説明

位相ロック・ループを制御する方法、利得制御装置及び位相ロック・ループ・システム

【課題】マルチ・ギガヘルツ範囲で動作し且つ低ジッタの、調整可能な利得を有する位相ロック・ループ(PLL)を提供する。
【解決手段】
1つの実施形態では、PLLのfVCO 信号の諸特性を取得する。これらの特性は、fVCO 信号及びPLLの位相ロック状態に関する異なるタイプのジッタの出現回数を含む。利得制御モジュールは、前記取得した諸特性の分析に基づき、少なくともPLLの一部を制御する。例えば、PLLが位相ロックされているか、又はループ・フィルタの漏洩がある場合、PLL内にあるチャージ・ポンプの利得が減少される。前記取得した特性に基づいて、チャージ・ポンプのミスマッチが検出される場合、当該ミスマッチを修正するために、追加の制御信号がチャージ・ポンプに供給される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロック生成回路の分野に属し、さらに詳細に説明すれば、位相ロック・ループの分野に属する。
【背景技術】
【0002】
電子装置の新しい各世代は、データをより高速に処理し、通信をより高速に行うことができる。従って、かかる電子装置を駆動するクロックは、電子装置の新しい各世代においてより高速に動作することが必要とされる。クロック速度及びデータ・レートがマルチ・ギガヘルツ/ギガビット毎秒の範囲に増加するにつれて、多数の設計課題が生じる。例えば、ジッタは、システムの重大な性能低下を引き起こすという理由で、クロック信号の重要な要素になる。ジッタは、「不安定」なクロック・パルスとして、或いは所望の形状からの逸脱、変動又は変位を有するクロック・パルスの一部として生じることがある。パルス波形又はパルス・タイミングが所望の時間又は振幅から変位する場合、この逸脱は、振幅変動、タイミング変動、位相幅変動及び他の変動という形でもたらされることがある。
【0003】
クロック信号は、データ処理システム及び通信システムにおいて、諸回路の動作を同期させるために使用される。かかるクロック信号の1つのアプリケーションは、クロック及びデータ再生(CDR)システムにある。CDRシステムは、諸回路がマルチギガ・ビットの範囲で動作し且つ比較的長い距離だけ離れている場合に、システム全体にわたって諸回路を同期させることができる。かかる高周波数では、受信機のタイミングを着信データの波形と同期させることは、難しい問題である。クロック信号の他のアプリケーションは、種々の無線送信機及び受信機、ナビゲーション機器及び他の通信機器を含む。
【0004】
同期を保証するために、集積回路内の複数の位相ロック・ループ(PLL)は、システム・クロックと同期して同期化されたクロック信号をローカルに生成し、その結果、システム全体にわたる同期を確立することができる。より高いクロック周波数では、PLLは、ジッタの源となることが多い。PLLは、その入力上に基準信号としてシステム・クロック信号を受け取り、その出力上に、基準信号と同相の頑強なクロック信号を供給する。典型的なクロック生成アプリケーションでは、PLLは、周波数逓倍器又は周波数逓降器として作用し、基準信号の整数倍又は整数分の1に対応する出力信号を供給する。かかるPLLは、PLLの分周された出力信号を入来する基準信号と比較することに基づき、内部発振器を制御する。PLLは、その入力上の基準信号に関し一定の位相角をその出力上に維持する。PLLの出力は、通信回路、データ処理回路、クロック及びデータ再生(CDR)回路、コヒーレント・キャリア追尾及びしきい値改善回路、ビット同期回路及びシンボル同期回路のような他の回路を駆動するために使用することができる。
【0005】
前述のように、PLLのジッタは、ギガヘルツ範囲のような高いクロック周波数で重要な問題になる。PLLの基準信号入力からPLLの出力までのジッタ伝達特性が、低域フィルタを表すのに対し、PLL内の電圧制御発振器(VCO)からPLLの出力までのジッタ伝達特性は、高域フィルタを表す。基準信号及びVCOがPLLの出力信号におけるジッタの主要な原因であると見なされる場合、この構成は、2つの重要な意味を有する。第1に、基準信号がジッタの主要な原因であれば、高いQ(例えば、VCOのLCタンク)及び狭いループ帯域幅を使用することにより、低いジッタを有するPLL出力信号を生成することができる。
【0006】
第2に、VCOがジッタの主要な源であり且つ基準信号が「実質的に」ジッタを有していない(又は低いジッタを有する)のであれば、広いループ帯域幅を選択することにより、低いジッタを有するPLL出力信号を生成することができる。もし、基準信号からジッタが十分に除去されていなければ、基準信号をクリーンアップするために、2つのPLLを縦続接続した2ステージPLLがしばしば使用される。第1ステージのPLLは、高いQを有するVCO及び狭帯域ループ・フィルタを使用して、第2ステージのPLLに「クリーンアップされた」クロック信号を供給する。第2ステージのPLLは、ジッタに対する当該PLLの寄与分、特に第2ステージのPLL内にあるVCOによって生ぜられるジッタを減少させるために、広いループ帯域幅を有することができる。その結果、2ステージPLLの出力信号は、非常に低いジッタを有するようになる。また、ジッタを抑止するためには、フィードバック・ループ内で非常に高い周波数を使用することが望ましい。というのは、フィードバック・ループ内にある小さな分周比を有する分周器が、ジッタを抑止するのを支援するからである。
【0007】
しかし、かかる高周波数のフィードバック・ループ信号は、PLL内で内部フィードバック・ループを有する通常の順次位相周波数検出器(PFD)を使用することを禁止する。一般に、PLLの入力ステージとして設けられる通常のPFDは、この高周波数入力に対応するように十分に速くスイッチすることができない。マルチ・ギガヘルツ範囲で動作する場合、PLLの設計は、PLLが「位相ロック」に接近しているときの「不感帯」における制御問題を含む、多くの問題を有する。PLLが位相ロックに非常に接近する場合、フィードバック周波数は、位相ロックを確立するのに必要な利得分解能を有さず、そして出力周波数は、ロッキング・プロセス中の複数のサイクルにわたって、所望の周波数をオーバーシュート及びアンダーシュートするであろう。前述のフィード・フォワードPFDに関する1つの問題は、かかるPFDの利得が通常のPFDより高くなるということである。このより高い利得は、位相ロックをより速く確立することができるという理由で、PLLが位相ロックを確立することを試みている場合には望ましいものである。しかし、位相ロックが確立された後は、このより高い利得は、他の不安定性に結びつくことがある。例えば、PFDの入力上にある雑音が、より高い利得を有するPFDによって増幅されると、かかるPLLの不安定性に結びつくことがある。
【0008】
従って、特定のステージ又は特定の動作モード及び当該特定の動作モード中のPLLの特定のコンポーネントについては、特定レベルの利得が望ましく、他の動作モード中のPLLの特定ステージについては、他のレベルの利得が望ましい。従って、調整可能な利得特性及び低ジッタを有する、高信頼性の高速PLLは、非常に有用であろう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
当分野では、前述の問題を全体として解決するために、調整可能なループ利得機能を有する、高速且つ低ジッタの位相ロック・ループ(PLL)を提供することが要請されている。従って、モニタされる動作現象又はPLL特性に応答する自動調整式利得機能を有する、マルチ・ギガヘルツPLLが提供される。
【課題を解決するための手段】
【0010】
1つの実施形態では、PLLのfVCO信号の諸特性を取得する。これらの特性は、fVCO 信号及びPLLの位相ロック状態に関する異なるタイプのジッタの出現回数及び大きさを含む。利得制御モジュールは、取得した諸特性の分析に基づき、PLLの少なくとも一部の可変利得制御を提供する。例えば、PLLが位相ロックされているか、又はループ・フィルタの漏洩が検出される場合、PLLのループ利得特性は、チャージ・ポンプによって調整される。一般に、発振器又は位相周波数検出器のような他のコンポーネントによってループ利得を確立するよりも、チャージ・ポンプによってループ利得を確立する方がより簡単であるからである。かかる位置は、コントローラ回路の数を減少させる。取得した諸特性が、チャージ・ポンプのミスマッチが生じているか又は生じたことを指示する場合、制御信号をチャージ・ポンプに供給して、このミスマッチを修正することができる。
【0011】
1つの実施形態では、PLLを制御する方法が提供される。本方法は、基準信号及び位相ロック・ループ・フィードバック信号を受け取るステップと、前記位相ロック・ループ・フィードバック信号の諸特性を取得するステップとを含む。PFD及び利得制御モジュールは、前記取得した諸特性に基づいて、制御信号及びループ利得信号を生成する。前記制御信号は、前記ループ利得信号とは別の線上に存在する。前記制御信号は、チャージ・ポンプの電流源の第1バンクのような、発振器コントローラの第1の入力に供給され、前記ループ利得信号は、前記チャージ・ポンプの電流を設定するために前記発振器コントローラの第2の入力に供給される。
【0012】
本方法は、 前記位相ロック・ループが位相ロックされていないと決定することに応答して、予定量の利得を有する第1の利得制御信号を前記発振器コントローラ(チャージ・ポンプ)に適用するステップと、前記位相ロック・ループが位相ロックされていると決定することに応答して、予定量の利得を有する第2の利得制御信号を前記発振器コントローラに適用するステップとをさらに含む。また、前記ループ利得信号が、選択的に前記発振器コントローラ内の1つ以上の電流源又は電流シンクに供給される。前記位相ロック・ループ・フィードバック信号のジッタに関する統計値を取得するステップに基づいて、利得の調整が行われる。ジッタに関する統計値を取得するために、前記位相ロック・ループ・フィードバック信号及び前記基準信号が予定のインターバルだけ遅延され、そしてカウンタを使用して、ピークピーク・インターバル中に前記位相ロック・ループ・フィードバック信号が早く出現する回数及び前記位相ロック・ループ・フィードバック信号が遅く出現する回数をカウントする。当該カウントされた出現回数は、PLLのジッタに関する統計値を導出するべく、予定数のサイクルにわたって格納される。このジッタに関する統計値に基づいて、利得に関する制御信号が生成され、チャージ・ポンプに供給され、その結果、PLLの安定性を増加させるようにループ利得が調整される。PLLの安定性を増加させ且つPLLの位相ロック状態における望ましくないジッタを減少させるための1つの方法は、位相周波数検出器によって供給される利得を低下させて、この利得をPLLの発振器の周波数を制御するチャージ・ポンプのようなコンポーネントに転送することである。このことは、前記取得したジッタ統計値に応答して、位相ロック状態中に行うことができる。
【0013】
他の実施形態では、位相ロック・ループ用の利得制御装置が提供される。本装置は、基準信号に対し第1の遅延を与えるための第1の遅延モジュールと、位相ロック・ループ・フィードバック信号に対し前記第1の遅延より大きな第2の遅延を与えるための第2の遅延モジュールとを備える。本装置は、前記遅延された位相ロック・ループ・フィードバック信号のエッジとは異なった時点に出現する、前記遅延された基準信号のエッジの出現回数をカウントするための第1のカウンタと、前記出現回数のカウントを評価し且つ当該評価されたカウントに応答して利得制御出力を供給するための評価論理モジュールとをさらに備える。サイクル・カウンタが予定数のサイクルをカウントした後に、前記出現回数のカウントを評価することができる。本装置は、第3の遅延モジュールと、第2のカウンタとをさらに備える。前記遅延モジュールは、前記基準信号に対し前記位相ロック・ループ・フィードバック信号よりも大きな遅延を提供し、前記第1のカウンタは、前記位相ロック・ループ・フィードバック信号の立ち上がりエッジの遅い出現に関する統計値を取得する。
【0014】
他の実施形態では、位相ロック・ループ・システムが提供される。本システムは、基準信号及び位相ロック・ループ・フィードバック信号を受け取り、発振器によって使用される増加出力信号及び減少出力信号のうちの1つを供給するための位相周波数検出器と、前記基準信号及び前記位相ロック・ループ・フィードバック信号を受け取り、前記位相ロック・ループ・フィードバック信号及び前記基準信号に関係するデータを取得し、前記データに応答してPLL内の利得を制御する出力信号を供給するための利得制御モジュールと、前記利得制御モジュールの前記出力を受け取り、前記利得制御モジュールの前記出力信号に基づいて出力を供給するための、調整可能な利得を有するチャージ・ポンプとを備える。本システムは、電流−電圧変換を行うループ・フィルタを介して前記チャージ・ポンプの前記出力を受け取り、前記チャージ・ポンプの前記出力に応答して発振周波数を変更するための発振器をさらに備える。前記利得制御モジュールは、PLL内の期間中にジッタの出現回数をカウントすることにより、ジッタに関するデータを取得するためのカウンタを備える。本システムは、第1PLLステージの入力上に、「ジッタを有する」基準信号を受け取り、第2PLLステージの出力上に、1.5ギガヘルツ以上の周波数を有し且つ最小のジッタを有する信号を供給することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、調整可能な利得機能及び低ジッタを有する、高信頼性の高速PLLを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】2ステージ位相ロック・ループのブロック図である。
【図2】位相ロック・ループ内にある利得制御モジュールのブロック図である。
【図3】利得制御モジュールの一層詳細な実施形態を示す図である。
【図4】利得制御モジュールによって使用するのに適した遅延モジュールを示す図である。
【図5】τjitter+τD1 <Tref 及びτD1 >τjitter >0である場合(ジッタが早いケース)の、利得制御モジュールのタイミング図である。
【図6】τjitter+τD2 <Tref 及び0<τjitter <τD2 である場合(ジッタが遅いケース)の、利得制御の他のタイミング図である。
【図7】τjitter+τD1<Tref及びτD1<τjitter である場合の、利得制御モジュールの他のタイミング図である。
【図8】τjitter+τD2<Tref及びτD2<τjitter である場合の、利得制御モジュールの他のタイミング図である。
【図9】τjitter+τD1>Trefである場合の、利得制御モジュールの他のタイミング図である。
【図10】τjitter+τD2>Trefである場合の、利得制御モジュールの他のタイミング図である。
【図11】位相ロック・ループ内の利得を制御する方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付の図面を参照して、本発明を明白に理解することができるように、その諸実施形態を詳述する。しかし、本明細書に開示された詳細な事項は、実施形態の可能な変形を制限することを意図するのではなく、請求項によって定義される本発明の精神及び範囲に属する全ての変形、均等物及び代替実施形態をカバーすることを意図するものである。以下の説明は、かかる実施形態を当業者にとって明白にすることを目指している。
【0018】
以下では、特定の実施形態をハードウェア又はソフトウェアの特定の構成を参照して説明するが、本発明の諸実施形態は、他の同等のハードウェア又はソフトウェア・システムでも有利に実装できることを理解されたい。本発明の諸側面は、磁気的及び光学的に読み取り可能で且つ取り外し可能なディスクを含む、コンピュータ可読媒体上に格納した上で配布したり、インターネット又は無線ネットワークを含む他のネットワークを介して電子的に配布することができる。本発明の諸側面に係るデータ構造及びデータの伝送(無線伝送を含む)も、本発明の範囲に属する。
【0019】
本発明に従って、位相ロック・ループ(PLL)回路で使用するのに適当なループ利得調整システム及び方法が提供される。本システム及び本方法は、ループ・フィルタの漏洩又はチャージ・ポンプのミスマッチのような他のジッタ生成現象によって引き起こされるジッタ生成を測定し、これらのジッタ生成現象を補償するようにPLLのループ利得を調整する。ジッタ生成の測定は、PLLの位相周波数検出器(PFD)の入力における予め定義されたタイミング・インターバル中のクロック・エッジ統計値の評価に基づいて行われる。検出されたジッタ測定値/クロック・エッジ統計値に基づいて、PLL内でどの利得制御信号を供給すべきかを決定するために、ルックアップ・テーブルが使用される。
【0020】
従って、マルチ・ギガヘルツで、低ジッタの、調整可能な利得を有する位相ロック・ループ(PLL)が提供される。かかる構成を確立するために、利得制御モジュールは、PLLのfVCO信号の諸特性を取得する。これらの特性は、fVCO 信号に関する異なるタイプのジッタの記録された出現回数及びPLLの位相ロック状態を含む。利得制御モジュールは、取得した諸特性の分析に基づいて、少なくともPLLの一部を制御する。例えば、PLL内でループ・フィルタの漏洩のようなジッタ生成現象が出現する場合、これらのジッタ生成現象は、PLLの位相雑音又はジッタ性能を劣化させることがある。かかる現象が検出される場合、利得制御モジュールは、PLL内のチャージ・ポンプの利得を調整することにより、ループ・ダイナミックスに対するこれらのジッタ生成現象の影響を打ち消す。取得したジッタ特性に基づいて、チャージ・ポンプのミスマッチが検出される場合、チャージ・ポンプのミスマッチを修正するように、追加の制御信号がチャージ・ポンプに供給される。
【0021】
図1は、2ステージPLL 100を示す。1つの実施形態では、第1ステージ102は、第2ステージ104に類似する。但し、第2ステージ104は、フィード・フォワード位相周波数検出器(FFPFD)106を使用するという点が相違する。また、第2ステージ104は、利得制御モジュール138を使用して、フィードバック・ループ内のチャージ・ポンプ120に対する利得信号を転送及び制御する。FFPFD106及び第2ステージ102は、PLLのフィード・フォワード設計及びPLLの利得制御機能に起因して、通常のPFD及び通常のPLLよりも1桁程度高い周波数で動作する。さらに、PLLは、FFPFD106及び利得制御モジュール138の機能に起因して、改良されたループ安定性を有する。
【0022】
第1ステージ102は、位相周波数検出器(PFD)108、チャージ・ポンプ110、狭帯域フィルタ112、高いQを有する電圧制御発振器(VCO)114及び1/N1分周器116を含む。動作中、低周波数の基準信号130がPFD108の入力に供給されると、PFD 108は、検出された位相差に基づいて、チャージ・ポンプ110を駆動する。チャージ・ポンプ110の出力信号は、フィルタ112に供給され、そのフィルタされた信号は、VCO114のクロック周波数出力信号を制御するために使用される。VCO 114の出力信号は、フィードバック・ループ134内の1/N2分周器118によっても分周され、その信号がフィードバック・ループ信号としてPFD108に戻される。その結果、第1ステージ102は、第2ステージ104に対し、正確で且つ頑強な高周波数の基準信号136を供給する。VCO 114は、高いQ値を提供する、小さなインダクタンスを有する高周波数の発振器とすることができる。このようにすると、第1ステージ102のループ帯域幅を狭帯域とすることが可能となり、そして第1ステージ102がジッタを有する基準信号130について「クリーンアップ」機能を実行することが可能となる。第1ステージ102の入力側にある基準信号130からその出力側にある基準信号136へのジッタ伝達特性が、基準信号130上に存在する任意のジッタも減少させる、低域フィルタを提供することが分かった。従って、第1ステージ102内のループ帯域幅が狭くなるほど、基準信号130のジッタを一層良好に抑制することができる。しかし、VCO114から第1ステージ102の出力側にある基準信号136へのジッタ伝達特性が考慮される場合、この同じループ・フィルタ構成は、高域フィルタとして作用することがある。従って、VCO114によって生ぜられ且つ第1ステージ102の出力側にある基準信号136に与えられるジッタをできるだけ小さくするためには、高いQを有するVCO 114を使用することが望ましい。
【0023】
第2ステージ104は、フィード・フォワード位相周波数検出器(FFPFD)106、利得制御モジュール138、チャージ・ポンプ120、広帯域フィルタ122、VCO124及び1/N1分周器125を含む。動作中、第1ステージ102の出力から高周波数の基準信号136がFFPFD 106の入力に供給されると、FFPFD 106は、フィードバック・ループ信号132と高周波数の基準信号136との間の位相差検出に基づいて、チャージ・ポンプ120及び利得制御モジュール138を駆動する。利得制御モジュール138は、FFPFD106の入力において位相差が検出される場合、VCO 124の発振周波数を修正するであろう。チャージ・ポンプ120の出力信号は、フィルタ122に供給され、そのフィルタされた信号は、VCO124の動作周波数を制御する。VCO 124の出力信号は、1/N1分周器125に供給され、そこから同期されたクロック信号出力として供給される。このクロック信号は、1/N2分周器128によって分周され、FFPFD106に対するフィードバック・ループ信号として供給される。その結果、第2ステージ104は、種々のタイプの演算回路による使用のために、その出力上に安定した「ジッタのない」高周波数のクロック信号を供給する。
【0024】
前述のように、1つの実施形態では、第1ステージ102内のPFD108は、その入力上に比較的低い周波数の基準信号130を受け取る、通常のPFDとすることができる。しかし、第1ステージ102は、その出力として、5ギガヘルツを超える周波数の基準信号136を生成することができる。第2ステージ104内のFFPFD106は、第1ステージ102からのこの比較的高い周波数の基準信号136を受け取り、そのフィードバック・ループ132内で比較的高い周波数を使用することができる。というのは、第2ステージ104は、FFPFD106に関するフィード・フォワード制御及び利得制御モジュール138のフィード・フォワード機能を使用するからである。第2ステージ104のFFPFD 106は、この高い周波数で動作しているときに、第1ステージ102からの基準信号136とフィードバック・ループ信号132との間の位相差をリアル・タイムで検出し、これらの2つの信号間の位相差を表す正確な出力信号を供給することができる。同様に、第2ステージ104の利得制御モジュール138は、予定の期間にわたってこれらの2つの信号間の位相差を検出し、統計値に基づいて、どの時点でどれだけの利得を第2ステージ104の諸コンポーネントに適用しなければならないかを決定することができる。このことは、次の2つの目的が満たされることを保証する。
(a)PLLが位相ロック状態に移行中の過渡状態にある場合は、位相ロックの確立時間を短縮化すること(これは周波数の変動中は重要である)。
(b)PLLが位相ロック状態にある場合は、小さなループ利得調整を行うことにより、PLLがループ・フィルタの漏洩及びチャージ・ポンプのミスマッチのようなジッタ生成現象によって影響される程度を小さくすること。
これらの両目的は、位相ロックの確立時間をより短くし且つジッタの生成をより少なくするという点で、PLLの性能を改良するのを支援する。
【0025】
従って、動作中、FFPFD 106は、第1ステージ102によって供給される基準信号136とフィードバック・ループ132上の分周されたVCO信号132との間の位相差を測定し、VCO信号132及び基準信号136の位相差に相当する期間を有するパルスを供給する。同様に、利得制御モジュール138は、ループ性能/安定性を改良し且つループ動作を修正するために、もっと長期的な統計値アプローチを取る。2ステージPLL100の入力上にある基準信号130は、多くの場合、同じチップ又は集積回路上に2ステージPLL 100と共存する他の多くのシステムにも分配される、「グローバル」システム・クロック信号である。第1ステージ102は、この基準信号130に過重な負荷をかけたり、この基準信号130を変更しないように、クロック分配ネットワークの相互結合又は配線のインピーダンスと整合させることができる。第1ステージ102の低周波数特性は、グローバル・クロック分配ネットワークの伝搬損失を低くすることに役立つ。第1ステージ102は、基準信号130に負荷をかけずに、しばしば基準信号130上に存在するジッタ及び他の雑音を「クリーンアップ」することができる。PLLの入力ステージの反射散乱パラメータ「S11」によって測定される挿入損失、特にクロック分配用配線の伝送散乱パラメータ「S21」によって測定される伝搬損失に起因して、特にシステム・クロック信号を比較的長い距離(数ミリメートル又は数センチメートル)を介して分配しなければならない場合は、システム・クロック信号を「低い」周波数の信号として経路指定することが必要となる。高周波数のシステム・クロック信号は、システムの電力消費が著しく高くなるという理由で、これを使用することができない。
【0026】
前述のように、基準信号130は、その低周波数特性に起因する低い挿入損失のために、チップ上で「グローバル」に分配されるシステム・クロック信号とすることができるであろう。しかし、VCO114及び124は、著しく異なる属性を有する。VCO 114は、基準信号130に関する「クリーンアップ」機能を実行するために、高いQを有し、従ってこれを狭帯域発信器とすることができる。これに対し、VCO124は、低いQを有し、従ってこれを広帯域発信器とすることができる。VCO 124は、潜在的にVCO 114よりも多いジッタを生成する。従って、PLLの出力信号に対するVCO124のジッタ寄与分を減少させるために、第2ステージ104内で広いループ帯域幅を使用することができる。この場合、第2ステージ104は、VCO 124からPLL出力までのジッタ伝達関数に対し、高域フィルタとして作用することになる。このループ帯域幅が広くなるほど、ジッタ伝達特性内の遮断周波数が高くなり、低周波数のVCOジッタの抑制分が増大する。これらの2つの要件、すなわち、潜在的に低コストのシステム・クロック信号又は基準信号源のジッタを抑止するという要件及び広帯域のクロック信号を諸演算回路に供給するという要件のために、2つの位相ロック・ループを縦続接続した2ステージPLLが有用であろう。第2ステージ104内でより高速の内部フィードバック・ループを使用する1つの利点は、分周器のジッタ寄与分を著しく減少させることができるということにある。PLLのジッタ許容値(budget)に対する分周器の寄与分は、ほぼlog 10(N)によって表すことができる。但し、Nは、フィードバック・ループ内の分周比であり、log10は、対数関数を表す。基準信号の周波数が高いほど、より小さい分周比を使用すると、フィードバック・ループ内の待ち時間を減少させて、フィードバック・ループをより高速にすることができる。また、このより高速のフィードバック・ループは、ジッタを著しく減少させるだけでなく、PLLが位相ロック状態に非常に接近している場合に生じる不感帯特性を事実上除去することを可能にする。従って、改良された制御が、この改良された高速FFPFD106、利得制御モジュール138及び高速フィードバック・ループ132によって達成することができる。
【0027】
第1ステージ102は、比較的遅い又は比較的狭いループ帯域幅を使用して、低周波数の基準信号130をフィルタする。第1ステージ102の帯域幅は、数キロヘルツの程度とすることができる。第2ステージ104は、比較的広いループ帯域幅及び第1ステージ102の出力によって供給される比較的高い周波数の基準信号136を使用することにより、VCOジッタを減少させることができる。第2ステージ104のループ帯域幅は、1/10メガヘルツの整数倍からPLLの出力周波数の1/10にまで及ぶことがある。分かっていることは、第2ステージ104のループ帯域幅をPLLの出力周波数の1/10とする場合、第2ステージ104がシステム安定性を維持するということである。本発明に従って、PLLの出力がシリアル・データをクロックするために使用される場合、必要とされるデータ・レートに依存して、フィードバック・ループ132を2ギガヘルツ以上の周波数で動作させることができよう。
【0028】
殆ど全てのフィードバック・ループのように、フィードバック・ループ132の帯域幅は、第2ステージ104の安定性によって制限される。本発明では、その入力の基準信号130に関する第1ステージ102の安定性は、一般に、問題とならない。なぜなら、第1ステージ102のフィードバック・ループ134は、比較的低い周波数及び比較的狭い帯域幅を有するからである。しかし、第2ステージ104は、遙かに高い周波数及び遙かに広い帯域幅を有する。伝統的なPLLの理論は、PLLステージの安定な動作を保証するためには、PLLのループ帯域幅が基準信号130又は136の10分の1より小さくなければならないことを指示する。もし、各ステージ(例えば、PFD)によって提供される利得が高くなりすぎれば、これは、PLL内に重大な不安定性を引き起こすことになろう。FFPFD106の1つの特徴は、FFPFD 106が通常のPFDよりも2倍程度高い利得を有するということである。この高い利得は、PLLが位相ロックすることを試みている場合に、過渡的な位相ロック状態を速やかに確立するのに有益である。しかし、PLLが位相ロック状態にある場合は、位相マージンを大きくし、従ってPLLの安定性を増加させるためには、より低い利得が望ましい。言い換えれば、位相ロック状態中の低いループ利得は、PLLがループ・フィルタの漏洩又はチャージ・ポンプのミスマッチのようなジッタ生成現象によって影響される程度を小さくする。以下で詳述する利得制御モジュール138は、PLLの現在の位相ロック状態に依存して、全体的なループ利得の調整を行うことができる。
【0029】
図2は、位相ロック・ループ(PLL)のフィード・フォワード・パスの一部200を示す。この部分200は、位相周波数検出器(PFD)202、チャージ・ポンプ204及び破線ボックス216内の利得制御モジュールを含む。利得制御モジュール216は、遅延モジュール206、比較モジュール208、利得分析モジュール210及び電流調整モジュール212から成る。チャージ・ポンプ204の出力は、ループ・フィルタ(図示せず)を介して、PLLの電圧制御発振器(VCO)214を制御する。
【0030】
遅延モジュール206及び比較モジュール208は、ジッタ・データを取得し、このジッタ・データを利得分析モジュール210に供給する。利得分析モジュール210は、ジッタ・データを格納し、このジッタ・データに基づくジッタ分析結果を電流調整モジュール212に供給する。電流調整モジュール212内のルックアップ・テーブルは、取得データに基づいて制御構成を調整するために使用することができる。利得制御モジュール216は、PLLの位相ロック状態の関数として、又はフィードバック・ループ信号に関するジッタ統計値の関数として、PLLの全体的なループ利得を適応的に調整することができる。PLLが位相ロックされていない期間中、及びPLLが位相ロック状態に移行している期間中、利得制御モジュール216は、過渡的なロッキング・プロセスを高速化するために高いループ利得を提供する。一旦、PLLが位相ロックされると、利得制御モジュール216は、定常状態の安定性を向上させるためにループ利得を自動的に減少させる。ループ利得を減少させると、PLLが位相ロック状態を確立した後に生じることがある、ループ・フィルタの漏洩のようなジッタ生成現象によってPLLが影響される程度を小さくすることができる。さらに、利得制御モジュール216は、チャージ・ポンプの可能なミスマッチ(すなわち、電流源又は比較器内のPMOS及びNMOS電界効果トランジスタのミスマッチ)を修正することができる。
【0031】
図3は、PLLの一部300の一層詳細なブロック図である。この部分300は、位相周波数検出器(PFD)350、利得制御モジュール302、及びチャージ・ポンプ362のような発振器コントローラを含む。電圧制御発振器(VCO)は、発振周波数を変更するために使用される、可変インピーダンス/リアクタンス・モジュール、可変誘導器、トランジスタ、電流−電圧変換モジュール、諸コンポーネントの任意の組み合わせを含む、多くの形式を取ることができる。利得制御モジュール302は、遅延モジュール308、310、312、サンプリング・ラッチ314、316、ANDゲート318、320、322、位相ロック検出器382、カウンタ324、326、328、並びに評価論理モジュール330を含む。利得制御モジュール302は、位相ロック、ループ・フィルタの漏洩及びチャージ・ポンプのミスマッチを検出し、これらの検出結果に基づいて、全体的なループ利得を調整するか又は可変の利得信号をチャージ・ポンプ362に供給することにより、前述のジッタ生成現象に対処することができる。
【0032】
動作中、遅延モジュール310の入力にfVCO信号304(VCO信号)が供給される。遅延モジュール310は、fVCO 信号304を可変の遅延τβだけ遅延させ、その遅延された信号fVCO.D を、サンプリング・ラッチ314及び316のD入力に供給する。fref信号306(基準信号)は、第1の信号パスI1及び第2の信号パスI3に分割される。第1の信号パスI1内の遅延モジュール308は、fref 信号306をτα2 だけ遅延させ、第2の信号パスI3内の遅延モジュール312は、fref信号306をτα1 だけ遅延させる。可変の遅延モジュール308(I1)及び312(I3)の出力信号は、fref,D2及びfref,D1 とそれぞれ称する。
【0033】
利得制御モジュール302は、fref信号306及びfVCO 信号304のエッジのタイミングを評価することにより、PLL上のジッタ・パラメータを決定することができる。一般に、遅延τα1、τα2及びτβ の実際の遅延値は、ジッタの測定には重要な影響を有さないであろう。遅延モジュール308、310及び312は、制御線を介して、評価論理モジュール330によって制御される。遅延モジュール308、310及び312が与える遅延は、τβ とτα1との間に遅延差(τβ−τα1)を与え、τβ とτα2との間に遅延差(τβ−τα2)を与える。評価論理モジュール330によって内部的に処理されるルーチンに従って、これらの遅延又は遅延差を連続的に変更するか、又は離散的な遅延ステップで変更することができる。
【0034】
1つの実施形態では、遅延τβ は一定であり、遅延τα1及びτα2 は、τβに関して変更することができる。遅延τα1 及びτα2 は、ゼロと基準信号の周期の半分Tref/2との範囲で変更することができる。また、1つの実施形態では、τα2 >τβ >τα1 である。すなわち、遅延モジュール312が最小の遅延インターバルを与え、遅延モジュール310が中間の遅延インターバルを与え、遅延モジュール308が最大の遅延インターバルを与える。さらに、サンプリング・ラッチ316に供給される信号に関する遅延差をτD1 = |τβ−τα1 | として定義することができ、サンプリング・ラッチ314に供給される信号に関する遅延差をτD2 = |τβ−τα2 | として定義することができる。また、これらの遅延差がτβ に関し対称となるように、これらの遅延を構成することができる(すなわち、τD1=τD2 )。
【0035】
遅延モジュール310の出力であるfVCO,D信号は、これを分割して2つのサンプリング・ラッチ314及び316のD入力に供給される。遅延モジュール312の出力であるfref,D1 信号は、サンプリング・ラッチ316のクロック入力に供給され、遅延モジュール308の出力であるfref,D2信号は、サンプリング・ラッチ314のクロック入力に供給される。遅延差τD1 及びτD2 は、これらの遅延時間に基づいて、サンプリング・ラッチ314及び316によって取得される。
【0036】
PLLが位相ロック状態にあり、すなわちfref信号306の立ち上がり及び立ち下がりエッジがfVCO 信号304の立ち上がり及び立ち下がりエッジと同期している場合、ジッタが全く存在しないか又はごく僅か存在することを仮定すると、遅延モジュール308、310及び312の異なる設定が作成する遅延差τD1及びτD2 は、fVCO,D 信号が、その名目上の立ち上がりエッジに先立って、サンプリング・ラッチ316によってサンプリングされることを可能にし、またfVCO,D信号が、その名目上の立ち上がりエッジの後に、サンプリング・ラッチ314によってサンプリングされることを可能にする。前述のように、fVCO,D信号を生成する遅延モジュール310の遅延時間は、遅延モジュール312の遅延時間よりも大きく且つ遅延モジュール308の遅延時間よりも小さいから、遅延モジュール308及び312の出力は、2進信号(1又は0)をクロック入力するために使用され,その結果、fVCO信号304の遷移がfref 信号306の遷移に関して時間的に出現する場所を指示することができる。
【0037】
遅延モジュール308及び312の出力であるfref,D1信号及びfref,D2 信号によって指定された諸サンプリング点又は諸サンプリング時間は、τβの周りのタイミング・インターバルτD1+τD2 を定義する。このタイミング・インターバルでは、fVCO,D信号の立ち上がりエッジが出現し得るが、諸サンプル値は、許容不能なジッタのケースを指示しないことがある。言い換えれば、調整可能な遅延サンプリング・クロック信号としてのfref,D1信号及びfref,D2 信号は、fVCO 信号の最大許容ピークピーク・ジッタが出現し得る、タイミング・インターバルを定義する。かかる出現は、このインターバル中に許容不能なジッタとして利得制御モジュール302によって記録されないであろう。PLLの動作に基づいて、このピークピーク・ジッタのタイミング・インターバルのサイズは、利得制御モジュール302の制御下でτα2及びτα1 を作成する、遅延モジュール308及び312によって変更することができる。
【0038】
D2 及びsD1とそれぞれ称するサンプリング・ラッチ314及び316の出力は、ANDゲート318に供給される。サンプリング・ラッチ314の出力であるsD2信号は、ANDゲート318の入力で反転される。一般に、ANDゲート318、320、322、カウンタ324、326、328、並びに評価論理モジュール330は、sD1信号及びsD2 信号を処理して、fVCO 信号304に関するジッタ統計値を導出する。その後、このジッタ統計値を使用することにより、図1を参照して説明したPLLのループ利得を調整することができる。
【0039】
本発明に従って、特定の現象を指示する特定の統計値範囲の検出に基づき、PLLのループ利得を増加又は減少させるか、或いはPLLの他のコンポーネントに転送することができる。例えば、PFD350は、利得を提供する回路を有し、PLLが位相ロックされていない場合は、PFD 350が高い利得を提供し、PLLが位相ロックされている場合は、PFD 350の利得の一部を、利得制御モジュール302を介して、チャージ・ポンプ362に転送することができる。代替的に、前述のように、PLLが位相ロック状態に移行中の過渡状態にある場合は、位相ロックを速やかに確立することができるように、利得制御モジュール302及びチャージ・ポンプ362によって提供される利得を高くすることができるのに対し、一旦位相ロックが確立された後の定常状態の動作中には、PLLの出力上のジッタを減少させるために、利得制御モジュール302は、チャージ・ポンプ362によって提供される利得を減少させることができる。例えば、極端なジッタの存在下では、チャージ・ポンプ362の利得及び全体的なループ利得を最小値にセットすることができる。しかし、かかる最小値は、開始時又はPLLによって位相ロックが失われる場合は、許容不能であろう。
【0040】
従って、評価論理モジュール330は、PLL内の位相ロックの検出に基づいて、チャージ・ポンプ362を制御することができる。1つの実施形態では、位相ロック検出器382は、PFD350の入力であるfVCO 信号304及びfref 信号306の位相差を分析することにより、これらの信号304及び306の位相が整列しているか否か、すなわちPLLが位相ロック状態にあるか否かを決定することができる。他の実施形態では、位相ロック検出器382は、XORゲート352の出力パルス幅をモニタすることにより、PLLの位相ロック状態を決定することができる。位相ロック状態では、XORゲート352の出力は、定常状態にあるか、又は何度もトグルしないであろう。当業者には明らかなように、PLLが位相ロック状態にあること、又は位相ロック状態にないことを決定するために、多数の種々の構成を使用することができる。これらの種々の構成は、本発明の範囲から逸脱するものではない。
【0041】
図1のPLLでは、ループ利得は、フィードバック・ループ内にある任意のステージ又はコンポーネントに取り込み又は転送することができる。本発明に従って、PLLの全体的なループ利得を調整するための場所として、チャージ・ポンプ362が選択された。というのは、VCO内で利得を直接的に調整するか又はPFD350内で利得を調整する場合と比較すると、チャージ・ポンプ362において利得を追加する方がPLLを一層良好に制御できることが分かったからである。全体的なループ利得に対するチャージ・ポンプ362の利得の影響は、次のPLLの閉ループ伝達関数によって表される。
【数1】

【0042】
利得制御モジュール302は、一方の入力信号(fref306又はfVCO 304)が他方の入力信号より進んでいるか又は遅れているかという情報を供給する、PFD 350からの信号を使用する。PFD350は、排他的論理和(XOR)ゲート352として実装される位相差センサと、Dフリップフロップ354として実装される進み−遅れセンサと、遅延モジュール356と、2つのANDゲート358及び360として実装されるステアリング論理とを含む。
【0043】
動作中、XORゲート352は、fref信号306とVCO信号fVCO 304との間の位相差を測定し、その出力上に位相差期間信号を供給して、fref 信号306の立ち上がりエッジがfVCO信号304の立ち上がりエッジより進んでいるか又は遅れているかを指示する。Dフリップフロップ354は、2つの出力信号を有する。一方の出力信号Qは、fref信号306がfVCO 信号304より遅れている場合に論理ハイとなり、他方の出力信号Qbは、fref 信号306がfVCO信号304より進んでいる場合に論理ハイとなる。fref 信号306及びfVCO 信号304が異なる論理レベルを有するか又は異なる状態にある場合、XORゲート352は、論理ハイ出力を生成する。この論理ハイ出力は、fref信号306とfVCO 信号304との間に位相差が存在する期間を指示する。Dフリップフロップ354は、fVCO 信号304の立ち上がりエッジがfref信号306の立ち上がりエッジより進んでいるか又は遅れているかを決定する。従って、Dフリップフロップ354は、fref 信号306がfVCO信号304より遅れている場合は、Q出力上に論理ハイ出力を生成し、fVCO 信号304がfref 信号306より遅れている場合は、Qb出力上に論理ハイ出力を生成する。Dフリップフロップ354のこれらの出力は、ANDゲート320及び322を駆動するために使用することができる。
【0044】
Dフリップフロップ354のQ出力が論理ハイである場合、Dフリップフロップ354のQb出力は論理ローであり、その逆も同様である。従って、XORゲート352の出力は、fref信号306とfVCO 信号304との間に位相差が存在する期間を表すパルスを供給する。一方、Dフリップフロップ354は、fVCO信号304がfref 信号306より進んでいる場合は、第1の出力上に利得制御モジュール302への第1のステアリング信号を供給し、fVCO信号304がfref 信号306より遅れている場合は、第2の出力上に利得制御モジュール302への第2のステアリング信号を供給する。
【0045】
従って、ANDゲート320の出力は、fref信号306がfVCO 信号304より遅れている場合に、一のカウントを早いカウンタ(Cα,early)324に導く。というのは、この場合は、fVCO 信号304の立ち上がりエッジが、fref 信号306の立ち上がりエッジよりも早く出現するからである。これに対し、ANDゲート322の出力は、fref信号306がfVCO 信号304より進んでいる場合に、一のカウントを遅いカウンタ(Cα,late )326に導く。というのは、この場合は、fVCO信号304の立ち上がりエッジが、fref 信号306の立ち上がりエッジよりも遅く出現するからである。ANDゲート358及び360の出力は、進み又は遅れ信号の大きさ指標をチャージ・ポンプ362に供給することにより、チャージ・ポンプ362が供給する電流を増大又は減少すべきかを指示する。その結果、位相ロック状態を確立するように、fVCO信号304(VCO信号)の周波数が増加又は減少されることになる。
【0046】
前述のように、Dフリップフロップ354の出力Q及びQbは、サンプリング・ラッチ314、316、並びにANDゲート318によって取得されたジッタ指示信号が、早く出現するfVCO信号304の立ち上がりエッジに関係する場合は、ANDゲート320を通して、当該ジッタ指示信号を早いカウンタ324に導き、前記ジッタ指示信号が、遅く出現するfVCO信号304の立ち上がりエッジに関係する場合は、ANDゲート322を通して、当該ジッタ指示信号を遅いカウンタ326に導くことを可能にする。もし、Q=1及びQb=0であれば、早いカウンタ324のD入力に接続されたANDゲート320の出力が論理ハイとなり、ANDゲート322の出力が論理ゼロとなる。一方、Q=0及びQb=1であれば、遅いカウンタ326に接続されたANDゲート322の出力が論理ハイとなり、ANDゲート320の出力が論理ゼロとなるであろう。早いカウンタ324及び遅いカウンタ326は、fref信号306の立ち下がりエッジでクロックされる。fref 信号306の立ち下がりエッジは、サンプリング・ラッチ314及び316の遅延に対応して、早いカウンタ324及び遅いカウンタ326の入力における正確なセットアップ時間を保証するために使用することができる。
【0047】
早いカウンタ324は、「早い」インターバル0<τjitter<τD1の間に、fVCO 信号304の立ち上がりエッジの出現回数をカウントする。これに対し、遅いカウンタ326は、「遅い」インターバル0<τjitter<τD2の間に、fVCO 信号304の立ち上がりエッジの出現回数をカウントする。サイクル・カウンタ(Cβ )328は、fref 信号306の各立ち上がりエッジでインクリメントすることができる。早いカウンタ324のカウント値ValCα,early、遅いカウンタ326のカウント値ValCα,late及びサイクル・カウンタ328のカウント値ValCβ は、Mビット幅のバスを介して評価論理モジュール330に供給され、そこで前記カウント値ValCα,early 及びValCα,lateに基づいてチャージ・ポンプ362の利得設定が制御される。
【0048】
利得制御モジュール302によって使用可能な真理値表は、以下の表1に示す通りである。一般に、表1は、異なる遅延設定に基づいたカウンタの更新を示す。表1に示すように、諸入力、並びにDフリップフロップ354及びANDゲート318の対応する出力に応答して、早いカウンタ324及び遅いカウンタ326をインクリメントすることにより、PLLシステム内のジッタに関する統計値を取得することができる。
【表1】

【0049】
以下の表2及び表3は、ジッタ統計値に基づいてPLL内の利得を制御する方法の1つの例であるに過ぎない。表2及び表3に示した例では、評価論理モジュール330による評価をトリガするサイクルの数は、2=128サイクル(以下「ValCβ,max 」と称する)に設定されている。しかし、このカウントを変更することにより、取得したジッタ統計値の精度を最大化することと、ジッタ統計値に基づく制御修正の応答時間とをバランスさせることができる(すなわち、サンプル時間が大きくなると、正確なジッタ・データが取得されるのに対し、応答時間が許容不能ほど遅くなる)。言い換えれば、より大きなサンプルは、信頼性がより高い統計値を取得することを可能にするが、制御応答時間を遅くするであろう。
【0050】
前述のように、サイクル・カウンタ328によって決定されるサイクル・カウントValCβ が予定数に達した場合、評価論理モジュール330は、早いカウンタ324及び遅いカウンタ326からカウント値ValCα,early 及びValCα,lateを検索する。フィードバック・ループ信号に関するジッタ統計値を提供するために多数の方法で使用することができる、これらのカウント値に応答して、評価論理モジュール330は、チャージ・ポンプ362を制御する。他の実施形態では、予定期間の動作の後、(サイクル・カウンタ328に類似する)タイマは、活性化信号を評価論理モジュール330に送り、そして評価論理モジュール330は、前記カウント値ValCα,early 及びValCα,lateを評価することにより、ジッタ統計値を取得することができる。
【0051】
前述のように、サイクル・カウンタ328が使用され且つそのカウント値ValCβ が予定の値ValCβ,max に達した場合、評価論理モジュール330は、早いカウンタ324及び遅いカウンタ326によって供給されるカウント値を評価する。これらのカウント値を評価した後、チャージ・ポンプ362を調整するために、以下の表2及び表3に示す情報を使用して利得設定の調整又は対応する更新を行うことができる。かかる調整の後に、全てのカウンタ324、326及び328がゼロにリセットされると、本プロセスは、新しいカウント/評価セッションを開始することができる。
【0052】
表2及び表3のルックアップ・テーブルは、チャージ・ポンプ362内の電流源370、372、374、376、378及び380(370〜380)のうち、幾つの電流源又はどの電流源をオン又はオフに切り替えるかを規定し、従ってこれを使用することにより、ループ利得の適切な調整を提供することができる。表2では、Ixp/nという表記は、Ixp 及びIxn を意味する。これらの記号Ixp 及びIxnは、チャージ・ポンプ362内の電流源370〜380の表記に対応する(図3を参照)。前述のように、表2及び表3は、利得及び電流源の制御方法を例示するに過ぎないから、テーブル・データの任意の変形は、本発明の範囲から逸脱するものではない。さらに、評価論理モジュール330からの出力として、電流源用のデジタル制御信号に代えて可変の電圧レベル出力を供給することができるから、かかる実施形態も、本発明の範囲から逸脱するものではない。以下の表2及び表3は、チャージ・ポンプ362の利得設定を調整するために評価論理320によって使用することができる、2つの可能な実施形態又はルーチンを例示する。1つの実施形態では、カウンタ324、326及び328は、必要とされるカウント値を供給するために7ビット幅のカウンタである。
【表2】

【0053】
表2では、電流源370〜380を活性化することにより、チャージ・ポンプ362の利得を調整するために、前記カウント値ValCα,early 及びValCα,lateの和が評価される。この和が値ValCβ,max(評価をトリガするサイクルの数で、ここでは2=128とする)に接近するほど、fVCO 信号304上で検出されるジッタが少なくなり、チャージ・ポンプ362を調整する必要も少なくなる。また、適切な遅延(τD1 及びτD2)を使用すると、前記カウント値ValCα,early 及びValCα,lateの和が値ValCβ,max に接近するほど、潜在的なループ・フィルタの漏洩によって作成されているジッタが少なくなることが分かった。しかし、前記カウント値ValCα,early 及びValCα,lateの和は、一般に遅延τD1 及びτD2のサイズに依存するから、改良された動作については、これらの遅延を調整することができる。τα1 及びτα2 がτβに接近するほど、又はτD1 及びτD2がτβ に接近するほど、ピークピーク・ジッタ検出インターバルが小さくなり、そしてfVCO 信号304上のジッタを有するエッジがこのインターバルの外部で出現することが多くなり、従って検出されなくなる。従って、より小さなサンプリング遅延(τα1及びτα2 )を使用すると、早い出現回数及び遅い出現回数(ValCα,early+ValCα,late )のより小さな値を期待することができる。
【0054】
一般に、サンプリング遅延がより大きくなると、ジッタ・カウントがより大きくなるであろう。表2に示すように、前記カウント値の和ValCα,early +ValCα,late の値がより小さくなると、チャージ・ポンプ362内のより多くの電流源が活性化され、その結果、全体的なループ利得を増加させる。これに対し、前記カウント値の和ValCα,early +ValCα,late の値がより大きくなると、チャージ・ポンプ362内のより少ない電流源が活性化され、又はより多くの電流源が非活性化され、その結果、全体的なループ利得を減少させる。表3は、洗練化されたループ利得の他の調整方法を開示し、そこでは前記カウント値ValCα,early 及びValCα,lateの間の差に基づいてループ利得の調整が行われる。前記カウント値ValCα,early 及びValCα,late の間の差は、チャージ・ポンプ362のミスマッチを指示し、この決定に基づいて、ループ利得調整を洗練化することができる。
【表3】

【0055】
表3は、カウント差が存在する場合、fVCO信号304のエッジ統計値内に潜在的な「早い」又は「遅い」オーバハングが存在することを例示する。かかるカウントは、PLL内の潜在的なチャージ・ポンプのミスマッチの指示となり得ることが分かった。このミスマッチ現象は、個々の電流モジュール(370〜374)によって供給される電流が対応する電流シンク(376〜380)によって供給される電流とマッチしないというものであって、しばしば制御不能な製造上の公差及びばらつきのために生じる。一般にN/Pミスマッチと称するこの現象が生じるのは、N型金属酸化物半導体電界効果トランジスタ(MOSFET)装置及びP型MOSFETが、異なるプロセスによって同じウェーハ上に製造される場合である。表3に例示するように、カウント差は、チャージ・ポンプ362内の追加の電流源/シンクを非対称的にオン/オフに切り替えることにより、チャージ・ポンプ362内でマッチングを確立するために使用することができる。例えば、1つの実施形態では、前記カウント値の和ValCα,early +ValCα,late の値が「49・・・72」の範囲内にあり、そして前記カウント値の差ValCα,early −ValCα,late の値が−4及び−1の間にあれば、3つの追加のn型電流源がオンに切り替えられるが、2つの追加のp型電流源だけがオンに切り替えられ,その結果、バイアス電流が一致することになる。
【0056】
一般に、サンプリング・クロックは、チャージ・ポンプ363のミスマッチによって生ぜられるfVCO信号304の最大許容ピークピーク・ジッタのインターバルを定義する。そうすると、fVCO,D 信号の立ち上がりエッジが、指定された最大ピークピーク・ジッタ・インターバル内で出現するか否かを決定することができる。負のカウント差は、チャージ・ポンプ362の潜在的なミスマッチを指示する。その場合、電流モジュール370〜380と総称する、電流源370〜374(p型)及び電流シンク376〜380(n型)を選択的に活性化することによって、マッチングを確立することができる。当業者には明らかなように、fVCO信号304上のジッタは、遅延τα1 及びτα2 に関する種々の時点で生じ得る。
【0057】
図4は、図3の遅延モジュール312の実施形態を例示する。図3の遅延モジュール308及び310も、図4の遅延モジュール312の実施形態と同様に実装することができる。各遅延モジュールは、複数のインバータ・ステージを縦続接続して実装され、適切に制御される場合、その出力上にその入力信号の可変の遅延を与えることができる。可変の容量性負荷336及び338を有するインバータ332及び334は、遅延モジュールを実装するための1つの方法を例示する。図4には、2つのステージ又は2つのインバータだけが示されているが、システムに対し所望の遅延を与えるために、各々が種々の遅延時間を有する任意の数のインバータを使用することができる。1つの実施形態では、容量性負荷336及び338は、評価論理モジュール330から線340を介して供給される制御ワードWctrlによってデジタル的に調整することができる。
【0058】
図5〜図10は、ジッタが生じる場合の時間関係に基づいて、少なくとも幾つかの可能なタイミングの組み合わせ及び各カウンタに供給される論理値出力を示す。
【0059】
図5は、ジッタの量が0<τjitter <τD1 によって制限されるケース(402)を示す。図6は、ジッタの量が0<τjitter <τD2 によって制限されるケース(502)を示す。図7は、τjitter >τD1 であるケース(602)を示す。図8は、τjitter >τD2 であるケース(702)を示す。図9は、τjitter +τD1 >Trefであるケース(802)を示す。図10は、τjitter +τD2 <Tref であるケース(902)を示す。さらに、図5〜図8は、τjitter +τD1 /τD2 <Tref である場合の異なる信号パターンを示し、図9及び図10は、τjitter +τD1 /τD2 >Tref である場合の異なる信号パターンを示す。図5〜図10には、fref信号306とfVCO 信号304との間の重要なタイミング・パターンが示されている。すなわち、図5〜図10では、ジッタのタイミング(402、502、602、702、802及び902)の直下に、fVCO信号304に関するfref 信号306のタイミング関係が示されている。図5及び図6(0<τjitter<τD1 及び0<τjitter<τD2 )では、サンプリング・ラッチによってサンプルsD1 =0及びsD2=1が取得される。
【0060】
0<τjitter <τD1 (早いケース)及び0<τjitter <τD2 (遅いケース)を識別するために、PFDを構成するDフリップフロップの出力信号Q及びQbは、利得制御モジュールのステアリング論理(ANDゲート)に供給される。早いケース(0<τjitter <τD1 )は、Q=1及びQb=0のPFD出力信号を供給し、遅いケース(0<τjitter <τD2 )は、Q=0及びQb=1のPFD出力信号を供給する。図3を参照して説明したように、サンプリング・ラッチの出力sD1及びsD2 は、2入力ANDゲート318(I6)に供給され、その出力は、サンプリング・ラッチからのカウントを早いカウンタ又は遅いカウンタに導く、2つのANDゲート320及び322(I8、I9)に供給される。
【0061】
図5及び図6に示すケース(0<τjitter <τD1,2 であり且つτjitter +τD1,2 <Tref)については、ANDゲート318(I6)の出力は、常に論理ハイである。前述の分析は、τjitter<τD1/2 及びτjitter+τD1,2 <Tref であることを仮定している。しかし、fVCO信号304上にτjitter の高い値が存在すれば、この仮定は妥当でないことがある。また、前記条件τjitter +τD1,2 <Trefは、τD1/2 の高い値によって成立しないことがある点に留意されたい。当業者には明らかなように、ループ利得制御モジュール302の1つの機能は、PLLの位相ロック状態の間に、潜在的なループ・フィルタの漏洩又はチャージ・ポンプのミスマッチを自動的にモニタし且つこれを修正することである。前述のように、論理モジュールは、ジッタ・データの結果に基づき、τD1/2 を設定することができる。当業者には明らかなように、τD1/2は、Tref に近い大きさを有するように設定すべきでない。前記条件τjitter+τD1,2 <Tref に違反するのが主としてτjitter の高い値であって、τD1,D2の不適当な選択ではないという仮定が妥当である場合は、τD1/2 をTrefの整数分の1に設定することにより、所望の性能を提供することができる。
【0062】
図7は、τjitter が予定のピークピーク・ジッタ・インターバルτD1より大きい場合に生じ得るケースを示す。τjitter >τD1 であり且つτjitter+τD1 <Tref であれば、サンプリング・ラッチの出力は、sD1=1及びsD2 =1となることがある。図8には、条件τjitter >τD2及びτjitter +τD2<Tref が示されており、そこではサンプリング・ラッチの出力がsD1 =0及びsD2 =0となる。図9及び図10に示すように、τjitter の大きさがTref <τjitter+τD1/2 <2*Trefと同じくらいのケースは、サンプリング・ラッチの出力をsD1 =1及びsD2 =0に変更するであろう。一般に、図9は早い構成を示し、図10は遅い構成を示す。これらの構成では、sD1=1及びsD2 =0であり、ANDゲート318(I6)の出力が論理ゼロに留まるために、カウンタはインクリメントされない。
【0063】
図7〜図10のケースでは、予定のピークピーク・ジッタ・インターバルの間にジッタが検出されないために、早いカウンタ324又は遅いカウンタ326は、インクリメントされないが、サイクル・カウンタ328は、fref信号306のサイクルによって常にインクリメントされる。補足すれば、図7〜図10のケースにおいて早いカウンタ324 又は遅いカウンタ326がインクリメントされないのは、ANDゲート318(I6)が、1つの反転入力を有し、そしてこのANDゲート318の出力は、sD1=0及びsD2 =1である場合にのみ論理1となるからである。sD1 =0及びsD2 =1は、図5及び図6に示すように、τjitterが予定のピークピーク・ジッタ・インターバル内にあるようなケースに対応する。sD1 及びsD2 の他の全ての組み合わせ(すなわち、τjitterがτD1 又はτD2 より大きい場合のsD1 及びsD2 の組み合わせ)では、ANDゲート318の出力はゼロであり、従って、ANDゲート320(I8)及び322(I9)の出力も同様にゼロであるから、早いカウンタ324及び遅いカウンタ326のインクリメントが禁止されることになる。
【0064】
ANDゲート(図3の318)は、反転入力を有する。従って、τjitter +τD1/2 >Trefである場合、サンプリング・ラッチの出力は、異なる値を有するであろう。この条件は、ANDゲート318がその出力上に論理「1」を供給するように、ANDゲート318をオンに転ずることができる。しかし、ジッタが非常に高く、その結果、τjitter +τD1/2 >2*Tref となれば、図5及び図6に示す論理レベルが再び適用され、その結果、ジッタの誤検出に結びつくことがある。このような場合、PLLは、一般にサイクル・スリップに遭遇し、これが生じるとき、PLLはその位相ロック状態から外れるであろう。利得制御モジュールは、PLLが位相ロックされていないことを指示する入力を受け取り、ジッタ分析結果又はジッタ・データは無視するように構成することができる。1つの実施形態では、かかる望ましくない誤検出の状況をサイクル・スリップ又はロック検出器によって検出し、その検出結果に応じて、早いカウンタ324及び遅いカウンタ326の誤ったインクリメントを禁止することができる。ロック検出器は、種々の方法で実装することができる。かかる実装は、本発明の範囲から逸脱するものではない。
【0065】
図11は、ループ利得制御モジュールの機能原理を例示するフローチャートである。ブロック1001では、システム内の全てのカウンタをリセットする。ブロック1002では、一のカウンタによってfVCO信号のクロック・サイクルをカウントし、ジッタ・データを取得する。ブロック1003では、クロック・サイクルのカウントが予定数に達したか否かを決定する。もし、サイクル・カウントが予定数に達していないと決定すれば、本プロセスは、ブロック1002に戻り、そこでクロック・サイクルのカウント動作を継続する。一方、サイクル・カウントが予定数に達していると決定すれば、ブロック1004で、取得したジッタ・データを評価する。ジッタ・データの評価は、特定のインターバル中にジッタが出現しないサイクルをカウントし且つカウントされたジッタをサイクルの数と比較することを含むことがある。
【0066】
ブロック1005では、ジッタが許容可能であるか否かを決定する。もし、ジッタの量が許容可能であると決定すれば、本プロセスは終了する。一方、ジッタが許容不能であると決定すれば、ブロック1006では、前述の表に従ってループ利得を調整する。検出されたループ・フィルタの漏洩及びチャージ・ポンプのミスマッチを補償するために、チャージ・ポンプの利得を適応的に調整することができる点に留意されたい。
【0067】
ブロック1007では、ジッタ・データを取得する際に使用される遅延が許容可能であるか否かを決定する。もし、これらの遅延が許容可能であると決定すれば、本プロセスは、ブロック1001に戻る。一方、これらの遅延が許容不能であると決定すれば、本プロセスは、ブロック1008で、これらの遅延を調整する。これらの遅延を調整した後、本プロセスは、ブロック1001に戻る。
【0068】
本明細書に開示した各プロセスは、ソフトウェア・プログラムで実装することができる。かかるソフトウェア・プログラムは、パーソナル・コンピュータ、サーバ等の任意のタイプのコンピュータ上で稼働することができる。任意のプログラムは、種々の信号担持媒体上に保持することができる。かかる信号担持媒体は、(1)非書き込み可能な記憶媒体(例えば、CD−ROMドライブによって読み取り可能なCD−ROMディスクのようなコンピュータ内の読み取り専用メモリ装置)上に永久的に格納された情報、(2)書き込み可能な記憶媒体(例えば、ディスク・ドライブ内のフレキシブル・ディスク)上に格納された変更可能な情報、(3)コンピュータ、電話ネットワーク、無線通信を含む通信媒体によってコンピュータに伝えられる情報を含むが、これに限定されない。後者の実施形態は、インターネット、イントラネット又は他のネットワークからダウンロードされる情報を含む。かかる信号担持媒体は、本発明の機能を実現するためのコンピュータ可読命令を担持する場合、本発明の実施形態を表す。
【0069】
開示された実施形態は、完全にハードウェアの実施形態、完全にソフトウェアの実施形態又はソフトウェア及びハードウェア要素の両方を含む実施形態の形式を取ることができる。好ましい実施形態では、本発明は、ソフトウェアの形式(ファームウェア、常駐ソフトウェア、マイクロコード等を含む)で実装される。さらに、本発明は、コンピュータ又は任意の命令実行システムに関連して又はこれらによって使用するためのプログラム・コードを提供する、コンピュータ使用可能媒体又はコンピュータ可読媒体からアクセス可能なコンピュータ・プログラムの形式を取ることができる。この記載の目的上、コンピュータ使用可能媒体又はコンピュータ可読媒体は、前記命令実行システム又は装置に関連して又はこれらによって使用するためのプログラムを保持し、格納し、通信し、伝送し、移送することができる、任意の装置とすることができる。
【0070】
媒体は、電子、磁気、光学、電磁気、赤外線、半導体式のシステム又は伝搬媒体とすることができる。コンピュータ可読媒体の例は、半導体又は固体メモリ、磁気テープ、取り外し可能なフレキシブル・ディスク、ランダム・アクセス・メモリ(RAM)、読み取り専用メモリ(ROM)、剛体磁気ディスク及び光ディスクを含む。光ディスクの例は、読み取り専用のCD−ROM、読み書き可能なCD−R/W及びDVDがある。プログラム・コードを格納及び/又は実行するのに適したデータ処理システムは、システム・バスを通してメモリ要素に直接的又は間接的に結合された少なくとも1つのプロセッサ、論理又は状態機械を含む。これらのメモリ要素は、プログラム・コードの実行中に使用されるローカル・メモリ、バルク・ストレージ、プログラム・コードの実行中にバルク・ストレージからの取り出し回数を減少させるために少なくとも或るプログラム・コードの一時的記憶領域を提供するキャッシュ・メモリを含む。
【0071】
I/O装置(キーボード、ディスプレイ、ポインティング装置等を含む)は、システムに対し直接的に又は介在するI/Oコントローラを通して結合することができる。また、ネットワーク・アダプタをデータ処理システムに対し結合することもできる。そのようにすると、当該データ処理システムは、介在する専用又は公衆ネットワークを通して、他のデータ処理システム、遠隔プリンタ又は記憶装置に結合されるようになる。ネットワーク・アダプタの例には、モデム、ケーブル・モデム及びイーサネット(登録商標)・カード等がある。
【0072】
当業者には、本発明が位相ロック・ループ用の利得制御モジュールを提供する方法、システム及び媒体を意図することは明らかであろう。本明細書及び図面に開示され且つ詳述された本発明の形式は、単なる例であるとして理解されたい。以下の請求項は、開示された実施形態の全ての変形を包含するように広く解釈されることが意図される。
【符号の説明】
【0073】
100・・・・・・・2ステージPLL
102・・・・・・・第1ステージ
104・・・・・・・第2ステージ
106・・・・・・・フィード・フォワード位相周波数検出器(FFPFD)
108・・・・・・・位相周波数検出器(PFD)
110、120・・・チャージ・ポンプ
112・・・・・・・狭帯域フィルタ
114、124・・・電圧制御発振器(VCO)
116、125・・・1/N1分周器
118、128・・・1/N2分周器
122・・・・・・・広帯域フィルタ
130・・・・・・・低周波数の基準信号
132、134・・・フィードバック・ループ
136・・・・・・・高周波数の基準信号
138・・・・・・・利得制御モジュール
200・・・・・・・フィード・フォワード・パスの一部
202・・・・・・・位相周波数検出器(PFD)
204・・・・・・・チャージ・ポンプ
206・・・・・・・遅延モジュール
208・・・・・・・比較モジュール
210・・・・・・・利得分析モジュール
212・・・・・・・電流調整モジュール
214・・・・・・・電圧制御発振器(VCO)
216・・・・・・・利得制御モジュール
300・・・・・・・PLLの一部
302・・・・・・・利得制御モジュール
304・・・・・・・電圧制御発振器(VCO)信号
306・・・・・・・高周波数の基準信号
308〜312・・・遅延モジュール
314、316・・・サンプリング・ラッチ
318〜322・・・ANDゲート
324・・・・・・・早いカウンタ(Cα,early
326・・・・・・・遅いカウンタ(Cα,late
328・・・・・・・サイクル・カウンタ(Cβ
330・・・・・・・評価論理モジュール
350・・・・・・・位相周波数検出器(PFD)
352・・・・・・・XORゲート
354・・・・・・・Dフリップフロップ
356・・・・・・・遅延モジュール
358、360・・・ANDゲート
362・・・・・・・チャージ・ポンプ
370〜380・・・電流源
382・・・・・・・位相ロック検出器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基準信号及び位相ロック・ループ・フィードバック信号を受け取るステップと、
前記位相ロック・ループ・フィードバック信号の特性を取得して、取得済みの特性を作成するステップと、
前記取得済みの特性に基づいて、アップ−ダウン制御信号を生成するステップと、
前記取得済みの特性に基づき、前記アップ−ダウン制御信号とは別個の利得制御信号を使用して利得を制御するステップと、
前記利得制御信号を発振器コントローラの第1の入力に供給するステップと、
前記利得制御信号を前記発振器コントローラの第2の入力に供給するステップとを含む、位相ロック・ループを制御する方法。
【請求項2】
前記位相ロック・ループが位相ロックされていないと決定することに応答して、予定量の利得を有する第1の利得制御信号を前記発振器コントローラに適用するステップと、
前記位相ロック・ループが位相ロックされていると決定することに応答して、予定量の利得を有する第2の利得制御信号を前記発振器コントローラに適用するステップとをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記取得済みの特性が位相ロックを指示する場合は、前記利得が選択的に減少される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記取得済みの特性が電圧制御発振器からのジッタを指示する場合は、前記利得が選択的に減少される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記取得済みの特性がチャージ・ポンプのミスマッチを指示する場合は、電流モジュールが制御される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
取得済みの特性を作成する前記ステップが、前記位相ロック・ループ・フィードバック信号のジッタに関する統計値を取得するステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記位相ロック・ループ・フィードバック信号及び前記基準信号を遅延させて、前記位相ロック・ループ・フィードバック信号の最大許容ピークピーク・ジッタのインターバルを定義するステップと、
前記遅延された位相ロック・ループ・フィードバック信号の立ち上がりエッジが最大許容ピークピーク・ジッタの前記インターバル中に出現するか否かをチェックするステップとをさらに含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
統計値を取得する前記ステップが、早いジッタの出現回数をカウントし、遅いジッタの出現回数をカウントし、サイクルをカウントすることを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
統計値を取得する前記ステップが、カウントされた予定数のサイクルに応答して前記早いジッタ及び前記遅いジッタを評価することを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記遅延された位相ロック・ループ信号及び前記遅延された基準信号のタイミングを調整するステップをさらに含む、請求項6に記載の方法。
【請求項11】
基準信号に対し第1の遅延を与えるための第1の遅延モジュールと、
位相ロック・ループ・フィードバック信号に対し前記第1の遅延より大きな第2の遅延を与えるための第2の遅延モジュールと、
前記遅延された位相ロック・ループ・フィードバック信号のエッジとは異なった時点に出現する、前記遅延された基準信号のエッジの出現回数をカウントするための第1のカウンタと、
前記出現回数のカウントを評価し且つ当該評価されたカウントに応答して利得制御出力を供給するための評価論理モジュールとを備える、利得制御装置。
【請求項12】
サイクルをカウントし且つ当該カウントされたカウントが予定数に達する場合に前記評価論理モジュールを活性化するためのサイクル・カウンタをさらに備える、請求項11に記載の装置。
【請求項13】
前記基準信号に対し前記第2の遅延より大きな第3の遅延を与えることにより、第2の遅延された基準信号を供給するための第3の遅延モジュールをさらに備え、前記第2の遅延された基準信号を前記遅延されたフィードバック信号と比較することにより、遅いフィードバック信号が検出される、請求項11に記載の装置。
【請求項14】
第2のカウンタをさらに備え、前記第1のカウンタが前記第1の遅延された基準信号の早い出現回数をカウントし、前記第2のカウンタが前記第2の遅延された基準信号の遅い出現回数をカウントする、請求項13に記載の装置。
【請求項15】
基準信号及び位相ロック・ループ・フィードバック信号を受け取り、発振器によって使用される増加出力信号及び減少出力信号のうちの1つを供給するための位相周波数検出器と、
前記基準信号及び前記位相ロック・ループ・フィードバック信号を受け取り、前記位相ロック・ループ・フィードバック信号及び前記基準信号に関係するデータを取得し、前記データに応答して利得を制御する出力信号を供給するための利得制御モジュールと、
前記利得制御モジュールの前記出力を受け取り、前記利得制御モジュールの前記出力信号に基づいて出力を供給するための、調整可能な利得を有するチャージ・ポンプとを備える、位相ロック・ループ・システム。
【請求項16】
前記チャージ・ポンプの前記出力を受け取り、前記チャージ・ポンプの前記出力に応答して発振周波数を変更するための発振器をさらに備える、請求項15に記載のシステム。
【請求項17】
前記利得制御モジュールが、ジッタの出現回数に関するデータを取得するためのカウンタを含む、請求項15に記載のシステム。
【請求項18】
前記基準信号が、第1ステージの位相ロック・ループによって生成される、請求項15に記載のシステム。
【請求項19】
前記位相ロック・ループが位相ロックされる場合に、前記位相周波数検出器から前記チャージ・ポンプに利得を切り替えるためのスイッチをさらに備える、請求項15に記載のシステム、
【請求項20】
前記基準信号が、1.5ギガヘルツを超える周波数で動作する、請求項15に記載のシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公表番号】特表2010−509818(P2010−509818A)
【公表日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−535656(P2009−535656)
【出願日】平成19年10月10日(2007.10.10)
【国際出願番号】PCT/EP2007/060782
【国際公開番号】WO2008/055755
【国際公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【出願人】(390009531)インターナショナル・ビジネス・マシーンズ・コーポレーション (4,084)
【氏名又は名称原語表記】INTERNATIONAL BUSINESS MASCHINES CORPORATION
【Fターム(参考)】