説明

位置標定装置、位置標定装置の位置標定方法および位置標定プログラム

【課題】航法の最初から慣性計測装置のデータを高い精度で補正して高い精度で位置を標定できるようにすることを目的とする。
【解決手段】自己位置標定装置100は航法処理を2回行う。1、2回目の航法処理において、IMU処理部140はカルマンフィルタ150により算出されるIMU誤差推定値に基づいて慣性データを補正し、補正した慣性データに基づいて慣性航法により位置、姿勢および速度を算出する。カルマンフィルタ150はGPS処理部120またはODO処理部130により算出される残差に基づいてIMU誤差推定値を算出する。2回目の航法処理において、IMU処理部140は1回目の航法処理においてカルマンフィルタ150により算出されたIMU誤差推定値をIMU誤差推定値の初期値として用いる。IMU処理部140は2回目の航法処理で算出した位置、姿勢および速度を航法結果として出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、GPS(Global Positioning System)や慣性計測装置のデータを用いて位置を標定する位置標定装置、位置標定方法および位置標定プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
GPSを利用する航法装置は、その特性上、慣性計測装置(IMU:Inertial Measurement Unit)やオドメトリ(ODOmetry)と組み合わせて、それぞれのセンサの長所を利用した構成とするのが一般的である。しかし、慣性計測装置にはバイアスとスケールファクタ誤差が、オドメトリにはスケールファクタ誤差とオフセット誤差が存在する。これらの誤差は、GPSを使用できる時間が十分にあれば推定・補正することができる。しかし、計測の開始時は誤差量が不明であるため通常、補正を行わない状態(補正量0)となっている。よって、誤差の推定・補正を十分に行えるようになる前にGPSを使用できない状況が発生した場合、慣性航法装置とオドメトリとを用いた自律航法(IMU/ODO)の誤差が顕著となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許3875714号公報
【特許文献2】特開2006−138834号公報
【特許文献3】特開2008−249639号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】山口裕之,浅野勝宏,天野也寸志,“車体横すべり角推定法の開発”,日本機械学會論文集C編67(659),pp.2291−2298,2001
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、例えば、航法の最初から慣性計測装置やオドメトリのデータを補正して高い精度で位置を標定できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の位置標定装置は、
移動体が備えるGPS(Global Positioning System)受信機により異なる時刻に取得された複数のGPSデータと、前記移動体が備える慣性計測装置により異なる時刻に取得された複数の慣性データとを記憶する航法データ記憶部と、
前記航法データ記憶部に記憶された複数のGPSデータと複数の慣性データとに基づいて前記慣性計測装置の計測誤差の推定値として誤差推定初期値を算出する誤差推定部と、
前記複数の慣性データのうち最初に取得された先頭慣性データを前記誤差推定部により算出された誤差推定初期値に基づいて補正する慣性データ補正部と、
前記慣性データ補正部により補正された先頭慣性データに基づいて前記先頭慣性データが取得された先頭時刻における前記移動体の位置として先頭時刻の標定位置を算出する慣性航法部とを備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、例えば、慣性計測装置の先頭慣性データを補正して先頭時刻の位置を高い精度で標定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施の形態1における自己位置標定装置100の機能構成図。
【図2】実施の形態1における車両200の構成図。
【図3】実施の形態1における自己位置標定装置100の位置標定方法を示すフローチャート。
【図4】実施の形態1の位置標定方法において1回目の航法処理(S100)で算出される誤差推定値(および分散)の時間変化を示すグラフ。
【図5】実施の形態1の位置標定方法において2回目の航法処理(S200)で算出される誤差推定値(および分散)の時間変化を示すグラフ。
【図6】実施の形態1における位置標定方法の1回目の航法処理(S100)と2回目の航法処理(S200)とを示すフローチャート。
【図7】実施の形態1におけるGPS/INS複合航法処理(S300)を示すフローチャート。
【図8】実施の形態1におけるODO/INS複合航法処理(S400)を示すフローチャート。
【図9】実施の形態1における自己位置標定装置100のGPS処理部120の機能構成図。
【図10】実施の形態1における二重位相差残差算出処理(S310)を示すフローチャート。
【図11】実施の形態1における自己位置標定装置100のODO処理部130とIMU処理部140との機能構成図。
【図12】実施の形態1における車両座標系xyzとオドメトリ230のオフセット誤差osとの関係図。
【図13】実施の形態1における横滑り角βを示す図。
【図14】実施の形態1におけるコーナリングパワーSslipとオフセット誤差os[1]とを表すグラフ。
【図15】実施の形態1におけるオドメトリ230のスケールファクタ誤差を表すグラフ。
【図16】実施の形態1における横滑り特性学習処理(S500)を示すフローチャート。
【図17】実施の形態1における速度残差算出処理(S410)を示すフローチャート。
【図18】実施の形態1における自己位置標定装置100のハードウェア資源の一例を示す図。
【図19】実施の形態2における自己位置標定装置100の機能構成図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施の形態1.
車両(移動体の一例)の位置をGPS、慣性計測装置およびオドメトリを用いて標定する形態について説明する。
【0010】
図1は、実施の形態1における自己位置標定装置100の機能構成図である。
実施の形態1における自己位置標定装置100の機能構成について、図1に基づいて以下に説明する。
【0011】
自己位置標定装置100(位置標定装置の一例)は、横滑り特性学習部110、GPS処理部120、ODO処理部130、IMU処理部140、カルマンフィルタ150および航法データ記憶部190を備える。
【0012】
航法データ記憶部190は、GPSデータ群191、慣性データ群193およびオドメトリデータ群192を記憶する。
GPSデータ群191は、車両が備えるGPS受信機により異なる時刻に取得された複数のGPSデータである。
慣性データ群193は、車両が備える慣性計測装置により異なる時刻に取得された複数の慣性データである。
オドメトリデータ群192は、車両が備えるオドメトリにより異なる時刻に取得された複数のオドメトリデータである。
【0013】
図2は、実施の形態1における車両200の構成図である。
GPSデータ群191、慣性データ群193およびオドメトリデータ群192を取得する車両200の構成について、図2に基づいて以下に説明する。
【0014】
車両200には天板201が設置され、天板201には3台のGPS受信機と慣性計測装置220とが取り付けられている。
車両200は自己位置標定装置100およびオドメトリ230を備える。
【0015】
天板201の3台のGPS受信機のうち1台を主局のGPS受信機(主局GPS210)とし、残りの2台を従局のGPS受信機(従局GPS211、従局GPS212)とする。
各GPS受信機は、GPS衛星から発信されるGPSの搬送波(測位信号)を受信し、受信結果から観測値を取得し、取得した観測値をGPSデータとして出力する。
GPS受信機が出力するGPSデータには、受信した搬送波の位相(搬送波位相)、GPS受信機とGPS衛星との距離(疑似距離)、単独測位で求められたGPS受信機の座標値、搬送波から得られる航法メッセージなどが含まれる。
【0016】
慣性計測装置220(IMU)は、ジャイロセンサと加速度センサとを備える。
ジャイロセンサは、周期的に、車両200の3軸方向xyzそれぞれの角速度を計測して出力する。以下、3軸方向xyzの角速度を「角速度ベクトル」という。
加速度センサは、周期的に、車両200の3軸方向xyzの加速度を計測して出力する。以下、3軸方向xyzの加速度を「加速度ベクトル」という。
慣性計測装置220は、角速度ベクトルと加速度ベクトルとを慣性データとして出力する。
【0017】
オドメトリ230(ODO)は、周期的に、車両200の速度を表す車速パルス(速度データの一例)を計測し、計測した車速パルスをオドメトリデータとして出力する。
車速パルスは単位時間当たりのタイヤの回転数を表す。車速パルスにタイヤの円周の長さを掛けることにより車両200の速度のスカラー量(以下、速度スカラーという)が求まる。
【0018】
自己位置標定装置100は、GPSデータと慣性データとオドメトリデータとに基づいて各時刻における車両200の位置、姿勢および速度を算出する。
例えば、自己位置標定装置100は車両200の位置として三次元の座標値(緯度、経度、高度)を算出する。
また、自己位置標定装置100は車両200の姿勢として三次元の姿勢角(ロール角、ピッチ角、ヨー角)を算出する。
また、自己位置標定装置100は車両200の速度として速度ベクトル(速度のベクトル量)を算出する。
【0019】
以下、車両200の前後方向(縦方向、長さ方向)を「x軸」、車両200の左右方向(横方向、幅方向)を「y軸」、車両200の上下方向(高さ方向)を「z軸」とする。
また、x軸回りの角度を「ロール角φ(回転角)」、y軸回りの角度を「ピッチ角θ(仰角)」、z軸回りの角度を「ヨー角ψ(方位角)」とする。
また、xyz軸で表される座標系(原点O)を「車両座標系」とする。
【0020】
自己位置標定装置100の航法データ記憶部190(図1参照)には、車両200に設置された3つのGPS受信機それぞれにより取得された複数のGPSデータがGPSデータ群191として予め記憶される。また、航法データ記憶部190には、位置が固定であり座標値が既知であるGPS受信機(電子基準点)(以下、基準局GPSという)により取得された複数のGPSデータもGPSデータ群191として予め記憶される。
航法データ記憶部190には、車両200に設置された慣性計測装置220により計測された複数の慣性データが慣性データ群193として予め記憶される。
航法データ記憶部190には、車両200に設置されたオドメトリ230により計測された複数のオドメトリデータがオドメトリデータ群192として予め記憶される。
【0021】
GPSデータ群191と慣性データ群193とオドメトリデータ群192とに含まれる各データは、取得時刻(計測時刻、検知時刻)と対応付けられているものとする。
【0022】
図1に戻り、自己位置標定装置100の構成の説明を続ける。
【0023】
カルマンフィルタ150(誤差推定部の一例)は、GPSデータ群191と慣性データ群193とに基づいて慣性計測装置220の計測誤差の推定値として誤差推定初期値(後述するIMU誤差推定初期値)を算出する。
【0024】
IMU処理部140(慣性データ補正部、慣性航法部の一例)は、慣性データ群193のうち最初に取得された先頭慣性データをカルマンフィルタ150により算出された誤差推定初期値に基づいて補正する。
IMU処理部140は、補正した先頭慣性データに基づいて先頭慣性データが取得された先頭時刻における車両200の位置として先頭時刻の標定位置を算出する。
【0025】
GPS処理部120(搬送波位相残差算出部の一例)は、GPSデータに含まれる搬送波位相とIMU処理部140により算出される参考位置とに基づいて、搬送波位相の残差(後述する並進系・姿勢系二重位相差残差)を算出する。
【0026】
例えば、誤差推定初期値は以下のように出力される。
【0027】
IMU処理部140は、カルマンフィルタ150により誤差推定初期値が算出される前に、慣性データ群193のうち最初に取得された先頭慣性データに基づいて先頭慣性データが取得された先頭時刻における車両200の位置として先頭時刻の参考位置を算出する。
IMU処理部140は、慣性データ群193のうち先頭慣性データを除く残りの慣性データ毎に、カルマンフィルタ150により算出される当該時刻の誤差推定値に基づいて当該慣性データを補正する。IMU処理部140は、補正した当該慣性データに基づいて当該慣性データが取得された当該時刻における車両200の位置として当該時刻の参考位置を算出する。
GPS処理部120は、IMU処理部140により算出された当該時刻の参考位置と当該時刻に取得されたGPSデータに含まれる搬送波位相とに基づいて、当該時刻における搬送波位相の残差として当該時刻の搬送波位相残差を算出する。
カルマンフィルタ150は、GPS処理部120により算出された当該時刻の搬送波位相残差を用いて当該時刻に対する慣性計測装置220の計測誤差の推定値として当該時刻の誤差推定値を算出する。
カルマンフィルタ150は、GPSデータ群191のうち最後に取得された最終GPSデータの取得時刻の誤差推定値に基づいて誤差推定初期値を出力する。
【0028】
また、先頭時刻の標定位置が算出された後、以下のように動作する。
【0029】
GPS処理部120は、IMU処理部140により算出された先頭時刻の標定位置と先頭時刻に取得された先頭GPSデータに含まれる搬送波位相とに基づいて、先頭時刻の搬送波位相残差を算出する。
GPS処理部120は、GPSデータ群191のうち先頭GPSデータを除く残りのGPSデータ毎に、IMU処理部140により算出される当該時刻の標定位置と当該時刻に取得された当該GPSデータに含まれる搬送波位相とに基づいて当該時刻の搬送波位相残差を算出する。
カルマンフィルタ150は、GPS処理部120により算出された当該時刻の搬送波位相残差に基づいて当該時刻の誤差推定値を算出する。
IMU処理部140は、当該時刻に取得された当該慣性データの次に取得された次慣性データをカルマンフィルタ150により算出された当該時刻の誤差推定値に基づいて補正する。IMU処理部140は、補正した次慣性データに基づいて次慣性データが取得された次時刻の標定位置を算出する。
【0030】
IMU処理部140は、補正した慣性データに基づいて当該時刻における車両200の速度を算出する。
横滑り特性学習部110は、オドメトリデータ群192のうち当該時刻に取得されたオドメトリデータとIMU処理部140により算出された当該時刻の速度とに基づいて、オドメトリ230の計測誤差の推定値として誤差推定初期値(後述するODO誤差推定初期値)を算出する。
ODO処理部130は、当該時刻に取得されたオドメトリデータとIMU処理部140により算出された当該時刻の速度と横滑り特性学習部110により算出された誤差推定初期値とに基づいて、当該時刻の速度残差を算出する。
カルマンフィルタ150は、ODO処理部130により算出された当該時刻の速度残差に基づいて、当該時刻の誤差推定値(後述するIMU誤差推定値)を算出する。
【0031】
図3は、実施の形態1における自己位置標定装置100の位置標定方法を示すフローチャートである。実施の形態1における自己位置標定装置100の位置標定方法について、図3に基づいて以下に説明する。
【0032】
1回目の航法処理(S100)において、自己位置標定装置100は、GPSデータ群191、慣性データ群193およびオドメトリデータ群192といった航法データに基づいて、車両200の位置、姿勢および速度を参考航法結果として算出する。
そして、自己位置標定装置100は、参考航法結果に基づいてIMU誤差推定初期値とODO誤差推定初期値とを算出する。
IMU誤差推定初期値とは、慣性計測装置220の計測誤差の推定値(以下、IMU誤差推定値という)である。
ODO誤差推定初期値とは、オドメトリ230の計測誤差の推定値(以下、ODO誤差推定値という)である。
【0033】
2回目の航法処理(S200)において、自己位置標定装置100は、GPSデータ群191、慣性データ群193、オドメトリデータ群192、IMU誤差推定初期値およびODO誤差推定初期値に基づいて、車両200の位置、姿勢および速度を標定航法結果として算出する。
自己位置標定装置100は、標定航法結果を車両200の位置、姿勢および速度として出力する。
【0034】
図4は、実施の形態1の位置標定方法において1回目の航法処理(S100)で算出される誤差推定値(および分散)の時間変化を示すグラフである。
上のグラフは誤差推定値の時間変化を示し、下のグラフは誤差推定値の分散の時間変化を示している。
【0035】
慣性計測装置220(ジャイロセンサ、加速度センサ)により取得される慣性データには、バイアスやスケールファクタ誤差といった計測誤差が含まれる。慣性計測装置220のスケールファクタ誤差は電源を投入するたびに変化することが知られている。
また、オドメトリ230により取得されるオドメトリデータには、スケールファクタ誤差、オフセット誤差、オフセット誤差に関するパラメータ(例えば、後述するコーナリングパワー)といった計測誤差が含まれる。オドメトリ230のスケールファクタ誤差、オフセット誤差、オフセット誤差に関するパラメータは車両200の重心位置の変化、タイヤの空気圧の変化、路面の状況などに応じて変化することが知られている。
これらの計測誤差は不明であるため、慣性データに基づいて算出する航法結果には計測誤差分の誤差が含まれる。
【0036】
但し、これらの計測誤差は、慣性データから得られる特定値とGPSデータから得られる特定値とを比較することにより推定することができる。
計測誤差の推定値(誤差推定値)は、推定を繰り返すことにより一定値に近づき(図4上)、十分に収斂する(図4下)。十分に収斂した誤差推定値の精度は十分に高い。
【0037】
自己位置標定装置100は、1回目の航法処理(S100)によって十分に収斂した誤差推定値を誤差推定初期値として2回目の航法処理(S200)で用いる。
【0038】
図5は、実施の形態1の位置標定方法において2回目の航法処理(S200)で算出される誤差推定値(および分散)の時間変化を示すグラフである。
【0039】
2回目の航法処理(S200)において誤差推定初期値を用いることにより、誤差推定値は始めからほぼ一定値を示し(図5上)、すぐに収斂する(図5下)。
【0040】
自己位置標定装置100は、2回目の航法処理(S200)において誤差推定初期値を用いることにより誤差推定値をすぐに収斂させ、高い精度で航法結果を得ることができる。
【0041】
図6は、実施の形態1における位置標定方法の1回目の航法処理(S100)と2回目の航法処理(S200)とを示すフローチャートである。
1回目の航法処理(S100)と2回目の航法処理(S200)とについて、図6に基づいて以下に説明する。
【0042】
1回目の航法処理(S100)をS110〜S121およびS300〜S500で示し、2回目の航法処理(S200)をS201〜S221およびS300〜S500で示す。
【0043】
自己位置標定装置100は、1回目の航法処理(S100)と2回目の航法処理(S200)とで同様な航法処理を行う。
但し、IMU・ODO誤差推定初期値は1回目の航法処理(S100)により特定されるため、IMU・ODO誤差推定初期値を用いる処理(S201、S211)は2回目の航法処理(S200)でのみ行われる。
【0044】
まず、1回目の航法処理(S100)について説明する。
【0045】
S110において、IMU処理部140は慣性データ群193のうち最初に取得された慣性データ(以下、先頭慣性データという)を取得する。
IMU処理部140は、先頭慣性データを用いて慣性航法(INS:Inertial Navigation System)を行い、先頭慣性データが取得された時刻(以下、先頭時刻という)における車両200の位置、姿勢および速度を算出する。
S110の後、S120に進む。
【0046】
S120において、IMU処理部140は、次の慣性データが有るか否か(処理していない慣性データが残っているか否か)を判定する。
次の慣性データが有る場合(YES)、S121に進む。
次の慣性データが無い場合(NO)、1回目の航法処理(S100)は終了する。
【0047】
S121において、GPS処理部120は、IMU処理部140により算出された車両200の位置、姿勢および速度に対応する当該時刻がGPS可視時であるか否かを判定する。
【0048】
GPS可視時とは、車両200に設置された3つのGPS受信機と所定地に設けられたGPS受信機(基準局GPS)とが所定数以上のGPS衛星から搬送波を受信できた時刻を意味する。
【0049】
GPS処理部120は、GPSデータ群191から各GPS受信機の当該時刻のGPSデータを取得し、取得した各GPSデータに所定数以上の搬送波位相が含まれている場合にGPS可視時であると判定する。
GPS処理部120は、取得した各GPSデータに所定数以上の搬送波位相が含まれていない場合、GPS不可視時であると判定する。
【0050】
GPS可視時である場合(YES)、GPS/INS複合航法処理(S300)に進む。
GPS不可視時である場合(NO)、ODO/INS複合航法処理(S400)に進む。
【0051】
GPS/INS複合航法処理(S300)において、IMU処理部140は、GPSデータと慣性データとに基づいて車両200の位置、姿勢および速度を算出する。
カルマンフィルタ150は、車両200の位置、姿勢および速度に基づいてIMU誤差推定値を算出する。
GPS/INS複合航法処理(S300)の詳細については後述する。
GPS/INS複合航法処理(S300)の後、横滑り特性学習処理(S500)に進む。
【0052】
横滑り特性学習処理(S500)において、横滑り特性学習部110は、GPS/INS複合航法処理(S300)で算出された車両200の速度と当該時刻のオドメトリデータに含まれる車速パルスとに基づいて、ODO誤差推定値を算出する。
横滑り特性学習処理(S500)の後、S120に戻る。
【0053】
ODO/INS複合航法処理(S400)において、IMU処理部140は、オドメトリデータと慣性データとに基づいて車両200の位置、姿勢および速度を算出する。
カルマンフィルタ150は、車両200の位置、姿勢および速度に基づいてIMU誤差推定値を算出する。
ODO/INS複合航法処理(S400)の詳細については後述する。
ODO/INS複合航法処理(S400)の後、S120に戻る。
【0054】
自己位置標定装置100は、1回目の航法処理(S100)のGPS/INS複合航法処理(S300)で最後に算出されたIMU誤差推定値をIMU誤差推定初期値として用いる。
自己位置標定装置100は、1回目の航法処理(S100)の横滑り特性学習処理(S500)で最後に算出されたODO誤差推定値をODO誤差推定初期値として用いる。
【0055】
自己位置標定装置100は、S120においてIMU誤差推定値およびODO誤差推定値が収斂していれば、次の慣性データが有る場合でも1回目の航法処理(S100)を終了して構わない。
例えば、IMU処理部140は、それまでに算出されたIMU誤差推定値(またはODO誤差推定値)を新しい順に所定数取得し、取得したうちの最大値と最小値との差が所定値未満であればIMU誤差推定値が収斂したと判定し、1回目の航法処理(S100)を終了する。
【0056】
自己位置標定装置100は、1回目の航法処理で最後に算出されたIMU・ODO誤差推定値をIMU・ODO誤差推定初期値にしなくても構わない。
例えば、自己位置標定装置100は、それまでに算出されたIMU誤差推定値(またはODO誤差推定値)を最後のIMU誤差推定値を含めて新しい順に所定数取得し、取得した各IMU誤差推定値の平均値をIMU誤差推定初期値としても構わない。
【0057】
次に、2回目の航法処理(S200)について説明する。
【0058】
S201において、IMU処理部140は、1回目の航法処理(S100)で算出されたIMU誤差推定初期値を誤差補正量として先頭慣性データの値に加算する。先頭慣性データの値に誤差補正量を加算することにより、先頭慣性データを補正することができる。
S201の後、S210に進む。
【0059】
S210において、IMU処理部140は、補正した先頭慣性データに基づいて先頭時刻における車両200の位置、姿勢および速度を算出する(S110と同様)。
S210の後、S211に進む。
【0060】
S211において、横滑り特性学習部110は、1回目の航法処理(S200)で算出されたODO誤差推定初期値を初期設定する。
S211の後、S220に進む。
【0061】
S220において、次の慣性データが有れば(YES)、S221に進む。
また、次の慣性データが無ければ(NO)、2回目の航法処理(S200)は終了する。
【0062】
S221において、GPS可視時であれば(YES)、GPS/INS複合航法処理(S300)に進む。
また、GPS不可視時であれば(NO)、ODO/INS複合航法処理(S400)に進む。
【0063】
GPS/INS複合航法処理(S300)において、IMU処理部140は、GPSデータと慣性データとに基づいて車両200の位置、姿勢および速度を算出する。
カルマンフィルタ150は、車両200の位置、姿勢および速度に基づいてIMU誤差推定値を算出する。
GPS/INS複合航法処理(S300)の後、横滑り特性学習処理(S500)に進む。
【0064】
横滑り特性学習処理(S500)において、横滑り特性学習部110は、GPS/INS複合航法処理(S300)で算出された車両200の速度と当該時刻のオドメトリデータに含まれる車速パルスとに基づいてODO誤差推定値を算出する。
横滑り特性学習処理(S500)の後、S220に戻る。
【0065】
ODO/INS複合航法処理(S400)において、IMU処理部140は、オドメトリデータと慣性データとに基づいて車両200の位置、姿勢および速度を算出する。
カルマンフィルタ150は、車両200の位置、姿勢および速度に基づいてIMU誤差推定値を算出する。
ODO/INS複合航法処理(S400)の後、S220に戻る。
【0066】
自己位置標定装置100は、2回目の航法処理(S200)のGPS/INS複合航法処理(S300)とODO/INS複合航法処理(S400)とで算出された各時刻における車両200の位置、姿勢および速度を航法結果(標定値)として出力する。
【0067】
図7は、実施の形態1におけるGPS/INS複合航法処理(S300)を示すフローチャートである。
実施の形態1におけるGPS/INS複合航法処理(S300)について、図7に基づいて以下に説明する。
【0068】
二重位相差残差算出処理(S310)において、GPS処理部120は、一つ前に算出された車両200の位置と姿勢と当該時刻のGPSデータに含まれる搬送波位相とに基づいて、当該時刻の二重位相差残差を算出する。
二重位相差残差算出処理(S310)の詳細については後述する。
二重位相差残差算出処理(S310)の後、S320に進む。
【0069】
S320において、カルマンフィルタ150は、当該時刻の二重位相差残差を入力として当該時刻のIMU誤差推定値を算出する。
【0070】
カルマンフィルタ150の概要について説明する。
カルマンフィルタ150は、モデル化された状態方程式と観測方程式とを用いて誤差補正量(IMU誤差推定値や後述する航法誤差推定値)を算出する。
カルマンフィルタ150に入力される残差(二重位相差残差や速度残差)は観測方程式の変数として用いられる。
【0071】
カルマンフィルタ150は、観測ノイズ行列R、誤差共分散行列Pおよび観測行列Hを用いてカルマンゲインベクトルKを算出する。
観測ノイズ行列Rと観測行列Hは残差の種類ごとに用意される。
誤差共分散行列Pは、状態量(位置、姿勢、速度、IMU誤差推定値、航法誤差推定値など)の共分散値を表す。
観測行列Hは、状態量と観測量(二重位相差残差、速度残差など)との関係を表す。
【0072】
カルマンゲインベクトルKの算出式(1)を以下に示す。式(1)において「H」は観測行列Hの転置行列を表す。
【0073】
【数1】

【0074】
残差dzにカルマンゲインベクトルKを掛けて求まる複数の値Kdzが誤差補正量である。
【0075】
S320の後、S330に進む。
【0076】
S330において、IMU処理部140は、当該時刻のIMU誤差推定値を誤差補正量として次の慣性データの値に加算する。慣性データの値に誤差補正量を加算することにより、慣性データを補正することができる。
S330の後、S340に進む。
【0077】
S340において、IMU処理部140は、補正した慣性データを用いて慣性航法を行い、慣性データが取得された時刻(次の時刻)における車両200の位置、姿勢および速度を算出する。
S340の後、GPS/INS複合航法処理(S300)は終了する。
【0078】
図8は、実施の形態1におけるODO/INS複合航法処理(S400)を示すフローチャートである。
実施の形態1におけるODO/INS複合航法処理(S400)について、図8に基づいて以下に説明する。
【0079】
速度残差算出処理(S410)において、ODO処理部130は、一つ前に算出された車両200の速度と当該時刻のODO誤差推定値とに基づいて、当該時刻の速度残差を算出する。
速度残差算出処理(S410)の詳細については後述する。
速度残差算出処理(S410)の後、S420に進む。
【0080】
S420において、カルマンフィルタ150は、当該時刻の速度残差を入力として当該時刻のIMU誤差推定値を算出する。
S420の後、S430に進む。
【0081】
S430において、IMU処理部140は、当該時刻のIMU誤差推定値を誤差補正量として次の慣性データを補正する。
S430の後、S440に進む。
【0082】
S440において、IMU処理部140は、補正した慣性データを用いて慣性航法を行い、慣性データが取得された時刻(次の時刻)における車両200の位置、姿勢および速度を算出する。
S440の後、ODO/INS複合航法処理(S400)は終了する。
【0083】
次に、GPS/INS複合航法処理(S300)で行われる二重位相差残差算出処理(S310)とODO/INS複合航法処理(S400)で行われる速度残差算出処理(S410)との具体例について説明する。
また、横滑り特性学習処理(S500)の具体例について説明する。
【0084】
図9は、実施の形態1における自己位置標定装置100のGPS処理部120の機能構成図である。
実施の形態1におけるGPS処理部120の機能構成の具体例について、図9に基づいて以下に説明する。
【0085】
GPS処理部120は、並進系二重位相差残差と姿勢系二重位相差残差とを算出する。
GPS処理部120は、並進系二重位相差残差を算出する構成として、並進系二重位相差計算部121、並進系二重位相差予測部122および並進系二重位相差残差計算部123を備える。
GPS処理部120は、姿勢系二重位相差残差を算出する構成として、姿勢系二重位相差計算部124、姿勢系二重位相差予測部125および姿勢系二重位相差残差計算部126を備える。
さらに、GPS処理部120はデザイン行列計算部127を備える。
GPS処理部120の各構成の詳細については後述する。
【0086】
カルマンフィルタ150は、GPS処理部120により算出される並進系二重位相差残差と姿勢系二重位相差残差とに基づいて、IMU誤差推定値(および後述する航法誤差推定値)を算出する。
【0087】
図10は、実施の形態1における二重位相差残差算出処理(S310)を示すフローチャートである。
実施の形態1における二重位相差残差算出処理(S310)の具体例について、図10に基づいて以下に説明する。
【0088】
S311において、並進系二重位相差計算部121は、GPSデータ群191から基準局GPSと主局GPS210との対象時刻のGPSデータを取得し、取得したGPSデータからGPS衛星Aの搬送波位相AとGPS衛星Bの搬送波位相Bとを取得する。
並進系二重位相差計算部121は、基準局GPSの搬送波位相Aと主局GPS210の搬送波位相Aとの差を搬送波位相差Aとして算出し、基準局GPSの搬送波位相Bと主局GPS210の搬送波位相Bとの差を搬送波位相差Bとして算出する。
並進系二重位相差計算部121は、搬送波位相差Aと搬送波位相差Bとの差を並進系二重位相差として算出する。
【0089】
並進系とは、基準局GPSに対する主局GPS210の相対位置により車両200の位置が求まることを意味する。
【0090】
S311の後、S312に進む。
【0091】
S312において、並進系二重位相差予測部122は、基準局GPS299の位置とIMU処理部140により算出された対象時刻における車両200の位置とデザイン行列計算部127により算出される並進系デザイン行列とに基づいて、並進系二重位相差を算出する。
デザイン行列計算部127は、各GPSデータに含まれるエフェメリス(航法メッセージに含まれる軌道情報)に基づいて、2つのGPS受信機の位置と並進系二重位相差との関係を表す行列を並進系デザイン行列として算出する。
S312の後、S313に進む。
【0092】
S313において、並進系二重位相差残差計算部123は、S311で算出された並進系二重位相差とS312で算出された並進系二重位相差との差を対象時刻の並進系二重位相差残差として算出する。
S313の後、S314に進む。
【0093】
S314において、姿勢系二重位相差計算部124は、GPSデータ群191から主局GPS210、従局GPS211および従局GPS212の対象時刻のGPSデータを取得する。姿勢系二重位相差計算部124は、取得したGPSデータからGPS衛星Aの搬送波位相AとGPS衛星Bの搬送波位相Bとを入力する。
姿勢系二重位相差計算部124は、主局GPS210の搬送波位相Aと従局GPS211の搬送波位相Aとの差を第1の搬送波位相差Aとして算出し、主局GPS210の搬送波位相Bと従局GPS211の搬送波位相Bとの差を第1の搬送波位相差Bとして算出する。同様に、姿勢系二重位相差計算部124は、主局GPS210の搬送波位相A・Bと従局GPS212の搬送波位相A・Bとに基づいて第2の搬送波位相差A・Bを算出する。
姿勢系二重位相差計算部124は、第1の搬送波位相差Aと第1の搬送波位相差Bとの差を第1の姿勢系二重位相差として算出し、第2の搬送波位相差Aと第2の搬送波位相差Bとの差を第2の姿勢系二重位相差として算出する。
【0094】
姿勢系とは、主局GPS210に対する従局GPS211および従局GPS212の相対位置(基線ベクトル)により車両200の姿勢が求まることを意味する。
【0095】
S314の後、S315に進む。
【0096】
S315において、姿勢系二重位相差予測部125は、主局GPS210、従局GPS211および従局GPS212の相対位置(所定の計測値)とIMU処理部140により算出された対象時刻における車両200の姿勢とデザイン行列計算部127により算出される姿勢系デザイン行列とに基づいて、第1・第2の姿勢系二重位相差を算出する。
デザイン行列計算部127は、各GPSデータに含まれるエフェメリスに基づいて、2つのGPS受信機の位置と姿勢系二重位相差との関係を表す行列を姿勢系デザイン行列として算出する。
S315の後、S316に進む。
【0097】
S316において、姿勢系二重位相差残差計算部126は、S314で算出された第1の姿勢系二重位相差とS315で算出された第1の姿勢系二重位相差との差を対象時刻の第1の姿勢系二重位相差残差として算出する。
姿勢系二重位相差残差計算部126は、S314で算出された第2の姿勢系二重位相差とS315で算出された第2の姿勢系二重位相差との差を対象時刻の第2の姿勢系二重位相差残差として算出する。
S316の後、二重位相差残差算出処理(S310)は終了する。
【0098】
カルマンフィルタ150は、二重位相差残差算出処理(S310)で算出された並進系二重位相差残差と第1・第2の姿勢系二重位相差残差とを入力として、対象時刻のIMU誤差推定値(および後述する航法誤差推定値)を算出する。
【0099】
図11は、実施の形態1における自己位置標定装置100のODO処理部130とIMU処理部140との機能構成図である。
ODO処理部130とIMU処理部140との機能構成の具体例について、図11に基づいて以下に説明する。
【0100】
ODO処理部130は、速度/加速度計算部131と速度/加速度予測部132と速度/加速度残差計算部133とを備える。
ODO処理部130の各構成の詳細については後述する。
【0101】
カルマンフィルタ150は、慣性計測装置220を構成するジャイロセンサと加速度センサとのそれぞれの計測誤差の推定値をIMU誤差推定値として出力する。
さらに、カルマンフィルタ150は、IMU処理部140により算出された車両200の位置、姿勢および速度のそれぞれの誤差推定値を航法誤差推定値として出力する。
【0102】
IMU処理部140は、補正計算部141とストラップダウン演算部142とを備える。
【0103】
補正計算部141は、対象時刻の慣性データに含まれる角速度ベクトルと加速度ベクトルとにカルマンフィルタ150により算出されたIMU誤差推定値を誤差補正量として加算する。角速度ベクトルと加速度ベクトルとにそれぞれの誤差補正量を加算することにより、角速度ベクトルと加速度ベクトルとを補正することができる。
【0104】
ストラップダウン演算部142は、補正計算部141により補正された角速度ベクトルおよび加速度ベクトルを用いてストラップダウン演算(慣性航法の一例)を行う。
ストラップダウン演算では、角速度ベクトルを積分することにより姿勢(姿勢角ベクトル)が求まり、加速度ベクトルを積分することにより速度(速度ベクトル)が求まる。
さらに、速度(速度ベクトル)を積分することにより距離(距離ベクトル)が求まり、一つ前に算出した位置に距離ベクトルを加算することにより対象時刻の位置(三次元座標値)が求まる。
【0105】
ストラップダウン演算部142は、ストラップダウン演算により得られた対象時刻における車両200の位置、姿勢および速度にカルマンフィルタ150により算出された航法誤差推定値を誤差補正量として加算する。位置、姿勢および速度にそれぞれの誤差補正量を加算することにより、位置、姿勢および速度を補正することができる。
【0106】
横滑り特性学習部110は、ストラップダウン演算部142により算出された速度ベクトルに基づいて、車両200のコーナリングパワー、オドメトリ230のオフセット誤差およびスケールファクタ誤差を算出する。
コーナリングパワー、オフセット誤差、スケールファクタ誤差はODO誤差推定値の一例である。
【0107】
図12は、実施の形態1における車両座標系xyzとオドメトリ230のオフセット誤差osとの関係図である。
図13は、実施の形態1における横滑り角βを示す図である。
オドメトリ230のオフセット誤差osについて、図12と図13とに基づいて以下に説明する。
【0108】
図12において、車両200は、搭載物(例えば、乗車している人)のバランスや道路の起伏などに応じて傾き、また、図13に示すような横滑りをする。
このため、車両200のタイヤの向きxと車両200の進行方向Vとは異なり、オドメトリ230の車速パルスから算出される正面方向xの速度(速度スカラー)は進行方向Vの速度に対して誤差を有する。この誤差量をオドメトリ230のオフセット誤差という。
os[0]はz軸方向のオフセット誤差を示し、os[1]はy軸方向のオフセット誤差を示している。
【0109】
図13において、横向きの力を受ける車両200はタイヤの傾きよりも浅い角度の方向へ進む。つまり、車両200はコーナリング時などに横滑りし、横滑り角βを生じる。横滑り角βは、タイヤの向きと車両200の進行方向とが成すヨー角を示している。
【0110】
図14は、実施の形態1におけるコーナリングパワーSslipとオフセット誤差os[1]とを表すグラフである。
コーナリングパワーSslipとオフセット誤差os[1]とについて、図14に基づいて以下に説明する。
【0111】
横滑り特性直線Lは、単位コーナリングフォースaと横滑り角βとの関係を表している。
単位コーナリングフォースaとは加速度ベクトルの左右方向成分値である。
コーナリングパワーSslipとは横滑り特性直線Lの傾きである。
オスセット誤差os[1]は単位コーナリングフォースaが「0」のときの横滑り角βに相当する。もう一つのオフセット誤差os[0]は加速度ベクトルの上下方向成分値に対する値である。
【0112】
図15は、実施の形態1におけるオドメトリ230のスケールファクタ誤差を表すグラフである。
オドメトリ230のスケールファクタ誤差について、図15に基づいて以下に説明する。
【0113】
実線は、GPSデータに基づいて算出されるGPS距離とオドメトリデータに基づいて算出されるODO距離との関係を表している。
オドメトリ230のスケールファクタ誤差とはGPS距離に対するODO距離の割合(パーセント)である。
例えば、GPS距離が「100センチメートル」であり、ODO距離が「95センチメートル」であれば、オドメトリ230のスケールファクタ誤差は「−5パーセント」である。
点線は、オドメトリ230のスケールファクタ誤差が「0パーセント」の場合を示している。つまり、GPS距離とODO距離とは等しい。
【0114】
図16は、実施の形態1における横滑り特性学習処理(S500)を示すフローチャートである。
実施の形態1における横滑り特性学習処理(S500)の具体例について、図16に基づいて以下に説明する。
【0115】
S510において、速度/加速度計算部131は、対象時刻のオドメトリデータに含まれる車速パルスに車両200のタイヤの円周長を掛けて対象時刻における車両200の速度のスカラー量(以下、速度スカラーという)を算出する。
速度/加速度計算部131は、速度スカラーを積分して距離(以下、ODO距離という)を算出する。
S510の後、S520に進む。
【0116】
S520において、横滑り特性学習部110は、S510で算出された速度スカラーを速度ベクトルの前後方向成分として用い、ストラップダウン演算部142により算出された対象時刻の速度ベクトルのうち左右方向成分値を用いる。
横滑り特性学習部110は、速度ベクトルの左右方向成分値を速度スカラーで割った値を横滑り角として算出する。
すなわち、「横滑り角β=速度ベクトルの左右方向成分値V/速度スカラーVodo」である。タンジェント(tan)の値が「V/Vodo」になる角度を横滑り角βとしてもよい。
S520の後、処理はS530に進む。
【0117】
S530において、横滑り特性学習部110は、S520で算出した横滑り角と補正計算部141により補正された対象時刻の加速度ベクトルの左右方向成分値とを対応づけて航法データ記憶部190に追加して記憶する。
航法データ記憶部190には、複数の横滑り角と加速度ベクトルの左右方向成分値(単位コーナリングフォース)とが蓄積される。
S530の後、S540に進む。
【0118】
S540において、横滑り特性学習部110は、航法データ記憶部190に蓄積された複数の横滑り角と単位コーナリングフォースとに基づいて横滑り特性直線を算出する(図14参照)。
S540の後、S550に進む。
【0119】
S550において、横滑り特性学習部110は、横滑り特性直線に基づいて車両200のコーナリングパワーとオドメトリ230のオフセット誤差とを算出する(図14参照)。
S550の後、S560に進む。
【0120】
S560において、横滑り特性学習部110は、ストラップダウン演算部142により速度ベクトルに基づいて算出された距離(GPS距離)とS510で算出されたODO距離とに基づいて、オドメトリ230のスケールファクタ誤差を算出する(図15参照)。
S560の後、横滑り特性学習処理(S500)は終了する。
【0121】
図17は、実施の形態1における速度残差算出処理(S410)を示すフローチャートである。
実施の形態1における速度残差算出処理(S410)の具体例について、図17に基づいて以下に説明する。
【0122】
S411において、速度/加速度計算部131は、対象時刻のオドメトリデータに含まれる車速パルスに基づいて速度スカラーを算出する。
速度/加速度計算部131は、速度スカラーを微分して加速度スカラーを算出する。
S411の後、S412に進む。
【0123】
S412において、速度/加速度予測部132は、S411で算出された速度スカラーと横滑り特性学習部110により算出されたODO誤差推定値と補正計算部141により補正された加速度ベクトルとに基づいて、対象時刻における車両200の速度ベクトルを算出する。
速度/加速度予測部132は、S411で算出された加速度スカラーに基づいて対象時刻における車両200の加速度ベクトルを算出する。
【0124】
車両200の速度ベクトルVの算出式(2)を以下に示す。
式(2)において、「Vodo」は速度スカラー、「os[0]」はピッチ角のオフセット誤差、「os[1]」はヨー角のオフセット誤差、「Sslip」はコーナリングパワー、「a」は加速度ベクトルの左右方向成分値(単位コーナリングフォース)を示す。
【0125】
【数2】

【0126】
速度/加速度予測部132は、式(2)の速度スカラーVodoを加速度スカラーに置き換えて加速度ベクトルを算出する。
【0127】
S412の後、S413に進む。
【0128】
S413において、速度/加速度残差計算部133は、S412で算出された速度ベクトルとストラップダウン演算部142により算出された対象時刻の速度ベクトルとの差を対象時刻の速度ベクトル残差として算出する。
速度/加速度残差計算部133は、S412で算出された加速度ベクトルと補正計算部141により補正された対象時刻の加速度ベクトルとの差を対象時刻の加速度ベクトル残差として算出する。S413の後、速度残差算出処理(S410)は終了する。
【0129】
カルマンフィルタ150は、速度残差算出処理(S410)で算出された速度ベクトル残差と加速度ベクトル残差とを入力として、対象時刻のIMU誤差推定値と航法誤差推定値とを算出する。
【0130】
図18は、実施の形態1における自己位置標定装置100のハードウェア資源の一例を示す図である。図18において、自己位置標定装置100は、CPU911(Central・Processing・Unit)(マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータともいう)を備えている。CPU911は、バス912を介してROM913、RAM914、通信ボード915、磁気ディスク装置920と接続され、これらのハードウェアデバイスを制御する。
通信ボード915は、有線または無線で、LAN(Local Area Network)、インターネット、電話回線などの通信網に接続している。
磁気ディスク装置920には、OS921(オペレーティングシステム)、プログラム群923、ファイル群924が記憶されている。
プログラム群923には、実施の形態において「〜部」として説明する機能を実行するプログラムが含まれる。プログラムは、CPU911により読み出され実行される。すなわち、プログラムは、「〜部」としてコンピュータを機能させるものであり、また「〜部」の手順や方法をコンピュータに実行させるものである。
ファイル群924には、実施の形態において説明する「〜部」で使用される各種データ(入力、出力、判定結果、計算結果、処理結果など)が含まれる。
実施の形態において構成図およびフローチャートに含まれている矢印は主としてデータや信号の入出力を示す。
実施の形態において「〜部」として説明するものは「〜回路」、「〜装置」、「〜機器」であってもよく、また「〜ステップ」、「〜手順」、「〜処理」であってもよい。すなわち、「〜部」として説明するものは、ファームウェア、ソフトウェア、ハードウェアまたはこれらの組み合わせのいずれで実装されても構わない。
【0131】
実施の形態1において、例えば、以下のような自己位置標定装置100および自己位置標定アルゴリズムについて説明した。
GPSや慣性計測装置(IMU)やオドメトリ(ODO)のデータを解析して、これらのセンサが搭載されたプラットフォーム(例えば、車両200)の位置を標定する。
このとき、同一データによる処理を2回行い、2回目に1回目の処理結果(IMU・ODO誤差推定初期値)を使用する。
これにより、1回のみの処理を行う場合に比べて自己位置標定精度を向上することができる。
【0132】
実施の形態2.
実施の形態1は、航法データの収集が全て終了したのちに自己位置を標定する後処理に適した形態である。
実施の形態2では、航法データの収集を行いながら自己位置を標定するリアルタイム処理に適した形態について説明する。
【0133】
図19は、実施の形態2における自己位置標定装置100の機能構成図である。
実施の形態2における自己位置標定装置100について、図19に基づいて以下に説明する。
【0134】
航法データ記憶部190には、事前に行われた予備計測により収集されたGPS予備データ群194(第1のGPSデータ群)と慣性予備データ群196(第1の慣性データ群)とオドメトリ予備データ群195とが予め記憶されているものとする。
【0135】
また、航法データ記憶部190には、現在行われている本計測により収集されたGPSデータと慣性データとオドメトリデータとが随時記憶されるものとする。
【0136】
自己位置標定装置100は、本計測の前に、予備計測により得られたGPS予備データ群194、慣性予備データ群196、オドメトリ予備データ群195を用いて1回目の航法処理(S100)を行う。
自己位置標定装置100は、1回目の航法処理(S100)で算出されたIMU・ODO誤差推定初期値を2回目の航法処理(S200)で用いる。
2回目の航法処理(S200)において、自己位置標定装置100は、本計測により得られたGPSデータ群191、慣性データ群193(第2の慣性データ群)およびオドメトリデータ群192を処理して位置、姿勢および速度を標定する。
【0137】
予備計測は本計測と同じ地域において本計測の直前に行うのが望ましい。本計測との条件が近いほどIMU・ODO誤差推定初期値の信頼性が高く、標定精度を向上させることができるからである。
【符号の説明】
【0138】
100 自己位置標定装置、110 横滑り特性学習部、120 GPS処理部、121 並進系二重位相差計算部、122 並進系二重位相差予測部、123 並進系二重位相差残差計算部、124 姿勢系二重位相差計算部、125 姿勢系二重位相差予測部、126 姿勢系二重位相差残差計算部、127 デザイン行列計算部、130 ODO処理部、131 速度/加速度計算部、132 速度/加速度予測部、133 速度/加速度残差計算部、140 IMU処理部、141 補正計算部、142 ストラップダウン演算部、150 カルマンフィルタ、190 航法データ記憶部、191 GPSデータ群、192 オドメトリデータ群、193 慣性データ群、194 GPS予備データ群、195 オドメトリ予備データ群、196 慣性予備データ群、200 車両、201 天板、210 主局GPS、211,212 従局GPS、220 慣性計測装置、230 オドメトリ、299 基準局GPS、911 CPU、912 バス、913 ROM、914 RAM、915 通信ボード、920 磁気ディスク装置、921 OS、923 プログラム群、924 ファイル群。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体が備えるGPS(Global Positioning System)受信機により異なる時刻に取得された複数のGPSデータと、前記移動体が備える慣性計測装置により異なる時刻に取得された複数の慣性データとを記憶する航法データ記憶部と、
前記航法データ記憶部に記憶された複数のGPSデータと複数の慣性データとに基づいて前記慣性計測装置の計測誤差の推定値として誤差推定初期値を算出する誤差推定部と、
前記複数の慣性データのうち最初に取得された先頭慣性データを前記誤差推定部により算出された誤差推定初期値に基づいて補正する慣性データ補正部と、
前記慣性データ補正部により補正された先頭慣性データに基づいて前記先頭慣性データが取得された先頭時刻における前記移動体の位置として先頭時刻の標定位置を算出する慣性航法部と
を備えたことを特徴とする位置標定装置。
【請求項2】
前記航法データ記憶部は、搬送波位相を含む複数のGPSデータを記憶し、
前記慣性航法部は、前記誤差推定部により誤差推定初期値が算出される前に複数の慣性データのうち最初に取得された先頭慣性データに基づいて前記先頭慣性データが取得された先頭時刻における前記移動体の位置として先頭時刻の参考位置を算出し、前記複数の慣性データのうち前記先頭慣性データを除く残りの慣性データ毎に、前記慣性データ補正部により補正される当該慣性データに基づいて当該慣性データが取得された当該時刻における前記移動体の位置として当該時刻の参考位置を算出し、
前記位置標定装置は、さらに、
前記慣性航法部により算出された当該時刻の参考位置と当該時刻に取得されたGPSデータに含まれる搬送波位相とに基づいて当該時刻における搬送波位相の残差として当該時刻の搬送波位相残差を算出する搬送波位相残差算出部を備え、
前記誤差推定部は、前記搬送波位相残差算出部により算出された当該時刻の搬送波位相残差を用いて当該時刻に対する前記慣性計測装置の計測誤差の推定値として当該時刻の誤差推定値を算出し、前記複数のGPSデータのうち最後に取得された最終GPSデータの取得時刻の誤差推定値に基づいて前記誤差推定初期値を出力する
ことを特徴とする請求項1記載の位置標定装置。
【請求項3】
前記搬送波位相残差算出部は、前記慣性航法部により算出された先頭時刻の標定位置と先頭時刻に取得された先頭GPSデータに含まれる搬送波位相とに基づいて先頭時刻の搬送波位相残差を算出し、前記複数のGPSデータのうち前記先頭GPSデータを除く残りのGPSデータ毎に、前記慣性航法部により算出される当該時刻の標定位置と当該時刻に取得された当該GPSデータに含まれる搬送波位相とに基づいて当該時刻の搬送波位相残差を算出し、
前記誤差推定部は、前記搬送波位相残差算出部により算出された当該時刻の搬送波位相残差に基づいて当該時刻の誤差推定値を算出し、
前記慣性データ補正部は、当該時刻に取得された当該慣性データの次に取得された次慣性データを前記誤差推定部により算出された当該時刻の誤差推定値に基づいて補正し、
前記慣性航法部は、前記慣性データ補正部により補正された次慣性データに基づいて次慣性データが取得された次時刻の標定位置を算出する
ことを特徴とする請求項2記載の位置標定装置。
【請求項4】
移動体が備えるGPS(Global Positioning System)受信機により第1の時間内の異なる時刻に取得された複数のGPSデータを第1のGPSデータ群として記憶し、前記移動体が備える慣性計測装置により前記第1の時間内の異なる時刻に取得された複数の慣性データを第1の慣性データ群として記憶し、前記慣性計測装置により第2の時間内の異なる時刻に取得された複数の慣性データを第2の慣性データ群として記憶する航法データ記憶部と、
前記航法データ記憶部に記憶された第1のGPSデータ群と第1の慣性データ群とに基づいて前記慣性計測装置の計測誤差の推定値として誤差推定初期値を算出する誤差推定部と、
第2の慣性データ群のうち最初に取得された先頭慣性データを前記誤差推定部により算出された誤差推定初期値に基づいて補正する慣性データ補正部と、
前記慣性データ補正部により補正された先頭慣性データに基づいて前記先頭慣性データが取得された先頭時刻における前記移動体の位置として先頭時刻の標定位置を算出する慣性航法部と
を備えたことを特徴とする位置標定装置。
【請求項5】
移動体が備えるGPS(Global Positioning System)受信機により異なる時刻に取得された複数のGPSデータと、前記移動体が備える慣性計測装置により異なる時刻に取得された複数の慣性データとを記憶する航法データ記憶部を備える位置標定装置の位置標定方法において、
誤差推定部が、前記航法データ記憶部に記憶された複数のGPSデータと複数の慣性データとに基づいて前記慣性計測装置の計測誤差の推定値として誤差推定初期値を算出し、
慣性データ補正部が、前記複数の慣性データのうち最初に取得された先頭慣性データを前記誤差推定部により算出された誤差推定初期値に基づいて補正し、
慣性航法部が、前記慣性データ補正部により補正された先頭慣性データに基づいて前記先頭慣性データが取得された先頭時刻における前記移動体の位置として先頭時刻の標定位置を算出する
ことを特徴とする位置標定装置の位置標定方法。
【請求項6】
移動体が備えるGPS(Global Positioning System)受信機により第1の時間内の異なる時刻に取得された複数のGPSデータを第1のGPSデータ群として記憶し、前記移動体が備える慣性計測装置により前記第1の時間内の異なる時刻に取得された複数の慣性データを第1の慣性データ群として記憶し、前記慣性計測装置により第2の時間内の異なる時刻に取得された複数の慣性データを第2の慣性データ群として記憶する航法データ記憶部を備える位置標定装置の位置標定方法において、
誤差推定部が、前記航法データ記憶部に記憶された第1のGPSデータ群と第1の慣性データ群とに基づいて前記慣性計測装置の計測誤差の推定値として誤差推定初期値を算出し、
慣性データ補正部が、第2の慣性データ群のうち最初に取得された先頭慣性データを前記誤差推定部により算出された誤差推定初期値に基づいて補正し、
慣性航法部が、前記慣性データ補正部により補正された先頭慣性データに基づいて前記先頭慣性データが取得された先頭時刻における前記移動体の位置として先頭時刻の標定位置を算出する
ことを特徴とする位置標定装置の位置標定方法。
【請求項7】
請求項5または請求項6記載の位置標定方法をコンピュータに実行させる位置標定プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2011−185899(P2011−185899A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−54361(P2010−54361)
【出願日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】