに望ましくは0.5%以下である。
【0020】
本発明において、用いるガイドローラー11の個数は特に限定がないが、温水槽3に設けたガイドローラーの一部もしくは全部に、前記した溝14を設ければよい。一般に、温水槽3において未延伸シート6を搬送するガイドローラーは5〜30個程度用いられることが多く、このうち、3〜20個のガイドローラーに前記格子状の溝14を形成することが好ましい。
【0021】
温水槽から繰り出された未延伸シート6は、たとえばフラット式の同時二軸延伸機4を用いて縦および横方向に延伸され、さらに延伸機4の内部における熱処理工程を経た後、巻取機5で巻き取られる。詳細には、未延伸シート6の端部をフラット式二軸延伸機4のクリップで把持し、シートのガラス転移点以上、融点マイナス15℃以下の温度条件で、延伸倍率として縦横それぞれ2.0〜4.0倍で同時二軸延伸する。その後、横方向の弛緩率を2〜8%として、ガラス転移温度プラス50℃以上、融点マイナス10℃以下の範囲で1〜10秒間の熱処理を施す。
【0022】
本発明において用いられるポリアミド樹脂としては、ナイロン6、ナイロン610、ナイロン11、ナイロン12、ポリメタキシリレンジパミド(MXナイロン)およびそれらの共重合体などが例示される。
【実施例】
【0023】
次に、本発明の実施例を説明する。
実施例1
ナイロン6(ユニチカ社製、品番:A1030BRF)を押出機において240℃で溶融して、Tダイより未延伸シートを幅500mmで押し出し、直径600mm、表面温度10℃、線速度20m/分で回転する冷却ドラム上に密着させて急冷することで、厚さ150μmの未延伸シートを得た。得られた未延伸シートを、65℃に温調した温水槽に送って、1分間の調湿処理を施した。温水槽には、溝を有するゴム表面層を備えたガイドローラー3本と、溝の無いゴム表面層を備えたガイドローラー4本とを交互に配して、シートを搬送するようにした。溝を有するゴム表面層を備えたガイドローラーは、直径100mmで公差±0.5mmに形成され、そのフラットな外周表面に、深さ幅とも4mmの溝を、10mm間隔で周方向に対して左右45°の角度をもって交差する方向に備えたものであった。
【0024】
続いて、調湿処理後の未延伸シートの端部をフラット式二軸延伸機のクリップで把持し、195℃で、縦3.0倍、横3.3倍の延伸倍率で同時二軸延伸した。その後、横方向の弛緩率を5%として、200℃で3秒間の熱処理を施して、幅1650mm、厚さ15μmの二軸延伸フィルムを連続的に製造した。
【0025】
上記の条件で36時間の連続生産を行ったが、ローラーとフィルムとのすべりに起因する、フィルムの蛇行や、ローラー間でのフィルムのたるみや、フィルムにおける擦り傷発生などのトラブルはなく、操業性はきわめて良好であった。
【0026】
比較例1
実施例1のフィルム製造装置に代えて、温水槽中のガイドローラーのすべてを、表面に溝を持たないローラーとした。その条件で36時間の連続生産を行ったところ、蛇行に起因してローラー間でフィルムのたるみを生じ、フィルムがローラーに巻きつくトラブルが発生した。
【符号の説明】
【0027】
11 ガイドローラー
13 ゴム表面層
14 溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド樹脂からなる未延伸シートを二軸延伸工程の前に調湿処理するための温水槽が設けられ、前記未延伸シートが掛けられるガイドローラーが前記温水槽に設けられ、前記ガイドローラーの表面に格子状パターンで溝が設けられていることを特徴とする二軸延伸ポリアミドフィルムの製造装置。
【請求項2】
溝が形成されているガイドローラーは軸心方向に沿って均一な外径を有する直円柱形状または直円筒形状であり、
溝は、ガイドローラーの周方向に対して20〜45度の角度をもって形成され、その幅が1〜5mmであり、かつその深さが1〜5mmであり、
溝と溝との間隔が11〜20mmであることを特徴とする請求項1記載の二軸延伸ポリアミドフィルムの製造装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2009−255548(P2009−255548A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−55795(P2009−55795)
【出願日】平成21年3月10日(2009.3.10)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】