説明

低屈折率コーティング剤及び反射防止フィルム

【課題】屈折率が非常に低く、擦過などにより表面に傷が付きにくく、剥離がなく、また、表面に汚れが付着することを防止し、付着しても容易に拭き取れる低屈折率層を形成できる低屈折率コーティング剤を提供する。
【解決手段】一般式(1)で示される有機珪素化合物と、一般式(2)で示される有機珪素化合物と、一般式(3)で示される有機珪素化合物と、一般式(4)で示される有機珪素化合物との共重合体と、平均粒径0.5〜200nmの低屈折率シリカゾルとからなる低屈折率コーティング剤。Si(OR)4・・・(1)、R'mSi(OR)4-m・・・(2)、R”nSi(OR)4-n・・・(3)、R’’’nSi(OR)4-n・・・(4)
ここで、Rはアルキル基、R'はフッ素含有置換基、R”はビニル基等、R’’’は第四級アンモニウム基を有する置換基である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低屈折率コーティング剤、およびこの低屈折率コーティング剤を透明基材上に設けた、ディスプレイ(液晶ディスプレイ、CRTディスプレイ、プロジェクションディスプレイ、プラズマディスプレイ、ELディスプレイ等)の表示画面表面に適用される反射防止フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
多くのディスプレイは、室内外を問わず外光などが入射するような環境下で使用される。この外光などの入射光は、ディスプレイ表面等において正反射され、反射像が表示光と混合し表示品質を低下させ、表示画像を見にくくしている。
特に、最近のオフィスのOA化に伴い、コンピューターを使用する頻度が増し、ディスプレイと相対していることが長時間化した。これにより反射像等による表示品質の低下は、目の疲労など健康障害等を引き起こす要因とも考えられている。
更には、近年ではアウトドアライフの普及に伴い、各種ディスプレイを室外で使用する機会が益々増える傾向にあり、表示品質をより向上して表示画像を明確に認識できるような要求が出てきている。
【0003】
これらの要求を満たす為の例として、透明プラスチックフィルム基材の表面に透明な微粒子を含むコーティング層を形成し、凹凸状の表面により外光を乱反射させることが知られている。
これとは別に、透明プラスチックフィルム基材の表面に、金属酸化物などからなる高屈折率層と低屈折率層を積層した、或いは無機化合物や有機フッ素化合物などの低屈折率層を単層で形成した可視光の広範囲にわたり反射防止効果を有する反射防止フィルムをディスプレイ表面に張り合わせる等して利用することが知られている。
【0004】
上記の金属化合物などからなる高屈折率層と低屈折率層を積層した、或いは無機化合物や有機フッ素化合物などの低屈折率層を単層で形成した反射防止層は、一般的に、PVD(Physical Vapor Deposition)法(真空蒸着法、反応性蒸着法、イオンビームアシスト法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等)、CVD(Chemical Vapor Deposition)法等のドライコーティング法により形成される。このようなドライコーティング法は、基材の大きさが限定され、又、連続生産には適さなく、生産コストが高いという欠点が有る。
そこで、大面積化、及び連続生産が可能で有るために低コスト化が可能なウエットコーティング法(ジップコーティング法、スピンコーティング法、フローコーティング法、スプレーコーティング法、ロールコーティング法、グラビアロールコーティング法、エアドクターコーティング法、ブレードコーティング法、ワイヤドクターコーティング法、ナイフコーティング法、リバースコーティング法、トランスファロールコーティング法、マイクログラビアコーティング法、キスコーティング法、キャストコーティング法、スロットオリフィスコーティング法、カレンダーコーティング法、ダイコーティング法等)による反射防止フィルムの生産が注目されている。
【0005】
ウエットコーティング法による低屈折率層を得る手段としては、(1)屈折率の低いフッ素元素を含有する材料を用いる手法と、(2)層中に空孔を設け、空気の混入により屈折率を低くする手法とに大別される。
上記の手法により、低屈折率層を構成する具体的な材料としては、フッ素含有有機材料、低屈折率の微粒子等が挙げられ、これらの材料を単独に、或いは組み合わせることが考案されている。
【0006】
例えば、特許文献1には、フッ素含有有機材料を用いることが提案されている。特許文献2には、フッ素含有有機材料と低屈折率微粒子を用いることが提案されている。特許文献3には、フッ素含有有機材料とアルコキシシランを用いることが提案されている。特許文献4には、アルコキシシランと低屈折率微粒子を用いることが提案されている。
【特許文献1】特開平2−19801号公報
【特許文献2】特開平6−230201号公報
【特許文献3】特開平7−331115号公報
【特許文献4】特開平8−211202号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この反射防止フィルムの最外層に使用する低屈折率層は、屈折率が低いことはもちろん、擦過などによる傷が付きにくいことが必要である。又、人が使用するにあたって、指紋、皮脂、汗、化粧品などの汚れ、静電気による埃が付着することを防止し、また、付着しても容易に拭き取れるようにしなければならない。
しかし、従来技術においての低屈折率層は、屈折率、機械強度、防汚性の特性を全て満足することが出来ない。これらの特性を全て満たしていなければ、実用上、低屈折率層の単層を有する反射防止フィルムに使用することは出来ない。
本発明は、以上のような従来技術の課題を解決しようとするものであり、屈折率が非常に低く、擦過などにより表面に傷が付きにくく、剥離がなく、また、表面に指紋、皮脂、汗、化粧品、埃などの汚れが付着することを防止し、付着しても容易に拭き取れる低屈折率層を形成できる低屈折率コーティング剤およびこれを用いて形成された反射防止フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明は、一般式(1)で示される有機珪素化合物、もしくはこの有機珪素化合物の重合体と、一般式(2)で示される有機珪素化合物、もしくはこの有機珪素化合物の重合体と、一般式(3)で示される有機珪素化合物、もしくはこの有機珪素化合物の重合体と、一般式(4)で示される有機珪素化合物、もしくはこの有機珪素化合物の重合体との共重合体と、平均粒径0.5〜200nmの低屈折率シリカゾルとからなることを特徴とする低屈折率コーティング剤である。
Si(OR)4・・・・・(1)
(但し、Rはアルキル基である)
R'mSi(OR)4-m・・・・・(2)
(但し、R'はフッ素含有置換基であり、Rはアルキル基であり、mは置換数である)
R”nSi(OR)4-n・・・・・(3)
(但し、R”はビニル基、アミノ基、エポキシ基、クロル基、メタクリロキシ基、アクリロキシ基およびイソシナアート基から選択された官能基であり、Rはアルキル基であり、nは置換数である)
R'''nSi(OR)4-n・・・・・(4)
(但し、R'''は第四級アンモニウム基を有する置換基であり、Rはアルキル基であり、nは置換数である)
請求項2に記載の発明は、前記低屈折率シリカゾルの添加量が、5〜95wt%であることを特徴とする請求項1に記載の低屈折率コーティング剤である。
請求項3に記載の発明は、前記低屈折率コーティング剤の屈折率が、1.40〜1.34の範囲であることを特徴とする請求項1または2に記載の低屈折率コーティング剤である。
請求項4に記載の発明は、透明基材上に、請求項1〜3のいずれかに記載の低屈折率コーティング剤を塗布し、低屈折率層を設けたことを特徴とする反射防止フィルムである。
請求項5に記載の発明は、前記透明基材と低屈折率層との間にハードコート層を設けたことを特徴とする請求項4記載の反射防止フィルムである。
請求項6に記載の発明は、前記ハードコート層が、(メタ)アクリロイルオキシ基を有する多官能性モノマーを主成分とする重合体からなることを特徴とする請求項5に記載の反射防止フィルムである。
請求項7に記載の発明は、前記ハードコート層の低屈折率層を設ける面を表面処理したことを特徴とする請求項5または6に記載の反射防止フィルムである。
請求項8に記載の発明は、前記表面処理が、アルカリ処理であることを特徴とする請求項7に記載の反射防止フィルムである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、屈折率が非常に低く、擦過などによる低屈折率層の表面に傷が付きにくく、低屈折率層の剥離がなく、また、低屈折率層の表面に、指紋、皮脂、汗、化粧品、埃などの汚れが付着することを防止し、付着しても容易に拭き取れるようにする低屈折率層の単層を有する反射防止フィルムを提供することを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
図1は、本発明の反射防止フィルムの一実施形態を示す断面図である。図1に示すように、透明基材としての透明プラスチックフィルム基材2上の少なくとも片面に、ハードコート層3、低屈折率層4を形成した場合の反射防止フィルム1である。
【0011】
透明プラスチックフィルム基材2としては、種々の有機高分子からなる基材をあげることができる。通常、光学部材として使用される基材は、透明性、屈折率、分散などの光学特性、さらには耐衝撃性、耐熱性、耐久性などの諸物性の点から、ポリオレフィン系(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、ポリエステル系(ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等)、ポリアミド系(ナイロン-6、ナイロン-66等)、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリイミド、ポリビニルアルコール、エチレンビニルアルコール、アクリル、セルロース系(トリアセチルセルロース、ジアセチルセルロース、セロファン等)等、或いはこれらの有機高分子の共重合体などからなっている。
これらの透明プラスチックフィルム基材を構成する有機高分子に、公知の添加剤、例えば、帯電防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤、滑剤、着色剤、酸化防止剤、難燃剤等を含有させたものも使用することができる。
また、この透明プラスチックフィルム基材としては、単層、あるいは複数の有機高分子を積層したものでも良い。また、その厚みは、特に限定されるものではないが、70〜200μmが好ましい。
【0012】
ハードコート層3は、透明プラスチック基材表面の硬度を向上させ、鉛筆等の荷重のかかる引っ掻きによる傷を防止し、また、透明プラスチックフィルム基材の屈曲による反射防止層のクラック発生を抑制することができ、反射防止フィルムの機械的強度が改善できる。ハードコート層は1分子中に2個以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を含有する多官能性モノマーを主成分とする重合物からなるのが好ましい。多官能性モノマーとしては、1, 4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1, 6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコール(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、3-メチルペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールビスβ-(メタ)アクリロイルオキシプロピオネート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトール(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリ(2-ヒドロキシエチル)イソシアネートジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、2, 3-ビス(メタ)アクリロイルオキシエチルオキシメチル[2. 2. 1]ヘプタン、ポリ1, 2-ブタジエンジ(メタ)アクリレート、1, 2-ビス(メタ)アクリロイルオキシメチルヘキサン、ノナエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラデカンエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、10-デカンジオール(メタ)アクリレート、3, 8-ビス(メタ)アクリロイルオキシメチルトリシクロ[5. 2. 10]デカン、水素添加ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、2, 2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン、1, 4-ビス((メタ)アクリロイルオキシメチル)シクロヘキサン、ヒドロキシピバリン酸エステルネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジグリシジルエーテルジ(メタ)アクリレート、エポキシ変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。多官能モノマーは、一種類のみを使用しても良いし、二種類以上を併用しても良い。また、必要で有れば単官能モノマーと併用して共重合させることもできる。ハードコート層は透明プラスチックフィルム基材と屈折率が同等もしくは近似していることがより好ましい。
また、前記ハードコート層中に平均粒径0.01〜3μmの無機或いは有機物微粒子を混合分散させ、表面形状を凹凸させることで一般的にアンチグレアと呼ばれる光拡散性処理を施すことが出来る。これらの微粒子は透明であれば特に限定されるものではないが、低屈折率材料が好ましく、酸化珪素、フッ化マグネシウムが安定性、耐熱性等で好ましい。膜厚は3μm以上あれば十分な強度となるが、透明性、塗工精度、取り扱いから5〜7μmの範囲が好ましい。
【0013】
ハードコート層上に本発明の低屈折率コーティング剤を塗工する前に、表面処理を行うことが好ましい。表面処理を行うことにより、ハードコート層と低屈折率層との密着性を向上させることができる。
ハードコート層の表面処理としては、高周波放電プラズマ法、電子ビーム法、イオンビーム法、蒸着法、スパッタリング法、アルカリ処理法、酸処理法、コロナ処理法、大気圧グロー放電プラズマ法等を挙げることができる。特に、アルカリ処理が有効である。アルカリ処理法に使用するアルカリ水溶液としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水溶液、それらに更にアルコール等の各種有機溶媒を加えたアルカリ水溶液等を挙げることができる。アルカリ処理の条件は、例えば、水酸化ナトリウム水溶液を用いた場合、0.1〜10Nの濃度の水溶液として使用することが望ましく、更には、1〜2Nの濃度が望ましい。また、アルカリ水溶液の温度は、0〜100℃、好ましくは、20〜80℃である。アルカリ処理の時間は、0.01〜10時間、好ましくは、0.1〜1時間である。
【0014】
一般式(1)で表される有機珪素化合物としては、Si(OCH3)4、Si(OC2H5)4、Si(OC3H7)4、Si〔OCH(CH3)2)〕4、Si(OC4H9)4等が例示でき、それらを単独に、あるいは2種類以上併せて用いてもよい。
【0015】
一般式(2)で表される有機珪素化合物は、フッ素を含有している為に、指紋、皮脂、汗、化粧品などの汚れが付着することを防止し、また、付着しても容易に拭き取れる。
一般式(2)で表される有機珪素化合物としては、CF3(CH2)2Si(OCH3)3、CF3CF2(CH2)2Si(OCH3)3、CF3(CF2)2(CH2)2Si(OCH3)3、CF3(CF2)3(CH2)2Si(OCH3)3、CF3(CF2)4(CH2)2Si(OCH3)3、CF3(CF2)5(CH2)2Si(OCH3)3、CF3(CF2)6(CH2)2Si(OCH3)3、CF3(CF2)7(CH2)2Si(OCH3)3、CF3(CF2)8(CH2)2Si(OCH3)3、CF3(CF2)9(CH2)2Si(OCH3)3、CF3(CH2)2Si(OC2H5)3、CF3CF2(CH2)2Si(OC2H5)3、CF3(CF2)2(CH2)2Si(OC2H5)3、CF3(CF2)3(CH2)2Si(OC2H5)3、CF3(CF2)4(CH2)2Si(OC2H5)3、CF3(CF2)5(CH2)2Si(OC2H5)3、CF3(CF2)6(CH2)2Si(OC2H5)3、CF3(CF2)7(CH2)2Si(OC2H5)3、CF3(CF2)8(CH2)2Si(OC2H5)3、CF3(CF2)9(CH2)2Si(OC2H5)3等が例示でき、それらを単独に、あるいは2種類以上併せて用いてもよい。
【0016】
一般式(3)で表される有機珪素化合物は、ビニル基、アミノ基、エポキシ基、クロル基、メタクリロキシ基、アクリロキシ基およびイソシナアート基から選択された官能基を有しているために、ハードコート層と低屈折率層との密着を向上させることができる。
一般式(3)で表される有機珪素化合物としては、ビニル基含有珪素化合物〔ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等〕、アミノ基含有珪素化合物〔N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン等〕、エポキシ基含有珪素化合物〔3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、2-(3, 4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等〕、クロル基含有珪素化合物〔3-クロロプロピルトリメトキシシラン、3-クロロプロピルトリエトキシシラン等〕、メタクリロキシ基含有珪素化合物〔3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン等〕、アクリロキシ基含有珪素化合物〔3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリエトキシシラン等〕、イソシアナート基含有珪素化合物〔3-イソシアナートプロピルトリメトキシシラン、3-イソシアナートプロピルトリエトキシシラン等〕等が例示でき、それらを単独に、あるいは2種類以上併せて用いてもよい。
【0017】
一般式(4)で表される有機珪素化合物は、第四級アンモニウム基を含有しているために、帯電防止性を付与することが出来、埃が付着することを防止し、また、付着しても容易に拭き取れる。
一般式(4)で表される有機珪素化合物としては、N,N-ジデシル-N-メチルN-(3-トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、オクタデシルジメチル(3-トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、テトラデシルジメチル(3-トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、N-トリメトキシシリルプロピルN,N,N-トリ-n-ブチルアンモニウムブロマイド、N-トリメトキシシリルプロピルN,N,N-トリ-n-ブチルアンモニウムクロライド、N-トリメトキシシリルプロピルN,N,N-トリメチルアンモニウムクロライド等が例示でき、それらを単独に、あるいは2種類以上合わせて用いてもよい。
【0018】
上記一般式(1)、一般式(2)、一般式(3)、又は一般式(4)で表される有機珪素化合物を用いて重合体を作製する方法は限定されないが、加水分解によって作製するにあたっての触媒としては、公知であり、塩酸、蓚酸、硝酸、酢酸、フッ酸、ギ酸、リン酸、蓚酸、アンモニア、アルミニウムアセトナート、ジブチルスズラウレート、オクチル酸スズ化合物、メタンスルホン酸、トリクロロメタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、トリフロロ酢酸等が例示でき、それらを単独に、或いは2種類以上併せて用いてもよい。
【0019】
上記一般式(1)、一般式(2)、一般式(3)および一般式(4)で表される有機珪素化合物の使用割合は、例えば一般式(1):一般式(2):一般式(3):一般式(4)=50〜92:0.5〜5:7〜40:0.5〜5(単位:mol%)である。
【0020】
上記の有機珪素化合物からなるマトリックス中に、低屈折率シリカゾルを添加することにより、低屈折率化が可能となる。低屈折率シリカゾルとしては、内部に空隙を有するシリカゾルを好適に用いることができる。内部に空隙を有するシリカゾルは、粒子内部に空隙を有し空隙の部分を空気の屈折率(屈折率≒1)とすることができるため、シリカの屈折率(屈折率≒1.46)と比較して非常に低い屈折率(屈折率=1.40〜1.34)を備える。
また、この低屈折率シリカゾルをマトリックス中に添加した場合、このシリカゾルは中空であるために、マトリックスがシリカゾル内部に浸漬することが無く、屈折率の上昇を防ぐことが出来る。
低屈折率シリカゾルの平均粒径は、0.5〜200nmの範囲内であれは良い。この平均粒径が200nmよりも大きくなると、低屈折率層の表面においてレイリー散乱によって光が散乱され、白っぽく見え、その透明性が低下する。また、この平均粒径が0.5nm未満であると、中空シリカゾルが凝集しやすくなってしまう。
【0021】
低屈折率シリカゾルの添加量は、上記マトリックスに対し、5〜95wt%であることが好ましい。この範囲内とすることにより、形成される低屈折率層の十分な低屈折率化と十分な膜強度を両立することができる。シリカゾルの添加量が5wt%未満であると、十分に屈折率の低い低屈折率層とすることができない傾向となる。また、シリカゾルの添加量が95wt%を超える場合には、低屈折率層が十分な膜強度を得ることができなくなる傾向となる。
【0022】
低屈折率コーティング剤は、通常、揮発性溶媒に希釈して塗布される。希釈溶媒として用いられるものは、特に限定されないが、組成物の安定性、ハードコート層に対する濡れ性、揮発性などを考慮して、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、2-メトキシエタノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、ジイソプロピルエーテル等のエーテル類、エチレングリコール、プロピレングリコール、ヘキシレングリコール等のグリコール類、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、エチルカルビトール、ブチルカルビトール等のグリコールエーテル類、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素類、ハロゲン化炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、N-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド等が挙げられる。また、溶媒は1種類のみならず2種類以上の混合物として用いることも可能である。
【0023】
前記低屈折率コーティング剤は、ウエットコーティング法(ジップコーティング法、スピンコーティング法、フローコーティング法、スプレーコーティング法、ロールコーティング法、グラビアロールコーティング法、エアドクターコーティング法、ブレードコーティング法、ワイヤドクターコーティング法、ナイフコーティング法、リバースコーティング法、トランスファロールコーティング法、マイクログラビアコーティング法、キスコーティング法、キャストコーティング法、スロットオリフィスコーティング法、カレンダーコーティング法、ダイコーティング法等)により表面処理を行ったハードコート層上に塗工される。
塗工後、加熱乾燥により塗膜中の溶媒を揮発させ、その後、加熱、加湿、紫外線照射、電子線照射等を行い塗膜を硬化させる。
本発明の低屈折率コーティング剤を用いて形成された低屈折率層の屈折率は、前記透明プラスチックフィルム基材、ハードコート層のいずれの屈折率よりも低い値であり、また、この低屈折率層の厚さ(d)は、低屈折率層の屈折率をnとすると、nd=λ/4であることが好ましい。
【0024】
図2は、上記のようにして得られた本発明の低屈折率層の断面図である。低屈折率層4は、前記有機珪素化合物の共重合体からなるマトリックス5中に、低屈折率シリカゾル(好ましくは中空シリカゾル)6が分散されてなる。
【実施例】
【0025】
以下、本発明の実施例について詳細に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0026】
〈実施例1〉
〈ハードコート層の形成〉
透明プラスチックフィルム基材2としてTACフィルム(厚さ80μm)を用いた。また、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、及びペンタエリスリトールテトラアクリレートを用いてハードコート層用の塗布液を調整した。
このハードコート層用塗布液をマイクログラビア法を用いてTACフィルム上に膜厚5μmで塗布し、120Wのメタルハライドランプを20cmの距離から10sec.照射することにより、ハードコート層3を形成した。
〈表面処理〉
上記のハードコート層を形成したTACフィルムを、50℃に加熱した1.5N-NaOH水溶液に2分間浸漬しアルカリ処理を行い、水洗後、その後、0.5wt%-H2SO4水溶液に室温で30秒間浸漬し中和させ、水洗、乾燥を行った。
〈低屈折率層の作製〉
Si(OC2H5)4を90mol%、CF3(CF2)7(CH2)2Si(OCH3)3を1mol%、OCN(CH2)3Si(OCH3)3を8mol%、N-トリメトキシシリルプロピルN,N,N-トリメチルアンモニウムクロライド1mol%で混合したマトリックスに対して、平均粒径60nmの低屈折率シリカゾルを30wt%添加し、1.0N-HClを触媒に用いた低屈折率コーティング剤を作製した。上記表面処理を行ったハードコート層を形成したTACフィルム上にマイクログラビア法を用いてコーティング溶液を膜厚100nmで塗布し、120℃で1分間乾燥を行うことにより、低屈折率層を形成した。
【0027】
〈比較例1〉
〈ハードコート層の形成〉、及び〈表面処理〉は実施例1と同一である。
〈低屈折率層の作製〉
Si(OC2H5)4を100mol%としたマトリックスに対して、平均粒径60nmの低屈折率シリカゾルを10wt%添加し、1.0N-HClを触媒に用いた低屈折率コーティング剤を作製した。
実施例1と同一の表面処理を行ったハードコート層を形成したTACフィルム上にマイクログラビア法を用いて低屈折率コーティング剤を膜厚100nmで塗布し、120℃で1分間乾燥を行うことにより、低屈折率層を形成した。
【0028】
上記の実施例、比較例において、各種物性評価方法と結果(表1)を以下に示す。
(a) 光学特性
(a)-1 反射率測定:フィルム面をサンドペーパーでこすり、艶消しの黒色塗料を塗布した後、波長550nmの光の入射角5゜での片面の反射率を測定した。
(b) 防汚性
(b)-1 接触角測定:接触角計〔CA-X型:協和界面科学(株)製〕を用いて、乾燥状態(20℃-65%)で直径1.8μlの液滴を針先に作り、これを基材(固体)の表面に接触させて液滴を作った。接触角とは、固体と液体が接する点における液体表面に対する接線と固体表面がなす角で、液体を含む方の角度で定義した。液体には、蒸留水を使用した。
(b)-2 油性ペンの拭取性:基材表面に付着した油性ペンをセルロース製不織布〔ベンコットM-3:旭化成(株)製〕で拭き取り、その取れ易さを目視判定を行った。判定基準を以下に示す。
○:油性ペンを完全に拭き取ることが出来る。
△:油性ペンの拭き取り跡が残る。
×:油性ペンを拭き取ることが出来ない。
(b)-3 指紋の拭取性:基材表面に付着した指紋をセルロース製不織布〔ベンコットM-3:旭化成(株)製〕で拭き取り、その取れ易さを目視判定を行った。判定基準を以下に示す。
○:指紋を完全に拭き取ることが出来る。
△:指紋の拭き取り跡が残る。
×:指紋の拭き取り跡が拡がり、拭き取ることが出来ない。
(b)-4 埃の拭取性:基材表面に付着した埃をセルロース製不織布〔ベンコットM-3:旭化成(株)製〕で拭き取り、その取れ易さを目視判定を行った。判定基準を以下に示す。
○:埃を完全に拭き取ることが出来る。
△:埃の少し残る。
×:埃を拭き取れることが出来ない。
(b)-5 表面抵抗値測定:表面抵抗値〔ハイレスターUP:三菱化学(株)製〕を用いて、乾燥状態(20℃-65%)で測定を行った。
(c) 機械特性
(c)-1 耐擦傷性:基材表面をスチールウール〔ボンスター#0000:日本スチールウール(株)製〕により250g/cm2で20回擦り、傷の有無を目視判定を行った(スチールウール試験)。判定基準を以下に示す。
○:傷を確認することが出来ない。
△:数本傷を確認できる。
×:傷が多数確認できる。
(c)-2 密着性:基材表面を1mm角100点カット後、粘着セロハンテープ〔ニチバン(株)製工業用24mm巾セロテープ(登録商標)〕による剥離の有無を目視判定を行った(クロスカットテープピール試験)。
【0029】
〈各種物性評価結果〉
表1に実施例1、比較例1の評価結果を示す。
【0030】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の反射防止フィルムの一例を示す断面図である。
【図2】低屈折率層の断面図である。
【符号の説明】
【0032】
1:反射防止フィルム
2:透明プラスチックフィルム基材
3:ハードコート層
4:低屈折率層
5:マトリックス
6:低屈折率シリカゾル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で示される有機珪素化合物、もしくはこの有機珪素化合物の重合体と、一般式(2)で示される有機珪素化合物、もしくはこの有機珪素化合物の重合体と、一般式(3)で示される有機珪素化合物、もしくはこの有機珪素化合物の重合体と、一般式(4)で示される有機珪素化合物、もしくはこの有機珪素化合物の重合体との共重合体と、平均粒径0.5〜200nmの低屈折率シリカゾルとからなることを特徴とする低屈折率コーティング剤。
Si(OR)4・・・・・(1)
(但し、Rはアルキル基である)
R'mSi(OR)4-m・・・・・(2)
(但し、R'はフッ素含有置換基であり、Rはアルキル基であり、mは置換数である)
R”nSi(OR)4-n・・・・・(3)
(但し、R”はビニル基、アミノ基、エポキシ基、クロル基、メタクリロキシ基、アクリロキシ基およびイソシナアート基から選択された官能基であり、Rはアルキル基であり、nは置換数である)
R’’’nSi(OR)4-n・・・・・(4)
(但し、R’’’は第四級アンモニウム基を有する置換基であり、Rはアルキル基であり、nは置換数である)
【請求項2】
前記低屈折率シリカゾルの添加量が、5〜95wt%であることを特徴とする請求項1に記載の低屈折率コーティング剤。
【請求項3】
前記低屈折率コーティング剤の屈折率が、1.40〜1.34の範囲であることを特徴とする請求項1または2に記載の低屈折率コーティング剤。
【請求項4】
透明基材上に、請求項1〜3のいずれかに記載の低屈折率コーティング剤を塗布し、低屈折率層を設けたことを特徴とする反射防止フィルム。
【請求項5】
前記透明基材と低屈折率層との間にハードコート層を設けたことを特徴とする請求項4記載の反射防止フィルム。
【請求項6】
前記ハードコート層が、(メタ)アクリロイルオキシ基を有する多官能性モノマーを主成分とする重合体からなることを特徴とする請求項5に記載の反射防止フィルム。
【請求項7】
前記ハードコート層の低屈折率層を設ける面を表面処理したことを特徴とする請求項5または6に記載の反射防止フィルム。
【請求項8】
前記表面処理が、アルカリ処理であることを特徴とする請求項7に記載の反射防止フィルム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−128230(P2010−128230A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−303504(P2008−303504)
【出願日】平成20年11月28日(2008.11.28)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】