説明

低コスト、高出力、高エネルギー密度のバイポーラ固体状態金属水素化物電池

本発明は、1)負極材料層と、2)正極材料層と、3)当該正極材料層と当該負極材料層との間に配置されたペロブスカイト型酸化物材料層とを含む少なくとも一の多層電池セルを含む固体状態電池である。ここで、ペロブスカイト型酸化物材料層は、電気的に絶縁性であって、プロトンを容易に伝導又は輸送することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体状態の電解質を使用する薄膜全固体金属水素化物電池に関する。詳しくは本発明は、HEV/PHEV用途に有用な低コスト、高出力、高エネルギー密度の、固体状態、非水系、バイポーラ金属水素化物電池に関する。
【背景技術】
【0002】
日常生活のほぼすべての局面で充電式電池が使用される。多種多様な工業的、商業的、及び消費者用途が存在する。自動車用途に加え、大容量電池の使用は、フォークリフト、ゴルフカート、電子データストレージ保護用無停電電源、及び電力生産施設用の一様なエネルギー貯蔵のような用途を含む。ハイブリッド車の市場では、軽量、高充電容量の電池に対する需要が急速に増加している。
【0003】
ハイブリッド電気自動車(HEV)においては、重量が重要な因子である。これは、ハイブリッド電気自動車(PHEV)の場合に特にあてはまる。当該車両の総重量の大半が電池の重量だからである。セルの重量を低減することは、電気自動車に給電する電池の設計における重要な問題である。
【0004】
現行の金属水素化物電池はPHEV用途に対して重すぎる。そのドライビング・レンジは非常に限られている。例えば、Gold PeakによってPHEVに変更されたトヨタ・プリウス(登録商標)というHEVは、当該車両を推進及び当該電池を充電するべくガソリンエンジンが作動しなければならなくなる前の純電気走行可能距離は64キロメートル(40マイル)に過ぎない。
【0005】
現行のリチウムイオン(Li−ion)電池技術は、車両用途に使用できるほど成熟してはいない。そのHEV用の高出力電池を開発する進行中の研究努力に関する記載において、米国エネルギー省は、「高出力エネルギー貯蔵デバイスは、HEVの開発及び商用化にとって必須の重要技術の一つである」と述べている。Li−ion技術に関する米国エネルギー省の関心は、コスト、性能、濫用に対する耐性、及び暦寿命を含む。
【0006】
コスト−Li系電池の現行のコストは、kWベースで約2倍高い。問題となる主なコスト推進要因は、原材料及び材料加工の高コスト、セル及びモジュールパッケージングのコスト、及び製造コストである。
【0007】
性能−電池性能に関する障壁は、低い温度における放電出力損失並びに経時的な及び/又はサイクル時の出力減衰を含む。
【0008】
濫用に対する耐性−多くの高出力電池は、短絡(内部短絡を含む)、過充電、過放電、圧壊、又は、火及び/若しくは他の高温度環境への暴露のような濫用条件に対して本質的に耐性がない。
【0009】
寿命−ハイブリッドシステム(従来のエンジンを伴う)に対する暦寿命目標は15年である。電池寿命の目標は当該目標に適合するべく設定される。15年の暦寿命はまだ実証されていない。
【0010】
さらに、Li−ion電池は、HEVに対しては製造コストが50%削減されない限り、及びPHEVに対しては製造コストが67%から80%削減されない限り、コスト効率のよいソリューションとはならない。
【0011】
したがって、輸送分野において、低コスト、高出力、高エネルギー密度の電池技術が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許第5,096,667号明細書
【特許文献2】米国特許第5,506,069号明細書
【特許文献3】米国特許第5,616,432号明細書
【特許文献4】米国特許第7,131,597号明細書
【特許文献5】米国特許第5,344,728号明細書
【特許文献6】米国特許第5,348,822号明細書
【発明の概要】
【0013】
本発明は、1)充電及び放電中にプロトンを吸着及び脱着することができる固体状態の負極材料層と、2)充電及び放電中にプロトンを脱着及び吸着することができる固体状態の正極材料層と、3)当該正極材料層と当該負極材料層との間に配置された固体状態のペロブスカイト型酸化物材料層とを含む少なくとも一の多層電池セルを含む固体状態電池である。ここで、ペロブスカイト型酸化物材料層は、電気的に絶縁性であって、当該電池が充電している間に正極材料層から負極材料層へプロトンを容易に伝導又は輸送することができる一方、当該電池が放電している間に負極材料層から正極材料層へプロトンを容易に伝導又は輸送することができる。
【0014】
負極材料層、正極材料層、及びペロブスカイト型酸化物材料層は薄膜材料である。正極材料層は、遷移金属の水酸化物を含む。遷移金属の水酸化物は、ほぼ1個の電子移動を与える水酸化ニッケル材料である。遷移金属の水酸化物は、ほぼ1.7個の電子移動を与えるγ相水酸化ニッケルである。負極材料層は、金属水素化物材料であって無秩序又は多相の材料である。これは、アモルファス相、ナノ結晶相、マイクロ結晶相、又は多結晶相の一以上を含む。負極材料層は、Mg−Ni型水素吸蔵合金材料を含む。ペロブスカイト型酸化物材料は、Ba、Sr、Zr、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Fe、Cr、Al、Ti、Mg、Sn、及びInからなる群から選択される一以上の元素を含む。
【0015】
多層電池セルはさらに、負極材料及び正極材料の固体状態層に隣接するがペロブスカイト型酸化物材料の固体状態層からは離間した導電性の下部及び上部電池ターミナル層を含む。導電性の下部及び上部電池ターミナル層は、アルミニウム、ニッケル、銅、及びこれらの合金、混合物、又は複合物からなる群から選択される導電性金属から形成される。好ましくは、導電性の下部及び上部電池ターミナル層はアルミニウムから形成される。導電性の下部及び上部電池ターミナル層は、導電性のセラミック又は酸化物材料から形成される。
【0016】
固体状態電池は一以上の多層電池を含み、さらに、一の多層セルの正極材料層と、隣接する多層セルの負極材料層との間に配置された電池ターミナル層を含む。当該他層セル間に配置された電池ターミナル層はアルミニウムから形成される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る固体MH電池の一のバイポーラセルの断面図を概略的に示す。
【図2】積層バイポーラNiMH電池が形成される一のユニットの断面図を概略的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係る充電式電池システムは、液体電解質を使用するものと固体電解質を使用するものとの2つの群にクラス分けすることができる。液体電解質システムは、何十年もの間存在し続けており、一般公衆にとって最も周知である。液体電解質の充電式電池システムの例は、鉛酸、ニッケルカドミウム、及びさらに最近ではニッケル水素のシステムを含む。
【0019】
さらに最近の進展は、固体電解質の充電式電池システムにある。固体電解質デバイスは、液体電解質に基づくものと比べて明確な利点をいくつか有する。当該利点は、(1)極めて堅牢なアセンブリを得るための圧力パッケージング又は堅固なカプセル化が可能であること、(2)液体電解質使用時のデバイス性能に劇的な影響を与える当該液相の凍結及び/又は沸騰がもはや考慮されないことに起因して動作温度範囲が拡張されること、(3)固体電解質デバイスは真に液漏れがないこと、(4)当該デバイスは、液体電解質使用時に生じる電極腐食及びドライアウトによる溶媒喪失が防止されることにより長い保管寿命を有すること、(5)固体電解質によりミクロンの小型化が可能となること、及び(6)電池に付加的な容量を何ら与えないのに総重量に必ず含まれる、本質的に「死重量」となる重くかつ剛性の電池ケースが不要となることを含む。上記考慮のすべてにより、固体電解質の使用が拡大している。
【0020】
非水系金属水素化物電池により、高い動作電圧、軽いパッケージング(内部圧力の問題がない)、改良された自己放電、及び長いサイクル寿命が可能となる。しかしながら、従来の非水系NiMHは、低出力かつ高コストに悩まされている。
【0021】
かかる電池システムを形成する場合、当該システム内でイオンを移動させる固体イオン伝導体(すなわち固体電解質)が必要となる。固体電解質は、移動可能イオンのタイプにより、Li伝導固体電解質、Ag伝導固体電解質、Cu伝導固体電解質、H伝導固体電解質等にクラス分けされる。固体電池の要素は、当該固体電解質の一つを適切な電極材料と組み合わせることにより構成される。いくつかの固体電解質は、良好なイオン伝導性を示すことで知られている。そのいくつかは薄膜の形態で存在する。ジルコニアのような酸化物イオン伝導体は、周囲温度における低伝導性ゆえに高温において動作される。PbCI及びBaCIのような塩化物イオン伝導体も同様の温度制限を有する。AgBr、AgCI、及びAglのような銀イオン伝導体もまた、室温において低いイオン伝導性を示す。
【0022】
図1は、本発明の薄膜固体状態電池1の断面図である。本電池は、導電性の下部及び上部電池ターミナル層2を含む。電池ターミナル層2を形成するべく使用される導電性材料は、アルミニウム、ニッケル、銅、及びこれらの合金、混合物、又は複合物のような導電性金属である。当該導電性材料は、導電性セラミック又は酸化物材料であってもよい。最大限の軽量化を目的として、電池ターミナル層2は、その担持及び伝導機能を果たすのに必要な厚さのみとするべきである。いずれの付加的厚さも、本電池の「死重量」を増やすだけである。典型的に、電池ターミナル層2の厚さは約20ミクロンを超えることがなく、好ましくは0.5から10ミクロンの厚さである。電池ターミナル層2間に堆積されるのは、少なくとも一の多層電池セルである。各電池セルは、薄膜負極層3、薄膜正極層5、及び薄膜固体電解質プロトン伝導層4を含む。
【0023】
薄膜負極層3は典型的に、約1から100ミクロンの厚さであり、充電及び放電それぞれの間にプロトンを吸着及び脱着する材料から形成される。典型的に、当該層は、金属水素化物材料のような水素吸蔵材料から形成される。当該金属水素化物材料は、液体電解質ニッケル水素電池に使用されることですでに周知のいずれかの材料である。当該材料は、AB型又はAB型の金属水素化物材料である。これらは、アモルファス、多結晶、マイクロ結晶、ナノ結晶、単結晶、又は多構造材料である。これらは、一のみの組成相を含むか又は複数の組成相を含む。電気化学セルに有用な周知の金属水素化物材料の詳しい検討が特許文献1に与えられる。その開示は本明細書に参照として組み込まれる。
【0024】
周知の金属水素化物材料に加え、新たな金属水素化物システムを開発して、アルカリ液体電解質システムと本発明に係る薄膜固体電解質システムとの環境上の違いを利用することができる。例えば、液体電解質システムには一般に、アルカリ電解質の苛性の性質により当該電極の腐食に関する問題が存在する。したがって、腐食のダメージを緩和するべく負極材料には、腐食耐性を与える元素を加える必要がある。本発明に係る固体電解質システムには、かかる腐食の問題は生じない。これは、苛性の液体が不在であって、腐食抑制材料を負極に加える必要がないからである。特に関心があるのは、Mg−MgNi系水素吸蔵合金である。以前Ovonic Batteryは、RFスパッタリング技術によりMg−Ni薄膜電池の電極材料を作製した。当該合金の測定された容量は、700mAh/gを超えるものであった(その開示が本明細書に参照として組み込まれる特許文献2を参照)。Ovonicはまた、容量が550mAh/gであるバルクMg−Ni粉末も製造した(その開示が本明細書に参照として組み込まれる特許文献3を参照)。アルカリ電解質においてMg−Ni合金電極材料を使用することの主な問題点は、粒界に沿った当該材料の高い酸化率にある。これは、当該材料に対し、アルカリ電池において許容不可能なサイクル寿命を与える。しかしながら、固体電解質設計を使用することにより、当該Mg−Niに対する寿命の延長を可能とすることができる。
【0025】
負極活性金属水素化物材料は、ガス微粒化プロセスによって作ることができる。かかるプロセスは、サイズが1−2ミクロンのMH粉末を製造することができる(その開示が本明細書に参照として組み込まれる特許文献4を参照)。当該粉末は、スクリーン印刷、ジェット印刷等の、電極生産用大面積印刷技術に適している。例えば、当該細かい粉末は、基材上に1%未満の伝導性バインダをスクリーン印刷して50ミクロン厚の負極を形成することができる。
【0026】
正極層5は典型的に、2から100ミクロンの厚さであり、充電及び放電それぞれの間にプロトン(水素イオン)を脱着及び吸着する材料から形成される。典型的に、当該層は、水酸化ニッケル材料のような遷移金属水酸化物から形成される。水酸化ニッケル材料は、充電式電池システムにおいて使用されるものとして従来技術で周知の任意の材料であり得る。また、その開示が本明細書に組み込まれる特許文献5及び6に記載されている局所的秩序、無秩序、高容量、長サイクル寿命の正極材料のような進歩した活性材料であってもよい。当該材料は、多相構造と前記多相構造を促進する少なくとも一の組成改質剤とを有する固溶体水酸化ニッケル電極材料を含む。多相構造は、多結晶γ相ユニットセルを含む少なくとも一の多結晶γ相を含む。当該多結晶γ相ユニットセルは離間配置されたプレートを含み、当該プレートのまわりには少なくとも一のイオンが組み込まれる。当該プレートは、2酸化状態及び3.5以上の酸化状態に対応する所定範囲の安定したインターシート距離を有する。組成改質剤は、金属、金属酸化物、金属酸化物合金、金属水素化物、及び/又は金属水素化物合金である。好ましくは、組成改質剤は、Al、Bi、Co、Cr、Cu、Fe、In、LaH、Mn、Ru、Sb、Sn、TiH、TiO、Zn、及びこれらの混合物からなる群から選択される。さらに好ましくは、当該組成改質剤のうち少なくとも3つが使用される。組み入れられる当該少なくとも一の化学改質剤は好ましくは、Al、Ba、Ca、Co、Cr、Cu、F、Fe、K、Li、Mg、Mn、Na、Sr、及びZnからなる群から選択される。
【0027】
正極活性材料のγ相水酸化ニッケルは、β相水酸化ニッケルからの従来の1個の電子移動とは対照的に、ニッケル原子当たり1.7個の電子の充電/放電移動を示すことが知られている。残念ながら、γ相水酸化ニッケルの水酸化ニッケルプレート間の水挿入による格子膨張が、正極を粉砕して電池のサイクル寿命をひどく劣化させる。Ovonicの無秩序γ相水酸化ニッケル生成物(特許文献6参照)は、水挿入なしで高い電子移動を達成することができる。したがって、当該水酸化ニッケルのエネルギー密度は、425mAh/gもの高さとなり得る。Niの高い酸化状態(+3.7すなわち1.7個の電子移動)に関する他の問題は、水性環境における酸素発生との競合である。水性電解質電池においては、正極には、Hg/HgO参照電極に対して0.4Vを超える充電をすることができない。幸いなことに本発明の固体電解質の場合、γ相水酸化ニッケルは酸素発生の問題なしで容易に高電位まで充電される。さらに高電位を有する他の金属酸化物は、セルのエネルギー密度をさらに改良することができる。
【0028】
正極材料は、原子層堆積(ALD)によって堆積される。これは、酸化物又は水酸化物薄膜を成長させることが実証されている。代替的に、正極活性材料は、超微細粉末に形成されてスプレイコーティング又はスクリーン印刷等をすることができる。ALDは、様々な組成の基材にコンフォーマルな材料薄膜を堆積する、自己制限的な(各反応サイクルで堆積される膜材料の量が一定である)、順次式表面化学である。ALDは、化学的性質が化学蒸着(CVD)に類似するが、ALD反応は、CVD反応を2つの半反応に分割し、当該前駆体材料を当該反応の間別個のままとする。自己制限及び表面反応の特性ゆえに、ALD膜成長は、原子スケールの堆積制御を可能とする。前駆体をコーティングプロセスの間別個のままとすることにより、膜成長の原子層制御を単層当たり0.1から3Å(10pm)もの微細さで得ることができる。前駆体の分離は、過剰な前駆体を当該プロセスチャンバから除去し及び当該基材への「寄生」CVD堆積を防止するべく、各前駆体パルスの後にパージガス(典型的には窒素又はアルゴン)のパルスを与えることによって達成される。ALDによる材料層の成長は、以下の特徴的な4つのステップを繰り返すことからなる。
【0029】
1)第1前駆体の暴露、
2)非反応前駆体及びガス反応副生成物を除去するための反応チャンバのパージ又は排気、
3)第2前駆体の暴露(又は第1前駆体の反応のために再度表面を活性化する他の処置)、及び
4)反応チャンバのパージ又は排気。
【0030】
各反応サイクルは、表面に所定量の材料を与える。これを、サイクル当たりの成長と称する。材料層を成長させるべく、所望の膜厚のために必要な数だけ反応サイクルが繰り返される。一サイクルは、0.5sから数秒かかって0.1から3Åの膜厚を堆積する。ALDプロセスを開始する前に、通常は熱処理によって当該表面が既知の制御された状態に安定化される。自己終了反応ゆえに、ALDは、前駆体、基材、及び温度以外のプロセスパラメータがほとんど又は全く影響しない表面制御プロセスである。また、表面制御ゆえに、ALD成長膜は極めてコンフォーマルであり厚さが均一である。
【0031】
負極層3と正極層5との間には、薄膜固体状態電解質層4が堆積される。当該層は典型的に約0.5から10ミクロン厚であるが、これが堆積される層の表面粗度が低い場合は1000オングストロームもの薄さとなる。本発明に係る充電式金属水素化物電池の充電サイクル電極反応は、
【化1】

である。
【0032】
したがって、正極層5と負極層3とを分離する固体状態電解質層4は、水素イオン(プロトン)伝導体でなければならない。すなわち、固体電解質材料は、本電池が充電している間は正極層5から負極層3へ、及び本電池が放電している間は負極層3から正極層5へ、プロトンを容易に伝導又は輸送することができなければならない。固体電解質層4はまた、当該電池電極が短絡しないように電気的に絶縁性でなければならない。すなわち、当該電解質はまた、電極セパレータとしても機能する。本発明者は、新たに開発されたペロブスカイト型酸化物が合理的な水素吸蔵容量を実証することを見出した。さらに、適度に高い温度(100℃)における水素伝導性が優秀であり、したがって、当該ペロブスカイト型酸化物は、金属水素化物電池のための固体電解質4として使用することができる。当該ペロブスカイト型酸化物は、Ba、Sr、Zr、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Fe、Cr、Al、Ti、Mg、Sn、及びInの一以上を含む。良好な固体電解質の選択は、低い輸送抵抗性及び高い水素吸蔵性の双方に左右される。
【0033】
用語「ペロブスカイト型酸化物」は、ペロブスカイト結晶構造を有する酸化物材料を意味する。ペロブスカイト構造は、ペロブスカイト構造として周知のチタン酸カルシウム(CaTiO)又はfccに酸素を有するXII2+VII4+2−と同じタイプの結晶構造を有する任意の材料である。ペロブスカイトは、1839年にGustav Roseによりロシアのウラル山脈で最初に発見されてロシアの鉱物学者L.A.Perovski(1792−1856)にちなんで名付けられたこの化合物からその名称を受けている。ペロブスカイト化合物の一般化学式はABXである。ここで、「A」及び「B」は、サイズが非常に異なる2つのカチオンであり、Xは両者を結合するアニオンである。「A」原子は「B」原子よりも大きい。理想的な立方体対称構造は、アニオンの正八面体により取り囲まれた6配位にあるBカチオン及び12配位の立方八面体配位にあるAカチオンを有する。立方体構造を安定化させるための相対イオンサイズ要求が極めて厳しいので、わずかな座屈及び歪みにより、Aカチオンの配位数、Bカチオンの配位数、又はその双方が減少したいくつかの低対称性の歪んだバージョンがもたらされる。
【0034】
ペロブスカイト構造は、化学式ABOを有する多くの酸化物により採用される。当該化合物の理想的な立方体単位セルにおいて、「A」型原子は立方体の頂点位置(0,0,0)に配位し、「B」型原子は体心位置(1/2,1/2,1/2)に配位し、酸素原子は面心位置(1/2,1/2,0)に配位する。立方体構造を安定化させるための相対イオンサイズ要求が極めて厳しいので、わずかな座屈及び歪みにより、Aカチオンの配位数、Bカチオンの配位数、又はその双方が減少したいくつかの低対称性の歪んだバージョンがもたらされる。BO立方八面体を傾斜させると、サイズが小さいAカチオンの配位は、12から8もの低さに減少する。逆に、サイズが小さいBカチオンをその立方八面体において偏心すると、安定した結合パターンを達成することができる。結果的な電気双極子が、強誘電特性に関与し、当該態様で歪んだBaTiOのようなペロブスカイトによって示される。斜方晶系及び正方晶系の相が最も一般的な非立方体変種である。複合的なペロブスカイト構造は、2つの異なるBサイトカチオンを含む。この結果、秩序のある及び無秩序な変種の可能性がもたらされる。
【0035】
ペロブスカイト型酸化物は、チョクラルスキー法により生産される。代替的に、ペロブスカイト酸化物層は、スピンコートゾルゲルプロセスにより調製される。ゾルゲルプロセスは、湿式化学技術(別名化学溶液堆積(chemical solution deposition))であって、最近は材料科学及びセラミック工学の分野で広く使用されている。当該方法は主に、化学溶液から開始する材料(典型的には金属酸化物)の生産を目的として使用される。当該化学溶液は、別個の粒子又はネットワークポリマーのいずれかの統合ネットワーク(又はゲル)のための前駆体として作用する。典型的な前駆体は、金属アルコキシド及び金属塩化物である。これらは、様々な形態の加水分解及び重縮合反応を起こす。金属酸化物の形成は、当該金属中心をオキソ(M−O−M)又はヒドロキソ(M−OH−M)ブリッジに接続すること、したがって、溶液に金属オキソ又は金属ヒドロキソポリマーを生成することを含む。すなわち、当該ゾルは、別個の粒子から連続のポリマーネットワークまでのモルフォロジ範囲を有する液相及び固相双方を含むゲル状2相系の形成に向かって進展する。
【0036】
コロイドの場合、粒子体積率(又は粒子密度)が非常に低いので、ゲル状特性を認識する目的で著しい量の流体を最初に除去する必要がある。これは、任意数の方法で達成することができる。最も単純な方法は、時間をかけて沈降を生じさせ、その後残りの液体を捨てるというものである。遠心分離もまた、当該相分離プロセスを加速するべく使用できる。
【0037】
残りの液体(溶媒)相を除去するには乾燥プロセスが必要となる。当該乾燥プロセスは典型的に、著しい量の収縮及び高密度化によって達成される。溶媒を除去できる割合は究極的に、当該ゲルの空隙率分布によって決定される。最終成分の究極的なミクロ構造は明らかに、当該相のプロセス中に構造テンプレートに課せられる変化に強い影響を受ける。その後、熱処理又は燃焼プロセスがしばしば必要とされる。これにより、さらなる重縮合が促進され、最終的な焼結、高密度化、及び結晶粒成長を通じて機械的特性及び構造安定性が向上する。伝統的なプロセス技術とは対照的に、当該方法論を使用することの明確な利点の1つは、高密度化がずっと低い温度で達成される場合が多いことである。
【0038】
前駆体ゾルは、膜を形成するべく基材上に堆積され得るか(例えばディップコーティング又はスピンコーティングにより)、所望形状の適切なコンテナにキャスティングされ得るか(例えばモノリシックなセラミック、ガラス、ファイバ、メンブレン、エアロゲルを得るべく)、又は粉末を合成するべく使用され得る(例えばマイクロスフィア、ナノスフィア)。ゾルゲルアプローチは安価かつ低温度の技術であり、生成物の化学組成を微調整することができる。少量の、例えば有機色素及び希土類元素のような、ドーパントであっても、ゾルに導入して最終生成物に均一に分散させることができる。ゾルゲルプロセスは、焼き流しキャスティング材料として、又は様々な目的のための金属酸化物の極薄膜を生産する手段として、セラミックプロセシング及び製造においても使用することができる。ゾルゲル由来材料は、光学、電子工学、エネルギー、宇宙、(バイオ)センサ、医学(例えば薬剤放出制御)、反応性材料、及び分離(例えばクロマトグラフィー)技術において広範な用途を有する。
【0039】
図1は、本発明に係る基本的な単一セル電池を示す。これは、2つのターミナル2、一の負極材料3層、一の正極材料層5、及び一の固体電解質層4を含む。図2は、本発明に係る他実施例を示す。当該代替実施例では、2つのターミナル2の一方が除かれている。これにより、その複数のユニットを互いの上部に積層して大きな多セルバイポーラ電池を形成することができる。
【0040】
バイポーラ設計の利点の一つは、セル間の接触面積を増やすことにより出力を増大できることにある。大面積接触により一体とされたAl箔接続セルを使用する当該設計では、内部インピーダンスが5mΩから0.5mΩまで低減される。電池の技術において、薄いセパレータを採用することは有用である。本発明において、セパレータの厚さは、負極の平滑性に左右される。1ミクロンの粒子サイズ用に特別に設計されたガス微粒化により作られる場合、負極の粗度は1ミクロン未満に制御することができる。したがって、スピンコートゾルゲルプロセスにより作られた酸化物は、2ミクロンもの薄さとなり得てもなお、負極表面を覆うことができる。当該極薄固体電解質によるインピーダンスは最小限となり得る。当該新規なデバイスの全体出力密度は、5,000から10,000ワット/kgである。
【0041】
さらに、1Ah容量を有する1.5ボルト電池を仮定すれば、当該電池には、MgNi負極活性材料及びバインダに2グラム未満が、γ相水酸化ニッケルに2.4グラム未満が、酸化物セパレータに0.2グラムが、Al箔に0.2グラムが、及びプラスチック電池缶からの無視できる重量が必要となる。すなわち、1.5Wh電池を5グラム未満の材料で作ることができる。当該電池の重量エネルギー密度は300Wh/kgとなる。
【0042】
負極は希土類元素もCo、Zr及びTiのような遷移金属も含まないので、負極(特にMg−Ni)のコストは非常に低くできる。正極は、従来のNi−MH電池及びLi−ion電池において広く使用されるCoを含まない。上述の1.5Wh電池に対する全体的な原材料コストは、2gのMg−Ni(13ドル/kg)に2.6セント、2.4gのNiOOH(12ドル/kg)に2.9セント、0.2gの酸化物(50ドル/kg)に1セント、追加の所定プラスチックに0.04セント(2.1ドル/kg)となる。総原材料コストは1.5Whに対して7セント未満である。このため、当該高エネルギーかつ高出力の電池パックに対する原材料コストは、kWh当たり47ドルとなる。電池製造に関与する想定プロセス(1トン容量のガス微粒化、水酸化ニッケル粉末を製造する従来プロセス、正極及び負極のスクリーン印刷、及びスピンコート・ゾルゲルプロセス)を考慮すれば、本発明者は、プロセスコストが原材料コストを超えることはないと考えている。すなわち、1kWhの電池に対する最終的な生産コストは100ドル未満となる。
【0043】
本発明に係る固体状態電池を製造する特定の方法/プロセスが上述されたが、他のプロセスも本発明の範囲内にある。他の想定堆積プロセスは、スパッタリング、蒸発、化学蒸着(CVD)、マイクロ波プラズマCVD(PECVD)、高周波PECVD、物理蒸着(PVD)、プラズマPVD、レーザアブレーション、スプレイコーティング、及びプラズマ溶射を含むが、これらに限られない。堆積プロセスの選択は、堆積される材料、使用される前駆体出発材料、当該プロセスに必要な圧力/真空、コスト、堆積された材料の電気化学的及び物理的品質等のような多くの因子に左右される。
【0044】
したがって、本発明に係る固体状態電池が商業用途、工業用途、及び消費者用途に多大な展望を示すことは明らかに理解できる。特に、上述のエネルギー密度及びコストに関し、当該電池のハイブリッド電気自動車への用途は非常に有利である。本明細書に記載の開示は、本発明を十分かつ完全に開示する目的で記載された詳細な実施例の形態で提示されるものであって、当該詳細は、添付の請求の範囲に記載かつ規定される本発明の真の範囲を制限するものと解釈してはならないことを理解すべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一の多層電池セルを含む固体状態電池であって、
1)充電及び放電中にプロトンを吸着及び脱着することができる固体状態の負極材料層と、
2)充電及び放電中にプロトンを脱着及び吸着することができる固体状態の正極材料層と、
3)前記正極材料層と前記負極材料層との間に配置された固体状態のペロブスカイト型酸化物材料層と
を含み、
前記ペロブスカイト型酸化物材料層は、電気的に絶縁性であって、前記電池が充電している間に前記正極材料層から前記負極材料層へプロトンを容易に伝導又は輸送することができる一方、前記電池が放電している間に前記負極材料層から前記正極材料層へプロトンを容易に伝導又は輸送することができる固体状態電池。
【請求項2】
前記負極材料層、前記正極材料層、及び前記ペロブスカイト型酸化物材料層はすべてが薄膜材料である、請求項1に記載の固体状態電池。
【請求項3】
前記正極材料層は遷移金属水酸化物を含む、請求項2に記載の固体状態電池。
【請求項4】
前記遷移金属水酸化物は、ほぼ1個の電子移動を与える水酸化ニッケル材料である、請求項3に記載の固体状態電池。
【請求項5】
前記水酸化ニッケル材料は、ほぼ1.7個の電子移動を与えるγ相水酸化ニッケルである、請求項3に記載の固体状態電池。
【請求項6】
前記負極材料層は金属水素化物材料である、請求項2に記載の固体状態電池。
【請求項7】
前記負極材料層は無秩序である、請求項6に記載の固体状態電池。
【請求項8】
前記負極材料層は、アモルファス相、ナノ結晶相、マイクロ結晶相、又は多結晶相の一以上を含む多相材料である、請求項6に記載の固体状態電池。
【請求項9】
前記負極材料層は、Mg−Ni型水素吸蔵合金材料である、請求項6に記載の固体状態電池。
【請求項10】
前記ペロブスカイト型酸化物材料は、Ba、Sr、Zr、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Fe、Cr、Al、Ti、Mg、Sn、及びInからなる群から選択される一以上の元素を含む、請求項1に記載の固体状態電池。
【請求項11】
前記少なくとも一の多層電池セルは、前記固体状態の負極材料層及び正極材料層に隣接するが前記固体状態のペロブスカイト型酸化物材料層からは離間した導電性の下部及び上部電池ターミナル層を含む、請求項1に記載の固体状態電池。
【請求項12】
前記導電性の下部及び上部電池ターミナル層は、アルミニウム、ニッケル、銅、及びこれらの合金、混合物、又は複合物からなる群から選択される導電性金属から形成される、請求項11に記載の固体状態電池。
【請求項13】
前記導電性の下部及び上部電池ターミナル層はアルミニウムから形成される、請求項12に記載の固体状態電池。
【請求項14】
前記導電性の下部及び上部電池ターミナル層は、導電性のセラミック又は酸化物材料から形成される、請求項11に記載の固体状態電池。
【請求項15】
前記多層電池セルを、一を超えて含み、
一の多層電池セルの前記正極材料層と隣接する多層電池セルの前記負極材料層との間に堆積された電池ターミナル層をさらに含む、請求項1に記載の固体状態電池。
【請求項16】
前記多層電池セル間に堆積された前記電池ターミナル層はアルミニウムから形成される、請求項15に記載の固体状態電池。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2013−517614(P2013−517614A)
【公表日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−550009(P2012−550009)
【出願日】平成23年1月18日(2011.1.18)
【国際出願番号】PCT/US2011/000086
【国際公開番号】WO2011/090779
【国際公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(599163621)オヴォニック バッテリー カンパニー インコーポレイテッド (21)
【Fターム(参考)】