説明

位相差フィルムの製造方法

【課題】高い遅相軸方向精度をもった位相差補償フィルムを提供する。
【解決手段】 横延伸フィルム1を、連続的に5.0m/minの一定巻き出し速度で巻き出しながら、上流側ニップロールと下流側ニップロール間に設置された延伸装置内に搬送した。延伸装置は図1に示すように、一対の上流側ニップロール2,2と一対の下流
側ニップロール3,3との間の空間を上流側から順次、予熱ゾーン4、縦延伸ゾーン5、
冷却ゾーン6の3ゾーンに区画し、さらに縦延伸ゾーン5を長さ2mの上流縦延伸区画5aと長さ2mの下流縦延伸区画5bの2つに区画し、これらのゾーン内に横延伸フィルム1を順次、連続的に通過させた。予熱ゾーン4、上流縦延伸区画5a、下流縦延伸区画5b、冷却ゾーン6内の温度をそれぞれ、横延伸フィルムの温度が155、163、162、110℃になるように調整して、縦延伸倍率1.15にて横延伸フィルムを縦延伸した。こうして位相差フィルムを得た。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示装置のコントラスト及び視野角の改善に用いられる位相差フィルムの製造方法に関し、より詳しくは樹脂フィルムをその横方向に延伸してなる横延伸フィルムを、更に縦方向に延伸する、所謂逐次二軸延伸法による位相差フィルムの製造方法の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶表示装置が、パーソナルコンピュータの表示装置等として広く普及してきており、その一つにTN(Twisted Nematic)モード液晶表示装置がある。しかしながら、
TNモード液晶表示装置は、視野角が狭すぎると共に応答速度が遅いといった問題点があった。そこで、TNモード液晶表示装置のような旋光モードではなく、複屈折モードを利用したVA(Vertical Alignment:垂直配向)モード液晶表示装置が提案されている。こ
のVAモード液晶表示装置としては、液晶セルを構成する基板内面に傾斜面を有する突起等からなるドメイン規制手段を設け、このドメイン規制手段によって液晶分子の配向方向を2方向以上に分割して、液晶セルを通過してくる光量を均一化させることによって、見込み角度によって表示輝度が大きく異なる視野角依存性を改善したMVA(Multi-domain
Vertical Alignment)モード液晶表示装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、同様の垂直配向モードとしてはASV(Advanced Super View)モードやPVA(Patterned Vertical Alignment)モード等も挙げられる。
【0004】
しかしながら、上記VAモード液晶表示装置であっても、液晶表示面の法線に対して斜め45°から液晶表示面を見ると、やはりコントラストが低下するといった問題点があり、この視野角依存性を改善するために位相差フィルムが用いられている。
【0005】
このような位相差フィルムとしては、従来、ポリカーボネートやポリサルホンに代表される高透明性及び高耐熱性の合成樹脂からなるフィルムが用いられてきたが、上記特性に加えて、光弾性係数、波長分散性及び水蒸気透過率等の特性にも優れた環状オレフィン系樹脂フィルムを位相差フィルムに適用することが考えられる。
【0006】
上記位相差フィルムを用いた液晶表示装置として、例えば、特許文献2には、特定の光弾性係数、リタデーションの値をもつ上記の合成樹脂フィルムからなる二軸性位相差フィルムを用いた液晶表示装置が開示されている。
【0007】
一方、二軸性位相差板と貼合される偏光板は、通常、その長さ方向に吸収軸が形成された上でロール状に巻回されており、液晶表示装置を組み立てるために、偏光板と位相差フィルムとを貼り合わせるに当たっては、偏光板の吸収軸と位相差フィルムの遅相軸とを直交させた状態で重ね合わせる必要がある。
【特許文献1】特許第3330547号公報
【特許文献2】特開平11−95208号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このような場合、二軸性位相差板の遅相軸方向を横方向とすることにより、偏光板と位相差板の連続貼合が実現できるが、位相差板の遅相軸方向精度が全面にわたり精度良く発現していないと、偏光板吸収軸と位相差板遅相軸が直交しなくなり、液晶セルと組み合わ
せた場合に視野角補償が十分でなくなったり、コントラストの低下を招くといった問題が生じることがあった。
【0009】
本発明の目的は、上記問題点に鑑み、高い遅相軸方向精度をもった位相差補償フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明による位相差フィルムの製造方法は、環状オレフィン系樹脂フィルムをその横方向(幅方向)に延伸してなる横延伸フィルムを、更に縦方向(長さ方向)に延伸する、所謂逐次二軸延伸法において、縦延伸時のフィルム温度を調整することを特徴とする位相差フィルムの製造方法に関するものである。
【0011】
すなわち、請求項1による位相差フィルムの製造方法は、環状オレフィン系樹脂フィルムをその横方向に延伸してなる横延伸フィルムを次いで縦方向に延伸するに当たり、縦延伸ゾーンを通過するフィルムの温度がフィルムの下流にいくにつれて下がるように同ゾーンに温度勾配をつけることを特徴とする位相差フィルムの製造方法である。
【0012】
請求項2による位相差フィルムの製造方法は、縦延伸ゾーン内をフィルムの通過方向に連なる複数の区画(F1、F2・・・Fn)に分け、各区画におけるフィルム温度(T1、T2・・・Tn)がT1≧T2≧T3・・・≧Tn(但し、T1>Tn)の関係を満たし、且つフィルムの最下流の区画(Fn)におけるフィルム温度(Tn)がTn(℃)≧Tg-1(℃)(Tgは該フィルムを構成する環状オレフィン系樹脂のガラス転移温度である)の関係を満た
すことを特徴とする請求項1記載の位相差フィルムの製造方法である。
【0013】
請求項3による位相差フィルムの製造方法は、フィルムの最上流の区画(F1)におけ
るフィルム温度(T1)がTg+2(℃)以上であることを特徴とする請求項2記載の位相差フィルムの製造方法である。
【0014】
請求項4による位相差フィルムの製造方法は、該フィルムを構成する環状オレフィン系樹脂のガラス転移温度をTg(℃)、横延伸温度をTst(℃)、フィルムの最上流の区画
(F1)におけるフィルム温度をT1(℃)とするとき、Tg≦T1≦Tstの関係が成立することを特徴とする請求項2記載の位相差フィルムの製造方法である。
本発明の製造方法において、位相差フィルムを構成する環状オレフィン系樹脂は特に限定されないが、ノルボルネン系樹脂が好ましく、中でも飽和ノルボルネン系樹脂が好ましく、例えば、ノルボルネン系モノマーの開環(共)重合体の水素添加物、ノルボルネン系モノマーとオレフィン系モノマーとの付加共重合体、ノルボルネン系モノマー同士の付加(共)重合体又はこれらの誘導体等が挙げられる。これらは単独で用いられても併用されてもよい。
【0015】
上記ノルボルネン系モノマーとしては、ノルボルネン環を有するものであれば、特に限定されず、例えば、ノルボルネン、ノルボルナジエン等の二環体;ジシクロペンタジエン等の三環体;テトラシクロドデセン等の四環体;シクロペンタジエン三量体等の五環体;シクロペンタジエン四量体等の七環体が挙げられる。ノルボルネン系モノマーは置換基を有していても良い。置換基の例としてはメチル、エチル、プロピル、ブチル等のアルキル、ビニル等のアルケニル、エチリデン等のアルキリデン、フェニル、トリル、ナフチル等のアリール等の炭化水素基;エステル基、エーテル基、シアノ基、ハロゲン原子、アルコキシカルボニル基、ピリジル基、水酸基、カルボン酸基、アミノ基、無水酸基、シリル基、エポキシ基、アクリル基、メタクリル基等の極性基が挙げられる。入手が容易であり、反応性に優れ、得られる位相差フィルムの耐熱性が優れていることから、三環体以上の多環ノルボルネン系モノマーが好ましく、三環体、四環体及び五環体のノルボルネン系モノ
マーがより好ましい。ノルボルネン系モノマーは、一種が単独で使用されても二種類以上が併用されてもよい。
【0016】
上記ノルボルネン系モノマーの開環(共)重合体の水素添加物としては、上記ノルボルネン系モノマーを公知の方法で開環重合させた後、残存する二重結合を水素添加したものが広く用いられる。これは、ノルボルネン系モノマーの単独重合体の水素添加物であってもよいし、異種のノルボルネン系モノマーの共重合体の水素添加物であってもよい。
【0017】
上記ノルボルネン系モノマーとオレフィン系モノマーとの付加共重合体としては、例えばノルボルネン系モノマーとα−オレフィンとの共重合体、ノルボルネン系モノマーと環状オレフィン系モノマーとの共重合体等が挙げられる。上記α−オレフィンとしては、炭素数2〜20のα−オレフィンが好ましく、炭素数2〜10のα−オレフィンがより好ましく、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン等が挙げられ、共重合性が高いことから、エチレンが好ましく、他のα−オレフィンをノルボルネン系モノマーと共重合させる場合にも、エチレンを共存させる方が共重合性が高められる。
【0018】
上記環状オレフィン系モノマーとしては、例えば、シクロオクタジエン、シクロオクテン、シクロヘキセン、シクロドデセン、シクロドデカトリエン等が挙げられる。
【0019】
上記ノルボルネン系モノマーの開環(共)重合体を得るには、例えば、ノルボルネン系モノマーを、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金等の金属のハロゲン化物、硝酸塩又はアセチルアセトナート錯体と還元剤とからなる触媒系、又は、チタン、タングステン、モリブデン等の金属のハロゲン化物若しくはアセチルアセトナート錯体と有機アルミニウム化合物とからなる触媒系等の存在下で、溶媒中又は無溶媒で、通常、−50〜100℃の重合温度、0〜5MPaの重合圧力で開環(共)重合させる。
【0020】
上記ノルボルネン系モノマーとオレフィン系モノマーとの付加共重合体を得るには、例えば、これらのモノマー成分を、溶媒中又は無溶媒で、バナジウム化合物と有機アルミニウム化合物(好ましくはハロゲン含有有機アルミニウム化合物)とからなる触媒系の存在下で、通常、−50〜100℃の重合温度、0〜5MPaの重合圧力で共重合させる。
【0021】
なお、上記ノルボルネン系樹脂の具体例としては、特開平1−240517号公報に記載されているものが挙げられ、商業的に入手できるノルボルネン系樹脂の具体例としては、例えば、JSR社製の商品名「アートン」シリーズ、日本ゼオン社製の商品名「ゼオノア」シリーズ、三井化学社製の商品名「アペル」シリーズ等が挙げられる。
【0022】
本発明方法で用いる環状オレフィン系樹脂の数平均分子量は、小さすぎると、得られる位相差フィルムの機械的強度が低下することがあり、大きすぎると、フィルムの成形性に支障を来すことがあるので、5000〜50000が好ましく、8000〜30000がより好ましい。なお、環状オレフィン系樹脂の数平均分子量は、ゲルパーミュエーションクロマトグラフィ法によって測定されたものをいう。
【0023】
上記環状オレフィン系樹脂には、位相差フィルムの機能を阻害しない範囲内において、成形中の環状オレフィン系樹脂の劣化を防止するために、及び位相差フィルムの耐熱性、耐紫外線性、平滑性等を向上するために、フェノール系、リン系等の酸化防止剤;ラクトン系等の熱劣化防止剤;ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、アクリロニトリル系等の紫外線吸収剤;脂肪族アルコールのエステル系、多価アルコールの部分エステル系、
部分エーテル系等の滑剤;アミン系等の帯電防止剤等の各種添加剤が添加されていてもよい。添加剤は単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0024】
環状オレフィン系樹脂(添加剤を含んでもよい)からフィルムを成膜するには、従来から汎用されている方法が用いられる。具体的には、環状オレフィン系樹脂を押出機に供給して溶融、混練し、押出機の先端に取り付けたTダイから溶融樹脂をフィルム状に押し出して樹脂フィルムを得る方法(所謂、溶融押出法)の他に、環状オレフィン系樹脂を有機溶媒中に溶解してなる溶液をドラム又はバンド上に流延し、その後に有機溶媒を蒸発させて樹脂フィルムを得る方法(所謂、溶液流延法)等が挙げられる。
【0025】
上記環状オレフィン系樹脂フィルムの厚みは、薄すぎると、所望のリタデーションRe
(以下、Reと略記する)を得ることが困難となり、厚すぎると、液晶表示装置の薄型化
に不利となるので、50〜200μmが好ましく、80〜150μmがより好ましい。
【0026】
なお、上記環状オレフィン系樹脂フィルムの厚みが80μm以上となる場合には、溶液流延法では、有機溶媒を充分に蒸発、除去させることが困難となることがあるので、溶融押出法を用いて環状オレフィン系樹脂フィルムを製造するのが好ましい。
【0027】
本発明の位相差フィルムの製造方法においては、まず、上記環状オレフィン系樹脂フィルムを、その横方向に延伸して横延伸フィルムを製造する。
【0028】
具体的には、環状オレフィン系樹脂フィルムをロールから連続的に巻き出しながら、テンタークリップ等の把持手段によってフィルムの両側部を把持し、把持手段をフィルムの搬送速度と同一速度にて搬送方向に移動させながらフィルムを予熱した後、環状オレフィン系樹脂のTg付近のフィルム温度領域において、両側の把持手段を当該フィルムの横方
向に互いに離間するように徐々に変位させることによって、フィルムをその横方向に延伸して拡幅させ、その後、環状オレフィン系樹脂分子の配向を固定するためにTg未満の温
度までフィルムを冷却する。
【0029】
上記横延伸工程において、フィルムの温度は、位相差フィルムに付与したい補償複屈折量によって適宜、調整されるが、温度が低すぎると、延伸時に環状オレフィン系樹脂フィルムが破断する虞れがあり、温度が高すぎると、所望のReを得ることが困難となること
があるので、環状オレフィン系樹脂フィルムのTg〜Tg+20(℃)の範囲が好ましく、環状オレフィン系樹脂フィルムのTg+2(℃)〜Tg+10(℃)の範囲がより好ましい。なお、このTgは、示差走査熱量計によって測定されたものをいう。
【0030】
上記環状オレフィン系樹脂フィルムを横方向に延伸する際の延伸倍率は、低すぎると、配向軸の方向が均一に揃わないことがあり、高すぎると、環状オレフィン系樹脂フィルムにおける横方向の張力分布にムラが生じ、Reのムラが大きくなることがあるので、1.
2〜3.0倍が好ましく、1.5〜2.5倍がより好ましい。
【0031】
なお、環状オレフィン系樹脂フィルムを横方向に延伸させた後冷却する前に、環状オレフィン系樹脂分子の配向を揃える目的で熱緩和を行ってもよい。
【0032】
このようにして、環状オレフィン系樹脂フィルムを横方向に延伸することにより、延伸方向に環状オレフィン系樹脂分子が歪み、延伸方向の屈折率が大きくなり、横方向に遅相軸が形成された横延伸フィルムを得ることができる。
【0033】
この横延伸フィルムの面内におけるReは、低すぎると、横延伸フィルムをその長さ方
向(横方向と直交する方向、所謂、縦方向)に延伸しても厚み方向のリタデーションRth
(以下、thと略記する)が発現しにくくなることがあり、高すぎると、環状オレフィン系樹脂分子が歪み過ぎているのと同じ結果となり、横延伸フィルムを縦方向に延伸させて発現するRthを制御することが困難となることがあるので、50〜300nmが好ましく、80〜250nmがより好ましい
上記横延伸後のフィルムの厚みは、厚すぎると、得られる位相差フィルムを用いて構成された液晶表示装置が厚くなってしまい、薄すぎると、縦方向に延伸時に破断等のリスクが発生するので、30〜120μmが好ましく、35〜80μmがより好ましい。
【0034】
本発明の位相差フィルムの製造方法においては、次に、上記横延伸フィルムを、その縦方向に延伸することにより、横方向に発生した遅相軸と直交する方向に延伸力を加えて位相差フィルムを得る。
【0035】
横延伸フィルムをその縦方向に延伸するには、ロール間ネックイン延伸法、近接ロール延伸法等が適用できるが、位相差を制御し易く、環状オレフィン系樹脂フィルムに傷や皺等の不良が発生しにくいといった利点を有するロール間ネックイン延伸法を採用することが好ましい。ロール間ネックイン延伸法とは、フィルム幅に比して十分に長い延伸ゾーンを挟んで位置する一対のニップロール又はS字ラップロールで搬送中のフィルムを挟持するとともに、上流側のロールの周速に対して下流側のロールの周速を高くすることによって、所望の延伸倍率を得る方法である。なお、この時、横延伸フィルムの両側部は拘束を受けないので、フィルムは縦方向の延伸に伴って横方向にネックインする現象を生じる。
【0036】
横延伸フィルムを縦方向に延伸する際の延伸倍率は、低すぎると、横延伸フィルムの縦方向における変形量が少なすぎて充分なRthを得ることができないことがあり、高すぎると、横方向に遅相軸を保持するのが困難となり、遂には遅相軸の方向が縦方向に転換してしまい、遅相軸の方向精度が低下する結果偏光板ロールとの連続貼合ができなくなるので、1.01〜1.40倍が好ましく、1.05〜1.30倍がより好ましい。
【0037】
本発明の位相差フィルムの製造方法においては、縦延伸ゾーンを通過するフィルムの温度がフィルムの下流にいくにつれて下がるように同ゾーンに温度勾配をつける。
【0038】
具体的には、縦延伸炉の延伸ゾーン内をフィルムの通過方向に連なる複数の区画に分け、フィルム巻出側にある区画のフィルム温度がこれより巻取側にある区画のフィルム温度よりも高くなるように縦延伸ゾーンにおいてフィルム温度を調整する。すなわち、縦延伸ゾーン内をフィルムの通過方向に連なる複数の区画(F1、F2・・・Fn)に分け、各区
画におけるフィルム温度(T1、T2・・・Tn)がT1≧T2≧T3・・・≧Tn(但し、T1>Tn)の関係を満たすように、縦延伸ゾーンにおいてフィルム温度を調整する。
【0039】
フィルムの最下流の区画(Fn)におけるフィルム温度(Tn)がTn(℃)≧Tg-1(℃)の関係を満たすことが好ましい。
【0040】
縦延伸ゾーンにおけるフィルム温度はTg−1(℃)〜Tg+5(℃)の範囲にあり、且つ横方向延伸時の温度よりも低いことが好ましい。
【0041】
縦延伸ゾーンにおいてフィルムの最上流の区画(F1)におけるフィルム温度(T1)がTg+2(℃)以上であることが好ましい。
【0042】
これは、初期ネックインを延伸炉前半でほぼ完了させてしまい、延伸炉後半ではネックイン変形を抑えながら応力のみを縦方向に均一に加え、軸精度を一定に保ちながら二軸性の複屈折を付与できるからである。
【0043】
本発明者は横延伸フィルムを縦延伸する際には、縦延伸倍率による計算上のネックイン変形よりも過剰に変形することを見いだした。これは、横延伸時における配向が、Tg以
上の温度に曝されることにより、配向が緩和され元に戻ろうとする応力が収縮変形に向かっていることによると推測される。
【0044】
本発明による製造方法は、この収縮応力を含む初期ネックインを延伸炉前半部にてほぼ終了させ、後半部ではほぼ一定方向に応力を加えることにより軸方向精度を安定させながら、任意の複屈折性の発現を行おうとするものである。
【0045】
上述の要領で、横延伸フィルムを縦方向に延伸して得られた位相差フィルムは、熱緩和によるRe及びRthの変化を抑制するために、環状オレフィン系樹脂のTg未満の温度に直ちに冷却されるのがよい。
【0046】
本発明の位相差フィルムの製造方法において得られた位相差フィルムは、液晶表示装置の部品として好適に用いられる。上記位相差フィルムは、単独で用いられても、偏光板と積層一体化させて複合偏光板として用いられてもよい。中でも、液晶表示装置の薄型化及び製造効率を向上させることができることから、偏光板にその液晶セル側の保護フィルムの代わりに好ましくは水系接着剤を介して位相差フィルムを積層一体化させて複合偏光板として用いるのが好ましい。
【0047】
なお、位相差フィルムを何れの態様で用いる場合も、位相差フィルムの遅相軸と、この位相差フィルムに隣接する偏光板或いは偏光子の吸収軸とが互いに直交するように調整する必要がある。
【0048】
上記液晶セルは、従来から用いられている液晶セルであれば、特に限定されないが、OCBモード、VAモード等が好ましい。VAモードは、電圧オフ状態で液晶分子はその長さ方向を液晶セルの基板に対して垂直方向に向けた状態で立ち、黒表示される。このとき、液晶セルを通過する光における液晶セルの厚み方向の屈折率が大きくなって屈折率異方性が発現し、見る角度によっては光が漏れてしまう。上記位相差フィルムは、その厚み方向の屈折率が小さく、大きくなった液晶セルの厚み方向の屈折率を効果的に緩和して、得られる液晶表示装置の正面コントラストや、見込み角度によるコントラストの変化、所謂、視野角依存性を大幅に改善することができることから、特にVAモードに好適なものである。
【発明の効果】
【0049】
本発明の位相差フィルムの製造方法によれば、充分に大きなRe、及びRthを有し、液
晶表示装置の視野角依存性やコントラストを改善することができ且つ偏光子の保護フィルムとして代用可能であると共に偏光板との貼り合わせ効率に優れた位相差フィルムを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0050】
以下に本発明の実施例を挙げて更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【実施例】
【0051】
(参考例1、横延伸フィルムの作製)
環状オレフィン系樹脂として熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂(日本ゼオン社製、商品名「ゼオノア#1600」、数平均分子量:20000)を用い、この樹脂を一軸押出機に供給して溶融、混練し、一軸押出機の先端に取り付けたTダイから樹脂温度230℃にて溶融樹脂を押出して、幅500mmで且つ平均厚み100μmの樹脂フィルムを作製し
、ロール状に連続的に巻き取った。なお、このノルボルネン系樹脂のTgを示差走査熱量
計(セイコー電子工業社製、商品名「DSC220C」)によって測定したところ、161.0℃であった。
【0052】
次に、得られた樹脂フィルムをロールから連続的に巻き出し、このフィルムをテンタークリップによって順次、両側部で把持し、予熱ゾーン内に供給し、通過させて155℃に予熱した。その後、フィルムを166℃に設定された延伸ゾーン内を通過させて、両側のテンタークリップを樹脂フィルムの搬送速度と同一速度でもってフィルムの搬送方向に移動させながらフィルムの横方向に互いに離間するように徐々に変位させて、1.9倍の拡幅倍率にて横方向に延伸した。こうしてフィルムの横延伸が完了した後、フィルムをテンタークリップで把持したまま160℃の雰囲気下で熱緩和を行い、配向方向をフィルム横方向に揃え、そのまま120℃の雰囲気下で配向を固定し、横方向に遅相軸が形成された横延伸フィルムをロール状に連続的に巻き取った。
【0053】
クリップ把持部の影響を除去するために、横延伸フィルムの両側部を幅250mmずつを除去し、全幅を500mmとした。
【0054】
全幅にわたり接触式連続厚み計(Mahr社製)で10mmピッチで厚みの測定を行ったところ、平均値は45.5μmであった。
【0055】
得られた横延伸フィルムにおける面内のReを、自動複屈折測定装置(王子計測機器社
製、商品名「KOBRA−21ADH」)を用いて、横方向に10mm間隔で測定したところ、平均値は190nmであった。遅相軸の方向精度はTD±0.3度であった。
【0056】
(実施例1,2、比較例1,2、縦延伸フィルムの作製)
上記で得られた横延伸フィルム(1)を、連続的に5.0m/minの一定巻き出し速度で巻き出しながら、上流側ニップロールと下流側ニップロール間に設置された延伸装置内に搬送した。延伸装置は図1に示すように、一対の上流側ニップロール(2)(2)と一対の下流側ニップロール(3)(3)との間の空間を上流側から順次、予熱ゾーン(4)、縦延伸ゾーン(5)、冷却ゾーン(6)の3ゾーンに区画し、さらに縦延伸ゾーン(5)を長さ2mの上流縦延伸区画(5a)と長さ2mの下流縦延伸区画(5b)の2つに区画し、これらのゾーン内に横延伸フィルム(1)を順次、連続的に通過させた。予熱ゾーン(4)、上流縦延伸区画(5a)、下流縦延伸区画(5b)、冷却ゾーン(6)内の温度をそれぞれ、横延伸フィルムの温度が表1に示す値になるように調整して、表1に示す縦延伸倍率にて横延伸フィルムを縦延伸した。こうして位相差フィルムを得た。
【0057】
得られた位相差フィルムについて縦延伸倍率(n)、Re、Rth及び遅相軸方向(軸精度)を測定した。その結果を表1に示す。
【0058】
なお、Re及びRthは、自動複屈折測定装置(王子計測機器社製、商品名「KOBRA
−21ADH」)を用いて、横延伸フィルムの作製の場合と同様にして測定し、また、遅相軸方向は横方向を0度として測定した。
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】縦延伸フィルムの作製工程を示す概略図である。
【符号の説明】
【0060】
1:横延伸フィルム
2:上流側ニップロール
3:下流側ニップロール
4:予熱ゾーン
5:縦延伸ゾーン
5a:上流縦延伸区画
5b:下流縦延伸区画
6:冷却ゾーン




【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状オレフィン系樹脂フィルムをその横方向に延伸してなる横延伸フィルムを次いで縦方向に延伸するに当たり、縦延伸ゾーンを通過するフィルムの温度がフィルムの下流にいくにつれて下がるように同ゾーンに温度勾配をつけることを特徴とする位相差フィルムの製造方法。
【請求項2】
縦延伸ゾーン内をフィルムの通過方向に連なる複数の区画(F1、F2・・・Fn)に分
け、各区画におけるフィルム温度(T1、T2・・・Tn)がT1≧T2≧T3・・・≧Tn(
但し、T1>Tn)の関係を満たし、且つフィルムの最下流の区画(Fn)におけるフィル
ム温度(Tn)がTn(℃)≧Tg-1(℃)(Tgは該フィルムを構成する環状オレフィン系樹脂のガラス転移温度である)の関係を満たすことを特徴とする請求項1記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項3】
フィルムの最上流の区画(F1)におけるフィルム温度(T1)がTg+2(℃)以上で
あることを特徴とする請求項2記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項4】
該フィルムを構成する環状オレフィン系樹脂のガラス転移温度をTg(℃)、横延伸温
度をTst(℃)、フィルムの最上流の区画(F1)におけるフィルム温度をT1(℃)とするとき、Tg≦T1≦Tstの関係が成立することを特徴とする請求項2記載の位相差フィルムの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−98806(P2006−98806A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−285511(P2004−285511)
【出願日】平成16年9月29日(2004.9.29)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】