説明

位相差フィルムの製造方法

【課題】厚み、Re、Rthが幅方向で均一な長尺の位相差フィルムを製造する。
【解決手段】テンタ部12は、搬送方向Z1の上流側から順に、予熱エリア36、延伸エリア37、緩和エリア38、冷却エリア39とされている。予熱エリア36では、フィルム20の耳部20aから幅方向Z2の中央に向かうに従い温度が高くなるように、フィルム20を加熱する。これにより、延伸エリア37におけるフィルム20の幅方向Z2での応力が幅方向で一定になる。耳部20aと中央との温度差は2℃以上20℃以下の範囲とする。延伸エリア37では、予熱エリア36で得られた幅方向Z2における温度分布を保持しながらフィルム20を拡幅する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位相差フィルム、特に液晶表示装置等に用いられる位相差フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイに対する要求性能は近年ますます高くなっており、液晶ディスプレイを構成する複数のポリマーフィルムに対しても要求性能は高まるばかりである。近年では、液晶ディスプレイの輝度がますます高く、そして画面がますます大きくなっており、これに伴い、位相差フィルム等のポリマーフィルムに対しては、光学特性の均一性について、より厳しい要求が出されるようになってきている。
【0003】
位相差フィルムは、溶液製膜方法と溶融製膜方法とのいずれの方法でも製造されており、連続製法とされている。すなわち、位相差フィルムは長尺状につくられる。そして、上記の光学特性の均一性は、長尺の位相差フィルムの幅方向についてより強く求められている。
【0004】
これまで、光学特性の不均一性をなくそうと、光学ムラをなくすために、厚みをより均一に、そして表面を平滑にして、フィルムをより平らにつくる方法が提案されてきた。例えば、特許文献1は、溶融されて押し出されたポリマーからなるフィルムを、冷却されたローラとこのローラに圧接するように設けられた押し圧ローラとによりフィルムを狭持して冷却固化する工程と、このフィルムを延伸する工程とを含む溶融製膜方法を提案し、これにより厚み精度の向上を図る。
【0005】
また、面内レタデーションReや厚み方向レタデーションRthといった光学特性に着目し、これらの幅方向における均一化を図る提案もされている。例えば、特許文献2は、金属支持体から剥がしたフィルムについて、側端を幅方向の中央部よりも1℃〜30℃高い温度にして幅方向に拡げて位相差フィルムとする溶融製膜方法を提案する。そして特許文献3は、熱可塑性フィルムを幅方向に延伸する工程と、この延伸の後で、幅方向に温度を変えて熱処理する工程とを含む位相差フィルムの製造方法を提案する。
【特許文献1】特開2007−137028号公報
【特許文献2】特開2002−296422号公報
【特許文献3】特開平11−77822号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、特許文献1のように厚みを均一にするだけでは光学特性の不均一性は解消されない。また、特許文献2の方法では、光学特性の不均一さの中でも幅方向の均一さについては効果がなく、かえって幅方向の不均一さがひどくなる場合がある。特許文献3の方法は、幅方向の光学特性の均一化には、ある程度の効果はあるものの、液晶ディスプレイにおける近年の高輝度化や大画面化に応じる程度の均一化は図ることができない。
【0007】
そこで、本発明は、厚みとReとRthとが幅方向で均一な長尺の位相差フィルムを製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の位相差フィルムの製造方法は、ポリマーからなる長尺のフィルムの側端部から幅方向での中央部に向かうに従い温度が高くなる温度勾配となるように前記フィルムを加熱する加熱工程と、前記温度勾配を保持した状態で行われ、前記フィルムの各側端部を保持した前記保持手段を前記フィルムの幅方向に変位させることにより前記フィルムの幅を拡げて位相差フィルムとする拡幅工程とを有することを特徴として構成されている。
【0009】
前記側端部と前記中央部の温度差を2℃以上20℃以下の範囲とすることが好ましい。
【0010】
前記ポリマーが溶媒に溶解されているドープを、走行する支持体に流延ダイから流出して流延膜を形成し、この流延膜を、前記溶媒を含んだ状態の湿潤フィルムとして支持体から剥がす流延工程と、湿潤フィルムを乾燥して前記フィルムとする乾燥工程とを有すること、または、加熱により溶融したポリマーを、薄膜形状に連続的に押し出し、搬送しながら搬送方向に延伸して前記フィルムとすることが好ましい。
【0011】
前記ポリマーは、環状オレフィンまたはセルロースアシレートであることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、厚みとReとRthとが幅方向で均一な長尺の位相差フィルムを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
(オフライン延伸装置)
オフライン延伸装置10は、図1に示すように、ロール状に巻かれたフィルム20を巻きだして次工程に送る供給部11と、フィルム20を拡幅して位相差フィルム18とするテンタ部12と、位相差フィルム18を加熱して応力を緩和する熱緩和部13と、位相差フィルム18を冷却する冷却部14と、位相差フィルム18を巻き取る巻取部15とを備えている。供給部11には、後述する溶液製膜方法や溶融製膜方法により製造され、ロール状となって巻き芯21に巻き取られてあるフィルム20がセットされる。フィルム20は、供給ローラ22により、テンタ部12に送案内された後、熱緩和部13、冷却部14、及び巻取部15に順次送られ、各部12〜15にて所定の処理が施される。
【0014】
テンタ部12は、フィルム20の各側端部(以下「耳部」という)を把持して、フィルム20を搬送しながら、フィルム20の幅方向に延伸して拡幅する延伸処理を行う。図1では、搬送方向を矢線Z1で示す。
【0015】
テンタ部12と熱緩和部13との間には耳切装置25が設けられる。耳切装置25は位相差フィルム18の耳部を切断する。切断された耳部は、カットブロア26で細かく小片にカットされる。カットされた耳部は、図示しない風送装置によりクラッシャ27に送られ、粉砕されてチップになる。
【0016】
熱緩和部13には多数のローラ28が設けられており、これらローラ28により位相差フィルム18は冷却部14まで搬送される。また、熱緩和部13では、搬送中の位相差フィルム18に対して乾燥風が吹き付けられる。冷却部14では、位相差フィルム18が所定温度にまで冷却される。冷却された位相差フィルム18は、巻取部15に送られる。巻取部15には巻取ローラ30及びプレスローラ31が設けられており、位相差フィルム18はプレスローラ31により押圧されながら巻取ローラ30に巻き取られる。
【0017】
(テンタ部)
図2及び図3に示すように、テンタ部12は、搬送方向Z1の上流側から順に、拡幅前のフィルム20を加熱する予熱エリア36、拡幅するように延伸する延伸エリア37、応力緩和のための緩和エリア38及び冷却のための冷却エリア39とされる。なお、緩和エリア38と冷却エリア39とは必ずしも設ける必要はない。
【0018】
テンタ部12は、クリップ40、レール41,42、ダクト43、及びエア供給部45を備えている。レール41,42はフィルム20の搬送路の両側に設置され、それぞれのレール41,42は所定のレール幅で離間している。このレール幅は、予熱エリア36では幅L1と一定であり、延伸エリア37では方向Z1に向かうに従って幅L1から幅L2へと次第に広くなり、緩和エリア38では方向Z1に向かうに従って幅L2から幅L3へと次第に狭くなり、冷却エリア39では幅L3と一定である。
【0019】
図示しないチェーンは、レール41,42に沿って移動自在に取り付けられている。複数のクリップ40は、所定の間隔でチェーン全体に取り付けられている。なお、図3では、図の煩雑化を避けるため、クリップ40の一部のみを示す。チェーンはスプロケット48,49と噛み合っている。スプロケット48,49が回転することにより、クリップ40はレール41,42に沿って移動する。予熱エリア36のZ1方向上流側には、クリップ40によるフィルム20の耳部20aの把持を開始する把持開始手段(図示しない)が設けられ、冷却エリア39のZ1方向下流側には、クリップ40によるフィルム20の耳部20aの把持を解除する把持解除手段(図示しない)が設けられる。クリップ40がレール41,42に沿って移動することで、フィルム20はZ1方向へ搬送され、各エリア36〜39を順次通過し、各エリア36〜39において所定の処理が施される。
【0020】
ダクト43は、フィルム20の搬送路の上方に設けられている。ダクト43とフィルム20の搬送路との間隔は略一定となっている。ダクト43の下面には、フィルム20の幅方向Z2に延びているスリット53が、搬送方向Z1に複数形成されている。また、ダクト43の内部は、仕切り板54により第1〜第4給気室43a〜43dに区画されている。なお、図2では、第1及び第2給気室43a、43bではスリット53をそれぞれ複数設け、第3及び第4給気室43c、43dではスリット53を1つだけ設けた場合を図示してあるが、本発明はこれに限られず、第1給気室43aや第2給気室43bに1つのスリット53を設け、第3給気室43cや第4給気室43dに複数のスリット53を設けてもよい。
【0021】
エア供給部45は、ダクト43の第1〜第4給気室43a〜43dにエアを供給する。第1〜第4給気室43a〜43dに供給されたエアは、図示しない温調機により所定範囲内の温度に調節される。第1〜第4給気室43a〜43d内のエアは、風56〜59となって、スリット53を介して、各エリア36〜39を通過中のフィルム20に対して吹き付けられる。
【0022】
次に、本発明の作用について説明する。図1に示すように、供給ローラ22は、ロール状となって巻き芯21巻き取られたフィルム20を、テンタ部12に送る。図3に示すように、テンタ部12に送られたフィルム20は予熱エリア36に送られる。予熱エリア36のZ1方向上流側では、図示しない把持開始手段により、レール41、42に沿って走行するクリップ40はフィルム20の耳部20aを把持する。そして、クリップ40は、耳部20aを把持しながらZ1方向に走行することにより、フィルム20はZ1方向上流側から、予熱エリア36、延伸エリア37、緩和エリア38及び冷却エリア39を順次通過する。テンタ部12を通過したフィルム20は、耳切装置25により耳部20aが切断され、各耳部20aが除かれた製品部20bが位相差フィルム18として熱緩和部13、冷却室14を経て、巻取部15へ送られる。
【0023】
図2に示すように、エア供給部45によってダクト43に供給されたエアは、スリット53を介して、風56〜59となって、各エリア36〜39を通過中のフィルム20に対して吹き付けられる。これにより、予熱エリア36、延伸エリア37におけるフィルム20の温度は、所定の範囲内となるまで上昇する。また、緩和エリア38、冷却エリア39では、フィルム20の温度は、所定の範囲内となるまで下降する。
【0024】
図3に示すように、フィルム20はZ2方向における長さ、つまり幅L1を保持したまま予熱エリア36を通過する。その後、延伸エリア37では、フィルム20に延伸処理が施される。延伸処理により、フィルム20はZ2方向への張力が付与され、Z2方向の長さがL1からL2と次第に増大する。延伸エリア37を通過するフィルム20の残留溶媒量は、0重量%以上3重量%以下であることが好ましい。フィルム20の残留溶媒量は、対象となるフィルムからサンプルフィルムを採取し、採取時のサンプルフィルムの重量をx、サンプルフィルムを乾燥した後の重量をyとするとき、{(x−y)/y}×100で表される。
【0025】
緩和エリア38では、フィルム20に緩和処理が施される。緩和処理により、フィルム20に残留する応力が取り除かれ、フィルム20のZ2方向の長さがL2からL3と次第に減少する。その後、フィルム20は、Z2方向の長さがL3のまま冷却エリア39を通過する。幅L3は500mm以上4000mm以下であることが好ましい。冷却エリア39を通過するフィルム20の残留溶媒量は、0重量%以上3重量%以下であることが好ましい。そして、図示しない把持解除手段により、クリップ40による把持が解除される。
【0026】
本発明では、予熱エリア36及び延伸エリア37に設けられたダクト43により、耳部20aからフィルム20の幅方向Z2での中央に向かうに従い温度が徐々に高くなるようにフィルム20の温度を制御する。つまり、製品部20bは、耳部20aに近いほど温度が高くされる。これは、従来の方法では、幅方向Z2での中央部に向かうほど延伸時の応力が大きくなっていることがわかり、本発明では延伸時における応力を幅方向で一定にするためである。つまり、本発明では、従来の延伸条件下で応力が大きくなるような箇所ほどフィルム20の温度を高めにし、応力が小さくなるような箇所ほどフィルム20の温度を低めにする。これにより、幅方向での延伸時における応力を一定にすることができるので、厚み、Re、Rthが幅方向Z2で均一な位相差フィルム18をつくることができる。具体的には、幅方向Z2における厚みムラは10%にすることができ、Reのムラは10nm以内、Rthのムラは20nmにすることができるようになる。なお、幅方向Z2におけるフィルム20の温度分布は、段階的であってもよいし、連続的であってもよい。
【0027】
上記の厚みムラは、幅方向Z2における厚みの最大値をT1、最小値をT2、平均値をTAとするときに、100×(T1−T2)/TAで求める値(単位;%)である。また上記のReとRehとの各ムラは、以下の方法で求めた値である。得られた位相差フィルム18から、幅方向で20枚のサンプルを均等な間隔で切り出して、各サンプルにつきReについてはKOBRA21DH(王子計測機器(株)製)で、Rthについてはエリプソメータ(M150 日本分光(株)製)で測定する。そして、20個のRe値と20個のRth値のそれぞれのうち最大値をRe1とRth1とし、最小値をRe2とRth2とし、Re1−Re2をReのムラ、Rth1−Rth2をRthのムラとした。
【0028】
なお、面内レタデーションReとは、フィルムのZ1方向、Z2方向の屈折率をn1、n2とし、膜厚をdとするときに、|n1−n2|・dで求める値であり、厚み方向レタデーションRthとは、フィルムの厚み方向の屈折率をn3とするときに、{(n1+n2)/2−n3}・dで求める値である。
【0029】
本発明の上記の効果は、Reが20nm以上300nm以下、厚み方向におけるRthが−100nm以上300nm以下の各範囲である位相差フィルムをつくる場合に特に効果が大きい。そして、製造すべき位相差フィルム18の幅を大きくするほど、製造速度を大きくするほど、本発明は効果がある。
【0030】
したがって、本発明では、テンタ部における設定条件、例えば、延伸倍率や延伸速度、延伸時におけるフィルムの温度等の各条件につき、所定の値で延伸をした場合の応力を、フィルムの幅方向で予めしらべておき、耳部20aと中央20bとの応力差や幅方向Z2での応力分布を求め、求められた応力差や応力分布に基づき予熱エリア36と延伸エリア37とにおける温度制御を実施するとよい。このような応力差や応力分布を求める際のフィルム20の温度は、テンタ部12で設定すべきフィルム20の温度のうち最も高い温度とすることが好ましい。
【0031】
延伸倍率(単位;%)は、拡幅する前の幅L1と拡幅後の幅L2とにより100×(L2−L1)/L1で求め、延伸速度は、拡幅開始時から拡幅終了時までの時間(分)で上記延伸倍率を除した値(単位;%/分)として求める。
【0032】
予熱エリア36では、フィルム20の幅方向Z2における温度分布が上記の態様になるように風56をフィルム20に向けてスリット53から流出させる。そして幅方向における所期の温度分布が得られたフィルム20は延伸エリア37でその温度分布が保持されながら、所期の延伸倍率及び延伸速度で拡幅される。延伸エリア37では、温度分布の保持は、風57をフィルム20に向けてスリット53から流出させることにより為される。
【0033】
幅方向Z2における温度分布は、各スリットからの風量や風速をスリットの長手方向で変える方法や、第1給気室43a、第2給気室43bをそれぞれ幅方向Z2で複数に仕切り、仕切られたエリア毎に、エア供給部45から異なる温度、風量でエアを送り込み、各エリアからの風を独立して制御する方法等があるが、本発明はこれらの方法に限定されるものではない。
【0034】
幅方向Z2での中央と耳部20aとの温度差は2℃以上20℃以下の範囲とすることが好ましい。これにより、上記の効果がより確実に得られる。そして、Reムラが8nm以内、Rthムラが15nm以内にすることができることがあるし、さらには、Reムラが6nm以内、Rthムラが10nm以内にすることができることがあり、またさらには、Reムラが4nm以内、Rthムラが6nm以内にすることができる場合もある。該温度差が2℃よりも温度差が小さいと、延伸時における応力の小さい箇所が延伸時に伸びすぎて幅方向Z2における厚み、Re、Rthの不均一差を十分にはできない場合があり、20℃よりも温度差が大きいと、延伸時における応力の小さい箇所が延伸時に所期の伸びをせずに幅方向Z2における厚み、Re、Rthの不均一差を十分にはできない場合がある。温度差のより好ましい範囲は3℃以上15℃以下の範囲であり、さらに好ましい範囲は4℃以上12℃以下の範囲である。
【0035】
なお、ダクト43をフィルム20の搬送路の上方に設けたが、フィルム20の搬送路の下方にも設けてもよいし、フィルム20の搬送路の上方及び下方に設けてもよい。ダクト43をフィルム20の搬送路の下方に設ける場合には、ダクト43の上面にスリット53を設ける。
【0036】
延伸エリア37における延伸倍率は5%以上150%以下とすることが好ましく、延伸速度は5%/分以上600%/分以下とすることが好ましい。
【0037】
本発明は、上記のテンタ部による延伸工程を実施する溶液製膜方法も含む。図4は溶液製膜設備80の概略図である。なお、上記実施形態と同一の装置、部材については、同一の符号を付し、その詳細の説明は省略する。溶液製膜設備80は、流延室82、ピンテンタ112、テンタ部12、乾燥室83、冷却室14、及び巻取部15を有する。
【0038】
流延室82には、流延ダイ95、支持体としての流延ドラム96、剥取ローラ97、温調装置98,99、及び減圧チャンバ100が設置されている。流延ドラム96は図示しない駆動装置によって、軸96aを中心に矢線A1で示す周方向に回転する。この回転中の流延ドラム96の周面に向けて、流延ダイ95からドープ91が流出すると、流延ドラム96の周面に流延膜103が形成する。
【0039】
流延室82内及び流延ドラム96は、温調装置98,99によって、流延膜103が冷却固化(ゲル化)し易い温度に設定されている。そして、流延ドラム96が約3/4回転する間に、流延膜103は自己支持性を有するゲル強度に達し、剥取ローラ97によって流延ドラム96から剥ぎ取られ、湿潤フィルム104となる。
【0040】
温調装置99は、流延ドラム96の周面の温度を所望の温度に保つために、流延ドラム96に伝熱媒体を循環させる。伝熱媒体は所望の温度に保持されており、流延ドラム96内の伝熱媒体流路を通過することにより、流延ドラム96の周面の温度が所望の温度に保持される。
【0041】
減圧チャンバ100は、流延ダイ95に対し、A1方向での上流側に配置されており、減圧チャンバ100内を負圧に保っている。これにより、流延ビードの背面(後に、流延ドラム96の周面に接する面)側を所望の圧力に減圧し、流延ドラム96が高速で回転することにより発生する同伴風の影響を少なくし、安定した流延ビードを流延ダイ95と流延ドラム96との間に形成し、膜厚ムラの少ない流延膜103が形成される。
【0042】
流延室82内には、蒸発している有機溶媒を凝縮回収するための凝縮器(コンデンサ)109と凝縮液化した溶媒を回収する回収装置110とが備えられている。凝縮器109で凝縮液化した有機溶媒は、回収装置110により回収される。回収された溶媒は再生装置で再生された後に、ドープ調製用溶媒として再利用される。
【0043】
流延室82の下流には、渡り部111、ピンテンタ112、テンタ部12が順に設置されている。渡り部111では、搬送ローラ113を用いて、湿潤フィルム104をピンテンタ112に導入する。ピンテンタ112は、湿潤フィルム104の両端部を貫通して保持する多数のピンプレートを有し、このピンプレートが軌道上を走行する。この走行中に湿潤フィルム104に対して乾燥風が送られ、湿潤フィルム104が走行しつつ乾燥され、フィルム20となる。
【0044】
湿潤フィルム104は、ピンテンタ112で、残留溶媒量が0.1重量%以上10重量%以下となるまで乾燥することが好ましい。残留溶媒量が150重量%以上320重量%以下の範囲のときに流延膜103を剥ぎ取り、ピンテンタ112で残留溶媒量が上記範囲となるまで乾燥することにより、テンタ部12におけるセルロースアシレート分子の配向制御がさらに効果的に行われる。すなわち、テンタ部12での延伸処理での、遅相軸の方向制御効果と、Re、Rthを高める効果と、光学ムラの改良効果とが高まる。ただし、本発明ではピンテンタ112での乾燥は、残留溶媒量が上記の範囲となるまで実施せずともよい。つまり、残留溶媒量が10重量%よりも高い状態の湿潤フィルム104をテンタ部12に送り込んでもよい。
【0045】
乾燥室83では、フィルム20に50℃以上200℃以下の乾燥風をあてて、フィルム20を乾燥する。乾燥室83では、残留溶媒量が0.01重量%以上5重量%以下となるまでフィルム20を乾燥することが好ましい。
【0046】
テンタ部12を、ピンテンタ112と乾燥室83との間に設けたが、本発明はこれに限られず、冷却室14と巻取部15との間にテンタ部12を設けてもよいし、ピンテンタ112と乾燥室83との間、及び冷却室14と巻取部15との間の両方に、テンタ部12を設けてもよい。
【0047】
本発明のフィルム20には、上記のような溶液製膜方法によって得られるフィルムに限られず、溶融製膜方法によって得られるフィルムも含まれる。図5は、溶融製膜設備の概略図である。溶融製膜設備410では、液晶表示装置等に使用できる位相差フィルム18が製造される。位相差フィルム18の原材料であるペレット状のポリマーを乾燥機412に導入して乾燥させた後、このペレットを押出機414によって押し出し、ギアポンプ416によりフィルタ418に供給する。次いで、フィルタ418により異物がろ過され、溶融したポリマー(以下、溶融ポリマーと称する)がダイ420から押し出される。
【0048】
溶融ポリマーは、第1キャスティングロール428とタッチロール424で挟まれて押圧成形された後、第1キャスティングロール428にて冷却固化されて所定の表面粗さのフィルム状とされ、さらに、第2キャスティングロール426、第3キャスティングロール427によって搬送されることでフィルム20が得られる。
【0049】
長手方向延伸ゾーン446には、図6に示すように、周面に接触したフィルム20を、回転駆動することにより搬送するローラ448a〜448dが備えられる。フィルム20が長手方向延伸ゾーン446にて熱処理と長手方向での延伸がなされることで、配向角、ReならびにRth、厚みがある程度は調整されるが、これらの幅方向における不均一さについては解消されない。そこで、このフィルム20をテンタ部12に案内して、上述のように予熱と拡幅とを実施し、適宜、緩和と冷却とを実施する。これにより、厚みやRe、Rthが幅方向で均一の位相差フィルム18が得られ、この位相差フィルム18は巻取部449によって巻き取られる。
【0050】
なお、長手方向延伸ゾーン446を出たフィルム20は、この段階で一端巻き取られてから、テンタ部12に送り出されてもよいし、巻き取られることなくテンタ部12に案内されてもよい。また、一度巻き取られたフィルム20をテンタ部12に供給しても、巻き取られることなくテンタ部12に案内した場合と同様の効果が得られる。
【0051】
フィルム20は、長手方向延伸ゾーン446で搬送方向Z1に延伸される。幅方向Z2への延伸の前又は後に搬送方向Z1の延伸を行ってもよい。本発明は、搬送方向Z1での延伸を実施した場合に、テンタ部12での予熱及び延伸を実施することの特に効果が大きい。搬送方向Z1の延伸は、搬送方向Z1に並ぶ複数のニップロール対を用いて搬送方向Z1にフィルムを搬送し、上流側のニップロール対の周速度より下流側のニップロール対の周速度を速くすることで実施することができる。搬送方向Z1におけるニップロール間の距離(L)と上流側のニップロール対でのフィルム幅Wの比(L/W)の大きさで延伸方式が異なり、L/Wが小さいと特開2005−330411号公報、特開2006−348114号公報記載のような搬送方向Z1の延伸方式を採用できる。この方式は、Rthが大きくなり易いが装置をコンパクトにすることができる。一方、L/Wが大きい場合は特開2005−301225号公報記載のような搬送方向Z1の延伸方式を用いることができる。この方式はRthを小さくできるが、装置が長大になり易い。
【0052】
(ポリマー)
本発明におけるポリマーは、熱可塑性のポリマーである。熱可塑性ポリマーとして、例えば、セルロースアシレートや環状ポリオレフィン等を用いる場合に、本発明は特に効果が大きい。
【0053】
溶液製膜でフィルム20をつくる場合、もしくは、溶液製膜で位相差フィルム18をつくる場合のセルロースアシレートとしては、セルローストリアセテート(TAC)が特に好ましい。そして、セルロースアシレートの中でも、セルロースの水酸基へのアシル基の置換度が下記式(I)〜(III)において、A及びBは、セルロースの水酸基中の水素原子に対するアシル基の置換度を表し、Aはアセチル基の置換度、Bは炭素原子数が3〜22のアシル基の置換度である。なお、TACの90重量%以上が0.1〜4mmの粒子であることが好ましい。ただし、本発明に用いることができるポリマーは、セルロースアシレートに限定されるものではない。
(I) 2.5≦A+B≦3.0
(II) 0≦A≦3.0
(III) 0≦B≦2.9
【0054】
セルロースを構成するβ−1,4結合しているグルコース単位は、2位、3位および6位に遊離の水酸基を有している。セルロースアシレートは、これらの水酸基の一部または全部を炭素数2以上のアシル基によりエステル化した重合体(ポリマー)である。アシル置換度は、2位、3位及び6位それぞれについて、セルロースの水酸基がエステル化している割合(100%のエステル化の場合を置換度1とする)を意味する。
【0055】
全アシル化置換度、すなわち、DS2+DS3+DS6の値は、2.00〜3.00が好ましく、より好ましくは2.22〜2.90であり、特に好ましくは2.40〜2.88である。また、DS6/(DS2+DS3+DS6)の値は、0.28が好ましく、より好ましくは0.30以上であり、特に好ましくは0.31〜0.34である。ここで、DS2は、グルコース単位における2位の水酸基の水素がアシル基によって置換されている割合(以下「2位のアシル置換度」とする)であり、DS3は、グルコース単位における3位の水酸基の水素がアシル基によって置換されている割合(以下「3位のアシル置換度」という)であり、DS6は、グルコース単位において、6位の水酸基の水素がアシル基によって置換されている割合(以下「6位のアシル置換度」という)である。
【0056】
本発明のセルロースアシレートに用いられるアシル基は1種類だけでもよいし、あるいは2種類以上のアシル基が用いられてもよい。2種類以上のアシル基を用いるときには、その1つがアセチル基であることが好ましい。2位、3位及び6位の水酸基がアセチル基により置換されている度合いの総和をDSAとし、2位、3位及び6位の水酸基がアセチル基以外のアシル基によって置換されている度合いの総和をDSBとすると、DSA+DSBの値は、2.22〜2.90であることが好ましく、特に好ましくは2.40〜2.88である。
【0057】
また、DSBは0.30以上であることが好ましく、特に好ましくは0.7以上である。さらにDSBは、その20%以上が6位の水酸基の置換基であることが好ましく、より好ましくは25%以上であり、30%以上がさらに好ましく、特には33%以上であることが好ましい。さらに、セルロースアシレートの6位におけるDSA+DSBの値が0.75以上であり、さらに好ましくは0.80以上であり、特には0.85以上であるセルロースアシレートも好ましく、これらのセルロースアシレートを用いることで、より溶解性に優れたドープを作製することができる。特に、非塩素系有機溶媒を使用すると、優れた溶解性を示し、低粘度で濾過性に優れるドープを作製することができる。
【0058】
セルロースアシレートの原料であるセルロースは、リンター、パルプのいずれかから得られたものでもよい。
【0059】
本発明におけるセルロースアシレートの炭素数2以上のアシル基としては、脂肪族基でもアリール基でもよく、特には限定されない。例えば、セルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステル、芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステルなどが挙げられ、それぞれ、さらに置換された基を有していてもよい。これらの好ましい例としては、プロピオニル基、ブタノイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、デカノイル基、ドデカノイル基、トリデカノイル基、テトラデカノイル基、ヘキサデカノイル基、オクタデカノイル基、iso−ブタノイル基、t−ブタノイル基、シクロヘキサンカルボニル基、オレノイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などが挙げられる。これらの中でも、プロピオニル基、ブタノイル基、ドデカノイル基、オクタデカノイル基、t−ブタノイル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などがより好ましく、特に好ましくは、プロピオニル基、ブタノイル基である。
【0060】
ドープ91の溶媒成分としては、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン、トルエンなど)、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン、クロロベンゼンなど)、アルコール(例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、n−ブタノール、ジエチレングリコールなど)、ケトン(例えば、アセトン、メチルエチルケトンなど)、エステル(例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピルなど)及びエーテル(例えば、テトラヒドロフラン、メチルセロソルブなど)などが挙げられる。
【0061】
上記のハロゲン化炭化水素の中でも、炭素原子数1〜7のハロゲン化炭化水素が好ましく用いられ、ジクロロメタンが最も好ましく用いられる。TACをポリマー成分とする場合にはTACの溶解性、流延膜の支持体からの剥ぎ取り性、フィルムの機械的強度及び光学特性など物性の観点から、ジクロロメタンの他に炭素原子数1〜5のアルコールを1種ないし数種類混合することが好ましい。アルコールの含有量は、溶媒全体に対して2〜25重量%が好ましく、より好ましくは5〜20重量%である。アルコールとしては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノールなどが挙げられるが、メタノール、エタノール、n−ブタノール、あるいはこれらの混合物が好ましく用いられる。
【0062】
最近、環境に対する影響を最小限に抑えることを目的に、ジクロロメタンを使用しない溶媒組成も検討されている。この場合には、炭素原子数が4〜12のエーテル、炭素原子数が3〜12のケトン、炭素原子数が3〜12のエステル、炭素数1〜12のアルコールが好ましく、これらを適宜混合して用いる場合もある。例えば、酢酸メチル、アセトン、エタノール、n−ブタノールの混合溶媒が挙げられる。これらのエーテル、ケトン、エステル及びアルコールは、環状構造を有するものであってもよい。また、エーテル、ケトン、エステル及びアルコールの官能基(すなわち、−O−、−CO−、−COO−および−OH)のいずれかを2つ以上有する化合物も溶媒として用いることができる。
【0063】
セルロースアシレートの詳細については、特開2005−104148号[0140]段落から[0195]段落に記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。また、溶媒及び可塑剤、劣化防止剤、紫外線吸収剤(UV剤)、光学異方性コントロール剤、レタデーション制御剤、染料、マット剤、剥離剤、剥離促進剤などの添加剤についても、同じく特開2005−104148号の[0196]段落から[0516]段落に詳細に記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。
【0064】
溶融製膜方法でフィルム20をつくる場合あるいは溶融製膜18をつくる場合に用いることのできるポリマーは、熱可塑性のポリマーであれば特に限定されず、例えば、前述の溶液製膜におけるものと同様のセルロースアシレートの他、ラクトン環含有重合体、環状オレフィン、ポリカーボネイト等が挙げられる。中でも好ましいのがセルロースアシレート、環状オレフィンであり、中でも好ましいのがアセテート基、プロピオネート基を含むセルロースアシレート、付加重合によって得られた環状オレフィンであり、さらに好ましくは付加重合によって得られた環状オレフィンである。
【0065】
(環状オレフィン)
環状オレフィンはノルボルネン系化合物から重合されるものが好ましい。この重合は開環重合、付加重合いずれの方法でも行える。付加重合としては例えば特許3517471号公報記載のものや特許3559360号公報、特許3867178号公報、特許3871721号公報、特許3907908号公報、特許3945598号公報、特表2005−527696号公報、特開2006−28993号公報、国際公開第2006/004376号パンフレットに記載のものが挙げられる。特に好ましいのは特許3517471号公報に記載のものである。
【0066】
開環重合としては国際公開第98/14499号パンフレット、特許3060532号公報、特許3220478号公報、特許3273046号公報、特許3404027号公報、特許3428176号公報、特許3687231号公報、特許3873934号公報、特許3912159号公報記載のものが挙げられる。なかでも好ましいのが国際公開第98/14499号パンフレット、特許3060532号公報記載のものである。
【0067】
これらの環状オレフィンの中でも付加重合のものの方がより好ましい。
【0068】
(ラクトン環含有重合体)
下記(一般式1)で表されるラクトン環構造を有するものを指す。
【0069】
【化1】

【0070】
(一般式1)中、R1、R2、R3は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜20の有機残基を表す。なお、有機残基は酸素原子を含んでいてもよい。
【0071】
(一般式1)のラクトン環構造の含有割合は、好ましくは5〜90重量%、より好ましくは10〜70重量%、さらに好ましくは10〜50重量%である。
【0072】
(一般式1)で表されるラクトン環構造以外に、(メタ)アクリル酸エステル、水酸基含有単量体、不飽和カルボン酸、下記(一般式2)で表される単量体から選ばれる少なくとも1種を重合して構築される重合体構造単位(繰り返し構造単位)が好ましい。
【0073】
【化2】

【0074】
(一般式2)中、R4は水素原子又はメチル基を表し、Xは水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、−OAc基、−CN基、−CO−R5基、又は−C−O−R6基を表し、Ac基はアセチル基を表し、R5及びR6は水素原子又は炭素数1〜20の有機残基を表す。
【0075】
例えば、国際公開第2006/025445号パンフレット、特開2007−70607号公報、特開2007−63541号公報、特開2006−171464号公報、特開2005−162835号公報記載のものを用いることができる。
【実施例】
【0076】
以下に示す条件で実験1〜実験5と比較実験1,2とを実施し、本発明の効果の有無及び効果の程度について調べた。
【0077】
[実験1]
所定の固形分を所定の溶媒に適宜添加し、攪拌溶解してドープ91を調整した。ドープ91は、
セルローストリアセテート(TAC、置換度2.8) 89.3重量%
可塑剤A(トリフェニルフォスフェート) 7.1重量%
可塑剤B(ビフェニルジフェニルフォスフェート) 3.6重量%
の組成比からなる固形分(溶質)を、
ジクロロメタン 80重量%
メタノール 13.5重量%
n−ブタノール 6.5重量%
の混合物である溶媒に適宜添加し、攪拌溶解して調製した。なお、ドープ91のTAC濃度が略23重量%になるように濃度調整した。ドープ91を濾紙(東洋濾紙(株)製,#63LB)にて濾過後さらに焼結金属フィルタ(日本精線(株)製06N,公称孔径10μm)で濾過し、さらにメッシュフイルタで濾過した後に、ストックタンクに入れた。
【0078】
なお、ここで使用したTACは、残存酢酸量が0.1重量%以下であり、Ca含有率が5ppm、Mg含有率が42ppm、Fe含有率が0.5ppmであり、遊離酢酸40ppm、さらに硫酸イオンを15ppm含むものであった。また6位水酸基の水素に対するアセチル基の置換度は0.91であった。また、全アセチル基中の32.5%が6位の水酸基の水素が置換されたアセチル基であった。また、このTACをアセトンで抽出したアセトン抽出分は8重量%であり、その重量平均分子量/数平均分子量比は2.5であった。また、得られたTACのイエローインデックスは1.7であり、ヘイズは0.08、透明度は93.5%であっ。このTACは、パルプから採取したセルロースを原料として合成されたものである。
【0079】
図4に示す溶液製膜設備80のうちテンタ部12を備えていない溶液製膜設備で、溶液製膜を実施し、ドープ91から、幅1500mm、厚み100μmのフィルム20を得た。
【0080】
図1に示すオフライン延伸装置10を用い、フィルム20の延伸処理をテンタ部12で実施した。予熱エリア36では、フィルム20の温度を150℃以上180℃以下の範囲に保持し、かつ、フィルム20の耳部20aから幅方向における中央に向かうに従い温度が連続的に高くなるようにした。幅方向Z2の中央の温度Tc(℃)から耳部20aの温度Te(℃)を減じた温度差は表1の「Tc−Te」欄に示すように、8.0℃とした。延伸エリア37では、フィルム20の温度を180℃以上200℃以下の範囲に保持し、かつ、予熱エリア36で得られた幅方向における温度分布を保持しながら、幅方向Z2へフィルム20を延伸した。延伸倍率は40%であった。次いで、緩和エリア38では、フィルム20の温度を150℃以上200℃以下の範囲に保持しながら、緩和処理を行った。
【0081】
[実験2]〜[実験5],[比較実験1],[比較実験2]
実験2〜実験5では、予熱エリア36と延伸エリア37とにおけるフィルム20について、耳部20aと幅方向Z2での中央との温度差を表1に示す値にしたこと以外は、実験1と同様にして実施し、位相差フィルム18を得た。比較実験1では、予熱エリア36と延伸エリア37とにおけるフィルム20について、幅方向Z2での温度を一定となるようにした。比較実験2では、フィルム20の耳部20aから幅方向における中央に向かうに従い温度が連続的に低くなるようにし、Tc−Teで求める温度差は表1に示す値とした。
【0082】
[評価]
得られたフィルムについて、以下の評価を行った。
【0083】
1.厚みムラの評価
前述の式で厚みムラを求め、求めた値に基づき以下基準に基づいて実験1〜実験5で得られた位相差フィルム18及び比較実験1,2で得られたフィルムをそれぞれ評価した。
A:厚みムラが2%未満であり非常に良好
B:厚みムラが2%以上5%未満であり良好
C:厚みムラが5%以上8%未満であり実用上問題無いレベル
D:厚みムラが8%以上であって実用上好ましいとはいえない
【0084】
2.Reのムラの評価
前述の方法でRe1とRe2とを求めてRe1−Re2を求め、以下の基準に基づいて、実験1〜実験5で得られた位相差フィルム18及び比較実験1,2で得られたフィルムにつき、それぞれReのムラを評価した。なお、前述のように切り出した20枚のサンプルの個々のReは、温度25℃,湿度60%RHで2時間調湿して、自動複屈折率計(KOBRA21DH 王子計測機器(株))にて632.8nmにおける垂直方向から測定した。
A:Re1−Re2が4nm未満であり非常に良好
B:Re1−Re2が4nm以上8nm未満であり良好
C:Re1−Re2が8nm以上10nm未満であり実用上問題無いレベル
D:Re1−Re2が10%以上であって実用上好ましいとはいえない
【0085】
3.Rthのムラの評価
前述の方法でRth1とRth2とを求めてRth1−Rth2を求め、以下の基準に基づいて、実験1〜実験5で得られた位相差フィルム18及び比較実験1,2で得られたフィルムにつき、それぞれRthのムラを評価した。なお、前述のように切り出した20枚のサンプルの個々のRthは、温度25℃,湿度60%RHで2時間調湿して、エリプソメータ(M150 日本分光(株)製)で632.8nmにより垂直方向から測定した値と、フィルム面を傾けながら同様に測定したレタデーション値の外挿値とから算出した。
A:Rth1−Rth2が4nm未満であり非常に良好
B:Rth1−Rth2が4nm以上8nm未満であり良好
C:Rth1−Rth2が8nm以上10nm未満であり実用上問題無いレベル
D:Rth1−Rth2が10%以上であって実用上好ましいとはいえない
【0086】
実験1〜5及び比較実験1,2における評価結果は、表1に示す。
【0087】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】オフライン延伸装置を示す概略図である。
【図2】テンタ部の概要を示す側面図である。
【図3】テンタ部の概要を示す上面図である。
【図4】溶液製膜設備を示す概略図である。
【図5】溶融製膜設備の概略図である。
【図6】長手方向延伸ゾーンにおける複数のロールの配置状態を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0089】
10 オフライン延伸装置
12 テンタ部
18 位相差フィルム
20 フィルム
20a 耳部
36 予熱エリア
37 延伸エリア
43 ダクト
53 スリット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーからなる長尺のフィルムの側端部から幅方向での中央部に向かうに従い温度が高くなる温度勾配となるように前記フィルムを加熱する加熱工程と、
前記温度勾配を保持した状態で行われ、前記フィルムの各側端部を保持した前記保持手段を前記フィルムの幅方向に変位させることにより前記フィルムの幅を拡げて位相差フィルムとする拡幅工程とを有することを特徴とする位相差フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記側端部と前記中央部の温度差を2℃以上20℃以下の範囲とすることを特徴とする請求項1記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記ポリマーが溶媒に溶解されているドープを、走行する支持体に流延ダイから流出して流延膜を形成し、この流延膜を、前記溶媒を含んだ状態の湿潤フィルムとして前記支持体から剥がす流延工程と、
前記湿潤フィルムを乾燥して前記フィルムとする乾燥工程とを有することを特徴とする請求項1または2記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項4】
加熱により溶融した前記ポリマーを、薄膜形状に連続的に押し出し、搬送しながら搬送方向に延伸して前記フィルムとすることを特徴とする請求項1または2記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記ポリマーは、環状オレフィンまたはセルロースアシレートであることを特徴とする請求項1ないし4いずれか1項記載の位相差フィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−82992(P2010−82992A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−254738(P2008−254738)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】