説明

交流給電による銅箔の表面処理方法

【課題】薄物銅箔の固有の厚みを略維持しながら、少なくともその一方の表面を結晶粒界に沿った微細な凹凸を有する粗化形状を効率よく形成せしめ、工業用プラスチックフィルムまたは熱硬化性樹脂との密着性を得るに十分な表面処理方法を提供する。
【解決手段】微細結晶粒からなる結晶構造を有する銅箔の少なくとも一方の面に、交流による電解処理を施し該銅箔の表面を微細に粗化処理する方法であって、電解液として硫酸単浴または硫酸と重金属化合物が溶解された浴を用いる銅箔の表面処理である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリント配線板等の配線に主に用いられる銅箔、特にはフレキシブルプリント配線板に好適な銅箔の表面処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年プリント配線板に用いられる銅箔は18μm以下の薄物が多用されており、特にリジット多層基板の最外層には12μm厚さの電解銅箔の使用も一般的になってきている。とりわけ通信機器とその端末機器の小型化に伴いフレキシブルプリント配線の使用も格段に増えてきている。特に携帯電話の普及に伴い携帯電話機器において、折りたたむデザインが採用されてからは、その折曲げ部のヒンジと呼ばれる配線回路は、フレキシブルプリント配線の採用無くしては成り立たない商品となっている。
【0003】
フレキシブルプリント配線用に用いられる銅箔は、前記携帯電話機器のヒンジ部に用いられる場合には、耐折曲げ性に優れた特性を有することが必要とされていたことから、一般的には折り曲げ特性や伸び特性に優れる圧延銅箔が採用されていた。しかし近年、電解銅箔においても著しい技術的改善が図られ、製箔工程の段階で、例えば結晶構造を微細化することにより電着面側を圧延箔並に平滑に、更には光沢が出るほどまでの表面とする製造技術が可能となっており、製箔後の形状は圧延銅箔に匹敵する外観を呈するばかりでなく、折り曲げ特性や伸び特性も同等もしくはそれ以上の特性を兼ね備えた電解銅箔が上市されてきている。
【0004】
近年の銅箔の市場は、リジット板やフレキ板の分野で共に搭載される最終商品の軽薄短小化に伴い薄物銅箔に対する需要要求が高まっており、高機能を備える小型電子機器の配線パターンの高密度化のためには銅箔は不可欠な材料になっている。薄物銅箔の供給は圧延銅箔でも電解銅箔でも可能ではあるが、圧延銅箔が幾度もの圧延工程を介して薄物銅箔とするのに対して、電解銅箔の場合には製箔の過程で目的とする厚みを設定して製造できるメリットを有していることから製造コストの面で電解銅箔が優位となってきている。最近ではフレキ用途材料として厚みのバリエーションの豊富さばかりでなく、積層又は張り合わされる工業用プラスチックフィルムや熱硬化性樹脂をコーティングする場合での密着性を左右する該銅箔の界面部の粗化形状のバリエーションも豊富なことから電解銅箔が国内外で多用されてきている。
【0005】
例えば、フレキシブルプリント配線用の銅張りフレキシブルフィルムを作製する場合には、工業用プラスチックフィルムと銅箔を加熱加圧しながら張り合わせるラミネート法や該銅箔の一方の面に熱硬化性の樹脂を塗布しながら加熱硬化させるキャスティング法等が一般的である。この双方の方法において、フレキシブルフィルムを作成するには銅箔と該フィルム、銅箔と樹脂との密着性がフレキシブルプリント配線を形成する上では重要になる。その密着性を向上させる手法の一つに、銅箔の表面を粗化処理する方法が用いられている。
【0006】
従来の表面粗化処理方法の一つに、金属銅のヤケメッキ法を用いて銅の微細粒子を銅箔表面に電着させ、かつ脱落しない様にその上に金属銅の平滑メッキをする方法が採用されている。この処理方法で得られる銅箔はその金属銅粒子のメッキ形状が有する投錨効果によりフィルムや樹脂との密着性が確実に向上する。しかし一方で、この処理方法は陰極電解処理に銅粒子をメッキ付着するため、銅箔の厚みが増加し、単位重量も増大させてしまう。この厚みや単位重量の増大は、高密度な回路形成を目的として薄物銅箔を採用使用する上で、細線回路パターン作成工程におけるエッチング時のエッチングレートを低下させるばかりでなく、場合によっては稀に銅粒子の残渣がマイグレーションや回路短絡の不具合を起こすことも懸念される。
【0007】
また、前記陰極電解処理による銅箔の粗化処理は、銅粒子を形成させるヤケメッキ工程と、そのヤケメッキ工程で付着した銅粒子の脱落防止のために平滑カプセルメッキ工程との少なくても二つの電解処理工程が必要となる。この各々の処理工程おいては銅箔を陰極とするため、給電コンタクトロールを介して銅箔に給電するが、この給電は銅箔が薄物になる程、銅箔の発熱が顕著となり外観上伸びシワを発生させる等の不具合が発生することがあり、薄物銅箔の粗化処理工程での生産性を低下させる大きな原因の一つになっている。
そこで、薄物銅箔のハンドリング性を含めた画期的な粗化処理技術が求められていた。
【0008】
上記の陰極電解処理法の他に、銅箔表面を粗化処理する先行技術として、交流電解処理法やパルス電解処理法等の電解処理方法や、薬剤による酸化還元処理、ケミカルエッチング処理が知られている。しかし、それらの表面処理対象の電解銅箔は、製造時における液面側の銅箔表面形状は、製箔条件により違いはあるものの、結晶構造が柱状に成長した柱状結晶構造を有し、その全てが既に凹凸形状を呈しており、その表面に更に効率よく粗化処理を施すことで投錨効果を向上させることを目的に開発が進められてきている。
一方、圧延銅箔にあっては、その表面が平滑な鏡面状態であるために、該表面にメッキにより凹凸形状を成型するにはその工程が煩雑であり、得られた粗化表面が脆いために十分な密着力を確保できず、メッキ処理による粗化処理は一般的には余り用いられることはなく、酸化還元処理やケミカルエッチング処理による手法が主に採用されてきている。しかし、該手法による粗化形状では十分な密着性が得られない懸念も発生している。また、薬剤を用いたケミカルエッチングにより粗面を得る方法は、例えば薄物銅箔の片側の面だけを粗化処理する場合等には処理設備が煩雑になるばかりか、薬剤の濃度管理にコストが掛かり、現在ではあまり採用されていない。
【0009】
近年のフレキシブルプリント配線用の需要増大と共に、該配線回路に対する品質と技術要求も高まっており、配線幅と該回路との間隔が30μm以下の設計もなされている。フレキシブルプリント配線の細線回路を形成するには、材料となる銅箔は耐屈曲性に優れた薄い(12μm〜9μm厚さの)銅箔であること、更に回路がシャープで直線的に切れること、これには銅箔のエッチングレートが大きいことが不可欠である。これらの要求を満たすには銅箔表面の結晶粒界が細かいこと、言い換えれば結晶構造が微細であることが要求されている。また適宜な密着強度を発生させるためのある程度の凸凹の粗化形状を有することが必須要件となり、これらの全ての要件を満足する銅箔材料が求められていた。
【0010】
【特許文献−1】特開平8−158100号公報
【特許文献−2】特開平10−130897号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
フレキシブルプリント配線用の銅箔には、圧延銅箔の使用が一般的であった。これは圧延銅箔の伸び特性が良いことや耐屈曲性に優れることによるものであった。電解銅箔が過去にフレキシブルプリント配線板用途に採用されなかった理由の一つには、従来の電解銅箔は結晶構造が柱状結晶になっているために、実用上の折り曲げを繰り返す品質試験において、該結晶構造を有する電解銅箔においては、その厚さに関わらず結晶粒界に沿って破断することが確認されており、実際の使用条件下では破断する、との懸念が払拭できない点であった。
【0012】
しかしながら近年になって、電解銅箔であってもその製箔方法の改良により微細な結晶構造を有した電解銅箔を製造することが可能になり、折り曲げによる粒界破断も著しく改善されてきている。例えば、圧延銅箔が130℃から160℃程度の加熱条件下の経時後に結晶組織が塑性変形し、幾分大きな結晶粒界を有する結晶構造に変化するが、前記電解銅箔は、該同一条件下で、更に300℃を超える熱条件下を経ても微細な結晶構造を著しく変えることなく保持する特性を有しているばかりでなく、伸び特性や耐屈曲性に至っては圧延銅箔に匹敵する特性を有しているものが上市されている。
【0013】
また、近年フレキシブルプリント配線用の銅箔とし、技術的要求特性が高まる一方でコストダウンも要求されている。特には9μm厚さレベルの薄物銅箔を必要とするCOF用途を含め、圧延銅箔よりも製造コストが廉価である電解銅箔の出現が求められている。
本発明は、微細な結晶構造を有する電解銅箔と交流を用いた間接給電による電解処理を組み合わせることにより、薄物銅箔の固有の厚みを略維持しながら、少なくともその一方の表面を結晶粒界に沿った微細な凹凸を有する粗化形状を効率よく形成せしめ、その表面は工業用プラスチックフィルムまたは熱硬化性樹脂との密着性を得るに十分な形状が得られる表面処理方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の交流給電による銅箔の表面処理方法は、硫酸単浴または硫酸に重金属化合物を添加した電解浴を用い、粒状晶からなる銅箔の少なくとも一方の面に交流による電解処理を施し、該銅箔の表面を粗化処理することを特徴とする。
【0015】
好ましくは前記銅箔が、微細な粒状晶からなる構造を有し、その一方の面の表面粗度が少なくともRz値で2.5μm以下であり、該銅箔の厚みが単位重量換算で160g/m以下である。
【0016】
前記の硫酸に添加する重金属は、ニッケル、コバルト、モリブデン、タングステン、アンチモン、バナジュウム、銀からなる群れの少なくとも一種類以上を選択する。
【0017】
好ましくは前記銅箔が、厚みが単位重量換算で45g/m以下の銅箔であって、容易に剥がすことが可能で、厚みが単位重量換算で130g/m以上の支持体金属箔の少なくとも一方の面にメッキで形成されたキャリアー付銅箔である。
【発明の効果】
【0018】
本発明の交流給電による銅箔の表面処理方法によれば、微細粒状晶からなる薄物銅箔の表面を交流電解粗化処理することにより、表面の粗化状態を均一かつ効率良く処理でき、生産性と品質を向上することができる。
また、従来の銅箔表面の特性では鏡面状態の光沢表面には得られない投錨効果を、微細な凹凸表面粗化形状として形成することができ、該箔と張り合わされる工業用プラスチックフィルムや該表面に直接キャスティングされる熱硬化性樹脂との密着性を向上させることができ、該銅箔と張り合わすフィルムやキャスティング樹脂の厚みを薄くすることができる。
更には化学的に密着結合力を高める単一または複数の重金属元素を電解浴に添加することにより、表面粗化と同時に重金属によるメッキ処理も達成できるので、該箔と張り合わされる工業用プラスチックフィルムや該表面に直接キャスティングされる熱硬化性樹脂との密着性を更に向上させることができ、該銅箔と張り合わすフィルムやキャスティング樹脂の厚みを薄くすることができる。
本発明の交流給電による銅箔の表面処理方法は、その表面処理工程が簡略化でき、廉価で、薄物銅箔の固有の厚みを略維持した電解銅箔を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下本発明の一実施形態につき説明する。
本発明は、粒状晶からなる銅箔の少なくとも一方の面に、交流、例えば商用交流による直接または間接的な電解処理を施し、該銅箔の表面を粗化処理する方法であって、電解液として硫酸単浴または硫酸浴に溶解可能な重金属あるいは重金属化合物を添加した浴を用いる。
【0020】
表面処理する銅箔としては圧延銅箔、電解銅箔の何れをも問わないが、薄厚銅箔で粗化処理の効果を十分に引き出すためには、該銅箔が微細な粒状晶からなる結晶構造を有し、その表面粗度は、JIS−C−6515に規定される測定方法に準拠したRz値が、少なくとも一方の面で2.5μm以下であり、該銅箔の厚みが公称18μm以下、単位重量換算で160g/m以下の銅箔を用いる。
【0021】
電解浴としては硫酸単浴または硫酸浴に溶解可能な重金属あるいは重金属化合物を添加した浴を用いる。
硫酸単浴添加する重金属、重金属化合物としての重金属元素は、硫酸に溶解するニッケル、コバルト、モリブデン、タングステン、アンチモン、バナジュム、銀の中から少なくとも一種類以上を選択することができる。添加する金属元素の濃度としては5.0g/l以下で溶解されていることが好ましい。なお、表面粗化と共に表面処理された銅箔に付着する金属量は、各々の単一金属元素として0.1mg/dm2以下にすることが好ましい。これ以上に付着させるとエッチング性を悪くするばかりでなく、エッチング残渣となり思わぬ不具合を発生させる懸念があるためである。
【0022】
電解浴を安定させるための補助的な添加材として、ホウ酸、硫酸アンモニュウム、シュウ酸、次亜リン酸を適宜に添加しても良い。これら添加材を添加した浴を用いた場合には、粗化処理ばかりでなく表面処理効果が付加されることで表面処理工程を簡略化する効果がある。(電気メッキ製造業において製造および処理工程を少なく出来ることは、広義に地球環境への配慮として非常に好ましいことである。)
【0023】
交流による表面処理後に該処理面に防錆処理を施すことが好ましい。
防錆処理としては表面処理した銅箔表面に、例えばベンゾトリアゾール化合物に代表される有機防錆剤を施す。防錆処理による防錆皮膜の厚さとしては、電気ニ重層容量を測定しその測定値の換算により求められる理論的な皮膜厚さとして500から1000nm範囲が好ましい。
またはクロム化合物が溶解された浴を用いたクロメート防錆処理を行う場合には、金属クロムとして分析される量としては0.015から0.050mg/dm範囲が好ましい。
【0024】
更には主として該銅箔と張り合わされる工業用プラスチックフィルムや該銅箔表面に直接キャスティングされる熱硬化性樹脂との密着性を向上させる目的で、該銅箔の少なくとも一方の面に、アミノ系、エポキシ系、ビニル系、クリロキシ系から選ばれる一種類のシランカップリング剤を用いて表面処理を施すことが好ましい。この場合、その表面に付着するカップリング剤としては、珪素量として0.001から0.015mg/dm2の範囲で付着させることが好ましい。
【0025】
本発明は、銅箔の少なくとも一方の面に交流による電解処理を施し該銅箔の表面を粗化処理する方法であって、電解液として硫酸単浴または硫酸に重金属化合物を添加した浴を用いる。
交流電解処理によれば、銅箔の表面は瞬時にアノードとカソード形態を繰り返すことになり、銅箔表面がアノード時には銅箔の溶解作用がなされ、一方でカソード時には硫酸浴中に溶解された銅イオンが再び 銅箔表面に電着する作用がなされる。また一種類以上の重金属化合物を溶解している場合には、金属イオンとなった該重金属が銅イオンと共に共析電着する。交流電解処理によれば、電流条件を選択することにより銅箔表面において結晶粒界に沿ったアノード溶解であるエッチング作用が進行する反面、該表面には還元金属を極めて均一に付着させる作用が進行し、銅箔表面をその厚みをほとんど変えることなく均一に粗化することができる。
【0026】
この交流電解処理の給電方法としては、銅箔自体を電極とし、対極にはカーボングラファイト等の不溶性電極を用いて直接給電による交流電解処理を行う方式と、バイポーラ現象を用いて銅箔を不溶性電極間を通過させ間接給電による交流電解処理を行う方式のどちらも採用し得るが、選択的に銅箔の一方の表面を処理する場合や銅箔にコンタクト給電ロールとの接触で稀に発生するスパークによる銅箔表面の損傷を回避できる効果を期待することから、生産品質向上にも寄与するバイポーラ現象を用いた間接給電法を採用することが好ましい。
また、電解処理に使用する電源としては商用交流電源を使用することができ、特殊な表面処理を除き、特別に電源設備を設ける必要はない。
【0027】
本発明において、被処理銅箔は圧延銅箔であっても電解銅箔であってもよいが、本発明の効果を最大とするには、結晶粒が微細な粒状晶からなる公称厚み18μm以下の電解銅箔が好ましい。近年になり電解銅箔の粒状晶構造を微細化する技術が構築され、従来の電解銅箔の結晶構造が例えば霜柱の様な粒界の大きな柱状結晶から、粒界の小さい微細粒状晶からなる電解銅箔が上市されている。
【0028】
また、被処理銅箔としてキャリァー付極薄銅箔を採用することもできる。キャリァー付極薄銅箔は、厚さ9μm以下のハンドリング性が容易でない銅箔を一般的に厚み18μm以上のキャリァーと呼ばれる金属箔の少なくとも一方の面上に剥離層を介して、容易に分離できる状態で積層したものである。
被処理銅箔としてのキャリァー付極薄銅箔は、その極薄銅箔の製造工程で、電流密度が高い領域を用いた電解メッキ処理することで、初期電着の結晶粒が微細な粒状晶のまま液面側にまで達するので、粒状晶の極薄電解銅箔を製造することができる。このキャリァー付極薄銅箔の銅箔表面に本実施形態の商用交流による粗化処理手法を用いることで、例えば表面処理前の厚みが3μmの極薄銅箔を表面処理しても、単位重量厚みで27g/m程度(3μm程度)の厚みを維持した状態で表面処理することができる。このため、品質上の厚み不具合を解決するばかりでなく、部分的な粗化バラツキも緩和でき、品質向上の効果をも達成できる。
前記キャリァー付極薄銅箔において、銅箔は厚みが単位重量換算で45g/m以下であり、キャリァー箔(支持体金属箔)は厚みが単位重量換算で130g/m以上であることが好ましい。
なお、従来の陰極電解処理による表面粗化処理方では、銅メッキによる金属銅付着量が元箔に対して10%から20%増え、その分厚みも増加するため、品質上の厚み不具合が生じる。
【0029】
本発明において、電解液として用いる硫酸単浴の好ましい硫酸濃度は
硫酸濃度 30〜200g/l
である。
硫酸に重金属元素を添加した浴を用いる場合には、
硫酸濃度 30〜200g/l
重金属元素の濃度:溶解金属濃度として 0.5〜5g/l
の範囲が好ましく、複数の重金属元素を溶解添加する場合には、溶解金属の濃度合計が0.5〜5g/lの範囲とすることが好ましく、複数の金属を添加する場合には該添加比率は必ずしも均等に処方する必要はない。
浴組成において硫酸濃度が30g/l以下では、直接及び間接給電法を用いても電着が著しく不均一となる傾向が見られ、電解液の液抵抗も大きくなり電圧上昇を招き効果的でない。硫酸濃度は200g/l以上でも本発明の目的は十分に達せられるが、経済的観点から、200g/l以上の硫酸濃度にする必要はない。
一方、重金属元素を添加した硫酸浴を用いる場合、一種類或いは複数の重金属の合計濃度の上限値を5g/lとするのは、5g/l以上で共析する電着物は平滑化したものとなり、アノード溶解により健全な結晶粒界に沿ったエッチング粗化が達成できるが、しかし、電着時に該表面を覆う処理効果が優先されてしまうことから、本来の目的とする微細で投錨効果に優れる表面形状が得られないことがある。また、下限域を0.5g/lとしたのは生産時における浴組成管理の簡便性を考慮し、該濃度以下では添加する重金属の限界電流密度を超える処理が懸念され、限界電流密度を超えると重金属が処理浴中に還元金属粉の状態で浮遊し、浮遊した重金属が銅箔表面に付着することが懸念され、品質上の不具合になる危険性があるためである。
【0030】
また、浴温は特に限定はしないが、硫酸単浴を用いた場合には、常温〜80℃の範囲が好ましい。一方、硫酸と重金属元素を添加した浴を用いた場合には、浴温は40〜60℃の範囲に設定することが好ましい。交流電解による表面粗化処理の電極材料には材料自身が溶解しないという点においてカーボングラファイトを用いることが好ましい。しかし、他に経済的に好ましい不溶解材料があればその材料を採用することもできる。
【0031】
本発明における交流電解処理時の電流密度は、硫酸単浴でも重金属元素を溶解添加する場合であっても10〜50A/dm程度の範囲が好ましく、また、処理時間は用いる電流密度により異なるものの双方の条件ともに15〜90秒の範囲が好ましい。しかし、浴温、添加金属の有無、処理時間、浴組成条件により適性電流条件及び処理時間は変化するので、この範囲を限定するものではない。
【0032】
交流電解粗化処理を施された銅箔は、耐食性を付与するため更に有機系防錆剤による防錆処理又はクロメート防錆処理が施されるのが好ましい。例えばベンゾトリアゾール化合物に代表される有機防錆剤による防錆処理で防錆皮膜の程度としては、電気ニ重層容量を測定しその測定値の換算により求められる理論的な皮膜厚さとして500nmから1000nm範囲が好ましく、またはクロム化合物の溶解された浴を用いたクロメート防錆処理を行う場合には、金属クロムとして分析される量としては0.015から0.050mg/dm範囲の付着量を有することが好ましい。
【0033】
防錆処理の施された銅箔には更にケミカル的な密着性を付加する目的で、該銅箔の少なくとも一方の面に、市販のアミノ系、エポキシ系、ビニル系、クリロキシ系から選ばれる一種類のシランカップリング剤を用いて単一皮膜を形成する程度の処理を施し、その表面に付着している珪素量としては0.001から0.015mg/dmで分析される範囲に付着させることが好ましい。
【実施例】
【0034】
以下、本発明を実施例で具体的に説明する。
<実施例1>
本実施例で採用する間接交流給電方式の一例を図1に示す。電解製造方法にて製箔された公称厚さ12μmの微細粒状晶粒界を有する電解銅箔(古河サーキットフォイル株式会社製WS銅箔)を図1に示す表面処理装置の巻き出し部(ボビン)1に準備して、カーボングラファイトアノード(対向電極)21を対向配置した粗化処理槽2に、対向電極21、21の間に遮蔽板22を配置し、電極21と遮蔽板22との間に銅箔を導き、下記の浴組成および間接交流電解条件で電解製箔時に液面側であった銅箔面に間接給電方式により表面粗化処理を施した。
【0035】
浴組成(硫酸単浴)
硫酸 100g/l
電解条件
浴温 40±3℃
商用交流電解電流密度 25A/dm
処理時間 15秒
【0036】
続いて、表面粗化処理を施した銅箔を図1に示す水洗槽3に導き該銅箔表面を十分に洗浄した後、該銅箔を防錆処理槽4に導き、三酸化クロム:3.0g/lを含む常温の水溶液中を浸漬通過させて該銅箔表面にクロメート防錆処理を施した後、該銅箔を水洗槽5に導き該銅箔表面を十分に洗浄した後、該銅箔をシランカップリング処理槽6に導き、市販のアミノ系カップリング剤:0.5wt%を含む常温の水溶液が該表面処理された面と均一に接触するようにし、次いで該銅箔を乾燥装置7を通過せしめた後、巻取り部8にて該銅箔を連続的に巻き取った。
なお、図1において41は防錆処理槽4にセットしたSUSアノード、42は銅箔に給電する給電ロール、61はシランカップリング処理槽6に充填のシランカップリング液である。
得られた該銅箔を下記の項目について評価した。
【0037】
<評価項目>
銅箔の厚みの増減;
銅箔厚みの増減変化を小数点以下0.1mgまで計測できる電子天秤にて10cm×10cmサイズに切断した銅箔の単位重量値を測定し、処理前の重量厚みを100として増減値を指数値に換算し、その結果を表1に示す。
【0038】
表面粗さ;
電解粗化処理された表面の粗さ程度を触針式の表面粗さ測定器を用いてJIS−C−6515に規定される測定方法に準拠し、Rz値を処理前と粗化処理後で測定した。その結果を表1に示す。
【0039】
密着強度;
表面処理された銅箔粗面と市販のポリミド樹脂基材とを積層温度220℃、面圧25kg/cm2の加熱加圧条件で60分プレス後、その銅張り積層材をエッチング液に不溶の支持体に張り合わせた後に、10mm幅のパターンを形成させ、引き剥がし強度測定器により粗化面とポリミド樹脂との密着強度を測定した。その結果を表1に示す。
【0040】
<実施例2>
実施例1で使用した銅箔を下記条件で表面粗化処理した。
浴組成(硫酸単浴)
硫酸 150g/l
電解条件
浴温 25±3℃
商用交流電解電流密度 20A/dm
処理時間 15秒
表面粗化処理条件以外は、実施例1と同じ条件で水洗、クロメート防錆処理、水洗、シランカップリング処理を施した。
表面処理した銅箔の特性を実施例1と同じ項目につき、実施例と同様の方法で測定し、その結果を表1に併記した。
【0041】
<実施例3>
実施例1で使用した銅箔を下記条件で表面粗化処理した。
浴組成
硫酸 150g/l
モリブデン酸ナトリュウムのモリブデンとして 3g/l
電解条件
浴温 25±3℃
商用交流電解電流密度 20A/dm
処理時間 15秒
表面粗化処理条件以外は、実施例1と同じ条件で水洗、クロメート防錆処理、水洗、シランカップリング処理を施した。
表面処理した銅箔の特性を実施例1と同じ項目につき、実施例1と同様の方法で測定し、その結果を表1に併記した。
【0042】
<実施例4>
実施例1で使用した銅箔を下記条件で表面粗化処理した。
浴組成
硫酸 150g/l
硫酸ニッケルのニッケルとして 3g/l
電解条件
浴温 25±3℃
商用交流電解電流密度 20A/dm
処理時間 15秒
表面粗化処理条件以外は、実施例1と同じ条件で水洗、クロメート防錆処理、水洗、シランカップリング処理を施した。
表面処理した銅箔の特性を実施例1と同じ項目につき、実施例1と同様の方法で測定し、その結果を表1に併記した。
【0043】
<実施例5>
実施例1で使用した銅箔を下記条件で表面粗化処理した。
浴組成
硫酸 150g/l
硫酸コバルトのコバルトとして 1.5g/l
タングステン酸ナトリュウムのタングステンとして 1.5g/l
電解条件
浴温 25±3℃
商用交流電解電流密度 20A/dm
処理時間 15秒
表面粗化処理条件以外は、実施例1と同じ条件で水洗、クロメート防錆処理、水洗、シランカップリング処理を施した。
表面処理した銅箔の特性を実施例1と同じ項目につき、実施例1と同様の方法で測定し、その結果を表1に併記した。
【0044】
<実施例6>
実施例1で使用した銅箔を下記条件で表面粗化処理した。
浴組成(硫酸単浴)
硫酸 150g/l
硫酸ニッケルのニッケルとして 1.5g/l
モリブデン酸ナトリュウムのモリブデンとして 1.5g/l
電解条件
浴温 25±3℃
商用交流電解電流密度 20A/dm
処理時間 15秒
表面粗化処理条件以外は、実施例1と同じ条件で水洗、クロメート防錆処理、水洗、シランカップリング処理を施した。
表面処理した銅箔の特性を実施例1と同じ項目につき、実施例1と同様の方法で測定し、その結果を表1に併記した。
【0045】
<比較例1>
図1に示す銅箔電解製造装置にて陰極電解製箔法により公称厚さ12μmの柱状構造の結晶粒界を有する電解銅箔(古河サーキットフォイル株式会社製MP銅箔、Rz:3.6μm)を用いて、製箔時の液面側(通称マット面)の表面を下記の直流電解処理条件を用いて表面粗化処理を施した。
浴組成(硫酸単浴)
硫酸 150g/l
電解条件
浴温 25±3℃
直流電解電流密度 20A/dm
処理時間 15秒
元箔、表面粗化処理条件以外は、実施例1と同様、図1に示す水洗、クロメート防錆処理、水洗、シランカップリング処理を施した。
表面処理した銅箔の特性を実施例1と同じ項目につき、実施例1と同様の方法で測定し、その結果を表1に併記した。
【0046】
<比較例2>
比較例1と同じ銅箔を用いて、製箔時の液面側(通称マット面)の表面を下記の交流電解処理条件を用いて表面粗化処理を施した。
浴組成(硫酸単浴)
硫酸 150g/l
電解条件
浴温 25±3℃
商用交流電解電流密度 20A/dm
処理時間 15秒
元箔、表面粗化処理条件以外は、実施例1と同様、クロメート防錆処理、水洗、シランカップリング処理を施した。
表面処理した銅箔の特性を実施例1と同じ項目につき、実施例1と同様の方法で測定し、その結果を表1に併記した。
【0047】
<比較例3>
図1に示す銅箔電解製造装置にて陰極電解製箔法により公称厚さ12μmの柱状構造の結晶粒界を有する電解銅箔(古河サーキットフォイル株式会社製MP銅箔、Rz:1.8μm)を用いて、実施例1で用いた銅箔を用いて、製箔時の液面側(通称マット面)の表面を下記の直流電解処理条件を用いて表面粗化処理を施した。
浴組成(硫酸単浴)
硫酸 150g/l
電解条件
浴温 25±3℃
直流電解電流密度 20A/dm
処理時間 15秒
表面粗化処理条件以外は、実施例1と同様、図1に示す水洗、クロメート防錆処理、水洗、シランカップリング処理を施した。
表面処理した銅箔の特性を実施例1と同様の方法で測定し、その結果を表1に併記した。
【0048】
<比較例4>
比較例3で用いた銅箔を用いて、下記の粗化処理槽中を電解処理せずに(無電解処理で)通過させた。
浴組成(硫酸単浴)
硫酸 150g/l
処理条件
浴温 25±3℃
通過時間 15秒
表面粗化処理条件以外は、実施例1と同様、図1に示す水洗、クロメート防錆処理、水洗、シランカップリング処理を施した。
表面処理した銅箔の特性を実施例1と同じ項目につき、実施例1と同様の方法で測定し、その結果を表1に併記した。
以外は、実施例1と表面粗化処理を実施した
【0049】

【0050】
上記実施例によれば、薄物銅箔の厚みを著しく変えることなく(実施例3が最大で約3%増)微細な粗化形状が容易に得られた。
また、粗化処理後の密着強度は、近年多用されているポリミド系樹脂に対しても充分な強度を有し、特に、特定な重金属を添加した浴処方を用いることで、更なる密着強度の向上が得られた。また顕著な凹凸形状を有さずに密着強度が得られる結果、FPC市場が求める最適な材料を提供できる。
本発明の交流給電による銅箔の表面処理方法によれば、ハンドリング性が容易でない微細粒状晶からなる薄物銅箔の表面処理を間接的に交流電解粗化処理することにより、表面の粗化状態を均一かつ効率良く処理ができ、生産性と品質が向上する。
また、表1には示していないが、重金属元素をてんかした浴での表面処理により得られた銅箔は耐熱特性効果が向上し、工業用プラスチックフィルムや熱硬化性樹脂との高温密着性の改善が顕著であった。
【0051】
上述したように本発明の表面処理方法は、鏡面状態の光沢表面に微細な凹凸表面粗化形状を呈することで投錨効果を向上せしめ、主として該銅箔と張り合わされる工業用プラスチックフィルムや該表面に直接キャスティングされる熱硬化性樹脂との密着性を向上させることができ、該銅箔と張り合わすフィルムやキャスティング樹脂の厚みを薄くすることができる。更には化学的に密着結合力を高める単一または複数の重金属元素を電解浴に添加することにより、表面粗化と同時に重金属によるメッキ処理も達成できるので、表面処理工程も簡略化でき、廉価で、薄物銅箔の固有の厚みを略維持した電解銅箔を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】銅箔の表面処理工程を説明する工程図である。
【符号の説明】
【0053】
1 巻き出し部
2 粗化処理槽
3 水洗槽
4 防錆処理槽
5 水洗槽
6 シランカップリング処理槽
7 乾燥装置
8 巻取り部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫酸単浴または硫酸に重金属化合物を添加した電解浴を用い、粒状晶からなる銅箔の少なくとも一方の面に交流による電解処理を施し、該銅箔の表面を粗化処理することを特徴とする交流給電による銅箔の表面処理方法。
【請求項2】
前記の交流給電による電解処理が、商用交流の間接給電法によって行われる請求項1に記載の交流給電による銅箔の表面処理方法。
【請求項3】
前記の銅箔が、微細な粒状晶からなる構造を有し、その一方の面の表面粗度が少なくともRz値で2.5μm以下であり、該銅箔の厚みが単位重量換算で160g/m以下である請求項1または2に記載の交流給電による銅箔の表面処理方法。
【請求項4】
前記電解浴が、ニッケル、コバルト、モリブデン、タングステン、アンチモン、バナジュウム、銀からなる重金属の群れから選択された少なくとも一種類以上を硫酸に添加した電解浴である請求項1から3のいずれかに記載の交流給電による銅箔の表面処理方法。
【請求項5】
前記の交流給電処理に続いて有機系防錆剤による防錆処理又はクロメート防錆処理を行う請求項1から4のいずれかに記載の交流給電による銅箔の表面処理方法。
【請求項6】
前記の防錆処理に続いて銅箔の少なくとも一方の面にシランカップリング剤による表面処理を行う請求項1から5のいずれかに記載の交流給電による銅箔の表面処理方法。
【請求項7】
前記のシランカップリング剤が、アミノ系、エポキシ系、ビニル系、クリロキシ系から選ばれる請求項6に記載の交流給電による銅箔の表面処理方法。
【請求項8】
前記銅箔は、容易に剥がすことが可能な支持体金属箔の少なくとも一方の面にメッキで形成されている銅箔である請求項1または2に記載の交流給電による銅箔の表面処理方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−127618(P2008−127618A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−313051(P2006−313051)
【出願日】平成18年11月20日(2006.11.20)
【出願人】(591056710)古河サーキットフォイル株式会社 (43)
【Fターム(参考)】