説明

低温液化ガスポンプ

【課題】長期連続運転が可能で、脈動の発生も防止することができ、安定した状態で低温液化ガスを送液できる低温液化ガスポンプを提供する。
【解決手段】低温液化ガスポンプ10は、低温液化ガス容器11の外部に配置される駆動部12と内部に配置されるポンプ部13と、ポンプ部のインペラ14と駆動部の駆動軸15とを接続するシャフト16と、シャフトを軸受を介して回転可能に収納するケーシング19とを備えている。シャフトは、駆動側の上部シャフト16aと従動側の下部シャフト16bとに分割されし、上部シャフトと下部シャフトとを磁気継手20によって非接触状態で磁気結合し、下部シャフトを磁気軸受17,18を介して非接触状態でケーシングに支持するとともに、ケーシング内と低温液化ガス容器内と連通させる連通孔26を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低温液化ガスポンプに関し、詳しくは、液体窒素などの−100℃以下の低温液化ガスを送液するための低温液化ガスポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
容器(タンク)内に貯留した各種液体を取り出して送液するためのポンプとして、容器外に配置した駆動部と、容器内(液体中)に配置したポンプ部と、駆動部とポンプ部とを連結する鉛直方向のシャフトと、前記シャフトを転がり軸受を介して支持するケーシングとを備え、前記シャフトを上下に分割し、上下の分割シャフト同士を磁気継手(マグネットカップリング)によって磁気結合させたポンプ装置が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−269375号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されたポンプ装置では、シャフトの軸受にボールベアリングなどの転がり軸受を用いているため、一定期間毎に軸受のメンテナンスが必要であり、一般的な使用状態ではほとんど問題となることはないが、長期連続運転が要求される高温超電導機器で使用するポンプとして使用することはできなかった。
【0005】
また、シャフトを長くしたり、シャフトの分割数を多くしたりすることによってシャフトの断熱性能を高め、−100℃以下の低温液化ガスを送液するポンプとして使用することも可能であるが、ポンプ部のインペラを支持する軸受の隙間からケーシング内に浸入した低温液化ガスがケーシング内で気化すると、気化したガスの圧力によって前記軸受の隙間からインペラ側に低温液化ガスが逆流し、この逆流によって送液中の低温液化ガスに脈動が発生することがある。
【0006】
そこで本発明は、長期連続運転が可能で、脈動の発生も防止することができ、安定した状態で低温液化ガスを送液することができる低温液化ガスポンプを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の低温液化ガスポンプは、低温液化ガス容器の外部に配置された駆動部と、低温液化ガス容器の内部に配置されたポンプ部と、該ポンプ部のインペラと前記駆動部の駆動軸とを接続するシャフトと、該シャフトを軸受を介して回転可能に収納したケーシングとを備えた低温液化ガスポンプにおいて、前記シャフトを、前記駆動部によって回転駆動される駆動側シャフトと、前記インペラに連結された従動側シャフトとに分割形成し、前記駆動側シャフトと前記従動側シャフトとを磁気継手によって非接触状態で磁気結合し、少なくとも前記従動側シャフトを、磁気軸受を介して非接触状態で前記ケーシングに回転可能に支持するとともに、前記ケーシングに、該ケーシング内と前記低温液化ガス容器内と連通させる連通孔を設けたことを特徴としている。
【0008】
さらに、本発明の低温液化ガスポンプは、前記連通孔の口径が1〜5mmの範囲内であること、前記磁気継手は、前記駆動側シャフトと前記従動側シャフトとの間に、駆動部側空間とポンプ部側空間とを仕切る仕切り部材を備えていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明の低温液化ガスポンプによれば、シャフトの軸受をメンテナンスが不要な磁気軸受としたので長期間にわたる連続運転が可能となる。また、ケーシングに連通孔を設けたので、ケーシング内に浸入した低温液化ガスが気化してもインペラ側に逆流することがなく、連通孔から排出されるため、送液中の低温液化ガスに脈動が発生することを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の低温液化ガスポンプの第1形態例を示す断面図である。
【図2】本発明の低温液化ガスポンプの第2形態例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1に示す低温液化ガスポンプ10は、低温液化ガスLを貯留した低温液化ガス容器11の天板部材や蓋部材11aに装着されるものであって、低温液化ガス容器11の外部に配置される駆動部12と、低温液化ガス容器11の内部で低温液化ガス中に浸漬した状態で配置されるポンプ部13と、低温部に配置された前記ポンプ部13のインペラ14と、常温部に配置された前記駆動部12の駆動軸15とを接続するシャフト16と、該シャフト16をスラスト磁気軸受17及びラジアル磁気軸受18を介して回転可能に収納した円筒形のケーシング19とを備えている。
【0012】
前記シャフト16は、前記駆動軸15と一体化した駆動側の上部シャフト(モータ軸)16aと、下端に前記インペラ14が装着された従動側の下部シャフト(ポンプ軸)16bとに分割形成されており、上部シャフト16aと下部シャフト16bとは、磁気継手(マグネットカップリング)20によって非接触状態で磁気結合されている。
【0013】
この磁気継手20は、下方が開口したカップ状の駆動側継手部材20aと、該駆動側継手部材20aの内径より小さな外径を有し、駆動側継手部材20aの内部に逆カップ形状の仕切り部材21を介して配置される円柱状の従動側継手部材20bとを同心円状に配置するとともに、駆動側継手部材20aの内周面及び従動側継手部材20bの外周面に、永久磁石22a、22bのN極とS極とをそれぞれ交互に配列したものであって、上部シャフト16aと一体に回転する前記駆動側継手部材20aの回転を永久磁石22a、22bの磁力で従動側継手部材20bに伝達することにより、上部シャフト16aと下部シャフト16bとを非接触状態に保って下部シャフト16bを回転させる。
【0014】
下部シャフト16bの上部に設けられた前記スラスト磁気軸受17は、ケーシング19の内周に固着されてシャフト軸線方向に対向配置した上下一対の電磁石17a,17aと、下部シャフト16bの外周に設けられて上下の電磁石17a,17a間に配置されるスラスト板17bとを備えており、電磁石17a,17aに発生させた磁力により、磁性体からなるスラスト板17bを互いに引き寄せ、電磁石17a,17aの引き寄せ力が釣り合った位置にあるスラスト板17bを非接触状態で保持し、インペラ14を含む下部シャフト16bの軸線方向の動きを規制する。
【0015】
また、下部シャフト16bの中間部と下端部とにそれぞれ設けられたラジアル磁気軸受18は、ケーシング19の内周に、下部シャフト16bを包囲するようにして複数の電磁石18aをリング状に設けたものであって、電磁石18aに発生させた磁力によって下部シャフト16bの半径方向の動きを非接触状態で規制する。
【0016】
ケーシング19は、低温液化ガス容器11の内部に挿入される筒部19aと、該筒部19aの上端に設けられた上部フランジ19bとを有しており、蓋部材11aに設けた開口から筒部19aを低温液化ガス容器11の内部に挿入した状態で、蓋部材11aの外面に上部フランジ19bが固着される。また、上部フランジ19bの上面には、支持筒23を介して前記駆動部12となるモータが取り付けられている。また、筒部19aの下端には,シャフト挿通部材24を介して前記ポンプ部13のインペラ14を収納するポンプケーシング25が連設しており、ポンプケーシング25の下部に吸入口25aが、外周部に吐出口25bがそれぞれ設けられている。
【0017】
さらに、筒部19aの下端部には、ケーシング19内と低温液化ガス容器11内と連通させる連通孔26が設けられている。この連通孔26の口径は、小さすぎると連通孔としての作用を十分に得られず、大きすぎると、インペラ14で昇圧した低温液化ガスが連通孔26から抜けることがあるため、1〜5mmの範囲に設定することが好ましい。
【0018】
このように形成した低温液化ガスポンプ10は、下部シャフト16bを回転可能に支持する各軸受をそれぞれ非接触状態でシャフトを支持する磁気軸受17,18としているので、摩耗部品がなく、メンテナンスが不要であり、長期間の連続運転に対応することができる。さらに、軸受の部分で異物が発生することもなく、低温液化ガス内に異物が混入することを防止できる。
【0019】
また、上部シャフト16aと下部シャフト16bとを、磁気継手20によって非接触状態で磁気結合させているので、シャフトを通しての熱侵入を抑えることができる。これにより、シャフトを短くすることができるので、シャフトの固有振動数が高くなってシャフトを高速回転させることが可能となり、インペラ14を高速回転させて送液能率を向上させることができる。
【0020】
さらに、下部シャフト16bの上端に設けられている従動側継手部材20bを仕切り部材21で覆い、駆動部12側の常温空間とポンプ部13側の低温空間とを、磁気継手20の部分で仕切り部材21により気密に仕切っているので、低温液化ガス容器11内に外気が流入したり、低温液化ガス容器11内で気化したガスが外部に流出することを防止できるとともに、駆動部12で発生した異物が低温液化ガス容器11内に入り込むことも確実に防止できる。これにより、低温液化ガスの品質維持も図ることができ、低温液化ガスの消費量を抑えることもできる。また、駆動部12を気密構造にする必要がなくなるので、駆動部12の駆動源として汎用のモータを使用することができる。
【0021】
そして、ケーシング19の筒部19aに連通孔26を設けているので、ケーシング19の内部に浸入した低温液化ガスが気化してケーシング19内の圧力が上昇しても、ケーシング19内の低温液化ガスや気化ガスを連通孔26から排出することができ、シャフト挿通部材24と下部シャフト16bとの間からポンプケーシング25内に低温液化ガスや気化ガスが逆流することがなく、回転するインペラ14によって送液される低温液化ガスに脈動が発生することを防止できる。
【0022】
これにより、気化しやすい−100℃以下の液体窒素のような低温液化ガスを長期にわたって安定した状態で連続して送液することが可能となることから、長期連続運転が要求される高温超電導機器冷却用のサブクール液体窒素を循環させるためのポンプとして最適である。
【0023】
図2は本発明の低温液化ガスポンプの第2形態例を示している。なお、以下の説明において、前記第1形態例に示した低温液化ガスポンプの構成要素と同一の構成要素には同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
【0024】
本形態例に示す低温液化ガスポンプは、磁気継手30を、上部シャフト16aの下端に設けた駆動側円盤部材30aと、下部シャフト16bの上端に設けた従動側円盤部材30bとを、逆カップ形状の仕切り部材21の上面を介して対向配置するとともに、両円盤部材30a,30bの対向面に、永久磁石31a、31bのN極とS極とをそれぞれ交互に配列した構造としている。この磁気継手30も、前記同様に、上部シャフト16aと一体に回転する駆動側円盤部材30aの回転を、永久磁石31a、31bの磁力によって従動側円盤部材30bに伝達し、下部シャフト16bを回転させる。
【0025】
また、このような構造を有する磁気継手30は、従動側円盤部材30bが永久磁石31a、31bの磁力によって上方の駆動側円盤部材30a側に引き寄せられるため、下部シャフト16bの上部に設けるスラスト磁気軸受32は、従動側円盤部材30bの下方に、従動側円盤部材30bを下方に引き寄せるための電磁石32aを配置し、この電磁石32aによる従動側円盤部材30bの引き寄せ力と、磁気継手30における永久磁石31a、31bの引き寄せ力とが釣り合った位置に従動側円盤部材30bを非接触状態で保持し、インペラ14を含む下部シャフト16bの軸線方向の動きを規制する。
【0026】
したがって、スラスト磁気軸受32としての磁石を従動側円盤部材30bの下方の電磁石32aのみとすることができ、従動側円盤部材30bの上方の磁石を省略することができるので、ポンプ構造の簡略化を図ることができる。
【0027】
なお、各磁気軸受は、シャフトの長さに応じて3箇所以上に設けることもできる。さらに、シャフトを3つ以上に分割し、それぞれ複数の磁気軸受で支持するように形成することもできる。また、ケーシングに設ける連通孔の位置や個数は任意であるが、ケーシング内から低温液化ガスを排出することを考慮すると、少なくとも一つはケーシングの最下端部に設けることが好ましい。
【符号の説明】
【0028】
10…低温液化ガスポンプ、11…低温液化ガス容器、11a…蓋部材、12…駆動部、13…ポンプ部、14…インペラ、15…駆動軸、16…シャフト、16a…上部シャフト、16b…下部シャフト、17…スラスト磁気軸受、17a…電磁石、17b…スラスト板、18…ラジアル磁気軸受、18a…電磁石、19…ケーシング、19a…筒部、19b…上部フランジ、20…磁気継手、20a…駆動側継手部材、20b…従動側継手部材、21…仕切り部材、22a、22b…永久磁石、23…支持筒、24…シャフト挿通部材、25…ポンプケーシング、25a…吸入口、25b…吐出口、26…連通孔、30…磁気継手、30a…駆動側円盤部材、30b…従動側円盤部材、31a、31b…永久磁石、32…スラスト磁気軸受、32a…電磁石、L…低温液化ガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低温液化ガス容器の外部に配置された駆動部と、低温液化ガス容器の内部に配置されたポンプ部と、該ポンプ部のインペラと前記駆動部の駆動軸とを接続するシャフトと、該シャフトを軸受を介して回転可能に収納したケーシングとを備えた低温液化ガスポンプにおいて、前記シャフトを、前記駆動部によって回転駆動される駆動側シャフトと、前記インペラに連結された従動側シャフトとに分割形成し、前記駆動側シャフトと前記従動側シャフトとを磁気継手によって非接触状態で磁気結合し、少なくとも前記従動側シャフトを、磁気軸受を介して非接触状態で前記ケーシングに回転可能に支持するとともに、前記ケーシングに、該ケーシング内と前記低温液化ガス容器内と連通させる連通孔を設けた低温液化ガスポンプ。
【請求項2】
前記連通孔の口径が1〜5mmの範囲内である請求項1記載の低温液化ガスポンプ。
【請求項3】
前記磁気継手は、前記駆動側シャフトと前記従動側シャフトとの間に、駆動部側空間とポンプ部側空間とを仕切る仕切り部材を備えている請求項1又は2記載の低温液化ガスポンプ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−57250(P2013−57250A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−194493(P2011−194493)
【出願日】平成23年9月7日(2011.9.7)
【出願人】(000231235)大陽日酸株式会社 (642)
【Fターム(参考)】