説明

二重構造のシンクロ装置リング及びその製造方法

【課題】 それぞれ異なる材質の二重構造として内側リングと外部リングのボデー部を構成して耐摩耗性を向上させたシンクロ装置リングと、上記構造のシンクロ装置リングを製造する方法を提供する。
【解決手段】 鉄系焼結合金材からなる外部リングのボデー部と黄銅焼結材からなる内側リングをろう付け(brazing)接合して一体化された構造を有する二重構造のシンクロ装置リングであり、鉄系焼結合金材の粉末を6〜7トン/cm2 下において加圧・成形する段階;1,140±20℃の還元性雰囲気下で焼結して外部リングのボデー部を製造する段階;黄銅焼結材で内側リングを成形した後、該形成品をニッケルで鍍金してろう付け(brazing)用粉末を内側リングの外側部に振り撒く段階;及び、上記内側リングを上記外部リングのボデー部に嵌めて900〜920℃で20〜40分にわたって還元性雰囲気下で焼結とろう付け(brazing)接合して外部リングと内部リングを一体化させる段階を通じて製造される。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は二重構造のシンクロ装置リング及びその製造方法に関し、より詳細には、自動車の伝動装置に組み立てる二重構造を有するシンクロ装置リング及びその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】自動車の伝動装置に組み立てるシンクロ装置リングは、従来の単一構造のリングに構成されているが、その主材は、高強力の黄銅鍛造材を使用している。具体的な材料の組成は、59〜65重量%の銅,1.7〜3.7重量%のアルミニウム,2.2〜3.8重量%のマンガン,0.5〜1.3重量%のシリコン,0.6重量%の鉄,0.2〜0.6重量%のニッケル、及び、その残りは亜鉛からなる。
【0003】上記原料成分を溶解,溶湯,運搬,連続鋳造,切断,加工等の連続鋳造方法、或いは溶解,ビレットの製造;切断,バンドシリーズ(band series),熱間圧出,直線矯正,切断,加工等の圧出工程を通じて鍛造・成形し、単一構造のシンクロ装置リングを製造している。しかし、従来の単一構造のリングから形成されたシンクロ装置リングは、シンクロ装置ハブに嵌めて軸方向に滑り運動をするので、その材質が比較的簡単に摩耗し、高荷重では耐摩耗性に限界があることから問題となっていた。
【0004】
【発明の解決しようとする課題】本発明は上記のような黄銅鍛造材だけからなる単一構造のリングに関する問題を解決するものであり、それぞれ異なる材質の二重構造として内側リングと外部リングのボデー部を構成して耐摩耗性を向上させた新たな形態のシンクロ装置リングを提供することをその目的としている。また、本発明は、上記構造のシンクロ装置リングの製造方法の提供をその目的としている。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明は上記課題を解決するために、成分としては鉄を主材とし、0.3〜0.6重量%の炭素,1.0〜3.0重量%の銅,3.0〜5.0重量%のニッケル及び0.1〜1.0重量%のモリブデンを含む鉄系焼結合金材からなる外部リングのボデー部と、銅を主材とし、20〜35重量%の亜鉛,1〜5重量%の錫,1〜5重量%のアルミニウム,1〜5重量%のマンガン,1〜5重量%の黒煙及び1〜5重量%のFeBを含む黄銅焼結材からなる内側リングをろう付け(brazing)接合して一体化された構造を有する構成とする。
【0006】また、鉄系焼結合金材の粉末を6〜7トン/cm2 の圧力のもとに加圧・成形する段階;1,140±20℃の還元性雰囲気下で焼結して外部リングのボデー部を製造する段階;黄銅焼結材で内側リングを成形した後、該形成品を更にニッケルで鍍金してろう付け(brazing)用粉末を内側リングの外側部に振り撒く段階;上記内側リングを上記外部リングのボデー部に嵌めて900〜920℃で20〜40分にわたって還元性の雰囲気下で焼結とろう付け(brazing)接合して外部リングと内部リングを一体化させる段階からなる構成とするものである。
【0007】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態を説明する。本発明は鉄系焼結合金材からなる外部リングのボデー部と黄銅焼結材からなる内側リングをろう付け(brazing)接合して一体化された構造を有する二重構造のシンクロ装置リングをその特徴とする。また、本発明は、 鉄系焼結合金材の粉末を6〜7トン/cm2 の圧力のもとに加圧・成形する段階;1,140±20℃の還元性雰囲気下で焼結して、外部リングのボデー部を製造する段階;黄銅焼結材で内側リングを成形した後、ニッケルで鍍金し、ろう付け(brazing)用粉末を内側リングの外側部に振り撒く段階;上記内側リングを上記外部リングのボデー部に嵌めて900〜920℃で20〜40分にわたって還元性の雰囲気下で焼結とろう付け(brazing)接合して外部リングと内部リングを一体化させる段階からなる二重構造のシンクロ装置リングの製造方法を含む。
【0008】このような本発明をより詳細に説明すれば次の通りである。本発明のシンクロ装置リングは、黄銅焼結材からなる内側リングと鉄系焼結合金材からなる外部リングのボデー部からなる二重構造を有する。本発明のシンクロ装置リングにおいて、鉄系焼結材の外部リングのボデー部を形成する主材は、鉄を主材とし、0.3〜0.6重量%の炭素,1.0〜3.0重量%の銅,3.0〜5.0重量%のニッケル及び0.1〜1.0重量%のモリブデンからなる。
【0009】上記原料粉末を予め均一に混合して6〜7トン/cm2 の圧力下に加圧・成形した後、成形密度が6.8〜6.9g/cm2の成形品を形成し、1,140±20℃の還元性雰囲気下で30〜60分にわたって焼結して外部リングのボデー部を製造する。焼結する時に焼結温度が極めて低ければ未拡散となる問題があり、焼結温度が1160℃より高いと、粒子が粗大化して硬度が低くなる問題がある。上記とは別に、黄銅焼結材からなる内側リングを制作するが、内側リングは銅を主材とし、20〜35重量%の亜鉛,1〜5重量%の錫,1〜5重量%のアルミニウム,1〜5重量%のマンガン,1〜5重量%の黒煙及び1〜5重量%のFeBからなる。上記から、亜鉛は強度を向上させ、錫は強度及び耐摩耗性を向上させる役割をする。錫の含量が1重量%未満であれば添加効果がなく、5重量%を超えれば非経済的である。
【0010】アルミニウムは強度を向上させて結晶粒を微細化させる役割をする。その含量が1重量%未満であれば添加効果がなく、5重量%を超えれば脆弱になる。マンガンは材料の欠陥を除去する役割をする。その含量が1重量%未満であれば添加効果がく、5重量%を超えれば耐摩耗性が低くなる。黒煙は摩擦力を増加させて耐摩耗性を増加させる役割をする。その含量が1重量%未満であれば添加効果がなく、5重量%を超えれば脆弱になる。
【0011】最後に、Fe−Bは摩擦力を増加させて材料の欠陥を除去する役割をする。その含量が1重量%未満であれば添加効果がなく、5重量%を超えれば耐摩耗性が低くなる。上記原料粉末を混合して2〜3トン/cm2 の圧力下に加圧・成形した後、成形密度が6.8〜7.0g/cm2の成形体リングを製造する。
【0012】本発明によると、製造された内側リングをニッケル鍍金するが、その鍍金厚は3〜5μmとする。つづいて、ろう付け(brazing)用銅粉末を、内側リングの外側部に振り撒いた後、上記製造された鉄系焼結材を外部リングに嵌め、900〜920℃で20〜40分にわたって還元性の雰囲気下で焼結及びろう付け(brazing)接合を行う。焼結温度が900℃未満の場合は接合ができない。以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明は上記実施例により限定されず、様々な態様をとりうるものである。
【0013】〔実施例1〜6及び比較例1〜3〕次の表1に示した組成に基づき、実施例1〜6及び比較例1は、各粉末を混合して成形及び焼結工程を通じて内側リングを成形した。また、比較例2〜3は、現在にシンクロ装置リングに用いられている黄銅鍛造材の組成として単一構造のシンクロ装置リングを製造した。上に述べた方法により鉄系焼結合金材からなる外部リングのボデー部と黄銅焼結材からなる内側リングをろう付け(brazing)接合して二重構造のシンクロ装置リングを製造した。
【0014】
【表1】


【0015】上記表1に示したような原料を使って製造した焼結体に対して摩耗試験を実施した。その結果を次の表2に示す。摩耗試験の条件は次の通りである。
1)タイプ:pin-on-disk2)荷重:20lb3)回転数:1,000rpm4)サイクル:10万サイクル5)潤滑油:W756)温度:80℃
【0016】
【表2】


【0017】上記表2の結果から、比較例2、3のような従来のシンクロ装置リング材質である黄銅鍛造材に比べて本発明のシンクロ装置リングは、その摩擦係数及び耐摩耗性が優れていることが確認された。
【0018】
【発明の効果】以上説明のように、本発明により黄銅焼結材からなる内側リングを、鉄系焼結合金材からなる外部リングのボデー部とろう付け(brazing)接合して一体化すれば、通常の黄銅鍛造材からなる単一構造のシンクロ装置リングに比べて耐摩耗性に優れたシンクロ装置リングとその製造方法を実現することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 成分としては鉄を主材とし、0.3〜0.6重量%の炭素,1.0〜3.0重量%の銅,3.0〜5.0重量%のニッケル及び0.1〜1.0重量%のモリブデンを含む鉄系焼結合金材からなる外部リングのボデー部と、銅を主材とし、20〜35重量%の亜鉛,1〜5重量%の錫、1〜5重量%のアルミニウム,1〜5重量%のマンガン,1〜5重量%の黒煙及び1〜5重量%のFeBを含む黄銅焼結材からなる内側リングをろう付け(brazing)接合して一体化された構造を有することを特徴とする二重構造のシンクロ装置リング。
【請求項2】 鉄系焼結合金材の粉末を6〜7トン/cm2 の圧力のもとに加圧・成形する段階;1,140±20℃の還元性雰囲気下で前記成形品を焼結して外部リングのボデー部を製造する段階;黄銅焼結材で内側リングを成形した後、該形成品を更にニッケルで鍍金してろう付け(brazing)用粉末を内側リングの外側部に振り撒く段階;上記内側リングを上記外部リングのボデー部に嵌めて900〜920℃で20〜40分にわたって還元性の雰囲気下で焼結とろう付け(brazing)接合して外部リングと内部リングを一体化させる段階からなることを特徴とする二重構造のシンクロ装置リングの製造方法。

【公開番号】特開2001−173678(P2001−173678A)
【公開日】平成13年6月26日(2001.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−53967(P2000−53967)
【出願日】平成12年2月29日(2000.2.29)
【出願人】(591251636)現代自動車株式会社 (1,064)
【Fターム(参考)】